説明

アルミニウムパネル改質方法

【課題】汚れの付着などによって劣化したアルミニウムパネルの改質を簡便に行うことが、本発明の課題である。
【解決手段】熱水をノズルから噴射する際に、熱水のアルミニウムパネル表面への到達時における温度が100℃を超えるように噴射時の熱量・流量を制御することで、熱水がアルミニウムパネル表面に到達してアルミニウムパネル表面の微小凹凸内に浸入した時点で100℃を超える水温を保持し、浸入した熱水が常圧下で気化して水蒸気になる際の急激な体積膨張による物理的作用によって、アルミニウムパネル表面の微小凹凸内に付着する汚れを取り除く工程と、前記アルミニウムパネル表面に、塗布剤を塗布することで、アルミニウムパネル表面の微小凹凸内に前記塗布剤を浸透させる工程と、を有するアルミニウムパネル改質方法により、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物等のアルミニウムパネル表面の汚れや劣化の改質方法に関するものである。本発明によって、アルミニウムパネルの劣化を防止し表面を美しくよみがえらせることができる。
【背景技術】
【0002】
建築物の外壁などには、その外観意匠やメンテナンス上の観点から、アルミニウムパネルが用いられる場合がある。建築用のアルミニウムパネルは、アルマイト加工により表面に酸化アルミニウム被膜が形成されたものが一般的である。この酸化アルミニウムは陽極酸化によるものであり、JIS規格によれば15μm以上の厚みとなっている。酸化アルミニウム被膜は化学的に極めて安定しており、アルマイト加工により、雨水や塩害などによるアルミニウム基材への腐食を食い止めることができる。また、アルミニウムは延性に富んでいることからさまざまな形状に加工可能であり、酸化アルミニウム被膜による耐候性と相まって、建築外壁へ多用されている。
【0003】
従って、上記のようなアルマイト加工が施されたアルミニウムパネルは、本来は、外観上の変化がほとんど無いはずである。施工直後のアルミニウムパネルは光沢のある明灰色であり、建物の外観意匠上で優れたものとなっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のようなアルミニウムパネルには、大きな問題点がある。酸化アルミニウム被膜は陽極酸化によって形成されるため、酸化アルミニウム被膜には、多数の空孔が形成されている。通常はこの空孔に封孔処理を行うのであるが、経年変化により封孔処理が劣化し、細孔が空いた状態に至り、この物理的な凹凸面が長年外気に晒されることにより、空孔内に汚れが付着してしまうのである。例えば外気に晒されると、空孔内に汚れ成分となる有機物微粒子や煤煙中に含まれるカーボン粒子など、さまざまな汚れ粒子が入り込んでしまう結果、変色に至る場合が多い。もともと光沢のある明灰色であるアルミニウムパネルが、光沢の無い暗灰色に変化するケースも多く、このような外観上の経時変化が問題である。
【0005】
また、酸化アルミニウム被膜自身の化学的劣化も問題である。酸化アルミニウムは化学的には安定であるが、陽極酸化によって得られる酸化アルミニウムは、必ずしも化学量論比的に安定な組成が均一に得られているわけではない。さらに、雨水も排気ガスの影響等によって酸性を呈する場合が多いため、風雨に晒されることにより、酸化アルミニウム被膜は1年間で約1μm程度、侵食(腐食)される。1年間に1μmという速度は、外気や気候条件によって変わるので、これより速く腐食が進行する場合もあり得るのである。仮に酸化アルミニウム被膜がすべて腐食によって侵食されると地のアルミニウムがむき出しとなり、非常に速く劣化が進むことになる。
【0006】
汚れの付着や侵食(腐食)によって劣化・変色したアルミニウムパネルは外観意匠上好ましくないので、洗浄等によって汚れを除去することが一般的である。しかし、酸化アルミニウム被膜の微小空孔内に入り込んだ汚れは、洗浄によって容易に除去することはできない。また、化学薬液で洗浄することによって汚れ成分を化学的に分解除去することも考えられるが、建物の外壁として取り付けられた状態での洗浄なので、洗浄廃液の取り扱いなどかなりの困難が伴うことになる。また、洗剤を含んだ不織布などの洗浄具で擦るとアルミニウムパネル表面に傷をつけるという問題が生じる。こうした事態は、ダル仕上げと呼ばれる表面処理を行ったアルミニウムパネルにおいては顕著であり、汚れ付着に対する洗浄方法としては、決め手になる手法が無かったというのが現状である。ダル仕上げとは、パネル表面に陽極酸化処理とは別に化学的・物理的に凹凸を設け、つや消しの表面処理をしたものであり、光沢を押さえた、落ち着いた表面性状が特色である。新築時には人気のある基材であるものの、一方においてメンテナンスができない基材であると業界では認識されていたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、熱水をノズルから噴射する際に、熱水のアルミニウムパネル表面への到達時における温度が100℃を超えるように噴射時の熱量・流量を制御することで、熱水がアルミニウムパネル表面に到達してアルミニウムパネル表面の微小凹凸内に浸入した時点で100℃を超える水温を保持し、浸入した熱水が常圧下で気化して水蒸気になる際の急激な体積膨張による物理的作用によって、アルミニウムパネル表面の微小凹凸内に付着する汚れを取り除く工程と、前記アルミニウムパネル表面に、塗布剤を塗布することで、アルミニウムパネル表面の微小凹凸内に前記塗布剤を浸透させる工程と、を有するアルミニウムパネル改質方法とすることで解決できる。
なおここでいう汚れとは、有機物や酸性雨中の酸性物質、煤煙中に含まれるカーボン粒子など、アルミニウムパネル表面に付着、あるいは酸化アルミニウム被膜の微小空孔内に侵入付着する全ての汚れを指す。なお本明細書の本発明に関する記述中の汚れとは、すべて上述の汚れを指している。また微小凹凸とは、酸化アルミニウム被膜に存在する微小空孔やその他、アルミニウムパネルに存在するすべての微小な凹凸を指す。
【0008】
前記塗布剤として、シロキサン結合を有するものを用いることも好ましい構成である。さらに、前記塗布剤が光触媒効果を有する酸化チタンを含有するものとの組み合わせとすることも有効である。
【0009】
以上に説明した課題解決手段からもわかるように、本発明では、汚れ除去の機能発揮に対して熱水(温水)の温度を主に、その噴射圧力を従にしつつ汚れを除去するという技術思想をベースにしている。
【0010】
前述の従来技術と本発明の違いを、図4に一覧表示する。本発明の技術思想は、従来の技術と一線を画していることがわかる。この技術的思想の違いが、アルミニウムパネル表面の酸化アルミニウムの微小空孔内の汚れを、なんら薬液を使用することなく効率的に除去するのである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の効果を、図1(a),(b)を用いて説明する。本発明では、熱水1のアルミニウムパネル表面3への到達時における温度が100℃を超えるように噴射時の圧力を制御し、熱水1がアルミニウムパネル表面3に到達してアルミニウムパネル表面3の微小凹凸5の内部に浸入した時点で、100℃を超えるよう水温を保持する(a)。
この操作により、アルミニウムパネル表面3の微小凹凸5の内部に浸入した熱水1は、常圧であるために気化して水蒸気7になる。このときに急激な体積膨張が起こり、その物理的作用によって、アルミニウムパネル表面3の微小凹凸5の内部に付着している汚れ9を取り除くことができるのである(b)。1モルの水が水蒸気になると22.4リットルとなるので、約18ccの水が22.4リットルの水蒸気に膨張する現象が瞬時に起こり、このときの約1240倍の体積変化に伴う圧力による物理的作用によって、汚れ9が除去されることになる。
微小凹凸5内に到達した熱水は常圧下で急激に水蒸気となるので、体積膨張する水蒸気7による「ジェット流」のような流れが、微小凹凸5内のさらに細かいミクロの凹凸内にまで入り込み、汚れ9の付着部分をアタックすることができる。微小凹凸5は閉じた空間ではないので、水から水蒸気への体積膨張時における圧力は瞬時に開放され、アルミニウムパネル表面3にダメージを与えることはない。
【0012】
本発明の洗浄効果を、図2によって確認しておく。被試験面は、アルミニウムパネル上のペンキ塗布面である。図の横軸は、噴射する熱水の温度、縦軸は、ブラシなどでこすることなく除去できた塗膜の面積比を表している。図のように、本発明における洗浄条件で、極めて効果的に汚れを除去できることがわかる。図2によれば、アルミニウムパネル面に到達した時の熱水温度が120℃以上で除去率100%という好ましい結果が得られている。しかし、98℃を超えると洗浄効果が発揮され始めるので、熱水の温度がノズル先端で100℃を超えていれば、本発明による洗浄効果を得ることができるのである。
【0013】
本発明では、図3のように洗浄後のアルミニウムパネル面の微小凹凸内に、シロキサン結合を有する塗布剤を浸透させる。このような塗布剤を浸透させると、保護層6が形成される。ここでのシロキサンとは、珪素と酸素が交互に結合してポリマーを形成しているものであり、シリコーンの特徴を生み出す分子構造を有するものを指す。従って、保護層6はシリコーンと類似する特性を有することになる。つまり、アルミニウムパネル面にシロキサン結合を有する塗布剤を浸透させる理由は、封孔処理の劣化により細孔が空いた状態のアルミニウムパネルの再度の封孔処理に用いる無機封孔剤としてシロキサン結合を有する塗布剤は良好であるためである。さらに、アルミニウムパネルの表面に撥水作用を付与させるためである。なぜなら、建築物の外壁面などが親水性であると雨水などの付着時間が長くなり、汚れを呼び込んでしまうことになり、耐久性・信頼性の面で好ましくないからである。
【0014】
図3は、塗布剤による保護層6は1層として表示しているが、請求項3のように、光触媒効果を有する酸化チタンを含有するものとの組み合わせでもよい。保護層6が光触媒効果を有すると、光触媒による有機物の分解効果が得られ、シロキサンによる撥水作用と相まって、洗浄後の状態が長期にわたって維持することが可能となる。なお、塗布剤を浸透させる手段としては、スプレーなどによる塗布が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
アルミニウムパネル表面の洗浄は、ボイラーとポンプと噴射ノズルを備えた簡便な装置によって実現することができる。以下に図面を参照しながら説明する。
【実施例】
【0016】
図5は、本発明を実現するための洗浄装置の構造を、模式的に表した説明用図である。水タンク11、噴射用ポンプ15、ボイラー機能付リザーブタンク13が本体ケース17の内部に納められ、この本体ケース17に対して、連結ホース19を介して噴射ノズル21が取り付けられている。ボイラー機能付リザーブタンク13は耐圧容器となっており、この中で、100℃を超える温度の熱水が生成される。この熱水は、噴射用ポンプ15の作用により、耐熱性の連結ホース19を介して噴射ノズル21まで導かれ、熱水シャワー23となってアルミニウムパネル表面3に噴射される。
【0017】
このような洗浄装置によって本発明は実現できるが、噴射ノズル21の先端とアルミニウムパネル表面3との間の距離tを制御することが望ましい。なぜなら、噴射ノズル21の先端とアルミニウムパネル表面3との距離は噴射された熱水の「滞空時間」に直接影響するので、距離が長すぎると、噴射された熱水がアルミニウムパネル表面3に到達する前に水蒸気化する割合が高くなるからである。この点を再現性よく実施するには、例えば図例のような、間隔調整具25を取り付けておけばよい。間隔調整具25の先端にはローラー27を設けておき、アルミニウムパネル表面3の上を転がせるようにしておけば、作業性の向上に寄与することができる。また間隔調整具25は、その長さを調整可能としておき、熱水の温度や噴射圧力などに応じで、距離tを最適化可能としておけばよい。
【0018】
本発明では、洗浄効果に対して熱水の温度が主に、熱水の噴射圧力が従として寄与しているが、温度と圧力の組み合わせは、洗浄対象となる汚れの質によってさまざまな組み合わせが考えられる。図5の装置においてさまざまな温度と圧力の組み合わせを得るには、例えば、ボイラー機能の能力を一定としておき、噴射用ポンプ15の流量によって温度を調整する方法が簡便である。すなわち、噴射ノズル21の先端開口が一定であれば、噴射圧力によって流量が変化し、流量と温度との反比例関係によって、簡便に熱水の温度と噴射圧力を制御することができるのである。
【0019】
本図に示した構成例以外にも、本体ケース17のみを地上に設置して連結ホース19を長くし、ビルの高層階の洗浄に適した構成にすることもできる。この場合は、連結ホース19に保温材やシート状ヒーターを巻回した構成とすることも考えられる。また、図5の洗浄装置全体を可搬式とすることも考えられる。従って、本発明を実現するための洗浄装置の構造は、図5のものに何ら限定されるものではない。
【0020】
次に、本発明として考えられる保護層6のいくつかの例を説明する。以下の説明に当たっては、図6の構造を、「アルミニウム/第1層/第2層/第3層」と表記する。
(実施例1)
保護層の構成を、「アルミニウム/シロキサン層/光触媒層(酸化チタン80%以上)」とする。この構成では、シロキサンによる保護作用による耐久性と、光触媒による汚れ分解性能を同時に得ることができる。しかし光触媒には、有機物の分解機能があるため、シロキサン層への光触媒効果を軽減するため、実施例2が位置付けられる。
(実施例2)
保護層の構成を、「アルミニウム/シロキサン層1/シロキサン層2(酸化チタンを10〜40%程度含有するもの)/光触媒層(酸化チタン80%以上)」とする。この構成では、シロキサンによる保護作用による耐久性と、光触媒による汚れ分解性能を同時に得ることができる。しかし、実施例1と異なってシロキサン層が2層介在するため、耐久性が極めて高く、同時に高い光触媒効果を得ることができる。
(実施例3)
保護層の構成を、「アルミニウム/シロキサン層1/シロキサン層2(酸化チタンを10〜40%以上)」とする。この構成は、光触媒効果は小さいものの、低コストで耐久性といくぶんかの光触媒効果を得たい場合に有効な構成である。シロキサン層2における酸化チタンの含有率が10〜40%と低めなので、実施例1よりも高い耐久性を安価に得ることができるのである。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上の説明のように、本発明は、ビルメンテナンス業務や外壁の清掃など、一般に実施されている各種の洗浄サービスに適用可能である。また建築パネルとして量産されるアルミニウムパネルに対して、その最終工程で本発明を適用すれば、長寿命のアルミニウムパネルとして流通可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明において汚れが除去される原理を説明する模式図である。
【図2】本発明の試験結果例を表すグラフである。
【図3】本発明の改質後の構造を説明する模式図である。
【図4】従来の洗浄技術と本発明に用いる洗浄技術との比較表である。
【図5】本発明を実現するための洗浄装置例を説明する模式図である。
【図6】本発明を施したアルミニウムパネルの構造を説明するための図である。
【符号の説明】
【0022】
1 熱水
3 アルミニウムパネル表面
5 微小凹凸
6 保護層
7 気化する水蒸気
9 汚れ
11 水タンク
13 ボイラー機能付リザーブタンク
15 噴射用ポンプ
17 本体ケース
19 連結ホース
21 噴射ノズル
23 熱水シャワー
25 間隔調整具
27 ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱水をノズルから噴射する際に、熱水のアルミニウムパネル表面への到達時における温度が100℃を超えるように噴射時の熱量・流量を制御することで、熱水がアルミニウムパネル表面に到達してアルミニウムパネル表面の微小凹凸内に浸入した時点で100℃を超える水温を保持し、浸入した熱水が常圧下で気化して水蒸気になる際の急激な体積膨張による物理的作用によって、アルミニウムパネル表面の微小凹凸内に付着する汚れを取り除く工程と、
前記アルミニウムパネル表面に、塗布剤を塗布することで、アルミニウムパネル表面の微小凹凸内に前記塗布剤を浸透させる工程と、
を有するアルミニウムパネル改質方法。
【請求項2】
前記塗布剤がシロキサン結合を有するものであることを特徴とする、請求項1記載のアルミニウムパネル改質方法。
【請求項3】
前記塗布剤が光触媒効果を有する酸化チタンを含有するものとの組み合わせであることを特徴とする、請求項1または2記載のアルミニウムパネル改質方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−225752(P2006−225752A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−71891(P2005−71891)
【出願日】平成17年2月15日(2005.2.15)
【出願人】(500566888)株式会社オプト (4)
【Fターム(参考)】