説明

アルコール溶液の電解改質方法及びその電解改質装置

【課題】アルコール成分を含む飲料水などにおける酸化還元反応を制御してその水和性などの改質を行うことができるとともに、飲料水の調整液を含めたシステムの生産性向上を図ることができるアルコール溶液の電解改質方法を提供する。
【解決手段】アルコール溶液とその調整液とを、電解槽13の陰極室12と陽極室11とにそれぞれ規定の循環供給速度で循環させながら、アルコール溶液に調整液の金属イオンを移行させる。電解槽13内に循環供給されるアルコール溶液のpH値、酸化還元電位、導電率などの特性値を制御パラメータとして、前記アルコール溶液及び調整液のそれぞれの循環供給速度を制御して、前記特性値が規定値になるまで電解処理を行うことでアルコール溶液を改質する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解処理によりアルコール分を含む清涼飲料水、ミネラル水などのアルコール溶液の改質を行うアルコール溶液の電解改質方法及び電解改質装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、清涼飲料水、ミネラル水、ジュース、コーヒー、ミルク、紅茶、緑茶、これらの混合液などの飲料水、もしくはこれらの原料溶液の改質や改善を行うために種々の方法が適用されている。
これらの飲料水などの改質処理は一般に、溶液に何らかの物質を添加することが基本となっていて、その健康飲料などの有効性は添加物質の濃度と添加する物質の質に依存する場合が多い。そして、このような有効性を高めるために、添加物質の種類や濃度、調合比率などを調整して改質処理がなされている。
【0003】
アルコール溶液においても、金属イオンやミネラルなどを添加する場合、添加する物質の濃度、種類を変えるなどの方法によって基本的に製造される。日本酒や焼酎などのアルコール溶液及びこれらと清涼飲料や健康飲料などとの混合溶液の改質処理として、化学薬品などの添加剤を使用してpH調整等の処理を行う方法や、加熱により製品(飲料など)の改質等を行う方法、長期間タンクに溶液を溜置き熟成させる方法などがある。
また、飲料水などを通電により改質する方法も知られており、例えば、特許文献1(特開2002−361260号公報)には、無隔膜電解槽もしくは有隔膜電解槽に健康飲料、やその原料溶液、もしくはこれらの混合液及び酒類を流入させて電解処理を行う改質改善方法が記載されている。
【特許文献1】特開2002−361260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の方法は、いずれの方法で処理を行っても、何らかの問題がある。例えば化学薬品を使用した場合は飲料自体の安全性の問題が発生する。また、熱を使用した場合は酸化反応が常温時と比べ激しく起こることから、品質の低下を招く可能性が生じる。また、熟成処理を行うとこの処理自体に時間が必要で熟成と同時に酸化反応により製品の質を低下させる場合があるという課題があった。
この改善策として、(i)化学品を製品に添加しない、(ii)非加熱で処理を行う、(iii)熟成行程で酸化反応が起こらない装置を付加する、等の方法が考えられるが、それぞれ実現は難しい状況にある。
【0005】
また、特許文献1に記載のように電解槽を用いて飲料水を通電処理する改質方法では、電解槽の陽極室及び陰極室に供給される調整液の流量がそれぞれ同じであるために、各電極室において異なる酸化反応及び還元反応の調整や制御をバランスよく的確に行うことができないという課題があった。
このため、アルコール成分を含む飲料水(ミネラル水、ジュース、コーヒー、ミルク、紅茶、緑茶、これら混合液など)の改良改質を考えるときに、各電極室内の化学反応を有効に制御して、その水和性や、飲料水の調整液を含めた生産システムの効率性の向上を図ることが困難であるという課題があった。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、化学薬品を用いることなく、飲料自体の安全性を確保し、各電極室における酸化還元反応の調整や制御を的確に行うことができ、アルコール成分を含む飲料水(ミネラル水、ジュース、コーヒー、ミルク、紅茶、緑茶、これら混合液など)における各電極室内の化学反応を有効に制御して、その水和性や、飲料水の調整液を含めたシステムの生産効率性の向上を図ることができるアルコール溶液の電解改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明のアルコール溶液の電解改質方法は、処理対象となるアルコール溶液と金属イオンを含む調整液とを、隔膜により区画された電解槽の陰極室と陽極室とにそれぞれ規定の循環供給速度で循環させながら電解処理して、前記アルコール溶液に前記調整液の金属イオンを移行させることを特徴とするアルコール溶液の電解改質方法において、
前記電解槽内に循環供給される前記アルコール溶液のpH値、酸化還元電位、導電率などの特性値を制御パラメータとして、前記アルコール溶液及び前記調整液のそれぞれの循環供給速度を制御して、前記特性値が規定値になるまで電解処理を行うように構成されている。
【0008】
(2)本発明のアルコール溶液の電解改質方法は、前記(1)において、前記アルコール溶液の循環供給速度を前記調整液の循環供給速度より高めて電解処理を行うとともに、前記電解槽に循環供給されるアルコール溶液又は調整液を貯留する貯留タンク内の液量レベルをレベルセンサによりモニタして前記隔膜の破損異常を検出することを特徴とする。
【0009】
(3)本発明のアルコール溶液の電解改質装置は、処理対象となるアルコール溶液と金属イオンを含む調整液とを電解槽の陰極室と陽極室とにそれぞれ循環供給させるアルコール溶液の電解改質装置であって、前記アルコール溶液及び調整液の循環供給流路にそれぞれ設けられた循環供給ポンプと、アルコール溶液の循環供給流路に設けられたセンサにより測定されるデータ値に基づいて前記循環供給ポンプの駆動電流及び前記電解槽の電解電流をそれぞれ制御する電解改質制御部と、を備えるように構成されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電解槽内に循環供給されるアルコール溶液のpH値、酸化還元電位、導電率などの特性値を制御パラメータとして、前記アルコール溶液及び前記調整液のそれぞれの循環供給速度を制御して電解処理を行うので、アルコール溶液の酸化還元反応の調整や制御をそれぞれ電極室毎に的確に行うことができ、化学薬品を用いることなく飲料自体の安全性を確保して、アルコール溶液の水和性、品質性の向上や、生産システムの効率性の向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本実施形態のアルコール溶液の電解改質方法は、処理対象となるアルコール溶液と金属イオンを含む調整液とを、隔膜により区画された電解槽の陰極室と陽極室とにそれぞれ規定の循環供給速度で循環させながら電解処理して、前記アルコール溶液に前記調整液の金属イオンを移行させるアルコール溶液の電解改質方法であって、前記電解槽内に循環供給される前記アルコール溶液のpH値、酸化還元電位、導電率などの特性値を制御パラメータとして、前記アルコール溶液及び前記調整液のそれぞれの循環供給速度を制御して、前記特性値が規定値になるまで電解処理を行うように構成されている。
これによって、アルコール溶液の酸化還元反応の調整や制御をそれぞれ電極室毎に的確に行うことができ、化学薬品を用いることなく飲料自体の安全性を確保するとともに、アルコール溶液の水和性を高めることによる品質の向上や、生産システムにおける効率性の向上を図ることができる。
【0012】
アルコール溶液は、例えば、日本酒、焼酎、ワインなどの酒類をいうが、その他、清涼飲料水、ミネラル水、ジュース、ミルク、紅茶、緑茶、健康飲料などの液体にアルコール成分を含むものであってもよく、これらのアルコール成分を含む溶液に電解処理による改質方法を適用することができる。
【0013】
電解槽は、溶液に電極を浸して電極に電圧を印加する装置であり、その対象溶液の種類や処理目的により、電解槽若しくは電気透析槽の使い分けを行う。従来こうした電解処理若しくは電気透析処理には、水だけの処理や食塩水の電解で次亜塩素酸を生成するなど限られた溶液にしか使用されていなかったが、本発明の電解槽は、アルコール成分を含んだ飲料水(清涼飲料水、ミネラル水、ジュース、コーヒー、ミルク、紅茶、緑茶、これらの混合液など)などのアルコール成分を含む溶液にも適用でき、電解処理によりこれらの改質を行うものである。
【0014】
本発明の電解処理方法は、化学品などの添加剤による改質処理方法と比べ、電気を溶液に通電するだけなので、化学品の添加を一切行わない処理が可能となる。さらに、電解処理ではアルコールの水和性を変化させることによって、長期間熟成した酒類と同じ変化を起こさせることができる。
本発明の電解処理方法は、化学薬品を使用することなく、電解槽の隔膜技術を応用することにより、還元、酸化の各反応を選別的に制御することができる。こうして、アルコール成分を含む飲料水を電解処理若しくは電気透析処理することにより、従来の方法より効率よく熟成処理を行うことができる。
【0015】
隔膜は、電解槽における陽極室と陰極室とを区画する部材であって、例えば、陰イオン交換膜や陽イオン交換膜などの他にイオン選択ないセラミックスなどを素材としたものを適用することができる。
隔膜は、(i)両電極室に発生するガス状生成物の分離、(ii)一方の電極に発生する固体成分の他方の電極からの隔離、(iii)発生する物質の電解液への拡散混合の防止などの機能を有したパネル状部材である。
隔膜材料としては、均一な微細孔を持ち、電気抵抗の小さい多孔質体など形成され、機械的強度や化学薬品に対する安定性の大きいアルミナ質セラミックス材やフッ素樹脂などを適用できる。
【0016】
例えば、イオン交換膜電解槽では、陽極室と陰極室とを交互に直列に配置し、その両端から直流電圧電流を印加する複極式電解槽と、陽極室と陰極室とは互いに陽イオン交換膜を介して位置するが、各陽極室及び陰極室はそれぞれ電気的に並列に配置された構造の単極式電解槽とが用いられる。これらの電解槽は、一般的に陽極室と陰極室を構成する単位電解槽を多数配列して用いられ、各単位電解槽は、その上壁面、下壁面及び両側壁面が一体に成形された矩形の電極室枠と、その中に収納される電極とにより主として構成される。
【0017】
単極式電解槽は、一般に電極室枠の両開口面に陽極(又は陰極)を設置した構造であり、複極式電解槽は、陽極室と陰極室とが一枚の隔壁を挟んで背中合わせに一体化した構造とし、隣り合った陰極室(又は陽極室)との間でユニットセルを構成する。
これらの電解槽は、それぞれの陽極室と陰極室とがイオン交換膜を介して対立した構造である。
陽極室には、アルカリ金属塩の水溶液が、該陽極室の底部側壁隅などに設けた塩水溶液供給口から導入され、電解を行った後、電極室枠の上部近傍の側壁に設けられた塩水溶液の排出口から排出される。
他方、陰極室にあっては、アルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウムの稀薄な水溶液、又は場合によっては水を、同様に陰極室枠側壁の下部角近傍から供給し、上部角近傍からアルカリ金属水酸化物水溶液などを排出する。
【0018】
本実施形態のアルコール溶液の電解改質方法は、前記アルコール溶液の循環供給速度を前記調整液の循環供給速度より高めて電解処理を行うとともに、前記電解槽に循環供給されるアルコール溶液又は調整液を貯留する貯留タンク内の液量レベルをレベルセンサによりモニタして、前記隔膜の破損異常を検出することにも特徴を有している。
すなわち、電解槽における稼動中の隔膜異常によって、その貯留タンク内の液量が変化する。
レベルセンサにより貯留タンクの液量レベルを検知して、電解槽へのアルコール溶液や調整液の供給を迅速に遮断して、隔膜の破損などによって発生するアルコール溶液の品質不良(アルコール溶液に調整液が混入することなど)を最小限度に止めることができる。
こうして、大量生産ラインなどにおける安全性と信頼性をさらに高めることができる。
【0019】
貯留タンク内の液量レベルを測定するためのレベルセンサとしては、例えば、(a)貯留タンク内に浮かべた浮子の位置を機械的に検知するフロート式や、(b)タンク内の水圧をセンサにより検知する水圧式、(c)超音波や電波で液面を検知する非接触式のものなどを適宜、使用することができる。
【0020】
また、本実施形態のアルコール溶液の電解改質装置は、処理対象となるアルコール溶液と金属イオンを含む調整液とを電解槽の陰極室と陽極室とにそれぞれ循環供給させるアルコール溶液の電解改質装置であって、前記アルコール溶液及び調整液の循環供給流路にそれぞれ設けられた循環供給ポンプと、アルコール溶液の循環供給流路に設けられたセンサにより測定されるデータ値に基づいて前記循環供給ポンプの駆動電流及び前記電解槽の電解電流をそれぞれ制御する電解改質制御部と、を備えるように構成することができる。
このような電解改質制御部によって、前記電解槽内に循環供給される前記アルコール溶液のpH値、酸化還元電位、導電率などの特性値を制御パラメータとして、前記アルコール溶液及び前記調整液のそれぞれの循環供給速度を制御して、前記特性値が規定値になるまで電解処理を行ことができる。
これによって、アルコール溶液の酸化還元反応を適正に制御することが可能になり、アルコール溶液の水和性などの品質特性を改質させるとともに、これら日本酒やワインなどのアルコール溶液の生産システムの効率性の向上を図ることができる。
【0021】
図1は、本実施形態に係るアルコール溶液の電解改質方法が適用される電解改質装置の模式説明図である。以下図面を参照して電解改質装置の構成を説明する。
本実施形態に係るアルコール溶液の電解改質装置10は図示するように、アルコール溶液及びその調整液がそれぞれ所定の供給循環速度で供給される陽極室11と陰極室12とを備えた電解槽13と、アルコール溶液を貯留するアルコール溶液タンク14と、このアルコール溶液を電解改質させるための調整液を保持する調整液タンク15とを備えている。
電解槽13は、その内部を陽極室11と陰極室12とに区画するイオン交換樹脂や非イオン交換樹脂などにより形成された隔膜13aを備え、その各陽極室と陰極室にはそれぞれ陽極部及び陰極部が設けられている。
【0022】
電解槽13の陽極室11と陰極室12には、アルコール溶液又はその調整液を供給排出するための液供給部11a、12aと液排出部11b、12bとがそれぞれ配置される。そして、これらの液供給部11a、12aと液排出部11b、12bとは、その上流側及び下流側にそれぞれ設けられた三方切替弁16a、16bと三方切替弁16c、16dを介して、アルコール溶液タンク14及び調整液タンク15の液流入部14a、15aと液排出部14b、15bに接続されている。
このアルコール溶液タンク14の液排出部14bと電解槽13の液供給部11aとの間、及び、調整液タンク15の液排出部15bと電解槽13の液供給部12aとの間をそれぞれ連結する流路配管には、アルコール溶液用循環供給ポンプ14c、調整液用循環供給ポンプ15cが設けられている。
【0023】
こうして、アルコール溶液及び調整液の循環流路が形成されている。すなわち、アルコール溶液の循環流路は、アルコール溶液タンク14→液排出部14b→アルコール溶液用循環供給ポンプ14c→三方切替弁16a→液供給部11a→電解槽13(陰極室12)→液排出部11b→三方切替弁16c→液供給部14a→アルコール溶液タンク14からなる循環路Aにより形成されている。
また、調整液の循環流路は、調整液タンク15→液排出部15b→調整液用循環供給ポンプ15c→三方切替弁16b→液供給部12a→電解槽13(陽極室11)→液排出部12b→三方切替弁16d→液供給部15a→調整液タンク15からなる循環路Bにより形成されている。
【0024】
なお、アルコール溶液タンク14及び調整液タンク15には、液面レベルセンサ20、pHセンサ21、酸化還元電位(ORP)センサ22、導電率センサ23がそれぞれ設けられており、循環路A,Bをそれぞれ循環するアルコール溶液と調整液の特性パラメータの変化がモニタされ、これらのセンサから取得された計測データは、図示しないコンピュータなどからなる電解改質制御部に送られる。
この電解改質制御部は、電解槽13の各電極室(陽極室11、陰極室12)に印加する電圧や電流の値を制御するとともに、この計測データに基づいてアルコール溶液用循環供給ポンプ14cと調整液用循環供給ポンプ15cを制御して、循環路A,Bにおけるそれぞれの循環供給流量A,Bを調整するようになっている。
【実施例】
【0025】
続いて、以上のように構成される電解改質装置10を用いたアルコール溶液の電解改質方法の一例について、さらに具体的に説明する。
本実施例において、電解処理の対象となるアルコール溶液は、日本酒、焼酎、ワインなどであって、そのアルコール濃度や成分、特性はそれぞれ異なる。例えば、焼酎の場合には、そのpH値は5.0程度であり、導電率は400μs/cm(距離1cmおよび面積が1cmにおける測定値)である。
【0026】
調整液は、例えば、純水にミネラル成分となるNa、K、Ca、Mgなどの化合物を添加してその導電率を向上させたものが適用される。但し、塩素化合物の添加は次亜塩素酸が発生するので望ましくなく、Na、K、Ca、Mgなどの化合物としては炭酸化合物を用いることが好ましい。
なお、これら、ミネラル成分の添加量は、導電率センサによりその液の導電率を測定して間接的に定めることができる。この調整液における電解処理スタート時のpH値は7.0程度であり、その導電率は100μs/cm程度に設定されている。
【0027】
電解槽13は、例えば、深さ約20cm、横幅約10cm、縦幅10〜30cmの略直方体状であって、その縦幅方向に2mm間隔で陽極板と陰極板を交互に配列したような構成のものも適用できる。
この場合、液循環速度は、約0.5〜1L/分の範囲となる。このような電極室に配置される陽極材としては、チタンに白金コーティン(メッキなど)したものが基本であり、アルコールの種類に応じてイリジュウム、ルテニュウム、パラジュウムで合金化したものも適用することができる。また、陰極材としては、電極の正負を逆転して処理することもあるので、陽極材と同様の構成のものとすることができる。
隔膜材質としては例えば、フッ素樹脂イオン交換膜(デュポン社製の商品名ナフィオン)(Nafion)を用いたが、イオン選択性のないセラミック系の隔膜を使用することもできる。
【0028】
電解槽13における電解処理の電圧は、約1.5〜200ボルトの範囲として、通常運転では100ボルト以下で処理を行う。電解改質制御部を介して電解槽に流す電流値を制御することによって、その電極反応を調整するようにしている。
電解電流は反応量を反映した物理量であり、例えば1〜20A/Lの範囲とすることが好ましい。
電解電流が1A/L未満の場合は、アルコール溶液中の溶存酸素量などを調整液よりも高くすることができない。
20A/Lを超えると、電極材料の消耗が著しくなり、長期間の使用に耐え難くなるので好ましくない。
【0029】
電解槽13の電極には、トランスにより変圧される図示しない直流電源などにより電力が供給される。この直流電源は前記電解改質制御部と接続され、その循環供給流路などに配置された各種センサにより計測されるアルコール溶液や調整液の特性値に応じて、直流電源から電極に供給される電力が制御される。
こうして、アルコール溶液用循環供給ポンプ14cを介して電解槽13の電極室にアルコール溶液が循環供給されて、電解槽13内でその改質処理がなされる。
【0030】
この電解処理においては、まず、アルコール溶液及び調整液をアルコール溶液タンク14及び調整液タンク15に投入する。各三方切替弁16a〜16dを操作して、アルコール溶液が陰極室12に、調整液が陽極室11にそれぞれ供給されるように循環流路A,Bを設定する。
つぎに、アルコール溶液用循環供給ポンプ14c及び調整液用循環供給ポンプ15cを起動して、それぞれのタンク14、15に貯留されているアルコール溶液が陰極室12に0.6L/分の流量で、調整液が陽極室11に0.5L/分の流量となるように循環供給させる。
すなわち、アルコール溶液の流量を調整液の流量よりも多くするようにして、隔壁を挟んでアルコール溶液側の液圧が若干増圧するように電解槽13内を維持させるようにしている。
これによって、アルコール溶液の電解改質装置10に隔膜の破損が生じた場合でも、電解槽13のアルコール溶液に調整液が直接流入するのを防止できるとともに、アルコール溶液タンク14又は調整液タンク15に設けた液面のレベルセンサ20によりこの異常(隔膜の破損など)を検出して、電解槽13へのアルコール溶液や調整液の供給を迅速に遮断できる。
なお、各センサは、アルコール溶液タンク14と調整液タンク15との双方に設置しているが、いずれか一方のタンクに設けることもできる。特にレベルセンサ20は、隔膜13aの破損などが生じた場合にその液面の変化を検出し易いタンクの方に適用することが望ましい。
【0031】
このような電解処理では、処理するアルコール溶液に対する調整液中に含まれるプラスイオンがアルコール溶液側に移動するので、基本的に調整液の導電率が次第に低下する。導電率が低下すると電解効率が低下するので調整液の交換が必要になる。従って、この導電率センサ23により調整液の導電率をモニターしてその交換時期を判定するようにしている。
また、pHセンサ21は電解処理により調整液)が酸性へと移行して、これが進むとアルコールの品質が悪くなることがあるので、pH値の測定が必要となっている。酸化還元電位センサ22は電解処理により調整液の酸化性が進んで前記同様にこれによりアルコールの質に悪影響を与える場合があるので、このセンサにより監視するのである。
【0032】
そして、電解制御装置を介して電解槽13の各電極間を印加して電流制御を行うことができる。例えば、この焼酎の場合では通常10A程度で処理を行う。
なお、この電解処理に伴ってアルコール溶液の温度が上昇すると酸化によりアルコールの品質が劣化するので、溶液冷却機24を各タンクに設けて温度制御して、その温度範囲を15〜20℃程度に維持するようにしている。
さらに、調整液タンク15には、電解処理によりその導電率が低下した場合に濃厚な調整液を補充するための補充液タンク17が設けられている。これによって、電解改質制御部は、その導電率を導電率センサ23によりモニタして、補充液弁17aを動作させることで所定量の調整液が補充液タンク17から調整液タンク15に自動補充されるように構成されている。
【0033】
この間、アルコール溶液用タンク14,調整液タンク15に設けたセンサ類21〜23をモニタしながら、そのセンサ値が目標値になるまでこの通電状態を維持する。このセンサ値による管理では、(a)pH、(b)ORP(酸化還元電位)、(c)導電率、(d)電流×時間、の4項目順に管理優先順位を設定している。
なお、アルコール溶液用として焼酎を適用する場合、アルコールの種類、濃度などで差違があるが、定電流制御では通常、流したトータル電流量=30A程度で終点になるようにしている。
【0034】
こうして、終点に達すると、アルコール溶液タンク14や電解槽13から電解処理されたアルコール溶液を取り出す。例えば焼酎の例では、pH=6.5程度(処理開始時pH=5.0程度)、導電率=550μs/cm(開始時400程度)に設定して電解処理した。
なお、調整液におけるpH値は、電解処理スタート時にpH=7.0程度であったのに対して、その終了時にはpH=2.5程度であった。
また、調整液の導電率は電解処理スタート時に100μs/cmであったのに対して、その終了時には30μs/cm程度に下がっていた。
【0035】
なお、このような電解処理を繰り返すことによって、電解槽13の電極室壁や電極などにスケールが発生する。電極や隔膜に付着した電析物除去のために、陽極室と陰極室とにおける極性を逆転させて電解処理を行うことで、三方切替弁16a〜16dなどのバルブ切替操作をしないで、単に電極の極性の逆転だけで電析物除去を行うこともでき、電解槽13と同時に循環流路やバルブに付着したスケールも有効に除去できる。
【0036】
以上説明したように、本発明のアルコール溶液の電解改質方法及びその電解改質装置は、電解槽内に循環供給される前記アルコール溶液のpH値、酸化還元電位、導電率などの特性値を制御パラメータとして、前記アルコール溶液及び前記調整液のそれぞれの循環供給速度を制御することをその要旨とするものであり、これによって、アルコール溶液の水和性を高めることによる改質処理を行うことができるとともに、アルコール溶液の電極反応の制御を的確に行うことができ、生産システムにおける効率性の向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態に係るアルコール溶液の電解改質方法が適用される電解改質装置の説明図である。
【符号の説明】
【0038】
10 アルコール溶液の電解改質装置
11 陽極室
11a 液供給部
11b 液排出部
12 陰極室
12a 液供給部
12b 液排出部
13 電解槽
13a 隔膜
14 アルコール溶液タンク
14a 液流入部
14b 液排出部
14c アルコール溶液用循環供給ポンプ
15 調整液タンク
15a 液流入部
15b 液排出部
15c 調整液用循環供給ポンプ
16a〜16d 三方切替弁
17 補充液タンク
17a 補充液弁
20 レベルセンサ
21 pHセンサ
22 酸化還元電位センサ
23 導電率センサ
24 溶液冷却機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理対象となるアルコール溶液と金属イオンを含む調整液とを、隔膜により区画された電解槽の陰極室と陽極室とにそれぞれ規定の循環供給速度で循環させながら電解処理して、
前記アルコール溶液に前記調整液の金属イオンを移行させるアルコール溶液の電解改質方法であって、
前記電解槽内に循環供給される前記アルコール溶液のpH値、酸化還元電位、導電率などの特性値を制御パラメータとして、前記アルコール溶液及び前記調整液のそれぞれの循環供給速度を制御して、前記特性値が規定値になるまで電解処理を行うことを特徴とするアルコール溶液の電解改質方法。
【請求項2】
前記アルコール溶液の循環供給速度を前記調整液の循環供給速度より高めて電解処理を行うとともに、前記電解槽に循環供給されるアルコール溶液又は調整液を貯留する貯留タンク内の液量レベルをレベルセンサによりモニタして前記隔膜の破損異常を検出することを特徴とする請求項1記載のアルコール溶液の電解改質方法。
【請求項3】
処理対象となるアルコール溶液と金属イオンを含む調整液とを電解槽の陰極室と陽極室とにそれぞれ循環供給させるアルコール溶液の電解改質装置であって、
前記アルコール溶液及び調整液の循環供給流路にそれぞれ設けられた循環供給ポンプと、
アルコール溶液の循環供給流路に設けられたセンサにより測定されるデータ値に基づいて前記循環供給ポンプの駆動電流及び前記電解槽の電解電流をそれぞれ制御する電解改質制御部と、を備えたことを特徴とするアルコール溶液の電解改質装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−268368(P2009−268368A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119276(P2008−119276)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(302038763)
【出願人】(505476216)イノベーティブ・デザイン&テクノロジー株式会社 (5)
【Fターム(参考)】