説明

アブレイダブルコーティングを有する部材およびガスタービン

【課題】本発明の目的は、アブレイダブル特性と耐酸化性を両立したアブレイダブルコーティングを有する部材と、それを用いたガスタービンを提供することにある。
【解決手段】本発明のアブレイダブルコーティングを有する部材は、アブレイダブルコーティングの高温酸化による損耗を抑制するため、アブレイダブルコーティング内に基材側から表面側に連通した気孔を設け、かつ、部材内部の冷却空気の一部を、部材に設けた冷却孔、および、アブレイダブルコーティング内に設けた連通気孔を通じて外部に流出させる構造を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンにおいて、回転体と静止体の間隙から高温燃焼ガスなどの作動流体が漏洩することを低減するための高温シール用コーティングとして用いられるアブレイダブルコーティング(被削性造隙皮膜)を有する部材、およびこれを用いたガスタービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービン主要部の軸方向断面模式図(上側半分)の一例を図2に示す。ガスタービンは、略円筒形状のケーシング10と、このケーシング10の軸心に位置する略円柱形状のタービンロータ12と、タービンロータ12の外周で軸方向に複数段(図2の例では4段)に設置された動翼13,14,15,16と、各段の動翼の外周部と径方向にわずかな間隙17を隔てた位置でケーシング10に支持されたシュラウド18,19,20,21と、燃焼ガスの流通方向Aで見て各段の動翼の上流側で動翼に対し交互に配置された静翼22,23,24,25とを備えている。
【0003】
タービンロータ12はタービンディスク26,27,28,29と、スペーサ30,31,32を軸方向に重ねて結合した回転体であり、その上流側部には中間軸33が接続し、下流側部には後部軸34が接続されている。
【0004】
タービンロータ12の上流側には燃焼器41が位置しており、動翼13,14,15,16と静翼22,23,24,25を交互に配置して形成されたガスパス40に燃焼器41で生成された高温の燃焼ガスを流し、燃焼ガスの熱エネルギーをタービンロータ12の回転力に変換させることで動力を発生する。各シュラウド18,19,20,21の内周壁はガスパス40の一部を形成している。
【0005】
このようなガスタービンにおいて、動翼13,14,15,16の先端部と、当該先端部に対向するシュラウド18,19,20,21の内壁との間には、運転中に両者が接触しないように間隙17(クリアランス)が設けられている。この間隙が大きすぎると、動翼13,14,15,16の高圧側から低圧側へ間隙17を通じて燃焼ガスが漏洩し、圧力損失が生じることにより運転効率が低下する。従って、この間隙17を必要最小に保ち、燃焼ガスの漏洩をシールしてタービンの効率を向上させる必要がある。
【0006】
一方、前記の間隙17が小さすぎると、タービン運転時において、動翼13,14,15,16の熱膨張、タービンロータ12の偏心、タービン全体に発生する振動などの影響により、動翼13,14,15,16の先端部とシュラウド18,19,20,21の内壁とが接触し、タービンロータ12の回転によって互いに摺動してしまう場合がある。また、長時間の運転によって高温高圧の燃焼ガスに曝された動翼13,14,15,16やシュラウド18,19,20,21が変形を生じ、やはり動翼本体13,14,15,16の先端部とシュラウド18,19,20,21とが接触し摺動する原因となる場合もある。このような摺動が生じた際に、シュラウド18,19,20,21の内壁が硬いと動翼13,14,15,16の先端が損傷し、回転が適正に行われなくなったり、シール性が損なわれたりする。
【0007】
上記課題を解決するために、シュラウド18,19,20,21の内壁表面に被削性の良いコーティングを設け、動翼13,14,15,16の先端部とシュラウド18,19,20,21の内壁とが接触し、タービンロータ12の回転によって互いに摺動した場合に、動翼13,14,15,16の先端によってコーティングが容易に研削を受け、動翼13,14,15,16の損傷を防止する方法が公知である。このようなコーティングはアブレイダブルコーティング(被削性造隙皮膜)と呼ばれる。アブレイダブルコーティングをシュラウド18,19,20,21の内壁に設けることで、動翼13,14,15,16の先端が接触しても、アブレイダブルコーティングのみが研削を受け、動翼13,14,15,16は損傷しない。また、この結果、動翼13,14,15,16の先端部がアブレイダブルコーティングに食い込むような形で溝が形成されることでシール性も維持される。
【0008】
このようなアブレイダブルコーティングとしては、種々のコーティングが提案されている。例えば、特許文献1には、NiCrAl合金、NiCrFeAl合金、MCrAlY合金と、固体潤滑剤であるベントナイトからなる組成系による合金系アブレイダブルコーティングが開示されている。また、特許文献2には、高速酸素火炎溶射(HVOF)法による多孔質MCrAlY合金皮膜を用いたアブレイダブルコーティングが開示されている。
【0009】
さらに、特許文献3および特許文献4には、シュラウド18,19,20,21の内壁にTBC(Thermal Barrier Coating)を設け、高温の燃焼ガスから保護すると共に、動翼13,14,15,16の先端部に、MCrAlY(MはFe,Ni,Coのうちの何れか1以上)合金からなるマトリクス中に研削粒子として、例えば、CBN(立方晶窒化硼素)砥粒を分散させた、アブレッシブコーティング(研削性皮膜)を設けてTBCを研削可能とし、TBCをアブレイダブルコーティングとして機能させる方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−170302号公報
【特許文献2】特開2004−225632号公報
【特許文献3】特開平4−218698号公報
【特許文献4】特表平9−504340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ガスタービンでは高効率化の目的で燃焼ガス温度の高温化が進んでおり、一般に、動翼13,14,15,16、静翼22,23,24,25、シュラウド18,19,20,21の、特に高温となる上流側の段落で部材温度が上昇している。このため、前記従来技術の合金系アブレイダブルコーティングでは高温酸化による皮膜の損耗が著しくなり、要求される機能を十分に満足することが困難になる。また、TBCをアブレイダブルコーティングとして用いる場合でも、TBCを研削するために動翼側に設けられたアブレッシブコーティング(研削性皮膜)には、合金系の材料が用いられており、やはり、高温酸化による研削性の低下が生じる。また、シュラウド側にTBCを施工し、さらに、動翼側にもアブレッシブコーティングを施工する必要から、コスト的にも不利である。
【0012】
そこで、本発明の目的は、アブレイダブル特性と耐酸化性を両立したアブレイダブルコーティングを有する部材と、それを用いたガスタービンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、アブレイダブルコーティングの高温酸化による損耗を抑制するため、アブレイダブルコーティング内に基材側から表面側に連通した気孔を設け、かつ、部材内部の冷却空気の一部を、部材に設けた冷却孔、および、アブレイダブルコーティング内に設けた連通気孔を通じて外部に流出させる構造を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アブレイダブル特性と耐酸化性を両立したアブレイダブルコーティングを有する部材と、それを用いたガスタービンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のアブレイダブルコーティングを有する部材の構造を示す断面模式図である。
【図2】ガスタービンの構造を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、図1に示すように、基材1上にアブレイダブルコーティング(被削性造隙皮膜)層2を設け、さらに、基材1には、基材1の内部冷却通路からアブレイダブルコーティング層2を設けた表面に向けて貫通した冷却孔5を複数設けた構造を有することを特徴とする。アブレイダブルコーティング層2は、多数の概略球形の合金粒子3が積層され、基材1側からコーティング表面まで連通した気孔4が存在する構造を有することを特徴とする。
【0017】
基材1は、ニッケル基,コバルト基、または、鉄基の耐熱合金を用いることができる。アブレイダブルコーティング層2は、ニッケル基,コバルト基、または、鉄基の耐熱合金を用いることができるが、好ましくは、MCrAlY(Mは、Fe,Ni,Coから選ばれる少なくとも1種)合金を用いることが望ましい。MCrAlY合金は、600℃以上の高温で、動翼に用いられる耐熱合金よりも硬さが低下するためアブレイダブル性に優れ、さらに、耐酸化性にも優れるため、好適である。
【0018】
また、アブレイダブルコーティング層2は、多数の概略球形の合金粒子3が積層され、基材1側からコーティング表面まで連通した気孔4が存在する構造を有するが、このような構造の皮膜を形成するためには、例えば、ガスアトマイズ法で製造した概略球形の合金粉末を原料として用い、合金粉末を基材表面に衝突させて積層する方法を用いることが好ましい。具体的には、例えば、プラズマ溶射法、高速ガス溶射(HVOF)法、コールドスプレー法等の方法を用いることができる。なかでも、コールドスプレー法が最も好適に用いられる。
【0019】
本発明の特徴である、基材1側からコーティング表面まで連通した気孔4が存在する構造を有するアブレイダブルコーティング層2を形成するには、アーク溶射や火炎(フレーム)溶射のように、粉末粒子を高温で溶融し基材に衝突させて積層する方法では、溶融した粉末粒子が基材に衝突した際に扁平して積層するため、連通しない気孔(いわゆる閉気孔)が形成されやすくなる。また、大気中で溶融する温度まで加熱された合金粉末では酸化が生じ、硬質の酸化物が皮膜内に混入することで皮膜のアブレイダブル性を低下させる。また、粒子同士の結合が酸化物によって妨げられ、皮膜の強度が低下する等の問題も生じる。
【0020】
従って、本発明のアブレイダブルコーティングを形成する際には、原料として用いる概略球形の合金粉末を溶融、酸化させず、そのままの球形に近い形状を維持したまま積層することが望ましい。これには、より低温で成膜を行うことできるコールドスプレー法が好適である。しかし、低温でも粒子速度が高速になり過ぎると、基材に衝突した際に粉末粒子の扁平が生じ、皮膜が緻密化して連通気孔が減少するため、本発明のアブレイダブルコーティングを形成できなくなるため、成膜条件を適当に調整する必要がある。なお、同様に成膜条件を、適宜、調整することで、プラズマ溶射法、高速ガス溶射(HVOF)法等を用いることもできる。
【0021】
前記の成膜法を用いて形成した本発明の基材側から表面側に連通した気孔を有するアブレイダブルコーティングの連通気孔は、コーティング内体積分率が30〜70%の範囲が好ましい。気孔率が30%未満では、流通する冷却空気量が少なくなり、アブレイダブルコーティングの冷却効果が十分に得られない。気孔率が増加すると冷却孔は高まるが、皮膜強度が低下し、気孔率が70%を超えると、使用中にコーティングの損傷が生じ易くなってしまう。より好ましくは、気孔率が40〜60%の範囲である。
【0022】
また、本発明のアブレイダブルコーティングは、成膜後に熱処理を施すことが好ましい。熱処理による固相拡散によって粒子間の結合を強化することで皮膜強度を向上することができる。熱処理方法は、コーティングの酸化を防止するため、真空中で行うことが望ましい。熱処理条件は、コーティング、基材材料に依るが、概ね、1000℃以上で2h以上保持することが好ましい。
【0023】
(実施例)
基体として、ニッケル基耐熱合金IN738(16%Cr−8.5%Co−3.4%Ti−3.4%Al−2.6%W−1.7%Mo−1.7%Ta−0.9%Nb−0.1%C−0.05%Zr−0.01%B−残部Ni、重量%)製のガスタービン1段シュラウドを準備した。また、原料粉末として、ガスアトマイズ法で製造された、概略球状で平均粒径20μmのCoNiCrAlY合金粉末(Co−32%Ni−21%Cr−8%Al−0.5%Y、重量%)を準備した。コールドスプレー装置を用い、原料粉末をシュラウドの燃焼ガス通路面に対し、成膜した。成膜条件は、作動ガスに窒素ガスを用い、ガス圧力2MPa、ガス温度500℃、粉末供給量15g/min、成膜距離15mmの条件を用い、コーティング層の厚さが約2mmまで成膜を実施した。成膜後の試験体に対し、真空中で1120℃×2h、840℃×24hの熱処理を実施した。さらに、熱処理後、シュラウド試験体の冷却空気通路面(コーティング施工面の反対側)から、放電加工によって、冷却通路面から基体表面まで貫通した冷却孔を複数加工した。このようにして製作したシュラウドを切断して断面組織を確認したところ、コーティング層は、図1に示したように、多数の概略球形の合金粒子3が積層され、基材1側からコーティング表面まで連通した気孔4が存在する組織を呈していた。相対密度から気孔の体積分率を測定したところ、約50%であった。
【0024】
前記手順で作製した別試験体をガスタービンに組込み1年間運転を行ったところ、本発明のアブレイダブルコーティングを用いたシュラウドは、良好なアブレイダブル特性を示し、かつ、酸化による損傷もほとんど認められなかった。一方、比較のため、同時に運転に供した従来技術のCoNiCrAlY合金アブレイダブルコーティングを設けたシュラウドでは、コーティングの酸化損傷が認められた。これらの結果から、本発明のアブレイダブルコーティングが優れたアブレイダブル特性と、耐酸化性を有することが確認された。
【0025】
本発明によれば、アブレイダブルコーティング内に、連通気孔を通じて冷却空気を流すことで、アブレイダブルコーティングが冷却されるため、燃焼ガス温度の高温化に伴う部材温度上昇によって、従来技術の適用が困難となるような過酷な条件下でも、使用することができる。また、本発明のアブレイダブルコーティングを有する部材を用いたガスタービンは、より高温で運転が可能で、かつ、燃焼ガスの漏洩を低減できるため、効率を高めることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 基材
2 アブレイダブルコーティング層
3 合金粒子
4 気孔
5 冷却孔
6 冷却空気
11 ケーシング
12 タービンロータ
13,14,15,16 動翼
17 間隙
18,19,20,21 シュラウド
22,23,24,25 静翼
26,27,28,29 タービンディスク
30,31,32 スペーサ
33 中間軸
34 後部軸
40 ガスパス(燃焼ガス流路)
41 燃焼器
A 燃焼ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタービンの回転体と静止体の間隙から、作動流体が漏洩することを低減するためのシール用コーティングとして用いられるアブレイダブルコーティングを有する部材において、
前記アブレイダブルコーティングが、コーティング内部に基材側から表面側に連通した気孔を有し、かつ、部材に設けられた冷却孔、および、コーティング内部の連通気孔を通じて、部材内部の冷却空気の一部を外部に流出させることで、アブレイダブルコーティングを冷却することを特徴とするアブレイダブルコーティングを有する部材。
【請求項2】
請求項1において、前記基材側から表面側に連通した気孔を有するアブレイダブルコーティングが、MCrAlY(Mは、Fe,Ni,Coから選ばれる少なくとも1種)合金からなることを特徴とするアブレイダブルコーティングを有する部材。
【請求項3】
請求項1または2において、前記アブレイダブルコーティングを有する部材が、Ni基、Co基、Fe基の耐熱合金からなることを特徴とするアブレイダブルコーティングを有する部材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記基材側から表面側に連通した気孔を有するアブレイダブルコーティングの、連通気孔のコーティング内体積分率が30〜70%であることを特徴とするアブレイダブルコーティングを有する部材。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記部材がシュラウドであることを特徴とするアブレイダブルコーティングを有する部材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のアブレイダブルコーティングを有する部材を具備したことを特徴とするガスタービン。

【図1】
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【図2】
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