説明

アルミニウム合金鋳造板の製造方法

【課題】固液共存温度領域の広いAl-Mg 系アルミニウム合金の双ロール式連続鋳造方法であっても、板厚中心部の欠陥を抑制できる、アルミニウム合金鋳造板の製造方法を提供する。
【解決手段】鋳造速度を20m/min 以下とし、溶湯3 と略同時に接触する双ロール1 、2 の内の、片側のロール2 の表面温度をAl-Mg 系アルミニウム合金の液相線温度以上で、この液相線温度+30℃以下とする一方、他方のロール1 の表面温度をAl-Mg 系アルミニウム合金の固相線温度以下とし、この低温側ロール1 の表面側から溶湯3 の凝固5 を開始させる一方向凝固をさせつつ連続鋳造を行ない、鋳造板の内部欠陥を抑制することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固液共存温度領域の広いAl-Mg 系アルミニウム合金板であっても、板厚中心部の欠陥を抑制できる、双ロール式連続鋳造方法によるアルミニウム合金鋳造板の製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
周知の通り、従来から、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品用として、各種アルミニウム合金板(以下、アルミニウムをAlとも言う)が、合金毎の各特性に応じて汎用されている。
【0003】
これらのアルミニウム合金板は、多くの場合、プレス成形などで成形されて、上記各用途の部材や部品とされる。この点、高成形性の点からは、前記Al合金のなかでも、強度・延性バランスに優れたAl-Mg 系Al合金が有利である。
【0004】
このため、従来から、Al-Mg 系Al合金板に関して、成分系の検討や製造条件の最適化検討が行われている。このAl-Mg 系Al合金としては、例えばJIS A 5052、5182等が代表的な合金成分系である。しかし、このAl-Mg 系Al合金でも冷延鋼板と比較すると延性に劣り、成形性に劣っている。
【0005】
これに対し、Al-Mg 系Al合金は、Mg含有量を増加させて高Mg化させると、強度延性バランスが向上する。しかし、このような高MgのAl-Mg 系合金は、DC鋳造などで鋳造した鋳塊を均熱処理後に熱間圧延を施す、通常の製造方法では、工業的に製造することは困難である。この理由は、鋳造の際に鋳塊にMgが偏析したり、通常の熱間圧延では、Al-Mg 系合金の延性が著しく低下するために、割れが発生し易くなるからである。
【0006】
一方、高MgのAl-Mg 系合金を、上記割れの発生する温度域を避けて、低温での熱間圧延を行うことも困難である。このような低温圧延では、高MgのAl-Mg 系合金の材料の変形抵抗が著しく高くなり、現状の圧延機の能力では製造できる製品サイズが極端に限定されるためである。
【0007】
また、高MgのAl-Mg 系合金のMg含有許容量を増加させるために、FeやSi等の第三元素を添加する方法等も提案されている。しかし、これら第三元素の含有量が増えると、粗大な金属間化合物を形成しやすく、アルミニウム合金板の延性を低下させる。このため、Mg含有許容量の増加には限界があり、Mgが8%を超える量を含有させることは困難であった。
【0008】
このため、従来から、高MgのAl-Mg 系合金板を、双ロール式などの連続鋳造法で製造することが種々提案されている。双ロール式連続鋳造法は、回転する一対の水冷鋳型 (双ロール) 間に、耐火物製の給湯ノズルからアルミニウム合金溶湯を注湯して凝固させ、かつ、この双ロール間において、上記凝固直後に急冷して、アルミニウム合金薄板とする方法である。この双ロール式連続鋳造法はハンター法や3C法などが知られている。
【0009】
双ロール式連続鋳造法の冷却速度は、従来のDC鋳造法やベルト式連続鋳造法に較べて1〜3桁大きい。このため、得られるアルミニウム合金板は非常に微細な組織となり、プレス成形性などの加工性に優れる。また、鋳造によって、アルミニウム合金板の板厚も比較的薄い1〜13mmのものが得られる。このため、従来のDC鋳塊(厚さ200 〜 600mm)のように、熱間粗圧延、熱間仕上げ圧延等の工程が省略できる。さらに鋳塊の均質化処理も省略出来る場合がある。
【0010】
このような双ロール式連続鋳造法を用いて製造した高MgのAl-Mg 系合金板の、成形性向上を意図して組織を規定した例は、従来においても種々提案されている。例えば、6 〜10% の高MgであるAl-Mg 系合金板の、Al-Mg 系の金属間化合物の平均サイズを10μm 以下とした、機械的性質に優れた自動車用アルミニウム合金板が提案されている (特許文献1参照) 。また、10μm 以上のAl-Mg 系金属間化合物の個数を300 個/mm2以下とし、平均結晶粒径が10〜70μm とした自動車ボディーシート用アルミニウム合金板なども提案されている (特許文献2参照) 。
【0011】
更に、高MgのAl-Mg 系合金について、双ロールの周速や冷却速度を特定条件以上に速くして鋳造した鋳造板を、更に、特定条件で冷間圧延および焼鈍し、Al-Mg 系金属間化合物を少なくした自動車用アルミニウム合金板の製造方法も提案されている (特許文献3参照) 。また、6000系アルミニウム合金においても、Speed Casterと呼ばれるロール鋳造装置により、AA6016アルミニウム合金鋳造板(1800W ×1 〜2.5mm 厚み)の鋳造が行われたことが報告されている (非特許文献1参照) 。
【0012】
そして、双ロール式連続鋳造法において、鋳片の表面欠陥を抑制することも種々提案されている。例えば、割れ感受性の高いアルミニウム合金の双ロール式連続鋳造法において、一方のロールの抜熱量を小さくして、ロールのキス点(キッシングポイント)での凝固シェルの曲げ戻しによる引張歪みを抑制し、鋳片の表面割れを防止することも提案されている (特許文献4参照) 。また、合金インコロイなどの横型式双ロール連続鋳造法において、上ロール側を断熱した上で、タンディッシュや注湯ノズルを予熱して、鋳片の表面欠陥や板厚変動を防止することも提案されている (特許文献5参照) 。
【特許文献1】特開平7 −252571号公報 (特許請求の範囲、1 〜2 頁)
【特許文献2】特開平8 −165538号公報 (全文)
【特許文献3】特開2006−28554 号公報 (全文)
【特許文献4】特開平7 −185748号公報 (全文)
【特許文献5】特開平8 −10909 号公報 (全文)
【非特許文献1】Continuous Casting, Proceedings of the International Conference on Continuous Casting of Non-Ferrous Metals, DGM2005,p87.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
一方、高MgのAl-Mg 系合金鋳造板を双ロール式連続鋳造法を用いて製造する場合、特に、効率化、量産化のために、双ロールの周速を速くしても、空隙などの鋳造欠陥が生じやすい。これは、高MgのAl-Mg 系合金の凝固温度範囲が、Mg含有量が低いAl-Mg 系合金に比較して、広くなるためである。このため、注湯時や凝固中に発生したガスや雰囲気を巻き込んだガスが、鋳片内から外部に放出されにくくなり、鋳片組織内に滞留しやすくなり、空隙となりやすい。
【0014】
高MgのAl-Mg 系合金板において、このように組織内の上記空隙が多くなると、伸びを低下させ、Al-Mg 系合金板の特徴である強度延性バランスや、それに基づく成形性を低下させる。
【0015】
これに対しては、双ロールにおける冷却速度を大きくする、あるいは、Tiなどの微細化剤を添加する、などの手段が有効ではある。しかし、これらの手段も、空隙などの鋳造欠陥を、製造された板の伸びなどの成形特性に影響の無い範囲まで抑制することには限界がある。また、鋳片の表面欠陥を抑制する、前記特許文献4、5などの方法を用いても、高MgのAl-Mg 系合金鋳造板における、空隙などの内部欠陥を抑制することにはやはり限界がある。
【0016】
したがって、これまで、高MgのAl-Mg 系合金鋳造板を、双ロール式連続鋳造法を用いて製造する場合には、空隙などの鋳造欠陥をある程度許容せざるを得なかったのが実情である。
【0017】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、固液共存温度領域の広いAl-Mg 系アルミニウム合金の双ロール式連続鋳造方法であっても、板厚中心部の欠陥を抑制できる、アルミニウム合金鋳造板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この目的を達成するために、内部欠陥を抑制した本発明アルミニウム合金鋳造板の製造方法の要旨は、双ロール式連続鋳造方法によって、Mgを5 〜14質量% 含むAl-Mg 系アルミニウム合金鋳造板を製造する方法において、鋳造速度を20m/min 以下とし、溶湯と略同時に接触する双ロールの内の、片側のロールの表面温度を、(-5.43×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+663 で計算される前記Al-Mg 系アルミニウム合金の液相線温度以上で、この液相線温度+30℃以下とする一方、他方の片側のロールの表面温度を、(-12.9×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+638 で計算される前記Al-Mg 系アルミニウム合金の固相線温度以下とし、この固相線温度以下の表面温度である片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる一方向凝固を行いつつ連続鋳造を行なうことである。
【0019】
また、同じ目的を達成するために、内部欠陥を抑制した本発明アルミニウム合金鋳造板の製造方法の別の要旨は、 双ロール式連続鋳造方法によって、Mgを5 〜14質量% 含むAl-Mg 系アルミニウム合金鋳造板を製造する方法において、鋳造速度を20m/min 以下とし、略上下方向に配置された双ロール同士の溶湯に接触するタイミングを違え、溶湯を先ず下方に配置された片側のロール表面に先に接触させた後に、溶湯を(-12.9×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+638 で計算される前記Al-Mg 系アルミニウム合金の固相線温度以上で、この固相線温度+10℃以下の温度にて、上方に配置された片側のロール表面に接触させ、先に溶湯に接触した前記下方に配置された片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる一方向凝固を行いつつ連続鋳造を行なうことである。
【発明の効果】
【0020】
前記した通り、高MgのAl-Mg 系合金鋳造板の双ロール式連続鋳造法による製造では、高MgのAl-Mg 系合金の凝固温度範囲が広くなり、注湯時や凝固中に発生した水素などのガスや雰囲気を巻き込んだガスが、鋳片内から外部に放出されにくくなる。このため、これらガスが鋳片組織内に滞留しやすくなり、空隙などの鋳造欠陥が生じやすい。
【0021】
これに対して、本発明では、上記要旨の通り、双ロールの片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる一方向凝固を行いつつ連続鋳造を行なう。但し、この一方向凝固を実現するためには、双ロール特有の問題として、双ロールにおけるいずれか一方のロール表面温度か、ロール表面に接触する溶湯温度を、溶湯の液相乃至固相温度との関係で、かなり狭い特定範囲に制御する必要がある。この特定の範囲を外れた場合、双ロールによって連続鋳造している関係上、双ロール特有の別の問題が生じる。
【0022】
両方の双ロールが溶湯と略同時に接触する場合には、片側のロールの表面温度を液相線温度以上の特定温度範囲に高くして、ロールの表面温度が低い他方の片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる。通常の双ロール連続鋳造では、両方の双ロールの表面は、基本的には、冷却した上で室温に保持される。
【0023】
また、略上下方向に配置された双ロールの場合には、双ロール同士の溶湯に接触するタイミングを違え、下方に配置された片側のロールを先に溶湯に接触させるとともに、後で上方に配置されたロールに接触する際の溶湯温度を固相線温度以上の特定温度範囲に高くして、この下方に配置された片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる。
【0024】
これによって、双ロール連続鋳造において、片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる一方向凝固を実現する。この一方向凝固によって、溶湯中の水素などのガス成分を、固相に凝固しつつある鋳造板 (鋳片) 片側から、液相のままである鋳造板 (鋳片) 片側へ移動させる。これによって、続いて固相に凝固する液相部分から、水素などのガス成分を大気中に放出させやすくする。この結果、通常の双ロール連続鋳造において、鋳造板の中心部に偏析して空隙などの鋳造欠陥となりやすい、水素などのガス成分が低減され、内部欠陥が抑制される。
【0025】
したがって、効率化、量産化のために、双ロールの周速を速くした場合でも、また、固液共存温度領域の広いAl-Mg 系アルミニウム合金板であっても、凝固した鋳造板の板厚中心部の欠陥を抑制できる。
【0026】
この結果、5%以上の高MgのAl-Mg 系合金鋳造板であっても、材質特性としての伸びや強度延性バランスを向上させることができ、張出成形、絞り成形、曲げ加工、穴あけ、穴拡げ、打ち抜き、あるいはこれら成形加工の組み合わせなどの成形性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明におけるAl-Mg 系アルミニウム合金鋳造板の製造方法につき、各要件ごとに具体的に説明する。
【0028】
(双ロール式連続鋳造法)
図1 、2 に、本発明における双ロール式連続鋳造法を模式的に示す。図1 は縦型 (垂直型) で、水平に配置された両方の双ロールが溶湯と略同時に接触する場合を示している。また、図2 は横型 (水平型) で、上下方向に配置された両方の双ロールの内、下方のロールが溶湯と先に接触する場合を示している。
【0029】
なお、これら双ロール式連続鋳造法において、前提となる連続鋳造工程自体は公知である。即ち、図1 、2 において、共通して、双ロール式連続鋳造は、回転する一対の水冷鋳型などの双ロール1 、2 あるいは10、11間に、図示しない耐火物製の給湯ノズルから (矢印方向から) 、上記あるいは下記する成分組成のAl合金溶湯3 を注湯する。そして、これら双ロール間で溶湯を急冷凝固させ、Al合金鋳造板6 とする。
【0030】
(双ロール鋳造方式)
本発明において、双ロール鋳造の方式は、縦型 (双ロールが略水平方向に並ぶ) でも、横型 (双ロールが略垂直方向に並ぶ) でも良い。縦型では、凝固距離を大きく取ることができ、接触時間が長くなることから、鋳造速度の増加が可能となり、生産性が向上するなどの特徴がある。したがって、これら特徴を考慮して、横型と縦型との双ロール鋳造を使い分ける。
【0031】
(鋳造速度)
このため、本発明では、前提として、鋳造速度乃至双ロールの周速vを20m/min 以下と遅く (小さく) する。この鋳造速度乃至双ロールの周速vを20m/min を越えて大きくすると、本発明の一方向凝固を適用しても、空隙などの鋳造欠陥の原因となる溶湯の渦流が発生しやすくなる。このため、固液共存温度領域の広いAl-Mg 系アルミニウム合金板では、凝固した鋳造板の板厚中心部の欠陥を抑制できなくなる。したがって、鋳造速度乃至双ロールの周速vは20m/min 以下とする。
【0032】
( 一方向凝固)
以下に、本発明の特徴的な要旨である、双ロールの片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる一方向凝固につき説明する。
【0033】
本発明では、双ロール式連続鋳造法において、鋳造板の中心部の内部欠陥を抑制できる一方向凝固を実現するために、双ロール特有の問題として、双ロールにおける双方のロール表面温度を互いに特定の範囲に制御する。
【0034】
(縦型双ロールの一方向凝固)
図1 に示すように、両方の双ロール1 、2 が水平に配置され、これら双ロール1 、2 が溶湯3 と略同時に接触する縦型などの場合には、例えば、片側のロール2(図の左側のロール) を高温とし、その表面2aの温度を、Al-Mg 系アルミニウム合金 (溶湯) の液相線温度以上に高くする。
【0035】
これによって、図1 に示すように、ロールの表面温度が低い他方の片側のロール1 の表面1a側のみから凝固相 (固相)5を生成させて、溶湯3 の凝固を開始および進行させる一方向凝固が行なわれる。この際、高温側のロール2 の表面2a側では、まだ、溶湯3 は液相4 のままである。そして、この液相4 も次々と凝固して、高温側のロール2 側の鋳片側 (図の左側) へ凝固相 (固相)5が発達して厚くなる一方で、液相4 の厚みは順次薄くなる。
【0036】
したがって、通常の双ロール法のような、双ロール1 、2 におけるキス点12まで、溶湯中心部が最後まで未凝固状態として残ることは無くなる。また、液相4 も次々と凝固して、低温側ロール1 の鋳片側 (図の左側) から、高温側のロール2 側の鋳片側 (図の左側) へ凝固相 (固相)5が発達して厚くなる一方で、液相4 の厚みは順次薄くなる。
【0037】
水素などのガス成分は、固相に対する(固相での)溶解度は低く、液相に対する(液相での)溶解度は高い。したがって、この一方向凝固によって、溶湯中心部に水素などのガス成分が残留することが無くなる。また、溶湯中の水素などのガス成分は、凝固相5 に凝固しつつある低温側ロール1 の鋳片側 (図の左側) から、液相4 のままである高温側のロール2 側の鋳片側 (図の右側) へ、上記溶解度差によって移動させられる。
【0038】
この溶湯中の水素などのガス成分が、成長する凝固相5 側から順次凝固していく液相4 側に移動する状態は、双ロール1 、2 におけるキス点12まで続き、遂には、キス点12 (近傍を含む) において、成長した凝固相5 のみとなって、液相4 が無くなる。この結果、液相4 の部分から水素などのガス成分を大気中に放出させやすくする。このため、通常の双ロール連続鋳造において、鋳造板の中心部に偏析して空隙などの鋳造欠陥となりやすい、水素などのガス成分が低減され、内部欠陥が抑制される。
【0039】
この作用効果を発揮させるために、高温側のロール2 の表面2aの温度は、Al-Mg 系アルミニウム合金 (溶湯) の液相線温度以上に高くする。高温側のロール2 の表面2aの温度が、この液相線温度未満では、高温側のロール2 の表面側で溶湯3 を液相4 のままで保持できない。したがって、通常の双ロール法と同じとなり、低温側ロール1 の表面1a側と同様に、高温側のロール2 の表面2a側でも凝固が開始されて、一方向凝固が行なわれなくなる。
【0040】
高温側のロール2 の表面2aの温度の上限は、同じく上記一方向凝固を発揮させるために、液相線温度+30℃以下とする。仮に、高温側のロール2 の表面2aの温度が液相線温度+30℃を越えた場合、高温側のロール2 の表面2aの温度が高過ぎることとなる。このため、他方の片側の低温側ロール1 の表面1aの温度を固相線温度以下に低くしても、溶湯の凝固が双ロールのキス点12までで完了せずに、溶湯の凝固完了がロールのキス点12以降に持ち越される。板厚精度や表面平滑度を保持するためには、双ロールによる鋳片(鋳造板)の拘束がある、ロールのキス点12までに溶湯を凝固を完了させる必要がある。したがって、高温側のロール2 の表面2aの温度が高過ぎると、双ロールによって拘束されないままで、凝固が完了することとなり、鋳造板の凹凸が激しくなり、板厚精度や表面平滑度が著しく低下する。
【0041】
上記範囲に高温側のロール2 の表面2aの温度を高くするためには、例えば図1に示すロール2 の外部に設けたヒータか、ロール2 の内部にヒータを設けることによって、高温側ロール2 の表面2aを加熱することが好ましい。
【0042】
一方、低温側ロール1 の表面1a側からの溶湯の一方向凝固のためには、低温側ロール1 の表面1aの温度はできるだけ低い方が良い。この点、本発明では、低温側ロール1 の表面1aの温度の上限を、Al-Mg 系アルミニウム合金の固相線温度以下と規定するが、この温度は室温領域まで含めて、できるだけ低い方が良い。低温側ロール1 の表面1aの温度が、Al-Mg 系アルミニウム合金の固相線温度を越えた場合、高温側のロール2 の表面2aの温度が適切であっても、通常の双ロール連続鋳造と同様に、溶湯中心部が最後まで未凝固状態となるなど、低温側ロール1 の表面1a側からの溶湯の一方向凝固ができなくなる。
【0043】
このように低温側ロール1 の表面1aの温度を低くするためには、通常の双ロールに用いる水冷鋳型ロール (銅製、鋼製) を本発明でも用い、溶湯によって加熱される低温側ロール1 の表面1aをロール内部側から水冷することが好ましい。
【0044】
これらロール表面の温度測定は、放射温度計もあるが、より正確にするために、ロール表面に接触させた接触式温度計により測定する。
【0045】
(液相線温度)
液相線温度は合金の溶解による実測によっても求められるが、本発明における、Al-Mg 系アルミニウム合金 (溶湯) の液相線温度は、係数-5.43 に、Al-Mg 系アルミニウム合金のMg含有量 (質量%)を乗じて、定数663 を加算して、計算により求める。即ち、前記(-5.43×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+663 で計算される。
【0046】
(固相線温度)
また、本発明における、Al-Mg 系アルミニウム合金( 溶湯) の固相線温度も、係数-12.9 に、Al-Mg 系アルミニウム合金のMg含有量 (質量%)を乗じて、定数638 を加算して、計算により求める。即ち、前記(-12.9×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+638 で計算される。
【0047】
(横型双ロールの一方向凝固)
横型双ロールに本発明を適用する場合には、図2 に示すように、略上下方向 (略垂直方向) に配置された双ロール10、11同士の溶湯に接触するタイミングを違えることによって実現可能となる。即ち、先ず、図2 に示すように、下方に配置されたロール11の表面11a を先に溶湯3 に接触させる。次に、上方に配置されたロール10の表面10a に接触する際の、図2 の矢印で示す、ロール10の表面10a に接触直前の溶湯 (液相)4の温度を固相線温度以上で、この固相線温度+10℃以下とする。
【0048】
これによって、下方ロール11の表面11a 側から、謂わば溶湯3 の下方から凝固を開始させる。この際、溶湯の上方( 上方ロール10側) では、まだ、溶湯3 は液相4 のままであり、謂わば鋳片 (溶湯) の下方から上方に向かう一方向凝固が進行する。
【0049】
そして、上方ロール10の表面10a に接触する際の、溶湯3 の温度を、固相線温度以上で、この固相線温度+10℃以下の、比較的低い温度とする。これによって、双方のロール10、11のキス点において、鋳片 (溶湯) の下方から上方に向かう一方向凝固が完了する。
【0050】
この一方向凝固によって、前記した縦型と同様に、溶湯中の水素などのガス成分が、下方から成長していく凝固相5 側から、凝固していく上方の液相4 側に順次移動する。この状態は、双ロール1 、2 におけるキス点12まで続き、遂には、キス点12 (近傍を含む) において、成長した凝固相5 のみとなって、液相4 が無くなる。この結果、液相4 の部分から水素などのガス成分を大気中に放出させやすくする。このため、通常の双ロール連続鋳造において、鋳造板の中心部に偏析して空隙などの鋳造欠陥となりやすい、水素などのガス成分が低減され、内部欠陥が抑制される。
【0051】
このため、効率化、量産化のために、双ロールの周速を速くした場合でも、また、固液共存温度領域の広いAl-Mg 系アルミニウム合金板であっても、凝固した鋳造板の板厚中心部の欠陥を抑制できる。この結果、5%以上の高MgのAl-Mg 系合金鋳造板であっても、材質特性としての伸びや強度延性バランスを向上させることができ、張出成形、絞り成形、曲げ加工、穴あけ、穴拡げ、打ち抜き、あるいはこれら成形加工の組み合わせなどの成形性を向上させることができる。
【0052】
この溶湯4 の温度は、本発明では、放射温度計にて測定するために、ロール10の表面10a に接触直前の溶湯 (液相)4の表面の温度である。即ち、ロール10の表面10a に接触する際の溶湯3 の温度は、放射温度計にて、図2 の黒い矢印で示す、ロール10の表面10a に接触直前の溶湯 (液相)4表面の温度を測定する。
【0053】
この溶湯4 の温度は、ダンディッシュから供給される元の溶湯3 の温度制御と、先に溶湯3 に接触して溶湯3 を冷却する下方ロール (先ロール)11 の表面11a の温度制御によって制御する。上記した作用効果を発揮させるために、即ち、下方ロール11の表面11a 側からの溶湯の一方向凝固のためには、元の溶湯3 の温度にもよるが、下方ロール11の表面11a の温度は、固相線温度以下のできるだけ低い方が良い。この温度が高過ぎた場合、この上方に配置されたロール10の表面10a に接触する際の、溶湯3 の温度は、固相線温度以上で、この固相線温度+10℃以下の、比較的低い温度とできなくなる。
【0054】
このように下方ロール11の表面11a の温度を低くするためには、通常の双ロールに用いる水冷鋳型ロール (銅製、鋼製) を本発明でも用い、溶湯によって加熱される下方ロール11の表面11a をロール内部側から水冷することが好ましい。
【0055】
一方、上方に配置されたロール10の表面10a に接触する際の、溶湯3 の温度が固相線温度未満の場合、溶湯3 の温度が低過ぎ、一方向凝固は進むものの、上方に配置されたロール10に溶湯3 が接触する前に、鋳片の凝固が完了してしまう。このため、上方に配置されたロール10によって拘束されないままで、凝固が完了することとなり、鋳造板の板厚精度や表面平滑度が著しく低下する。
【0056】
他方、上方に配置されたロール10の表面10a に接触する際の、溶湯3 の温度が固相線温度+10℃を越えた場合、溶湯3 の温度が高過ぎる。このため、ロール10や11の表面温度10a や11a を低くしても、溶湯の凝固が双ロールのキス点12までで完了せずに、溶湯の凝固完了がロールのキス点12以降に持ち越される。したがって、双ロールによって拘束されないままで、凝固が完了することとなり、鋳造板の凹凸が激しくなり、板厚精度や表面平滑度が著しく低下する。
【0057】
(鋳造板厚)
以上のように、本発明では、一方向凝固によって、双ロールのキス点までに溶湯を完全凝固させる。このため、上記キス点における凝固層の厚さは、鋳造板の板厚と同じとなる。なお、本発明では、鋳造される鋳造板の板厚は自由に選択される。但し、最終的に薄板を得たい場合には、鋳造板の板厚があまり厚いと、後で熱間圧延などを必要とし、双ロール連続鋳造により板を製造する利点が損なわれる。
【0058】
(その他の双ロール鋳造条件)
以下に、本発明における、その他の好ましい双ロール鋳造の条件つき説明する。
【0059】
(ロール径)
ここで、効率化、量産化のためには、双ロールとして大径ロールを用いることが好ましく、双ロールのロール径Dは100 φmm以上が好ましい。ただ、双ロールのロール径Dを大きくするほど、ロール周速v乃至鋳造速度が速くなる。そして、このロール周速v乃至鋳造速度が速くなると、空隙などの鋳造欠陥の原因となる溶湯の渦流が発生しやすくなる。
【0060】
(冷却速度)
双ロール式連続鋳造は、他のベルトキャスター式、プロペルチ式、ブロックキャスター式などに比して、鋳造の際の冷却速度を大きくできる利点がある。但し、双ロールによる鋳造でも、冷却速度は50℃/s以上のできるだけ大きい速度が好ましい。冷却速度が50℃/s未満では、鋳造板の平均結晶粒が50μm を超えて粗大化するとともに、Al-Mg 系などの金属間化合物全般が粗大化するか、多量に晶出する可能性が高くなる。この結果、このため、強度伸びバランスが低下し、プレス成形性が著しく低下する可能性が高くなる。また、板の均質性も低下する。
【0061】
なお、この冷却速度は、直接の計測は難しいので、鋳造された板 (鋳塊) の板厚方向全体にわたる複数点でのデンドライトアームスペーシング (デンドライト二次枝間隔、:DAS)の平均値から公知の方法(例えば、軽金属学会、昭和63年8.20発行、「アルミニウムデンドライトアームスペーシングと冷却速度の測定方法」などに記載)により求める。即ち、鋳造された板の鋳造組織における、互いに隣接するデンドライト二次アーム (二次枝) の平均間隔d を交線法を用いて計測し (視野数3 以上、交点数は10以上) 、このd を用いて次式、d = 62×C -0.337 (但し、d:デンドライト二次アーム間隔mm、C : 冷却速度℃/s) から求める。
【0062】
(ロール潤滑)
ロール潤滑剤を用いた場合、理論計算上は冷却速度が大きくても、実質的な、あるいは実際における冷却速度が実質的に50℃/s未満となりやすい。このため、双ロールとしては、潤滑剤によって表面が潤滑されていないロールを用いることが望ましい。従来では、溶湯がロール表面に接触および急冷されて、双ロール表面に造形される凝固殻の割れを防止するために、酸化物粉末 (アルミナ粉、酸化亜鉛粉等) 、SiC 粉末、グラファイト粉末、油、溶融ガラスなどの潤滑剤 (離型剤) を、双ロール表面に塗布あるいは流下させて用いることが一般的であった。しかし、これら潤滑剤を用いた場合、冷却速度が小さくなって、必要な冷却速度が得られない。
【0063】
また、これら潤滑剤を用いた場合、双ロール表面において、潤滑剤の濃度や厚みの不均一によって、冷却のムラが生じやすく、板の部位によっては凝固速度が不十分となりやすい。このため、Mg含有量が高くなるほど、マクロ偏析やミクロ偏析が大きくなり、Al-Mg 系合金板の強度延性バランスを均一にすることが困難となる可能性が高くなる。
【0064】
(注湯温度)
Al合金溶湯を双ロールに注湯する際の注湯温度は、液相線温度を越える温度であれば、設備的に可能な温度で良く、特に制約がない。
【0065】
(製造方法)
双ロール連続鋳造後の本発明Al-Mg 系Al合金鋳造板は、そのまま前記した各用途の部材や部品用として、成形、加工されて使用可能である。また、必要によって、均質化熱処理、焼鈍などの調質処理を施した鋳造板としても、使用可能であり、本発明範囲に含む。あるいは、本発明Al-Mg 系Al合金鋳造板を用いて、更に、均質化熱処理、冷間圧延、焼鈍などの組み合わせによって、圧延板として製造して、前記した各用途の部材や部品用としても良い。
【0066】
(化学成分組成)
次に、本発明Al-Mg 系Al合金の化学成分組成について以下に説明する。本発明Al合金鋳造板(あるいは双ロールに供給される溶湯)の組成は、鋳造板に要求される、強度、延性、そして強度延性バランスなどの特性から、Mgを 5質量% 以上、14質量% 以下含み、残部がAlおよび不可避的不純物からなるものとする。
【0067】
但し、本発明では、上記組成において、Al合金鋳造板が、スクラップなどの溶解原料から混入しやすい元素 (上記不可避的不純物に含む) を含む。これらの元素として、質量% で、Fe:1.0% 以下、Si:0.5% 以下、Mn:1.0% 以下、Cr:0.5% 以下、Zr:0.3% 以下、V:0.3%以下、Ti:0.5% 以下、B:0.05% 以下、Cu:0.5% 以下、Zn:0.5% 以下を、これらの元素の各々の上限値まで含むことは許容する。これらの元素が各々の上限値(許容量)を越えた場合、これらの元素による化合物が過大となって、Al合金鋳造板の破壊靱性や成形性などの特性を大きく阻害する。
【0068】
上記組成において、MgはAl-Mg 系Al合金鋳造板の強度、延性、そして強度延性バランスを高める重要合金元素である。Mgが5 質量% 未満の含有量では、強度、延性が不足する。一方、Mgを14% を越えて含有すると、連続鋳造の際の冷却速度を高めても、Al-Mg 系化合物の晶析出が多くなる。この結果、やはり成形性が著しく低下する。また、加工硬化量が大きくなり、成形性も低下させる。したがって、Mg含有量は5 質量% 以上、14質量% 以下とするが、更に、高MgのAl-Mg 系Al合金特有の高い強度延性バランスを出すためには、好ましくは、8%を超え14% 以下の範囲とする。
【0069】
なお、このMg含有量は、本発明が対象とする、固液共存温度領域 (凝固温度範囲) が広く、その液相線温度から固相率0.8までの温度範囲が25℃以上であるAl-Mg 合金を限定する意味も持つ。この本発明が対象とするAl-Mg 合金は、前記した通り、大径ロールを用いたり、双ロールの周速を速くした場合に、特に、空隙などの鋳造欠陥が生じやすい。一方、Mgが 5質量% 未満のAl-Mg 合金では、固液共存温度領域が狭く、その液相線温度から固相率0.8 までの温度範囲が25℃未満であり、元々空隙などの鋳造欠陥が生じにくい。
【実施例】
【0070】
以下に本発明の実施例を説明する。表1 に示す種々の化学成分組成のAl-Mg 系Al合金鋳造板(発明例A〜C、比較例D、E)を、本発明にかかる双ロール連続鋳造法により製造し、空隙などの鋳造欠陥を調査した。
【0071】
これらAl合金鋳造板の成分組成について、表1 にその他の合計含有量で示す、Ti、Mn、Cr、Znの元素以外の元素として、Zr、V 、B 、Cuの各元素は、共通して検出限界以下であった。
【0072】
実施した双ロール連続鋳造のタイプは、表2、3に各々示すように、3種類とした。即ち、型式:縦型、鋳造方式:図1と表記しているのは、双ロールを略水平配置した図1ままの縦型であって、図1 のように外部ヒータ8 で表面を加熱した高温ロール2 と、内部冷却水により表面を冷却して室温に保持した低温ロール1 を用いた例である。また、型式:横型、鋳造方式:図1と表記しているのは、双ロールを略垂直配置した横型とした上で、図1 のように外部ヒータで表面を加熱した高温ロール2 と、ロール内部の冷却水により表面を冷却して室温に保持した低温ロール1 を用いた例である。
【0073】
更に、型式:横型、鋳造方式:図2 と表記しているのは、図2 のように双ロールを略垂直配置するとともに、溶湯に対して後ロール10、先ロール11として配置したタイプである。この場合、後ロール10表面を高温化する場合には、図1 のような外部ヒータ8 で表面を加熱した。また、室温乃至50℃程度の表面温度とした例は、ロール内部冷却水により表面を冷却した。
【0074】
なお、タンディッシュから供給される溶湯の温度は共通して700 ℃とした。鋳造後室温に冷却して製造した鋳造板のサイズは共通して300mm 幅×5m長さである。また、比較例を含め全ての例は、前記した好ましい冷却速度50℃/s以上を確保するために、共通して双ロール表面の潤滑をしないで(無潤滑で)連続鋳造した。
【0075】
そして、ロールから排出された鋳造直後の鋳片厚み方向のデンドライトスペーシングを観察して、一方向凝固が生じているか否かを確認した。即ち、冷却ロール(先ロール)側と高温ロール(後ロール) 側の各々鋳片の最表面部において、デンドライトアームスペーシングから計算される冷却速度差、すなわち「冷却ロール(先ロール)側冷却速度/高温ロール(後ロール) 側冷却速度」が1.2以上になる場合を一方向凝固が生じていると評価した。また、1.2未満の場合を一方向凝固が生じていないと評価した。これらの結果も表2 、3 に示す。
【0076】
このように製造された各例のAl合金鋳造板から試験片を採取し、板組織について、空隙の平均面積率を各々測定した。これらの結果も表2 、3 に示す。
【0077】
(空隙)
空隙の平均面積率は、板の伸びなどの成形特性に影響の無い範囲として、0.5%以下は合格として評価した。空隙の平均面積率の測定方法は、Al合金鋳造板から採取した試料 (試験片) を機械研磨し、板中央部の断面組織を50倍の光学顕微鏡を用いて観察して行なう。そして、顕微鏡視野内を画像処理して、空隙欠陥と通常の組織とを識別した上で、視野内の識別できる空隙の合計面積を求め、視野面積に占める空隙の合計面積の割合(%) を、空隙率として求める。ここで、上記空隙の平均面積率とは、板の先端部と後端部とを除く、板中央部の任意の10箇所において測定した各空隙の面積率を平均化したものを言う。
【0078】
表2 、3 の通り、表1 のA 〜C の本発明範囲内の組成合金を用いた発明例1 〜8 、9 〜16は、どの鋳造タイプにしても、本発明における、双ロールの表面温度条件、あるいは溶湯温度条件を満足している。このため、一方向凝固が生じており、空隙の平均面積率が小さく、内部欠陥が抑制されている。
【0079】
これに対して、比較例19〜21、24〜26は、表1 のB の本発明範囲内の組成を有する合金を用いているものの、鋳造速度が速過ぎるか、高温側ロール2 の表面温度が本発明範囲から外れているか、後ロール10と接触する溶湯温度が本発明範囲から外れている。この結果、一方向凝固が生じておらず、空隙の平均面積率が大きく、内部欠陥が抑制されていない。
【0080】
この内、比較例20、25は、表1 のB の本発明範囲内の組成を有する合金を用いているものの、高温側ロール2 の表面温度が高過ぎるか、後ロール10と接触する溶湯温度が高過ぎる。この結果、鋳片の凹凸が激しく、平坦度が無く、鋳造板とは言えず、途中で鋳造を中止した。
【0081】
更に、比較例17、22は、Mgが5 質量% 未満である表1 のD の本発明範囲外の組成を有する合金を用いている。このため、鋳造速度乃至双ロールの周速vを30m/min と、本発明上限20m/min を越えて大きくしているにもかかわらず、本発明の双ロールの表面温度条件、あるいは溶湯温度条件を適用すると、一方向凝固が発現し、凝固した鋳造板の板厚中心部の欠陥を抑制できている。
【0082】
この比較例17、22の結果は、比較例21、26のように、本発明範囲内のAl-Mg 系アルミニウム合金では、鋳造速度が速過ぎると、本発明の双ロールの表面温度条件、あるいは溶湯温度条件を適用しても、一方向凝固が生じず、内部欠陥が抑制されていない結果と対照的である。これらの点から、Mgが5 質量% 以上である高Mg含有量のAl-Mg 系アルミニウム合金の、固液共存温度領域が広いことによる、双ロール連続鋳造の特殊性が分かる。
【0083】
したがって、以上の実施例から、本発明各要件あるいは好ましい条件の、空隙率抑制のための、臨界的な意義が裏付けられる。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0087】
以上説明したように、本発明によれば、固液共存温度領域の広いAl-Mg 系アルミニウム合金の双ロール式連続鋳造方法であっても、板厚中心部の欠陥を抑制できる、アルミニウム合金鋳造板の製造方法を提供することができる。この結果、自動車、船舶、航空機あるいは車両などの輸送機、機械、電気製品、建築、構造物、光学機器、器物の部材や部品などの、成形性が要求される用途へ適用を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】縦型双ロール式連続鋳造方法の一実施態様を示す説明図である。
【図2】横型双ロール式連続鋳造方法の一実施態様を示す説明図である。
【符号の説明】
【0089】
1、2、10、11:双ロール、3溶湯、4:液相、5:固相、6:鋳造板、
7、9:仕切り、8:ヒータ、12:キス点、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
双ロール式連続鋳造方法によって、Mgを5 〜14質量% 含むAl-Mg 系アルミニウム合金鋳造板を製造する方法において、鋳造速度を20m/min 以下とし、溶湯と略同時に接触する双ロールの内の、片側のロールの表面温度を、(-5.43×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+663 で計算される前記Al-Mg 系アルミニウム合金の液相線温度以上で、この液相線温度+30℃以下とする一方、他方の片側のロールの表面温度を、(-12.9×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+638 で計算される前記Al-Mg 系アルミニウム合金の固相線温度以下とし、この固相線温度以下の表面温度である片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる一方向凝固を行いつつ連続鋳造を行なうことを特徴とする、内部欠陥を抑制したアルミニウム合金鋳造板の製造方法。
【請求項2】
双ロール式連続鋳造方法によって、Mgを5 〜14質量% 含むAl-Mg 系アルミニウム合金鋳造板を製造する方法において、鋳造速度を20m/min 以下とし、略上下方向に配置された双ロール同士の溶湯に接触するタイミングを違え、溶湯を先ず下方に配置された片側のロール表面に先に接触させた後に、溶湯を(-12.9×Al-Mg 系アルミニウム合金のMg質量%)+638 で計算される前記Al-Mg 系アルミニウム合金の固相線温度以上で、この固相線温度+10℃以下の温度にて、上方に配置された片側のロール表面に接触させ、先に溶湯に接触した前記下方に配置された片側のロールの表面側から溶湯の凝固を開始させる一方向凝固を行いつつ連続鋳造を行なうことを特徴とする、内部欠陥を抑制したアルミニウム合金鋳造板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−268547(P2007−268547A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−95074(P2006−95074)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(503420833)学校法人大阪工大摂南大学 (62)
【Fターム(参考)】