説明

アルミニウム合金部材の面ろう付け方法

【課題】単層型のブレージングシートを用いて2つのアルミニウム合金部材同士を無フラックスで面ろう付けする。
【解決手段】固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金部材同士の間に、Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、厚さ15〜200μmのろう材からなる単層ブレージングシートを挟みこみ面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、0.6gf/mm以上の面圧を付加しながら無フラックスでアルミニウム合金部材同士をろう付けする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金部材同士を、ブレージングシートを用いて不活性ガス雰囲気中、無フラックスで面ろう付けする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばアルミニウム熱交換器のフィン材とチューブ材のろう付けに見られるように、これまでのろう付け技術は、フィレット形状が得られるような線接触を基本としていた。このようなろう付け法では、例えば下板がブレージングシートでありその上に板状のフィンを垂直に接合する場合に、溶融したろう材がブレージングシート上を流動してフィレットを形成することとなる。
このような線接触を基本とするろう付け技術においては、ろう付け加熱中の酸化を抑制するため、大気中または不活性ガス雰囲気中においてフラックスを使用してろう付けすることが一般的に行なわれている。しかしながら、近年では、3層または5層のクラッド層を形成し、薄皮材と芯材との中間材としてAl−Si系合金ろう材をクラッドしたブレージングシートを不活性ガス中で無フラックスろう付けする方法が開発されている。
【0003】
例えば特許文献1では、薄皮材と芯材との中間材としてAl−Si系合金ろう材を用い、薄皮材及び芯材にはろう材の液相線温度より高い固相線温度を有するアルミニウム合金を用い、ブレージングシート全体の板厚が0.05〜2.0mmであり、前記薄皮材のクラッド率が0.1〜10%に設定され、この薄皮材は加熱によって溶融したろう材に接して溶解する薄皮材である不活性ガス雰囲気中で無フラックスでろう付けするアルミニウム合金ブレージングシートが提案されている。
【0004】
ところで、近年、車載用IGBT等の発熱を面接触で冷却する熱交換システムの需要が高まっており、アルミニウム板材の面同士をろう材によって面ろう付けする技術が必要とされている。
この面ろう付け技術においては、アルミニウム板材の面同士の間にろう材を挿入してろう付け加熱を行なうため、接合部に空隙欠陥等が生じやすく、フラックスを使用するとフラックスを封じ込めやすい構造となっている。したがって、前記フィレット形成を基本とするろう付け技術に比べて非常に難しい技術となっている。
【0005】
この面ろう付けを大気中無フラックスで行なう技術について、例えば特許文献2によると、複数のアルミニウム母材の重ね合わせ界面に予めアルミニウム薄合わせ板材を挿入して行うアルミニウムの重ねろう付けにおいて、アルミニウム薄合わせ板材が3層構造の薄合わせ板材からなり、その芯材は融点が600℃以下のろう材からなり、その両皮材は芯材より融点の高いアルミニウム合金からなり、かつ少なくとも皮材と芯材のいずれか一つ以上にMgを0.1〜6%(質量%、以下同じ)あるいは更にBiを0.01〜1%添加しており、重ね合わせた部材全体を加圧密着した状態で、ろう材の液相線温度以上でかつろう材以外の各部材の固相線温度の内の最低値を超えない範囲に加熱する事を特徴とするアルミニウム合金の大気中無フラックス重ねろう付け法が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3780380号公報
【特許文献2】特許第3701847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1,2で提案された技術により、大気中無フラックスで重ねろう付けができるものの、用いるブレージングシートが3層又は5層のクラッド材であるためにコストが嵩むことになる。
このため、従来技術に比べ低コストで品質の安定した面ろう付け技術の開発が望まれている。
本発明は、このような課題を解決するために案出されたものであり、単層型ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材同士を無フラックス面ろう付けする技術を提供することを目的とするものである。
また、2層型ブレージングシートによって1つのアルミニウム合金部材と2層型ブレージングシートを構成する皮材とを無フラックス面ろう付けする技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法は、その目的を達成するために、Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、厚さ15〜200μmのろう材からなる単層ブレージングシートを用いてアルミニウム合金部材同士を面ろう付けする方法であって、前記ブレージングシートを固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金部材同士の間に挟みこみ面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、0.6gf/mm以上の面圧を付加しながら無フラックスでアルミニウム合金部材同士をろう付けすることを特徴とする。
【0009】
また、Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、厚さ15〜200μmのろう材と固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金板からなる皮材とから構成される2層ブレージングシートを用いてアルミニウム合金部材と前記皮材とを面ろう付けする方法であって、前記2層ブレージングシートのろう材面を固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金部材と面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、0.6gf/mm以上の面圧を付加しながら無フラックスで前記アルミニウム合金部材と前記皮材をろう付けしてもよい。
【0010】
前記ろう材に含まれる不可避的不純物としてのCu、Mn、Znは、それぞれ1.0質量%未満とすることが好ましい。
また、前記ろう材は、厚さ15〜150μm、さらには厚さ20〜100μmとすることが好ましい。
さらに、面ろう付けされるアルミニウム合金部材としては、AA1000系であり、特にろう付け面に形成されている酸化皮膜の厚みが30nm以下のものが好ましい。
【0011】
さらにまた、前記アルミニウム合金部材又は前記アルミニウム合金部材と前記皮材の固相線温度が580℃以上、かつ前記ろう付け温度が580℃以上であることが好ましい。
そして、面ろう付け時の前記ろう付け温度における保持時間は2分以上に、特に5分以上とすることが好ましい。
さらに、面ろう付け時の前記不活性ガスが窒素ガスで、特に前記不活性ガスの酸素濃度は500ppm以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により提供されるアルミニウム合金部材の面ろう付け方法によると、単層型ブレージングシート、或いは2層型ブレージングシートによって2つのアルミニウム合金部材をフラックスフリーで、かつ2つのアルミニウム合金部材間に面圧を付加して面ろう付けしている。
3層又は5層のクラッド材からなるブレージングシートを用いるのではなく、単層型又は2層型のブレージングシートを用いているため、全体として低コスト化が図れる。またフラックスを用いることなく、2つのアルミニウム合金部材間に面圧を付加してろう付けしているため、両アルミニウム合金部材間に発生しやすい空隙欠陥等を抑制することができ、結果として品質の安定した面ろう付けが行える。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】逆T字試験片の形状を説明する図
【図2】小型ろう付け試験炉を説明する概念図
【図3】せん断試験方法を説明する概念図
【図4】ろう付け温度と保持時間の影響を示す図
【図5】ろう材中のMg添加量の影響を示す図
【図6】ろう材中のSi添加量の影響を示す図
【図7】ろう材中の不純物含有量の影響を示す図
【図8】ろう材の厚さの影響を示す図
【図9】ろう付け時の加圧力の影響を示す図
【図10】被ろう付けAl合金材表面の酸化物膜厚の影響を示す図
【図11】ろう付け雰囲気中の酸素濃度の影響を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
通常、面ろう付けする際は、接合するアルミニウム合金部材の面同士の間にろう材を挿入してろう付け加熱を行なうため、接合部に空隙欠陥等が生じやすく、フラックスを使用するとフラックスを封じ込めやすい構造となってしまう。このためろう付け製品の品質にバラツキが生じ易い。また、従来の面ろう付け法では、3層または5層のクラッド材をブレージングシートとして用いているためにコスト高となっている。
そこで、本発明者等は、従来技術に比べ低コストで品質の安定した面ろう付け法について鋭意検討を重ねる過程で、本発明に到達した。
以下にその詳細を説明する。
【0015】
まず第1の発明は、2つのアルミニウム合金部材同士の間にろう材からなる単層ブレージングシートを挟み込み面接触させた状態で、ブレージングシートを十分に溶解させてアルミニウム合金部材同士の界面をろう材で濡らして面ろう付けする方法である。
2つのアルミニウム合金部材のうち、一方のアルミニウム合金部材がアルミニウム合金板であってもよいし、両方ともアルミニウム合金板であっても構わない。例えばアルミニウム合金製の部品同士が連結できるように係合部を設けて、当該係合部にブレージングシートを挟み込める部位を設けるようにしてもよい。要するに本願第1発明において、被接合材はアルミニウム合金板に限定されず、少なくとも一部にろう付け可能な平滑面を有するアルミニウム合金製のものであれば何であってもよい。
【0016】
また第2の発明は、ろう材と皮材とからなる2層ブレージングシートのろう材面をアルミニウム合金部材と面接触させた状態で、前記ろう材を十分に溶解させてアルミニウム合金部材と2層ブレージングシートを構成する皮材の界面をろう材で濡らして面ろう付けする方法である。
アルミニウム合金部材としては、アルミニウム合金板であってもよい。この第2の発明において、被接合材はアルミニウム合金板に限定されず、少なくとも一部にろう付け可能な平滑面を有するアルミニウム合金製のものであれば何であってもよい。
【0017】
本発明の面ろう付け法を適用するアルミニウム合金部材としては、固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金からなるものである。
後記で詳述するAl−Si系のろう材を用いるとき、当該ろう材を十分に溶解するためには、570℃以上のろう付け温度が必要であり、被接合材であるアルミニウム合金部材としてはその固相線温度が570℃以上であるものに適用することが必要である。被接合材であるアルミニウム合金部材の固相線温度が570℃未満であると、面ろう付けの加熱において、アルミニウム合金部材の少なくとも一部が溶解してしまう可能性がある。より好ましいアルミニウム合金部材の固相線温度は575℃以上である。さらに好ましいアルミニウム合金部材の固相線温度は580℃以上である。
【0018】
また第2の発明において皮材を用いる場合、その皮材としても固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金からなるものを用いる必要がある。
ろう材と皮材とからなる2層ブレージングシートのろう材面をアルミニウム合金部材と面接触させた状態で、前記ろう材を十分に溶解してアルミニウム合金部材と前記皮材との界面をろう材で濡らして面ろう付けすることになるため、前記ろう材を十分に溶解するには570℃以上のろう付け温度が必要である。このろう付け温度で皮材の溶解を抑制するには、2層ブレージングシートを構成する皮材の固相線温度は570℃以上であることが必要である。皮材の固相線温度が570℃未満であると、面ろう付け加熱によって、皮材の一部が溶解してしまう可能性がある。より好ましい皮材の固相線温度は575℃以上である。さらに好ましい皮材の固相線温度は580℃以上である。
【0019】
本発明の第一の特徴点は、コストを抑えるためにブレージングシートとして、所定の厚みと組成を有するろう材単層からなるものを使用するか、ろう材と皮材とからなる2層のものを使用した点にある。
そこで、まずろう材について説明する。
ろう材として、Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有する合金であって、厚さが15〜200μmのアルミニウム合金薄板を用いる。
【0020】
Si:3〜12質量%
Siは、その含有量によってブレージングシートの液相線の温度を下げるとともに、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素である。Si含有量が、3質量%未満であると、ブレージングシートの液相線の温度が高くなりすぎて、所定のろう付け温度に到達してもブレージングシートの溶解が不十分となり、十分なろう付け強度(せん断応力)が得られない可能性がある。Si含有量が、12質量%を超えると、鋳造中に鋳塊中央部に初晶Siが析出(晶出)する可能性が高くなり、仮に健全な熱延板が得られたとしてもミクロ的に均質な組織のブレージングシートを得ることが困難となる。
したがって、ろう材中のSi含有量は、3〜12質量%の範囲とする。より好ましいSi含有量は、4〜12質量%の範囲である。さらに好ましいSi含有量は、5〜12質量%の範囲である。
【0021】
Mg:0.1〜5.0質量%
Mgは、自らが酸化されることにより、還元剤として作用するため、ろう付け加熱によるアルミニウム合金板とブレージングシートのろう材との界面におけるアルミニウムの酸化を抑制し、面ろう付け中の濡れ性を改善するための元素であると考えられる。Mg含有量が、0.1質量%未満であると、ろう付け温度や保持時間にもよるが、その効果が不十分となり、十分なろう付け強度(せん断応力)が得られない可能性がある。Mg含有量が、5.0質量%を超えると、鋳塊を熱延する際のロールへの負荷が大きくなり、また耳割れも生じるため、熱延が困難となる。
したがって、ろう材中のMg含有量は、0.1〜5.0質量%の範囲とする。より好ましいMg含有量は、0.2〜4.0質量%の範囲である。さらに好ましいMg含有量は、0.3〜3.0質量%の範囲である。
【0022】
残部はAlと不可避的不純物からなる。
不可避的不純物としてはFe、Cu、Mn、Zn等が挙げられるが、これら元素については、Fe:1.0質量%未満、Cu:1.0質量%未満、Mn:1.0質量%未満、Zn:1.0質量%未満の範囲であれば、本発明の効果を妨げるものではない。したがって、不可避的不純物としての前記成分含有量はそれぞれ1.0質量%未満とすることが好ましい。
また、その他の不純物元素として、Cr、Ni、Zr、Ti、V、B、Sr、Sb、Ca、Na等も考えられるが、Cr:0.5質量%未満、Ni:0.5質量%未満、Zr:0.2質量%未満、Ti:0.2質量%未満、V:0.1質量%未満、B:0.05質量%未満、Sr:0.05質量%未満、Sb:0.05質量%未満、Ca:0.05質量%未満、Na:0.01質量%未満の範囲であれば、本発明に係るブレージングシートの性能特性を大きく阻害することがないため、不可避的不純物として含んでいてもよい。Pb、Bi、Sn、Inについては、それぞれ0.02質量%未満、その他各0.02質量%未満であって、この範囲で管理外元素を含有しても本発明の効果を妨げるものではない。
【0023】
ブレージングシートを構成するろう材の厚さ;15〜200μm
第1の発明に係る単層型ブレージングシートを構成するろう材の厚みは、健全な面ろう付けを達成できる厚みであればよい。厚みが15μm未満であると、十分なろう付け強度が得られない可能性がある。厚みが200μmを超えると、接合面から染み出すろう材の量が多くなりすぎて、コスト高となる。したがって、ろう材の厚みの範囲は、15〜200μmとする。より好ましい厚みの範囲は、15〜150μmである。さらに好ましい厚みの範囲は、20〜100μmである。
【0024】
ろう材からなる単層型ブレージングシートの製造方法
例えば、100μm厚さのろう材からなる単層型ブレージングシートであれば、以下のように製造する。
原料となるインゴット、スクラップ等を配合し、溶解炉に投入して、所定のろう材組成からなるアルミニウム溶湯を溶製する。溶解炉は、バーナーの火炎によって直接原料を加熱溶解するバーナー炉が一般的である。アルミニウム溶湯が所定の温度、例えば、800℃に達した後、適量の除滓用フラックスを投入して、攪拌棒により溶湯の攪拌を行い、全ての原料を溶解する。その後、成分調整のため、追加の原料、例えばMg等を投入し、30〜60分程度の鎮静を行った後、表面に浮遊するメタル滓を除去する。アルミニウム溶湯が所定の温度、例えば、740℃にまで冷却された後、出湯口から樋に出湯し、必要に応じて、インライン回転脱ガス装置、CFFフィルター等を通し鋳造を開始する。なお、溶解炉と保持炉が併設されている場合には、溶解炉で溶製された溶湯を保持炉に移湯した後、保持炉でさらに鎮静等を行ってから鋳造を開始する。
【0025】
DC鋳造機のジャケットは、1本注ぎであってもよいが、生産効率を重視する多本注ぎのものであってもよい。例えば、700mm×450mmのサイズの水冷式鋳型内に、ディップチューブ、フロートを通して注湯しながら、鋳造速度60mm/minで下型を下げ、水冷式鋳型下部において凝固シェル層に対して直接水冷(Direct Chill)を行いつつ、サンプ内の溶湯を凝固冷却せしめ、所定の寸法、例えば、700mm×450mm×4500mm寸法のスラブを得る。鋳造終了後、スラブの先端、後端を切断して片面25mmの両面面削を施し、400mm厚さとしたスラブをソーキング炉に挿入して、450〜540℃×1〜12時間の均質化処理(HO処理)を施す。均質化処理後、スラブをソーキング炉から取り出して、熱間圧延機によって何パスかの熱間圧延を施して、例えば、40mm厚さとした状態で、切断して、40mm厚の熱間圧延板(平板)700mm×40mm×4000mmを1枚確保する。その後、残りの大部分の熱延板は引き続き熱間圧延機によって何パスかの熱間圧延を施し、例えば、6mm厚の熱間圧延板コイル(Reroll)を得る。
この6mm厚の熱間圧延板コイルに何パスかの冷間圧延を施して、所定の厚さ、例えば、100μm厚さのろう材からなる単層型ブレージングシートを得る。なお、冷間圧延工程において、冷間圧延板の加工硬化が著しい場合には、必要に応じて、コイルをアニーラーに挿入し、保持温度300〜450℃の中間焼鈍処理を施して、冷間圧延板を軟化させることが望ましい。
【0026】
第2の発明に係る2層型ブレージングシートを構成するろう材の厚みについても、同様である。15〜200μmとする。
なお、第2の発明に係る2層型ブレージングシートにおける皮材については、固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金であればよいのであって、その厚みについては特に限定はしない。
しかしながら、ろう付け加熱温度にもよるが、皮材が薄すぎると、溶解したろう材が皮材から染み出すおそれがあるため、皮材の厚みは、100μm以上が好ましい。より好ましい皮材の厚みは150μm以上である。さらに好ましい皮材の厚みは200μm以上である。このように、第2の発明において、ろう材の厚みよりも皮材の厚みが厚い方が好ましい。例えば、ろう材の材種がAA4045合金で厚みが60μmである場合に、皮材の材種がAA1100合金で厚みが500μmである2層ブレージングシートを用いてもよい。
【0027】
ろう材と皮材とからなる2層型ブレージングシートの製造方法
例えば、40μm厚さのろう材と400μm厚さの皮材とならなる2層型ブレージングシートであれば、以下のように製造する。
前述のように所定の皮材組成からなる700mm×450mm×4500mm寸法のスラブをDC鋳造によって得る。スラブの先端、後端を切断して片面25mmの両面面削を施した後、上記皮材組成からなる400mm厚の面削後スラブと、前述のように確保しておいたろう材組成からなる40mm厚の熱間圧延板(平板)700mm×40mm×4000mm(1枚)と、を700mm×4000mm面で貼り合わせた状態のまま仮接合する。この2層クラッドスラブをソーキング炉に挿入して、450〜540℃×1〜12時間の均質化処理(HO処理)を施す。均質化処理後、スラブをソーキング炉から取り出して、熱間圧延機によって何パスかの熱間圧延を施して、例えば、6mm厚の熱間圧延板コイル(Reroll)を得る。
この熱間圧延板コイルに何パスかの冷間圧延を施して、所定の厚さ、例えば、440μm厚さのろう材(厚さ40μm)と皮材(厚さ400μm)とからなる2層型ブレージングシートを得る。なお、冷間圧延工程において、冷間圧延板の加工硬化が著しい場合には、必要に応じて、コイルをアニーラーに挿入し、保持温度300〜450℃の中間焼鈍処理を施して、冷間圧延板を軟化させることが望ましい。
【0028】
本発明の第二の特徴点は、無フラックスで面ろう付けを行い、接合面において十分なろう付け強度(せん断応力)を得るためには、不活性ガス雰囲気下で特定の面圧を付加して面ろう付けを行う点である。
不活性ガス雰囲気下
前述のようにブレージングシート(ろう材)を十分に溶解して、アルミニウム合金部材同士の界面、又は皮材とアルミニウム合金部材との界面を濡らして面ろう付けするためには、少なくとも保持温度570℃以上で所定時間保持することが必要である。
このため、ろう付け加熱中であっても、アルミニウム合金部材のろう付け面の表面或いはブレージングシートのろう材面の酸化を抑制するために、不活性ガス雰囲気下で面ろう付けを行う必要がある。
【0029】
不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等が使用できる。また、不活性ガス中の酸素濃度は、500ppm以下であることが好ましい。不活性ガス中の酸素濃度が500ppmを超えると、面ろう付け後の接合強度(せん断応力)が低下する。より好ましい不活性ガス中の酸素濃度は100ppmである。さらに好ましい不活性ガス中の酸素濃度は10ppm以下である。具体的には、工業用窒素ガスについては、酸素濃度10ppm以下と規格が定められているので、コスト面からも工業用窒素ガスを使用することが最も好ましい。
もちろん、ろう付け加熱中、ろう付け温度保持中及び冷却中は、加熱装置内を不活性ガス雰囲気で充満しておくことが好ましい。しかしながら、電磁誘導加熱のように急速加熱する場合には所定の保持温度に到達する前に、不活性ガスを噴射して加熱装置内の大気を不活性ガスに置換してもよい。
【0030】
付加面圧;0.6gf/mm以上
本発明に係る面ろう付け方法において、所定の組成のブレージングシート(ろう材)を溶解して、ろう材とアルミニウム合金部材とを面接触させた状態で、ろう付け加熱を行うが、この際接合面に対して0.6gf/mm以上の面圧を付加しながら、所定のろう付け温度で保持する必要がある。もちろん、ろう付け加熱時には面圧を付加せずに、所定の保持温度に到達してから、接合面に対して0.6gf/mm以上の面圧を付加して面ろう付けを行ってもよい。
面圧が0.6gf/mm未満の場合、十分なろう付け強度(せん断応力)を得ることができない。もちろん、面ろう付け後のろう付け強度(せん断応力)を十分に確保するためには接合面に対して付加する面圧は高い方が好ましい。したがって、より好ましい面圧は1.0gf/mm以上である。さらに好ましい面圧は2.0gf/mm以上である。
【0031】
ろう付けの温度条件;570℃以上に保持
本発明に係る面ろう付け方法において、所定の組成のブレージングシート(ろう材)を溶解して、アルミニウム合金部材同士の界面又は皮材とアルミニウム合金部材との界面を濡らして、確実に面ろう付けを行い、十分なろう付け強度(せん断強度)を確保するためには、少なくともろう付け温度570℃以上である必要がある。
ろう付け温度が570℃未満である場合には、ろう材の溶解が不十分となり、十分なろう付け強度(せん断強度)が得られない。もちろん、保持温度が高い方がより十分なろう付け強度(せん断強度)が得られる。したがって、保持温度は、575℃以上とする。さらに好ましい保持温度は、580℃以上である。
【0032】
ろう付けの保持時間
ろう付け温度における保持時間は、2分以上であることが好ましい。ろう付け温度にもよるが、保持時間が2分未満であると、接合面における温度の不均一によって、十分なろう付け強度(せん断強度)が得られない。より好ましい保持時間は、5分以上である。
【実施例】
【0033】
ブレージングシートの作製
所定の各種インゴットを計量、配合して、離型材を塗布した#30坩堝に9kgずつ(計13試料)の原材料を装入装填した。これら坩堝を電気炉内に挿入して、760℃で溶解して滓を除去し、その後、溶湯温度を740℃に保持した。次に小型回転脱ガス装置によって、溶湯に流量1Nl/分で窒素ガスを10分間吹き込み、脱ガス処理を行った。その後30分間の鎮静を行なって溶湯表面に浮上した滓を攪拌棒にて除去し、さらにスプーンで成分分析用鋳型にディスクサンプルを採取した。
次いで、治具を用いて順次坩堝を電気炉内から取り出し、200℃に予熱しておいた5個の金型(70mm×70mm×15mm)にアルミニウム溶湯を鋳込んだ。各試料のディスクサンプルは、発光分光分析によって、組成分析を行なった。その結果を表1に示す。
【0034】

【0035】
鋳塊は、押し湯を切断後、両面を3mmずつ面削して、厚み9mmとした。電気加熱炉にこの鋳塊を装入して、100℃/hrの昇温速度で480℃まで加熱し、480℃×1時間の均質化処理を行い、続いて熱間圧延機にて3mm厚さにまで熱間圧延を施した。
この後、熱間圧延板に冷間圧延を施して、1.2mm厚さの冷延板とし、軟化させるために390℃×2時間の1次中間焼鈍を施した。さらに冷間圧延を施して、0.3mm厚さの冷延板とし、軟化させるため390℃×2時間の2次中間焼鈍を施した。さらに冷間圧延を施して、0.06mm(60μm)の最終冷間圧延板とした。なお、ろう材厚みのろう付け強度(せん断応力)に及ぼす影響を調査するために、D合金ろう材については、厚み15μm、20μm、30μm、60μm及び100μmの5水準の最終圧延板を作製した。
この最終冷間圧延板を所定の大きさ(15mm×8mm)に切断して、複数枚のブレージングシート(ろう材)とした。
【0036】
逆T字試験片の作製
図1に示すようにAA1100合金製のブロックA(35mm×35mm×10mm)の35mm×35mmの面上中央にブレージングシート(15mm×8mm)を載置し、AA1100合金製のブロックB(18mm×15mm×8mm)における15mm×8mmの面を上記ブレージングシートに重ねるようにしてブロックAにおける35mm×35mmの面上中央にブロックBを立設した。
【0037】
さらにブロックBの上面に加圧するための所定の質量の分銅を載置し、図2に示すように石英管(φ125×330mm)で覆われた試験炉内に組み上げたブロック等を挿入した。雰囲気を不活性ガスに置換するため、流量10Nl/分で工業用窒素ガス(酸素濃度10ppm以下の窒素)を流しつつ、ブロックAに取り付けた熱電対が所定のろう付け温度を示すまで、PID制御により50℃/分の速度で加熱し、所定のろう付け温度で所定の時間保持した後、抵抗線への出力をOFFとして、組み上げたブロック等を炉冷した。ブロックAに取り付けた熱電対が400℃以下を示した後、組み上げたブロック等を炉から取り出して室温まで冷却した。
【0038】
また、ろう付け雰囲気による酸素濃度のろう付け強度(せん断応力)に及ぼす影響を調査するため、D合金ろう材(ろう材厚:60μm)については、工業用窒素(酸素濃度10ppm以下の窒素)の他、酸素濃度500ppmの窒素、酸素濃度2000ppmの窒素を流しながら、或いは窒素を流すことなく大気中で、ろう付け温度605℃、保持時間10分の条件下で、同様にして逆T字試験片の作製を行った。
さらに、被接合材のろう付け面における酸化皮膜厚みのろう付け強度(せん断応力)に及ぼす影響を調査するため、ブロックAについて予め大気中で600℃×1hr加熱処理、600℃×5hr加熱処理を行い、酸化膜厚を厚くした被接合材(ブロックA)を準備した後、D合金ろう材(ろう材厚:60μm)を用いて、工業用窒素(酸素濃度10ppm以下の窒素)を流しながら、所定の条件下でろう付けを行い、同様にして逆T字試験片の作製を行った。
なお、ろう付け前の被接合材表面における酸化膜厚の測定は、被接合材の断面におけるTEM観察によって行ない、加熱処理を施さない被接合材(無処理材)では酸化膜厚4nm、600℃×1hr加熱処理を施した被接合材では酸化膜厚30nm、600℃×5hr加熱処理を施した被接合材では酸化膜厚90nm、であることが判明した。
【0039】
せん断応力の測定
上記のようにして作製した逆T字試験片を図3のような治具に固定して、ブロックAの端面(35mm×10mmの面)からアムスラーによって加圧し(歪速度:1mm/分)、ろう付け面におけるろう付け強度(破断せん断応力)の測定を行った。
その結果を表2〜9、及び図4〜11に示す。
なお、上記実施例の説明中にあって、特に細かい条件の表示がないものについては、D合金ろう材(ろう材厚:60μm)及び被接合材(無処理材)を用い、工業用窒素(酸素濃度10ppm以下の窒素)を流しながら、ろう付け温度605℃、保持時間10分、加圧力5.6gf/mmの条件下でろう付けを行い、逆T字試験片の作製を行ったものである。
【0040】

【0041】

【0042】

【0043】

【0044】

【0045】

【0046】

【0047】

【0048】
まず、表2に示す結果から、ろう付け温度は580℃以上とすることが好ましいことがわかる。また、ろう付け温度保持時間は2分以上に、特に5分以上とすることが好ましいことがわかる。
次にろう材を構成するアルミニウム合金中の成分の影響についてみると、605℃でろう付けした際に所望のせん断応力を得るには0.1質量%のMg含有で十分である。しかし、0.5質量%含まれていないと580℃でろう付けした際に所望のせん断応力が得られていない。また、Mg含有量が3.0質量%を超えた試料では605℃でのろう付けを行うとせん断応力が低下している。したがって、Mgの好ましい含有量は0.5〜3.0質量%であることがわかる。
【0049】
Si含有量についてみると、3.0〜12.0質量%の範囲で含む試料全てで、とりあえず十分なせん断応力が得られているが、Si含有量3.0質量%では、若干得られるせん断応力が低くなっている。したがって、したがって、Siの好ましい含有量は5.0〜12.0質量%であることがわかる。
不可避的不純物であるCu,Mn,Znについては、それぞれ1.0質量%未満の含有であれば、せん断応力にほとんど影響していないことがわかる。
【0050】
ろう材の厚さについては、15μm以上の厚さであれば、とりあえず十分なせん断応力が得られているが、その厚さが15μmの場合、若干得られるせん断応力が低くなっている。したがって、したがって、ろう材の厚さは20μm以上とすることが好ましい。厚すぎるとろう材が過剰となってしまうため上限は200μmであることは前記したとおりである。
【0051】
ろう付け時の付加圧力についてみると、0.6gf/mm以上の面圧を付加しながらろう付けを行えば、とりあえず十分なせん断応力が得られている。しかしながら、よりせん断応力を高めようとする場合には、1.0gf/mm以上の面圧を付加することが好ましいことがわかる。
ろう付けするアルミニウム合金部材の表面に形成されている酸化物膜が30nmを超えていると、得られるせん断応力が急激に低下するようになる。したがって、ろう付けするアルミニウム合金部材は、表面に形成されている酸化物膜が30nm未満のものとするべきである。
さらに、ろう付け時の雰囲気についてみると、少なくとも窒素等の不活性雰囲気とするべきであることがわかる。特に酸素含有量が500ppm以下の不活性ガス雰囲気とすることが好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、厚さ15〜200μmのろう材からなる単層ブレージングシートを用いてアルミニウム合金部材同士を面ろう付けする方法であって、前記ブレージングシートを固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金部材同士の間に挟みこみ面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、0.6gf/mm以上の面圧を付加しながら無フラックスでアルミニウム合金部材同士をろう付けすることを特徴とするアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項2】
Si:3〜12質量%、Mg:0.1〜5.0質量%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、厚さ15〜200μmのろう材と固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金からなる皮材とから構成される2層ブレージングシートを用いてアルミニウム合金部材と前記皮材とを面ろう付けする方法であって、前記2層ブレージングシートのろう材面を固相線温度が570℃以上であるアルミニウム合金部材と面接触させた状態で、不活性ガス雰囲気下で、ろう付け温度570℃以上に保持しつつ、0.6gf/mm以上の面圧を付加しながら無フラックスで前記アルミニウム合金部材と前記皮材をろう付けすることを特徴とするアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項3】
前記ろう材に含まれる不可避的不純物としてのCuが1.0質量%未満に制限されている請求項1又は2に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項4】
前記ろう材に含まれる不可避的不純物としてのMnが1.0質量%未満に制限されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項5】
前記ろう材に含まれる不可避的不純物としてのZnが1.0質量%未満に制限されている請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項6】
前記ブレージングシートを構成するろう材は、厚さ15〜150μmである請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項7】
前記アルミニウム合金部材は、そのろう付け面に厚さ30nm以下の厚さの酸化皮膜が形成されているものである請求項1〜6のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項8】
前記ろう付け温度における保持時間が2分以上である請求項1〜7のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項9】
前記ろう付け温度における保持時間が5分以上である請求項1〜8のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項10】
前記不活性ガスが窒素ガスである請求項1〜9のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。
【請求項11】
前記不活性ガスの酸素濃度が500ppm以下である請求項1〜10のいずれか1項に記載のアルミニウム合金部材の面ろう付け方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−71335(P2012−71335A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−218791(P2010−218791)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)