アレイ型超音波脈波測定シート
【課題】体表に容易に装着できるフレキシブルな超音波シートであり、多数の素子が並ぶアレイ形状にすることで、専門家のプローブ位置合わせを必要とせずに使用者が容易に用いることができるアレイ型超音波脈波測定シートを提供すること。
【解決手段】超音波素子をアレイ状に搭載したフレキシブルなシートを橈骨動脈付近の手首に貼るだけで、橈骨動脈に対して正しく当てられた超音波素子の信号だけを読み取ればよいので、細かな位置合わせを必要としない。
【解決手段】超音波素子をアレイ状に搭載したフレキシブルなシートを橈骨動脈付近の手首に貼るだけで、橈骨動脈に対して正しく当てられた超音波素子の信号だけを読み取ればよいので、細かな位置合わせを必要としない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血行動態評価や血管の硬さ計測に関する。
【背景技術】
【0002】
アレイ状に微小超音波トランスデューサを並べた例およびその構成と加工法がいくつかあるが、いずれもプローブ形状であり、体表に貼り付け可能なフレキシブルかつ薄いシート形状ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Surface Micromachined Capacitive Ultrasonic Transducers I. Ladabaum, J. Xuecheng, H. T. Soh, A. Atalar, B. T. Khuri-Yakub IEEE Trans on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol. 45, No. 3 (1998), pp. 678-690
【非特許文献2】Flexible Transducer Arrays with Through-wafer Electrical Interconnects Based on Trench Refilling with PDMS X. Zhuang, D.-S. Lin, O. Oralkan, and B. T. Khuri-YakubTechnical Digest of the 20th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS 2007), Kobe (2007, Jan.), pp. 73-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用者が自身で容易に用いることができる超音波検査、体表に装着することで超音波による経時モニタリングが可能、などの新たな計測手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
体表に容易に装着できるフレキシブルな超音波シートであり、多数の素子が並ぶアレイ形状にすることで、専門家、例えば臨床医や臨床工学技士のプローブ位置合わせを必要とせずに使用者が容易に用いることができる。具体的な目的の一つとして、手首の撓骨動脈上の皮膚に装着し血行動態を検出、モニタリングする健康管理デバイスを目指している。
【0006】
従来の超音波検査は専門家のプローブ位置合わせを必要とするが、フレキシブルなアレイ形状にすることで使用者が自分で用いることができ、健康管理などに役立てることができる。MEMS技術を用いることで一括作製ができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】アレイ型超音波脈波測定シートのイメージ
【図2】測定対象の検討
【図3】デバイスの構造図
【図4】アレイ型超音波脈波測定シートのイメージ
【図5】基板配線の取り出し
【図6】基板配線設計図
【図7】超音波素子作製のプロセスフロー
【図8】配線基板作製のプロセスフロー
【図9】バッキング材作製のプロセスフロー
【図10】超音波素子の作製
【図11】超音波素子の作製
【図12】電極配線パターンの作製
【図13】バッキング材の形成
【図14】バッキング材を粘着シートに貼る
【図15】単素子で評価
【図16】配線の取り出し
【図17】評価の方法
【図18】対象物からの反射なし
【図19】対象物からの反射あり
【図20】対象物との距離を近づける
【図21】時間変化の距離への換算
【発明を実施するための形態】
【0008】
動脈の層が厚くなったり硬くなったりして弾力性や柔軟性が失われた状態である動脈硬化は、心臓病や脳血管障害などの病気を引き起こす大きな要因であり、これらの病気の予防や治療には動脈硬化の早期発見が重要となる。
【0009】
血液が心臓から押し出される時に生じる血管内の圧力の波形を脈波といい、この脈波の計測により血管運動反応をとらえることで血管の状態を診ることができ、動脈硬化の早期発見に役立つとされている。また、漢方や鍼灸に代表される統合医療の分野では、橈骨(トウコツ)動脈(手首の親指側を走る動脈)の脈波を3カ所同時計測する脈診と呼ばれる手法があり、様々な病態や疾患の把握に役立つ。
【0010】
脈波の計測は超音波プローブによりこれまでにも行われているが、測定対象である橈骨(トウコツ)動脈(手首の親指側を走る動脈)や上腕動脈などへプローブを位置合わせするには専門家、例えば臨床医や臨床工学技士の技術が必要となる。またプローブと測定対象のわずかな位置ずれが計測結果に影響することから、プローブを手首上に固定する必要がある。しかし、手首を数分以上、安定して固定することが難しく、プローブを手首に追従して動かすことも実用上難しいことから、装着に時間がかかり長時間の安定した測定ができない。なお、その他、超音波計測できる比較的体表面に近い動脈として、頚動脈、頭部の浅側頭動脈、足表面近くの動脈などがある。
【0011】
そこで、複数の超音波素子をアレイ状に搭載したフレキシブルかつウェアラブルなシート状の測定装置を作製することにより、専門家によるプローブの位置合わせを不要にし、一般家庭での簡便な脈波計測や血管の硬さ評価、運動時のモニターなどを可能にする(図1参照)。多点同時計測もできる。
【0012】
体表近くに位置する動脈上の皮膚(橈骨)に貼れるようにしたシートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載し、超音波素子をアレイ状に搭載したフレキシブルなシートを橈骨動脈付近の手首に貼るだけで、橈骨動脈に対して正しく当てられた超音波素子(図1の赤枠の素子)の信号だけを読み取ればよいので、細かな位置合わせを必要としない。また、シートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載することで測定対象との精密な位置合わせが不要である。
【0013】
フレキシブルかつウェアラブルなシート状にすることで運動時のモニターが可能となる。フレキシブルかつ薄く軽量なシート状にすることで測定対象に追従して動き、位置ずれを低減する。
【0014】
測定項目は、橈骨動脈の「径の変化」、ドップラー効果を利用した血流速、弾性計測による血管硬さの評価などがあり、素子サイズを小さくし数を増やすことで簡単なイメージングも可能となる。血管壁の変位を見るとした場合、血管壁と素子が共に変位した時には血管壁のみの変位を測定することができないが、血管壁の径の変化を見るとすれば、血管壁と素子が共に変位した時でも血管壁の径の変化は測定可能である(図2参照)。
【0015】
超音波素子(超音波トランスデューサ)には圧電単結晶PMN-PT、電極にはAu/Cr、フレキシブルな基板にはポリイミドフィルムを使用する。上部電極側の振動を抑え、体内に効率よく超音波を伝搬させるためにバッキング材を取り付ける(図3参照)。
【0016】
なお、超音波トランスデューサは必ずしも圧電単結晶である必要はなく、PZT などの圧電セラミックス、MEMS 技術で作製されるCMUTs(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducers)でもよい(非特許文献1,2)。またPZT はバルク材料の他、スパッタリングなどの成膜、泥状のスラリーを薄くのばして焼結したシートなどを用いることができる。いずれもMEMS 等の微細加工技術により2次元のアレイ型シートに作製できる。後述するものは実施例の一つである。フレキシブルな基板は必ずしもポリイミドである必要はなく、その他の柔軟な材料でも、硬く曲がらないアレイ間を柔らかい素材や曲がる構造で接続した構成でもよい。
【0017】
手首の動きを考えると、主に長軸方向にフレキシブルであることが必要となるので、電極配線は短軸方向へ伸ばすのが望ましい(図4参照)。
【0018】
仕様は以下の通り。
・素子数:30 個(横10 個1 列×3)
・素子サイズ:500μm×500μm
・フレキシブル基板サイズ:20mm×20mm
・配線:細径同軸ケーブル
【0019】
超音波素子作製のプロセスフローを図7に示す。圧電材料PMN-PT(厚さ0.3mm)の全面にAu/Crをスパッタリングにより成膜し(約600nm)、ダイサーにより上下電極の分離のための切り込み(数μm)と、素子分離のための切り込み(約100μm)を入れる。加工したPMN-PT をAu/Cr の配線パターンが作製されたフレキシブル基板に接合する(Au/Au 接合)。バッキング材を粘着シートで貼り付け、ダイサーによりそれぞれの素子に分離する。同軸ケーブルを導電性接着剤で取り付け、分極を行う(図5及び図6参照)。
【0020】
次に、配線基板作製のプロセスフローを図8に示す。ポリイミドフィルム(50μm)にAu/Cr をスパッタリングにより成膜し(約700nm)、ポジレジストをスピンコートで塗布する。配線基板のパターンが描かれたマスクを用いたフォトリソグラフィによりレジストをパターニングする。配線パターンに残ったレジストをマスクとして不要なAu/Crをエッチングする。アセトンによりレジストを除去しAu/Cr の配線パターンを得る。この配線基板フィルムに加工したPMN-PT をAu/Au 接合により接合する。
【0021】
バッキング材作製のプロセスフローを図9に示す。エポキシとタングステンを58:42 で混合したバッキング材をガラス板の枠に埋める。下地にはバッキング材が硬化後剥がしやすくするためにテフロン(登録商標)フィルムを使用する。80℃/3h で硬化後、テフロン(登録商標)フィルム上からバッキング材を取り出し、両面粘着シート(10μm)の片面に貼り付ける。ダイサーにより貼り付ける超音波素子のサイズに切り出し、超音波素子に貼り付ける。ダイサーによりそれぞれの素子に分離する。
【0022】
アレイ状の横1 列10 個の超音波素子を一度に作製するために、PMN-PT(厚さ0.3mm)を0.5mm×10mmのサイズに切り出し、回転させながら全面にAu/Cr をスパッタリングにて成膜し、25μm 幅の切り込みを入れ上下電極を分離した(図10参照)。
【0023】
素子の分離の際に基板まで切断しないために、PMN-PT の下部電極側に幅100μm、深さ100μm の切り込みを入れておく(図11参照)。
【0024】
ポリイミドフィルム上にAu/Cr の電極配線パターンを作製した(図12参照)。テフロン(登録商標)フィルム上に作ったガラス板の枠に、エポキシとタングステン(5.84g:4.16g)を混合したものを厚さを揃えて埋め80℃/3h で硬化し、約300μm の厚さのバッキング材を形成した(図13参照)。
【0025】
バッキング材をテフロン(登録商標)フィルム上のガラス枠から取り出し、両面粘着シート(10μm)の片面に貼り、粘着シートごと0.5mm×10mm のサイズに切り出し、PMN-PT に貼った(図14参照)。
【0026】
単素子での評価を(図15に示す。単素子(0.5mm×0.5mm)を切り出し、フリップチップボンダーを用いて配線基板フィルムとAu/Au接合で接合した。
・接合条件: 温度:350℃/60min、荷重:1 N、圧力:4 MPa
【0027】
図16に示すように、同軸ケーブル(φ300μm)を導電性接着剤で取り付け、分極(450V/30min)を行った。
【0028】
評価の方法(図17参照)
・上部電極側を下向き、下部電極側(基板フィルム側)を上向きにして超音波ゲルで覆う
・上部電極側の反射を吸収するためにバッキング材としてスポンジを置く
・対象物(金属の定規を使用)を基板フィルム上で動かし、素子との距離を変化させ、デジタルオシロスコープでその時の波形の変化を観測
・対象物からの反射時間の変化を距離に換算
【0029】
今回バッキング材を素子に貼り付けていないため、バッキング材としてスポンジを利用して上部電極側の超音波の反射を抑えることにした。対象物には、大きな反射を得るために金属製の定規を使用した(図18〜20参照)。
【0030】
対象物を近づけると、反射波の帰ってくる時間(横軸)が変化する。その時間の変化分と音速(1.5×103 m/s)から対象物との距離の変化が得られる。
【0031】
インピーダンスアナライザーによる測定ではこの単素子の共振周波数は1.35MHz であった(図21参照)。
【0032】
実仕様の際には深さごとに分布する複数の反射音源を分解して血管系を測定する必要があることから単パルス化、高周波化により距離分解能を向上させる必要がある。
【技術分野】
【0001】
本発明は、血行動態評価や血管の硬さ計測に関する。
【背景技術】
【0002】
アレイ状に微小超音波トランスデューサを並べた例およびその構成と加工法がいくつかあるが、いずれもプローブ形状であり、体表に貼り付け可能なフレキシブルかつ薄いシート形状ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Surface Micromachined Capacitive Ultrasonic Transducers I. Ladabaum, J. Xuecheng, H. T. Soh, A. Atalar, B. T. Khuri-Yakub IEEE Trans on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol. 45, No. 3 (1998), pp. 678-690
【非特許文献2】Flexible Transducer Arrays with Through-wafer Electrical Interconnects Based on Trench Refilling with PDMS X. Zhuang, D.-S. Lin, O. Oralkan, and B. T. Khuri-YakubTechnical Digest of the 20th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS 2007), Kobe (2007, Jan.), pp. 73-76
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
使用者が自身で容易に用いることができる超音波検査、体表に装着することで超音波による経時モニタリングが可能、などの新たな計測手段を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
体表に容易に装着できるフレキシブルな超音波シートであり、多数の素子が並ぶアレイ形状にすることで、専門家、例えば臨床医や臨床工学技士のプローブ位置合わせを必要とせずに使用者が容易に用いることができる。具体的な目的の一つとして、手首の撓骨動脈上の皮膚に装着し血行動態を検出、モニタリングする健康管理デバイスを目指している。
【0006】
従来の超音波検査は専門家のプローブ位置合わせを必要とするが、フレキシブルなアレイ形状にすることで使用者が自分で用いることができ、健康管理などに役立てることができる。MEMS技術を用いることで一括作製ができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】アレイ型超音波脈波測定シートのイメージ
【図2】測定対象の検討
【図3】デバイスの構造図
【図4】アレイ型超音波脈波測定シートのイメージ
【図5】基板配線の取り出し
【図6】基板配線設計図
【図7】超音波素子作製のプロセスフロー
【図8】配線基板作製のプロセスフロー
【図9】バッキング材作製のプロセスフロー
【図10】超音波素子の作製
【図11】超音波素子の作製
【図12】電極配線パターンの作製
【図13】バッキング材の形成
【図14】バッキング材を粘着シートに貼る
【図15】単素子で評価
【図16】配線の取り出し
【図17】評価の方法
【図18】対象物からの反射なし
【図19】対象物からの反射あり
【図20】対象物との距離を近づける
【図21】時間変化の距離への換算
【発明を実施するための形態】
【0008】
動脈の層が厚くなったり硬くなったりして弾力性や柔軟性が失われた状態である動脈硬化は、心臓病や脳血管障害などの病気を引き起こす大きな要因であり、これらの病気の予防や治療には動脈硬化の早期発見が重要となる。
【0009】
血液が心臓から押し出される時に生じる血管内の圧力の波形を脈波といい、この脈波の計測により血管運動反応をとらえることで血管の状態を診ることができ、動脈硬化の早期発見に役立つとされている。また、漢方や鍼灸に代表される統合医療の分野では、橈骨(トウコツ)動脈(手首の親指側を走る動脈)の脈波を3カ所同時計測する脈診と呼ばれる手法があり、様々な病態や疾患の把握に役立つ。
【0010】
脈波の計測は超音波プローブによりこれまでにも行われているが、測定対象である橈骨(トウコツ)動脈(手首の親指側を走る動脈)や上腕動脈などへプローブを位置合わせするには専門家、例えば臨床医や臨床工学技士の技術が必要となる。またプローブと測定対象のわずかな位置ずれが計測結果に影響することから、プローブを手首上に固定する必要がある。しかし、手首を数分以上、安定して固定することが難しく、プローブを手首に追従して動かすことも実用上難しいことから、装着に時間がかかり長時間の安定した測定ができない。なお、その他、超音波計測できる比較的体表面に近い動脈として、頚動脈、頭部の浅側頭動脈、足表面近くの動脈などがある。
【0011】
そこで、複数の超音波素子をアレイ状に搭載したフレキシブルかつウェアラブルなシート状の測定装置を作製することにより、専門家によるプローブの位置合わせを不要にし、一般家庭での簡便な脈波計測や血管の硬さ評価、運動時のモニターなどを可能にする(図1参照)。多点同時計測もできる。
【0012】
体表近くに位置する動脈上の皮膚(橈骨)に貼れるようにしたシートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載し、超音波素子をアレイ状に搭載したフレキシブルなシートを橈骨動脈付近の手首に貼るだけで、橈骨動脈に対して正しく当てられた超音波素子(図1の赤枠の素子)の信号だけを読み取ればよいので、細かな位置合わせを必要としない。また、シートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載することで測定対象との精密な位置合わせが不要である。
【0013】
フレキシブルかつウェアラブルなシート状にすることで運動時のモニターが可能となる。フレキシブルかつ薄く軽量なシート状にすることで測定対象に追従して動き、位置ずれを低減する。
【0014】
測定項目は、橈骨動脈の「径の変化」、ドップラー効果を利用した血流速、弾性計測による血管硬さの評価などがあり、素子サイズを小さくし数を増やすことで簡単なイメージングも可能となる。血管壁の変位を見るとした場合、血管壁と素子が共に変位した時には血管壁のみの変位を測定することができないが、血管壁の径の変化を見るとすれば、血管壁と素子が共に変位した時でも血管壁の径の変化は測定可能である(図2参照)。
【0015】
超音波素子(超音波トランスデューサ)には圧電単結晶PMN-PT、電極にはAu/Cr、フレキシブルな基板にはポリイミドフィルムを使用する。上部電極側の振動を抑え、体内に効率よく超音波を伝搬させるためにバッキング材を取り付ける(図3参照)。
【0016】
なお、超音波トランスデューサは必ずしも圧電単結晶である必要はなく、PZT などの圧電セラミックス、MEMS 技術で作製されるCMUTs(Capacitive Micromachined Ultrasonic Transducers)でもよい(非特許文献1,2)。またPZT はバルク材料の他、スパッタリングなどの成膜、泥状のスラリーを薄くのばして焼結したシートなどを用いることができる。いずれもMEMS 等の微細加工技術により2次元のアレイ型シートに作製できる。後述するものは実施例の一つである。フレキシブルな基板は必ずしもポリイミドである必要はなく、その他の柔軟な材料でも、硬く曲がらないアレイ間を柔らかい素材や曲がる構造で接続した構成でもよい。
【0017】
手首の動きを考えると、主に長軸方向にフレキシブルであることが必要となるので、電極配線は短軸方向へ伸ばすのが望ましい(図4参照)。
【0018】
仕様は以下の通り。
・素子数:30 個(横10 個1 列×3)
・素子サイズ:500μm×500μm
・フレキシブル基板サイズ:20mm×20mm
・配線:細径同軸ケーブル
【0019】
超音波素子作製のプロセスフローを図7に示す。圧電材料PMN-PT(厚さ0.3mm)の全面にAu/Crをスパッタリングにより成膜し(約600nm)、ダイサーにより上下電極の分離のための切り込み(数μm)と、素子分離のための切り込み(約100μm)を入れる。加工したPMN-PT をAu/Cr の配線パターンが作製されたフレキシブル基板に接合する(Au/Au 接合)。バッキング材を粘着シートで貼り付け、ダイサーによりそれぞれの素子に分離する。同軸ケーブルを導電性接着剤で取り付け、分極を行う(図5及び図6参照)。
【0020】
次に、配線基板作製のプロセスフローを図8に示す。ポリイミドフィルム(50μm)にAu/Cr をスパッタリングにより成膜し(約700nm)、ポジレジストをスピンコートで塗布する。配線基板のパターンが描かれたマスクを用いたフォトリソグラフィによりレジストをパターニングする。配線パターンに残ったレジストをマスクとして不要なAu/Crをエッチングする。アセトンによりレジストを除去しAu/Cr の配線パターンを得る。この配線基板フィルムに加工したPMN-PT をAu/Au 接合により接合する。
【0021】
バッキング材作製のプロセスフローを図9に示す。エポキシとタングステンを58:42 で混合したバッキング材をガラス板の枠に埋める。下地にはバッキング材が硬化後剥がしやすくするためにテフロン(登録商標)フィルムを使用する。80℃/3h で硬化後、テフロン(登録商標)フィルム上からバッキング材を取り出し、両面粘着シート(10μm)の片面に貼り付ける。ダイサーにより貼り付ける超音波素子のサイズに切り出し、超音波素子に貼り付ける。ダイサーによりそれぞれの素子に分離する。
【0022】
アレイ状の横1 列10 個の超音波素子を一度に作製するために、PMN-PT(厚さ0.3mm)を0.5mm×10mmのサイズに切り出し、回転させながら全面にAu/Cr をスパッタリングにて成膜し、25μm 幅の切り込みを入れ上下電極を分離した(図10参照)。
【0023】
素子の分離の際に基板まで切断しないために、PMN-PT の下部電極側に幅100μm、深さ100μm の切り込みを入れておく(図11参照)。
【0024】
ポリイミドフィルム上にAu/Cr の電極配線パターンを作製した(図12参照)。テフロン(登録商標)フィルム上に作ったガラス板の枠に、エポキシとタングステン(5.84g:4.16g)を混合したものを厚さを揃えて埋め80℃/3h で硬化し、約300μm の厚さのバッキング材を形成した(図13参照)。
【0025】
バッキング材をテフロン(登録商標)フィルム上のガラス枠から取り出し、両面粘着シート(10μm)の片面に貼り、粘着シートごと0.5mm×10mm のサイズに切り出し、PMN-PT に貼った(図14参照)。
【0026】
単素子での評価を(図15に示す。単素子(0.5mm×0.5mm)を切り出し、フリップチップボンダーを用いて配線基板フィルムとAu/Au接合で接合した。
・接合条件: 温度:350℃/60min、荷重:1 N、圧力:4 MPa
【0027】
図16に示すように、同軸ケーブル(φ300μm)を導電性接着剤で取り付け、分極(450V/30min)を行った。
【0028】
評価の方法(図17参照)
・上部電極側を下向き、下部電極側(基板フィルム側)を上向きにして超音波ゲルで覆う
・上部電極側の反射を吸収するためにバッキング材としてスポンジを置く
・対象物(金属の定規を使用)を基板フィルム上で動かし、素子との距離を変化させ、デジタルオシロスコープでその時の波形の変化を観測
・対象物からの反射時間の変化を距離に換算
【0029】
今回バッキング材を素子に貼り付けていないため、バッキング材としてスポンジを利用して上部電極側の超音波の反射を抑えることにした。対象物には、大きな反射を得るために金属製の定規を使用した(図18〜20参照)。
【0030】
対象物を近づけると、反射波の帰ってくる時間(横軸)が変化する。その時間の変化分と音速(1.5×103 m/s)から対象物との距離の変化が得られる。
【0031】
インピーダンスアナライザーによる測定ではこの単素子の共振周波数は1.35MHz であった(図21参照)。
【0032】
実仕様の際には深さごとに分布する複数の反射音源を分解して血管系を測定する必要があることから単パルス化、高周波化により距離分解能を向上させる必要がある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体表近くに位置する動脈上の皮膚に貼れるようにしたシートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載したことを特徴とするアレイ型超音波脈波測定シート。
【請求項2】
シートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載することで測定対象との精密な位置合わせが不要であることを特徴とする請求項1に記載のアレイ型超音波脈波測定シート。
【請求項3】
フレキシブルかつ薄く軽量なシート状にすることで測定対象に追従して動き、位置ずれを低減することを特徴とする請求項1または2に記載のアレイ型超音波脈波測定シート。
【請求項4】
測定項目は、橈骨動脈の径の変化、血流速、血管弾性、または血管像であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアレイ型超音波脈波測定シート。
【請求項1】
体表近くに位置する動脈上の皮膚に貼れるようにしたシートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載したことを特徴とするアレイ型超音波脈波測定シート。
【請求項2】
シートに超音波素子を1次元または2次元アレイ状に搭載することで測定対象との精密な位置合わせが不要であることを特徴とする請求項1に記載のアレイ型超音波脈波測定シート。
【請求項3】
フレキシブルかつ薄く軽量なシート状にすることで測定対象に追従して動き、位置ずれを低減することを特徴とする請求項1または2に記載のアレイ型超音波脈波測定シート。
【請求項4】
測定項目は、橈骨動脈の径の変化、血流速、血管弾性、または血管像であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のアレイ型超音波脈波測定シート。
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図4】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図21】
【図3】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図18】
【図19】
【図20】
【図1】
【図4】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図21】
【公開番号】特開2010−269060(P2010−269060A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125136(P2009−125136)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 文部科学省地域科学技術振興事業委託事業「先進予防型健康社会創成クラスター構想(時空を超えたユビキタスな健康管理環境技術の確立)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 文部科学省地域科学技術振興事業委託事業「先進予防型健康社会創成クラスター構想(時空を超えたユビキタスな健康管理環境技術の確立)」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】
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