説明

アルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末及びその製造方法

【課題】 アルカリ電池の電解液にゲル化剤として使用される、亜鉛粉末の分散性や内圧上昇防止などの特性に優れた、不飽和カルボン酸系重合体粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 炭素数3〜5個を有するオレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩を主たる構成単量体とし、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液のブルックフィールド粘度(BH型、No.6ローター、20rpm、測定温度25℃)が15,000mPa・s以上、残存単量体が2,000ppm以下である重合体粉末を、アルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末とする。また、その重合体粉末を、沈殿重合で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルカリ電池の電解液にゲル化剤として使用される、不飽和カルボン酸系重合体粉末と、その製造方法に関するもので、アルカリ電池製造技術やカルボン酸の重合技術に属するものである。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池においては、ゲル化剤を用いて、亜鉛粉末を分散させたゲル状負極が広く用いられており、これらゲル状負極の改良に関する提案も種々なされている。
【0003】
たとえば、特開平6−349484号公報(以下、特許文献1)では、高吸水性樹脂とアルカリ電解液とを混合して膨潤液を調製すると共に、亜鉛粉とゲル化剤とアルカリ電解液とを混合して混合物を調製した後、これら膨潤液と混合物とを混合する(請求項1)という、アルカリ電池用ゲル状負極の製造方法が提案されている。
上記製造方法において使用されるゲル化剤として、特許文献1では、亜鉛粉60重量%とポリアクリル酸(ゲル化剤)0.5重量%とを乾式混合し、これに前記膨潤液を混合し、更にアルカリ電解液を全量で39重量%になるように混合してゲル状負極を製造すること(段落番号0011)が示されている。
【0004】
特許文献1における提案では、ゲル化剤として、ポリアクリル酸を使用することを開示しているが、そのポリアクリル酸の詳細については明確にしていない。
一方、特開平7−65818号公報(以下、特許文献2)においては、以下のように2種類のアクリル酸系重合体を使用するアルカリ電池が提案され、それらの特性についても開示がなされている。
すなわち、請求項1の記載によれば、
アルカリ電解液とゲル化剤とからなるゲル状電解液に、亜鉛粉末を分散させたゲル状負極において、
ゲル化剤として温度25℃における0.5重量%水溶液分散粘度が15,000 cps以上で、かつその粒径が100〜900ミクロンを主としたものであるカルボン酸塩基を有する架橋ポリアクリル酸塩型吸水性ポリマーと、
温度25℃における0.5重量%水溶液分散粘度が15,000 cps以上で、かつその粒径が100ミクロン以下を主としたカルボン酸を有する架橋分枝型ポリアクリル酸またはカルボン酸塩基を有する架橋分枝型ポリアクリル酸塩類と
を併用することが開示されている。
【0005】
さらに、特開平2−267863号公報(以下、特許文献3)においては、ゲル化剤として、総量の80重量%以上が粒子径0.1mm以上である塊状重合により合成した高重合度架橋型ポリアクリル酸のアルカリ金属塩粉末を用いることが提案されている。
【0006】
これらの文献に示されるように、ゲル状負極の製造には、ゲル化剤としてポリアクリル酸、具体的には、吸水性ポリアクリル酸や架橋分枝型ポリアクリル酸が用いられている。
また、それらポリアクリル酸の製造も、塊状重合、溶液重合、逆相懸濁重合、沈殿(析出)重合などの公知の方法で広く行われている。
【0007】
たとえば、沈殿(析出)重合、すなわち、単量体は溶解するが、重合体は溶解しない溶剤中で重合を行う方法も、以下のように古くから行われている。
【0008】
すなわち、46年前の公報である特公昭35−8246号公報(以下、特許文献4)には、その特許請求の範囲に、以下のように、沈殿(析出)重合に関しての提案がある。
少なくとも25質量%のα、β不飽和モノオレフィン式モノカルボン酸を含有する単量体材料と、
二つの必須成分として、(1)芳香族炭化水素及び(2)該芳香族炭化水素と混和し、且つそれよりも性質がより極性の溶剤を含む有機溶媒とを一緒にし、しかも、該溶媒中の溶剤(2)の割合を、その中で生成される重合体を少なくとも5%解膨潤させるのに充分とし、そして、前記溶媒中で前記単量体材料の重合を実施することより成る少なくとも25質量%のα、β不飽和モノオレフィン式モノカルボン酸を含有する単量体材料の重合法が開示されている。
【0009】
また、特開平2−258813号公報(以下、特許文献5)には、粉砕しないで10ミクロン以下の粒度を有し、水中におけるその1重量%の形で50,000cps以上のブルックフィールド粘度を有する架橋ポリアクリル酸を製造するための方法であって、ジビニルグリコール架橋剤及び開始剤の存在下で、アセトン、炭素原子数が1〜6個のアルキル基のアルキルアセテート及びそれらの混合物から選択された溶媒中においてアクリル酸モノマーを重合することを含んでなる架橋ポリアクリル酸を得る方法が開示されている。
【特許文献1】特開平 6−349484号公報(特許請求の範囲、段落番号11)
【特許文献2】特開 平7− 65818号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開平 2−267863号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特公昭35− 8246号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平 2−258813号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これらアクリル酸系重合体を用いる目的は、特許文献2や同3に示されている通りである。
たとえば、特許文献3における特定のアクリル酸系重合体の使用は、亜鉛アルカリ電池の負極での水銀の低減に伴い、落下試験において短絡電流が低下する現象を解消することであって、特定のアクリル酸系重合体の使用は、従来の直鎖型ポリアクリル酸のアルカリ金属塩のようなゲル化剤を用いた場合は、落下衝撃時にゲル負極中の亜鉛粒子がランダムに移動し、電子伝導のネットワークが破壊されたまま回復が起り難くなって、落下試験において短絡電流が異常に低下してしまうためである。
【0011】
また、特許文献2における、特定の2種類のアクリル酸系重合体の使用は、放電中に強い振動・衝撃が長時間加わっても耐えるアルカリ電池を提供するためで、それぞれ単独で使用した場合に生じる耐振動性の劣化を改良するものであって、ゲル状負極の中で膨潤した架橋分枝型ポリアクリル酸またはその塩類のゲル化剤は、弾性力が劣るため、衝撃により亜鉛粒子同志の接触が悪くなる欠点、また、放電によって亜鉛粒子が小さくなるため、粒子間に空間ができ、放電中に振動・衝撃を加えると接触性が劣化するという問題点を解消するためである。
【0012】
このように、アルカリ電池用のゲル化剤として、アクリル酸系重合体は広く使用されているものであるが、上記したようにまだまだ完全なものとは言えず、種々の改良が求められておいる。
そのため、ゲル化剤に好適なアクリル酸系重合体、特に、亜鉛粉末の分散性に優れ、ゲル負極における亜鉛粉末の沈降を抑えること、さらには、電池内部でのガス発生による内圧上昇を抑え、電解液の漏洩を発生させないものが求められている。
【0013】
これらの要望に応えるべく、発明者等は、アルカリ電池の電解液中に亜鉛粉末を沈降なく良好に分散させ、かつ、負極ゲル状液体のガス発生を低減した、アルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末を提供することを課題として開発を行った。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者等は、種々検討した結果、アクリル酸系重合体をアルカリ電池用のゲル化剤として選択使用するに際し、アルカリ性のKOH水溶液、特に、強アルカリの34質量%KOH水溶液における粘度が重要な因子となり、また、ガス発生による内圧防止には、アクリル酸系重合体中に残存する単量体の低下が効果的であることを見い出して、この発明を完成したのである。
【0015】
すなわち、この発明のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末は、
炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸又はその塩を主たる構成単量体とする重合体粉末であって、
34質量%KOH水溶液における、2質量%溶液のブルックフィールド粘度(BH型、No.6ローター、20rpm、測定温度25℃)が15,000mPa・s以上、
残存単量体が2,000ppm以下であること
を特徴とするものである。
【0016】
また、この発明の請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末において、
前記残存単量体が、
1,000ppm以下であること
を特徴とするものである。
【0017】
また、この発明の請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末において、
前記構成単量体は、
その構成成分の70〜100質量%が、炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩で占められていること
を特徴とするものである。
【0018】
また、この発明の請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末において、
前記構成単量体が、
構成成分として、架橋剤を含有するものであること
を特徴とするものである。
【0019】
さらに、この発明の請求項5に記載の発明は、
請求項4に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末において、
前記架橋剤が、
テトラアリルオキシエタン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、またはトリアリルイソシアヌレートであること
を特徴とするものである。
【0020】
さらにまた、この発明の請求項6に記載の発明は、
請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造に際し、
炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩を主たる成分とする単量体を、単量体は溶解するが、重合体は溶解しない溶剤中で、ラジカル開始剤を用いて重合し、
溶剤から析出した粉末状の重合体を分離取得すること
を特徴とするアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法である。
【0021】
また、この発明の請求項7に記載の発明は、
請求項6に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法において、
前記単量体が、
架橋剤を含有するものであることを
を特徴とするものである。
【0022】
また、この発明の請求項8に記載の発明は、
請求項6又は7に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法において、
前記溶剤が、
炭素原子を4〜12個有する脂肪族炭化水素から選ばれた単一の溶剤からなること
を特徴とするものである。
【0023】
また、この発明の請求項9に記載の発明は、
請求項6〜8のいずれかに記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法において、
前記溶剤が、
n−ヘキサンまたはシクロヘキサンであること
を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
この発明のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末は、アルカリ電池のゲル負極を構成する電解液中に亜鉛粉末を沈降なく良好に分散させ、かつ、未反応の残存単量体の含有量が少ないことにより、アルカリ乾電池内部において、ガス発生を極めて少なくすることができ、結果として乾電池内圧の上昇が少なく、電解液が漏洩することが無いという優れた効果を奏するものである。
また、この発明のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法は、上記の効果を奏するアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末を、工業的に容易に入手することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末は、炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩のうち、特に、不飽和カルボン酸から選ばれた少なくとも1種類以上を主成分とした単量体から構成されるのが好ましく、かかる単量体が、構成単量体の70〜100質量%を占めていることがより好ましい。
【0026】
この発明における、炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸等などが挙げられる。
【0027】
なかでも、アクリル酸およびメタクリル酸は、得られる重合体の増粘剤としての性能も良好なため好ましい。特に、アクリル酸は、市場からの入手が容易であって、さらに好ましい。
【0028】
この発明のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末には、炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸以外の他のビニル単量体も、0〜30質量%未満の範囲において構成単量体とするものも含まれ、その種類と構成量により異なるが、殆ど同等の効果を奏することができる。
【0029】
他のビニル単量体として、具体的なものは、たとえば、スチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニリデン、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、アクリルアミド類、メタクリルアミド類、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、酢酸ビニル、ビニルピロリドン、アクリルニトリル、メタクリロニトリル等である。
【0030】
アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類として具体的なものは、メチル、エチル、ブチル、イソブチル、オクチル、ラウリル、ステアリルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類、2−メトキシエチルアクリレート、2−エトキシエチルエクリレート等のエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル類、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ基含有単量体、グリシジルメタクリレートなどが挙げられる。
【0031】
具体的なアクリルアミド類、メタクリルアミド類としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミドなどが挙げられる。
【0032】
また、末端メタクリレートポリメチルメタクリレート、末端スチリルポリメチルメタクリレート、末端メタクリレートポリスチレン、末端メタクリレートポリエチレングリコール、末端メタクリレートアクリロニトリルスチレン共重合体等のマクロモノマー類なども使用可能である。
【0033】
同様に、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、およびそれらのエステル類なども使用できる。
さらに、必要に応じて、トリメトキシビニルシラン、トリメトキシビニルシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなども使用できる。
【0034】
この発明では、構成単量体として架橋剤も使用される。
架橋剤としては、ポリアルケニルポリエーテールモノマー、多価ビニルモノマー又はこれらの混合物から選ばれた架橋性単量体が挙げられる。
【0035】
具体的な架橋性単量体としては、テトラアリルオキシエタン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、またはトリアリルイソシアヌレートなどが挙げられる。
【0036】
前記の架橋性単量体の使用量は、得られる不飽和カルボン酸系重合体の水溶性やその溶液特性、特に増粘特性を考慮して定められるが、単量体の総量100質量部に対して、0.1〜2.0質量部が好ましい。
【0037】
この発明の製造方法で使用されるラジカル開始剤としては、過酸化物、アゾ系開始剤などから選ばれた化合物又はそれらの混合物が挙げられる。
その使用量は、単量体総量100質量部に対して、0.001〜2.00質量部が好ましく、より好ましくは、0.005〜1.0質量部である。
【0038】
具体的な過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド、ジ(2−エチルヘキシル)パーオキシジカーボネートなどが挙げられる。
【0039】
具体的なアゾ系開始剤としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩などが挙げられる。
【0040】
この発明の製造方法における溶剤は、不飽和カルボン酸系の単量体は溶解するが、その重合体は溶解しない溶剤である。
具体的な溶剤としては、前記の先行技術によって示されているが、ケトン、エステル、アルコール、炭素原子を4〜12個有する脂肪族炭化水素、および炭素原子を6〜8個有する芳香族炭化水素から選ばれた少なくとも1種以上からなる溶剤が挙げられる。
【0041】
使用される溶剤としては、回収溶剤の再使用の観点から、混合して使用するのは避けるのが好ましく、炭素原子を4〜12個有する脂肪族炭化水素から選ばれた、単独の溶剤を用いるのが好ましい。
【0042】
ケトン、エステル、アルコールなどの極性溶剤を単独で使用するのは、不飽和カルボン酸の重合中の成長ラジカルとの連鎖移動反応が起こり易く、重合体が低分子量化し、結果として、増粘性に劣る重合体となり易いので避けるのが好ましい。
【0043】
また、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系の溶剤では、得られた水溶性架橋共重合体粉末に、微量の溶剤が残存するため毒性が問題となるので、これらの使用も避けるのが好ましい。
【0044】
さらに、前記の脂肪族炭化水素の中では、n−ヘキサン又はシクロヘキサンが、市場より安価に入手でき有用である。
【0045】
この発明の製造方法においては、重合スラリーの粘性を低減させる為、界面活性剤を使用してもよい。
【0046】
この発明の製造方法における沈殿重合においては、構成単量体を2以上に分割し、逐次的に重合容器に仕込み、逐次ないし分割重合させてもよい。
また、架橋剤およびラジカル開始剤を、各々2以上の回数で分割仕込みをして重合させてもよい。
【0047】
この発明の製造方法における重合温度は、温度50℃以上、および使用する溶剤系の大気圧下の沸点温度以下で行うことが好ましい。温度50℃未満では、ラジカル開始剤の分解が充分に進まず、重合反応に時間が掛り過ぎるので避けるのが好ましい。
【0048】
通常は、使用する溶剤系を還流した状態で重合することが好ましく、幾分かの減圧を施すことによって、溶剤の還流温度を下げて、重合体の凝集物の発生による溶剤の突沸を抑えながら重合することも好ましい。
また、逆に、密閉容器での自己加圧下、強制加圧下でも重合は可能である。
【0049】
これらの沈殿重合のプロセスにおいて、重合開始直後から形成される重合体が媒体として使用している溶剤に不溶になり、溶剤中に重合体が析出してスラリー状となる。
このスラリー状の重合反応生成物から、溶剤を取り除くことにより、粉末状の重合体が得られる。
【0050】
溶剤の除去の際に、残存単量体もかなり除去されるものの、たとえば、アクリル酸は常圧での沸点は141℃であるので、減圧乾燥によっても低減は容易ではない。
したがって、溶剤除去工程を施す前のスラリー状反応生成物に、追加触媒としてラジカル開始剤を添加し、加熱によって、未反応の単量体を強制的に重合させ、残存単量体を低減させておくことが好ましい。
【0051】
溶剤除去前のスラリー状の段階で、単量体群の転化率が92質量%以上であることが、溶剤除去後の重合体粉末に残存する単量体が少なくなるため好ましい。
さらに好ましくは95質量%以上である。
【0052】
溶剤および残存単量体の除去方法は、通常の乾燥機、例えば通風乾燥機などにより行うことができるが、一般的には、減圧乾燥機にて行われる。
減圧乾燥機は、内部に攪拌ペラを持ったものが好ましく、横型あるいはナウター型などが使用される。
加圧ろ過型の減圧乾燥機も使用可能であるが、ろ布などのろ材への詰まりがあるため、ろ材の交換が煩雑である。さらに、ろ材交換時には、残留する溶剤による火災の危険もあるため、好ましい方法とは云えないものである。
【0053】
乾燥条件としては、使用する機器にかかわらず、外温と内圧を調整して行われる。
具体的な条件としては、外温を90〜120℃、内圧を0.02MPa以下の状態で、3〜50時間乾燥するという方法が挙げられ、重合体粉末中の残存単量体を2,000ppm以下になるように条件が設定される。
【0054】
外温を100〜118℃、内圧を0.015MPa以下の状態で乾燥処理するという条件は、重合体粉末中の残存単量体を確実に2,000ppm以下にするために、より好ましいものである。
【0055】
乾燥時の減圧乾燥機の外温が温度120℃を超えると、不飽和カルボン酸系重合体のガラス転移温度を超えることがあり、乾燥機内で塊状物ができて、重合体粉末の品質上のみならず、乾燥機の破損にまで至ることもあるため、好ましくない。
【0056】
さらに、残存単量体を低減させるために、内圧を、たとえば、1時間毎に0.02MPa以下の減圧を、乾燥窒素を流入させて常圧の0.1013MPaに短時間で戻した後、再度、高減圧で処理することを数回繰り返すことも、残存単量体を低減するためには好ましい方法である。
【0057】
また、通常の通風乾燥機にて行うときは、溶剤による爆鳴気の発生を注意しながら、温度90〜120℃で数時間乾燥する。この際も、重合体粉末の品質低下を避けるために、120℃以上の温度での処理は好ましくはない。
【0058】
この発明におけるアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末は、残存する単量体が2,000ppm以下のもので、アルカリ電池用として、より好ましいものは1,000ppm以下のものである。
【0059】
残存する単量体が2,000ppmを超えると、アルカリ乾電池に装着された際には、ガス発生があり、乾電池内圧の上昇を促進させるため、使用は避けるのが好ましい。
【0060】
この発明における残存単量体の測定方法は、ガスクロマトグラフィー又は液体クロマトグラフィーに依るもので、ヨウ化カリ−チオ硫酸ナトリウムによる滴定分析法によるものではない。
ヨウ化カリ−チオ硫酸ナトリウムによる滴定分析法では、架橋剤に由来する未反応ビニル基を測定してしまうため、真の残存モノマー量を求めることはできないからである。
【0061】
この発明のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末は、34質量%KOH水溶液に当該粉末を、2質量%溶解した溶液のブルックフィールド粘度(BH型、No.6ローター、20rpm、測定温度25℃)(以下、2%KOH粘度と略す)が15,000mPa・s以上のものである。好ましくは18,000mPa・s以上のものである。
【0062】
2%KOH粘度が15,000mPa・s未満であると、アルカリ電解液に通常の添加量では、負極として使用される亜鉛粉末などの沈降を抑えることができず、添加量を増やさなければならなくなる。
添加量が増えると、アルカリ電解液の抵抗値が増すなど、アルカリ電池の性能を低下させるため、2%KOH粘度が15,000mPa・s未満のものの採用は、避けるのが好ましい。
【0063】
なお、この発明の34質量%KOH水溶液とは、40.0質量部の市販の苛性カリウム(純度85%)を60.0質量部のイオン交換水に溶かしたもののことである。
【0064】
以下、実施例及び比較例によってこの発明をさらに具体的に説明する。
【実施例】
【0065】
<実施例1>
〔不飽和カルボン酸系重合体粉末の作製〕
ジブロート氏冷却器、温度計、窒素ガス吹き込み管および攪拌翼を備えた2リットルの4つ口フラスコに、充分に脱水したn−ヘキサンを600g、アクリル酸を150g及びテトラアリルオキシエタンを0.75g仕込み、回転数150rpmで攪拌を開始した。
約1時間100ml/minの流量で窒素ガスを液中に吹き込んだ後、昇温を開始し、内温が55℃に到達したときに、ジラウリルパーオキサイドを0.75g添加し、さらに内温を高め、65℃で10時間重合を継続させた。
その後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.30g添加し、内温をn−ヘキサンの沸点近傍の68℃として5時間熟成後、冷却してスラリー状の重合反応生成物を得た。
なお、攪拌回転数は、スラリーの粘度によって適宜増加させた。また、窒素投入量は、白濁を確認した後は、20ml/minに落とした。
【0066】
このスラリー状の重合反応生成物中の残存アクリル酸を、ガスクロマトグラフィーで測定し、アクリル酸の重合転化率を算出したところ、95.5質量%に達していた。
このスラリーを、ガラス製のロータリエバポレータにて溶剤を除去して粉末状の重合体を得た。
得られた重合体粉末をSUS製パットに、おおよそ5mm厚になるように敷き詰め、通風乾燥機で、温度105℃で1時間乾燥して、アクリル酸を主たる構成単量体とする本発明の不飽和カルボン酸系重合体粉末を取得した。
【0067】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、23,000mPa・s、残存単量体量は、ヨウ化カリ−チオ硫酸ナトリウムによる滴定分析法では、2,500ppmであったが、ガスクロマトグラフィー法では1,400ppm、液体クロマトグラフィー法では、1,500ppmであった。
【0068】
<実施例2>
脱水器を備えたSUS304製の250Lの重合釜に、n−ヘキサンを60kg、アクリル酸を15kgおよび炭酸ナトリウムを30g投入した後、回転数60rpmで攪拌を開始した。
炭酸ナトリウムの粉末が完全に消失した後に、外温を75℃に設定し、約1時間還流状態を保持した後に40℃まで冷却した。
還流前の混合液体を、カールフィッシャー水分計で測定したところ、750ppmの水分が含まれていたが、還流1時間後は、水分値は150ppmまで低減していた。
ペンタエリスルトールトリアリルエーテルを75g、ジラウリルパーオキサイドを75gおよびソルビタンモノオレートを75g投入し、約1時間300L/hrの流量で窒素ガスを液中に吹き込んだ後、昇温を開始した。
内温が温度60〜65℃となるように外温を調節し、白濁を確認してから10時間後に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を15g投入し、重合釜を密閉状態にて、内温を温度80℃で2時間保持した後に、冷却してスラリー状反応生成物を得た。
なお、攪拌回転数は、スラリーの粘度によって適宜増加させた。また、窒素投入量は、白濁を確認した後は、20L/Hrに落とした。
【0069】
このスラリー状の重合反応生成物中の残存アクリル酸を、ガスクロマトグラフィーで測定し、アクリル酸の重合転化率を算出したところ、97.0質量%であった。
このスラリーの約10kgを、容量が約40Lの横型乾燥機に投入し、溶剤および残存単量体の除去を行った。
最終的に乾燥機のジャケット温度を、スチームで温度115℃に加温し、内圧を0.01MPa以下として、4時間乾燥し、本発明の不飽和カルボン酸系重合体粉末を得た。
【0070】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、20,000mPa・s、残存単量体量は、ヨウ化カリ−チオ硫酸ナトリウムによる滴定分析法では、1,800ppm、液体クロマトグラフィー法では、ガスクロマトグラフィー法では750ppmを、700ppmであった。
【0071】
<実施例3>
脱水器を備えたSUS304製の250Lの重合釜に、n−ヘキサンを51kg、酢酸エチルを9kg、アクリル酸を12kgおよび水酸化ナトリウムを30g投入した後、回転数60rpmで攪拌を開始した。
水酸化ナトリウムの粉末が完全に消失した後に、外温を温度75℃に設定し、約1.5時間還流状態を保持した後に温度40℃まで冷却した。
還流前の混合液体を、カールフィッシャー水分計で測定したところ、810ppmの水分が含まれていたが、還流1.5時間後は、水分値は130ppmまで低減していた。
ペンタエリスルトールトリアリルエーテルを、75gおよびジラウリルパーオキサイドを75g投入し、約1時間300L/Hrの流量で窒素ガスを液中に吹き込んだ後、昇温を開始した。
外温を温度70℃に設定し、内温は還流による除熱で調整し、白濁を確認してから1時間後に、アクリル酸を3kg投入し、その投入から9時間後に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を15g投入し、重合釜を密閉状態にて、内温を温度85℃で2時間保持した後に、冷却してスラリー状反応生成物を得た。
なお、攪拌回転数は、スラリーの粘度によって適宜増加させた。また、窒素投入量は、白濁を確認した後は、20L/Hrに落とした。
【0072】
このスラリー状反応生成物中の、残存アクリル酸をガスクロマトグラフィーで測定し、アクリル酸の重合転化率を算出したところ96.0質量%に達していた。
このスラリーの約20kgを、容量が約100Lの横型乾燥機に投入し、溶剤および残存単量体の除去を行った。
最終的に、乾燥機のジャケット温度をスチームで温度110℃に加温し、内圧を0.02MPa以下として25時間乾燥して、本発明の不飽和カルボン酸系重合体粉末とした。
【0073】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、18,000mPa・s、残存単量体量は、液体クロマトグラフィー法で、1,500ppmであった。
【0074】
<実施例4>
脱水器を備えたSUS304製の250Lの重合釜に、n−ヘキサンを60kg、アクリル酸を12kgおよびメタクリル酸ステアリルを75g投入した後、回転数60rpmで攪拌を開始し、外温を温度75℃に設定し、約1時間還流状態を保持した後に温度40℃まで冷却した。
還流前の混合液体を、カールフィッシャー水分計で測定したところ、310ppmの水分が含まれていたが、還流1時間後は、水分値は100ppmまで低減していた。
トリアリルイソシアヌレートを75g、およびジラウリルパーオキサイドを75g投入し、約1時間300L/Hrの流量で窒素ガスを液中に吹き込んだ後、昇温を開始した。
外温を温度70℃に設定し、内温は還流による除熱で調整し、白濁を確認してから1時間後に、アクリル酸を3kg投入し、その投入から9時間後に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を15g投入し、重合釜を密閉状態にて、内温を温度80℃で2時間保持した後に、冷却してスラリー状の反応生成物を得た。
なお、攪拌回転数は、スラリーの粘度によって適宜増加させた。また、窒素投入量は、白濁を確認した後は、20L/Hrに落とした。
【0075】
このスラリー状反応生成物中の残存アクリル酸をガスクロマトグラフィーで測定し、アクリル酸の重合転化率を算出したところ、96.0質量%であった。
このスラリーの約10kgを、容量が約40Lの横型乾燥機に投入し、溶剤および残存単量体の除去を行った。
最終的に、乾燥機のジャケット温度をスチームで温度113℃に加温し、内圧を0.01MPa以下として6時間乾燥して、本発明の不飽和カルボン酸系重合体粉末とした。
【0076】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、18,000mPa・s、残存単量体量は、液体クロマトグラフィー法で、1,500ppmであった。
【0077】
<実施例5>
溶剤にシクロヘキサンを、単量体にアクリル酸の他に、メタクリル酸ラウリルを0.75g、ラジカル開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを1.05g使用し、熟成温度をシクロヘキサンの沸点に近い温度80℃にし、乾燥条件を100℃で6時間にした以外は、実施例1と同様の方法によって不飽和カルボン酸系重合体粉末を作製し、本発明の不飽和カルボン酸系重合体粉末とした。
【0078】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、17,000mPa・s、残存単量体量は、液体クロマトグラフィー法で、1,650ppmであった。
【0079】
<実施例6>
架橋剤のペンタエリスルトールトリアリルエーテルを60gに減量、重合後の熟成時間を釜の密閉状態で、温度85℃で1時間に、乾燥時間を10時間に延長した以外は、実施例2と同様の方法によって、本発明の不飽和カルボン酸系重合体粉末を作製した。
【0080】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、25,000mPa・s、残存単量体量は、液体クロマトグラフィー法で、270ppmであった。
【0081】
<比較例1>
溶剤にシクロヘキサンを、架橋剤にペンタエリスルトールトリアリルエーテルを、ラジカル開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを0.075g使用し、重合温度は外温を温度85℃に設定し、還流による除熱で管理し、重合時間も4時間に短縮し、追加触媒添加後の熟成時間を1時間とし、通風乾燥時間を2時間としたこと以外は、実施例1と同様の方法によって、不飽和カルボン酸系重合体粉末を作製した。
【0082】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、12,500mPa・s、残存単量体量は、液体クロマトグラフィー法で、80ppmであった。
【0083】
<比較例2>
脱水器を備えたSUS304製の250Lの重合釜に、シクロヘキサンを60kg、アクリル酸を15kgおよび炭酸ナトリウムを75g投入した後、回転数60rpmで攪拌を開始した。
炭酸ナトリウムの粉末が完全に消失した後に、外温を温度90℃に設定し、約1時間還流状態を保持した後に温度40℃まで冷却した。
還流前の混合液体を、カールフィッシャー水分計で測定したところ、950ppmの水分が含まれていたが、還流1時間後は、水分値は140ppmまで低減していた。
テトラアリルオキシエタンを75gおよび2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを15g投入し、約1時間300L/Hrの流量で窒素ガスを液中に吹き込んだ後、昇温を開始した。
重合温度は外温を温度85℃に設定し、還流による除熱で管理し、白濁を確認してから4時間後に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を15g投入し、重合釜を密閉状態にて、内温を温度85℃で1時間保持した後に冷却して、スラリー状反応生成物を得た。
なお、攪拌回転数は、スラリーの粘度によって適宜増加させた。また、窒素投入量は、白濁を確認した後は、20L/Hrに落とした。
【0084】
乾燥時間を6時間に延長した以外は、実施例2と同じ乾燥方法によって不飽和カルボン酸系重合体粉末を作製した。
【0085】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、11,000mPa・s、残存単量体量は、液体クロマトグラフィー法で、1,200ppmであった。
【0086】
<比較例3>
脱水器を備えたSUS304製の250Lの重合釜に、n−ヘキサンを60kg、アクリル酸を12kg、およびメタクリル酸ステアリルを750g投入した後、回転数60rpmで攪拌を開始し、外温を温度75℃に設定し、約1時間還流状態を保持した後に温度40℃まで冷却した。
還流前の混合液体を、カールフィッシャー水分計で測定したところ、210ppmの水分が含まれていたが、還流1時間後は、水分値は100ppmまで低減していた。
ペンタエリスルトールトリアリルエーテルを75g、ジラウリルパーオキサイドを75g、およびソルビタンモノオレートを75g投入し、約1時間300L/Hrの流量で窒素ガスを液中に吹き込んだ後、昇温を開始した。
外温を温度70℃に設定し、内温は還流による除熱で調整し、白濁を確認してから1時間後に、アクリル酸3kgを投入し、その投入から9時間後に、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)15gを投入し、重合釜を密閉状態にて、内温を温度85℃で2時間保持した後に、冷却してスラリー状反応生成物を得た。
なお、攪拌回転数は、スラリーの粘度によって適宜増加させた。また、窒素投入量は、白濁を確認した後は、20L/Hrに落とした。
【0087】
乾燥時間を15時間に短縮した以外は、実施例3と同じ乾燥方法によって不飽和カルボン酸系重合体粉末を作製した。
【0088】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、18,000mPa・s、残存単量体量は、液体クロマトグラフィー法で、3,500ppmであった。
【0089】
<比較例4>
〔不飽和カルボン酸系重合体粉末の作製〕
水分離管を備えたジブロート氏冷却器、温度計、窒素ガス吹き込み管および攪拌翼を備えた2リットルの4つ口フラスコに、n−ヘキサンを600g、アクリル酸を150g、テトラアリルオキシエタンを0.75g、および炭酸ナトリウムを4.5g仕込み、回転数150rpmで攪拌を開始した。
炭酸ナトリウムの粉末が完全に消失した後に、外温を温度75℃に設定し、約1時間還流状態を保持しフラスコ内容物の脱水を施した後に、温度40℃まで冷却した。
約1時間100ml/minの流量で、窒素ガスを液中で吹き込んだ後、昇温を開始した。
内温が温度55℃に到達したときに、ジラウリルパーオキサイドを0.75g添加し、内温を温度65℃で10時間重合を継続させた後、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)を0.30g添加し、内温をn−ヘキサンの沸点近傍の68℃で5時間熟成後、冷却してスラリー状反応生成物を得た。
なお、攪拌回転数は、スラリーの粘度によって適宜増加させた。また、窒素投入量は、白濁を確認した後は、20ml/minに落とした。
【0090】
このスラリー状反応生成物の残存アクリル酸をガスクロマトグラフィーで測定し、アクリル酸の転化率を算出したところ、97.0質量%であった。
このスラリーをガラス製のロータリエバポレータにて溶剤を除去、さらに、溶剤留出がなくなってから外温115℃で20時間乾燥を継続して、不飽和カルボン酸系重合体粉末を作製した。
【0091】
この不飽和カルボン酸系重合体粉末の、34質量%KOH水溶液における2質量%溶液粘度は、10,000mPa・s、残存単量体量は、ガスクロマトグラフィー法では5,500ppmを、液体クロマトグラフィー法では、5,350ppmを得た。
【0092】
なお、上記の実施例および比較例の重合条件、乾燥方法は、表1(実施例)および表2(比較例)に纏めて記載した。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
〔不飽和カルボン酸系重合体粉末の物性評価方法〕
<乾燥減量>
不飽和カルボン酸系重合体粉末を、約2gアルミ容器に採り精秤する。温度105℃の乾燥機で1時間乾燥させ、デシケーター内で常温まで冷却する。
十分に冷却されたら、再び不飽和カルボン酸系重合体粉末を精秤して、乾燥減量分を%で算出する。
【0096】
<固形分>
乾燥減量分を100から除した数値を、固形分(%)とする。
【0097】
<KOH水溶液粘度(34質量%KOH水溶液に2質量%を溶解した際のブルックフィールド粘度)>
水酸化カリウム(試薬特級/純度85%)をイオン交換水で溶解し、40質量%濃度(固形分換算)に調整する。この水酸化カリウム溶液の濃度は、実質34質量%である。
1,000mlビーカーに、34質量%KOH水溶液250gを正確に計量し、スリーワンモーター(攪拌翼:タービン型)で攪拌しながら、精確に計量して固形分として5.0gになる不飽和カルボン酸系重合体粉末を徐々に添加する。
全量添加後、低速回転(150〜250rpm)で1時間攪拌する。
その後、攪拌翼に付着した未溶解物を掻き落とし、高回転(450rpm)で5時間攪拌する。
溶解後、温度25±1℃における粘度を、BH型粘度計(ローター番号;No,6,回転数;20rpm, 測定時間;30秒)にて測定する。単位は、mPa・sで示した。
【0098】
<ガスクロマトグラフ法による残存単量体測定>
50mlメスフラスコに不飽和カルボン酸系重合体粉末を約1.2g取り、正確に秤量した後、メチルイソブチルケトンを約30ml添加する。
つぎに、内部標準液(酢酸ブチル1.0gにメチルイソブチルケトンを加え、全量を100mlにした液)を2ml精確に加えた後、さらに、メタノールを4ml精確に添加する。
その後、メチルイソブチルケトンで全量が精確に50mlとなるように添加し、よく振った後15分間以上静置する。
静置後、孔径0.50μmのメンブランフィルターで濾過し、濾液を1μl採取しガスクロマトグラフにて測定する。
《ガスクロ測定条件》
機器:GC−2014(ガスクロマトグラフ)
気相:純窒素(純度99.9995%以上)
カラム:信和化工 ULBON HR−20M(PEG−20M相当)0.25mmI.D.×25m 膜厚0.5μm
INJECTION:温度160℃
FID:温度250℃
カラム初期温度:温度70℃ 5.5min
カラム昇温速度:温度20℃/min
カラム最終温度:温度180℃ 5.0min
カラム流量:1.3ml/min
【0099】
<液体クロマトグラフ法による残存単量体測定>
不飽和カルボン酸系重合体粉末0.03gを50ml三角フラスコに取り、20mlの移動相を添加し、マグネティックスターラーで2時間攪拌する。
攪拌後、超音波にて1時間溶解した液を、孔径0.50μmのメンブランフィルターで濾過し、濾液を20μl採取し、高速液体クロマトグラフにて測定した。
《液クロ測定条件》
機器名:日本分光高速液体クロマトグラフィー 一式
検出器:UV/VIS検出器 UV−970
カラム:inertsil ODS−3 4.6mmφ×150mm(GLサイエンス社製)
プレカラム:カートリッジガードカラム
カラム温度:40℃
溶離液:20mM−HKPO・HO(90)/アセトニトリル(10)
流速:1.0ml/min
注入量:20μl
検出波長:UV−210nm
【0100】
<ヨウ化カリ−チオ硫酸ナトリウムによる滴定分析法による残存単量体測定>
薬事日報社発行の「医薬品添加物規格 1998」の、カルボキシビニルポリマーの項(p.196〜198)に記載の方法に準拠して測定し、固形分を換算して算出した。
【0101】
〔不飽和カルボン酸系重合体粉末の性能評価方法〕
亜鉛粉末沈降性およびガス発生量の測定で用いられる亜鉛粉末は、0.025質量%のインジウム、0.015質量%のビスマスと0.005質量%のアルミニウムを含有し、体積平均粒子径が120μmで、75μm以下の粒子を30質量%以上含む亜鉛合金を用いた。
【0102】
<亜鉛粉末沈降性>
不飽和カルボン酸系重合体粉末、34質量%KOH水溶液、および亜鉛粉末を、2:33:65の質量比で混合し、十分に脱泡した後に100mlのスクリュー管に充填し、温度40℃の恒温室で保管した。
30日後に、亜鉛粉末の沈降具合を測定した。沈降した深さをmmの単位で、表3に表した。また、表1、表2には、以下の基準で判定結果を示した。
○ : 5mm以下の沈降性
× : 5mmを超える沈降性
【0103】
<ガス発生量>
不飽和カルボン酸系重合体粉末、34質量%KOH水溶液、および亜鉛粉末を、2:33:65の質量比で混合し、十分に脱泡した後に、10.0gをガス捕集器内に採取し、45℃で14日間に発生するガス量を測定した。
発生したガス量を、μl/gの単位で表3に表した。また、表1、表2には、以下の基準で判定結果を示した。
○ : 50μl/g以下のガス発生量
× : 50μl/gを超えるガス発生量
【0104】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0105】
この発明のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末は、アルカリ電池のゲル負極を構成する電解液中に亜鉛粉末を沈降なく分散させ、かつ、乾電池内圧を上昇させるものではないので、アルカリ電池製造産業で広く利用される可能性があるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸又はその塩を主たる構成単量体とする重合体粉末であって、
34質量%KOH水溶液における、2質量%溶液のブルックフィールド粘度(BH型、No.6ローター、20rpm、測定温度25℃)が15,000mPa・s以上、
残存単量体が2,000ppm以下であること
を特徴とするアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末。
【請求項2】
前記残存単量体が、
1,000ppm以下であること
を特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末。
【請求項3】
前記構成単量体は、
その構成成分の70〜100質量%が、炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩で占められていること
を特徴とする請求項1又は2に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末。
【請求項4】
前記構成単量体が、
構成成分として、架橋剤を含有するものであること
を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末。
【請求項5】
前記架橋剤が、
テトラアリルオキシエタン、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、ジエチレングリコールジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、またはトリアリルイソシアヌレートであること
を特徴とする請求項4に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造に際し、
炭素原子を3〜5個有するオレフィン系不飽和カルボン酸またはその塩を主たる成分とする単量体を、単量体は溶解するが、重合体は溶解しない溶剤中で、ラジカル開始剤を用いて重合し、
溶剤から析出した粉末状の重合体を分離取得すること
を特徴とするアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法。
【請求項7】
前記単量体が、
架橋剤を含有するものであることを
を特徴とする請求項6に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法。
【請求項8】
前記溶剤が、
炭素原子を4〜12個有する脂肪族炭化水素から選ばれた単一の溶剤からなること
を特徴とする請求項6又は7に記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法。
【請求項9】
前記溶剤が、
n−ヘキサンまたはシクロヘキサンであること
を特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のアルカリ電池用不飽和カルボン酸系重合体粉末の製造方法。

【公開番号】特開2008−153054(P2008−153054A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339731(P2006−339731)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(390039974)日本純薬株式会社 (13)
【Fターム(参考)】