説明

アルツハイマー病の症状を治療することができる化合物を決定するのに有用なスフェロン成分

本発明は、脳のアミロイドーシスに関連するアルツハイマー病および/または認知症の症状を防ぎおよび/または改善することのできる化合物を同定するのに有用な、スフェロンのラセミ化されたタンパク質またはラセミ化されたタンパク質成分に関する。本発明はまた、本発明の方法により同定される化合物、ならびに、脳のアミロイドーシスに関連するアルツハイマー病および/または認知症の症状を治療し、および/または改善する方法に関する。本発明はまた、脳のアミロイドーシスに関連するアルツハイマー病および/または認知症の動物モデルまたは試験動物を作る方法、それにより産生した動物モデル、ならびに有効な療法をスクリーニングするための動物モデルを用いる方法、に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
[0001] 本出願は、2003年3月4日出願、代理人事件整理番号59003.000011の“アルツハイマー病の症状を治療することができる化合物を決定するのに有用なスフェロン成分、およびそれから製造される動物モデル”という題名の一部継続出願である。
【0002】
発明の背景
1.発明の属する分野
[0002] 本発明は、脳のアミロイドーシス、認知症、またはアルツハイマー病に関連する症状を予防するおよび/または改善することができる化合物のスクリーニングに有用な、精製されたスフェロンのタンパク質成分、またはラセミ化されたスフェロンのタンパク質成分に関する。本発明はまた、アルツハイマー病または認知症動物モデルを作る方法、それから製造される動物モデル、および有効なアルツハイマー病の療法についてスクリーニングするために当該動物モデルを使用する方法に関する。本発明はさらに、脳における、proSAASタンパク質またはそのフラグメントの放出もしくはその濃度を減少させることを防ぐ、または、proSAASまたはそのフラグメントの増加した量の効果を遮断、競合、もしくは減衰させる、方法または組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連する技術の記載
[0003] “アミロイドーシス”という題目に類別されるのは、細胞外間隙における異常なフィブリル(「アミロイドフィブリル」)の沈着により特徴づけられる、いくつかの病理学的状態である。アミロイドフィブリルは、言い換えると、多様なアレイのタンパク質についての最終的な共通の経路を示す。しかしながら、それらの生化学的組成にも関わらず、アミロイドフィブリルのすべての型は(a)β−ひだ型シート構造、(b)コンゴレッド染料で染色した後、偏光の下での緑の複屈折、および(c)典型的な電子顕微鏡での外見を有する原繊維の形態、を共有する。
【0004】
[0004] アミロイドフィブリルの沈着は、家族性地中海熱、家族性アミロイド多発ニューロパシーおよび全身性アミロイドーシスに例示される疾患の全身性型におけるいくつかの器官に影響を及ぼすことができる、または局在化された型で1つの器官に制限されることもできる。後者の中の1つは題目“脳のアミロイドーシス”として類別される状態であり、アルツハイマー群の疾患、すなわち、アルツハイマー病(初老期認知症、老年性認知症);ダウン症候群に関連するアルツハイマー病;パーキンソン病のような他の中枢神経系疾患に関連するアルツハイマー病;コンゴレッド親和性(congophilic)血管症(アルツハイマー病に関連するまたは関連しない);を包括する。一般的にアルツハイマー病は、世界中で中年および老齢の人々を冒す不治の脳疾患である。最近の統計によると、北アメリカにおける第4位または第5位の死亡原因となっており、計り知れない個人的または社会的悲劇、生産性の喪失、および社会への管理面での負荷の原因である。現在のところ、アルツハイマー病について広く受け入れられている効果的な治療はない。
【0005】
[0005] アルツハイマー病の主な症状(兆候)は、記憶の喪失および“認知症”と称される行動に類型化される高度な精神的能力の喪失である。認知症は、アルツハイマー病以外の多くの脳疾患、例えば脳卒中、脳炎および代謝疾患、にみられる症状または症候群である。記憶喪失および認知症は比較的非特異的な症状であるので、アルツハイマー病の一定の具体的な定義は、Marinesco、Alzheimerらによってはじめて記載された、特徴的な脳の顕微鏡観察による状態に基づく。Alzheimer,A.,Allegemeine Zeitschrift fur Psychiatrie 64:146−148(1907);Marinesco,G.,Comptes Rendus des Seances de la Societe de Biologie et ses Filiales 70:606−608(1911)を参照。
【0006】
[0006] アルツハイマー病の指標として受け入れられている、そして、認知症の他の原因からアルツハイマー病を分ける、独特の顕微鏡における特徴は、老年性もしくはアミロイドプラークおよび神経原線維変化と称される、多数の脳の病変の蓄積である。老年性もしくはアミロイドプラークは球状で、直径が10から200μmの範囲であり、そして年老いた成人の大脳皮質にごくまれにみられる一方で、アルツハイマーに冒された皮質では多数みられる。これらの病変は、脳の試料において適当な量で見つかる場合は、アルツハイマー病の診断のために確かな指標となる。
【0007】
[0007] 大量のアミロイドプラークは本質的にアルツハイマー疾患群にのみみられる一方、神経原線維変化は非特異的で少なくとも10の他の神経学的疾患においてみられる。Corsellis,J.A.N.,GREENFIELD’S NEUROPATHOLOGY 951−1025(第4版 1984年)(Edward Arnold, London)を参照。個々のアミロイドプラークは大まかにいって個々の神経原線維変化の1000倍の体積を有する。全脳アミロイドプラークおよび神経原線維量の本当の測定値は得られないが、上記に基づくと、アミロイドプラークに占められる異常な脳組織の体積は、おそらく神経原線維変化におけるそれの数百倍になるであろう。アミロイドプラークの本質的な特色はアミロイドフィブリル、これはコンゴレッド親和性(congophilic)の赤−緑 複屈折微小繊維材料である、の存在である。Corsellis、上記引用文中。
【0008】
[0008] 高密度微粒子(DMS)と呼ばれる顕微鏡的構造は、正常な脳およびアルツハイマー病に冒された脳に存在することが知られている。Averback,Acta Neuropathol.61:148−52(1983);Hara,J.Neuropath.Exp.Neurol.45(2):169−178(1986)で確認された結果;を参照。DMSはより最近では「スフェロン」と呼ばれている。「スフェロン」は本発明の背景であり、したがって、同じ物をDMSということがあり、そして正常な脳に存在する顕微鏡的構造を指す。
【0009】
[0009] いくらかの専門家は、スフェロンは、アルツハイマー病およびそれに関連する状態の脳のアミロイドの特徴の源として、または前駆体として、脳のアミロイドプラークに関連していると考えている。スフェロンの存在についての証拠は、固定した全脳組織の顕微鏡による組織学的切片の研究に由来する。スフェロンは、〜10/mmを有するランダムに分散した、高度に頻度の少ない構造として観察される。
【0010】
[0010] スフェロンの種々の成分(例えば“DMS”)は、以前に同定されている。脳実質におけるスフェロンの分解は、アルツハイマー病および関連する状態の特色である、脳のアミロイドプラーク形成の開始および進行に関連することが知られている。より具体的には、スフェロンの分解はタンパク質および非タンパク質成分、またはタンパク質および非タンパク質成分の混合物を放出する。スフェロン成分の一部分は脳のアミロイドプラークを形成する一方、他の部分は脳内に残るか、または、脳脊髄液、血清などの循環する体液を介して脳実質から除去される。
【0011】
[0011] スフェロンは、スフェロン破裂の激変カスケードおよびそれに続く脳損傷を引き起こす成長および破裂サイクルを受けると考えられている。米国特許第6,130,221号、引用によりその開示の全体を本明細書に援用する、に開示されるように、特有の自己触媒的現象を伴い、それによって個々の脳のアミロイドプラークへの個々のスフェロンの分裂、変性、および進展が、繰り返される波のように他のスフェロンのグループまたは場が分裂、変性および進展する刺激を提供するという、スフェロン分裂の開始および促進の重要なメカニズムが発見された。この抑制されていない、自己触媒的現象は指数関数的な増殖パターンを生じる:in situでの分裂したスフェロンの初期数における、小さな、おそらく統計学的に有意でない(個体の脳の間での)違いが、サイクルの数世代後には統計学的に有意な差となって現れる。例えば、他のすべての因子が同じであれば、100のスフェロン破裂の初期群を有する被験者は、98のスフェロン破裂の初期群を有する第二の被験者と、統計学的または症状的に違いはないであろう。しかし、長い間に初期のスフェロンのそれぞれが続く10のスフェロンの分裂を開始し、それぞれが順に続く10のスフェロン分裂を開始したとすると、20世代後のグループ1はグループ2よりも2x1020個多い分裂したスフェロンを有することになり、これは有意である。
【0012】
[0012] 公知の化合物、系、方法および装置についてのいかなる不都合についての本明細書の記載は、いかなる場合においても本発明を限定するものではない。実際に、本発明は公知の化合物、系、方法および装置を、公知の不都合を経験することなく利用してもよい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
[0013] 神経伝達物質欠損またはアミロイドプラーク形成に直接起因しないADの症状を治療するための新しい治療が当該技術分野で今なお求められている。そのような症状を治療するのに有用な療法を同定する方法、ならびにそれらの症状を治療するのに有用な療法をスクリーニングするのに有用な動物モデルの開発の需要もある。本発明はそれらの需要を満足させるものである。
【0014】
[0014] 本発明は、アミロイドプラーク形成に直接寄与しないスフェロンの成分に対応するアミノ酸配列を含有するペプチドは神経細胞に対して毒性があるという驚くべき発見を一部前提とし、そしてそれは神経機能不全を含む他の心身に有害な効果を有すると考えられる。本発明はまた、これらの特定の成分が、スフェロンから放出される際に、アミロイド生成効果とは区別できる様式で脳に傷害を与えるという発見を一部前提とする。本発明はまた、これらの成分がラセミ化されていてよいという発見を一部前提とする。
【0015】
[0015] 本発明はまた、スフェロンから放出されるときに存在する濃度のこれらの特定の成分は、減少した副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、インスリン、αMSH、βエンドルフィンおよびエンケファリン産生、ならびに、減少またはそうでなければ変化した甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRF)、 ダイノルフィン、プロインスリン、プログルカゴン、プログルカゴン様ペプチド(GLP)、プロソマトスタチン、プロ膵ペプチド、プロGHRH、神経ペプチド メラミン濃縮ホルモン、NEI、ニューロテンシン、オピオイドペプチド、および他のペプチド、ならびに神経機能不全、を導く、プロタンパク質転換酵素1(PC1)阻害、(ならびにプロタンパク質転換酵素 PC2−PC8の増加した活性)、およびフューリン、について大きく増加した活性、を提供するという発見を前提とする。これらの成分は増加したproSAASドメインに由来する神経ペプチドを提供する。上記のすべては、グルコース産生の撹乱(インスリンおよびACTH)、コルチコステロイド経路の撹乱(ACTH)、チロイド経路の撹乱(TRH)、エンケファリンの撹乱、他の重要な生物活性のある脳の分子および分子経路の撹乱、ならびに、グルカゴン、GLP、ソマトスタチン、膵ペプチド、GHRH、神経ペプチド メラミン濃縮ホルモン、NEI、ニューロテンシン、およびオピオイドペプチドの撹乱を含むがこれらに限定されないカスケードの効果を導くと考えられる。加えて、プロタンパク質転換酵素阻害における大きく増加した活性は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の翻訳後プロセッシング、修飾および切断に関与する、proBACE(ベータ部位APP切断酵素、β−分泌酵素としても知られる)のようなプロ酵素の翻訳後プロセッシングに影響を及ぼすであろう。これら上記の多様な生化学的経路の不均衡は、疾患を生じさせるもの、および症状を生じさせるもの、としてよく知られている。これらの不均衡は行動の、精神の、および認識の症状を生じることがよく知られており、後者は認知症および多様な型に関連する認知症およびアルツハイマー病などの神経変性疾患にみられる症状と類似である。
【0016】
[0016] 本発明のスフェロンタンパク質成分は高度にラセミ化されていることが決定された。ラセミ化されたタンパク質において、タンパク質のアミノ酸残基の天然に存在するL立体異性体型の1またはそれより多くは、D立体異性体型に転換されている。タンパク質中にみられる、グリシン以外のすべてのアミノ酸は、天然に存在するL立体異性型とD立体異性型を有する。スレオニンおよびイソロイシンは、L−アロ型およびD−アロ型のジアステレオマーも有する。タンパク質のラセミ化の程度は、そのタンパク質の年齢の推定を提供することができる。スフェロンから放出されたタンパク質およびペプチドのラセミ化分析は、D−アスパラギン酸(5−9mol% 対 対照における2mol%)およびD−セリン(2.0−2.4% 対 対照における0mol%)の有意な上昇を示した。ラセミ化されたタンパク質成分もまた本発明に含まれる。
【0017】
[0017] 本発明の態様の特徴によると、それを必要とする動物に、アミロイドプラーク形成に直接の原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドの細胞毒性の効果(および本明細書に記載の、または後に発見される、心身に有害な効果)を防ぐ化合物を投与することを含む、脳損傷および/または上記の障害のいずれかを治療または改善する方法が提供される。1またはそれより多くの成分となるスフェロン成分ペプチドは:
【0018】
【化1】

【0019】
より選択され、ここでスフェロン成分ペプチドはラセミ化されている。好ましくは、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)は:(i)L立体異性体型からD立体異性体型に転換されている;(ii)D立体異性体型によって置き換えられている;または(iii)そうでなければ他の立体異性的変化を受けている。
【0020】
[0018] 別の本発明の態様の特徴によると、アミロイドプラーク形成に直接の原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドの細胞毒性の効果(および本明細書に記載の、または後に発見される、心身に有害な効果)を防ぐ化合物を含む組成物が提供される、ここでスフェロン成分ペプチドは上記の群から選択される1またはそれより多くの成分である。化合物は、プロタンパク質転換酵素(PC1−PC8)、フューリン、または、以下:
【0021】
【化2】

【0022】
からなる群より選択されるPC1の活性部位の1またはそれより多く、のいずれかであってもよい。
【0023】
[0019] さらに別の本発明の態様の特徴によると、第一に複製可能な細胞を培養することを含んでなる、脳損傷または上記の他の障害を治療するまたは改善するのに有用な化合物のスクリーニング方法が提供される。当該方法はまた、アミロイドプラーク形成の直接の原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドを、変化した細胞培養物(例えば、細胞の生存度を減少させること、プロホルモン転換酵素PC1−PC8阻害における細胞の活性を増加させること、などにより)を形成するのに十分な濃度で細胞に添加し、そして次いで当該変化した細胞培養物のいくつかに試験化合物を投与することを含む。試験化合物を投与していない対象と比較して、スフェロン成分により引き起こされた変化の効果を減少または改善させるのに有効な試験化合物は、脳損傷または上記の他の障害を治療するまたは改善するのに有用である。スフェロン成分ペプチドは好ましくは以下:
【0024】
【化3】

【0025】
から選択される1またはそれより多くの成分であり、ここで、スフェロン成分ペプチドはラセミ化されている。好ましくは、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1のアミノ酸残基(グリシン以外)は:(i)L立体異性体型からD立体異性体型へと転換されている;(ii)D立体異性体型によって置き換えられている;または(iii)そうでなければ他の立体異性的変化を受けている。
【0026】
[0018] 別の本発明の態様の特徴によると、アルツハイマー病の症状の動物モデルまたは試験動物、当該動物モデルもしくは試験動物を作成する方法、当該動物モデルもしくは試験モデルを用いてアミロイドプラーク形成の直接の原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分により引き起こされた脳損傷を治療または改善するのに有効な療法をスクリーニングする方法、が提供される。動物モデルは、その脳に挿入された遺伝子(ここで当該遺伝子は、1またはそれより多くの上述した群から選択されるスフェロン成分ペプチドを過剰発現する)を有する動物を含んでなる。試験動物は、1またはそれより多くの上述した群から選択されるスフェロン成分ペプチドを投与されている(ここで投与は、くも膜下腔内、静脈内、脳室内、または他の投与経路によって)動物を含んでなる。したがって動物モデルを作成する方法は、上述の群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチドを発現する遺伝子を調製すること、動物の脳に当該遺伝子を導入すること(たとえば、当該技術分野において周知の方法により、遺伝子組換えメカニズムで)、および、スフェロン成分ペプチドを過剰発現するように当該遺伝子を誘導すること、を含む。試験動物を作成する方法は、上述の群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチドを動物に投与することを含む。
【0027】
[0019] 動物モデルまたは試験動物を使用する方法は、試験動物の群を調製すること、または、上述の群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチドを過剰発現する遺伝子をその脳内に有する動物の群を調製すること、そして次いでスフェロン成分ペプチドを過剰発現するよう当該遺伝子を誘導することを含む。当該方法は、選択した動物群に試験化合物を投与し、動物を屠殺し、そして次いで屠殺した動物の脳内に存在する単離されたスフェロン成分ペプチドの量を測定し、および/または当該遺伝子の部位またはその周囲での生存細胞の割合を測定し、および/または遺伝子の過剰発現との関連において脳の傷害を測定し、および/または動物におけるいずれかの変化した脳機能、行動などを測定することを含む。当該方法は、対照と比較したときに単離されたスフェロン成分ペプチドの量を減少させる試験化合物を選択することにより、および/または、試験化合物を投与しなかった対照と比較したときに当該遺伝子の部位またはその周囲での生存細胞の高い割合を生じた試験化合物を選択することにより、および/または、対照と比較して遺伝子の過剰発現との関連においてより少ない脳の傷害を生じた試験化合物を選択することにより、および/または、対照と比較して動物における改善された脳機能、行動などを生じた試験化合物を選択することにより終結する。
【0028】
[0020] 本発明の多様な態様のこれらおよび他の特徴は、実施例を含む発明の詳細な説明を参照することにより、当業者に容易に明確になるであろう。
【0029】
好ましい態様の詳細な説明
[0021] 本明細書で使用する用語および語句は、他に言及しない限り、下記に示すとおりである。他に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されるのと同じ意味である。本明細書に記載する方法および材料に類似または同等のいずれかの方法および材料を、本発明の実施または試験に用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料がここに記載される。本明細書で言及するすべての文献は、本発明との関連において使用するかもしれない、当該文献で報告された化合物、分子、細胞系、ベクター、および方法論を記載および開示する目的で引用される。本明細書のいかなるものも、本発明が先行発明に基づいてそのような開示が予期されることを承認すると解釈されてはならない。
【0030】
[0022] 本記載を通して、語句「アルツハイマー病および関連状態」とは、題目「脳のアミロイドーシス」の下に類別される状態を意味する。そのような状態は、非限定的に、アルツハイマー病[初老性認知症、老人性認知症];ダウン症に関連するアルツハイマー病;パーキンソン病のような、他の中枢神経系疾患に関連するアルツハイマー病;コンゴレッド親和性血管障害[アルツハイマー病に関連するまたは関連しない]、および、前頭側頭認知症(FTD)、軽度認知機能障害、などの他の認知症、を含む。本記載を通して、語句「DMS成分」または「スフェロン成分」とは、DMSの内側もしくは中央領域、または該膜部分に由来する、DMSのいずれかの成分、タンパク質、非タンパク質、または、タンパク質および非タンパク質の混合物を意味する。本記載を通して、語句「分裂する」または「DMSを含んでなる懸濁液を消化する」とは、DMSがDMS成分に分解されるいずれかの工程を意味する。
【0031】
[0023] 「スフェロン成分」は本明細書において、スフェロン(以前はDMS)の成分を意味し、そして本明細書に具体的に記載するもの、ならびに米国特許第6,309,892号および米国特許第5,525,339号(これらの開示内容は引用によりその全体が本明細書に援用される)に記載のいずれかおよびすべての成分を含む。
【0032】
[0024] 本明細書および付属する請求項において、単数形“a”、“an”、および“the”は、内容が明らかに言及しない限りにおいて、複数に言及することを含む。よって、例えば、「宿主細胞(単数)」への言及はそのような宿主細胞の複数を含み、「抗体(単数)」への言及は1またはそれより多くの抗体および当業者に公知のそれらの等価物を含む、などである。
【0033】
[0025] 本明細書に記載されるアミノ酸およびアミノ酸残基は、下記の表に提供される受け入れられている一文字または三文字コードにしたがって言及されてもよい。本明細書に記載されるこれらのアミノ酸または残基は、天然に存在するL立体異性体型のものであり、そしてラセミ化されたD立体異性体型も含む。
【0034】
【表1−1】

【0035】
[0026] 本明細書において用いられる、語句「フラグメント」は、主題のアミノ酸配列または主題の分子の連続した続きからなるタンパク質またはポリペプチドを意味し、そしてスプライスバリアントおよび天然に存在するin vivoプロテアーゼ活性に起因するフラグメントのような天然に存在するフラグメントを含む。「主題のアミノ酸配列」および「主題の分子」は、本明細書においてフラグメント化されているまたはそうでなければ修飾されているアミノ酸配列または分子を意味する。そのようなフラグメントは、アミノ末端、カルボキシ末端、および/または内部で切断されて(例えば自然のスプライシングにより)いてもよい。そのようなフラグメントは、アミノ末端メチオニンを伴って、または伴わずに調製されていてもよい。語句「フラグメント」は、共通またはそうではない連続したアミノ酸配列とともに、直接またはリンカーを介してのいずれかで、一緒に連なった主題のアミノ酸配列に由来する、同一または異なる、フラグメントを含む。
【0036】
[0027] 語句「変異体」は、主題のアミノ酸配列または主題の分子と比較して1またはそれより多くのアミノ酸置換、欠失、および/または挿入が存在するタンパク質またはポリペプチドを意味し、そして天然に存在するアレル変異体またはその代替のスプライスバリアントを含む。語句「変異体」は、ペプチド配列における1またはそれより多くのアミノ酸の、類似もしくは相同のアミノ酸または非類似のアミノ酸を伴う、置き換えを含む。アミノ酸を類似または相同について順位付けできる多くの指標がある。(Gunnar von Heijne,Sequence Analysis in Molecular Biology,p.123−39(Academic Press、ニューヨーク州ニューヨーク 1987年))好ましい変異体は1またはそれより多くのアミノ酸位置でのアラニン置換を含む。他の好ましい置換は、タンパク質の総体的な正味の電荷、極性または疎水性についてほとんど効果がないまたは全く効果がない、保存的置換を含む。保存的置換は以下の表1に示されるものである。
【0037】
【表1−2】

【0038】
表2は別のアミノ酸置換の枠組みを示す:
【0039】
【表2】

【0040】
[0028] 他の変異体は、(a)置換の領域におけるポリペプチド骨格の構造、例えばシートまたはへリックス構造、(b)標的部位での分子の電荷または疎水性、または(c)側鎖のかさ高さ、を維持する効果についてより著しく異なる残基を選択する、より保存的でないアミノ酸置換からなることができる。一般的に機能におけるより著しい効果が期待される置換は、(a)グリシンおよび/もしくはプロリンが、別のアミノ酸によって置換される、もしくは欠失する、もしくは挿入される;(b)親水性残基、例えばセリンもしくはスレオニンが、疎水性残基、例えばロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、バリンもしくはアラニンを置換する(もしくは、によって置換される);(c)システイン残基が他の残基を置換する(もしくは、によって置換される);(d)電気的に正の側鎖を有する残基、例えばリジン、アルギニンもしくはヒスチジンが、電気的に負の側鎖を有する残基、例えばグルタミン酸もしくはアスパラギン酸を置換する(もしくは、によって置換される);または、(e)かさ高い側鎖を有する残基、例えばフェニルアラニンが、そのような側鎖を有しないもの、例えばグリシンを置換する(もしくは、によって置換される);置換である。
【0041】
[0029] 他のバリアントは、新規のグリコシル化および/もしくはリン酸化部位(単数または複数)を生じるように設計されたもの、または存在しているグリコシル化および/もしくはリン酸化部位(単数または複数)を欠失するように設計されたもの、を含む。変異体は、グリコシル化部位、タンパク質分解切断部位および/またはシステイン残基における少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。変異体はまた、リンカーペプチド上の主題の実体の前または後の追加のアミノ酸残基とともに主題のアミノ酸配列または主題の分子を含む。例えば、システイン残基を、ジスルフィド結合の形成により環化させるために、アミノおよびカルボキシ末端の両方に付加してもよい。語句「変異体」はまた、主題の実体の3‘または5’末端のいずれかに隣接する少なくとも1つおよび25までまたはそれより多くの追加のアミノ酸とともに、主題のアミノ酸配列または主題の分子のアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味する。
【0042】
[0030] 語句「誘導体」は、化学的に修飾されたタンパク質またはポリペプチドを意味し、ここでそれらは、天然の過程、例えばプロセッシングおよび他の翻訳後修飾、によってのみならず、化学的修飾技術、例えば、1またはそれより多くのポリエチレングリコール分子、糖、リン酸、および/または他のそのような分子の付加によるもの、ここで当該分子(単数)または分子(複数)は野生型の主題のアミノ酸配列または主題の分子に天然には連結していない、によって化学的に修飾されている。誘導体は塩を含む。そのような化学的修飾は基本的な教科書およびより詳細な研究論文、ならびに膨大な研究文献によく記載されており、そしてそれらは当業者に周知である。同じ型の修飾が、所定のタンパク質またはポリペプチドにおけるいくつかの部位において同じ度合いまたは変化させた度合いで、存在してもよいことは理解されるだろう。また、所定のタンパク質またはポリペプチドは多くの型の修飾を含有してもよい。
【0043】
[0031] 修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノまたはカルボキシル末端を含む、タンパク質またはポリペプチドのいかなる場所において生じることができる。修飾は、例えば、アセチル化、アシル化、ADP−リボシル化、アミド化、フラビンの共有結合連結、ヘム部分の共有結合連結、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合連結、脂質または脂質誘導体の共有結合連結、ホスファチジルイノシトール(phosphotidylinositol)の共有結合連結、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、システインの形成、ピログルタメートの形成、ホルミル化、γ−カルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、水酸化、ヨード化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク質分解プロセッシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、グリコシル化、脂質連結、硫酸化、グルタミン酸残基のγ−カルボキシル化、水酸化およびADP−リボシル化、セレノイル化、硫酸化、アルギニン化のようなトランスファーRNAを介したアミノ酸のタンパク質への付加、およびユビキチン化、を含む。例えば、Proteins−Structure And Molecular Properties,第2版,T.E.Creighton,W.H.Freeman and Company,ニューヨーク(1993)、およびWold,F.,“Posttranslational Protein Modifications:Perspectives and Prospects”1−12頁、Posttranslational Covalent Modification Of Proteins中,B.C.Johnson編,Academic Press,ニューヨーク(1983);Seifterら,Meth.Enzymol.,182:626−646(1990)およびRattanら,“Protein Synthesis:Posttranslational Modifications and Aging,”Ann.N.Y.Acad.Sci,663:48−62(1992)を参照。語句「誘導体」は、タンパク質またはポリペプチドが、分岐するまたは、分岐化を伴うもしくは伴わない環化する結果となる化学的修飾を含む。環状、分岐状および分岐環状タンパク質またはポリペプチドは、翻訳後の天然の過程の結果であってもよく、そしてまた、完全に合成的手法で作成されてもよい。
【0044】
[0032] 語句「ホモログ」は、そのアミノ酸配列において少なくとも60パーセント同一のタンパク質またはペプチドを意味し、それは、二つのポリペプチドのアミノ酸の位置における類似性を比較するのに一般的に用いられる、標準的な方法によって決定される。二つのタンパク質の類似性または同一性の度合いは、公知の方法によって容易に計算することができ、そのようなものは、非限定的に、Computational Molecular Biology,Lesk A.M.編,Oxford University Press,ニューヨーク,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.編, Academic Press,ニューヨーク,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part I,Griffin,A.M.およびGriffin,H.G.編,Humana Press,ニュージャージー,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.およびDevereux,J.編,M Stockton Press,ニューヨーク,1991;およびCarillo H.およびLipman,D.,SIAM,J.Applied Math.,48:1073(1988)に記載されたものを含む。同一性を決定する好ましい方法は、試験した配列間で最大のマッチを与えるように設計される。同一性および類似性を決定する方法は、公衆に利用可能なコンピュータープログラムにコード化されている。
【0045】
[0033] 二つの配列間の同一性および類似性を決定するのに有用な好ましいコンピュータープログラム方法は、非限定的に、GCGプログラムパッケージ(Devereux,J.ら,Nucleic Acids Research,12(1):387(1984))、BLASTP、BLASTN、およびFASTA、(Atschul,S.F.ら,J.Mole.Biol.,215:403−410(1990))を含む。BLAST X プログラムは、NCBIおよび他の供給源から公衆に利用可能である(BLASTマニュアル、Altschul,S.ら,NCBI NLM NIH メリーランド州ベセズダ 20894;Altschul,S.,J.Mol.Biol.,215: 403−410(1990))。例として、GAP(Genetic Computer Group、ウイスコンシン大学、ウイスコンシン州マディソン)のようなコンピュータアルゴリズムを用いて、配列同一性パーセントが決定される二つのタンパク質またはポリペプチドはそれらそれぞれのアミノ酸の最適マッチングのために整列させる(アルゴリズムによって決定される「マッチしたスパン(matched span)」)。
【0046】
[0034] gapオープニングペナルティ(平均対角(average diagonal)の3x(倍)として計算される;「平均対角」とは用いられた比較マトリクスの対角の平均である;「対角」とは特定の比較マトリクスによって個々の完全なアミノ酸に割り当てられたスコアまたは数である)およびgap伸長ペナルティ(通常はgapオープニングペナルティの1/10である)、ならびにPAM250またはBLOSUM62のような比較マトリックスが、アルゴリズムとともに用いられる。標準的な比較マトリクス(PAM250比較マトリクスについてDayhoffら:Atlas of Protein Sequence and Structure,vol.5,supp.3[1978];BLOSUM62比較マトリクスについてHenikoffら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:10915−10919[1992]、を参照)もまたアルゴリズムで用いてもよい。そしてパーセント同一性が当該アルゴリズムによって計算される。ホモログは、典型的には、主題のアミノ酸配列または主題の分子と比較して、1またはそれより多くのアミノ酸置換、欠失、および/または挿入を有するであろう。
【0047】
[0035] 語句「組合せ」は、本明細書に記載されるペプチドの組合せに言及する限りにおいて、二つまたはそれより多くのペプチドの様々な順列および組合せを意味する。例えば、組合せは、先頭から末尾が結合された、または配列番号1の最後の7アミノ酸とともに配列番号2の最初の5アミノ酸が結合された、などの、配列番号1−4の組合せを含むことができる。
【0048】
[0036] 語句「ペプチド模倣体」または「模倣体」は、ペプチドまたはタンパク質の生物学的活性を模倣する生物学的に活性な化合物であるが、化学的性質においてもはやペプチド性ではない、すなわち、それらはもはやいずれのペプチド結合(すなわち、アミノ酸間のアミド結合)も含有しない、ものを意味する。本発明の背景において、ペプチド模倣体という表現は、その性質が完全なペプチド性ではもはやない分子、例えば偽ペプチド(pseudo-peptide)、セミペプチドおよびペプトイドを含む、より広い意味合いで用いられる。このより広い意味合いのペプチド模倣体(ペプチドの一部がペプチド結合を欠く構造で置き換えられている)の例は、以下に記載される。完全にまたは部分的に非ペプチドであるかに関わらず、本発明のペプチド模倣体は、当該ペプチド模倣体が基礎とする主題のアミノ酸配列または主題の分子における活性基の三次元配置を厳密に似せている、反応性の化学的部分の空間的配置を提供する。この類似の活性部位の幾何学配置の結果として、当該ペプチド模倣体は、主題の実体の生物学的活性に類似の、生物学的システムにおける効果を有する。
【0049】
[0037] 本発明のペプチド模倣体は、好ましくは、本明細書に記載の主題の実体に対して、三次元形状および生物学的活性の両方について、実質的に類似である。ペプチド模倣体を作るためのペプチドを構造的に修飾する当業者に公知の方法の例は、活性に悪影響を与えることなく、タンパク質分解的消化に対して高められた安定性を導いてもよい、特にN末端におけるD−アミノ酸残基構造に導く骨格キラル中心の反転を含む。例が論文 “Tritriated D−ala−Peptide T Binding”,Smith C.S.ら,Drug Development Res.,15,pp.371−379(1988)に記載されている。第二の方法は、NからCへの鎖間イミドおよびラクタムなど、安定性のために環状構造に変えることである(Edeら,SmithおよびRivier(編)“Peptides:Chemistry and Biology”, Escom,ライデン(1991),pp.268−270中)。この例は、米国特許第4,457,489号(1985)(Goldstein,G.ら、その開示内容は引用により本明細書に完全に援用される)に開示されているような、高次構造的に制限されたチモペンチン様化合物に提供される。第三の方法は、主題の実体におけるペプチド結合を、タンパク質分解に対する耐性を与える偽ペプチド結合で置き換えることである。
【0050】
[0038] いくつかの偽ペプチド結合は、一般的にペプチド構造および生物学的活性に影響を及ぼさないと記載されている。この手法の一例は、レトロインバーソ(retro-inverso)偽ペプチド結合(“Biologically active retroinverso analogues of thymopentin”,Sisto A.ら,Rivier,J.E.およびMarshall,G.R.(編)“Peptides,Chemistry,Structure and Biology”,Escom,ライデン(1990),pp.722−773中、およびDalpozzoら,(1993),Int.J.Peptide Protein Res.,41:561−566、引用により本明細書に援用する)に置換することである。この修飾によりペプチドのアミノ酸配列は、1またはそれより多くのペプチド結合がレトロインバーソ偽ペプチド結合によって置き換えられていることを除いては、本明細書に記載の主題のアミノ酸配列または主題の分子の配列と同一であってもよい。好ましくはもっともN末端のペプチド結合が置換される、それはそのような置換はN末端に作用するエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対する耐性を与えるからである。さらなる修飾は、アミノ酸の化学基を別の類似の構造の化学基で置き換えることによりなされることもできる。酵素的切断に対する安定性を高め、生物学的活性の損失がないまたはほとんどないものとして知られる、別の適切な偽ペプチド結合は、還元同配体(reduced isostere)偽ペプチド結合である(Couder ら(1993)Int.J.Peptide Protein Res.,41:181−184、引用によりその全体を本明細書に援用する)。
【0051】
[0039] よって、これらのペプチドのアミノ酸配列は、1またはそれより多くのペプチド結合が同配体偽ペプチド結合で置き換えられていることを除いては、主題のアミノ酸配列の配列と同一であってもよい。本明細書において、表現「アミノ酸配列(単数または複数)」は好ましくは、少なくとも2つ、好ましくは少なくとも4つ、そしてさらに好ましくは少なくとも5つ、のアミノ酸の配列を意味する。好ましくは、最もN末端のペプチド結合が置換されている、それはそのような置換はN末端に作用するエキソペプチダーゼによるタンパク質分解に対する耐性を与えるからである。1またはそれより多くの還元同配体偽ペプチド結合を伴うペプチドの合成は、当該技術分野において公知である(Couderら(1993)、上記で引用)。ほかの例は、ペプチド結合を置き換えるための、ケトメチレンまたはメチルスルフィドの導入を含む。
【0052】
[0040] 主題のアミノ酸配列および主題の分子のペプトイド誘導体は、生物学的活性のための重要な構造決定基を保持しつつ、ペプチド結合を除くことによりタンパク質分解に対する耐性を与える、ペプチド模倣体の別のクラスを示す(Simonら.,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:9367−9371、その全体を引用により本明細書に援用する)。ペプトイドはN−置換グリシンのオリゴマーである。天然のアミノ酸の側鎖にそれぞれ対応する、N−アルキル基のいくつかが記載されている(Simon, ら. (1992)、上記で引用)。主題のアミノ酸配列のアミノ酸のいくつかまたはすべては、置換されるアミノ酸に対応したN−置換グリシンで置き換えられていてもよい。
【0053】
[0041] 本明細書で用いられる、「所定の分子を含んでなる組成物」(例えば、抗体、二重特異性抗体、またはダイアボディ)または「所定のアミノ酸配列を含んでなる組成物」という語句は、所定の分子、ポリヌクレオチドまたはアミノ酸配列を含有するいずれかの組成物を広く意味する。組成物は、乾燥処方物、水溶液、非水性溶媒中の溶液、または滅菌組成物を含んでなっていてよい。組成物は、凍結乾燥型で保管してもよく、そして糖質のような安定剤とともに結び付けられていてもよい。ハイブリダイゼーションおよび他の用途において、当該組成物は、塩、例えばNaCl、界面活性剤、例えばドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および他の成分、たとえばデンハルト溶液、乾燥ミルク、サケ精子DNAなど、を含有する水溶液中に展開していてもよい。
【0054】
[0042] 本記載を通して、および付随する請求項中で、「ペプチド」、「スフェロン成分ペプチド」および特定のアミノ酸配列への言及は、具体的に特定されたそれらの配列を含み、そしてそのフラグメント、変異体、誘導体、ホモログ、組合せ、模倣体およびラセミ化体を含む。
【0055】
[0043] 本記載を通して、「特異的結合」もしくは「特異的に結合」、「結合」、「結合する」および/または「認識する」との表現は、分子、タンパク質もしくはペプチドと、アゴニスト、抗体もしくはアンタゴニストの間の相互作用を意味する。相互作用は、タンパク質の特定の構造、例えば、結合分子によって認識される抗原決定基またはエピトープ、の存在に
依存する。例えば、もしある抗体がエピトープ“A”に特異的である場合、フリーの標識されたAおよび当該抗体を含有する反応物中の、エピトープAを含有するペプチドの存在、またはフリーの標識されていないAの存在は、当該抗体に結合する標識されたAの量を減少させることになるであろう。
【0056】
[0044] 本発明者は、アミロイドプラーク形成の直接の原因となるスフェロン成分ではない、ある種のスフェロン成分ペプチドが、とりわけ、細胞毒性であることを見出した。本発明者は、これらの特定のスフェロン成分ペプチドが脳細胞の生存度を減少させることを見出した。これらのスフェロン成分ペプチドの細胞毒性効果は、動物の脳において放出されたときに、アミロイド産生効果とは区別可能な脳損傷、神経細胞機能障害、およびアルツハイマー病症状を引き起こすと考えられる。この発見に基づいて、そして製造または操作のいずれの理論に拘束されることを意図せず、本発明者はスフェロン成分ペプチドの細胞毒性および/または神経細胞機能障害を減少させるおよび/または防ぐことは、アルツハイマー病または脳のアミロイドーシスに関連する認知症の少なくとも1またはそれより多くの症状を予防および/または改善するであろうと考える。
【0057】
[0045] 本発明者はまた、スフェロンから放出される際の濃度でのこれらの特定のスフェロン成分の存在は、多くの他の不都合な作用を引き起すかもしれないと考える。本明細書に記載のスフェロン成分ペプチドは、グラニン様神経内分泌ペプチド前駆体として知られる、proSAASと呼ばれるタンパク質の一部分に類似しそして矛盾しない。proSAASは、1nMの組織濃度で活性である。スフェロンに由来するproSAASは、脳内でスフェロン中に、1nMよりずっと高い脳内濃度で存在する。ラセミ化されたproSAASも脳内でスフェロン中に存在すると考えられる。キラル炭素が対称性を持つ中間体を通るときに、光学的に活性なアミノ酸は通常ラセミ化されている(D−L混合物に転換されている)。操作のいずれかの理論に拘束されることを意図しないが、スフェロン中に存在するproSAASおよび本明細書に記載のペプチド成分ペプチドは、時間をかけて、ラセミ化されると考えられる。L−イソアスパルチルおよびD−アスパルチル残基は、タンパク質のL−アスパラギン酸残基およびL−アスパラギン残基の時間をかけた自然な分解の結果生じることが知られている。Clarke,S.,Int.J.Pept.Protein Res.Vol.30,pp.808−821(1987)。
【0058】
[0046] 上述した濃度において、proSAASおよび本明細書に記載のスフェロン成分ペプチド、ならびにそれらのラセミ化型は、プロタンパク質転換酵素1(PC1)阻害、(ならびにプロタンパク質転換酵素PC2−PC8について増大した活性)、およびフューリン、の大きく増大した活性を提供し、それは、減少した副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、インスリン、αMSH、βエンドルフィンおよびエンケファリン産生、ならびに、減少またはそうでなければ変化した甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRF)、 ダイノルフィン、プロインスリン、プログルカゴン、プログルカゴン様ペプチド(GLP)、プロソマトスタチン、プロ膵ペプチド、プロGHRH、神経ペプチド メラミン濃縮ホルモン、NEI、ニューロテンシン、オピオイドペプチド、および他のペプチド、ならびに神経機能不全、を導く。加えて、プロタンパク質転換酵素阻害の大きく増大した活性は、アミロイド前駆体タンパク質(APP)の翻訳後プロセッシング、修飾および切断に関与する、proBACE(ベータ部位APP切断酵素、β−分泌酵素としても知られる)のようなプロ酵素の翻訳後修飾に影響を及ぼすであろう。これらの成分はまた、proSAASドメインからの増大した神経ペプチドを提供する。上記のすべては、グルコース生成(インスリンおよびACTH)の撹乱、コルチコステロイド経路(ACTH)の撹乱、チロイド経路(TRH)の撹乱、エンケファリンの撹乱、他の重要な生物活性の脳の分子および分子経路の撹乱、ならびに、グルカゴン、ソマトスタチン、膵ペプチド、GHRH、神経ペプチド メラニン濃縮ホルモン、NEI、ニューロテンシン、およびオピオイドペプチドの撹乱、を含むがこれらに限定されない効果のカスケードへと導くと考えられる。これら上記の多様性のある生化学的経路の不均衡は、疾患を引き起こしそして症状を引き起こすものとして周知である。これらの不均衡は、行動および精神および認知の症状を生じ、後者は、種々の型の認知症およびアルツハイマー病のような神経変性障害にみられるものと類似する。
【0059】
[0047] したがって本発明者は、スフェロンに由来する異常に上昇したproSAAS濃度は、脳における異常に上昇した量のproSAASの有害な効果を改善または減弱するのに効果的であろう化合物によって薬理学的に遮断されるだろうと考えている。さらに、スフェロンに由来する異常に上昇したproSAAS濃度は、スフェロンとの関連において脳内で異常に上昇した量のproSAASによってもたらされる、プロオピオメラノコルチン(POMC)の減少した崩壊の有害な効果を改善または減弱するのに効果的であろう化合物によって薬理学的に遮断されるであろうことが予見される。さらにスフェロンに由来する異常に上昇したproSAAS濃度は、脳内で異常に上昇した量のproSAASによってもたらされる、ACTH、インスリンおよびエンケファリンに関する分子および経路の上昇したレベルの有害な効果を改善または減弱するのに効果的であろう化合物によって薬理学的に遮断されるであろうことが予見される。
【0060】
[0048] 本発明者はまた、生きている組織中のproSAASの部分に類似しそして矛盾しないスフェロン成分ペプチドの存在は、以前に報告されたように、スフェロンの分裂の指標となり、そしてしたがって脳のアミロイドーシスの始まりとなるのみならず、他の生きている組織細胞死を引き起こす限りにおいて毒性がある、と考えている。これらのスフェロン成分ペプチドの存在はまた、PC1およびPC2阻害についての大きく増大した活性を有し、減少したACTH、インスリンおよびエンケファリン産生;ならびに減少したTRF、ダイノルフィンおよび他のペプチドを導くであろう。これらの濃度におけるproSAASおよびそのフラグメントの存在はまた、proSAASドメインからの増加した神経ペプチドを導く。
【0061】
[0049] 本発明者は生きている哺乳類の脳組織中に存在するスフェロン成分ペプチドは、脳のアミロイドーシスのマーカーであり、そしてそれは、それが存在する、生きている組織中の細胞ネクローシスを引き起こすことにより、脳のアミロイドーシスを悪化させると考えている。したがって、哺乳類が脳のアミロイドーシスに苦しめられるようになるほど、スフェロンは分裂、破裂、および/またはそうでなけれ分解し始め、それによりスフェロン成分ペプチドを産生すると考えられる。本発明者は、このように産生されたスフェロン成分ペプチドのいくつかは、有害なアミロイドタンパク質の前駆体となると考えられる一方、他のスフェロン成分ペプチドはアミロイドを形成することなくスフェロン成分の近傍の他の生きている組織(例えば、他の神経細胞および脳組織)を破壊し始め、それにより疾患の進行を悪化させると考えている。上述した他の状態に加えて、これらの状態は、スフェロンから放出されたと考えられるproSAAS、またはそのフラグメントの増加した異常に高い濃度によって引き起こされる。
【0062】
[0050] したがって本発明は、脳損傷および他の疾患を治療するまたは改善する方法であって、それを必要とする動物に、アミロイドプラーク形成の直接の原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドの細胞毒性効果(および本明細書に記載のまたは後に発見される、他の心身に有害な効果)を防ぐ化合物を投与することを含む前記方法に関し、当該スフェロン成分ペプチドは:
【0063】
【化4】

【0064】
から選択される1またはそれより多くの成分、ならびにその変異体、誘導体、ホモログおよびペプチド模倣体、から選択され、ここでスフェロン成分ペプチドはラセミ化されている。好ましくは、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)は:(i)L立体異性体型からD立体異性体型に転換されている;(ii)D立体異性体型で置き換えられている;または(iii)そうでなければ他の立体異性的変化を受けている。
【0065】
[0051] 本発明の方法および組成物は、アルツハイマー病、血管性認知症または多発脳梗塞性認知症、レビ小体を伴う認知症、パーキンソン病、ピック病、前頭側頭認知症(FID)、および軽度認知障害を含む疾患を治療するのに有効である。したがって、本発明の組成物は、脳におけるスフェロンによるproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出の効果を打ち消す化合物の薬剤的に有効量を含む。そのようなスフェロン成分の効果を打ち消すことは、多くの方法により達成できるが、最終的な結末はどのような形にせよそのようなスフェロン成分を不活性にする(またはそれらの心身に有害な効果を相殺することにより)ことである。好ましくは、組成物は:(i)脳内のスフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出により引き起こされる、脳または他の神経内分泌組織におけるプロタンパク質転換酵素1−8(PC1−PC8)およびフューリンの異常に阻害された活性;(ii)脳におけるスフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出により引き起こされる、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の異常な減少;(iii)脳におけるスフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出により引き起こされる、インスリンの異常な減少;(iv)脳におけるスフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出により引き起こされる、エンケファリンの異常な現象;(v)脳におけるスフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出により引き起こされる、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)の異常な減少;(vi)脳におけるスフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出により引き起こされる、ダイノルフィンの異常な減少;および(vii)本明細書に記載の異常に増加した他のproSAASフラグメントにより引き起こされる、ニューロテンシン効果および細胞シグナリング効果などの異常に増加した効果、の効果を打ち消す。
【0066】
[0052] 本発明の組成物、方法、および化合物はまた、脳内のスフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出による、PC1または他の転換酵素(例えば、PC2−PC8、SPC3)およびフューリンの阻害を減少させるまたは打ち消すのに効果的である。好ましくは、本発明の化合物、組成物および方法は、(i)脳のACTH;(ii)脳のインスリン;(iii)脳のエンケファリン;(iv)脳のTRH;(v)脳のダイノルフィン;(vi)脳のαMSHおよびβエンドルフィン;(vii)脳のプロインスリン;(viii)脳のプログルカゴン;(ix)脳のプロソマトスタチン;(x)脳のプロ膵ペプチド;(xi)脳のプロGHRH;(xii)脳の神経ペプチド メラミン濃縮ホルモン;(xiii)脳のNEI;(xiv)脳のニューロテンシン;および、(xv)脳のオピオイドペプチド、などを増加またはそうでなければ変化させることにより、脳内のスフェロンからのproSAASまたはペプチドフラグメントの放出の効果を打ち消す。
【0067】
[0053] 上述したレベルは、上記に列挙した特定の成分を添加することにより増加させることができ、そして従って、本発明の組成物および方法は、プロタンパク質転換酵素、そのフラグメント、ドメインまたはサブユニットのような上記に列挙した成分の1またはそれより多くを含み、ここでプロタンパク質転換酵素は、脳内のスフェロンから放出されたproSAASまたはペプチドフラグメント(例えば、配列番号1〜23)に対して親和性を有する。組成物は、脳内のスフェロンから放出されたproSAASまたはペプチドフラグメント(例えば配列番号1〜23)に対する親和性を有する抗体、抗体フラグメントまたは短鎖抗体を含んでもよい。加えて、本発明の組成物は、PC1、または以下:
【0068】
【化5】

【0069】
からなる群より選択されるPC1の活性部位の1もしくはそれより多く、の添加によりPC1の阻害を打ち消す化合物を含んでもよい。
【0070】
[0054] 先に述べたように、上記に列挙したスフェロン成分ペプチドは、グラニン様神経内分泌ペプチド前駆体として知られる、pro−SAASと称されるタンパク質の全体または部分と類似し、矛盾しない。pro−SAASの同定および特徴付けは、Fricker,L.D.ら,“Identification and Characterization of pro−SAAS,a Granin−Like Neuroendocrine Peptide Precursor that Inhibits Promormone Processing” ,J.Neurosci,20(2):639−648(2000)に記載されている。pro−SAASは動物における肥満に関係していると考えられている。proSAASまたはpro−SAASの部分を形成するいずれかの可能なペプチドが、スフェロンといずれかの関係があること、あるいは、脳細胞におけるいずれかの細胞毒性効果があること、または、アルツハイマー病、認知症、もしくは脳のアミロイドーシスといずれかの関係があることは、従来知られていなかった。また、pro−SAASの全体または部分を形成するいずれかの可能なペプチドが、いくつかの有害な効果のいずれかを引き起こすのに十分に高い濃度で、スフェロンによって放出されるまたはそうでなければスフェロンに由来することは従来知られていなかった。
【0071】
[0055] 本発明の態様の別の特徴によると、以下:(i)スフェロンからのproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出を妨害するまたは妨げる;(ii)スフェロンから放出されたproSAASまたはそのペプチドフラグメントに結合する、を阻害する、をアンタゴナイズする、または、と競合する;(iii)スフェロンから放出されたproSAASまたはそのペプチドフラグメントの細胞毒性または他の有害な効果を減少させるまたは防ぐ;の1またはそれより多くを行う化合物を含んでなる組成物を提供し、ここで、proSAASまたはそのペプチドフラグメントは、アミロイドプラークを形成する原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドであって、当該スフェロン成分ペプチドは上述の群から選択される成分の1またはそれより多くである。
【0072】
[0056] 上記のスフェロン成分ペプチドは、公知であり、前述の文献に記載の、ならびに米国特許第5,525,339号および第6,309,892号に記載の技術を用いて単離および精製することができる。スフェロンは哺乳類の脳組織から由来してもよく、そして、本質的に均一の型で、約0.1μmから約15μmの直径の範囲で、そしてある染色特性によって特徴付けされてもよい。この点について、「均一」とは、スフェロンが、光学顕微鏡のレベルで、主題の組成物において唯一の識別できる構造を呈することを意味する。例えば、本発明の微小球状体(microspheric bodies)は、オスミウムおよび鉄で染色したときに均一に電子密度が高く(electron-dense)、そして薄切片電子顕微鏡によって可視化でき;光学顕微鏡での実験において、それらはエオシン好性でフィロキシン好性(phloxinophilic)であり、そしてコンゴレッドで染色したときに非複屈折性である。本発明の微小球状体が、分裂し、または分解し、または消化されたとき、コンゴレッド親和性の複屈折;すなわち、コンゴレッドで染色したときにその物質は、入射光線波を互いに垂直な振動面の二つの波に分けるという点で、光学的に異方性になる、を呈する物質が生成する。アミロイドタンパク質はまた、スフェロンにおける免疫学的標識法によって検出することができる。
【0073】
[0057] 球状の、細胞内スフェロンは典型的にヒトおよび他の哺乳類の、脳の灰白質神経網(そこには球状構造物が小さな、神経細胞の細胞突起に囲まれている)においてみられる。スフェロンは通常、単独で、非神経細胞体性で、そして非集密的であり、ならびに、小脳または白質においては容易にはみられない。スフェロン間距離については、灰白質領域におけるスフェロンの空間配置はランダムである。均一型でのスフェロンの組成物は、米国特許第4,816,416号および第5,231,170号(これらの内容全体は引用により本明細書に援用する)に記載の手法にしたがった球状体の均一な試料を製造するための抽出により製造することができる。スフェロンはアミロイドを含有する。
【0074】
[0058] 上述した手法にしたがって調製したスフェロンの均一な組成物は、上述した米国特許第4,816,416号および第5,231,170号に記載された手法によって分裂させ、そしてディファレンシャル勾配遠心分離にかけることができる。異なる沈降層として単離された物質はコンゴレッドで染色する。本発明者は、スフェロン成分は主として脳のアミロイドプラーク形成の原因となると考えている。スフェロン膜のタンパク質成分は従来の抽出技術によって単離できる。スフェロン成分のさらなる分析は、そのような成分の抽出により、そして当業者に周知のクロマトグラフィーのような従来の方法によって、達成することができる。
【0075】
[0059] スフェロンは、本発明に従った使用に適したスフェロン成分を生じるための種々の方法により処理されることができる。これらの方法の例は:(a)TRIS、グリセロール、β−メルカプトエタノール、ブロモフェノールブルー、およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むPAGEバッファー溶液、(b)超音波照射、および(c)0.25M 酢酸、6M グアニジンHCl、ギ酸、6M 尿素、ペプシンおよび臭化シアノゲンの種々の組合せで処理することなどの他のタンパク質分解処理、である。結果として生じたスフェロン成分の均一な組成物は、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)によりそれらの分子量にしたがって、または逆相高速液体クロマトグラフィー(rpHPLC)によりそれらの疎水性の度合いにしたがって、成分を単離することによってさらに純化することができる。PAGEによって単離されたスフェロン成分は、別個の遊走性または非遊走性成分のいずれかとしてさらに特徴付けすることができる。スフェロン成分はまた、脳脊髄液および他の体液から、上記の抽出方法を用いて抽出することができる。
【0076】
[0060] 本明細書に概略を示した方法にしたがって抽出した多数のスフェロン成分のうち、組織培養において細胞毒性であり、そして神経細胞に対してインビボで細胞毒性であると考えられる特定のスフェロン成分ペプチドを下記に列挙する:
【0077】
【化6】

【0078】
【化7】

【0079】
【化8】

【0080】
ここで、スフェロン成分ペプチドはラセミ化されている。好ましくは、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)は:(i)L立体異性体型からD立体異性体型に転換されている;(ii)D立体異性体型で置き換えられている;または(iii)そうでなければ他の立体異性的変化を受けている。
【0081】
[0084] 前述したスフェロン成分ペプチドは、脳におけるこれらのペプチドの効果を防ぎまたは減少させるのに有用な化合物、またはその組合せおよび混合物を同定するために用いることができる。これらのスフェロン成分ペプチドの効果を防ぎまたは減少させることは、アルツハイマー病に伴う症状と同じであると考えられるが、アミロイドプラーク形成によってもたらされるのではない、症状を治療しおよび/または改善するのに役立つであろう。これらのスフェロン成分ペプチドの効果を防ぎまたは減少させることはまた、アルツハイマー病および、スフェロンの位置またはその近くでの脳内のそのような高い濃度でのこれらのスフェロン成分の存在によってもたらされる他の疾患の多くの他の症状を治療しおよび/または改善するのに役立つであろう。
【0082】
[0085] 本発明の1つの側面は、複製可能な細胞、好ましくは腫瘍形成細胞、より好ましくは神経膠種細胞および神経芽腫細胞、を培養し、当該細胞培養物に少なくとも1つのスフェロン成分ペプチドを添加し、そして、次いで、同じ細胞培養物に試験化合物を添加することにより、上記の症状の治療および/または改善において有用な化合物を同定する方法を伴う。当該方法は、次いで、生存細胞の割合を測定し、そして次いで、試験化合物を添加した細胞培養物でみられた生存細胞の割合と試験化合物を添加しなかった対照細胞培養物でみられた生存細胞の割合を比較する、ことを伴う。有用な試験化合物は、上述した例で用いた化合物であって、培養物が対照(すなわち、化合物が投与されていない)よりも統計学的に有意に大きい数の生存細胞を有するものである、として同定される。
【0083】
[0086] 有用な化合物を同定する別の方法は、脳のACTH、脳のインスリン、脳のエンケファリン、脳のTRH、脳のダイノルフィン、脳のαMSHおよびβエンドルフィン、脳のプロインスリン、脳のプログルカゴン、脳のプログルカゴン様ペプチド、脳のプロソマトスタチン、脳のプロ膵ペプチド、脳のプロ−GHRH、脳の神経ペプチド メラミン濃縮ホルモン、脳のNEI、脳のニューロテンシン、ならびに脳のオピオイドペプチドから選択される脳の成分の1またはそれより多くを発現することができる複製可能な細胞を培養し、そして次いで当該細胞培養物に少なくとも1つのスフェロン成分ペプチドを加えることである。次いで、当該細胞培養物に試験化合物を加えることができ、そして上記に列挙した個々の脳の成分の量を測定することができる。有用な試験化合物は、先述した例で用いられたものであって、試験化合物が加えられなかった対照培養物と比較したときに、それを加えた培養物において、脳のACTH、脳のインスリン、脳のエンケファリン、脳のTRH、脳のダイノルフィン、脳のαMSHおよびβエンドルフィン、脳のプロインスリン、脳のプログルカゴン、脳のプロソマトスタチン、脳のプロ膵ペプチド、脳のプロ−GHRH、脳の神経ペプチド メラミン濃縮ホルモン、脳のNEI、脳のニューロテンシン、ならびに脳のオピオイドペプチドを増加させた物質として同定されたものである。
【0084】
[0087] 有用な試験化合物はまた:(i)スフェロンによるproSAASまたはそのペプチドフラグメントの放出を妨害するまたは防ぐ;(ii)スフェロンによって放出されたproSAASまたはそのペプチドフラグメントに結合する、を阻害する、をアンタゴナイズする、または、と競合する;または(iii)スフェロンによって放出されたproSAASまたはそのペプチドフラグメントの細胞毒性効果を減少させるまたは防ぐ;化合物であろう。当業者は、本明細書に提供されるガイドラインを用いて、本明細書に記載の単離されたスフェロン成分を、有用な化合物をアッセイするのに利用することができるであろう。
【0085】
[0088] 本発明の種々の態様はまた、スフェロン成分ペプチドにより引き起こされる神経学的な状態を治療または改善するのに有用な化合物を同定する方法に関し、それは、複製可能な細胞を培養し、そして次いで、当該培養された複製可能な細胞を形質転換し、トランスフェクトし、感染させ、またはそうでなければ誘導して、proSAASまたはそのペプチドフラグメント、変異体、誘導体、ホモログ、または模倣体を発現させることを含む。当該方法は次いで、当該培養細胞に試験化合物を投与し、そして次いで、試験化合物が、対照と比較したときに、proSAASまたはそのペプチドフラグメント、変異体、誘導体、ホモログまたは模倣体の効果を改善し、除去し、または減少させたかどうかを決定することを含む。
【0086】
[0089] 本発明の別の側面は、スフェロン成分ペプチドの効果を防ぐまたは減少させることができる少なくとも1つの化合物を含んでなる組成物を含む。当該組成物は、アミロイドプラーク形成の原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドに結合する、アンタゴナイズする、または競合する、少なくとも1つの単離されたポリペプチドまたは他の化合物を含むことができる。これらの単離されたポリペプチドまたは他の化合物は、上記に簡単に、そしてより詳細を下記に記載した試験プロトコルを使用して同定することができる。当業者は、本明細書に提供されるガイドラインを用いて、上記のスフェロン成分に結合し、上記のスフェロン成分をアンタゴナイズし、または、上記のスフェロン成分と競合するポリペプチドまたは他の化合物を製造しそして単離することができる。
【0087】
[0090] 本発明はまた、スフェロン成分ペプチド、proSAASまたはそのペプチドフラグメント、ラセミ化されたペプチドならびにフラグメント、ドメインおよびサブユニットに対する抗体であるポリペプチドを含む。当業者は、スフェロン成分ペプチド、proSAASまたはそのペプチドフラグメント、ドメインおよびサブユニットに結合するポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を作り出すことができる。当業者は、そのような抗体を使用して、短鎖抗体、および、キメラ抗体またはヒト化抗体を含む、抗体フラグメントを作ることができ、それは類似またはよりよい結合特性を有するが、減少した抗原性、よりよいバイオアベイラビリティ、より容易な製造、およびよりよい血液脳関門透過のような、より好ましい薬理学的性質を有する。
【0088】
[0091] 本発明はまた、スフェロン成分ペプチド、proSAASまたはそのペプチドフラグメント、ラセミ化されたペプチド、ドメインおよびサブユニットが結合するタンパク質受容体のサブ配列またはフラグメントであるポリペプチドを含む。当該ペプチドは、PC1/3、PC2、PC4、PACE4、PC5/6、PC7およびフューリンのようなプロタンパク質転換酵素を含むよう言及される。そのようなポリペプチドは、スフェロン成分ペプチド、proSAASまたはそのペプチドフラグメント、ドメインおよびサブユニットに結合し、そしてそれによってタンパク質基質または受容体と競合する、能力に基づいて選択されるであろう。本発明はまた、そのようなポリペプチドの変異体、ホモログ、融合タンパク質およびペプチド模倣体を含み、そして、当該ポリペプチドのスフェロン成分ペプチド、proSAASまたはそのペプチドフラグメント、ドメインおよびサブユニットへの結合を増大させるそのようなポリペプチドの修飾、例えば、リジルまたはアルギニルクロロメチルケトンのようなクロロメチルケトン誘導体を組み込むことによるもの、を含む。この点に関して有用な追加の化合物は、プロタンパク質転換酵素PC!、および以下:
【0089】
【化9】

【0090】
からなる群より選択されるそれらの活性部位、を含む。
【0091】
[0092] 組成物はまた、好ましくは、アミロイドプラーク形成の原因となるスフェロン成分以外のproSAASまたはそのペプチドフラグメントのスフェロンからの放出を妨害するまたは防ぐ、すくなくとも1つの単離されたポリペプチドまたは化合物を含む。これらの単離されたポリペプチドまたは化合物は、上記に簡単に、そしてより詳細を下記に記載した試験プロトコルを用いて同定することができる。加えて、本発明の組成物は、好ましくは、アミロイドプラーク形成の原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドの細胞毒性または他の心身に有害な効果を減少させるまたは防ぐ、少なくとも1つの単離されたポリペプチドまたは化合物を含む。これらの単離されたポリペプチドは、上記に簡単に、そしてより詳細を下記に記載した試験プロトコルを用いて同定することができる。
【0092】
[0093] 組成物は、それを必要とする動物、例えば、その神経細胞灰白質中に少なくとも1つのスフェロン成分ペプチドを細胞毒性を有する量で有する動物、に療法的に有効な量で投与することができる。本発明の方法にしたがった組成物を投与する方法は、非限定的に、組成物を、筋肉内に、経口で、静脈内に、腫瘍内に、くも膜下腔内に、鼻腔内に、局所的に、経皮的に、エアロゾルを介して、などにより投与することを含む。
【0093】
[0094] 経口投与のための固体剤形は、カプセル剤、錠剤、丸剤、散剤、または顆粒剤を含む。そのような固体剤形において、活性化合物は以下:(a)1またはそれより多くの、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムのような不活性な賦形剤(または担体);(b)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、またはケイ酸のような充填剤または増量剤;(c)カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、スクロースおよびアラビアゴムのような結合剤;(d)グリセロールのような保湿剤;(e)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモまたはタピオカデンプン、アルギン酸、あるケイ酸錯体、および炭酸ナトリウムのような崩壊剤;(f)パラフィンのような溶液抑制剤(solution retarders);(g)四級アンモニウム化合物のような吸収促進剤;(h)アセチルアルコールおよびグリセロールモノステアレートのような湿潤剤;(i)カオリンおよびベントナイトのような吸着剤;および(j)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムのような潤滑剤、またはそれらの混合物、の少なくとも1つと混合される。カプセル剤、錠剤、および丸剤のためには、剤形はまた、緩衝剤を含んでなってもよい。
【0094】
[0095] 経口投与のための液体剤形は、薬学的に受容可能なエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシルを含む。活性化合物に加えて、液体剤形は、当該技術分野で通常使われる不活性な希釈剤、例えば、水または他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤、を含んでなってもよい。乳化剤の例は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、綿実油、ラッカセイ油、トウモロコシ胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油およびゴマ油のような油、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタンの脂肪酸エステル、またはこれらの物質の混合物など、である。
【0095】
[0096] そのような不活性な希釈剤のほかに、組成物はまた、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、甘味料、着香料、芳香料のような、アジュバントを含むことができる。
【0096】
[0097] 本発明の組成物を投与する別の方法は、経皮的または皮膚を通じての(transcutaneous)経路による。そのような態様の一例は、パッチの使用である。特に、パッチは化合物の、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、またはDMSOと綿実油の混合物中での、上質な懸濁液で調製することができ、そして、腫瘍が位置する部位とは離れた皮膚ポーチ内部に、腫瘍を有する動物の皮膚に接触させることができる。他の溶媒および他の支持体を伴う他の媒質またはそれらの混合物も、同じように作用するであろう。パッチは、上記の試験化合物の1またはそれより多くを、溶液または懸濁液の形で、含有することができる。次いで、パッチは患者の皮膚に、例えば、縫合、クリップ、または他の支持装置の手段によって皮膚を折りたたみ支持することによって形成した、患者の皮膚ポーチ内に挿入する手段により、適用することができる。このポーチは、哺乳類の干渉を受けずに皮膚との連続的な接触を確実にするような様式で利用されるべきである。皮膚ポーチを使用する以外にも、皮膚と接触させたパッチの安定した設置を確実にするいずれかの装置を用いることができる。例えば、粘着バンデージを皮膚上の場所にパッチを保持するのに用いることができる。
【0097】
[0098] 本発明の組成物中の活性成分の実際の用量レベルは、特定の組成物および投与方法について、所望の療法的応答を得るのに効果的な1またはそれより多くの試験化合物の量を得るために変化させてもよい。したがって、選択された用量レベルは、所望の療法的効果、投与経路、所望の治療期間、治療される動物のサイズ、および他の要因に依存する。
【0098】
[0099] ヒトを含む哺乳類について、体表面積に基づいて有効量を投与することができる。種々のサイズ、種の動物、およびヒトについての用量の相互関係(mg/M体表面に基づく)は、E.J.Freireichら,Cancer Chemother.Rep.,50(4):219(1996)に記載されている。体表面積は、個体の身長および体重から大体決定されてもよい(例えば、Scientific Tables,Geigy Pharmaceuticals,Ardsley,ニューヨーク pp.537−538(1970)を参照)。
【0099】
[00100] 宿主への組成物の1日あたりの総用量は、単一または分割用量の状態であってもよい。用量単位組成物は、一日あたりの用量を作り出すのに用いてもよいように、そのような量の約数を含有してよい。しかしながら、いずれの特定の患者の具体的な用量レベルは、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与時間および投与経路、投与した薬物の強さ、吸収および排出の速度、他の薬物との組合せ、ならびに治療される特定の疾患の重篤度を含む、多様な因子に依存するであろうことは理解されるであろう。
【0100】
[00101] 組成物は、脳における望まれていない細胞毒性および他の有害な効果を防ぐことについて標的されているので、投与の方法は、試験化合物が血液脳関門を横切ることを可能にする剤をさらに含有するように組成物を処方することを包含してもよい。そのような投与方法は、例えば、米国特許第5,008,257号、第4,824,850号、第4,479,932号、第4,727,079号、第4,622,218号、および第4,540,564号に記載されており、これらの開示内容は引用によりその全体を本明細書に援用する。
【0101】
[00102] 神経系疾患または他の脳に関連する疾患の治療は、動物または患者における神経系機能または機能障害に影響を与える薬物を投与することによって達成することができる。典型的には、そのような薬物は、経口または全身経路のいずれかを介して、末梢適用により投与される。いくつかの薬物は血液脳関門(bbb)を横切ることができる一方で、他のものはbbbを効率的に通過しないかまたは全く通過せず、そして脳内に直接投与されたときにのみ効果的である。語句「血液脳関門」または「bbb」とは、本明細書で用いられる場合、厳密なbbbならびに血液脊髄関門を意味する。脳血管の内皮、基底膜および神経膠細胞からなる血液脳関門は、物質の脳への透過を制限するようにはたらく。時々、bbbの構造は、内皮または毛細バリアおよび上衣バリアの二つの成分にさらに分割される。Banks,W.A.,Kastin,A.J.,Barrera,“Delivering peptides to the central nervous system:Dilemmas and strategies” ,Pharm.Res.,8:1345−1350(1991)。
【0102】
[00103] bbbを通しての物質透過の性質は、未だ決定されていないが、多くの脳機能の制御因子が公知である、例えばサイトカイン、トランスフェリン、エンセファリン(encephalin)、およびエンドルフィンは、血管から脳へとbbbを通過することができる。Raeissi,S.,Audus,J.,“In vitro characterization of blood−brain barrier permeability to delta sleep−inducing peptide”,J.Pharm.Phy.,41:848−852(1989);Zlokovich,B.,Susie,V.T.,Davson,H.,Begley,D.J.,Jankov,R.M.,Mitrivic,B.M.,Lipocac,M.N.,“Saturable mechanism for delta sleep−inducing peptide (DSIP) at the blood−brain barrier of the vascularly perfused guinea pig brain.”Peptides,10:249−254(1989);およびZlokovich,B.,“In vivo approaches for studying peptide interaction at the blood−brain barrier.”,J.Control.Rel.,13:185−201(1990)。しかしながら、中枢神経系(またはCNS)に影響を及ぼすことのできる多くの物質、例えばアデノシン、β−エンドルフィン、内因性ペプチドの合成アナログ(Houghten R.A.,Swann,R.W.,Li,C.H.,“β−Endorphin:Stability,clearance behaviour and entry into the central nervous system after intravenous injection of the tritiated peptide in rats and rabbits.”,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77:4588−4591(1980);Levin,E.R.,Frank,H.J.K.,Weber,M.A.,Ismail,M.,Mills,M.,“Studies of penetration of the blood brain barrier by atrial natriuretic factor.”,Biochem.Biophys.Res.Commun.,147:1226−1231(1987);Sakane,T.,Tanaka,C.,Yamamoto,A.,Hashida,M.,Sesaki,H.,Ueda,H.,Takagi,H.,“The effect of polysorbate 80 on brain uptake and analgesic effect of D−kyoto.”,Int.J.Pharm.,57:77−83(1989))、ならびに、いくつかの興奮性および阻害剤アミノ酸、および栄養因子は、不十分透過するかまたは全くbbbを透過しない。現時点では、bbb透過性がないまたはbbb透過性に乏しい薬物は、直接CNS注入により、または徐放性ポリマーの埋め込みによってのみ与えることができる。(例えば、米国特許第4,883,666号、Sabelら、を参照)。
【0103】
[00104] 従来の薬物療法のいくつかの制限を克服するひとつの方法は、bbbを通過する薬物の相対的な量を増加させることである。概要は、所定の薬物または診断用物質の末梢用量を減少させつつbbbを横切る薬物の量を増加させることができれば、当該薬物の末梢副作用もまた重篤度がより低くなる、と同時に脳における望ましい効果を維持する。いくつかのアプローチが、bbbを通じての薬物透過を増加させることについて有効であるとして記載されている。
【0104】
[00105] ひとつのアプローチは、bbb自体の機能を変えることである。例えば、浸透剤(osmotic agent)を、末梢的に与えた場合(例えば静脈内注入により)、bbbを開く結果になる。さらに、CNSに対して作用するいくつかの薬物は、他の物質についてのbbbの透過性を変化させることができる;例えば、コリン様作用性のアレコリンは、bbbを通じての薬物透過の変化を誘導すると報告されている。Saija,A.,Princi,P.,De Pasquale,R.,Costa,G.,“Arecoline but not haloperidol produces changes in the permeability of the blood−brain barrier in the rat”,J.Pharm.Pha.,42:135−138(1990)。
【0105】
[00106] bbbの透過性を変えるために投与することができる他の薬物は、いずれもE.A.Neuweltに対して発行された、米国特許第5,059,415号、および第5,124,146号に開示されている。ブラジキニンは、そのような効果を有するひとつの具体的な薬物である。(Malfroy−Camineに対して発行された、米国特許第5,112,596号)。他の方法は、A−7またはその高次構造類似体のような透過化(permeabilizer)製剤ペプチドを投与することを含んでなる。(WO92/18529、J. W.Kozarichらの出願)。比較的侵襲的な方法が、A.TomaszおよびE.Tuomanen(WO91/16064)によって提案され、彼らはストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae)のような真正細菌の精製した細胞壁または細胞壁フラグメントの非経口注入を投与してbbbを開く。
【0106】
[00107] L. L. Rubinらに対して発行された米国特許第5,260,210号は、サイクリックAMP濃度を減少または干渉する剤またはサイクリックGMP濃度を増加させる剤を投与することにより、血液脳関門の透過性が増加させることによる方法を開示する。
【0107】
[00108] 別のアプローチは、薬物分子自体の修飾である。例えば、タンパク質のような巨大分子はbbbを全く通過しないか、またはタンパク質の有効性に悪影響を与える、困難性または変化を伴って通過する。例えば、巨大分子の活性部位、すなわち生物学的に望ましい事象の引き金となる分子の部分、をまず単離し、そして次いで、この活性部位のみを使用することができる。大きさはbbbの透過性を可能にする因子のひとつであるので、減少させた大きさを使用することができ、そうしてより小さい分子はbbbを通過できるようになる。bbbの通過を試みるための巨大分子に対する他の修飾は、タンパク質を糖化すること、それによりbbbのそれらの透過性を促進する、または、プロドラッグを形成することを含む。J.F.PodusioおよびG.L.Curranに対して発行された米国特許第5,260,308号は、タンパク質を糖化することを論じており、一方、いずれもV.E.Shashouaの出願である米国特許第4,933,324号およびWO89/07938はプロドラッグの形成を開示している。これらのプロドラッグは、脂肪酸キャリアおよび、それ自体ではbbbを通過することはできない神経刺激薬から形成されている。類似の系がWO89/07938に記載されている。
【0108】
[00109] さらに別のアプローチは、マトリックス系から神経組織へと活性成分を直接放出する徐放性ポリマーの埋め込みである。しかしながら、このアプローチは脳または脊髄に直接埋め込む場合は、侵襲的で、外科的な診療行為を必要とする(Sabelら、米国特許第4,883,666号;およびSabelら、米国特許出願第07・407,930号、を参照)。米国特許出願第5,800,390号、その開示は引用によりその全体を本明細書に援用する、に記載されているように、脳の内部の部分に直接組成物を投与することは公知である。これらの方法は、徐放性送達、固体調製物、および半固体調製物の脳組織への直接の送達を可能にする。
【0109】
[00110] これらの制限を克服するために、リポソーム、赤血球ゴースト、抗体接合体、およびモノクローナル抗体接合体のような薬物担体系を用いることが別のアプローチで試みられた。標的された薬物送達における主要な問題の1つは、細網内皮系(RES)による、特に肝臓および脾臓におけるマクロファージによる、迅速なオプソニン化および注入したキャリアの取り込みである。この障害は、いわゆる「ステルス」脂質、例えばフォスファチジルイノシトール、モノシアロガングリオシド、またはスルホガラクトシルセラミド、の組み込みによるリポソームの場合において部分的に克服してもよい。
【0110】
[00111] いずれもP.M.Fridenに対して発行された米国特許第5,182,107号および第5,154,924号は、薬物を抗体に接合する方法を教示する、ここで当該抗体はトランスフェリン受容体に対して反応性である。トランスフェリン受容体は脳毛細血管内皮細胞上に位置し、従って薬物、例えば神経増殖因子、をbbbを通して輸送することができる。米国特許第5,004,697号(Pardridgeに対して発行された)は、特定の等電点のカチオン化抗体を提供することにより、そのような抗体接合体の方法を改善する(PardridgeによるWO89/01343も参照)。
【0111】
[00112] 別のアプローチは、活性な剤が接合したキメラペプチドを創り出すことである(米国特許第4,801,575号、これもPardridgeに対して発行された)。そのような系はまた、PardridgeおよびSchimmelに対して発行された米国特許第4,902,505号においてもさらに論じられており、キメラペプチド、例えばヒストン、が経細胞輸送によりbbbを横切ることができる。
【0112】
[00113] いずれもN.S.Bodorに対して発行された米国特許第5,187,158号および第5,017,566は、中枢性の薬物が、ドーパミンのような、還元され、生体で酸化できる類脂質性型のジヒドロピリジン反応ピリジン塩酸化還元担体とともに与えられる、脳特異的薬物送達方法を開示する。(米国特許第4,880,816号も参照のこと、これもBoderに対して発行された)。
【0113】
[00114] いくぶん侵襲的なアプローチが、遺伝子材料を脳へ送達するためにとられている。これは例えば、化学的にbbbを混乱させ、そして次いでウイルスを用いて遺伝子をbbbを横切って送達することによってなされる。(E.A.Neuweltに対して発行された米国特許第4,866,042号を参照)。ここで、矯正的な遺伝子材料がウイルス中に組み込まれ、そして当該ウイルスを次いで血流中へと注入する。
【0114】
[00115] 最終的に、bbbを横切って薬物を送達するためのさらに別の担体系は、F.D.CollinsおよびR.C.Thompsonによって開示されたように(WO91/04014)、リポソームの使用である。ここで、リポソームは、bbbを横切って特定のリガンドを輸送する、特定の内因性脳輸送系に対して標的される。
【0115】
[00116] 別のアプローチがKreuterらの米国特許第6,117,454号に開示されている。Kreuterの特許の主題は、薬物または診断剤のbbbを横切る透過を促進するために、広範囲の薬物のための薬物担体(または標的分子)として界面活性剤を被覆したナノ粒子を用いる方法、組成物、および薬物標的システムを含む。これらの方法はいずれも、上述したスフェロン成分ペプチドの細胞毒性効果を防ぐことができる成分(例えば、化合物、組成物、ペプチド、遺伝子、など)を脳へと投与するために本発明において使用することができる。
【0116】
[00117] 本発明の別の態様は、アルツハイマー病の症状の動物モデル、当該動物モデルを作る方法、および、当該動物モデルを、アミロイドプラーク形成の直接の原因となるもの以外のスフェロンが放出する成分ペプチドによって引き起こされる脳損傷または他の障害または疾病を治療または改善するための効果的な療法を同定するために使用する方法を包含する。動物モデルは、その脳へと遺伝子が挿入された動物を含んでなり、ここで当該遺伝子はproSAAS、または上記で定義した群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチド、またはその変異体、誘導体、ホモログ、ペプチド模倣体、もしくはラセミ化されたペプチドを発現する。従って当該動物モデルを作る方法は、proSAASまたは上記に定義した群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチドを過剰発現する遺伝子を調製し、動物の脳へと当該遺伝子を組み込み(例えば、当該遺伝子を中枢神経系に挿入するためにウイルスベクターを用いて、または当該技術分野で公知の他の方法により、トランスジェニック動物を作ることにより)、そしてproSAASまたはスフェロン成分ペプチドを過剰発現するように当該遺伝子を誘導することを含む。
【0117】
[00118] 動物モデルを使用する方法は、その脳内にproSAASまたは上記で定義した群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチドを過剰発現する遺伝子(単数)または遺伝子(複数)を有する動物群を調製し、そして次いで、proSAASまたはスフェロン成分ペプチドを過剰発現するように当該遺伝子を誘導することを含む。当該方法はさらに、選択した動物群に試験化合物を投与し、動物を屠殺し、そして次いで屠殺した動物の脳内に存在する単離されたスフェロン成分ペプチドの量を測定し、および/または、当該遺伝子の位置におけるまたはその周囲の生存細胞の割合を測定し、および/またはタンパク質発現との関連において傷害を測定し、および/または、行動または他の脳機能パラメータを測定することを含む。当該方法は、対照と比較して、単離されたスフェロン成分ペプチドの量を減少させる試験化合物を選択することにより、および/または、そこに試験化合物を投与しなかった対照と比較して、当該遺伝子の位置におけるまたはその周囲の生存細胞のより高い割合が得られた試験化合物を選択することにより、および/または、対照と比較して脳機能または行動などを向上させた試験化合物を選択することにより、終結する。
【0118】
[00119] 動物モデルを用いて有効な試験化合物についてスクリーニングする方法はまた、上述したように動物モデルを調製し、そして次いで、proSAAS、または上記で定義した群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチド、またはその変異体、誘導体、ホモログ、またはペプチド模倣体、を過剰発現するように当該遺伝子を誘導することを伴う。当該方法はさらに選択した動物群に試験化合物を投与し、動物を屠殺し、そして次いで以下:(i)脳のACTH;(ii)脳のインスリン;(iii)脳のエンケファリン;(iv)脳のTRH;(v)脳のダイノルフィン;または(vi)先に記載された他の成分のいずれか、例えば、グルカゴン、GLP、ニューロテンシンなど、の1またはそれより多くの量を測定することを含む。当該方法は、試験化合物が投与されなかった対照動物と比較して、投与されたときに当該5つの成分のいずれか1つの増加したレベルを示す化合物を選択することにより終結する。
【0119】
[00120] proSAASもしくはスフェロン成分ペプチドの1またはそれより多くのコピーを動物に導入することは、それぞれのペプチド(単数または複数)を発現する、または上記のペプチド(単数または複数)を発現するよう誘導できる遺伝子を作ることを第一に伴う。当該遺伝子は次いで、当該技術分野で公知のトランスジェニック動物技術により動物の脳に導入できる。当該遺伝子は次いで、スフェロン成分ペプチド(単数または複数)を発現し、またはスフェロン成分ペプチド(単数または複数)を過剰発現するよう誘導することができる。本明細書で提供されるガイドラインを用いて、当業者は過度の実験を行うことなく、上述のペプチドの1またはそれより多くを発現する遺伝子を作ることができる。細胞または組織への遺伝子送達の手段は、裸のDNAの直接注入、弾道的な方法、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ポックスウイルス、もしくは単純ヘルペスウイルスのようなウイルスベクターの使用、DNA−タンパク質接合体の使用、およびリポソームの使用を含む。パーキンソン病のような脳疾患を治療するために、中枢神経系へと遺伝子を導入するためにウイルスベクターを使用する例は、米国特許第6,248,320号に開示されており、その開示内容は引用によりその全体が本明細書に援用する。
【0120】
[00121] 好ましいスフェロン成分ペプチドは、アミロイドプラークの形成に直接関わっていないものであり、そしてより好ましくは配列番号1−23として上記に列挙したもの、ならびにそれらのラセミ化された類似体である。しかしながら、上記のスフェロン成分ペプチドと同じタンパク質またはタンパク質ファミリーの他の分子の部分またはフラグメントに基づく他のスフェロン成分ペプチドの使用もまた、「スフェロン成分ペプチド」の表現の範囲に包含されそして含まれる。さらに、本発明は前述のスフェロン成分ペプチドのいずれの全体または部分を含有する他のタンパク質を含む、ここで当該タンパク質は好ましくはスフェロン成分ペプチドとして同じ、類似の、または促進された生物活性を有する。
【0121】
[00122] 上記のペプチドの他のより小さいフラグメントが当業者によって選択されてもよく、そしてそれらのペプチドが同じまたは類似の生物学的活性を有するであろうことは当業者に明らかであろう。同じまたは類似の生物活性を有するであろうこれらのペプチドのような他のフラグメントが当業者によって選択されてもよい。本発明のペプチドはこれらの他のフラグメント、種(species)、およびタンパク質を包含する。通常、本発明のペプチドは少なくとも6アミノ酸、好ましくは少なくとも5アミノ酸、そしてより好ましくは少なくとも4アミノ酸を有する。
【0122】
[00123] 本発明はまた、たとえ二つのペプチドが、スフェロン成分ペプチドが由来するスフェロンの種(単数または複数)の配列において連続的でなくても、2またはそれより多くのスフェロン成分ペプチドが一緒に連なったペプチドの「組合せ」を包含する。スフェロン成分ペプチドが望ましい生物学的活性を有する限り、たとえそれらのセグメントが、スフェロン成分ペプチドが由来するスフェロンの種(単数または複数)のアミノ酸の配列について連続的でなくても、二つのそのようなペプチドもまた望ましい生物学的活性を有する。
【0123】
[00124] 本発明はまた、スフェロン成分ペプチドのアミノ酸配列に基づく、逆−D ペプチドを含んでなる。語句「逆−D ペプチド」とはD−アミノ酸を含有し、L−アミノ酸を含有するペプチドに対して逆の配列で並べたペプチドを意味する。よって、L−アミノ酸ペプチドのC末端残基は、D−アミノ酸ペプチドのN末端となる、などである。本発明はさらに、1またはそれより多くのアミノ酸残基(グリシン以外)が:(i)L立体異性体からD立体異性体に転換されている;(ii)D立体異性体型によって置き換えられている;または(iii)そうでなければ他の立体異性的変化を受けている;ラセミ化されたペプチドを含んでなる。
【0124】
[00125] 本発明はまた、スフェロン成分ペプチドと、リンカーペプチド上、スフェロン成分ペプチド配列の前または後に追加のアミノ酸残基を含んでなるペプチドを包含する。追加のアミノ酸残基またはリンカーペプチドは、スフェロン成分ペプチド配列の前または後にスフェロン配列においてみられるものであってもよく、または、他のアミノ酸またはリンカーペプチドを含んでなってもよい。例えば、ジスルフィド結合の形成によりスフェロン成分ペプチドの環化を可能にするために、システイン残基を、スフェロン成分ペプチドのアミノおよびカルボキシ末端の両方に付加してもよい。
【0125】
[00126] 本発明はまた、スフェロン成分ペプチドが、所望によりペプチドリンカーによって連結された他のタンパク質と融合した、融合タンパク質を包含する。そのような融合タンパク質は、注入された体または点(issue)におけるスフェロン成分ペプチドの生物活性またはバイオアベイラビリティを増加させることができる。
【0126】
[00127] 本発明はまたは、スフェロン成分ペプチドのホモログおよび変異体を包含する。1のアミノ酸を別のものに置換することによりペプチド配列を変えることは一般的である。アミノ酸が変えられる目的に応じて、アミノ酸は類似もしくは同種のアミノ酸で、または非類似のアミノ酸で置き換えることができる。どのアミノ酸が類似または同種と位置づけることができるかについての多くの尺度がある。(Gunnar von Heijne,Sequence Analysis in Molecular Biology,p.123−39(Academic Press、ニューヨーク州ニューヨーク、1987)。
【0127】
[00128] スフェロン成分ペプチドならびに、そのホモログ、変異体、誘導体、組合せ、ラセミ化されたペプチドおよび塩は、当業者に公知の従来のペプチド合成技術を用いて作ることができる。これらの技術は化学カップリング法(Wunsch,E:“Methoden der organischen Chemie”,Volume 15,Band 1+2,Synthese von Peptiden,thime Verlag,シュトゥットガルト(1974)、およびBarrany,G.;Marrifield,R.B.:“The Peptides”、E.Gross,J.Meienhofer編、第2巻,第1章,pp.1−284,Academic Press(1980)を参照)、酵素カップリング法(Widmer,F.Johansen, J.T.,Carlsberg Res.Commun.,Vol.44,pp.37−46(1979)、およびKullmann,W.:“Enzymatic Peptide Synthesis”、CRC Press Inc.,フロリダ州ボーカラトーン(1987)、およびWidmer,F.,Johansen,J.T.,“Synthetic Peptides in Biology and Medicines: 中、Alitalo,K.,Partanen,P.,Vatieri,A.編,pp.79−86,Elsevier,アムステルダム(1985)を参照)、または過程設計および節約のために有利であれば化学的および酵素的方法の組合せ、を含む。当業者は、本明細書に提供されるガイドラインを用いて、元のまたは天然のスフェロン成分ペプチドと同じまたは類似した生物学的活性(生物活性)を有するホモログを作るために、スフェロン成分ペプチドのペプチド配列を変えることができる。
【0128】
[00129] 本発明はまた、結果として生ずる化合物が化学的反応性を保持し、そしてしたがってスフェロン成分ペプチドと同じ生物学的活性を保持する、スフェロン成分ペプチドおよびスフェロン成分ペプチドの構造的修飾に基づくペプチド模倣体およびラセミ化ペプチドを包含する。ペプチド模倣体は、ペプチドの生物学的活性を模倣するが化学的性質においてはもはやペプチドではない、すなわち、もはやいずれのペプチド結合(すなわち、アミノ酸間のアミド結合)も含有しない、化合物である。本明細書においてペプチド模倣体という語句は、より広い意味で用いられ、性質において完全なペプチド性ではもはやない分子、例えば偽ペプチド、セミペプチドおよびペプトイドを含む。この広い意味でのペプチド模倣体(ペプチドの部分が、ペプチド結合を欠く構造で置き換えられている)の例は、下記に示す。完全なまたは部分的な非ペプチドであるかに関わらず、本発明のペプチド模倣体は、そのペプチド模倣体の元になるスフェロン成分ペプチドにおける活性基の三次元配置と厳密に似せた、反応性化学部分の空間配置を提供する。この類似した活性部位幾何学の結果として、ペプチド模倣体は、当該ペプチドの生物学的活性に類似した生物系における効果を有する。
【0129】
[00130] 本発明はまた、本発明の方法にしたがって、トランスフェクトされた、形質転換された、または感染させた様々な細胞株を含む。これらの細胞株は好ましくは、proSAAS、または、そのペプチドフラグメント、ラセミ化されたペプチド、変異体、誘導体、ホモログ、もしくは模倣体をコードする核酸配列を発現する組換え細胞を含む。最も好ましくは、当該細胞株は、配列番号1−14から選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列またはその組合せを発現する組換え細胞を含む。
【0130】
[00131] 本発明はまた、以下の群から選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチド:
【0131】
【化10】

【0132】
ここで、スフェロン成分ペプチドはラセミ化されている、
を含むタンパク質を包含する。好ましくは、スフェロン成分ペプチドの少なくとも一つのアミノ酸残基(グリシン以外)は:(i)L立体異性体型からD立体異性体型へ転換されている;(ii)D立体異性体型によって置き換えられている;または(iii)そうでなければ他の立体異性的変化を受けている。
【0133】
[00132] 本発明は、好ましくは上の段落に記載したタンパク質、そしてより好ましくは配列番号1〜配列番号8から選択される1またはそれより多くのペプチドを含んでなるタンパク質、を含んでなる組成物を含む。本発明において、さらにより好ましくは、当該タンパク質はproSAAS、またはそのフラグメント、変異体、誘導体、ホモログ、ペプチド模倣体であり、ここで上記に列挙したペプチドの少なくとも一つのアミノ酸残基(グリシン以外)は、L立体異性体型からD立体異性体型へ転換され、D立体異性体型によって置き換えられ、またはそうでなければ他の立体異性的変化を受けている。
【0134】
[00133] 以下の実施例は、本発明を説明するために提供するものである。しかしながら、本発明はこれらの実施例に記載された特定の条件または要素に限定されないことは理解されるべきである。本明細書を通して、米国特許を含む公衆に利用可能な文献に対するいずれかまたはすべての言及は、引用により具体的に援用される。
【実施例】
【0135】
実施例
実施例1
[00134] スフェロンは、米国特許第6,309,892号および第5,525,339号の方法にしたがって、ヒトの脳から抽出し、均一になるまで精製した。均一なスフェロンの試料は、米国特許第6,309,892号および第5,525,339号で挙げられた標準法にしたがったポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離した。ゲル上のバンドは、当該技術分野において周知の標準法によってニトロセルロースブロットへと移した。これらのバンドはさらに高速液体クロマトグラフィーおよびアミノ酸ミクロシークエンシング分析によってさらに解析した。
【0136】
[00135] 以下の配列は、精製した均一な高密度微粒子調製物から検出されたものの中のものである:
【0137】
【化11】

【0138】
[00136] これらの配列は、proSAASと呼ばれ、そしてグラニン様神経内分泌ペプチド前駆体としても知られる、タンパク質の全体または一部と矛盾しない。
【0139】
実施例2
[00137] 実施例1で配列決定したスフェロン成分ペプチドに対応するポリペプチドを合成し、そして神経細胞培養物中で試験した。リン酸緩衝食塩水(PBS)中のスフェロン成分ペプチドは、単独で、ならびに、神経膠腫細胞培養物および神経芽腫細胞培養物への組合せ中でインキュベートした。
1)スフェロンの均一な試料、0.1−10mgタンパク質/mL;
2)リン酸で緩衝された通常の食塩水単独;
3)タモキシフェン、100μM;
4)DMSO;および
5)ウシ血清アルブミン、5μg/mL
の対照もまた、培養物中で試験した。
【0140】
細胞培養:
[00138] 凍結保存した神経膠腫細胞および神経芽腫細胞は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)、バージニア、から入手した。細胞を解凍し、そして懸濁培地で希釈し、そして4℃で、700rpmで7分間遠心分離した。次いで、細胞ペレットはCACO−2培地に再懸濁し、そして標準75または175cmフラスコ中で、37℃、5%CO(2)で、大体コンフルエントになるまで培養した。次いで、細胞をトリプシン処理し、そしてCACO−2培地に再懸濁して最終密度1.5x10細胞/mLとした。次いで、96ウェルプレートに、試料あたり50μLアリコートを1ウェルあたりに加えた。
【0141】
投薬:
[00139] 実験Iのため、50μLの、PBS(リン酸で緩衝した溶液)(陰性対照)、リン酸緩衝食塩水PBS中の100μMタモキシフェン(陽性対照)、または試験物を、各試料培養物に加えた。
【0142】
[00140] 実験IIのため、DMSO(ジメチルスルホキシド)中の1mMタモキシフェンを希釈して、CACO−2培地中で100μM濃度とし、そして、1ウェルあたり100μLを陽性対照ウェルに加えた。CACO−2培地中1%DMSOからなるビヒクル対照もまたこの実験に加えた。他の陰性対照は、ヒトおよびウシ血清アルブミンからなった。
【0143】
MTTアッセイ:
[00141] MTTアッセイは、テトラゾリウム塩、3,[4,5−ジメチルトリアゾール−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)の還元に基づく、細胞増殖測定の高感度アッセイである。コントロールまたは試験物質とのインキュベーションの後に、培地を吸引し、そして100μL MTTを各ウェルに加えた。次いで、プレートを37℃、5% CO(2)で3時間インキュベートした。次いで、MTTを酸性化イソプロパノール(0.4N HCl)で置き換え、そしてプレートに覆いをして4℃で一晩保管した。次いで、プレートをロータリー振盪器上で1分間優しく撹拌し、そして570nmの発光吸光度および650nmのバックグラウンド吸光度の違いを、自動化プレートリーダー上で分光光度的に測定した。
【0144】
結果:
実験I:
[00142] 神経膠腫細胞を、試験材料または対照溶液で処理した後、24時間および96時間インキュベートした。MTTはすべての培養物にこの時点で加えた。結果は、平均吸光度の違いを陰性対照のパーセントとして表して表現し、それらは表3および表4に示す(神経膠腫細胞における細胞毒性)。
【0145】
【表3】

【0146】
【表4】

【0147】
実験II:
[00143] 神経芽腫細胞をこの実験に用いた。24時間または96時間の、対照または試験溶液とのインキュベーションに続いてMTTを、プレートに加えた。他のプレートに、新鮮な培地、対照、または24時間の試験溶液を補充し、そして3日後に読みとった。結果は平均の吸光度の違いとして、そして陰性対照のパーセントとして表現し、それらを表5に示す。96時間で同様の結果を得た。
【0148】
【表5】

【0149】
結論:
[00144] スフェロンおよびスフェロン由来の合成スフェロン成分ペプチドタンパク質による、神経膠腫および神経芽腫細胞における有意な細胞毒性効果が24時間で、そして神経膠腫細胞では96時間で明らかとなった。
【0150】
実施例3
[00145] リン酸緩衝食塩水中に1−5mg/mLに希釈した、実施例2の合成ペプチドを、12の正常ラットの大脳皮質へと接種した。対照ラットは、リン酸緩衝食塩水を受けた。動物を観察し、そして1、4、および10日の間隔の後に無痛的に屠殺した。ラットの脳は、10%ホルマリンで固定し、パラフィンに包埋し、切片化し、そしてヘマトキシリン−エオシンで染色し、光学顕微鏡によって調べた。すべての例において、極度のミクログリア反応を伴う、急性炎症性反応が観察された。この度合いの神経膠症および炎症は、対照にはみられなかった。
【0151】
実施例4
[00146] スフェロンの遺伝子、およびそのスフェロン成分ペプチドフラグメントの遺伝子を神経細胞株にトランスフェクトし、そして遺伝子の発現を促進する。神経細胞は、異常な細胞消失および異常な病理学的変化の証拠について試験する。
【0152】
実施例5
[00147] スフェロンの遺伝子、およびそのスフェロン成分ペプチドフラグメントの遺伝子を、実験動物の脳にトランスフェクトし、そして遺伝子の発現を促進する。実験動物は異常な行動について観察し、そして実験動物の脳は組織病理学的以上の証拠について試験する。
【0153】
[00148] 本発明の方法および組成物について、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、様々な修飾および変化がなされることができることは当業者に明らかであろう。よって、本発明は、この発明の修飾および変化に及ぶことを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物であって、以下:
アミロイドプラークを形成する原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドに結合する、アンタゴナイズする、または競合する少なくとも1つの化合物であって、当該スフェロン成分ペプチドは以下:
【化1】

からなる群の1またはそれより多くから選択され、ここでスフェロン成分ペプチドはラセミ化されている、前記化合物、
を含んでなる前記組成物。
【請求項2】
さらに薬学的に許容可能なバッファー、希釈剤、アジュバント、担体またはそれらの組合せ、を含んでなる請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
組成物が、患者に投与されたときに、血液脳関門を横切ることができる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
スフェロン成分ペプチドが配列番号1である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
スフェロン成分ペプチドが配列番号2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
スフェロン成分ペプチドが配列番号3である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
スフェロン成分が配列番号4である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
スフェロン成分ペプチドが配列番号5である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
スフェロン成分ペプチドが配列番号6である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
スフェロン成分ペプチドが配列番号7である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
スフェロン成分が配列番号8である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
ラセミ化されたペプチドが、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をL立体異性体型からD立体異性体型に転換することによりラセミ化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
ラセミ化ペプチドが、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をD立体異性体型で置き換えることによりラセミ化されている、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
神経学的状態を治療または改善するのに有用な化合物を同定する方法であって、以下:
細胞を形質転換する、トランスフェクトする、または感染させること、当該形質転換された、トランスフェクトされた、または感染させた細胞は、以下:
(a)アミロイドプラークを形成する原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチド;
(b)アミロイドプラークを形成する原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドをコードするポリヌクレオチド;または
(c)(b)にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド;
を含んでなり;
当該形質転換された、トランスフェクトされた、または感染させた細胞に試験化合物を投与し;そして、
アミロイドプラークを形成する原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分の効果を改善する化合物を同定する;
ここで、当該アミロイドプラークを形成する原因となるスフェロン成分以外のスフェロン成分ペプチドは、以下:
【化2】

からなる群より選択され、ここで当該スフェロン成分ペプチドはラセミ化されている、
を含んでなる、前記方法。
【請求項15】
形質転換された、トランスフェクトされた、または感染させた細胞におけるスフェロン成分ラセミ化ペプチドの濃度が、当該細胞の生存能力を減ずるのに十分である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
ラセミ化されたペプチドが、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をL立体異性体型からD立体異性体型に転換することによりラセミ化されている、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
ラセミ化ペプチドが、スフェロン成分ペプチドの少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をD立体異性体型で置き換えることによりラセミ化されている、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
以下:
【化3】

ここで、少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)はラセミ化されている、
からなる群より選択される1またはそれより多くのスフェロン成分ペプチドを含んでなるタンパク質。
【請求項19】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号1である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項20】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号2である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項21】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号3である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項22】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号4である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項23】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号5である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項24】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号6である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項25】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号7である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項26】
選択されたスフェロン成分ペプチドが配列番号8である、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項27】
タンパク質がproSAASまたはそのフラグメント、変異体、誘導体、ホモログまたは模倣体であり、そしてここで、当該タンパク質中の少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)がラセミ化されている、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項28】
ラセミ化されたペプチドが、タンパク質の少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をL立体異性体型からD立体異性体型に転換することによりラセミ化されている、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項29】
ラセミ化されたペプチドが、タンパク質の少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をD立体異性体型で置き換えることによりラセミ化されている、請求項18に記載のタンパク質。
【請求項30】
タンパク質が、当該タンパク質の少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をL立体異性体型からD立体異性体型に転換することによりラセミ化されている、請求項27に記載のタンパク質。
【請求項31】
タンパク質が、当該タンパク質の少なくとも1つのアミノ酸残基(グリシン以外)をD立体異性体型で置き換えることによりラセミ化されている、請求項27に記載のタンパク質。

【公表番号】特表2007−535483(P2007−535483A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529499(P2006−529499)
【出願日】平成16年5月25日(2004.5.25)
【国際出願番号】PCT/CA2004/000774
【国際公開番号】WO2004/104029
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(503181255)ナイモックス ファーマシューティカル コーポレーション (2)
【Fターム(参考)】