説明

アミン系硬化剤、アミン系硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物及びその硬化物

【課題】 水溶性に優れ、エポキシ樹脂に対するエマルジョン安定性を維持しつつ、さらに塗膜強度や耐食性により優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂に用いる硬化剤を提供すること。
【解決手段】 ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルと一分子中に3つまたは4つのカルボキシ基を有する多価カルボン酸由来の酸無水物とをエステル化反応させて得られる一分子中に少なくとも2つ以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物と、一分子中に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを反応させて得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)と、芳香族ジアミン(II)とを反応させて得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体からなるアミン系硬化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料、接着剤、繊維集束剤、コンクリートプライマー等に有用なエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤ならびに該硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、水性で、作業性、ワニスの保存安定性を損なうことなく、得られる加工物の耐食性、接着性を付与することができるエポキシ樹脂組成物に用いる硬化剤ならびに該硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、得られる硬化物の機械的性質、耐食性、密着性等に優れるため、塗料、接着剤、積層板、電気・電子部品用途等の各分野で広く使用されている。しかしながら、エポキシ樹脂は、有機溶媒に希釈した組成物として使用されることが多いので、近年の環境問題から、水性化が望まれていた。
【0003】
水性化エポキシ樹脂として、例えば、界面活性剤を用いて、ホモミキサーで高速攪拌して製造されるエポキシ樹脂エマルジョンが知られているが、エポキシ樹脂エマルジョンは、界面活性剤が原因で、耐水性が悪い、基材あるいは上塗り塗料との密着性が悪い、機械安定性が悪い等の問題点があった。
【0004】
界面活性剤を含まない水性化エポキシ樹脂として、例えば、下記特許文献1には、ビスジフェノールのジグリシジルエーテルとビスジフェノールとポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテルとを、反応せしめた物が開示されている。また、下記特許文献2には、ビスジフェノールのジグリシジルエーテルとビスジフェノールとポリオキシアルキレングリコールのジグリシジルエーテルと、ジイソシアネートとを、反応せしめた物が開示されている。さらに、下記特許文献3には、二官能以上のエポキシ樹脂と多価フェノールとさらに脂肪族ポリオールと二官能以上のエポキシ樹脂とモノ、及びポリイソシアネートとより成る縮合生成物より成る縮合生成物が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらの材料は、いずれも、ポリエチレングリコールの一級水酸基が一部組成物中に残る、架橋密度が上がらない等が原因で、耐水性が悪い、防食性が悪い、耐アルカリ性が悪い、水溶性が低い、エマルジョン安定性が悪い、といった問題点を有していた。
【0006】
これらの問題点を改善した水溶性エポキシ樹脂として、特許文献4には、分子量400〜10000のポリオキシエチレンポリオール化合物と、酸無水物化合物とを、酸無水物基/水酸基の当量比が1.0〜1.1の割合で反応させて得られるカルボキシル基含有化合物と、分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂とを、該カルボキシル基含有化合物のカルボキシル基1当量に対して分子内に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂が0.75モル以上1.5モル未満となる割合で反応せしめて得られる水溶性エポキシ樹脂が提案されている。このように構成することによって、特許文献4によれば、耐水性、耐食性、耐アルカリ性、水溶性およびエマルジョン安定性を改善しうる、とされている。
【0007】
一方、硬化剤については特許文献5に、ポリアルキレンポリオールと過剰当量のポリエポキシドとの付加物と有機ポリアミンとの反応物を硬化剤として用いることが提案され、特許文献6には、ポリアルキレンポリオール、ラクトンおよび過剰当量のポリエポキシドの反応物と有機ポリアミンとの反応物を硬化剤として用いることが提案されている。
【0008】
しかしながら、上記の公報に記載された硬化剤は、分子中に大きな疎水性基を含むため、得られる水性エポキシ樹脂組成物の保存安定性に乏しい傾向があり、また、保存安定性を改善するためには比較的高分子量のポリエーテルポリオールを用いる必要があるが、高分子量のポリエーテルポリオールを用いた場合には、硬化物の防食性が劣るため実用上満足できるものではなかった。
【0009】
また、硬化剤として分子中にポリエーテル結合を有するポリアミン化合物またはその変成物を用いることも提案されているが、これらの化合物はポリエーテル鎖としてポリオキシプロピレン基を有するか、または、重合度の小さいポリオキシエチレン鎖を有する化合物であり、そのような化合物は、水に不溶なために、自己乳化型の硬化剤とはならなかったり、そのような化合物が水溶性であっても、他の有機ポリアミンを併用したり、変性を行った場合に、水に対する溶解性が低下するため、水性エポキシ樹脂組成物の保存安定性が不十分となるという欠点があり、また、そのような化合物を用いた水性エポキシ樹脂組成物は、その硬化物の物性が不十分であり、特に防食性が著しく劣るという欠点があった。
【0010】
これらの問題点を改善した硬化剤として、特許文献7には、ポリオキシエチレンポリオール鎖を含有してなる特定のポリアミンをエポキシ付加、マンニッヒ化、アマイド化およびミカエル付加等により変性処理した水性エポキシ樹脂用硬化剤が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,315,044号明細書
【特許文献2】米国特許第4,399,242号明細書
【特許文献3】特開平2−38443号公報
【特許文献4】特開平7−206982号公報
【特許文献5】特公昭61−40688号公報
【特許文献6】特開平4−351628号公報
【特許文献7】特開平8−134185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献4に開示された水溶性エポキシ樹脂は、ポリエチレングリコール鎖が主鎖中に導入されているため、硬化物の架橋密度を上げることができなかった。また特許文献7に開示された硬化剤についてもポリエチレングリコール鎖が主鎖中に導入されているため、塗膜強度や耐食性が十分なものではなかった。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、水溶性に優れ、エポキシ樹脂に対するエマルジョン安定性を維持しつつ、さらに塗膜強度や耐食性により優れた硬化物を得ることができるエポキシ樹脂に用いる硬化剤ならびに該硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物、ならびに、耐水性および耐アルカリ性を有し、かつ塗膜強度や耐食性にさらに優れる硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、側鎖にポリエチレングリコール鎖を導入した2官能のエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体からなるアミン系硬化剤を用いることによって、この硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物は、水性化が可能で、しかも、硬化時の架橋密度を上げることが可能で、その結果、硬化物の耐食性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、(1)ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)と、一分子中に3〜4個のカルボキシ基を有する多価カルボン酸由来の酸無水物(A−2)とをエステル化反応させて得られる一分子中に2個以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物(A)と、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)とを反応させて得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)と、芳香族ジアミン(II)とを反応させて得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体からなることを特徴とするアミン系硬化剤を提供する。
【0016】
また、本発明は上記課題を解決するために、(2)ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)と、一分子中に3〜4個のカルボキシ基を有する多価カルボン酸由来の酸無水物(A−2)とを、前記ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)の水酸基1当量に対して前記酸無水物(A−2)の酸無水物基(−COOCO−)が1〜1.2当量の割合でエステル化反応させて、一分子中に2個以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物(A)を得る工程、
前記化合物(A)と一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)とを反応させて側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)を得る工程、
前記エポキシ樹脂(I)と芳香族ジアミン(II)とを反応させる工程
を有することを特徴とする側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体からなるアミン系硬化剤の製造方法を提供する。
【0017】
さらに、本発明は上記課題を解決するために、(3)前記(1)記載のエポキシ樹脂(I)及び前記(1)記載のアミン系硬化剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0018】
さらにまた、本発明は上記課題を解決するために、(4)前記(1)記載のエポキシ樹脂(I)、前記(1)記載のアミン系硬化剤及び水性溶媒を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物を提供する。
【0019】
さらにまた、本発明は上記課題を解決するために、(5)前記(3)記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のアミン系硬化剤は、特に、側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂の硬化剤として用いることによって、水溶性及びエマルジョン安定性に優れるうえ、耐水性、耐アルカリ性の如き耐食性及び塗膜強度に優れた硬化物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例1で得た式(2)のエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体のGPCチャートである。
【図2】図2は、実施例1で得た式(2)のエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のアミン系硬化剤は、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)と、一分子中に3〜4個のカルボキシ基を有する多価カルボン酸由来の酸無水物(A−2)とを、前記ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)の水酸基1当量に対して前記酸無水物(A−2)の酸無水物基(−COOCO−)が1〜1.2当量の割合でエステル化反応させて、一分子中に2個以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物(A)を得る工程、
前記化合物(A)と一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)とを反応させて側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)を得る工程、
前記エポキシ樹脂(I)と芳香族ジアミン(II)とを反応させる工程
によって製造することができる、
【0023】
本発明で用いるポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)は、下記一般式(1)
【0024】
【化1】

【0025】
(式中、Rは、炭素原子数1〜12のアルキル基、より好ましくは炭素原子数1〜4のアルキル基を表わす。)
で表される化合物である。本発明で使用されるポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)のポリエチレングリコール部分の数平均分子量は、400〜3000が好ましく、1000〜2000の範囲が特に好ましい。このような範囲にある材料を用いることによって、請求項8記載のエポキシ樹脂組成物の水溶性及びエマルジョン安定性と、請求項14記載の硬化物の耐水性、耐食性、塗膜強度との双方の性能のバランスに優れる傾向にあるので、好ましい。なお、当該数平均分子量は水酸基価から下記(式1)により算出される値を用いる。
【0026】
【数1】

【0027】
本発明で用いる一分子中に3〜4個のカルボキシ基を有する多価カルボン酸由来の酸無水物(A−2)としては、一分子中に3〜4個の、好ましくは3つのカルボキシ基を有する多価カルボン酸から、分子内脱水して得られる無水物であれば、芳香族多価カルボン酸や環状脂肪族多価カルボン酸由来の酸無水物など、従来公知のものを特に制限なく用いることができる。これらの中でも、芳香族多価カルボン酸由来の酸無水物が好ましい。芳香族多価カルボン酸の酸無水物としては、例えば、トリメット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸無水物などが挙げられ、これらの中でもトリメリット酸無水物が好ましい。また、環状脂肪族多価カルボン酸の酸無水物としては、例えば、水添トリメリット酸無水物、水添ピロメリット酸無水物などが挙げられる。
【0028】
上記エステル化反応は、上記ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)の水酸基1当量に対して上記酸無水物(A−2)の酸無水物基(−COOCO−)が1〜1.2当量、より好ましくは1.0〜1.1当量となるような割合で行うことが好ましい。上記酸無水物基の当量が1より小さい場合は、水溶性エポキシ樹脂中に水酸基が残存してしまうため、好ましくない。
【0029】
上記エステル化反応の反応温度は、40〜140℃の範囲が好ましく、80〜130℃の範囲が特に好ましい。また、上記エステル化反応の反応時間は、1〜5時間の範囲が好ましく、1〜3時間の範囲が特に好ましい。上記エステル化反応には、必要に応じて、従来公知の触媒あるいは溶媒を使用することができる。
【0030】
本発明で使用する側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)は、一分子中に2個以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物(A)と、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)とを反応させて得られる。
【0031】
前記エポキシ樹脂(B)としては、公知のエポキシ樹脂を使用することができる。そのようなエポキシ樹脂(B)としては、例えば、エピクロルヒドリンもしくはβ−メチルエピクロルヒドリンと、ビスフェノールA、ビスフェノールFもしくはビスフェノールスルホンから得られるエポキシ樹脂;フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテル;ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル;ポリプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリンの如き多価アルコールのポリグリシジルエーテル;アジピン酸、フタル酸、ダイマー酸の如きポリカルボン酸のポリグリシジルエステル;ポリグリシジルアミン、これらのエポキシ樹脂をビスフェノールAやビスフェノールFのようなポリフェノール類、あるいは、アジピン酸やセバチン酸のようなポリカルボン酸で変性したものであってもエポキシ樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、エピクロルヒドリンと分子内に2つの水酸基を有するフェノール化合物から得られるエポキシ樹脂、具体的には、ビスフェノールAまたはビスフェノールFとエピクロルヒドリンとから得られるエポキシ樹脂がより好ましい。また、これらのエポキシ樹脂の中でも、そのエポキシ当量が150〜200の範囲のものが好ましい。
【0032】
前記化合物(A)と、前記エポキシ樹脂(B)との反応におけるこれらの化合物の割合は、前記化合物(A)1モル当たり、前記エポキシ樹脂(B)を1.5モル以上2.5モル以下の範囲が好ましく、1.8モル以上2.2モル以下の範囲が特に好ましい。前記エポキシ樹脂(B)の割合が1.5モル未満の場合、得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)の分子量が大きくなり、粘調になったり、溶解性が悪くなる傾向にあるため、好ましくない。また、前記エポキシ樹脂(B)の割合が2.5モルを超える場合、未反応のエポキシ樹脂(B)が増え、水溶性が低下する傾向にあるため、好ましくない。
【0033】
また、前記化合物(A)と前記エポキシ樹脂(B)との反応には、触媒を用いることができる。そのような触媒としては、例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N−メチルピペラジン等の3級アミン類、およびその塩類;2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジシアノ−6−[2−メチルイミダゾリル−1]−エチル−S−トリアジン、2−エチル−4−メチルイミダゾールテトラフェニルボレート、等のイミダゾール類、およびその塩類;1,5−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデカン、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン、1,4−ジアビシクロ[2,2,2,]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7−テトラフェニルボレート等のジアザビシクロ化合物類;トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス(ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリス(ヒドロキシプロピル)ホスフィン、トリス(シアノエチル)ホスフィン等のホスフィン類;テトラフェニルホスホニウム塩、メチルトリブチルホスホニウム塩、メチルトリシアノエチルホスホニウム塩、テトラブチルホスホニウム塩等のホスホニウム塩類が挙げられる。これらの触媒の中でも、分子中にベンゼン環を有しないホスホニウム塩は、着色しにくいことから、最も好ましく利用できる。触媒を使用する場合の使用割合は、前記エポキシ樹脂(B)100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲が好ましい。反応温度は、70〜170℃の範囲が好ましく、80〜120℃の範囲が特に好ましい。また、反応時間は、3〜10時間の範囲が好ましく、3〜8時間の範囲が特に好ましい。
【0034】
前記化合物(A)と前記エポキシ樹脂(B)との反応によって得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)のエポキシ当量は、600〜6000〔g/eq〕の範囲が好ましく、900〜2500〔g/eq〕の範囲が特に好ましい。エポキシ当量が600〔g/eq〕以上であれば水分散性が良くなる傾向にあり、一方、6000〔g/eq〕以下であれば耐水性が良くなる傾向にあるので、好ましい。
【0035】
前記エポキシ樹脂(I)と芳香族ジアミン(II)とを反応させて得られる前記エポキシ樹脂(I)の芳香族ジアミンアダクト体は、前記エポキシ樹脂(I)中のエポキシ基を芳香族ジアミン(II)中のアミノ基との反応によってすべて消費され、分子の両末端にアミノ基が残存するような割合で反応させることによって容易に製造することができる。前記エポキシ樹脂(I)と芳香族ジアミン(II)との割合は、前記エポキシ樹脂(I)1当量に対して、芳香族ジアミン(II)を2〜5当量となる割合が好ましい。また当該反応は、芳香族ジアミン(II)中に、前記エポキシ樹脂(I)を70〜90℃に加温しながら、滴下しながら、あるいは3〜5分割で加えた後、同温度ないしは同温度よりも20〜40℃高温下に2〜4時間熟成させることによって、製造することができる。
【0036】
芳香族ジアミン(II)としては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、o−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン、トルイレンジアミン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンなどが挙げられる。これらは、単独で使用することも、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。これらの芳香族ジアミンの中でも、o−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミンの如きアラルキレンジアミンが好ましく、m−キシレンジアミンが特に好ましい。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(I)、前記アミン系硬化剤及び必要に応じて前記エポキシ樹脂(I)以外のエポキシ樹脂(I’)を含有するものである。このエポキシ樹脂組成物は、予め、水性溶媒中に溶解あるいは分散させておくこともできるが、塗料などとして使用する直前に、水性溶媒中に溶解あるいは分散させることが望ましい。特に、前記エポキシ樹脂(I)と、前記エポキシ樹脂(I)以外のエポキシ樹脂(I’)とを混合することによって、水性溶媒中で自己乳化性を示す水溶性エポキシ樹脂組成物とすることができる。
【0038】
前記エポキシ樹脂(I)以外のエポキシ樹脂(I’)としては、前記エポキシ樹脂(B)を使用することができ、これらの中でも、エピクロルヒドリンとビスフェノールAおよび/またはビスフェノールFとから得られるエポキシ樹脂およびフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂のポリグリシジルエーテルが特に好ましい。
【0039】
前記エポキシ樹脂(I)と、前記エポキシ樹脂(I)以外のエポキシ樹脂(I’)とを併用する場合の混合割合は、前者が5〜70質量部で、後者が95〜30質量部の範囲が好ましく、前者が10〜50質量部で、後者が90〜50質量部の範囲が特に好ましい。このような割合で混合することによって、本発明のエポキシ樹脂組成物は、水性溶媒中で優れた分散性を示す。前記エポキシ樹脂(I)の割合が5質量部以上である場合、乳化安定性が良好となり、一方、70質量部以下である場合、硬化物の耐水性が良好となるので好ましい。
【0040】
水性溶媒としては、水そのものでも、水溶性溶媒と水の混合物でもよい。前記水溶性溶媒は、水と均一に混合し、エポキシ樹脂及びアミン系硬化剤を溶解ないし分散可能で、かつ、これらに対して不活性である溶媒であれば特に限定されるものではないが、例えば、酢酸エチル、3−メトキシブチルアセテート、メトキシプロピルアセテート、セロソルブアセテートの如きエステル類;メタノール、エタノール、イソプロパノールの如きアルコール類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブ、イソブチルセロソロブ、tert−ブチルセロソロブの如きセロソルブ類;モノグライム、ジグライム、トリグライムの如きグライム類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルの如きプロピレングリコールモノアルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトンの如きケトン類が挙げられる。これらの中でも、セロソルブ類、プロピレングリコールモノアルキルエーテル類、ケトン類が好ましく、ケトン類が特に好ましい。
【0041】
本発明の組成物中のエポキシ樹脂と水性溶媒との混合割合は、エポキシ樹脂/水性溶媒=10〜99/90〜1(質量比)の範囲が好ましく、50〜99/50〜1(質量比)の範囲が特に好ましい。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、その特性を低下させない範囲で、前記アミン系硬化剤と共に、その他の従来公知の塩基性硬化剤を併用することもできる。併用可能なその他の塩基性硬化剤としては、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環式ポリアミン、マンニッヒ塩基、アミン−エポキシ付加生成物、ポリアミドポリアミン、液状芳香族ポリアミン等を挙げることができる。
【0043】
塩基性硬化剤として使用する脂肪族ポリアミンとしては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、1,4−ビス−(3−アミノプロピル)ピペラジン等のポリアルキレンポリアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン等を挙げることができる。
【0044】
塩基性硬化剤として使用する脂環式ポリアミンとしては、例えば、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノ−3,6−ジエチルシクロヘキセン、イソホロンジアミン等を挙げることができる。
【0045】
塩基性硬化剤として使用するマンニッヒ塩基としては、(1)トリエチレントリアミン、イソホロンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミンの如きポリアミン類と、(2)ホルムアルデヒドの如きアルデヒド類と、(3)核に少なくとも1個のアルデヒド反応性部位を有する、1価又は多価のクレゾール類およびキシレノール類、p−tert−ブチルフェノール、レゾルシン等のフェノール類、との縮合反応物が挙げられる。
【0046】
塩基性硬化剤として使用するアミン−エポキシ付加生成物としては、例えば、(1)(a)トリエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、イソホロンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミンの如きポリアミン類と、(b)フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類の如きエポキシ樹脂との反応生成物、又は、(2)前記ポリアミン類と、「カージュラE」(登録商標:油化シェルエポキシ社)の如きグリシジルエステル類、との反応生成物を挙げることができる。
【0047】
塩基性硬化剤として使用するポリアミドポリアミンとしては、ポリアミン類とポリカルボン酸や二量体化脂肪酸との反応により得られるものを使用することができ、例えば、エチレンジアミンとダイマー酸の反応生成物等を挙げることができる。
【0048】
塩基性硬化剤として使用する液状芳香族ポリアミンとしては、芳香族ポリアミンと、グリシジルエーテル類又はグリシジルエステル類との反応生成物を挙げられる。芳香族ポリアミンとしては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。グリシジルエーテル類としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル等が挙げられる。グリシジルエステル類としては、例えば、「カージュラE」などが挙げられる。
【0049】
本発明の組成物中の前記アミン系硬化剤の使用割合は、エポキシ樹脂中のエポキシ当量と硬化剤中のアミン当量の比(エポキシ当量/アミン当量)が0.75〜1.25の範囲が好ましい。
【0050】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、室温又は低温で硬化させることができる。
【0051】
本発明のアミン系硬化剤及び本発明で使用するエポキシ樹脂(I)は、側鎖に親水性基を有するため、水溶性に優れる。また、本発明で使用するエポキシ樹脂(I)は、分子内にエポキシ基を有することから、他のエポキシ化合物と親和性を発現するため、分散剤として用いることができ、水性溶媒中で自己乳化して優れた水分散性を示す。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物及びこれを乳化させて得られる乳化組成物は、それぞれ任意の公知の方法で製造することができる。また、得られた乳化組成物等は、従来公知の適当な方法で使用することができる。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、その特性を損なわない範囲で、必要に応じて、他のポリエステル系水性樹脂、アクリル系水性樹脂等樹脂成分を併用することもできる。
【0054】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、ハジキ防止剤、ダレ止め剤、流展剤、消泡剤、硬化促進剤、紫外線吸収剤、光安定剤等の各種添加剤を配合することもできる。
【0055】
本発明のエポキシ樹脂組成物の用途としては、特に制限されるものではないが、例えば、塗料、接着剤、繊維集束剤、コンクリートプライマー等が挙げられる。
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物を塗料用途に用いる場合には、必要に応じて、防錆顔料、着色顔料、体質顔料等の各種顔料や各種添加剤等を配合することが好ましい。前記防錆顔料としては、例えば、亜鉛粉末、リンモリブテン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、クロム酸バリウム、クロム酸アルミニウム、グラファイト等の鱗片状顔料等が挙げられ、着色顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、硫化亜鉛、ベンガラが挙げられ、また、体質顔料としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、カオリン等が挙げられる。これらの配合量としては、エポキシ樹脂組成物及び必要に応じて配合される硬化剤の合計100質量部に対して、10〜70質量部であることが、塗膜性能、塗装作業性等の点から好ましい。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物を塗料用に使用する場合における塗装方法については、特に限定されず、ロールコート、スプレー、刷毛、ヘラ、バーコーター、浸漬塗装、電着塗装方法にて行う事ができる。塗装後の後処理方法としては、常温乾燥〜加熱硬化を行うことができる。加熱硬化する場合の加熱温度は、50〜250℃の範囲が好ましく、60〜230℃の範囲が特に好ましい。加熱時間は、2〜30分の範囲が好ましく、5〜20分の範囲が特に好ましい。
【0058】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、建築内装用水性塗料、建築外装用及び無機質建材用水性塗料、鉄部錆止め水性塗料、自動車補修用水性塗料などの汎用用途、自動車用塗料、飲料缶などの工業用途などに用いられる。このうち、防食性、指触乾燥性に優れることから、鋼構築物や橋梁などの重防食用として鉄部錆止め水性塗料、特に下塗り用の鉄部錆止め水性塗料として好適に用いられる。
【0059】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物を接着剤として使用する場合は、特に限定されず、スプレー、刷毛、ヘラにて基材へ塗布後、基材の接着面を合わせることで行う事ができ、接合部は周囲の固定や圧着する事で強固な接着層を形成することができる。基材としては鋼板、コンクリート、モルタル、木材、樹脂シート、樹脂フィルムが適し、必要に応じて研磨等の物理的処理やコロナ処理等の電気処理、化成処理等の化学処理などの各種表面処理を施した後に塗布すると更に好ましい。
【0060】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物を繊維集束剤として使用する場合は、特に限定されず行う事ができ、例えば、紡糸直後の繊維にローラーコーターを用いて塗布し、繊維ストランドとして巻き取った後、乾燥を行う方法が挙げられる。用いる繊維としては、特に制限されるものではなく、例えば、ガラス繊維、セラミック繊維、石綿繊維、炭素繊維、ステンレス繊維等の無機繊維、綿、麻等の天然繊維、ポリエステル、ポリアミド、ウレタン等の合成繊維等が挙げられ、その基材の形状としては短繊維、長繊維、ヤーン、マット、シート等が挙げられる。繊維集束剤としての使用量としては繊維に対して樹脂固形分として0.1〜2質量%であることが好ましい。
【0061】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物をコンクリートプライマーとして使用する場合は、特に限定されず、ロール、スプレー、刷毛、ヘラまたは鏝にて行うことができる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、実施例における、全ての部、パーセント、比などは、特に断りがない限り、質量基準である。なお、GPC測定、IRスペクトルは以下の条件にて測定した。
1)GPC:
・装置:東ソー株式会社製 HLC−8220 GPC、
・カラム:東ソー株式会社製 TSK−GEL G2000HXL+G2000HXL+G3000HXL+G4000HXL
・溶媒:テトラヒドロフラン
・流速:1ml/分
・検出器:RI
2)IR:
・装置:フーリエ変換赤外分光装置(サーモエレクトロン株式会社製「NICOLET380」)
【0063】
(実施例1)
<工程1>
温度計、攪拌機、窒素導入管及び冷却管を備えたガラス製4ツ口フラスコに数平均分子量2000(水酸基価28.0mgKOH/g)のメトキシポリエチレングリコール2000gと無水トリメリット酸192gを仕込み、酸無水物基/水酸基の当量比が1.0にて100℃で5時間反応させて、酸価51mgKOH/gの一分子中に2個以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物(A−1)を得た。
【0064】
<工程2>
温度計、攪拌機、窒素導入管及び冷却管を備えたガラス製4ツ口フラスコに(工程1)で得られた酸価51mgKOH/gの化合物(A−1)1096gとビスフェノールA型エポキシ樹脂(B−1)(DIC株式会社製の「エピクロン850」)376gとトリフェニルホスフィン4.4gとを仕込み、カルボキシ基1当量に対してエポキシ樹脂が1.0モル(エポキシ基2当量)となる割合にて120℃で8時間反応させて、酸価0mgKOH/gで反応を終了させて、エポキシ当量が1474〔g/eq〕の側鎖にメトキシポリエチレングリコール基を有するエポキシ樹脂(I−1)を得た。
【0065】
<工程3>
温度計、攪拌機、窒素導入管及び冷却管を備えたガラス製4ツ口フラスコにメタキシレンジアミン(MXDA)476gを仕込み、これに前記工程2で得たエポキシ樹脂(I−1)2948g(エポキシ基1当量に対してMXDA1.75モルとなる割合)を80℃で3回に分けて仕込み、その後、100℃に昇温して3時間反応させて、アミン価(mgKOH/g)68、活性水素当量(g/eq)235の側鎖にメトキシポリエチレングリコール基を有する下記式(2)
【0066】
【化2】

【0067】
(式中、MXDAはメタキシレンジアミン残基を表わし、BPAはビスフェノールA残基を表わし、nは整数を表わす。)
で表わされるエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体を得た。このようにして得た式(2)で表わされるエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体のGPCチャートを図1に、IRスペクトルを図2に各々示した。
【0068】
次に、このようにして得た側鎖にメトキシポリエチレングリコール基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体を水/メトキシプロパノール=1/2(重量比)の水性溶媒に溶解して、不揮発分40%のアミン系硬化剤溶液(1)を得た。
【0069】
<工程4> エポキシ樹脂組成物の調製
上記実施例1の工程2で得たエポキシ樹脂(I−1)148gと、エポキシ樹脂(DIC株式会社製の「エピクロン1055」)1000gとを混合し、撹拌しながら水を10回に分けて添加することによって、不揮発分59.5%、粘度(B型粘度計)2780mPa・sのエポキシ樹脂エマルジョン(1)を得た。
【0070】
このようにして調製したエポキシ樹脂エマルジョン(1)100gと実施例1で得た不揮発分40%のアミン系硬化剤溶液(1)60.9gとを、十分に混合して水溶性エポキシ樹脂組成物(1)を得た。
【0071】
(実施例2)
実施例1において、数平均分子量が2000のメトキシポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量が400のメトキシポリエチレングリコール400gを用いた以外は、実施例1の<工程1><工程2><工程3>と同様な工程を経て、アミン価(mgKOH/g)150、活性水素当量(g/eq)128の側鎖にメトキシポリエチレングリコール基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体を得た。次に、このようにして得た側鎖にメトキシポリエチレングリコール基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体を水/メトキシプロパノール=1/2(重量比)の水性溶媒に溶解して、不揮発分40%のアミン系硬化剤溶液(2)を得た。
【0072】
実施例1の<工程4>で調製したエポキシ樹脂エマルジョン(1)100gと実施例2で得た不揮発分40%のアミン系硬化剤溶液(2)34.0gとを、十分に混合して水溶性エポキシ樹脂組成物(2)を得た。
【0073】
(実施例3)
実施例1において、数平均分子量が2000のメトキシポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量が1000のメトキシポリエチレングリコール1000gを用いた以外は、実施例1の<工程1><工程2><工程3>と同様な工程を経て、アミン価(mgKOH/g)109、活性水素当量(g/eq)168の側鎖にメトキシポリエチレングリコール基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体を得た。次に、このようにして得た側鎖にメトキシポリエチレングリコール基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体を水/メトキシプロパノール=1/2(重量比)の水性溶媒に溶解して、不揮発分40%のアミン系硬化剤溶液(3)を得た。
【0074】
実施例1の<工程4>で調製したエポキシ樹脂エマルジョン(1)100gと実施例3で得た不揮発分40%のアミン系硬化剤溶液(3)44.7gとを、十分に混合して水溶性エポキシ樹脂組成物(3)を得た。
【0075】
(比較合成例1)
<工程1>
温度計、攪拌機、窒素導入管及び冷却管を備えたガラス製4ツ口フラスコに数平均分子量2000(水酸基価28.0mgKOH/g)のポリエチレングリコール1000gとヘキサヒドロ無水フタル酸180g(酸無水物基/水酸基の当量比が1.02)を仕込み、100℃で3時間反応させて、酸価49mgKOH/gのカルボキシ基を有する化合物(A’)を得た。
【0076】
<工程2>
温度計、攪拌機、窒素導入管及び冷却管を備えたガラス製4ツ口フラスコに、工程1で得た酸価49mgKOH/gのカルボキシ基含有化合物(A’)1145g、エポキシ樹脂(B’−1)(ADEKA社製の「アデカレンジEP−4900」)340g(カルボキシル基1当量に対してエポキシ樹脂が1.0モルとなる割合)及びトリエタノルアミン3gを仕込み、反応生成物の酸価が0となるまで、150℃で8時間反応させて、主鎖にオキシエチレン鎖を有し、エポキシ当量が1485のエポキシ樹脂(I’)を得た。
【0077】
(比較合成例2) 硬化剤の製造
<工程1>(中間体:ビスフェノール型エポキシ樹脂溶液の合成)
温度計、撹拌装置、窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコに、エポキシ当量188〔g/eq〕のビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC株式会社製「EPICLON850」)300部、ビスフェノールA87.9部を仕込み、80℃において加熱均一化させた。ここにテトラメチルアンモニウムクロライド(50%水溶液)0.1部を添加し、140℃にて3時間攪拌した。その後、ブチルセロソルブ129.3部を添加し、撹拌均一することによって、エポキシ当量480〔g/eq〕、不揮発分75%のエポキシ樹脂溶液(K−1)を得た。
【0078】
<工程2>(水性樹脂中間体の合成)
温度計、撹拌装置、窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコに、エポキシ当量188〔g/eq〕のビスフェノールA型エポキシ樹脂188部とトリレンジイソシアネート(三井武田ケミカル株式会社製「コスモネートT−80」)17.4部を仕込んだ。次に、50℃まで昇温し、エチレングリコール1.55部を仕込み、80℃にて2時間反応させた。次に、冷却しながら、ポリ(オキシプロピレン/オキシエチレン)アミン(ハンツマン社製「ジェファーミンM−1000」活性水素当量505g/当量)722部を仕込んだ。その後、100℃にて5時間攪拌した。ブチルセロソルブ398部を添加し攪拌均一することにより不揮発分70%の水性樹脂(K−2)を得た。
【0079】
<工程3>(水性樹脂組成物)
温度計、撹拌装置、窒素ガス導入管を付した4つ口フラスコに、ビスフェノール型エポキシ樹脂溶液(K−1)640部を仕込み、90℃に昇温した。次に、水性樹脂中間体(K−2)176.3部を仕込み、100℃にて2時間攪拌した。次いでブチルセロソルブ102.8部を仕込んだ後、70℃にてモノエタノールアミン37.3部を添加し、100℃にて3時間攪拌した。その後、冷却を開始し、イオン交換水928部を4時間かけて滴下した。水滴下時の液温は40〜50℃で管理した。次に、スチレン化フェノール系乳化剤(第一工業株式会社製「ノイゲンEA−207D」)28.3部を添加し、攪拌均一することにより不揮発分34質量%の水性樹脂組成物(K−3)を得た。水性樹脂組成物(K−3)の不揮発分を構成する樹脂成分の重量平均分子量は33,000であった。次に、水性樹脂組成物(K−3)と硬化剤(韓国 国都社製「DOCURE KH−700」)とを604/100(質量基準)で、ミキサー(株式会社シンキー「ARE−310」)を用いて混合して、硬化剤組成物(1’)を調製した。
【0080】
(比較例1)
比較合成例1で得たエポキシ樹脂(I’)150gとエポキシ樹脂(DIC社製の「エピクロン1055」)1000gとを混合し、撹拌しながら水を10回に分けて添加して、不揮発分61.3%、粘度(B型粘度計)5000mPa・sのエポキシ樹脂エマルジョン(1’)を得た。
【0081】
このようにして調製したエポキシ樹脂エマルジョン(1’)100gと、比較合成例2で得た硬化剤組成物(1’)87.8gとを、十分に混合して水溶性エポキシ樹脂組成物(1’)を得た。
【0082】
(比較例2)
実施例1で得たエポキシ樹脂エマルジョン(1)100gと、比較合成例2で得た硬化剤組成物(1’)87.8gとを、十分に混合して水溶性エポキシ樹脂組成物(2’)を得た。
【0083】
(評価)
各実施例及び各比較例で得た水溶性エポキシ樹脂組成物を鋼板(エンジニアリングテストサービス社製JIS G3141準拠「SPCC−SB」、キシレンにて脱脂後、サンドペーパー#240で水研磨処理)にバーコーターを用いて乾燥後の膜厚が50μmとなるように塗布した。
【0084】
塗布後25℃で1週間養生した後、下記条件で各種試験を行ない、その結果を下記表1に纏めて示した。
【0085】
〔水溶性エポキシ樹脂組成物の安定性〕
各水溶性エポキシ樹脂組成物を100ml容量のマヨネーズ瓶に90g量り取り、室温(25℃)下に保管し、8時間後に目視にて外観を観察した。
○:沈殿、分離なし
△:分離が見られる
×:凝集物発生。
【0086】
〔衝撃強度〕
JIS K−5600−5−3(1999)に準拠し、デュポン式にて、撃心1/2インチ、荷重1000gにて行った。
○:50cmで亀裂等の発生無し
×:50cmで亀裂等の発生が認められる。
【0087】
〔碁盤目試験〕
JIS K−5600−5−6(1999)に準拠し、1mm間隔で切れ目を入れ、テープを貼り付け後に引き剥がした後の塗膜状態を目視で観察した。
【0088】
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子の目にもはがれがない。
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に35%を超えるが65%を上回ることはない。
5:はがれの程度が上記4を超える場合。
【0089】
〔耐アルカリ性〕
各試験板を25℃の5%水酸化ナトリウム水溶液に1週間浸漬した後に外観を観察した。
○:良好で問題ない
×:塗膜にツヤビケ、フクレまたはワレのいずれかが認められる
【0090】
〔耐水性〕
各試験板を25℃の水中に1週間浸漬を行った後に、外観を観察した。
○:良好で問題ない
×:塗膜にツヤビケ、フクレまたはワレのいずれかが認められる
【0091】
〔耐食性〕
JIS K−5600−7−1(1999)に準拠して行った。試験片にカッターでクロスカットを入れた後、試験器内に置き、300時間試験を行った後、クロスカット部からの塗膜の膨れ幅を記す。単位はmmである。
【0092】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)と、一分子中に3〜4個のカルボキシ基を有する多価カルボン酸由来の酸無水物(A−2)とをエステル化反応させて得られる一分子中に2個以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物(A)と、一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)とを反応させて得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)と、芳香族ジアミン(II)とを反応させて得られる側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体からなることを特徴とするアミン系硬化剤。
【請求項2】
芳香族ジアミン(II)がアラルキレンジアミンである請求項1記載のアミン系硬化剤。
【請求項3】
ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)の数平均分子量が400〜3000の範囲にある請求項1記載のアミン系硬化剤。
【請求項4】
ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)と、一分子中に3〜4個のカルボキシ基を有する多価カルボン酸由来の酸無水物(A−2)とを、前記ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)の水酸基1当量に対して前記酸無水物(A−2)の酸無水物基(−COOCO−)が1〜1.2当量の割合でエステル化反応させて、一分子中に2個以上のカルボキシ基とポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基とを有する化合物(A)を得る工程、
前記化合物(A)と一分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂(B)とを反応させて側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂(I)を得る工程、
前記エポキシ樹脂(I)と芳香族ジアミン(II)とを反応させる工程
を有することを特徴とする側鎖にポリエチレングリコールモノアルキルエーテル残基を有するエポキシ樹脂の芳香族ジアミンアダクト体からなるアミン系硬化剤の製造方法。
【請求項5】
芳香族ジアミン(II)がアラルキレンジアミンである請求項4記載のアミン系硬化剤の製造方法。
【請求項6】
ポリエチレングリコールモノアルキルエーテル(A−1)の数平均分子量が400〜3000の範囲にある請求項4記載のアミン系硬化剤の製造方法。
【請求項7】
エポキシ樹脂(I)1当量に対し、芳香族ジアミン(II)2〜5当量反応させる請求項4記載のアミン系硬化剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1記載のエポキシ樹脂(I)及び請求項1記載のアミン系硬化剤を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
さらに前記エポキシ樹脂(I)以外のエポキシ樹脂(I’)を含有する請求項8記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1記載のエポキシ樹脂(I)、請求項1記載のアミン系硬化剤及び水性溶媒を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
さらに前記エポキシ樹脂(I)以外のエポキシ樹脂(I’)を含有する請求項10記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項12】
エポキシ樹脂及びアミン系硬化剤が水性溶媒に分散している請求項10又は11記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項13】
水性溶媒が水と水溶性ケトン類との混合物である請求項10〜12のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−6956(P2013−6956A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140477(P2011−140477)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】