説明

アルカリ電池

【課題】セパレータの薄化による発電物質の増量を可能にするとともに、放電により亜鉛酸化物の結晶が成長してセパレータを貫通するのを抑制し、アルカリ電池の放電性能を総合的に向上させる。
【解決手段】 負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を包含する負極ゲル23を、セパレータ22を挟んで正極活物質21と対向させたアルカリ電池10において、上記負極ゲル23にキレート剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を包含する負極ゲルを、セパレータを挟んで正極活物質に対向させたアルカリ電池に関し、たとえば、LR型のアルカリ乾電池に適用して有効である。
【背景技術】
【0002】
アルカリ電池(乾電池)は重負荷放電時における放電性能にすぐれているが、近年、デジタル器機の普及により、その放電性能をさらに向上させたアルカリ電池が求められている。
【0003】
放電性能を向上させる方法(手段)の一つは、正極および負極活物質の充填容量を増加させることである。しかし、外形やサイズが規格化された電池においては、電池ケースの内容積が発電物質(正極および負極活物質)の充填容量を制限する。つまり、電池ケースの容積拡大による発電物質の充填量増加は望めない。
【0004】
電池ケースの容積拡大が行えない場合、負極ゲルと正極活物質間に介在するセパレータの薄化(薄膜化)が有効である。セパレータの減厚分だけ発電物質の充填容量を増加させることができるからである。
【0005】
しかし、セパレータを薄化すると、通常の放電性能は向上するものの、特定の負荷および時間における放電性能が低下してしまう、という問題が生じる。それは、負極に生成した亜鉛酸化物の結晶が薄くなったセパレータを貫通して内部短絡を生じさせるためである。この亜鉛酸化物結晶は電池放電に伴って生成し、樹脂状に成長してセパレータを貫通する。
【0006】
このため、従来においては、その亜鉛酸化物結晶による内部短絡を防止することが先決で、そのためにはセパレータを厚くする必要があるとされていた。これに対し、特許文献1では、セパレータの厚みを増さずに内部短絡を防止するアルカリ電池を提案している。
【特許文献1】特開平9−35720
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
たとえば特許文献1に記載の従来技術では、負極亜鉛にケイ素を含有させることにより、放電により生成される亜鉛酸化物の樹枝状結晶の成長を抑制し、セパレータの厚みを増すことなく、特定の条件において生じる放電容量の低下を抑制しようとしているが、この効果は限定的であって、セパレータを薄化した状態でも有効ということではなかった。つまり、セパレータを薄化することによる放電性能の向上は期待できなかった。
【0008】
本発明は以上のような背景および問題を鑑みたものであって、その目的は、セパレータの薄化による発電物質の増量を可能にするとともに、放電により亜鉛酸化物の結晶が生成・成長してセパレータを貫通するのを効果的に抑制することができ、これにより放電性能を総合的に向上させることを可能にしたアルカリ電池を提供することにある。
【0009】
本発明の上記以外の目的および構成については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による解決手段は次のとおりである。
【0011】
(1)負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を包含する負極ゲルを、セパレータを挟んで正極活物質と対向させたアルカリ電池において、上記負極ゲルにキレート剤を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【0012】
(2)キレート剤としてアミノカルボン酸を用いたことを特徴とする手段(1)に記載のアルカリ電池。
【0013】
(3)キレート剤として、
3-nN−(CH2−COOH)n(ただし、nは1,2,3のいずれか)
で示されるアミノカルボン酸またはその塩を用いたことを特徴とする手段(2)に記載のアルカリ電池。
【0014】
(4)キレート剤として、
(HOOC−CH2x−NH2-x−CHR−CHR−NH2-y−(CH2−COOH)y(ただし、xは0,1,2のいずれかで、yは1,2のいずれかで、Rはプロトンまたはアルキル基)
で示されるアミノカルボン酸またはその塩を用いたことを特徴とする手段(2)に記載のアルカリ電池。
【0015】
(5)キレート剤として、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸からなる群より選択される少なくとも1種またはその塩を用いたことを特徴とする手段(3)に記載のアルカリ電池。
【0016】
(6)キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸からなる群より選択される少なくとも1種またはその塩を用いたことを特徴とする手段(4)に記載のアルカリ電池。
【0017】
(7)キレート剤を亜鉛に対して0.01〜1モル%の範囲で添加したことを特徴とする手段(2)〜(6)のいずれかに記載のアルカリ電池。
【発明の効果】
【0018】
アルカリ電池の負極ゲルに添加したキレート剤は、電池の放電によって生成する亜鉛イオンに強く結合して安定な亜鉛−キレート化合物を形成する。この結果、内部短絡の原因となる酸化亜鉛結晶の成長が効果的に抑制され、セパレータを薄化(薄膜化)しても内部短絡を確実に抑制することができる。
【0019】
上記により、セパレータの薄化による発電物質の増量を可能にするとともに、放電により亜鉛酸化物の結晶が生成・成長してセパレータを貫通するのを効果的に抑制することができ、これによりアルカリ電池の放電性能を総合的に向上させることができる。
【0020】
上記以外の作用/効果については、本明細書の記述および添付図面からあきらかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明の技術が適用されたLR6型のアルカリ乾電池10を示す。同図に示す電池10は、有底筒状の金属製電池缶(正極缶)11、環状に成形された正極合剤21、この正極合剤21の内側に配設されたセパレータ22、このセパレータ22の内側に充填された負極ゲル23、この負極ゲル23中に挿入された負極集電子31、負極端子板32、樹脂製ガスケット35などにより構成される。
【0022】
正極合剤21、セパレータ22、負極ゲル23は電解液の存在下でアルカリ電池の発電要素20を形成する。
【0023】
正極合剤21は、二酸化マンガン等の正極作用物質と導電助剤である黒鉛の混合物を環状に成形したものであって、上記電池缶11に圧入状態で挿入・装填される。電池缶11は、上記正極合剤21の外周面に電気的に接触することにより正極集電体を兼ねる。また、電池缶11の底面には凸状の正極端子部12が形成されている。
【0024】
負極ゲル23は負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を包含するとともに、キレート剤が添加されている。負極ゲル23に添加したキレート剤は、電池の放電によって生成する亜鉛イオンに強く結合して安定な亜鉛−キレート化合物を形成する。これにより、内部短絡の原因となる酸化亜鉛結晶の生成・成長が効果的に抑制され、セパレータ22を薄化(薄膜化)しても内部短絡を確実に抑制することができる。この結果、特定条件下での放電性能低下を防止することができる。さらに、セパレータ22の薄化による発電物質の増量が可能になり、これよる通常の放電性能も向上させることができる。
【0025】
負極ゲル23に添加するキレート剤としては、とくに限定はされないが、たとえば、次の(1)または(2)で特定されるアミノカルボン酸または非アミノカルボン酸(例えばアミノアルコールまたはポリカルボン酸またはポリアミン)が好適に使用できる。また、これらの塩も好適に使用できる。
【0026】
とくに効果がすぐれているのはアミノカルボン酸であるが、このアミノカルボン酸としては、次の(1)または(2)で特定されるものが好適である。
【0027】
(1)H3-nN−(CH2−COOH)n(ただし、nは1,2,3のいずれか)で示されるアミノカルボン酸またはその塩。
この系統(1)では、たとえば次のような物質がある。
n=1:H2N−CH2−COOHで示されるグリシン(GLY)、
n=2:HN−(CH2−COOH)で示されるイミノ二酢酸(IDA)、
n=3:N−(CH2−COOH)3で示されるニトリロ三酢酸(NTA)。
【0028】
(2)(HOOC−CH2x−NH2-x−CHR−CHR−NH2-y−(CH2−COOH)y(ただし、xは0,1,2のいずれかで、yは1,2のいずれかで、Rはプロトンまたはアルキル基)で示されるアミノカルボン酸またはその塩。
この系統(2)では、たとえば次のような物質がある。
x=2,y=2,R=H:(HOOC−CH22−N−CH2−CH2−N−(CH2−COOH)2で示されるエチレンジアミン四酢酸(EDTA)。
x=2,y=2,R=CH2−CH2:(HOOC−CH22−N−(C610)−N−(CH2−COOH)2で示されるシクロヘキサンジアミン四酢酸(CyDTA)。
【0029】
また、キレート剤の添加量は、亜鉛に対して0.01〜1モル%の範囲がとくに有効である。
【実施例】
【0030】
LR6型アルカリ乾電池(サンプルNo.1〜14)を表1に示すような条件で作製した。
【表1】

【0031】
表1において、サンプルNo.1の電池は、従来の代表的な処方による負極ゲル(キレート剤添加無し)を用い、セパレータの厚さを0.120mm、発電物質(正極および負極)の充填容量を2.70Ahとした。
【0032】
サンプルNo.2の電池も、従来の代表的な処方による負極ゲル(キレート剤添加無し)を用いたが、セパレータの厚さは0.108mm(No.1の90%)に減じ、これにより発電物質の充填容量を2.84Ah(No.1の105%)に増量した。
【0033】
サンプルNo.3の電池は、負極ゲルにキレート剤としてエタノールアミン(EA、アミノアルコール)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、セパレータの厚さ(0.108mm)と発電物質の充填容量(2.84Ah)はサンプルNo.2と同じにした。
【0034】
サンプルNo.4の電池は、負極ゲルにキレート剤としてシュウ酸(ポリカルボン酸)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、他はサンプルNo.2と同じにした。
【0035】
サンプルNo.5の電池は、負極ゲルにキレート剤としてエチレンジアミン(EN、ポリアミン)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、他はサンプルNo.2と同じにした。
【0036】
サンプルNo.6の電池は、負極ゲルにキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、セパレータ厚と充填容量はサンプルNo.2と同じにした。
【0037】
サンプルNo.7の電池は、負極ゲルにキレート剤としてグリシン(GLY)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、セパレータ厚と充填容量はサンプルNo.2と同じにした。
【0038】
サンプルNo.8の電池は、負極ゲルにキレート剤としてイミノ二酢酸(IDA)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、セパレータ厚と充填容量はサンプルNo.2と同じにした。
【0039】
サンプルNo.9の電池は、負極ゲルにキレート剤としてニトリロ三酢酸(NTA)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、セパレータ厚と充填容量はサンプルNo.2と同じにした。
【0040】
サンプルNo.10の電池は、負極ゲルにキレート剤としてシクロヘキサンジアミン四酢酸(GyDTA)を0.1モル%(対亜鉛量)添加し、セパレータ厚と充填容量はサンプルNo.2と同じにした。
【0041】
サンプルNo.11の電池は、負極ゲルにキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を0.001モル%(対亜鉛量)添加し、セパレータ厚と充填容量はサンプルNo.2と同じにした。
【0042】
サンプルNo.12の電池は、負極ゲルにキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を0.01モル%(対亜鉛量)添加し、他はサンプルNo.11と同じにした。
【0043】
サンプルNo.13の電池は、負極ゲルにキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を1モル%(対亜鉛量)添加し、他はサンプルNo.11と同じにした。
【0044】
サンプルNo.14の電池は、負極ゲルにキレート剤としてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を10モル%(対亜鉛量)添加し、他はサンプルNo.11と同じにした。
【0045】
各サンプルNo.1〜14について、それぞれ放電性能を測定した。放電性能は連続放電性能と間欠放電性能の2通りを測定した。
【0046】
連続放電性能は、20℃において10Ωの負荷で連続放電させ、終止電圧が0.9Vになるまでの持続時間により評価し、その評価結果はサンプルNo.1の性能を100とする相対値で表1に示した。
【0047】
間欠放電性能は、20℃において5Ωの負荷で5分/日の割合で間欠放電させ、終止電圧が0.9Vになるまでの累積放電時間により評価し、その評価結果はサンプルNo.1の性能を100とする相対値で表1に示した。
【0048】
各サンプルNo.1〜14の連続放電性能と間欠放電性能は表1に示すとおりであるが、セパレータの薄化とキレート剤添加による効果の発現状態を整理すると、表2のようになる。
【表2】

【0049】
表2に示すように、まず、セパレータを薄化したグループサンプルNo.2〜14ではいずれも、発電物質の充填量増加による連続放電性能(通常放電性能)の向上が認められた。しかし、具体的な数値を示す表1を参照すると、サンプルNo.2の電池は、間欠放電性能の相対値が78にまで大きく落ち込んでいる。これは、間欠放電性能の試験中に成長した酸化亜鉛結晶が、薄化したセパレータを貫通することにより生じる内部短絡のためと考えられる。
【0050】
サンプルNo.3〜14のグループの中にも、間欠放電性能の相対値が低下したものがあるが、表1にて示した数値を参照すると、その低下はサンプルNo.2に比べて小さい。つまり、負極ゲルにキレート剤を添加したグループ(No.3〜14)では、セパレータを薄化したにもかかわらず、間欠放電性能の低下は少なく、中には大幅に向上するものがあった。これは、負極ゲルに添加したキレート剤が、放電による酸化亜鉛結晶の成長を抑制し、内部短絡を抑制するように作用したためと考えられる。
【0051】
また、キレート剤としてアミノカルボン酸を用いたサンプルNo.6〜10では、間欠放電性能を維持または向上させつつ、連続放電性能を大幅に向上させることができた。とくに、キレート剤としてEDTA、NTAを用いたサンプルNo.6,9は、連続と間欠の両性能を共に向上させることができた。他のサンプルNo.7,8,10も、間欠放電性能を維持しつつ連続放電性能を向上させることができた。
【0052】
サンプルNo.11〜14では、キレート剤としてEDTAを用いるとともに、そのEDTAの添加量(対亜鉛モル%)を0.001〜10%の範囲で異ならせてあるが、セパレータの薄化による間欠放電性能は、いずれのサンプルにおいても、セパレータを薄化しない場合に対し、小幅低下、現状維持、あるいは大幅向上という結果を得た。すなわち、いずれの場合も、キレート剤の添加効果を認めることができた。しかし、キレート剤の添加効果を顕著に得られたのは、0.01〜1%の添加量(対亜鉛モル%)であった。このことから、キレート剤の添加量(対亜鉛モル%)は0.01〜1%の範囲がとくに望ましい。
【0053】
以上、本発明をその代表的な実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した以外にも種々の態様が可能である。たとえば、キレート剤は上記以外の物質も使用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
セパレータの薄化による発電物質の増量を可能にするとともに、放電により亜鉛酸化物の結晶が成長してセパレータを貫通するのを抑制することができ、これによりアルカリ電池の放電性能を総合的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の技術が適用されたLR6型アルカリ乾電池の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
10 アルカリ電池
11 電池缶(正極缶)
12 正極端子部
20 発電要素
21 正極合剤
22 セパレータ
23 負極ゲル
31 負極集電子
32 負極端子板
35 ガスケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質として亜鉛または亜鉛合金を包含する負極ゲルを、セパレータを挟んで正極活物質と対向させたアルカリ電池において、上記負極ゲルにキレート剤を添加したことを特徴とするアルカリ電池。
【請求項2】
キレート剤としてアミノカルボン酸を用いたことを特徴とする請求項1に記載のアルカリ電池。
【請求項3】
キレート剤として、
3-nN−(CH2−COOH)n(ただし、nは1,2,3のいずれか)
で示されるアミノカルボン酸またはその塩を用いたことを特徴とする請求項2に記載のアルカリ電池。
【請求項4】
キレート剤として、
(HOOC−CH2x−NH2-x−CHR−CHR−NH2-y−(CH2−COOH)y(ただし、xは0,1,2のいずれかで、yは1,2のいずれかで、Rはプロトンまたはアルキル基)
で示されるアミノカルボン酸またはその塩を用いたことを特徴とする請求項2に記載のアルカリ電池。
【請求項5】
キレート剤として、グリシン、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸からなる群より選択される少なくとも1種またはその塩を用いたことを特徴とする請求項3に記載のアルカリ電池。
【請求項6】
キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸、シクロヘキサンジアミン四酢酸からなる群より選択される少なくとも1種またはその塩を用いたことを特徴とする請求項4に記載のアルカリ電池。
【請求項7】
キレート剤を亜鉛に対して0.01〜1モル%の範囲で添加したことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアルカリ電池。


【図1】
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【公開番号】特開2006−286485(P2006−286485A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−106856(P2005−106856)
【出願日】平成17年4月1日(2005.4.1)
【出願人】(503025395)FDKエナジー株式会社 (142)
【Fターム(参考)】