説明

アリールオキシランの製造方法

【課題】工業的製造に適し、かつ高収率でアリールオキシランを得る方法を提供する。
【解決手段】スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩と原料である下記一般式(2)


(式中、Rは、置換基を有していてよい1〜4個の芳香環又は複素環を有する芳香族基を示す。)で表されるアリールアルデヒドとをアルカリ液下で反応させることにより、下記一般式(3)


(式中、Rは一般式(2)と同様である。)で表されるアリールオキシランを得る、アリールオキシランの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリールアルデヒドから、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩を用いてアリールオキシランを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩を用いて、アルデヒド類をオキシランに導く製造法は種々知られている(例えば非特許文献1〜4参照)。
非特許文献1及び非特許文献2は、水素化ナトリウムの存在下で、アリールアルデヒドとスルホキソニウム塩とを反応させることにより、アリールオキシランを製造する方法を開示している。この方法は、自然発火性物質である水素化ナトリウムを使用する点で好ましくなく、また低温、無水の条件で反応を行うことが必要であり、工業的に使用し難い。
また、非特許文献3は、水酸化ナトリウム水溶液の存在下で、アリールアルデヒドとスルホキソニウム塩とを反応させることにより、アリールオキシランを製造する方法を開示している。この方法は、塩基として安価な水酸化ナトリウム水溶液を使用するが、副反応が起こりやすく収率が低い。
【0003】
この改良法として、非特許文献4は、スルホキソニウム塩としてドデシルスルホニウム塩を用いている方法を開示しているが、この方法は、大過剰量の水酸化ナトリウムを使用しており、工業規模でのアリールオキシラン製造には実用的ではない。
また、特許文献1及び特許文献2は、クロロベンズアルデヒドからスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩を用いて、クロロスチレンオキシドを製造する方法を教えている。
しかし、特許文献1の方法は、塩基として、固体の水酸化カリウムを反応液に投入することが必要であるため、工場規模では作業性が悪く、また非常に大きな溶解熱が生じるため内温の制御が困難である。また、特許文献2の方法は、塩基として水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム水溶液を用いるが、副反応が起こり易く、収率が低い。
【非特許文献1】E.J.Corey,M.Chaykovsky,J.Am.Chem.Soc.,87,1353(1965)
【非特許文献2】E.J.Corey,M.Chaykovsky,Org.Synth.,V,755(1973)
【非特許文献3】Melvin J.Hatch,J.Org.Chem.,34,7,2133(1969)
【非特許文献4】Y.Yano,T.Okonogi,M.Sunaga,W.Tagaki,J.C.S.Chem.Comm.,527(1973)
【特許文献1】特開平2−117630号公報
【特許文献2】特開2004−307368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩を用いてアリールアルデヒドからアリールオキシランを製造する方法であって、工業的製造に適し、かつ高収率でアリールオキシランが得られる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討を行い、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩を予め水と混合した混合物と、アリールアルデヒドと、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム水溶液とを反応させることにより、副生成物の生成を抑えて、アリールオキシランを高収率で製造できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、下記のアリールオキシランの製造方法を提供する。
【0006】
項1. 下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基又はフェニル基を示す。Xはハロゲン原子又はモノメチル硫酸基を示す。nは0又は1を示す。)で表されるスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩と、このスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して0.2〜10倍重量の水とを含有する混合物と、
下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rは、置換基を有していてよい1〜4個の芳香環又は複素環を有する芳香族基を示す。)で表されるアリールアルデヒドと、
水酸化物ナトリウム及び/又は水酸化カリウム水溶液とを反応させることにより、
下記一般式(3)
【化3】

(式中、Rは一般式(2)と同様である。)で表されるアリールオキシランを得る、アリールオキシランの製造方法。
項2. 水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムの使用量が、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して1〜10当量である項1に記載の方法。
項3. 一般式(1)において、R及びRの一方が炭素数1〜3のアルキル基であり、他方が炭素数6〜20の直鎖アルキル基である項1又は2に記載の方法。
項4. 一般式(2)において、Rが、置換基を有していてよい単環の芳香族基、又は置換基を有していてよいベンゼン環だけで環構造を形成している芳香族基である項1〜3のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、副生成物の生成を抑えて、高収率でアリールオキシランを製造することができる。また、塩基として、安価でかつ自然発火性でない水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウム水溶液を使用し、その使用量も少なくて済むため、工業的に実用できる方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアリールオキシシランの製造方法は、下記一般式(1)
【化4】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基又はフェニル基を示す。Xはハロゲン原子又はモノメチル硫酸基を示す。nは0又は1を示す。)で表されるスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩と、このスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して0.2〜10倍重量の水とを含有する混合物と、
下記一般式(2)
【化5】

(式中、Rは、置換基を有していてよい1〜4個の芳香環又は複素環を有する芳香族基を示す。)で表されるアリールアルデヒドと、水酸化物ナトリウム及び/又は水酸化カリウム水溶液とを反応させることにより、
下記一般式(3)
【化6】

(式中、Rは一般式(2)と同様である。)で表されるアリールオキシランを得る方法である。
【0009】
スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩
一般式(1)において、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基又はフェニル基である。アルキル基は分岐鎖又は直鎖の何れであってもよい。特に、R及びRの双方が炭素数1〜20のアルキル基である化合物が好ましい。また、R及びRのアルキル基の少なくとも一方は、炭素数6〜20の直鎖アルキル基であることが好ましく、炭素数8〜16の直鎖アルキル基であることがより好ましく、炭素数10〜14の直鎖アルキル基であることがさらにより好ましく、ドデシル基(C12)であることが最も好ましい。また、R及びRのアルキル基の一方が、炭素数1〜3のアルキル基、特にメチル基であり、他方が、炭素数6〜20の直鎖アルキル基、特に炭素数8〜16の直鎖アルキル基、さらに特に炭素数10〜14の直鎖アルキル基であることが好ましく、ドデシル基(C12)であることが最も好ましい。
【0010】
スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩を用いてアリールアルデヒドからアリールオキシランを製造する方法においては、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩のR及びRのアルキル鎖が短いと、一般に、目的物質であるアリールオキシランの生成速度が遅いため、副生成物の比率が高くなって、収率が低下する。一方、このアルキル鎖が長いと、一般に、反応は速いが、反応液の粘性が高く撹拌効率が低下し副反応が起こりやすくなる。本発明方法では、一般式(1)の化合物のR及び/又はRが上記炭素数のアルキル基である場合に、副生成物の生成が一層少なくなり、一層高い収率でアリールオキシランを製造することができる。
一般式(1)で表されるスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩は、市販のものを利用できるが、例えば市販されていない化合物は、反応系中でスルフィド類又はスルホキシド類とメチル化剤とから生成させ、単離することなくスルホニウム塩又はスルホキシド塩に導くこともできる。
スルフィドとしては、下記一般式(4)
−S−R(4)
(式中、R及びRは、一般式(1)と同様である。)
で表される化合物を使用できる。中でも、入手容易なスルフィドとして、ジメチルスルフィド、n−ブチルメチルスルフィド、n−オクチルメチルスルフィド、n−ドデシルメチルスルフィド、n−ヘキサデシルメチルスルフィド、n−オクタデシルメチルスルフィド及びチオアニソール等が挙げられる。これらのスルフィド類は相当するメルカプタン類のメチル化によって製造できる。
【0011】
スルホキシドとしては、下記一般式(5)
【化7】

(式中、R及びRは、一般式(1)と同様である。)
で表される化合物を使用できる。中でも、入手容易なスルホキシドとして、ジメチルスルホキシド、ドデシルメチルスルホキシド等が挙げられる。
メチル化剤としては、塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、硫酸ジメチルなどを例示することができ、中でも、硫酸ジメチルが好ましい。
【0012】
アリールアルデヒド
一般式(2)で表されるアリールアルデヒド中のRは、置換基を有していてよい1〜4個の芳香環又は複素環を有する芳香族基である。芳香族基の芳香環又は複素環の数は1〜2個が好ましく、1個がより好ましい。このような芳香環又は複素環として、ベンゼン、ナフタレン、ビフェニル、アントラセン、フェナントレン、テトラセン、ピレンのようにベンゼン環だけで環構造を形成している化合物;ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジンのような複素環だけで環構造を形成している化合物;ベンゾチアゾール、ベンゾキサゾール、ベンズイミダゾール、キノリン、キノオキサリン、クロマン、インドール、アントラキノンのようにベンゼン環と複素環とが縮合している化合物などが挙げられる。特に、単環の芳香族基が好ましく、その中でも、環がベンゼン、ピリジン、ピロール、フラン、又はチオフェンである芳香族基がより好ましい。また、ベンゼン環だけで環構造を形成している芳香族基も好ましく、その中でも、環がベンゼン、又はナフタレンである芳香族基がより好ましく、環がベンゼンである芳香族基がさらにより好ましい。
【0013】
置換基としては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜10のフェニルアルキル基、炭素数1〜10のアルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、置換アミノ基、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、アゾ基、アジド基等が挙げられる。
一般式(2)の化合物の好ましい具体例としては、2−クロロベンズアルデヒド、3−クロロベンズアルデヒド、4−クロロベンズアルデヒド、2−メトキシベンズアルデヒド、3−メトキシベンズアルデヒド、4−メトキシベンズアルデヒド、ベンズアルデヒドが挙げられる。
置換基の数は芳香族基の種類によって異なり、特に制限されないが、0〜5個程度であればよい。
アリールアルデヒドの使用量は、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩と等モル程度とすればよいが、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して、50〜150モル%程度であってもよい。
【0014】
溶媒
本発明方法では、必要に応じて溶媒を用いればよい。スルホニウム塩若しくはスルホキソニウム塩、又はスルフィド若しくはスルホキシドが常温で液体である場合は、必ずしも溶媒を用いなくてもよい。
反応溶媒は、反応条件下に不活性なものであればよく、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類;ベンゼン、トルエン、キシレンのような芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、フルオロベンゼン、クロロベンゼンのようなハロゲン化炭化水素類;ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテルのようなエーテル類;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド;アセトニトリル等が挙げられる。溶媒は、単独で又は2種類以上の混合溶媒として使用することができる。
【0015】
水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムの水溶液
水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムの使用量は、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して、約1〜10当量が好ましく、約1〜5当量がより好ましく、約2〜4当量がさらにより好ましい。
水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムの水溶液の濃度は、工業的なアリールオキシランの製造効率の点で、20w/w%以上が好ましく、30w/w%以上がより好ましい。この濃度の上限は通常50w/w%程度である。
【0016】
反応
本発明方法は、先ず、一般式(1)のスルホニウム塩若しくはスルホキソニウム塩(又はスルフィド若しくはスルホキシドとメチル化剤)を必要に応じて溶媒と混合し、さらに水を加えて混合しておく。この混合物に、アリールアルデヒドと、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムの水溶液とを加える。アリールアルデヒドはこの塩基水溶液を加える前に全て加えるか、或いは塩基水溶液と同時に加えればよい。これにより、上記一般式(3)で表されるアリールオキシシランが得られる。
アリールアルデヒド及び塩基水溶液の添加の前に加える水の量は、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して、約0.2〜10倍重量であればよいが、好ましくは約0.5〜5倍重量であり、さらに好ましくは約1〜3倍重量である。
反応は、室温〜100℃程度の温度、約1気圧の圧力の下で行えばよい。反応時間は、アリールアルデヒド及び塩基水溶液を全量添加した後、約30分〜10時間とすればよい。
また、溶媒を使用する場合は、臭化ブチルアンモニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウムなどの相間移動触媒を使用することができる。相間移動触媒の使用量は、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して、約0.001〜1倍モルとすればよい。
【0017】
実施例
以下、実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1
メカニカルスターラーを取り付けた100mLの反応容器に、ヨウ化ジメチルドデシルスルホニウム10.8g(30mmol)、トルエン26g、水5.4g(スルホキソニウム塩に対して0.5倍重量)及び4−メトキシベンズアルデヒド4.1g(30mmol)を加え、45℃で24w/w%水酸化ナトリウム水溶液10g(60mmol)を4時間かけて加えた。さらに3時間撹拌した後、水層を廃棄し有機層を水洗した。トルエンを留去して14.5gの粗品を得た。ガスクロマトグラフによる分析から、4−メトキシスチレンオキシド4.2gが得られていることが分った(収率94%)。また、4−メトキシベンジルアルコールは、目的物に対して0.05%含まれていた。
【0018】
実施例2
メカニカルスターラーを取り付けた200mLの反応容器に、硫酸ジメチル13.6g(108mmol)、ドデシルメチルスルフィド19.5g(90mmol)及びトルエン52gを加え、3時間還流させた。40℃まで冷却後、水15.4g(スルホニウム塩に対して0.5倍重量)、及びベンズアルデヒド9.6g(90mmol)を加えた。同温度で撹拌の下、48w/w%水酸化ナトリウム水溶液15g(180mmol)を3時間かけて加え、さらに2時間撹拌した後、水層を廃棄し有機層を水洗した。トルエンを留去して35.3gの粗品を得た。ガスクロマトグラフによる分析から、目的物が10.1g(収率93%)得られていることが分った。また、ベンジルアルコールは、目的物に対して0.09%含まれていた。
【0019】
実施例3
メカニカルスターラーを取り付けた200mLの反応容器に、15g(69mmol)のドデシルメチルスルフィドと34gのトルエンを仕込み、還流下に9.5g(75mmol)の硫酸ジメチルを滴下し、さらに2時間還流させた。冷却後、0.9g(1.4mmol)の50%臭化テトラブチルアンモニウム水溶液、水26g(スルホニウム塩に対して1.1倍重量)、及び10g(71mmol)の3−クロロベンズアルデヒドを加えた。この混合物に、18g(220mmol)の48w/w%水酸化ナトリウム水溶液を60分かけて滴下し、45℃で2時間撹拌下に反応させた。反応終了後水層を廃棄し、有機層を水洗した。減圧下にトルエンを留去して28.5gの粗品を得た。ガスクロマトグラフによる分析から、目的物が10g(収率91%)得られていることが分った。また副生成物である3−クロロベンジルアルコールが目的物に対して0.11%含まれていた。
【0020】
比較例1
実施例1において、水の量を5.4gから1.08g(スルホニウム塩に対して0.1倍重量)に変更し、他は同様に行った。水酸化ナトリウム水溶液の添加中に反応液の粘度が上昇し、撹拌されにくい状態になった。ガスクロマトグラフによる分析から、目的物が4.0g(収率88%)得られていることが分った。また、ベンジルアルコールは、目的物に対して1.53%含まれていた。
【0021】
比較例2
実施例2において、水の量を15.4gから3.08g(スルホニウム塩に対して0.1倍重量)に変更し、他は同様に行った。水酸化ナトリウム水溶液の添加中に反応液の粘度が上昇し、撹拌されにくい状態になった。ガスクロマトグラフによる分析から、目的物が9.2g(収率85%)得られていることが分った。また、ベンジルアルコールは、目的物に対して2.16%含まれていた。
【0022】
比較例3
特許文献2の実施例2を再現した。
即ち、メカニカルスターラーを取り付けた200mLの反応容器に、15g(69mmol)のドデシルメチルスルフィドと34gのトルエンを仕込み、還流下に9.5g(75mmol)の硫酸ジメチルを滴下し、さらに2時間還流させた。室温まで冷却した後、0.9g(1.4mmol)の50%臭化テトラブチルアンモニウム水溶液を加え、44g(220mmol)の20w/w%苛性ソーダ水溶液を30分かけて滴下した。この時点で反応液の粘度が高くなり、撹拌翼は回転していたが反応液全体としてはほとんど撹拌されていない状態であった。10g(71mmol)の3−クロロベンズアルデヒドを加えて45℃で2時間撹拌下に反応させた。2時間では反応が終了しなかったのでさらに2時間撹拌をした。反応が進行していくと徐々に粘度が低くなり、反応液全体が撹拌されるようになった。反応終了後水層を廃棄し、有機層を水洗した。減圧下にトルエンを留去して27.2gの粗品を得た。ガスクロマトグラフによる分析から、目的物が9.2g(収率84%)、また副生成物である3−クロロベンジルアルコールが目的物に対して2.3%含まれていることが分った。
【0023】
<ガスクロマトグラフィーの条件>
分析機器 : 島津ガスクロマトグラフGC−14A
検出器 : 水素炎イオン化検出器
カラム : ジーエルサイエンス InertCap1701
(内径×長さ×膜厚=0.25mm×30m×1μm)
カラム温度 : 80℃(2分)→5℃/分→240℃(16分)
注入口温度 : 200℃
キャリアガス : 窒素
メイクアップガス: 窒素
注入量 : 1μL
注入方法 : 有機層を採取して分析
【0024】
上記各例の反応条件、目的化合物の収率、及び目的物に対する副生成物(アリールメタノール)の含有量(GCエリア%)を以下の表1に示す。
【表1】

【0025】
スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩を用いてアリールアルデヒドからアリールオキシランを製造する方法において、一般に問題となる副反応は、アリールアルデヒド2分子の不均化によりアリールメタノールとアリールカルボン酸が生成する反応(Cannizzaro反応)であると考えられる。
水の量が少なすぎる比較例1及び比較例2、並びにスルホニウム塩と水とを予め混合しておかなかった比較例3(特許文献2の実施例2を再現したもの)では、目的化合物の収率が低く、また、副生成物であるアリールメタノールが目的化合物に対して1.53〜2.30%も生成した。これに対して、本発明の実施例1〜3では、収率が90%を超え、副生成物の生成量は目的化合物に対して約0.1%以下であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、同一又は異なって、炭素数1〜20のアルキル基又はフェニル基を示す。Xはハロゲン原子又はモノメチル硫酸基を示す。nは0又は1を示す。)で表されるスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩と、このスルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して0.2〜10倍重量の水とを含有する混合物と、
下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rは、置換基を有していてよい1〜4個の芳香環又は複素環を有する芳香族基を示す。)で表されるアリールアルデヒドと、
水酸化物ナトリウム及び/又は水酸化カリウム水溶液とを反応させることにより、
下記一般式(3)
【化3】

(式中、Rは一般式(2)と同様である。)で表されるアリールオキシランを得る、アリールオキシランの製造方法。
【請求項2】
水酸化ナトリウム及び/又は水酸化カリウムの使用量が、スルホニウム塩又はスルホキソニウム塩に対して1〜10当量である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
一般式(1)において、R及びRの一方が炭素数1〜3のアルキル基であり、他方が炭素数6〜20の直鎖アルキル基である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(2)において、Rが、置換基を有していてよい単環の芳香族基、又は置換基を有していてよいベンゼン環だけで環構造を形成している芳香族基である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2009−203202(P2009−203202A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48782(P2008−48782)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】