説明

アレイアンテナ

【課題】能動素子を使用することなく、各アンテナ素子に供給する励振電力の位相量と振幅を可変する。
【解決手段】2(m≧2)個のアンテナ素子と、各アンテナ素子に供給する励振電力の位相と振幅を制御する制御回路と備え、制御回路は、m段トーナメント形式に接続された(2−1)個の基本回路を有し、基本回路は、入力端子から入力される励振電力の位相量を可変し、所定の位相差を有する第1励振電力と第2励振電力を出力する分配可変移相器と、出力端子間の出力電圧が互いに90°の位相差を有し分配可変移相器から出力される第1励振電力と第2励振電力がそれぞれ第1端子と第4端子に入力されるハイブリッド回路と、ハイブリッド回路の第2端子から出力される励振電力の位相量を可変し第1の出力端子から出力する第1の可変移相器と、ハイブリッド回路の第3端子から出力される励振電力の位相量を可変し第2の出力端子から出力する第2の可変移相器とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレイアンテナに係り、特に、携帯電話基地局用のアレイアンテナのチルト角制御に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話基地局用等のアレイアンテナでは、例えば、基地局のサ−ビスエリアを最適化するため等の理由により、各基地局におけるアレイアンテナから放射される放射ビ−ムのチルト角を制御している。
図8は、チルト角制御装置を備える従来のアレイアンテナの一例の概略構成を示す図である。図8において、1〜1はアンテナ素子、11はチルト角制御装置、PH〜PHは可変移相器、Tinは入力端子である。
図8に示すアレイアンテナでは、入力端子(Tin)に加えられた励振電力(Vin)は、各可変移相器(PH〜PH)で位相量が可変され、各アンテナ素子(1〜1)に供給される。そして、各可変移相器(PH〜PH)の可変位相量を調整することにより、チルト角を制御することが可能である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前述したようなアレイアンテナにおいて、チルト角を制御する一方、使用環境に合わせて垂直面内指向特性におけるサイドローブを抑圧するためには、各アンテナ素子(3〜3)に供給される励振電力の位相量ばかりでなく、振幅も調整する必要がある。
このような場合、従来のアレイアンテナでは、減衰器と高周波アンプ回路を使用して、各アンテナ素子(3〜3)に供給する励振電力の振幅を調整している。
しかしながら、このようなアレイアンテナでは、高周波アンプ回路用の電源回路が必要となり、コストが高くなるという問題点があり、そのため、能動素子を使用することなく、各アンテナ素子に供給する励振電力の位相量と振幅を可変することができるアレイアンテナが要望されている。
本発明は、前記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、能動素子を使用することなく、各アンテナ素子に供給する励振電力の位相量と振幅を可変することが可能なアレイアンテナを提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記の通りである。
前述の目的を達成するために、本発明は、mを2以上の整数(m≧2)とするとき、2個のアンテナ素子(あるいは、複数個のアンテナ素子からなるアンテナ素子群)と、前記各アンテナ素子に供給する励振電力の位相と振幅を制御する制御回路とを備えるアレイアンテナであって、前記制御回路は、m段多段に接続された(2−1)個の基本回路を有し、nを1以上m以下の整数(1≦n≦m)とするとき、n段目の基本回路の個数は、2(n−1)個であり、前記基本回路は、1個の入力端子と、第1の出力端子と、第2の出力端子と、前記1個の入力端子から入力される励振電力の位相量を可変し、所定の位相差を有する第1励振電力と第2励振電力を出力する分配可変移相器と、出力端子間の出力電圧が互いに90°の位相差を有し、前記分配可変移相器から出力される第1励振電力と第2励振電力が、それぞれ第1端子と第4端子に入力されるハイブリッド回路と、前記ハイブリッド回路の第2端子から出力される励振電力の位相量を可変し、前記第1の出力端子から出力する第1の可変移相器と、前記ハイブリッド回路の第3端子から出力される励振電力の位相量を可変し、前記第2の出力端子から出力する第2の可変移相器とを有し、1段目の1個の基本回路の入力端子に入力励振電力が入力され、m段目の2(m−1)個の基本回路の2(m−1)個の第1の出力端子と2(m−1)個の第2の出力端子は、前記2個のアンテナ素子(あるいは、複数個のアンテナ素子からなるアンテナ素子群)の中の対応するアンテナ素子(あるいは、複数個のアンテナ素子からなるアンテナ素子群)に接続され、kを1以上(m−1)以下の整数(1≦k≦m−1)とするとき、k段目の2(k−1)個の基本回路の2(k−1)個の第1の出力端子と2(k−1)個の第2の出力端子は、(k+1)段目の2個の基本回路の中の対応する基本回路の入力端子に接続されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記の通りである。
本発明のアレイアンテナによれば、能動素子を使用することなく、各アンテナ素子に供給する励振電力の位相量と振幅を可変することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
図1は、本発明の実施例のアレイアンテナの概略構成を示す図である。
本実施例のアレイアンテナは、mを2以上の整数(m≧2)とするとき、2個のアンテナ素子で構成されるが、図1では、m=3の場合について説明する。
図1に示すアレイアンテナは、8(=2)個のアンテナ素子(1〜1)と、各アンテナ素子(1〜1)に供給する励振電力の位相と振幅を制御する制御回路10とで構成される。
制御回路10は、3(m=3)段多段に(または、トーナメント形式で)接続された7(=2−1)個の基本回路(311,321,322,331〜334)を有する。
ここで、nを1以上3以下の整数{1≦n≦3(m=3)}とするとき、n段目の基本回路の個数は、2(n−1)個である。
1段目の1個の基本回路(311)の入力端子(Tin)に励振電力(Vin)が入力され、3段目の4個の基本回路(331〜334)の4個の第1の出力端子(Tout1)と4個の第2の出力端子(Tout2)は、8個のアンテナ素子(1〜1)の中の対応するアンテナ素子に接続される。
また、kを1以上2(=m−1)以下の整数(1≦k≦2)とするとき、k段目の2(k−1)個の基本回路(311,または、321〜322)の2(k−1)個の第1の出力端子(Tout1)と2(k−1)個の第2の出力端子(Tout2)は、(k+1)段目の2個の基本回路の中の対応する基本回路の入力端子(Tin)に接続される。
【0007】
図2は、図1に示す基本回路の構成を説明するための図である。
基本回路3は、1個の入力端子(Tin)と、第1の出力端子(Tout1)と、第2の出力端子(Tout2)と、分配可変移相器(PHA)と、ハイブリッド回路(H)と、第1の可変移相器(PHB)と、第2の可変移相器(PHC)とを有する。
分配可変移相器(PHA)は、1個の入力端子(Tin)から入力される励振電力(Vin)の位相量を可変し、所定の位相差を有する第1励振電力(VP1)と第2励振電力(VP2)を出力する。
なお、この分配可変移相器(PHA)としては、例えば、特開2001−284901号公報に記載されているもの等が使用可能である。
ハイブリッド回路(H)は、分配可変移相器(PHA)から出力される第1励振電力(VP1)と第2励振電力(VP2)が、それぞれ第1端子(T)と第4端子(T)に入力され、第2端子(T)から出力される第3励振電力(VH1)を第1の可変移相器(PHB)に出力し、第3端子(T)から出力される第4励振電力(VH2)を第2の可変移相器(PHC)に出力する。
なお、ハイブリッド回路(H)は、出力端子間の出力電圧が互いに90°の位相差を有するとともに、振幅がほぼ等しくなるように構成されたハイブリッド回路であれば、任意のハイブリッド回路が使用可能である。
第1の可変移相器(PHB)は、ハイブリッド回路(H)の第2端子(T)から出力される第3励振電力(VH1)の位相量を可変し、第1の出力端子(Tout1)から出力する。
第2の可変移相器(PHC)は、ハイブリッド回路(H)の第3端子(T)から出力される第4励振電力(VH2)の位相量を可変し、第2の出力端子(Tout2)から出力する。
【0008】
今、分配可変移相器(PHA)から出力される第1励振電力(VP1)と第2励振電力(VP2)の位相差をθとするとき、第1励振電力(VP1)と第2励振電力(VP2)は、下記(1)式で表される。
[式1]
VP1=ASinωt
VP2=ASin(ωt-θ)
また、ハイブリッド回路(H)の第2端子(T)から出力される第3励振電力(VH1)と、ハイブリッド回路(H)の第3端子(T)から出力される第4励振電力(VHは、下記(2)式で表される。
[式2]
VH1=ASinωt+ASin{ωt-(θ+π/2)}
=2ACos{(θ+π/2)/2}×Sin{ωt-(θ+π/2 )/2}
VH2=ASin(ωt-π/2)+ASin(ωt-θ)
=2ACos{(θ-π/2)/2}×Sin{ωt-(θ+π/2 )/2}
さらに、第1の可変移相器(PHB)における位相可変量をθa、第2の可変移相器(PHC)における位相可変量をθbとするとき、第1の出力端子(Tout1)から出力される励振電力をVout1、第2の出力端子(Tout2)から出力される励振電力をVout2、下記(3)式で表される。
[式3]
Vout1=2ACos{(θ+π/2)/2}×Sin{ωt-(θ+π/2 )/2-θa}
Vout2=2ACos{(θ-π/2)/2}×Sin{ωt-(θ+π/2 )/2-θb}
【0009】
図3は、θを、(−π/2)から(π/2)まで変化させたときの、Cos{(θ+π/2)/2}と、Cos{(θ-π/2)/2}の値の変化を示すグラフである。
図3から分かるように、θを、(−π/2)から(π/2)まで変化させたときに、Cos{(θ+π/2)/2}と、Cos{(θ-π/2)/2}はともに、0から1まで連続的に変化する。
したがって、本実施例では、ハイブリッド回路(H)の第2端子(T)から出力されるVH1の第3励振電力と、ハイブリッド回路(H)の第3端子(T)から出力されるVH2の第4励振電力の振幅差として、1:1の等振幅から、0:1あるいは1:0振幅差まで、振幅差を連続的に可変することができる。
さらに、第1の可変移相器(PHB)により、θを加味して、VH1の第3励振電力の位相量を調整することにより、第1の出力端子(Tout1)から出力されるVout1の励振電力の位相量を所定の値に可変することができる。
同様に、第2の可変移相器(PHC)により、θを加味して、VH2の第4励振電力の位相量を調整することにより、第2の出力端子(Tout2)から出力されるVout2の励振電力の位相量を、所定の値に可変することができる。
【0010】
例えば、θを0°、θaを(−π/4)、θbをπ/4とすると、Vout1、Vout2は、下記(4)式のようになり、振幅差が等振幅で、位相差が(π/2)のVout1、Vout2の励振電力を得ることができる。
[式4]
Vout1=√2ASinωt
Vout2=√2ASin(ωt−π/2)}
なお、実際の使用にあたっては、まず所望の指向特性を与え、この指向特性から各基本回路3から出力する励振電力の振幅と位相量を計算する。そして、各基本回路3から出力する励振電力の振幅と位相量を実現するために、分配可変移相器(PHA)、第1の可変移相器(PHB)、および第2の可変移相器(PHC)の位相量をコンピュータで計算することにより、所望の指向特性を得ることができる。
なお、分配可変移相器(PHA)、第1の可変移相器(PHB)、および第2の可変移相器(PHC)の位相量は、コンピュータで制御するようにしてもよい。
【0011】
図4ないし図7は、本実施例のアレイアンテナの一例の垂直面内指向特性を示す図である。図4ないし図7において、アンテナ素子は8個である。
図4は、チルト角が0°で、各基本回路3から出力されるVout1の励振電力と、Vout2の励振電力の振幅差が等振幅の場合の垂直面内指向特性を示す。
図5は、チルト角が5°で、各基本回路3から出力されるVout1の励振電力と、Vout2の励振電力の振幅差が等振幅の場合の垂直面内指向特性を示す。
図6は、チルト角が0°で、各基本回路3から出力されるVout1の励振電力と、Vout2の励振電力の振幅差を変化させた場合の垂直面内指向特性を示す。
図7は、チルト角が5°で、各基本回路3から出力されるVout1の励振電力と、Vout2の励振電力の振幅差を変化させた場合の垂直面内指向特性を示す。
図4と図6、図5と図7を比較することにより、各基本回路3から出力されるVout1の励振電力と、Vout2の励振電力の振幅差を所定の値に変化させることにより、サイドローブが減少していることが分かる。
【0012】
以上説明したように、本実施例のアレイアンテナによれば、能動素子を使用することなく、各アンテナ素子に供給する励振電力の振幅および位相量を所定の値に調整することが可能である。
その結果として、本実施例のアレイアンテナでは、全体としての垂直面内指向性を、使用環境に合わせて最適化することが可能である。例えば、利得最大設計にしたり、低サイドローブ設計にしたり、チルト角を自由に設定することができる。また、状況に応じ、垂直面内指向性を随時切り替え可能として、その時々、あるいは場所毎の最適な指向特性でアレイアンテナを使用することも可能である。
なお、図1に示す8個のアンテナ素子(1〜1)に代えて、複数のアンテナ素子から成る8個のアンテナ素子群を使用することも可能である。
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施例のアレイアンテナの概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す基本回路の構成を説明するための図である。
【図3】θを、(−π/2)から(π/2)まで変化させたときの、Cos{(θ+π/2)/2}と、Cos{(θ-π/2)/2}の値の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例のアレイアンテナの一例の垂直面内指向特性を示す図である。
【図5】本発明の実施例のアレイアンテナの一例の垂直面内指向特性を示す図である。
【図6】本発明の実施例のアレイアンテナの一例の垂直面内指向特性を示す図である。
【図7】本発明の実施例のアレイアンテナの一例の垂直面内指向特性を示す図である。
【図8】チルト角制御装置を備える従来のアレイアンテナの一例の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0014】
〜1 アンテナ素子
3,311,321,322,331〜334 基本回路
10 制御回路
11 チルト角制御装置
PHA 分配可変移相器
PHB,PHC,PH〜PH 可変移相器
H ハイブリッド回路
Tin 入力端子
Tout1,Tout2 出力端子
〜T 端子



【特許請求の範囲】
【請求項1】
mを2以上の整数(m≧2)とするとき、2個のアンテナ素子と、
前記各アンテナ素子に供給する励振電力の位相と振幅を制御する制御回路とを備えるアレイアンテナであって、
前記制御回路は、m段多段に接続された(2−1)個の基本回路を有し、
nを1以上m以下の整数(1≦n≦m)とするとき、n段目の基本回路の個数は、2(n−1)個であり、
前記基本回路は、1個の入力端子と、
第1の出力端子と、
第2の出力端子と、
前記1個の入力端子から入力される励振電力の位相量を可変し、所定の位相差を有する第1励振電力と第2励振電力を出力する分配可変移相器と、
出力端子間の出力電圧が互いに90°の位相差を有し、前記分配可変移相器から出力される第1励振電力と第2励振電力が、それぞれ第1端子と第4端子に入力されるハイブリッド回路と、
前記ハイブリッド回路の第2端子から出力される励振電力の位相量を可変し、前記第1の出力端子から出力する第1の可変移相器と、
前記ハイブリッド回路の第3端子から出力される励振電力の位相量を可変し、前記第2の出力端子から出力する第2の可変移相器とを有し、
1段目の1個の基本回路の入力端子に励振電力が入力され、
m段目の2(m−1)個の基本回路の2(m−1)個の第1の出力端子と2(m−1)個の第2の出力端子は、前記2個のアンテナ素子の中の対応するアンテナ素子に接続され、
kを1以上(m−1)以下の整数(1≦k≦m−1)とするとき、k段目の2(k−1)個の基本回路の2(k−1)個の第1の出力端子と2(k−1)個の第2の出力端子は、(k+1)段目の2個の基本回路の中の対応する基本回路の入力端子に接続されることを特徴とするアレイアンテナ。
【請求項2】
前記2個の各アンテナ素子に代えて、複数個のアンテナ素子からなるアンテナ素子群を用いることを特徴とする請求項1に記載のアレイアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−318600(P2007−318600A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−147886(P2006−147886)
【出願日】平成18年5月29日(2006.5.29)
【出願人】(000232287)日本電業工作株式会社 (71)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】