説明

アルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法

【課題】接合部にボイドが少なく、かつ、良好な接合状態のアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、セラミックス材を他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が5〜35%となる温度に加熱して接合することを特徴とするアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムとセラミックスをろう付により接合する方法に関し、空隙の発生を低減した良好な接合品を得る接合法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム材とセラミックス材を接合した回路基板が電子機器部品に使用されている。セラミックス材は絶縁性と放熱性を併せ持つため、高い放熱性を必要とする半導体の基板として広く適用されており、アルミニウム材は回路材料としてセラミックス材と接合され使用される。加熱と冷却の熱サイクルを繰り返した際に、セラミックス材とアルミニウム材の熱膨張率の違いからその接合界面にひずみが発生するが、強度の低いアルミニウム材が応力緩和材として作用して接合界面での破損を防止している。
【0003】
特許文献1には、アルミニウム材とセラミックス材の接合方法として、アルミニウム材とセラミックス材の界面にAl−Si系合金箔を挟み、その溶融温度である600℃程度に加熱してAl−Si系合金を溶融させてろう付により接合する方法が記載されている。しかしながら、Al−Si系合金箔を用意する必要があり、構成部材が多く複雑になるため製造性に問題があった。また、Al−Si系合金箔は加熱時に完全に溶融するが、セラミックスと溶融ろう材は濡れ性に乏しいため、接合界面にボイドが発生し易く、十分な接合強度が得られない。
【0004】
特許文献2には、セラミックスと回路用のAl−Si合金を、ろう材用のAl−Si系合金箔を介さずに直接接合するセラミックス回路基板が記載されている。Al−Si合金が溶融してセラミックス接合用のろう材として作用すると共に回路材料を構成するため、構成部材が少なくなって単純化され製造が容易となる。しかしながら、Al−Si合金を完全に溶融する温度条件でろう付すると回路材料としての形状を保持できず、Al−Si合金がほとんど溶融しない温度条件でろう付するとセラミックスとの接合が悪化してしまう。
【0005】
特許文献3には、ナトリウム−硫黄電池におけるセラミックス材と金属材の接合において、Al−Si合金を固相中に一部液相を残存させて加圧接合する技術が記載されている。しかしながら、具体的な液相発生量についての記載がなく、接合面にボイドの少ない良好なろう付製品を得ることが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−12554号公報
【特許文献2】特開2001−168482号公報
【特許文献3】特開平4−89367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はセラミックス回路基板等のアルミニウム材とセラミックス材のろう付製品の製造において、ろう材を介在することなくアルミニウム合金材とセラミックス材をろう付により接合する接合方法により、単純な材料構成でろう付を可能とし、また、良好な接合状態のろう付品を得る方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を重ねた結果、ろう付加熱時のアルミニウム合金の液相発生量を適切に制御することで、接合部にボイドの少ない、良好な接合状態の接合品が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は請求項1において、アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、セラミックス材を他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が5〜35%となる温度に加熱して接合することを特徴とするアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法とした。
【0010】
本発明は請求項2では請求項1において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材が、Si:0.6〜5.0質量%を含有し残部がAl及び不可避不純物からなるものとした。更に本発明は請求項3では請求項2において、前記アルミニウム合金材がMg:0.3〜2.0質量%を更に含有するものとした。
【0011】
本発明は請求項4において、請求項1〜3のいずれか一項に記載の接合方法によって接合されたアルミニウム合金材とセラミックス材の接合体とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明の接合方法により、ろう材を介在することなくアルミニウム合金材とセラミックス材を接合することができるため、単純な材料構成での接合が可能になる。また、接合するアルミニウム合金材は溶融により大きく流動することが無いため、接合による寸法の変化が少なく、寸法精度の高い接合製品を得ることができる。更に、接合界面がボイド発生の少ない良好な接合状態となるため、信頼性の高い接合製品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】2元系共晶合金としてAl−Si合金の状態図を示す模式図である。
【図2】本発明に係るアルミニウム合金材の接合方法における、液相の生成メカニズムを示す説明図である。
【図3】アルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明について詳細に説明する。
A.液相の生成
本発明に係るアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法では、アルミニウム合金材内に生成する液相がセラミックス材と接触することにより、アルミニウム合金材とセラミックス材とに濡れが発生し、接合が可能になる。そして、アルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比(以下、「液相率」と記す。)が5〜35%となる温度で接合する必要がある。液相率が35%を超えると、生成する液相の量が多過ぎてアルミニウム合金材が溶融を開始してしまい形状を維持できなくなる。一方、液相率が5%未満では接合面に生成する液相の量が少な過ぎるためセラミック材と液相が十分に接触できないため、接合が困難となる。更に、この5〜35%の範囲の液相率を30〜3600秒間保持することにより、一層確実な接合を得ることができる。
【0015】
加熱中におけるアルミニウム合金材の液相率を実測することは、極めて困難である。そこで、本発明で規定する液相率は平衡計算によって求めるものとする。具体的には、Thermo−Calc(Thermo−Calc Software AB社製)などの熱力学平衡計算ソフトによって合金組成と加熱時の最高到達温度から計算される。
【0016】
本発明に係る接合方法では、両被接合部材に応力(圧力)が加わる場合には被接合部材が変形する場合もある。しかしながら、両被接合部材に自重以外の圧力が加わることなく接合部で単に接している場合や、自重以外の圧力として10MPa以下の圧力が加わる場合には、接合部での応力変形は殆ど問題にならない。また、接合部の応力と同様に接合部の表面形態も接合性に影響を与える。被接合部材の接合部において、うねりのような長周期の凹凸が少なく、接合面がより平滑である程より安定した接合が得られる。具体的にはアルミニウム合金材の接合前の接合表面における凹凸から求められる算術平均うねりWaを10μm以下とすることで一層安定した接合が得られる。一方、セラミックス材の表面粗さについても同様に、Waを10μm以下とすることが好ましい。
【0017】
液相の生成メカニズムについて説明する。図1に代表的な2元系共晶合金であるAl−Si系合金の状態図を模式的に示す。Si濃度がc1であるアルミニウム合金材を加熱すると、共晶温度(固相線温度)Teを超えた付近の温度T1で液相の生成が始まる。共晶温度Te以下では、図2(a)に示すように、結晶粒界で区分されるマトリクス中に晶析出物が分布している。ここで液相の生成が始まると、図2(b)に示すように、晶析出物分布の偏析の多い結晶粒界が溶融して液相となる。次いで、図2(c)に示すように、アルミニウム合金のマトリクス中に分散する主添加元素成分であるSiの晶析出物粒子や金属間化合物の周辺が球状に溶融して液相となる。更に図2(d)に示すように、マトリクス中に生成したこの球状の液相は、界面エネルギーにより時間の経過や温度上昇と共にマトリクスに再固溶し、固相内拡散によって結晶粒界や表面に移動する。次いで、図1に示すように温度がT2に上昇すると、状態図より液相量は増加する。図1に示すように、アルミニウム合金材のSi濃度が最大固溶限濃度より小さいc2の場合には、固相線温度Ts2を超えた付近でc1と同様に液相の生成が始まり、温度がT3に上昇すると、状態図より液相量は増加する。このように、本発明に係る接合方法は、アルミニウム合金材内部の部分的な溶融により生成される液相を利用するものであり、接合と形状維持の両立を実現できるものである。
【0018】
B.アルミニウム合金材の固相線温度と液相線温度
本発明に係る接合方法では、液相を生成するアルミニウム合金材の固相線温度と液相線温度の差を10℃以上とするのが好ましい。固相線温度を超えると液相の生成が始まるが、固相線温度と液相線温度の差が小さいと、固体と液体が共存する温度範囲が狭くなり、発生する液相の量を制御することが困難となる。従って、この差を10℃以上とするのが好ましい。例えば、この条件を満たす組成を有する2元系の合金としては、Al−Si系合金、Al−Cu系合金、Al−Mg系合金、Al−Zn系合金、Al−Ni系合金などが挙げられる。この条件を満たすには、前述のような共晶型合金が固液共存領域を大きく有するので有利である。しかしながら、他の全率固溶型、包晶型、偏晶型などの合金であっても、固相線温度と液相線温度の差を10℃以上とすることにより良好な接合が可能となる。また、上記の2元系合金は主添加元素以外の添加元素を含有することができ、実質的には3元系や4元系合金、更に5元以上の多元系の合金も含まれる。例えばAl−Si−Mg系合金やAl−Si−Cu系合金、Al−Si−Zn系合金、Al−Si−Cu−Mg系合金などが挙げられる。
【0019】
なお、固相線温度と液相線温度の差は大きくなるほど適切な液相量に制御するのが容易になる。従って、固相線温度と液相線温度の差に上限は特に設けない。また、アルミニウム合金材の液相率が5〜35%である時間は、好ましくは30〜3600秒であり、より好ましくは60〜1800秒である。
【0020】
C.アルミニウム合金材の成分
より良好な接合品を得るためには、一方の被接合部材であるアルミニウム合金材が、Si:0.6〜5.0質量%(以下、単に「%」と記す)を含有し残部がAl及び不可避不純物からなるAl−Si系合金を用いるのが好ましい。SiはAl−Siの液相を生成し、これが接合に機能する。Si含有量が0.6%未満の場合は、液相の生成が不十分で接合が不完全となる場合がある。一方、Si含有量が5.0%を超える場合は、発生する液相の量が多過ぎて加熱中に液相が接合界面から流れ出てしまう場合がある。その結果、良好な接着状態が得られなくなるとともに、アルミニウム合金材が接合前の形状を保持することができなくなる場合がある。
【0021】
上記含有量のSiの他にMg:0.3〜2.0%を含有するAl−Si−Mg系合金を用いてもよい。Mgはアルミニウム合金の酸化皮膜を破壊する作用があり、セラミックスと溶融アルミニウム合金の濡れ性を改善するため、接合界面にボイドが少ない良好な接合製品を得るのに効果的である。Mg含有量が0.3%未満では、アルミニウム合金材とセラミックス材との十分な濡れ性が得られない場合があり、2.0%を超えるとアルミニウム合金材の表面に酸化マグネシウムの膜が生成して、アルミニウム合金材とセラミックス材との濡れ性が低下する場合がある。
【0022】
このようなAl−Si系合金又はAl−Si−Mg系合金からなるアルミニウム合金材をセラミックス材と接合する場合、アルミニウム合金材におけるSiの含有量をX(%)として、接合時におけるアルミニウム合金材の温度T(℃)が、660−39.5X≦T≦660−15.7X、且つ、T≧577となるように制御するのが好ましい。これによって、さらに良好な接合が達成される。
【0023】
また、上記Al−Si系合金又はAl−Si−Mg系合金は、Cu:0.05〜0.5%、Fe:0.05〜1.0%、Zn:0.2〜1.0%、Mn:0.1〜1.8%及びTi:0.01〜0.3%から選択される1種又は2種以上を更に含有してもよい。
【0024】
D.セラミックス材
接合する他方の被接合部材であるセラミックス材は、所定量溶融したアルミニウム合金材との濡れ性が得られるものであれば使用可能であるが、セラミックス回路基板としては、通常、アルミナや窒化アルミニウムが用いられる。窒化アルミニウムは所定量溶融したアルミニウム合金材との濡れ性を改善するため、表面を酸化処理した窒化アルミニウムを使用することで、接合性が更に改善される。
【0025】
E.接合加熱方法
アルミニウム合金材の液相表面には酸化膜が存在するが、酸化膜はセラミックスとの濡れ性を阻害するため、加熱中に酸化膜の成長を抑制するのが望ましい。このような酸化膜の成長を抑制するには、両被接合部材の接合雰囲気として、酸素濃度が100ppm以下の窒素やアルゴン等の非酸化性ガス雰囲気、1×10−2Pa以下の真空雰囲気などが用いられる。
【実施例】
【0026】
次に、本発明を本発明例及び比較例に基づき説明する。
【0027】
本発明例1〜16及び比較例17〜21
アルミニウム合金として表1に示す組成のAl−Si系合金(本発明例1〜7、13、15、比較例17〜21)、Al−Si−Mg系合金(本発明例8〜12、14、16)を鋳造した後、熱間圧延と冷間圧延により板厚1.0mmの圧延板を作製した。アルミニウム合金板のWaは約0.5μmであった。
【0028】
セラミックス材として、厚さ0.6mmのアルミナと窒化アルミニウムの板を用意した。窒化アルミニウムについては、一部の材料を1400℃に加熱して表面に酸化処理を施した。各アルミニウム合金板を10×10mmに、セラミックス板を20×20mmにそれぞれ切断した。次いで、図3に示すように、セラミックス板の中央部分にアルミニウム合金板を載置して重ね合わせた。不図示のクリップ状バネを用いて、両被接合部材を1MPaの圧力で挟み込んで固定し接合サンプルとした。この接合サンプルを、酸素濃度10ppmの窒素雰囲気の炉内に収容した。次いで、炉内を表1に示す接合温度まで加熱し、その温度に30分保持した後に空冷により冷却して接合を完了した。表1には、各アルミニウム合金の接合温度における平衡液相率も併記した。なお、平衡液相率はThermo−Calcによる計算値である。
【0029】
【表1】

【0030】
加熱後の接合サンプルについて、接合状態を評価した。図3に示すように、接合サンプルをL−L線に沿った断面により中央で切断し、切断面の接合部における接合した部分の長さを測定し、下記の式より接合率を計算した。
接合率(%)={(接合した長さの合計)/(接合部の全長の長さ)}×100
得られた接合率について、下記の基準で評価した。
◎:接合率が98%以上100%以下
○:接合率が90%以上98%未満
×:接合率が90%未満
◎と○を合格とし、×を不合格とした。
【0031】
更に、加熱接合による寸法変化を評価した。上記切断面におけるアルミニウム合金板の厚さを測定し、下記の基準で評価した。
◎:厚さ0.9mm以上1.0mm以下
○:厚さ0.8mm以上0.9mm未満
×:厚さ0.8mm未満
◎と○を合格とし、×を不合格とした。
【0032】
接合率及び寸法変化の評価結果を、表1に示す。
【0033】
本発明例1〜16では、接合率及び寸法変化が合格であった。
比較例17では、液相率が低過ぎ接合率が不合格であった。比較例18では、液相が生成せず接合できなかった。
比較例19〜21では、液相率が多過ぎたため、接合率及び寸法変化が不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係るアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法により、アルミニ合金材の変形が少なく寸法精度の高い、かつ、良好な接合状態を有する接合製品を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0035】
c・・Si濃度
c1・・Si濃度
c2・・Si濃度
L−L・・接合サンプルの切断線
T・・温度
T1・・Teを超えた温度
T2・・T1より更に高い温度
T3・・Ts2を超えた温度
Te・・固相線温度
Ts2・・固相線温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金材を一方の被接合部材とし、セラミックス材を他方の被接合部材として、前記一方の被接合部材と他方の被接合部材とを接合する方法において、前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材の全質量に対する当該アルミニウム合金材内に生成する液相の質量の比が5〜35%となる温度に加熱して接合することを特徴とするアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法。
【請求項2】
前記一方の被接合部材であるアルミニウム合金材が、Si:0.6〜5.0質量%を含有し残部がAl及び不可避不純物からなる、請求項1に記載のアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法。
【請求項3】
前記アルミニウム合金材がMg:0.3〜2.0質量%を更に含有する、請求項2に記載のアルミニウム合金材とセラミックス材の接合方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の接合方法によって接合されたアルミニウム合金材とセラミックス材の接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−111621(P2013−111621A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261063(P2011−261063)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000107538)古河スカイ株式会社 (572)
【Fターム(参考)】