説明

アルカリ蓄電池、アルカリ蓄電池用正極およびその合剤ペーストの製造方法

【課題】増粘剤自体を増量することなくアルカリ蓄電池の正極合剤ペーストの粘性を向上させて沈降を抑制する。
【解決手段】本発明のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法は、水酸化ニッケル粉末を活物質とし、水を溶媒とし、単糖類を含む直鎖と飽和6員環構造を含む側鎖とからなる糖質とセルロース誘導体とを増粘剤として用い、水酸化ニッケル粉末を混練する第1の工程と、第1の工程の混練物とセルロース誘導体とを混練する第2の工程とからなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法に関し、より詳しくはアルカリ蓄電池の電極合剤ペーストの粘性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報機器の著しい普及にともない、高エネルギー密度なアルカリ蓄電池の開発が要望されている。この要望を受けて、ニッケルカドミウム蓄電池(以下、ニカド電池と称す)やニッケル水素蓄電池(以下、Ni/MHと称す)の正極として、従来の焼結式ニッケル正極よりも30〜60%高容量である発泡メタル式ニッケル正極を用いる技術が開発されてきた。この正極は、発泡ニッケル多孔体やニッケル繊維多孔体などの多孔度の高い三次元金属多孔体に、水酸化ニッケル粉末などの活物質を含む正極合剤を高密度に充填・圧延したものである。
【0003】
この正極は、上述した活物質などを含む正極合剤ペーストを3次元金属多孔体に充填して作製される。この正極合剤ペーストの沈降を抑制して長時間の充填を達成するのを目的として、様々な増粘剤が添加されている。一般的に正極合剤ペーストに含まれる増粘剤の種類によって増粘性が左右されるため、この組成などを適正化する技術が種々提案されている。
【0004】
具体的には活物質である水酸化ニッケル粉末と水溶性セルロース誘導体および水溶性多糖類から選ばれる少なくとも1種と水溶性ポリオールとを併用する方法(例えば、特許文献1)、コバルト酸化物で被覆した水酸化ニッケル粉末に天然多糖類を水酸化ニッケル粉末100重量部に対して0.1〜0.5重量部含む方法(例えば、特許文献2)などが提案されている。
【特許文献1】特開2002−184398号公報
【特許文献2】特開2003−068293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1〜2の方法で作製した正極合剤ペーストは、放置しておくとペーストが沈降し、水と合剤組成とが分離するという課題を有する。この分離による沈降を抑制するためには増粘剤を増量しなければならないが、増粘剤を増量すると正極反応が阻害され、放電特性が低下するので好ましくない。
【0006】
本発明は上記の課題を解決するものであり、増粘剤自体を増量することなくアルカリ蓄電池の正極合剤ペーストの粘性を向上させて沈降を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法は、水酸化ニッケル粉末を活物質とし、水を溶媒とし、単糖類を含む直鎖と飽和6員環構造を含む側鎖とからなる糖質(以下、糖質Aと略記)とセルロース誘導体とを増粘剤として用い、水酸化ニッケル粉末を混練する第1の工程と、第1の工程の混練物とセルロース誘導体とを混練する第2の工程とからなることを特徴とする。
【0008】
本発明では増粘剤として糖質Aとセルロース誘導体とを併用するのが特徴である。ただし糖質Aは単糖類を含む直鎖のほかに飽和6員環を含む側鎖を有しているため、増粘作用
が高く高密度な正極合剤ペーストに耐沈降性を付与できるものの、流動性を付与し難い。一方セルロース誘導体は側鎖を有する多糖類に比べて増粘作用は低いものの、正極合剤ペーストに流動性を付与する効果が大きい。この両者の利点を活かすためには、セルロース誘導体を第2の工程で添加する必要がある。この理由として、本発明者らは鋭意検討の結果、活物質である水酸化ニッケル粉末を混練する第1の工程にセルロース誘導体を投入すると、大きな剪断力が生じるためにセルロース誘導体の直鎖が分断されて所望の流動性を正極合剤ペーストに付与できないことをつきとめた。なお剪断力を低下させるためには第1の工程で投入する水の量を増やせばよいが、この方法では水酸化ニッケル粉末や適宜用いる添加剤(導電剤であるコバルト化合物など)が正極合剤ペースト中で十分に分散されないという新たな課題を生じるので好ましくない。そこでセルロース誘導体を第2の工程で加えることにより、付与する剪断力を適正化して良質な流動性と分散性とが両立した正極合剤ペーストを作製できるので、放電特性などの電池特性が良好なアルカリ蓄電池用正極を得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
以上のように本発明によれば、2種の増粘剤の特徴を活かすことで、耐沈降性、流動性、分散性のいずれもが良好な正極合剤ペーストが作製できるので、良好な電池特性を発現するアルカリ蓄電池用正極を安定かつ多量に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法について、図を用いて詳細に説明する。
【0011】
第1の発明は、水酸化ニッケル粉末を活物質とし、水を溶媒とし、糖質Aとセルロース誘導体とを増粘剤として用いるアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法であって、水酸化ニッケル粉末を混練する第1の工程と、第1の工程の混練物とセルロース誘導体とを混練する第2の工程とからなることを特徴とする。
【0012】
糖質Aは単糖類を含む直鎖のほかに飽和6員環を含む側鎖を有しているため、増粘作用が高く高密度な正極合剤ペーストに耐沈降性を付与できるものの、流動性を付与し難い。一方セルロース誘導体は側鎖を有する多糖類に比べて増粘作用は低いものの、正極合剤ペーストに流動性を付与する効果が大きい。さらに第1の工程の初期段階では水酸化ニッケル粉末が水によって湿潤するために大きな剪断力が発生するので、この工程でセルロース誘導体を投入すると、セルロース誘導体の直鎖が分断されて所望の流動性を正極合剤ペーストに付与できない。よって双方の増粘剤の利点を活かすためには、セルロース誘導体を第2の工程で添加する必要がある。セルロース誘導体を第2の工程で加えることにより、付与する剪断力を適正化して良質な流動性と分散性とが両立した正極合剤ペーストを作製できるので、放電特性などの電池特性が良好なアルカリ蓄電池用正極を得ることができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明を前提として、第1の工程において糖質Aを添加することを特徴とする。図1は第2の発明のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法を示すフローチャートである。第1の工程として、活物質(水酸化ニッケル粉末)および糖質Aを、適宜用いる添加剤(導電剤であるコバルト化合物など)とともに適量の水を加えて混練する。引続き第2の工程として、第1の工程の混練物にセルロース誘導体と適量の水とを加えて混練する。第2の発明の特徴は、糖質Aの増粘作用を活用して活物質や添加剤などの粉末の分散性を高めることにある。この正極合剤ペーストを用いて作製するアルカリ蓄電池用正極の密着性を高める場合、第3の工程として第2の工程の混練物に粒子状の結着剤を加えることになる。この粒子状の結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと略記)などのディスパージョンを選択することができる。またセルロース
誘導体および糖質Aは、あらかじめ水に溶解させて水溶液として用いてもよい。
【0014】
第3の発明は、第1の発明を前提として、第2の工程において糖質Aを添加することを特徴とする。図2は第3の発明のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法を示すフローチャートである。第1の工程として、活物質(水酸化ニッケル粉末)を、適宜用いる添加剤(導電剤であるコバルト化合物など)とともに適量の水を加えて混練する。引続き第2の工程として、第1の工程の混練物に糖質Aとセルロース誘導体と適量の水とを加えて混練する。第3の発明の特徴は、糖質Aとセルロース誘導体とを同時に投入して混練することにより、糖質Aの増粘効果を最大限に引き出せるのでその添加量を低減し、アルカリ蓄電池の放電特性を向上させることにある。なお第2の発明と同様に、この正極合剤ペーストを用いて作製するアルカリ蓄電池用正極の密着性を高める場合、第3の工程として第2の工程の混練物にPTFEなどの粒子状の結着剤を加えることになる。またセルロース誘導体および糖質Aは、あらかじめ水に溶解させて水溶液として用いてもよい。
【0015】
第4の発明は、第1の発明を前提として、セルロース誘導体と糖質Aとの重量比を2:1〜1:2としたことを特徴とする。上記比率が2:1を超えてセルロース誘導体の重量比率が高くなると、糖質Aの増粘効果が十分に発揮されず、正極合剤ペーストがやや沈降しやすくなる。逆に上記比率が1:2を超えて糖質Aの重量比率が高くなると、セルロール誘導体の効果が十分に発揮されず、正極合剤ペーストの流動性が若干低下する。
【0016】
第5の発明は、第1の発明を前提として、水酸化ニッケル粉末100重量部に対し、セルロース誘導体と糖質Aとの合計を0.05〜0.5重量部としたことを特徴とする。セルロース誘導体と糖質Aとの合計が0.05重量部未満であると上述した増粘剤の効果が発揮されにくくなり、セルロース誘導体と糖質Aとの合計が0.5重量部を超えて添加量が過多になると電極の反応抵抗が大きくなって充放電反応を妨げ、特に放電特性が若干低下する。
【0017】
第6の発明は、第1の発明を前提として、セルロース誘導体をカルボキシメチルセルロース(以下、CMCと略記)およびその変性体としたことを特徴とする。CMCはセルロース誘導体の中でも比較的柔軟性が高いので、少量の添加でペーストの流動性をもたせる効果が大きいために特に好ましい。なおCMCの変性体としては、エーテル化した部分をナトリウム塩およびアンモニウム塩にしたものが挙げられる。
【0018】
第7の発明は、第1の発明を前提として、糖質Aをキサンタンガムとしたことを特徴とする。キサンタンガムはグルコースの結合による主鎖部分と、マンノースなどからなる側鎖部分とから成るので、糖質Aの中でもアルカリ水溶液(アルカリ蓄電池の電解液)の中で比較的安定で増粘効果が大きいという観点から特に好ましく、比重の大きな添加剤を加えた場合でも正極合剤ペーストの沈降を抑制することができる。
【0019】
第8の発明は、第1〜7の発明のいずれかのアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法によって得られたアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストを用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池用正極に関する。図1あるいは図2に示すフローチャートに基づいて作製された正極合剤ペーストを、発泡ニッケル三次元多孔体などの芯材に塗布あるいは充填してこれを乾燥・圧延・切断することにより、第8のアルカリ蓄電池用正極が作製される。
【0020】
ここで図1〜2に示した添加剤について詳述する。第8のアルカリ蓄電池用正極の導電性を高めるために、導電剤としてコバルト化合物(金属コバルトや水酸化コバルト)などの導電剤を加えることができる。また第8のアルカリ蓄電池用正極の高温特性を高めるために、酸化イットリウムや酸化イッテルビウムなどの希土類酸化物などを加えることができる。
【0021】
第9の発明は、第8の発明のアルカリ蓄電池用正極を用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池に関する。安定かつ大量に作製できる第8の発明のアルカリ蓄電池用正極を用いることで、高出力なアルカリ蓄電池が実現できる。
【0022】
以下に第9の発明のアルカリ蓄電池について詳述する。第8の発明のアルカリ蓄電池用正極と負極とを、セパレータを介して対峙させた電極群をケースに挿入し、アルカリ電解液を注入した後、封口板を用いて封口することにより構成される。
【0023】
ここで負極として、Ni/MHの場合は水素吸蔵合金を活物質として用い、これにカーボンブラックなどの導電剤と、必要に応じてCMCなどの増粘剤やスチレン−ブタジエン共重合体(以下、SBRと略記)などの結着剤を適量加えてペーストにし、これをパンチングメタルなどの二次元多孔体からなる芯材に塗布したものを用いることができる。またニカド電池の場合はカドミウム化合物を活物質として用い、これを主成分とするペーストをパンチングメタルなどの二次元多孔体からなる芯材に塗布したものを用いることができる。
【0024】
またセパレータとして、ポリプロピレンなどのポリオレフィンからなる不織布を用いることができる。なおこの不織布は、アルカリ電解液との親和性を高めるためにスルホン化処理などの親水化処理がなされているのが好ましい。
【0025】
上述したアルカリ蓄電池用正極、負極およびセパレータを帯状に構成して捲回した場合、渦巻状の電極群が構成される。また複数のアルカリ蓄電池用正極、負極およびセパレータを積層した場合、略矩形の積層型電極群が構成される。
アルカリ電解液は、KOHとNaOHとLiOHとを適宜混合して溶解させた水溶液を用いることができる。また異常時に多量に発生した内部ガスを放出させる安全弁と、正極あるいは負極のいずれかの端子部を、封口板に備えさせることができる。
【0026】
以下に実施例をあげて、本発明を更に詳しく説明する。
【実施例1】
【0027】
(実施例1−1)
図1に沿って、第1の工程として水酸化ニッケル粉末、添加物である水酸化コバルト粉末および酸化イットリウム粉末、糖質Aであるキサンタンガム粉末を適量の純水とともにプラネタリーミキサーを用いて混練し(混練時間20分、回転速度50rpm)、第1の混練物を作製した。この第1の混練物に、第2の工程としてセルロース誘導体であるCMC(第一工業製薬製EP:品番)の3重量%水溶液を加え、回転速度2500rpmで4分間練合撹拌し、第2の混練物を作製した。さらにこの第2の混練物に、PTFEの35%水分散液(第一工業製薬製D−1:商品名)を加えて攪拌することにより、正極合剤ペーストを作製した。具体的な固形分比は、水酸化ニッケル粉末100重量部に対して水酸化コバルト粉末が11重量部、酸化イットリウム粉末が0.5重量部、CMCが0.1重量部、キサンタンガムが0.2重量部、PTFEが0.1重量部であった。なおCMCとキサンタンガムとの重量比は1:2、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計は0.3重量部であった。また正極合剤ペーストの含水率は30%であった。これを実施例1−1とする。
【0028】
(実施例1−2)
図2に沿って、第1の工程として水酸化ニッケル粉末、添加物である水酸化コバルト粉末および酸化イットリウム粉末を適量の純水とともにプラネタリーミキサーを用いて混練し(混練時間20分、回転速度50rpm)、第1の混練物を作製した。この第1の混練
物に、第2の工程として実施例1−1と同様のCMC水溶液およびキサンタンガムを加え、回転速度2500rpmで4分間練合撹拌し、第2の混練物を作製した。さらにこの第2の混練物に、実施例1−1と同様のPTFEの水分散液を加えて攪拌することにより、正極合剤ペーストを作製した。具体的な固形分比は、水酸化ニッケル粉末100重量部に対して水酸化コバルト粉末が11重量部、酸化イットリウム粉末が0.5重量部、CMCが0.1重量部、キサンタンガムが0.1重量部、PTFEが0.1重量部であった。なおCMCとキサンタンガムとの重量比は1:1、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計は0.2重量部であった。また正極合剤ペーストの含水率は30%であった。これを実施例1−2とする。
【0029】
(実施例1−3〜1−6)
実施例1−1に対し、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するキサンタンガムの固形分比を0.1重量部(実施例1−3)、0.22重量部(実施例1−4)、0.05重量部(実施例1−5)、0.03重量部(実施例1−6)とし、CMCとキサンタンガムとの重量比を1:1(実施例1−3)、1:2.2(実施例1−4)、2:1(実施例1−5)、3.3:1(実施例1−6)とし、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計を0.2重量部(実施例1−3)、0.32重量部(実施例1−4)、0.15重量部(実施例1−5)、0.13重量部(実施例1−6)とした以外は、実施例1−1と同様にして作製した正極合剤ペーストを実施例1−3〜1−6とする。
【0030】
(実施例1−7〜1−8)
実施例1−1に対し、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCの固形分比を0.025重量部とした上で、キサンタンガムの固形分比を0.025重量部(実施例1−7)および0.02重量部(実施例1−8)とし、CMCとキサンタンガムとの重量比を1:1(実施例1―7)および1.25:1(実施例1−8)とし、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計を0.05重量部(実施例1−7)および0.045重量部(実施例1−8)とした以外は、実施例1−1と同様にして作製した正極合剤ペーストを実施例1−7〜1−8とする。
【0031】
(実施例1−9)
実施例1−7に対し、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCの固形分比を0.02重量部とし、CMCとキサンタンガムとの重量比を1:1.25とし、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計を0.045重量部とした以外は、実施例1−7と同様にして作製した正極合剤ペーストを実施例1−9とする。
【0032】
(比較例1−1)
図3に沿って、第1の工程として水酸化ニッケル粉末、添加物である水酸化コバルト粉末および酸化イットリウム粉末、CMC粉末を適量の純水とともにプラネタリーミキサーを用いて混練し(混練時間20分、回転速度50rpm)、第1の混錬物を作製した。この第1の混錬物に、第2の工程としてキサンタンガムおよび適量の水を加え、回転速度2500rpmで4分間練合撹拌し、第2の混練物を作製した。さらにこの第2の混練物に、実施例1−1と同様のPTFEの水分散液を加えて攪拌することにより、正極合剤ペーストを作製した。なお正極合剤ペーストの組成は実施例1−1と同様であった。これを比較例1−1とする。
【0033】
(比較例1−2)
図4に沿って、キサンタンガムを添加せずに第1の工程によって第1の混練物を作製し(混練時間20分、回転速度50rpm)、この第1の混練物を経た正極合剤ペーストを活用して実施例1−1と同様の正極合剤ペーストを作製した。これを比較例1−2とする

【0034】
(比較例1−3)
図5に沿って、第2の工程を経ずに作製した正極合剤ペーストを活用して実施例1−1と同様の正極合剤ペーストを作製した。これを比較例1−3とする。
【0035】
以上の各例に対し、以下のペースト物性評価を行った。結果を(表1)に示す。
【0036】
(ペースト粘度測定)
粘度測定にはB型粘度計を用いた。正極合剤ペーストに粘度計のローターを浸し、ローターの回転速度2rpmおよび20rpmでの粘度(mPa/s)を測定した。また正極合剤ペーストの流動性の指標として、20rpmでの粘度に対する2rpmでの粘度の比(以下、粘度比と称する)を求めた。
【0037】
(ペースト放置試験)
100mlの正極合剤ペーストを底面の直径が5cm、高さが10cmの円筒容器に150cc入れ、常温で24時間放置した後に上澄み液の量をスポイトで抜き取り、重量を測定した。この時の上澄み液の量を水分離量として、正極合剤ペーストの耐沈降性の指標にした。
【0038】
【表1】

図3のようにCMCを先に投入して混練した比較例1−1の正極合剤ペーストは、CMCの鎖状構造が分断された後でキサンタンガムに取り込まれるので十分な効果を発揮できず、流動性が低下する正極合剤ペーストが得られる結果となった。また図4のようにCMCのみでキサンタンガムを投入しない比較例1−2は粘度比が3以上であっても、水分離量の著しく大きい耐沈降性の悪いペーストが得られる結果となった。さらに図5のようにキサンタンのみでCMCを投入しない比較例1−3は、粘度比が顕著に高く流動性の悪い正極合剤ペーストが得られる結果となった。
【0039】
一方、本発明の製造方法(図1および2)に沿って作製した実施例1−1〜1−9の正極合剤ペーストはいずれも粘度比が5以下という優れた流動性を示す上に、耐沈降性も比較的良好な結果となった。このように良好な性状を有する正極合剤ペーストは、芯材に塗布あるいは充填する際の均一性が向上する。
【0040】
しかしながら糖質Aであるキサンタンガムの量を0.03重量部に減らした実施例1−
6は、糖質Aの効果である増粘作用による耐沈降性が低下するため、ペーストの水分離量が比較的顕著に増加した。一方、キサンタンガムの量を0.22重量部に増やした実施例1−4は、ペースト粘度比が大きくなり、ペースト流動性が若干低下した。よってCMCに代表されるセルロース誘導体と、キサンタンガムに代表される糖質Aとの重量比は、1:2〜2:1であることが好ましい。
【0041】
また、CMCとキサンタンガムの合計量が0.045重量部である実施例1−8および1−9では増粘剤の効果が発揮されにくく、ペースト水分離量がやや増加し、耐沈降性が比較的低下する結果となった。よってCMCに代表されるセルロース誘導体と、キサンタンガムに代表される糖質Aとの合計量は水酸化ニッケル100重量部に対して、0.05重量部以上であることが好ましい。
【実施例2】
【0042】
(実施例2−1)
実施例1−1に対し、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCの添加量を0.2重量部、キサンタンガムの固形分比を0.3重量部とし、CMCとキサンタンガムとの重量比を1:1.5、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計を0.5重量部とした以外は、実施例1−1と同様にして作製した正極合剤ペーストを実施例2−1とする。
【0043】
(実施例2−2)
実施例1−1に対し、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCの添加量を0.2重量部、キサンタンガムの固形分比を0.4重量部とし、CMCとキサンタンガムとの重量比を1:2、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計を0.6重量部とした以外は、実施例1−1と同様にして作製した正極合剤ペーストを実施例2−2とする。
【0044】
(実施例2−3)
実施例1−1に対し、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCの添加量を0.3重量部、キサンタンガムの固形分比を0.2重量部とし、CMCとキサンタンガムとの重量比を1.5:1、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計を0.5重量部とした以外は、実施例1−1と同様にして作製した正極合剤ペーストを実施例2−3とする。
【0045】
(実施例2−4)
実施例1−1に対し、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCの添加量を0.4重量部、キサンタンガムの固形分比を0.2重量部とし、CMCとキサンタンガムとの重量比を2:1、水酸化ニッケル粉末100重量部に対するCMCとキサンタンガムとの合計を0.6重量部とした以外は、実施例1−1と同様にして作製した正極合剤ペーストを実施例2−4とする。
【0046】
以上の各例に対し、実施例1と同様のペースト物性評価を行った。またこれら実施例2−1〜2−4と、実施例1−1および1−3の正極合剤ペーストについては、芯材である発泡状ニッケル多孔体へ充填し、乾燥および加圧後に幅35mm、長さ220mm、厚み0.6mmに切断して、2800mAhの理論容量を持つアルカリ蓄電池用正極を作製した。さらにこの正極と水素吸蔵合金を使用した理論容量4200mAhの負極との間に介入させたスルホン化ポリプロピレンセパレータを渦巻状に捲回して電極群を作製し、この電極群を、負極端子を兼ねるケースに挿入した後、比重が1.26である水酸化カリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化リチウムからなるアルカリ電解液を正極容量に対して1.8ml/Ahの割合で注入し、Ni/MHを作製し、以下の電池放電特性評価を行った
。結果を(表2)に示す。
【0047】
(電池放電特性)
各例のNi/MHを24時間放置した後、25℃雰囲気下で以下に示す初充放電および10サイクルの活性化充放電を行い、その後に内部抵抗試験を行った。
初充放電条件:
充電−280mAにて15時間(充電後に1時間放置)
放電−900mAにて1.0Vに達するまで
活性化充放電条件:
充電−1400mAにて2時間30分
放電−2800mAにて1.0Vに達するまで
内部抵抗試験:
充電ー1400mAにて1時間
放電−2800mAにて20秒、休止5分、充電ー2800mAにて20秒、休止5分
放電−8400mAにて20秒、休止5分、充電ー8400mAにて20秒、休止5分
放電−14000mAにて20秒、休止5分、充電ー14000mAにて20秒、休止5分
放電−19600mAにて20秒、休止5分、充電ー19600mAにて20秒、休止5分
内部抵抗試験における4種の電流値と放電10秒後の電圧の関係から、オームの法則に基づいて直流の内部抵抗(DCIR)を算出した。
【0048】
【表2】

実施例1−1より増粘剤を減量した実施例1−3では、DCIRが実施例1−1より低くなった。また、実施例1−1より増粘剤を増量した実施例2−1〜2−4は、いずれもDCIRが実施例1−1より高くなったが、特にCMCとキサンタンガムの合計量が0.5重量部以上になるとDCIRが顕著に増加する結果となった。よって増粘剤の合計量は、水酸化ニッケル100重量部に対して0.5重量部以下であることが好ましく、先に述べた耐沈降性の観点も含めて、増粘剤の合計量の範囲は0.05〜0.5重量部であることが好ましい。
【0049】
以上、糖質Aとセルロース誘導体とを含むアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストを作製する場合、水酸化ニッケル粉末と添加剤粉末と糖質Aと水とを混練する第1の工程と、第1の工程の混練物と前記セルロース誘導体水溶液とを混練する第2の工程を設けることにより、良質な正極合剤ペーストが得られるのみでなく、その量を適正化することにより、放電特性の優れたアルカリ蓄電池用正極を得られることがわかる。
【0050】
本実施例では糖質Aとしてキサンタンガムを、セルロース誘導体としてCMCについて効果的に作用していることを示したが、その他の糖質Aやセルロース誘導体を用いた場合でも、本発明と同様の効果が得られている。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明にかかる製造方法によれば、アルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの安定化によってアルカリ蓄電池用正極の生産性を向上する上に、増粘剤の量を適度に減らして電池の放電特性が向上できる。よってあらゆる機器の電源として利用可能性は高く、その効果は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法の一例を示すフローチャート
【図2】本発明のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法の一例を示すフローチャート
【図3】従来のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法の一例を示すフローチャート
【図4】従来のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法の一例を示すフローチャート
【図5】従来のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法の一例を示すフローチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化ニッケル粉末を活物質とし、水を溶媒とし、単糖類を含む直鎖と飽和6員環構造を含む側鎖とからなる糖質とセルロース誘導体とを増粘剤として用いるアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法であって、
前記水酸化ニッケル粉末を混練する第1の工程と、
前記第1の工程の混練物とセルロース誘導体とを混練する第2の工程とからなることを特徴とするアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項2】
前記第1の工程において前記糖質を添加することを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項3】
前記第2の工程において前記糖質を添加することを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項4】
前記セルロース誘導体と前記糖質との重量比を2:1〜1:2としたことを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項5】
前記水酸化ニッケル粉末100重量部に対し、前記セルロース誘導体と前記糖質との合計を0.05〜0.5重量部としたことを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項6】
前記セルロース誘導体をカルボキシメチルセルロースおよびその変性体としたことを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項7】
前記糖質をキサンタンガムとしたことを特徴とする、請求項1記載のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストの製造方法によって得られたアルカリ蓄電池用正極合剤ペーストを用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のアルカリ蓄電池用正極を用いたことを特徴とするアルカリ蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−324075(P2007−324075A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155747(P2006−155747)
【出願日】平成18年6月5日(2006.6.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】