説明

アルカリ一次電池およびオキシ水酸化ニッケルの製造方法

【課題】正極合剤にオキシ水酸化ニッケルを含有させたアルカリ一次電池の低温放電特性、高負荷のパルス放電特性を大幅に向上させる。
【解決手段】β型の構造を有し、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.2〜0.49°で、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)が5〜10μm、ニッケル平均価数が2.9〜3.0のオキシ水酸化ニッケルを用いてアルカリ一次電池を作製することにより低温放電特性、高負荷のパルス放電特性を大幅に向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質としてオキシ水酸化ニッケルを用いたアルカリ一次電池(ニッケル系乾電池等)に関連する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ一次電池は、正極端子を兼ねる正極ケースの中に、正極ケースに密着して円筒状の二酸化マンガン正極合剤ペレットを配置し、その中央にセパレータを介してゲル状の亜鉛負極を配置したインサイドアウト型の構造を一般的に有する。近年のデジタル機器の普及に伴い、これらの電池が使用される機器の負荷電力は次第に大きくなり、高負荷放電特性に優れる電池が要望されてきた。これに対応するべく、特許文献1等は、正極合剤にオキシ水酸化ニッケルを混合して高負荷放電特性に優れた電池とすることを提案しており、近年ではこのような電池が実用化されて広く普及している。
【0003】
上記のアルカリ一次電池で用いられるオキシ水酸化ニッケルは、アルカリ蓄電池(二次電池)で使用される球状水酸化ニッケルを、次亜塩素酸ナトリウム水溶液等の酸化剤で酸化したものを用いるのが通例である。球状水酸化ニッケルは、ニッケル塩を含む水溶液をアルカリ水溶液で中和する晶析法で作製されるが、アルカリ蓄電池用途では、充電特性を確保する観点から特許文献2等にあるように、結晶性をある程度低くする(粉末X線回折の(101)面ピークの半値幅が0.8°以上程度になるよう調整する)のが重要である。また、晶析以外の水酸化ニッケル合成法として、特許文献3等では元素状ニッケル(金属ニッケル)を直接酸化する方法を提案しているが、このような方法で得られる水酸化ニッケルは結晶性が非常に高く、アルカリ蓄電池への適用は困難とされる。
【0004】
アルカリ一次電池の用途においても、出発源(元材)の水酸化ニッケルの結晶性が極端に高いと、酸化剤での酸化が困難になるため、アルカリ蓄電池用途ほどではないが、結晶性について一定のしきい値が存在すると考えられる。これに関連して特許文献4は、(100)面ピークの半値幅が0.3°よりも大きい水酸化ニッケルを出発源にすることを提案している。
【0005】
それに対し、最近になって、本発明者等はアルカリ一次電池用途のオキシ水酸化ニッケルに関して鋭意検討を進め、一次電池用途のオキシ水酸化ニッケルでは、むしろ、ある程度の高結晶性化(β−オキシ水酸化ニッケルの(001)面ピークの半値幅で0.6°以下)を図る方が高負荷放電特性の向上に有利な点を見出し、特許文献5に開示した。
【特許文献1】特開昭57−72266号公報
【特許文献2】特開平9−139230号公報
【特許文献3】米国特許第5545392号明細書
【特許文献4】特開平11−246226号公報
【特許文献5】特開2005−71991号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献5で示したようなある程度結晶性の高いオキシ水酸化ニッケル(β−オキシ水酸化ニッケルの(001)面ピークの半値幅で0.5〜0.6°程度)を用いた場合においても、アルカリ一次電池(ニッケル系乾電池等)の特性は十分とは言い難く、特にデジタルスチルカメラ等の用途で必要とされる、低温放電特性や高負荷のパルス放電特性は低いレベルに留まっていた。
【0007】
また、オキシ水酸化ニッケルの結晶性を高めるためには、元材の水酸化ニッケルの結晶性を上げる必要があるが、通常の晶析法では結晶性の高い水酸化ニッケルは得難く、さらに、元材の高結晶性化に伴って酸化剤での酸化が進行しにくくなるという課題も発生しやすかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような課題を鑑み、本発明は、β型の構造を有し、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.2〜0.49°で、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)が5〜10μm、ニッケル平均価数が2.9〜3.0のオキシ水酸化ニッケルを正極に含むアルカリ一次電池である。
【0009】
粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.2〜0.49°のβ−オキシ水酸化ニッケルは、一次粒子(結晶子)のc軸方向の積層度合いが発達しており、プロトンの拡散性、ならびに電子伝導性の双方の観点から、高負荷の放電(高速の還元反応)に有利である。このような結晶形態を有するβ−オキシ水酸化ニッケルの、二次粒子の平均粒子径(D50)やニッケル平均価数を好適な範囲に制御することで、アルカリ一次電池(ニッケル系乾電池等)の低温放電特性とパルス放電特性を大幅に高めることができる。
【0010】
また、本発明は、β型の構造を有し、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.15〜0.5°、(100)面ピークの半値幅が0.15〜0.3°、(101)面ピークの半値幅が0.2〜0.6°で、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)が5〜10μmの水酸化ニッケルを出発源とし、これを化学酸化するβ−オキシ水酸化ニッケルの製造方法に関するものである。上記のような物性を有する水酸化ニッケル(出発源)は、通常の晶析法で得るのは非常に困難であるが、例えば、元素状ニッケル(金属ニッケル)をアンモニア水溶液中で活性化させ、これを酸素と反応させるプロセス等によれば集約的に作製することが可能である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、正極活物質にオキシ水酸化ニッケルを用いたアルカリ一次電池(ニッケル系乾電池等)の低温放電特性や、高負荷のパルス放電特性を大幅に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、β型の構造を有し、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.2〜0.49°で、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)が5〜10μm、ニッケル平均価数が2.9〜3.0のオキシ水酸化ニッケルを正極に含むアルカリ一次電池である。
【0013】
β型のオキシ水酸化ニッケルは、NiO2層がc軸方向に積層した構造を有し、電池にしたときのオキシ水酸化ニッケルの電気化学的な還元(放電)反応時には、NiO2面の面方向に固相内プロトン拡散を伴う。本発明で用いるような、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.2〜0.49°と非常に小さいβ−オキシ水酸化ニッケルは、一次粒子(結晶子)のc軸方向の積層度合いが発達している。
【0014】
図1に粒子構造の異なるβ−オキシ水酸化ニッケルの二次粒子の模式図を示す。図中、点線は一次粒子中のNiO2層を表しており、一次粒子の集まり全体が二次粒子を表している。c軸に沿った方向へのNiO2層の積層度合いが発達していないβ−オキシ水酸化ニッケルとして、NiO2面が面方向に広がっている場合(a)と、広がっていない場合(b)が考えられる。面方向への広がりがある場合(a)では、一次粒子間の電気的な接触に関しては問題ないものの、一次粒子内(固相内)のプロトン拡散距離が長くなるため
、プロトン拡散の影響を強く受けるパルス放電に際して不利になる。また、面方向の広がりがない場合(b)は、一次粒子内のプロトン拡散距離は短く、NiO2層端部(エッジ面)の存在頻度も高いため、プロトン拡散については問題ないが、一次粒子サイズが非常に小さいために、二次粒子の中心部で一次粒子が孤立しやすいために一次粒子間での電気的な接触が微弱となりやすく、十分な低温放電特性が得られないと考えられる。
【0015】
これに対して、本発明で用いるようなc軸に沿った方向へのNiO2層の積層度合いが発達しているβ−オキシ水酸化ニッケルは、NiO2層端部(エッジ面)の存在頻度が高くてプロトン拡散に有利であると同時に、一次粒子サイズも比較的大きいため、電気的に孤立する一次粒子は殆ど存在しない。このため、低温放電特性やパルス放電特性に優れた性能を確保することができる。特に、NiO2面が面方向には広がっていない形(図1の(c))が、一次粒子内のプロトン拡散距離も短くなるため、最も理想的と推察される。
【0016】
なお、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.2°未満となるようなβ−オキシ水酸化ニッケルは作製するのが極めて困難で、得られた場合にも、ニッケル平均価数が十分に高まらない等の課題が出やすい。逆に、(001)面ピークの半値幅が0.49°より大きいβ−オキシ水酸化ニッケルでは、十分な特性向上効果が得られない。以上の点から、(001)面ピークの半値幅は0.2〜0.49°の範囲が好適である。
【0017】
オキシ水酸化ニッケルの、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)については、10μmより小さくする方が導電剤(黒鉛等)との混合度合いが高まるため、低温放電やパルス放電特性に有利であるが、一方で粒子径を5μmよりも小さくすると、正極合剤をペレットに成型するのが困難となる。以上の観点から、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)を5〜10μmの範囲が好適である。
【0018】
オキシ水酸化ニッケルのニッケル平均価数について、使用するオキシ水酸化ニッケルのニッケル平均価数が2.9未満であると、オキシ水酸化ニッケルの単位重量あたりの容量[mAh/g]が少なくなるため容量不足となる。また、ニッケル平均価数が3.0より大きくなると、オキシ水酸化ニッケル中にγ型構造の比率が増えて高負荷放電特性が低下するため、好ましくない。なお、オキシ水酸化ニッケル中に含まれるニッケルの平均価数は、例えば以下のように、重量法(ジメチルグリオキシム法)と酸化還元滴定とを用いて求めることができる。
【0019】
オキシ水酸化ニッケルのBET比表面積が大きいと、正極ペレットの保液性が過度に高まるため、電池への電解液注液時に正極ペレットが膨潤し、正極合剤粒子間の電気的な接触度合いが悪くなる。低温放電やパルス放電特性を確保するためには、BET比表面積を低く抑えることが重要である。しかし一方で、BET比表面積が3m2/g未満のオキシ水酸化ニッケルを得るのは非常に困難である。これらの点から、本発明ではBET比表面積を3〜10m2/gの範囲に調整したオキシ水酸化ニッケルが好適に用いられる。
【0020】
(1)オキシ水酸化ニッケル中の金属重量比率の測定
オキシ水酸化ニッケル粉末0.05gに濃硝酸10cm3を加えて加熱・溶解させ、酒石酸水溶液10cm3を加えた上でさらにイオン交換水を加えて全量を200cm3に体積調整する。この溶液のpHをアンモニア水及び酢酸を用いて調整した後、臭素酸カリウム1gを加えて測定誤差となりうるコバルトイオン等を高次な状態に酸化させる。次に、この溶液を加熱攪拌しながらジメチルグリオキシムのエタノール溶液を添加し、ニッケル(II)イオンをジメチルグリオキシム錯化合物として沈殿させる。続いて吸引濾過を行い、生成した沈殿物を捕集して110℃雰囲気で乾燥させ、沈殿物の重量を測定する。この操作から、活物質粉末中に含まれるニッケルの重量比率は式:ニッケル重量比率={沈殿物の重量(g)×0.2032}/{活物質粉末の試料重量(g)}により算出される。
【0021】
また、オキシ水酸化ニッケル粉末が、少量のコバルトやマンガンを含有する場合には、オキシ水酸化ニッケルに硝酸水溶液を加えて加熱・全溶解させた後、得られた溶液に関してICP発光分析(VARIAN社製 VISTA−RLを使用)を行い、コバルト・マンガンの定量を実施する。
【0022】
(2)酸化還元滴定による平均ニッケル価数の測定
オキシ水酸化ニッケル粉末0.2gにヨウ化カリウム1gと硫酸25cm3を加え、十分に攪拌を続けることで完全に溶解させる。この過程で価数の高いニッケルイオンや、コバルトイオン、マンガンイオンは、ヨウ化カリウムをヨウ素に酸化し、自身は2価に還元される。20分の放置後、pH緩衝液としての酢酸−酢酸アンモニウム水溶液とイオン交換水を加えて反応を停止させ、生成・遊離したヨウ素を0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液で滴定する。この際の滴定量は上記のような価数が2価よりも大きい金属イオン量を反映する。そこで、(1)で求めたニッケル、コバルト、マンガンの含有重量比率を用い、オキシ水酸化ニッケル中のコバルトの価数を3価、マンガンの価数を4価と仮定することから、オキシ水酸化ニッケル中に含まれるニッケルの平均価数が見積もられる。
【0023】
また、さらにオキシ水酸化ニッケルが、金属状のニッケルを、前記オキシ水酸化ニッケルの総重量に対して0.03〜1重量%含有するのが好ましい。オキシ水酸化ニッケル中に金属状のニッケルが含有されていると、オキシ水酸化ニッケル粉の電子伝導性がより一層高められ、低温放電等に対して特性向上効果が発現する。金属状ニッケルの含有比率について、オキシ水酸化ニッケルの総重量に対して0.03重量%未満だと殆ど効果は得られないし、1重量%よりも大きくなると、容量に寄与するオキシ水酸化ニッケルの比率が相対的に下がるため、電池容量を確保するのが困難となる。
【0024】
また、オキシ水酸化ニッケルが、コバルト及び/またはマンガンを金属比率で0.1〜10mol%固溶するのが好ましい。オキシ水酸化ニッケル中にコバルト及び/またはマンガンを固溶させると、放電時における結晶内のプロトン拡散性、および結晶の電子伝導性の双方が高められるため、放電特性が向上する。また、オキシ水酸化ニッケル中に固溶させたコバルト及び/またはマンガンは、オキシ水酸化ニッケル上での酸素発生過電圧を高める効果も併せ持つため、電池保存特性の改善(オキシ水酸化ニッケルの自己放電の抑制)についても有効である。
【0025】
オキシ水酸化ニッケル中のコバルト及び/またはマンガンの固溶量について、固溶量が金属比率で0.1mol%未満であると、上記のような放電・保存特性に関する効果を得るのが困難となり、一方で、固溶量が金属比率で10mol%を超えると、容量に寄与するニッケル(オキシ水酸化ニッケル)の含有比率が相対的に下がるため、電池容量を確保するのが困難となる。
【0026】
また、本発明は、β型の構造を有し、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.15〜0.5°、(100)面ピークの半値幅が0.15〜0.3°、(101)面ピークの半値幅が0.2〜0.6°で、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)が5〜10μmの水酸化ニッケルを出発源とし、これを化学酸化するβ−オキシ水酸化ニッケルの製造方法である。
【0027】
上記3つの粉末X線回折パラメータを有する出発源のβ−水酸化ニッケルは結晶性が高いため、これを化学酸化して得られるβ−オキシ水酸化ニッケルもこの点が反映されて、結晶性の高い、(001)面ピーク半値幅が小さいものになる。従って、こうして得られたβ−オキシ水酸化ニッケルを用いてアルカリ一次電池を作製すれば、低温放電・パルス
放電特性を高めることができる。
【0028】
なお、(001)面ピークの半値幅が0.15°未満、(100)面ピークの半値幅が0.15°未満、(101)面ピークの半値幅が0.2°未満といった、非常に結晶性の高いβ−水酸化ニッケルは合成するのが困難で、得られた場合にも、結晶性があまりに高すぎて、酸化剤による結晶内からのプロトンの引き抜きが困難となるため、酸化時にオキシ水酸化ニッケルの価数が十分に高まらない等の課題が出やすい。また逆に、(001)面ピークの半値幅が0.5°より大、(100)面ピークの半値幅が0.3°より大、(101)面ピークの半値幅が0.6°より大のβ−水酸化ニッケルを出発源にした場合には、得られるβ−オキシ水酸化ニッケルの結晶性が低いために十分な特性向上効果が得られない。3つの粉末X線回折パラメータは、上記範囲とするのが最も好ましい。
【0029】
β−水酸化ニッケル(出発源)の二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)について、D50が5μm未満であると、化学酸化処理にまつわる水洗、濾過、乾燥工程等のタクト時間が極端に長くなり、量産が困難となる。逆に、D50が10μmよりも大きくなると、酸化剤による化学酸化が二次粒子の内部まで十分に進行しないという課題が発生する。これらの点から、β−水酸化ニッケル二次粒子のD50は5〜10μmの範囲に設定する。
【0030】
β−水酸化ニッケル(出発源)のBET比表面積について、BET比表面積が10m2/gよりも大きくなると、保液性が高すぎるために、化学酸化処理にまつわる濾過、乾燥工程等でトラブルが発生しやすくなる。しかし一方で、BET比表面積が3m2/g未満の水酸化ニッケルを得るのは非常に困難である。以上より、β−水酸化ニッケルのBET比表面積は3〜15m2/gの範囲とするのが好ましい。
【0031】
また、さらに前記水酸化ニッケルが、金属状のニッケルを、前記水酸化ニッケルの総重量に対して0.03〜1重量%含有するのが好ましい。水酸化ニッケルに金属状のニッケルが含有されていると、得られるオキシ水酸化ニッケル粉の電子伝導性がより一層高められ、低温放電等に対して特性向上効果が発現する。金属状ニッケルの含有比率を水酸化ニッケルの総重量に対して0.03〜1重量%の範囲とするのは、オキシ水酸化ニッケルに関する上記記載と同様の理由による。
【0032】
また、水酸化ニッケルが、コバルト及び/またはマンガンを金属比率で0.1〜10mol%固溶することが好ましい。水酸化ニッケル中に固溶させたコバルト及び/またはマンガンは、水酸化ニッケルの酸化還元電位を下げると同時に酸素発生過電圧を高めるため、酸化処理に際して、化学酸化の進行を容易とする。このため、オキシ水酸化ニッケルのロット毎の酸化度バラツキ等を低減することができ、最終製品であるアルカリ一次電池の信頼性向上にも寄与しうる。
【0033】
水酸化ニッケル中に固溶させるコバルト及び/またはマンガンの量について、固溶量が金属比率で0.1mol%未満であると、上記のような酸化を容易とする効果を得るのが困難となり、一方で、固溶量が金属比率で10mol%を超えると、オキシ水酸化ニッケルとしたときに放電に寄与するニッケルの含有比率が相対的に下がるため、電池容量を確保するのが困難となる。以上の点から、水酸化ニッケル中のコバルト及び/またはマンガンの固溶量は、金属比率で0.1〜10mol%の範囲にするのが好ましい。
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0034】
(水酸化ニッケルの合成)
攪拌翼と酸素スパージャー、pH電極、電位測定電極、温度計を備えた反応容器(2L)に、アンモニア2mol/Lおよび硫酸アンモニウム0.05mol/Lを含んだ水溶
液を満たし、溶液pHが10.5を維持するように25wt%アンモニア水を適宜添加しながら攪拌して、大気圧下で50℃に維持した。この溶液に、カルボニルニッケルの熱分解で得られた鎖状ニッケル粉(INCO社製:タイプ255)を250g添加し、ニッケルを活性化した。そして、上記懸濁液の酸化還元電位が−600mV(vs SCE)程度に到達した時点より、酸素スパージャーからの酸素供給(50mL/分)を開始し、15時間の酸素供給を続けることで、活性化されたニッケルを水酸化ニッケルに変換した。その後、磁石を用いてスラリ中から未反応の金属ニッケル粉を分離し、水酸化ニッケルについては、上記とは別の水酸化ナトリウム水溶液中で加熱して硫酸根・残留アンモニア等を除去した後、水洗・真空乾燥(60℃、24時間)を行って、元材の水酸化ニッケルaとした。
【0035】
また、ごく一般的な晶析法として、上記とは別の攪拌翼を備えた反応槽に、所定濃度の硫酸ニッケル(II)水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水を槽内pH・温度が一定(pH=12.0、温度:50℃)となるようにポンプで定量供給し、十分に攪拌を続けることで球状水酸化ニッケルを析出・成長させた。こうして得られた粒子は、上記とは別の水酸化ナトリウム水溶液中で加熱して硫酸根・残留アンモニア等を除去した後、水洗・真空乾燥(60℃、24時間)を行って、元材の水酸化ニッケルbとした。
【0036】
水酸化ニッケルa、bに対する粉分析として、粉末X線回折、体積基準の平均粒子径(D50)、BET比表面積の測定を行った。なお測定装置として、粉末X線回折は理学株式会社製:粉末X線回折装置「RINT2500」、平均粒子径は株式会社堀場製作所製:粒度分布測定装置「LA−920」、BET比表面積は株式会社島津製作所製「ASAP2010」を用いた。得られた粉末X線回折プロファイルを図2に、各種数値データをまとめて表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
金属ニッケルの直接酸化で得られた水酸化ニッケルaは、通常の晶析で得られた水酸化ニッケルbよりもピーク半値幅が小さく、すなわち結晶性が高く、平均粒子径、BET比表面積ともに小さいことがわかる。また、図2の粉末X線回折プロファイルから、水酸化ニッケルa中には少量の金属状ニッケルが含まれることも確認でき、振動試料型磁力計(VSM)を用いた測定結果から、その含有率は水酸化ニッケル全体の0.10重量%と見積もられた。なお、この測定では、装置として東英工業株式会社製:高感度振動試料型磁力計「VSM−P7−15型」を用い、所定の金属ニッケル粉を添加した標準試料に関する検量線を用いて、水酸化ニッケルa中の金属状ニッケルの含有率を見積もった。
【0039】
(オキシ水酸化ニッケルの作製)
水酸化ニッケルa200gを0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10wt%)を1.5当量加えて攪拌してオキシ水酸化ニッケルに変換した。この際、反応雰囲気温度(溶液の温度)は50℃とし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を投入してから後の処理時間は6時間に設定した。得られた粒子は十分に水洗後、60℃の真空乾燥を24時間行ってオキシ水酸化ニッケルAとした。また、水酸化ニッケルaの代わりに水酸化ニッケルbを用い、他はすべ
て上記と同様にして、オキシ水酸化ニッケルBを作製した。
【0040】
オキシ水酸化ニッケルA、Bに対する粉分析として、粉末X線回折、体積基準の平均粒子径(D50)、BET比表面積の測定を行った。また上述した手順に即して、ニッケル平均価数の測定も実施した。得られた粉末X線回折プロファイルを図3に、各種数値データをまとめて表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
オキシ水酸化ニッケルA、Bのいずれも、ニッケル価数が3価近傍まで達したβ型のオキシ水酸化ニッケルであり、出発源の水酸化ニッケルの物性差を反映して、オキシ水酸化ニッケルAの方がオキシ水酸化ニッケルBよりも高結晶性、小粒径、低BET比表面積であることがわかる。また、図3の粉末X線回折プロファイルから、オキシ水酸化ニッケルA中には少量の金属状ニッケルが含まれることも確認でき、振動試料型磁力計(VSM)を用いた測定結果から、その含有率はオキシ水酸化ニッケル全体の0.07重量%と見積もられた。
【0043】
(電池の作製と評価)
続いて、これらのオキシ水酸化ニッケル粉末を用いてアルカリ乾電池の作製を行った。図4は本発明で用いたアルカリ乾電池の一部を断面にした正面図である。正極ケース1は、ニッケルメッキされた鋼板からなる。この正極ケース1の内部には、黒鉛塗装膜2が形成されている。この正極ケース1の内部に、二酸化マンガンとオキシ水酸化ニッケルを主成分として含む短筒状の正極合剤ペレット3を複数個挿入し、ケース内で再加圧することによってケース1の内面に密着させる。そして、この正極合剤ペレット3の内側にセパレ−タ4および絶縁キャップ5を挿入した後、セパレ−タ4と正極合剤ペレット3を湿潤させる目的で電解液を注液する。電解液には、例えば40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いる。注液後、セパレータ4の内側にゲル状負極6を充填する。ゲル状負極6は、例えばゲル化剤のポリアクリル酸ナトリウム、アルカリ電解液、および負極活物質の亜鉛粉末からなる。次に、樹脂製封口板7、負極端子を兼ねる底板8、および絶縁ワッシャ9と一体化された負極集電体10を、ゲル状負極6に差し込む。そして正極ケース1の開口端部を封口板7の端部を介して底板8の周縁部にかしめつけて正極ケース1の開口部を密着する。次いで、正極ケース1の外表面に外装ラベル11を被覆する。こうしてアルカリ乾電池が完成する。
【0044】
本実施例においては、まず電解二酸化マンガン(体積基準の平均粒子径:40μm)、オキシ水酸化ニッケルAおよび黒鉛(体積基準の平均粒子径:10μm)を重量比50:42:8の割合で配合し、混合粉100重量部に対して電解液1重量部を混合した後、ミキサ−で均一に撹拌・混合して一定粒度に整粒した。得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して正極合剤とし、電解液には、40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いて図4に示す単3サイズのアルカリ一次電池Aを組み立てた。また、オキシ水酸化ニッケルAの代わりにオキシ水酸化ニッケルBを用い、他はすべて同じとしてアルカリ一次電池Bを組み立てた。
【0045】
上記で作製したアルカリ一次電池の低温放電特性として、電池A、B(初度の状態)を
0℃雰囲気下で1000mWの定電力で連続放電させ、電池電圧が0.9Vに至るまでの放電時間を測定した。また、高負荷のパルス放電特性として、電池A、B(初度の状態)を20℃雰囲気下、650mWの定電力で28秒間放電させた後、1500mWの定電力で2秒間パルス放電させるというサイクルを、1500mWパルス放電の下限電圧が1.05Vに到達するまで繰り返して、そのサイクル数を評価した。上記2つの放電特性は、主にデジタルスチルカメラ等の用途で重視される。こうして得られた結果を、それぞれ電池Bの値を100として規格化して、表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
これより、本発明のアルカリ一次電池Aでは、低温放電特性・高負荷パルス放電特性ともに高い性能の得られることがわかる。これは使用したオキシ水酸化ニッケルの物性の違いを反映していると考えられ、オキシ水酸化ニッケルAを用いた場合には、主に以下の(1)〜(4)の理由によって性能が向上したと推察される。
【0048】
(1)結晶性の違い:粉末X線回折による(001)面ピーク半値幅が0.32°と非常に小さいオキシ水酸化ニッケルAは、一次粒子(結晶子)のc軸方向の積層度合いが発達しており、プロトンの拡散性(エッジ面の存在頻度)、ならびに電子伝導性の双方の観点から、オキシ水酸化ニッケルBよりも高負荷放電(高速の還元反応)に有利である。
【0049】
(2)粒径の違い:体積基準の平均粒子径(D50)が8.3μmと小さいオキシ水酸化ニッケルAの方が、正極合剤作製時に黒鉛導電材との混合度合いが高まり、オキシ水酸化ニッケルBを用いた場合よりも良好な導電ネットワークを形成するため、低温放電特性や高負荷パルス放電特性に有利に作用する。
【0050】
(3)比表面積の違い:BET比表面積が5.6m2/gと小さいオキシ水酸化ニッケルAでは、正極ペレットの保液性が低く、電解液注液時に正極ペレットが膨潤して正極合剤粒子間の電気的な接触度合いが低下する現象が抑止される。このため、正極ペレットの膨潤が比較的起こりやすいオキシ水酸化ニッケルBの系よりも、低温放電特性や高負荷パルス放電特性が高く維持される。
【0051】
(4)金属状ニッケルの存在:オキシ水酸化ニッケルA中にはオキシ水酸化ニッケルに対して0.07重量%程度の少量の金属状ニッケルが含まれており、これによってオキシ水酸化ニッケル粉の電子伝導性がより一層高められ、特に、低温放電に対して特性が向上するという効果が発現する。
【実施例2】
【0052】
ここでは、オキシ水酸化ニッケルの諸物性(結晶性、平均粒子径、金属状ニッケル含有量)の最適範囲を明確にするための実験を行った。
【0053】
実施例1で作製した水酸化ニッケルa5kgを0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10wt%)を1.5当量加えて攪拌してオキシ水酸化ニッケルに変換した。この際、反応雰囲気温度(すなわち、溶液の温度)は50℃とし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を投入してか
ら後の処理時間は6時間に設定した。得られた粒子は十分に水洗・濾過を行って、オキシ水酸化ニッケルスラリA1とした。なお、こうして作製したオキシ水酸化ニッケルスラリA1は、実施例1で作製したオキシ水酸化ニッケルAとほぼ同じスケールアップ品である。
【0054】
また、別の条件として、水酸化ニッケルa5kgを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液20L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10wt%)を1.5当量加えて50℃で、6時間処理を行い、さらに、続けてペルオキソ二硫酸ナトリウム(過硫酸ナトリウム)の粉末2.0kgを加えて4時間混合攪拌することにより、より強い酸化を行った。こうして得られた粒子は十分に水洗・濾過を行って、オキシ水酸化ニッケルスラリA2とした。
【0055】
上記で得られたオキシ水酸化ニッケルスラリについて、ホソカワミクロン株式会社製の分級機「ハイドロプレックス63AHP」を用い、水中での沈降速度の差を利用して分級を行った。オキシ水酸化ニッケルスラリA1を装置の分級ロータに供給し、ロータの回転速度と流量を調節することで分級粒度の調整(5段階)を行い、分級されたスラリを60℃で24時間真空乾燥して、粒度の異なるオキシ水酸化ニッケルA11(D50:約12μm)、A12(同:約10μm)、A13(同:約8μm)、A14(同:約5μm)、A15(同:約3μm)を得た。オキシ水酸化ニッケルスラリA2についても同様に分級を行い、粒度の異なるオキシ水酸化ニッケルA21〜A25を作製した。
【0056】
オキシ水酸化ニッケルA11〜A15、A21〜A25、および比較用のオキシ水酸化ニッケルB(実施例1で作製したもの)に対し、粉分析として、粉末X線回折、体積基準の平均粒子径(D50)、BET比表面積の測定を行った。また上述した手順に即して、ニッケル平均価数の測定も実施し、さらに、振動試料型磁力計(VSM)を用いて金属状ニッケルの含有率も見積もった。分析結果をまとめて表4に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
酸化条件を厳しくしたオキシ水酸化ニッケルA21〜A25は、(001)面ピークの半値幅が増加し、金属状ニッケルの含有率が低下していた。分級による効果として、粒径の大きいものほど(001)面ピーク半値幅が小さく、BET比表面積が低く、ニッケル平均価数が低い傾向にあった。
【0059】
次に、上記のオキシ水酸化ニッケル粉末を用いて、実施例1の場合と同様にアルカリ一次電池の作製を行った。電解二酸化マンガン(体積基準の平均粒子径:40μm)、オキ
シ水酸化ニッケルA11および黒鉛(体積基準の平均粒子径:10μm)を重量比50:42:8の割合で配合し、混合粉100重量部に対して電解液1重量部を添加・攪拌した後、得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して正極合剤とし、電解液に40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いて、図4に示す単3サイズのアルカリ一次電池A1を組み立てた。また、オキシ水酸化ニッケルA11の代わりにオキシ水酸化ニッケルA12〜A15、A21〜A25、Bを用い、正極材の充填量などをすべて同じにして、それぞれのオキシ水酸化ニッケルに対応するアルカリ一次電池A12〜A15、A21〜A25、Bを組み立てた。
【0060】
こうして作製した11種類のアルカリ一次電池に対して、実施例1の場合と同様に、低温放電特性・高負荷パルス放電特性の評価を行った。得られた結果を、それぞれ電池Bの値を100として規格化して、表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
低温放電特性、高負荷パルス放電特性で高い性能が得られたのは、電池A12、A13、A14、A22、A23、A24で、これより、好ましいオキシ水酸化ニッケルの粉物性は、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅:0.2〜0.49°、体積基準の平均粒子径(D50):5〜10μm、ニッケル平均価数:2.9〜3.0の範囲であることがわかる。粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅と平均粒径が上記範囲内にある場合、表4中に示したように、BET比表面積が小さくなり、好ましい物性とすることができる。
【0063】
また、低温放電を中心に、電池A12、A13、A14の方が電池A22、A23、A24よりも高い放電性能を有したことから、上記の粉物性に加えて、オキシ水酸化ニッケル中には0.03重量%以上の金属状ニッケルが含まれる方が好ましいと推察される。金属状ニッケルの含有比率が極端に大きくなると、容量に寄与するオキシ水酸化ニッケルの比率が下がって電池容量を確保するのが困難になる。ここでは詳細を述べないが、この点に関しても別途検証実験を行い、金属状ニッケルの含有率は、多くとも1重量%までの範囲に留めるのが好ましいことを確認した。
【実施例3】
【0064】
続いて、オキシ水酸化ニッケル中に異金属元素(コバルト、マンガン等)を固溶させた場合の効果を把握するための実験を行った。
【0065】
攪拌翼と酸素スパージャー、pH電極、電位測定電極、温度計を備えた反応容器(2L)に、アンモニア2mol/Lおよび硫酸アンモニウム0.05mol/Lを含んだ水溶液を満たし、溶液pHが10.5を維持するように25wt%アンモニア水を適宜添加しながら攪拌して、大気圧下で50℃に維持した。この溶液に、金属コバルト粉(Aldrich社製試薬)を少量添加した鎖状ニッケル粉(INCO社製:タイプ255)を250g添加し、金属粉を活性化した。そして、上記懸濁液の酸化還元電位が−600mV(vs SCE)程度に到達した時点より、酸素スパージャーからの酸素供給(50mL/分)を開始し、15時間の酸素供給を続けることで、活性化された金属をコバルト固溶水酸化ニッケルに変換した。なお、上記手順において、コバルトの含有量が金属イオンの総量に対して0.05、0.1、1、3、7、10、12mol%となるように添加するコバルト粉の比率を調整することで、組成の異なるコバルト固溶水酸化ニッケルc1〜c7を合成した。その後、磁石を用いてスラリ中から未反応の金属粉を分離し、コバルト固溶水酸化ニッケルについては、上記とは別の水酸化ナトリウム水溶液中で加熱して硫酸根・残留アンモニア等を除去した後、水洗・真空乾燥(60℃、24時間)を行った。
【0066】
また、金属コバルト粉の代わりに金属マンガン粉(Aldrich社製試薬)を用い、他はすべて上記と同様として、マンガンの含有量が金属イオンの総量に対して0.05、0.1、1、3、7、10、12mol%のマンガン固溶水酸化ニッケルd1〜d7を作製した。
【0067】
こうして得られた14種の水酸化ニッケルの酸化処理は、実施例1の場合と同じとした。すなわち、水酸化ニッケルc1の200gを0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10wt%)の1.5当量を加えて攪拌してオキシ水酸化ニッケルに変換した。この際、反応雰囲気温度(溶液の温度)は50℃とし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を投入してから後の処理時間は6時間に設定した。得られた粒子は十分に水洗後、60℃の真空乾燥(24時間)を行ってオキシ水酸化ニッケルC1とした。さらに、水酸化ニッケルc1の代わりに水酸化ニッケルc2〜c7、d1〜d7を用い、他はすべて同じとして、対応するオキシ水酸化ニッケルC2〜C7、D1〜D7を作製した。
【0068】
オキシ水酸化ニッケルC1〜C7、D1〜D7、および比較用のオキシ水酸化ニッケルA、B(いずれも実施例1で作製したもの)に対し、粉分析として、粉末X線回折、体積基準の平均粒子径(D50)、BET比表面積の測定を行った。また上述した手順に即して、ニッケル平均価数の測定も実施した。分析結果をまとめて表6に示す。
【0069】
【表6】

【0070】
出発源の水酸化ニッケルにコバルトやマンガンを固溶させた場合、固溶のないオキシ水酸化ニッケルAと比較して、(001)面ピーク半値幅、平均粒子径、BET比表面積はさほど変化しないものの、平均ニッケル価数が、より3価に近い状態にまで高められている。これは、水酸化ニッケル中に固溶させたコバルトやマンガンにより、水酸化ニッケルの酸化還元電位が下げられると同時に酸素発生過電圧が高まったため、化学酸化の進行が容易になったものと推察される。
【0071】
次に、これらのオキシ水酸化ニッケル粉末を用いて、実施例1の場合と同様にアルカリ一次電池の作製を行った。電解二酸化マンガン(体積基準の平均粒子径:40μm)、オキシ水酸化ニッケルC1および黒鉛(体積基準の平均粒子径:10μm)を重量比50:42:8の割合で配合し、混合粉100重量部に対して電解液1重量部を添加・攪拌した後、得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して正極合剤とし、電解液に40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いて、図4に示す単3サイズのアルカリ一次電池C1を組み立てた。また、オキシ水酸化ニッケルC1の代わりにオキシ水酸化ニッケルC2〜C7、D1〜D7、A、Bを用いた以外は上記アルカリ一次電池C1とすべて同じにして、それぞれのオキシ水酸化ニッケルに対応するアルカリ一次電池C2〜C7、D1〜D7、A、Bを組み立てた。
【0072】
こうして作製した16種類のアルカリ一次電池に対して、実施例1の場合と同様に、低温放電特性・高負荷パルス放電特性の評価を行った。さらにここでは、60℃雰囲気下で1週間保存した電池についても、低温放電特性・高負荷パルス放電特性を評価した。得られた結果をそれぞれ電池Bの値を100として規格化して、表7に示す。
【0073】
【表7】

【0074】
コバルトないしはマンガンを固溶したオキシ水酸化ニッケルを使用した電池C1〜C7、D1〜D7は、いずれも比較電池Bよりも高い性能を与えるが、特にコバルトないしはマンガンの固溶量を0.1〜10mol%の範囲に設定した電池(C2〜C6、D2〜D6)は、固溶のないオキシ水酸化ニッケルを用いた場合(電池A)よりも性能が向上することがわかる。
【0075】
このような初度の性能向上は、前述したこれらオキシ水酸化ニッケルのニッケル価数が高い点に加えて、オキシ水酸化ニッケル中にコバルトやマンガンを固溶させることで、放電時における結晶内のプロトン拡散性、および結晶の電子伝導性の双方が高められたためと考えられる。また60℃1週間保存後の性能向上は、オキシ水酸化ニッケル中に固溶させたコバルトやマンガンの効果により、オキシ水酸化ニッケル上での酸素発生過電圧が高められて、オキシ水酸化ニッケルの自己放電が抑制されたためと推察される。
【0076】
以上のように、本発明においては、オキシ水酸化ニッケル中にコバルトやマンガンを0.1〜10mol%の範囲で固溶させるのが最も好ましい。なお、オキシ水酸化ニッケル中にコバルトとマンガンの双方を固溶させた場合においても、ほぼ同様の効果が、この際のコバルトとマンガンの合計固溶量の適正範囲は、やはり0.1〜10mol%の範囲になる。
【実施例4】
【0077】
ここでは、出発源の水酸化ニッケルの粉物性(結晶性、平均粒子径、BET比表面積)に関する検討を行った。
【0078】
攪拌翼と酸素スパージャー、pH電極、電位測定電極、温度計を備えた反応容器(2L)にアンモニア・硫酸アンモニウム水溶液を満たして攪拌し、鎖状ニッケル粉(INCO社製:タイプ255)を250g添加して活性化後、酸素供給(50mL/分)して水酸化ニッケルを得るフローにおいて、水溶液中のアンモニア・硫酸アンモニウムの濃度、ならびに反応温度を表8中に示すように変化させることで、水酸化ニッケルe〜hを析出させた。その後、磁石を用いてスラリ中から未反応の金属ニッケル粉を分離し、水酸化ニッ
ケルについては、上記とは別の水酸化ナトリウム水溶液中で加熱して硫酸根・残留アンモニア等を除去した後、水洗・真空乾燥(60℃、24時間)を行った。
【0079】
水酸化ニッケルe〜hに対する粉分析として、粉末X線回折、体積基準の平均粒子径(D50)、BET比表面積の測定を行った。結果を表8にまとめる。合成時のアンモニア・硫酸アンモニウムの濃度や反応温度を調整することにより、結晶性、平均粒子径、BET比表面積がある程度制御できることがわかる。
【0080】
【表8】

【0081】
こうして得られた4種の水酸化ニッケルの酸化処理は、実施例1の場合と同じとした。すなわち、水酸化ニッケルeの200gを0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液1L中に投入し、酸化剤の次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:10wt%)の1.5当量を加えて攪拌してオキシ水酸化ニッケルに変換した。この際、反応雰囲気温度(溶液の温度)は50℃とし、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を投入してから後の処理時間は6時間に設定した。得られた粒子は十分に水洗後、60℃の真空乾燥(24時間)を行ってオキシ水酸化ニッケルEとした。さらに、水酸化ニッケルeの代わりに水酸化ニッケルf〜hを用い、他はすべて同じとして、対応するオキシ水酸化ニッケルF〜Hを作製した。
【0082】
オキシ水酸化ニッケルE〜Hに対する粉分析として、粉末X線回折、体積基準の平均粒子径(D50)、BET比表面積の測定を行った。また上述した手順に即して、ニッケル平均価数の測定も実施した。分析結果をまとめて表9に示す。
【0083】
【表9】

【0084】
いずれの材料においても、酸化によって、(001)面ピーク半値幅がやや大きくなる傾向にあった。また、結晶性が非常に高くて平均粒径の大きい水酸化ニッケルgを出発源とした場合(オキシ水酸化ニッケルG)は、ニッケル価数を十分に高めるのが困難であった。
【0085】
次に、上記のオキシ水酸化ニッケル粉末を用いて、実施例1の場合と同様にアルカリ一次電池の作製を行った。電解二酸化マンガン(体積基準の平均粒子径:40μm)、オキシ水酸化ニッケルEおよび黒鉛(体積基準の平均粒子径:10μm)を重量比50:42:8の割合で配合し、混合粉100重量部に対して電解液1重量部を添加・攪拌した後、
得られた粒状物を中空円筒型に加圧成型して正極合剤とし、電解液に40重量%の水酸化カリウム水溶液を用いて、図4に示す単3サイズのアルカリ一次電池Eを組み立てた。また、オキシ水酸化ニッケルEの代わりにオキシ水酸化ニッケルF〜Hを用い、正極材の充填量などをすべて同じにして、それぞれのオキシ水酸化ニッケルに対応するアルカリ一次電池F〜Hを組み立てた。
【0086】
こうして作製した4種類のアルカリ一次電池に対して、実施例1の場合と同様に、低温放電特性・高負荷パルス放電特性の評価を行った。得られた結果を、それぞれ電池B(実施例1で使用)の値を100として規格化して、表10に示す。
【0087】
【表10】

【0088】
アルカリ一次電池E、Fで高い特性が得られ、アルカリ一次電池G、Hでは性能低下した。このことより、適正なオキシ水酸化ニッケル(β型)の粉物性は、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅:0.2〜0.49°、体積基準の平均粒子径(D50):5〜10μm、BET比表面積:3〜10m2/g、ニッケル平均価数:2.9〜3.0の範囲であることが確認できる。同様に、出発源の水酸化ニッケル(β型)の粉物性は、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅:0.15〜0.5°、(100)面ピークの半値幅:0.15〜0.3°、(101)面ピークの半値幅:0.2〜0.6°、体積基準の平均粒子径(D50):5〜10μm、BET比表面積:3〜10m2/gの範囲が好ましい。
【0089】
アルカリ一次電池Gで高い性能が得られないのは、オキシ水酸化ニッケルGのニッケル平均価数が十分に高められなかった点によると思われる。一方、アルカリ一次電池Hで高い性能が得られない理由としては、1)オキシ水酸化ニッケルHの結晶性がさほど高くないため、プロトンの拡散性(エッジ面の存在頻度)や電子伝導性の観点からの向上効果が得られない、2)オキシ水酸化ニッケルHのBET比表面積が過大なため、電解液注液時に正極ペレットが膨潤して正極合剤粒子間の電気的な接触度合いが低下する、といった点が考えられる。
【0090】
また、オキシ水酸化ニッケルH(出発源の水酸化ニッケルh)の場合には、小粒径・高BET比表面積であるため、化学酸化処理にまつわる水洗、濾過、乾燥のタクト時間が極端に長くなり、電池の正極ペレット成型時にもペレット欠けのトラブルが発生する等、生産上の課題も多く発生した。このような生産性の観点を加味しても、上記したようなオキシ水酸化ニッケル・水酸化ニッケルの粉物性範囲が最も適切なものと考えられる。
【0091】
なお、上記の実施例では、アルカリ一次電池の正極合剤の作製に関して、電解二酸化マンガン(体積基準の平均粒子径:40μm)、オキシ水酸化ニッケルおよび黒鉛(体積基準の平均粒子径:10μm)を重量比50:42:8の割合で配合し、混合粉100重量部に対して電解液1重量部を混合する形としたが、本発明自体はこれらの条件に限定されるものではない。
【0092】
さらに、本実施例では円筒形状の正極ケース内に筒状の正極合剤ペレットとセパレータ、負極亜鉛ゲルを配置した、いわゆるインサイドアウト型のアルカリ乾電池の構造で電池作製を行ったが、本発明自体はアルカリボタン型、角型等の別構造の電池にも適応することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明にかかるアルカリ一次電池は、低温放電特性、高負荷パルス放電特性に優れるため、従来の乾電池では十分に対応できなかった、消費電力の大きいデジタル機器(デジタルスチルカメラ等)の電源として活用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】種々のオキシ水酸化ニッケルの粒子構造を表した模式図(a)NiO2面が面方向に広がり、c軸方向への積層度合いは発達していない場合の図、(b)NiO2面が面方向に広がらず、c軸方向への積層度合いは発達していない場合の図、(c)NiO2面が面方向に広がらず、c軸方向への積層度合いは発達している場合の図
【図2】実施例で用いた水酸化ニッケルa、bの粉末X線回折図
【図3】実施例で用いたオキシ水酸化ニッケルA、Bの粉末X線回折図
【図4】本発明の実施例に係るアルカリ一次電池の一部を断面にした正面図
【符号の説明】
【0095】
1 正極ケース
2 黒鉛塗装膜
3 正極合剤ペレット
4 セパレータ
5 絶縁キャップ
6 ゲル状負極
7 樹脂製封口板
8 底板
9 絶縁ワッシャ
10 負極集電体
11 外装ラベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型の構造を有し、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.2〜0.49°で、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)が5〜10μm、ニッケル平均価数が2.9〜3.0のオキシ水酸化ニッケルを正極に含むアルカリ一次電池。
【請求項2】
前記オキシ水酸化ニッケルのBET比表面積が3〜10m2/gである請求項1記載のアルカリ一次電池。
【請求項3】
前記オキシ水酸化ニッケルが、金属状のニッケルを、前記オキシ水酸化ニッケルの総重量に対して0.03〜1重量%含有する請求項1記載のアルカリ一次電池。
【請求項4】
前記オキシ水酸化ニッケルが、コバルト及び/またはマンガンを、前記オキシ水酸化ニッケル中に含まれる金属元素の総量に対して0.1〜10mol%固溶することを特徴とする、請求項1記載のアルカリ一次電池。
【請求項5】
β型の構造を有し、粉末X線回折による(001)面ピークの半値幅が0.15〜0.5°、(100)面ピークの半値幅が0.15〜0.3°、(101)面ピークの半値幅が0.2〜0.6°で、二次粒子の体積基準の平均粒子径(D50)が5〜10μmの水酸化ニッケルを出発源とし、これを化学酸化するβ型の構造を有するオキシ水酸化ニッケルの製造方法。
【請求項6】
前記水酸化ニッケルのBET比表面積が3〜10m2/gである請求項5記載のオキシ水酸化ニッケルの製造方法。
【請求項7】
前記水酸化ニッケルが、金属状のニッケルを、前記水酸化ニッケルの総重量に対して0.03〜1重量%含有する請求項5記載のオキシ水酸化ニッケルの製造方法。
【請求項8】
前記水酸化ニッケルが、コバルト及び/またはマンガンを、前記水酸化ニッケル中に含まれる金属元素の総量に対して0.1〜10mol%固溶する請求項5記載のオキシ水酸化ニッケルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−103111(P2007−103111A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−289794(P2005−289794)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】