説明

アルコール乱用治療のためのデオキシペガニンとメカミルアミンの組合せ

デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種とを含む作用物質組合せが開示される。この作用物質組合せは、アルコール乱用および/またはアルコール依存の治療に用いられる薬剤の製造に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の説明
本発明は、3−デオキシペガニンおよび/またはメカミルアミンを含有する医薬製剤に関する。さらに、本発明は、この作用物質組合せの、アルコール依存のみならず、健康に対して有害なアルコールの摂取を治療するための使用に関する。
【0002】
課題
乱用の可能性のある向精神性物質の中で、エタノール(一般使用では、「アルコール」と呼ばれる)が最も古く、最も広範に使用されており、その健康への影響およびそれの社会的、経済的な影響の点において、格段に重大である。ドイツでは、約160万人が臨床的にはアルコール依存であり、270万人が医学的に有害なレベルのアルコールを摂取していると考えられている。約500万人は、危険にさらされているとみなさなければならない。毎年、約4万人―これらは臨床的にアルコールに依存している人であるだけでなく、長期にわたり高リスクのアルコールの摂取を習慣的に行っている人である―がアルコール摂取が直接の原因で死亡している。
【0003】
特徴的には、アルコールの全体消費は数年にわたって連続的に減少しているが、これらの死亡者数は、アルコール離脱療法の数と同様に、西洋工業国において実質的に一定のままであることである。このことから、アルコールの全体消費の減少は、とりわけ、過去においてすでに比較的健康意識が高く、アルコールの摂取を制限するか控える広い層の消費者によるものであるのに対して、高リスクまたは有害なアルコールの摂取の蔓延は変わらないままであると結論できる。
【0004】
したがって、高リスクまたは有害なアルコールの摂取―また、特にまだ臨床的な依存を伴わない摂取行動―の低減を薬理学的に支援する課題がある。
【0005】
現状科学および現状技術
欧州諸国および/または米国において、アルコール乱用の薬物療法に使用が許可された調剤は現在、5種類ある。これらの内で、ビス(ジエチルチオカルバモイル)ジスルフィド(ジスルフィラム(disulfiram)、Antabus(登録商標))はその他の調剤のいずれよりも長期に使用されており、これには、実際のアルコールに対する欲求に影響を与えない、嫌悪作用だけがある。チアプリド(tiapride)、すなわちサブタイプD2およびD3の受容体に作用するドーパミン拮抗薬(antagonist)は、実際的な重要性が増していないのに対して、複雑な抗興奮性作用(anti-excitatory action)を有するとともに、ノルアドレナリン作動性およびドーパミン作動性の経路に影響を与える、アヘン剤受容体拮抗薬ナルトレキソン(ReVia(登録商標)、Dupont;Trexan(登録商標))およびacamprosat(N−アセチルホモタウリネート(N-acetyl homotaurinate);Campral(登録商標)、Merck AG;Aotal(登録商標))が、急性離脱後のアルコールの乱用を防止するためにはるかに広範囲に使用されている。
【0006】
最近、欧州諸国の一部では、抗興奮性ガンマ−ヒドロキシ酪酸塩(例えば、Alcover(登録商標)、Gerot Pharmazeutika)が利用可能となっている。しかしながら、ナルトレキソンおよびガンマ−ヒドロキシ酪酸塩は、胃腸管系および精神運動性副作用を生じ、この副作用は、療法コンプライアンスを損なう。さらに、ナルトレキソンは、経口生物学的利用率が低い(使用した量の約5%が有効となる)ことが特徴であり、また肝毒性があり、これに対してガンマ−ヒドロキシ酪酸塩はそれ自体に中毒となる可能性がある。
【0007】
本明細書に示す医薬品の長期的な成功は、全体的に非常に限定されたものであると認識しなくてはならないが、それは、大多数の患者において、離脱後のわずかな再発遅延を生ずるか、または臨床的に意味のない摂取アルコール量の低減をもたらすだけであるからである。これらの薬剤は、離脱治療後1年で平均して全患者の30%だけが、なお禁欲状態であるという事実に対して、永続的な影響を与えなかった。
【0008】
数10年にわたることの多い臨床的アルコール依存への発展の初期段階(世界保健機構、WHOのICD−10コードF10.2)の療法および、特に、まだ離床的な依存は伴わないが、それでも肉体的および精神的な損傷の高い可能性を伴う医薬として有害なアルコール摂取の療法には(ICD−10コードF10.2)、非常に副作用の少ない薬剤を必要とするが、それは、いわゆる「社交的飲酒者」は、わずかな苦痛しか経験しないために、自分自身の飲酒行動の問題性をほとんど理解せず、したがってそのような副作用を受けるのを嫌うからである。
【0009】
アルコールおよびその他の中毒生成物質は共通して、脳における快楽および満足を付与する「報酬系(reward system)」の中枢構成要素を表す、中脳辺縁系(mesolimbic system)におけるドーパミン作動性ニューロンを活性化する能力を有する。ドーパミン作動性療法は、(リスリド(lisuride)またはブロモクリプチン(bromocriptine)などのドーパミン受容体作動薬(dopamine receptor agonist)によって)直接経路を介して実施するか、または(例えば、モノアミンオキシダーゼで神経伝達物質の劣化を防止することによって)シナプス間隙において局所的に利用可能なドーパミン濃度を増大させることによって間接的に実施することができる。
【0010】
しかしながら、アルコールの薬理学作用は複雑であり、このことは、上記の療法方式の多様性にも表れている。現在の意見によれば、アルコールの、一方では鎮静作用、そして他方では陶酔作用、ならびに認知および運動協調性阻害作用は、エタノールが、多くのニューロン受容体のタンパク質サブユニットと相互作用を示し、それによってその機能を変調させることによるものである。イオンチャネルを表わす受容体は、特にこれによって影響を受け、実際に、それらは、ニューロン膜構造を永続的に損傷するには低すぎる濃度において、すでに影響を受けている。
【0011】
まだほとんど注目されていない、アルコール症の療法における特殊な位置を占めるのが、コリン作動性神経伝達物質の修飾物質であり、これには特にコリンエステラーゼ抑止剤が含まれる。一方で、コリン作動的に活性な薬剤は、コリン作動性経路のアルコール誘発損傷によって損なわれた認知を強化することができ、したがって問題への洞察を深めることができる。他方、コリン作動性療法は、アルコールへの欲求において、認知誘発ではない、直接的な低減をもたらすこともできる。
【0012】
現在の知識によれば、このことは、中脳辺縁系におけるコリン作動性ニューロンだけでなく、ドーパミン作動性ニューロンにも位置している、ニューロンのニコチン性アセチルコリン受容体(NACHR)によってもたらされるものである。これらの受容体は、アセチルコリン濃度における増加によって刺激され、それに応答して、より大量のドーパミンを放出する。それによって、それらの受容体は、アルコール誘発ドーパミン放出を刺激するが、アルコールがその他の受容体に対して及ぼす作用はないとともに、極端に高いドーパミン濃度を生じることもなく、その結果として、重大な中毒挙動は誘発されない。この療法アプローチは、広い意味で、部分代用療法(partial substitution therapy)とみなすこともできる。
【0013】
デオキシぺガニン(1,2,3,9−テトラヒドロピロロ[2,1−b]キナゾリン)は、コリンエステラーゼ抑止剤であり、これは、薬理学的に適切な濃度においては、NACHRに結合しないとともに、さらにモノアミンオキシダーゼAを抑制する(が、モノアミンオキシダーゼBは抑制しない)。この物質は、DE19906974およびWO00/48600ならびにEP1154776に記載されているように、アルコール乱用の療法にも非常に適している。
【0014】
部分代用療法のアプローチと正反対のアプローチが、それぞれの作動薬的に活性な乱用薬物によって活性化される受容体系を遮断することによる物質摂取療法である。しかしながら、既存の物質依存の場合には、この療法は、物質摂取の再発の高い確率があることを意味する、離脱症状が発生する可能性がある。これは、例えば、メカミルアミン(N−(2,2,3−テトラメチル−ビシクロ[2.1.1]ヘプタン−2−アミン)でNACHRを遮断することによるニコチン乱用の治療に当てはまる。
【0015】
この光学異性体exo−S(+)およびexo−R(−)−メカミルアミンのラセミ混合物は、ほとんど100%経口で生物学的に利用可能な、CNS−浸透剤、非サブタイプ専用で非競争性の、ニューロンNACHRにおける拮抗薬であり、それは、1956年にInversene(登録商標)およびInversine(登録商標)の商標で抗緊張剤(antihypertonic)として療法に導入された。その2種類の立体異性体は、異なってはいるが、個々のNACHRサブタイプにおいて本質的には同等の挙動を示し、exo−S(+)異性体は、ニューロンNACHRに対するある種の選択性を有し、それによって特に筋肉系に及ぼす抹消性副作用(peripheral side effects)が低くなる可能性がある。
【0016】
本態性高血圧の治療に有効な、一日当たり25mgの用量における、メカミルアミンは、副交感神経系の広範な遮断を起こし、それによって、対応する多くの副作用を引き起こすので、1977年からは例外的な場合にのみ適用されている。2000年に、メカミルアミンは米国においてある種の神経性精神病の実験療法に再導入された。
【0017】
米国特許第6083962号は、それぞれの特定拮抗薬と、それぞれの対応する受容体上で作用薬として作用するとともに乱用の可能性のある物質との組合せ、特にニコチン乱用の療法のためのメカミルアミンとニコチンとの組合せを請求している。これは、(制御された均一な放出を生じさせる投与形式、特に経皮的投与形式によって)ニコチンを薬理学的に適当な、非中毒生成形式で投与することによって、NACHRの一部を活性化させて、それによってニコチンへの1次欲求は満足させるが、同時に投与されるメカミルアミンによって残りのNACHRを遮断することによって、ニコチンの継続的な摂取を防止することが可能であるはずであるとの考えに基づいている。
【0018】
実際に、そのような固定的な作用物質の組合せの相乗効果は、パイロット研究において示すことができ、この作用は、喫煙停止に先立ってメカミルアミンを単独で投与することによってさらに強化することもできた(Drug Dev Res 1996; 38:243-56; Exp Clin Phyhopharmacol 1998; 6(3): 331-43)。しかしながら、1998年に報告された3つのフェーズIII研究によれば、経皮投与された固定的な作用物質組合せは、ニコチンパッチよりも優れてはいないことがわかっていた。しかしながら、前記文献のいずれも、アルコール乱用の主題について取り扱っていない。
【0019】
Blomqvistら(Blomqvist et al, in Eur J Pharmacol 1993; 249(2): 207-13 and Eur J Pharmacol 1997; 334 (2-3): 149-56)は、メカミルアミンはドーパミン放出の生理的に重要な基準レベルを損なうことなしに、ラットの測坐核(nucleus accumben)における細胞外ドーパミン濃度のアルコール誘発増加を完全に遮断することを教示している。したがって、これは、上記の基礎の文脈において、著者らがNACHRによって仲介される間接効果とみなす、アルコールの作用のドーパミン作動性要素(dopaminergic component)の遮断である。
【0020】
さらに、上記の文献を理論的な基礎として参照して、Alcohol Clin Exp Res 2002; 26: 326-31には、アルコールまたはニコチンの乱用を行わなかった健康な発端者(proband)についての試行が記載されている。この研究においては、アルコール飲料の摂取に2時間先立って投与されたメカミルアミンは、中枢刺激的な向精神性効果を低減するとともに、おそらくはアルコールの薬学動態(pharmacokinetics)をも低減した。これらの3つの論文のいずれも、メカミルアミンとその他の薬理学的に活性な物質、特に、コリンエステラーゼ抑止剤またはニコチン性作動薬との組合せ、および/または同時投与について言及していない。
【0021】
出願公開WO00/35279およびWO00/35280は、医療処置を必要とする複数の状態、とりわけアルコール乱用の療法に対する、メカミルアミンの2種類の異性体を請求している。しかしながら、この選択肢について、これらの文献は、生物学的データを示していないし、またこの療法目的に対するその他の薬理学的に活性な物質との組合せについても言及していない。
【0022】
発明の主題事項
上述の現状科学を考慮すると、特にアルコール乱用の薬理学は、ニコチンの習慣形成効果よりもはるかに複雑であることを考慮すると、当業者は、中枢アセチルコリン濃度の増大のせいでNACHRに間接的に作用する物質である、デオキシペガミンが、アルコール摂取および他の非アルコール飲料に比較してのアルコール嗜好性の低減に関してメカミルアミン(NACHRの直接抑制剤)との相乗作用を示すとは想定できなかったであろう。驚くべきことに、このことはまさに事実である。
【0023】
すなわち、本発明の主題は、アルコール摂取を低下させるための、デオキシペガニンとメカミルアミンの組合せ使用である。治療の実施は、2種類の作用物質を同時に投与することによるか、またはメカミルアミン単独で投与し、その直後に本発明による作用物質の組合せを投与することによって行うことができる。
【0024】
実施例1:
アルコール嗜好ラットにおけるアルコール摂取およびアルコール嗜好の低下
フィンランドで飼育された、ラットの「AA」血統は、遺伝的に決定されたアルコール嗜好を有し、このことは、アルコールによる事前処置を行わなくても、この動物は、自由選択が許されると、自身の流動物要求を満たすために、無アルコール液体よりもアルコール含有液体を好むことを意味する。したがって、この血統は、アルコールの薬理学的作用についての多数の研究に使用されており、極めて適切な特性を有する。
【0025】
(アルコール嗜好について試験されて、ヘルシンキの公衆衛生研究所(Public Health Institute)によって提供された)雌AAラットを、個別に収容して、標準飼料(アルトロミン1324顆粒)に自由にアクセスできるようにし、周囲温度は24±1℃、明暗変化は12/12時間とした(暗期間は午後6時から午前6時まで続く)。各ケージは2つの同一の飲用瓶を収容しており、その内の一方は純水を、他方は水溶性エタノール(10%v/v)を収容していた。12時間の暗期間中、実験動物は、飲用瓶の利用が可能であり、この期間中、2種類の溶液を自由に選択することができた。実験動物がケージ内の特定の位置に慣れるのを防止するために、瓶の位置は毎日変更した。試験を開始する前に、おおむね一定のアルコールおよび水の摂取が確保されるまで、実験動物に適合段階を与えた。
【0026】
デオキシペガニン塩酸塩(以下では「DOP」と呼ぶ)は、LTS Lohmann Therapie-Systeme会社(ドイツ、アンデルナーハ(Andernach))によって、植物薬理学研究所(Institute for the Pharmacology of Plants)(ウズベキスタン、タシュケント)から取得されて、その識別と純度を検査した後に供給された。メカミルアミンは、Sigma Aldrich GmbH(ミュンヘン)から市販調剤として取得した。
【0027】
試験動物の治療は、常に、暗期間の開始の直前に行った。メカミルアミンは、0.9%塩水に溶解して、5ml/体重1kgの量を腹膜内注射によって投与した。DOPは、プロバング(probang)を使用して10ml/kgの量の水溶液として適用した。組合せ治療の場合には、この投与は、10分未満の期間内に行った。治療日の前後に、常に、2日の治療なしの日を設けた。
【0028】
記録されたパラメータは、アルコールの摂取、水の摂取および飼料の摂取(それぞれグラム単位)、ならびに次の式を使用して計算するアルコール嗜好であった。
【数1】

【0029】
それぞれの場合に、治療に続く12時間の暗期間中に、対象パラメータを追跡して、最初の4時間後の中間結果、および12時間後の最終結果を記録した。従属値に対するt検定を使用して、試験データの統計学的評価を実施した。アルコールの摂取およびアルコール嗜好に関する結果を図1および図2、ならびに表1および表2にまとめてある。
【0030】
表1:雌AAラットのアルコール嗜好の低減における、デオキシペガニンp.o.(DOP)とメカミルアミンi.p.(Mec)との相乗効果
【表1】

*)それぞれの試行におけるDOP20mg/kgと比較して差が有意である(p<0.05)
【0031】
20mg/kg p.o.の経口投与によって、好ましくは投与後最初の4時間内に、DOPは、アルコールの摂取およびアルコール嗜好を低下させた。メカミルアミン(1mg/kg i.p.)は、単独で投与したときには効果がなかったが、両方のパラメータについてDOPの効果を増強した。メカミルアミンの用量が低い(0.5、それぞれ0.75mg/kg i.p.)と、アルコールに関して効果がなく、一方で、メカミルアミン用量を1.5mg/kg i.p.に増加させても増強効果を増大させることはできなかった(表1および表2)。
【0032】
表2:雌AAラットにおける10%エタノール水溶液の摂取の低減における、デオキシぺガニンp.o.(DOP)とメカミルアミンi.p.(Mec)の相乗効果
【表2】

**) それぞれの試行におけるDOP20mg/kgと比較して差が非常に有意である(p<0.01またはp<0.001)
【0033】
本発明による投与および処置の形態
本発明による投与は、2種類の作用物質の固定組合せでの、単独薬剤の形態とするか、または作用物質を別個の投与方式で投与することによって達成することができる。
【0034】
本発明によれば、デオキシペガニン−HCLの投与は、タブレットまたはカプセルの形態としてもよく、この場合の日用量は50〜750mgでよく、好ましくは日用量が100〜400mgであり、それを任意の回数の投薬に分けてもよい。さらに、DE19906974およびそれから派生した公開WO00/48600およびEP1154776に請求されているように、デオキシペガニン含有経皮療法システムならびに遅延放出を伴う経口および腹膜内投与方式を使用することができる。好ましい日用量は50〜250mgであり、好ましくは1回の投薬で投与する。
【0035】
本発明によれば、メカミルアミンの投与は、経口経路、例えば調剤Inversin(登録商標)(Targacept, Inc., 米国;2.5mgのラセミ体メカミルアミン塩酸塩を含有するタブレット)の形態で実施してもよく、日用量は2.5〜20mgでよく、日用量2.5〜7.5mgが好ましい。また、経皮システム、または従来型生薬方法(galenic method)によって配合処方された遅延放出による経口投与方式も使用可能である。この場合の日用量は0.5〜10mgであり、好ましくは1回の投薬で投与する。
【0036】
本発明によれば、デオキシぺガニンおよびメカミルアミンの投与は、投与モードに応じて、デオキシぺガニンの日用量を50〜750mg、メカミルアミンの日用量を0.5〜20mgとすることができるように適合された、2種類の作用物質の固定組合せを含む薬剤の形態で実施することもできる。
【0037】
当業者にとっては、このリストは一例としてのものであって、いかなる意味でも上記化合物の既知の誘導体の使用を除外するものではないことは明白である。すなわち、デオキシぺガニンの塩酸塩の代わりに、その他の生理学的に許容できる塩または付加化合物を使用することも可能であり、また、ある投与方式に対しては、特に経皮調合物に対して遊離塩基を使用することができる。同様に、前出の文献に記載されているデオキシペガニンの誘導体はコリンエステラーゼ抑制剤であるので、それらを、デオキシペガニンの代わりに使用することもできる。
【0038】
これらには、Synthetic Communs. 25(4), 569-572 (1995)に記載された7−ブロモデオキシペガニン、Drug Des. Disc. 14, 1-14 (1996)に記載された7−ハロ−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、7−ブロモ−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、7−クロロ−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、7−フルオロ−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、および7−ヨード−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、ならびにInd. J. Chem. 24B, 789-790 (1985)に記載されたデオキシペガニンの誘導体が含まれる。しかしながら、とりわけ古い文献においては、デオキシぺガニンは、デオキシバシシン(deoxyvasicine)の名前で呼ばれることが多いことに留意する必要がある。
【0039】
メカミルアミンの場合には、Inversineの商標で売買されているラセミ化合物だけでなく、やはりそれぞれの薬学的に許容できる塩および付加化合物の形態である、WO00/35279およびWO00/35280に記載されている2種類の異性体のいずれも、本発明による投与方式を生成するのに使用することができる。用語「塩」は、限定的ではないが主として、本発明の化合物とハロゲン酸および酒石酸(酒石酸塩)、琥珀酸(琥珀酸塩)、マレイン酸(マレイン酸塩)などの簡易な有機酸との塩を意味すると理解される。
【0040】
さらに、本発明によれば、上記のデオキシぺガニンとメカミルアミンの組合せによる処置に先行して、ラセミ体メカミルアミンまたはそれの個別異性体だけによる処置を行ない、それを0.5〜20mgの日用量で実施して、1日〜5日の間続けてもよい。
【0041】
3−デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種との組合せを投与するために、本発明において使用する薬剤形態には、以下の添加剤の1種または2種以上を含めることができる:
− 耐酸化剤、相乗剤(synergists)、安定化剤;
− 保存剤;
− 味覚矯正剤(taste corrigents);
− 溶媒、可溶化剤;
− 界面活性化剤(乳化剤、可溶化剤、湿潤剤、脱泡剤)
− 粘性および粘稠度影響剤、ゲル化剤;
− 吸収加速剤;
− 吸着剤、保湿剤、潤滑剤;
− 分解剤および溶液影響剤、充填剤(増量剤)、しゃく解剤(peptizers);
− 放出遅延剤。
このリストは不完全であり、適当な生理学的に許容できる物質が当業者には知られている。
【0042】
3−デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種を、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と一緒に投与することは、経口または非経口経路によって行うことができる。経口投与に対しては、タブレット、被覆タブレットまたはロゼンジ(lozenge)などの既知の投与方式で薬剤を生成することが可能である。これらとは別に、液状または半液状投与方式も適切であり、この場合の作用物質は、溶液または懸濁液として存在する。水、水性媒体または薬理学的に許容できる油(野菜油または鉱油)を、溶媒または懸濁剤として使用することができる。
【0043】
好ましくは、3−デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種との組合せを含有する薬剤は、これらの作用物質を、長期にわたり制御された方法で組織に送達することのできる、デポー薬剤(depot medicament)として調合する。
【0044】
さらに、本発明によれば、3−デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種との組合せの投与は、非経口経路(parenteral route)を介して行うこともできる。この目的で、経皮または経粘膜投与方式は、本発明の、3−デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種との組合せの投与に対して使用可能であり、特に有利には、特に粘着経皮療法システム(作用物質パッチ)である。これらによって、作用物質を、制御された状態で長期間にわたって、皮膚を介して患者に送達することが可能である。
【0045】
さらなる利点は、非経口適用方式では、経口投与方式によるよりも不適切使用が起こり難いことである。事前設定される作用物質放出面と所定の放出速度のせいで、患者側への過剰投薬をおおむね排除することができる。さらに、経皮投与形式は、さらなる特性、例えば、第1通過(first-pass)効果を回避すること、または血中濃度のより適切で、より均一な制御を可能にすることにおいて非常に有利である。
【0046】
そのような、3−デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種の組合せを含む、経皮システムは、通常、皮膚の反対側が作用物質不透過性の裏打ち層で覆われ、その粘着性の作用物質放出面が、適用前に脱着可能な保護層によって覆われている、作用物質含有圧力感応性粘着性ポリマー基材を含む。
【0047】
そのようなシステムならびに製造に使用することのできる基本材料および補助材料は、当業者には原理的に知られている。そのような経皮療法システムの構造は、例えば、ドイツ特許DE3315272およびDE3843239か、または米国特許第4769028号、第5089267号、第3742951号、第3797494号、第3996934号および第4031894号に記載されている。
【0048】
本発明の作用物質組合せの投与を目的とする、パッチ形式の経皮的療法システムの代替態様として、少なくとも皮膚側において、作用物質に対して浸透可能な膜からなるバッグ内に作用物質がある、いわゆるリザーバシステムを考慮に入れることができる。
【0049】
本発明の、3−デオキシぺガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種との組合せは、アルコールの摂取を低減するための、健康に有害なアルコール摂取およびアルコール依存の治療において使用することができる。
【0050】
本発明による、3−デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種との組合せは、特にアルコールの摂取を低減するための、アルコール乱用および/またはアルコール依存の治療を目的とする、薬剤の製造に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】処置後の最初の4時間およびその後の8時間における雌AAラットのエタノール嗜好を示す図である。
【図2】処置後4時間および8時間における、雌AAラットのエタノール摂取を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール乱用および/またはアルコール依存の治療用薬剤の製造のための、デオキシぺガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種と、メカミルアミンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種とからなる、作用物質組合せ。
【請求項2】
デオキシペガニンの薬学的に許容できる誘導体は、塩酸デオキシぺガニン、7−ブロモデオキシペガニン、7−ブロモ−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、7−クロロ−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、7−フルオロ−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニン、および7−ヨード−6−ヒドロキシ−5−メトキシデオキシペガニンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の作用物質組合せ。
【請求項3】
メカミルアミンの薬学的に許容できる誘導体は、メカミルアミンとハロゲン酸または酒石酸、コハク酸、マレイン酸、その他などの単純有機酸との塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の作用物質組合せ。
【請求項4】
メカミルアミンは、それの2種類の立体異性体のラセミ混合物の形態、またはそれの2種類の立体異性体の一方の形態で存在することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに一項に記載の作用物質組合せ。
【請求項5】
薬剤は、デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種とメカミルアミンまたはそれの薬学的に許容できる誘導体の1種に対して、組合せ投与形式の形態であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の作用物質組合せ。
【請求項6】
薬剤は、デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種およびメカミルアミンまたはそれの薬学的に許容できる誘導体の1種に対して、個別の投与形式の形態であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の作用物質組合せ。
【請求項7】
薬剤は、経口的または非経口的、好ましくは経皮的に投与される投与形式の形態であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の作用物質組合せ。
【請求項8】
デポー効果を有する薬剤の形態であることを特徴とする、請求項7に記載の作用物質の組合せ。
【請求項9】
経口的に投与する投与形式の場合に、デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種の日用量は、50〜750mg、好ましくは100〜400mgであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の作用物質の組合せ。
【請求項10】
経皮的に投与する投与形式の場合に、デオキシペガニンまたはその薬学的に許容できる誘導体の1種の日用量は、50〜250mgであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の作用物質の組合せ。
【請求項11】
経口的に投与する投与形式の場合に、メカミルアミンの日用量が2.5〜20mg、好ましくは2.5〜7.5mgである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の作用物質の組合せ。
【請求項12】
遅延放出による投与形式の場合に、メカミルアミンの日用量が0.5〜10mgである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の作用物質の組合せ。
【請求項13】
アルコール乱用および/またはアルコール依存を治療するための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の作用物質組合せの使用。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の作用物質組合せを投与することを特徴とする、アルコール乱用および/またはアルコール依存の治療方法。
【請求項15】
作用物質組合せの投与に先行して、メカミルアミンによる事前処置を行うことを特徴とする、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2006−524647(P2006−524647A)
【公表日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505158(P2006−505158)
【出願日】平成16年4月16日(2004.4.16)
【国際出願番号】PCT/EP2004/004033
【国際公開番号】WO2004/096200
【国際公開日】平成16年11月11日(2004.11.11)
【出願人】(502233805)ハーエフ・アールツナイミテルフォルシュング・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (6)
【Fターム(参考)】