説明

アルファー化変性澱粉、ゲル化剤及び食品用アルファー化変性澱粉

【課題】 本発明は、水溶性でかつ吸水したものがゾルでなく、ゲルとなるアルファー化変性澱粉であり、塩化カルシウム等の潮解性吸湿物質を主剤とする除湿剤において潮解液の容器外あるいはパッケージ外への流出防止を目的とする潮解液のゲル化に適するゲル化剤。さらに、小麦粉を含有する食品において良好な食感を付与することができる食品用アルファー化変性澱粉を提供すること。
【解決方法】 澱粉50〜97質量部に小麦粉3〜50質量部(澱粉70〜95質量部に強力小麦粉5〜30質量部)を配合した澱粉小麦粉配合物をドラムドライヤーまたはエクストルーダにてアルファー化処理して得られるアルファー化変性澱粉。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性でかつ吸水したものがゾルでなく、ゲルとなるアルファー化変性澱粉であり、塩化カルシウム等の潮解性吸湿物質を主剤とする除湿剤において潮解液の容器外あるいはパッケージ外への流出防止を目的とする潮解液のゲル化に適するゲル化剤に関するものである。さらに、小麦粉を含有する食品において良好な食感を付与することができる食品用アルファー化変性澱粉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
押入れ、タンス、下駄箱などの湿気を除去するために従来塩化カルシウム等の潮解性の吸湿剤が使用されるが、これらの吸湿剤はそのほとんどが潮解性を示し、初期においては固形状を示すものの、吸湿していくに従い液状となってくる。この潮解液の流出を防ぐために、タンクを下部に持つ容器や、透湿防水フィルムで除湿剤とゲル化剤の混合物をパッケージしたりしたものが利用されている。
【0003】
しかしながら下部タンクに潮解液を貯溜するタイプの除湿剤においては、使用中誤って転倒させた時は貯溜液が容器外に流出して、布団、衣類等を汚損するおそれがある。このような流出を防止するためにあらかじめ潮解液の貯溜タンク内に増粘剤を入れておき、貯溜タンクに滴下する潮解液で増粘剤を膨潤あるいは溶解させて貯溜液をゲル化させ流動性を減少させて、仮に転倒した場合でも潮解液が流出しないように試みられている。
【0004】
潮解液の増粘剤としては、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、メチルセルロース、グアガム、アルファー化澱粉等が使用されている。
上記の高分子は水あるいは潮解液のような無機塩の水溶液中で均一に分散した場合に、かなりの高粘度を示し、増粘作用を示す。しかし、貯溜タンク内にこれらの増粘剤を置いた場合、潮解液と増粘剤が接触したところで、いわゆる“ままこ”が生じてしまい、ままこが生じた部分の増粘剤は液の浸透性がほとんどなくなりゲル化剤としての作用を示さなくなってしまう。
【0005】
したがって増粘剤の機能がほとんど働かなくなってしまい、このため潮解液の流出を確実に防止することは困難であった。また高吸水性樹脂などもこの目的に合致しているように思われるが、水に対しては数百倍の吸水能を示すものの、塩化カルシウム等の塩に対してはその吸水能の低下は特にはなはだしく2〜4倍程度の能力しか示さず、この種のゲル化剤としては適当ではない。また塩化カルシウムとゲル化剤を透湿防水フィルムでシーリングしたものの場合でも同様な現象が生じ、部分的にはゲル化しているものの全体としては液状部分が多くなってしまうか、わずかに増粘している中に部分的に硬くなったままこが浮かんでいる状態になってしまい、潮解液の流出を防止するという目的から考えると全く意味をなさないものになってしまう。
【0006】
この現象を避けるために必要以上に多量のゲル化剤を添加あるいは混合する必要があるが、本質的にはこうした問題点を改良しているとはいえない。またゲル化剤が多量に混合された場合、部分的に生じたままこの中に塩化カルシウム等の吸湿剤が包み込まれ、外気との接触が断ち切られて吸湿作用そのものが阻害されてしまう。
【0007】
これらの問題解決のために吸水倍率が20倍以下の架橋アルファー化澱粉を用いることにより、ゲル化剤表面が潮解液によってぬれた場合にままこを作らず速やかに澱粉内部へ浸透し、全体がゲル状となり、またゲル状となったものの上からさらに潮解液が落下してきても、その液はゲル全体にほぼ均一に吸収され部分的に液状となる事はないことを特徴とする除湿剤用のゲル化剤が提案されている(特許文献1)。
【0008】
一方、ベーカリー食品において、架橋澱粉、架橋エステル澱粉および架橋エーテル澱粉を添加することにより、成型性を改善し、且つ、食感の改良、経時的な品質劣化の改善に顕著な効果を有することが提案されている(特許文献2)。
また、ケーキ類においては、架橋アセチル化澱粉を添加することにより、優れた食感を持ち、焼成後の体積が大きく、且つ保存時の物性劣化を改善することが提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特公平7−16577号公報
【特許文献2】特開平5−15296号公報
【特許文献3】特許第3673059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水溶性でかつ吸水したものが曳糸性のあるゾルでなく、保水性のあるゲルとなるアルファー化変性澱粉を得ることを目的としている。また、小麦粉を含有する食品例えば、ベーカリー食品において、成型性を改善し、食感の改良、経時的な品質劣化の改善に顕著な効果を有し、ケーキ類においては、優れた食感を持ち、焼成後の体積が大きく、且つ保存時の物性劣化を改善することを目的としている。
従来、吸水倍率が20倍以下の架橋アルファー化澱粉を用いることにより、ゲル化剤表面が潮解液によってぬれた場合にままこを作らず速やかに澱粉内部へ浸透し、全体がゲル状となるという技術が提案されているが、架橋澱粉をドラムドライヤーでアルファー化処理する際、架橋されていない澱粉に比べると架橋澱粉はドラムドライヤー上での吸水糊化が完全になされず澱粉粒子が膨潤する程度であるから、ドラムドライヤー表面で均一な澱粉皮膜を形成し難く、乾燥性に劣り生産性が低下するという課題がある。
エクストルーダ処理する際も架橋澱粉のエクストルーダ処理は架橋澱粉が吸水糊化し難いため、目的とする一定範囲の吸水量の架橋アルファー化澱粉を製造することは困難である。
【0010】
また、架橋アルファー化澱粉は、澱粉懸濁液調製タンク中で架橋剤と反応触媒を添加し反応した後、ドラムドライヤー処理し、あるいはエクストルーダに粉体の澱粉原料と架橋剤と反応触媒を添加することにより得ることができるが、反応条件によっては未反応架橋剤、副反応物が残存するため、除湿剤用のゲル化剤などには使用できるが食品用途には使用出来ないという課題もあった。
また、食品用途に使用できる架橋澱粉を用いてドラムドライヤーやエクストルーダ処理し、食品用途にも使用可能な架橋アルファー化澱粉を製造することができるが、架橋剤が限定されまた上記のようなドラムドライヤーやエクストルーダ処理がし難いので、吸水量が限定されるという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、検討を重ねた結果、澱粉50〜97質量部に小麦粉3〜50質量部(澱粉70〜95質量部に強力小麦粉5〜30質量部)を配合した澱粉小麦粉配合物をドラムドライヤーまたはエクストルーダにてアルファー化処理して得られる変性澱粉が、水溶性であり、且つ吸水したものが曳糸性のあるゾルでなく、保水性のあるゲルであることを見出し、さらに、小麦粉を含有する食品に用いると、優れた食感や物性を有することを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【発明の効果】
【0012】
以上説明してきたように、本発明によれば、架橋剤や触媒を用いずに澱粉に小麦粉を配合したものをドラムドライヤーまたはエクストルーダで容易に製造することができ、かつ、得られるアルファー化変性澱粉は、水溶性でかつ吸水したものが曳糸性のあるゾルでなく、保水性のあるゲルであり、除湿剤用のゲル化剤として利用でき、また、食品用途においても、小麦粉を含有する食品において良好な食感を付与することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明におけるアルファー化変性澱粉の原料としては、馬鈴薯澱粉やタピオカ澱粉等の根塊茎由来の澱粉、コーンスターチ、小麦澱粉や緑豆澱粉等の種子由来の澱粉、及び、サゴ澱粉等のその他由来の澱粉、の何れか、または、これらの混合物も用いることができる。吸水後のゲルが弾力性に富んだものが好まれるときは根塊茎由来の澱粉が適し、架橋澱粉をアルファー化したもののような弾力性のないものが好まれる場合は種子由来の澱粉が適している。
【0014】
本発明における小麦粉としては、強力小麦粉、準強力小麦粉、中力小麦粉および薄力小麦粉を用いることができる。本発明のアルファー化変性澱粉は、小麦粉と澱粉が共にドラムドライヤーまたはエクストルーダにて加熱糊化され、分子が伸びた状態で混練されたときに、小麦粉に含まれている蛋白質が架橋剤的に働き、澱粉と小麦粉の間に架橋点のようなものが生じていると考えられる。
したがって、小麦蛋白が比較的多く含まれている強力小麦粉が好適に用いることができる。
【0015】
本発明におけるドラムドライヤー処理はシングルドラムドライヤーまたはダブルドラムドライヤーを用いることもできる。本発明における処理(乾燥)方法は、常法にしたがって、水縣濁液をドラムドライヤー上に滴下し、ドラム表面に皮膜化させ乾燥し粉末化させることにより製造される。澱粉小麦粉配合物の水縣濁液濃度は、実際のドラムドライヤーの運転条件に応じて適宜選択できるが、通常30〜50質量%とすることが好ましい。
【0016】
その他のドラムドライヤーの運転条件についても特に制限はなく、通常設定される温度、圧力、回転数、ロールスリット幅が採用でき、適宜調整することができる。得られる乾燥粉末は、篩別機により粒度を調整できる。通常、150μm〜3mmの粒度が好ましい。
【0017】
本発明のアルファー化変性澱粉は、単軸あるいは2軸エクストルーダを用いて製造することができる。予め澱粉と小麦粉を粉体混合したものを、粉体でエクストルーダに供給し、その機種に適した通常当業者に公知である運転方法・条件で行うことができる。
乾燥・粉砕して得られる粉末は、篩別機により粒度を調整できる。通常、150μm〜3mmの粒度が好ましい。
【0018】
吸湿剤用のゲル化剤として用いる場合は、本発明のアルファー化変性澱粉の粒度は比較的粗いものが用いられるが、食品用に用いる場合は、他の材料との混合性が求められる場合は粒度の細かいものが好ましい。
【0019】
本発明のアルファー化変性澱粉は、食品用途では小麦粉に添加して用いられる。その食品としては、小麦粉を含有する食品であり、パン類、菓子類、麺類、唐揚げ、てんぷら、またはカツ等が挙げられる。
パン類として、例えば具体的には、食パン類、テーブルロール、欧米風食事パン類(フランスパン、ドイツパン)、デニッシュペストリー、クロワッサン、ドーナツ類(イーストドーナツ、ケーキドーナツ)、ピザ、調理パン類、蒸しパン、菓子パン類(アンパン、メロンパン、クリームパン等)等を挙げることができる。
菓子類として、例えば具体的には、和菓子系の蒸し物(まんじゅう類)、回転焼、タイ焼、かりんとう、洋菓子系のスポンジケーキ類、バターケーキ類、プレッゼル等を挙げることができる。
麺類としては、例えば具体的には、うどん、和そば、中華麺、焼きそば、即席麺、またはマカロニ、スパゲッティ等を挙げることができる。
【0020】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、例における部はすべて質量部、%はすべて質量%として表す。
【実施例1】
【0021】
タピオカ澱粉9.7kgおよび強力小麦粉0.3kgを水12kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のシングルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料1)を得た。
【実施例2】
【0022】
タピオカ澱粉9.5kgおよび強力小麦粉0.5kgを水12kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のシングルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料2)を得た。
【実施例3】
【0023】
タピオカ澱粉9kgおよび強力小麦粉1kgを水13kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のシングルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料3)を得た。
【実施例4】
【0024】
タピオカ澱粉8kgおよび強力小麦粉2kgを水15kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のシングルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料4)を得た。
【実施例5】
【0025】
タピオカ澱粉7kgおよび強力小麦粉3kgを水16kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のシングルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料5)を得た。
【実施例6】
【0026】
タピオカ澱粉6.5kgおよび強力小麦粉3.5kgを水17kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のシングルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料6)を得た。
【実施例7】
【0027】
馬鈴薯澱粉9.7kgおよび薄力小麦粉0.3kgを水13kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のダブルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料7)を得た。
【実施例8】
【0028】
馬鈴薯澱粉7kgおよび薄力小麦粉3kgを水16kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のダブルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料8)を得た。
【実施例9】
【0029】
馬鈴薯澱粉5kgおよび薄力小麦粉5kgを水18kg中に投入し、十分攪拌しスラリーとする。このスラリーを表面温度150℃のダブルドラムドライヤー上に供給し、アルファー化処理し、得られた澱粉皮膜を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料9)を得た。
【実施例10】
【0030】
コーンスターチ8kgおよび強力小麦粉2kgを十分混合したものをエクストルーダ(スエヒロEPM製α-10)に供給し、アルファー化処理(バレル温度130℃、ダイ温度100℃、水を少量供給)し、得られたアルファー化物を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料10)を得た。
【実施例11】
【0031】
緑豆澱粉8kgおよび強力小麦粉2kgを十分混合したものをエクストルーダ(スエヒロEPM製α-10)に供給し、アルファー化処理(バレル温度130℃、ダイ温度100℃、水を少量供給)し、得られたアルファー化物を粉砕し、目開き40メッシュの篩を通し、アルファー化変性澱粉(試料11)を得た。
【実施例12】
【0032】
下部に潮解液の貯留タンクを持ち、下部と上部の仕切り板に潮解液の落下できる細穴を持つ容器の上部に塩化カルシウム200g、下部貯留タンクに実施例1〜11で得た試料1〜11各50gを入れて30℃、80%RHの恒温恒湿室に2週間放置してゲルの状態を観察した。結果を表1に示す。強力小麦粉の配合量の少ない試料1,7以外はいずれも良好な結果であった。
【0033】
【表1】

【実施例13】
【0034】
実施例1〜11で得た試料1〜11を10gと塩化カルシウム30gを混合後、透湿防水フィルムで袋を作りシーリングし、30℃、80%RHの恒温恒湿室に20日間放置してゲルの状態を観察した。結果を表2に示す。強力粉の配合量の少ない試料1,2,7以外はいずれも良好な結果であった。
【0035】
【表2】

【実施例14】
【0036】
表3の処方に従って、ストレート法による食パンの焼成を行った。
工程は、
1.表1の材料をすべて投入し、混練する(低速4分、中速3分、高速1分、ショートニング添加、低速1分、中速2分、高速1分にて攪拌)。
2.一次発酵(27℃、75%RH、80分、パンチ後 30分)。
3.ベンチタイム15分。
4.分割(210g×3)後15分静置。
5.成形。
6.ホイロ(38℃、85%RH、45分)。
7.焼成(210℃、40分)
の順に行った。
【0037】
【表3】

【0038】
ストレート法で得た食パンの評価として、ブランクの食感は、少し重く、噛み続けるとガム感があり、クラストが少しパサつく、というものであった。一方、試作品に用いた試料3,4,5,8,9,10,11を添加した食パンの食感はいずれも少ししっとりしており、口どけがよく、クラストが柔らかいという評価であった。
【実施例15】
【0039】
表4,5の処方に従って、70%中種法による食パンの焼成を行った。
工程は、
1.表2の中種材料を投入し、混練する(低速2分、ショートニング添加、中速4分、中低速0.5分にて攪拌)。
2.一次発酵(27℃、75%RH、150分)。
3.本捏材料を投入し、混練する。
4.ベンチタイム10分。
5.分割(210g×3)後10分静置。
6.成形。
7.ホイロ(38℃、85%RH、45分)。
8.焼成(210℃、40分)
の順に行った。
【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
中種法で得た食パンの評価として、ブランクは少し釜縮みがあり、ストレート法よりふわっとしているが、きめが少し粗く、クラストが少しパサつく、というものであった。一方、試作品に用いた試料2,6,7を添加した中種法による食パンはいずれも釜伸びがよく、きめが揃っており、少ししっとりして、口どけがよいという評価であった。
【実施例16】
【0043】
試料4を添加することで無添加の食パンと比べ、物性がどのように変化するか検討を行った。表6,7の処方に従って、70%中種法による食パンの焼成を行った。
工程は、
1.ドライイーストを予備発酵する。
2.中種の材料を投入し、混練する(低速2分、中速2分にて攪拌)。
3.一次発酵(27℃、75%、150分)。
4.本捏の材料を入れ、混練する(低速2分、ショートニング添加、中速4分、中低速0.5分)。
5.ベンチタイム 10分。
6.分割(210g×3)後、10分静置。
7.成形。
8.ホイロ(38℃、85%RH、45分)。
9.焼成(210℃、40分)
の順に行った。
【0044】
【表6】

【0045】
【表7】

【0046】
焼成した食パンについて、下記の各試験を行った。結果を表8に示す。
1)クラム部分の物性測定
測定機器;サン科学レオメーター
測定条件;Range 20N、直径30mm円柱形プランジャー、一定荷重6N、
測定速度;600mm/min、測定時間;120秒(荷重時間60秒→除重時間60秒)、
試料;20×20×20mm3 立方形
焼成後室温放置2時間、室温保存24時間、冷蔵保存24、48、72時間後の食パン試料について、上記測定法にて物性測定を行い、初期弾性率G(Pa)、最大変形量(%)、復元量(%)を求めた。
(Pa)={6(N)/0.0004(m)}/{初期変形量(mm)/試料高(mm)}

最大変形量 (%) = 最大時の変形量(mm)/試料高(mm)×100
復元量 (%)=(最大変形量−120秒時変形量)/(最大変形量)×100
2)クラム部分の水分測定
物性測定後の試料を用いて、105℃絶乾法によりクラム水分を求めた。
【0047】
【表8】

【0048】
焼成2時間後のブランクと試料4のG0および最大変形量はほぼ同じであったが、復元量は試料4の方が大きかった。このことより、試料4を添加することで、食パンのクラム部分の弾力が増すことが分かった。
室温保存24時間後のブランクは、焼成2時間後よりも最大変形量が小さくなり、G0および復元量が大きくなっており、室温保存中の経時変化により、クラム部分が硬くなっていた。一方、室温保存24時間後の試料4は焼成2時間後よりも、G0が大きくなり、最大変形量および復元量が小さくなっていたが、その変化量はブランクよりも小さく、経時安定性に優れていた。
冷蔵保存24時間後の試料4は、ブランクよりもG0が小さく、最大変形量および復元量が大きかった。すなわち、試料4の方が、柔らかく弾力に富んでいると言え、両者には有意な差がみられた。冷蔵保存48時間後においては、ブランクと試料4に有意な差はみられなかった。冷蔵保存72時間後のブランクは、試料4に比べて、G0の著しい増加あるいは最大変形量の著しい低下がみられ、クラム部分が有意に硬くなっていた。このことより、食パンのクラム部分は冷蔵保存48〜72時間の間に著しい経時変化が起こることが推察されるが、試料4を添加することで、その経時変化は抑制されていた。
以上のことより、試料4を添加することにより、室温および冷蔵保存時の経時安定性に優れ、柔らかく弾力に富んだ食パンが得られると考えられる。
【実施例17】
【0049】
表9に示す配合比の材料をよく混合し、直捏法にて製パン後、粉砕して生パン粉を3種類調製した。これを使って下記の方法でトンカツを揚げ、食感を比較した。
表10の材料をよく混合し、粘度約3000cpsのバッターとした。このバッターに厚さ約8mmのロース豚肉を浸し、パン粉をまぶしたものを約175℃の油で3分30秒揚げた。このトンカツの衣について「サクサクとしてソフト」と感じる順に順位付けして評価した。その結果を表11に示した。
この結果から試料9、試料10を配合したパン粉は、それぞれ特徴が出ていて、どちらも対照と比較して良好な食感になっていることが確認された。
【0050】
【表9】

【0051】
【表10】

【0052】
【表11】

【0053】
対照と比較して試料9および試料10を配合したパン粉は、サクサク感、ソフトさ、口どけのよさ、いずれの項目でも良好な評価となった。特に、試料9を配合したパン粉はサクサク感が、試料10を配合したパン粉はソフトさ、口どけのよさが優れており、それぞれ特徴があった。
【実施例18】
【0054】
試料5を添加することによるマフィンの食感改良および経時安定性の付与を検討した。表12の処方に従って、下記の工程でマフィンを製造した。
1. バターをクリーム状に練り、砂糖を2〜3回に分けて加え、よくすり混ぜる。
2. 卵を5〜6回に分けて加え混ぜ、バニラエッセンスを加える。
3. 篩った表12記載の(a)の1/3量を加え混ぜ、牛乳も1/3量加え混ぜる。残りの(a)、牛乳も1/3量ずつ順に加え混ぜる。
4. 3を絞り器に入れ、型に67gずつ入れる。
5. 200℃、29分焼成。
【0055】
【表12】

【0056】
1) 焼成前の生地の状態
薄力粉の一部を試料5で置換した場合、試料5の置換量が多くなるにつれ、焼成前の生地の粘度は高くなった。
2)官能評価
調製後、室温保存1日後の各マフィン試料について硬さ、口溶け、しっとり感について評価した。また、冷凍保存7日後自然解凍した各マフィン試料についても同様の評価を行い、経時安定性について調べた。結果を表13に示す。
【0057】
【表13】

【0058】
室温保存1日後のブランクはボソボソした食感であった。試料5を添加したマフィンは、ブランクに比べ、ふんわりとした柔らかさ、しっとり感、口溶けの良さが向上していた。しかし、10%添加したものは、若干弾力のある食感となった。
冷凍保存7日後のブランクは、冷凍前よりパサパサしており、口溶けも悪くなっていた。試料5を添加したマフィンは、ブランクよりもふんわりとした柔らかさ、しっとり感、口溶けの良さで好ましい食感を有していた。
以上のことより、試料5を添加することで、マフィンの食感および経時安定性が好ましく改善されると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉に小麦粉を配合した澱粉小麦粉配合物をドラムドライヤーまたはエクストルーダにてアルファー化処理して得られるアルファー化変性澱粉。
【請求項2】
澱粉に強力小麦粉を配合した澱粉強力小麦粉配合物をドラムドライヤーまたはエクストルーダにてアルファー化処理して得られるアルファー化変性澱粉。
【請求項3】
小麦粉を含有するアルファー化澱粉を用いることを特徴とするゲル化剤。
【請求項4】
強力小麦粉を含有するアルファー化澱粉を用いることを特徴とするゲル化剤。
【請求項5】
小麦粉を含有することを特徴とする小麦粉含有食品用アルファー化変性澱粉。
【請求項6】
強力小麦粉を含有することを特徴とする小麦粉含有食品用アルファー化変性澱粉。

【公開番号】特開2007−169442(P2007−169442A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−368580(P2005−368580)
【出願日】平成17年12月21日(2005.12.21)
【出願人】(000227272)日澱化學株式会社 (23)
【Fターム(参考)】