説明

アレルギー処置用生ワクチン

【課題】アレルギー性疾患の予防および/または治療のための生ワクチンに使用できる形質転換乳酸菌を提供する。
【解決手段】 (1)タンパク質由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを含むDNA分子を有する、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)またはストレプトコッカス属(genus Streptococcus)に属する形質転換細菌。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、形質転換乳酸菌、ダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法及び気管支肺の鬱血の緩和方法に関するものである。より詳しくは、本発明は、アレルギー性疾患の予防および/または治療のために使用できる形質転換乳酸菌、特にラクトバチルス属(genus Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(genus Streptococcus)、またはビフィドバクテリウム属(genus Bifidobacterium)に属する乳酸菌、ダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法及び気管支肺の鬱血の緩和方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヨーグルトは、ヨーグルトを消費する健常なヒトに病原性を示さない様々な細菌(しばしば、乳酸菌と称される)を含む。これらの細菌としては、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(genus Bifidobacterium)、及びストレプトコッカス属(genus Streptococcus)に属するものがある。これらの細菌によっては経口用の生ワクチンとして有用であると推測されてきた。例えば、非特許文献1を参照。
【非特許文献1】Pouwels et al., J. Biotechnol. 44:183−192, 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このような経口用の生ワクチンが特定の疾患または症状の処置または予防に有効に使用できるという証拠はいままでなかった。
【0004】
したがって、本発明は、上記事情をかんがみてなされたものであり、アレルギー性疾患の予防および/または治療のための生ワクチンに使用できる形質転換乳酸菌を提供することを目的とするものである。
【0005】
本発明の他の目的は、このような形質転換乳酸菌を用いたチリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法及び気管支肺の鬱血の緩和方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、驚くべきことに、タンパク質由来のアレルゲンを発現する組み換え乳酸菌が動物モデルにおいてそのアレルゲンに対する免疫学的なトレランスを誘導できることを知得した。また、本発明者らは、このようなトレランスは、アレルゲンの暴露に関連する症状である、機能再亢進(hyperreactivity)及び炎症を十分抑制できることをも知得した。このような知見に基づいて、本発明を達成した。
【0007】
したがって、本発明の第一は、(1)タンパク質由来のアレルゲン(protein allergen)をコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結される(operably linked)(即ち、該アレルゲンを発現するように配置される)プロモーターを含むDNA分子を有する形質転換乳酸菌に関するものである。
【0008】
本発明において、乳酸菌は、特に制限されるものではなく、公知の乳酸菌が使用できる。具体的には、本発明で使用できる乳酸菌としては、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)に属するもの、例えば、ラクトバチルス アシドフィルス(L. acidophilus)、ラクトバチルス カゼイ(L. casei)、ラクトバチルス プランタルム(L. plantarum)、発酵乳酸杆菌(L. fermentum)、ラクトバチルス デルブリュッキー(L. delbrueckii)、ラクトバチルス ジョンソニー LJI(L. johnsonii LJI)、ラクトバチルス ルーテリ(L. reuteri)、及びラクトバチルス ブルガリクス(L. bulgaricus);ストレプトコッカス属(genus Streptococcus)に属するもの、例えば、ストレプトコッカス サーモフィルス(S. thermophilus);ならびにビフィドバクテリウム属(genus Bifidobacterium)に属するもの、例えば、ビフィドバクテリウム インファンチス(B. infantis)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム ロングム(B. longum)、ビフィドバクテリウム プソイドロングム(B. pseudolongum)、ビフィドバクテリウム ブレーベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム ラクティス Bb−12(B. lactis Bb-12)、及びビフィドバクテリウム アドレッセンティス(B. adolescentis)などが挙げられる。また、乳酸菌は、Salminen et al. Br. J. Neutr. 80:147-171, 1998に記載されるような共生体(probiotics)である、ラクトバチルス GG(Lactobacillus GG)であってもよい。これらの乳酸菌のうち、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)に属するもの、特にラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、及びストレプトコッカス属(genus Streptococcus)に属するもの、特にストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)が好ましく使用される。
【0009】
本発明において、アレルゲンは、どのようなアレルゲンでもよく特に制限されるものではない。具体的には、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)、コナヒョウヒダニ(D. farinae)、デルマトフィルス ミクロセラス(D. microceras)、ケナガコナダニ(Tyrophagus putesentiae)、レピドグリファス ドメスチカス(Lepidoglyphus domesticus)、レピドグリファス デストラクター(L. destructor)、アカラス シロ(Acarus siro)、ユーログリファス マイネイ(Euroglyphus maynei)、及びビオミア トロピカリス(Biomia tropicalis)等の一般的なチリダニ(dust mite)由来のアレルゲン;ならびに花粉、カビ、動物のフケ、及び昆虫などの他の空中を浮揚するアレルゲン(空中アレルゲン)などが挙げられる。これらのうち、チリダニ由来のアレルゲン、より好ましくはヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)由来のアレルゲンが、本発明におけるアレルゲンとして好ましく使用される。また、アレルゲンは、タンパク質(ポリペプチド)由来のアレルゲンであることが好ましい。この際、チリダニ由来の様々なタンパク質(ポリペプチド)由来のアレルゲンが同定されており、例えば、Der p 1またはDer p 2、及びDer p 5タンパク質などのアレルゲンをコード化する遺伝子がクローニングされており、これらを本発明においてタンパク質由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列として好ましく使用できる。これらのアレルゲンのうち、チリダニ由来のアレルゲン、より好ましくはヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)由来のアレルゲン、特に好ましくはDer p 5アレルゲンが本発明で好ましく使用される。
【0010】
なお、本発明で特に好ましく使用されるDer p 5アレルゲンは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)のグループ(Der p)アレルゲンのうちの一つであり、そのアミノ酸配列は、下記のとおりである(また、Lin et al. (1994) J Allergy Clin Immunol 94:989-96をも参照):
【0011】
【化1】

【0012】
本発明において、細菌中でアレルゲンを発現させるのに使用できるプロモーターは、細菌細胞で所望のアレルゲンの発現を指示できるものであれば特に制限されるものではないが、一般的には構成プロモーター(constitutive promoter)である。このようなプロモーターとしては、例えば、エリストマイシン耐性プロモーター、IdhLプロモーター、及びP25プロモーターなどが挙げられる。
【0013】
本発明はさらに、本発明の形質転換乳酸菌を被検者に投与し、さらにアレルゲンに対する免疫学的なトレランスを被検者で誘導するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することによって、アレルゲンに暴露される被検者(例えば、ヒト等の哺乳動物)におけるIgEの産生の抑制方法を包含するものである。
【0014】
したがって、本発明の第二は、チリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次に該アレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法に関するものである。また、本発明の第三は、(1)チリダニ由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌を被検者に投与し;さらに、次に該アレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法に関するものである。
【0015】
本発明において、トレランスは、次にアレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制することを包含する。なお、本明細書において、「トレランス(tolerance)」は、哺乳動物が一つのアレルゲンまたは複数のアレルゲンに暴露された際に過敏な免疫反応を有さない状態として定義される。
【0016】
さらに、本発明は、本発明の形質転換乳酸菌を被検者に投与し、さらに、次にアレルゲンに暴露される際の被検者の気管支肺の鬱血を和らげる(即ち、測定可能な量で抑制する)のに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することによって、アレルゲンに暴露される被検者(例えば、ヒト等の哺乳動物)における気管支肺の鬱血の緩和方法を包含するものである。
【0017】
したがって、本発明の第四は、チリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次にアレルゲンに暴露される際に被検者の気管支肺の鬱血を和らげるのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者における気管支肺の鬱血の緩和方法に関するものである。
【0018】
本発明において、アレルゲンを発現する細菌の投与経路は特に制限されず、細菌(乳酸菌)は、通常、一般的な経路で、例えば、経口で、舌下に、または鼻腔内に、投与されるが、好ましくは経口で投与される。
【0019】
また、細菌は、ヨーグルトまたはヨーグルト組成物として投与されることが好ましい。
【0020】
本明細書において、「乳酸菌(lactic acid bacterium)」は、工業的な食品発酵においてその使用が、さらにはその共生特性(probiotic properties)がよく知られているグラム陽性細菌を意味する。なお、本明細書では、乳酸菌を「LAB」とも称する。本発明のLAB及び方法は、アレルギー、特にチリダニに対するアレルギーに対する安全なワクチンを提供するのに使用できる。一般的な人々によって定期的にかつ安全に消費される細菌を使用しているため、このような高い安全性が得られる。
【0021】
本明細書において、「アレルゲン」ということばは、タイプI中間超過敏反応(Type I intermediate hypersensitivity reaction)を引き起こす物質として定義される。
【0022】
また、本明細書において、「空中アレルゲン」ということばは、少なくとも下記特性、即ち、活性レアギン反応を誘発する特異的な抗原系列、及び感受性のある被検者での明らかな組織の変化を引き起こしうるような周囲の暴露レベルを有するものとして定義される。空中アレルゲンは、呼吸器系の、皮膚の、または結膜のアレルギーを引き起こしうる空中を浮揚する粒子である。例えば、ブタクサの花粉の水溶性画分は呼吸器系及び結膜の粘膜に作用し、また、ブタクサの花粉の脂溶性アレルゲンは接触した皮膚に一般的な接触性皮膚炎を引き起こしうる。
【0023】
本明細書において、「共生体(probiotic)」は、宿主の固有のミクロフローラを改善することによって宿主の健康状態に好ましい影響を与える生きた微生物である。生育しうる細菌株を共生体として分類するための一致した選択基準は存在しない。共生細菌及び特定の株を単離、規定するために使用される一般的な基準としては下記がある:(i)ヒトを源とした属;(ii)胆汁、酸、酵素及び酸素に対する安定性;(iii)腸粘膜への付着能;(iv)ヒトの胃腸管における集落形成の潜在能力;(v)抗菌物質の産生;および(vi)明白な有効性及び安全性。
【0024】
本明細書において、「ヨーグルト」または「ヨーグルト組成物」は、ラクトバチルス ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus)及びストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)によってミルク中に乳酸を発酵して得られる凝固ミルク製品として規定される。
【0025】
本明細書において、「形質転換」ということばは、細胞中に技術によって挿入され、その細胞から発達する生物体のゲノムの一部となるDNA配列を含む細胞として定義される。
【0026】
また、本明細書において、「プロモーター」ということばは、例えば、細胞中の異種配列に操作により連結された際に、少なくとも一つの状況(context)で転写を指示する(direct)ことができるヌクレオチド配列をいう。換言すると、プロモーターは、プロモーター配列が異なる状況(context)で異種配列の上流に位置した際の転写を指示できる限り、転写する下流の配列なしで存在できる。
【0027】
本明細書において、「被検者」ということばは、ヒト及び非ヒト動物を包含するものである。被検者としては、具体的には、アレルギー疾患を有する患者などの、ヒトがある。
【0028】
このような本発明によって処置できるアレルギー疾患としては、鼻炎、副鼻腔炎、喘息、過敏性肺炎、外因性アレルギー性肺胞炎、結膜炎、じんま疹、湿疹、皮膚炎、アナフィラキシー、血管性浮腫、アレルギー性頭痛及び片頭痛、ならびにIgEが仲介するアレルギーが関わる胃腸系疾患などが挙げられるが、これらに制限されるものではない。
【0029】
なお、本発明の他の態様または利点は詳細な説明や特許請求の範囲の記載から明らかであろう。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、(1)タンパク質由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターからなるDNA分子を有する形質転換乳酸菌であって、十分量の該乳酸菌の摂取により次に該タンパク質由来のアレルゲンに暴露される際の被検者におけるタンパク質由来のアレルゲンに特異的なIgEの産生が抑制される形質転換乳酸菌;Der p 5を発現する遺伝子からなるDNA分子を有する形質転換ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)細菌またはストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)であって、十分量の該細菌の摂取により次にDer p 5に暴露される際の被検者におけるDer p 5に特異的なIgEの産生が抑制される形質転換ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)細菌ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus);(1)チリダニ由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌または乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次に該アレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法;(1)空中アレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌を被検者に投与し;さらに、次に該空中アレルゲンに暴露される際の被検者における空中アレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量の空中アレルゲンを被検者で発現することからなる、空中アレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法;ならびにチリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次にアレルゲンに暴露される際に被検者の気管支肺の鬱血を和らげるのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者における気管支肺の鬱血の緩和方法に関するものである。
【0031】
本発明の形質転換乳酸菌は、動物モデルにおいてアレルゲンに対する免疫学的なトレランスを誘導でき、ゆえにアレルギー性疾患を治療および/または予防のために処置するためのワクチンとして使用できる。また、本発明の形質転換乳酸菌により誘導されるトレランスは、アレルゲンの暴露に関連する2種の症状である、機能再亢進及び炎症を抑制するため、本発明の形質転換乳酸菌は、気道の炎症または機能亢進の処置に、さらにはアレルゲンに暴露された被検者におけるIgEの産生の抑制に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明は、一以上のタンパク質由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を用いた生アレルゲンワクチンに関するものである。すなわち、本発明の第一は、(1)タンパク質由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターからなるDNA分子を有する形質転換乳酸菌であって、十分量の該乳酸菌の摂取により次に該タンパク質由来のアレルゲンに暴露される際の被検者におけるタンパク質由来のアレルゲンに特異的なIgEの産生が抑制される形質転換乳酸菌に関するものである。本発明の第二は、Der p 5を発現する遺伝子からなるDNA分子を有する形質転換ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)細菌であって、十分量の該細菌の摂取により次にDer p 5に暴露される際の被検者におけるDer p 5に特異的なIgEの産生が抑制される形質転換ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)細菌に関するものである。本発明の第三は、Der p 5を発現する遺伝子からなるDNA分子を有する形質転換ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細菌であって、十分量の該細菌の摂取により次にDer p 5に暴露される際の被検者におけるDer p 5に特異的なIgEの産生が抑制される形質転換ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細菌に関するものである。本発明の第四は、(1)チリダニ由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌を被検者に投与し;さらに、次に該アレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法に関するものである。本発明の第五はチリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次に該アレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法に関するものである。本発明の第六は、(1)空中アレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌を被検者に投与し;さらに、次に該空中アレルゲンに暴露される際の被検者における空中アレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量の空中アレルゲンを被検者で発現することからなる、空中アレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法に関するものである。本発明の第七は、チリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次にアレルゲンに暴露される際に被検者の気管支肺の鬱血を和らげるのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者における気管支肺の鬱血の緩和方法に関するものである。なお、適当なタンパク質由来のアレルゲン、乳酸菌、または適当なプロモーター等の発現ベクターの使用は、本発明の概念に含まれる。
【0033】
本発明において、特定のアレルギーを処置するために発現される特異的なアレルゲンは、望ましくない免疫反応がタンパク質アレルゲンを標的にしているか否かに依存するであろう。免疫反応の引き金になるタンパク質アレルゲンを同定すれば、当業者は、アレルゲンをコード化するヌクレオチド配列をミルクに特異的な発現ベクター中にクローニングすることができる。この発現ベクターは、さらに、乳酸菌中に導入された後、次に起こるべき症状(例えば、皮膚の炎症または気管支肺の炎症)を改善するまたは予防するために個体に投与される。
【0034】
本発明において、このようなアレルゲンは、どのようなアレルゲンでもよく、特に制限されるものではない。具体的には、上記したのと同様である。
【0035】
ここで、気道の機能再亢進を評価、定量するための実験的なプロトコルを以下に説明する。なお、気管支肺の炎症を評価する他の方法は当該分野において既知である。アレルギー性喘息は、気道の機能再亢進及び炎症の双方の特徴を有する。気道の機能再亢進は肺のテスト(侵襲性または非侵襲性方法)の変化によって測定できる。また、気道の炎症は、気道の炎症細胞、特に好酸球及び好中球の浸潤によって、および病理の変化によって測定できる。
【0036】
場合によっては、単一のタンパク質由来のアレルゲンを同定する必要がない場合もある。例えば、単一の源由来の複数のタンパク質アレルゲンを、その源に対する免疫学的なトレランスを誘導する(例えば、様々なアレルギー性タンパク質から構成される、貝などの、食物に対するアレルギーを処置する)のに使用できる。このような複数のアレルゲンは、(一以上のDNAベクターを用いて)同一の細菌内で、または異なる細菌内で発現させることができるが、この際、それぞれは同一の源由来の異なるアレルゲンを発現する。このような状況下では、当業者は、別々のアレルゲン源やその源に存在する2以上のアレルギー性タンパク質を知ればよいのである。
【0037】
乳酸菌は、遺伝子操作をすることができ、また、異種タンパク質を発現させることができる限り、特に制限されることなく、いずれの乳酸菌をも本発明において使用できる。例えば、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)に属する幾つかの適当な種が、Pouwels et al., J. Biotechnol. 44:183-192, 1996に記載される。
【0038】
本発明において、乳酸菌は、特に制限されるものではなく、公知の乳酸菌が使用できる。具体的には、上記したのと同様である。
【0039】
本明細書に記載される実験的な知見により、乳酸菌(LAB)中に発現ベクターを確立することができた。最も一般的な発現ベクターは、LABでは適当ではない。これは、幾つかのプロモーターのみがLAB中で作動できるからである。これらのプロモーターは、構成プロモーターであることが好ましい、即ち、遺伝子によってコード化されたアレルゲンの発現を構成的に誘導(constitutively drive)できることが好ましい。このようなアレルゲン遺伝子は、臨床上重要なアレルゲン、特に空中アレルゲンであってもよい。本発明は、アレルゲンに特異的なIgEの合成を抑制することによってアレルギー性の炎症をダウンレギュレーションすることができる。したがって、本方法は、IgEが仲介するアレルギー疾患を処置することができる。本発明において、生ワクチンは、ヨーグルト等の消費可能なまたは食用の形態を有する一以上の共生体を含んでもよい。
【0040】
本発明において、細菌中でアレルゲンを発現させるのに使用できるプロモーターは、細菌細胞で所望のアレルゲンの発現を指示できるものであれば特に制限されるものではないが、一般的には構成プロモーター(constitutive promoter)であり、例えば、エリストマイシン耐性プロモーター、IdhLプロモーター、及びP25プロモーターなどが挙げられる。
【0041】
アレルゲンのさらなる討論及びこれらの生理学的な効果に関しては、Aas et al., Allergy 33:3, 1978; Goldin et al., Br. J. Nut. 80:S203-S207, 1998; 及び Kailasapathy et al., J. Immunol. Cell Biol. 78:80-88, 2000を参照。
【0042】
さらに詳述するものではないが、当業者は、上記開示及び下記に記載される形質転換ミルクを用いた有効な処置の開示に基づいて、本発明を十分使用できるものである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の実施例により具体的に説明する。下記実施例は、当業者がどのようにして生細菌ワクチンを生産する形質転換動物を製造、使用するかを単に詳細に説明するものであり、本発明を制限するものではない。ここで開示されるすべての文献、公報などは参考のためにここに引用される。
【0044】
実施例1
1.方法および材料
<DNAの操作>
ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)及びラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)中でDer p 5を発現させるためのプロモーターを得るために、2種のDNA断片をPCRによって形成した。このPCRに使用されたプライマーは下記のとおりであった。プライマーPUC1233は、pLP3537における4119〜4096番目のヌクレオチドに相補的であり、配列:CTTACGTCA CGTCTTGCGC(配列番号1)を有する。なお、pLP3537及びそのヌクレオチドの番号は、Posno et al., Appl. Env. Microbiol. 57:2764,2766, 1991に記載される。また、プライマーpSDは、pLP3537の3658〜3679番目のヌクレオチドと同じであり、配列:AGATCTCCCTCTTTAAT TTGGTTATATG(配列番号2)を有する。プライマーpSDの5’末端にさらに6個のヌクレオチドを設計して、得られたPCR断片中にBglII部位を作製した。
【0045】
各PCR反応混合物は、約0.1μgのプラスミドpLP3537、0.25μgの各プライマー、0.2mMのデオキシリボヌクレオシド3リン酸、1UのTaq DNAポリメラーゼ、10mMのTris−HCl(pH8.3)、50mMのKCl、1.5mMのMgCl2、及び0.01%(w/v)のゼラチンを含んだ。増幅は、ミニサイクラー(MiniCycler)(MJ Research; Watertown, MA)を用いて、94℃で1分間、55℃で2分間、及び72℃で2分間を30サイクル行なった。これらの反応によって、プライマーを含む0.4kbのDNA断片が得られた。このDNAをHindIII(プライマーpSD中に存在する部位)及びBglIIで処理し、アガロースゲルで精製した。これらのDNA断片を、HindIIIで直線状にされたプラスミドpLP3537及びpCMVDの405bpのHindIII/BglII断片と連結した。なお、pCMVDは、Hsu et al., Nature Medicine 2:540-544, 1996に記載される。このようにして得られたプラスミドpSDDerp5は、Der p 5をコード化するcDNA配列に融合した断片を含み、これを増幅した。
【0046】
<形質転換>
細菌株に、Walker et al., FEMS Microbiol. Lett. 138:233-237, 1996に記載される方法を用いてエレクトロポレーションによって形質転換した。このようにしてpSDDerp5が形質転換された乳酸菌について、形質転換されたラクトバチルス アシドフィルス(L. acidophilus)では「LA−gm」と、ストレプトコッカス サーモフィルス(S. thermophilus)では「ST−gm」と、それぞれ、称した。形質転換されなかった細菌は、それぞれ、「LA」及び「ST」と称した。
【0047】
<細菌の培養>
ラクトバチルス アシドフィルス(L. acidophilus)(ATCC 4356)を、MRSブロス及び寒天で37℃で培養した。大腸菌株DH5α(E. coli strain DH5α)は、LBブロス及び寒天で37℃に維持した。抗生物質であるアンピシリン及びエリスロマイシンをSigma (St. Louis)より購入した。大腸菌(E. coli)の選択のために、アンピシリン及びエリスロマイシンを、それぞれ、50μg/ml及び50〜100μg/mlの濃度で使用した。また、ラクトバチルス アシドフィルス(L. acidophilus)の選択では、エリスロマイシンを5μg/mlの濃度で使用した。さらに、ストレプトコッカス サーモフィルス(S. thermophilus)(これもATCCから得た)を、ラクトバチルス アシドフィルス(L. acidophilus)の場合と同様にして、培養、処理した。
【0048】
<動物の研究>
6及び8週齢の、メスのBALB/cマウスを、College of Medicine, National Taiwan University (The Jackson Laboratory, Bar Harbor, ME.から創設)の動物飼育センター(animal-breeding center)から得た。これらのマウスを各実験用に6群に分けた(表1)。
【0049】
【表1】

【0050】
Lin et al., J. Allergy Clin. Immunol. 94:989-996, 1994に記載されるのと同様にして精製された組み換えDer p 5 10μgを腹腔内に注射することによって、動物を能動的に感作した。マウスには、2週間にわたって、毎週3日間、LA−gmまたはST−gm LABを経口摂取させた。感作してから21日目に、動物に、20分間、0.1%のDer p 5−グルタチオンSトランスフェラーゼ融合タンパク質をまたはPBSのエアロゾルを暴露した。吸入によるチャレンジから8時間後に、肺の耐性を50分間測定し、気管支肺胞洗浄液(BALF)及び血清を集めた。
【0051】
<Der p 5に特異的なIgG2a及びIgEの測定>
Der p 5に特異的なIgG2a及びIgEの量を、Hsu et al., Int. Immunol. 8:14051411, 1996に記載されるのと同様にしてELISAによって測定した。タンパク質結合プレートを、Hsu et al., Nature Medicine 2:540-544, 1996に記載されるのと同様にして、コーティングバッファー(0.1M NaHCO3、pH8.2)における精製Der p 5溶液(5μg/ml)100μlで被覆した。4℃で一晩、インキュベートした後、プレートを3回洗浄して、25℃で2時間、PBSにおける3%(w/v)BSAでブロッキングした。試験動物の血清を、IgGの測定用では1:100に、また、IgEの測定用では1:10に、それぞれ、希釈した。各サンプルを2連で分析した。4℃で一晩、インキュベートした後、ビオチン共役ラット抗マウスIgE(biotin-conjugated rat anti-mouse IgE)(Pharmingen, San Diego, CA)またはラット抗マウスIgG2a(Pharmingen)のいずれかを0.05%ゼラチンバッファーで希釈し、さらに1時間かけて、各試験ウェルに添加した。アビジン−アルカリホスファターゼ(Sigma Chemical Co., St Louis, MO)を1:1000に希釈し、ウェルに添加して、25℃で1時間、インキュベートした。次に、これらのウェルを6回洗浄した。
【0052】
呈色反応を、p−ニトロフェニルホスフェート2ナトリウム(p-nitrophenylphosphate, disodium)(Sigma)を添加することによって発色させた。プレートを、405nmでマイクロプレートリーダー(microplate reader)(Metertech, Taiwan)で読んだ。読み取りは、4mgの水酸化アルミニウムにおける10μgのDer p 5を初めに腹腔内に注射し、同じ投与量及び配合で21日目に追加投与した(boost)、6匹のマウスから集めた標準血清を参考にした。この標準シグナル(抗体の応答に関するポジティブコントロール)を、100ELISA単位/mlに標準化した(図1参照)。
【0053】
<気道の応答性を測定するための非侵襲性の方法>
気圧計による全身の体積変動記録法(barometric whole body plethysmography)(WBP)(Buxco, Troy, NY, USA)を用いて、意識のある、拘束されていないマウスにおける吸入されたメタコリンに対する応答を、Hamelmann et al., Am. J. Respir. crit. Care Med. 156:766-775, 1997に記載されるのと同様にして、測定した。メタコリンは、気道の耐性を向上することが知られている薬剤である。読み取る前に、メインのチャンバー中に1mlの空気を迅速に注入して、ボックスを較正し、WBPから1mvのシグナルを得た。ボックスの圧力(box pressure)/時間の曲線が0ポイントを横切ったら、吸気をスタートとし呼気を終わりとすることを確立することによって、吸気及び呼気を記録した。吸気の開始を、ボックスの圧力シグナルの上昇吸気相の2レベルから得られる直線から外挿することによって決定した。吸気の時間(TI)を、吸気の開始から吸気の終了までの時間として規定した;また、呼気の時間(Te)を、吸気の終了から次の吸気の開始までの時間として規定した。ネガティブまたはポジティブな方向で1回の呼吸中に生じる最大のボックス圧力シグナルは、それぞれ、ピーク吸気圧力(peak inspiratory pressure)(PIP)またはピーク呼気圧力(peak expiratory pressure)(PEP)として規定された。10回の呼吸毎の記録を外挿して、1分当たりの呼吸の呼吸数を規定した。休止時間(Tr)を、全体の呼気の圧力シグナル(呼気中のボックス圧力シグナル下での領域)の36%に到達する時間として規定した。この閾値は、受動的な呼気でのピーク容積の36%減衰に対する容積シグナルの減衰の時間定数の相間関係として機能する。Pause及び向上した休止(enhanced pause)(Penh)は、下記式によって規定、算出される。
【0054】
【数1】

【0055】
気道の応答性の指数として、Penhの増加を測定した。マウスを得て、3分間、平均をとった(average)。ガス形成した生理食塩水(aerosized saline)を、メタコリンの濃度を上げた(1〜100mg/mlの範囲)後、ネブライザーで噴霧し、3分間、吸収させた。各噴霧後に、読み取りを行なった後、3分間、平均をとった。気道の応答性は、メタコリンの投与毎のPenhとして表わした。
【0056】
<気管支肺胞洗浄液(BALF)におけるサイトカインの評価>
上記したのと同様にして肺の機能を測定した後、マウスにカニューレを挿入して、気管切開により導入されたポリエチレンチューブにより0.9%滅菌生理食塩水の0.5mlのアルコートで5回、洗浄した。この洗浄液を遠心(4℃で10分間、500g)して、細胞ペレットを0.5mlのハンクス液中に再懸濁した。90μlの0.4%トリパンブルーに10μlの細胞懸濁液を添加し、ニューバウアーチャンバー(Newbauer chamber)内で光学顕微鏡で計測することによって、全細胞数を得た。識別した細胞の計測を、ロイ染色(Leu's stain)によって染色されたサイトスピン(cytospin)調製物から行なった。細胞を同定し、標準的な形態学的な差異を肉眼で検査することによって、好酸球、リンパ球、好中球、及びマクロファージに分類した。500個の細胞を400倍の倍率で計測して、各細胞型の割合(%)及び絶対数(absolute number)を算出した。
【0057】
BALF中のサイトカインレベルをELISAによって測定し、組み換えサイトカインに関する標準曲線を用いてpg/mlで表わした。捕捉及びビオチン化に関するモノクローナル抗体(monoclonal Ab)は、下記のとおりであった:R4−6A2(INF−γに関する捕捉抗体(capture antibody)の名称)及びXMG1.2(INF−γに関するビオチン化の名称)、これらは、PharMingen, San Diego, CAより市販;ならびに11B11(IL−4に関する捕捉抗体(capture antibody)の名称)及びBVD6(IL−4に関するビオチン化の名称)、これらは、PharMingenより市販。なお、検出限界は、18pg/mlであった。
【0058】
<統計学的分析>
ANOVAを行ない、群間の相違を比較した。分散分析後、ダンカン複数範囲テスト(Duncan multiple range test)を用いて、実験群及びコントロール群間の相違を識別した。p<0.05を用いて、統計学上有意な相違を示した。
【0059】
2.結果
<インビボでのアレルゲンに特異的なIgE応答の阻害>
賦形剤(非組み換え細菌)、pSDDerp5を形質転換された細菌、及び組み換えDer p 5を投与されたマウスを、1週間、アレルゲンとしてのDer p 5で腹腔内で感作した後、感作してから3週間目に吸入によりワクチンを投与、チャレンジした。アレルゲンのチャレンジから3週間目の血清における抗Der p 5 IgEの存在を、ELISAを用いてアッセイした。これらの結果を図1に要約する。Der p 5に特異的なIgEは、賦形剤で処置した群に比して有意に増加した。これに対して、pSDDerp5で処置したマウスは、Der p 5に特異的なIgEの合成を80%以上阻害していることが示された。別の実験で、Der p 2をチャレンジしたpSDDerp5処置マウスは依然としてDer p 2に特異的なIgEを産生していたことから、遺伝子により修飾された乳酸菌によるIgE合成の阻害はDer p 5アレルゲンに特異的であることが分かった。したがって、アレルゲンを発現する乳酸菌を直接経口摂取することによって、アレルゲンに特異的なIgEの産生は効率良く阻害できた。さらに、このような抑制効果は、組み換えアレルゲン単独(図1におけるC群参照)の経口摂取に比べて非常に優れており、また、ワクチンに組み換えアレルゲンを含ませても、アレルゲンを発現する細菌単独を経口投与する効果を測定可能なレベルには向上しなかった(図1におけるB群及びD群を比較)。なお、実験群の中でDer p 5に特異的なIgG2aの産生の有意な差異は認められなかった。
【0060】
<インビボでの気道の機能再亢進(AHR)の抑制>
生乳酸菌ワクチンの効能及び特異性を気道(気管支肺)の機能再亢進の測定を用いて評価した。ガス形成したメタコリンに対する気道の応答性を、意識のある、拘束されていないマウスで最後の吸入によるチャレンジを行なってから8時間、インビボで測定した。すべてのマウスについて、1〜100mg/mlの範囲のメタコリンに対して完全な用量反応曲線(dose-response)が得られた。すべてのマウス群で、基礎的なPenh値及び生理食塩水エアロゾル誘導Penh値において、有意な差異は認められなかった。ネガティブなワクチンコントロール動物(A群、C群、及びE群)では、Der p 5によるチャレンジによって、ベースラインに比してメタコリンに対する気道の応答性の有意な上昇が誘導された。これに対して、LA−gmまたはST−gmによる処置(B群、D群、及びF群)では、10〜100mg/mlのメタコリンの投与量で、AHRが有意に阻害された(図2)。したがって、Der p 5で誘導されるAHRは、アレルゲンを発現する乳酸菌の投与によって、排除できる。
【0061】
メタコリンによるチャレンジ後の気道の耐性の向上は、気道の機能亢進(hyperactivity)と相間する。細胞の浸潤(例えば、好中球及び好酸球の浸潤)の増加は、気道の炎症と相間する。気道の機能亢進及び炎症は双方とも、アレルギー性喘息の特徴である。
【0062】
<気管支肺の細胞数に関するワクチン効果>
チャレンジ後の気管支肺洗浄液(BALF)中の細胞数を、アレルゲンの暴露に応答した気管支肺管への細胞浸潤の測定結果として用いた(図3)。アレルゲンを発現する細菌を投与した動物(B群及びD群)のBALFにおける好酸球及び好中球の数は、賦形剤で処置したA群及び組み換えアレルゲンで処置したC群に比して、有意に少なかった。マクロファージ及びリンパ球の数は、これらの実験群で有意な差異は認められなかった。したがって、Der p 5のチャレンジによって好酸球及び好中球の浸潤が誘導されるが、このような浸潤は生乳酸菌ワクチンによって有意に阻害できることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】は、アレルゲンでチャレンジされた様々な動物群におけるアレルゲンに特異的なIgE及びIgGを示す棒グラフである。この際、動物群A〜Fの組成を表1に示す。値は、平均値±SEM(n=6)として表わされる。また、図中、アスタリスク(*)は、p<0.01の統計学的な有意性を表わす。
【図2】は、異なるワクチンを投与され、様々な濃度のメタコリン(Mch)で処置された動物のPenhを示す棒グラフである。この際、値は、平均値±SEM(n=3)として表わされる。また、図中、アスタリスク(*)は、p<0.05の統計学的な有意性を表わす。
【図3】は、異なるワクチンを投与され、アレルゲンをチャレンジされた動物における様々な型の白血球の数を示す棒グラフである。この際、値は、平均値±SEM(n=6)として表わされる。また、図中、アスタリスク(*)は、p<0.05の統計学的な有意性を表わす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)タンパク質由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターからなるDNA分子を有する形質転換乳酸菌であって、十分量の該乳酸菌の摂取により次に該タンパク質由来のアレルゲンに暴露される際の被検者におけるタンパク質由来のアレルゲンに特異的なIgEの産生が抑制される形質転換乳酸菌。
【請求項2】
該乳酸菌は、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)に属する、請求項1に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項3】
該乳酸菌は、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)である、請求項2に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項4】
該乳酸菌は、ストレプトコッカス属(genus Streptococcus)に属する、請求項1に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項5】
該乳酸菌は、ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)である、請求項4に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項6】
該タンパク質由来のアレルゲンは、チリダニ由来のアレルゲンである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項7】
該チリダニは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)である、請求項6に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項8】
該アレルゲンは、Der p 5である、請求項7に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項9】
該プロモーターは、構成プロモーターである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の形質転換乳酸菌。
【請求項10】
Der p 5を発現する遺伝子からなるDNA分子を有する形質転換ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)細菌であって、十分量の該細菌の摂取により次にDer p 5に暴露される際の被検者におけるDer p 5に特異的なIgEの産生が抑制される形質転換ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)細菌。
【請求項11】
Der p 5を発現する遺伝子からなるDNA分子を有する形質転換ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細菌であって、十分量の該細菌の摂取により次にDer p 5に暴露される際の被検者におけるDer p 5に特異的なIgEの産生が抑制される形質転換ストレプトコッカス サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)細菌。
【請求項12】
(1)チリダニ由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌を被検者に投与し;さらに、次に該アレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法。
【請求項13】
該細菌は、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(genus Streptococcus)、またはビフィドバクテリウム属(genus Bifidobacterium)に属する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
該細菌は、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)に属する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
該細菌は、ラクトバチルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該チリダニ由来のアレルゲンは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、デルマトフィルス ミクロセラス(Dermatophagoides microceras)、ケナガコナダニ(Tyrophagus putesentiae)、レピドグリファス ドメスチカス(Lepidoglyphus domesticus)、レピドグリファス デストラクター(Lepidoglyphus destructor)、アカラス シロ(Acarus siro)、ユーログリファス マイネイ(Euroglyphus maynei)、またはビオミア トロピカリス(Biomia tropicalis)由来のアレルゲンである、請求項12〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
該チリダニ由来のアレルゲンは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)由来のアレルゲンである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
該アレルゲンは、タンパク質由来のアレルゲンである、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
該アレルゲンは、Der p 5アレルゲンである、請求項12〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
該プロモーターは、構成プロモーターである、請求項12〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
該細菌は、経口で投与される、請求項12〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
該細菌は、ヨーグルトとして投与される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
チリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次に該アレルゲンに暴露される際の被検者におけるアレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法。
【請求項24】
該チリダニ由来のアレルゲンは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、デルマトフィルス ミクロセラス(Dermatophagoides microceras)、ケナガコナダニ(Tyrophagus putesentiae)、レピドグリファス ドメスチカス(Lepidoglyphus domesticus)、レピドグリファス デストラクター(Lepidoglyphus destructor)、アカラス シロ(Acarus siro)、ユーログリファス マイネイ(Euroglyphus maynei)、またはビオミア トロピカリス(Biomia tropicalis)由来のアレルゲンである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
該チリダニ由来のアレルゲンは、デルマトフィルス属(Dermatophagoides genus)に属するチリダニ由来のアレルゲンである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
該細菌は、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)に属する、請求項23〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
該細菌は、経口で投与される、請求項23〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
該細菌は、ヨーグルト組成物として投与される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
該被検者は、ヒトである、請求項23〜28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
(1)空中アレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌を被検者に投与し;さらに、次に該空中アレルゲンに暴露される際の被検者における空中アレルゲンに特異的なIgEの産生を抑制するのに十分な量の空中アレルゲンを被検者で発現することからなる、空中アレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生の抑制方法。
【請求項31】
チリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌を被検者に投与し;さらに、次にアレルゲンに暴露される際に被検者の気管支肺の鬱血を和らげるのに十分な量のアレルゲンを被検者で発現することからなる、チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者における気管支肺の鬱血の緩和方法。
【請求項32】
該細菌はラクトバチルス属(genus Lactobacillus)に属し、かつ該チリダニ由来のアレルゲンはヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)由来のアレルゲンである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生を抑制するのに使用される、(1)チリダニ由来のアレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌。
【請求項34】
空中アレルゲンに暴露される被検者におけるIgEの産生を抑制するのに使用される、(1)空中アレルゲンをコード化するヌクレオチド配列および(2)該ヌクレオチド配列に操作可能に連結されるプロモーターを有する非病原性のグラム陽性細菌。
【請求項35】
チリダニ由来のアレルゲンに暴露される被検者における気管支肺の鬱血を緩和するのに使用される、チリダニ由来のアレルゲンを発現する乳酸菌。
【請求項36】
該細菌は、ラクトバチルス属(genus Lactobacillus)、ストレプトコッカス属(genus Streptococcus)、またはビフィドバクテリウム属(genus Bifidobacterium)に属する、請求項33〜35のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項37】
該チリダニ由来のアレルゲンは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、デルマトフィルス ミクロセラス(Dermatophagoides microceras)、ケナガコナダニ(Tyrophagus putesentiae)、レピドグリファス ドメスチカス(Lepidoglyphus domesticus)、レピドグリファス デストラクター(Lepidoglyphus destructor)、アカラス シロ(Acarus siro)、ユーログリファス マイネイ(Euroglyphus maynei)、またはビオミア トロピカリス(Biomia tropicalis)由来のアレルゲンである、請求項33、35または36に記載の細菌。
【請求項38】
該チリダニ由来のアレルゲンは、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)由来のアレルゲンである、請求項37に記載の細菌。
【請求項39】
該アレルゲンは、Der p 5アレルゲンである、請求項33〜38のいずれか1項に記載の細菌。
【請求項40】
該プロモーターは、構成プロモーターである、請求項34または39に記載の細菌。
【請求項41】
請求項33〜40のいずれか1項に記載の細菌を含むヨーグルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−100751(P2009−100751A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312789(P2008−312789)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【分割の表示】特願2002−2611(P2002−2611)の分割
【原出願日】平成14年1月9日(2002.1.9)
【出願人】(501484057)ゲンモント バイオテクノロジー コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】GENMONT BIOTECHNOLOGY CO.
【Fターム(参考)】