説明

アルミニウム系材料を備えた摺動部用潤滑油組成物及び潤滑方法

【課題】摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部において、該摺動部の摩擦を低減しうる潤滑油組成物、並びに該組成物を用いたアルミニウム系部材の潤滑方法を提供すること。
【解決手段】本発明の潤滑油組成物は、摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部に用いる潤滑油組成物であって、潤滑油基油に、(A)リン含有カルボン酸化合物およびその金属塩の少なくとも1種を、組成物全量基準で、リン量として0.001〜1質量%含むことを特徴とし、上記摺動部を有する装置における自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油として好適に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部に使用されることにより、該摺動部の摩擦を低減しうる潤滑油組成物及び該組成物を用いた当該潤滑部の潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の摺動材料は、信頼性の面から鉄系材料が主体に使用されてきた。他方で、部品の軽量化はCO2の排出の低減に寄与することから、近年、部品の軽量化を目的としアルミニウム系材料の使用が広まりつつある。
従来、内燃機関や自動変速機などには、その作用を円滑にするために潤滑油が用いられる。潤滑油が関与する摩擦部分でのエネルギー損失が大きいため、摩擦損失低減や燃費低減対策として、摩擦調整剤(FM:フリクションモディファイヤ)を初め、各種添加剤を組み合わせた潤滑油が使用されている。これまでの各種添加剤による摩擦低減対策は、鉄系材料への効果を中心に検討が行われてきた。
【0003】
潤滑油による摩擦低減手段として、その添加剤組成としては、硫黄化合物とモリブデン系化合物との併用した技術が最も効果的である(特許文献1等参照)。
しかしながら、アルミニウム系材料には十分な効果を示さないことがわかってきた。そのため、これらに代わる添加剤、配合技術の検討が必要になっており、近年、水酸基やカルボン酸基をもつ化合物が、アルミニウム系材料の潤滑に有効であることがわかってきた(非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−149762号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Wear, 224, 180,(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部において、該摺動部の摩擦を低減しうる、アルミニウム系材料を備えた摺動部用潤滑油組成物を提供することにある。
本発明の別の課題は、摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部を、摩擦を低減して潤滑しうるアルミニウム系部材の潤滑方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、特に(A)リン含有カルボン酸化合物およびその金属塩が少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた摺動部の摩擦低減に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに(B)有機モリブデン化合物及び/又は(C)硫黄化合物の添加により摩擦を更に低減することができることを見出した。
本発明によれば、摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部に用いる潤滑油組成物であって、潤滑油基油に、(A)リン含有カルボン酸化合物およびその金属塩の少なくとも1種を、組成物全量基準で、リン量として0.001〜1質量%含むことを特徴とする、アルミニウム系材料を備えた摺動部用潤滑油組成物(以下、本発明の潤滑油組成物と称することがある)が提供される。
また本発明によれば、摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部を、本発明の潤滑油組成物を用いて潤滑することを特徴とするアルミニウム系部材の潤滑方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の潤滑油組成物は、アルミニウム系材料を摺動部の一部とする装置に用いる潤滑油組成物であり、特に、内燃機関、自動変速機、手動変速機、無段変速機、ギヤ等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等における、アルミニウム系材料を有する潤滑部において、摺動部の摩擦を効果的に低減することができる。本発明の潤滑方法は、本発明の潤滑油組成物を用いて上記装置におけるアルミニウム系部材を低摩擦により潤滑することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明の潤滑油組成物は、摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部に用いるものであって、該アルミニウム系材料は、摺動部表面にアルミニウムが存在しうる状態のものであれば特に制限はなく、アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金、あるいは、アルミニウム又はアルミニウム合金を各種金属基材表面に被覆したアルミニウム含有金属材料等が挙げられる。
上記アルミニウム含有金属材料は、その表面に非アルミニウム含有金属材料が被覆されていても、使用過程においてその被覆面が摩耗して当該アルミニウム含有金属材料が露出する可能性があるものも、本発明の潤滑油組成物の潤滑対象に含まれる。
このようなアルミニウム系材料のいくつかの例は、例えば、特開2010−174374号公報、特開2010−5687号公報に具体的に示されている。
なお、金属表面のアルミニウム含有量が多いほど、本発明の潤滑油組成物は有用である。
【0010】
本発明の潤滑油組成物に用いる潤滑油基油は、特に制限はなく、通常の潤滑油に使用される鉱油系基油、合成系基油が使用できる。
鉱油系基油としては、例えば、原油を常圧蒸留して得られる常圧残油を減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、水素化精製等の処理を1つ以上行って精製したもの、あるいは鉱油系ワックスや、GTL WAX(ガストゥリキッドワックス)を異性化する手法で製造される基油が挙げられる。
【0011】
鉱油系基油中の硫黄分は、特に制限はないが、通常0〜1.5質量%、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以下である。潤滑油基油の硫黄分を低減することで、よりロングドレイン性に優れ、特に内燃機関用潤滑油として使用する場合には、排ガス後処理装置への悪影響を極力回避可能な低硫黄の潤滑油組成物とすることができる。
【0012】
鉱油系基油の飽和分は、特に制限はないが、通常50〜100質量%であり、酸化安定性、ロングドレイン性に優れる点で、好ましくは60質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
上記飽和分は、ASTM D2549に準拠して測定した飽和分を意味する。
【0013】
合成系基油としては、例えば、ポリブテン又はその水素化物;1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、1−ドデセンオリゴマー等のポリ−α−オレフィン又はその水素化物;ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、又はジ−2−エチルヘキシルセバケート等のジエステル;ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、又はペンタエリスリトールペラルゴネート等のポリオールエステル;アルキルナフタレン、アルキルベンゼン、又は芳香族エステル等の芳香族系合成油、もしくはこれらの混合物が挙げられる。
【0014】
潤滑油基油は、上記鉱油系基油、上記合成系基油又はこれらの中から選ばれる2種以上の任意混合物が使用できる。例えば、1種以上の鉱油系基油、1種以上の合成系基油、1種以上の鉱油系基油と1種以上の合成系基油との混合油を挙げることができる。
【0015】
潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、20mm2/s以下が好ましく、より好ましくは16mm2/s以下である。一方、その動粘度は、3mm2/s以上が好ましく、より好ましくは5mm2/s以上である。潤滑油基油の100℃での動粘度が20mm2/sを越える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が3mm2/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるおそれがある。
【0016】
潤滑油基油の蒸発損失量は、NOACK蒸発量で、20質量%以下が好ましく、16質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、6質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下が特に好ましい。潤滑油基油のNOACK蒸発量が20質量%を超える場合、潤滑油の蒸発損失が大きく、ロングドレイン性に劣るだけでなく、内燃機関用潤滑油として使用した場合、組成物中の硫黄化合物やリン化合物、あるいは金属分が潤滑油基油とともに排ガス浄化装置へ堆積する恐れがあり、排ガス浄化性能への悪影響が懸念される。ここでNOACK蒸発量は、ASTM D5800に準拠して測定されたものである。
【0017】
潤滑油基油の粘度指数は特に制限はないが、低温から高温まで優れた粘度特性が得られるようにその値は、80以上が好ましく、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは120以上である。粘度指数の上限は特に制限はなく、ノルマルパラフィン、スラックワックスやGTLワックス等、あるいはこれらを異性化したイソパラフィン系鉱油のような135〜180程度のものや、コンプレックスエステル系基油、HVI−PAO系基油のような150〜250程度のものも使用することができる。潤滑油基油の粘度指数が80未満では、低温粘度特性が悪化するおそれがある。
【0018】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分としてリン含有カルボン酸化合物およびその金属塩の少なくとも1種を特定割合で含有する。
(A)成分としてのリン含有カルボン酸化合物としては、例えば、式(1)で表される化合物が好ましく挙げられる。
【0019】
【化1】

【0020】
式(1)において、X1〜X4は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子であり、X1〜X4はそのうちの2つが硫黄原子、他の2つが酸素原子であることが好ましく、特にX1及びX2が酸素原子、X3及びX4が硫黄原子であることが好ましい。
式(1)において、R4及びR5は、それぞれ個別に炭素数1〜30の炭化水素基を示す。該炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、又はアリールアルキル基を挙げることがでる。
式(1)において、R6〜R9は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を示す。該炭化水素基としては、アルキル基又はアルケニル基が挙げられる。R6〜R9としては、少なくとも2つが水素原子であることが好ましく、全てが水素原子であることが特に好ましい。
【0021】
上記リン含有カルボン酸化合物の金属塩としては、例えば、リン含有カルボン酸化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩を挙げることができる。
上記金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛、銅、アルミニウムまたはこれら金属の2種以上の混合物を用いることができる。
本発明における(A)成分としては、上記リン含有カルボン酸化合物の金属塩が、塩基価維持性により優れるため、より好ましい。
【0022】
式(1)で示される(A)成分としては、例えば、β−ジチオホスホロ化プロピオン酸が好ましく挙げられる。
【0023】
本発明の潤滑油組成物において、(A)成分の含有割合は、組成物全量基準で、リン量として0.001〜1質量%、好ましくは0.005〜0.1質量%である。前記範囲外である場合には、本発明の所望の効果が得られない。
【0024】
本発明の潤滑油組成物は、必要に応じて、(B)成分としての有機モリブデン化合物及び/又は(C)成分としの(A)成分を除くリン系化合物を含有させることができる。
(B)成分としての有機モリブデン化合物としては、例えば、硫化モリブデンジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジチオカーバメート、硫化モリブデンジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジチオホスフェート、モリブデンのアミン錯体、モリブデンのコハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩が挙げられる。
【0025】
(B)成分におけるモリブデンジチオカーバメートとしては、例えば、式(2)で表される化合物を用いることができる。
【化2】

【0026】
式(2)中、R1、R2、R3及びR4は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜24、好ましくは炭素数4〜13のアルキル基又は炭素数6〜24、好ましくは炭素数8〜15のアリール基、もしくはアルキルアリール基等の炭化水素基を示す。ここでいうアルキル基には1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基が含まれ、これらは直鎖状でも分枝状でもよい。また、X1、X2、X3及びX4は同一でも異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0027】
式(2)で示されるモリブデンジチオカーバメートとしては、例えば、硫化モリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化モリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化モリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオカーバメート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオカーバメートが好ましく挙げられる。ここで、アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である。これらモリブデンジチオカーバメートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。また、使用に際しては1種もしくは2種以上の混合物として用いることができる。
【0028】
(B)成分におけるモリブデンジチオホスフェートとしては、例えば、式(3)で表される化合物を用いることができる。
【化3】

【0029】
式(3)中、R1、R2、R3及びR4は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜30、好ましくは炭素数5〜18、より好ましくは炭素数5〜12のアルキル基、又は炭素数6〜18のアリール基もしくはアルキルアリール基等の炭化水素基を示す。ここでいうアルキル基には1級アルキル基、2級アルキル基又は3級アルキル基が含まれ、これらは直鎖状でも分枝状でもよい。また、Y1、Y2、Y3及びY4は同一でも異なっていてもよく、それぞれ硫黄原子又は酸素原子を示す。
【0030】
式(3)で示されるモリブデンジチオホスフェートとしては、例えば、硫化モリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化モリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化モリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化モリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジエチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジプロピルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジブチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジペンチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジヘキシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジオクチルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジドデシルジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ブチルフェニル)ジチオホスフェート、硫化オキシモリブデンジ(ノニルフェニル)ジチオホスフェートが好ましく挙げられる。ここで、アルキル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルキルフェニル基のアルキル基の結合位置は任意である。これらモリブデンジチオホスフェートとしては、1分子中に異なる炭素数及び/又は構造の炭化水素基を有する化合物も、好ましく用いることができる。また、使用に際しては1種もしくは2種以上の混合物として用いることができる。
【0031】
(B)成分におけるモリブデン−アミン錯体化合物としては、例えば、三酸化モリブデン又はその水和物(MoO3・nH2O)、モリブデン酸(H2MoO4)、モリブデン酸アルカリ金属塩(M2MoO4;Mはアルカリ金属塩を示す)、モリブデン酸アンモニウム((NH42MoO4又は(NH46[Mo724]・4H2O)、MoCl6、MoOCl4、MoO2Cl2、MoO2Br2、Mo23Cl6等の硫黄を含まないモリブデン化合物が挙げられる。これらの中でも、目的化合物の収率の点から、4〜6価、特に6価のモリブデン化合物が好ましい。更に、入手性の点から、6価のモリブデン化合物の中でも、三酸化モリブデン又はその水和物、モリブデン酸、モリブデン酸のアルカリ金属塩、又はモリブデン酸アンモニウムが好ましい。
【0032】
前記モリブデン−アミン錯体を構成するアミン化合物は特に制限されないが、アミンの中でも、 第1級アミン、第2級アミン、アルカノールアミンが好ましい。
前記アミン化合物が有する炭化水素基の炭素数は、好ましくは4以上、より好ましくは4〜30、特に好ましくは8〜18である。アミン化合物の炭化水素基の炭素数が4未満であると、溶解性が悪化する傾向にある。また、アミン化合物の炭素数を30以下とすることにより、有機モリブデン化合物中におけるモリブデン含量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0033】
(B)成分におけるモリブデン−コハク酸イミド錯体としては、例えば、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示したような硫黄を含まないモリブデン化合物と、炭素数4以上のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドとの錯体が挙げられる。
該コハク酸イミドとしては、例えば、炭素数4〜30、好ましくは炭素数8〜18のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミド等が挙げられる。該コハク酸イミドにおけるアルキル基又はアルケニル基の炭素数が4未満であると溶解性が悪化する傾向にある。また、炭素数が30を越え400以下のアルキル基又はアルケニル基を有するコハク酸イミドを使用することもできるが、当該アルキル基又はアルケニル基の炭素数を30以下とすることにより、モリブデン−コハク酸イミド錯体におけるモリブデン含有量を相対的に高めることができ、少量の配合で本発明の効果をより高めることができる。
【0034】
(B)成分における有機酸のモリブデン塩としては、例えば、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示したモリブデン酸化物あるいはモリブデン水酸化物、モリブデン塩化物等のモリブデン塩基と、有機酸との塩が挙げられる。有機酸としては、リン含有酸又はカルボン酸が挙げられ、特にリン含有酸が好ましい。
前記カルボン酸のモリブデン塩を構成するカルボン酸としては、一塩基酸又は多塩基酸のいずれであってもよい。
【0035】
(B)成分におけるアルコールのモリブデン塩としては、例えば、上記モリブデン−アミン錯体の説明において例示したような硫黄を含まないモリブデン化合物と、アルコールとの塩が挙げられる。アルコールは、1価アルコール、多価アルコール、多価アルコールの部分エステルもしくは部分エーテル化合物や、アルカノールアミド等の水酸基を有する窒素化合物が挙げられる。なお、モリブデン酸は強酸であり、アルコールとの反応によりエステルを形成するが、当該モリブデン酸とアルコールとのエステルも本発明でいうアルコールのモリブデン塩に包含される。
【0036】
本発明の潤滑油組成物においては、上記(B)成分である有機モリブデン化合物を、1種用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよい。
(B)成分として、もっとも好ましい化合物はモリブデンジチオカーバメートである。
【0037】
本発明の潤滑油組成物において、(B)成分を用いる場合の含有量は特に制限されないが、摩擦低減効果の観点から、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素量換算で、好ましくは50質量ppm以上、より好ましくは400質量ppm以上である。また、(B)成分の含有量は、潤滑油基油への溶解性及び貯蔵安定性の観点から、好ましくは2000質量ppm以下、より好ましくは1500質量ppm以下である。なお、(B)成分の含有量が上記上限値を超えると、特に、潤滑油基油としてポリα−オレフィン又はその水素化物を用いる場合に、十分な溶解性が得られず、長期貯蔵に際し沈殿する恐れがある。
【0038】
前記(C)成分のリン系化合物は、(A)成分以外のリンを分子中に含有する化合物であれば特に制限はない。
(C)成分のリン系化合物としては、例えば、式(4)で表されるリン化合物、式(5)で表されるリン化合物、又はそれらの金属塩、それらのアミン塩あるいはこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物が好ましく挙げられる。
【0039】
【化4】

【0040】
式(4)中、X1、X2及びX3は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、R24、R25及びR26は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。式(5)中、X4、X5、X6及びX7は、それぞれ個別に酸素原子又は硫黄原子を示し、X4、X5及びX6の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。R27、R28及びR29は、それぞれ個別に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を示す。
【0041】
上記R24〜R26で表される炭素数1〜30の炭化水素基は、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数6〜24のアリール基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数3〜18、更に好ましくは炭素数4〜12のアルキル基である。
上記R27〜R29で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキル置換シクロアルキル基、アリール基、アルキル置換アリール基、及びアリールアルキル基を挙げることができる。
【0042】
式(4)で表されるリン化合物としては、例えば、亜リン酸、モノチオ亜リン酸、ジチオ亜リン酸、トリチオ亜リン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有する亜リン酸モノエステル、モノチオ亜リン酸モノエステル、ジチオ亜リン酸モノエステル、トリチオ亜リン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有する亜リン酸ジエステル、モノチオ亜リン酸ジエステル、ジチオ亜リン酸ジエステル、トリチオ亜リン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有する亜リン酸トリエステル、モノチオ亜リン酸トリエステル、ジチオ亜リン酸トリエステル、トリチオ亜リン酸トリエステル;又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0043】
本発明においては、腐食摩耗防止性を向上させ、高温清浄性や酸化安定性、塩基価維持性などのロングドレイン性能をより高めるために、式(4)のX1〜X3は、2つ以上が酸素原子であることが好ましく、それらの全てが酸素原子であることが特に好ましい。
【0044】
式(5)で表されるリン化合物としては、例えば、リン酸、モノチオリン酸、ジチオリン酸、トリチオリン酸、テトラチオリン酸;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1つ有するリン酸モノエステル、モノチオリン酸モノエステル、ジチオリン酸モノエステル、トリチオリン酸モノエステル、テトラチオリン酸モノエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を2つ有するリン酸ジエステル、モノチオリン酸ジエステル、ジチオリン酸ジエステル、トリチオリン酸ジエステル、テトラチオリン酸ジエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を3つ有するリン酸トリエステル、モノチオリン酸トリエステル、ジチオリン酸トリエステル、トリチオリン酸トリエステル、テトラチオリン酸トリエステル;上記炭素数1〜30の炭化水素基を1〜3つ有するホスホン酸、ホスホン酸モノエステル、ホスホン酸ジエステル;炭素数1〜4の(ポリ)オキシアルキレン基を有する上記リン化合物;β−ジチオホスホリル化プロピオン酸や、ジチオリン酸とオレフィンシクロペンタジエン又は(メチル)メタクリル酸との反応物等の上記リン化合物の誘導体;又はこれらの2種以上の混合物が挙げられる。
【0045】
本発明においては、高温清浄性や酸化安定性、塩基価維持性などのロングドレイン性能をより高めるために、式(5)のX4〜X7は、2つ以上が酸素原子であることが好ましく、3つ以上が酸素原子であることがさらに好ましく、それらの全てが酸素原子であることが特に好ましい。なお、これらX4、X5及びX6の1つ又は2つが単結合又は(ポリ)オキシアルキレン基でもよい。
【0046】
式(4)又は(5)で表されるリン化合物の塩としては、例えば、これらリン化合物に金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属塩化物等の金属塩基、アンモニア、炭素数1〜30の炭化水素基又はヒドロキシル基含有炭化水素基のみを分子中に有するアミン化合物等の窒素化合物を作用させて、残存する酸性水素の一部又は全部を中和した塩が挙げられる。
上記金属塩基における金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等のアルカリ金属;カルシウム、マグネシウム、バリウム等のアルカリ土類金属;亜鉛、銅、鉄、鉛、ニッケル、銀、マンガン等の重金属が挙げられる。これらの中ではカルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属又は亜鉛が好ましい。
【0047】
上記リン化合物の金属塩は、金属の価数やリン化合物のOH基あるいはSH基の数に応じその構造が異なり、その構造は何ら限定されない。例えば、酸化亜鉛1モルとリン酸ジエステル(OH基が1つ)2モルを反応させた場合、式(6)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。また、例えば、酸化亜鉛1モルとリン酸モノエステル(OH基が2つ)1モルとを反応させた場合、式(7)で表わされる構造の化合物が主成分として得られると考えられるが、ポリマー化した分子も存在していると考えられる。
【0048】
【化5】

【0049】
式(6)及び式(7)において、Rはそれぞれ個別に、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を示す。これらリン化合物の金属塩は、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有する亜リン酸ジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有する亜リン酸トリエステル、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を1個有するリン酸のモノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基を2個有するリン酸のジエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を2つ有するホスホン酸モノエステルと亜鉛又はカルシウムとの塩、炭素数3〜18のアルキル基又はアリール基、好ましくは炭素数6〜12のアルキル基を3個有するリン酸トリエステル、炭素数1〜18のアルキル基又はアリール基を3つ有するホスホン酸ジエステルが好ましく挙げられる。これらの成分は、使用にあたって1種類あるいは2種類以上を任意に配合することができる。
【0050】
(C)成分のリン系化合物としては、上記以外にジチオリン酸亜鉛を挙げることもできる。該ジチオリン酸亜鉛としては、式(8)で表される化合物が挙げられる。
【化6】

【0051】
式(8)中、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ個別に、炭素数1〜24の炭化水素基を示し、例えば、炭素数1〜24の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数3〜24の直鎖状又は分枝状のアルケニル基、炭素数5〜13のシクロアルキル基又は直鎖状若しくは分枝状アルキルシクロアルキル基、炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基、炭素数7〜19のアリールアルキル基が挙げられる。ここで、アルキル基やアルケニル基は、第1級でも、第2級でも、第3級であってもよい。
3、R4、R5及びR6がとり得る前記炭化水素基の中でも、その炭化水素基が、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜18のアルキル基である場合、若しくは炭素数6〜18のアリール基又は直鎖状若しくは分枝状アルキルアリール基である場合が特に好ましい。
【0052】
上記ジチオリン酸亜鉛の製造方法は任意の従来方法が採用可能であって特に制限されないが、例えば、前記R3、R4、R5及びR6に対応する炭化水素基を持つアルコール又はフェノールを五硫化二リンと反応させてジチオリン酸を合成し、これを酸化亜鉛で中和させることにより得ることができる。ジチオリン酸亜鉛の構造は、使用する原料アルコールによって異なる。
【0053】
(C)成分としては、式(6)や式(7)で表されるリン系化合物の亜鉛の塩化物の使用がもっとも好ましい。
本発明の潤滑油組成物において(C)成分のリン系化合物を用いる場合の含有量は、特に制限はないが、組成物全量基準でリン元素換算量として通常0.005質量%以上であり、好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.02質量%以上であり、一方、その含有量は、好ましくは0.12質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、特に好ましくは0.08質量%以下である。(C)成分のリン系化合物の含有量が、リン元素として0.005質量%未満の場合は、摩耗防止性に対して効果がなく好ましくなく、一方、その含有量が、リン元素として0.12質量%を超える場合は、排ガス後処理装置への悪影響が懸念される。
本発明の潤滑油組成物において、リン系化合物である(A)成分及び(C)成分を含む場合、これらの合計含有量は、組成物全量基準で、リン元素換算量として0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下である。0.15質量%を超える場合は、排ガス後処理装置への悪影響が懸念される。
【0054】
本発明の潤滑油組成物は、その性能をさらに向上させるために、又は、その他の目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、上記(A)、(B)、(C)成分以外に、金属系清浄剤、無灰分散剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、摩耗防止剤、粘度指数向上剤、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤、着色剤、又はこれら2種以上の添加剤を挙げることができる
【0055】
金属系清浄剤としては、サリシレート系清浄剤、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤等を挙げることができる。
前記サリシレート系清浄剤は、モノアルキル、ジアルキル等の構造を有するが、ジアルキル基のアルキル基は同一でも異なっていてもよい。上記アルキル基は、それぞれ炭素数1〜32の直鎖または分枝アルキル基が挙げられ、少なくとも炭素数8〜32、好ましくは14〜32の直鎖または分枝アルキル基を有することが好ましい。
サリシレート系清浄剤の金属としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属、具体的には例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等、好ましくはカルシウム、マグネシウム、特にカルシウムが挙げられる。
【0056】
スルホネート系清浄剤としては、例えば、分子量100〜1500、好ましくは200〜700のアルキル芳香族化合物をスルフォン化することによって得られるアルキル芳香族スルフォン酸の金属塩が挙げられ、好ましくはアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0057】
フィネート系清浄剤としては、例えば、炭素数4〜30、好ましくは6〜18の直鎖状は分枝状のアルキル基を少なくとも1個有するアルキルフェノール、このアルキルフェノールと元素硫黄を反応させて得られるアルキルフェノールサルファイド又はこのアルキルフェノールとホルムアルデヒドを反応させて得られるアルキルフェノールのマンニッヒ反応生成物の金属塩、好ましくはアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0058】
上記金属系清浄剤としては、中性塩(正塩)だけでなく、さらにこれら中性塩(正塩)と過剰のアルカリ土類金属塩やアルカリ土類金属塩基(アルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で中性塩(正塩)をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩(超塩基性塩)が含まれる。
【0059】
無灰分散剤としては、潤滑油に用いられる任意の無灰分散剤を用いることができる。例えば、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体が挙げられる。ここで、含窒素化合物としては、例えば、コハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン、マンニッヒ塩基等が挙げられ、その誘導体としては、これら含窒素化合物にホウ酸、ホウ酸塩等のホウ素化合物、(チオ)リン酸、(チオ)リン酸塩等のリン化合物、有機酸、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート等を作用させた誘導体が挙げられる。本発明においては、これらの中から任意に選ばれる1種類あるいは2種類以上を配合することができる。
【0060】
無灰分散剤において、アルキル基又はアルケニル基の炭素数は40〜400、好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下し、一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化するため、それぞれ好ましくない。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。本発明においては、これら無灰分散剤の中でも、数平均分子量が700〜4000、好ましくは1000〜2000、さらに好ましくは1200〜1500の分枝状アルキル基又はアルケニル基、特にポリ(イソ)ブテニル基を有するコハク酸イミド及び/又はそのホウ素化合物誘導体が望ましい。未変性のコハク酸イミドを使用した場合であっても摩耗防止効果や酸化安定性の向上が得られるため、ホウ素化合物誘導体を併用することが最も好ましい。
【0061】
本発明において、無灰分散剤を配合する場合の含有量は、特に制限はないが、通常組成物全量基準で0.1〜20質量%、好ましくは3〜15質量%である。また、無灰分散剤としてコハク酸イミドのホウ素化合物誘導体を含有させる場合、そのホウ素量に特に制限はないが、組成物全量基準で、ホウ素量として0.005質量%以上となるように含有させることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、特に好ましくは0.02質量%以上であり、当該ホウ素化合物誘導体の含有量が多くなると、シール材への影響や硫酸灰分の増加が懸念されるため、その含有量は、ホウ素量として好ましくは0.2質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.08質量%以下、さらに好ましくは0.06質量%以下、さらに好ましくは0.04質量%以下である。
【0062】
酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤やアミン系酸化防止剤等の無灰系酸化防止剤や有機金属系酸化防止剤等、潤滑油に一般的に使用されているものであれば使用可能である。酸化防止剤の添加により、潤滑油組成物の酸化防止性をより高められ、本発明の組成物の、腐食摩耗防止性能を高めるだけでなく、塩基価維持性をより高めることができる。
【0063】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、4,4'−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2'−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−α−ジメチルアミノ−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチル−4(N,N'−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4'−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2'−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)スルフィド、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)スルフィド、2,2'−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、トリデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3−メチル−5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル置換脂肪酸エステル類を好ましく挙げることができる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0064】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、又はジアルキルジフェニルアミンを挙げることができる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
上記フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、有機金属酸化防止剤は組み合わせて配合してもよい。
【0065】
本発明の潤滑油組成物において酸化防止剤の添加量は、通常組成物全量基準で10質量%以下であり、好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。その含有量が10質量%を超える場合は、配合量に見合った十分な性能が得られないため好ましくない。一方、その含有量は、腐食摩耗防止性能をより長期間維持することが可能となる点で、潤滑油組成物全量基準で好ましくは0.05質量%以上であり、更に好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上である。
【0066】
摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば、(B)成分としての有機モリブデン化合物以外に、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基又は直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、オレイルアミン等のアミン化合物、オレイルグリセリド等の脂肪酸エステル、オレイン酸アミド等の脂肪酸アミド、イソステアリルコハク酸とポリアミンの縮合物であるコハク酸イミドやオレイン酸等の脂肪酸、例えばステアリルアミンにエチレンオキサイドを複数モル付加させたアルキルアミンヒドロキシ化合物や脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ヒドラジド(オレイルヒドラジド等)、セミカルバジド、ウレア、ウレイド、ビウレット等の無灰摩擦調整剤等が挙げられ、通常組成物全量基準で0.01〜5質量%の範囲で含有させることが可能である。
【0067】
摩耗防止剤としては、(C)成分であるリン系化合物やジチオリン酸亜鉛以外の、硫黄含有摩耗防止剤あるいはホウ素含有摩耗防止剤等、潤滑油に一般に使用される任意の摩耗防止剤を必要に応じて使用することができる。
【0068】
硫黄含有摩耗防止剤としては、ジスルフィド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類、ジチオカーバメート、ジチオカルバミン酸亜鉛等の硫黄含有化合物等が挙げられる。これら硫黄含有化合物は組成物の全硫黄含有量が、好ましくは0.005〜5質量%の範囲で含有させることが可能であるが、腐食摩耗を抑制できる点で、これらの含有量を0.15質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、特に0.05質量%以下、あるいはこれらを配合しない、低硫黄化及びロングドレイン化された潤滑油組成物とすることができる。
なお、硫黄化合物はモリブデン化合物と併用することにより、摩擦低減とその持続性に効果があり、特にチアジアゾールが有効である。
【0069】
粘度指数向上剤としては、例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの重合体又は共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)若しくはその水素化物、ポリイソブチレン若しくはその水添物、スチレン−ジエン共重合体の水素化物、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体又はポリアルキルスチレンが挙げられる。
【0070】
これら粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが必要である。具体的には、粘度指数向上剤の数平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、通常5000〜1000000、好ましくは100000〜900000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は通常800〜5000、好ましくは1000〜4000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は通常800〜500000、好ましくは3000〜200000のものが用いられる。
これらの粘度指数向上剤の中でもエチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物を用いた場合には、特にせん断安定性に優れた潤滑油組成物を得ることができる。上記粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種あるいは2種以上の化合物を任意の量で含有させることができる。粘度指数向上剤の含有量は、通常潤滑油組成物基準で0.1〜20質量%である。
【0071】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、又はイミダゾール系化合物が挙げられる。
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、又は多価アルコールエステルが挙げられる。
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、又はポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤が挙げられる。
【0072】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾール又はその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、又はβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリルが挙げられる。
なお、チアジアゾールは硫黄化合物の一種でもあり、モリブデン化合物と併用することにより、摩擦低減とその持続性に特に効果がある。
消泡剤としては、例えば、シリコーン、フルオロシリコール、又はフルオロアルキルエーテルが挙げられる。
【0073】
これらの添加剤を本発明の潤滑油組成物に含有させる場合には、その含有量は潤滑油組成物全量基準で、腐食防止剤、防錆剤、抗乳化剤ではそれぞれ0.005〜5質量%、金属不活性化剤では0.005〜1質量%、消泡剤では0.0005〜1質量%の範囲で通常選ばれる。
【0074】
本発明のアルミニウム系材料と接触する場合に好適な潤滑油組成物は、自動又は手動変速機等の駆動系用潤滑油、グリース、湿式ブレーキ油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、軸受け油、冷凍機油等の潤滑油として好適に使用することができる。
【0075】
本発明の潤滑方法は、上記本発明の潤滑油組成物を用いて、上記装置等における摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部を潤滑することができる。
【実施例】
【0076】
以下に本発明の内容を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
実施例1〜6及び比較例1〜8
表1及び表2に示す潤滑油基油に、表1及び表2に示す組成の添加剤を常法に従って混合して潤滑油組成物を調製した。得られた各潤滑油組成物を用いて以下に示す摩耗係数及びアルミ材摩耗量を測定した。結果を表1及び表2に示す。
試験に使用した装置、試験方法は以下のとおりである。
試験装置名称:木村・若林式トライボモジュラー(神鋼造機製)。
本試験機は回転する円盤上に一本のピンを押し付けるタイプの試験機である。
該ピンは材質がJIS S45C 調質材であり、形状は直径4mm、長さ6mmのものであり、また円盤ディスクは、材質がエンジンすべり軸受用 Al合金であり、形状が直径10mm、厚み1.2mmのものである。
試験条件は、すべり速度:0.3m/s、1.05m/s、荷重:29.4N(60分)、試験温度は室温の条件である。
なお、本試験においてアルミ材摩耗量は、10μm未満のものであれば耐摩耗性に問題ないと判断できるものであり、該アルミ材摩耗量が問題ない場合は、摩擦係数により潤滑性能を評価することができる。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部に用いる潤滑油組成物であって、
潤滑油基油に、(A)リン含有カルボン酸化合物およびその金属塩の少なくとも1種を、組成物全量基準で、リン量として0.001〜1質量%含むことを特徴とする、アルミニウム系材料を備えた摺動部用潤滑油組成物。
【請求項2】
(B)有機モリブデン化合物を、組成物全量基準で、モリブデン量として50〜2000質量ppm更に含むことを特徴とする請求項1記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(C)(A)成分以外のリン系化合物を、組成物全量基準で、リン量として0.001〜1質量%更に含むことを特徴とする請求項1又は2記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
(A)成分が、式(1)により表される化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【化1】

(式中、X1〜X4はそれぞれ個別に、酸素原子または硫黄原子であり、R4及びR5は個別に炭素数1〜30の炭化水素基を示し、R6〜R9は、それぞれ個別に水素原子あるいは炭素数1〜4の炭化水素基を示す。)
【請求項5】
(B)成分が、モリブデンジチオカーバメートである請求項2〜4のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
(C)成分が、ジアルキルリン酸亜鉛系化合物である請求項3〜5のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
摺動部の少なくとも一方にアルミニウム系材料を備えた潤滑部を、請求項1〜6のいずれかに記載の潤滑油組成物を用いて潤滑することを特徴とするアルミニウム系部材の潤滑方法。

【公開番号】特開2012−111803(P2012−111803A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259584(P2010−259584)
【出願日】平成22年11月19日(2010.11.19)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】