説明

アフェレーシス装置

【課題】 改良されたアフェレーシス装置の提供。
【解決手段】 アフェレーシス装置は、供血者から全血を採取する採取手段と、遠心分離手段と、採取手段と遠心分離手段の間に延びる第1の通路と、第1の通路に配置された第1のポンプと、遠心分離手段から流出する血液成分を検出する検出手段と、遠心分離手段と第1の容器の間に延びる第2の通路と、第1の容器と採取手段の間に延びる第3の通路と、第3の通路に配置された第2のポンプと、第2のポンプと第1の容器の間にある第3の通路の部分と、採取手段と第1のポンプの間にある第1の通路の部分との間に延びる第4の通路と、これらの手段を制御し通路の選択的な導通を制御する制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアフェレーシス装置に関する。より詳しくは本発明は、新規なアフェレーシス用使い捨てシステム(ディスポーザプル)を用いることにより、アフェレーシスの各サイクルを効率化し、また抗凝固剤の使用量を低減させることに関する。
【背景技術】
【0002】
アフェレーシスは、全血をその種々の血液成分、即ち赤血球のような高密度成分、リンパ球や顆粒球の如き白血球や血小板のような少なくとも1つの中間密度成分、及び血漿のような低密度成分に分離し、所望とする血液成分を採取するための方法である。アフェレーシスを行う方式には種々のものがあるが、そのうちの有力なものに、遠心分離を用い、全血を断続的に処理する間歇血流方式がある。
【0003】
間歇血流方式のアフェレーシスは一般に、供血者から全血を採取して遠心分離器内に収集し、高密度、中間密度及び低密度の各成分に分離するいわゆる「ドロー」ステップに始まり、所要血液成分を分取した後、使い捨てシステム内に残った血液成分を供血者に戻すいわゆる「リターン」ステップで終わる。アフェレーシス中に供血者と装置の間で行われる流体のやりとりは、単一の、例えば採血針のような経路を通して行われる。特許文献1に記載のように、これは供血者の拘束による負担が少なく、またそれ以前の方法よりも処理時間を大幅に短縮することができる。
【0004】
これまでアフェレーシスは種々の手法により改良されてきており、その中には特許文献2に記載されているように、遠心分離器外に分取した低密度成分を遠心分離器に短期間再循環させるいわゆる「ドウェル」ステップや、特許文献3などに記載されているように、低密度成分をサージ流量、即ち時間と共に増大する流量で遠心分離器内に再循環させ、中間密度成分から血小板等を優先的に追い出すいわゆる「サージ」ステップ等がある。現在一般には、アフェレーシスはこれらの工程を組み合わせて構成される1サイクルを数サイクル繰り返し、所定の血液成分を採取するように行われている。
【0005】
またドローステップにも改良が加えられており、特許文献4に記載のように、ドローステップ中に遠心分離器内を通過する血漿流速や遠心回転数を供血者に応じて選択し、1サイクル当たりの全血処理量を個々の供血者に最適となるよう制御することが提案されている。こうしたサイクルの適正化は、処理時間を短縮することにもつながる。しかしながら、1サイクルに要する時間は平均して15分程度であり、これを複数回繰り返すことを考えると、各サイクルをより短い時間で効率的に行うことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平1−16505号公報
【特許文献2】特許第2776988号公報
【特許文献3】米国特許第4416654号明細書
【特許文献4】特許第3196838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図10は特許文献2の図1Aに類似の図であり、遠心分離ボウル1と、静脈針2を介して供血者とボウル1の入口PT1の間に延びるチューブ3と、ボウル1の出口PT2から血漿バッグ4に延びるチューブ5と、バッグ4から延びてチューブ3に接続されたチューブ6と、チューブ3及び6にそれぞれ配置された蠕動ポンプP1、P2と、チューブ5から分岐したチューブ7に接続された血小板バッグ8と、バッグ9からチューブ10を介してチューブ3へと抗凝固剤を導入するためのポンプP3などからなる、典型的なアフェレーシス装置を示している。V1からV6はバルブ、F1及びF2はフィルタ、D1からD3は空気検出器、M1及びM2は圧力モニターである。
【0008】
初期動作においてチューブをプライミングした後、静脈針2が供血者に挿入されてドローが開始され、抗凝固処理された全血はボウル1内で分離されて、まず血漿がバッグ4に採取され、次いでドウェルやサージを通じて血小板がバッグ8に採取される。場合によっては、さらに白血球がチューブ11から白血球バッグ12に採取される。ドローの間、ボウル1に入る全血は、バッグ4からの血漿を用いて、或いはバッグ13からの生理的食塩水などで希釈することができる。ボウル1を出て行く液体の密度はラインセンサー14によって検出されて、これに応じて各サイクルの制御が行われる。
【0009】
血小板及び/又は白血球が採取された後、装置はリターンを開始する。すなわちボウル1の回転は停止され、ポンプP1を逆回転することにより、ボウル1内に残存する高密度の血液成分が供血者へと戻される。またポンプP2も動作されて、バッグ4からの血漿、或いは場合によってはバッグ13からの液体でもって、ボウル1から返血される高密度の血液成分を希釈する。ボウル内の残りの血液成分が供血者に戻された場合にリターンは終了され、所要数のサイクルが完了した時点で、静脈針2を供血者から取り外すことができる。
【0010】
上記のプロセスは洗練されており、血小板を高い効率で分取することを可能にするが、サイクルに要する時間をさらに短縮することが望ましい。例えばサージとリターンの間には、遠心分離ボウル1の回転が停止するのを待つ時間があるが、製造効率の観点から見るとこれは無駄な期間であり、処理時間増大の原因となる。本発明の課題は、このような問題点を解決することにある。
【0011】
なお、アフェレーシスなどの血液処理においては抗凝固剤の使用が不可欠であり、典型的にはクエン酸とクエン酸ナトリウムの混合物が使用されている。これらは有害なものではないが、人体に戻された場合にクエン酸中毒を起こす可能性があることから、その使用量はできるだけ少ないことが望ましい。本発明は、上記のような処理時間の短縮と併せて、抗凝固剤の使用量の低減を達成することをも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のアフェレーシス装置は、供血者から全血を採取する例えば静脈針のような採取手段と、入口ポート及び出口ポートを有し、採取した全血を複数の血液成分に分離する遠心分離手段と、採取手段と入口ポートの間に延びる第1の通路と、この第1の通路に配置された第1のポンプと、出口ポートから流出する流体中における選択された血液成分を検出するための検出手段と、出口ポートと第1の容器の間に延びる第2の通路と、第1の容器と採取手段の間に延びる第3の通路と、この第3の通路に配置された第2のポンプと、第2のポンプと第1の容器の間にある第3の通路の部分と、採取手段と第1のポンプの間にある第1の通路の部分との間に延びる第4の通路と、制御手段とを有する。第1の通路から第4の通路は例えばピンチバルブのようなバルブを含む導通制御手段によって開放又は閉鎖され、従って選択的に導通可能である。検出手段は例えば特許文献2に関して前述したラインセンサーや、ボウル内における分離状況を監視するための光学系などを含みうる。制御手段は、遠心分離手段、検出手段、及び通路の選択的な導通をそれぞれ制御するための導通制御手段に接続されたマイクロコンピュータであり、所要の血液成分を分取するための周知のプロトコルに従って各手段の動作を司る。このマイクロコンピュータはこれらのプロトコルに従う動作を行うように予め適切にプログラミングされていてもよく、また場合に応じて適当なプログラムをロード可能なように構成してもよい。プログラムをカード形式のROMに記憶させておき、所要のディスポーザブル回路と共にアフェレーシス装置に使用するようにすれば便利である。
【0013】
この種のアフェレーシス装置は通常、遠心分離ボウルにプラスチック製のチューブ(通路)を介して可撓性のプラスチックバッグ(容器)が接続されてなる使い捨ての回路(ディスポーザブル)と、遠心機やバルブ、マイクロコンピュータなどのハードウェアからなる血液処理装置との組み合わせによって構成され、使用時には両者が一体となって機能を発揮する。例えば供血者から全血を採取するドローには、静脈針及びボウルに接続されたチューブと血液ポンプが関与する。この場合、静脈針、チューブ及びボウルはディスポーザブルの一部であり、血液ポンプは血液処理装置の一部であって、蠕動ポンプのような非接触式のポンプからなる。またチューブの導通を制御するバルブはハードウェア側にある。遠心分離ボウルは例えば米国特許第3,145,713号明細書に記載された、標準的なレーサム(Latham)ボウルの如きものである。
【0014】
本発明によれば、制御手段はアフェレーシス装置を所要のプロトコルに従って動作させる。これは例えば、血小板及び血漿採取(PLP)プロトコル、乏血小板血漿採取(PPP)プロトコルなどであるが、いずれの場合でも制御手段はアフェレーシス装置を、(1)採取手段により全血を供血者から採取して第1のポンプにより第1の通路を介して遠心分離手段へと送って複数の血液成分へと分離し、(2)低密度成分である血漿を第2の通路を介して第1の容器に収集する動作を行うように制御する。本発明に特徴的なのは、第3の通路が第1の容器と採取手段の間に延び、また第4の通路が第2のポンプと第1の容器の間にある第3の通路の部分と、採取手段と第1のポンプの間にある第1の通路の部分との間に延びる構成を有することであるが、この構成を用いることにより、(3)低密度成分を第1の容器から第3の通路を介して採取手段に向けて流し、また(4)遠心分離手段から高密度成分を第1の通路、第4の通路、第3の通路及び採取手段を介して供血者へと戻す動作を行うよう制御することが可能になる。
【0015】
本発明によれば、採取手段は静脈針及び分岐コネクタを含み、好ましくはこの分岐コネクタが第1の通路及び第3の通路と接続される。これによれば、第1の容器からの低密度成分は静脈針の近傍へと戻されることになる。またこの分岐コネクタには、第3の容器から延びる第6の通路を接続することができる。第3の容器には抗凝固剤が収容され、第6の通路に配置された第3のポンプによって、静脈針から流入する供血者の全血を抗凝固処理する。
【0016】
上記(3)の動作は、返血時、すなわち遠心分離手段に残存する血液成分を供血者に戻すリターンに際して行うことができる。この場合、第3の通路は第1の容器と採取手段の間に延びているため、第2のポンプを回転させることによる低密度成分の戻しを遠心分離手段の停止前に開始することができる。これはサイクルに要する時間の短縮につながる。その後(4)の動作が遠心分離手段の停止後に開始され、(3)の動作に重畳されて、遠心分離手段に残存する高密度の血液成分である赤血球は、低密度成分で希釈されて供血者に戻される。
【0017】
本発明によるアフェレーシス装置は、例えば血小板及び血漿採取(PLP)プロトコルに従って動作する場合において、第2の通路から分岐して延び、選択的に導通可能な第5の通路と、この第5の通路に接続された第2の容器をさらに含んで構成され、この場合に制御手段はアフェレーシス装置を、上記(2)の動作の後に、遠心分離手段から流出する中間密度成分、特に血小板を、第2の容器に収集するよう制御することができる。このような制御は好ましくは、特許文献3に記載のサージや、特許文献2に記載のドウェルを伴う。例えばサージを伴う場合、中間密度成分の収集時に、低密度成分は第1のポンプにより、第1の容器から第3の通路、第4の通路、及び第1の通路を通って遠心分離手段へと、中間密度成分を遠心分離手段から追い出すのに十分な加速流量で供給される。またドウェルを行う場合は、サージに先立って、低密度成分が第1のポンプにより、第1の容器から第3の通路、第4の通路、第1の通路、遠心分離手段、及び第2の通路を通って再度第1の容器へと循環される。この場合には中間密度成分は遠心分離手段から出て行かないが、血小板と白血球のような密度の近接した血液成分相互間の分離が改善される。
【0018】
本発明によれば、制御手段は上記(3)の動作を別途、上記(1)及び(2)の動作に際して行うことができる。この場合には低密度成分は第1の容器から第3の通路及び第1の通路を介して遠心分離手段へと供給されて、第1のポンプにより第1の通路を介して遠心分離手段へと送られる供血者の全血を希釈する。これはクリティカルフローと呼ばれる技術であり、常に一定量の希釈された全血を遠心分離手段に供給するために行われるが、本発明においては第3の通路が静脈針の近傍において第1の通路と接続されるため、使用される抗凝固剤の量は従来よりも少なくてよい利点がある。サイクルはその後所望数だけ繰り返される。
【0019】
上述したように、抗凝固剤としてはクエン酸やクエン酸ナトリウムがよく用いられ、これらは返血に際して血漿あるいは赤血球と一緒に供血者に戻される。これらは有害なものではないが、低体重や低ヘマトクリット値の供血者など、場合によってはクエン酸中毒を起こす可能性があり、その量は少ない方が望ましい。本発明は、このような要求に応えることができる。
【0020】
さらに本発明によれば、クリティカルフローに際してのポンプの速度や低密度成分の流れを工夫することにより、ドウェルの機能を代替したり、またドウェルの機能を果たしている間に、即ち遠心分離手段がまだ高速回転している間に、低密度成分の返血を行うことが可能になる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、リターン動作を遠心分離手段の停止前から先行して開始することができるため、アフェレーシスのサイクルに必要とされる時間を短縮できる。またクリティカルフローに際して抗凝固剤の使用量を低減させることができるが、これは最終的な血液成分製剤にとって望ましく、より安全性の高い、高品質な製剤を提供することができる。また本発明のアフェレーシス装置は、従来のディスポーザブル回路に部分的な変更を施し、ハードウェア的な変更も最小限しか必要としないため、改良に要する追加コストが少なくて済むと共に、ドウェルやサージなど従来と同様の自動化された動作を容易に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、プライミング動作を示す概略図である。
【図2】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、ドローの初期におけるリターンラインのプライミング動作を示す概略図である。
【図3】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、ドローステップの動作を示す概略図である。
【図4】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、サージラインのプライミング動作を示す概略図である。
【図5】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、クリティカルフローの動作を示す概略図である。
【図6】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、ドウェルステップ及びサージステップの動作を示す概略図である。
【図7】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、遠心分離ボウル回転中のリターンステップにおける動作を示す概略図である。
【図8】本発明に用いる装置の好ましい実施例における、遠心分離ボウル停止後のリターンステップにおける動作を示す概略図である。
【図9】抗凝固剤の量の決定に用いられるアルゴリズムの一例を示すフローチャートである。
【図10】従来技術によるアフェレーシス装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1から図8を参照すると、特に血小板及び血漿採取(PLP)プロトコルに従って動作するのに好適な、本発明の一つの実施形態によるアフェレーシス装置の概要が示されている。供血者から全血を採取する採取手段は、例えば静脈針102とこれに続く分岐チューブ116からなり、チューブ103が分岐チューブ116と遠心分離ボウル101の入口ポートPT1との間に延びている。ボウル101の出口ポートPT2からはチューブ105が延びて、重量計に懸架された血漿/空気バッグ104に接続されている。バッグ104からはチューブ106が、分岐チューブ116へと延びている。チューブ103とチューブ106にはそれぞれ、蠕動ポンプP1及びP2が配置されている。チューブ105からはチューブ107が分岐して延び、血小板バッグ108に接続されている。ACDと表示されたバッグ109からは抗凝固剤が、蠕動ポンプP3により、チューブ110を介して分岐チューブ116へと供給される。さらにチューブ106からは、バッグ104とポンプP2の間の部分からチューブ115が分岐し、分岐チューブ116とポンプP1の間においてチューブ103に接続されている。なお点線で示すように、白血球採取のためにチューブ111及び白血球バッグ112が設けられる場合もあり、また血漿を部分的又は全体的に代替するために生理食塩水のような液体が収容されたバッグ113を設けてチューブ106に接続する場合もある。V1からV7はチューブに対応して設けられたバルブであり、関連するチューブを通しての流体の導通を選択的に開放又は閉塞する。F1は血液フィルタ、F2は除菌フィルタ、D1からD4は空気検出器、M1からM3は供血者及びシステムの圧力モニターである。図示しないマイクロコンピュータが、適用されるプロトコルに従い、ラインセンサー114、ボウル光学系117、供血者圧力モニター(DPM)M1及びM3、システム圧力モニター(SPM)M2、及び空気検出器D1−D4により発生される信号に応じて、ポンプP1−P3及びバルブV1−V7を動作させて、アフェレーシス装置を通じての流れの方向及び持続時間を制御する。すなわち空気検出器D1−D4は、液体の存在又は不存在を検出する。圧力モニターM1−M3は、アフェレーシス装置内での圧力レベルを監視する。ラインセンサー114は、チューブ105を通過する流体の密度を検出し、ボウル101の出口ポートPT2からラインセンサー114を通過する血液成分の存在を検出する。またボウル光学系117は、ボウル101内の血液成分の分離状況と分離された血液成分のボウル101内での位置を監視する。
【0024】
図1に示す初期動作においては、ポンプP2及びP3が付勢され、アフェレーシス装置のチューブ106を血液フィルターF1のところまで部分的に、バッグ109からの抗凝固剤でプライミングする。抗凝固剤は除菌フィルタF2と分岐チューブ116を通り、血液フィルタF1に到達する。プライミング動作の間、バルブV1は閉鎖され、バルブV5は開放されており、抗凝固剤によってチューブ106から追い出された無菌空気がバッグ104に入る。
【0025】
次いで静脈針102が供血者に挿入され,ドローステップが開始されるが、最初のサイクルでは図2に示すようにして最初に返血用ラインのプライミングが行われる。プライミング中、バルブV1は閉鎖されたままであり、バルブV5も閉鎖される。バルブV7は開放され、ポンプP1とP2とP3が付勢されて、分岐チューブ116で抗凝固剤と混合されて抗凝固処理された供血者の全血は、チューブ106及び115を通り、チューブ103に合流して空気検出器D2に到達する。空気検出器D2は、この流体の存在を検出し、プライミングは終了される。この場合にボウル101から追い出された無菌空気は、開放されているバルブV2を介してチューブ105からバッグ104に入る。
【0026】
次いで図3に示すように、供血者から静脈針102を介して採取され、分岐チューブ116で抗凝固処理された全血は、ポンプP1により、チューブ103を介して入口ポートPT1から遠心分離ボウル101に供給される。全血は供血者から例えば約60から80mL/分の流量で採取され、抗凝固剤と約10:1の比で混合される。前述したように、アフェレーシス装置における各ポンプ、バルブ等の動作は、図示しないマイクロコンピュータの制御の下に、所望とするプロトコルに従って行われる。バルブV1及びV2は開放され、残りのバルブは閉じられ、ポンプP1とP3が付勢される。ボウル101が回転されると、ボウルの底部に導入された抗凝固処理された全血は遠心力により、成分の密度に応じて、赤血球、白血球、血小板及び血漿などの異なる成分へと分離される。ボウルの回転数は例えば4000〜6500rpmの範囲から選択されることができ、典型的には例えば5400rpmである。ボウル101の内部では、血液成分はより高密度の成分から順に、外側から内側へと同心の層をなす。即ち赤血球層は最も外側へと押しやられ、血漿層は中心付近に存在するようになる。両者の間には、血小板の内側層と、血小板及び白血球の遷移層と、白血球の外側層とから成っているバフィーコート層が形成される。血漿層は出口ポートPT2に最も近い成分であり、抗凝固処理された全血が入口ポートPT1を通って遠心分離ボウル101に供給され続けると、出口ポートPT2を介して最初に流出され、流出した血漿はチューブ105、ラインセンサー114、及びバルブV2を介してバッグ104に収集される。
【0027】
図4は、ドローステップ中に行われるサージラインのプライミングを示している。バルブV1は閉じられ、バルブV2、V5及びV7は開放される。残りのバルブは閉鎖され、ポンプP2は停止されて、抗凝固処理された血漿がボウル101の出口ポートPT2から入口ポートPT1へと、チューブ105、バッグ104、チューブ106、チューブ115、及びチューブ103を通って循環される。このプライミングは、最初のサイクルのみにおいて行われる。
【0028】
図5は、ドローサイクル中に全血の収集を容易にし、また分離を改善するために従来から行われている、いわゆるクリティカルフロー技術の応用を示す。バッグ104に一旦分離収集された血漿はボウル101内へと、例えば20〜30mL/分程度の一定流量で循環され、血液成分の分離が改善される。この場合にアフェレーシス装置は図5に示すように、バルブV1、V2、及びV5が開放され、残りが閉鎖されるように制御され、またポンプP1からP3は何れも付勢されるが、ポンプP2の回転方向は図1及び図2で説明した場合とは逆になる。図10に関して前述したように、クリティカルフローは従来においても行われているが、抗凝固剤を含む血漿は血漿バッグ4からチューブ3へと、ポンプP1とボウル1の入口ポートPT1の間において接続されている。これに対して本実施例に見られるように、バッグ104からのチューブ106はチューブ103に対し、分岐チューブ116を介して接続される。従ってこれに応じて、バッグ109から供給される抗凝固剤の使用量を低減させることができる。
【0029】
ドローステップでの全血の収集は、ボウル101内で分離された血液成分の体積、典型的には赤血球層の体積が所定量に達したことが検出されるまで行われる。検出はボウル光学系117により、ボウル101の内部で分離された血液成分により占有される領域の半径を監視し、この半径が特定の値となったことを判定することにより行うことができる。マイクロコンピュータのような図示しない制御手段は、ボウル光学系117がバフィーコートを特定の位置に検出すると、図6に示すようにドウェルステップ及びサージステップを開始する。即ちまずドウェルステップでは図4で述べたところと同様にして、バルブV1は閉じられ、バルブV2、V5及びV7は開放され、残りのバルブは閉鎖され、ポンプP2は停止される。ドウェルは先に述べたように特許文献2に記載の技術であり、ポンプP1によって低密度成分、即ち血漿がボウル101へと実質的に一定の、全血の収集流量よりも大きい流量で短期間にわたって循環される(例えば約100mL/分で約20−30秒間)。これによって遠心分離ボウル内においてバフィコートが血漿で希釈され、血小板と白血球の分離が改善される。しかしサージ動作と異なり、分離された血小板等が遠心分離ボウルから流出することはない。
【0030】
別の態様では、図5のクリティカルフローを修正することによって、ドウェルと同様の機能を果たすことができる。この場合、ポンプP3を停止して抗凝固剤の流れを止め、ポンプP1とポンプP2を同じ速度で回転させる。供血者からの全血は流入しないが、血漿はバッグ104からバルブV5を介してチューブ106、分岐チューブ116を通ってチューブ103へと流れ、バルブV1を介して入口ポートPT1からボウル101を通過し、出口ポートPT2からチューブ105を通ってバッグ104へと循環される。
【0031】
さらに、このような修正されたクリティカルフローを行う場合に、ポンプP2をポンプP1の速度よりも速い速度で回転させることにより、ボウル101が定速回転している間に、血漿を供血者に返血することもできる。この場合、上記と同様に供血者からの全血は流入せず、血漿はバッグ104からバルブV5を介してチューブ106、分岐チューブ116へと流れる。そしてポンプP2をポンプP1の速度差に応じて、血漿の一部が供血者に戻される。残りの血漿は分岐チューブ116からチューブ103へと流れ、バルブV1を介して入口ポートPT1からボウル101を通過し、出口ポートPT2からチューブ105を通ってバッグ104へと循環され、ドウェルと同様の機能が果たされる。このようにしてボウルの回転中にも先行して血漿を返血することにより、返血に要する時間をさらに短縮することができる。
【0032】
図6に示すようにサージ動作に移ると、ポンプP1は血小板をボウル101から流出させるのに十分な加速流量でもって血漿をバッグ104から供給する。サージは例えば約100mL/分から始まり、ポンプP1の速度は例えば5〜10mL/分の増分で増大され、約200〜250mL/分の血小板サージ速度に達するまで、バッグ104の血漿はチューブ106、115及び103を介して再度入口ポートPT1からボウル101に供給される。この血小板サージ速度は、血小板はボウル101を出て行くことができるが、赤血球又は白血球は出て行けない速度である。ボウル101の出口ポートPT2を出て行く血漿は血小板で曇ったようになり、この曇りがラインセンサー114によって検出される。ラインセンサー114は例えば、チューブ105を通る流体を横切る光を発するLEDと、成分を通過した後に光を受信する光電検出器とからなる。光電検出器により受信される光の量は、チューブを通過する血液成分の濃度と相関される。バルブV2は閉じられ、バルブV3が開放されて、血小板はバッグ108に採取される。
【0033】
血小板が採取された後、アフェレーシス装置はリターンステップを開始する。図7は、ボウル101の回転が停止するまでの間に行われる血漿の返血を示している。このようなボウル回転中のリターンは、従来の血液処理回路では不可能であった。バルブV2及びV5は開放され、残りのバルブは閉じられて、バッグ104からの血漿の一部がチューブ106を介して分岐チューブ116から静脈針102を通り、供血者へと戻される。次いで図8に示すようにボウル101の回転が停止されると、ボウル101内に残留する高密度の血液成分は、バルブV7を開きポンプP1を逆回転させることによりボウル101から吸い出され、チューブ106を通る低密度成分の流れと一緒になり希釈されて、分岐チューブ116から静脈針102を通り供血者へと戻される。これによりリターン時間はスピードアップされる。ボウル内の残りの血液成分が供血者に戻された場合にリターンステップは終了される。
【0034】
ドロー、サージ及びリターンからなるこのサイクルは、必要とされる血小板の量に応じて多数回実行される。なおドローの間、特に最初のサイクルで循環用の血漿が未だ得られていない場合、ボウル101に入る抗凝固処理された全血は、バッグ113からの生理的食塩水の如き溶液で希釈することもできる。また必要に応じ、チューブ111とバルブV4を用いて、サージに際して血小板に続いて流出してくる白血球をバッグ112に採取することもできる。
【0035】
本発明による抗凝固剤量の低減の効果を数値で示すと、血漿製剤中の抗凝固剤の分留比は以下の式で計算される。
分留比=1/{(R−1)×(1−Hct)+1}
R:抗凝固剤混合比
Hct:ドナーのヘマトクリット、小数表示(例45%=0.45)
従って血漿製剤中の抗凝固剤の量は、血漿製剤量×分留比により計算できる。例えばドナーのヘマトクリットを45%=0.45、抗凝固剤混合比を10とする。図10でポンプの速度をP1=60ml/minとすると、P3=6ml/minとなり、毎分、ドナーからの全血54mlに、抗凝固剤6mlが加えられることになる。上記の分留比の式から、血漿製剤中の抗凝固剤の分留比は、
1/{(10−1)×(1−0.45)+1}=1/5.95=0.168である。
【0036】
ここで図5のように、分岐チューブ116から供血者へと、チューブ106を通して血漿バッグ104中の血漿を戻す場合を考えてみると、ポンプP2の速度を10ml/minとした場合に、血漿10ml中には、10ml×0.168=1.68mlの抗凝固剤が含まれている。従来法であれば抗凝固剤は常に6ml必要であるが、この方法によれば(6−1.68)=4.32mlで足りることになり、28%の低減が可能である。全血量と抗凝固剤量の比は54ml:4.32ml=12.5:1となり、抗凝固剤混合比は13.5となる。
【0037】
図9は、本発明の一実施例において抗凝固剤の量を決定するために用いられるアルゴリズムを示すフローチャートである。このようなアルゴリズムはプログラムの形式で実現され、本発明の装置の制御手段を構成するマイクロコンピュータにおいて実行される。例えばこのプログラムは、アフェレーシスを実行するためのプロトコルのプログラムと一体にカード式のROMに記憶させておくことができ、また装置のROMやRAMといったメモリに記憶させておいて選択的に実行することもできる。
【0038】
図9の例示的なプログラムによれば、使用されるプロトコルに従ってドローを開始した後、バッグ104に血漿が所定量あるか否かが、例えば重量計からの信号に基づいて検出される。次いで、予め装置に入力して設定した抗凝固剤混合比及びドナーのヘマトクリット値、現在のポンプP1及びポンプP3の速度、ポンプP2によるクリティカルフロー(CF)速度を取得し、上記した分留比の式に従って分留比を計算する。マイクロコンピュータは、こうして計算した分留比に基づいてポンプP2とP3の速度を決定し、これらのポンプを駆動するモーターの速度を変更する。ドローステップはこの変更されたポンプ速度によるクリティカルフローを伴って行われ、前述したように例えばボウル101内で分離された赤血球層の体積が所定量に達したことがボウル光学系117により検出されるまで続行される。
【符号の説明】
【0039】
101 遠心分離ボウル
102 静脈針
103,105,106,107,110,111,115 チューブ
104,108,109,112,113 バッグ
114 ラインセンサー
116 分岐チューブ
117 ボウル光学系
P1,P2,P3 ポンプ
V1,V2,V3,V4,V5,V6,V7 バルブ
M1,M2,M3 圧力モニター
D1,D2,D3,D4 空気検出器
F1,F2 フィルター
PT1 入口ポート
PT2 出口ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
供血者から全血を採取する採取手段と、
入口ポート及び出口ポートを有し、採取した全血を複数の血液成分に分離する遠心分離手段と、
第1の容器と、
前記採取手段と前記入口ポートの間に延び選択的に導通可能な第1の通路と、
前記第1の通路に配置された第1のポンプと、
前記出口ポートから流出する流体中における選択された血液成分を検出するための検出手段と、
前記出口ポートと前記第1の容器の間に延び選択的に導通可能な第2の通路と、
前記第1の容器と前記採取手段の間に延び選択的に導通可能な第3の通路と、
前記第3の通路に配置された第2のポンプと、
前記第2のポンプと前記第1の容器の間にある前記第3の通路の部分と、前記採取手段と前記第1のポンプの間にある前記第1の通路の部分との間に延び、選択的に導通可能な第4の通路と、
前記遠心分離手段、前記検出手段、並びに前記第1の通路、前記第2の通路、前記第3の通路、及び前記第4の通路の選択的な導通をそれぞれ制御するための導通制御手段に接続された制御手段とを有する、アフェレーシス装置。
【請求項2】
前記制御手段が前記アフェレーシス装置を、
(1)前記採取手段により全血を供血者から採取して前記第1のポンプにより前記第1の通路を介して前記遠心分離手段へと送って複数の血液成分へと分離し、
(2)低密度成分を前記第2の通路を介して前記第1の容器に収集し、
(3)前記低密度成分を前記第1の容器から前記第3の通路を介して前記採取手段に向けて流し、
(4)前記遠心分離手段から高密度成分を前記第1の通路、前記第4の通路、前記第3の通路及び前記採取手段を介して、前記供血者へと戻す動作を行うよう制御する、請求項1に記載のアフェレーシス装置。
【請求項3】
前記(3)の動作が前記遠心分離手段の停止前に開始され、前記低密度成分が前記採取手段を介して前記供血者へと戻される、請求項2に記載のアフェレーシス装置。
【請求項4】
前記(4)の動作が前記遠心分離手段の停止後に開始され、前記(3)の動作に重畳される、請求項2又は3に記載のアフェレーシス装置。
【請求項5】
前記第2の通路から分岐して延び、選択的に導通可能な第5の通路と、前記第5の通路に接続された第2の容器をさらに含み、
前記制御手段が前記アフェレーシス装置を、前記(2)の動作の後に前記遠心分離手段から流出する中間密度成分を前記第2の容器に収集するよう制御する、請求項2から4の何れか1に記載のアフェレーシス装置。
【請求項6】
前記中間密度成分の収集時に、前記低密度成分が前記第1のポンプにより、前記第1の容器から前記第3の通路、前記第4の通路、及び前記第1の通路を通って前記遠心分離手段へと、前記中間密度成分を前記遠心分離手段から追い出すのに十分な加速流量で供給される、請求項5のアフェレーシス装置。
【請求項7】
前記中間密度成分の収集に先立って、前記低密度成分が前記第1のポンプにより、前記第1の容器から前記第3の通路、前記第4の通路、前記第1の通路、前記遠心分離手段、及び前記第2の通路を通って前記第1の容器へと循環される、請求項5又は6に記載のアフェレーシス装置。
【請求項8】
前記制御手段による前記(3)の動作が前記(1)及び前記(2)の動作に際して別途行われ、前記低密度成分が前記第2のポンプにより前記第1の容器から前記第3の通路及び前記第1の通路を介して前記遠心分離手段へと供給されて、前記第1のポンプにより前記第1の通路を介して前記遠心分離手段へと送られる供血者の全血を希釈するよう制御される、請求項2から7の何れか1に記載のアフェレーシス装置。
【請求項9】
前記第1のポンプと前記第2のポンプが同じ速度で回転される、請求項8に記載のアフェレーシス装置。
【請求項10】
前記第2のポンプが前記第1のポンプより速い速度で回転され、前記遠心分離手段の回転中に前記低密度成分が前記採取手段を介して前記供血者へと戻される、請求項8に記載のアフェレーシス装置。
【請求項11】
前記導通制御手段が、前記第1の通路から前記第5の通路のそれぞれに配置されたバルブである、請求項1から10の何れか1に記載のアフェレーシス装置。
【請求項12】
前記採取手段が静脈針及び分岐コネクタを含み、前記分岐コネクタが前記第1の通路及び前記第3の通路と接続されている、請求項1から11の何れか1に記載のアフェレーシス装置。
【請求項13】
抗凝固剤を収容するための第3の容器と、前記第1の通路と前記第3の容器の間に延び、前記分岐コネクタに接続された第6の通路と、前記第6の通路に配置された第3のポンプをさらに含む、請求項12に記載のアフェレーシス装置。
【請求項14】
前記制御手段が、設定された抗凝固剤混合比及び全血のヘマトクリット値に基づいて前記第1の容器に収集される低密度成分中の抗凝固剤の分留比を求め、この分留比に基づいて前記第2のポンプ及び前記第3のポンプの速度を制御する、請求項8に従属する請求項13に記載のアフェレーシス装置。
【請求項15】
前記低密度成分が血漿であり、前記高密度成分が赤血球である、請求項2から14の何れか1に記載のアフェレーシス装置。
【請求項16】
前記中間密度成分が血小板である、請求項5及び請求項5に従属する請求項6から15の何れか1に記載のアフェレーシス装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate