説明

アリシン

本発明は、(i)リーシュマニア症の処置に、(ii)水生生物種の消毒もしくは殺菌処理に、(iii)動物飼料のための抗微生物薬として、(iv)食物の保存薬として、(v)水の消毒薬もしくは殺菌剤として、(vi)ハチのための駆虫処理もしくは抗菌処理に、または(vii)グリコペプチド中間耐性スタフィロコッカス・アウレウスの処理用薬剤の製造に用いるアリシンの用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリシン、更に詳しくは、アリシンの保存薬、消毒薬、抗微生物薬または殺菌剤としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
アリシン、すなわち、式:
【化1】

で示される硫黄化合物は、ニンニク(garlic、Allium sativium)に求められる健康維持に役立つ多数の特性を生じさせる重要な活性化合物であると思われる。自然の状態では、ニンニクはアリシンを含有せず、先駆物質であるアリイン[(+)S−アリル−L−システインスルホキシド]を含有する。アリインは、これもニンニクの成分でもある、酵素アリナーゼ(allinase)またはアリイン・リアーゼ(alliin lyase)の作用によって、アリシンに変換する。アリインとアリナーゼは、ニンニクの小鱗茎を切断または押しつぶしたときに、いっしょになる。下記の反応式は、合成ルートを示す。
【化2】

【0003】
しかしながら、アリナーゼは、その反応生成物のアリシンによって迅速かつ不可逆的に非活性化し、また胃などの酸性条件下でも非活性化する。すなわち、実際面では、ニンニクの小鱗茎からのアリシンの収率は、理論上最大値から遠く離れて減少する。実際に、通常の収率は0.3〜0.5%のオーダーである。
WO97/39115に、アリナーゼを固体支持体に固定して含有するカラムを準備し、該カラムにアリインの溶液を通し、次いで流出液中のアリシン溶液を集めることによる、アリシン合成の連続的方法が記載されている。
【0004】
またアリシンは、本出願人によっても液体および噴霧乾燥形態で製造され、かつ英国TN31.7NY、イースト・サセックス、ライ、ミリタリー・ロード、ハーフ・ハウスのアリシン・インターナショナル・リミテッドから、ALLIMAXの商品名でカプセル剤および大量粉剤にて入手しうる。
我々の同時係属PCT出願WO03/024437(2003年3月27日公開)において、我々はアリシンのある特定の新規治療特性を記載する。
【発明の開示】
【0005】
本発明は、アリシンの治療特性に関するさらなる研究に基づく。
本発明は、その最も広範なセンスにおいて、(i)リーシュマニア症の処置に、(ii)水生生物種の消毒もしくは殺菌処理に、(iii)動物飼料のための抗微生物薬として、(iv)食物の保存薬として、(v)水の消毒薬もしくは殺菌剤として、(vi)ハチ(bees,apis)のための駆虫処理もしくは抗菌処理に、または(vii)グリコペプチド中間耐性スタフイロコッカス・アウレウス(Glycopeptide Intermediate Resistant Staphylococcus aureus)の処理用薬剤の製造に用いるアリシンの用途を提供する。
【0006】
本発明は、1つの側面(実施態様)において、リーシュマニア症の処置に用いるアリシンの用途を提供する。また本発明は、リーシュマニア症の処置用薬剤の製造に用いるアリシンの用途を提供する。好ましくは、アリシンは薬剤中約5000ppmの濃度で存在する。
第2の側面において、本発明は、水生生物種の消毒もしくは殺菌処理に用いるアリシンの用途を提供する。また本発明は、水生生物種の消毒もしくは殺菌処理用薬剤の製造に用いるアリシンの用途を提供する。典型例として、水生生物種は魚である。本発明のこの側面は特に、魚飼育や他の水または海洋産業に適用しうる。
【0007】
第3の側面において、本発明は、動物飼料のための抗微生物薬として用いるアリシンの用途を提供する。動物飼料は水飼料であり、アリシンは約500ppmの量で存在するのが適当である。他の具体例において、動物飼料は家畜飼料であり、アリシンは1日当り1〜5mg/動物の1日摂取を付与する量で存在する。大きな動物、たとえばウシやウマの場合、アリシンは1日当り2.5〜3mg/動物の1日摂取を付与する量で存在するのが適当である。小さな動物、たとえばブタやヤギの場合のアリシンは、1日当り1.5〜2.4mg/動物の1日摂取を付与する量で存在する。
【0008】
第4の側面において、本発明は、食物の保存薬として用いるアリシンの用途を提供する。また本発明は、アリシンおよび少なくとも1種の食品グレード賦形剤から成る食品保存薬を提供する。好ましくは、保存薬は500ppm以下濃度のアリシンを含有する。
第5の側面において、本発明は、水の消毒薬もしくは殺菌剤として用いるアリシンの用途を提供する。また本発明は、アリシンおよび食品グレード賦形剤から成る水処理組成物を提供する。特に本発明は、野菜の洗浄水、廃水、暴風雨水または飲料水の処理に用いる水の消毒薬もしくは殺菌剤を提供する。好ましくは、水処理組成物は0.5〜2.0%w/vまたはw/w、より好ましくは0.9〜1.7%の量のアリシンを含有する。
【0009】
第6の側面において、本発明は、ハチのための駆虫処理もしくは抗菌処理に用いるアリシンの用途を提供する。また本発明は、ハチのための駆虫組成物(処理剤)の製造に用いるアリシンの用途を提供する。また本発明は、アリシンおよび医薬的に許容しうる賦形剤から成るハチのための駆虫組成物を提供する。特にこの側面の本発明は、バロア(Varroa)・ダニや細菌メリソコッカス・プルトニウス(Melissococcus plutonius)[以前はストレプトコッカス・プルトニウス(Streptococcus plutonius)と呼ばれていた]およびペニバチルス幼虫亜種ラーバ(Paenibacillus larvae subsp.Larva)や真菌性ブロード病チョークブロード(fungal brood disease chalkbrood)アスコフェラ・アピス(Ascophera apis)に対する処理を提供する。
第7の側面において、本発明は、グリコペプチド中間耐性スタフィロコッカス・アウレウスの処理用薬剤の製造に用いるアリシンの用途も提供する。
【0010】
経口投与、または坐剤、膣坐剤もしくは鼻腔製剤による投与の場合に適当な、医薬的に許容しうる賦形剤は、アリシンまたはその代謝産物が結合した固体組成物である。より好適には、固体組成物は、ラクトース、微結晶セルロースまたはリン酸二カルシウム、好ましくはセルロースなどの増量剤;ゴムまたはスターチなどの増粘剤;スターチグリコール酸ナトリウムまたは架橋ポビドンなどの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの剥離剤;乳化剤;界面活性剤および必要に応じて甘味剤、芳香剤および着色剤などを含有する。最も好ましくは、アリシンを噴霧乾燥法で結合させ、かつ固体組成物はマルトデキストリンなどの変性スターチ、アカシアゴム、シリカ、およびステアリン酸マグネシウムなどの乳化剤を含有する。
WO02/062416に、粉末物質を小出しする装置が記載されている。この装置は、アリシンおよびセルロース粉末から成る組成物のデリバリーに有利であることがわかった。従って、本発明の最後の側面において、アリシンおよびセルロース粉末から成る組成物が提供される。
【0011】
局所塗布に適当な医薬的に許容しうる賦形剤は、クリームまたは石ケンからなる。別法として、賦形剤はローション、軟膏、練り歯みがき、うがい薬または毛髪製剤、たとえばシャンプー、スタイリングゲルまたはコンディショナーを構成してもよい。かかる製剤は、界面活性剤、芳香剤、着色剤、安定剤、酸化防止剤、乳化剤、増粘剤、ワックス、グリセロール、脂肪、沈殿防止剤、解膠剤および老化防止剤(これらの全ては、低アレルゲン性またはそうでなくてもよい)の適当な組合せを包含しうる。クリーム賦形剤は、白色ワセリン、ステアリン酸塩、好適にはステアリン酸マグネシウムなどの乳化剤、グリセリン、水、黄色ワセリン、およびクエン酸カリウムなどの安定剤を含有するのが適当である。最も好適には、クリーム賦形剤は水性クリーム、好ましくはAqueous Cream BP を包含する。石ケン賦形剤は、硫酸エーテル、コカミド(cocamide)およびココベタイン(cocobetaine)を含有するのが適当である。必要に応じて、賦形剤はさらに芳香剤および着色剤を含有してもよい。
経口、非経口および局所適用の場合の適当なアリシンと賦形剤の割合は、たとえば1〜2000ppm、好ましくは50〜1000ppm、より好ましくは250〜500ppmのアリシン濃度を付与するように選定する。
【0012】
本発明の上記側面およびその他の側面について、単なる具体例として、より詳しく以下に説明する。
1.リーシュマニア症の処置におけるアリシンの使用:
リーシュマニア症は、スナバエ(サシチョウバエ属)がかむことによって伝染し、リーシュマニア属の寄生原虫により起こる熱帯地方や亜熱帯地方の一般的な疾患である。この疾患には2つの主な形態があり、すなわち、種々の内部器官の細胞が影響される内臓リーシュマニア症と、皮膚の組織に影響を及ぼす皮膚リーシュマニア症である。後者の形態そのものは、その症状が発生する部位および関係する原虫種に基づき、幾種かの形態を有する。パナマ、ホンデュラス、アマゾン、南中央アメリカおよびアジアなどの国々が、リーシュマニア症が最も一般的である地域である。
アジアにおいてたとえば、東邦腫の形態が一般的であり、これは主な第三世界の問題として認めることができる。リーシュマニア症は、腕や脚に見られて潰瘍化する外傷をもたらす、皮膚や粘膜の疾患である。また鼻や口の粘膜にも感染が広がり、組織の重大な破壊をひき起こす。標準の処理には普通、アンチモン含有薬物を用いるが、これらは一般に、容易に入手できなかったり、あるいは十分には許容されない。
【0013】
また寄生生物熱帯メキシコリーシュマニアによって起こる皮膚リーシュマニア症の形態も、チクレロ潰瘍として知られている。この疾患は、パナマ、ホンジュラスおよびアマゾンで発生し、主としてチクル(チューインガム)を収集するのに森林を訪れる人々に影響を及ぼす。この病状は、耳垂の潰瘍化する外傷の形態をとり、そして、潰瘍(ただれ)は通常、6月以内で自発的に治癒するが、この潰瘍は多大な不快をひき起こしうる。
イーストロンドン大学における5.0g/リットル濃度のアリシンを用いる確証的なインビトロ試験は、リーシュマニア症にかかわる原虫寄生生物を死滅させた。PCT/GB2002/004309に記載の実験室研究の結果を推定すれば、アリシンは抗原虫薬として濃度5000ppmで効力を有することを、我々は確信する。
【0014】
2.魚飼育や他の水または海洋産業における消毒薬/殺菌剤としてのアリシンの使用:
我々は、アリシンを魚飼育や他の水産業に用いることにより細菌、寄生生物および真菌を死滅させうることを証明した。アリシンは、アリシン(およびDADS(ジアリルジスルフィド)、DATS(ジアリルトリスルフィド)、アジョエン(ajoene)、アリトリジウム(allitridium)およびビニルジチインズ(vinyldithins)を含むその代謝産物)を含有する抗微生物性(抗菌性、抗ウイルス性、抗真菌性および抗原虫性を含む)製剤で使用できる。
【0015】
MRSA(30菌株)、E.coli(大腸菌)、E.フェカリス(Faecalis)、カンジダ・アルビカンス、シュードモナス・エアルギノサ(aeruginosa)、サルモネラ・チフィムリウム(ネズミチフス属)、ストレプトコッカス・ピオゼネス(Streptococcus pyogenes)、B.サブチリス(subtilis)、セラチア・マルセセンス(marcecens)(霊菌)等に関する我々の実験室研究の試験結果に基づき、我々は、その結果によりアリシンが細菌や真菌に対する作用物質として使用できることを確信する。
WO03/024437に含まれるシラミ(ヒトジラミ)に関する我々の実験室試験の結果に基づき、我々は、アリシンが魚飼育や他の水または海洋産業に関連する寄生生物を死滅させると確信する。
【0016】
3.動物飼料における抗微生物薬としてのアリシンの使用:
アリシンは、動物飼料の抗微生物薬として用いることにより、動物の成長を促進し、動物の病気(疾患)を予防し、かつヒトへの病気(食中毒を含む)伝染を予防することができる。抗微生物性(抗菌性、抗ウイルス性、抗真菌性および抗原虫性を含む)製剤は、アリシン(およびDADS、DATS、アジョエン、アリトリジウムおよびビニルジチインズを含むその代謝産物)を含有する。動物(たとえばニワトリ、ブタ、ヤギおよびウシ)は、細菌を食べ、これを食物連鎖によってヒト集団に送る可能性がある。動物の病気を予防したり、処置するのに、慣用の動物飼料と添加成分(抗生物質を含む)が使用される。近々制定されるヨーロッパ法では、抗生物質の使用は禁止またはせいぜい制限されることが提案されている。
【0017】
試験および用量
我々の先の出願WO03/024437に、アリシンが500ppm以下の濃度範囲で、動物の病気にかかわるE.coli、リステリア、E.フェカリスおよび他の細菌を死滅させうることを示す実験室試験の記載がある。ニワトリの水供給路にアリシンを濃度500ppmで投与することにより、アリシンを抗微生物性の予防薬として使用できる。ブタやヤギなどの動物の飼料の中に、1日当り1.5〜2.4mgのアリシンを混ぜることにより、アリシンを抗微生物性の予防薬として使用できる。大きな動物、たとえばウシやウマの飼料の中に、1日当り2.5〜3.0mgのアリシンを混ぜることにより、アリシンを抗微生物性の予防薬として使用できる。
【0018】
また2つの隣接する家畜小屋(それぞれ10000匹のニワトリ)を比較する、インビボ試験も試みた。各小屋に1日当り、1000リットルの水を供給する。1つの小屋には、水供給に加えて1.5リットルのアリシン溶液(1000ppm)を与え、さらに3日間は1日当り1リットルのアリシン溶液(1000ppm)を加える。対照小屋には、アリシン溶液は全く加えない。
【0019】
ちょうど数日後に、アリシン処理した小屋のニワトリの健康状態の外観に改善が見られた。たとえば、ニワトリのとさかがより赤くなり、かつ卵の生産量に2パーセントの増加があった。ニワトリの生命力が増進した。これに対し、対照小屋では、E.coli感染が見られた。かかる試験が終わった後に、数匹のニワトリの肝臓を調べた。対照ニワトリの肝臓は、E.coli感染の証拠を示し、一方、アリシン処理ニワトリのそれらは示さなかった。アリシン処理ニワトリは、代謝および抗微生物機能の改善を呈した。またアリシン処理ニワトリは、ニワトリ血統への抵抗性の改善を示した。
【0020】
4種の普通のニワトリ細菌に対する結果を示すインビボ試験により、1000ppmおよび166ppm(1:6希釈)での以下に示す抑制ゾーンの結果を得た:
【表1】

【0021】
4.食品加工処理における保存薬としてのアリシンの使用:
アリシンを食品/食肉加工に使用し、アリシン(およびDADS、DATS、アジョエン、アリトリジウムおよびビニルジチインズを含むその代謝産物)の抗微生物性(抗菌性、抗ウイルス性、抗真菌性および抗原虫性を含む)製剤によって、ヒトの病気(食中毒を含む)をひき起こしかつ広めうる細菌の成長を予防することができる。
一定濃度の液体アリシン(0〜500ppm)をハンバーガー肉の10kgサンプルに加え、細菌生長がどの位長く予防されるかを判定した。これらの試験は、現存する保存薬(ニトレートおよびホスフェートを含む)の普通使用と比較した。
細菌生長を試験するため、食肉の試験片から小さな肉サンプルを切り、標準分析法を用いてE.coliおよびサルモネラの生長をチェックした。
【0022】
結果:
濃度250ppmのアリシン液体は、7日までの間細菌の異常生長を防止した。
濃度375ppmのアリシン液体は、10日までの間細菌の異常生長を防止した。
濃度500ppmのアリシン液体は、14日までの間細菌の異常生長を防止した。
保存薬もしくはアリシンを含有しない食肉の対照サンプルは、数日後に強い細菌生長を示した。
許可された標準プラクチスに従って用いられる現存の保存薬は、わずか7日までの間しか細菌の異常生長を防止しなかった。
【0023】
この実験により、アリシンが食品/食肉加工処理の保存薬として使用しうることが証明される。標準分析法により、アリシン濃度250ppm(0.0250%w/vに相当)でE.coliおよびサルモネラの生長の予防が証明される。PCT/GB2002/004309に含まれる、MRSA(30菌株)、E.coli、E.フェカリス、F.ストレプトコッカス、カンジダ・アルビカンス、シュードモナス・エアルギノサ、サルモネラ・チフィムリウム、ストレプトコッカス・ピオゼネス、B.サブチリス、セラチア・マルセセンス、リステリア・モノサイトゼネス(リステリア菌)に関する我々の実験室研究の試験結果から、アリシンの保存効果を証明するさらなる証拠を推定することができ、アリシンが食品/食肉加工処理の保存薬として使用しうることが確認される。
【0024】
5.野菜の洗浄水、廃水(暴風雨水を含む)の処理および飲料水の処理における消毒薬/殺菌剤としてのアリシンの使用:
現存の有害な消毒薬/殺菌剤、たとえば塩素、次亜塩素酸ナトリウム、オゾンおよび過酢酸(これらは全て、環境に対し悪影響を有しうる)に代えて、あるいはこれらを補うために、アリシンを使用することができる。また消毒にUV放射も使用されるが、電力費や一般運転費が高い。水や廃水消毒の有効性の指標として一般に用いられる細菌種の水性懸濁液にアリシンを用いる、実験室研究を行った。この趣意で、全ての実験において、糞大腸菌型およびストレプトコッカス(連鎖球菌)群からの同定分離菌、すなわち、エシェリキア・coli(NCTC 8156)およびエンテロコッカス・ヒレ(Enterococcus hirae)(ブライトン大学の分離菌)を用いた。アリシン1.8g/リットルの呼称濃度を持つアリシン水溶液(すなわち、0.18%溶液)を用いた。
【0025】
凍結乾燥した分離菌から、エシェリキア・coli(NCTC 8156)およびエンテロコッカス・ヒレ(ブライトン大学の分離菌)のストック懸濁液を、ニュートリエント・ブロス(Nutrient Broth)No.2(栄養ブイヨン)で培養する。各実験に先立ち、栄養寒天培地における散布(spread)平板培養法、次いで37℃での温置により、懸濁液の連続希釈度を数え上げる。
【0026】
KELSEY−SYKES試験
初期の実験手順は、確立UKプロトコル(BS6905:1987)に記載の方法に基づく、Kelsy−Sykes方法体系は、“よごれた”(廃水/下水)条件下での使用が推奨されうる、消毒薬の濃度に対するガイドとして開発された。従って、これは、微生物以外の微粒子や溶解した汚染菌を含有する廃水に対し、消毒薬の有効性を確認する適切な手段である。
【0027】
基本的なKelsy−Sykes試験を用いて、5チューブの内3チューブまでが試験微生物の生長を立証しない、消毒薬の濃度と接触時間を確認する。いずれの条件セットでも、試験微生物の死滅率を確証するようにはなっていない。そのため、廃水/下水の検討に関してもプロトコルを改作した。改めた方法では、指定の接触時間後に細菌懸濁液/殺菌剤配合物からサンプルを採取し、コロニーをカウントできるように、固体培地上で平板培養する(下記表1および2参照)。
【0028】
寒天抑制試験
この方法は、栄養寒天平板上の試験微生物の融合性生長に関し、アリシンの殺菌効果を示し、およびアリシン溶液によって生じる抑制ゾーンを調べるために使用する。栄養素寒天平板にあけたウェル(wells)の中に、100%、50%、25%および12.5%濃度(滅菌蒸留水中)のアリシン溶液をピペッドで加え、これにE.coli分離菌を散布し、37℃で24時間培養する。全ての平板をさらに同温度で24時間温置し、抑制ゾーンを調べる(図1の平板を参照)。
【0029】
結果
表1:修正したKelsey−Sykes試験でアリシン溶液との接触の結果として、E.coliおよびEnt.hiraeのコロニー形成ユニットの減少率
【表2】

略語:CG=融合性生長
【0030】
表2:修正したKelsey−Sykes試験でアリシン溶液との接触の結果として、死滅したE.coliおよびEnt.hiraeのコロニー形成ユニットの数
【表3】

略語:CG=融合性生長
【0031】
この研究は、水処理における消毒の指標として一般に用いられる細菌に対し、アリシンの殺菌効果を立証した。寒天平板での単純試験は、0.225g/L(0.0225%W/Vに相当)のような低いアリシン濃度で、E.coli および Ent.Hirae の抑制を立証した。我々の先の特許出願PCT/GB2002/004309に含まれる、MRSA(30菌株)、E.coli、E.Faecalis、F.streptococcus、Candida albicans、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella typhimurium、Streptococcus pyogenes、B.subtilis、Serratia marcecens に関する我々の実験室研究の試験結果から、飲料水媒介細菌に対するアリシンの殺菌効果を立証するさらなる証拠を推定することができる。
【0032】
6.ハチを殺すダニおよび細菌に対するアリシンの使用:
バロア・ダニは、ミツバチ(アピス・セラナ(Apis cerana)およびアピス・メリフェラ(mellifera)を含む)の固有の寄生虫である。ヨーロッパの腐蛆病(foul brood disease)は、4〜5日齢幼虫の中腸を侵す、メリソコッカス・プルトニウスと呼ばれる(以前はストレプトコッカス・プルトニウスと呼ばれていた)細菌が原因である。該細菌は中腸で急速に繁殖して、死をひき起こす。この細菌は、無防備の幼虫のみに影響を及ぼす。アメリカの腐蛆病は、密閉したブロード巣室(brood cells)の中の幼虫に影響を及ぼす、パニバチラス幼虫亜種ラーベが原因である。また、チョークブロード・アスコフェラ・アピスと呼ばれる、非通知性の真菌によるブロード病(brood disease)もあり、これは養蜂家にとって重大な問題である。
【0033】
MRSA(30菌株)、E.coli、E.Faecalis、Candida albicans、Pseudomonas aeruginosa、Salmonella typhimurium、Streptococcus pyogenes 等に関する我々の実験室研究や他の研究の試験結果によれば、液体、クリームおよび粉末形態のアリシンは、バロア・ダニ、ヨーロッパ腐蛆病およびアメリカ腐蛆病細菌を殺すことが示される。
【0034】
研究1:
この研究で、社会性および単生ミツバチに関連する幾らかの細菌および真菌病原体(Paenibacillus larvae aubsp.larvae、Paenibacillus larvae subsp.pulvifaciens、Ascosphaera apis および Ascosphaera aggregata)に対し、アリシン(Allisure(商標登録)Liquid(液体))の抗微生物活性を試験した。アリシンの最小抑制濃度(MIC)は、ブイヨン微小希釈法(broth microdilution method)を用い、1000〜0.25ppmの範囲で決定する。アリシン液体は、グラム陽性細菌性分離菌(MIC350ppm)および真菌性分離菌(MIC250ppm)に対して活性を示す。またアリシンの抗微生物活性は、寒天拡散試験(agar diffusion test)で250μgのアリシン/ディスクを用いて試験した。細菌性分離菌(P.l.pulvifaciens および P.l.larvae)は、それぞれ24〜26mmおよび45〜50mm範囲の抑制ゾーンをもたらす。真菌性分離菌は、(A.apis)および35〜37mm(A.aggregata)をもたらす。MICアッセイおよび寒天拡散試験両方の対照として、マクロライド系抗生物質チロシン(インディアナ州の Elanco Inc.の Tylan(登録商標)50)を用いた。この研究によるデータは、ハチ病原体の生長を抑制したり、ハチの病気の発生を防止するアリシンの潜在性の証拠となる。
【0035】
我々は、最小抑制濃度(MIC)を決定するブイヨン微小希釈法、および抑制ゾーンを決定する寒天拡散試験(Kirby-Bauer)を用い、数種の昆虫病原性細菌(Paenibacillus larvae subsp.larvae,Paenibacillus larvae subsp.pulvifaciens)および真菌(Ascosphaera apis および Ascosphaera aggregata)に対するアリシン(Allisure Liquid)活性を試験した。病気にかかったミツバチ幼虫サンプルから、細菌胞子を分離する。熱処理した細菌胞子の小アリコートを、100μLのリン酸塩緩衝食塩水(PBS、pH7.2)に懸濁し、次いでナリジクス酸およびピペミジン酸(pipemidic acid)を含有する、半選択的 J.Agar 培地で平板培養する(Alippi A.M.(1995),Detection of Bacillus larvae spores in Argentinian honeys by using a semi-selective medium. Microbiologia 1995,11(3):343-50; および Govan V.A.,Allsopp M.H.,Davison S.A.(1999),PCR Detection Method for Rapid Identification of Paenibacillus larvae. Applied and Environmental Microbiology 65(5):2243-2245)。
【0036】
6%COおよび95%RH含有の空気中、33℃にて平板を温置する。最初の種同定は、形態学的、生物学的および培養上の特性に基づく。細菌培養物のカタラーゼ反応を試験した(Leboffe M.J.および Pierce B.E.(1999),A photographic atlas for the microbiology laboratory. Morton Publishing Company.254pp)。細菌コロニーは、形状、縁および色の特徴がある。グラム陽性染色スミア(Gram-stain Reagents Kit、ニュージャージー州のEMD Chemicals Inc.)について、植物細胞および胞子の形態学的同定を調べた。
【0037】
DNAベースのPCR同定を行って、細菌種の同定を確証した。培養平板からの細菌細胞を、30μLのPCR反応に直接加える。反応に用いるPCRプライマーは、P.larvaeに対しユニークな973bpのフラグメントを選択的に増幅する(amplify)16S RNA配列に基づく(Govan ら、1999)。PCR生成物は、TAE緩衝剤中0.8%アガロースゲル電気泳動およびエチジウムブロマイド染色により視覚化する。PCR反応の対照として、細菌の参照菌株を用い、イリノイ州ピオリアの the National Center for Agricultural Research により、P.l.larvae(NRRL B−3560、B−2605)および P.l.pulvifaciens(NRRL B−3688、B−3685、B−3689、NRS−1687、P.alvei B383)を準備した。
【0038】
黒いミツバチのミイラから真菌胞子(Ascosphaera apis)を集め、病気にかかったハキリバチから Ascosphaera aggregata 胞子を集める。ハチサンプルをPBS中、組織ホモジナイザーで粉砕し、目の粗い膜で濾過し、12500rpmで5分間遠心分離する。次いで凝集した胞子をPBSに再懸濁し、4℃で貯蔵する。真菌胞子のアリコート(約10〜10胞子/mLの100μL)を、酵母エキス1%、KHPO 1.35%、可溶性スターチ1.0%、寒天0.2%、グルコース1.0%、硫酸ストレプトマイシン30.0μg/mL、アンピシリン50.0μg/mL含有の酵母−グルコース−リン酸塩寒天培地(YGPS)で平板培養し(Anderson D.L.、Gibbs A.J.、Gibson N.L.(1998)、Identification and phylogeny of spore-cyst fungi(Ascosphaera ssp.)using ribosomal DNA sequences.Mycological Research 102(5):541-547;および HORNITZKY M.A.(2001)、Literature review of chalkbrood-a fungal disease of honeybees. A report for the rural industries research and development corporation. New South Wales Argiculture, AU,Publication 01/150、13pp)、次いで33℃、CO 6%およびRH95%で温置する。気中菌糸および真菌胞子のう胞の微小なプレパラートにより、真菌コロニーを分析する。またPCR分析により、真菌種の同定も確認する。真菌菌糸および胞子からのDNA抽出、およびPCR条件は、Andersonらの記載と同じである。
【0039】
アリシン(Allisure Liquid)の最小抑制濃度(MIC)値は、ブイヨン微小希釈法(NORRELL S.A.および MESSLEY K.E.(1997)、Microbiology Laboratory Manual. Principles and applications. Prentice-Hall, Inc. 302pp)を用い、1000〜0.25ppmの濃度範囲で測定した。陽性対照は、抗生物質チロシン(Tylan(登録商標)、インディアナ州の Elanco Animal Health Inc.)を含有し、陰性対照は抗生物質を含有せず。連続希釈度のアリシン含有の細菌または真菌液体培地2.5mLに、細菌(P.l.larvae、P.l.pulviphaciens)胞子または真菌(A.apis、A.aggregata)胞子(約10〜10胞子/mLの100μL)を加える。培養物を、35℃および215rpmの振とう器で温置する。培養物の光学濃度(OD600)は、微生物種の生長速度に応じて、接種の24hおよび48h後に記録した。MIC値は、培養チューブ中の微生物生長なしをもたらす、抗生物質の最低濃度で測定し、3回繰り返した。アリシンの最小細菌濃度値(MBC)は、MICアッセイから得られる細菌培養物100μLを平板培養することによって測定した。平板を33℃およびCO 6%で24hおよび48h温置して、微生物生長を観察する。
【0040】
ディスク拡散試験(Kirby-Bauer)/抑制ゾーン
標準ディスク拡散法(Norrel & Messley による)を用い、細菌および真菌病原体に対してアリシン(Allisure Liquid)を試験した。細菌または真菌胞子のアリコート(約10〜10胞子/mLの100μL)を、Mueller-Hinton 寒天培地で平板培養する(深さ4.0mm)。250μgのアリシンまたは5μgのチロシン(陽性対照)を含有する6mm紙ディスクを、各平板の中心に置く。平板を33℃およびCO 6%で温置し、微生物種に応じて接種の24h、48hまたは76h後に、抑制ゾーンを測定する。全ての実験は、少なくとも3回繰返した。
【0041】
結果
グラム陽性細菌性分離菌(P.l.pulvifaciens および P.l.larvae)は、MIC値350ppmを有し、真菌性分離菌(A.apis および A.aggregata)は、MIC値250ppmを有した。アリシンは、1000〜25ppmの範囲で、P.l.larvae および P.l.pulvifaciensに対してわずかに静菌性(非殺菌性)活性を示したにすぎなかった。対照として用いた抗生物質チロシン(Tylan(登録商標)50、インディアナ州の Elanco Inc.)は、非常に高い抗菌活性、すなわち、0.25ppm以下のMIC値を示した。寒天拡散試験において、アリシンは P.l.pulvifaciens の場合24〜26mm範囲の抑制ゾーン、また P.l.larvae の場合で45〜50mm範囲の抑制ゾーンをもたらした。真菌病原体で試験すると、アリシンは、A.apis に対して31〜35mm範囲および A.aggregata に対して35〜38mm範囲の抑制ゾーンをもたらした。チロシン対照では、P.l.pulvifaciens は14〜16mmの抑制ゾーンを示した。P.l.larvae の生長は、チロシンによって完全に抑制された。予測の通り、チロシンは真菌性分離菌のいずれの生長も抑制できず、抑制ゾーンは0.0mmであった。
【0042】
研究2:
序説
UKに存在するミツバチに関して、2つの重大な細菌病がある。ヨーロッパの腐蛆病(EFB)は、細菌 Melissococcus plutonius によって起こるが、Paenibacillus alveiやブレビバチルス・ラテロスポラス(Brevibacillus laterosporus)を含む他の細菌も、この病気を示すことがある。アメリカの腐蛆病(AFB)は Paenibacillus larvae subsp.larvae によって起こり、通常は感染した幼虫の単作(monoculture)で見られる。EFBは多くの場合、抗生物質オキシテトラサイクリンを用いて処理できるが、AFBを持つコロニーは常に、該病気の高い感染性に基づき殺される。しかして、抗生物質の使用は望ましくなく、養蜂においてその使用を縮小するのが、NBUの目的である。これを行なう1つの方法は、他の可能性のある処理を調査することである。この研究の目的は、ミツバチの疾患に関連する細菌に対する、ニンニクエキス配合物の、アリシンと呼ばれる新規生成物の効果を評価することである。結果から、野外研究での腐蛆病の処理としての使用に該生成物が適切であるかどうかが示されるだろう。
【0043】
Allicin International Ltd からアリシン液体(呼称濃度=1000ppm)を入手し、冷凍保存した。
試験に供した細菌は、Paenibacillus larvae subsp.larvae、Melissococcus plutonius、Brevibacillus laterosporus および Paenibacillus alvei である。全ての分離菌は、NBU診断研究所に送られてきた病気にかかった材料から新たに分離した。
【0044】
培地および温置条件
P.larvae subsp.larvae、B.laterosporus および P.alvei は、好気性条件下、脳心臓浸出液・プラス・チアミン(brain heart infusion plus thiamine、BHIT)寒天およびブイヨン(SOP NBU/014)で生長させ、M.plutonius は、嫌気性条件下、SYPG寒天およびブイヨン(SOP NBU/015)で生長させる。全ての実験は34℃で実施する。調べたアリシン液体の濃度は、500、250、100、50、25および10ppmである。ブイヨンは通常濃度の2倍で作成し、アリシン−含有成分を加えたときに、培地が細菌生長にとって正しい濃度となるようにする。アリシン溶液を滅菌脱イオン水に希釈して、オートクレーブのブイヨンに加えるときの所望の濃度を得る。対照は、それに加える滅菌脱イオン水のアリコートを有し、各試験培養物の最終容量は5mLである。他の対照も含まれ、これらは培養基(培地)プラス適切量のアリシンであって、細菌の接種はない。これによって、結果に影響を及ぼしうるいずれかの細菌が、試験アイテム(item)で存在するかどうかが示される。好気性および嫌気性対照の両方が含まれる。
【0045】
細菌性菌株の分離
病気にかかったサンプルから細菌を分離し、次いで純粋になるまで、寒天平板で二次培養し、この時点でブイヨン培養物に接種する。M.plutonius の培養物を無酸素で分離し、次いで平板培養し、有酸素および無酸素の両方で温置して、調査の分離菌がこの細菌であることを確認する。類似の微生物 Enterococcus faecalis が時々、EFB−感染サンプルから分離することができるが、これは形態学的に M.plutonius と区別するのが困難である。しかしながら、前者の細菌は有酸素で極めて十分に生長するのに対し、M.plutonius は自己複製(replicate)できない。従って、分離菌が有酸素で生長しうる場合、これは M.plutonius ではない。この管理手法(control mechanism)を実験手順を通じて使用し、正確な生体(微生物)の試験を確実にする。
【0046】
試験培養物の接種
ブイヨン5mLを含有する試験チューブで、各細菌を新たに生長させる。培養物から、この細菌懸濁液(5μL)を取出し、SOP NBU/131に従って各試験チューブに接種する。全てのアリシン希釈について、各菌株に対し同じ接種物源を用い、かつ全ての実験は3回行った。
【0047】
結果の確認
アリシンの存在下で生長が起こった場合、各細菌の各濃縮物(concentration)からの1つの複製を、適切な寒天培地で平板培養し、ブイヨンで生長した細菌を同定して、結果を確認する(SOP NBU/131)。この確認平板でいったん生長が明らかであると、培養物をコロニー形態学に関して評価し、さらなる確認試験としてグラム染色する(SOP NBU/111に従って)。これは適切な方法であり、それは、試験した各細菌が肉眼および顕微鏡の両方で特有の形態を有するからである。
【0048】
静菌または殺菌効果の調査
反復試験で生長がなかった場合、1週間の終りに単一コロニーの培養物を適当な寒天で平板培養する。これは、全ての細菌細胞が死滅する場合に試験アイテムが細菌活性を有しているかどうかを、あるいは細胞が物質の存在下で自己複製できないが、それを除くと生長する場合の静菌活性を決定するためである。他の試験、すなわち、0.5mLのブイヨンを新しい4.5mLのブイヨンに移す場合(1:10希釈の付与)の試験も着手する。ブイヨンになお多少のアリシンが存在するかもしれないが、影響を受けないためにも、生長に十分かつ低い濃度で存在させるべきである。アリシンの非存在下で生長が起こる場合、顕微鏡でブイヨンを調べ、単一コロニーの平板培養を行って、細菌の同一性を確認する。
【0049】
アリシンによる細菌生長の抑制
下記表Iに、生長抑制研究の結果を要約する。
表I:異なる濃度のアリシンによる細菌生長の抑制
【表4】

注)a:弱い生長が見られるが、より低い濃度よりも生長が遅い
【0050】
全ての細菌は、試験アイテムの非存在下で正常に生長し、また最低の試験濃度で正常であった。しかし、P.larvae subsp.larvae は、25ppmのアリシンでは十分には生長できず、生長は上記より高い濃度で完全に妨げられた。他の3つの細菌種は、100ppm以下で生長可能であるが、3ケースとも全て、生長は遅く、かつ最高濃度の強さはなかった。いずれの細菌菌株の場合も250ppmまたは500ppmでの明白な生長はなかった。それぞれの濃度および細菌における3回の反復試験の結果は全て同じで、各ケースで細菌の同一性の確認も成功した。
【0051】
静菌または殺菌効果の調査
アリシンにさらした後の培養物(菌)の生存力の調査結果を、下記表IIに示す。
表II:アリシン存在下で生長しなかった培養菌の寒天培地での生長の調査
【表5】

【0052】
100ppmで少し生長しうる3種を、生存力実験のため平板培養したところ、全て十分に生長し、しかも試験アイテムにさらすことにより生長が拘束されるという徴候はなかった。しかしながら、ブイヨン培養で生長がなかった全てのケースでは、アリシンを加えずに寒天培地で培養物を二次培養した後に生長は見られなかった。全ての培養物を極めて十分に混合してから、平板培養したが、このような少ない接種物の転移(transfer)が生存力のある細胞を捕獲する見込みを減少させる可能性があり、それは、生長がないブイヨン培養においてこのような少数の細菌があるからである。接種物に生存力のある細胞が存在する場合、それらが生長しないという見込みはない。10%接種物を新しい培地に移す場合の試験の結果を、下記表IIIに示す。
【0053】
表III:アリシンの存在下で生長しない培養物のブイヨン生長の調査
【表6】

【0054】
P.alvei および B.laterosporus の場合、新しい培地への二次培養後に生長が起こることから、アリシンは培養物の全ての細菌を死滅させなかった。しかしながら、P.larvae subsp.larvae に関しては異なる効果が見られ、それは、同様な転移後にほんの1回の二次培養で生長が見られるからである。この分離菌の同一性を確認するためこれを平板培養すると、それは色が赤であったが、コロニーは大きさやコロニー形態などの他の点で、通常見られるものに類似するようであった。それはまた、顕微鏡で調べると、P.larvae subsp.larvae に似ていた。このため、細菌は変異した可能性があり、これは典型的な結果でなく、特に他の反復試験で生長がないからである。3細菌の全ては、細菌のある種の生活環の相である胞子を形成し、該相は水あるいは栄養素の欠乏といった環境ストレスに細菌が耐えるのを可能ならしめる。
【0055】
多くの胞子は、極度の熱、UV照射および化学消毒薬に対し高い抵抗性を有する。P.alvei および B.laterosporus の培養物は通常、生長力のある細胞に対し大きい数の胞子を示すが、P.larvae subsp.larve 培養物では、この割合はかなり低い。実際に、この細菌の胞子形成を、インビトロで達成するのは難かしいかもしれない。これは、他の結果の説明の助けとなるが、それは、十分に生長しうる2つの細菌がたぶん、接種物に存在する多くの胞子を有したからである。これらは、アリシン(生長力のある細胞にしか影響を及ぼさないと思われる)の存在下では生育しないかもしれないが、このストレスを除去すると、すなわち、それらをアリシンの無い新しいブイヨンに二次培養すると、胞子は生育でき、生長が見られた。はるかに少ない胞子しか P.larvae subsp.larvae 試験培養物に接種されず、このため、この細菌は試験アイテムにさらされ生き残れなかったこともありうる。
【0056】
M.plutonius は胞子を形成せず、このため、この実験でのいずれの生長妨害もたぶん、この細菌に関するアリシンの殺菌効果によるものであろう。しかしながら、さらした後アリシンの非存在下で生長が見られ、これは殺菌効果よりむしろ静菌効果を示す。
これらの細菌に対するアリシンの作用を確認するのにさらなる作業に着手しなければならず、アリシンが殺胞子性であるかあるいは生存力のある細胞のみに影響を及ぼすかを確認できる試験が含まれる。また他の作業でも、該化合物が静菌または殺菌効果を示すかどうかを確認できるが、P.larvae subsp.larvae の場合、殺菌効果が見られると思われる。
【0057】
7.グリコペプチド中間耐性スタフィロコッカス・アウレウスに対するアリシンの有効性:
Staphylococcus aureus は、世界中の多くの地域での共同生活−および病院−後天性感染の最も一般的な原因である。1980年代に、メチシリン耐性 S.aureus(MRSA)が現われ、多くの病院で風土病性になった。バンコマイシンは、一部のMRSAに有効な唯一の抗微生物薬である。1996年に、バンコマイシンに対する感受性の低い最初の S.aureus 菌株(グリコペプチド中間耐性 S.aureus(GISA))が、日本に報告された。1997年までに、米国で最初のGISA菌株が報告され、2003年にはUKの患者が、GISA菌株による感染で死んだ。従って、GISA菌株は重大な罹患率および死亡率の原因となりうる。UKの死亡状態から分離したGISA菌株に対して、液体形状のアリシンを試験した。標準寒天拡散試験で、該菌株は500ppmで37mm(図2の平板2参照)および300ppmで30mmのゾーンをもたらした。従って、GISA菌株は、我々が推奨する局所使用での用量のアリシンに対し十分感受性であった。
【0058】
アリシンのデリバリー(DELIVERY)およびWO02/062416の装置:
アリシンとセルロースのプレパラートを調製するが、この場合共に、医薬的に許容しうる賦形剤を添加および無添加であった。標的領域にプレパラートを、WO02/062416のドライスプレー装置でデリバリーする。WO02/062416に、枯草熱の処置のため鼻腔路にセルロースをデリバリーする装置の使用が記載されている。この装置は、個々の患者が標的領域(鼻腔路を含む)にスプレーするアリシン粉末とセルロースの併用を可能にする。このアリシンを標的領域にデリバリーする新規な方法を試験するため、WO02/062416の出願人会社 Nasaleze Ltd.が供給したアリシン粉末とセルロース粉末の混合物について、抗ブドウ球菌活性を調査した。
【0059】
アリシンの細菌に対する生物学的活性は、十分に確証されている。我々の先の特許出願WO03/024437に含まれる研究で、我々は既に、メチシリン耐性 Staphylococcus aureus(MRSA)の一定種が、アリシンに対して例外的に影響されやすいことを示した。
我々はMRSAの影響されやすい菌株を用い、アリシンの異なるバッチが生物学的活性を有するかまたはそうでないかを決定できる新規方法を開発した。
【0060】
選択した作用物質の抗微生物活性を決定するのに有効な試験が幾つかある。拡散試験は、正確に計量した抗微生物薬のまわりの抑制ゾーンを測定することにより、分離菌の感受性を決定する。公知の対照菌株のそれよりも6mm未満で小さい抑制ゾーンは、試験細菌が抗微生物薬に対し刺激に反応することを示唆する。12mmもしくはそれ以下のゾーンサイズは通常、抗生物質耐性を示す。これらのレベルと12mmより大きなゾーンサイズ間の感受性を持つ中間の抗生物質耐性グループもある。
【0061】
材料および方法
細菌:MRSA臨床分離菌UEL301を使用した。アイソセンシテスト(isosensitest)ブイヨン中の一夜ブイヨン培養物を準備した。
培地:アイソセンシテスト寒天(Oxoid Ltd)を使用した。
粉末:Allicin International より供給(Nasaleze Ltd のセルロース粉末+アリシン粉末)
【0062】
方法:
・10cfu/mL含有のブイヨンを、ペプトン水中で調製した。
・各アイソセンシテスト平板に0.2mLを散布した。
・平板を風乾し、平板の中心に6mmウェルをカットした。
・各ウェルに100μgまたは150μgの各粉末を加えた。
・平板を37℃で一夜温置した。
・ウェルのまわりの抑制ゾーンの存在は、生物学的活性の存在を示す。6mmウェル のまわりにゾーンが無いのは(陰性対照の場合と同じ)、生物学的活性なしに相当す る。
【0063】
アリシン粉末とセルロースの用いた比率は、以下の通りである:
アリシン粉末:セルロース粉末=2:1、4:1、6:1および8:1
また試験は、アリシン粉末単独、セルロース粉末単独およびアカシアゴム粉末単独を用いても実施した。アリシン粉末中のアリシン濃度は、名目上250ppmであった。
【0064】
結果:
ゾーンサイズ(mm)の比較(0は6mmウェルサイズを示す)
【表7】

【0065】
アカシアゴム単独は、2または3mmのゾーンをもたらし、最小の殺菌活性を示した。
セルロース粉末単独は、細菌性活性を示さなかった。
このため、上記試験から、MRSA並びにMDRTB(多様薬物耐性結核)、VRSA(バンコマイシン耐性 Staphylococcus aureus)、MRSE(メチシリン耐性 Staphylococcus epidermidis)、PRSP(ペニシリン耐性 Streptococcus pneumoneae)、VRE(バンコマイシン耐性 enterococci)およびVISA(バンコマイシン中間耐性 Staphylococcus aureus)を含む他の多様薬物耐性細菌に対する、幾つかのアリシン/セルロース粉末混合物(WO02/004309の装置または粉末物質のデリバリー用の類似手段によりデリバリーされる)の抗微生物活性が立証される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
(原文に記載なし)
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)リーシュマニア症の処置に、(ii)水生生物種の消毒もしくは殺菌処理に、(iii)動物飼料のための抗微生物薬として、(iv)食物の保存薬として、(v)水の消毒薬もしくは殺菌剤として、(vi)ハチのための駆虫処理もしくは抗菌処理に、または(vii)グリコペプチド中間耐性スタフイロコッカス・アウレウス(Glycopeptide Intermediate Resistant Staphylococcus aureus)の処理用薬剤の製造に用いるアリシンの用途。
【請求項2】
リーシュマニア症の処置に用いる請求項1に記載のアリシンの用途。
【請求項3】
リーシュマニア症の処置用薬剤の製造に用いるアリシンの用途。
【請求項4】
アリシンが薬剤中約5000ppmの濃度で存在する請求項3に記載のアリシンの用途。
【請求項5】
水生生物種の消毒もしくは殺菌処理に用いる請求項1に記載のアリシンの用途。
【請求項6】
水生生物種の消毒もしくは殺菌処理用薬剤の製造に用いるアリシンの用途。
【請求項7】
動物飼料のための抗微生物薬として用いる請求項1に記載のアリシンの用途。
【請求項8】
動物飼料が水飼料であり、アリシンが約500ppmの量で存在する請求項7に記載のアリシンの用途。
【請求項9】
動物飼料が家畜飼料であり、アリシンが1日当り1〜5mg/動物の1日摂取を付与する量で存在する請求項7に記載のアリシンの用途。
【請求項10】
食物の保存薬として用いる請求項1に記載のアリシンの用途。
【請求項11】
アリシンおよび少なくとも1種の食品グレード賦形剤から成る食品保存薬。
【請求項12】
500ppm以下のアリシン濃度を有する請求項11に記載の食品保存薬。
【請求項13】
水の消毒薬もしくは殺菌剤として用いる請求項1に記載のアリシンの用途。
【請求項14】
アリシンおよび食品グレード賦形剤から成る水処理組成物。
【請求項15】
アリシンの含有量が0.5〜2.0%w/vまたはw/w、好ましくは0.9〜1.7%である請求項14に記載の水処理組成物。
【請求項16】
ハチのための駆虫処理もしくは抗菌処理に用いる請求項1に記載のアリシンの用途。
【請求項17】
ハチのための駆虫組成物の製造に用いるアリシンの用途。
【請求項18】
寄生生物が、細菌種および真菌類種から選ばれる請求項16または17に記載のアリシンの用途。
【請求項19】
寄生生物が、ペニバチルス・ラーベ(Paenibacillus larvae)、アスコスフェラ・アピス(Ascosphaera apis)、アスコスフェラ・アグレガタ(Ascosphaera aggregata)、メリソコッカス・プルトニウス(Melissococcus plutonius)およびブレビバチルス・ラテロスポラス(Brevibacillus laterosporus)から選ばれる請求項18に記載のアリシンの用途。
【請求項20】
アリシンおよび医薬的に許容しうる賦形剤から成るハチのための駆虫組成物。
【請求項21】
グリコペプチド中間耐性スタフィロコッカス・アウレウスの処理用薬剤の製造に用いる請求項1に記載のアリシンの用途。

【公表番号】特表2006−525981(P2006−525981A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506068(P2006−506068)
【出願日】平成16年3月29日(2004.3.29)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001408
【国際公開番号】WO2004/084645
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505362610)ストーン・アイランド・ホールディングズ・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】STONE ISLAND HOLDINGS LTD
【Fターム(参考)】