説明

アリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂の製造方法およびその方法により得られるアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂

【課題】アリルエーテル化フェノール類の二量体を主成分とするノボラック型フェノール樹脂を高収率で得ることができる製造方法、及び該製造方法により得られるアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂を提供する。
【解決手段】一般式(I)で表されるアリルーテル化フェノール類を、酸触媒の存在下、アルデヒド類と反応させることによりアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。


(式中、Rがアルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲンを示すか、またはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよく、R、Rは、独立して、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または水素元素を示す。ただし、RはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルエーテル化フェノール類の二量体を主成分とするアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂を高収率で得ることができる製造方法、及びその製造方法により得られるアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂に関するものである。具体的には、オルソ位に置換基を有するアリルエーテル化フェノール類を使用することで、そのアリルエーテル化フェノール類の二量体化を効率的に行うことを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
アリルエーテル化フェノール樹脂は、アリル基の酸化によるエポキシ樹脂の合成原料、クライゼン転移を利用したエポキシ樹脂硬化剤などに使用されている。
【0003】
エポキシ樹脂は、優れた電気的性質と接着力を有しているため、電気・電子分野の種々の用途で使用されている。
近年、電子機器の更なる軽薄短小化、多機能化、半導体の高集積化が著しく加速されており、パッケージをプリント配線板に取り付ける際の実装方式も、従来のピン挿入方式から表面実装方式が主流となっており、使用されるエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型及びビスフェノールF型など液状で低粘度のエポキシ樹脂が使用されている。
【0004】
エポキシ樹脂は一般的にノボラック樹脂とエピハロヒドリンからハロヒドリンエーテルを合成し脱ハロゲン化水素を行い、エポキシ樹脂を得ているが、得られたエポキシ樹脂中に副生成物、脱ハロゲン化水素化工程の未反応部などハロゲン分が多く存在し、ハロゲンが電気・電子部品等の信頼性を低下させる原因となっている。
ハロゲン分を低減し電気・電子部品等の信頼性を改善する目的で、特許文献1に記載のアリルエーテル化されたフェノール樹脂を有機過酸でエポキシ樹脂化することで、ハロゲン分の少ないエポキシ樹脂が合成できることが記載されている。
【0005】
エポキシ樹脂の硬化剤は、フェノール系、アミン系、酸無水物系などがあり、硬化剤によって硬化物の性能が異なるため用途によって硬化剤が使い分けられている。
電気及び電子部品用の封止材の液状エポキシ樹脂組成物で、フェノール系硬化剤は、接着性、耐水性、電気的性能等の物性のバランスが優れているが、液状エポキシ樹脂に配合した際にエポキシ樹脂組成物の粘度が高く流動性が悪い問題がある。
近年、電子機器の更なる軽薄短小化、多機能化、半導体の高集積化が著しく加速されており、パッケージをプリント配線板に取り付ける際の実装方式も、従来のピン挿入方式から表面実装方式が主流となっており、低粘度化されたエポキシ樹脂の硬化剤として種々の提案されており、特許文献2、3に記載のアリルエーテル化ノボラックをクライゼン転移させた樹脂を用いることが提案されている。特許文献4ではフェノール性水酸基をアリルエーテル化した化合物とエポキシ樹脂と配合したエポキシ樹脂組成物が提案されている。
【0006】
アリルエーテル化フェノール類の二量体は、大過剰のフェノール類とアルデヒド類とを酸触媒の存在下に付加縮合して製造されたフェノール類の二量体と塩化アリルなどのハロゲン化アリル、及び酢酸アリル等のアリル化カルボン酸を反応させる、又はフェノール類をハロゲン化アリル、及び酢酸アリル等のアリル化カルボン酸を反応させ、得られたアリルエーテル化フェノール類とアルデヒド類を酸触媒の存在下に付加縮合させることにより得られる。
【0007】
フェノール類の二量体は大過剰のフェノール類とアルデヒド類を反応させることにより得られるが、未反応フェノール類は減圧下で蒸留により除去されることになるため、収率の低下が避けられない。
特許文献5ではフェノール類1モルに対して0.33モル以上、0.40モル未満のアルデヒド類をリン酸の存在下で反応する方法が示されている。
フェノール類、アルデヒド類、及びリン酸から形成される二層分離状態で反応することによりフェノール類の二量体を主成分とするフェノール樹脂が得られるとの記載があるが、特許文献5の実施例でオルソクレゾールの二量体が80%と二量体が主成分ではあるが、収率が使用したオルソクレゾールに対して60%と低く効率よく樹脂が得られていない。
このようなフェノール類の二量体を主成分とするフェノール樹脂は収率が低く、更にそのフェノール樹脂をアリル化するため効率が悪い。
【0008】
また、2,6−置換フェノール類、2,4−置換フェノール類は高収率で二量体を得ることが出来るがアリルエーテル化フェノール類がクライゼン転移しないためエポキシ樹脂硬化剤として使用することができない。
【0009】
特許文献6ではアリルエーテル化したフェノール類を酸触媒存在下、有機酸を溶媒として反応することにより高収率でポリアリルエーテルが得られるが、分子量が大きくアリルフェノール類の二量体を主成分とする樹脂ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭59−66414号公報
【特許文献2】特許第3633674号公報
【特許文献3】特許第2985700号公報
【特許文献4】特許第3350975号公報
【特許文献5】特許第3950079号公報
【特許文献6】特開昭59−168019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アリルエーテル化フェノール類の二量体が主成分であるノボラック型フェノール樹脂を得るためには過剰のフェノール類とアルデヒド類とを反応させた後、未反応のフェノール類を除去した後アリルエーテル化をする、又は過剰のアリルエーテル化フェノール類とアルデヒド類を反応させた後、未反応のアリルエーテル化フェノール類を除去するなど、未反応のフェノール類またはアリルエーテル化フェノール類を大量に除去する必要があり効率がわるい。
【0012】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、アリルエーテル化フェノール類の二量体を主成分とするノボラック型フェノール樹脂を高収率で得ることができる製造方法、及び該製造方法により得られるアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、特定の構造を有するフェノール類をアリルエーテル化しアルデヒド類と酸触媒の存在下、反応させることによって、前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0014】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
一般式(I)で表されるアリルエーテル化フェノール類とアルデヒド類を、酸触媒の存在下で反応させる、アリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂の製造方法である。
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Rが炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、ハロゲンを示すか、またはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよく、R、Rは、独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、または水素元素を示す。ただし、RはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよい。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、未反応のアリルエーテル化フェノール類の単量体含有量が少なく、アリルエーテル化フェノールの二量体を高い割合、つまりゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるチャートの面積比でアリルエーテル化フェノール類の二量体を70%以上で含むアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂を得ることができる。また、本発明で得られるアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂は、フェノール類の単量体含量が少ないため作業効率や生産性が高く、さらにハロゲン含量が少なく、エポキシ樹脂の材料、エポキシ樹脂の硬化剤として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1におけるアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂AのGPCチャートである。
【図2】比較例1におけるアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂GのGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明で使用するアリルエーテル化フェノール類は、一般式(II)で表されるオルソ位の一つが置換されたフェノール類とハロゲン化アリルをアルカリ存在下で反応させてえることができる。また、特許第3819426号公報に記載されている様にフェノール類とカルボン酸アリルまたは炭酸アリルを、錯化剤、遷移金属触媒およびアルカリ存在下で反応させてアリルエーテル化フェノール類を得ることもできる。得られたアリルエーテル化フェノール類とアルデヒド類を反応させることによりアリル化フェノール類の二量体を主成分とする樹脂を得る。
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、Rが炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、ハロゲンを示すか、またはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよく、R、Rは、独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、または水素元素を示す。ただし、RはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよい。)
【0022】
は、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、ハロゲンを示すか、またはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよい。具体的には、炭素数1〜10のアルキル基としてメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、s−ペンチル基、t−ペンチル基、ヘキシル基、s−ヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基等が挙げられる。炭素数2〜10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、イソペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、トルイル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基等が上げられる。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。R、Rおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての形成する縮合環としては2環式の縮合環が挙げられる。Rとして、原料入手の観点等から、好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、フェニル基、R及びフェノールのベンゼン環と形成する2環式の縮合環である。さらに好ましくは、メチル基、エチル基、アリル基、フェニル基、R及びフェノールのベンゼン環と形成する2環式の縮合環である。
【0023】
、Rは、独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、または水素元素を示す。具体的な、RおよびRの炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基およびアリール基は上記Rの場合と同様である。好ましくは、炭素数1〜5のアルキル基または水素原子であり、最も好ましくは、メチル基または水素原子である。なお、Rは、R及びフェノールのベンゼン環と2環式の縮合環を形成してもよい。
【0024】
一般式(II)で表されるオルソ置換フェノール類の具体例としては、オルソクレゾール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、2,3,5−トリメチルフェノール、オルソエチルフェノール、オルソプロピルフェノール、オルソブチルフェノール、オルソオクチルフェノール、オルソノニルフェノール、オルソフェニルフェノール、オルソシクロヘキシルフェノール、オルソクロロフェノール、1−ナフトールなどが挙げられるが、これらに限られない。これらのオルソ置換フェノール類は単独若しくは2種以上を混合して使用することができる。これらのうち、オルソクレゾール、2,3−キシレノール、2,5−キシレノール、1−ナフトールが実用上好ましい。
【0025】
オルソ置換フェノールとハロゲン化アリル類を使用して、アリルエーテル化フェノール類を製造する方法を述べる。
オルソ置換フェノール類と反応させる、ハロゲン化アリル類の具体例としては、塩化アリル、臭化アリル、ヨウ化アリルなどが挙げられるが、これらに限られない。これらのハロゲン化アリル類は、単独若しくは2種以上を混合して使用することができる。
ハロゲン化アリルはオルソ置換フェノール類1モルに対して0.8から1.2モルが好ましいがこれらに限らない。
【0026】
オルソ置換フェノール類とハロゲン化アリル類との反応に用いる、塩基性化合物は水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの水溶液などが挙げられるがこれらに限らない。
反応の際、溶媒を使用することももちろん可能である。溶媒としては、アルコール、ケトン、非プロトン性極性溶媒などが使用することが出来る、具体的には、プロパノール、ブタノール、メチルエチルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどが挙げられるがこれらに限られない。
【0027】
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、オルソ置換フェノール類、塩基性化合物、及び必要に応じて溶媒を仕込み、ハロゲン化アリルを仕込み反応する、このとき反応温度は室温〜150℃の範囲で行うのがよい。150℃を超える温度では部分的にクライゼン転移が起こる可能性があるため好ましくない。反応時間は、特に制限はなく、塩基性化合物、ハロゲン化アリル、溶媒の量および反応温度により調整すればよい。
【0028】
オルソ置換フェノールとカルボン酸アリル類又は炭酸アリル類を使用して、アリルエーテル化フェノール類を製造する方法を述べる。
オルソ置換フェノール類と反応させる、カルボン酸アリル類、炭酸アリル類としては、蟻酸アリル、酢酸アリル、プロピオン酸アリル、炭酸ジアリルなどが挙げられるが、これらに限られない。これらのカルボン酸アリル類、炭酸アリル類は、単独若しくは2種以上を混合して使用することができる。カルボン酸アリルはアリルエーテル化フェノール類1モルに対して0.5から5モルの割合が好ましいがこれらに限らない。
【0029】
オルソ置換フェノールとカルボン酸アリル、炭酸アリルとの反応に用いる塩基化合物として、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の重炭酸塩、炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩、水酸化物などが使用することができる、具体的には炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸カルシウムなどが挙げられるがこれらに限られない。これらの塩基性化合物は、単独もしくは2種類以上を混合して使用することが出来る。
【0030】
オルソ置換フェノールとカルボン酸アリル、炭酸アリルとの反応に用いる触媒の遷移金属類として、ロジウム、ルテニウム、レニウム、パラジウム、イリジジウム、タングステン、モリブテン、クロム、コバルト、白金、ニッケル、銅、鉄を遊離金属または錯体として非酸化状態で、あるいはそれらの塩、たとえばカルボン酸塩、ハロゲン化物、酸化物、硝酸塩または硫酸塩として酸化状態で含有する。好ましい触媒はパラジウム、白金、モリブデン、ニッケルで、遊離金属の場合は、炭素、木炭、活性炭、シリカ、アルミナ、ゼオライト、クレーなどに担持されているのが好ましい。
オルソ置換フェノールとカルボン酸アリル、炭酸アリルとの反応に用いる錯化剤として、トリフェニルホスフィン、トリス−トリルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、ジフェニルホスフィノエタンなどが挙げられるがこれらに限られない。
【0031】
反応の際、溶媒を使用することももちろん可能である。溶媒としては、水、余分量のカルボン酸アリル、アルコール、エーテル、グリコール、グリコールエーテル、ケトン、エステル、非プロトン性極性溶媒、芳香族および脂肪族炭化水素などが使用することができる、具体的には水、酢酸アリル、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、イソプロパノール、t−ブタノール、アセトニトリル、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ニトロメタンなどが挙げられるがこれらに限られない。
【0032】
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、オルソ置換フェノール類、カルボン酸アリル、遷移金属触媒、錯化剤、塩基性化合物、及び必要に応じて溶媒を仕込み反応する、このとき反応温度は50〜150℃の範囲で行うのがよい。50℃未満であると反応の進行が遅く、また150℃を超える温度では部分的にクライゼン転移が起こる可能性があるため好ましくない。反応時間は、特に制限はなく、カルボン酸アリル類、触媒の量および反応温度により調整すればよい。
【0033】
本発明のアリルエーテル化フェノール類と反応させるアルデヒドとしては、ノボラック型フェノール樹脂の製造に使用可能とされているアルデヒド類であれば使用可能である。例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、グリオキザール、クロトンアルデヒドおよびグルタルアルデヒドなどが挙げられるが、これらに限られない。これらのアルデヒド類は単独もしくは2種以上を混合して使用することができる。反応効率の観点から、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドおよびトリオキサンが好ましい。
上記アルデヒド類の使用量は、アリルエーテル化フェノール類の合計量1モルに対して、0.3〜0.6モル、好ましくは0.4〜0.5モルの割合で用いるのが望ましい。アルデヒド類の使用量が0.3モル未満であると、残存するアリルエーテル化フェノール類モノマーが多くなるため効率的でない。一方、アルデヒド類の使用量が0.6モルを超えると、未反応のアルデヒドが多くなるため効率が悪く好ましくない。なお、パラホルムアルデヒドやオリオキサンを使用する場合、これらから生成するホルムアルデヒドの量に換算して上記使用量に対応するようにする。
【0034】
本発明方法に使用される触媒の酸としては、一般的なノボラック樹脂の製造に使用されるものであればよく、例えば、シュウ酸、リン酸、パラトルエンスルホン酸、ホウ酸、硫酸および塩酸などが挙げられ、単独若しくは2種類以上を混合して使用することができる。
触媒の酸の使用量は、アリルエーテル化フェノール類100質量部に対して0.1〜20質量部、好ましくは0.1〜10質量部の割合で用いるのが望ましい。
【0035】
アリルエーテル化フェノール類とアルデヒド類とを反応させる方法には、特に制限はなく、例えば、アリルエーテル化フェノール類、アルデヒド類、触媒の酸を一括で仕込み反応させる方法、またはアリルエーテル化フェノール類、触媒の酸を仕込み、所定の反応温度においてアルデヒド類を添加する方法等が挙げられる。このとき反応温度は30〜150℃の範囲で行うのがよい。30℃未満であると反応の進行が遅く、かつ未反応のフェノール類が残存するため好ましくなく、また150℃を超える温度では部分的にクライゼン転移が起こる可能性があるため好ましくない。反応時間には、特に制限はなく、アルデヒド類、触媒の酸の量および反応温度により調整すればよい。
【0036】
反応の際、有機溶剤を使用することももちろん可能である。有機溶媒としては、プロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノメチルエーテル、ブチレングリコールモノエチルエーテル、ブチレングリコールモノプロピルエーテル等のグリコールエーテル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸プロピル、酢酸ブチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、1,4−ジオキサン等のエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族類等が単独、若しくは二種以上を併用して使用することができる。
前記有機溶媒は、アリルエーテル化フェノール類100質量部に対して、0〜1,000質量部、好ましくは10〜100質量部程度となるように使用することができる。反応後は蒸留により縮合水を除去したり、また、必要に応じて、水洗して残存している触媒の酸を除去してもよい。更に、減圧蒸留或いは水蒸気蒸留を行って未反応のアリルエーテル化フェノール類や未反応アルデヒド類を除去しても良い。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の製造方法によるアリルエーテル化フェノール類の二量体を主成分とするノボラック型フェノール樹脂の実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0038】
得られた樹脂について、下記分析方法で測定した値を以下に示す。まず、得られる樹脂の分析項目、分析方法は以下の通りである。
数平均分子量、重量平均分子量、分散度、二量体含有率
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。
カラム構成は昭和電工(株)製のKF−804を2本用い、溶媒としてテトラヒドロフランを使用し、流量1ml/分、カラム温度40℃、検出器として示差屈折率計で測定した。
分子量はポリスチレン換算、二量体含有率は全ピーク面積中の百分率で算出した。
分散度は重量平均分子量/数平均分子量で算出した。
【0039】
合成例1
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、オルソクレゾール324g、酢酸アリル330g、イソプロピルアルコール150g、5%Pdカーボン粉末(含水品)STDタイプ9g、トリフェニルホスフィン3g、50%炭酸カリウム水溶液870gを仕込み、80℃で7時間反応し、得られた反応液をろ過し、蒸留水で5回洗浄、濃縮してアリルエーテル化オルソクレゾール420gを得た。
【0040】
合成例2
フェノール類としてフェノールを282g使用した以外は合成例1と同様に反応を行い、アリルエーテル化フェノール381gを得た。
【0041】
合成例3
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、2,3−キシレノール366g、塩化アリル230g、ジメチルスルホキシド450g、を仕込み、発熱に注意しながら48%水酸化ナトリウム水溶液285gを仕込み、65℃で10時間反応した、得られた反応液を蒸留水で5回洗浄、濃縮してアリルエーテル化2,3−キシレノール423gを得た。
【0042】
合成例4
フェノール類としてオルソフェニルフェノールを510g使用した以外は合成例3と同様に反応を行い、アリルエーテル化オルソフェニルフェノール567gを得た。
【0043】
合成例5
フェノール類として2−アリルフェノールを477g使用した以外は合成例3と同様に反応を行い、アリルエーテル化2−アリルフェノール563gを得た。
【0044】
合成例6
フェノール類として1−ナフトールを432g使用した以外は合成例3と同様に反応を行い、アリルエーテル化1−ナフトール478gを得た。
【0045】
実施例1
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、合成例1で得られたアリルエーテル化オルソクレゾール148g、85%パラホルム18g、ホウ酸1gおよびシュウ酸1gを仕込み、120℃で13時間反応させた。次いで、純水100gで5回洗浄を行い、ホウ酸およびシュウ酸を除去した。次いで、140℃、50mmHgの減圧下で溜出分を除去し、液状のアリルエーテル化フェノール類の二量体を主成分とする樹脂A140g(収率95質量%)を得た。なお、収率はアリルエーテル化フェノール類の仕込み量に対して得られた樹脂の量を百分率で示した。
得られた樹脂の数平均分子量は205、重量平均分子量は229、分散度は1.12、二量体含有率は88.4%であった。
図1に、樹脂Aのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャートを示す。なお、横軸は溶出時間(分)を示す。図1から樹脂Aは、低分子量の二量体が主生成物であることが分かる。
【0046】
実施例2
アリルエーテル化フェノール類として合成例3で得られたアリルエーテル化2,3−キシレノール162gを使用した以外は実施例1と同様に反応を行い結晶性のアリルエーテル化フェノール樹脂B165g(収率102質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は215、重量平均分子量は226、分散度は1.05、二量体含有率は93.3%であった。
【0047】
実施例3
アリルエーテル化フェノール類として合成例4で得られたアリルエーテル化オルソフェニルフェノール210gを使用した以外は実施例1と同様に反応を行い液状のアリルエーテル化フェノール樹脂C194g(収率92質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は312、重量平均分子量は333、分散度は1.07、二量体含有率は86.3%であった。
【0048】
実施例4
アリルエーテル化フェノール類として合成例5で得られたアリルエーテル化2−アリルフェノール174gを使用した以外は実施例1と同様に反応を行い液状のアリルエーテル化フェノール樹脂D168(収率97質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は318、重量平均分子量は365、分散度は1.15、二量体含有率は81.9%であった。
【0049】
実施例5
触媒としてp−トルエンスルホン酸0.3gを使用した以外は実施例1と同様に反応を行い液状のアリルエーテル化フェノール樹脂E135g(収率91質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は221、重量平均分子量は246、分散度は1.11、二量体含有率は87.5%であった。
【0050】
実施例6
冷却管、攪拌機を備えたフラスコに、合成例6で得られたアリルエーテル化1−ナフトール184g、85%パラホルム18g、ホウ酸1gおよびシュウ酸1gを仕込み、80℃で20時間反応させた。次いで、純水100gで5回洗浄を行い、ホウ酸およびシュウ酸を除去した。次いで、80℃、50mmHgの減圧下で溜出分を除去し、液状のアリルエーテル化フェノール類の二量体を主成分とする樹脂F180g(収率98質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は200、重量平均分子量は221、分散度は1.11、二量体含有率は75.7%であった。
【0051】
実施例7
触媒としてp−トルエンスルホン酸1gを使用した以外は実施例6と同様に反応を行い液状のアリルエーテル化フェノール樹脂G190g(収率103質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は201、重量平均分子量は226、分散度は1.12、二量体含有率は75.3%であった。
【0052】
比較例1
アリルエーテル化フェノール類として合成例2で得られたアリルエーテル化フェノール134gを使用した以外は実施例1と同様に反応を行い液状のアリルエーテル化フェノール樹脂G93g(収率69質量%)を得た。
得られた樹脂の数平均分子量は351、重量平均分子量は485、分散度は1.38、二量体含有率は41.4%であった。
図2に、樹脂Gのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)チャートを示す。図2から樹脂Gは、二量体が主生成物ではないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明はアリルエーテル化フェノール類の二量体を主成分とするアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂を効率良く合成できるため工業的に有用であり、環境に対しても負荷が少ない。
更にフェノールモノマー類をアリルエーテル化するため、フェノール樹脂のアリルエーテル化と異なりハロゲンを用いない製法でのアリルエーテル化はもちろん、ハロゲン化アリルとフェノール類を反応させた場合でも蒸留、再結晶、カラム精製などの通常の手法で容易に精製が可能であるため、電機特性の低下を招くハロゲンの含有量が少ないエポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤となるため、エポキシ樹脂原料、エポキシ硬化剤として電気・電子工業用途向けに非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるアリルエーテル化フェノール類とアルデヒド類を、酸触媒の存在下で反応させる、アリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂の製造方法。
【化1】

(式中、Rが炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、ハロゲンを示すか、またはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよく、R、Rは、独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、または水素元素を示す。ただし、RはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよい。)
【請求項2】
前記一般式(I)で表されるアリルエーテル化フェノール類1モルに対し、アルデヒド類を0.3〜0.6モルの割合で配合する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(I)で表されるアリルエーテル化フェノール類は、一般式(II)のオルソ置換フェノール類とハロゲン化アリルとをアルカリ存在下で反応させて得られるか、または一般式(II)のオルソ置換フェノール類とカルボン酸アリルを遷移金属の存在下で反応させて得られる請求項1または2に記載の製造方法。
【化2】

(式中、Rが炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、ハロゲンを示すか、またはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよく、R、Rは、独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、アリール基、または水素元素を示す。ただし、RはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよい。)
【請求項4】
前記アルデヒド類が、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドまたはトリオキサンから選択される1種または2種以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記Rが炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜5のアルケニル基、フェニル基、R及びフェノールのベンゼン環と形成する2環式の縮合環であり、前記RおよびRが、独立して、炭素数1〜5のアルキル、または水素原子である、ただし、RはRおよびフェノールのベンゼン環と一緒になっての縮合環を形成してもよい、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記一般式(I)で表される化合物が、オルソクレゾール、2,3−キシレノール、オルソフェニルフェノール、2−アリルフェノールおよび1−ナフトールから選択される1種または2種以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法で得られたアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂。
【請求項8】
前記アリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂は、アリルエーテル化フェノール類の二量体がゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析より得られるピーク面積の70%以上を占める、請求項7に記載のアリルエーテル化ノボラック型フェノール樹脂。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−67253(P2012−67253A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215427(P2010−215427)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】