説明

アルギニン含有錠剤の製造方法

【課題】本発明は、亀裂及び崩壊を抑制したアルギニン含有錠剤を提供することを目的とする。
【解決手段】水分を含んだアルギニンを含有する打錠用粉体を打錠することを特徴とする、アルギニンの膨潤に起因する錠剤の亀裂及び崩壊を抑制したアルギニン含有錠剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギニンを含有した錠剤の製造方法に関し、食品、医薬品、医薬部外品の分野において利用される。
【背景技術】
【0002】
アルギニンは、成長ホルモン分泌促進、血流改善等、基礎代謝を上昇させる効果を有していることから、サプリメント等として市販されている。市販されているアルギニン製剤は、カプセル剤や粒剤が主であるが、効果の期待できる量をカプセル剤や粒剤で摂取するには以下の通り、問題点を有している。すなわち、カプセル剤では圧縮工程を経ていないので、大きいカプセルを多量に摂取しなければならない点、粒剤ではアルギニンの味、臭いが気になる点、また包装にコストがかかる点等が問題となる。従ってアルギニンを含有する錠剤の提供が望まれている。
【0003】
これまでにアルギニンを含有する錠剤については報告例があるが、コーティングを施している例がほとんどである(特許文献1〜4参照)。この理由の1つとして考えられるのが、アルギニンの吸水性である。アルギニンは吸水し膨潤する性質を有するので、吸水を避けるため、コーティング層を有する錠剤が多く報告されていると考えられる。しかしながら、コーティングには、悪味および悪臭の防止、水、光、酸素などの外的条件からの安定性確保等の利点がある一方で、長い製造時間に伴う製造コストの増加という問題点もあり、必要性に乏しければ錠剤に対してコーティングを施さない方が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−1873号公報
【特許文献2】特開2007−197378号公報
【特許文献3】WO2004/078171号公報
【特許文献4】特開2005−298373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、アルギニン含有錠剤において、錠剤に対して一定量以上のアルギニンを含有させると、加湿条件下において錠剤に亀裂や崩壊が発生することを新たに発見した。本発明の課題は前記亀裂及び崩壊を抑制したアルギニン含有錠剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、水分を含んだアルギニンを含有する打錠用粉体を打錠してアルギニン含有錠剤を得ることで、コーティングを施さなくとも亀裂及び崩壊が発生せず、課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)水分を含んだアルギニンを含有する打錠用粉体を打錠することを特徴とする、アルギニンの膨潤に起因する錠剤の亀裂及び崩壊を抑制したアルギニン含有錠剤の製造方法。
(2)水分を含んだアルギニンを含有する打錠用粉体が、アルギニンを含有する粉体を湿式造粒して得られる造粒物を含有する粉体である上記(1)に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。
(3)アルギニンを含有する粉体を湿式造粒して得られる造粒物中の水分含有量が2.7質量%以上であることを特徴とする上記(2)に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。
(4)コーティングを施さないことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。
(5)アルギニンの含有量が、錠剤に対して16.9質量%以上であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、コーティングを施さなくとも、亀裂及び崩壊の見られないアルギニン含有錠剤が製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて3時間保存した後の写真である。
【図2】参考例4で製造した錠剤の製造直後の写真である。
【図3】参考例1で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて3時間保存した後の写真である。
【図4】参考例2で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて2時間保存した後の写真である。
【図5】参考例3で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて2時間保存した後の写真である。
【図6】参考例4で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて2時間保存した後の写真である。
【図7】実施例1で製造した錠剤の製造直後の写真である。
【図8】比較例1で製造した錠剤の製造直後の写真である。
【図9】比較例1で製造した錠剤の、25℃60%RHの条件下にて2時間保存した後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、アルギニンとは好ましくはL体のアルギニンであり、塩の形態をとっても良い。アルギニンの塩としては製剤学上許容される塩であれば特に限定されないが、例えば塩酸塩、グルタミン酸塩、クエン酸塩等を挙げることができる。本発明においてアルギニンの塩を使用した場合、錠剤におけるアルギニンの含有量とは、遊離体のアルギニンに換算した量である。
【0011】
錠剤の亀裂及び崩壊とは、錠剤表面やエッジ部分が裂け、錠剤表面から剥がれ落ちるように崩れていく状態を言う。亀裂及び崩壊が発生した錠剤例の写真を図面に示した。錠剤に亀裂が発生した状態が、図4及び図9に示される状態であり、錠剤の崩壊が発生した状態が、図5及び図6に示される状態である。錠剤の亀裂及び崩壊は、アルギニンが吸水し、膨潤することで発生すると考えられる。
【0012】
「水分を含んだアルギニンを含有する打錠用粉体(以下、打錠用粉体)」は、水分を含んだアルギニンを含有するほか、慣用の賦形剤、添加剤等によって構成され、生薬・ビタミン等の他の有効成分を含有しても良い。また、前記各成分を造粒し、必要に応じて該造粒物にさらに他の慣用成分を添加した粉体も、上記打錠用粉体の範疇に含まれる。さらに、上記打錠用粉体には、アルギニン及び、必要に応じて慣用の賦形剤、添加剤、有効成分等を混合した粉体に対して、水又は水とアルコールの混液(結合剤を溶解させた溶液でも良い)を用いて湿式造粒して得られる造粒物も含まれ、該造粒物にさらに他の慣用成分を添加した粉体も含まれる。すなわち、本発明における「打錠用粉体」中のアルギニンが、打錠する前に、何らかの方法で水分を含み、膨潤していることが重要である。こうすることで、打錠後にさらにアルギニンが吸水したとしても、錠剤の亀裂や崩壊を招くほどの、アルギニンの膨潤を避けることが出来る。
【0013】
本発明において、アルギニンを含有する粉体を湿式造粒して得られる造粒物を使用する場合、アルギニンの含有割合によっても異なってくるが、錠剤の亀裂及び崩壊の抑制の観点から、該造粒物に対して2.7質量%以上の水分を含んでいることが好ましい。水分含有量は造粒時に添加する水の量を制御するか、造粒後の乾燥条件を制御することで、適宜調整することができる。なお、水分量の上限については、打錠の容易性等を勘案して、当業者が適宜決定することができる。
【0014】
湿式造粒とは、粉体に溶媒又は、バインダーを含んだ溶液を噴霧し、溶媒を乾燥させることにより粒子同士を凝集させ、粒子を一定の大きさにまで成長させる方法であり、溶媒としては水、アルコールを使用することができる。湿式造粒法には攪拌造粒法、流動層造粒法、練合造粒法等の造粒法が知られており、本発明においては特に流動層造粒法が好ましい。
【0015】
コーティングを施すとは、錠剤や顆粒の表面に、種々の物質被膜を形成し被覆することであり、悪味および悪臭の防止、水、光、酸素などの外的条件からの安定性確保、腸溶性や徐放性等の機能付与等を目的として施す。なお、本発明の錠剤及びその製造途中の造粒物にはコーティングを施さなくとも錠剤に亀裂及び崩壊が見られないが、コーティングすることを妨げるものではない。例えば、本発明の錠剤に悪味、悪臭を有する成分を配合した場合、又は水、光、酸素等に不安定な成分を配合した場合にコーティングを施すことは有効である。
【0016】
本発明において、錠剤及び湿式造粒して得られる造粒物の水分含有量は、乾燥減量法(70℃30分)により決定した値を用いる。すなわち、錠剤、造粒物を70℃30分の条件下に置いて、減少した重量から算出した値である。
【0017】
本発明のアルギニン含有錠剤には賦形剤を配合することができる。該賦形剤としては、例えば、乳糖、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、還元麦芽糖水飴、トレハロース、砂糖、ブドウ糖、リン酸水素カルシウム、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。これらの賦形剤は一種又は二種以上使用できる。
【0018】
更に、本発明の錠剤は、慣用の添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、嬌味剤などが挙げられる。該添加剤は単独でも混合物としても用いることができる。
【0019】
結合剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、プルランなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスポビドン、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、部分α化デンプンなどが挙げられる。
【0020】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸及びその金属塩、タルク、ショ糖脂肪酸エステルなどが挙げられる。嬌味剤としては、例えば、甘味剤(例えば、アスパルテーム、アセスルファムK、ステビア、スクラロース、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウムなどの人工甘味料など)などが挙げられる。
【0021】
さらに、本発明には、各種アミノ酸及びその塩類、各種ビタミン類、その他の生薬及び生薬抽出物など一般に使用される有効成分を配合することができる。
【実施例】
【0022】
以下に参考例、実施例、比較例、及び試験例によって、本発明を詳細に説明する。
【0023】
参考例1〜4
以下の操作を行い、表1に示す組成比になるように参考例1〜4を製造した。
Lアルギニン、還元麦芽糖水飴、ヒドロキシプロピルセルロース、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸カルシウムをそれぞれ秤量し、混合、粉砕したものを、打錠機にて打錠し、1錠質量370mgの錠剤を製造した。表中の単位はいずれも質量%である。
【0024】
【表1】

【0025】
以下の実施例1及び比較例1の配合成分の配合率(質量%)は、水以外の成分の総和を100質量%とした時の配合率である。
【0026】
実施例1
Lアルギニン35.0質量%、コウジンエキス末1.6質量%、紅景天エキス末2.1質量%、黒胡椒抽出物0.2質量%、ビタミンB60.3質量%、亜鉛含有酵母8.3質量%、還元麦芽糖水飴11.7質量%、結晶セルロース35.0質量%、軽質無水ケイ酸1.9質量%の組成の粉体を粉砕し、該混合物に、ヒドロキシプロピルセルロース2.0質量%を精製水に溶解してヒドロキシプロピルセルロース濃度を6.0%とした溶液を結合液として、流動層造粒機を用い、造粒後の乾燥時間を制御して、造粒物を得た。該造粒物の水分含有量は、5gの造粒物を用いた乾燥減量法(70℃30分)により決定し、2.73質量%であった。該造粒物に、ステアリン酸カルシウム2.0質量%を混合し、打錠機にて打錠、1錠質量300mgの錠剤を製造した。該錠剤の水分含有量は、5gの錠剤を粉砕した粉末を用いた乾燥減量法(70℃30分)により決定し、2.97質量%であった。
【0027】
比較例1
Lアルギニン35.0質量%、コウジンエキス末1.6質量%、紅景天エキス末2.1質量%、黒胡椒抽出物0.2質量%、ビタミンB60.3質量%、亜鉛含有酵母8.3質量%、還元麦芽糖水飴11.7質量%、結晶セルロース35.0質量%、軽質無水ケイ酸1.9質量%の組成の粉体を粉砕し、該混合物に、ヒドロキシプロピルセルロース2.0質量%を精製水に溶解してヒドロキシプロピルセルロース濃度を6.0%とした溶液を結合液として、流動層造粒機を用い、造粒後の乾燥時間を制御して、造粒物を得た。該造粒物の水分含有量は、5gの造粒物を用いた乾燥減量法(70℃30分)により決定し、2.44質量%であった。該造粒物に、ステアリン酸カルシウム2.0質量%を混合し、打錠機にて打錠、1錠質量300mgの錠剤を製造した。該錠剤の水分含有量は、5gの錠剤を粉砕した粉末を用いた乾燥減量法(70℃30分)により決定し、2.17質量%であった。
【0028】
試験例
参考例1、2、3、4及び実施例1、比較例1で製造した錠剤を試験サンプルとした。試験サンプルを、25℃60%RHの条件下にて任意時間保存した後、試験サンプルの外観変化を評価した。試験結果を表2及び表3に示した。また、それぞれの錠剤について代表的な写真を図1〜図9に示した。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表中の評価結果は以下の通りである。
0:変化無し
1:錠剤に亀裂
2:錠剤の崩壊
参考例より、25℃60%RHの条件下における試験サンプルの外観変化は、Lアルギニンの含有量に依存し、Lアルギニンの含有量が16.9質量%以上では錠剤に亀裂や崩壊を確認した。従って本発明はアルギニンを錠剤に対して16.9質量%以上含有させる場合に、特に効果を発揮する。なお、アルギニンの含有量が16.9質量%未満である錠剤に対しても、アルギニンの吸水、膨潤を抑制するために、本発明を適用することができる。
【0032】
実施例1で得られた試験サンプルの25℃60%RH条件下における外観変化を評価したところ、錠剤の亀裂や崩壊は確認されず、安定であることを確認した。しかし、比較例1で得られた試験サンプルの25℃60%RH条件下における外観変化を評価したところ、経時的な錠剤の亀裂が確認された。
【0033】
以上の結果より、湿式造粒して得られる造粒物の水分含有量が2.73質量%以上であれば、Lアルギニンの含有量が35.0質量%においても25℃60%RHの条件下にて安定な錠剤を提供することができた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明のアルギニン含有錠剤の製造方法は、食品、医薬品、医薬部外品等の分野において利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含んだアルギニンを含有する打錠用粉体を打錠することを特徴とする、アルギニンの膨潤に起因する錠剤の亀裂及び崩壊を抑制したアルギニン含有錠剤の製造方法。
【請求項2】
水分を含んだアルギニンを含有する打錠用粉体が、アルギニンを含有する粉体を湿式造粒して得られる造粒物を含有する粉体である請求項1に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。
【請求項3】
アルギニンを含有する粉体を湿式造粒して得られる造粒物中の水分含有量が2.7質量%以上であることを特徴とする請求項2に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。
【請求項4】
コーティングを施さないことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。
【請求項5】
アルギニンの含有量が、錠剤に対して16.9質量%以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルギニン含有錠剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−254580(P2010−254580A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102614(P2009−102614)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】