説明

アルギン酸誘導体、ポリアクリル酸誘導体およびそれらの製造方法

【課題】生体親和性を有し、医用材料、化粧品添加物、食品添加物、衛生材料等として使用することができる新規ポリマーとして、環状四糖が結合したアルギン酸誘導体及びポリアクリル酸誘導体、並びに、それらの製造方法を提供する。
【解決手段】アルギン酸又はポリアクリル酸の4級アンモニウム塩と、モノトシル化環状四糖サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}またはモノヨード化環状四糖とを反応させてなる環状四糖が結合したアルギン酸誘導体又はポリアクリル酸誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体親和性材料として期待される、環状四糖を側鎖に有する新規アルギン酸誘導体及びポリアクリル酸誘導体並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルギン酸は、D−マンヌロン酸とL−グルロン酸が結合した天然の直鎖状多糖ポリマーであり、その用途としては、食品改質材、歯科印象材、創傷被覆材、点眼薬、染色糊料、凝集剤など、食品、医療、化粧品、繊維、製紙などの幅広い分野で使われている。最近では、その高機能化として細胞親和性を付加するため、単糖、二糖、オリゴ糖を共有結合によりアルギン酸に含有する材料が試みられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
環状のオリゴ糖であるシクロデキストリン(CD)を含有する多糖ポリマーとしてキトサン誘導体(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4を参照。)が知られている。このシクロデキストリンは、従来、食品、衛生材料、医学・生理学材料等の分野で広く使用されており、またシクロデキストリンを構成要素として含む高分子がクロマトグラフィーの分野で広く使用されている。
【0004】
一方、現在知られている天然由来の最小の環状オリゴ糖である環状四糖は、この四糖の産生能を有するサッカロマイセス属に属する酵母を、栄養培地に培養して環状四糖を産生せしめた培養物とし、この培養物から、採取することにより得ることができる(例えば、特許文献5参照。)。環状四糖の特徴としては、大きさが約1ナノメートルであり、真中に窪みのある分子構造であること、エタノールなどの低分子物質に対して優れた包接作用を示すこと、難消化・難発酵・水溶性食物繊維であること、等が挙げられる。環状四糖の生理機能としては脂質の調節作用が挙げられる。更には活性酸素消去能低減抑制剤として有効である(例えば、特許文献6参照。)。しかしながら、環状四糖が結合した多糖ポリマー並びにアクリル酸ポリマーを製造し、これを利用することについてはこれまで全く研究が行われていない。
【特許文献1】特開2001−37472
【特許文献2】特開平10−158304
【特許文献3】特開平11−279206
【特許文献4】特開2003−64103
【特許文献5】特開2003−235596
【特許文献6】特開2003−160495
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述したような従来の問題を解決して、生体親和性を有し、医用材料、化粧品添加物、食品添加物、衛生材料等として使用することができる新規ポリマーとして、環状四糖が結合したアルギン酸誘導体及びポリアクリル酸誘導体、並びに、それらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記問題点に鑑み鋭意検討した結果、アルギン酸又はポリアクリル酸の4級アンモニウム塩と、モノトシル化環状四糖またはモノヨード化環状四糖と反応させることにより環状四糖が結合した新規アルギン酸誘導体又は新規ポリアクリル酸誘導体が得られること、あるいは、アルギン酸又はポリアクリル酸の4級アンモニウム塩と、モノトシル化環状四糖またはモノヨード化環状四糖のいずれかと有機ハロゲン化物とを反応させることにより環状四糖と有機基が結合した新規アルギン酸誘導体又は新規ポリアクリル酸誘導体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は次の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)および(8)である。
(1) 一般式[1]:
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは水素、無機若しくは有機のカチオン、又は、下記式:
【0009】
【化2】

【0010】
(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}](本明細書中、環状四糖というときは上記環状四糖をあらわす。)誘導体由来の1価の基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのRのうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したアルギン酸誘導体。
(2) 一般式[2]:
【0011】
【化3】

【0012】
(式中、R31は水素、無機若しくは有機のカチオン、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基、又は、上記式で示される環状四糖誘導体由来の1価の基を表す。複数のR31は同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR31のうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したアルギン酸誘導体。
(3) 一般式[3]:
【0013】
【化4】

【0014】
で表されるアルギン酸を、一般式[4]:
N・OH [4]
(式中、Rは、アルキル基またはアリール基)で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アルギン酸4級アンモニウムとし、これと下記一般式[5]又は下記一般式[6]:
【0015】
【化5】

【0016】
(各式中独立に、Rは上記とおなじ。)で表されるモノトシル化環状四糖[5]またはモノヨード化環状四糖[6]を反応させることを特徴とする前記一般式[1]で表されるアルギン酸誘導体の製造方法。
(4) 前記一般式[3]で表されるアルギン酸を、前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アルギン酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖のいずれか及び一般式[7]:
X [7]
(式中、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、又は、炭素数7〜18個のアラルキル基を表す。Xは、Cl、Br、又は、Iを表す)で表されるハロゲン化物と反応させることを特徴とする前記一般式[2]で表されるアルギン酸誘導体の製造方法。
(5) 一般式[8]:
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、Rは上記とおなじ。ただし、全てのR3のうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したポリアクリル酸誘導体。
(6) 一般式[9]:
【0019】
【化7】

【0020】
(式中、R31は上記とおなじ。ただし、全てのR31のうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したポリアクリル酸誘導体。
(7) 一般式[10]:
【0021】
【化8】

【0022】
で表されるアクリル酸ポリマーを前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アクリル酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させることを特徴とする前記一般式[8]で表されるポリアクリル酸誘導体の製造方法。
(8) 前記一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーを前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アクリル酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖のいずれかと前記一般式[7]で表されるハロゲン化物と反応させることを特徴とする前記一般式[9]で表されるポリアクリル酸誘導体の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によって提供されるアルギン酸誘導体、ポリアクリル酸誘導体は、プラスチック基板への吸着性に優れた性質を有するとともに、細胞親和性且つ選択性であり、また、蛍光ラベルや疎水基導入等の修飾も可能であるため、生体に直接適用される医学−生理学材料、化粧品添加物、食品添加物、衛生材料等に使用されるという優れた効果を発揮するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
式(1)、式(2)、式(5)、式(6)、式(8)及び式(9)において、Rは、環状四糖を構成するグルコースの水酸基に由来する基であって、水素、炭素数1〜18個のアルキル基(メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ペンチル、ドデシル等)、炭素数6〜18個のアリール基(フェニル、トリル、キシリル、クメニル、ナフチル、フェナントリル等)、炭素数2〜18個のアシル基(アセチル、ブチリル、バレリル、ラウロイル等)、炭素数7〜18個のアラルキル基(ベンジル、フェネチル、α−メチルベンジル等)、炭素数3〜16のシリル基(トリメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリル、t−ブチルジメチルシリル等)、リン酸エステル基、硫酸エステル基を表す。これが遊離の水酸基である場合のRは水素原子である。好ましいRの具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、アセチル基、ベンジル基、トリメチルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。環状四糖を構成するグルコースの水酸基が誘導体を形成する割合は任意であって、全てが遊離の水酸基であってもよく、部分的に又は全てが誘導体を形成していてもよい。
【0025】
式[1]、式[8]中のR、及び、式[2]、式[9]中のR31は、それぞれ、アルギン酸を構成するマンヌロン酸およびグルロン酸のカルボキシル基、又は、アクリル酸のカルボキシル基に導入された基である。これが遊離のカルボキシル基である場合のR、R31は、水素原子である。
【0026】
3は水素、無機若しくは有機のカチオン、又は、上記式で示される環状四糖誘導体由来の1価の基である。
【0027】
31は、水素、無機若しくは有機のカチオン、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基、又は、上記式で示される環状四糖誘導体由来の1価の基を表す。カルボキシル基がエステル化されている場合のR31は炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基等が挙げられ、好ましい具体例としては、メチル基、ラウリル基、ベンジル基等が挙げられる。カルボキシル基がエステル化されている場合のR31の導入量は特に限定されるものではないが、高分子中のカルボキシル基の数の10〜50%程度に導入することが好ましい。
【0028】
3及びR31において、無機若しくは有機のカチオンとしては、例えば、カリウムイオン、ナトリウムイオン、カルシウムイオン等の無機カチオン、第1、2、3級アミン、第4級アンモニウム塩等の有機カチオンを挙げることができる。
【0029】
3及びR31において、環状四糖の導入量は、高分子中のカルボキシル基の数の5〜50%である。環状四糖の導入量が5%未満であると導入量が希少のため環状四糖の特性である細胞親和性が発現しにくくなり、50%を超えると逆に、ポリマー重量あたりのアルギン酸またはポリアクリル酸成分の重量比が小さくなり、アルギン酸、ポリアクリル酸の特性であるプラスチックへの吸着性が発現しにくい。好ましくは10〜50%に環状四糖を導入する。
【0030】
本発明のアルギン酸誘導体、ポリアクリル酸誘導体の製造方法を以下に説明する。
(a)モノトシル化環状四糖およびモノヨード化環状四糖の製造
種々の環状四糖誘導体の製造法の概略は、特開2003−160595に記載されているが、上記一般式[5]、[6]で表わされる環状四糖誘導体は、より具体的には、例えば、次のような方法によって製造することができる。
まず、環状四糖、すなわち、下記式で示されるサイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}をトシル化剤でトシル化する。
【0031】
【化9】

【0032】
トシル化剤としては、例えば、p−トルエンスルホニルクロリドが好ましい。トシル化剤の使用量は、環状四糖に対して1〜3倍モルが好ましく、より好ましくは1.5〜2.0倍モルである。
【0033】
溶媒としては、ピリジン、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなど環状四糖を溶解するものが好ましく使用されるが、蒸留除去が容易なピリジンが最も好ましい。
【0034】
反応温度と時間としては、トシル化剤添加時は0〜5℃、1〜2時間が好ましく、その後は10〜30℃で1〜2時間反応させることが好ましい。反応後は、溶媒をできるだけ蒸留除去した後、反応混合物に使用溶媒の2倍の水を添加し、攪拌することでモノトシル化環状四糖を水相に溶解させる。これにイオン交換樹脂を用いて脱塩した後、濾過し、濃縮後、結晶化、クロマト分離等によりモノトシル化環状四糖が得られる。
【0035】
次に、このモノトシル化環状四糖を過剰量のヨード化剤と反応させ、トシル基をヨード化して、モノヨード化環状四糖が製造される。ヨード化剤としては、例えば、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムが好適に用いられる。その使用量はモノトシル化環状四糖に対して1〜10倍モルが好ましく、より好ましくは6〜8倍モルである。
【0036】
反応温度は50〜100℃が好ましく、より好ましくは80〜90℃で、反応時間は1〜24時間が好ましく、より好ましくは3〜5時間である。必要に応じて精製することができ、精製条件としては、例えば、反応混合物を濃縮後、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)とアセトンの比率が1:7〜1:15、好ましくは1:8〜1:10になるようにアセトンを加えて沈殿を生成させ、これを濾過後、アセトンで洗浄し、乾燥後、クロマト分離することが挙げられる。
【0037】
(b−1)アルギン酸誘導体の製造(その1)
前記一般式[3]で表されるアルギン酸を前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アルギン酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖のいずれかと反応させることにより前記一般式[1]で表されるアルギン酸誘導体が製造される。
【0038】
(b−2)アルギン酸誘導体の製造(その2)
前記一般式[3]で表されるアルギン酸を前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アルギン酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖のいずれかと前記一般式[7]で表されるハロゲン化物と反応させることにより前記一般式[2]で表されるアルギン酸誘導が製造される。
【0039】
本発明において、前記一般式[3]で表されるアルギン酸の分子量としては、一般的には重量平均分子量が10万〜50万程度のものが好ましく使用できる。なお、アルギン酸(β−1,4′−マンヌロノ−α−1,4′−L−グルロノグリカン)は、D−マンヌロン酸(M)とL−グルロン酸(G)を構成単位とするが、各単位の組成比は起源によって異なり、またMとGの配列も様々であることが知られており、本発明におけるアルギン酸骨格の表記はそのような各種のMとGの配列や組成比を含むものと了解すべきである。
【0040】
(1)アルギン酸4級アンモニウムの製造
前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムにおいて、Rは、アルキル基またはアリール基である。上記アルキル基、アリール基としては特に限定されず、例えば、上述のもの等を挙げることができる。具体的には、例えば、水酸化テトラn−ブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0041】
アルギン酸の4級アンモニウム塩を製造する際の溶媒としては、アルギン酸と4級アンモニウム塩を溶解し得るものであればよい。具体的には、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0042】
仕込みモル比としては、前記一般式[3]で表されるアルギン酸の水分散液中に、水酸化4級アンモニウムを、前記一般式[3]で表されるアルギン酸のカルボキシル基モル数:水酸化4級アンモニウムの仕込みモル比が好ましくは1:0.3〜1:2、より好ましくは1:0.8〜1:1.2となるようにする。反応温度は5〜100℃が好ましく、より好ましくは、10〜50℃で、反応時間は0.01〜10時間が好ましく、より好ましくは、0.1〜0.2時間である。反応終了後、反応液を減圧下濃縮してアルギン酸の4級アンモニウム塩が得られる。
【0043】
(2)一般式[1]で示されるアルギン酸誘導体の製造
前記一般式[1]で示されるアルギン酸誘導体を製造するに際しては、窒素等乾燥不活性ガスを通じながら、アルギン酸の4級アンモニウム塩の溶液中に、前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖を、前記一般式[3]で表されるアルギン酸のカルボキシル基モル数:前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖の仕込みモル比が好ましくは1:0.1〜1:2、より好ましくは1:0.5〜1:1.0となるように仕込む。反応温度は10〜120℃が好ましく、より好ましくは、60〜100℃で、反応時間は1〜48時間が好ましく、より好ましくは、3〜24時間である。反応終了後の反応溶液を濃縮後、メタノール等の有機溶媒に投入し、濾過、洗浄、必要に応じて再沈殿または透析による精製を繰り返して得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥すれば目的物を得ることができる。
【0044】
(3)一般式[2]で示されるアルギン酸誘導体の製造
前記一般式[2]で示されるアルギン酸誘導体を製造するに際しては、窒素等乾燥不活性ガスを通じながら、アルギン酸の4級アンモニウム塩の溶液中に、前記一般式[7]で表されるハロゲン化物を、前記一般式[3]で表されるアルギン酸のカルボキシル基モル数:前記一般式[7]で表されるハロゲン化物の仕込みモル比が好ましくは1:0.05〜1:0.7、より好ましくは1:0.1〜1:0.5となるように仕込む。反応温度は10〜120℃が好ましく、より好ましくは、60〜100℃で、反応時間は1〜48時間が好ましく、より好ましくは、3〜24時間である。
【0045】
前記一般式[7]で表されるハロゲン化物においては、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、又は、炭素数7〜18個のアラルキル基を表す。具体的には、上述の例示のものをそれぞれ挙げることができる。Xは、Cl、Br、又は、Iを表す。このようなハロゲン化物としては、導入する有機基に対応するアルキル基、アリール基又はアラルキル基を有する化合物を使用すればよく、例えば、臭化ベンジル、ヨウ化エチル等を挙げることができる。
【0046】
次にこの反応液に前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させる。反応温度は10〜120℃が好ましく、より好ましくは、60〜100℃で、反応時間は1〜48時間が好ましく、より好ましくは3〜24時間である。反応終了後、反応溶液を濃縮後、メタノール等の有機溶媒に投入し、濾過、洗浄、必要に応じて再沈殿または透析による精製を繰り返して得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥すればよい。
【0047】
アルギン酸誘導体を製造する際の溶媒としては、反応物および生成するアルギン酸誘導体を溶解し得るものであればよい。具体的には、たとえば、上述したもの等の有機溶媒単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0048】
前記一般式[1]および[2]のアルギン酸誘導体において、カチオン種を4級アンモニウムイオンから他の種類のカチオンに変換することができ、例えば、金属イオン(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)に変換する方法は、アルギン酸誘導体の4級アンモニウム塩を水、DMF等の溶媒に溶解後、金属イオンのヨード塩を過剰量添加し、0.1〜1時間攪拌した後、メタノール等の有機溶媒に投入し、濾過、洗浄、必要に応じて再沈殿または透析による精製を繰り返して得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して得ることができる。
【0049】
またカチオン種を水素にする方法は、アルギン酸誘導体の4級カチオン塩を水、DMF等の溶媒に溶解後、1M塩酸を過剰量添加し、0.1〜1時間攪拌した後、メタノール等の有機溶媒に投入し、濾過、洗浄、必要に応じて再沈殿または透析による精製を繰り返して得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して得ることができる。
【0050】
(c−1)一般式[8]で表されるポリアクリル酸誘導体の製造
前記一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーを前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アクリル酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させることにより前記一般式[8]で表されるポリアクリル酸誘導体が製造される。
【0051】
(c−2)一般式[9]で表されるポリアクリル酸誘導体の製造
前記一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーを前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アクリル酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖のいずれかと前記一般式[7]で表されるハロゲン化物と反応させることにより前記一般式[9]で表されるポリアクリル酸誘導が製造される。
【0052】
本発明において、前記一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーの分子量は一般的には3万〜30万程度のものが好ましく使用できる。分子量が低く過ぎる場合にはゾル状態となるため、三次元形状に付形しにくくなる傾向がある。
【0053】
(1)アクリル酸ポリマーの4級アンモニウム塩の製造
アクリル酸ポリマーの4級アンモニウム塩を製造する際の溶媒としては、アクリル酸ポリマーと4級アンモニウム塩を溶解し得るものであればよい。具体的には、水、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0054】
アクリル酸ポリマーの4級アンモニウム塩を製造する際の反応条件としては、一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーの溶液中に、水酸化4級アンモニウムを、一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーのカルボキシル基モル数:水酸化4級アンモニウムの仕込みモル比が好ましくは1:0.3〜1:2、より好ましくは1:0.8〜1:1.2となるように仕込む。反応温度は5〜100℃が好ましく、より好ましくは、10〜50℃で、反応時間は0.01〜10時間が好ましく、より好ましくは、0.1〜0.2時間である。反応終了後、反応液を減圧下濃縮してポリアクリル酸の4級アンモニウム塩が得られる。
【0055】
(2)ポリアクリル酸誘導体の製造
ポリアクリル酸誘導体を製造する際の溶媒としては、反応物および生成するアクリル酸ポリマー誘導体を溶解し得るものであればよい。具体的には、たとえば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の有機溶媒単独もしくはそれらの混合溶媒が挙げられる。
【0056】
前記一般式[8]で示されるポリアクリル酸誘導体を製造するに際しては、窒素等乾燥不活性ガスを通じながら、アクリル酸ポリマーの4級アンモニウム塩の溶液中に、前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖を、前記一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーのカルボキシル基モル数:前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖の仕込みモル比が好ましくは1:0.1〜1:2、より好ましくは1:0.5〜1:1.0となるように仕込む。反応温度は10〜120℃が好ましく、より好ましくは、60〜100℃で、反応時間は1〜48時間が好ましく、より好ましくは、3〜24時間である。反応終了後の反応溶液を濃縮後、透析による精製を行い、濃縮乾燥後、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥することにより目的物を得ることができる。
【0057】
前記一般式[9]で示されるアクリル酸ポリマー誘導体を製造するに際しては、窒素等乾燥不活性ガスを通じながら、アクリル酸ポリマーの4級アンモニウム塩の溶液中に、前記一般式[7]で表されるハロゲン化物を、前記一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーのカルボキシル基モル数:前記一般式[7]で表されるハロゲン化物の仕込みモル比が好ましくは1:0.05〜1:0.7、より好ましくは1:0.1〜1:0.5となるように仕込む。反応温度は10〜120℃が好ましく、より好ましくは、60〜100℃で、反応時間は1〜48時間が好ましく、より好ましくは、3〜24時間である。次にこの反応液に前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させる。反応温度は60〜150℃が好ましく、より好ましくは、80〜120℃で、反応時間は1〜10時間が好ましく、より好ましくは、2〜6時間である。反応終了後、反応溶液を濃縮し、透析による精製を行い、濃縮乾燥後、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して目的物を得ることができる。
【0058】
前記一般式[8]および[9]のポリアクリル酸誘導体において、カチオン種を4級アンモニウムイオンから他の種類のカチオンに変換することができ、例えば、金属イオン(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)に変換する方法は、ポリアクリル酸誘導体の4級アンモニウム塩を水、DMF等の溶媒に溶解後、金属イオンのヨード塩を過剰量添加し、0.1〜1時間攪拌した後、透析による精製を行い、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して得ることができる。
【0059】
またカチオン種を水素にする方法は、ポリアクリル酸誘導体のカチオン塩を水、DMF等の溶媒に溶解後、1M塩酸を過剰量添加し、0.1〜1時間攪拌した後、透析による精製を行い、得られた固体分を室温〜100℃で1〜24時間程度減圧乾燥して得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0061】
(合成例1)
モノトシル環状四糖(C−mTs)の合成
乾燥した4つ口フラスコにピリジン(50mL)、環状四糖(10g)を加え5℃にした後、窒素気流下にて環状四糖に対して2倍モルの塩化トシル(6g)のピリジン溶液(50mL)を滴下ロートにて約30分かけて添加し、5℃で3時間反応させた。反応溶液に水(50mL)を加えて反応停止した後、減圧乾固により残留ピリジンを除去した。この残渣に水(100mL)を加え、水溶液部分をデカントした。次に混入しているピリジン−p−トルエンスルホン酸塩を脱塩するため、水溶液にカチオン交換樹脂(Dowex 50WX8:20g)を加え、室温で10分放置後、ろ過し、ろ液にアニオン交換樹脂(Dowex 500A:40g)を加え10分放置後ろ過し、ろ液を減圧乾固した。その結果、単離収率28%(3.5g)でモノトシル体(純度80%)を得た。更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーによるモノトシル体の精製を行った(溶離液;酢酸エチル:メタノール:水=6:3:1)。その結果、1gの純度80%モノトシル体から0.8gの純化したC−mTsを得た。
【0062】
(合成例2)
モノヨード環状四糖の合成
上述のC−mTs(0.4g)に対して8倍モルのヨウ化カリウム(660mg)をDMF(10mL)中、90℃で4時間反応させた。反応液の一部(0.5mL)をとり、減圧乾固、アセトン洗浄、乾燥した後、固形物を重水に溶解し、プロトンNMRを測定した。その結果、80%の変換率でヨード化が進行した。このヨード体を単離・精製を行わずに次の反応(DMSO溶媒)に使用した。溶媒の交換は、DMFを減圧濃縮で留去した後、残渣をDMSO(10.7mL)に溶解して行った。
【0063】
モノヨード体はアセトンによる沈殿でも精製が可能であった。すなわち、反応液(10mL)に対し、アセトン(100mL)を加えて沈殿を生成させ、沈殿をろ過、アセトンで洗浄、乾燥し、モノヨード体(0.38g)を得た。
【0064】
(実施例1)
(1)アルギン酸テトラブチルアンモニウム(TBA)塩の調整
アルギン酸(530mg:3mmol)の水分散液(20mL)に1M水酸化テトラブチルアンモニウム(TBA−OH)水溶液(4mL:4mmol)を加えて均一溶液を調整した。この溶液を減圧乾固した後、アセトン(200mL)を加えた。固形物をろ過、乾燥することによりアルギン酸TBA塩の調整を行った。プロトンNMR測定からアルギン酸のカルボキシル基1個に対して1.5個のTBAが存在していた。
【0065】
(2)モノヨード環状四糖とアルギン酸との反応
環状四糖のモノヨード体(60mg)のDMSO溶液(2mL)に対してカルボキシレートが、それぞれ、等モル及び0.25倍モルになるようにアルギン酸TBA塩(11mg、44mg)を加え、室温で1日反応させた。アルギン酸TBA塩はDMSOに不溶であり、反応後のアルギン酸成分もDMSOに不溶であった。DMSO溶液部をデカントで除き、不溶部をメタノールにより十分洗浄し、乾燥、プロトンNMRを測定した結果、アルギン酸への環状四糖の置換が認められた。アルギン酸1ユニットに対する環状四糖の置換度は0.22及び0.27であり、水溶性の誘導体が得られた。環状四糖の置換度が0.22のアルギン酸誘導体のプロトンNMRスペクトルを図1に示す。アルギン酸からの生成物の収率は、ほぼ定量的であったが、環状四糖を基にした収率は、1当量の反応で置換度が0.22であることから22%の収率であった。また本反応はDMF溶媒を用いても同様に反応するが、水及び10%程度水を含むDMFでは反応は進行しなかった。
【0066】
(実施例2)
モノトシル環状四糖(C−mTs)とアルギン酸との反応
アルギン酸35mg(COOH=0.2mmol)、1MTBA−OHの水溶液(0.2mL)を水(10mL)に溶解後、濃縮乾固し、アルギン酸TBA塩を得た。この固体にDMF(2mL)を加えて分散後、純度80%のC−mTs(0.16g:COOH基に対してトシル基=0.8倍モル)を粉末で加え、90℃で8時間、その後室温で1日反応した。反応終了後、濃縮乾固によりDMFを除去した。その後、低分子成分を除くため生成物を水(20mL)に溶解し透析膜(分画分子量12,000の再生セルロース膜)により2日間透析した。透析内液を濃縮し最終生成物35mgを得た。プロトンNMR測定から環状四糖の置換度は0.25(TBA塩は0.49)であった。
【0067】
(実施例3)
環状四糖結合アルギン酸の蛍光ラベル化
アルギン酸350mg(COOH=2mmol)、1MTBA−OHの水溶液(2mL)を水(10mL)に溶解後、濃縮乾固し、アルギン酸TBA塩を得た。この固体にDMF(20mL)を加えて分散後、80%C−mTs(1.6g:COOH基に対してトシル基=0.8倍モル)を粉末で加え、90℃で8時間反応した。続いて蛍光試薬であるフルオレセインイソチオシアネート(FITC)を粉末で44.4mg(0.11mmol)加え90℃で7時間、その後室温で1日反応した。反応終了後、ヨウ化カリウム614mg(3.7mmol)を加えカルボン酸の対イオンをTBA塩からカリウム塩に変換した後、濃縮乾固によりDMFを除去した。その後、低分子成分を除くため生成物を水:メタノール=1:10の混合溶媒55mLで洗浄し、ろ過後、沈殿を水(20mL)に溶解し透析膜により2日間透析した。透析内液を濃縮乾固後、水:メタノール=1:10の混合溶媒55mLで洗浄し、ろ過後、乾燥し最終生成物570mgを得た。プロトンNMR測定から環状四糖の置換度は0.35であった。また、蛍光分光光度計を用いてFITC試薬による検量線を基に測定したFITC結合量はアルギン酸123ユニット当たり1個のFITCが結合した化合物であった。プロトンNMRスペクトルを図1に示す。このサンプルをA−CTS0.35−F123とした。
【0068】
環状四糖のFITCラベル化も同様に行い、アセトン、メタノール洗浄により未結合のFITCを除くことにより精製した。FITC結合量は環状四糖32分子に対し1分子のFITCが結合した混合物であった。このサンプルをCTS−F32とする。
【0069】
(参考例1)
アルギン酸へのベンジル(Bn)基導入による疎水化
アルギン酸176mg(COOH=1mmol)、1MTBA−OH水溶液(1mL)を水(10mL)に溶解後、濃縮乾固し、アルギン酸TBA塩を得た。この固体にDMF(10mL)を加えて分散後、臭化ベンジル100mg(0.58mmol)を加え80℃で2時間、その後室温で1日反応した。反応終了後、ヨウ化カリウム1.1g(6.6mmol)を加え対イオンをカリウム塩に変換した後、濃縮乾固によりDMFを除去した。その後、低分子成分を除くため生成物をメタノール50mLで洗浄し、ろ過、乾燥し生成物160mgを得た。プロトンNMR測定からBn基の置換度は0.22であった(A−Bn0.22とする)。この生成物の水溶液(4mg/mL)はPStシャーレに対して濡れ性を示した。
【0070】
(実施例4)
アルギン酸のベンジル化及び環状四糖の導入
アルギン酸176mg(COOH=1mmol)、1MTBA−OH水溶液(1mL)を水(10mL)に溶解後、濃縮乾固し、アルギン酸TBA塩を得た。この固体にDMF(10mL)を加えて分散後、臭化ベンジル86mg(0.5mmol)を加え80℃で2時間反応した。更に反応液の約半分量に、続いて純度90%のC−mTs450mg(0.8倍モル)を加え80℃で3時間、その後室温で1日反応した。反応終了後、ヨウ化カリウム1.1g(6.6mmol)を加え対イオンをカリウム塩に変換した後、濃縮乾固によりDMFを除去した。その後、低分子成分を除くため生成物をメタノール50mLで洗浄し、ろ過後、沈殿を水に溶解し、3日間透析した。透析内液を減圧乾固し生成物110mgを得た。プロトンNMR測定(図2)から置換度はBn基=0.26、環状四糖=0.16であった(A−CTS0.16−Bn0.26とする)。この生成物の水溶液(0.5mg/mL)はPStシャーレに対して濡れ性を示した。
【0071】
(参考例2)
アクリル酸ポリマーテトラブチルアンモニウム(TBA)塩の調整
アクリル酸ポリマー(216mg:3mmol)の水分散液(20mL)に1M水酸化テトラブチルアンモニウム(TBA−OH)水溶液(3.0mL:3mmol)を加えて均一溶液を調整した。この溶液を減圧乾固することによりアクリル酸ポリマーテトラブチルアンモニウム(TBA)塩の調整を行った。プロトンNMR測定からアクリル酸ポリマーのカルボキシル基1個に対して1個のTBAが存在していた。
【0072】
(実施例5)
環状四糖モノトシル体(C−mTs)とポリアクリル酸(PA)との反応
PA72mg(1mmol)、1MTBA−OH水溶液(1mL)をDMF(10mL)に溶解後、濃縮乾固し、ポリアクリル酸TBA塩を得た。この固体にDMF(10mL)を加えて溶解後、純度50%のC−mTs(1.2g:COOH基に対してトシル基=0.8倍モル)を粉末で加え、80℃で5時間反応した。反応終了後、濃縮乾固によりDMFを除去した。乾固した固体を水20mLに溶解後、カルボン酸のTBA塩をカルボン酸にするため1MHCl2mLを加えた。更に低分子成分を除くため、溶液を透析膜により3日間透析した。透析内液を濃縮乾固し生成物200mgを得た。プロトンNMR測定(図1)から環状四糖の置換度は0.13であった。またTBA塩は0.04残留していた。このサンプルをPA−CTS0.13−TBA0.04とした。
【0073】
(実施例6)
PAへの環状四糖の導入及びベンジル化
PA72mg(1mmol)、1MTBA−OH水溶液(1mL)をDMF(10mL)に溶解後、濃縮乾固し、ポリアクリル酸TBA塩を得た。この固体にDMF(10mL)を加えて溶解後、純度50%のC−mTs(1.2g:COOH基に対してトシル基=0.8倍モル)を粉末で加え、95℃で5時間反応した。更に臭化ベンジル0.34g(2mmol)を加えて95℃で4時間、室温で1日反応した。反応終了後、濃縮乾固によりDMFを除去した。乾固した固体を水20mLに溶解後、カルボン酸のTBA塩をカルボン酸にするため1MのHClを2mLを加えた。更に低分子成分を除くため、溶液を透析膜により3日間透析した。透析内液を濃縮乾固し生成物200mgを得た。プロトンNMR測定(図2)から各置換度は環状四糖=0.23、Bn基=0.15であった。このサンプルをPA−CTS0.23−Bn0.15とした。
【0074】
(実施例7)
両親媒性ポリマー水溶液のポリスチレン(PSt)シャーレへの吸着
両親媒性のPA誘導体の0.5mg/mL水溶液(PA−CTS0.13−TBA0.04、PA−CTS0.23−Bn0.15)を調製し、各1mLを未処理PStシャーレに注ぎ、軽くゆすることによりシャーレ底面に均一に溶液を満たした後、1時間放置しポリマーを吸着させた。その後、未吸着のポリマー溶液を水3mLで3回洗うことによりポリマー吸着PStシャーレとして次の細胞親和性評価に用いた。ポリマーの吸着はPStシャーレが水に対して安定に濡れ性を示すことで確認した。
【0075】
(実施例8)
両親媒性ポリマー水溶液のポリスチレン(PSt)シャーレへの吸着
両親媒性の置換アルギン酸水溶液(A−CTS0.16−Bn0.26:0.5mg/mL)を調製し、1mLを未処理PStシャーレに注ぎ、軽くゆすることによりシャーレ底面に均一に溶液を満たした後、1時間放置しポリマーを吸着させた。その後、未吸着のポリマー溶液を水3mLで3回洗うことによりポリマー吸着PStシャーレとして次の細胞親和性評価に用いた。ポリマーの吸着はPStシャーレが水に対して安定に濡れ性を示すことで確認した。
【0076】
(実施例9)
蛍光ラベル化ポリマーのフローサイトメトリーによる細胞親和性の評価
A−CTS0.35−F123サンプルの水溶液を用いて血液から赤血球を除いた血球画分(単球、リンパ球を含む)との相互作用をフローサイトメトリーにより分析した結果、リンパ球とは相互作用せずに単球と選択的に相互作用していることが認められた。
【0077】
(比較例1)
CTS−F32のサンプルの水溶液を用いて血液から赤血球を除いた血球画分(単球、リンパ球を含む)との相互作用をフローサイトメトリーにより分析した結果、両者に対して強い相互作用が認められたものの、低分子であるCTS−F32では選択性はなかった。
【0078】
上述の実施例から判るとおり、本発明の誘導体は、各種有機基をポリマー中に導入することにより、所望の特性を付与することができることが、蛍光基や疎水基の導入により、実証された。また、これらの修飾誘導体は、細胞の種類によりそれに対する親和性が異なるように細胞親和性を制御することが可能であること、及び、プラスチックへの吸着性が良好であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】環状四糖結合アルギン酸(実施例1の置換度0.22のもの)のプロトンNMRスペクトル
【図2】環状四糖結合アルギン酸蛍光ラベル化物(実施例3のA−CTS0.35−F123)のプロトンNMRスペクトル
【図3】環状四糖結合アルギン酸ベンジル化物(実施例4のA−CTS0.16−Bn0.26)のプロトンNMRスペクトル
【図4】環状四糖結合ポリアクリル酸(実施例5のPA−CTS0.13−TBA0.04)のプロトンNMRスペクトル
【図5】環状四糖結合ポリアクリル酸トシル化物(実施例6のPA−CTS0.23−Bn0.15)のプロトンNMRスペクトル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]:
【化1】

(式中、Rは水素、無機若しくは有機のカチオン、又は、下記式:
【化2】

(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}]誘導体由来の1価の基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのRのうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したアルギン酸誘導体。
【請求項2】
一般式[2]:
【化3】

(式中、R31は水素、無機若しくは有機のカチオン、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基、又は、下記式:
【化4】

(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}]誘導体由来の1価の基を表す。複数のR31は同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR31のうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したアルギン酸誘導体。
【請求項3】
一般式[3]:
【化5】

で表されるアルギン酸を、一般式[4]:

N・OH [4]

(式中、Rは、アルキル基またはアリール基)で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アルギン酸4級アンモニウムとし、これと下記一般式[5]又は下記一般式[6]:
【化6】

(各式中独立に、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で表されるモノトシル化環状四糖[5]またはモノヨード化環状四糖[6]を反応させることを特徴とする前記一般式[1]で表されるアルギン酸誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式[3]で表されるアルギン酸を、前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アルギン酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖のいずれか及び一般式[7]:

X [7]

(式中、Rは、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、又は、炭素数7〜18個のアラルキル基を表す。Xは、Cl、Br、又は、Iを表す)で表されるハロゲン化物と反応させることを特徴とする前記一般式[2]で表されるアルギン酸誘導体の製造方法。
【請求項5】
一般式[8]:
【化7】

(式中、Rは水素、無機若しくは有機のカチオン、又は、下記式:
【化8】

(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}]誘導体由来の1価の基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR3のうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したポリアクリル酸誘導体。
【請求項6】
一般式[9]:
【化9】

(式中、R31は水素、無機若しくは有機のカチオン、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数7〜18個のアラルキル基、又は、下記式:
【化10】

(式中、Rは、水素、炭素数1〜18個のアルキル基、炭素数6〜18個のアリール基、炭素数2〜18個のアシル基、炭素数7〜18個のアラルキル基、炭素数3〜16のシリル基、リン酸エステル基、又は、硫酸エステル基を表す。複数のRは同一でも異なっていてもよい。)で示される環状四糖[サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}]誘導体由来の1価の基を表す。複数のR31は同一でも異なっていてもよい。ただし、全てのR31のうち5〜50%は前記環状四糖である。nは繰り返し単位数。)で表される環状四糖が結合したポリアクリル酸誘導体。
【請求項7】
一般式[10]:
【化11】

で表されるアクリル酸ポリマーを前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アクリル酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖と反応させることを特徴とする前記一般式[8]で表されるポリアクリル酸誘導体の製造方法。
【請求項8】
前記一般式[10]で表されるアクリル酸ポリマーを前記一般式[4]で表される水酸化4級アンモニウムと反応させ、アクリル酸4級アンモニウムとし、これと前記一般式[5]で表されるモノトシル化環状四糖または前記一般式[6]で表されるモノヨード化環状四糖のいずれかと前記一般式[7]で表されるハロゲン化物と反応させることを特徴とする前記一般式[9]で表されるポリアクリル酸誘導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−99902(P2007−99902A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−291820(P2005−291820)
【出願日】平成17年10月4日(2005.10.4)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】