説明

アルカリフリー急結剤及びセメント組成物

【課題】 アルカリフリーであって、アルカリ骨材反応の懸念がなく、セメントコンクリートの凝結硬化を促進せしめることができるなどの効果を奏する土木・建築業界において使用されるアルカリフリー急結剤及びセメント組成物を提供すること。
【解決手段】 4A族元素の溶解性化合物とカルシウムアルミネート類とを含有するアルカリフリー急結剤、4A族元素がチタニウム又はジルコニウムである該アルカリフリー急結剤、4A族元素が4価である該アルカリフリー急結剤、さらに、カルシウム化合物及び/又はアルミニウム化合物を含有する該アルカリフリー急結剤、並びに、セメントと該アルカリフリー急結剤とを含有するセメント組成物を構成とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、土木・建築業界において使用されるアルカリフリー急結剤及びセメント組成物に関する。なお、本発明における(部)や(%)は特に規定しない限り質量基準で示す。
【0002】
【従来の技術とその課題】トンネルの吹付け工法等に使用されるセメント急結剤としては、カルシウムアルミネートを主成分とし、その他に、炭酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウムを含有するものなど、これまでに数多く提案された(特公昭56-27457号公報、特公平05-39899号公報、特公平07-68057号公報、特開昭63-206341号公報、及び特開昭63-236741号公報等)。これらのセメント急結剤に含まれる炭酸ナトリウムやアルミン酸ナトリウムはカルシウムアルミネートの反応を助長したり、それ自身がゲル化してごく初期のこわばりを与えるものであり、セメント急結剤には欠くことのできない成分であると考えられている。しかしながら、一方で、ナトリウムなどのアルカリ金属はコンクリート中の骨材と反応し、アルカリシリケートゲルを生成して膨潤し、膨張破壊を招く、いわゆる、アルカリ骨材反応を引き起こすという課題があった。
【0003】そして、アルカリフリーであって、アルカリ金属を含有する急結剤と同等以上の急結性状を有する急結剤の開発が待たれているのが現状である。
【0004】本発明者は、このような状況を鑑み、前記課題を解消すべく種々検討した結果、特定の急結剤がアルカリフリーであって、従来のアルカリ含有のセメント急結剤と同等以上の急結性状を有することを知見し、本発明を完成するに至った。
【0005】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、4A族元素の溶解性化合物とカルシウムアルミネート類とを含有してなるアルカリフリー急結剤であり、4A族元素がチタニウム又はジルコニウムである該アルカリフリー急結剤であり、4A族元素が4価である該アルカリフリー急結剤であり、さらに、カルシウム化合物及び/又はアルミニウム化合物を含有してなる該アルカリフリー急結剤であり、セメントと該アルカリフリー急結剤とを含有してなるセメント組成物である。
【0006】
【発明の実施の形態】以下、本発明をさらに詳しく説明する。
【0007】本発明で使用する4A族元素の溶解性化合物とは、チタニウム、ジルコニウム、及びハフニウムなどの溶解性化合物が挙げられ、固形物でも液状でも使用可能である。4A族元素の溶解性化合物(以下、4A族化合物という)の具体例としては、硫酸チタニウム、塩化チタニウム、臭化チタニウム、ヨウ化チタニウム、及びホウ酸チタニウムなどのチタニウム化合物、硫酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウム、フッ化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウム、及び二塩化酸化ジルコニウムなどのジルコニウム化合物、並びに、二塩化酸化ハフニウムやフッ化ハフニウムなどのハフニウム化合物等が挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上が使用可能である。一方、4A族元素の化合物であっても、二酸化チタニウムや二酸化ジルコニウムなどの酸化物、窒化チタニウムや窒化ジルコニウムなどの窒化物、あるいは、炭化チタニウムや炭化ジルコニウムなどの炭化物に代表される不溶性化合物では、凝結促進効果は得られない。4A族元素は、主に、3価と4価の化合物を形成するが、凝結促進効果が優れることから、4価の化合物が好ましい。その具体例としては、4価の硫酸チタニウム、4価の塩化チタニウム、4価の硫酸ジルコニウム、及び4価の塩化ジルコニウムなどが挙げられ、これらのうちの一種又は二種以上を使用することが好ましく、入手のしやすさから、また、塩素を含まず、鉄筋コンクリートへの利用も可能であるなどの利点があることから、4価の硫酸チタニウムを使用することがより好ましい。4価の硫酸チタニウムには、一般に、TiOSO4・nH2Oで表され、硫酸チタニルとも呼ばれる白色結晶の化合物や、Ti(SO4)2・nH2Oで表され、単に硫酸チタンとも呼ばれる化合物等がある。工業製品としての一般的な硫酸チタニウムは結晶質であって、その組成は、例えば、TiO2分が25〜35%、全H2SO4分が47〜53%、付着硫酸が約10%、付着水分が約10%である。
【0008】本発明で使用するカルシウムアルミネート類(以下、CA類という)とは、CaOとAl2O3を主成分とし、水和活性を有する化合物の総称であり、CaO及び/又はAl2O3の一部が、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、アルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、アルカリ金属硫酸塩、及びアルカリ土類金属硫酸塩等と置換した化合物、あるいは、CaOとAl2O3を主成分とするものにこれらが少量固溶した物質であり、CA類は結晶質、非晶質のいずれであってもよい。結晶質の具体例としては、例えば、CaOをC、Al2O3をA、R2O(Na2O、K2O、Li2O)をRとすると、C3Aやこれにアルカリ金属が固溶したC14RA5、CAやC12A7やC11A7CaF2、C4A・Fe2O3、及びC3A3CaSO4などが挙げられるが、急結性が良好であることから、非晶質のカルシウムアルミネート類が好ましい。なお、本発明はアルカリフリー急結剤に係るものであるが、工業原料からは微量のアルカリ金属が混入し、前記のアルカリ金属を含むCA類が一部生成する可能性があるが、本発明では、これらのわずかなアルカリ金属の存在によって何ら制限を受けるものではない。即ち、ポルトランドセメントと同程度のアルカリ金属酸化物の含有量、具体的には、アルカリ金属酸化物の合計量がアルカリフリー急結剤100部中、2部以下の範囲であれば問題とはならない。また、アルカリ金属であっても、リチウムは、アルカリ骨材反応による膨潤を起こさないばかりか、むしろ、ナトリウムやカリウムにより引き起こされるアルカリ骨材反応による膨潤を抑制する役割を果たすため、その含有量に何ら制限を受けるものではない。CA類は、CaO原料とAl2O3原料、さらに必要に応じて他の原料を配合し、熱処理して得られる。熱処理方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ロータリーキルンや電気炉等を使用する方法が挙げられ、熱処理温度は特に限定されるものではないが、通常、1,000〜1,700℃程度で行われ、1,100〜1,600℃程度で行われることが多い。CA類の粒度は、特に限定されるものではないが、ブレーン比表面積値(以下、ブレーン値という)で3,000〜9,000cm2/gが好ましく、5,000〜8,000cm2/gがより好ましい。3,000cm2/g未満では充分な急結性が得られない場合があり、9,000cm2/gを超えるように粉砕することはコスト高となり好ましくない。
【0009】本発明で使用するカルシウム化合物及び/又はアルミニウム化合物(以下、Ca化合物類という)の具体例としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、及び亜硝酸カルシウムなどのカルシウム化合物、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、亜硝酸アルミニウム、及びオキシ水酸化アルミニウムなどのアルミニウム化合物が挙げられる。本発明では、これらのうちの一種又は二種以上を使用することができるが、塩素を含まず、鉄筋コンクリート構造物への使用も可能である面から、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、亜硝酸カルシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、亜硝酸アルミニウム、及びオキシ水酸化アルミニウムが好ましく、急結性能の面から、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び塩基性硫酸アルミニウムがより好ましい。
【0010】本発明のアルカリフリー急結剤(以下、本急結剤という)は、4A族化合物とCA類、さらに、必要に応じCa化合物類を含有するものである。本急結剤の各成分の配合割合は特に限定されるものではないが、4A族化合物は、通常、本急結剤100部中、5〜30部が好ましく、10〜20部がより好ましい。5部未満では初期の凝結が充分でなく、リバウンドが大きくなる場合があり、30部を超えて使用すると強度発現性が悪くなる場合がある。また、CA類は、通常、本急結剤100部中、40〜80部が好ましく、50〜70部がより好ましい。40部未満では凝結の終結が遅くなる場合があり、80部を超えると強度発現性が悪くなる場合がある。さらに、Ca化合物類は、通常、0〜40部が好ましく、5〜30部がより好ましい。40部を超えて使用すると凝結の始発、終結共に遅くなる場合がある。
【0011】本急結剤の使用量は、セメント100部に対して、3〜15部が好ましく、5〜10部がより好ましい。3部未満では充分な凝結促進効果が得られない場合があり、15部を超えて使用してもさらなる効果の増進が期待できない。
【0012】ここでセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、シリカや高炉スラグなどのポゾラン物質を混合した各種混合セメント、並びに、アルミナセメントなどが挙げられる。
【0013】水の使用量は特に限定されるものではなく、通常の範囲が使用される。具体的には、水/セメント組成物比25〜70%が好ましく、30〜60%がより好ましい。25%未満では充分な作業性が得られない場合があり、70%を超えると充分な強度発現性が得られない場合がある。
【0014】本発明のセメント組成物を使用したセメント混練物の養生方法は、特に限定されるものではなく一般に行われている養生方法が可能である。また、混練方法も、一般に用いられる方法でよく、特に限定されるものではない。
【0015】本急結剤又は本発明のセメント組成物製造時に使用する混合装置としては、既存のいかなる攪拌装置も使用可能であり、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、V型ミキサ、ヘンシェルミキサ、及びナウタミキサなどが使用可能である。また、混合はそれぞれの材料を施工時に混合してもよいし、あらかじめ一部を、あるいは全部を混合しておいても差し支えない。
【0016】本急結剤は、湿式法、乾式法のいずれの吹付工法にも適用可能である。
【0017】本発明では、セメントと本急結剤の他に、砂や砂利等の骨材、補強繊維材、減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、セメント膨張材、防錆剤、防凍剤、ベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土鉱物、並びに、ゼオライト、ハイドロタルサイト、及びハイドロカルマイトなどのイオン交換体等を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0018】
【実施例】以下、実験例により本発明を詳細に説明する
【0019】実験例1表1に示す4A族化合物、CA類■、及びCa化合物類を配合して本急結剤を調製した。セメント100部、砂300部、及び水60部を混練してモルタルを調製した後、調製した本急結剤7部を添加して10秒間混練し混練物を作製し、その凝結時間を測定した。結果を表1に併記する。比較のため4A族化合物として市販の二酸化チタンを使用して同様の実験を行った。結果を表1に併記する。
【0020】<使用材料>4A族化合物A:硫酸チタニル、TiOSO4、市販品4A族化合物B:硫酸チタニウム、Ti(SO4)2換算で25%水溶液、試薬1級4A族化合物C:四塩化チタニウム、試薬1級4A族化合物D:三塩化チタニウム、試薬1級4A族化合物E:硫酸ジルコニウム4水和物、Zr(SO4)2・4H2O、試薬1級4A族化合物F:四塩化ジルコニウム、試薬1級4A族化合物G:二塩化酸化ジルコニウム8水和物、試薬1級4A族化合物H:三塩化ジルコニウム、試薬1級4A族化合物I:4A族化合物A50部と4A族化合物B50部の混合物4A族化合物J:4A族化合物A50部と4A族化合物E50部の混合物4A族化合物K:二酸化チタン、市販品CA類■ :非晶質C12A7、試薬1級の炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、及び二酸化ケイ素を用い、CaO/Al2O3モル比が12/7でSiO2含有量が3%となるように原料を配合し、電気炉で1,600℃で溶融後、急冷して合成、ブレーン値5,500cm2/gCa化合物類イ:水酸化カルシウム、市販品Ca化合物類ロ:無水セッコウ、市販品Ca化合物類ハ:硝酸カルシウム、市販品Ca化合物類ニ:水酸化アルミニウム、市販品Ca化合物類ホ:硫酸アルミニウム18水和物、市販品Ca化合物類ヘ:硝酸アルミニウム、市販品Ca化合物類ト:Ca化合物類イ50部とCa化合物類ホ50部の等量混合物セメント :電気化学工業社製、普通ポルトランドセメント砂 :新潟県姫川産、川砂、比重2.62
【0021】<測定方法>凝結時間 :ASTM C 403に準じて、混練物を迅速に型枠に詰めプロクター貫入抵抗値を測定して凝結時間の始発と終結を測定
【0022】
【表1】


【0023】実験例24A族化合物A20部、表2に示すCA類60部、及びCa化合物類ト20部からなる本急結剤を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
【0024】<使用材料>CA類■ :結晶質C12A7、試薬1級の炭酸カルシウム、及び酸化アルミニウムを用い、CaO/Al2O3モル比が12/7となるように原料を配合し、電気炉で1,400℃で焼成する工程を2回繰り返して合成、ブレーン値5,500cm2/gCA類■ :結晶質C3A、試薬1級の炭酸カルシウムと酸化アルミニウムを用い、CaO/Al2O3モル比が3/1となるように原料を配合し、電気炉で1,400℃で焼成する工程を2回繰り返して合成、ブレーン値5,500cm2/g
【0025】
【表2】


【0026】実験例3比較のために、市販されているアルカリを含有するセメント急結剤と、4A族化合物A20部、CA類■60部、及びCa化合物類ト20部からなる本急結剤(実験No.1-19)の性能比較を実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0027】<使用材料>市販品α :市販のセメント急結剤、アルカリ含有量17%、主成分非晶質カルシウムアルミネート市販品β :市販のセメント急結剤、アルカリ含有量21%、主成分結晶質カルシウムアルミネート
【0028】
【表3】


【0029】実験例44A族化合物A20部、CA類■60部、及びCa化合物類ト20部からなる本急結剤を使用し、セメント100部に対する本急結剤の使用量を表4に示すように変化したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表4に併記した。
【0030】
【表4】


【0031】
【発明の効果】本発明のセメント急結剤はアルカリフリーであって、アルカリ骨材反応の懸念がなく、セメントコンクリートの凝結硬化を促進せしめることができるなどの効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 4A族元素の溶解性化合物とカルシウムアルミネート類とを含有してなるアルカリフリー急結剤。
【請求項2】 4A族元素が、チタニウム又はジルコニウムであることを特徴とする請求項1記載のアルカリフリー急結剤。
【請求項3】 4A族元素が、4価であることを特徴とする請求項1又は2記載のアルカリフリー急結剤。
【請求項4】 さらに、カルシウム化合物及び/又はアルミニウム化合物を含有してなる請求項1〜3のうちの一項記載のアルカリフリー急結剤。
【請求項5】 セメントと、請求項1〜4のうちの一項記載のアルカリフリー急結剤とを含有してなるセメント組成物。

【公開番号】特開2002−249352(P2002−249352A)
【公開日】平成14年9月6日(2002.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−39733(P2001−39733)
【出願日】平成13年2月16日(2001.2.16)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】