説明

アポトーシス誘導剤

【課題】本発明の課題は、安全性の高い新規なアポトーシス誘導剤、並びにこれを含有する飲食品および薬品を提供することにある。
【解決手段】本発明は、大黄根茎から抽出された有効成分をアポトーシス誘導剤として用いることによって達成される。さらに、抽出物を精製して得られるラポンチンは、アポトーシス誘導効果が高い。そして、本発明の飲食品および薬品は、前記アポトーシス誘導剤を含有してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死の一つのタイプであるアポトーシスを誘導するアポトーシス誘導剤に関する。本発明のアポトーシス誘導剤は、例えば、癌の治療のための医薬品および予防を目的とする飲食品、医薬部外品等に適用される。
【背景技術】
【0002】
癌は死亡原因第一位の病気であり、その予防に対する人々の関心は非常に高い。癌を予防するために日常的に有効成分を取り入れる方法が数多く提案されている。
【0003】
近年、癌研究の分野ではアポトーシス、すなわち癌細胞自滅に関する研究が盛んになりつつある。アポト-シスは生物個体発生における組織、臓器の形成、また生体の恒常性維持や防御に重要な働きをしている。さらには多くの病気の発生に深い関係があることが解明されつつある。
【0004】
細胞のアポトーシスによる制御作用の異常は、癌形成における一つの原因であると考えられている。本来死滅すべき細胞が、アポトーシス、つまり細胞自滅を起こすことなく生き残ると、その細胞が様々な刺激を受けて染色体上に変異を重ね、最終的に癌細胞になるとされている。癌細胞は、アポトーシスの耐性機構を獲得して初めて増殖を可能にするのである。つまり、種々の遺伝子変異を伴う細胞の癌化はアポトーシスに対する耐性獲得と関連がある。
【0005】
アポトーシス誘導剤を得る方法としては、人工的に合成して得る方法と植物から有効成分を抽出する方法が一般的にとられるが、副作用の少ない生薬から抽出することが望ましい。これまで、山豆根から抽出されるフラボノイド化合物であるソフォラノン(Sophoranone)を用いる例(特許文献1)、本発明者らによるライチ種子の抽出物を用いる例(特許文献2)及び本発明者らによる月見草の種子の抽出物を用いる例(特許文献3)等が、知られている。
【0006】
【特許文献1】特願2000−61386号公報
【特許文献2】特開2003−252780号公報
【特許文献3】特願2001−105658号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、安全性の高い新規なアポトーシス誘導剤、並びにこれを含有する飲食品及び薬品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、種々の生薬から有効成分を抽出して各種実験を行った結果、大黄の根茎からの抽出物が癌細胞に対して顕著なアポトーシス誘導作用を示すことを見出し、基本的に本発明を完成した。ここで、大黄(学名RheumofficinaleBaillon)は中国の西南地方の3000メートルより高地に多く分布し、従来から下剤として利用されていることが知られている。
【0009】
さて、本発明における請求項1は、大黄の根茎から抽出された有効成分を含有するアポトーシス誘導剤にある。次に請求項2は、抽出された有効成分を精製することによって得られる化1式に示すラポンチン(rhapontin)を含有するアポトーシス誘導剤にある。更に請求項3は、上述の有効成分を含有する薬品にある。そして、請求項4は、アポトーシス誘導剤が、ヘキサンと酢酸エチルエステルの混合溶媒によって抽出することを特徴とするアポトーシス誘導剤の抽出方法に関わる。
【0010】
【化1】

【発明の効果】
【0011】
本発明によるアポトーシス誘導剤は、安全性が高く、副作用のない癌予防食品や癌治療薬を容易に製造することができ、有効成分を飲食品または薬品として日常的に摂取しやすい。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、下記の実施形態によって限定されるものではなく、その要旨を変更することなく、様々に改変して実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0013】
大黄の根茎の抽出に使用する溶媒は特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール等の1級アルコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等の液状多価アルコール、酢酸エチルエステル等の低級アルキルエステル、ベンゼン、ヘキサン等の炭化水素、エチルエーテル、アセトン、塩化メチレン等の公知の溶媒が挙げられる。また、これらの溶媒は、一種または二種以上を組合せて使用することができる。中でも、ヘキサン、酢酸エチルエステル、エタノール、メタノール、アセトン等の水溶液が好適に用いられる。
特に、好ましい抽出溶媒は、ヘキサンと酢酸エチルエステルの混合溶媒であり、ヘキサン80%−酢酸エチルエステル20%(v/v)が、有効成分を効率的に抽出できる。
【0014】
大黄の根茎から抽出された有効成分が、ラポンチンを含む場合にアポトーシス誘導作用を示すことは、本発明によって初めて明らかにされた。又、抽出有効成分を精製して、ラポンチンを単離し、化学構造式を決定して上述の化学式2となることを明らかにした。
【0015】
本発明の飲食品には、飲料及び固形食品が含まれる。飲食品の形態としては、例えば、特定の保健効果が認められる食品、あるいは生体を健康に維持する成分の機能を活かす機能性食品とすることができる。
【0016】
本発明のアポトーシス誘導剤を飲食品に適用する場合、大黄根茎の抽出物をそのまま製剤の形態にしても良いが、所要量のアポトーシス誘導剤を食品原料に加えて一般の製造法により加工製造することもできる。
例えばアポトーシス誘導剤を添加物として飲料に直接添加するか、あるいはビスケットのような固形食品に添加して、癌予防の食品、保健機能食品(特定保健用食品)として提供することもできる。
【0017】
また、本発明のアポトーシス誘導剤を、例えば、油脂、エタノール、プロピレングリコール、グリセリンあるいはこれらの混合物に溶解して液状にし、飲料に添加するか、固形食品に添加することが可能である。
さらに、必要に応じてアラビアガム、デキストリン等のバインダーと混合して粉末状あるいは顆粒状にし、飲料に添加するか固形食品に添加することも可能である。
ここで、本発明のアポトーシス誘導剤を添加する飲食品の種類は特に限定されない。
【0018】
飲食品に本発明のアポトーシス誘導剤を添加する場合、本発明のアポトーシス誘導剤の使用量に特に制限はないが、保健機能食品(特定保健用食品)としての摂取は、病気予防、健康維持に用いられるので、含有する飲食品に対して、本発明のアポトーシス誘導剤の添加量を0.05〜20重量%とすることが好ましい。
【0019】
本発明の「薬品」は、医薬品及び医薬部外品を含む。本発明のアポトーシス誘導能を利用することにより癌治療薬とすることができる。
【0020】
本発明による薬品の投与方法は、経口投与とすることが望ましい。一般的に、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤等の形態とすることができる。
また、本発明による薬品を非経口剤として投与しても良い、非経口剤として投与する場合、溶液の状態、または分散剤、懸濁剤、安定剤などを添加した状態で、注射剤、座剤などに調製することができる。
【0021】
有効成分の投与量は、年齢、体重、症状、治療効果、投与方法、処理時間等により異なるが、通常成人一人当たり、1回に1mg〜100mgの範囲で、1日1回から数回経口投与されるか、または、1回に100μg〜100mgの範囲で、1日1回から数回非経口投与される。
なお、投与量は種々の条件で変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要のある場合もある。
【0022】
本発明のアポトーシス誘導剤は、従来から用いられている生薬より抽出されたものであり、安全性の面からも優れているのは明らかである。
【実施例】
【0023】
<アポトーシス誘導剤の製造>
原料には、大黄根茎の乾燥粉末を使用した。先ず、大黄根茎を破砕し、ヘキサンで抽出し、ヘキサン抽出液を乾固させて大黄根茎の抽出物を得た。この抽出物からシリカゲルクロマトグラフィーによって分画し、各フラクションの成分を高速液体クロマトグラフィーで分離して、ラポンチンを精製・単離し、その化学構造式を決定した。
【0024】
<試験例1:ヒト胃癌細胞に対する増殖抑制活性>
ヒト胃癌細胞を10%牛胎児血清含有RPM1640培地で培養した。5×10cells/mlに調整したヒト胃癌細胞に、所定濃度のサンプルを添加し、これらを37℃、95%air−5%COの条件下で3日間培養し、細胞数を数え、細胞の増殖阻害率を求めた。なお、対照として、溶媒50%含水エタノールのみを添加したものについて同様な条件で試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示すように、優れたヒト胃癌細胞増殖抑制効果が認められた。
【0025】
【表1】

【0026】
<試験例2:ヒト胃癌細胞に対するアポトーシス誘導作用>
ヒト胃癌細胞に対するアポトーシス誘導作用を確認するため、細胞が形態変化する様子を観察した。
ヒト胃癌細胞を10%牛胎児血清含有RPM1640培地で培養した。5×10cells/mlに調整したヒト胃癌細胞にサンプル2mg/mlを添加した。これらを37℃、95%air−5%COの条件下で3日間培養し、遠心分離により細胞を集めた。集めた細胞の核を染色し、蛍光顕微鏡で形態を観察した。
なお、対照として、溶媒(50%含水エタノール)のみを添加したものについて同様な条件で細胞の形態を観察した。その結果を図1(A)に示すが、図に示すように、無添加の細胞(対照)には細胞の形態変化が見られないのに対し、ラポンチンを添加したものは、アポトーシス誘導の特徴であるアポトーシス小体が認められた。ここで、200μMラポンチン添加については図1(B)に示す。
【0027】
<試験例3:DNA断片化の解析>
ヒト胃癌細胞を10%牛胎児血清含有RPM1640培地で培養した。5×10cells/mlに調整したヒト胃癌細胞に所定濃度になるようにサンプルを添加した。これらを37℃、95%air−5%COの条件下で3日間培養した後、ヒト胃癌細胞を遠心分離して集め上清を除き沈殿したヒト胃癌細胞をPBS(Phosphatebufferedsaline)で洗浄した。
細胞ペレットにlysisbufferを加え、細胞を懸濁させた。ここにRNaseを加え50℃で2.5時間反応させてからプロテアーゼK溶液を加え、50℃で2.5時間反応させた。DNA断片を抽出し、DNA抽出液とゲルローディング液を混合して2%アガロースゲル板のウエルに添加し、100Vで電気泳動を行った。ゲルを水に浸しUVトランスイルミネーターでエチジウムブロマイド蛍光を発したDNAを検出した。
なお、対照として溶媒(50%含水エタノール)のみを添加したものについて同様な条件でDNA断片化の様子を観察した。結果を図2に示す。
【0028】
図2において、MはDNA分子量マーカー、(1)は対照(無添加)、(2)はラポンチン50μMを添加したもの、(3)は100μMを添加したもの、(4)は200μMを添加したものである。50μMの添加でDNA断片化が見られはじめ、100および200μMでは明らかにDNA断片が観察された。
【0029】
図3は、200μMラポンチンを添加したものについて、培養1日目(図中の(2))、2日目(同(3))、3日目(同(4)のDNAの断片化の様子を観察したものである。2日目からDNA断片化が生じはじめ、培養日数の経過に伴いDNAの断片化の程度が大きくなることが判る。
【0030】
<製造例:飲食品への適用>
例えば、次の処方により癌予防に有効な飲食品を製造することができる。
製造例1:ソフトカプセル
玄米胚芽油 87.0wt%
乳化剤 12.0
大黄根茎抽出物 1.0
【0031】
製造例2:清涼飲料
果糖ブドウ糖液糖 30.0wt%
乳化剤 0.5
大黄根茎抽出物 0.05
香料 微量
精製水 残余
(合計100.0wt%)
【0032】
製造例3:錠剤
乳糖 54.0wt%
結晶セルロース 30.0
澱粉分解物 10.0
グリセリン脂肪酸エステル 5.0
大黄根茎抽出物 1.0
【0033】
製造例4:錠果
砂糖 76.4wt%
グルコース 19.0
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
大黄根茎抽出物 0.5
精製水 3.9
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ヒト胃癌細胞の形態変化の様子を示す蛍光顕微鏡写真である。
【図2】ヒト胃癌細胞のDNA断片化に及ぼすラポンチンの添加量の影響を示す電気泳動写真である。
【図3】ヒト胃癌細胞にラポンチンを添加したときのDNA断片化に及ぼす経時変化の影響を示す電気泳動写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大黄の抽出物を有効成分とするアポトーシス誘導剤。
【請求項2】
前記有効成分が、化1式に示すラポンチンであることを特徴とする請求項1に記載のアポトーシス誘導剤。
【化1】

【請求項3】
請求項1及び/又は請求項2のいずれかに記載のアポトーシス誘導剤を含有してなる薬品。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のアポトーシス誘導剤が、ヘキサンと酢酸エチルエステルの混合溶媒によって抽出することを特徴とするアポトーシス誘導剤の抽出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−81412(P2008−81412A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−260506(P2006−260506)
【出願日】平成18年9月26日(2006.9.26)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】