説明

アルコキシ基含有環状化合物、重合性組成物及びその硬化物

【課題】 新規なアルコキシ基含有環状化合物、これを含む重合性組成物及びその硬化物を提供する。
【解決手段】 本発明のアルコキシ基含有環状化合物は、下記式(1)
【化1】


[式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性環を示し、R1O−基及びR2O−(W)n−基は環Zを構成する原子に結合している置換基であって、R1は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示し、R2は、水素原子又は下記式(2)
【化2】


(式中、R3、R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す)
で表される基を示し、Wは2価の有機基を示す。nは0又は1を示し、mは1〜8の整数を示し、kは1〜5の整数等を示す]
で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光や熱により重合又は硬化する重合性化合物として、コーティング剤、インキ、塗料、接着剤、レジスト、製版材などの分野で有用なアルコキシ基含有環状化合物、重合性組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アクリル系化合物が広く用いられているが、臭気や皮膚刺激性を有するために取扱性が劣り、さらに酸素による重合抑制作用に付随するいくつかの問題がある。そこで、最近、低皮膚刺激性で、低臭気且つ重合に際しての酸素の影響が少ないビニルエーテル化合物が注目されるようになった。また、ビニルエーテル化合物は、カチオン重合性で硬化速度が速く、アクリル系材料と比較しても優位性があることから、ビニルエーテル材料の供給が求められている。ところが、市場ではビニルエーテル化合物はアクリル系化合物に比べてその種類が少なく、価格的にも高価であるため、十分ニーズに対応できていないのが現状である。
【0003】
一方、特開平10−25262号公報や特開2003−73321号公報には、いくつかの脂環式ビニルエーテル化合物が開示されている。これらの化合物は、皮膚刺激性が低い点で作業性は改善されるものの、該化合物をコーティングやインキ材料として用いた場合、硬化速度や硬度が不十分であり、改善が必要であった。
【0004】
【特許文献1】特開平10−25262号公報
【特許文献1】特開2003−73321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規なアルコキシ基含有環状化合物、これを含む重合性組成物及びその硬化物を提供することにある。
本発明の他の目的は、硬化速度が速く、しかも硬度の高い硬化物を形成しうるアルコキシ基含有環状化合物、これを含む重合性組成物及びその硬化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、分子内に、アルコキシ基が結合した脂環式基を有するビニルエーテル化合物をポリマーのコモノマーとして使用した場合、硬化速度が著しく向上し、且つ硬度が高い硬化物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、下記式(1)
【化1】

[式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性環を示し、R1O−基及びR2O−(W)n−基は環Zを構成する原子に結合している置換基であって、R1は炭素数1〜5のアルキル基を示し、R2は、水素原子又は下記式(2)
【化2】

(式中、R3、R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す)
で表される基を示し、Wは2価の有機基を示す。nは0又は1を示し、mは1〜8の整数を示し、kは1〜5の整数を示す。m、kが2以上の場合、括弧内の置換基は同一であってもよく、異なっていてもよい。但し、環Zにおける少なくとも1つのR1−O−基は、環ZにおけるR2O−(W)n−基が結合する構成原子に対してα位又はβ位の構成原子に結合している。また、mが1のときR2は式(2)で表される基である]
で表されるアルコキシ基含有環状化合物を提供する。
【0008】
本発明のアルコキシ基含有環状化合物には、環Zが脂環式環である化合物が含まれる。前記環Zとしては、例えば、下記式(3)〜(7)
【化3】

(式中、X1、X2、X3、X4、X5は、各環を構成する原子に結合している置換基であり、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシメチル基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、保護基で保護されていてもよいスルホ基、オキソ基、ニトロ基、シアノ基、又は保護基で保護されていてもよいアシル基を示す。X1が2以上の場合、それらは互いに結合して、式中のシクロアルカン環を構成する炭素原子と共に4員以上の環を形成していてもよい。a、b、c、d、eは0以上の整数を示す。a、b、c、d又はeが2以上の場合、括弧内の置換基は同一であってもよく異なっていてもよい。pは1〜8の整数を示し、qは0〜3の整数を示し、rは1〜3の整数を示す)
で表される脂環式環が挙げられる。
【0009】
また、本発明は、重合開始剤、及び上記本発明のアルコキシ基含有環状化合物であって、m個のR2のうち少なくとも1つのR2が式(2)で表される基である化合物を含む重合性組成物を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、上記本発明の重合性組成物を硬化して得られる硬化物を提供する。
【0011】
なお、本明細書におけるビニルエーテル化合物、ビニルエステル化合物には、ビニル基の水素原子が置換基で置換された化合物も含まれるものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアルコキシ基含有環状化合物は、低臭気性で且つ皮膚刺激性が少ないため、コーティング剤、インキ、塗料、接着剤、レジスト、製版材などの原料として利用することができる。特に、アルコキシ基が結合した非芳香族性環を有するため、ポリマーの原料モノマーとして使用した場合、加熱又は光照射による硬化速度が極めて速く、硬度の高い硬化物を形成することができる。また、レジストの原料モノマーとして使用した場合には、透明性及びドライエッチング性に優れたレジストを形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のアルコキシ基含有環状化合物は、前記式(1)で表される化合物である。式(1)における環Zは、単環又は多環の非芳香族性環を示し、複素環又は縮合複素環であってもよいが、炭化水素環である場合が多い。好ましい環Zとしては、例えば、シクロヘキサン環などの置換基を有していてもよいシクロアルカン環、シクロヘキセン環などの置換基を有していてもよいシクロアルケン環、ノルボルナン環やアダマンタン環などの置換基を有していてもよい橋かけ環、2以上の環が縮合した置換基を有していてもよい縮合環などの脂環式環が挙げられる。前記環は、アルキル基、ハロアルキル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基、アシル基、アシルオキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、ハロゲン原子などの置換基(例えば、後述のX1等と同様の基)を有していてもよい。
【0014】
前記環Zの代表的な例としては、例えば、前記式(3)〜(7)で表される脂環式環が挙げられる。式(3)〜(7)におけるX1、X2、X3、X4、X5は各環(式中に示される環、例えばシクロペンタン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環、アダマンタン環、ビシクロ[4.4.0]デカン環など)を構成する原子に結合している置換基を示す。X1等におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素、塩素、臭素原子などが挙げられる。X1等におけるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル、デシル基などのC1-10アルキル基(好ましくは、C1-5アルキル基)などが挙げられる。X1等におけるハロアルキル基としては、例えば、クロロメチル、トリフルオロメチル、トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル基などのC1-10ハロアルキル基(好ましくは、C1-5ハロアルキル基)が挙げられる。X1等におけるアリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル基などが挙げられる。アリール基の芳香環は、例えば、フッ素原子などのハロゲン原子、メチル基などのC1-4アルキル基、トリフルオロメチル基などC1-5ハロアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基などのC1-4アルコキシ基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、カルボキシル基、メトキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基、ニトロ基、シアノ基、アセチル基などのアシル基等の置換基を有していてもよい。
【0015】
1等におけるヒドロキシル基及びヒドロキシメチル基の保護基としては、有機合成の分野で慣用の保護基、例えば、アルキル基(例えば、メチル、t−ブチル基などのC1-4アルキル基など)、アルケニル基(例えば、アリル基など)、シクロアルキル基(例えば、シクロヘキシル基など)、アリール基(例えば、2,4−ジニトロフェニル基など)、アラルキル基(例えば、ベンジル基など);置換メチル基(例えば、メトキシメチル、メチルチオメチル、ベンジルオキシメチル、t−ブトキシメチル、2−メトキシエトキシメチル基など)、置換エチル基(例えば、1−エトキシエチル基など)、テトラヒドロピラニル基、テトラヒドロフラニル基、1−ヒドロキシアルキル基(例えば、1−ヒドロキシエチル基など)等の、ヒドロキシル基とアセタール又はヘミアセタール基を形成可能な基;アシル基(例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ピバロイル基などのC1-6脂肪族アシル基;アセトアセチル基;ベンゾイル基などの芳香族アシル基など)、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基などのC1-4アルコキシ−カルボニル基など)、アラルキルオキシカルボニル基、置換又は無置換カルバモイル基、置換シリル基(例えば、トリメチルシリル基など)など、及び、分子内にヒドロキシル基(ヒドロキシメチル基を含む)が2以上存在するときには、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基(例えば、メチレン、エチリデン、イソプロピリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、ベンジリデン基など)などが例示できる。
【0016】
1等におけるアミノ基の保護基としては、例えば、前記ヒドロキシル基の保護基として例示したアルキル基、アラルキル基、アシル基、アルコキシカルボニル基などが挙げられる。
【0017】
1等におけるカルボキシル基、スルホ基の保護基としては、例えば、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシ基などのC1-6アルコキシ基など)、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、トリアルキルシリルオキシ基、置換基を有していてもよいアミノ基、ヒドラジノ基、アルコキシカルボニルヒドラジノ基、アラルキルカルボニルヒドラジノ基などが挙げられる。
【0018】
1等におけるアシル基としては、例えば、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、ピバロイル基などのC1-6脂肪族アシル基;アセトアセチル基;ベンゾイル基などの芳香族アシル基などが挙げられる。アシル基の保護基としては有機合成分野で慣用の保護基を使用できる。アシル基の保護された形態としては、例えば、アセタール(ヘミアセタールを含む)などが挙げられる。
【0019】
1が2以上の場合、それらが互いに結合して、式(3)中のシクロアルカン環を構成する炭素原子と共に形成する4員以上の環としては、例えば、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、パーヒドロナフタレン環(デカリン環)などの脂環式炭素環;γ−ブチロラクトン環、δ−バレロラクトン環などのラクトン環などが挙げられる。
【0020】
a、b、c、d、eは、例えば0〜5の整数、好ましくは0〜3の整数である。
【0021】
Wは2価の有機基を示す。前記2価の有機基としては、通常、隣接する酸素原子との結合部位に炭素原子を有する基が用いられる。好ましい2価の有機基として、(i)2価の炭化水素基、(ii)2価の炭化水素基と、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基及びアミノ基から選択された少なくとも1種の連結基とからなる2価の基などが挙げられる。
【0022】
前記2価の炭化水素基には、2価の脂肪族炭化水素基、2価の脂環式炭化水素基、2価の芳香族炭化水素基、これらが2以上結合した2価の炭化水素基が含まれる。
【0023】
2価の炭化水素基の代表的な例として、例えば、メチレン、メチルメチレン、エチルメチレン、ジメチルメチレン、エチルメチルメチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜6)程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基;プロペニレン基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜6)程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルケニレン基;1,3−シクロペンチレン、1,2−シクロへキシレン、1,3−シクロへキシレン、1,4−シクロへキシレン基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキレン基;シクロプロピレン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキリデン基;フェニレン基などのアリレン基;ベンジリデン基などが挙げられる。
【0024】
前記2価の炭化水素基は置換基を有していてもよい。該置換基としては、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシメチル基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、保護基で保護されていてもよいスルホ基、ハロゲン原子、オキソ基、シアノ基、ニトロ基、複素環式基、炭化水素基、ハロアルキル基などが挙げられる。保護基としては有機合成の分野で慣用の保護基を使用できる。
【0025】
前記置換基としての複素環式基としては、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選択された少なくとも1種のヘテロ原子を含む3〜15員程度の複素環式基(特に、5〜8員複素環式基)が挙げられる。
【0026】
前記置換基としての炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及びこれらの結合した基が含まれる。脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜3)程度のアルキル基;炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルケニル基;炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルキニル基などが挙げられる。脂環式炭化水素基としては、3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキル基;3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル、アダマンチル、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基などの橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜14(好ましくは6〜10)程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル−C1-4アルキル基など)などが含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)などが含まれる。
【0027】
前記置換基としてのハロアルキル基としては、例えば、クロロメチル、トリフルオロメチル、2,2,2−トリフルオロエチル、ペンタフルオロエチル基などの炭素数1〜10程度のハロアルキル基(特に、C1-3ハロアルキル基)が挙げられる。
【0028】
2価の有機基としては、特に、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基や、該アルキレン基と酸素原子又は硫黄原子とが結合した基が好ましい。
【0029】
Wの好ましい例には、例えば、下記式(8)
【化4】

(式中、R6及びR7は、同一又は異なって、水素原子又は炭化水素基を示す。R6及びR7は、互いに結合して、隣接する炭素原子と共に脂環式環を形成していてもよい)
で表される基が含まれる。
【0030】
6、R7における炭化水素基としては、R1等における炭化水素基と同様の基が挙げられる。前記炭化水素基には置換基を有する炭化水素基も含まれる。置換基としては、前記R1等における炭化水素基が有していてもよい置換基と同様の基、あるいは前記環Zの置換基X1等と同様の基が例示される。
【0031】
好ましいR6、R7には、水素原子;メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル基等のC1-10アルキル基(特に、C1-5アルキル基);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の置換基を有していてもよいシクロアルキル基;ノルボルナン−2−イル基、アダマンタン−1−イル基などの置換基を有していてもよい橋かけ環式基などが含まれる。シクロアルキル基や橋かけ環式基が有していてもよい置換基として、例えば前記置換基X1等と同様の、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシメチル基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、保護基で保護されていてもよいスルホ基、オキソ基、ニトロ基、シアノ基、保護基で保護されていてもよいアシル基などが挙げられる。
【0032】
nは0又は1を示す。すなわち、R2−O−基は、Wを介し又は介さないで環Zに結合している。特に本発明においては、少なくとも1つのR2−O−基が直接環Zに結合していることが好ましい。
【0033】
1は、炭素数1〜5のアルキル基を示す。前記アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルなどの直鎖状C1-5(好ましくはC1-3)アルキル基;イソプロピル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチルなどの分岐鎖状のC1-5(好ましくはC1-3)アルキル基などが挙げられる。なかでも、直鎖状C1-3アルキル基、特にメチル基が好ましい。
【0034】
2は、水素原子又は前記式(2)で表される基を示す。式(2)中、R3、R4及びR5は、それぞれ、水素原子又は有機基を示す。有機基としては、例えば、ハロゲン原子、炭化水素基、複素環式基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、シクロアルキルオキシカルボニル基など)、カルボキシル基、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、硫黄酸基、硫黄酸エステル基、アシル基(アセチル基等の脂肪族アシル基;ベンゾイル基等の芳香族アシル基など)、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基等のC1-6アルコキシ基など)、N,N−ジ置換アミノ基(N,N−ジメチルアミノ基、ピペリジノ基など)など、及びこれらが2以上結合した基などが挙げられる。前記カルボキシル基などは有機合成の分野で公知乃至慣用の保護基で保護されていてもよい。前記ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素原子が挙げられる。これらの有機基のなかでも、炭化水素基、複素環式基などが好ましい。
【0035】
前記炭化水素基及び複素環式基には、置換基を有する炭化水素基及び複素環式基も含まれる。前記炭化水素基には、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基及びこれらの結合した基が含まれる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、デシル、ドデシル基などの炭素数1〜20(好ましくは1〜10、さらに好ましくは1〜3)程度のアルキル基;ビニル、アリル、1−ブテニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルケニル基;エチニル、プロピニル基などの炭素数2〜20(好ましくは2〜10、さらに好ましくは2〜3)程度のアルキニル基などが挙げられる。
【0036】
脂環式炭化水素基としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルキル基;シクロペンテニル、シクロへキセニル基などの3〜20員(好ましくは3〜15員、さらに好ましくは5〜8員)程度のシクロアルケニル基;パーヒドロナフタレン−1−イル基、ノルボルニル、アダマンチル、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン−3−イル基などの橋かけ環式炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、フェニル、ナフチル基などの炭素数6〜14(好ましくは6〜10)程度の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0037】
脂肪族炭化水素基と脂環式炭化水素基とが結合した炭化水素基には、シクロペンチルメチル、シクロヘキシルメチル、2−シクロヘキシルエチル基などのシクロアルキル−アルキル基(例えば、C3-20シクロアルキル−C1-4アルキル基など)などが含まれる。また、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基とが結合した炭化水素基には、アラルキル基(例えば、C7-18アラルキル基など)、アルキル置換アリール基(例えば、1〜4個程度のC1-4アルキル基が置換したフェニル基又はナフチル基など)などが含まれる。
【0038】
好ましい炭化水素基には、C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C3-15シクロアルキル基、C6-10芳香族炭化水素基、C3-15シクロアルキル−C1-4アルキル基、C7-14アラルキル基等が含まれる。
【0039】
上記炭化水素基は、種々の置換基、例えば、ハロゲン原子、オキソ基、ヒドロキシル基、置換オキシ基(例えば、アルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシルオキシ基など)、カルボキシル基、置換オキシカルボニル基(アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基など)、置換又は無置換カルバモイル基、シアノ基、ニトロ基、置換又は無置換アミノ基、スルホ基、複素環式基などを有していてもよい。前記ヒドロキシル基やカルボキシル基は有機合成の分野で慣用の保護基で保護されていてもよい。また、脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基の環には芳香族性又は非芳香属性の複素環が縮合していてもよい。
【0040】
前記R3等における複素環式基を構成する複素環には、芳香族性複素環及び非芳香族性複素環が含まれる。このような複素環としては、例えば、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環(例えば、フラン、テトラヒドロフラン、オキサゾール、イソオキサゾール、γ−ブチロラクトン環などの5員環、4−オキソ−4H−ピラン、テトラヒドロピラン、モルホリン環などの6員環、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、4−オキソ−4H−クロメン、クロマン、イソクロマン環などの縮合環、3−オキサトリシクロ[4.3.1.14,8]ウンデカン−2−オン環、3−オキサトリシクロ[4.2.1.04,8]ノナン−2−オン環などの橋かけ環)、ヘテロ原子としてイオウ原子を含む複素環(例えば、チオフェン、チアゾール、イソチアゾール、チアジアゾール環などの5員環、4−オキソ−4H−チオピラン環などの6員環、ベンゾチオフェン環などの縮合環など)、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール、ピロリジン、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール環などの5員環、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン環などの6員環、インドール、インドリン、キノリン、アクリジン、ナフチリジン、キナゾリン、プリン環などの縮合環など)などが挙げられる。上記複素環式基には、前記炭化水素基が有していてもよい置換基のほか、アルキル基(例えば、メチル、エチル基などのC1-4アルキル基など)、シクロアルキル基、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル基など)などの置換基を有していてもよい。
【0041】
好ましいR3、R4、R5には、水素原子及び炭化水素基(例えば、C1-10アルキル基、C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C3-15シクロアルキル基、C6-10芳香族炭化水素基、C3-12シクロアルキル−C1-4アルキル基、C7-14アラルキル基など)などが含まれる。より好ましいR3、R4、R5には、水素原子、メチル基などのC1-3アルキル基が含まれる。
【0042】
式(2)で表される基の代表的な例として、ビニル基、イソプロペニ基、1−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基、1,2−ジメチル−1−プロペニル基などが挙げられる。
【0043】
mは1〜8の整数を示す。mが2以上の場合、括弧内の基は同一であってもよく異なっていてもよい。mは好ましくは1〜6の整数、さらに好ましくは1〜3の整数である。
【0044】
式(1)中、環Zにおける少なくとも1つのR1−O−基は、環ZにおけるR2O−(W)n−基が結合する構成原子に対してα位又はβ位の構成原子に結合している。
【0045】
式(1)で表されるアルコキシ基含有環状化合物は、式(1)における全てのR2が水素原子であるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物、及び式(1)におけるm個のR2のうち少なくとも1つのR2が前記式(2)であるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物を含んでいる。このうち、式(1)におけるmが1であるアルコキシ基含有環状化合物は、R2が式(2)で表される基である化合物、すなわち、アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物を示している。なお、これらの化合物は、立体異性体(例えば、シス・トランス異性体やエンド・エキソ異性体などの幾何異性体、光学異性体等)が存在する場合は、単一の化合物であってもよく、複数の立体異性体の混合物であってもよい。
【0046】
前記アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物は、m個のR2が全て前記式(2)であるビニルエーテル化合物、及びm個のR2のうち少なくとも1つのR2が前記式(2)であって1又は複数のR2が水素原子である化合物、すなわち、分子内にビニルオキシ基ヒドロキシル基とを共に有するビニルエーテル化合物を含んでいる。前記アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の代表的な例には、以下の化合物が含まれる。環Zが式(3)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物として、例えば、1−メトキシ−2−ビニルオキシシクロヘキサン、1−メトキシ−3−ビニルオキシシクロヘキサン、1−メトキシ−2−ビニルオキシシクロペンタン、1−メトキシ−3−ビニルオキシシクロペンタン、1−メトキシ−2−ビニルオキシシクロオクタン、1−メトキシ−3−ビニルオキシシクロオクタン、1−メトキシ−2−ビニルオキシシクロドデカン、1−メトキシ−3−ビニルオキシシクロドデカン、2−メトキシ−1,4−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサン、2−メトキシ−1,3−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサン、5−メトキシ−1,3−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサン、2−メトキシ−1−ビニルオキシ−4−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサン及びその位置異性体、それらの混合物、1,4−ジメトキシ−2,5−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサン、1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシ−4−(1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシエチル)シクロヘキサン、1−ビニルオキシ−2−メトキシ−4−(1−メトキシ−2−ビニルオキシエチル)シクロヘキサン、1−メトキシ−2−ビニルオキシ−4−(1−メトキシ−2−ビニルオキシエチル)シクロヘキサン、2−メトキシ−2−メチル−5−(1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキエチル)シクロヘキサノール、1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシ−4−(1−メトキシ−1−メチル−2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサン、及びその位置異性体、それらの混合物;及びこれらに対応するイソプロペニルエーテル類などが挙げられる。上記の他に、1−メトキシ−1−ビニルオキシ−4−イソプロペニルシクロヘキサン、1−メトキシ−1,4−ビス(ビニルオキシ)−4−イソプロピルシクロヘキサンなどのテルペン及びその誘導体;環Zがアルキルシクロヘキサン環などのアルキルシクロアルカン環である化合物なども含まれる。環Zが式(3)で表される脂環式環であるビニルエーテル化合物のなかでも、特に、p=1〜4又は8である化合物が好ましく、また、a=0〜3である化合物が好ましい。
【0047】
環Zが式(4)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物として、例えば、5−メトキシ−6−(ビニルオキシ)−3a,4,5,6,7,7a−ヘキサヒドロ−1H−4,7−メタノ−インデン、1−メトキシ−2−(ビニルオキシ)オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン、5−メトキシ−6−(ビニルオキシ)オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン、1−メトキシ−2,5−ビス(ビニルオキシ)オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン{3−メトキシ−4,8−ビス(ビニルオキシ)トリシクロ[5.2.11,7.02,6]デカン}、1,6−ジメトキシ−2,5−ビス(ビニルオキシ)オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン、1−メトキシ−2−ビニルオキシ−5−(ビニルオキシメチル)オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン、及びその位置異性体、それらの混合物;及びこれらに対応するイソプロペニルエーテル類などが挙げられる。環Zが式(4)で表される脂環式環であるビニルエーテル化合物のなかでも、特に、b=0〜3である化合物が好ましい。
【0048】
環Zが式(5)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物として、例えば、2−メトキシ−3−(ビニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、5−メトキシ−6−(ビニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2−カルボン酸メチルエステル、2−メトキシ−3,5−ビス(ビニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2−メトキシ−3−ビニルオキシ−5−(ビニルオキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3−メトキシ−4−ビニルオキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン、3−メトキシ−4,9−ビス(ビニルオキシ)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン;及びこれらに対応するイソプロペニルエーテル類などが挙げられる。上記に例示の化合物は、また、これらの位置異性体、及びそれらの混合物も含む。環Zが式(5)で表される脂環式環であるビニルエーテル化合物のなかでも、特に、q=0〜3である化合物、c=0〜3である化合物が好ましい。
【0049】
環Zが式(6)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物として、例えば、1−メトキシ−2−ビニルオキシアダマンタン、1−メトキシ−3−ビニルオキシアダマンタン、1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシアダマンタン、3−メトキシ−5−ビニルオキシ−1−アダマンタノール、1−メトキシ−2,6−ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、1−メトキシ−3,5−ビス(ビニルオキシ)アダマンタン、3−メトキシ−5,7−ビス(ビニルオキシ)−1−アダマンタノール、1−メトキシ−3,5,7−トリス(ビニルオキシ)アダマンタン、及びこれらに対応するイソプロペニルエーテル類などが挙げられる。上記に例示の化合物は、また、これらの位置異性体、及びそれらの混合物も含む。環Zが式(6)で表される脂環式環であるビニルエーテル化合物のなかでも、特に、d=0〜3である化合物が好ましい。
【0050】
環Zが式(7)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物として、例えば、2−メトキシ−3−ビニルオキシデカリン、2−メトキシ−3,6−ビス(ビニルオキシ)デカリン、1−メチル−2−メトキシ−3,7−ビス(ビニルオキシ)デカリン、1−メトキシ−3−ビニルオキシペルヒドロアントラセン、1−メトキシ−2,7−ビス(ビニルオキシ)ペルヒドロアントラセン、及びこれらに対応するイソプロペニルエーテル類などが挙げられる。上記に例示の化合物は、また、これらの位置異性体、及びそれらの混合物も含む。環Zが式(7)で表される脂環式環であるビニルエーテル化合物のなかでも、特に、r=0〜3である化合物、e=0〜3である化合物が好ましい。
【0051】
前記アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物には第1級アルコール、第2級アルコール、第3級アルコール等が含まれる。また、ヒドロキシル化合物は複数のヒドロキシル基を有していてもよく、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、多価アルコール等の何れであってもよい。
【0052】
前記アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の代表的な例には、以下の化合物が含まれる。環Zが式(3)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物として、例えば、1−メトキシ−2−ヒドロキシシクロヘキサン、1−メトキシ−3−ヒドロキシシクロヘキサン、1−メトキシ−2−ヒドロキシシクロペンタン、1−メトキシ−3−ヒドロキシシクロペンタン、1−メトキシ−2−ヒドロキシシクロオクタン、1−メトキシ−3−ヒドロキシシクロオクタン、1−メトキシ−2−ヒドロキシシクロドデカン、1−メトキシ−3−ヒドロキシシクロドデカン、2−メトキシ−1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、2−メトキシ−1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、6−メトキシ−1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、5−メトキシ−1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、及びその位置異性体、それらの混合物;1,4−ジメトキシ−2,5−ジヒドロキシシクロヘキサン及びその位置異性体、それらの混合物などが挙げられる。上記の他に、2−メトキシ−2−メチル−5−(1−メトキシ−1−メチル−2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノールなどのテルペン及びその誘導体、環Zがアルキルシクロヘキサン環などのアルキルシクロアルカン環である化合物なども含まれる。環Zが式(3)で表される脂環式環であるヒドロキシ化合物のなかでも、特に、p=1〜4又は8である化合物が好ましく、また、a=0〜3である化合物が好ましい。
【0053】
環Zが式(4)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物として、例えば、1−メトキシ−2−(ヒドロキシ)オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン、1−メトキシ−2,5−(ジヒドロキシ)オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン{3−メトキシ−4,8−(ジヒドロキシ)トリシクロ[5.2.11,7.02,6]デカン}及びこれらの位置異性体、それらの混合物などが挙げられる。環Zが式(4)で表される脂環式環であるヒドロキシ化合物のなかでも、特に、b=0〜3である化合物が好ましい。
【0054】
環Zが式(5)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物として、例えば、2−メトキシ−3−(ヒドロキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2−メトキシ−3,5−ジヒドロキシビシクロ[2.2.1]ヘプタン、2−メトキシ−3−ヒドロキシ−5−(ヒドロキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン、3−メトキシ−4−ヒドロキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン、及び3−メトキシ−4,9−ジヒドロキシテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカンなどが挙げられる。上記に例示の化合物は、また、これらの位置異性体、及びそれらの混合物も含む。環Zが式(5)で表される脂環式環であるヒドロキシ化合物のなかでも、特に、q=0〜3である化合物、c=0〜3である化合物が好ましい。
【0055】
環Zが式(6)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物として、例えば、2−メトキシ−1−アダマンノール、3−メトキシ−1−アダマンタノール、1−メトキシ−2−メチル2−ヒドロキシアダマンタン、1−メトキシ−2,6−ジヒドロキシアダマンタン、1−メトキシ−3,5−ジヒドロキシ−1−アダマンタン、1−メトキシ−3,5,7−トリヒドロキシアダマンタン、及び2−メチル−2−ヒドロキシアダマンタンなどが挙げられる。上記に例示の化合物は、また、これらの位置異性体、及びそれらの混合物も含む。環Zが式(6)で表される脂環式環であるヒドロキシ化合物のなかでも、特に、d=0〜3である化合物が好ましい。
【0056】
環Zが式(7)で表される脂環式環であるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物として、例えば、2−メトキシ−3−ヒドロキシデカリン、2−メトキシ−3,6−ジヒドロキシデカリン、1−メチル−2−メトキシ−3,7−ジヒドロキシデカリン、1−メトキシ−3−ビニルオキシペルヒドロアントラセン、及び1−メトキシ−2,7−ジヒドロキシペルヒドロアントラセンなどが挙げられる。上記に例示の化合物は、また、これらの位置異性体、及びそれらの混合物も含む。環Zが式(7)で表される脂環式環であるヒドロキシ化合物のなかでも、特に、r=0〜3である化合物、e=0〜3である化合物が好ましい。
【0057】
本発明におけるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物は、ビニルエーテル化合物の製造法として公知の反応を利用して製造することができる(例えば、特願2003−73321号公報等)。好ましい態様としては、遷移元素化合物の存在下、前記のアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物と、ビニルエステル化合物との反応によりアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物を製造する方法が挙げられる。この際、アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物に代えて、分子内に1以上のヒドロキシル基を含むアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物を用いると、分子内に複数のビニルオキシ基が導入されたアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物を製造することができる。
【0058】
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物としては、反応を阻害しない化合物であればよく、上記に例示のものを利用できる。ビニルエステル化合物の代表的な例としては、下記式(9)
【化5】

(式中、R3、R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示し、R8は有機基を示す)
で表されるビニルエステル化合物が挙げられる。
【0059】
式(9)で表されるビニルエステル化合物において、R3〜R5は前記と同様である。R8における有機基は、上記反応を阻害しない有機基であればよく、前記R3等における有機基として例示のものを利用できる。式(9)で表されるビニルエステル化合物の代表的な例として、酢酸ビニル、酢酸イソプロペニル、酢酸1−プロペニル、酢酸2−メチル−1−プロペニル、酢酸1,2−ジメチル1−プロペニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルなどが挙げられる。
【0060】
上記の方法では、遷移元素化合物(遷移元素の単体を含む)を触媒として用いるため、温和な条件下で反応を進行できる。遷移元素化合物は単独で又は2以上を組み合わせて使用できる。遷移元素には、IIIA族元素(特にランタノイド元素)、VA族元素、VIA族元素、VIIA族元素、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム、白金などのVIII族元素、IB族元素が含まれる。これらの中でもVIII族元素が好ましく、特に白金族元素(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金)、とりわけイリジウムが好ましい。
【0061】
遷移元素化合物としては、例えば、遷移元素の単体(金属)、酸化物、硫化物、水酸化物、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)、硫酸塩、遷移元素を含むオキソ酸又はその塩、無機錯体などの無機化合物;シアン化物、有機酸塩(酢酸塩など)、有機錯体などの有機化合物が挙げられる。これらのなかでも特に有機錯体が好ましい。錯体の配位子には公知の配位子が含まれる。遷移元素化合物における遷移元素の価数は0〜6程度、好ましくは0〜3価であり、特にイリジウム化合物などの場合には1価又は3価が好ましい。遷移元素化合物は、そのままで又は担体に担持した形態で使用できる。
【0062】
遷移元素化合物の使用量は、反応成分として用いるヒドロキシ化合物1モルに対して、例えば0.0001〜1モル、好ましくは0.001〜0.3モル、さらに好ましくは0.005〜0.1モル程度である。
【0063】
式(9)で表されるビニルエステル化合物と前記アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物との反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチルなどのエステル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリルなどが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上を混合して用いられる。
【0064】
式(9)で表されるビニルエステル化合物の使用量は、前記アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物1当量に対して、例えば0.8〜10当量、好ましくは1〜8当量、さらに好ましくは1.5〜5当量程度である。式(9)で表されるビニルエステル化合物を大過剰量用いてもよい。
【0065】
反応系に塩基を存在させることにより一般に反応速度が著しく増大する。塩基には無機塩基及び有機塩基が含まれる。無機塩基としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどのアルカリ金属水酸化物;水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウムなどのアルカリ土類金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどのアルカリ金属炭酸塩;炭酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。
【0066】
有機塩基としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウムなどのアルカリ金属有機酸塩(特に、アルカリ金属酢酸塩);酢酸マグネシウムなどのアルカリ土類金属有機酸塩;リチウムメトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムイソプロポキシド、カリウムエトキシドなどのアルカリ金属アルコキシド(前記アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物に対応するアルカリ金属アルコキシドなど);ナトリウムフェノキシドなどのアルカリ金属フェノキシド;トリエチルアミン、N−メチルピペリジンなどのアミン類(第3級アミンなど);ピリジン、2,2′−ビピリジル、1,10−フェナントロリンなどの含窒素芳香族複素環化合物などが挙げられる。上記の塩基の中でもナトリウムを含む塩基が好ましい。
【0067】
塩基の使用量は、式(9)で表されるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物1モルに対して、例えば0.001〜3モル、好ましくは0.005〜2モル程度である。
【0068】
反応は重合禁止剤の存在下で行ってもよい。反応温度は、反応成分や触媒の種類などに応じて適宜選択でき、例えば、20〜200℃、好ましくは50〜150℃、さらに好ましくは70〜120℃程度である。反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0069】
上記反応により、温和な条件下で、対応する式(1)におけるR2の少なくとも1つが式(2)で表される基であるアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物が生成する。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0070】
本発明におけるアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物は、環式基を有するヒドロキシ化合物の製造法として公知の反応を利用して製造することができる。アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の一例として、式(1)におけるR2が水素原子、nが0であって、R1−O−基が環ZにおけるHO−基が結合する構成原子に対してα位の構成原子に結合しているアルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物[下記式(1a)]は、以下に示す工程に従って製造することができる。
【化6】

【0071】
上記工程は、式(A)で表される化合物と過酸又は過酸化水素との反応により式(B)で表される化合物を得る前工程と、酸触媒の存在下、前工程で得た式(B)で表される化合物とR1−OHで表されるヒドロキシ化合物との反応により目的の式(1a)で表される化合物を得る後工程とで構成される。
【0072】
前工程における式(A)中、環Z1は、環の一部に少なくとも1つの2重結合を有する非芳香族性環を示している。前記環の一部に少なくとも1つの2重結合を有する非芳香族性環(以下、「環状オレフィン」と称する場合がある)としては、例えば、前記環Zにおける非芳香族性環のうち、環式環の一部に少なくとも1つの2重結合を有する環が挙げられる。このような環状オレフィンには、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロアルケンなどの単環、2−ノルボルネンなどの橋かけ環、ビシクロ[3.2.1]−2−オクテンなどの縮合環等が含まれる。過酸としては、例えば、過ギ酸、過酢酸、m−クロロ過安息香酸(mCPBA)等が挙げられる。式(B)中、環Z2は、式(A)における環Z1が有する1つの2重結合が単結合に変換された環に対応する非芳香族性環を示しており、前記環Zと同様の環が例示される。
【0073】
反応は、溶媒の存在下又は非存在下で行われる。前記溶媒としては、反応を阻害しない範囲で上記に例示のものを利用できる。反応温度は、反応成分の種類などに応じて適宜選択でき、例えば、0〜70℃、好ましくは5〜50℃であり、室温であってもよい。反応は常圧で行ってもよく、減圧又は加圧下で行ってもよい。反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、空気雰囲気、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの何れであってもよい。また、反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。
【0074】
上記反応によれば、過酸又は過酸化水素の作用により、式(A)における環Z1が有する2重結合部位がエポキシ化され、対応する式(B)で表される化合物が生成する。反応終了後、反応生成物は、上記に例示の分離手段により分離精製できる。
【0075】
後工程において、式(1a)における環Z2及びR1は前記と同様である。反応は酸触媒の存在下で行われる。酸触媒としては、例えば、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸等の有機酸、塩酸、硝酸、硫酸等の無機酸、強酸性陽イオン交換樹脂などが用いられる。その他、反応の進行を阻害しない範囲で、前工程と同様の反応条件を採用できる。
【0076】
上記反応によれば、酸触媒の作用により、式(B)におけるエポキシ部位が開環した部位に、R1OHに由来するR1O−基が導入され、対応する式(1a)で表される化合物が生成する。反応終了後、反応生成物は、上記に例示の分離手段により分離精製できる。
【0077】
本発明の重合性組成物は、重合開始剤、及び上記本発明の式(1)で表されるアルコキシ基含有環状化合物であってm個のR2のうち少なくとも1つのR2が式(2)で表される基である化合物、すなわち、アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物を含んでいる。前記重合開始剤としては、例えば、熱重合開始剤、光ラジカル又は光カチオン重合開始剤などのラジカル重合やイオン(カチオン)重合開始剤などのラジカル重合やイオン(カチオン)重合を起こしうるものであれば特に限定されず、公知の重合開始剤を使用できる。例えば、熱重合開始剤として、過酸化ベンゾイル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、t−ブチルヒドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2−4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリルなどが使用でき、光重合開始剤として、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンゾフェノン、4−ジメチルアミノイソアミルベンゾエート、4−ジメチルアミノエチルベンゾエート、トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェイト等が使用できる。
【0078】
重合開始剤は、アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物に対して、通常0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜20重量%用いられる。
【0079】
本発明の硬化物は、重合開始剤及び式(1)で表されるアルコキシ基含有環状化合物からなる重合性組成物を、電子線若しくは放射線の照射又は加熱に付すことにより得ることができる。
【0080】
本発明によれば、上記本発明の式(1)で表されるアルコキシ基含有環状化合物を用いるため、硬化反応時の硬化速度が極めて速く、しかも硬度の高い硬化物を形成することができる。このため、光や熱により重合又は硬化する重合性化合物として、コーティング剤、インキ、塗料、接着剤、レジスト、製版材などの分野で広く使用することができる。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
実施例1
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
1000mlの反応器に、出発原料として3−シクロヘキセン−1−メタノール50g(0.45mol)を仕込み、溶媒としてジクロロメタン850mlを加えて撹拌し、純度60%のm−クロロ過安息香酸(mCPBA)をゆっくり添加した。撹拌しながら室温で約2時間熟成させた後、チオ硫酸ナトリウム水溶液を加えた。水層を除去し、回収した有機層を5重量%炭酸水素ナトリウム水溶液及び飽和塩化ナトリウム水溶液で順次洗浄し、有機層を濃縮することにより粗エポキシ体を得た。この粗エポキシ体を、100重量倍のメタノールに溶解し、2重量%の濃硫酸を添加し、室温で約2時間撹拌し、メタノールを除去した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2−メトキシ−1−ヒドロキシ−4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び6−メトキシ−1−ヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンの混合物が収率80%で生成していた。
【0082】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた2−メトキシ−1−ヒドロキシ−4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び6−メトキシ−1−ヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンの混合物(ジヒドロキシ化合物)を以下のビニル化工程に付した。すなわち、前記ジヒドロキシ化合物に対して、プロピオン酸ビニル4当量、ジ−μ−クロロビス(1,5−シクロオクタジエン)二イリジウム(I)[Ir(cod)Cl]22モル%、及び炭酸ナトリウム1.5当量のトルエン混合液を4.5重量倍加え、105℃で3時間撹拌した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換された2−メトキシ−1−ビニルオキシ−4−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサン及び6−メトキシ−1−ビニルオキシ−3−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサンの混合物が生成していた。この反応液を減圧蒸留することにより、下記式(11a)で表される2−メトキシ−1−ビニルオキシ−4−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサン及び下記式(11b)で表される6−メトキシ−1−ビニルオキシ−3−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサンの混合物を収率72%で得た。また、2箇所のヒドロキシル基のうち一方がビニルオキシ基に置換された2−メトキシ−1−ヒドロキシ−4−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサン、2−メトキシ−1−ビニルオキシ−4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン、6−メトキシ−1−ヒドロキシ−3−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサン、及び6−メトキシ−1−ビニルオキシ−3−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンも少量生成していた。
【化7】

[2−メトキシ−1−ヒドロキシ−4−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサン及び6−メトキシ−1−ヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)シクロヘキサンの混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.40−1.57(m,7H),2.16(br,2H),2.87(m,1H),3.24(s,3H),3.49(m,3H)
[2−メトキシ−1−ビニルオキシ−4−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサン及び6−メトキシ−1−ビニルオキシ−3−(ビニルオキシメチル)シクロヘキサンの混合物のスペクトルデータ]
GC−MS m/e:212,93,57
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.31−1.97(m,7H),3.32(s,3H),3.45(m,3H),3.91−3.98(m,3H),4.11(d,1H),4.28(d,1H),6.35(dd,2H)
【0083】
実施例2
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
2−メトキシハイドロキノンをラネーニッケルにより通常の高圧水添反応に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、下記式(12)で表される2−メトキシ−1,4−シクロヘキサンジオールのシス体及びトランス体からなる混合物(幾何異性体混合物)が生成していた。
【0084】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた2−メトキシ−1,4−シクロヘキサンジオールの幾何異性体混合物を用いて、実施例1と同様のビニル化工程に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換された下記式(13)で表される2−メトキシ−1,4−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサンの幾何異性体混合物が収率75%で生成していた。また、2箇所のヒドロキシル基のうち一方がビニルオキシ基に置換された2−メトキシ−1−ヒドロキシ−4−ビニルオキシシクロヘキサン及び2−メトキシ−1−ビニルオキシ−4−ヒドロキシシクロヘキサンも少量生成していた。
【化8】

[2−メトキシ−1,4−シクロヘキサンジオールの幾何異性体混合物の混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.37−1.97(m,8H),2.28(m,1H),3.37(s,3H),3.44(m,2H)
[2−メトキシ−1,4−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサンの幾何異性体混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.37−2.10(m,6H),3.16−3.24(m,1H),3.39(s,3H),3.67(m,1H),3.79(m,1H),4.02−4.04(m,2H),4.29−4.37(m,2H),6.29−6.39(m,2H)
【0085】
実施例3
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
実施例1において、出発原料として、3−シクロヘキセン−1−メタノールの代わりに、5−ノルボルネン−2−オール0.45molを用いた点以外は、実施例1と同様の反応を行った。反応液をGC−MSにより分析したところ、2−メトキシ−3,5−ノルボルナンジオール及び2−メトキシ−3,6−ノルボルナンジオールの混合物が生成していた。なお、5−ノルボルネン−2−オールの代わりに5−ノルボルネン−2−オールの酢酸エステルを用いた場合には、同様の反応を行った後、加水分解を施すことにより上記混合物を生成できる。
【0086】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた2−メトキシ−3,5−ノルボルナンジオール及び2−メトキシ−3,6−ノルボルナンジオールの混合物を、実施例1と同様のビニル化工程に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換されたメトキシ−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナンの位置異性体及びそれらのエンド体及びエキソ体からなる混合物(エンド・エキソ混合物)が生成していた。この反応液を減圧蒸留することにより、下記式(14a)で表される2−メトキシ−3,5−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン、下記式(14b)で表される2−メトキシ−3,6−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン及びこれらのエンド・エキソ混合物を収率72%で得た。また、2箇所のヒドロキシル基のうち一方がビニルオキシ基に置換された2−メトキシ−3−ヒドロキシ−5−(ビニルオキシ)ノルボルナン、2−メトキシ−3−ビニルオキシ−5−ヒドロキシノルボルナン、2−メトキシ−3−ヒドロキシ−6−(ビニルオキシ)ノルボルナン及び2−メトキシ−3−ビニルオキシ−6−ヒドロキシノルボルナンも少量生成していた。
【化9】

[2−メトキシ−3,5−ノルボルナンジオール及び2−メトキシ−3,6−ノルボルナンジオールの混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.43−2.13(m,8H),2.86(m,1H),3.16(m,1H),3.27(s,3H),3.48(m,1H)
[2−メトキシ−3,5−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン、2−メトキシ−3,6−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン及びこれらのエンド・エキソ混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.37−2.04(m,6H),3.08−3.75(m,6H),4.04(m,2H),4.18(m,2H),6.89(dd,2H)
【0087】
実施例4
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
実施例1において、出発原料として、3−シクロヘキセン−1−メタノールの代わりに、シクロヘキサン−2,5−ジエン0.45molを用いた点以外は、実施例1と同様の反応を行った。反応液をGC−MSにより分析したところ、2,5−ジメトキシ−1,4−シクロヘキサンジオール及び4,6−ジメトキシ−1,3−シクロヘキサンジオールの混合物が生成していた。
【0088】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた2,5−ジメトキシ−1,4−シクロヘキサンジオール及び4,6−ジメトキシ−1,3−シクロヘキサンジオールからなる混合物を、実施例1と同様のビニル化工程に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換された2,5−ジメトキシ−1,4−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサン及び4,6−ジメトキシ−1,3−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサンが生成していた。この反応液を減圧蒸留することにより、下記式(15a)で表される2,5−ジメトキシ−1,4−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサン及び下記式(15b)で表される4,6−ジメトキシ−1,3−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサンの混合物を収率63%で得た。また、2箇所のヒドロキシル基のうち一方がビニルオキシ基に置換された2,5−ジメトキシ−1−ヒドロキシ−4−(ビニルオキシ)シクロヘキサン、2,5−ジメトキシ−1−ビニルオキシ−4−ヒドロキシシクロヘキサン、4,6−ジメトキシ−1−ヒドロキ−3−(ビニルオキシ)シクロヘキサン及び4,6−ジメトキシ−1−ビニルオキシ−3−ヒドロキシシクロヘキサンも少量生成していた。
【化10】

[2,5−ジメトキシ−1,4−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサン及び4,6−ジメトキシ−1,3−ビス(ビニルオキシ)シクロヘキサンの混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.89−1.95(m,4H),3.08−3.25(m,8H),3.79(m,2H),4.05(m,2H),4.23(m,2H),6.87(dd,2H)
【0089】
実施例5
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
実施例1において、出発原料として、3−シクロヘキセン−1−メタノールの代わりに、ノルボルナジエン0.45molを用いた点以外は、実施例1と同様の反応を行った。反応液をGC−MSにより分析したところ、2,4−ジメトキシ−3,5−ノルボルナンジオール及び2,5−ジメトキシ−3,4−ノルボルナンジオールのエンド・エキソ混合物が生成していた。
【0090】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた2,4−ジメトキシ−3,5−ノルボルナンジオール及び2,5−ジメトキシ−3,4−ノルボルナンジオールのエンド・エキソ混合物を用いて、実施例1と同様のビニル化工程に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換された2,5−ジメトキシ−3,4−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン、2,6−ジメトキシ−3,5−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン及びこれらのエンド・エキソ混合物が生成していた。この反応液を減圧蒸留することにより、下記式(16a)で表される2,5−ジメトキシ−3,4−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン及び下記式(16b)で表される2,6−ジメトキシ−3,5−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン及びこれらのエンド・エキソ混合物を収率58%で得た。また、2箇所のヒドロキシル基のうち一方がビニルオキシ基に置換された2,5−ジメトキシ−3−ヒドロキシ−4−(ビニルオキシ)ノルボルナン、2,5−ジメトキシ−3−ビニルオキシ−4−ヒドロキシノルボルナン、2,6−ジメトキシ−3−ヒドロキシ−5−(ビニルオキシ)ノルボルナン及び2,6−ジメトキシ−3−ビニルオキシ−5−ヒドロキシノルボルナンも少量生成していた。
【化11】

[2,5−ジメトキシ−3,4−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン及び2,6−ジメトキシ−3,5−ビス(ビニルオキシ)ノルボルナン及びこれらのエンド・エキソ混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.43−1.49(m,2H),2.08−2.21(m,2H),3.06−3.25(m,8H),3.75(m,2H),4.07(m,2H),4.21(m,2H),6.79(dd,2H)
【0091】
実施例6
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
実施例1において、出発原料として、3−シクロヘキセン−1−メタノールの代わりに、ヘキサヒドロ−4,7−メタノ−インデン−6−オール0.45molを用いた点以外は、実施例1と同様の反応を行った。反応液をGC−MSにより分析したところ、1−メトキシ−2,5−ジヒドロキシ−オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデンのエンド・エキソ混合物が生成していた。
【0092】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた1−メトキシ−2,5−ジヒドロキシ−オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデンのエンド・エキソ混合物を用いて、実施例1と同様のビニル化工程に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換された下記式(17)で表される1−メトキシ−2,5−ビス(ビニルオキシ)−オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデンのエンド・エキソ混合物が生成していた。また、2箇所のヒドロキシル基のうち一方がビニルオキシ基に置換された1−メトキシ−2−ヒドロキシ−5−ビニルオキシ−オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン、1−メトキシ−2−ビニルオキシ−5−ヒドロキシ−オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデン及びこれらのエンド・エキソ混合物も少量生成していた。
【化12】

[1−メトキシ−2,5−ビス(ビニルオキシ)−オクタヒドロ−4,7−メタノ−インデンのエンド・エキソ混合物のスペクトルデータ]
1H−NMR(CDCl3、TMS)500MHz δ:1.45−1.82(m,9H),3.15−4.25(m,10H),6.86(dd,2H)
【0093】
比較例1
環式基を有するビニルエーテル化合物として、下記式(18)で表される1,4−ビス(ビニルオキシメチル)シクロヘキサンを用いた。
【化13】

【0094】
実施例7
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
実施例1において、出発原料として、3−シクロヘキセン−1−メタノールの代わりにリモネンを用いた点以外は、実施例1と同様の反応を行った。反応液をGC−MSにより分析したところ、下記式(19)で表される2−メトキシ−2−メチル−5−(1−メトキシ−1−メチル−2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサノールが生成していた。
【0095】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた2−メトキシ−2−メチル−5−(1−メトキシ−1−メチル−2−ヒドロキエチル)シクロヘキサノールを用いて、実施例1と同様のビニル化工程に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換された下記式(20)で表される1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシ−4−(1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシエチル)シクロヘキサンが生成していた。また、2箇所のヒドロキシル基のうち一方がビニルオキシ基に置換された2−メトキシ−2−メチル−5−(1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシエチル)シクロヘキサノール及び1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシ−4−(1−メトキシ−1−メチル−2−ヒドロキシエチル)シクロヘキサンも少量生成していた。
【化14】

[1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシ−4−(1−メトキシ−1−メチル−2−ビニルオキシエチル)シクロヘキサンのスペクトルデータ]
GC−MS m/e:284,253,240
【0096】
実施例8
アルコキシ基含有環式基を有するヒドロキシ化合物の製造
実施例1において、出発原料として、3−シクロヘキセン−1−メタノールの代わりに2−ノルボルネンを用いた点以外は、実施例1と同様の反応を行った。反応液をGC−MSにより分析したところ、下記式(21)で表される2−メトキシ−3−(ヒドロキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンが生成していた。
【0097】
アルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物の製造
得られた2−メトキシ−3−(ヒドロキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンを用いて、実施例1と同様のビニル化工程に付した。反応液をGC−MSにより分析したところ、2箇所のヒドロキシル基が共にビニルオキシ基に置換された下記式(22)で表される2−メトキシ−3−(ビニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンが生成していた。
【化15】

[2−メトキシ−3−(ビニルオキシ)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンのスペクトルデータ]
GC−MS m/e:168,137,94
【0098】
実施例9〜14及び比較例2
実施例1〜6で得たアルコキシ基含有環式基を有するビニルエーテル化合物及び比較例1の環式基を有するビニルエーテル化合物に対して、それぞれ、光重合開始剤(トリアリルスルホニウムヘキサフルオロホスフェイトのプロピレンカーボネート溶液:商品名「UVACURE」、ダイセル化学工業(株)製)を3重量%混合して重合性組成物を得た。
得られた重合性組成物を石英ガラス上に約50μmの厚さに塗布し、焦点距離15cmでUVランプを照射し、表面に粘りがなくなるまでの照射時間を測定した。形成された硬化物について、JIS K5400に準拠した試験により鉛筆硬度を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0099】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

[式中、環Zは単環又は多環の非芳香族性環を示し、R1O−基及びR2O−(W)n−基は環Zを構成する原子に結合している置換基であって、R1は炭素数1〜5の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基を示し、R2は、水素原子又は下記式(2)
【化2】

(式中、R3、R4及びR5は、同一又は異なって、水素原子又は有機基を示す)
で表される基を示し、Wは2価の有機基を示す。nは0又は1を示し、mは1〜8の整数を示し、kは1〜5の整数を示す。m、kが2以上の場合、括弧内の置換基は同一であってもよく、異なっていてもよい。但し、環Zにおける少なくとも1つのR1−O−基は、環ZにおけるR2O−(W)n−基が結合する構成原子に対してα位又はβ位の構成原子に結合している。また、mが1のときR2は式(2)で表される基である]
で表されるアルコキシ基含有環状化合物。
【請求項2】
環Zが脂環式環である請求項1記載のアルコキシ基含有環状化合物。
【請求項3】
環Zが、下記式(3)〜(7)
【化3】

(式中、X1、X2、X3、X4、X5は、各環を構成する原子に結合している置換基であり、ハロゲン原子、アルキル基、ハロアルキル基、アリール基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシル基、保護基で保護されていてもよいヒドロキシメチル基、保護基で保護されていてもよいアミノ基、保護基で保護されていてもよいカルボキシル基、保護基で保護されていてもよいスルホ基、オキソ基、ニトロ基、シアノ基、又は保護基で保護されていてもよいアシル基を示す。X1が2以上の場合、それらは互いに結合して、式中のシクロアルカン環を構成する炭素原子と共に4員以上の環を形成していてもよい。a、b、c、d、eは0以上の整数を示す。a、b、c、d又はeが2以上の場合、括弧内の置換基は同一であってもよく異なっていてもよい。pは1〜8の整数を示し、qは0〜3の整数を示し、rは1〜3の整数を示す)
で表される脂環式環である請求項1記載のアルコキシ基含有環状化合物。
【請求項4】
重合開始剤、及び請求項1〜3の何れかの項に記載のアルコキシ基含有環状化合物であって、m個のR2のうち少なくとも1つのR2が式(2)で表される基である化合物を含む重合性組成物。
【請求項5】
請求項4記載の重合性組成物を硬化して得られる硬化物。

【公開番号】特開2006−69896(P2006−69896A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251314(P2004−251314)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】