説明

アリル化合物の製造方法

【課題】本発明の課題は、より高い異性化収率を達成できる工業的に有利なアリル化合物の異性化方法を提供することである。
【解決手段】原料アリル化合物を、該アリル化合物に対し0.005〜0.2重量倍のブレンステッド酸の存在下、第8〜10族の遷移金属化合物並びにP−N結合及びP−O結合を有する配位子からなる触媒を用いて異性化し、製品アリル化合物を得ることを特徴とするアリル化合物の製造方法。原料アリル化合物に対し0.01〜0.1重量倍のブレンステッド酸の存在下に、異性化を行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリル化合物の製造方法に関し、より詳細には、アリル化合物を異性化させて新たなアリル化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遷移金属触媒を用いたアリル化合物の変換反応は、様々なアリル化合物を製造できる重要な有機合成反応の一つである。本反応は下記化1に示すように、脱離基Xを有する原料アリル化合物が、遷移金属触媒と反応してπ−アリル中間体を形成し、更にこのπ−アリル中間体と求核剤が反応して新たな生成物アリル化合物を生成する。本反応(下記化1)は脱離基と求核剤が同一の置換基でも進行し、この場合には異性化反応となる。
【0003】
【化1】

【0004】
アリル化合物の一つである1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、ポリエステルやテトラヒドロフランの原料として需要の高い1,4−ブタンジオールの中間体である。この1,4−ジアセトキシ−2−ブテンは、例えばパラジウム触媒を用いたブタジエンのジアセトキシ化反応により製造することが可能である。このジアセトキシ化反応後、得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを水素化、加水分解し、1,4−ブタンジオールへと変換する技術が確立されている。しかしながら、このような共役ジエン類のジアセトキシ化反応は、アセトキシ基が付加する位置の選択率を完全に制御することが困難であり、1,4−ブタンジオールへと変換できない3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが副生する。そのため、該3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのような需要の少ないアリル化合物を、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンのような需要の多いアリル化合物へと異性化する技術は、工業的に確立することが望まれている。
【0005】
そのため、既にアリル化合物の異性化反応が開発されてきた。特開2002−121171号公報では少なくとも1つのリン−窒素結合を有するリン化合物を含む触媒を用いて異性化反応が達成されている。また、WO2004/078766号公報では、ホスフォラアミダイト配位子を有する触媒がアリル置換反応において有効であることが報告されている。しかしながら、パラジウムなどの高価な遷移金属触媒を用いる反応を工業的に実施する場合、使用する触媒金属量の低減化がプロセス競争力の向上のために必要である。そのため、触媒の活性の向上を達成することができれば、より安価な触媒反応プロセスが可能となる。従って、効率の高い新たなアリル化合物の異性化方法の開発が求められていた。
【特許文献1】特開2002−121171号公報
【特許文献2】WO2004/078766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、より高い異性化収率を達成できる工業的に有利なアリル化合物の異性化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、第8〜10族の遷移金属化合物並びにP−N結合及びP−O結合を有する配位子からなる触媒を用いて、アリル化合物に対し0.005〜0.2重量倍のブレンステッド酸の存在下に異性化反応を行うことで、触媒使用量を大幅に削減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の要旨は下記(1)〜(5)に存する。
【0008】
1) 下記一般式(a)で表されるアリル化合物を、該アリル化合物に対し0.005〜0.2重量倍のブレンステッド酸の存在下、第8〜10族の遷移金属化合物並びにP−N結合及びP−O結合を有する配位子からなる触媒を用いて異性化し、下記一般式(b)で表されるアリル化合物を得ることを特徴とするアリル化合物の製造方法。
【0009】
【化2】

【0010】
(上記一般式(a)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれ、Xは電子吸引基を表し、上記一般式(b)中、R〜R及びXは、上記一般式(a)におけるR〜R及びXと同一である。但し、上記一般式(a)で表されるアリル化合物と上記一般式(b)で表されるアリル化合物とは、同一の化合物を表さない。)
(2) 配位子が複座のホスフォラアミダイトであることを特徴とする上記(1)に記載のアリル化合物の製造方法。
(3) 一般式(a)で表されるアリル化合物が3,4−ジアセトキシアリル化合物であり、一般式(b)で表されるアリル化合物が1,4−ジアセトキシアリル化合物であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のアリル化合物の製造方法。
(4) 第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒を用いたブタジエンのジアセトキシ化反応により製造した1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含む液を蒸留し、塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を得、塔上部から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を抜き出し、得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液中の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対し0.005〜0.2重量倍のブレンステッド酸の存在下、第8〜10族の遷移金属化合物並びにP−N結合及びP−O結合を有する配位子からなる触媒を用いて1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化し、得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を、蒸留により塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を、塔上部から未反応の3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を抜き出し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化する工程にリサイクルする1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの製造方法。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の製造方法で得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを水素化し、更に加水分解して1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを製造する方法。
本発明は回分、半回分、連続方式のいずれの形式にも使用することができる。以下、その詳細について説明する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、アリル化合物を効率良く、工業的に有利に異性化できる方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に使用可能な原料アリル化合物は、置換基を有していても良いアリル基に、Xで表される脱離基が結合した下記一般式(a)で表される化合物である。
【0013】
【化3】

【0014】
脱離基Xは通常、電子吸引性置換基であり、アリル化反応により脱離する原子または原子団である。上記一般式(a)において、R〜Rはアリル基に結合を有する置換基を表し、例えばR〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれる。なお、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基は置換機を有していてもよい。Xの具体例としてはアシロキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子が挙げられる。これらの原料アリル化合物は単独で用いても数種類の混合物として用いても良い。
【0015】
一般式(b)で表される生成物アリル化合物は、上記一般式(a)で表される原料アリル化合物の異性化物であり、一般式(b)におけるR〜R及びXは、上記一般式(a)におけるR〜R及びXと同一である。但し、上記一般式(a)で表されるアリル化合物と上記一般式(b)で表されるアリル化合物とは、同一の化合物を表さない。例えば、R、R、R及びRが同一の基を表す場合は上記一般式(a)で表されるアリル化合物と上記一般式(b)で表されるアリル化合物とが同一の化合物となってしまうので、本発明においてR、R、R及びRが同一の基を表すことはない。
【0016】
具体的な原料アリル化合物の例としては、酢酸クロチル、クロチルフェニルエーテル、クロチルアルコール、クロチルジメチルアミン、塩化クロチル、ブタジエンモノオキシド、シクロペンタジエンモノオキシド、酢酸−2−シクロペンテニル、5−メチル−3−アセトキシシクロヘキセン、2−アセトキシ−5−ヒドロキシ−2,5−ジメチル−3−ヘキセン、酢酸−1−フェニル−1−ブテン−3−イル、酢酸−1−シクロヘキシル−2−ブテン、1,3−ジフェニル−3−ジベンジルアミノ−1−プロペン、1−(4−ブロモフェニル)−3−ブロモ−1−プロペン、酢酸−2−ヘキセニル、2−ドデセニルアルコール、蟻酸ゲラニル、酢酸ゲラニル、酢酸−3−フェニル−2−プロペン、9−フェノキシ−7−ノネン−3−オン酸メチル、酢酸−3−ブテン−2−イル、イソブチル酸−2,4−ヘキサジエニル、酢酸プレニル、2,5−ジヒドロ−5−メトキシ−2−フラノン、2−シクロヘキセニルアルコール、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2,3−ジメチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘキセン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロペンテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロヘプテン、3,4−ジアセトキシ−1−シクロオクテン、マロン酸ジアリルエステル、テレフタル酸ジアリルエステル、フタル酸ジアリルエステルなどを挙げることができる。具体的な生成物アリル化合物は、上記原料アリル化合物を異性化して生成するアリル化合物を挙げることが出来る。
【0017】
上記のアリル化合物のうち、より好ましいものとしては上記一般式(a)におけるR〜Rが、水素原子、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数6〜30のアリール基、Xがアセトキシ基及びヒドロキシ基から選ばれる基である原料アリル化合物が挙げられる。より好ましい上記一般式(a)で表される原料アリル化合物の具体例として、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジヒドロキシ−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−2−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−2−メチル−1−ブテン、3,4−ジアセトキシ−3−メチル−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−3−メチル−1−ブテン、等が好ましく、これに対応する上記一般式(b)で表される生成物アリル化合物として、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジヒドロキシ−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−メチル−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−メチル−2−ブテン、1,4−ジアセトキシ−3−メチル−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブテン等が挙げられる。特に好ましい一般式(a)で表される原料アリル化合物として、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテンが挙げられ、これに対応する一般式(b)で表される生成物アリル化合物として、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテンが挙げられる。
【0018】
本発明において特に好ましい原料アリル化合物である3,4−ジアセトキシアリル化合物は1,4−ジアセトキシアリル化合物とともに、触媒の存在下、共役ジエン類のジアセトキシ化反応などにより製造可能である。
1,4−ジアセトキシアリル化合物及び/又は3,4−ジアセトキシアリル化合物を製造する共役ジエン類のジアセトキシ化反応は様々な方法で実施できる。最も一般的には、パラジウム系触媒の存在下、ブタジエン、酢酸及び酸素を反応させてジアセトキシアリル化合物である1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを得ることができる。またそれらジアセトキシアリル化合物の加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテンなども併せて生成する。該ジアセトキシ化反応で使用可能な共役ジエン類として例えば、ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−シクロペンタジエン、1,3−シクロヘプタジエン、1,3−シクロオクタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエンなどが挙げられ、好ましくはブタジエン、イソプレン、1,3−シクロヘキサジエン、1,3−ジクロペンタジエンであり、特に好ましくはブタジエン、イソプレンである。共役ジエン類のジアセトキシ化反応に用いる触媒としては、共役ジエン類を1,4−ジアセトキシアリル化合物及び/又は3,4−ジアセトキシアリル化合物に変換する能力を有する触媒であれば何でも使用できるが、好ましくは第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒であり、特に好ましくはパラジウム固体触媒である。パラジウム固体触媒は、パラジウム金属またはその塩からなり、助触媒としてビスマス、セレン、アンチモン、テルル、銅などの金属またはその塩の使用が好ましく、特に好ましくはテルルである。そのため、パラジウム及びテルルを活性成分として担持する固体触媒であることが好ましい。該パラジウム固体触媒は、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭、グラファイトなどの担体に担持させて使用することが好ましく、特に好ましくは強度的に優れたシリカである。担体の物性として多孔質が好ましく、特にその平均細孔直径が1nm〜100nmである多孔質が好ましい。担体付触媒の場合、パラジウム金属は通常0.1〜20重量%、他の助触媒金属は0.01〜30重量%の範囲で選定される。
【0019】
本ジアセトキシ化反応は空気、または酸素富加された空気、窒素など不活性ガスで希釈された空気または酸素、あるいは酸素雰囲気下で行なうことが好ましく、酸素濃度は1vol%〜100vol%の範囲で差し支えなく、より好ましくは2vol%〜50vol%であり、特に好ましくは3vol%〜40vol%である。酸素濃度が低すぎると反応速度が低下し、長大な反応器が必要となり、また酸素濃度が高すぎると、爆発、火災などプロセスの危険性が増大する。本反応は気相、液相のいずれでも行なうことができる。反応温度は0℃〜300℃の範囲であり、好ましくは10℃〜250℃、より好ましくは30℃〜200℃の範囲である。反応温度が低すぎると反応速度が低下し、長大な反応器が必要となり、また反応温度が高すぎると、爆発、火災などプロセスの危険性が増大する。反応圧力は大気圧〜50MPaの範囲が好ましく、より好ましくは大気圧〜30MPa、特に好ましくは1MPa〜20MPaである。ジアセトキシ化反応を液相にて行なう場合には、反応に使用する溶媒は反応原料を溶解するものであれば特に制限は無いが、水、または酢酸等のカルボン酸、あるいはブタジエンなど反応原料となる共役ジエン類そのもの、あるいは1,4−ジアセトキシアリル化合物、3,4−ジアセトキシアリル化合物など生成物そのものが好ましい。またn-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタンなどの炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、トリグライムなどのエーテル類、酢酸エチル、酪酸n-ブチルなどのエステル類、アセトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、1,4−ブタンジオールなどのアルコール類なども使用可能である。原料となる共役ジエン類と触媒との重量比は100000000〜1の範囲が好ましく、より好ましくは50000000〜10の範囲であり、特に好ましくは20000000〜100である。重量比が多すぎると反応速度が不充分となり、長大な反応器が必要となり、またこの重量比が小さすぎると触媒コストが増大し、プロセス競争力を失う。
【0020】
本発明は、ブタジエンを、酢酸及び酸素の存在下に触媒によってジアセトキシ化反応させて得られた目的物の1,4−ジアセトキシ−2−ブテンと副生成物の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含む反応生成物から、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを主成分として含有する液を蒸留分離し、続いて本発明の触媒により異性化することで1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを得るプロセスに特に有効である。すなわち、該異性化反応により1,4−ブタンジオール製造プロセスにおける中間体である1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの選択率を改善することで、1,4−ブタンジオールの一貫収率を向上させることができる。
【0021】
本発明における「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」とは、上記触媒によるブタジエンのジアセトキシ化反応後液そのもの、あるいは酢酸、水などの3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも軽沸点の副生物を一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、あるいは3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも高沸点の副生物を一部あるいは全量を蒸留などにより除去したもの、更には軽沸点の副生物及び高沸点副生物の双方を一部あるいは全量を除去したもの等が含まれる。通常、「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」が上記触媒によるブタジエンのジアセトキシ化反応由来の液である場合は、対応する1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを含有している。また3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液は、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンの加水分解物である3−ヒドロキシ−4−アセトキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−3−アセトキシ−1−ブテン及び/又は3,4−ジヒドロキシ−1−ブテンを含有する液でも差し支えなく、更に1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの加水分解物である1−アセトキシ−4−ヒドロキシ−2−ブテン、及び/又は1,4−ジヒドロキシ−2−ブテンを含んでいても差し支えない。
本発明で使用する「3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液」は通常、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン化合物、及び1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、及びそれらよりも軽沸点の成分、高沸点の成分を含有する液を蒸留塔に導入し、塔底より高沸点の成分を含む1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔上部より3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させて得ることができる。この際、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液は塔頂から軽沸点成分とともに抜き出すことも可能であり、また3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を側流から抜き出して、塔頂から軽沸点成分を留出させても差し支えない。なお、本発明における「塔上部」とは、蒸留塔の中段より上を意味し、塔頂抜き出しであっても、上部側流抜きであっても構わない。
【0022】
ここで使用する蒸留塔の蒸留時の圧力は任意に設定することができるが、塔底温度を低くするために、塔頂圧力を1〜760mmHgとすることが好ましい。より好ましくは塔頂圧力が5〜200mmHgであり、特に好ましくは10〜100mmHgの範囲である。この塔頂圧力が低すぎると、圧力を保つために多大なコストが必要となり、また高すぎると蒸留塔塔底の温度が高くなり、蒸気コストの増大となってしまう。
【0023】
塔頂温度は通常0℃〜200℃以下であり、好ましくは20℃〜160℃、より好ましくは40℃〜140℃である。塔頂温度が低すぎると特殊な冷却器が必要となりコスト増加となる。また塔頂温度が高すぎると、塔底温度もより高い温度となるために、蒸気コストの増大、更に塔底での分解反応等が進行してしまう。
還流比は1〜100で差し支えなく、好ましくは1〜10である。還流比が小さすぎると、分離能の悪化を引き起こし、還流比が高すぎると、必要な熱量が増大し、コスト悪化原因となる。
【0024】
塔頂から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させる場合、塔頂の留出量は、蒸留塔へ導入した3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、及び1,4−ジアセトキシ−2−ブテン、及びそれらよりも軽沸点の成分、高沸点の成分を含有する液のうち、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンと軽沸点の成分の合計量を留出させることが望ましい。また側流から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させ、塔頂から軽沸点の成分を留出させる場合には、それぞれ側流から導入液中の3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有量、塔頂から軽沸点の成分の含有量を留出させることが好ましい。蒸留塔物質収支は、蒸留塔の塔底缶出液として1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔頂から軽沸点成分を含む3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを留出させる場合で、単位時間あたりの導入流量重要を100とした場合、単位時間あたりの塔頂留出流量が1〜50、好ましくは5〜30である。その際の塔底からの単位時間あたりの1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液の抜き出し量は50〜99が好ましく、より好ましくは70〜95である。また蒸留塔の塔底缶出液として1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出し、塔頂から軽沸点成分を留出させ、側流から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出させる場合においては、単位時間あたりの導入流量重要を100とした場合、単位時間あたりの塔頂留出流量が0.1〜30であり、好ましくは1〜20である。また側流からの3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液の留出量は0.9〜50が好ましく、より好ましくは2〜30である。また塔底からの1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液の単位時間あたりの抜き出し量は20〜99が好ましく、より好ましくは50〜97である。
【0025】
蒸留塔としては充填塔、棚段塔のいずれもが使用できるが、多段蒸留が好ましい。3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液と1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を分離するには、蒸留塔理論段を3段以上、特に10段〜50段とするのが好ましい。50段を越える蒸留塔は、蒸留塔建設の経済性、運転難易度、及び安全管理のためには好ましくない。また段数が小さすぎると分離が困難となる。 本発明で使用する触媒は、第8〜10族の遷移金属化合物(IUPAC無機化学命名法改訂版(1998)による)並びにP−N結合及びP−O結合を有する配位子からなる遷移金属錯体触媒である。第8〜10族の遷移金属化合物としては、好ましくはルテニウム、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金であり、特に好ましくはパラジウムである。該遷移金属化合物の供給形態としては、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、ハライド塩、有機塩、無機塩、アセチルアセトナト化合物、アルケン配位化合物、アミン配位化合物、ピリジン配位化合物、一酸化炭素配位化合物、ホスフィン配位化合物、ホスファイト配位化合物等が挙げられ、具体的なパラジウム化合物としては、パラジウム金属、酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、ジクロロシクロオクダジエンパラジウム、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、ビス(ジベンジリアセトン)パラジウム、カリウムテトラクロロパラダト、ナトリウムテトラクロロパラダト、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム、その他、カルボキシレート化合物、オレフィン含有化合物、有機ホスフィン含有化合物、アリルパラジウムクロリド二量体等が挙げられ、特に、価格及び取り扱いにおいて酢酸パラジウム、トリフルオロ酢酸パラジウム、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが特に好ましい。
【0026】
本発明において、上述の遷移金属化合物の形態は特に制限されず、単量体、二量体及び/又は多量体であってもかまわない。これらの金属化合物の使用量は、反応原料であるアリル化合物に対して0.001wtppm〜1000wtppmであり、好ましくは0.001〜100wtppm、特に好ましくは0.01〜100wtppmの範囲である。金属濃度が高すぎると、触媒コストが増大してしまい、金属濃度が低すぎると反応速度が低く長大な反応器が必要となってしまう。
【0027】
次に、本発明における「P−N結合及びP−O結合を有する配位子」について説明する。本発明に使用可能な配位子としては、少なくとも一つのP−N及び一つのP−O結合を有する下記一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び(6−1)〜(6−6)で示される化合物が挙げられる。本発明においては、一種又は複数種の配位子を用いてもよい。
【0028】
【化4】

【0029】
【化5】

【0030】
式(1)〜(5)において、X〜X’’’は(X1)〜(X4)から選ばれ、Y〜Y’’’ は(Y1)〜(Y4)から任意に選ぶことができる。(X1)〜(X4)、(Y1)〜(Y4)及び(6−1)〜(6−6)において、R、R’、R〜R50は、それぞれ独立してアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、アリーロキシ基、アルキルアリーロキシ基、アミノ基、又はアリール基を表し、更に置換基を有していても良い。R、R’、R〜R50としてアルキル基を用いる場合、又はアルキル骨格を有する置換基(アルキルアリーロキシ基中のアルキル基等)を用いる場合には、その炭素数は通常1〜20であり、好ましくは1〜14である。その具体例としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等である。また、アルキル基又はアルキル骨格部分は更に置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリ‐ル基、アミノ基、シアノ基、炭素数2〜10のエステル基、ヒドロキシ基、及びハロゲン原子が挙げられる。
【0031】
また、R、R’、R〜R50としてアリール基を用いる場合又はアリール骨格を有する置換基を用いる場合には、その炭素数は通常6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基又はアリール骨格部分は更に置換基を有していても良く、置換基として、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数6〜20のアルキルアリール基、炭素数6〜20のアルキルアリーロキシ基、炭素数6〜20のアリールアルキル基、炭素数6〜20のアリールアルコキシ基、シアノ基、エステル基、ヒドロキシ基およびハロゲン原子が挙げられる。R、R’、R〜R50がアリール基である場合の具体例としてフェニル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2,3‐ジメチルフェニル基、2,4‐ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2‐t‐ブチルフェニル基、2,4−ジ−t−ブチルフェニル基、2−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、4−トリフルオロメチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、4−シアノフェニル基、4−ニトロフェニル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基、及び下記の(C−1)〜(C−8)が挙げられる。
【0032】
【化6】

【0033】
A〜A’’、A〜Aはそれぞれ独立して置換基を有していても良い炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していても良い炭素数6〜30のアリーレン基、又はAr−(Q−Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリーレン基(但しAr及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基を表す)を表す。T〜Tは炭素原子、アルカンテトライル基、ベンゼンテトライル基、又はT−(Q−Tで表される置換基を有していても良い四価の基であり、T及びTはそれぞれ独立してそれぞれ独立して、炭素数1〜10のアルカントリイル基、及び炭素数6〜15のベンゼントリイル基から選ばれる置換基を有していても良い三価の基を表す。Q及びQはそれぞれ独立して、−CR5152−、−O−、−S−、−CO−を表し、nは0又は1であり、R51及びR52は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であり、置換基を有していても良い。
【0034】
またA〜A’’、A〜Aがアルキレン基の場合、例えばテトラメチルエチレン基、ジメチルプロピレン基等が挙げられ、置換基を有しても良いアルキレン基の場合には、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。またA〜A’’、A〜Aが置換基を有していても良いアリーレン基の場合には、例えばフェニレン基やナフチレン基等が挙げられ、置換基として炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0035】
更に、A〜A’’、A〜AがAr‐(Q‐Arなる真中に二価の連結基を有していても良いジアリ‐レン基の場合、Ar及びArはそれぞれ独立して、置換基を有していても良い炭素数6〜18のアリーレン基であり、その炭素数は6〜24、更には6〜16が好ましい。好ましい置換基の具体例として、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、アミノ基、シアノ基、アミド基、トルフルオロメチル基等が挙げられる。
【0036】
またA〜A’’、A〜Aの具体例として、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CH(CH)−CH(CH)−、−CH(CH)CHCH(CH)−、−C(CH−C(CH−、−C(CH−CH−C(CH−、及び下記の(A−1)〜(A−48)が挙げられる。
【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
異性化触媒の配位子を表す式(1)〜(5)及び(6−1)〜(6−6)の化合物の好ましい具体例として、下記の単座配位子(L−1)〜(L−14)及び多座配位子(L−15)〜(L−33)を例示することができ、特に好ましい具体例として、(L−15)〜(L−33)を例示することができる。
【0042】
【化11】

【0043】
【化12】

【0044】
【化13】

【0045】
【化14】

【0046】
【化15】

【0047】
本発明において、配位子の添加量は配位子中のリン原子のモル比が錯体触媒中の遷移金属に対して0.1〜1000が好ましく、より好ましくは1〜100であり、特に好ましくは1〜10である。 本発明における異性化反応を実施する温度は、通常40〜200℃であり、好ましくは80〜180℃、特に好ましくは100℃〜160℃である。反応温度が高すぎると、錯体触媒のメタル化による劣化が進行し、活性の消失が起こり、また反応温度が低すぎた場合には、反応速度が低下し、長大な反応器が必要となってしまう。
【0048】
本発明において異性化反応を実施する圧力は、通常1気圧であるが、減圧下又は加圧下であっても構わない。反応圧力が低すぎると反応温度の低下に伴い触媒活性が低下し、反応圧力が高すぎると反応器コストが増大してしまう。
本発明におけるアリル化合物の異性化反応は、通常液相中で行う。該反応は溶媒の存在下、又は非存在下のいずれでも実施可能であるが、特に、溶媒非存在下においても高い異性化活性を発現することを特徴とする。溶媒を使用する場合、好ましい溶媒として、触媒及び原料化合物を溶解するものであれば使用可能であり特に限定はされない。具体例としては、ジグライム、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、ジアリルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸n−ブチル、γ−ブチロラクトン、ジ(n−オクチル)フタレイト等のエステル類、トルエン、キシレン、ドデシルベンゼン等の芳香族炭化水素類、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類、異性化反応で生成する副生物そのもの、または原料であるアリル化合物そのもの、生成物であるアリル化合物そのもの、原料アリル化合物の脱離基に由来する化合物等が挙げられる。特に好ましい溶媒として、原料であるアリル化合物そのもの、生成物であるアリル化合物そのもの等が挙げられる。溶媒の使用量は特に限定されないが、本発明は主に分子内反応で進行するため、従来と比較してより少ない溶媒量で行うことが望ましい。通常、原料であるアリル化合物の合計重量に対して0〜10重量倍以下、好ましくは0〜5重量倍以下、最も好ましくは0〜1重量倍以下である。溶媒量が多すぎる場合には反応速度が低下する。
【0049】
本発明においては、異性化反応の際に、異性化するアリル化合物に対して0.005〜0.2重量倍のブレンステッド酸を触媒とともに共存させることを必須とする。ブレンステッド酸の量は、好ましくは異性化するアリル化合物の0.005重量倍以上であり、好ましくは異性化するアリル化合物の0.2重量倍以下である。特に好ましくは異性化するアリル化合物の0.01重量倍以上であり、特に好ましくは異性化するアリル化合物の0.1重量倍以下である。ブレンステッド酸の量が少なすぎると分子間反応が起こらず、反応速度が低下し、多すぎると配位子が分解してしまう。
【0050】
本発明で用いるブレンステッド酸は、具体的には蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、メタノール、n−ブタノール、2−エチルヘキサノール等のアルコール類、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸が挙げられ、好ましくは蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸類、より好ましくは酢酸である。
本発明を実施する際の反応方式として、攪拌型の完全混合反応器やプラグフロー型の反応器を用いて、連続方式、半連続方式または回分方式のいずれでも行うことができる。反応器内の気相部は、溶媒、原料化合物、反応生成物、反応副生物、触媒分解物等に由来する蒸気以外は、アルゴンや窒素等の不活性ガスで形成されていることが望ましい。特に空気の漏れ込み等による酸素の混入が触媒劣化、即ちリン化合物の酸化消失の原因となるため、その量を極力低減させることが望ましい。
【0051】
また、異性化反応により得られた生成物アリル化合物と触媒の分離は、慣用の液体触媒再循環プロセスで用いられるあらゆる分離操作を採用することができ、具体的には、単蒸留、減圧蒸留、薄膜蒸留、水蒸気蒸留等の蒸留操作のほか、気液分離、蒸発(エバポレーション)、ガスストリッピング、ガス吸収及び抽出等の分離操作が挙げられる。各分離操作は、各々独立の工程で行ってもよく、2つ以上の成分の分離を同時に行ってもよい。原料アリル化合物やリン化合物、第3級アミン類は、同様の分離方法で回収し、再び反応器にリサイクルすることも可能である。
【0052】
異性化後の反応液は溶媒を蒸留などで除去した後、更に3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液と1,4−ジアセトキシアリル化合物含有液とに分離する。得られた3,4−ジアセトキシアリル化合物含有液はそのまま、あるいは更に蒸留などで精製した後、異性化反応器へとリサイクル使用することが望ましい。また分離して得られた1,4−ジアセトキシアリル化合物含有液は、そのまま、あるいは更なる蒸留などによる精製を経た後、遷移金属触媒存在下、水素化され置換基を有しても良い1,4−ジアセトキシブタン化合物へと変換される。ここで使用する遷移金属触媒は通常の市販の水素化触媒で差し支えないが、好ましくはパラジウムまたはルテニウムなどの貴金属を含有する触媒、あるいはニッケル触媒である。これら水素化触媒の存在下、40〜180℃の温度範囲で、水素と1,4−ジアセトキシアリル化合物含有液とを接触させ、常圧〜15MPaの圧力範囲条件で実施することができる。反応温度が高すぎると触媒劣化が迅速に進行してしまい、温度が低すぎると反応速度が低下してしまう。圧力が低すぎると反応速度が低下してしまい、圧力が高すぎると高価な反応器が必要となってしまう。
【0053】
上記、水素化反応により得られた1,4−ジアセトキシブタン化合物は、酸触媒あるいは塩基性物質により水存在下で、加水分解され1,4−ブタンジオールなどのジオール類へと変換される。好ましくは固体酸触媒であり、特に陽イオン交換樹脂を触媒として使用するのが、加水分解速度が速く、しかもテトラヒドロフランのような副生物が少ないため、好適である。具体的には、スチレンとジビニルベンゼンとの共重合体を母体とするスルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂であり、ゲル型でもポーラス型のいずれでも差し支えない。反応は通常30〜110℃、好ましくは40〜90℃の温度条件にて実施する。温度が低すぎると加水分解速度が低下し、高価で長大な反応器が必要となる。温度が高すぎるとテトラヒドロフランなど副生物が増加して、1,4−ブタンジオールの収率が低下してしまう。水の量は、1,4−ジアセトキシブタン1モルに対し、通常2〜100モル、好ましくは4〜50モルの範囲の量を使用する。水の量が少なすぎると反応速度が低下し高価で長大な反応器が必要となる。また水の量が多すぎると、加水分解後に1,4−ブタンジオールから水を除去する際に多量のエネルギーが必要とされるために、エネルギーコストが増大してしまう。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明の要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの分析は内部標準法によるガスクロマトグラフィーにより行った。その際、内部標準としてn−ドデカンを使用した。
【0055】
<参考例1>
Pd−Te触媒の存在下に、ブタジエン、酢酸、6%酸素/94%窒素混合ガスを流通させ、80℃、6MPaの条件でアセトキシ化反応させて、1,4−ジアセトキシ−2−ブテンが80重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンが9重量%、3−アセトキシ−4−ヒドロキシ−1−ブテン及び4−アセトキシ−3−ヒドロキシ−1−ブテンが計2重量%、酢酸4重量%、その他3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも軽沸分3重量%、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンよりも高沸分2重量%を含む混合液を得た。この混合液5.0kgを回分蒸留にかけ、塔頂部から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を、塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を抜き出した。尚、蒸留は40段のオルダーショウ蒸留塔を使用した。また塔頂圧力は20mmHg、還流比は3、塔頂温度は98〜104℃、塔底温度は140〜160℃の温度範囲において500gの留出液が得られた。塔頂から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を留出液として得た。本留出液中の3,4−ジアセトキシ−1−ブテン組成は75重量%であった。また本留出液の1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有量は1重量%以下であった。
【0056】
<参考例2>
酢酸パラジウム5.0mg及びトリフェニルホスフィン25.0mg を50ccのシュレンク管に入れ、窒素置換後、10ccの脱気したトルエンを加えて120℃で5分間加熱攪拌した。常温まで冷却後、二座ホスフォラアミダイト配位子(L−18)46mgを加え、120℃で10分間加熱した。本液を遷移金属触媒液として以下の異性化反応を行った。
【0057】
<参考例3>
酢酸パラジウム10.0mg及びトリフェニルホスフィン25.0mg を50ccのシュレンク管に入れ、窒素置換後、20ccの脱気したトルエンを加えて120℃で5分間加熱攪拌した。常温まで冷却後、二座ホスフォラアミダイト配位子(L−22)91mgを加え、120℃で10分間加熱した。本液を遷移金属触媒液として以下の異性化反応を行った。
【0058】
<比較例1>
窒素ガス雰囲気下、50ccのガラス製シュレンク管内に、1.5ccの3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを入れ、参考例2で調製したパラジウム触媒液を26μl加え、オイルバスで120℃に昇温した。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は23:77であった。
【0059】
<比較例2>
参考例2で調整したパラジウム触媒液の代わりに参考例3で調製したパラジウム触媒液を用いた以外は比較例1と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は27:73であった。
【0060】
<実施例1>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に0.015ccの酢酸を入れた以外は比較例1と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は35:65であった。
【0061】
<実施例2>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に0.075ccの酢酸を入れた以外は比較例1と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は43:57であった。
【0062】
<実施例3>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に0.15ccの酢酸を入れた以外は比較例1と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は31:69であった。
【0063】
<実施例4>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に0.15ccの酢酸を入れた以外は比較例2と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は48:52であった。
【0064】
<比較例3>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に0.75ccの酢酸を入れた以外は比較例1と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は0:100であった。
【0065】
<比較例4>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に0.75ccの酢酸を入れた以外は比較例2と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は1:99であった。
【0066】
<比較例5>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に1.5ccの酢酸を入れた以外は比較例1と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は0:100であった。
【0067】
<比較例6>
50ccのガラス製シュレンク管内に、更に1.5ccの酢酸を入れた以外は比較例2と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は0:100であった。
【0068】
<比較例7>
テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム50.0mgを50ccのシュレンク管に入れ、窒素置換後、20ccの脱気したトルエンを加えて120℃で5分間加熱攪拌した。本液を遷移金属触媒液として以下の異性化反応を行った。
参考例2で調製したパラジウム触媒液26μlに変えて上記触媒液13μlを用いた以外は実施例2と同様にした。2時間攪拌後、反応後の溶液をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、1,4−ジアセトキシ−2−ブテン(シス体、トランス体の合計)と3,4−ジアセトキシ−1−ブテンのモル比率は0:100であった。
【0069】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a)で表されるアリル化合物を、該アリル化合物に対し0.005〜0.2重量倍のブレンステッド酸の存在下、第8〜10族の遷移金属化合物並びにP−N結合及びP−O結合を有する配位子からなる触媒を用いて異性化し、下記一般式(b)で表されるアリル化合物を得ることを特徴とするアリル化合物の製造方法。
【化1】


(上記一般式(a)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリーロキシ基、アシル基、アシロキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、及びアリールチオ基からなる群から選ばれ、Xは電子吸引基を表し、上記一般式(b)中、R〜R及びXは、上記一般式(a)におけるR〜R及びXと同一である。但し、上記一般式(a)で表されるアリル化合物と上記一般式(b)で表されるアリル化合物とは、同一の化合物を表さない。)
【請求項2】
アリル化合物に対し0.01〜0.1重量倍のブレンステッド酸の存在下に、異性化を行う請求項1に記載のアリル化合物の製造方法。
【請求項3】
配位子が複座のホスフォラアミダイトであることを特徴とする請求項1又は2に記載のアリル化合物の製造方法。
【請求項4】
一般式(a)で表されるアリル化合物が3,4−ジアセトキシアリル化合物であり、一般式(b)で表されるアリル化合物が1,4−ジアセトキシアリル化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアリル化合物の製造方法。
【請求項5】
第8〜10族遷移金属を含有する固体触媒を用いたブタジエンのジアセトキシ化反応により製造した1,4−ジアセトキシ−2−ブテン及び3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを含む液を蒸留し、塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を得、塔上部から3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を抜き出し、得られた3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液中の3,4−ジアセトキシ−1−ブテンを、3,4−ジアセトキシ−1−ブテンに対し0.005〜0.2重量倍のブレンステッド酸の存在下、第8〜10族の遷移金属化合物並びにP−N結合及びP−O結合を有する配位子からなる触媒を用いて1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化し、得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を、蒸留により塔底から1,4−ジアセトキシ−2−ブテン含有液を、塔上部から未反応の3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を抜き出し、3,4−ジアセトキシ−1−ブテン含有液を1,4−ジアセトキシ−2−ブテンに異性化する工程にリサイクルする1,4−ジアセトキシ−2−ブテンの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られた1,4−ジアセトキシ−2−ブテンを水素化し、更に加水分解して1,4−ブタンジオール及び/又はテトラヒドロフランを製造する方法。

【公開番号】特開2007−302597(P2007−302597A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−132035(P2006−132035)
【出願日】平成18年5月10日(2006.5.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】