説明

アルコール消費の複合化した代謝産物の分析

少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化するための方法、システム、キットおよび使用が提供される。クレアチニンを含む試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化する方法が提供される。この方法は、少なくとも1つの所定量の内部標準を試料に加えるステップと、重水素化クレアチニンを試料に加えるステップと、少なくとも1つのエタノール代謝産物、試料中の所定量の少なくとも1つの内部標準、重水素化クレアチニンおよびクレアチニンを検出および測定するステップとを含む。さらに、この方法は、少なくとも1つの内部標準の測定値を用いて試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を定量化するステップと、重水素化クレアチニンの測定値を用いて試料中のクレアチニンの量を定量化するステップと、クレアチニンの測定値を用いて少なくとも1つの代謝産物の量を正規化するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2007年10月1日に出願された米国仮特許出願第60/976,539号の利益を主張し、この出願の内容は本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(分野)
本出願人の教示は、試料中のエタノール代謝産物を定量化および正規化する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(序論)
採取源(source)から得られる試料中の代謝産物を検出および定量化することにより、採取源中に存在する物質についての情報を得ることができる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(要旨)
本出願人の教示の一態様によれば、クレアチニンを含む試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化する方法が提供される。この方法は、所定量の少なくとも1つの内部標準を加えるステップと、重水素化クレアチニンを試料に加えるステップと、少なくとも1つのエタノール代謝産物、試料中の少なくとも1つの所定量の内部標準、重水素化クレアチニンおよびクレアチニンを検出および測定するステップとを含む。さらに、この方法は、少なくとも1つの内部標準の測定値を用いて試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を定量化するステップと、重水素化クレアチニンの測定値を用いて試料中のクレアチニンの量を定量化するステップと、クレアチニンの測定値を用いて少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を正規化するステップとを含む。
【0005】
別の態様では、質量分析計を用いて採取源中のエタノール代謝をモニターして採取源由来の試料を分析するためのシステムが提供される。試料は、採取源の身体状態の指標となることができるクレアチニンを含む。このシステムは、試料を少なくとも1回、所定量だけ自動的に希釈し、所定量の内部標準を少なくとも1つの希釈された試料に加え、重水素化クレアチニンを試料に加え、少なくとも1つのエタノール代謝産物、試料中の少なくとも1つの内部標準、重水素化クレアチニンおよびクレアチニンを検出および測定し、少なくとも1つの内部標準の測定値を用いて試料中の少なくとも1つの代謝産物の量を定量化し、重水素化クレアチニンの測定値を用いて試料中のクレアチニンの量を定量化し、およびクレアチニンの測定値を用いて少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を正規化するように構成された制御装置を備える。
【0006】
本出願人の教示の別の態様によれば、クレアチニンを含む試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化するためのキットが提供される。このキットは、以下のうち少なくとも1つを備える:試料、重水素化された内部標準、較正標準、品質管理チェック、取扱説明書およびそれらの組合せ。
【図面の簡単な説明】
【0007】
当業者には、下記の図面が例証目的のものにすぎないことは理解されよう。図面は、本出願人の教示の範囲をいかなる形でも制限しないことを意図したものである。類似した言及は、類似または対応する部分を指すことを意図したものである。
【図1】希釈した尿マトリックスの計算濃度を基準マトリックス中の試料の計算濃度と比較するグラフである。
【図2】6つの分析対象物の構造を示す図である。
【図3】自動較正溶液調製の前処理法の説明である。
【図4】自動較正溶液調製の前処理法の説明である。
【図5】デュアルカラム配管設備(dual column plumbing)の配置を模式的に示す図である。
【図6】デュアルカラム配管設備(dual column plumbing)の配置を模式的に示す図である。
【図7】10ポートバルブの配置を模式的に示す図である。
【図8】多様な国における標準飲酒量を示す一覧である。
【図9】多様な国における標準飲酒量を示す一覧である。
【図10】ビールおよび赤ワインの消費後の時間の経過に伴う代謝産物の生成を示すグラフである。
【図11】ブラジル産ラムの消費後の時間の経過に伴う代謝産物の生成を示すグラフである。
【図12】ポーランド産ラガービールの消費後の時間の経過に伴う代謝産物の生成を示すグラフである。
【図13】イタリア産赤ワインの消費後の時間の経過に伴う代謝産物の生成を示すグラフである。
【図14】尿体積および代謝産物の測定濃度が異なる場合のクレアチニンの変化の例を示すグラフである。
【図15】尿体積および代謝産物の測定濃度が異なる場合のクレアチニンの変化の例を示すグラフである。
【図16】尿体積および代謝産物の測定濃度が異なる場合のクレアチニンの変化の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(種々の実施形態の説明)
本出願人の教示の多様な実施形態によれば、クレアチニンを含む試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化する方法が提供される。この方法は、所定量の少なくとも1つの内部標準を試料に加えるステップと、重水素化クレアチニンを試料に加えるステップとを含むことができる。この方法は、少なくとも1つのエタノール代謝産物、試料中の少なくとも1つの内部標準、重水素化クレアチニンおよびクレアチニンを検出および測定するステップを含むことができる。この方法は、少なくとも1つの内部標準の測定値を用いて、試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を定量化するステップと、重水素化クレアチニンの測定値を用いて試料中のクレアチニンの量を定量化するステップとを含むことができる。この方法は、クレアチニンの測定値を用いて少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を正規化するステップを含むことができる。
【0009】
本出願人の教示の多様な実施形態によれば、試料は、哺乳動物などの採取源から得ることができる。例えば、哺乳動物は、ヒト、霊長動物または他の実験動物であってもよく、試料は、尿、唾液、乳汁、血液または他の生体液および組織であってもよい。乳汁、血液または他の生体液および組織などの試料は、本出願人の方法において使用する前に脂質およびタンパク質を除去するために前処理してもよい。
【0010】
本出願人の教示の多様な実施形態によれば、代謝産物は、エタノール代謝産物であってもよく、例えば、採取源中に存在するエタノールの指標となるものであってもよい。代謝産物は、採取源中に存在する物質が複合化した状態のものであってもよい。例えば、採取源(哺乳動物など)がエタノールを消費したとすると、代謝産物は、硫酸エチルおよび/またはエチルグルクロニドであってもよい。
【0011】
本出願人の教示の多様な実施形態によれば、出願人の教示の多様な実施形態において行われる検出および測定は、例えば、質量分析計(例えば、トリプル四重極(triple quadrupole)を備える質量分析計など)を使用して行うことができる。他の種類の質量分析計としては、多様な種類のイオントラップ、線形イオントラップ、飛行時間分析器、磁場型の装置が挙げられ、これらもすべて使用することができよう。
【0012】
本出願人の教示の多様な実施形態によれば、試料の成分は、試料の「濃さ」または濃度の結果としてさまざまな濃度で現れることがある。例えば、尿の濃さは、例えば、採取源の身体状態を反映することがある。例えば、この濃さは、採取源の身体活動量、水分消費量、塩摂取量、筋量または腎機能を反映することがある。試料中の特定の成分(クレアチニンまたはヒドロコルチゾンなど)は、採取源の身体状態の指標となることができる。試料は、尿、血液または血漿を含んでもよい。これらの成分を使用して、代謝産物の検出量を正規化できる。代謝産物の検出量を正規化することにより、代謝産物をより正確に定量化できる。
【0013】
本出願人の教示の多様な実施形態によれば、少なくとも1つの内部標準は、試料の分析の前に試料に加えることができる。内部標準は、関心成分の化学構造によく似た化学構造を有する公知の量の化学物質を含むことができる。内部標準の化学物質は、どのような検出様式を用いることによっても検出できる可能のある追加成分を含むことができる。例えば、構造体の少なくとも1つの水素原子を重水素原子と置き換えることができると考えられるが、重水素原子を用いると、質量分析により、よく似た化学物質とは別々に検出することが可能になる。好ましくは、複数の重水素原子を使用できる。内部標準である公知の量の化学物質の定量化を用いて、関心成分を同定および/または定量化できる。
【0014】
本出願人の教示の多様な実施形態によれば、内部標準は、例えば、HPLC前処理法として、手作業または自動で加えることができる。内部標準は希釈でき、例えば、内部標準は、例えばHPLC法により手作業または自動のいずれかで連続的に希釈できる。内部標準は、試料中の成分の化学構造によく似た化学構造を有する化学物質を含むことができる。例えば、この化学物質は、クレアチニン、ヒドロキシコルチゾン、硫酸エチルまたはエチルグルクロニドによく似た構造を有することができる。内部標準の化学物質は、同定、検出および/または定量化されるように改変できる。例えば、この方法と共に質量分析計を使用する場合、化学物質を重水素化してもよい。したがって、内部標準は、重水素化クレアチニン、重水素化ヒドロキシコルチゾン、重水素化エチルグルクロニドおよび/または重水素化硫酸エチルを含むことができる。
【0015】
出願人の教示の多様な実施形態による方法は、内部標準を加える前および/または後のいずれかで、試料の少なくとも1つの希釈または連続希釈を含むことができる。希釈は、手作業および/または自動で行うことができる。本出願人の教示の多様な実施形態によれば、この方法は自動化できる。例えば、尿試料の自動希釈および較正曲線試料セットの自動調製。
【0016】
出願人の教示の多様な実施形態による方法は、例えば、アルコール飲料として消費された、採取源(哺乳動物など)の体内のアルコールの時間およびレベルを予測するために使用できる。本出願人の教示の多様な実施形態によれば、この方法は、哺乳動物などの採取源の体内のアルコールをモニターするために使用できる。
【0017】
出願人の教示の多様な実施形態によれば、採取源中のエタノール代謝をモニターするためのシステムが提供される。このシステムは、採取源由来の試料を分析するための質量分析計の使用を含むことができる。試料は、採取源の身体状態の指標となるクレアチニンを含むことができる。このシステムは、試料を少なくとも1回、所定量だけ自動的に希釈するように構成された制御装置を備えることができる。この制御装置は、所定量の内部標準を少なくとも1つの希釈された試料に加えるように構成されていてもよく、重水素化クレアチニンを試料に加えるように構成されていてもよい。制御装置は、少なくとも1つのエタノール代謝産物、試料中の少なくとも1つの内部標準、重水素化クレアチニンおよびクレアチニンを検出および測定するように構成されていてもよい。制御装置は、少なくとも1つの内部標準の測定値を用いて、試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を定量化するように構成されていてもよい。制御装置は、重水素化クレアチニンの測定値を用いて試料中のクレアチニンの量を定量化するように構成されていてもよく、クレアチニンの測定値を用いて少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を正規化するように構成されていてもよい。
【0018】
出願人の教示の多様な実施形態によれば、クレアチニンを含む試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化するために部品のキットが提供されてもよい。このキットは、以下のうち少なくとも1つを備える:試料、重水素化された内部標準、較正標準、品質管理チェックおよびそれらの組合せ。典型的には、品質管理チェックは、特定のイオン数が得られるように、所定の低濃度、中濃度および高濃度の溶液を用いて作製できる。
【0019】
本出願人の教示の態様は、以下の実施例に照らせばさらに理解できるが、この実施例は、本出願人の教示の範囲をいかなる形でも制限しないものとして解釈されるべきである。
【実施例】
【0020】
(実施例1)
この実施例に用いられる方法により、6つの化学種が4分未満のうちに検出された:エチルアルコール消費による複合化した尿中代謝産物である(1)エチルグルクロニドおよび(2)硫酸エチル、ならびにそれらのd5−重水素化された内部標準、「尿の濃さ」の指標であるクレアチニン、および内部標準としてのd3−重水素化クレアチニン。これらの代謝産物の濃度を尿1L当たりクレアチニン1gに正規化した。
【0021】
例えば、較正溶液は、特注構成のShimadzu前処理プログラムを用いて、尿中または溶媒中で標準が1:1で混合されているストック溶液を連続的に希釈することにより、自動的に調製した。尿はエチルグルクロニドのシグナルの急上昇を抑制できるので、未希釈の尿中の標準溶液からは、溶媒のみの中のシグナルと比較しておよそ1/10〜1/15のシグナルが得られる。ところが、1:10希釈により、元のシグナルは回復される。この理由から、試料を希釈してマトリックス効果を低下させる必要があった。尿試料は、以下のように処理した:
図3および4に記載の要領で前処理プログラムを用いることにより人的過誤および可能性のある汚染を最低限に抑えながら、各尿試料(100μL)を、内部標準を含有する溶液(80%水+20%アセトニトリル)200μLおよびアセトニトリル700μLと混合した。図1は、1:10希釈によりマトリックス抑制が低下する(応答対濃度)ことを示すものである。マトリックス抑制が存在すると、希釈された尿マトリックスの計算濃度(ピンク)は、基準マトリックス(青)中の試料の計算濃度を下回ることになると考えられるが、この実験においてはこうした事実はなかったことから、用いられる希釈の程度は、分析において妥当である。
【0022】
以下の文献に従い、エチルグルクロニドおよび硫酸エチルの量をクレアチニンの量(100mg/dLまたは1,000mg/L)に調節した:「Forensic Confirmatory Analysis of Ethyl Sulphate − A New Marker for Alcohol Consumption − by Liquid Chromatography/Electrospray Ionization/Tandem Mass Spectrometer」、S. Dresen、W. WeinmannおよびF. M. Wurst、J. Am. Soc. Mass. Spectrom.、2004、15巻、1644〜1648頁。この論文では代謝産物はクレアチニンに正規化されたもののクレアチニンは代替的な手法を用いて測定されたのに対し、本出願人の教示では、クレアチニンは、同じLC−MS/MSの実行を用いて代謝産物と同時に測定した。図2は、6つの分析対象物の構造を示すものである。
【0023】
この試験用に使用した装置としては、以下から成るShimadzu Prominence、SIL−HT Dual Gradient Systemが挙げられる:CBM−20A制御装置1台、LC−20ADポンプ4台、SIL−20AC自動サンプラー1台、FCV−20AH2バルブ2個付きのCTO−20ACカラムオーブン1台およびDGU−20A3オンライン脱気装置1台。ラインから塩を投入している間、MS源に溶媒を送達するために、追加のポンプLC−10ADvpおよび脱気装置DGU14Aを使用した。この試験のために採用した質量分析計は、マルチプルリアクションモニタリングモード(MRM)下で動作するAPI−3200(商標)トリプル四重極システムであり、このシステムで、一連の前駆体および独特な断片のイオン対を回転順に次々にモニターした。以下に従い、化学種1つにつき最低2つのイオン対をモニターした:欧州のGLPガイドライン「Commission Decision of 12 August 2002 implementing Council Directive 96/23/EC concerning the performance of analytical methods and the interpretation of results」、Official Journal of the European Communities、L221/12、2002年8月17日、2002/657/EC、for forensic MS/MS applications。
【0024】
試薬
クレアチニンは、Sigma−Aldrich、St.Louis、MO、USA”、製品番号C−4255(http://www.sigmaaldrich.com)から入手可能であった。D3−クレアチニンは、C/D/N Isotopes、Pointe−Claire、Quebec、カナダ:製品番号D−3689(http://www.cdnisotopes.com)から入手可能であった。エチルグルクロニド(d0およびd5)は、Cerilliant Corporation、811 Paloma Drive、Suite A、Round Rock、Texas78664、USAから入手可能であった。エチル硫酸ナトリウム塩は、東京化成工業株式会社、東京都北区豊島6−15−9(E0277)から入手可能であった。D5−硫酸エチルは、d5−エタノール(C/D/N Isotopes Inc.、製品番号D−108 116μL、1.96mM)をリアクティバイアル中で硫酸(Sigma−Aldrich、番号380075、106μL、1.93mM)に加えて、80℃で60分間加熱することにより合成した。それを水中で1mg/mLに希釈し、これを使用して標準溶液を調製した。ギ酸アンモニウムは、Sigma−Aldrich(製品番号F−200)から入手可能であった。ギ酸は、EMD(AnalaR(登録商標)、98〜100%、製品番号B10115)から入手可能であった。アセトニトリル(BAKER ANALYZED(登録商標)9017−03)は、JT Bakerから入手した。Millipore Q 18MΩ脱イオン水を使用した。
【0025】
HPLC法
ハイスループットな分析を実現するために、デュアルカラム液体クロマトグラフィーシステムを使用した。5番目のポンプがクリーン溶媒をMSに送る間、初期および後期のLC溶出剤を排液槽(waste)へよけるように、質量分析計に取り付けられた切替バルブ(diverter valve)も使用した。
【0026】
移動相A、B、C、Dおよび第3すすぎ液溶液は、70%アセトニトリル+30%水+10mMギ酸アンモニウムから構成され、少量のギ酸を加えてpHが5.0に調節されたものを、流速0.35mL/分で使用した(アイソクラチック)。ポンプ5は、同じ組成を使用した。第1すすぎ液は、80%水+20%アセトニトリル+500ng/mLのd5−エチルグルクロニド+100ng/mLのd5−硫酸エチル+1,500ng/mLのd3−クレアチニンから構成されていた。第2すすぎ液は、アセトニトリル(100%)から構成されていた。カラムは、Waters Atlantis(登録商標)HILIC(Waters、Milford、USA)シリカ3ミクロン、3.0×100mm、マッチングガードカラム付きであり、これを50℃で加熱した。
【0027】
図3および4は、自動較正溶液調製(1:1希釈)の前処理法を示すものである。
【0028】
図5〜7は、試料を自動的にカラム1または2の上に注入でき(それぞれ図5および6)、バルブ配置により試料をよけて、化合物は溶出していないが尿マトリックスは溶出している時点で流入物をアセトニトリルに置き換えることができるようなシステム配置を示す。
【0029】
Shimadzu Prominenceシステムおよび標準的な70バイアルトレイを使用して、表1に示す自動試料希釈の前処理を自動的に行った。このプログラムを変更すれば、105バイアルトレイまたは175バイアルトレイを使用できる。
【0030】
アルコール消費実験−バックグラウンド値
アルコール代謝産物の定量は、アルコール消費、典型的にはアルコール飲料の消費による指標として使用できる。特定の他の食品、医薬および器具は、それを使用した場合にも、代謝産物となり、アルコール飲料に由来する値を超え、それを上回る値を増やす可能性があると考えられるアルコールを含有する。アルコールを含有する医薬およびデザートの、エチルグルクロニド(Et−G)および硫酸エチル(Et−S)の値への影響の仕方を定量するため、志願者には、(1)病院で手を消毒するためのアルコールゲル、(2)Robitussin(登録商標)咳止めシロップ、(3)口腔洗浄液、(4)ティラミスケーキ、(5)顔のクレンジング用布、(6)シェリーのトライフル、(7)アイリッシュコーヒー(クリーム入りのコーヒーに1杯の蒸留酒を入れたもの)、(8)肉の調理に使用する赤ワインおよび(9)ビールで照りを付けたハム(ham with beer glaze)を、すべて普通の使用法で使用するように依頼した。
【0031】
使用または消費の前後に、尿試料を回収した。Robitussin以外は、志願者の尿試料中で測定可能な量のEt−GまたはEt−Sは発見されなかった。Robitussinを摂取してから2時間後および7時間後に回収した尿試料は、Et−Sの増加を示したがEt−Gの増加は示さなかった。
【0032】
したがって、消費量が妥当である限り、この方法では偽陽性値は生じそうにない。
【0033】
アルコール消費実験
多様な国における標準飲酒量を図8および9に示す。
【0034】
航空会社のパイロット、機械オペレーター、アルコール離脱プログラムを受けている患者による多様な消費シナリオを模擬的に再現するために、以下の酒を食事と共に消費するよう志願者に依頼した。食事の選択は、各志願者の裁量に任せた。
【0035】
(1)フランス産赤ワイン(250mL、アルコール含有量12%)+ポルトガル産赤ワイン(100mL、17.5%)を女性志願者が消費した。
【0036】
(2)カナダ産ラガービール1本(355mL、5%)+オンタリオ産赤ワイン(1.2L、13.5%)を女性志願者が消費した。
【0037】
(3)オンタリオ産ラガービール2本(710mL、5%)+オンタリオ産白ワイン(1.2L、13.5%)を男性志願者が消費した。
【0038】
(4)ポーランド産ラガービール(Zywiec、5.5%、1L)を男性志願者が消費した。
【0039】
(5)「アサヒ」ラガービール1缶(500mL、5%)+「月桂冠」日本酒400mL(400mL、16%)を男性志願者が消費した。
【0040】
(6)Appletonホワイトジャマイカラム(20%、180mL、2時間かけて)を男性志願者が消費した。
【0041】
(7)フランス産赤ワイン(およそ500mL、12%)を男性志願者が消費した。
【0042】
(8)Pedra90、ブラジル産ラム(100mL、39%)を男性志願者が消費した。
【0043】
(9)イングリッシュジン(50mL、40%)を男性志願者が消費した。
【0044】
(10)ポートワイン(100mL、18%)を女性志願者が消費した。
【0045】
(11)中国産もち米酒(400mL、14%)を男性志願者が消費した。
【0046】
(12)英国産Guinnessビール(600mL、5%)を男性志願者が消費した。
【0047】
(13)Bailey’s Irish Creamのオンザロック(およそ300mL、17%)を男性志願者が消費した。
【0048】
(14)シングルモルトのスコッチウィスキー(60mL、40%)を男性志願者が消費した。
【0049】
(15)テキーラ(125mL、40%)を女性志願者が消費した。
【0050】
アルコール飲料の消費前後に尿試料を回収した。体積を記録し、尿の一部をLC/MS/MS分析用に4℃で15mLの遠心管中に保存した。上記の要領で試料を分析し、尿中のエタノール代謝産物(硫酸塩およびグルクロニド)の濃度として、時間の経過と共にプロットした。これは、消費後、時間の経過に伴う代謝産物の生成を示すものである。図10〜13は、選択されたケースについての当該曲線を示すものである。尿中の代謝産物の濃度は、消費直後、測定可能に増加し、消費してから少なくとも20時間後に正常に戻ることが示される。上昇した代謝産物の濃度は、消費の指標となる。濃度をクレアチニンに正規化するこの方法により、硫酸エチルおよびグルクロニドの減衰曲線間の良好な一致が示される。図14は、尿体積および測定された代謝産物濃度が異なる場合のクレアチニンの変化を示すものである。
【0051】
尿のエタノール代謝産物濃度の測定により、消費後の上昇したレベルを明らかにする一方、この濃度を消費体積に関連付けるためには、正規化された代謝産物の、尿排出量への物質収支、さらには、摂取された総エタノールから形成される代謝産物量への物質収支を求めることが必要である。
【0052】
代謝されたエタノールの比率を評価するために、物質収支を調べた。ある例では、ビールおよび赤ワイン(エタノール141.8g)の消費の101時間後、23.84mgを超える硫酸エチルおよび72.86mgのエチルグルクロニドが形成され、排出された。化学量論組成は以下のとおりである:
OH+HSO→COSO
46 98 126
46:126=141.8(g):X X=(126/46)×141.8(g)=388.4(g)
(0.02384g)/(388.4g)×100=0.00614(%)
同様に、エチルグルクロニドについては、
46:222=141.8(g):Y Y=(222)/(46)×141.8(g)=684.3(g)
(0.07286g)/(684.3g)×100=0.0106(%)
計算から、0.0061%のエタノールが硫酸エチルに転換され、0.0106%のエタノールがエチルグルクロニドに転換され、尿の系中に排出されたことが示される。アルコールの大部分は二酸化炭素および水に転換されると言われている。
【0053】
別の事例では、女性志願者がフランス産赤ワイン(250mL、12%)およびポルトガル産ポートワイン(100mL、17.5%)を30分ほどで消費した。
【0054】
消費されたアルコールの合計量は37.478グラムであった。46.45時間にわたり尿試料を回収し、各排出物の体積を測定および記録した。
【0055】
導入されたアルコール:250mL×12(%)/100×0.789(g/mL)+100mL×17.5(%)/100×0.789(g/mL)=37.48グラムのエタノール
検出された硫酸エチル11.091mg…0.010%
男性志願者が冷えた「アサヒスーパードライ」ビール1缶(500mL、5%)に続いて温かい「月桂冠」日本酒(400mL、16%)をおよそ2時間で消費した際に、正規化の重要性が例証された。
【0056】
彼の系に導入された総エタノールは、500×0.05×0.789+400×0.16×0.789=70.211gであった。
【0057】
図15および16に示すように、彼のクレアチニン濃度および排尿体積(これは試料中の濃度に大きく影響する)は本試験の経過中に変化したことから、正規化の重要性が示唆された。
【0058】
この実施例から、アルコール飲料を消費した後、アルコール消費の指標として、少なくとも消費20時間後の尿中のエタノール代謝産物、エチルグルクロニドおよび硫酸エチルの量を測定することが可能であることが示された。多様な飲料および志願者をテストした。無意識なアルコール消費(例えば、咳止めシロップまたは食品からの)の効果を評価したところ、その効果はごくわずかであることが見出された。尿体積および尿の濃さへの正規化の効果は実証され、この正規化により良好な結果がもたらされることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化する方法であって、前記試料がクレアチニンを含み、
(i)所定量の少なくとも1つの内部標準を前記試料に加えるステップと、
(ii)重水素化クレアチニンを前記試料に加えるステップと、
(iii)前記少なくとも1つのエタノール代謝産物、前記試料中の前記少なくとも1つの所定量の内部標準、前記重水素化クレアチニンおよび前記クレアチニンを検出および測定するステップと、
(iv)前記少なくとも1つの内部標準の測定値を用いて前記試料中の前記少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を定量化するステップと、
(v)前記重水素化クレアチニンの測定値を用いて前記試料中の前記クレアチニンの量を定量化するステップと、
(vi)前記クレアチニンの測定値を用いて前記少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を正規化するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記試料が尿である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が唾液である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記試料が血液または血漿である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が哺乳動物から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物がヒトである、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記検出および測定するステップが質量分析計により実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記質量分析計がトリプル四重極を備える、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの代謝産物がエチルグルクロニドである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの内部標準が重水素化エチルグルクロニドである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの代謝産物が硫酸エチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つの内部標準が重水素化硫酸エチルである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの内部標準を加える前に前記試料を希釈できる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が自動化されている、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
採取源中のアルコールの時間およびレベルを予測するための、請求項1に記載の方法の使用。
【請求項16】
前記採取源が哺乳動物である、請求項14に記載の使用。
【請求項17】
採取源中のアルコールをモニターするための、請求項1に記載の方法の使用。
【請求項18】
前記採取源が哺乳動物である、請求項16に記載の使用。
【請求項19】
質量分析計を用いて採取源由来のエタノール代謝をモニターして前記採取源由来の試料を分析するためのシステムであって、前記試料が、前記採取源の身体状態の指標となるクレアチニンを含み、
(i)前記試料を少なくとも1回、所定量だけ自動的に希釈し、
(ii)所定量の内部標準を前記少なくとも1つの希釈された試料に加え、
(iii)重水素化クレアチニンを前記試料に加え、
(iv)少なくとも1つのエタノール代謝産物、前記試料中の前記少なくとも1つの内部標準、前記重水素化クレアチニンおよび前記クレアチニンを検出および測定し、
(v)前記少なくとも1つの内部標準の測定値を用いて前記試料中の前記少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を定量化し、
(vi)前記重水素化クレアチニンの測定値を用いて前記試料中のクレアチニンの量を定量化し、および
(vii)前記クレアチニンの測定値を用いて前記少なくとも1つのエタノール代謝産物の量を正規化する
ように構成された制御装置を備えるシステム。
【請求項20】
前記採取源が哺乳動物である、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記採取源がヒトである、請求項19に記載のシステム。
【請求項22】
前記質量分析計がトリプル四重極を備える、請求項18に記載のシステム。
【請求項23】
前記試料が尿である、請求項18に記載のシステム。
【請求項24】
前記試料が唾液である、請求項18に記載のシステム。
【請求項25】
前記試料が血液/血漿である、請求項18に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも1つのエタノール代謝産物がエチルグルクロニドである、請求項18に記載のシステム。
【請求項27】
前記少なくとも1つの内部標準が重水素化エチルグルクロニドである、請求項24に記載のシステム。
【請求項28】
前記少なくとも1つのエタノール代謝産物が硫酸エチルである、請求項18に記載のシステム。
【請求項29】
前記少なくとも1つの内部標準が重水素化硫酸エチルである、請求項26に記載のシステム。
【請求項30】
前記少なくとも1つの内部標準を加える前に前記試料が希釈される、請求項18に記載のシステム。
【請求項31】
試料中の少なくとも1つのエタノール代謝産物を定量化および正規化するためのキットであって、前記試料がクレアチニンを含み、試料、重水素化された内部標準、較正標準、品質管理チェック、取扱説明書およびそれらの組合せのうち少なくとも1つを備えるキット。
【請求項32】
本明細書中および組み込まれている添付書類中に記載され、参照され、例示されまたは示される新規性の任意およびすべての特徴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−540911(P2010−540911A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−526124(P2010−526124)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【国際出願番号】PCT/CA2008/001728
【国際公開番号】WO2009/043149
【国際公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(510075457)ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド (35)
【Fターム(参考)】