説明

アルキルメルカプタンを合成するためのハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩を含む触媒及びその製造方法

本発明は、アルカノールと硫化水素とからアルキルメルカプタンを合成するためのハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩触媒、並びに前記触媒の製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカノールと硫化水素とからアルキルメルカプタンを合成するためのハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩を含む触媒、並びに前記触媒の製造方法に関する。
【0002】
アルカリ金属の概念は、元素の周期表による結合されたアルカリ金属であると解釈され、その際、タングステン酸塩は2又はそれ以上の異なる結合されたアルカリ金属を含むこともできる。ハロゲン化物の概念は、元素の周期表による結合されたハロゲンであると解釈され、その際、本発明によるアルカリ金属タングステン酸塩は2又はそれ以上の異なるハロゲン化物を含むこともできる。
【0003】
アルキルメルカプタンとは、特にメチルメルカプタンであり、例えばメチオニンの合成のため並びにジメチルスルホキシド及びジメチルスルホンの合成のための工業的に重要な中間生成物である。これは、今日主に、メタノールと硫化水素とから、酸化アルミニウムからなる触媒を用いた反応により製造される。メチルメルカプタンの合成は、通常では気相中で300〜500℃の温度で、1〜25barの圧力で行われる。
【0004】
この反応混合物は、生成されたメチルメルカプタンの他に、反応されない出発原料及び副生成物、例えばジメチルスルフィド及びジメチルエーテル並びにこの反応において不活性のガス、例えばメタン、一酸化炭素、水素及び窒素を含有する。この反応混合物から、生成されたメチルメルカプタンが分離される。
【0005】
この方法の経済性にとって、生成されたメチルメルカプタンを反応混合物から分離する場合のコストをできる限り低く保つために、メタノールと硫化水素とのメチルメルカプタンへの接触反応の場合にできる限り高い収率が要求される。この場合、特にメチルメルカプタンを凝縮させる目的で、反応混合物を冷却するためのエネルギーコストが大きなコスト要因である。
【0006】
活性及び選択率を高めるために、酸化アルミニウムは担体として通常ではタングステン酸カリウム又はタングステン酸セシウムが添加される。この場合、前記タングステン酸塩は一般に触媒の全質量に対して25質量%までの量で使用される。活性及び選択率の改善は、硫化水素対メタノールのモル比の向上によっても得られる。通常では、1〜10のモル比が適用される。
【0007】
高いモル比は、もちろん反応混合物中での硫化水素の高い過剰量をも意味し、従って大量のガスを循環させて供給する必要がある。このために必要なエネルギーコストの低減のために、従って、硫化水素対メタノールの比は1からあまり外れないことが好ましい。
【0008】
US-PS 2,820,062は、触媒の質量に対して1.5〜15質量%の量のタングステン酸カリウムが添加された活性酸化アルミニウムからなる触媒を使用する、有機チオールの製造方法に関する。この触媒を用いて、400℃の反応温度でかつモル比2で良好な活性及び選択率が達成される。この米国特許明細書は、タングステン酸カリウムを酸化アルミニウムに導入するための多様な方法を挙げている。含浸法、共沈及び単なる混合を適用することができるとしている。この触媒の本来の製造は、メチルメルカプタンの合成法の経済性にとってあまり重要でないことが認められている。
【0009】
EP 0 832 687 B1では、助触媒として、タングステン酸カリウム(K2WO4)の代わりにタングステン酸セシウム(Cs2WO4)を使用するのが有利であることが記載されている。タングステン酸セシウムの使用により、良好な選択率と同時に活性の向上を達成することができる。
【0010】
40質量%までタングステン酸セシウム濃度を高めることにより、前記の活性に過度に悪影響を与えずに、メチルメルカプタンの選択率を92%まで上昇させることができる。
【0011】
一般的な見解によると、最良の選択率は、アルカリ金属/タングステン比が2:1である触媒により達成される(A. V. Mashkina et al.著、React. Kinet. Catal. Lett., Vol. 36, No. 1, 159-164 (1988))。
【0012】
本発明の課題は、硫化水素対メタノールの低いモル比で、公知の触媒と比較して改善された活性及び選択率により優れており、従って方法の収率の改善及び経済性の向上を達成する触媒及びその製造方法を提供することであった。
【0013】
前記課題は、特に結合したアルカリ金属とタングステンとをアルカリ金属対タングステンのモル比<4:1、特に3:1〜0.9:1、有利に2.4:1〜1:1、特に2.2:1〜1.2:1で含有し、並びに1種又は数種のハロゲン化物、特に数種のハロゲン化物とアルカリ金属とを0.01:1〜3:1、有利に0.01:1〜1:1、特に0.1:1〜1:1のモル比で含有する、触媒活性のアルカリ金属タングステン酸塩を有する、触媒の提供により解決される。
【0014】
本発明による触媒活性のハロゲン化物含有の化合物は、一般式
(I) AxWOyz
を有し、
前記式中、
A: 少なくとも1種のアルカリ金属、特にNa、K、Cs、Kbのグループから選択される少なくとも1種のアルカリ金属;
X: F、Cl、Br、Iのグループから選択される少なくとも1種のハロゲン化物;
x: 0.9〜<4、特に1.2〜3;
y: この値は、タングステンの6価に基づいて、タングステン酸塩の構造並びにアルカリ金属含有量に応じて調節される;
z: 0.01〜<12、特に0.9〜<4。
【0015】
zの大きさは、タングステン酸塩中のハロゲン化物含有量の程度であり、前記ハロゲン化物は前記タングステン酸塩と化学的に結合して存在する必要はない。
【0016】
式Iによる組成のハロゲン化物成分は、前記タングステン酸塩が少なくとも2種の異なる、結合したアルカリ金属及び/又はF、Br、Iのグループから選択される少なくとも1種の他のハロゲン化物を含有する場合に、特に塩化物からなるか又は塩化物を含有する。
【0017】
塩化物は、触媒中のNa又はK/Wのモル比が>0.9〜1.9である場合に、有利に単独でハロゲン化物として含有されている。
【0018】
触媒活性化合物のアルカリ金属成分は、アルカリ金属グループの1種又は数種の元素から構成されていてもよい。触媒の結合されたハロゲン化成分は、同様に1種又は数種の異なるハロゲン化物から構成されていてもよい。
【0019】
触媒が担持触媒として存在する場合に、前記触媒はハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩を8〜50質量%、特に15〜40質量%、有利に20〜36質量%の量で含有する。外層触媒(Schalenkatalysator)の場合には、前記の割合はこの外層の組成に関する。
【0020】
ハロゲン化物含有の、1種又は数種のアルカリ金属及びタングステンからなる酸化物化合物は、担体成形体に直接含浸させることができる(担持触媒)。
【0021】
押出物又はプレス成形体の形で触媒を製造する場合に、粉末状の担体に本発明による酸化物組成物を含浸させるか又は混合し、得られた中間体を引き続き成形する(均一触媒)。外層触媒を製造する場合に、粉末状の担体は触媒作用する組成物で含浸され、次いで相応する混合物を有利に不活性の担体コア上に外層の形で適用する。
【0022】
ハロゲン化物/アルカリ金属のモル比は、特に有利に0.1:1〜1:1に達する。それにより、アルカノールと硫化水素とからアルキルメルカプタンへの反応のための本発明によるタングステン酸塩は、先行技術によるタングステン酸セシウム(Cs2WO4)又はタングステン酸カルシウム(K2WO4)で含浸された触媒とは異なり、ハロゲン化物の割合を有する。
【0023】
特に使用された酸化アルミニウムに対するハロゲン化物の割合は、先行技術においてもっぱら使用されているハロゲン化物不含のアルカリ金属タングステン酸塩と比較して、前記触媒に、高い選択率と同時に明らかに改善された活性を付与することが明らかとなった。更に、アルカリ金属タングステン酸塩にハロゲン化物を添加することにより、予想されないような、アルコールに対する極めて高い転化率で優れた選択率が示された。本発明の場合に、助触媒の極めて高い負荷量で優れた転化率を達成することができ、ハロゲン不含の触媒について先行技術から公知のような触媒の選択率の減少は生じない。更に、アルカリ金属−タングステン−ハロゲン化物−比によって並びにアルカリ金属及びハロゲン化物の選択によって、触媒の活性及び選択率を適切に調節することができることが見出された。多様なアルカリ金属の化合物又はハロゲン化物の混合物を使用するこの方法によって、比較的高価な物質、例えばセシウム化合物、ルビジウム化合物、臭素化合物又はヨウ素化合物は、触媒の活性又は選択率に悪い影響を与えずに、少なくとも部分的に低コストの、例えばカリウム又はナトリウム化合物又は塩化物に置き換えることができる。
【0024】
前記触媒は、有利に表面が触媒作用する物質で含浸される担持触媒の形で使用されるか、又は有利に不活性なコアが触媒活性物質と担体材料との混合物で取り囲まれている外層触媒の形で使用される。更に、触媒活性物質が粉末状の担体材料と成形の前に混合されているか、もしくは前記担体材料が触媒活性物質で含浸されている押出物又は圧縮成形品を使用することができる。
【0025】
担体材料として、公知の酸化物の無機化合物、例えばSiO2、TiO2、ZrO2及び有利にいわゆる活性酸化アルミニウムが使用される。
【0026】
この材料は、約10〜400m2/gの高い比表面積を有し、かつ主に酸化アルミニウムの結晶学的相の遷移系の酸化物(Oxiden der Uebergangsreihe)からなる(例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry von 1985 / Vol. AI, p 561-562参照)。前記の遷移酸化物にはγ−、δ−、η−、κ−、χ−及びθ−酸化アルミニウムが属する。この全ての結晶学的相は、酸化アルミニウムの1100℃より高い温度での加熱する場合に熱的に安定なα−酸化アルミニウムに遷移する。活性酸化アルミニウムは、触媒に適用するために多様な品質及び供給形態で市販されている。特に担持触媒を製造するために適しているのは、1〜5mmの粒子径、180〜400m2/gの比表面積、0.3〜1.2ml/gの全細孔容量並びに300〜900g/lの嵩密度を有する顆粒化された又は押出成形された酸化アルミニウムからなる成形体である。本発明の目的のために有利に200m2/gより高い比表面積を有する酸化アルミニウムが使用される、それというのも仕上がった触媒の触媒活性は、酸化アルミニウムの表面積の増大と共に容易に向上するためである。この材料は、粉末の形で、有利に外層触媒、押出物又は圧縮成形品の製造のために使用される。
【0027】
前記担体材料は、本発明の場合に、一般にハロゲン水素酸で前処理されていない。
【0028】
助触媒を適用するための含浸水溶液は、簡単に水に溶解するアルカリ金属化合物、タングステン化合物及びハロゲン化合物、特にタングステン酸(H2WO4)、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属ハロゲン化物、及び場合によりアンモニウムハロゲン化物又はハロゲン水素酸から製造することができる。このために、例えばタングステン酸を水に懸濁し、塩基を添加しかつ温めながら溶解させる。1種又は数種の所望のアルカリ金属ハロゲン化物又はアンモニウムハロゲン化物、場合により相応する水酸化物及び/又は例えば所望のハロゲン化物を有するハロゲン水素酸を同様に水に溶かし、タングステン酸の溶液(助触媒溶液)と、アルカリ金属タングステン酸塩とそのハロゲン化物含有量にとって望ましい組成物比が生じるように合わせる。有利に、前記アルカリ金属ハロゲン化物の他に、アニオンは熱処理により残留物なしで追い出されるアルカリ金属塩、例えば硝酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩又は炭酸塩も使用可能である有利に8〜14のpHを有する助触媒溶液を安定化するために、無機塩基及び有機塩基を使用する。有利に、含浸後に得られた触媒の最終的な熱処理により残留物なしで追い出される塩基を使用する。この塩基には、有利に水酸化アンモニウム及び有機塩基、特にアミンが属する。
【0029】
この処置によって、例えばAl23担体材料の表面に存在する酸基は十分に、一般に少なくとも約75%、特に100%中和される。
【0030】
含浸水溶液中でのアルカリ金属化合物とハロゲン化物とのモル比は、新たなタングステン酸ハロゲン化物とアルカリ金属とが0.01:1〜3:1のモル比で含まれるように選択される。これは、公知のハロゲン化物不含の触媒と比較して、本発明による触媒を使用する場合に、特に反応ガス中で硫化水素とメタノールとの低い割合で明らかに高い収率を生じさせる。
【0031】
タングステン酸セシウム、タングステン酸カリウム及びタングステン酸ルビジウム、特にタングステン酸セシウムが有利であり、ハロゲン化物として、フッ化物、臭化物及び塩化物、特に有利にフッ化物及び臭化物が有利である。
【0032】
多様なアルカリ金属カチオンを有するか又は多様なハロゲン化物の含有量を有するタングステン酸は、有利に2種の異なるアルカリ金属のカチオン及び少なくとも1種のハロゲン化物をアルカリ金属対ハロゲン化物の比0.01:1.0〜3.0:1.0で含有し、その際、アルカリ金属もしくは場合により存在する異なるハロゲン化物のモル分量は合計として計算される。この場合、触媒の活性及び選択率を悪化させることがない範囲内で、低コストのアルカリ金属又はハロゲン化物の割合を増加させかつ同時に比較的高価なアルカリ金属又はハロゲン化物の割合を反対に減少させる。
【0033】
アルカリ金属を組み合わせる場合に、Cs割合又はRb割合が有利な比率でKカチオン又はNaカチオンにより置き換えられるタングステン酸が有利である。
【0034】
次グループ
a) カリウムとセシウム、
b) ナトリウムとセシウム、
c) ルビジウムとセシウム、
d) ナトリウムとカリウム、
e) ルビジウムとカリウム
からなる結合されたアルカリ金属の1:1のモル比ではない組合せにより生じる触媒が有利である。
【0035】
プロモーター溶液の適用のために、多様な含浸技術、例えば浸漬含浸、スプレー含浸、真空含浸及び細孔容量含浸を使用することができ、その際、前記含浸は複数回行うこともできる。成形体の場合に、選択された含浸法は、助触媒の所望の負荷量を全体の横断面にわたり良好な均一性で適用することができなければならない。
【0036】
有利に、助触媒溶液はスプレー含浸法又は真空含浸法により、1又は2工程で成形体に適用される。スプレー含浸法の場合に、含浸水溶液は担体成形体に吹き付けられる。真空含浸法の場合に、成形体で充填された容器を、真空ポンプにより減圧にする。含浸水溶液に通じるホース接続を開放させることにより、前記溶液で成形体の全粉体が覆われるまで前記溶液を容器中へ吸い込ませる。0.2〜2時間の含浸時間の後に、材料により吸収されない溶液を排出するか又は流し捨てる。
【0037】
室温で1〜10時間の期間の予備乾燥により、成形体の横断面にわたる当初の濃度勾配は十分に補償することができる。従って、触媒粒子の横断面にわたる含浸の均一性が改善される。有利に、こうして得られた触媒前駆体を、残留湿分の除去のために100〜200℃、有利に100〜140℃で1〜10時間の期間乾燥させる。次いで、1〜20、有利に1〜5時間の期間で、300〜600、有利に420〜480℃でか焼が行われる。これにより、助触媒は酸化アルミニウムに固定され、含浸溶液の塩基は分解され、追い出される。場合により、前記触媒前駆体の担体成形体の粉体は、予備乾燥、乾燥及びか焼の際にガス流を通し、これは残留湿分及び分解ガスの運び出しを改善する。
【0038】
成形体の含浸は、多工程で、特に2工程で行うこともできる。
【0039】
この有利な実施態様の場合には、第1の工程で使用された溶液は、アルカリ金属化合物及びタングステン化合物の予定された全体量の3分の2まで含有する。
【0040】
多工程で、少なくとも2工程で行う場合には、第1の工程で得られた前駆体は場合によりか焼されない。
【0041】
それ以外の点では、第2の工程で、1工程の方法で記載されたのと同じ含浸プログラム、乾燥プログラム及びか焼プログラムが行われる。
【0042】
この多工程の含浸は、高い負荷量が望ましい場合及び/又は助触媒混合物の限られた可溶性のために1回の工程で負荷量が達成できない場合に特に有利である。
【0043】
担体成形体もしくは担体材料に含浸工程の間に(請求項22からの工程a)複数回含浸溶液を吹き付け、前記処理工程の間にそれぞれ残留湿分の一部を120℃までの温度で除去し、その後、工程bに送る方法もある。
【0044】
外層触媒の製造の場合には、外層の形成のために適用される粉末を被覆の前又は後にか焼することができる。例えば、この触媒タイプはEP-B-0 068 193により製造することができる。押出物又は圧縮成形品の製造の場合でも、か焼は成形の前又は後で行うことができる。
【0045】
実施例
例1(比較例)
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、タングステン酸セシウム(Cs2.0WO4)21.0質量%で、真空含浸を用いて含浸した。このために、それぞれ次のように行った:
含浸溶液の製造のために、タングステン酸55.7gを水44.5g中に懸濁させ、25%のアンモニア溶液111.4gを添加し、50℃に加熱することにより溶かした。Cs(OH)・H2O 74.6gを水37.3g中に溶かし、第1の溶液と混合した。この溶液を、引き続き蓋をされたビーカーガラス中で48時間撹拌した。引き続き、前記溶液を水25gで234mlの体積にした。
【0046】
酸化アルミニウムを、150mbarに排気されたガラス容器中に装入した。栓を開放することにより、含浸溶液を排気された容器中へ吸い込ませて、成形体の全粉体を前記溶液で覆った。15分の待機時間及びガラス容器の通気の後に、前記酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をビーカーガラスに戻した。この場合、酸化アルミニウムにより、含浸溶液79mlが吸収された。
【0047】
この顆粒を、1時間の期間で室温で空気流中で、引き続き120℃で3時間、残留湿分の除去のために乾燥した。その後で、前記顆粒を455℃で3時間か焼した。
【0048】
例2(比較例)
比較例1を、酸化アルミニウムのタングステン酸セシウム(Cs2.0WO4)の26.3%の負荷量で繰り返した。
【0049】
例3(比較例)
比較例1を、Cs(OH)・H2Oの代わりにKOHを使用しながら酸化アルミニウムのタングステン酸カルシウム(K2.0WO4)の19.6%の負荷量で繰り返した。
【0050】
実施例4
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、フッ化物含有のタングステン酸セシウム22.3質量%で、真空含浸を用いて含浸した。このために、それぞれ次のように行った:
含浸溶液の製造のために、タングステン酸56.8gを水45.4g中に懸濁させ、25%のアンモニア溶液113.6gを添加し、50℃に加熱することにより溶かした。CsF 68.8gを水40.0g中に溶かし、第1の溶液と混合した。この溶液を、引き続き蓋をされたビーカーガラス中で4時間撹拌した。引き続き、前記溶液を水24.9gで234mlの体積にした。
【0051】
酸化アルミニウムを、150mbarに排気されたガラス容器中に装入した。栓を開放することにより、含浸溶液を排気された容器中へ吸い込ませて、成形体の全粉体を前記溶液で覆った。15分の待機時間及びガラス容器の通気の後に、前記酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をビーカーガラスに戻した。この場合、酸化アルミニウムにより、含浸溶液73mlが吸収された。
【0052】
この顆粒を、1時間の期間で室温で空気流中で、引き続き120℃で3時間、残留湿分の除去のために乾燥した。その後で、前記顆粒を455℃で3時間か焼した。
【0053】
実施例5
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、1回の含浸で全体で塩化物含有のタングステン酸セシウム23.9質量%で、真空含浸を用いて含浸した。それぞれ次のように行った:
タングステン酸57.8gを水46.2g中に懸濁させ、25%のアンモニア溶液115.6gを添加し、50℃に加熱することにより溶かした。CsCl 77.6gを水30.0g中に溶かし、第1の溶液と混合した。この溶液を、引き続き蓋をされたビーカーガラス中で22時間撹拌した。引き続き、前記溶液を水23.2gで234mlの体積にした。酸化アルミニウムを、150mbarに排気されたガラス容器中に装入した。栓を開放することにより、含浸溶液を吸い込ませて、成形体の全粉体を前記溶液で覆った。15分の待機時間及びガラス容器の通気の後に、前記酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をビーカーガラスに戻した。この場合、酸化アルミニウムにより、含浸溶液74mlが吸収された。引き続き、前記顆粒を室温で1時間及び120℃で3時間乾燥させ、455℃で3時間か焼した。
【0054】
実施例6
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、2工程の含浸で全体で臭化物含有のタングステン酸セシウム18.5質量%で、真空含浸を用いて含浸した。それぞれ次のように行った:
タングステン酸58.5gを水46.8g中に懸濁させ、25%のアンモニア溶液116.9gを添加し、50℃に加熱することにより溶かした。CsBr 15.6g及びCs(OH)・H2O 50.4gを水30.0g中に溶かし、第1の溶液と混合した。この溶液を、引き続き蓋をされたビーカーガラス中で21時間撹拌した。引き続き、前記溶液を水17.2gで234mlの体積にした。酸化アルミニウムを、150mbarに排気されたガラス容器中に装入した。栓を開放することにより、含浸溶液を吸い込ませて、成形体の全粉体を前記溶液で覆った。15分の待機時間及びガラス容器の通気の後に、前記酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をビーカーガラスに戻した。この場合、酸化アルミニウムにより、含浸溶液81mlが吸収された。引き続き、前記顆粒を室温で1時間及び120℃で3時間乾燥させ、455℃で3時間か焼した。
【0055】
実施例7
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)150gを、1回の含浸で全体でヨウ化物含有のタングステン酸セシウム29.6質量%で、真空含浸を用いて含浸した。それぞれ次のように行った:
タングステン酸64.1gを水51.3g中に懸濁させ、25%のアンモニア溶液128.2gを添加し、50℃に加熱することにより溶かした。CsI 132.7gを水30.0g中に溶かし、第1の溶液と混合した。この溶液を、引き続き蓋をされたビーカーガラス中で6時間撹拌した。引き続き、前記溶液を水6gで234mlの体積にした。酸化アルミニウムを、150mbarに排気されたガラス容器中に装入した。栓を開放することにより、含浸溶液を吸い込ませて、成形体の全粉体を前記溶液で覆った。15分の待機時間及びガラス容器の通気の後に、前記酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をビーカーガラスに戻した。この場合、酸化アルミニウムにより、含浸溶液80mlが吸収された。引き続き、前記顆粒を室温で1時間及び120℃で3時間乾燥させ、455℃で3時間か焼した。
【0056】
実施例8
酸化アルミニウム(Spheralite 501A)95gを、1回の含浸で全体でフッ化物及び臭化物含有のタングステン酸セシウム23.5質量%で、真空含浸を用いて含浸した。それぞれ次のように行った:
タングステン酸36.8gを水35.0g中に懸濁させ、25%のアンモニア溶液73.6gを添加し、50℃に加熱することにより溶かした。CsF 22.3g及びCsBr 31.2gを水30.0g中に溶かし、第1の溶液と混合した。この溶液を、引き続き蓋をされたビーカーガラス中で22時間撹拌した。引き続き、前記溶液を水1gで234mlの体積にした。酸化アルミニウムを、150mbarに排気されたガラス容器中に装入した。栓を開放することにより、含浸溶液を吸い込ませて、成形体の全粉体を前記溶液で覆った。15分の待機時間及びガラス容器の通気の後に、前記酸化アルミニウムにより吸収されなかった溶液をビーカーガラスに戻した。この場合、酸化アルミニウムにより、含浸溶液44mlが吸収された。引き続き、前記顆粒を室温で1時間及び120℃で3時間乾燥させ、455℃で3時間か焼した。
【0057】
実施例9(適用例)
前記触媒を、硫化水素とメタノールとからのメチルメルカプタンの合成の際のその性能データに関して試験した。
【0058】
前記合成を、内径18mm及び長さ500mmの特殊鋼管中で実施した。それぞれ76mlの触媒粉体を、ガラス球からなる不活性粉体により両側から反応管中に固定した。前記反応管は二重ジャケットにより熱媒体油で約320℃の反応温度に加熱した。
【0059】
この試験条件は次のリストに記載されている:
GHSV:1300h-1(標準条件に対して)
LHSV:0.84h-1(液体MeOHに対して)
反応温度:320℃
質量比
2S/MeOH:1.9
圧力:9bar。
【0060】
生成物のメチルメルカプタン、ジメチルスルフィド及びジメチルエーテル、及び未反応の出発物質のメタノール及び硫化水素を有する反応混合物を、オンラインガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0061】
触媒にハロゲン化物が添加されていた場合に、活性の明らかな上昇と同時に選択率の改善も確認できた。先行技術の場合には、選択率は高い転化率の場合に特に低下していたが、ハロゲンの添加により、極めて高い転化率の場合でもなお変化しない高い選択率が確認された。これにより先行技術と比較して15%までの収率の向上が達成された。前記選択率は、アルカリ金属−タングステン酸塩−ハロゲン化物−比の調節により、約96.6%にまで向上させることができた。これにより、メチルメルカプタンの大規模工業的合成の場合に、未反応のメタノール及び/又は副生成物から反応生成物を分離する場合の著しいコストの節約が生じた。
【0062】
更に、この実施例の結果は、触媒の活性及び選択率を適切に調節するため又は触媒の製造の際の原料コストを節約するために、少なくとも一部のハロゲン化物を互いに交換することができることを示す。
【0063】
表1:試験結果
【表1】

VB1:比較例1による触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属タングステン酸塩を含有し、前記アルカリ金属タングステン酸塩は少なくとも1種のハロゲン化物を含有し、その際、前記アルカリ金属成分はハロゲン化物成分と同様に周期表のそれぞれの属の少なくとも1つの元素から形成されている、触媒。
【請求項2】
タングステン酸塩は2種の結合したアルカリ金属と、F、Cl、Br、Iのグループから選択される少なくとも1種のハロゲン化物を含有する、請求項1記載の触媒。
【請求項3】
タングステン酸塩は、F、Br、Iのグループから選択される1種のハロゲン化物を含有する、請求項1記載の触媒。
【請求項4】
タングステン酸塩は、F、Cl、Br、Iのグループから選択される2種のハロゲン化物を含有する、請求項1記載の触媒。
【請求項5】
タングステン酸は、少なくとも1種の結合したアルカリ金属、タングステン及び少なくとも1種のハロゲン化物をアルカリ金属の合計対タングステンのモル比0.9〜<4:1で、ハロゲン化物の合計対アルカリ金属の合計のモル比0.01〜3:1で含有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項6】
タングステン酸塩は、F、Cl、Br又はIのグループから選択される少なくとも1種のハロゲン化物を含有する、請求項5記載の触媒。
【請求項7】
ハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩中の1種以上のアルカリ金属対タングステンのモル比は2.2:1〜0.9:1であり、1種以上のハロゲン化物対1種以上のアルカリ金属のモル比は1:1〜0.01:1であることを特徴とする、請求項6記載の触媒。
【請求項8】
担体材料とハロゲン化物含有のタングステン酸とを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項9】
ハロゲン化水素酸を含有しない担体材料を特徴とする、請求項8記載の触媒。
【請求項10】
担体材料としてのコアがハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩で包囲されているか又はハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩で含浸された担体材料で包囲されている外層触媒からなる、請求項8又は9記載の触媒。
【請求項11】
ハロゲン化物含有のアルカリ金属タングステン酸塩で含浸された担体材料が均一触媒として存在する、請求項8又は9記載の触媒。
【請求項12】
成形された担体材料の表面が、1種以上のアルカリ金属対タングステンのモル比0.9〜<4:1を有しかつ1種以上のハロゲン化物対1種以上のアルカリ金属のモル比0.01〜3:1を有するアルカリ金属タングステン酸塩とハロゲン化物からなる触媒活性の酸化物の組成物で含浸されている、請求項9記載の触媒。
【請求項13】
タングステン酸塩が一般式:
(I) AxWOyz
に相当し、前記式中、
A:少なくとも1種のアルカリ金属
X:少なくとも1種のハロゲン
x:0.9〜<4
y:酸化物中の酸素含有量
z:0.01〜<12
を特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項14】
ハロゲン含有のアルカリ金属タングステン酸塩を8〜50質量%、有利に20〜36質量%の量で含有することを特徴とする、請求項8から13までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項15】
担体成形体又は担体材料が酸化物の無機化合物からなることを特徴とする、請求項8から13までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項16】
担体成形体又は担体材料が酸化アルミニウム(Al23)からなることを特徴とする、請求項15記載の触媒。
【請求項17】
担体材料が、180〜400m2/gの比表面積(BET)及び0.3〜1.2ml/gの全細孔容量を有することを特徴とする、請求項16記載の触媒。
【請求項18】
Na、K、Cs、Rbから選択されたアルカリ金属であることを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項19】
アルカリ金属が、次グループ
a) カリウムとセシウム、
b) ナトリウムとセシウム、
c) ルビジウムとセシウム、
d) ナトリウムとカリウム、
e) ルビジウムとカリウム
から選択された2種の結合されたアルカリ金属の1:1のモル比ではない組合せであることを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項20】
F、Cl、Br、Iのグループから選択されたハロゲン化物であることを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項21】
ハロゲン化物が、フッ化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物のグループから選択される少なくとも2種のハロゲン化物であることを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項記載の触媒。
【請求項22】
次の方法工程:
a) 担体成形体又は担体材料を、可溶性のアルカリ金属化合物、タングステン化合物及びハロゲン化物化合物を前記のアルカリ金属/W/ハロゲン−モル比で含有する水溶液で含浸する工程、
b) 得られた含浸された成形体又は微細粒の担体材料(触媒前駆体)を室温で予備乾燥する工程、
c) 場合により残留湿分の除去のために100〜200℃で乾燥する工程、
d) 300〜600℃の温度で2〜10時間の期間で最終的にか焼する工程、及び
e) Xzを含有する一般組成式AxWOy(式中、A、X、x、y及びzは前記の意味を有する)の助触媒を特に8〜50質量%、有利に20〜36質量%の含有量で有する担体触媒又は含浸された微細粒の担体材料を得る工程、その際、引き続き
f) 微細粒の含浸された担体材料を、公知の助剤を添加しながら懸濁させ、不活性の担体コア状に適用するか又は押出成形及び圧縮成形する工程
を実施する、アルカリ金属タングステン酸を含有する担持触媒の製造方法。
【請求項23】
含浸溶液がpH値>7を有することを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項24】
工程a〜c及び場合によりdを少なくとも1回繰り返すことを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項25】
複数回含浸する場合に、最初に使用される含浸溶液は、アルカリ金属化合物及びタングステン化合物の予定された全体量の3分の2まで含有することを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項26】
担体成形体又は担体材料に含浸溶液を複数回吹き付け、前記処理工程の間に120℃までの温度で残留湿分の一部を除去し、その後で処理工程b)に移ることを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項27】
含浸された担体材料をコアに適用した後、押出の後又は圧縮成形の後に触媒を熱処理することを特徴とする、請求項22記載の方法。
【請求項28】
請求項1から25までのいずれか1項記載の触媒の存在で、アルカノールと硫化水素とを反応させることによるアルキルメルカプタンの製造方法。
【請求項29】
メチルアルコールと硫化水素との反応によりメチルメルカプタンを製造するための請求項28記載の方法。

【公表番号】特表2008−523967(P2008−523967A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545867(P2007−545867)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012598
【国際公開番号】WO2006/063669
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(501073862)エボニック デグサ ゲーエムベーハー (837)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Degussa GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1−11, D−45128 Essen, Germany
【Fターム(参考)】