説明

アルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法及び溶融装置

【課題】アルカリ金属珪酸塩の原料を溶融するに際し、硫黄酸化物の発生を極力抑えつつ、重油を使用したときと同程度の溶融状態を達成すること。
【解決手段】硫黄成分の濃度が5ppm以下の燃料を、加熱された燃焼用エアの一部と接触させてバーナー中心部から火炎を形成すると共に、該バーナー中心部の外周から、該加熱された燃焼用エアの残部を供給し、二酸化珪素及びアルカリ金属炭酸塩を含むアルカリ金属珪酸塩原料混合物を該火炎に向けて供給して加熱溶融する工程を有するアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法及び溶融装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属珪酸塩の一般的な製造方法は、例えば珪酸ナトリウムの場合、珪砂と炭酸ナトリウムとを混合して加熱することにより得ることができる(例えば特許文献1及び2を参照)。従来、この加熱操作は、重油を燃焼させることにより溶融炉内の温度を高温にして実施されていた。これは、珪砂及び炭酸ナトリウムの溶融温度が共に高いため、輻射強度の高い重油を用いることで珪砂及び炭酸ナトリウムの溶融を確実にするためである。
【0003】
しかし、重油を用いることで溶融炉や環境に大きな負担が強いられることが問題となっていた。すなわち、重油に含まれている硫黄成分が燃焼により硫黄酸化物となり、この硫黄酸化物が溶融炉材を侵食するために溶融炉材の劣化が激しいこと等から、溶融炉の寿命が短くなること、また、該硫黄酸化物を含む排ガスが溶融炉から多量に放出されるため、その処理に手間がかかることも問題となっていた。
【0004】
上記問題は、硫黄成分を実質的に含まない天然ガスを使用することにより解決できるが、天然ガスは輻射強度が低いため、溶融炉内を高温にすることができない欠点があった。これを改善するために、例えば特許文献3では、予熱された原料ペレットをバーナーの炎の中で溶融させた後、加圧ガス媒体によりタンク内のガラス溶融体中へ噴射することにより、ガラス溶融体上にベール状浮遊層を形成させ、該浮遊層が実質的にガラス溶融体の全表面とバーナーのほぼ全ての炎上に広がるようにすることでガラスを溶融する方法が記載されている。また、特許文献4では、ガスバーナの主ガスノズルから補助ガスノズルを分岐して、補助ガスノズルからは主ガスノズルから噴出する主炎よりも火炎長の短い補助炎を噴出するようにすること、及び、予熱された燃焼用空気と燃料ガスとを互いに噴出させることにより接触させて拡散燃焼により長い火炎を形成させることにより輻射強度を上げることが記載されている。更に、特許文献5では、加熱気相雰囲気に熱プラズマや天然ガス−酸素燃焼炎を使用して混合ガラス原料を分解反応温度以上に加熱した後、溶融したガラス原料をガラス融液上に降下させて溶解させることが記載されている。
【0005】
このように熱源装置の改良や、原料供給方法の工夫により原料の溶融をより確実にすることが提案されているが、重油で燃焼したときと同じような溶融状態が達成されているとは言い難かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭33−157号公報
【特許文献2】特開平10−101325号公報
【特許文献3】特開昭53−59713号公報
【特許文献4】特開平8−133747号公報
【特許文献5】特開2006−199549号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、アルカリ金属珪酸塩の原料を溶融するに際し、硫黄酸化物の発生を極力抑えつつ、重油を使用したときと同程度の溶融状態を達成することのできる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、硫黄成分を実質的に含まない燃料を用い、アルカリ金属珪酸塩原料が供給される火炎近傍において温度降下を生じさせないように燃焼用エアの供給方法を工夫することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、硫黄成分の濃度が5ppm以下の燃料を、加熱された燃焼用エアの一部と接触させてバーナー中心部から火炎を形成すると共に、該バーナー中心部の外周から、該加熱された燃焼用エアの残部を供給し、二酸化珪素及びアルカリ金属炭酸塩を含むアルカリ金属珪酸塩原料混合物を該火炎に向けて供給して加熱溶融する工程を有することを特徴とするアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、硫黄酸化物の発生を極力抑えつつ、重油を使用したときと同程度の溶融状態を達成することのできるアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法を提供することができる。本発明は、硫黄酸化物の発生が抑えられ、溶融炉及びその他の装置の劣化を防ぐことができ、また、排ガス処理の手間を省くこともできるので、環境に配慮した方法であると言える。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法に使用する装置の模式側断面図である。
【図2】本発明に係るアルカリ金属珪酸塩原料の溶融装置で使用するバーナーの模式断面図である。
【図3】本発明に係るアルカリ金属珪酸塩原料の溶融装置で使用するバーナーの模式正面図である。
【図4】実施例1、比較例1〜3及び参考例1における溶融炉内の温度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法の一実施形態について、図1及び図2に基づいて説明する。図1は、本発明のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法に使用する装置の模式側断面図であり、図2は、図1の装置で使用するバーナーの模式断面図である。
図1において、アルカリ金属珪酸塩原料混合物は、溶融装置内のバーナー1により形成された火炎3に向けて原料混合物供給手段2から供給される。火炎3に向けて供給された原料混合物は、加熱されてアルカリ金属珪酸塩の溶融物4となり、アルカリ金属珪酸塩の溶融物4は溶融物排出口5から排出される。溶融装置内で生成した燃焼排ガスは、燃焼排ガス排出口6から排出され、熱交換器7へと導入される。熱交換器7では、燃焼排ガスの廃熱と燃焼用エアとの熱交換により燃焼用エアが加熱される。加熱された燃焼用エアはバーナー1へと供給される。熱交換後の燃焼排ガスは排ガス処理装置で処理される。また、本発明の溶融装置では、図1に示されるように、燃焼排ガス排出口6の手前で炉の天井が低くなるように構成されている。これは、溶融炉内の熱が系外に排出されにくくするためである。
【0013】
バーナー1に供給された加熱燃焼用エアは、図2に示されるように、仕切り8により分岐されて、その一部が炎孔9に供給されると共に、残部がエア供給路10に導入される。炎孔9に供給された燃焼用エア(以下、一次加熱エアと呼ぶことがある)は、燃料と接触して着火することにより火炎3を形成する。エア供給路10に導入された燃焼用エア(以下、二次加熱エアと呼ぶことがある)は、バーナー1の炎孔9の外周に設けられたエア供給口11から火炎3の近傍に供給される。このように加熱された燃焼用エアが火炎3の根元近傍に供給されることで、火炎3の温度降下が生じにくくなっている。
また、バーナー1の中心部の炎孔9の外周に設けられたエア供給口11の形状は、特に限定されるものではないが、溶融炉内の温度分布をより均一にするという観点から、図3に示されるような二次加熱エアを旋回流として供給できるような形状とすることが好ましい。
【0014】
燃料には、燃焼しても一酸化硫黄(SO)、二酸化硫黄(SO)、三酸化硫黄(SO)等の硫黄酸化物(SO)を発生しない、又は発生したとしても検出限界以下であるものを用いる。そのような燃料としては、硫黄成分の濃度が5ppm以下、好ましくは3ppm以下、特に好ましくは0ppmである燃料を用いることができる。具体的には、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)、又は、脱硫黄処理を施した燃料等が挙げられる。これらの中でも、液化天然ガスが好ましい。メタンを主成分とする天然ガスは、通常、水、硫黄酸化物、硫化水素、窒素化合物等の不純物を含有しているが、液化の過程で、このような不純物が除去されるため、液化天然ガスは、燃焼しても硫黄酸化物を発生しない燃料として好適である。
燃料の燃焼により発生する硫黄酸化物は、5ppm以下であることが好ましく、3ppm以下であることが更に好ましく、実質的に発生しないことが最も好ましい。この数値を満たすことで、溶融炉及びその他の装置の劣化を防ぐことができる。
【0015】
また、燃焼しても、燃料中の窒素化合物に由来する一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(NO)、三酸化二窒素(N)、四酸化二窒素(N)、五酸化二窒素(N)等の窒素酸化物(NO)を発生しない、又は発生したとしても検出限界以下であるという条件を満たす燃料を用いることも好ましい。そのような燃料としては、窒素成分の濃度が好ましくは150ppm以下、更に好ましくは60ppm以下のものが挙げられる。具体的には、前記した液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)等を挙げることができる。
窒素酸化物は、一般的に、物質が燃焼することにより空気中の窒素と反応して発生する場合と、物質中の窒素化合物を由来として発生する場合が考えられる。本発明においては、光化学スモッグや酸性雨などを引き起こす大気汚染原因物質である窒素酸化物を極力発生させないために、燃料中の窒素成分の濃度が150ppm以下、更には60ppm以下である燃料を用いることが好ましい。この数値を満たすことで排ガス処理の手間を省くことができる。
【0016】
火炎3で加熱された原料混合物の温度は、好ましくは900〜1500℃、特に好ましくは950〜1450℃であり、加熱時間は、好ましくは12〜72時間、特に好ましくは24〜48時間である。原料混合物の温度及び加熱時間が上記範囲にあることにより、均一なアルカリ金属珪酸塩の溶融物を得ることができる。従って、原料混合物の供給位置は、原料混合物の温度が上記範囲となるような位置であればよい。また、原料混合物供給手段2は、特に限定されるものではないが、例えば、シュート管から落下させる等が挙げられる。
液化天然ガスを原料混合物の加熱に用いる場合、バーナー1の先端から500mmの位置における温度が好ましくは1300〜1700℃、更に好ましくは1350〜1600℃となるように液化天然ガスを燃焼させる。この範囲の温度にすることで、前記した原料混合物の温度、即ち、好ましくは900〜1500℃、特に好ましくは950〜1450℃を達成することができる。
【0017】
一般的に、液化天然ガスを燃焼させてバーナー1の先端から500mmの位置における温度を上記範囲、即ち、好ましくは1300〜1700℃、更に好ましくは1350〜1600℃を達成することは困難である。これは、液化天然ガスの燃焼により生ずる火炎の輻射強度が低く、また、火炎の根元は未燃焼部分が多いため、この部分の温度が低下することに加え、常温の原料混合物の供給により、加熱の初期温度が低下することによる。
【0018】
この初期温度の低下を抑制するために、本発明においてはバーナー1に加熱された燃焼用エアを供給している。この燃焼用エアの温度は100〜1500℃であることが好ましく、100〜1200℃であることが更に好ましい。この温度範囲の燃焼用エアを供給することにより初期温度の低下を抑制することができる。液化天然ガスを初めとする燃料は、エアを混合することにより燃焼するが、この燃焼用エアを加熱して供給することにより、火炎の根元の温度低下を抑えることができ、更には初期温度の低下を抑制することができる。
【0019】
先に説明したように、バーナー1に供給された燃焼用エアは、仕切り8により分岐されて、その一部が一次加熱エアとして炎孔9に供給されると共に、残部はエア供給路10を通ってエア供給口11から火炎3の近傍に二次加熱エアとして供給される。一次加熱エアは、好ましくは100〜1500℃、更に好ましくは100〜1200℃に加熱されているため、燃料着火のための酸素源として、火炎3を効率良く形成させることができる。その結果、高温で効率良く原料混合物を加熱溶融することができる。なお、本実施の形態では、一次加熱エアの供給は、炎孔9に供給して行ったが、燃料と接触させることができればどのような形態であってもよい。二次加熱エアは、(1)火炎3の根元の温度低下を抑える、(2)常温の原料混合物を予熱する、(3)溶融炉内の気相雰囲気を効率良く循環させ、溶融炉内の温度の均一化を図る、(4)火炎3近傍の空気の更新が行われるため、二酸化炭素の除去及び酸素の供給により燃焼を促進する等の役割を有し、その結果として初期温度の低下が抑えられる。なお、本実施の形態では、二次加熱エアの供給は、エア供給口11から行ったが、火炎3の根元近傍に供給されればどのような形態で供給してもよい。
一次加熱エアと二次加熱エアとの合計供給量は、燃料の燃焼に必要な理論空気量を基準として、溶融装置の炉内温度に合わせて適宜調節すればよい。一次加熱エアと二次加熱エアとの割合は、特に限定されるものではないが、一次加熱エアの供給量は失火が起こらない程度であればよい。好ましくは、一次加熱エアの供給量は、一次加熱エアと二次加熱エアとの合計供給量の10〜30%の範囲とする。
【0020】
本実施の形態では、燃焼排ガスの廃熱と燃焼用エアとの熱交換により、加熱された燃焼用エアを得ているが、燃焼用エアの温度を、好ましくは100〜1500℃、更に好ましくは100〜1200℃となるように加熱できればどのような手段を採用してもよく、例えば、ガス、油等の燃料を燃焼させたり、電熱を利用することができる。
【0021】
これらの中でも、燃焼排ガスの廃熱を利用する方法が、省エネルギーの観点から好ましい。廃熱の利用方法としては、廃熱とフレッシュエアとを、二重管式、スパイラル式、プレート式、静止型、回転再生式、周期流蓄熱式等の熱交換器を利用して熱交換する方法を挙げることができる。
【0022】
また、本発明では、燃焼排ガスを燃焼用エアとして利用することもできる。この排ガスを利用する方法は、廃熱を含むエアであるため、バーナー1を通して再び溶融炉内へ導入することにより、エネルギーの循環が行われるので、環境に配慮した方法となる。この際、一次加熱エアにおいては燃焼に必要な特定量の酸素が必要になるため、必要に応じてフレッシュエア又は酸素を混合してもよい。
【0023】
バーナー1に供給される加熱された燃焼用エア中には、硫黄酸化物(SO)や窒素酸化物(NO)が極力含まれていないことが好ましい。これは、硫黄酸化物や窒素酸化物により、溶融炉、配管、熱交換器等の素材が劣化してしまうのを防ぐためである。この観点から、燃焼用エア中に硫黄酸化物は5ppm以下であることが好ましく、0ppmであることが更に好ましく、また、燃焼用エア中に窒素酸化物は150ppm以下であることが好ましく、60ppm以下であることが更に好ましい。
【0024】
火炎3に向けて供給される原料混合物は、アルカリ金属珪酸塩の原料となる二酸化珪素及びアルカリ金属炭酸塩を混合することにより得られる。
二酸化珪素(SiO)としては、特に制限されず、例えば、珪石、珪砂、溶融シリカ、無定形シリカ、シリカゾル等のSiOを主成分とする材料が挙げられる。二酸化珪素のうち、安価で取り扱いが容易である点で、珪砂が好ましい。
アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属炭酸塩は市販のものであってもよく、反応させることにより得られるものであってもよい。
【0025】
原料の溶融を促進させる観点から、アルカリ金属珪酸塩原料混合物にアルカリ金属水酸化物を添加することが好ましい。アルカリ金属水酸物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ金属水酸化物は市販のものであってもよく、反応させることにより得られるものであってもよい。また、アルカリ金属水酸化物は、ペレット、フレーク、粉体等の固体であっても、水溶液とした液体であってもよい。
アルカリ金属水酸化物を添加する場合、添加量が多すぎると未反応のアルカリ金属水酸化物が得られる溶融物4中に残存し、これが溶融炉材の侵食を引き起こす虞があるため、アルカリ金属水酸化物の添加量は極力少なくすることが好ましい。例えば、二酸化珪素、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属水酸化物を原料混合物とした場合、アルカリ金属水酸化物の添加量は該原料混合物に対して15重量%以下であることが好ましく、6重量%以下であることが更に好ましい。アルカリ金属水酸化物の添加量の下限は、原料の溶融を促進させるバインダーの効果を得られる量、例えば0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上である。
【0026】
原料混合物の混合比率は、得られるアルカリ金属珪酸塩の溶融物のSiO/MO(Mはアルカリ金属を示す。)のモル比が、好ましくは0.5〜5.0、特に好ましくは0.5〜3.8となるような混合比率である。なお、Mが2種以上の場合は、それらの酸化物(MO)の合計モル数で、上記モル比を計算する。
【0027】
原料混合物は、混合物中の材料が均一に混合され、かつ、特定範囲の平均粒子径を有する材料となることが好ましい。このような原料混合物は、混合及び粉砕を同時に行うことにより得ることができる。このような方法としては、ビーズミル、ボールミル、サンドミル、ジェットミル、マラー等により混合する方法を挙げることができる。
【0028】
原料混合物の平均粒子径は、100〜500μmであることが好ましく、200〜350μmであることが更に好ましい。この範囲を満たすことにより、原料の溶融を促進することができる。なお、上記平均粒子径は篩分け法により求められる値である。
【0029】
本発明の溶融方法により得られるアルカリ金属珪酸塩の溶融物4は、具体的には、例えば、メタ珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム等のアルカリ金属メタ珪酸塩、オルソ珪酸ナトリウム、オルソ珪酸カリウム等のアルカリ金属オルソ珪酸塩などが挙げられ、メタ珪酸ナトリウムが好ましい。また、アルカリ金属珪酸塩の溶融物4の結晶化度は、特に制限されず、非晶質でもよい。また、アルカリ金属珪酸塩の溶融物4は、含水物、無水物、又は含水物と無水物の混合物であってもよい。また、アルカリ金属珪酸塩の溶融物は、遊離の残存アルカリ金属イオンを0.1重量%以上含有し、好ましくは1重量%以上含有する。
【0030】
本発明の溶融方法により得られるアルカリ金属珪酸塩の溶融物4は、SiO/MO(Mはアルカリ金属)モル比を調節することを目的として水に溶解して水溶液にすることもできる。この水に溶解させる方法としては、特に制限されないが、圧力容器中で、140〜170℃、0.4〜0.7MPaで、好ましくは140〜150℃、0.4〜0.5MPaでアルカリ金属珪酸塩の溶融物4を水に溶解させる方法が挙げられる。
【0031】
また、本発明の溶融方法により得られるアルカリ金属珪酸塩の溶融物4は、適宜、乾燥することもできる。この乾燥は、100〜300℃の温度で、アルカリ金属珪酸塩の溶融物4又はアルカリ金属珪酸塩の水溶液を乾燥することができる。
【0032】
本発明のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法は、液化天然ガス、液化石油ガス等の硫黄成分を実質的に含まない燃料を燃焼させてアルカリ金属珪酸塩の原料混合物を溶融するため、硫黄酸化物の発生を抑えることができる。これは、溶融炉及びその他の装置の劣化を防ぐことができ、排ガス処理の手間を軽減することにつながる。
また、本発明のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法は、火炎の根元近傍に加熱された燃焼用エアを供給することにより、輻射強度の高い重油と同等またはそれ以上の溶融効果を得ることができる。これは、燃焼用エアとして、燃焼排ガスの廃熱又は燃焼排ガスそのものを利用することにより、省エネルギー、排ガス処理の手間を省くことができる等、環境に配慮した方法につながる。
なお、本発明のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法について、横型の溶融炉を用いて説明したが、縦型の溶融炉を用いても本発明の効果は得られる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、例中の硫黄成分の濃度は非分散型赤外線式二酸化硫黄濃度計(富士電機インスツルメンツ(株)社製 ZSUA)により測定した。
【0034】
〔実施例1〕
<原料混合物の調製>
800kgの珪砂(SiOが約99質量%)と、190kgの炭酸ナトリウム(Naが約99重量%)及び2kgの48重量%水酸化ナトリウム水溶液をミックスマラー(新東工業(株)社製、MSF15A-K)により混合して原料混合物を得た。得られた原料混合物の平均粒子径は275μmであった。
<原料混合物の溶融>
図1に示したものと同様の装置において、300℃の一次加熱エアを炎孔に供給しながら硫黄成分の濃度が0ppmの液化天然ガスを燃焼させて火炎を形成すると共に、エア供給口から300℃の二次加熱エアを旋回流として供給した。火炎中に上記原料混合物を供給して加熱溶融させ、溶融物を得た。なお、一次加熱エア及び二次加熱エアは、燃焼排ガスの廃熱を間接接触・向流式熱交換器によりフレッシュエアを加熱したものであり、液化天然ガスの供給量は340Nm/hとし、一次加熱エアの供給量は756Nm/hとし、一次加熱エアと二次加熱エアとの合計供給量は、3780Nm/hとした。このときの溶融炉内の温度分布を図4に示す。
【0035】
〔比較例1〕
300℃の一次加熱エアの代わりに常温のエアを供給し、二次加熱エアを供給しないこと以外は、実施例1と同じ方法で溶融物を得た。このときの溶融炉内の温度を図4に示す。
【0036】
〔比較例2〕
300℃の一次加熱エアの代わりに常温のエアを供給したこと以外は、実施例1と同じ方法で溶融物を得た。このときの溶融炉内の温度を図4に示す。
【0037】
〔比較例3〕
300℃の二次加熱エアを供給しないこと以外は、実施例1と同じ方法で溶融物を得た。このときの溶融炉内の温度を図4に示す。
【0038】
〔参考例1〕
図1に示した装置のバーナーをオイル用バーナー(中外炉工業株式会社製4H−CPB−N6(50°))に変更し、硫黄成分の濃度が2重量%のC重油を燃焼させて火炎を形成すると共に、バーナー近傍から300℃の加熱エアを火炎と略平行に供給した。火炎中に実施例1と同様の原料混合物を供給して加熱溶融させ、溶融物を得た。なお、加熱エアは、燃焼排ガスの廃熱を間接接触・向流式熱交換器によりフレッシュエアを加熱したものである。このときの溶融炉内の温度を図4に示す。
【0039】
(評価)
実施例1、比較例1〜3及び参考例1について、得られた溶融物をブロック状の型に入れて放冷した後、型から取り出してブロック状のガラスとした。このガラスを目視で観察した結果を表1に示す。なお、評価基準は以下のとおりである。
○:未溶解の原料が認められない。
△:未溶解の原料がやや認められる。
×:未溶解の原料が完全に認められる。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、製造時に硫黄酸化物を燃焼排ガスとして排出しないため、環境に配慮した方法で、アルカリ金属珪酸塩原料を溶融することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 バーナー
2 原料混合物供給手段
3 火炎
4 アルカリ金属珪酸塩の溶融物
5 溶融物排出口
6 燃焼排ガス排出口
7 熱交換器
8 仕切り
9 炎孔
10 エア供給路
11 エア供給口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄成分の濃度が5ppm以下の燃料を、加熱された燃焼用エアの一部と接触させてバーナー中心部から火炎を形成すると共に、該バーナー中心部の外周から、該加熱された燃焼用エアの残部を供給し、二酸化珪素及びアルカリ金属炭酸塩を含むアルカリ金属珪酸塩原料混合物を該火炎に向けて供給して加熱溶融する工程を有することを特徴とするアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属珪酸塩原料混合物がアルカリ金属水酸化物を更に含む請求項1に記載のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属珪酸塩原料混合物が破砕混合して得られたものである請求項1又は2に記載のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法。
【請求項4】
前記燃料が液化天然ガスである請求項1〜3の何れか一項に記載のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法。
【請求項5】
前記加熱された燃焼用エアの温度が100〜1500℃である請求項1〜4の何れか一項に記載のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法。
【請求項6】
前記加熱された燃焼用エアが前記加熱溶融工程からの燃焼排ガスにより加熱されたものである請求項1〜5の何れか一項に記載のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法。
【請求項7】
前記加熱された燃焼用エアが前記加熱溶融工程からの燃焼排ガスである請求項1〜5の何れか一項に記載のアルカリ金属珪酸塩原料の溶融方法。
【請求項8】
燃料を燃焼用エアの一部と接触させて火炎を形成する炎孔を中心部に有し、該炎孔の外周に設けられ、燃焼用エアの残部を火炎に供給するエア供給口を有するバーナーと、
前記燃焼用エアをバーナーに供給する前に燃焼排ガスとの熱交換により加熱する熱交換器と、
前記バーナーにより形成された火炎に向けてアルカリ金属珪酸塩原料混合物を供給する原料混合物供給手段と
を備えたことを特徴とするアルカリ金属珪酸塩原料の溶融装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−6705(P2013−6705A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138645(P2011−138645)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】