説明

アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法

【課題】常圧大気中での焼結によっても、高密度の焼結体を実現できるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法を提供する。
【解決手段】一般式AMO(Aはアルカリ金属、MはNbを必須とする遷移金属、Oは酸素)で表わされるニオブ系圧電セラミックスの製造方法において、目的組成に対してアルカリ金属成分を10重量%未満(但し0重量%を除く)減じた組成の粉末を合成し、当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を前記合成粉末に混合し、成形した後、900℃以上1280℃以下の温度で焼成する。このような工程を経ることにより、高密度のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスを常圧大気中での焼結によっても提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アクチュエータやセンサ等に使用される圧電セラミックスとしては、従来、優れた圧電特性を示すチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が最も多く利用されてきた。しかし、近年、環境汚染に対する関心の高まりから、鉛を含まない鉛フリー材料の開発が進められている。PZTに代替し得る鉛フリー圧電材料として、(Na)NbOを主成分とする圧電セラミックス、さらには、(LiNa)NbOを主成分とする圧電セラミックスが報告されている(例えば特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−151796号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】谷順二、高橋弘文、永田肇、柿本健一、和田智志、野口祐二、連川貞弘、古谷克司著、「無鉛圧電セラミックス・デバイス」、養賢堂、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルカリニオブ酸系圧電セラミックスは難焼結性物質であるため、一般に常圧焼結プロセスでは高密度化の達成は容易ではない。冷間等方圧プレス等の特殊な成形法や、ホットプレス法および放電プラズマ焼結法などの特殊な加圧焼結法の適用によって高密度化の達成は可能ではあるが、工業的需要に対して量産性が低いという課題がある。
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、常圧大気中での焼結によっても、高密度の焼結体を実現できるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、一般式AMO(Aはアルカリ金属、MはNbを必須とする遷移金属、Oは酸素)で表わされるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの常圧焼結において、目的組成に対してアルカリ金属成分を減じた組成の粉末を合成し、当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を前記合成粉末に混合して、成形、焼結することにより焼結体密度が向上することを見出した。本発明は、かかる新規な知見に基づいてなされたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、上記したアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法であって、
目的組成に対してアルカリ金属成分を減じた組成の粉末を合成する工程と、
前記合成工程で得られた粉末に当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を混合して焼成する工程と、を有することを第1の特徴とする。
【0009】
この発明によれば、目的組成に対してアルカリ金属成分を減じた組成の粉末を合成し、当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を前記合成粉末に混合して焼結することにより、高密度のアルカリニオブ酸系圧電セラミックス焼結体を常圧焼結によって得ることができる。
【0010】
また、本発明は、上記したアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法であって、
目的組成に対してアルカリ金属成分を10重量%未満(但し0重量%を除く)減じた組成の粉末を合成する工程と、
前記合成工程で得られた粉末に上記減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉末を成形した後、900℃以上1280℃以下の温度で焼成する工程と、を有することを第2の特徴とする。
【0011】
この発明によれば、目的組成に対してアルカリ金属成分を10重量%未満(但し0重量%を除く)減じた組成の粉末を合成し、当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を前記合成粉末に混合して、成形、焼結することにより、高密度のアルカリニオブ酸系圧電セラミックス焼結体を常圧焼結によって得ることができる。
【0012】
なお、上記した第1、第2の特徴において、前記粉末を合成する工程としては、
目的組成に対してアルカリ金属成分を減じた原料粉末を混合する混合工程と、
この混合工程で得られた混合物を600℃以上1000℃以下の温度で仮焼成する仮焼成工程とからなるものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】各焼結体の嵩密度に及ぼす分割混合量の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の圧電セラミックスは、一般式AMOで示されるものである。ここで、Aはアルカリ金属、MはNb(ニオブ)を必須とする遷移金属、Oは酸素を示す。本発明に用いることのできる原料物質は、上記成分元素を含むものであれば特に種類を限定するものではない。
【0015】
これらの原料を用いて、目的組成に対して、アルカリ金属成分を10重量%未満(但し0重量%を除く)減じた組成の粉末を合成する。ただし、この目的組成においては、焼成工程におけるアルカリ金属成分の揮散性等を考慮して調整することが好ましい。すわなち、あらかじめ、焼成工程におけるアルカリ金属成分の揮散等による減少量を調査しておき、目的組成に対して焼成工程における減少量に相当する分量を追加したものを実際の目的組成とするものである。
【0016】
本発明に用いることのできる合成方法は、特に種類を限定するものではない。一般的な例としては、成分元素を含む酸化物や炭酸塩などの固体粉末を混合し、最終焼成温度より低い温度で焼成することにより合成することができる。この焼成温度は、目的組成にも依るが、600℃以上1000℃以下が好ましい。600℃より低いと合成のための反応が十分でなく、1000℃を超えると合成される粉末粒子が粗大となって後工程の焼結の際に焼結性が低下する原因となる。その他の方法としては、各成分の水溶液もしくはアルコキシド原料等を経てセラミックス粉末を合成する方法などがある。
【0017】
前記合成工程で得られた粉末に当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を混合する。ここで用いられるアルカリ金属含有粉末は、当該アルカリ金属の炭酸塩粉末が好適である。当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を混合することにより、最終的に得られる焼結体の化学組成は目的組成と同一になる。以下、この分量を分割混合量と称する。
【0018】
本発明に用いることのできる混合方法は、特に限定するものではない。一般的な例としては、ボールミリングによる湿式混合法を用いることができる。湿式混合法による場合には、水が存在しない条件下で行うことが好ましく、例えば無水アセトン中で行うことが好ましい。原料中の炭酸カリウムが潮解性を有するためである。
【0019】
前記混合工程で得られた混合粉末を目的に応じて成形した後、900℃以上1280℃以下の温度で焼成する。最適な焼成温度は化学組成や目的の圧電特性にも依るが、焼成温度が900℃より低いと焼結が十分でなく、1280℃を超えると組織の粗大化による圧電特性の低下やアルカリ金属成分の揮発による問題が生じる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
純度が99.9%のNaCO粉末、KCO粉末、および、Nb粉末を、目的とするセラミックス組成物(Na0.50.5)NbOの組成に基づいて秤量した。このとき、秤取重量を、焼成工程におけるカリウムの揮散性等を考慮して調整するとともに、NaCO粉末およびKCO粉末については、2重量%それぞれ減じて秤量した。これらの秤取した粉末に酸化ジルコニウム製ボールを加え、アセトンを溶媒としてポリエチレン製のポット内で12時間、ボールミリング湿式混合した(第1混合)。得られた原料混合物を乾燥し、850℃で10時間、大気中で焼成することにより、セラミックス粉末を合成した。このセラミックス粉末に対し、アルカリ金属成分が2重量%に相当する分量のNaCO粉末およびKCO粉末を加え、アセトンを溶媒としてボールミルで24時間混合した(第2混合)。すなわち、本実施例においては、分割混合量は2重量%である。混合後の粉末を乾燥し、ポリビニルブチラールを主成分とするバインダーを添加して造粒を行った。得られた造粒粉末を直径12mmの金型を用いて一軸プレス成形した。この成形体を常圧大気中、焼成温度1082℃で焼成し、焼結体を得た。得られた焼結体の嵩密度は、4.367g/cmであった。
【0021】
この焼結体の両端面を平行研磨した後、両面にAg電極を焼き付け、150℃に加熱したシリコンオイル中で30kV/mmの電界を30分間印加することによって分極処理を施し、その後、電場内で室温まで冷却した。この試料について、圧電定数d33をd33メータを用いて測定した。その結果、この試料の圧電定数d33は、117pC/Nであった。また、電気機械結合係数kを、IEEE規格に基づき、インピーダンス・アナライザ(4294A)を用いて、共振−反共振法により測定した。その結果、この試料の電気機械結合係数kは、0.378%であった。
(実施例2)
分割混合量を5%とした以外は実施例1と同様の方法で焼結体を作製した。得られた焼結体の嵩密度は、4.383g/cmであった。また、この試料の圧電定数d33は125pC/Nであり、電気機械結合係数kは0.424%であった。
(実施例3)
分割混合量を7%とした以外は実施例1と同様の方法で焼結体を作製した。得られた焼結体の嵩密度は、4.367g/cmであった。また、この試料の圧電定数d33は114pC/Nであり、電気機械結合係数kは0.395%であった。
(比較例1)
実施例1〜3と同じ原料粉末を用い、目的とするセラミックス組成物(Na0.50.5)NbOの組成に基づいて秤量した。秤取重量は、焼成工程におけるカリウムの揮散性等を考慮して調整したが、一般的な(Na0.50.5)NbO圧電セラミックスの焼結方法と同様に、NaCO粉末およびKCO粉末については減らさず、全量を混合した。したがって、分割混合量としては、0%に相当する。分割混合量を0%とした以外は実施例1〜3と同様の方法で焼結体を作製した。得られた焼結体の嵩密度は、4.357g/cmであった。また、この試料の圧電定数d33は116pC/Nであり、電気機械結合係数kは0.371%であった。
(比較例2)
分割混合量を10%とした以外は実施例1〜3と同様の方法で焼結体を作製した。その結果、得られた焼結体の嵩密度は、4.356g/cmであった。また、この試料の圧電定数d33は109pC/Nであり、電気機械結合係数kは、0.344%であった。
【0022】
以上の実施例及び比較例において得られた各焼結体の嵩密度を分割混合量の影響として図1に示す。分割混合量を2%、5%、7%としたものでは、分割混合しない0%の場合と比較して焼結体の嵩密度が向上していた。しかし、分割混合量を10%としたものでは、0%の場合と同程度であった。
【0023】
これらの結果から、適正な割合(すなわち10重量%未満)でNaCO粉末およびKCO粉末を分割して仮焼成後に混合することにより、冷間等方圧プレス等の特殊な成形法や、ホットプレス法や放電プラズマ焼結法などの加圧焼結法を適用しなくても焼結性が向上することが示される。
【0024】
なお、原料粉末としてNaCO粉末およびKCO粉末にLiCO粉末を混ぜたものを用いてもよい。この場合、図1に示す特性は、ピークがシフトしたものとなり、分割混合量が10%以上でも高密度の焼結体を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式AMO(Aはアルカリ金属、MはNbを必須とする遷移金属、Oは酸素)で表わされるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法であって、
目的組成に対してアルカリ金属成分を減じた組成の粉末を合成する工程と、
前記合成工程で得られた粉末に当該減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を混合して焼成する工程と、を有することを特徴とするアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法。
【請求項2】
一般式AMO(Aはアルカリ金属、MはNbを必須とする遷移金属、Oは酸素)で表わされるアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法であって、
目的組成に対してアルカリ金属成分を10重量%未満(但し0重量%を除く)減じた組成の粉末を合成する工程と、
前記合成工程で得られた粉末に上記減じた分量のアルカリ金属を含有する粉末を混合する混合工程と、
前記混合工程で得られた混合粉末を成形した後、900℃以上1280℃以下の温度で焼成する工程と、を有することを特徴とするアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法。
【請求項3】
前記粉末を合成する工程は、
目的組成に対してアルカリ金属成分を減じた原料粉末を混合する混合工程と、
この混合工程で得られた混合物を600℃以上1000℃以下の温度で仮焼成する仮焼成工程とからなることを特徴とする請求項1又は2に記載のアルカリニオブ酸系圧電セラミックスの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−236091(P2011−236091A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109830(P2010−109830)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】