説明

アルミニウム、マグネシウムおよびマンガンを含む排水の排水処理方法

【課題】 アルミニウム、マグネシウムおよびマンガンを含有する硫酸酸性の排水から、マンガンを選択的に除去する排水処理方法の提供。
【解決手段】 硫酸酸性排水に酸もしくはアルカリを添加し、pHを4.0以上6.0以下に調整して脱アルミニウム後液とアルミニウム澱物とに分離する工程と、アルミニウム澱物にスラリー化溶液を加えてスラリーを形成し、次いでアルカリを添加して9.0以上9.5以下にpH調整したpH調整後アルミニウム澱物スラリーを形成する工程と、脱アルミニウム後液にアルカリを添加してpHを8.0以上9.0以下に調整し、次いで酸化剤を加えて酸化中和した酸化中和後スラリーを形成する工程と、アルミニウム澱物スラリーおよび酸化中和後スラリーを固液分離する工程を経て、アルミニウム、マグネシウム及びマンガンを含有する硫酸酸性排水からマグネシウムの沈殿を抑制して脱マンガン排水を得る排水処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム、マグネシウム、マンガンを同時に含有する硫酸酸性排水から、マンガンをマグネシウムと分離して除去する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場で発生する排水には、工程や原料に由来する重金属を含有する場合があり、そのままでは河川や海域などの系外に排出することは出来ない。このため、上記のような排水は、例えば特許文献1に示す方法で、排水処理工程に送られ、中和剤を加えてpHを調整し、含有する金属イオンを水酸化物などの形態の沈殿物として排水から分離し、この重金属を分離後の排水を系外に排出する方法が用いられる。
【0003】
しかし重金属を沈殿物として排水から分離する場合、重金属を沈殿物中に安定して固定することは容易ではなく、その処理に多大な手間やコストを要する場合がある。例えば、マンガンを含有する酸性排水の場合、マンガンを水酸化物の沈殿として安定して固定するためには、排水のpHを8〜10範囲に調整しなければならない。このためには水酸化カルシウムなどのアルカリ性のスラリーを多量に添加して、排水を強酸性からアルカリ性に中和する必要がある。
【0004】
さらに、例えば鉱石を酸浸出して有価金属を回収した後に発生する排水の場合には、マンガンのほかにマグネシウムも含有されていることが多い。このマグネシウムは、環境に影響を及ぼさないため、マンガンのように排水から除去する必要はないが、マンガンの沈殿処理時、同時に沈殿物を形成するため、マグネシウムが澱物を生成するに必要な量の中和剤を消費してしまい、マンガンの水酸化物生成に必要な化学当量よりも過剰な中和剤が必要であった。このように、中和剤使用量の増加は、コスト上昇をもたらすと共に、発生する澱物の量も増加させるので、その処理の手間も増加するなど好ましくない。さらに澱物の量が増加すると、澱物中のマンガン品位が相対的に低下し、マンガンを資源として再利用することがコスト的に不利になるなどの弊害も生じてしまう。
【0005】
このため、例えば特許文献2には、マグネシウムとマンガンを含有する酸性溶液から、マンガンを優先的に除去する方法が開示されている。
この特許文献2に開示される方法は、ニッケル酸化鉱石を酸浸出して得られた、マンガンを1〜3g/L及びマグネシウムを2〜15g/L含んだ酸性溶液において、中和剤を添加して溶液のpHを8.2〜8.8の範囲に調整するとともに、空気、酸素、オゾン又は過酸化物を添加して、酸化還元電位(ORP)が銀-塩化銀電極で測定した電位で50〜300mVの範囲を維持するように調整し、マンガンを優先的に沈殿させて除去する方法である。
この方法を用いることにより、マンガンをマグネシウムよりも先に除去できるので、中和剤がマグネシウムの沈殿生成に消費されることを抑制でき、中和剤の使用量が節約できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−125316号公報
【特許文献2】特許第3225836号公報(第1頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献2に示されるニッケル酸化鉱を硫酸により浸出して得られる硫酸酸性溶液を硫化し、ニッケルを硫化物として分離した後に得られる液では、マグネシウムとマンガンの他に、アルミニウムも含有する場合も多く、このようなアルミニウムを含む酸性水溶液を排水処理する場合に、特許文献2に開示される方法を用いても、マンガンと共にかなりの量のマグネシウムも沈殿し、中和剤が過剰に必要となってしまう。
【0008】
この中和剤の過剰使用を、その具体例を以って示す。先ずマンガン濃度が3.4g/L、マグネシウム濃度が8.4g/L、アルミニウム濃度が0.5〜2.0g/Lである硫酸酸性の水溶液を、容量0.2リットルのビーカーに入れ、ウォーターバスを使って液温を50℃に維持する。次にその水溶液に濃度20質量%の水酸化カルシウムスラリーを添加しpHを8.0に調整し、そのpHが安定したところで液の酸化還元電位(ORP)を銀・塩化銀電極を参照電極として測定しながら、ボンベから純酸素ガスを毎分1リットルの流量でビーカー内の液内に吹き込み、30分間保持する。その時の酸化還元電位は200mV前後であった。次いで、ビーカー内の溶液を固液分離し、回収した沈殿物を分析してアルミニウムとマグネシウムの除去量を算出した。
図1に示すように、沈殿物中のマグネシウムとアルミニウムのモル比(Mg/Al)は概ね2前後となる割合を保ってマグネシウムも沈殿することから中和剤が余計に必要となっていることがわかる。
【0009】
このように、上記の酸化と中和を行う特許文献2に記載した処理方法では、アルミニウムを含有する排水のために、マグネシウムがマンガンと共沈することを抑制できず、不経済である。このため、アルミニウム、マグネシウムおよびマンガンを含有する硫酸酸性溶液から、マグネシウムの沈殿を抑制してマンガンを沈殿させ分離する方法が求められていた。
そこで、本発明は、アルミニウム、マグネシウムおよびマンガンを含有する硫酸酸性の排水から、効率よくマンガンを選択的に除去する排水処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するための本発明の第1の発明は、アルミニウム、マグネシウム及びマンガンを含有する硫酸酸性排水から下記の(1)〜(5)の工程を経て、マグネシウムの沈殿を抑制してマンガンを沈殿、分離した脱マンガン排水を得ることを特徴とする排水処理方法である。
(1)硫酸酸性排水に酸もしくはアルカリを添加して、排水のpHを4.0以上6.0以下の範囲にpH調整することにより、前記硫酸酸性排水を脱アルミニウム後液とアルミニウム澱物とに分離する工程。
(2)前記(1)の工程で得たアルミニウム澱物にスラリー化溶液を添加してスラリーを形成し、次いでアルカリを添加して、そのpHを9.0以上9.5以下の範囲とするpH調整を行い、pH調整後アルミニウム澱物スラリーを形成する工程。
(3)前記(1)の工程で得た脱アルミニウム後液に、アルカリを添加して8.0以上9.0以下の範囲へのpH調整を行い、次いで酸化剤を加えて酸化中和した酸化中和後スラリーを形成する工程。
(4)前記(3)の工程で得た酸化中和後スラリーを固液分離し、マンガン澱物と脱マンガン排水とに分離する工程。
(5)前記(2)の工程で得たpH調整後アルミニウム澱物スラリーを固液分離し、水酸化アルミニウム澱物と濾液とに分離する工程。
【0011】
本発明の第2の発明は、第1の発明における前記(1)から(3)の工程のpH調整に使用されるアルカリが、前記水酸化アルミニウム澱物、前記濾液、前記脱マンガン排水、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれか1種類以上を含むアルカリである排水処理方法である。
【0012】
本発明の第3の発明は、第1から第2の発明における前記(2)の工程におけるアルミニウム澱物に添加するスラリー化溶液が、水、アルカリ水溶液、前記酸化中和後スラリー、前記脱マンガン排水、前記pH調整後アルミニウム澱物スラリー、前記濾液のいずれか1種類以上である排水処理方法である。
【0013】
本発明の第4の発明は、第1から第3の発明における前記(3)の工程におけるpH調整された脱アルミニウム後液に添加する酸化剤が、空気、オゾンガス、過酸化水素溶液、二酸化硫黄ガス、酸素のいずれか1種類以上である排水処理方法である。
【0014】
本発明の第5の発明は、第1から第4の発明における高圧容器に貯められた前記(3)の工程におけるpH調整された脱アルミニウム後液に酸化剤を添加することを特徴とする排水処理方法である。
【0015】
本発明の第6の発明は、第1から第5の発明における前記硫酸酸性排水が、ニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル及びコバルトを高圧酸浸出法により硫酸で浸出し、得られる硫酸酸性溶液を硫化してニッケル及びコバルトを硫化澱物として分離した後に得られる液であることを特徴とする排水処理方法である。
【0016】
本発明の第7の発明は、第1から第6の発明における前記(5)の工程におけるpH調整で得た水酸化アルミニウム澱物と分離された濾液を、前記(1)、(2)、(3)のいずれか1つ以上の工程に繰り返し、添加するアルカリとして用いることを特徴とする排水処理方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下に示す工業上顕著な効果を奏するものである。
(a)アルミニウム、マグネシウム及びマンガンを含有する硫酸酸性の排水から、マグネシウムの共沈を抑制し、マンガンを分離できる。
(b)添加に必要な中和剤量が減少するので、コストを低減できる。
(c)発生する澱物量が減少するので、設備容量が削減し投資が圧縮できる。同時に廃棄場所の容積が節減できるなど環境面からも好ましい。
(d)マグネシウムの沈殿が抑制されるので、沈殿物中のマンガン品位が上昇でき、マンガンを資源化して再利用するコストが低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】アルミニウムの除去量に対するマグネシウムの除去量の関係を表す図である。
【図2】保持時間による液中のMn濃度、Mg濃度、Al濃度、及びFe濃度の変化を表す図である
【図3】空気又は純酸素ガスの圧力と反応時間(保持時間)によるMn濃度の変化を表す図である。
【図4】空気又は純酸素ガスの圧力と反応時間(保持時間)に伴うMg濃度の変化を表す図である。
【図5】保持時間による液中のMn濃度、Mg濃度、Al濃度、及びFe濃度の変化を表す図である。
【図6】中和反応のpHと中和剤量の関係を示す図である。
【図7】本発明の排水処理方法の工程フロー図である。
【図8】実施例3における排水処理方法の工程フロー図である。
【図9】比較例1の工程フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、アルミニウム、マグネシウムおよびマンガンを含有する硫酸酸性の排水から、マグネシウムの沈殿を抑制しつつマンガンとアルミニウムを沈殿させ排水から分離することを特徴とする排水処理方法である。
本発明で処理する排水は、特に制限するものではないが、例えばマンガンに対して、マグネシウムが同等以上の濃度で含有され、さらにマンガンの1/100以上の濃度のアルミニウムを含有する液に対して、特に効果が大きい。
【0020】
本発明の排水処理方法を用いる排水の具体的な例としては、ニッケル酸化鉱石を硫酸と共に高圧硫酸浸出法で浸出し、得られた浸出液のpHを調整して不純物を分離し、さらに硫化剤を添加してニッケル及びコバルトを分離した後に残される排水などがある。この排水には、マンガン濃度が2〜6g/L、マグネシウム濃度が3〜12g/L、アルミニウム濃度が2〜6g/Lのレベルで含有されており、本発明の排水処理方法が好ましく適用できる。
【0021】
本発明は、アルミニウムを含有する排水にアルカリを添加してスラリーを生成し、次いで澱物と濾液とに固液分離する。固液分離するには、シックナーを用いて水分の多い半ばスラリー状態で分離する方法のほかに、フィルタープレスや遠心分離機等の濾過機を用いて水分を絞った澱物として回収するなど様々な方法を用いることができる。
しかしいずれの方法を用いても、多少の付着水は避けられず、特に水酸化アルミニウムが不安定で付着水中の金属イオンを水酸化アルミニウムの結晶構造中に取り込む性質がある場合、そのまま廃棄するのは問題となる場合がある。
【0022】
そこで本発明では、得られた澱物に水などのスラリー化するための溶液を加えて再びスラリー化し、さらにアルカリを添加して、アルミニウム水酸化物を化学的に安定化させて、ハイドロタルサイト様態の複合水酸化物を形成することを防ぐ一方、このアルカリを添加してpHを調整し、アルカリ領域に維持する処理により、アルミニウムの安定化と同時にアルミニウム澱物の付着水に含まれる重金属の溶出を抑制するものである。
【0023】
したがって、上記で得たアルミニウム澱物をスラリー化したアルミニウム澱物スラリーから水酸化アルミニウムの澱物を分離する場合には、どのような方法を用いても得られたアルミニウム水酸化物の安定性には差はなく、安定している。
また、上記の方法で水酸化アルミニウム澱物を分離した後の濾液(脱アルミニウム濾液)中には、アルミニウムイオンは実質的に含まれていないので、ハイドロタルサイト様態の複合水酸化物の生成は起こり難く、後工程において酸化剤を投入してマンガンイオンを酸化物の形態として沈殿させる際のpH調整に用いてもマグネシウムとアルミニウムとの共沈を抑制するので、新たに添加する中和剤(特に、アルカリ水溶液)の消費を大きく抑制する。
【0024】
以上をさらに詳しく説明すると、アルミニウムイオンを含有する溶液のpHを4.0〜6.0の範囲に調整すると、水酸化アルミニウムを形成して沈澱する。その後、pHを7.0〜8.0の領域まで上昇させると、この水酸化アルミニウムは、一般に〔Al(OH)〕で表記される単純な水酸化アルミニウム澱物の形態で安定して存在するのではなく、共存するマグネシウムイオンなどの2価の金属イオンを塩基性複塩の形に取り込んだハイドロタルサイト型化合物(アルミニウム複合水酸化物)として準安定な状態で存在し、この準安定化した状態では中和剤を過剰に消費するものと考えられる。
【0025】
このアルミニウム複合水酸化物は、特にマグネシウムが共存する場合には、アルミニウムの最大6倍に相当する量のマグネシウムを準安定的に取り込み、共沈殿することになり、これに見合った中和剤の使用量も増加する結果となると考えられる。
そこで、これを本発明者らの行なった実験により具体的に示すと、マンガン2.7g/L(0.05mol/L)とマグネシウム9.0g/L(0.37mol/L)とを含有する硫酸酸性排水に、硫酸アルミニウムを添加してアルミニウム濃度を0.05g/L(0.002mol/L)、0.10g/L(0.004mol/L)、2.0g/L(0.074mol/L)、4.0g/L(0.148mol/L)に変化させ、この排水に消石灰を添加して、そのpHを5.5とし、次に水酸化アルミニウムが存在するスラリー状態のままでpHを8.5まで変化させ、排水をサンプリングしてマンガン濃度が1mg/L未満となるまで中和するのに要した中和剤の量を調べた結果を図6に示す。
【0026】
図6から明らかなように、pH7付近から中和剤の使用量が急激に増加し、本来のマンガンを中和するのに必要な0.1モル程度の当量の5〜7倍程度の消石灰を必要としていることがわかる。
そこで本発明では、このアルミニウム複合水酸化物の生成を抑制できれば、マグネシウムの共沈澱を抑制し、中和剤が節減できるとの考察を基に本発明に至ったものである。
【0027】
すなわち、本発明では排水をまず従来よりも低いpHで中和し、優先的にアルミニウム水酸化物を生成させてスラリーとする。次に濾過して水酸化アルミニウムを澱物として分離した排水(脱アルミニウム後液)を得ると共に、その得られた排水に含まれる他の2価金属イオンを、水酸化物として分離できるように、再び中和して従来と同じpHが8.0以上、9.0以下の範囲となるように調整し、さらに酸化剤を加えて酸化してマンガンをマグネシウムの共沈なしに分離する。このような工程を経ることによりマグネシウムの沈澱が抑制され、マグネシウムの沈殿に消費される分の中和剤の節減が可能となる。
【0028】
また、始めに分離した水酸化アルミニウムを澱物としたアルミニウム澱物は、アルカリ溶液と接触させることで、そのアルミニウム澱物の形態を化学的に安定化させる。なお、水酸化アルミニウムの表面には部分的に重金属が吸着していることがあるが、この安定化処理により重金属が澱物から溶出することも防止する。
このようにして、本発明の方法を用いることにより、排水中に含まれる金属類を澱物として固定しても、環境中に溶出する事態を防止できるものである。
【0029】
そこで本発明では、アルミニウムを含む硫酸酸性排水を、2段階のpH調整による処理方法を用いる。
すなわち上述したように、まず1段階目で比較的低いpHに調整して水酸化アルミニウムの形態の澱物またはスラリーとして硫酸酸性排水から一度分離し、その水酸化アルミニウムの形態の澱物を再度スラリー化して、2段階目の中和を行ってpHを9.0以上9.5以下の範囲に調整することにより水酸化アルミニウムを化学的に安定化させるものである。
【0030】
このように水酸化アルミニウムを分離し、分離したアルミニウム澱物、またはスラリーを単独で安定化処理することにより、過剰な中和剤を消費することがなく、中和コストを削減することが可能になる。
【0031】
以下に、図7の工程フロー図に沿って工程ごとに具体的に説明する。
(1)の工程:
まず、硫酸酸性排水のpHを調整して排水からアルミニウムを分離する。このpH調整後に得られる脱アルミニウム後液に含有されるアルミニウム濃度は、次工程のマンガン沈殿物へのマグネシウムやアルミニウムの許容量を考慮して決められるが、具体的には0.1g/L以下、好ましくは0.01g/L以下であれば良い。
【0032】
中和により、アルミニウムを分離して、上記濃度以下にするには、硫酸酸性排水にアルカリを添加し、そのpHを4〜6、好ましくは4〜5の範囲に調整する。
そのpHが4未満では、アルミニウムの沈殿生成が不十分であり、液に残留するアルミニウムの量が増加する。このため、本発明の特徴である水酸化アルミニウムの安定化処理が行われないまま残ることとなり、下工程の酸化において、マグネシウムと共に共沈するアルミニウムが増加し、本発明の効果を減ずることになる。
【0033】
一方、pHが6を超えると、pH調整時に局部的にpHが上昇してマグネシウムの共沈澱が発生し、沈殿物量が増加する可能性がある。局部的なpH上昇の影響を防止するには調整するpHの上限を5以下とすることが好ましい。
このように、pHの範囲を4〜6に調整した場合、アルミニウムは水酸化アルミニウムとして沈殿し、中和剤はほぼ理論値当量の添加で過不足なく処理できる。
使用する中和剤には、炭酸カルシウムや水酸化カルシウムなどのアルカリを固体のまま、あるいはスラリーとして添加することができる。
【0034】
次に、そのスラリーを、沈殿したアルミニウム澱物(水酸化アルミニウムの澱物)と、液体分の脱アルミニウム後液とに固液分離する。
この固液分離における沈殿物は、シックナーを用いて濃縮スラリーとして分離するか、あるいはフィルタープレスなどを用いて澱物として回収する方法がある。なお、この澱物は再度スラリー化されることで安定化するので、ここで生じたアルミニウム澱物を完全に乾燥する必要はない。
【0035】
この得られたアルミニウム澱物ないし濃縮スラリーには、多数の脱アルミニウム後液が付着している。この付着した脱アルミニウム後液には、マンガンを始め多数の不純物が共存しているため、このまま澱物、スラリーを乾燥し、堆積状に廃棄すると、これら付着不純物が溶出し、周囲の環境を損ねる懸念を生じさせることから、好ましいことではない。
【0036】
(2)の工程:
そこで、前工程で分離したアルミニウム殿物は澱物として回収した場合には、水などのスラリー化溶液を加えて再度スラリー化し、濃縮スラリーとして回収した場合は、そのまま次工程に用いる。
次に作製したスラリーに、上記説明のようにアルカリを添加してpHを9.0以上、9.5以下の範囲になるように調整してpH調整後アルミニウム澱物スラリーを生成する。これは、スラリー中の水酸化アルミニウムがハイドロタルサイト様態の水酸化物を形成できないように化学的に安定化させるものである。同時に、共存したマンガンイオンは完全に沈澱分離される。この際、付着水として少量存在するマグネシウムイオンは完全中和される。
【0037】
なお、アルミニウム澱物をスラリー化する際に添加するスラリー化溶液は、水の他に、本発明で得られたマンガンを分離した後の液(脱マンガン排水)、脱アルミニウム後にマンガンを酸化、沈殿物としたもの(酸化中和後スラリー)、pH調整を行い水酸化アルミニウムを安定化したpH調整後アルミニウム澱物スラリー、あるいは、このスラリーを固液分離した際の濾液なども使用でき、さらに、所定のpHに必要な量のアルカリ水溶液を添加して、スラリー化とpH調整を同時に行っても良い。
【0038】
(3)の工程:
一方、アルミニウムを分離した脱アルミニウム後液(以下、脱アルミ後液と称すこともある)は、アルカリを加えてpHを8.0〜9.0の範囲に調整する。pHが上がりすぎると添加するアルカリのコストが増加するほか、浮遊固形物などとして残存するアルミが再溶解する傾向が強まるため、pHは9.0以下が適する。
【0039】
このpH調整に用いられるアルカリは、本発明では上記水酸化アルミニウムを安定化したpH調整後アルミニウム澱物スラリーを固液分離して形成した濾液、および脱マンガン排水が再利用でき、これらを使用することによって、新たに使用する水酸化カルシウムなどのアルカリの消費量を大きく抑えることが可能である。なお、安定化処理された水酸化アルミニウム澱物も、このpH調整(硫酸酸性排水をpH4〜6に調整して得た脱アルミニウム後液を、pH8〜9の範囲に調整する)に添加するアルカリとして使用できるが、脱アルミニウム後液のアルミニウム許容量を超えない範囲で行う。
【0040】
次いで、酸化剤を添加して含有するマンガンイオンを2価から3価に酸化してマンガンの酸化物を含有する酸化中和後スラリーとされる。
この酸化は、まず中和剤(アルカリ成分)を添加して、排水のpHが平衡状態に到達した後に酸化剤を添加することが好ましい。すなわち、中和剤に固形物を用いた場合、平衡pHに達した後に、酸素ガスを吹込むことにより、中和剤消費量を低減することができる。
【0041】
使う酸化剤には、空気、酸素、オゾン、過酸化物、あるいは二酸化硫黄等を用いることができるが、効率や取り扱いの容易さを考えると、酸素ガスをボンベ等から供給し、シンターガラスやパイプなどを通して液中に吹き込む方法がもっとも適している。
【0042】
そこで、酸素ガスの吹き込み量は、液中のマンガンイオンを2価から3価に酸化するのに必要な量があればよい。具体的には、銀塩化銀電極を参照電極に用いて排水の酸化還元電位を測定しつつ、一般にマンガンイオンが2価から3価に変化する領域とされる50〜300mVの電位の範囲に入ることを目安に酸素ガスの吹き込み量を調整するか、あるいは排水をサンプリングし、マンガンイオンの価数を化学分析するなどして管理すれば良い。なお、酸素ガスは溶液中に溶存し難いので、圧力容器を用いて溶存酸素量を増加させることが好ましい。
【0043】
なお、本発明のように、硫酸酸性溶液を酸化してマンガンを酸化物として沈澱させる場合、酸化剤を添加して酸化還元電位を調整するのに先立ってpHを調整しておくことが好ましい。
これは、溶液中で酸化物が生成すると残留する硫酸イオン(SO2−)が溶液中の水素イオンを取り込んで硫酸を再生成し、この結果溶液のpH値が部分的に低下するためである。溶液のpHが部分的に低下すると、その場所では生成した酸化物が再溶解しやすくなり、その結果加えた酸化剤が無駄になり沈澱生成の効率が低下する。そこで、予め溶液のpHを上昇させ、硫酸が生成しても沈澱の再溶解を抑制するpH領域に維持してから酸化を開始することが好ましいものである。
【0044】
上記の理由により、この中和と酸化の反応を行うための反応槽は、別々に設けることが好ましい。別々の反応槽を用いることで、添加した水酸化カルシウムの粉末の表面が一時的に高pHとなりマグネシウムが水酸化物として析出することも防止でき、中和剤消費量の増加も抑制できる。さらに、マンガンの酸化が不十分となる事態を避けることもできる。
【0045】
また、この中和槽は、反応を安定かつ確実に行うために、30分以上の滞留時間を確保できることが望ましく、一方酸化槽は、高圧容器を用いることが好ましい。すなわち、低品位ニッケル酸化鉱を浸出して得た排水のように、塩濃度の高い水溶液には酸素ガスは溶解しにくく、マンガンの酸化速度に影響するので、高圧容器を用いて酸素分圧を上昇させ、排水中の溶存酸素量を増加させることが有効である。
【0046】
(4)および(5)の工程:
以上の工程により得られた2種類のスラリーは混合せずに埋設して廃棄することにより、化学的に安定な状態を保持したまま処理もできるが、資源の再利用の点から、より望ましくは、マンガン酸化物を含有する酸化中和後スラリーと、安定化処理されたアルミニウム澱物スラリーを、それぞれ別々に固液分離して処理する。
【0047】
固液分離を行う場合、安定化処理されたアルミニウム澱物スラリーを固液分離して形成した水酸化アルミニウム澱物(安定化後)と濾液は、両者ともに硫酸酸性排水のpH調整、およびpH調整後アルミニウム澱物スラリー形成のためのpH調整に使用するアルカリとして利用することができる。さらに、濾液は脱アルミニウム後液のpH調整にも利用することも可能である。
【0048】
一方、酸化中和後スラリーを固液分離して形成された脱マンガン排水も、硫酸酸性排水のpH調整、および脱アルミニウム後液のpH調整に用いるアルカリとして利用できる。
このように本発明の濾液や脱マンガン排水などの回収工程における終末生成物は、再利用が可能であり、排水回収処理中のアルカリ使用量の抑制に大きく寄与するものである。
【0049】
さらに、マンガン酸化物を含有する酸化中和後スラリーと、安定化処理されたアルミニウム澱物スラリーとを混合した後に固液分離しても問題はない。
すなわち、マンガン酸化物を含有するスラリーの液部分には、マグネシウムが共存しているが、混合された水酸化アルミニウムの形態は安定化しているので、水酸化アルミニウム粒子の周囲にアルミニウムと親和性の高いマグネシウムが存在してもマグネシウムは沈殿を生成しない。
【0050】
その結果、マグネシウムが中和剤を消費して沈殿を生成することはなく、中和コストが削減でき、発生する澱物量も減少する。しかも、安定化した水酸化アルミニウム澱物を含むアルミニウム澱物スラリー内に共存しているマグネシウムは、マンガン酸化物を含有するスラリー中のマグネシウムと混合され、単一の設備で固液分離できるため、生産工数や設備点数の削減につながる効果を有する。
【0051】
この設備を簡略化しコストを削減する観点からは、これら2つのスラリーを混合して処理することが望ましいが、両者を混合した場合、濾液に含まれるマグネシウムイオンと水酸化アルミニウムを安定化させて得られた澱物中のプロトンとのイオン交換反応が生じ、時間の経過とともに徐々にpHが低下し、一部のマンガンが溶出する現象が生じることがあるため、混合後に処理するまでの時間は短いほうが良い。
【0052】
なお、本発明の方法を用いず、従来の方法のように硫酸酸性の排水を、pHが2〜4程度かそれ以下の強酸性の状態から一気にpH8以上の水酸化アルミニウムが安定して存在できる状態に調整しようとした場合には、pH調整を進める間に、アルミニウム複合水酸化物が形成されると同時にマグネシウムの共沈殿が優先して発生してしまうので、マンガンの沈殿が円滑には進まなくなり、中和剤がより過剰に必要となる。
【実施例】
【0053】
以下に、本発明の実施例及び比較例で詳細に説明する。なお、金属イオンの濃度はICP発光分析法を用いて定量した。
【実施例1】
【0054】
先ずニッケル酸化鉱を高圧酸浸出法を用いて鉱石中に含まれるニッケルやコバルト等を硫酸溶液中に浸出させ、得られた浸出液のpHを調整する。pH調整した浸出液に、硫化剤を添加してニッケルおよびコバルトを硫化物として分離した。分離後に得られた硫化後排水の分析値は、マンガン濃度2.90g/L、マグネシウム濃度7.81g/L、アルミニウム濃度2.90g/L、及び鉄濃度0.40g/L、そのpHは2.5だった。
【0055】
そのニッケルおよびコバルトを回収した後、図7の工程フロー図に示すように硫化後の硫酸酸性排水を元液とした排水処理を行う。
先ず、pH2.5の硫酸酸性排水を容量が2リットルの耐熱ガラス製の反応容器を入れ、60℃に維持、攪拌しながら濃度20質量%の水酸化カルシウムのスラリーを添加してpHを4.5に調整した(図7:pH調整−1)。次いで、ヌッチェと濾紙を用いて固液分離し、排水中のアルミニウムをアルミニウム殿物と脱アルミニウム後液とに分離した。その脱アルミニウム後液中のアルミニウムの濃度は、0.01g/Lと充分に排水から除去できていることを確認した。
【0056】
次に、そのアルミニウム澱物にスラリー化溶液として水を加え、スラリー化を図り、そのスラリー濃度を200g/Lに調整した。このスラリーを室温で攪拌しつつ、濃度20質量%の水酸化カルシウムのスラリーを添加してpHを9.0以上、9.5以下の範囲に収まるように調整(図7;pH調整−2)し、pH調整後アルミニウム澱物スラリーとした。
【0057】
次いで、脱アルミニウム後液1.5リットルを、容量2リットルの耐熱ガラス製の容器に入れ、加熱して液温を60℃に維持した。その脱アルミニウム後液に、濃度20質量%の水酸化カルシウムスラリーを添加して排水のpHを8.5に調整した(pH調整−3)。
【0058】
次に、酸素ガスをボンベから1000mL/分の流量でシンターガラスを介して容器の底に吹き込む酸化中和処理を行い、酸化中和後スラリーを得た。酸化中にpHが低下した際は、随時水酸化カルシウムスラリーを添加し、pHは8.0から9.0の間に維持した。酸化中は銀塩化銀電極を参照電極として酸化還元電位を測定した。酸化還元電位は50〜300mVの間を安定して推移した。
なお、排水処理終点の判定は、マンガン濃度の分析値の確認により行い、マンガン濃度が1mg/L以下に低減した点を終点として中和剤使用量の比較を行った。
【0059】
作製した酸化中和後スラリーとpH調整後アルミニウム澱物スラリーのそれぞれ一部を混合し、室温で撹拌した。一定の時間毎に、スラリーをサンプリングし、濾過して排水をサンプルして排水中のマンガン濃度、マグネシウム濃度、アルミニウム濃度、及び鉄濃度の変化を測定して図2に示した。
【0060】
排水から一度アルミニウムの大部分を分離して酸化中和処理を行い、その後に安定化した澱物を再度混合した場合、図2に示すように、マンガンの沈殿生成に伴う排水中のマンガン濃度の減少に対し、マグネシウム濃度の変化はごく小さく、マグネシウムの沈殿を防ぎながらマンガンの沈殿が得られることがわかる。
なお、実施例1において添加した水酸化カルシウムは排水元液1リットル当たり、0.353モルであった。
さらに、残った2種類のスラリーは、別々に固液分離して脱マンガン排水とマンガン澱物、並びに濾液、水酸化アルミニウム澱物(安定化後)に分離できた。
【0061】
(比較例1)
水酸化アルミニウムを安定化させずに、酸化中和後スラリーと混合し、中和した場合を行った。
図9に示す工程フロー図に従い、実施例1と同じ組成の硫酸酸性排水を用い、実施例1と同様に水酸化カルシウムを加えて中和し、排水のpHを4〜6に調整し、濾過してアルミニウム澱物を分離後、脱アルミニウム後液のpHを8.0以上9.0以下の範囲にpH調整を行い、次いで酸素ガスを吹き込んで酸化した。
【0062】
得られた酸化中和後スラリーを、分離しておいたアルミニウム澱物と混合し、溶液中の金属イオン(Mn)が1mg/L以下になるまで中和した。次いでヌッチェと濾紙を用いて濾過し、マンガン澱物と脱マンガン排水とに分離した。
本比較例1の場合、反応に使用した水酸化カルシウムの量は、排水元液1リットルあたり0.427モルであり、本発明の実施例に比べて21%も増加する結果となった。
【0063】
(比較例2)
水酸化アルミニウムの安定化を行わず、酸化によるマンガンの分離も行わない場合を実施した。
上記実施例1と同じ組成の硫酸酸性排水を使用し、室温で水酸化カルシウムを添加して中和し、排水のpHを8.0〜9.0の範囲を維持するように調整し、酸化処理は行わず濾過してマンガン澱物と脱マンガン排水とに分離した。
この脱マンガン排水を、酸化中和処理を行い、その経過時間と脱マンガン排水中のマンガン濃度、マグネシウム濃度、アルミニウム濃度、及び鉄濃度の変化を測定した結果を、図5に示す。
【0064】
図5より、排水中にアルミニウムが共存したまま酸化中和処理を行うと、マグネシウムがマンガンよりも先に沈澱し、しかも沈澱生成も明確に分離することはできず、マグネシウムとマンガンを分離できないことがわかる。
また、比較例2の場合、反応に使用した水酸化カルシウムの量は、排水元液1リットルあたり0.472モルであり上述した実施例1に比べて34%、比較例1に比較しても11%も増加する結果となった。
【0065】
(比較例3)
実施例1と同じ組成の硫酸酸性排水を使用し、特許文献1に記載のマンガン除去法により排水処理を行った。
特許文献1と同様にpH調整し、次いで酸素を用いて酸化した。得られた酸化中和後スラリーを、溶液中の金属イオン(Mn)が1mg/L以下になるまで中和した。次いでヌッチェと濾紙を用いて濾過し、マンガン澱物と脱マンガン排水とに分離した。
反応に使用した水酸化カルシウムの量は、排水元液1リットルあたり0.438モルであり、実施例1に比べて24%も増加する結果となった。
【0066】
上記のように本発明の実施例1は、比較例1、比較例2、および比較例3に比べて、中和剤消費量を大きく抑制することが容易であることがわかる。
【実施例2】
【0067】
次に、酸化剤に空気を使用し、圧力を変化させた場合を実施した。
マンガンを除去する(3)の工程において、水酸化カルシウムスラリーを添加してpHを8.5に調整し、次いで酸素ガスあるいは空気を用いて0.02〜0.2MPaの間で圧力付加して行ったこと以外は、実施例1と同様に行い、液中のマンガン濃度及びマグネシウム濃度を求めて、その結果を図3に示した。
【0068】
図3に示すように、酸素ガスを吹き込むことで、マンガンイオンを酸化して沈殿を生成し、マンガン濃度を低減できることがわかる。一方、空気を用いた場合も沈殿を生成することはできるものの、酸素ガスを用いた場合に比べて反応速度が遅く、実用的には酸素ガスを使用する方が好ましいことがわかる。
また、空気あるいは酸素ガスの圧力負荷に伴う、保持時間(反応時間)を変えた場合を図4に示すが、マグネシウム濃度は変わらず、マンガンの沈澱にマグネシウムが共沈することを防止できている。
【実施例3】
【0069】
(2)、(3)の工程により形成したpH調整後アルミニウムスラリーと、酸化中和後スラリーを混合した場合の混合液の経時変化を測定した。
図8の工程フロー図に従って、先ず実施例1と同じ組成の硫酸酸性排水を用い、実施例1と同様に水酸化カルシウムを加えて中和し、排水のpHを4〜6に調整し、濾過してアルミニウム澱物を分離後、脱アルミニウム後液を実施例1と同様にpH調整し、次いで酸素を用いて酸化し、マンガンを1mg/L以下まで低減させ、マグネシウムを液中に残留させた酸化中和後スラリーを生成した。このスラリーのpHは8.5であった。
【0070】
また、分離されたアルミニウム澱物はスラリー化され、消石灰を添加してpHを9.1まで上昇させ、金属イオンを完全中和により固定した。
両スラリーのpHおよびアルミニウム、マンガン、マグネシウム、ニッケルの含有量を表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1より、マグネシウムは酸化後並みに抑制できたが、この両スラリーを混合した場合には、pHが7.8まで低下し、24時間後にはマンガンは4mg/Lまで再溶出していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン及びマンガンイオンを含有する硫酸酸性の排水から、pHを調整するアルカリの使用量を抑えつつマンガンを除去した排水にすることに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、マグネシウム及びマンガンを含有する硫酸酸性排水から脱マンガン排水を得る排水処理方法であって、
下記の(1)〜(5)の工程を経て、マグネシウムの沈殿を抑制してマンガンを沈殿、分離した脱マンガン排水を得ることを特徴とする。

(1)硫酸酸性排水に酸もしくはアルカリを添加して、排水のpHを4.0以上6.0以下の範囲にpH調整することにより、前記硫酸酸性排水を脱アルミニウム後液と水酸化アルミニウム澱物とに分離する工程。
(2)前記(1)の工程で得たアルミニウム澱物にスラリー化溶液を添加してスラリーを形成し、次いでアルカリを添加して、pHを9.0以上9.5以下の範囲とするpH調整を行い、pH調整後アルミニウム澱物スラリーを形成する工程。
(3)前記(1)の工程で得た脱アルミニウム後液に、アルカリを添加してpHを8.0以上9.0以下の範囲へのpH調整を行い、次いで酸化剤を加えて酸化中和した酸化中和後スラリーを形成する工程。
(4)前記(3)の工程で得た酸化中和後スラリーを固液分離し、マンガン澱物と脱マンガン排水とに分離する工程。
(5)前記(2)の工程で得たpH調整後アルミニウム澱物スラリーを固液分離し、水酸化アルミニウム澱物と濾液とに分離する工程。
【請求項2】
前記(1)から(3)の工程のpH調整に使用されるアルカリが、前記水酸化アルミニウム澱物、前記濾液、前記脱マンガン排水、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、消石灰、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記(2)の工程におけるアルミニウム澱物に添加するスラリー化溶液が、水、アルカリ水溶液、前記酸化中和後スラリー、前記脱マンガン排水、前記pH調整後アルミニウム澱物スラリー、前記濾液のいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記(3)の工程におけるpH調整された脱アルミニウム後液に添加する酸化剤が、空気、オゾンガス、過酸化水素溶液、二酸化硫黄ガス、酸素のいずれか1種類以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項5】
高圧容器に貯められた前記(3)の工程におけるpH調整された脱アルミニウム後液に、酸化剤を添加することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項6】
前記硫酸酸性排水が、ニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル及びコバルトを高圧酸浸出法により硫酸で浸出し、得られる硫酸酸性溶液を中和して不純物を分離し、得た中和後液を硫化してニッケル及びコバルトを硫化澱物として分離した後に得られる液であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の排水処理方法。
【請求項7】
前記(5)の工程のpH調整で得た水酸化アルミニウム澱物と分離された濾液を、前記(1)、(2)、(3)のいずれか1つ以上の工程に繰り返し、添加するアルカリとして用いることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の排水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206757(P2011−206757A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174885(P2010−174885)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】