説明

アルギンオリゴ糖及びその誘導体、並びにそれらの調製と用途

本発明は重合度が2〜22のアルギンオリゴ糖及びその誘導体を提供し、上記アルギンオリゴ糖はβ−D−マンヌロン酸がα−1,4グリコシド結合により形成されている。それを酸化分解させることにより、還元末端1位がカルボキシル基である誘導体が得られる。本発明はさらにアルギンオリゴ糖及びその誘導体の調製方法を提供している。この方法は、アルギナート水溶液を高圧釜の中、pH2〜6、反応温度約100〜120℃の条件で約2〜6時間反応させる工程;反応終了後、pH値を7に調節する工程を含む。得られたオリゴ糖を酸化剤によって酸化分解して酸化分解生成物を得る。本発明のアルギンオリゴ糖及びその誘導体は、老年性痴呆症と糖尿病の予防/治療薬物用製薬に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルギンオリゴ糖及びその誘導体、並びにそれらの調製と老年性痴呆、糖尿病の治療での応用に関する。
【背景技術】
【0002】
老年性痴呆と糖尿病は、現在人類の健康に深刻な危害を加える多発病であり、よくある病気であり、特に世界の老年人数の日々増加に伴って、その発病率は年々高くなり、老年性痴呆と糖尿病の予防と治療はますます重要になっている。
【0003】
現在、老年性痴呆の予防と治療の薬物として、中枢興奮剤、コリン機能を改善できる物質、脳の血液循環改善剤、漢方薬とピロリドン類化合物などがある。しかし、その多くが治療効果があまりなく、特異性が強くない、あるいは副作用が大きく、内服時吸収がよくない、血液脳関門を通しにくい、特に応急処置するだけで根本的な治療にならないという様々な問題点があるため、それらの普及及び応用が制限されている。臨床常用の糖尿病予防と治療の薬物としては、主にインシュリンと内服の糖分を減らす薬物があり、多くが使用性が低い上、副作用が大きいなどの欠点が存在している。特にII型の糖尿病の治療で使える有効な薬物が非常に不足しているのが現実である。研究によって、老年性痴呆及びII型糖尿病の発病過程は、類でんぷんタンパク(β−amyloid、以下Aβ、およびamylinと称する)が堆積して形成する神経原線維濃縮体及びその誘発する自由基酸化損失と関係する。そのため、アミロイド線維の形成と毒性を拮抗することは老年性痴呆とII型の糖尿病の予防と治療の有効な方法である。
【0004】
アルギンは褐藻植物細胞壁の主要な構成成分であり、β−D−マンヌロン酸とα−L−グルロン酸が1,4グリコシド結合で結合して形成した直鎖状アニオン性多糖である。アルギンは高分子化合物で、分子量が比較的に大きく、普通は数万〜数百万ドルトンである。アルギンは豊富に存在しており、すでに食品、化学、医薬などに幅広く利用されている。最近の研究では、アルギンが多様な生理活性を有していることが明らかになったが、分子量がわりに大きいため、その薬物での応用がある程度制限されている。従って、各種の分解方法により調製されたアルギンオリゴ糖は、糖化学、糖生物学、糖産業と糖類薬物研究などの分野において重要な研究価値を持っている。多糖類の分解方法としては、様々で、例えば酵素分解法、化学分解法と物理分解法がある。酵素分解法はアルギン特異性の酵素を必要とするため、その応用には制限がある。物理分解法は、通常ほかの分解方法と一緒に使い、分解生成物の極限の分子量は50,000Da付近であるため、オリゴ糖をつくりにくい。糖分解に使用する化学分解法として、主には酸加水分解法と酸化分解法があるが、酸分解法は、通常、常温常圧で行うため、分子量4000以下のオリゴ糖を獲得しにくく、その応用は制限されている。
【発明の開示】
【0005】
本発明者らは、上記の情況に鑑みて鋭意研究を行った結果、高温高圧条件で酸加水分解を行うことによって、分子量4000以下のアルギンオリゴ糖を獲得できることを見出し、さらに酸化剤存在条件で還元末端1位がカルボキシル基である誘導体を調製し、本発明の完成に至った。
【0006】
つまり、本発明は、1種類の低分子量アルギンオリゴ糖及びその誘導体、あるいはそれらの製薬学的に許容される塩類、並びにこれら化合物の調製方法を提供することを目的としている。さらに、本発明は、上記の低分子量アルギンオリゴ糖及びその誘導体あるいはそれらの製薬学的に許容される塩類を含有する老年性痴呆症と糖尿病の予防治療用薬物を提供することを目的としている。
【0007】
本発明は、下記構造式(I)に示されるアルギンオリゴ糖及びその誘導体あるいはそれらの製薬学的に許容される塩類に関しており、上記アルギンオリゴ糖は、β−D−マンヌロン酸がα−1,4グリコシド結合により連結されてなる。
【化1】

式中、nは0あるいは1〜19の整数である。
【0008】
本発明中、上記アルギンオリゴ糖誘導体の一例は、下記の構造式(II)で示される化合物であり、その還元末端1位はカルボキシル基である。
【化2】

式中、nは0あるいは1〜19の整数である。
【0009】
上記の式(I)と(II)において、n=2〜10であることが好ましく、n=4〜8であることがさらに好ましい。4糖から12糖(より好ましくは6糖から10糖)の生理効果が比較的に高い原因はまだ不明であるが、それらが機体細胞に識別及び受け入れやすいからであると考えられる。
【0010】
また、上記アルギンオリゴ糖誘導体として、例えば、β−D−マンヌロン酸の一部水酸基が硫酸エステル化された誘導体が挙げられる。
【0011】
上記アルギンオリゴ糖及びその誘導体の製薬学的に許容される塩類として、これら化合物のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。その中、ナトリウム塩が特に好ましい。上記製薬学的に許容される塩類は通常の方法で得ることができる。
【0012】
また、本発明は、アルギナート水溶液を高圧釜の中で、pH2〜6、反応温度約100〜120℃の条件で約2〜6時間反応させ、反応終了後、pH値を7に調節することを特徴とする上記アルギンオリゴ糖及びその誘導体の調製方法に関する。その酸化分解生成物はアルギンオリゴ糖溶液に酸化剤を添加し、反応させて得られたものである。
【0013】
本発明の好ましい一実施形態では、0.5〜5%のアルギン酸ナトリウム水溶液を、高圧釜の中で、pH4、反応温度110℃の条件で4時間加熱し、反応させた。反応終了後、反応液を吸いとり、自然冷却して、NaOH溶液でpH値を7に調節した。攪拌しながら濾液をゆっくりと濾液体積の4倍の工業用アルコールに入れ、一晩放置した。アルコール沈殿物質を吸引ろ過により乾燥させ、無水エタノールで洗浄し、脱水して得られた白い濾過ケークをオーブン中にて60℃で乾燥してアルギンオリゴ糖の粗製物を得た。アルギンオリゴ糖の粗製物を10%の溶液に調製し、95%のエタノール溶液で沈殿させ、その沈殿物を無水エタノールで洗浄、乾燥した後、5%の溶液に調製して、3μmのフィルターで不純物を濾過除去し、Bio−Gel−P6ゲル濾過カラム(1.6×180cm)で脱塩処理を行った。移動相は0.2mol・L−1NHHCO、各画分を収集して、洗浄液を硫酸−カルバゾール法で分析し、糖含有画分を合一し、減圧濃縮と脱塩の後、さらに冷凍乾燥によって得た。
【0014】
構造式(II)に示される誘導体の調製方法は、上記のアルギナート水溶液を高圧釜の中、pH2〜6、反応温度100〜120℃の条件で2〜6時間反応させた後、更に酸化剤を添加し、反応温度100〜120℃の条件で15分〜2時間反応させる。一実施形態では、50mlの10%水酸化ナトリウム溶液に25mlの5%硫酸銅溶液を添加し、すぐ均一に混合し、そして直ちに5%のアルギンオリゴ糖溶液40mlを添加し、沸騰水浴中で、れんがの赤色のような沈殿がそれ以上発生しない頃まで加熱した。遠心分離により、沈殿物を取り除き、少量の上清液を取って上記の割合で5%の硫酸銅溶液と10%水酸化ナトリウム溶液に添加し、れんがの赤色の沈殿が発生するかを検査した。発生しなかった場合、上清液に4倍体積の95%エタノールを添加して一晩放置沈殿させ、沈殿物を吸引ろ過の後、乾燥させ、さらに無水エタノールで繰り返し脱水してから、オーブン中、60℃で乾燥させた。上記の構造式(I)で示されるアルギンオリゴ糖の調製と同じ分離方法で分離する。
【0015】
また、本発明は、有効な量の上記アルギンオリゴ糖またはその誘導体あるいはそれらの製薬学的に許容される塩類と製薬学的に許容されるキャリアーを含む1種類の薬学用組成物を提供する。
【0016】
上記の薬学用組成物は老年性痴呆病の予防と治療の薬物であってもよい。
【0017】
それ以外に、上記の組成物は、β−アミロイド線維形成阻害剤およびアミロイド線維破砕促進剤であってもよい。
【0018】
上記の薬学用組成物は、更に糖尿病の予防と治療の薬物であってもよい。
【0019】
また、上述の薬学用組成物は、膵島アミロイド線維形成阻害剤、膵島アミロイドポリペプチド阻害剤として使用することができる。本発明のアルギンオリゴ糖を用いて、老年性痴呆病と糖尿病の予防と治療用薬物を作り出すことは、老年性痴呆病と糖尿病の予防と治療に効果的な薬物が欠乏している現状の解決に非常に重要な意義を持つといえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(1)アルギンオリゴ糖の調製
アルギン酸ナトリウムの塩(重量平均分子量8,235Da、中国海洋大学蘭太薬業有限公司提供)を1g取り、蒸留水を添加して1%溶液にし、塩酸でpH値を4に調節して、高圧釜の中、110℃で4時間加熱した。取り出して冷却した後に、pH値をNaOH溶液で7に調節し、攪拌しながら濾液をゆっくりと濾液体積の4倍の工業用アルコールに入れ、一晩放置した。アルコール沈殿物質を吸引ろ過により乾燥させ、無水エタノールで洗浄、脱水して得られた白い濾過ケークをオーブン中、60℃で乾燥してアルギンオリゴ糖の粗製物を得た。
【0021】
アルギンオリゴ糖の粗製物を10%の溶液に調製し、95%のエタノール溶液で沈殿させ、その沈殿物を無水エタノールで洗浄、乾燥した後、5%の溶液にして、3μmのフィルターで不純物を濾過除去し、Bio−Gel−P6ゲル濾過カラム(1.6×180cm)で脱塩処理を行った。移動相は0.2mol・L−1NHHCO、各画分を収集して、洗浄液を硫酸−カルバゾール法で分析し、糖含有画分を収集して、減圧濃縮とG−10カラムによる脱塩を行い、ゲル粒子外部の体積成分をさらにBio−Gel−P10ゲル濾過カラム(1.6×180cm)で分離させ、冷凍乾燥によって系列のアルギンオリゴ糖を得た。
【0022】
(2)アルギンオリゴ糖の酸化分解生成物の調製
5gの上記調製のアルギンオリゴ糖を5%の溶液に調製した。50mlの10%水酸化ナトリウム溶液に25mlの5%硫酸銅溶液を添加し、すぐ均一に混合し、そして直ちに5%のアルギンオリゴ糖溶液40mlを添加し、沸騰水浴中で、れんがの赤色の沈殿がそれ以上発生しなくなるまで加熱した。遠心分離により、沈殿物を取り除き、少量の上清液を取って上記の割合で5%の硫酸銅溶液と10%水酸化ナトリウム溶液に添加し、れんが赤色の沈殿が発生するかを検査した。発生しなかった場合、上清液に4倍体積の95%エタノールを添加して一晩放置沈殿させ、沈殿物を吸引ろ過で乾燥させ、さらに無水エタノールで繰り返し脱水してからオーブン中、60℃で乾燥させることによってアルギンオリゴ糖酸化分解生成物の粗製物を得た。
【0023】
アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の粗製物を10%の溶液に調製し、95%のエタノール溶液で沈殿させ、その沈殿物を無水エタノールで洗浄、乾燥した後、5%の溶液にして、3μmのフィルターで不純物を濾過除去し、Bio−Gel−P6ゲル濾過カラム(1.6×180cm)で脱塩を行った。移動相は0.2mol・L−1NHHCO、各画分を収集して、洗浄液を硫酸−カルバゾール法で分析し、糖含有画分を収集して、減圧濃縮とG−10カラムによる脱塩を行い、ゲル粒子外部の体積成分をさらにBio−Gel−P10ゲル濾過カラム(1.6×180cm)で分離させ、凍結乾燥によって系列のアルギンオリゴ糖酸化分解生成物を得た(図2)。
【0024】
(3)アルギンオリゴ糖の構造決定
上記のアルギンオリゴ糖調製中得られた画分が含有するアルギンオリゴ糖に対し、構造決定を行った。その結果、このシリーズのアルギンオリゴ糖はβ−D−マンヌロン酸がα−1,4グリコシド結合により結合されたアルギンオリゴ糖であることが確認された。その構造式は以下である。
【化3】

式中、nは0あるいは1〜19の整数である。
【0025】
次に溶出液の第292mL前後画分(図1中の“6”で表された画分、以下、組成成分6という)を例として、上記アルギンオリゴ糖の構造解析を説明する。
【0026】
1.紫外吸収スペクトル
上記溶出液の第292mL前後画分に含まれるアルギンオリゴ糖を適当な濃度まで希釈し、UV−2102紫外−可視分光光度計を用いて、190nm〜400nmの間でスキャンした結果、当該画分が紫外群に特異的な吸収ピークがないことが確認された。このことは構造中に共役二重結合が存在しないことを示している。しかし、190〜200nm付近に非特異的な吸収が存在しているため、脱塩を行う時、当該群域の紫外光で分析することができる。
【0027】
2.赤外スペクトル
0.5mg上記画分のオリゴ糖を取り、KBrで製錠し、NEXUS−470型赤外分光計によって赤外線スペクトル測定を行った。その結果、3420.79、3214.64、2924.61cm−1に水酸基の対称伸縮振動、また1600.25cm−1にカルボキシル酸塩のカルボニル基による対称的な伸縮振動がそれぞれ確認され、1406.54cm−1に水酸基の変角振動、1146.42cm−1にカルボキシル基の炭素酸素結合の対称伸縮振動、1045.77cm−1にアンヒドロエーテルの逆対称伸縮振動、804.02cm−1にマンヌロン酸の環状骨格の逆対称伸縮振動が確認された。この化合物が、カルボキシル基、水酸基とマンヌロン酸の環状骨格を含有する構造を有していることを表している。
【0028】
3.質量スペクトル分析
質量スペクトル分析に用いたのはBruker Daltonics社のBIFLEX II型MALDI−TOF質量分析計であり、質量スペクトル図(図2、そのデータは表1に示している)で示しているように、m/z:1073.9のピークは分子イオンピーク[M−H]−1、m/z:1096.6のピークは[M+Na−2H]−1、m/z:1028.0のピークは[M−HO−CO−H]−1、m/z:821.2のピークは[M−ManA−CHO−2HO−H]−1、m/z:704.3のピークは[M−2ManA−HO−H]−1で、m/z:634.4のピークは[M−2ManA−2(CHO)−CO−H]−1で、m/z:536.5のピークは[M−2H]2−、m/z:357.4のピークは[M−3H]3−である。上記画分が含有するオリゴ糖のESI−MSにおける分子イオンピークはm/z:1073.9であるため、その分子量が1074であることが示唆された。
【0029】
【表1】

【0030】
4.アルギンオリゴ糖のNMRスペクトル測定
式(I)で示されるアルギンオリゴ糖(n=4)を取り、JNM−ECP600型NMR分析計を用いてNMRスペクトル測定を行った。H NMR、13C NMRの結果を表2と表3に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
以上の測定結果により、上記画分が含有するアルギンオリゴ糖はマンヌロン酸6糖であることが確定でき、下記の化学構造式(Ia)の通りである。
【化4】

【0034】
5.アルギンオリゴ糖サンプル中のマンヌロン酸含有量の測定(H−NMR法)
高解像度のH−NMRを用いて、アルギンオリゴ糖の組成成分を分析した。アノマー炭素のシグナルの強度によって、アルギンオリゴ糖サンプル中のマンヌロン酸とグルロン酸の比率(M/G)を定量分析した。乾燥させたサンプルを3〜5mg取り、中性のpDの条件でDOに溶解させ、0.3mg EDTAを添加して、Bruker DPX−300型NMR分析計で測定した。スペクトルは70℃で記録され、DOのピークが異なるプロトン共振群から遠く離れるようにした。シグナル相対強度をピーク面積積分値で表示する。その結果、M残基のH−1シグナルは4.64ppmと4.66ppm(それぞれMM、MG、配列中のM残基のH−1シグナル)。G残基のH−1シグナルは全てが5.05ppmのところ(2重ピーク)にあり、サンプルのMとGの相対含有量は、両者のH−1ピークの強度で表すことができ、公式は次の通りである。
【0035】
【数1】

【0036】
その中、Iはピークの強度であり、ピーク面積の積分値で表示される。
【0037】
この方法により測定したアルギンオリゴ糖サンプル中のD−マンヌロン酸相対含有量は98.07%、アルギンオリゴ糖サンプルが主にマンヌロン酸から形成されたことを示唆した。
【0038】
(4)アルギンオリゴ糖の酸化分解生成物の構造決定
上記のアルギンオリゴ糖の酸化分解生成物調製で得られた画分に含有されているアルギンオリゴ糖の酸化分解生成物に対し構造決定を行った。その結果、この系列のアルギンオリゴ糖の酸化分解生成物はβ−D−マンヌロン酸がα−1,4グリコシド結合により形成されたアルギンオリゴ糖誘導体であることが確認された。その構造式は以下の通りである。
【化5】

式中、nは0あるいは1〜19の整数である。
【0039】
次に組成成分6を例にして、上記アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の構造解析を説明する。
【0040】
1.紫外吸収スペクトル
アルギンオリゴ糖酸化分解生成物を適量取り、蒸留水で一定の濃度の溶液を調製して、島津製のUV−260型紫外分光光度計(190nm〜700nm)紫外可視分光光度計で全波長のスキャンを行った。測定により、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物は、紫外と可視光域に特徴の吸収ピークを示さなかった。
【0041】
2.赤外スペクトル
NICOLE NEXUS−470型赤外分光計によって赤外線スペクトル測定を行った。その結果を表4に示している。
【0042】
【表4】

【0043】
3.1H−NMR分析
Bruker Auance DPX−300型NMRスペクトルメーターを用い、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の水素と炭素のスペクトルを測定した。1H−NMR分析により、スペクトル図は主にβ−D−マンヌロン酸の6個の水素原子のシグナルから構成され、各シグナル分裂を帰属した後、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物は主にマンヌロン酸から構成されていることを確認した。もし、還元末端1位がアルデヒド基であれば、H−1αとβの化学シフトはそれぞれ5.11と4.81ppmである。アルギンオリゴ糖の還元末端1位がアルデヒド基からカルボキシル基に酸化するため、H−1は消えてしまい、それぞれの5.11と4.81ppmにあるシグナルもなくなる。13C−NMRの結果により、サンプルのスペクトル図は主にβ−D−マンヌロン酸6個の炭素原子のシグナルから構成され、各シグナル分裂を帰属した後、中間体の分子は主にマンヌロン酸から構成されていることが判った。中間体のスペクトルと比べた結果、マンヌロン酸特有の還元末端C−1シグナル(94ppm)がなくなっていた。還元末端C−1のシグナルが低磁場の175.81ppmにシフトされていた。これはアルギンオリゴ糖の還元末端1位がアルデヒド基からカルボキシル基に酸化したため、そのC−1の化学シフトがアルデヒド基の94ppm付近からカルボキシル基の炭素の175.81ppmに変化したからである。
【0044】
4.質量スペクトル分析
質量スペクトル分析に用いたのはBruker Daltonics社のBIFLEX II型MALDI−TOF質量分析計、結果は図4に示した通りである。図から、m/z:1113.7のピークは[M+Na]+1、m/z:1113.7のピークは[M−O+Na]+1、m/z:1083.7のピークは[M−CHO+Na]+1、m/z:1067.6のピークは[M−CHO−O+Na]+1、m/z:1053.6ピークは[M−2(CHO)+Na]+1、m/z:979.6のピークは[M−3(CHO)−CO+Na]+1、m/z:921.6のピークは[M−4(CHO)−CO−CO+Na]+1であることが分かる。アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の質量スペクトル解析を表5に示した。
【0045】
【表5】

【0046】
アルギンオリゴ糖酸化分解生成物のMALDI−TOFの図におけるm/z:1113.7のピークが[M+Na]+1であることは、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の分子量が1090.7であることを示唆している。酸分解アルギンオリゴ糖(分子量1075)と比べて16多い、つまり分子中で酸素が1つ多い、従って、アルギンオリゴ糖調製過程で酸化されたと考えられる。
【0047】
以上の結果から、このアルギンオリゴ糖酸化分解生産物の構造式は式(IIa)であると判断した。
【化6】

【0048】
(5)アルギンオリゴ糖の老年性痴呆症(AD)に対する治療効果の評価
以下の実験に用いるアルギンオリゴ糖はBio−Gel−P6ゲル濾過カラム分離後の6糖である。
【0049】
1.アルギンオリゴ糖のAβ1−40誘発痴呆動物モデル体内に与える影響
18〜22gのオスのBalb/cマウス(山東大学実験動物センター提供)を取り、重量測定して6群、即ちコントロール群、モデル群、およびアルギンオリゴ糖投与量が低い、中、高い(15、30、60のmg/kg)の3つの群、陽性コントロールの0.2mg/kg、HBY(河南竹林衆生製薬公司予豫中製薬工場が生産)投与群に分けた。動物を群に分けた後、3日目から0.5ml/20gの量で相応の薬物を与え始め、コントロール群、モデル群には等量の生理食塩水を与え、毎日1回、実験が終わるまで続けた。
【0050】
薬を与え初めてから8日目、コントロール群以外のすべてのマウスの側脳室内へ、Jhoo JHらのβ-amyloid (1−42)-induced learning and memory deficits in mice:involvement of oxidative burdens in the hippocampus and cerebral cortex. Behavioural Brain Research (2004) 155: 185-196に記載された方法を参照し、Aβ1−40を注射し、マウス学習能力機能障害モデルを作った。そしてMorris水迷路テスト、及びステップスルーテストと脳組織生化指標の測定によって薬剤のマウス学習能力機能に対する影響を評価した。その結果(表6)、モデル群とコントロール群に比べて、ゴール到達時間(潜伏期)は明らかにあるいはきわめて明らかな相違(P<0.05、P<0.01)を示し、マウスの側脳室内へのAβ1−40注射が成功し、痴呆モデルが得られたことを示唆した。第1日に各処理群中、アルギンオリゴ糖投与量15mg/kgの群を除いて、他の群はモデル群より短縮の傾向があって、その中アルギンオリゴ糖投与量60mg/kgの群は、モデル群よりゴール到達時間が著しく短縮(P<0.05)した。第2、3日、各薬剤投与群すべてがモデル群よりゴール到達時間が短縮し、その中のアルギンオリゴ糖投与量60mg/kgの群とHBYは統計学の有意差(P<0.05)に達した。
【0051】
【表6】

【0052】
Morris水迷路テストの4日目に、ゴール部を取り除いて、動物が60秒内に元のゴール部のところに滞在する滞留時間比率の測定を行った結果、モデル群は著しくコントロール群より低い(P<0.05)が、アルギンオリゴ糖60mg/kg群の動物の滞留時間は明らかにモデル群より長い(P<0.05)。その結果を表7に示した。
【0053】
【表7】

【0054】
Aβのモデルを作った後の25日目からステップスルーテストを行った。訓練する時、暗い室へ通る扉を開けて、暗い室内の底部グリルに通電した(36v)。それぞれ各群の動物を取って、頭部外向けに実験箱の中に入れ、動物の四つの足が暗い室に入った後に触電されるようにした。24時間後に同じ方法で実験して、マウスが暗い室に入り電気刺激を受けるまでかかる時間(潜伏期)と所定時間内(3min)に触電を受ける回数(誤った回数)を記録した。
【0055】
図5、6はステップスルーテストの結果を示した。各群の実験回数は8で、その値は平均数±標準偏差、#はコントロール群と比べて統計学の差(p<0.05)がある、*はモデル群と比べて統計学の差(p<0.05)があることを示している。この結果から、側脳室内へAβ1−40注入痴呆モデル群は、モデル群と比較して、マウスの潜伏期は明らかに短縮(P<0.01)し、さらに、誤った回数は明らかに増加(P<0.05)し、側脳室内へAβ1−40注入痴呆モデルの作製が成功していることを示している。しかし、30、60mg/kgアルギンオリゴ糖投与群及び陽性のHBY投与群マウスの潜伏期は明らかに延長し、しかも三つのアルギンオリゴ糖投与群及び陽性薬剤投与群マウスの誤った回数も明らかに減少していた。これはアルギンオリゴ糖がAβ1−40動物の学習能力機能障害を明らかに改善する機能を有することを示した。
【0056】
アルギンオリゴ糖のAβ1−40動物の生化学指標に対する影響
動物を水泳実験が終わった後、頭を切り落としてからすぐに氷上で皮質とヒポキャンパス(海馬)を分離して、液体窒素により1時間急速冷凍した後、−80℃の冷蔵庫に保存する。実験するとき、皮質とヒポキャンパスそれぞれに生理食塩水で10%と5%の均一の懸濁液を調製して、3600回転/分で遠心分離して得た上清液をMDA、CuZn−SOD、GSH−PX、Na−ATPase、AchEとCHAT活性測定に供した。CHATは同位元素標識合成法を採用し、そのほかの指標と総タンパクの測定は南京建成生物工程研究所生産の試薬箱で測定した。
【0057】
(1)コリンアセチル基転移酵素(ChAT)の活性
Aβモデルの大脳皮質のChAT活性は、コントロール群より著しく低い(P<0.05)。アルギンオリゴ糖とHBYを手術前及び手術後に投与することによって、いずれもChAT活性を上昇させることができる。その中、アルギンオリゴ糖30、60mg/kgとHBYの治療効果は、大脳皮質に明らかな統計学の有意差を有する。結果を表8に示した。
【0058】
【表8】

【0059】
(2)活性酸素除去酵素(SOD)活性
モデルマウスの脳内SOD活性は、コントロール群より低く、その抗酸化活性低下を示唆しているが、まだ統計学の有意差を備えない。60mg/kgのアルギンオリゴ糖による予防と治療群の大脳皮質とヒポキャンパスの二つの部位のSOD活性が著しく上昇し、アルギンオリゴ糖抗痴呆メカニズムは脳の抗酸化活性の上昇と関係していることを示唆した。結果を表9に示した。
【0060】
【表9】

【0061】
(3)メチレンジオキシアンフェタミンMDAの含有量
モデル群のマウスの皮質とヒポキャンパスのMDA含有量はコントロール群と比較して著しい差がない。早期にアルギンオリゴ糖を投与し、治療を続けたマウスの脳内MDA含有量は低下していた。30、60mg/kgの群とHBY群のMDAは著しく低下し、2種類の薬物のいずれも脳内の酸化ダメージとフリーラジカル損害現象を改善できることを示唆し、脳組織を酸化損害から保護することができる。結果を表10に示した。
【0062】
【表10】

【0063】
4)GSH−PX活性
モデル群マウスの皮質とヒポキャンパス部位のGSH−PX活性はコントロール群より低く、その中、ヒポキャンパス部位は著しい差を示した(P<0.05)。アルギンオリゴ糖を与えた後にある程度高くなり、その中、アルギンオリゴ糖60mg/kg群の皮質、HBY群のヒポキャンパスの酵素活性はモデルと比較して著しい差を示した(p<0.05)。結果を表11に示した。
【0064】
【表11】

【0065】
5)Na、K−ATPase活性
モデル群マウスの皮質とヒポキャンパスのNa、K−ATP酵素活性は、コントロール群より著しく低く、Aβが脳内神経細胞のエネルギー代謝に対して顕著な影響を与えていることを示唆した。早期にアルギンオリゴ糖を投与し、治療を続けたマウスの脳内のこの酵素の活性が著しく上昇し、3つの投与量群はいずれも大脳皮質のNa、K−ATP酵素活性が著しく上昇し、さらに、高投与量群はヒポキャンパス部位のNa、K−ATP酵素活性を顕著に高めることができ、当該治療効果はHBYより強い。よって、脳内のエネルギー代謝のレベルを高めることは、アルギンオリゴ糖が脳の機能を保護し、さらに抗痴呆効果を発揮する一つの手段であると考えられる。結果を表12に示した。
【0066】
【表12】

【0067】
2.アルギンオリゴ糖の体外におけるAβ誘発神経細胞損害に対する保護機能
Banker GAらのRat hippocampal neurons in dispersed cell culture. Brain Res, 1977, 126:397-425に記載の方法を参照して初代細胞の皮質神経細胞を育成し、培養後1週間から実験を行い始めた。すなわち、8日目に細胞液の交換を行い、細胞中へ最終濃度が0、10、50、100μg/mlのアルギンオリゴ糖を添加して、37℃でインキュベートして24時間育てた後に、老化したAβ25−35(Aβ25−35を滅菌した超純水に溶解し、濃度1mg/mlにして、37℃で7日間放置老化して得られた老化Aβを分けて詰めた後に−20℃で冷凍保存した)を添加し、最終濃度30μMにした後、24時間育成を続けた。その後、10μl、5mg/mlのMTTを添加し、37℃で4時間インキュベートしてから上清液を取り除いて、150μl DMSOを添加してマイクロプレートリーダーにて波長570nm、参照波長630nmを測定することによって吸収値を測定した。
【0068】
その結果、30μMの老化Aβ25−35と初代神経細胞を24時間インキュベートした後に、細胞MTTの還元が明らかに下がり、細胞生存率は54.5±8.9%(p<0.001)まで下がったが、10、50、100μg/mlのアルギンオリゴ糖で24時間前処理することでAβ25−35の細胞に対する毒性損害が明らかに改善でき、しかも薬物の投与量の増加に伴い、このような改善作用はもっと明らかになり、その中、100μg/mlのアルギンオリゴ糖の作用はもっとも顕著であった(細胞生存率はそれぞれ72.0±11.2%、77.1±8.1%および82.3±11.6%)。
【0069】
アルギンオリゴ糖は、神経芽腫細胞SH−SY5Yに対しても初代神経細胞同様の結果を得た。30μMの老化Aβ25−35(図7)および2μMの老化Aβ1−40(図8)をSH−SY5Y細胞と48時間作用した結果、明らかに細胞の損害を引き起こし、細胞の数が減少し、部分細胞が丸くなって、部分の浮遊状態の細胞が見られ、細胞の生存率はそれぞれ73.3±9.4%、64.1±2.5%まで下がった。しかし、50、100μg/mlのアルギンオリゴ糖は、それに対して明らかな抑制作用を持ち、細胞の懸浮が減少し、生存率が増加していた。
【0070】
以上の実験から、アルギンオリゴ糖は、体内では、側脳室にAβ1−40注入のADマウスの逃避潜伏期を顕著に縮短できるとともに、側脳室にAβ1−40注入のADマウスの元ゴール部を通過する回数を増加させ、最初に元ゴール部の位置に到達する時間を短縮させ、側脳室にAβ1−40注入のAD動物の学習能力に顕著な改善作用がある;同時に、アルギンオリゴ糖は、体外では、Aβの初代培養と神経細胞に対する損害を低減できる。これは、アルギンオリゴ糖がADに対して一定の予防と治療の作用を持っていることを示唆した。
【0071】
4)アルギンオリゴ糖の抗AD作用メカニズムの研究
1.アルギンオリゴ糖のAβ25−35が引き起こすSH−SY5Y細胞の死亡に対する影響
SH−SY5Y細胞を2×10個/穴で6穴プレートに接種し、細胞が解け合った後に0、50、100μg/mlのアルギンオリゴ糖を添加して24時間作用させる。さらに、最終濃度が30μMの老化Aβ25−35(Sigma社の製品)を添加して48時間引き続き育成して、消化、細胞収集し、1200回転で5分遠心分離の後、上清を除去、pH7.2の燐酸塩緩衝液(PBS)で細胞を2回洗浄、100u/ml RNase(Hyclone社の製品)と5μg/mlPI(Hyclone社の製品)の混合液200μlを添加して4℃で30分インキュベートした。フローサイトメーター(米国BD社の製品)で測定を行って、すべての試料を8000細胞ずつ計った。
【0072】
その結果、30μMの老化Aβ25−35でSH−SY5Y細胞を48時間刺激した後、明らかに細胞死亡を引き起こし、死亡率は24.8±1.9%、しかし、50、100μg/mlのアルギンオリゴ糖で24時間前処理することによって、Aβ25−35が引き起こした細胞死亡を抑えることができ、死亡率はそれぞれ10.2±1.3%と5.1±0.7%になった。
【0073】
アルギンオリゴ糖の抗Aβ25−35が引き起こす神経細胞の死亡作用のメカニズムをさらに検討した結果、アルギンオリゴ糖はAβ25−35が引き起こした神経細胞内の遊離状カルシウムイオン濃度の上昇を顕著に抑えることができ、自由基を生成し、細胞脂質過酸化生成物の含有量を高め、ミトコンドリア膜電位の減少および細胞死促進タンパク質とCaspase−3タンパク活性を上昇させ、さらに死促進阻害タンパクの活性を上昇させた。このことは、アルギンオリゴ糖のAβ細胞毒性損害に対する拮抗は、その酸化により細胞内の遊離状カルシウムイオン濃度の上昇を抑え、さらに死亡阻害タンパクの活性を上昇させ、ダウンストリーム死促進タンパク質の活性を阻断して、最終的には細胞死亡を抑えることを示唆した。
【0074】
2.分子レベルにおけるアルギンオリゴ糖の抗Aβ神経毒性作用メカニズムの検討
(1)アルギンオリゴ糖のAβ1−40アミロイド線維形成に対する影響
新しく調製したAβ1−40と0、10、50、100μg/mlのアルギンオリゴ糖をTBS緩衝液(100mM Tris、50mM NaCl、pH7.4)に混合して、37℃で24時間インキュベートしてからTh−Tを添加して、蛍光分光光度計を用い、λex=450nm、λem=480nmでTh−T蛍光の強さを測定した。
【0075】
その結果、10、50、100μg/mlのアルギンオリゴ糖の全てがAβ1−40の集中を抑えることができ、中でも100μg/mlのアルギンオリゴ糖の抑制作用が最も強かった。その蛍光の強度はそれぞれ10.46±0.94、9.18±1.32と7.81±1.38(p値はそれぞれ<0.05、0.05と0.001)。同時に、電子顕微鏡技術を採用してアルギンオリゴ糖のAβ1−40アミロイド線維形成に対する影響を観察した。その結果を図9に示した。その結果も同様にアルギンオリゴ糖がAβ1−40アミロイド線維形成を顕著に抑えることができることを示していた。同じ方法を用いて実験した結果、アルギンオリゴ糖はヘパリン促Aβ1−40アミロイド線維形成にも顕著な抑制作用があることを確認した。結果を図9に示した。図面において、AはAβ1−40を24時間インキュベートした結果、BはAβ1−40とヘパリンを混合して24時間インキュベートした結果、CはAβ1−40とアルギンオリゴ糖を24時間共同インキュベートした結果、DはAβ1−40とヘパリン及びアルギンオリゴ糖を24時間共同インキュベートした結果、EはAβ1−40を48時間インキュベートした結果、FはBはAβ1−40とヘパリンを混合して48時間インキュベートした結果、GはAβ1−40とアルギンオリゴ糖を48時間共同インキュベートした結果、HはAβ1−40とヘパリン及びアルギンオリゴ糖を48時間共同インキュベートした結果を示している。
【0076】
(2)アルギンオリゴ糖のAβ1−40アミロイド線維破壊に対する影響
Aβ1−40を無菌超純水に溶解させ、1mg/mlの溶液を調製してからEppendorf管に分けて入れ、37℃で7日間放置し、老化させた。1mg/mlの老化Aβ1−40を取りアルギンオリゴ糖と混合し、37℃で3日間インキュベートして、試料を2%酢酸ウランでネガティブ染色し、Aβ1−40アミロイド線維の形態をJEM−1200EX電子顕微鏡で観察した。その結果、Aβ1−40が7日間老化した後に互いに交錯、集中して組んでアミロイド線維を形成していたが、アミロイド線維化Aβ1−40にアルギンオリゴ糖を添加して3日間インキュベートしたものは、Aβアミロイド線維量が明らかに減少し、アミロイド線維が断裂、短かくなっていた。その結果を図10に示した。AはAβ、BはヘパリンとAβ,Cはアルギンオリゴ糖とAβ共同インキュベートしたものである。
【0077】
(3)アルギンオリゴ糖のAβ立体構造の変化に対する影響
無菌TBS(pH7.4,100mM Tris,50mM NaCl)を用いて、Aβ1−40を250μg/ml濃度に調製し、それぞれ350μl/管でEppendorf管に分け入れ、それぞれに100μg/ml濃度の無菌アルギンオリゴ糖を添加し、均一に混合後、37℃で12時間放置してから、J−500A型CD計(日本JASCO社製)で立体構造の変化を分析した。
【0078】
結果を図10に示した。AはAβ1−40、Bは老化Aβ1−40とヘパリンの混合物、CはAβ1−40とアルギンオリゴ糖の分析図である。その結果から、Aβ1−40は37℃で12時間放置しておくと完全にβ−折り畳み構造を取り、アルギンオリゴ糖が、明らかに、Aβ1−40がα−螺旋構造からβ−折り畳み構造に変更するのを抑制できることが明らかになった。
【0079】
(4)アルギンオリゴ糖とAβの相互作用の検討
SPR技術(BIAcore X、スウェーデンUppsala)により、25℃、5μl/minの流速でHBS−EP緩衝液を流過させた(0.01M HEPES、150mmol/L NaCl、3.4mmol/L EDTA−Na2、0.005%(V/V)トゥイーン−20、pH7.4)。Aβ1−40をHBS−EP緩衝液で1mg/mlの充填液に調製し、分け詰めた後に37℃に置く。それぞれ放置してから0、0.5、1、2、4、6日目にAβ1−40を取り、それを5段階の濃度倍率に希釈してから、25℃、5μl/minの流速でアルギンオリゴ糖のチップ(注射体積は10μl)を通過しながら、Aβとアルギンオリゴ糖の結合曲線を記録した。2M NaClを用いてチップを再生する。
【0080】
その結果、アルギンオリゴ糖と異なる重合度のAβすべてが結合していて、アルギンオリゴ糖と新鮮なAβとの結合能力が最も弱く、その結合K値は6.85E−07M、しかし、Aβの老化時間の延長に伴って、アルギンオリゴ糖とAβとの結合能力が次第に増加し(KD値がそれぞれ1.07E−07、9.06E−08、5.43E−08、2.15E−08、1.45E−08M)、2日間後、増加幅は減少して、概ね安定状態に達した。
【0081】
さらに検討を行った結果、アルギンオリゴ糖は、His13〜Lys16によりAβ全長の分子と相互作用し、Ser26〜Lys28によりAβ25−35と結合することがわかった。アルギンオリゴ糖と新鮮なAβとの結合は、そのAβ立体構造の変化に対する抑制、さらにアミロイド線維形成に対する抑制の重要な原因であり、アルギンオリゴ糖と老化Aβとの結合は、そのAβ1−40アミロイド線維破壊に対する抑制の重要な原因であることが判った。
【0082】
以上の検討により、アルギンオリゴ糖は、Aβ分子との結合によって、Aβアミロイド線維の形成を抑制し、Aβ1−40アミロイド線維破壊を促進して、さらに、Aβが引き起こす神経細胞のカルシウムイオンの超荷重を抑えて、その自由基の形成を除去し、神経細胞の死亡を抑え、神経細胞を損害から保護し、それによって抗老年性痴呆の作用を発揮することがわかった。
【0083】
(5)アルギンオリゴ糖の抗糖尿病作用の検討
1.アルギンオリゴ糖の体外におけるアミリン損害膵島β細胞に対する保護作用
ヒト膵島β細胞NIT株を10%FBSを含むDMEM培地を用い、1×10個/穴で96穴アッセイプレートで接種して培養し、細胞混合後、0、10、50、100μg/mのアルギンオリゴ糖を添加して24時間作用させる。続いて、最終濃度が30μMの老化アミリン(amylin)(略称IAPP)を添加し、48時間引き続き培養した後に、MTT法で細胞生存率を測定した。その結果、アルギンオリゴ糖で24時間前処理することで、IAPPの細胞に対する毒性作用を顕著に改善でき、細胞の生存を強化でき、しかも薬物の投与量の増加に伴って、このような改善作用ももっと顕著になっている。結果は図12に示した通りである。一群ごとの実験回数は6で、その値は平均数±標準偏差で表示し、##はコントロール群と比較した統計学の差(p<0.01)を示し、*および**はIAPP群と比較して統計学の差(p<0.05およびp<0.01)があることを表示している。アルギンオリゴ糖は、IAPPの膵島β細胞の損害に対する拮抗作用を有することを示唆している。
【0084】
2.アルギンオリゴ糖の体内におけるストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスモデルに対する影響
体重18〜22gオスのNIHマウス60匹を、正常な群、モデル群、アルギンオリゴ糖50、150、450mg/kg投与群と5mg/kgグリベンクラミド投与群に分けた。試験当日、正常な群以外の動物に150mg/kgのストレプトゾトシンを腹腔注射した。連続して10日間相応の薬物を投与して、11日目に眼球をとって血を取り、血糖濃度を測った。その結果、各薬物投与群マウスの血糖濃度は明らかにモデル群より低い。従って、アルギンオリゴ糖は、ストレプトゾトシンによる糖尿病マウスモデルに対して一定の治療の作用を有することを示唆している(表13)。
【0085】
【表13】

【0086】
重合度が2〜22のアルギンオリゴ糖及びその酸化分解生成物或いはその混合物を用いて、体内外における抗老年性痴呆症と抗糖尿病の実験を行ったところ、類似の実験結果が得られた。図13〜16はアルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物のAβ1−40を脳内注射による痴呆マウスの行為学測定結果を示す。一群ごとの実験回数は8で、その値は平均数±標準偏差で表示し、#及び##はコントロール群と比較した統計学の差(p<0.05、p<0.01)を示し、*および**はモデル群と比較して統計学の相違(p<0.05、p<0.01)があることを示している。このことから、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物は痴呆動物の学習能力を顕著に増加できることを示唆している。図17は、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物のIAAP(amylin)損害膵島β細胞NIT株に対する保護作用を測定した結果である。一群ごとの実験回数は6で、その値は平均数±標準偏差で表示し、##はコントロール群と比較した統計学の相違(p<0.01)を示し、*および**はIAPP群と比較した統計学の差(p<0.05およびp<0.01)があることを示している。このことから、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物は糖尿病に顕著な予防/治療の効果を有することを示唆している。
【0087】
(6)統計学による処理
以上のデータをStatview統計処理ソフトで分析した。その結果を“平均値±標準偏差”(Mean values±SE)で表し、分散分析(ANOVA)を用いて比較を行った。
【0088】
上記薬学的な結果により、通常の製剤手段で、有効な量の本発明のアルギンオリゴ糖と製薬学的に許容されるキャリアーとを混合することによって、薬学用組成物を製造できる。上述の薬学用組成物は、膵島アミロイド線維形成阻害剤、膵島アミロイドポリペプチド阻害剤などを含む。本発明のアルギンオリゴ糖は老年性痴呆症と糖尿病の予防/治療薬物の応用に非常に重要な意義を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】図1は、酸分解後のBio−Gel−P6ゲル濾過カラムによる本発明のアルギンオリゴ糖の溶出曲線である。
【図2】図2は、本発明のアルギンオリゴ糖のMALDI−TOF図である。
【図3】図3は、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物のBio−Gel−P6ゲル濾過カラムによる溶出曲線である。
【図4】図4は、アルギンオリゴ糖酸化分解生成物のMALDI−TOF図(Positive mode)である。
【図5】図5は、本発明のアルギンオリゴ糖のAβ1−40による学習能力障害マウスの避暗潜伏期を示す図面である。
【図6】図6は、本発明のアルギンオリゴ糖のAβ1−40による学習能力障害のマウスの避暗誤まった回数を示す図面である。
【図7】図7は、本発明のアルギンオリゴ糖のAβ25−35損害神経芽腫細胞SH−SY5Yに対して保護作用を示す図面である。
【図8】図8は、本発明のアルギンオリゴ糖のAβ1−40損害神経芽腫細胞SH−SY5Yに対して保護作用を示す図面である。
【図9】図9は、本発明のアルギンオリゴ糖の正常およびヘパリン促Aβ1−40アミロイド線維形成に対する抑制作用を示す図面である。
【図10】図10は、本発明のアルギンオリゴ糖のAβ1−40アミロイド線維の破壊に対する影響を示す図面である。
【図11】図11は、本発明のアルギンオリゴ糖の溶液における250μg/ml Aβ1−40の立体構造の変化に対する影響を示す図面である。
【図12】図12は、本発明のアルギンオリゴ糖のIAAPが引き起こすNIT細胞損害に対する保護作用を示す図面である。
【図13】図13は、本発明のアルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物がAβ1−40脳内注射による痴呆マウスのMorris水迷路テストにおけるゴール到達時間に対する影響を示す図面である。
【図14】図14は、本発明のアルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物がAβ1−40脳内注射による痴呆マウスのMorris水迷路テストにおける水泳距離に対する影響を示す図面である。
【図15】図15は、本発明のアルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物がAβ1−40脳内注射による痴呆マウスのMorris水迷路テストにおける初回ゴール部到着時間に対する影響を示す図面である。
【図16】図16は、本発明のアルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物がAβ1−40脳内注射による痴呆マウスのMorris水迷路テストにおけるゴール部を通り抜ける回数に対する影響を示す図面である。
【図17】図17は、本発明のアルギンオリゴ糖酸化分解生成物の混合物のIAAPが引き起こすNIT細胞損害に対する保護作用を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(I)
【化1】

(式中、nは0あるいは1〜19の整数である)
で示されるアルギンオリゴ糖またはその誘導体、あるいはそれらの製薬学的に許容される塩であって、前記アルギンオリゴ糖は、β−D−マンヌロン酸がα−1,4グリコシド結合により連結されてなる、アルギンオリゴ糖またはその誘導体、あるいはそれらの製薬学的に許容される塩。
【請求項2】
前記アルギンオリゴ糖誘導体が下記の構造式(II)
【化2】

(式中、nは0あるいは1〜19の整数である)
で示され、還元末端1位がカルボキシル基であることを特徴とする請求項1に記載のアルギンオリゴ糖またはその誘導体、あるいはそれらの製薬学的に許容される塩。
【請求項3】
上記n=2〜12、さらに好ましくはn=4〜8であることを特徴とする請求項1に記載のアルギンオリゴ糖またはその誘導体、あるいはそれらの製薬学的に許容される塩。
【請求項4】
アルギナート水溶液を高圧釜の中、pH2〜6、反応温度約100〜120℃の条件で約2〜6時間反応させ;
反応終了後、pH値を約7に調節する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載のアルギンオリゴ糖またはその誘導体、あるいはそれらの製薬学的に許容される塩の調製方法。
【請求項5】
前記アルギナートがアルギン酸ナトリウムであり、pH4、反応温度110℃の条件で4時間反応させることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項6】
pH値を7に調節した後、エタノールで沈殿を生じさせ、得られた沈殿物質を吸引ろ過し、脱水、乾燥、脱塩を行うことを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項7】
アルギナート水溶液を高圧釜の中、pH2〜6、反応温度100〜120℃の条件で2〜6時間反応させた後、更に酸化剤を添加し、反応温度100〜120℃の条件で15分〜2時間反応させることを特徴とする請求項4に記載の調製方法。
【請求項8】
上記酸化剤が水酸化銅であり、100℃で30分反応させることを特徴とする請求項7に記載の調製方法。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれかに記載されたアルギンオリゴ糖またはその誘導体と製薬学的に許容されるキャリアーを含有する薬学用組成物。
【請求項10】
前記薬学用組成物が、老年性痴呆症の予防と治療用薬物、β−アミロイド線維形成阻害剤、糖尿病の予防と治療用薬物、アミロイド線維破壊促進剤、膵島アミロイド線維形成阻害剤のいずれか一種類であることを特徴とする請求項9に記載の薬学用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2007−530718(P2007−530718A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504238(P2007−504238)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【国際出願番号】PCT/CN2005/000226
【国際公開番号】WO2005/089776
【国際公開日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(506322950)中国海洋大学 (1)
【Fターム(参考)】