説明

アリルシラン類の製造方法

【課題】本願発明は、単純アルケンとジシランからアリルシラン類を製造することができる方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本願発明は、単純アルケンである1−アルケンおよびジシランをトリフルオロ酢酸パラジウム触媒存在下、酸素雰囲気下で反応させることにより、高い位置選択性でアリルシラン類を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、アルケンとジシランからのアリルシランの新規な製造方法に関する。具体的には、単純アルケンである1−アルケンをアリル化剤として用いて、該1−アルケンとジシランから、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒の存在下、高い位置選択性でアリルシラン類を得る、新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年医薬等を指向した高付加価値の精密化学品の合成に関するファインケミカルズに対する関心が益々高まっている。特に、安価かつ入手可能な化学産業資源(フィードストック)を原料として用いて、有機合成上有用なビルディングブロックを簡便に得る方法が求められている。
【0003】
アリルシラン類は、様々な化学変換が可能な官能基であるアリル基とシリル基とを有する分子であり、そのため天然物化合物の合成をはじめとした有機合成反応に利用されている。例えば、ルイス酸の存在のもと、アリルシラン類を、ケトン、アセタール等の種々の求電子剤と反応させることにより、位置選択的な炭素−炭素結合生成反応が生起する細見−櫻井反応が知られている(非特許文献1を参照)。従って、アリルシラン類は、炭素骨格上にアリル部位を導入する有機合成上有用なビルディングブロックである。
【0004】
これまでに、種々のアリルシランの製造方法が報告されている。しかしながら、従来の製法では、例えばハロゲン化アリルをマグネシウムまたはリチウムなどの化学両論量の金属試薬と反応させ、続いて得られる有機金属アリル化合物をハロシランと反応させてアリルシラン類を製造する方法であり、そのため多量の金属塩が副生するという問題点があった(非特許文献2および特許文献1を参照)。また、別製法として、シリル供給源として天然物の石油などに含まれるジシランを用いた製造法も報告されているが、アリル供給源がアリル酢酸エステルに代表されるエステル基やハロゲンなどの電子吸引性で反応性の高い脱離基を有するアリル化合物に制限されており(非特許文献3を参照)、別途それらアリル化合物を調製する必要があった。よって、アリル供給源として単純アルケンを用いたアリルシラン類の製法が求められていた。
【化1】

【0005】
さらに、パラジウム触媒を用いたこれまでの反応では、ゼロ価のパラジウム種(Pd(0))と活性な二価のパラジウム種(Pd(II))との間のリサイクルに必要な酸化剤として、ヘテロポリ酸などの固体酸を要していた(非特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Hosomi, H. Sakurai, Tetrahedron Lett., 1976, 1295
【非特許文献2】Kirk and Othmer, Encyclopedia of Chemical technology, Vol. 10, 721-734 (1966)
【非特許文献3】Y. Tsuji et al, J. Org. Chem., 61, 5779-5787 (1996)
【非特許文献4】Y. Ishii et al, J. Am. Chem. Soc., 2003, 125, 1476
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−007684号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願発明は、従来反応性が低いと考えられていた単純アルケンである1−アルケンとジシランから、アリルシラン類を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者が鋭意研究した結果、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(OC(=O)CF)を触媒として使用することにより、単純アルケンである1−アルケンを用いて、酸素雰囲気下でジシランと反応させることにより、高い位置選択性で酸化的アリル位シリル化されたアリルシラン類が得られることを見出した。すなわち、本願発明は以下の通りである。
【0010】
[1] 式(I):
【化2】

(式中、
は、無置換または置換のアルキル基、無置換または置換のシクロアルキル基、無置換または置換の飽和へテロシクロアルキル基、無置換または置換のアルケニル基、無置換または置換のアリール基、および無置換または置換のヘテロアリール基からなる群から選ばれ;そして、
nは、1〜15の整数である)
で表される1−アルケン、および
式(II):
【化3】

(式中、
は、無置換のアルキル基または無置換のアリール基からなる群から選ばれる)
で表されるジシランを、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(OC(=O)CF))触媒の存在下、酸素雰囲気下で反応させることによる、
式(III):
【化4】

(式中、R、Rおよびnは前掲のとおりである)
で表されるアリルシラン類の製造方法。
【0011】
[2] Rがn−ヘプチルであって、nが1である、[1]記載の製造方法。
【0012】
[3] Rがメチルである、[1]または[2]記載の製造方法。
【0013】
[4] 式(III)−Aの化合物と式(III)−Bの化合物の生成比率が、約90:10以上である、[1]乃至[3]のいずれか1項記載の製造方法。
【0014】
[5] 触媒量のさらなる酸化剤の存在下で行う、[1]乃至[4]のいずれか1項記載の製造方法。
【0015】
[6] 前記さらなる酸化剤がモリブドバナドリン酸塩である、[5]記載の製造方法。
【0016】
[7] さらに、触媒量の、ケトン、ホスフィンおよびスルホキシドからなる群から選ばれる配位子性化合物の存在下で行う、[1]乃至[6]のいずれか1項記載の製造方法。
【0017】
[8] 前記配位子性化合物が、アセチルアセトンおよびジベンジリデンアセトンからなる群から選ばれる化合物である、[7]記載の製造方法。
【0018】
[9] 式(I)で表される1−アルケンの配合量が、式(II)で表されるジシランの配合量基準で5〜100モル%当量である、[1]乃至[8]のいずれか1項記載の製造方法。
【0019】
本願発明は、さらに下記の態様の発明を提供するものである。
【0020】
[10] トリフルオロ酢酸パラジウム触媒の使用量が、ジシランの配合量基準で約0.1〜0.5モル%当量である、[1]乃至[9]のいずれか1項記載の製造方法。
【0021】
[11] 反応を、室温から使用する反応溶媒の沸点で行う、[1]乃至[10]のいずれか1項記載の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本願発明により、従来、反応性が低いため反応基質として用いることが困難であった単純アルケンを用いて有機合成上有用なアリルシラン類を高い位置選択性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本願発明をさらに詳細に説明する。
(定義)
以下に、本明細書および特許請求の範囲中で使用する用語の定義を示す。特に断らなければ、本明細書中の基または用語について示す最初の定義を、個別にまたは別の基の一部として本明細書中の基または用語に適用する。
【0024】
用語「1−アルケン」とは、式(I):
【化5】

で表される化合物であって、末端の1位に二重結合を有し且つR基で置換された炭化水素基を意味する。
ここで、Rは、以下に定義する、無置換または置換のアルキル基、無置換または置換のシクロアルキル基、無置換または置換の飽和へテロシクロアルキル基、無置換または置換のアルケニル基、無置換または置換のアリール基、および無置換または置換のヘテロアリール基からなる群から選ばれる基である。好ましくは、無置換アルキル基または無置換アルケン基が挙げられる。
また、nは、メチレン炭素部分の数を表すものであって、1〜15の整数を意味し、例えば1〜12の整数、2〜12の整数、1〜10の整数、3〜10の整数が挙げられる。
【0025】
1−アルケンの具体的な例としては、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、4−メトキシ−1−ブテン;4−シクロプロピル−1−ブテン、5−シクロプロピル−1−ペンテン、4−シクロブチル−1−ブテン、4−シクロペンチル−1−ブテン、5−シクロペンチル−1−ペンテン、8−シクロペンチル−1−オクテン、4−シクロヘキシル−1−ブテン、5−シクロヘキシル−1−ペンテン、8−シクロペンチル−1−オクテン、4−シクロヘプチル−1−ブテン、4−(4−メトキシシクロヘキシル)−1−ブテン;3−ピロリジニル−1−プロペン、4−ピラゾリジニル−1−ブテン、5−イミダゾリジニル−1−ブテン、8−モルホリニル−1−デセン、10−ピロリジニル−1−ドデセン、3−キヌクリジニル−1−プロペン、4−(4−エトキシピロリジニル)−1−ブテン;1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,9−デカジエン、1,10−ウンデカジエン、1,11−ドデカジエン;3−フェニル−1−プロペン、4−フェニル−1−ブテン、5−フェニル−1−ブテン、8−フェニル−1−デセン、10−フェニル−1−ドデセン、3−(1−ナフチル)−1−プロペン、3−(2−ナフチル)−1−プロペン、10−(1−ナフチル)−1−ドデセン、4−(4−メトキシフェニル)−1−ブテン(4−アリルアニソール);3−ピリジル−1−プロペン、4−ピリジル−1−ブテン、10−ピリジル−1−ドデセン、3−ピロリル−1−プロペン、4−ピリジル−1−ブテン、4−ピラジニル−1−ブテン、8−ピリミジニル−1−オクテン、4−(4−メトキシピリジル)−1−ブテンなどを挙げられるが、これらに限定されない。1−デセン、1−オクテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1,9−デカジエンなどが好ましい。
【0026】
用語「ジシラン」とは、式(II):
【化6】

で表される化合物であって、HSiSiHで示されるシリコエタン上の全ての水素原子がR基で置換された化合物を意味する。
ここで、Rは、以下に定義する無置換アルキル基または無置換アリール基からなる群から選ばれる。好ましくは、無置換アルキル基である。
【0027】
ジシランの具体的な例としては、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、ヘキサイソプロピルジシラン、ヘキサt−ブチルジシラン、ヘキサフェニルジシランを挙げられ、ヘキサメチルジシランが好ましい。
【0028】
用語「アリルシラン類」とは、式(III):
【化7】

で表される化合物を意味する。式中、R、R、nの定義は前掲の通りである。
ここで、式(III)の化合物は、α−付加物としての式(III)−Aで表される化合物及びγ−付加物としての式(III)−Bで表される化合物を含む。
【0029】
式(III)−Aで表される化合物が優先的に生成する。式(III)−Aの化合物と式(III)−Bの化合物の生成比率は、例えば約90:10以上であって、約95:5以上が好ましい。
【0030】
用語「無置換または置換のアルキル基」とは、炭素数が1〜16個である、直鎖または分枝鎖の炭化水素基を意味する。例えば、炭素数が1〜16個、1〜13個、1〜12個、1〜8個、1〜7個、1〜6個のアルキル基を挙げられる。具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
用語「無置換または置換のシクロアルキル基」とは、炭素数が3〜8個である、環状炭化水素基を意味する。炭素数が5〜8個、5〜7個、5〜6個のシクロアルキル基を挙げられる。具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、およびシクロオクチル基が挙げられるが、これらに限定されない。炭素数が1〜3個の炭素架橋、縮合環(これは、シクロアルキル、飽和へテロシクロ、アリール、ヘテロアリールから選ばれる)、またはスピロ環様式で結合した多環式基(例えば、二環式基)、をも本定義に含む。
【0032】
用語「無置換または置換の飽和へテロシクロアルキル基」とは、少なくとも1つの環内に、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を有する、飽和の環式基を意味する。炭素数が1〜3個の炭素架橋、縮合環(これは、シクロアルキル、飽和へテロシクロ、アリール、ヘテロアリールから選ばれる)またはスピロ環様式、で結合した多環式基(例えば、二環式基)をも本定義に含む。具体例としては、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基等の単環式ヘテロシクロ基;キヌクリジニル基、2−クロマニル基、2−インドリニル基等の二環式ヘテロシクロ;1−アザ[4.5]スピロデカン等のスピロ環などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
用語「無置換または置換のアルケニル基」とは、1個の二重結合を有する炭素数が2〜16個である、直鎖または分枝鎖の炭化水素基を意味する。例えば、炭素数が1〜16個、1〜13個、1〜12個、1〜8個、1〜7個、1〜6個のアルケニル基を挙げられる。末端位に二重結合を有する1−アルケニルが好ましい。具体例としては、エテニル、1−プロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ブテニル、2−メチル−1−ブテニル、3−メチル−1−ブテニル、1−ペンテニル、1−ヘキセニル、1−ヘプテニル、1−オクテニル、1−ノネニル、1−デセニル、1−ウンデセニル、1−ドデセニル、1−トリデセニル、1−テトラデセニル、1−ペンタデセニル、1−ヘキサデセニルなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
用語「無置換または置換のアリール基」とは、芳香族性炭素環式を意味する。縮合環様式で結合した多環式基(例えば、二環式基)をも本定義に含む。具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の単環式アリール基;フェナントリジニル基、6−クロマニル基、5−イソインドリル基等の二環式アリール基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
用語「無置換または置換のヘテロアリール基」とは、適宜1〜5個の置換基を有する、少なくとも1つの環内に、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を有する、芳香族性の環式基を意味する。縮合環様式で結合した多環式基(例えば、二環式基)をも本定義に含む。具体例としては、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、イソチアゾリル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、オキサジアゾリル基、2−オキサアゼピニル基、アゼピニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、トリアゾリル基などの単環式へテロアリール基;および、ベンゾチアゾリル基、ベンゾキサゾリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、キノリニル基、キノリニル−N−オキシド基、イソキノリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾピラニル基、インドリジニル基、シンノリニル基、キノキサリニル基、インダゾリル基、ピロロピリジル基、フロピリジニル基(例えば、フロ[2,3−c]ピリジニル基、フロ[3,1−b]ピリジニル基、またはフロ[2,3−b]ピリジニル基)、ベンジイソチアゾリル基、ベンゾイソキサゾリル基、ベンゾジアジニル基、ベンゾチオピラニル基、ベンゾトリアゾリル基、ベンゾピラゾリル基、ナフチリジニル基、フタラジニル基、プリニル基、ピリドピリジル基、キナゾリニル基、チエノフリル基、チエノピリジル基、チエノチエニル基などの二環式ヘテロアリール基等の二環式アリール基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
用語「アルコキシ基」とは、上記直鎖もしくは分枝鎖のアルキル基が酸素原子に連結した基を意味する。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
前記用語「置換(の)アルキル基」、「置換(の)シクロアルキル基」、「置換(の)飽和へテロシクロアルキル基」、「置換(の)アルケニル基」、「置換(の)アリール基」および「置換(の)ヘテロアリール基」における置換基とは、有機化学分野において電子供与性基として知られる基が挙げられる。例えばアミノ基(これは、アルキル基、アリール基、またはヘテロアリール基でモノ−、ジ−、トリ−置換されたアミノ基を含む)、ヒドロキシ基、アルキル基、およびアルコキシ基からなる群から選ばれる1個以上の基が挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基、アルコキシ基が好ましい。具体例としては、前記アルキル基(例えば、炭素数が1〜6個のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基))、前記アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)などを挙げられる。
【0038】
「置換(の)アルキル基」の具体例としては例えば、1−メトキシエチル、1−エトキシ−n−ブチル、1−ジメチルアミノエチルなどが挙げられる。「置換(の)シクロアルキル基」の具体例としては例えば、4−メチル−1−シクロヘキシル、4−メトキシ−1−シクロヘキシルなどが挙げられる。「置換(の)飽和へテロシクロアルキル基」の具体例としては例えば、4−メチル−1−ピペリジル、2−エチル−4−ピペリジル、4−メトキシ−1−ピペリジル、2−メトキシ−4−ピペリジル、4−ジメチルアミノ−1−ピペリジルなどが挙げられる。「置換(の)アルケニル基」の具体例としては例えば、1−メチル−1−ブテニル、3−メチル−1−ブテニル、1−メトキシ−1−ブテニル、3−メトキシ−1−ブテニル、1−ジメチルアミノ−1−ブテニルなどが挙げられる。「置換(の)アリール基」の具体例としては例えば、2−,3−,4−トリル、3,4−キシリル、メシチル、2−,3−,4−メトキシフェニル、3−メチル−4−メトキシフェニルなどが挙げられる。「置換(の)ヘテロアリール基」の具体例としては例えば、4−メチル−1−ピリジル、4−メチル−2−ピリジル、4−メトキシ−2−ピリジル、4−エトキシ−2−ピリジル、4−ジメチルアミノ−2−ピリジルなどが挙げられる。
【0039】
用語「トリフルオロ酢酸パラジウム」とは、化学式:Pd(OCOCF)で示される二価のパラジウム(Pd(II))の化合物を意味する。当該化合物は、本願発明の製法において触媒として作用する。
【0040】
本願の製法は、酸素雰囲気下で行う。ここで、酸素は、上記のトリフルオロ酢酸パラジウム触媒由来のゼロ価のパラジウム(Pd(0))種を活性種である二価のパラジウム種に戻す(再酸化する)ために作用する。「酸素雰囲気下」とは、常圧(1atm)または加圧条件下(約2〜50atm、約5〜10atm)であることを意味する。
【0041】
「さらなる酸化剤」とは、他の物質を酸化するための物質をいい、具体的には、上記のトリフルオロ酢酸パラジウム触媒由来のゼロ価のパラジウム(Pd(0))種を活性種である二価のパラジウム種に戻す(再酸化する)ための、酸素以外の物質を意味する。具体例としては、塩化銅、酸化銀、ヘテロポリ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。ヘテロポリ酸が好ましい。ここで、ヘテロポリ酸とは、モリブドバナドリン酸(HPMoVと略す(H3+xPMo12−x40・nHO(xは0〜4の整数であり、nは10〜30の整数である)))またはその塩(例えば、NPMoVと略す((NH)PMo40・nHO(nは10〜30の整数である)))を意味し、具体例としては、NPMoV、HPMoV、HPMoV、HPMoVなどを含む。
【0042】
用語「配位性化合物」とは、遷移金属であるパラジウムと配位することが可能な化合物を意味し、ケトン、ホスフィン、およびスルホキシドからなる群から選ばれる化合物、またはそれらの混合物を意味する。ケトンが好ましい。具体例としては、アセチルアセトン、ジベンジリデンアセトン(DBA)、トリフェニルホスフィン、およびジメチルスルホキシド(DMSO)等を挙げられ、アセチルアセトン、ジベンジリデンアセトンが好ましい。
【0043】
本願発明の製造方法を以下に詳しく説明する。
(反応式1)
【化8】

(式中、R、R、およびnは前掲と同じものを意味する)
【0044】
本願発明の製造方法は、上記の反応式1に従って、1−アルケン(I)およびジシラン(II)を、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(O(C(=O)CF))触媒の存在下、酸素雰囲気下で反応させることにより、アリルシラン類((III)−Aおよび(III)−B)を製造することができる。
【0045】
反応基質である、1−アルケン(I)、およびジシラン(II)はいずれも市販されているか、または当該有機化学の分野において知られる方法、或いはこれらに準じた方法により製造することができる。
【0046】
トリフルオロ酢酸パラジウムは、市販されているか、または当該有機金属化学の分野において知られる方法、或いはこれらに準じた方法により製造することができる。
【0047】
1−アルケンの配合量は、ジシランの配合量基準で5〜100モル%当量で使用することができる。例えば、約10〜80モル%当量、約10〜50モル%当量、約20〜約50モル%当量、約20〜約40モル%当量を挙げられる。約40モル%当量が好ましい。
【0048】
トリフルオロ酢酸パラジウム触媒の使用量は、ジシランの配合量基準で約0.01〜0.5モル%当量であり、例えば約0.01〜0.2モル%当量、約0.05〜0.2モル%当量、約0.1〜0.2モル%当量が挙げられ、約0.1モル%当量が好ましい。
【0049】
該さらなる酸化剤の使用量は、ジシランの配合量基準で約0.005〜0.2モル%当量であり、例えば約0.01〜0.2モル%当量、約0.01〜0.1モル%当量、約0.02〜0.05モル%当量が挙げられ、約0.02モル%当量が好ましい。あるいは、当該使用量は、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒の配合量基準で約0.05〜2.0モル%当量であり、例えば約0.1〜2.0モル%当量、約0.1〜1.0モル%当量、約0.2〜0.5モル%当量が挙げられ、約0.2モル%当量が好ましい。
【0050】
該配位性化合物の使用量は、ジシランの配合量基準で約0.01〜0.5モル%当量であり、例えば約0.01〜0.2モル%当量、約0.05〜0.2モル%当量、約0.1〜0.2モル%当量が挙げられ、約0.1モル%当量が好ましい。あるいは、当該使用量は、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒の配合量基準で約0.5〜2.0モル%当量であり、例えば約1.0〜1.5モル%当量、約1.0〜1.2モル%当量が挙げられ、約1.0モル%当量が好ましい。
【0051】
本願発明の反応は有機溶媒中で行なうことが好ましい。反応有機溶媒は特に限定されず、飽和炭化水素(例えば、ペンタン、ヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン)等が挙げられるが、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。芳香族炭化水素が好ましく、例えば、トリフルオロベンゼン、トルエン、メシチレンを挙げられ、トリフルオロベンゼンが好ましい。
【0052】
本願発明の反応は、室温(例えば、約20℃)から高温(例えば、100℃以上)で行なうことができ、通常室温から使用する反応溶媒の沸点であり、室温〜約40℃が好ましい。
【0053】
本願発明の反応は、酸素雰囲気下で行い、常圧(1atm)または加圧容器(例えば、市販のステンレス加圧容器)中での加圧条件(約2〜50atm、約5〜10atm)下で行なうことができ、通常常圧で行なう。
【0054】
また、本願発明の反応時間は、使用する溶媒、反応温度などの反応条件に依存して変わり得るが、数時間〜数日間で完結し、通常6時間〜約24時間で完結し、約12時間〜24時間が好ましい。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本願発明を更に具体的に説明するが、本願発明はこれら実施例に限定されるものではない。化合物の確認は、各種分光学的分析の解析により行なった。具体的には、一次元プロトン、炭素13核磁気共鳴スペクトル(H NMR、13C NMR)およびDEPT(Distorsionless Enhancement by Polarization Transfer)、質量スペクトル(MS)(例えば、ガスクロマトグラフィー質量スペクトル(GC−MS))、赤外線吸収スペクトル(IR)の解析により行った。核磁気共鳴スペクトルには、テトラメチルシランを内部標準として用いた。また、生成物が公知化合物の場合は適宜文献名もあわせて記す。
【0056】
実施例中に用いた以下の略号を説明する。
Meはメチル基を、SiMeはトリメチルシリル基を意味する。1−アルケン、ジシラン、トリフルオロ酢酸パラジウム、モリブドバナドリン酸またはその塩などの試薬は商業主から入手可能であり、あるいは通常の有機合成により製造可能である。
【実施例1】
【0057】
【化9】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.05 mmol, 16.8mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-デセン(20 mmol, 2800mg)、ヘキサメチルジシラン(0.5 mmol, 73.2mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はH-NMR、C-NMR、dept、GC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率58%、選択比 α:γ=95:5)
GC-MS: 212(4%)[M]+,127(1),113(1),99(2),73(100),71(4),43(15)
参考文献:Y Tsuji, et al, Journal of Organic Chemistry, 1993, 58(14), 3607-8.
【実施例2】
【0058】
【化10】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.01 mmol, 33.2mg)、NPMoV(モリブドバナドリン酸)(0.02 mmol, 35.0mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-デセン(20 mmol, 2800mg)、ヘキサメチルジシラン(0.2 mmol, 29.2mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はH-NMR、C-NMR、dept、GC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率65%、選択比 α:γ=95:5)
GC-MS: 212(4%)[M]+,127(1),113(1),99(2),73(100),71(4),43(15)
参考文献:Y Tsuji, et al, Journal of Organic Chemistry, 1993, 58(14), 3607-8.
【実施例3】
【0059】
【化11】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-ヘキセン(20 mmol, 1.6g)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率43%、選択比 α:γ=95:5)
GC-MS: 156(8%)[M]+,113(2),73(100),43(4),29(1)
参考文献:D. A. Evans, et al, Organic Letters, 2006, 8(10), 2071-2073.
【実施例4】
【0060】
【化12】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-ヘプテン(20 mmol, 1.9mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率41%、選択比 α:γ=95:5)
GC-MS: 170(6.5%)[M]+,127(1),97(1),87(1),73(100),43(4)
参考文献:N. G. Bhat et al, Tetrahedron Letters, 2007, 48(24), 4267-4269.
【実施例5】
【0061】
【化13】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-オクテン(20 mmol, 2.2g)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率46%、選択比 α:γ=96:4)
GC-MS: 184(4.7%)[M]+,169(2),113(1),97(1),73(100),43(2),29(2)
参考文献:S. Okamoto, et al, Tetrahedron Letters, 1993, 34(15), 2509-12.
【実施例6】
【0062】
【化14】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-ドデセン(20 mmol, 3.2mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率44%、選択比 α:γ=94:6)
GC-MS: 240(3.5%)[M]+,224(1),127(1),73(100),43(2),29(1)
参考文献:K. Itami, et al, Journal of the American Chemical Society, 2003, 125(20), 6058-6059.
【実施例7】
【0063】
【化15】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-テトラデセン(20 mmol, 3.5mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率43%、選択比 α:γ=95:5)
GC-MS: 268(3%)[M]+,253(2),127(1),99(1),73(100),57(1),43(3),29(1)
参考文献:T. K. Sarkar, et al, Tetrahedron, 46(6), 1990, 1885-98.
【実施例8】
【0064】
【化16】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-ヘキサデセン(20 mmol, 4.4mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率46%、選択比 α:γ=94:6)
GC-MS: 296(2%)[M]+,281(2),127(1),73(100),57(1),43(4),29(1)
【実施例9】
【0065】
【化17】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1,9-デカジエン(20 mmol, 2.9mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率54%、選択比 α:γ=92:8)
GC-MS: 210(1%)[M]+,137(3),73(100),55(1),41(3),27(1)
【実施例10】
【0066】
【化18】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の1-ドデカジエン(20 mmol, 3.3mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率34.6%、選択比 α:γ=89:11)
GC-MS: 238(1%)[M]+,113(1),73(100),55(2),41(4),
参考文献:J.M. Concellon, et al, Synlett, 2007, (1), 75-78.
【実施例11】
【0067】
【化19】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質のアリルベンゼン(20 mmol, 2.3mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率50.8%、選択比 α:γ=>99:-)
GC-MS: 190(12%)[M]+,117(2),73(100),
参考文献:N. Selander, et al., Angewandte Chemie, International Edition, 2010, 49(24), 4051-4053.
【実施例12】
【0068】
【化20】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の4-フェニル-ブテン(20 mmol, 2.6mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率44.6%、選択比 α:γ=92:8)
GC-MS: 204(8%)[M]+,131(3),77(1),73(100),
参考文献:J. M. Concellon, et al., Synlett, 2007, (1) 75-78.
【実施例13】
【0069】
【化21】

フラスコ内に、回転子、トリフルオロ酢酸パラジウム触媒(Pd(OC(=O)CF3)2 (0.1mmol, 33.2mg)を入れ溶媒としてトリフルオロトルエン(1 mL)を加えた。続いて、基質の4-アリルアニソール(20 mmol, 2.5mg)、ヘキサメチルジシラン(1mmol, 146mg)を加えた。最後に、添加剤のアセチルアセトン(0.1 mmol, 10mg)を加えて、酸素雰囲気のもと400C、24時間攪拌を行った。反応終了後、アセトンを加えてクレンチを行った。その後、有機層のみを抽出し、エヴァポレーターで溶媒及び未反応の基質を除去し、展開溶媒としてn-ヘキサンを用いたシリカゲルカラムで副生成物を除去した。最後にクーゲロールで溶媒を除去し、生成物を得た。生成物はGC-MSで同定を行った。定量はGCを用い、内部基準法で行った。
生成物の収率:定量的(GC 収率42.2%、選択比 α:γ=>99:-)
GC-MS: 220(20%)[M]+,189(6),147(5),133(1),107(1),73(100),
参考文献:D. A. Evans,Organic Letters, 2006, 8(10), 2071-2073.
【0070】
以下に、本願反応の種々の反応条件を変えた場合の結果を示す。
反応条件の検討結果を示す。
【化22】

表1
【表1】

【0071】
同様に、Pd触媒および配位性化合物の条件を変えた場合の結果を示す。
【化23】

表2
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0072】
本願発明により、安価かつ入手安価な化学産業資源(フィードストック)である単純アルケンである1−アルケンを原料として用いて、パラジウム触媒存在下、酸素雰囲気下、ジシランとから、アリルシラン類を高い位置選択性で製造することができる。本願発明の製造方法は、金属塩、ハロゲン等の副生成物の発生を伴なわず、また酸化剤として酸素を利用できることから、低環境負荷型反応として有用であり、工業的に利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、
は、無置換または置換のアルキル基、無置換または置換のシクロアルキル基、無置換または置換の飽和へテロシクロアルキル基、無置換または置換のアルケニル基、無置換または置換のアリール基、および無置換または置換のヘテロアリール基からなる群から選ばれ;そして、
nは、1〜15の整数である)
で表される1−アルケン、および
式(II):
【化2】

(式中、
は、無置換のアルキル基または無置換のアリール基からなる群から選ばれる)
で表されるジシランを、トリフルオロ酢酸パラジウム(Pd(OC(=O)CF))触媒の存在下、酸素雰囲気下で反応させることによる、
式(III):
【化3】

(式中、R、Rおよびnは前掲のとおりである)
で表されるアリルシラン類の製造方法。
【請求項2】
がn−ヘプチルであって、nが1である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
がメチルである、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
式(III)−Aの化合物と式(III)−Bの化合物の生成比率が、約90:10以上である、請求項1乃至3のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項5】
触媒量のさらなる酸化剤の存在下で行う、請求項1乃至4のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項6】
前記さらなる酸化剤がモリブドバナドリン酸塩である、請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
さらに、触媒量の、ケトン、ホスフィンおよびスルホキシドからなる群から選ばれる配位子性化合物の存在下で行う、請求項1乃至6のいずれか1項記載の製造方法。
【請求項8】
前記配位子性化合物が、アセチルアセトンおよびジベンジリデンアセトンからなる群から選ばれる化合物である、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
式(I)で表される1−アルケンの配合量が、式(II)で表されるジシランの配合量基準で5〜100モル%当量である、請求項1乃至8のいずれか1項記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−153663(P2012−153663A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15146(P2011−15146)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】