説明

アルコール検出装置、および駆動システム

【課題】簡単な構成で、測定対象者の本人認証処理とアルコール検出処理とを確実に実施可能なアルコール検出装置、および駆動システムを提供する。
【解決手段】アルコール検出装置1は、測定対象者の指が接触する接触領域13を有する基部10と、接触領域13内に設けられ、測定対象者の静脈パターンを取得する静脈検出部20と、接触領域13内に設けられ、測定対象者の指から発散された皮膚ガス中のアルコール濃度を検出するアルコール検出部30と、を具備し、アルコール検出部30は、指が接触することで、閉空間を構成する凹溝と、凹溝内に設けられ、複数の金属突起を有する突起群を有するセンサー基板と、センサー基板に向かって光を射出する光源部と、センサー基板で発生したラマン散乱光を検出する受光部と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールを検出するアルコール検出装置、およびアルコール検出装置を備えた駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両等の運転において、運転手の飲酒運転を防止するために、運転手が飲酒状態であるか否かを検出するアルコール検出装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の飲酒運転防止装置では、車両のシフトレバーにアルコールの血中濃度を測定するアルコール検出部が設けられており、アルコールが検出されると、車両を走行不能状態にし、アルコールが検出されない場合に走行可能状態にする。
【0003】
ところで、上記特許文献1のようなアルコール検出装置では、例えばシフトレバーを運転手とは異なる第三者が操作することで、運転手が飲酒状態であっても走行可能状態にされるおそれがある。これに対して、運転手の本人認証とアルコールの検出との双方を実施するアルコール検出装置が知られている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0004】
特許文献2には、アルコール濃度検出手段を備えた自動車用キーが記載されている。この自動車用キーは、第一面側に指紋検出手段が設けられ、第一面とは反対側の第二面側にアルコール濃度検出手段が設けられている。そして、この自動車用キーでは、指紋検出手段により、運転手自身であることが認証され、かつ、アルコール濃度検出手段により、アルコール濃度が基準値以下であることが検出されると、自動車用キーが使用可能な状態となる。
【0005】
また、特許文献3には、自動車の運転席を監視する監視カメラと、運転手のアルコール濃度を検出するガス検知部とが設けられた飲酒運転防止装置が開示されている。この飲酒運転防止装置では、運転席に運転手が着座する毎に、着座した者がガス検知部の検知器を口に銜えて息をふきかけたかどうかを監視カメラにより監視することで、運転手の本人認証とアルコール検出とを実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−201661号公報
【特許文献2】特開2004−169524号公報
【特許文献3】特開2008−230380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記特許文献2に記載の自動車用キーでは、第一面に指紋検出手段が設けられ、第一面とは異なる第二面にアルコール濃度検出手段が設けられている。このため、例えば第一面の指紋認証手段により運転手の本人認証を行い、第二面のアルコール検出部により第三者のアルコール検出を行う等、運転手自身のアルコール検出が回避され、第三者によるなりすましが行われる可能性があるという課題がある。
また、特許文献2のシステムでは、画像により本人認証を行うため、処理が複雑であり、本人認証の精度も低下してしまい、さらに、システム構成も複雑化するという課題がある。
【0008】
本発明は上述のような課題に鑑みて、簡単な構成で、測定対象者の本人認証処理とアルコール検出処理とを確実に実施可能なアルコール検出装置、および駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のアルコール検出装置は、測定対象者の皮膚が接触する接触領域を有する基部と、前記接触領域内に設けられ、前記測定対象者を特定する識別情報を取得する本人認証部と、前記接触領域内に設けられ、前記測定対象者の皮膚から出る皮膚ガス中のアルコール濃度を検出するアルコール検出部と、を具備し、前記アルコール検出部は、前記測定対象者の皮膚が接触することで、閉空間を構成する閉空間構成部と、前記閉空間内に設けられ、複数の金属突起を有する突起群と、前記突起群に向かって光を射出する入射光学系と、前記突起群で発生したラマン散乱光を検出する受光部と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
一般に、アルコール分子にレーザー光のような単色光を入射させると、アルコール分子からの特定スペクトル(指紋スペクトル)の情報を含むラマン散乱光が発散される。しかしながら、このようなラマン散乱光は微弱であり、十分な光量を得ることが困難となる。これに対して、本願発明では、アルコール検出部として、複数の金属突起により構成された突起群に光を入射することで形成される増強電場を用いる。このようなアルコール検出部では、増強電波に入り込んだラマン散乱光の強度が大きくなるため、そのラマン散乱光を受光して強度を検出することで、精度よくアルコール濃度を検出することができる。また、このようなアルコール検出部は、例えば従来のクロマトグラフィー等によりアルコールを検出する構成に比べて小型化が可能であるため、基部の接触領域が小さい場合でも、十分に配置することが可能となり、装置の小型化を促進することができる。また、特許文献1から特許文献3に用いられている半導体センサーでは、その原理上アルコールのみならず、他の有機物を誤検出してしまう可能性がある。これに対して、本発明のアルコール検出部で用いるラマン散乱分光分析によればアルコール、更には本当に特定したい酒気成分であるエタノールからの特定スペクトルを検出することで、誤検出の可能性はなくなる。また、一般的に半導体センサーは検出感度がppmオーダーであるのに対し、本発明のようなラマン散乱光分析を用いたアルコール検出部では、ppb以下のオーダーでの検出が可能となるため、より小型で短時間での計測が可能となる装置化を促進することができる。
そして、本発明では、基部の接触領域内に本人認証部と上述のようなアルコール検出部とが設けられている。すなわち、接触領域内に接触した皮膚により、測定対象者の血中アルコール濃度に対応したラマン散乱光の強度の検出と、測定対象者の識別情報の取得とを同時に行うことが可能となる。このため、例えば、運転手が本人認証部に接触し、第三者がアルコール検出部に接触するといった、本人のなりすまし行為が不可能となり、ラマン散乱光の強度に基づいて、確実に測定対象者本人のアルコール濃度を検出することが可能となる。また、基部の接触領域内に本人認証部とアルコール検出部とを設ける簡単な構成であるため、構成が複雑化せず、容易に本人認証およびアルコール検出の処理を実施することができ、装置設置性や意匠性の向上に寄与できる。
【0011】
本発明のアルコール検出装置では、前記測定対象者の指又は掌が前記接触領域に接触した状態で、前記指又は前記掌を位置決めする位置決め部を備えたことが好ましい。
【0012】
この発明では、測定対象者の指又は掌を、アルコール濃度を検出するための検出部位とし、指や掌を位置決めする位置決め部が設けられている。
このような構成では、位置決め部に測定対象者の指又は掌を位置決めすることで、指や掌の測定対象部位を確実に接触領域に接触させることができ、誤検出や検出ミスを防止することができる。
【0013】
ここで、前記位置決め部は、前記指又は前記掌を固定する構成としてもよい。
この発明では、位置決め部により指や掌が固定されるため、例えば本人認証部による識別情報の取得中、およびアルコール検出部によるアルコール濃度の検出中に、指や掌の測定部位が接触領域から離れる不都合を回避でき、確実に測定対象者の識別情報の取得およびアルコール濃度に対応したラマン散乱光の強度の検出を実施することができる。
【0014】
本発明のアルコール検出装置では、前記本人認証部は、前記識別情報として、前記測定対象者の静脈パターンを取得することが好ましい。
【0015】
皮膚に接触することで測定対象者の識別情報を取得する本人認証部としては、例えば測定対象者の指紋を検出する指紋取得装置などが挙げられる。しかしながら、指紋取得装置において測定対象者を確実に識別するためには、指先端部を動かして、指先端部の広範囲をセンサー面に接触させる必要があり、検出方法が煩雑であるという問題がある。また、指紋検出装置では、例えばゼラチン等により指紋をコピーすることで、第三者が本来の測定対象者(例えば運転手)になりすますことも可能であり、確実に測定対象者自身の識別情報を得られるものではない。
これに対して、本発明では、測定対象者の静脈パターンを識別情報として取得する。このような静脈パターンの取得としては、例えば、指に対して近赤外光を照射し、その反射光を検出して静脈パターンを取得する。この場合、上述のような指紋検出装置のように、測定対象者がセンサー面に対して、指を動かして広範囲部分を密着させる必要がなく、容易に測定対象者の識別情報である静脈パターンを取得できる。
また、上述のような指紋検出では、第三者による、なりすましが可能であるが、静脈パターンをコピーすることは困難であり、なりすまし等の不正を確実に防止することができる。
【0016】
本発明のアルコール検出装置では、前記閉空間構成部は、前記測定対象の皮膚が接触することで前記閉空間を密閉する密閉部材を備えることが好ましい。
【0017】
この発明では、閉空間構成部は、皮膚と接触することで、閉空間を密閉する密閉部材を備えている。したがって、皮膚から出た皮膚ガスを外部に逃がさず密封でき、皮膚ガスに含まれるアルコール分子も外部に漏れないため、アルコール濃度の検出精度を向上させることができる。
【0018】
本発明のアルコール検出装置では、前記本人認証部は、前記閉空間内に設けられたことが好ましい。
【0019】
この発明では、測定対象者の皮膚と閉空間構成部とにより形成される閉空間内に本人認証部が設けられている。このような構成では、本人認証部とアルコール検出部との配置位置をより近接させることができ、より確実に、第三者による、なりすまし等の不正を防止することができる。
【0020】
本発明の駆動システムは、上述したようなアルコール検出装置と、駆動部と、前記駆動部の駆動を制御する制御部と、を具備した駆動システムであって、前記制御部は、基準識別情報が記憶された記憶部と、前記本人認証部により取得された前記識別情報と、前記基準識別情報との一致状態を判断する識別一致判断手段と、前記アルコール検出部で検出されたラマン散乱光の強度から前記測定対象者の血中アルコール濃度を検出するアルコール濃度検出手段と、前記識別一致判断手段により前記識別情報と前記基準識別情報とが一致したと判断され、かつ、前記アルコール濃度検出手段により検出されたアルコール濃度が規定値未満である場合に、前記駆動部を駆動させる駆動制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0021】
ここで、駆動システムとしては、測定対象者である運転手の操作により、駆動部を駆動させるいかなるシステムにも適用でき、特に、例えば車両等の乗り物や、ワークに対して加工を行う製造機械等、飲酒状態で操作・運転することで危険を伴う駆動システムに対してより良好な効果を奏する。
この発明では、識別一致判断手段により、アルコール検出装置の本人認証部により取得された測定対象者の識別情報が、予め記憶部に記憶された基準識別情報であるか否かを判断する。また、アルコール濃度検出手段は、アルコール検出部により検出されたラマン散乱光の強度から、測定対象者の実際の血中アルコール濃度を数値化して検出することができる。そして、飲酒判定手段は、この数値化されたアルコール濃度と、予め設定された規定値とに基づいて、測定対象者が飲酒状態であるか否かを判定する。
そして、駆動制御手段は、識別一致判断手段により、識別情報および基準識別情報が一致すると判断され、かつ、飲酒判定手段により飲酒状態ではないと判定された場合に、駆動部を駆動させる。このため、測定対象者が、当該駆動システムに予め登録された正規の運転手ではない場合には、駆動制御手段は、駆動部を駆動させないので、駆動システムの不正使用や盗難等の犯罪を防止することができる。また、測定対象者が正規の運転手であっても、飲酒状態であると判定された場合には、駆動制御手段は、駆動部を駆動させないので、飲酒運転等を防止することができる。
【0022】
本発明の駆動システムでは、前記駆動部は、車両を駆動させる駆動力を発生させるエンジンまたはモーターであり、前記アルコール検出装置は、前記車両を操作するためのシフトレバーに設けられたことが好ましい。
【0023】
この発明では、駆動システムとして、エンジンまたはモーターを駆動部とした車両に適用し、アルコール検出装置は、車両を操作するためのシフトレバーに設けられている。シフトレバーは、車両を操作する上で、運転手が必ず操作する場所であり、このようなシフトレバーに本発明のアルコール検出装置を組み込むことで効果的に飲酒運転を防止することができる。
【0024】
本発明の駆動システムでは、前記駆動部は、車両を駆動させる駆動力を発生させるエンジンまたはモーターであり、前記アルコール検出装置は、前記車両のエンジンまたはモーターを始動させるための車両用キーに設けられたことが好ましい。
【0025】
この発明では、駆動システムとして、エンジンまたはモーターを駆動部とした車両に適用し、アルコール検出装置は、エンジンを始動するための車両用キーに設けられている。車両のエンジンを始動させるためには、車両用キーにより、エンジンスターターのロックを解除してエンジンまたはモーターを始動させる必要がある。本発明では、このような車両用キーにアルコール検出装置を設け、アルコールが検出された場合、および予め設定された基準認証情報と、本人認証部により取得された認証情報とが異なる場合に、スターターまたはモーターのロックを解除しない構成とすることで、効果的に飲酒運転を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る第一実施形態のアルコール検出装置を示す概略図である。
【図2】第一実施形態の静脈検出部(本人認証部)の概略構成を示す断面図である。
【図3】第一実施形態のアルコール検出部の概略構成を示す断面図である。
【図4】図3のアルコール検出部の一部を拡大した拡大図である。
【図5】第二実施形態のアルコール検出装置を示す概略図である。
【図6】第三実施形態のアルコール検出装置を示す概略図である。
【図7】第四実施形態の安全航法支援システム(駆動システム)の概略構成を示す図である。
【図8】第四実施形態の安全航法支援システムの動作を示すフローチャートである。
【図9】第四実施形態の安全航法支援システムの概略構成を示す図である。
【図10】他の実施形態におけるアルコール検出装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第一実施形態]
以下、本発明に係る第一実施形態のアルコール検出装置について、図面に基づいて説明する。
〔1.アルコール検出装置の全体構成〕
図1は、本発明に係る第一実施形態のアルコール検出装置を示す概略図である。
このアルコール検出装置1は、基部10と、基部10の第一面11に設けられた静脈検出部20(本人認証部)と、基部10の第一面11に設けられたアルコール検出部30と、を備えたセンサーチップである。このアルコール検出装置1は、静脈検出部20により静脈パターンを検出し、アルコール検出部30によりアルコール濃度(アルコール濃度に対応したラマン散乱光の強度)を検出して、これらの検出した静脈パターンおよびアルコール濃度を出力する装置である。
【0028】
〔2.基部の構成〕
基部10は、第一面11側に、本発明の位置決め部を構成する位置決め凹部12を備えた基板である。位置決め凹部12は、図1に示すように、例えば一般的な大人の人差し指に対応した幅寸法を有して形成されている。これにより、測定対象者は、容易に人差し指を位置決め凹部12に位置決め可能となる。
また、位置決め凹部12の底面12Aのうち、測定対象者が位置決め凹部12に対して指を載置した際に、指の腹部分が接触する領域が、本発明の接触領域13となる。そして、この接触領域13内に、本発明の本人認証部を構成する静脈検出部20と、アルコール検出部30と、が設けられている。
【0029】
〔3.静脈検出部の構成〕
静脈検出部20は、位置決め凹部12に載置された指の静脈パターンを撮像して取得し、測定対象者の識別情報として取得、出力するセンサーである。なお、この静脈検出部20としては、周知の技術を用いることができ、例えば、特開2009−89727号公報に示されるような静脈画像入力装置を用いることができる。
図2は、本実施形態の静脈検出部20の一例を示す概略断面図である。
静脈検出部20は、図2に示すように、位置決め凹部12の底面12Aに設けられた、センサー開口部21と、センサー開口部21の開口を閉塞するガラス基板22と、センサー開口部21内に設けられ、ガラス基板22側に赤外光を射出する赤外光源23と、反射された赤外光を撮像する撮像部24とを備えている。また、撮像部24には、例えば外光など、赤外光源23から射出された近赤外光以外の光を吸収、または反射するフィルター241が設けられている。
【0030】
そして、この静脈検出部20では、赤外光源23からガラス基板22側に向かって近赤外光(例えば波長760nm)を射出する。射出された近赤外光は、可視光に比べて人体の皮膚を透過しやすく、一方、静脈内を流れる血液中のヘモグロビンに吸収される性質を持つ。したがって、撮像部24により反射された近赤外光を撮像すると、静脈部分のみが黒く映り、静脈パターンとして取得することができる。
また、このような静脈パターンは、人によってそれぞれ異なるパターン形状となり、測定対象者を識別する情報として、高い信頼性を有する。また、静脈パターンは、第三者により容易にコピーすることが困難であるため、なりすまし等の不正が不可能となる。
【0031】
なお、本実施形態では、近赤外光の照射により静脈パターンを撮像する静脈検出部20を例示したが、これに限定されるものではなく、例えば、超音波センサー等を用い、静脈で反射された超音波を検出することで静脈パターンを取得する構成などとしてもよい。
【0032】
〔4.アルコール検出部の構成〕
図3は、アルコール検出部30の概略構成を示す断面図であり、図4は、アルコール検出部30の一部を拡大した拡大図である。
アルコール検出部30は、図3に示すように、凹溝31(閉空間構成部)と、凹溝31の内部に設けられたセンサー基板32と、センサー基板32に対してレーザー光を射出する光源部33(入射光学系)と、センサー基板32で発生した散乱光を受光する受光部34と、を備えている。
【0033】
凹溝31は、例えばエッチング等により、位置決め凹部12の底面12Aをさらに掘り下げ形成された溝であり、この溝開口縁に沿って環状のパッキン部材31A(密閉部材)が配設されている。この凹溝31は、測定対象者の指で凹溝31の溝開口縁の全周を閉塞することで、凹溝31の内部及び指表面により閉空間を形成する。この時、溝開口全周に亘って設けられたパッキン部材31Aと指とが密着することで、閉空間は密閉空間となる。したがって、指表面から発散された皮膚ガスは、この密閉空間に密封されることとなる。
【0034】
光源部33は、凹溝31の一側面に設けられており、単一波長で、かつ直線偏光である光をセンサー基板32に対して射出する。なお、本実施形態では、光源部33は、面発光レーザー媒体を有し、単一波長、かつ直線偏光であるレーザー光を射出する。
また、光源部33から発振させるレーザー光の波長としては、後述する金属微粒子322Bの種類により適宜設定することができ、例えば金属微粒子322Bが金(Au)である場合、レーザー光の波長としては、例えば633nmに設定することができ、金属微粒子322Bが銀(Ag)である場合は、レーザー光の波長として、例えば514nmに設定することができる。また、検出対象であるアルコール分子以外の不純物の蛍光を抑制するために、レーザー光の波長を例えば780nm程度に設定してもよい。
受光部34は、凹溝31の側面のうち、光源部33が設けられた面と対向する側面に設けられ、受光した光の光量に応じた電気信号を出力する。
【0035】
センサー基板32は、図3に示すように、凹溝31の開口部に対向する表面側に、例えば、複数のスリット溝321が形成された基板である。ここで、これらのスリット溝321は、例えば300nmからレーザー光の発振波長までの間隔に設定されている。また、センサー基板32は、一辺が例えば5mm程度のサイズに形成されている。
このセンサー基板32のスリット溝321の一部を更に拡大すると、図4に示すように、センサー基板32の表面には、複数の突起322(金属突起)により構成された金属ナノ構造の突起群323が形成されている。これらの突起322は、センサー基板32の表面に設けられた凸部322A上に金属微粒子322B(例えば、金、銀、銅、アルミニウム、パラジウム、及びプラチナ等)をコーティングすることで構成されている。また、これらの突起322における金属微粒子322B間のピッチは、1nmからスリット溝321の格子ピッチの半分程度までのサイズで適宜設定されている。
【0036】
次に、アルコール検出部30のアルコール検出原理について説明する。
このアルコール検出部30は、局在プラズモン共鳴を利用したアルコール検出センサーであり、以下に示す原理によりアルコール分子を検出する。
すなわち、アルコール検出部30に設けられる各金属微粒子322Bは、光源部33から射出されるレーザー光の波長よりも小さく形成されている。このような金属微粒子322Bに対してレーザー光を照射すると、金属微粒子322Bの表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が金属微粒子322B内に励起され、図4に示すように、金属微粒子322B間に入射したレーザー光の電場よりも強い増強電場324が形成される。この現象は、レーザー光の波長よりも小さな金属ナノ構造体に特有の現象である。
【0037】
また、本実施形態では、センサー基板32に複数のスリット溝321が形成され、これらのスリット溝321の溝幅は、レーザー発振波長未満に形成されている。したがって、これらのスリット溝321間、およびスリット溝321内の互いに対向する面に設けられた金属突起322B間においても増強電場が形成されることとなる。これにより、増強電場324が形成される領域が増大し、アルコール分子の検出精度をより向上させることが可能となる。
【0038】
また、金属微粒子322B間のギャップが小さく、突起322の高さが大きくなると、増強電場324はより強くなる。また、光源部33から入射されるレーザー光の強度が強ければ、さらに増強電場324は強くなる。ただし、金属微粒子322間のギャップが小さすぎると、ギャップ間にアルコール分子が入り込む確率も小さくなる。したがって、本実施形態では、金属微粒子322B間のギャップは、上述のように、1nmからスリット溝321の格子ピッチの半分程度までのサイズに形成されることが好ましい。また、突起322の高さが高い場合は、アルコール分子が増強電場324に入り込んだ後、増強電場から出るまでの時間が長くなるため、ラマン散乱光の強度も安定する。
また、スリット溝321間の互いに対向する面間にも突起322を形成する構成としてもよい。この場合、突起322の高さとしては、スリット溝321の幅寸法間で、互いに対向する突起322の金属微粒子322B間が、上述のようなギャップとなるように、適宜設定することで、より強い増強電場を形成することが可能となる。
【0039】
このようなアルコール検出部30では、増強電場324内に検出対象となるアルコール分子が入り込むと、アルコール分子の振動数の情報を含むラマン散乱光が生じる。また、そのラマン散乱光が増強電場324によって増強され、表面増強ラマン散乱光が生じる。したがって、アルコール分子が微量である場合でも、信号強度の強いラマン散乱光が得られ、検出感度を非常に高めることができる。
【0040】
また、受光部34には、図示は省略するが、アルコール分子によるラマン散乱光を透過させ、例えばレイリー散乱光などのその他の波長成分の光を遮断するフィルターが設けられている。これにより、受光部34は、フィルターを透過したラマン散乱光の光量を検出する。そのため、本来特定したい酒気成分であるエタノールからの特定スペクトルを検出することができるので、アルコール検出部30のガス成分を誤検出なく、エタノールと特定することができる。
【0041】
〔5.本実施形態の作用効果〕
上記第一実施形態のアルコール検出装置では、基部10の第一面11に位置決め凹部12が設けられ、その位置決め凹部12の底面12Aの接触領域13内に、本人認証部である静脈検出部20と、アルコール検出部30とが設けられている。
また、アルコール検出部30は、底面12Aに形成された凹溝31と、凹溝31内に設けられ、金属微粒子322Bが形成された突起322により構成された突起群323を備えたセンサー基板32と、センサー基板32に対してレーザー光を射出する光源部33と、突起群323で発生したラマン散乱光を受光する受光部34とを備えている。このようなアルコール検出部30は、皮膚ガス中のアルコール分子が微量である場合でも高感度、高精度に検出することが可能であり、小型のセンサーチップにより構成することができる。したがって、上記のように、測定対象者の指の腹部分が接触する接触領域13のような微小領域に対しても配設することができる。
【0042】
そして、前記接触領域13内に、上記のようなアルコール検出部30と静脈検出部20との双方が設けられているため、測定対象者は、アルコール検出部30によるアルコール濃度検出を実施する際に、必ず静脈検出部20にも接触することとなる。このため、アルコール検出装置1は、アルコール検出部30によるアルコール濃度検出と、静脈検出部20による静脈パターンの取得とが同時に行われることとなる。したがって、例えば測定対象者が静脈検出部20に接触して静脈パターンを取得させ、測定対象者以外の第三者がアルコール検出部30に接触してアルコール濃度検出を実施するといった、なりすまし等の不正を防ぐことができる。
【0043】
また、アルコール検出装置1では、基部10の第一面11に位置決め部である位置決め凹部12が設けられている。このため、測定対象者は、位置決め凹部12に沿って測定部位である指を載置することで、容易に測定部位をアルコール検出装置1に位置決めすることができ、正確な静脈パターン取得およびアルコール濃度検出を実施することができる。
【0044】
さらに、アルコール検出部30は、凹溝31の開口縁に沿って設けられたパッキン部材31Aを備えている。このため、測定対象者の指がパッキン部材31Aに密着することで凹溝31内が密閉空間となり、指から発散される皮膚ガスの流出を防ぐことができ、アルコール検出部30によるアルコール濃度検出の精度を向上させることができる。
【0045】
[第二実施形態]
次に、本発明に係る第二実施形態のアルコール検出装置について、図面に基づいて説明する。
図5は、第二実施形態のアルコール検出装置1Aの概略構成を示す図である。
上記第一実施形態のアルコール検出装置1では、位置決め部として第一面11に位置決め凹部12が形成される構成としたが、第二実施形態のアルコール検出装置1Aでは、図5に示すように、位置決め部は、位置決め凹部12と、位置決め凹部12の外周部に設けられたバンド12Bにより構成されている。
このバンド12Bとしては、例えばゴムバンド等、弾性を有するもので形成されていることが好ましく、位置決め凹部12に沿って載置された測定対象者の指を、静脈検出部20およびアルコール検出部30に向かって付勢する。
また、バンド12Bとしては、弾性を有するゴムバンドに限られず、例えばマジックテープ(登録商標)等の着脱部を備える構成としてもよい。この場合、位置決め凹部12に指を載置した後、バンド12Bで指を接触領域側に押圧するように締め付け、着脱部で固定する。
【0046】
本実施形態のアルコール検出装置1Aでは、位置決め凹部12に測定対象者の指を固定するためのバンド12Bが設けられている。このため、測定時に指を位置決め凹部12に載置した状態で固定することができる。これにより、静脈パターン取得時、およびアルコール濃度検出時に、静脈検出部20およびアルコール検出部30から指が離れることがなく、正確な静脈パターンの取得、アルコール濃度の検出を実施することができる。
【0047】
[第三実施形態]
次に、本発明に係る第三実施形態のアルコール検出装置について、図面に基づいて説明する。
図6は、第三実施形態のアルコール検出装置1Bの概略構成を示す図である。
【0048】
上記第一実施形態のアルコール検出装置1では、静脈検出部20は、位置決め凹部12に設けられたセンサー開口部21内に設けられたが、第三実施形態のアルコール検出装置1Bでは、アルコール検出部30の凹溝31内に設けられる。
すなわち、位置決め凹部12の底面12Aに形成された凹溝31は、第一実施形態よりも静脈検出部20側に拡がって形成されている。そして、この凹溝31の中心部から一方端側に、アルコール検出部30を構成するセンサー基板32、光源部33(図3参照)、および受光部34(図3参照)が設けられ、他方端側に静脈検出部20を構成する赤外光源23(図2参照)、撮像部24が設けられている。
【0049】
このアルコール検出装置1Bでは、1つの凹溝31内にアルコール検出部30および静脈検出部20が設けられているので、これらのアルコール検出部30および静脈検出部20をより近接させて配設することができる。
つまり、上記第一実施形態のようなアルコール検出装置1では、静脈検出部20のセンサー開口部21と、アルコール検出部30の凹溝31との間に隔壁が設けられることとなり、この隔壁の寸法分だけ静脈検出部20とアルコール検出部30との距離が離れることとなる。これに対して、本実施形態のように、1つの凹溝31内にアルコール検出部30および静脈検出部20の双方を設けることで、隔壁が設けられない分、近接して配設することができ、アルコール検出装置1Bのさらなる小型化を促進できる。
また、アルコール検出部30および静脈検出部20がより近接して配置されるため、なりすまし等の不正をより確実に防止することができる。
【0050】
[第四実施形態]
次に、本発明に係る第四実施形態について、図面に基づいて説明する。
第四実施形態では、上述した第一から第三実施形態のアルコール検出装置1,1A,1Bを備えた電子駆動システムの一例である車両の安全航法支援システムについて説明する。
【0051】
〔安全航法支援システムの構成〕
図7は、第四実施形態の安全航法支援システム(駆動システム)の概略構成を示す図である。
第四実施形態の安全航法支援システム100は、車両(例えば自動車)の運転において、運転手の飲酒状態を判断して、飲酒状態である場合に車両の駆動を拒絶し、飲酒状態でない場合に車両の駆動を許可するシステムである。
この安全航法支援システム100は、図7に示すように、上述したアルコール検出装置1が設けられたシフトレバー110と、車両を走行させるためのエンジン120(駆動部)と、エンジン120を駆動させるためのスターター回路130(本発明の電気駆動部およびスターターを構成)と、制御部140と、を備えている。
【0052】
シフトレバー110は、車両を走行させる際、エンジン120で発生する駆動力を車輪(図示略)等の駆動部に伝達させるためのギア群(図示略)を切り替えるための操作手段である。
そして、このシフトレバー110は、把持部111と、シフトロック解除ボタン112とを備えている。把持部111は、運転手がシフトレバー110を操作する際に把持される部分である。シフトロック解除ボタン112は、把持部111の一部から突出して設けられ、運転手により押し込まれることで、シフトレバー110の移動規制を解除する。例えば、シフトレバー110が「P(パーキング)」に位置している状態から、「D(ドライブ)」や「R(リバース)」、「N(ニュートラル)」等の他のポジションに移動させる際に、運転手は、シフトロック解除ボタン112を押し込み、シフトレバー110を移動させる。
【0053】
シフトロック解除ボタン112の突出先端面には、アルコール検出装置1が設けられている。ここで、アルコール検出装置1は、シフトロック解除ボタン112の突出先端面に埋め込み装着されていてもよく、アルコール検出装置1の基部10の第一面11がシフトロック解除ボタン112の突出先端面を構成するものであってもよい。
【0054】
エンジン120は、スターター回路130から供給された電力により始動し、駆動力を発生させる。エンジン120の駆動力は、上述したようにギア群を介して駆動部に伝達され車両を走行させる。
スターター回路130は、制御部140の指令によりエンジン120に電力を供給してエンジン120を始動させる。
【0055】
制御部140は、端子部141と、メモリー等の記憶回路により構成される記憶部142と、制御回路部143とを備えて構成されている。
端子部141は、アルコール検出装置1やスターター回路130等に接続され、アルコール検出装置1から入力された信号を制御回路部143に出力し、制御回路部143から入力されたエンジン始動指令信号をスターター回路130に出力する。
【0056】
記憶部142は、制御回路部143で処理される各種プログラムや、各種処理に用いられるデータが記憶される。記憶部142に記憶されるデータとしては、運転手を特定するための基準静脈パターン(基準識別情報)や、アルコール検出部30から出力されるラマン散乱光の強度に対するアルコール濃度を記録したアルコール濃度検出データ等が記憶されている。
【0057】
制御回路部143は、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算回路により構成される。この制御回路部143は、車両の駆動を制御するOS(Operating System)上で、記憶部142から読み出した各種プログラムを展開して処理を実施することで、図7に示すように、識別一致判断手段151、アルコール濃度検出手段152、飲酒判定手段153、および駆動制御手段154として機能する。
【0058】
識別一致判断手段151は、アルコール検出装置1の静脈検出部20から入力された運転手(測定対象者)の静脈パターンと、記憶部142に予め記憶されている運転手の基準静脈パターンとを比較し、一致するか否かを判断する。
この静脈パターンおよび基準静脈パターンの一致判断としては、例えば静脈パターンの血管屈折部を特徴点として検出し、これらの特徴点間の距離、角度等を比較することで一致状態を判断する。
【0059】
アルコール濃度検出手段152は、アルコール検出装置1のアルコール検出部30から入力されたラマン散乱光の強度と、記憶部142に記憶されたアルコール濃度検出データとに基づいて、運転手の血中アルコール濃度を検出する。
すなわち、アルコール濃度検出手段152は、記憶部142からアルコール濃度検出データを読み込み、このアルコール濃度検出データから、アルコール検出部30で検出されたラマン散乱光の強度に対応したアルコール濃度を取得する。
【0060】
飲酒判定手段153は、アルコール濃度検出手段152により取得されたアルコール濃度が、予め設定された規定値未満であるか否かを判断する。この規定値としては、例えば法定により酒気帯運転とされる血中アルコール濃度である0.3(mg/ml)を設定することができる。
【0061】
駆動制御手段154は、スターター回路130を制御して、エンジン120を始動させる制御を実施する。
具体的には、駆動制御手段154は、識別一致判断手段151により静脈パターンと基準静脈パターンとが一致すると判断され、かつ飲酒判定手段153により、アルコール濃度が規定値未満であると判断されると、スターター回路130に対してエンジン始動指令信号を出力する。
また、駆動制御手段154は、識別一致判断手段151により、静脈パターンと基準静脈パターンとが一致しない場合に、例えば別途設けられたスピーカーや表示部を制御して、運転手の静脈パターンが登録されたパターンとは異なる旨を警告させる処理をしてもよい。同様に、駆動制御手段154は、飲酒判定手段153により、アルコール濃度が規定値以上であると判断された場合に、例えば別途設けられたスピーカーや表示部を制御して、飲酒状態であるため駆動不可能である旨を警告させる処理をしてもよい。
【0062】
〔安全航法支援システムの動作〕
次に、上記のような安全航法支援システムの動作について、図面に基づいて説明する。
図8は、第四実施形態の安全航法支援システムの動作を示すフローチャートである。
【0063】
本実施形態の安全航法支援システムを備えた車両を駆動させるためには、運転席に着座した運転手は、まず、シフトレバー110の把持部111を把持し、シフトロック解除ボタン112に設けられたアルコール検出装置1の位置決め凹部12に指を添える。
これにより、アルコール検出装置1は、運転手の指から、静脈パターンを取得し、かつ皮膚ガスに含まれるアルコール分子に基づいたラマン散乱光の強度を取得する(ステップS1)。
【0064】
次に、制御部140の識別一致判断手段151は、記憶部142に記憶されている運転手の基準静脈パターンを読み込み、ステップS1で取得された運転手の静脈パターンと比較して、一致するか否かを判断する(ステップS2)。
【0065】
このステップS2において、識別一致判断手段151により、静脈パターンが基準静脈パターンとは異なると判断された場合、駆動制御手段154は、例えばスピーカーや表示部等の報知手段に、登録された運転手ではない旨を知らせる警告を表示させ、エンジン120の始動は行わない(ステップS3)。
【0066】
一方、ステップS2において、識別一致判断手段151により、静脈パターンが基準静脈パターンと一致すると判断された場合、制御部140のアルコール濃度検出手段152は、記憶部142からアルコール濃度検出データを読み込み、ステップS1により取得されたラマン散乱光の強度に対応したアルコール濃度を取得する(ステップS4)。
そして、飲酒判定手段153は、ステップS4で取得されたアルコール濃度が規定値未満であるか否かを判断する(ステップS5)。
【0067】
このステップS5において、アルコール濃度が規定値以上であると判断された場合、ステップS3と同様の処理を実施する。この場合、駆動制御手段154は、例えばスピーカーや表示部等の報知手段に、アルコールが検出されたためエンジンを始動できない旨を知らせる警告を表示させる。また、駆動制御手段154は、エンジン120の始動を実施させない。
【0068】
一方、ステップS5において、アルコール濃度が規定値未満であると判断された場合、駆動制御手段154は、スターター回路130に対してエンジン始動指令信号を出力し、エンジン120を始動させる(ステップS6)。
【0069】
〔本実施形態の作用効果〕
上述したような第四実施形態の安全航法支援システム100では、シフトレバー110のシフトロック解除ボタン112にアルコール検出装置1が組み込まれている。
このため、安全航法支援システム100では、運転手のシフトレバー操作時に、アルコール検出装置1の静脈検出部20による静脈パターンの取得、およびアルコール検出部30によるアルコール濃度検出(アルコール濃度に起因したラマン散乱光の強度検出)を同時に実施することができる。したがって、上記第一実施形態と同様に、運転手がなりすまし等の不正を行ってアルコール濃度検出を回避することができず、確実に運転手自身のアルコール濃度を検出することができる。
【0070】
また、安全航法支援システム100では、識別一致判断手段151によりアルコール検出装置1の静脈検出部20で取得した静脈パターンと、記憶部142に記憶されている基準静脈パターンとを比較して、静脈パターンが基準静脈パターンと一致するか否かを判断する。また、アルコール濃度検出手段152は、アルコール検出装置1のアルコール検出部30で取得したラマン散乱光の強度から血中アルコール濃度を検出し、飲酒判定手段153は、検出したアルコール濃度が規定値未満であるか否かを判定する。そして、駆動制御手段154は、識別一致判断手段151により、運転手の静脈パターンが登録された基準静脈パターンと一致し、かつ、飲酒判定手段153によりアルコール濃度が規定値未満であると判定された場合にのみ、スターター回路130にエンジン始動指令信号を出力し、エンジン120を始動させる。
上述したように、アルコール検出装置1では、運転手本人の静脈パターンとアルコール濃度を同時に取得でき、第三者がなりすましによる不正を防止できるので、本実施形態の安全航法支援システム100は、このようなアルコール検出装置1で取得した静脈パターンおよびアルコール濃度に基づいて、車両の駆動を制御することで、運転手の飲酒運転を確実に防止することができる。
また、運転手の本人認証を、アルコール検出装置1の静脈検出部20で取得した静脈パターンと、記憶部142に登録された基準静脈パターンとの比較により実施することで、運転手が登録された人物であるか否かを容易に、かつ確実に判別することができ、車両の盗難等の犯罪を未然に防ぐことができる。
【0071】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態について、図面に基づいて説明する。
第五実施形態は、上述した第一から第三実施形態のアルコール検出装置1,1A,1Bを備えた電子駆動システムの他の例である車両の安全航法支援システムである。すなわち、上記第四実施形態では、車両のシフトレバー110にアルコール検出装置1が設けられる構成を例示したが、第五実施形態の安全航法支援システムでは、車両を始動させるための車両用キーにアルコール検出装置1が設けられる。
図9は、第五実施形態の安全航法支援システム200の例を示す概略図である。
なお、上記第一から第五実施形態と同様の構成については、同符号を付し、その説明を省略または簡略する。
【0072】
〔安全航法支援システムの構成〕
第五実施形態の安全航法支援システム200は、図9に示すように、車両用キー210と、車両を走行させるためのエンジン120と、エンジン120を駆動させるためのスターター回路130(本発明の電気駆動部およびスターターを構成)と、制御部140と、を備えている。
【0073】
車両用キー210は、図9に示すように、把持部211と、キー挿入部212と、を備えている。
キー挿入部212は、車両の運転席近傍に設けられたキーシリンダー(図示略)に挿入することで、車両を始動させる。
把持部211は、キー挿入部212の一端側に設けられ、運転手により把持される部分である。そして、この把持部211の一側面には、アルコール検出装置1が設けられている。ここで、アルコール検出装置1は、把持部211の一側面に埋め込み装着されていてもよく、アルコール検出装置1の基部10が把持部211の一側面を構成するものであってもよい。
【0074】
また、把持部211の内部には、アルコール検出装置1の静脈検出部20により取得された静脈パターン、及びアルコール検出部30により取得されたラマン散乱光の強度を電波に変換して発信する発信部213が設けられている。
【0075】
エンジン120、及びスターター回路130の構成は、上記第四実施形態と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0076】
制御部140は、端子部141と、メモリー等の記憶回路により構成される記憶部142と、制御回路部143と、信号受信部144と、を備えて構成されている。
端子部141は、スターター回路130等に接続され、制御回路部143から入力されたエンジン始動指令信号をスターター回路130に出力する。
信号受信部144は、車両用キー210の把持部211に設けられた発信部213からの電波を受信する。そして、信号受信部144は、電波に含まれる情報、すなわち静脈パターンおよびアルコール濃度に基づいたラマン散乱光の強度をデコードして制御回路部143に出力する。
【0077】
記憶部142は、上記第四実施形態と同様、制御回路部143で処理される各種プログラムや、各種処理に用いられるデータが記憶される。
【0078】
制御回路部143は、上記第四実施形態と同様の構成を備えており、記憶部142から読み出した各種プログラムを展開して処理を実施することで、図9に示すように、識別一致判断手段151、アルコール濃度検出手段152、飲酒判定手段153、および駆動制御手段154として機能し、第四実施形態と略同様の処理を実施する。
ここで、駆動制御手段154は、識別一致判断手段151により静脈パターンと基準静脈パターンとが一致すると判断され、かつ飲酒判定手段153により、アルコール濃度が規定値未満であると判断され、さらに、キーシリンダーに車両用キー210のキー挿入部212が挿入されて所定角度回転させられると、スターター回路130に対してエンジン始動指令信号を出力する。
一方、駆動制御手段154は、識別一致判断手段151により静脈パターンと基準静脈パターンとが一致しないと判断された場合や、飲酒判定手段153によりアルコール濃度が規定値以上であると判定された場合、キーシリンダーに車両用キー210のキー挿入部212が挿入されて所定角度回転された場合でも、スターター回路130に対してエンジン始動指令信号を出力しない。
【0079】
〔本実施形態の作用効果〕
上述したような第五実施形態の安全航法支援システム200においても、第四実施形態と同様の効果を奏する。すなわち、安全航法支援システム200では、車両用キー210の把持部211を運転手が把持することで、アルコール検出装置1の静脈検出部20による静脈パターンの取得、およびアルコール検出部30によるアルコール濃度検出(アルコール濃度に起因したラマン散乱光の強度検出)を同時に実施することができる。したがって、上記第一実施形態と同様に、運転手がなりすまし等の不正によりアルコール検出を回避することができず、確実に運転手自身のアルコール濃度を検出することができる。
【0080】
また、安全航法支援システム200では、車両用キー210にアルコール検出装置1が設けられている。このような車両用キー210は、運転手が車両を運転する際に必ず携帯、操作する部材であるため、車両のエンジン120の始動前にアルコール検出を実施することができ、確実に飲酒運転を防止することができる。
【0081】
[他の実施形態]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0082】
例えば、上記第一から第三実施形態では、静脈検出部20およびアルコール検出部30がそれぞれ1つずつ設けられる構成を例示したが、図10に示すように、静脈検出部20が一対設けられ、アルコール検出部30がこれらの静脈検出部20の間に配設される構成としてもよい。
この場合、一対の静脈検出部20により得られる一対の静脈パターンにより、測定対象者の本人認証を実施する。このような構成では、一対の静脈検出部20により、それぞれ静脈パターンを取得する際に、必ずこれらの静脈検出部の間の配置されたアルコール検出部30の測定対象者の指が載置されることとなる。したがって、第三者によるなりすまし等の不正をより確実に防止することができ、かつ、アルコール検出部30に接触する部分のみを浮かせてアルコールの検出を回避しようとした不正をも防ぐことができる。
【0083】
また、アルコール検出部30において、測定対象者の指が確実にパッキン部材31Aに密着しているか否かを検出するセンサーを設けてもよい。
このようなセンサーとしては、例えば凹溝31内の圧力を検出する圧力検出センサーを用いることができる。測定対象者の指によりパッキン部材31Aが押圧され、押圧により凹溝31内の圧力が高くなったか否かを判断する。そして、圧力センサーにより圧力の変化がないと判断された場合は、アルコール濃度検出エラーを出力する。
このような構成を用いることで、例えば、アルコール検出部30の凹溝31内から皮膚ガスを流出させて、アルコール濃度を誤魔化そうとする不正等を防止でき、測定対象者のより正確なアルコール濃度を検出することができる。
【0084】
上記各実施形態において、アルコール検出装置1,1A、1Bは、本人認証部として、測定対象者の静脈パターンを検出する静脈検出部20を備える構成を例示したが、これに限らない。
本人認証部としては、例えば人の指の指紋を取得する指紋検出部であってもよい。ただし、このような指紋検出部による指紋検出では、指紋コピー等により第三者によるなりすましにより、測定対象者自身の識別情報を取得できない可能性もあり、不正に対してセキュリティーが十分ではない。したがって、本人認証部としては、上記各実施形態にて示すように、測定対象者の静脈パターンを取得する静脈検出部を設けることが好ましい。
【0085】
また、上記実施形態では、アルコール検出装置1,1A,1Bとして、測定対象者の指を測定部位とし、位置決め部として指の形状に応じて形成された位置決め凹部12を例示したがこれに限らない。
アルコール検出装置としては、人の皮膚ガスが検出される部位であれば特に限定されず、例えば掌、腕、足等、どのような測定部位に対して接触させるものであってもよい。これらのうちでも、指や掌は、手袋等を装着している状態を除けば、通常皮膚が露出している部分であり、測定対象者が容易に測定を実施できる場所であるので、特に好ましい。
【0086】
また、アルコール検出部30の閉空間構成部として、基部10に設けられた凹溝31を例示したがこれに限らない。例えば基部10上に、筒状の突出部が形成され、測定対象者の皮膚が接触することで筒内周側に閉空間が形成される構成としてもよい。
また、入射光学系として、凹溝31の側面に、レーザー光を射出する光源部33を直接設ける構成としたが、これに限定されず、凹溝31の側面に設けられた窓部から、センサー基板32に対してレーザー光を導く光学系であればよい。受光部34においても同様であり、凹溝31の側面に設けられた窓に入射したラマン散乱光を受光素子に導く光学系を備えるものであってもよい。
【0087】
さらに、第二実施形態において、固定部として、指を固定するためのバンド12Bを例示したが、例えばクリップ等により指を挟んで固定するものであってもよい。
【0088】
上記第四実施形態では、エンジン始動時に、シフトロック解除ボタン112に設けられたアルコール検出装置1を用いて本人認証及びアルコール検出を行い、アルコールが検出された場合や運転手の静脈パターンが予め登録された基準静脈パターンと異なる場合にエンジンを始動させない構成としたがこれに限らない。
例えば、アルコールが検出された場合や運転手の静脈パターンが予め登録された基準静脈パターンと異なる場合に、シフトロック解除ボタン112を押下しても、シフトレバーの移動を規制するロック機構が解除されずシフトレバー110を操作できない状態としてもよい。
【0089】
また、エンジン始動時に限られず、シフトレバー110を「P(パーキング)」から移動させる際に、毎回本人認証及びアルコール濃度検出を行ってもよい。この場合、本人認証において、運転手の静脈パターンと基準静脈パターンとが異なる場合、及び、アルコール濃度が規定値を超えている場合に、駆動制御手段154は、エンジン120を停止させる旨のエンジン停止指令信号を発信し、エンジン120を停止させる処理をしてもよい。
【0090】
また、第五実施形態では、キー挿入部212を車両のキーシリンダーに挿入して回転させることで車両のエンジン120を始動させる機械式キーを例示したが、これに限定されない。例えば、車両用キーが有するキーIDを、車両に設定された車両IDとの一致状態を検出してエンジン120を始動する、いわゆるイモビライザーにおいても適用することができ、この場合、車両IDの送信と同時にアルコール検出装置1による検出結果である静脈パターンやアルコール濃度を示すラマン散乱光の強度を発信する構成とすればよい。
【0091】
また、静脈パターンやアルコール濃度を示すラマン散乱光の強度の発信方法として、電波での送信に限られない。
例えば、キー挿入部212に、アルコール検出装置1と接続されたキー側端子部を設け、キーシリンダーに、キー挿入部が挿入された際に前記キー側端子部に接触するシリンダー側端子部を備える構成としてもよい。この場合、アルコール検出装置1で取得された静脈パターンおよびラマン散乱光の強度は、キー側端子部、シリンダー側端子部を介して、制御部140に入力される。
【0092】
さらに、安全航法支援システム200として、車両用キーから送信された静脈パターンおよびラマン散乱光の強度に基づいて、車両内に設けられた制御部140がエンジン120の駆動を制御する構成としたが、これに限定されない。
例えば、車両用キーは、アルコール検出装置1が設けられた把持部と、把持部に対して出没自在に設けられたキー挿入部と、キー挿入部を把持部から出没させるアクチュエーターと、アクチュエーターを制御する制御部と、を備える構成としてもよい。
この場合、制御部は、第四実施形態と同様に、端子部141と、メモリー等の記憶回路により構成される記憶部142と、制御回路部143と、を備える構成とすればよい。そして、制御回路部143の駆動制御手段154は、アルコール検出装置1で取得した静脈パターンおよびラマン散乱光の強度に基づいて、識別一致判断手段151により静脈パターンと基準静脈パターンとが一致すると判断され、かつ飲酒判定手段153により、アルコール濃度が規定値未満であると判断された場合にアクチュエーターを駆動させてキー挿入部を突出させる。一方、制御回路部143の駆動制御手段154は、上記条件を満たさない場合には、キー挿入部を突出させない。このような構成では、正規の運転手と異なる第三者が車両を操作しようとする場合、および、運転者が飲酒状態である場合では、キー挿入部が把持部内に没入したままの状態となるため、車両内に設けられたキーシリンダーにキー挿入部を挿入することができない。したがって、車両の盗難や不正使用、及び飲酒運転を防止することができる。
【0093】
また、上記第四および第五実施形態において、本発明の駆動部として、車両を駆動させる駆動力を発生させるエンジンを例示したが、これに限らない。例えば、電気自動車にあっては、本発明の駆動部はモーターであり、その際は駆動制御手段が直接モーター駆動制御手段に対して始動可否の指令信号を出力するようにすればよい。
さらに、本アルコール検出装置を運転用ハンドルやコンソール部に組み込んだり、運転用スタートスイッチ部に組み込んだりしても、同様の目的に対する作用効果を得ることができる。
さらには、第四および第五実施形態において、本発明の駆動システムとしての車両運転時の飲酒運転を防止する安全航法支援システム100,200を例示したが、車両としては、自動車、自動二輪、船舶、航空機等、あらゆる輸送機器に用いることができる。また、車両に限定されず、例えば工作機械等、飲酒状態で操作すると危険を伴うあらゆる機械(駆動システム)に対して装着することができる。
【0094】
以上、本発明を実施するための最良の構成について具体的に説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、かつ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、当業者が様々な変形および改良を加えることができるものである。
【符号の説明】
【0095】
1,1A,1B…アルコール検出装置、10…基部、11…第一面、12…位置決め凹部(位置決め部)、12B…位置決め部を構成するバンド、13…接触領域、20…静脈検出部(本人認証部)、30…アルコール検出部、31…凹溝(閉空間構成部)、31A…パッキン部材(密閉部材)、33…光源部(入射光学系)、34…受光部、100,200…安全航法支援システム(駆動システム)、110…シフトレバー、120…エンジン(駆動部)、142…記憶部、151…識別一致判断手段、152…アルコール濃度検出手段、154…駆動制御手段、210…車両用キー、322…突起(金属突起)、323…突起群。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者の皮膚が接触する接触領域を有する基部と、
前記接触領域内に設けられ、前記測定対象者を特定する識別情報を取得する本人認証部と、
前記接触領域内に設けられ、前記測定対象者の皮膚から出る皮膚ガス中のアルコール濃度を検出するアルコール検出部と、を具備し、
前記アルコール検出部は、
前記測定対象者の皮膚が接触することで、閉空間を構成する閉空間構成部と、
前記閉空間内に設けられ、複数の金属突起を有する突起群と、
前記突起群に向かって光を射出する入射光学系と、
前記突起群で発生したラマン散乱光を検出する受光部と、を備えた
ことを特徴としたアルコール検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコール検出装置において、
前記測定対象者の指又は掌が前記接触領域に接触した状態で、前記指又は前記掌を位置決めする位置決め部を備えた
ことを特徴としたアルコール検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載のアルコール検出装置において、
前記位置決め部は、前記指又は前記掌を固定する
ことを特徴としたアルコール検出装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載のアルコール検出装置において、
前記本人認証部は、前記識別情報として、前記測定対象者の静脈パターンを取得する
ことを特徴としたアルコール検出装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のアルコール検出装置において、
前記閉空間構成部は、前記測定対象の皮膚が接触することで前記閉空間を密閉する密閉部材を備える
ことを特徴としたアルコール検出装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のアルコール検出装置において、
前記本人認証部は、前記閉空間内に設けられた
ことを特徴としたアルコール検出装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載のアルコール検出装置と、
駆動部と、
前記駆動部の駆動を制御する制御部と、を具備した駆動システムであって、
前記制御部は、
基準識別情報が記憶された記憶部と、
前記本人認証部により取得された前記識別情報と、前記基準識別情報との一致状態を判断する識別一致判断手段と、
前記アルコール検出部で検出されたラマン散乱光の強度から前記測定対象者の血中アルコール濃度を検出するアルコール濃度検出手段と、
前記識別一致判断手段により前記識別情報と前記基準識別情報とが一致したと判断され、かつ、前記アルコール濃度検出手段により検出されたアルコール濃度が規定値未満である場合に、前記駆動部を駆動させる駆動制御手段と、を備えた
ことを特徴とした駆動システム。
【請求項8】
請求項7に記載の駆動システムにおいて、
前記駆動部は、車両を駆動させる駆動力を発生させるエンジンまたはモーターであり、
前記アルコール検出装置は、前記車両を操作するためのシフトレバーに設けられた
ことを特徴とした駆動システム。
【請求項9】
請求項7に記載の駆動システムにおいて、
前記駆動部は、車両を駆動させる駆動力を発生させるエンジンまたはモーターであり、
前記アルコール検出装置は、前記車両のエンジンまたはモーターを始動させるための車両用キーに設けられた
ことを特徴とした駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−198648(P2012−198648A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−61224(P2011−61224)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】