説明

アレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材

【課題】安全性の高い天然物から、アレルゲンを不活性化する物質を見出し、それを利用したアレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材を提供する。
【解決手段】アレルゲン不活性化剤に、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを有効成分として含有せしめる。また、アレルゲン不活性化材は、担体と、担体に保持されたタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材に関し、特にI型アレルギー性疾患を引き起こすアレルゲンを不活性化することのできるアレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生活環境の変遷に伴い、アレルギー症状を引き起こす原因物質であるアレルゲンが四季を問わず存在するようになっている。特に、スギ花粉やヒノキ花粉を代表とする花粉による春先の花粉症患者は年々増加の一途を辿り、国民の10%にも及んでおり、それらのうちの大多数はスギ花粉に対してI型アレルギー反応を示している。
【0003】
花粉症の対策は、花粉との接触を避けることを基本としており、マスクや眼鏡等を使用することにより花粉との接触を避ける方法が主流となっているが、花粉との接触を完全に避けるのは困難である。したがって、人々の生活環境において、花粉アレルゲンを根本的に排除し得る技術が求められている。
【0004】
花粉アレルゲンを根本的に排除し得る技術として、従来、花粉アレルゲンを不活性化する技術が種々提案されている。例えば、花粉アレルゲン不活性化用スプレー(特許文献1参照)、花粉アレルゲンを吸着し不活性化するフィルター(特許文献2参照)、熱、アルカリ、酸又はプロテアーゼの存在下に花粉アレルゲンを維持することにより花粉アレルゲンを不活性化する方法(特許文献3,4参照)、柿抽出物を含むハウスダスト処理剤(特許文献5参照)等が提案されている。
【0005】
また、近年、室内環境の快適化と引き換えにダニ類の繁殖が助長されており、屋内でのダニ類の繁殖に伴い、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等のチリダニ科ヒョウヒダニ属に属するダニをアレルゲンとするアレルギー性疾患が問題となっている。これらのダニは、アレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患の一因と考えられている。
【0006】
ダニをアレルゲンとするアレルギー性疾患の対策としては、アレルゲンであるダニを駆除して、ダニを生活環境中から排除することが考えられる。しかしながら、ダニを駆除したとしても、ダニの死骸、ダニの糞からも強力なアレルゲン物質が生活環境中に放出されるため、ダニアレルゲンを根本的に排除することができず、ダニによるアレルギー性疾患を解決することは困難である。したがって、生活環境中からダニアレルゲン(ダニ、ダニの死骸及び糞等)を根本的に排除する技術が求められている。
【0007】
従来、ダニアレルゲンを根本的に排除する技術として、ローズマリー抽出物を含浸させた多孔性吸着剤を屋内に散布し、数時間経過後に電気掃除機により吸引する技術(特許文献6参照)等が提案されている。
【特許文献1】特開2002−128659号公報
【特許文献2】特開2000−5531号公報
【特許文献3】特開2003−180865号公報
【特許文献4】特開2004−89673号公報
【特許文献5】特開2002−128680号公報
【特許文献6】特開平6−256128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性の高い天然物から、花粉アレルゲン又はダニアレルゲンを不活性化する物質を見出し、それを利用したアレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、第1に本発明のアレルゲン不活性化剤は、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを有効成分として含有することを特徴とする。上記アレルゲン不活性化剤の不活性化対象としては、花粉アレルゲン及び/又はダニアレルゲンであるのが好ましい。
【0010】
第2に本発明のアレルゲン不活性化材は、担体と、前記担体に保持されたタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンとを含むことを特徴とする。上記アレルゲン不活性化材の不活性化対象としては、花粉アレルゲン及び/又はダニアレルゲンであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のアレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材は、花粉アレルゲンを不活性化することができ、これにより、花粉アレルゲンにより引き起こされる花粉症を予防、治療又は改善することができるとともに、ダニアレルゲンを不活性化することができ、これにより、ダニアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患を予防、治療又は改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。
〔アレルゲン不活性化剤〕
本発明のアレルゲン不活性化剤は、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを有効成分として含有する。なお、本発明のアレルゲン不活性化剤の不活性化対象としては、例えば、花粉アレルゲン、ダニアレルゲン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明において「タマリンドからの抽出物」には、タマリンドを抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0014】
本発明のアレルゲン不活性化剤の有効成分であるタマリンドからの抽出物は、抽出原料としての植物であるタマリンド(学名:Tamarindus indica L.)を用いた抽出処理により得ることができる。
【0015】
タマリンド(Tamarindus indica L.)は、熱帯アフリカ原産で、熱帯地方で広く栽培されているマメ科タマリンドゥス属に属する半常緑性の高木であり、これらの地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るタマリンドの構成部位としては、例えば、葉部、幹部、樹皮部、枝部、果実部、種子部、種皮部、根部等が挙げられるが、好ましくは種皮部(別名:タマリンドハスク)である。タマリンドハスクは、タマリンドの種子の胚乳部分から得られる多糖類であり、増粘剤として広く食品分野で利用されているタマリンドガムの製造に際し廃棄される硬い種皮部であり、従来、その一部がタンニン製造の原料として利用されている。
【0016】
タマリンドからの抽出物に含まれるアレルゲン不活性化作用を有する物質の詳細は不明であるが、植物の抽出に一般に用いられている抽出方法によって、タマリンドからアレルゲン不活性化作用を有する抽出物を得ることができる。
【0017】
例えば、抽出原料である植物を乾燥した後、そのまま又は粉砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより、アレルゲン不活性化作用を有する抽出物を得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0018】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用するのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0019】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0020】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0021】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90容量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40容量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10容量部に対して多価アルコール1〜90容量部を混合することが好ましい。
【0022】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液は、該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、該抽出液の乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0023】
精製は、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、イオン交換樹脂処理等により行うことができる。得られた抽出液はそのままでもアレルゲン不活性化剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0024】
本発明のアレルゲン不活性化剤の有効成分である柿タンニンは、柿渋を精製処理に付することにより得ることができる。なお、柿タンニンを含む柿渋もアレルゲン不活性化作用を有するため、本発明のアレルゲン不活性化剤の有効成分として使用し得るが、柿渋を精製処理に付して柿タンニンの純度を高めることで、アレルゲン不活性化剤のアレルゲン不活性化作用をより向上させることができる。
【0025】
柿渋は、本州、四国、九州等に広く分布する落葉高木であるカキノキ科カキノキ属に属する柿(学名:Diospyros kaki L.)の果実のうち、甘柿の未成熟の果実や渋柿の果実の圧搾液又は搾汁液として得ることができるが、柿渋の含有量の多い渋柿の果実を圧搾又は搾汁して得られるものの方が好ましい。精製処理に付される柿渋は、これらの圧搾液又は搾汁液であってもよいし、これらの粗精製物等であってもよい。
【0026】
柿渋の精製は、まず、柿渋と合成高分子吸着樹脂とを接触させて、柿渋に含まれる柿タンニンを合成高分子吸着樹脂に吸着させる。
【0027】
合成高分子吸着樹脂としては、非極性又は中間極性の樹脂であるのが好ましく、例えば、ダイヤイオンHP−10、ダイヤイオンHP−20、ダイヤイオンHP−30、ダイヤイオンHP−40、ダイヤイオンHP−50(いずれも三菱化成社製)、アンバーライトXAD−2、アンバーライトXAD−4(いずれもローム・アンド・ハース社製)、レバチットOC−1031(バイエル社製)等のスチレン・ジビニルベンゼン系共重合体を樹脂母体とするもの;又はアンバーライトXAD−7、アンバーライトXAD−8(いずれもローム・アンド・ハース社製)等のポリアクリル酸エステルを樹脂母体とするもの等が挙げられる。
【0028】
柿渋と接触させる樹脂量は、柿渋の乾燥固形分量の2〜20倍量(質量基準)であるのが好ましい。樹脂量が2倍量未満であると、柿タンニンが樹脂に十分に吸着されることなく漏洩してしまうおそれがあり、樹脂量が20倍量を超えると、不純物の吸着量が多くなり、純度の高い柿タンニンを得るのが困難となるおそれがある。そのため、樹脂量を上記範囲内とすることで、柿渋に含まれる柿タンニンを効率よく採取することができる。
【0029】
柿渋と樹脂とを接触させる方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、バッチ法、カラム法等が挙げられるが、操作性及び処理効率の観点から、カラム法が好ましい。
【0030】
次に、柿タンニンが吸着した樹脂から、柿タンニンを溶出させる。樹脂から柿タンニンを溶出させる方法は、特に限定されるものではなく、例えば、柿タンニンを吸着した樹脂が充填されているカラムに、水及びアルコールをその順で通液して、柿タンニンを溶出させる。これにより、柿タンニンが、アルコール画分として得られる。
【0031】
溶出液として使用し得るアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール又はそれらの水溶液等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。低級脂肪族アルコールの水溶液を溶出液として使用する場合、含水率を50容量%以下とするのが好ましく、30容量%以下とするのがより好ましい。溶出液の含水率が50容量%を超えると、柿タンニンの収率が低下するおそれがある。
【0032】
さらに、上記のようにして得られたアルコール画分を、対固形10〜100%の活性炭に10〜30℃の温度条件下で1〜10時間接触させることにより、アルコール画分に含まれる低分子ポリフェノール等の不純物を吸着除去し、柿タンニンを含有する脱色液を得ることができる。このようにして得られた脱色液を濃縮し、必要に応じて噴霧乾燥、凍結乾燥等することで、濃縮液状又は粉末状の精製された柿タンニンを得ることができる。
【0033】
以上のようにして得られるタマリンドからの抽出物又は柿タンニンは、アレルゲン不活性化作用を有しているため、その作用を利用してアレルゲン不活性化剤の有効成分として用いることができる。
【0034】
本発明のアレルゲン不活性化剤は、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンのみからなるものであってもよいし、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを製剤化したものであってもよい。
【0035】
タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンは、他の組成物(化粧料組成物等)に配合して使用することができるほか、軟膏剤、外用液剤、点眼剤、点鼻剤等として使用することもできる。
【0036】
本発明のアレルゲン不活性化剤は、タマリンドからの抽出物及び柿タンニンのいずれか一方を有効成分として含有していてもよいし、これらを組み合わせて有効成分として含有していてもよい。これらを組み合わせてアレルゲン不活性化剤に有効成分として含有せしめる場合には、その配合比は特に限定されるものではなく、これらの生理活性の強さ等に応じて適宜調整することができる。
【0037】
本発明のアレルゲン不活性化剤におけるタマリンドからの抽出物又は柿タンニンの濃度は、特に限定されるものではないが、0.001〜0.1質量%であるのが好ましい。特に本発明のアレルゲン不活性化剤における不活性化対象が花粉アレルゲンである場合、後述する実施例に示すように、0.01〜0.1質量%、特に0.1質量%以上と高濃度であれば、より優れた花粉アレルゲン不活性化作用を発揮することができ、0.001〜0.01質量%と低濃度であっても十分な花粉アレルゲン不活性化作用を発揮することができる。また、本発明のアレルゲン不活性化剤における不活性化対象がダニアレルゲンである場合には、後述する実施例に示すように、0.01質量%以上であるのがより好ましく、0.1質量%以上であるのが特に好ましが、低濃度(0.001質量%程度)であっても十分なダニアレルゲン不活性化作用を発揮することができる。
【0038】
本発明のアレルゲン不活性化剤は、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンが有する花粉アレルゲン不活性化作用を通じて、I型アレルギー性疾患を引き起こす花粉アレルゲンを不活性化し、花粉アレルゲンにより引き起こされる花粉症を予防、治療又は改善することができるとともに、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンが有するダニアレルゲン不活性化作用を通じて、I型アレルギー性疾患を引き起こすダニアレルゲンを不活性化し、ダニアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患を予防又は改善することができる。
【0039】
花粉アレルゲンは、I型アレルギー性疾患を引き起こす作用を有する花粉であれば特に限定されるものではなく、例えば、スギ花粉、ヒノキ花粉、ブタクサ花粉、カモガヤ花粉等が挙げられ、本発明の花粉アレルゲン不活性化剤は、特にスギ花粉に対して有効である。
【0040】
また、ダニアレルゲンは、I型アレルギー性疾患を引き起こす作用を有するダニ等であれば特に限定されるものではなく、例えば、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等のチリダニ科ヒョウヒダニ属に属するダニ、これらのダニの糞又は死骸等が挙げられる。
【0041】
アレルゲン不活性化とは、アレルゲン(花粉アレルゲン、ダニアレルゲン等)からアレルギー症状を引き起こす作用を失わせることを意味する。本発明のアレルゲン不活性化剤の適用対象としては、例えば、花粉アレルゲンによりアレルギー症状を引き起こす花粉症、ダニアレルゲンによりアレルギー症状を引き起こすI型アレルギー性疾患等であり、当該アレルギー症状としては、例えば、鼻炎、くしゃみ、喘息、結膜炎等が挙げられる。
【0042】
なお、本発明のアレルゲン不活性化剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それらの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【0043】
〔アレルゲン不活性化材〕
本発明のアレルゲン不活性化材は、担体と、担体に保持されたタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンとを含む。なお、本発明のアレルゲン不活性化材においては、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを製剤化したアレルゲン不活性化剤が担体に保持されていてもよい。
【0044】
担体に保持されるタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンとしては、前述したアレルゲン不活性化剤に有効成分として含有されるタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンと同一のものを用いればよい。
【0045】
担体は、表面にタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを保持し得るものであれば特に限定されることはなく、多孔質体であってもよいし、非多孔質体であってもよいが、より多量のタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを保持することのできる表面積の大きい多孔質体であることが好ましい。
【0046】
多孔質体としては、例えば、編物、織物、不織布、紙等の繊維集合体、ウレタンフォーム等の多孔性樹脂成形体、活性炭、多孔質セラミックス材等が挙げられる。非多孔質体としては、例えば、非多孔性の樹脂成形体、金属材、セラミックス材、石材等が挙げられる。
【0047】
また、担体の形状は、特に限定されることなく、例えば、シート状であってもよいし、粒状であってもよい。さらには、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、換気装置用フィルター等のフィルター類、マスク、被服、家具、壁(壁材)、壁紙、ポスター、シール等を担体とすることもできる。
【0048】
タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンは、これらの抽出物と空気中に飛散しているアレルゲンとが接触し得るように、担体の表面に保持されていればよく、これらの抽出物を担体に保持させる方法は、特に限定されない。ここで、担体の表面とは、担体とアレルゲンとが接触し得る担体の部位を意味し、担体の表面は、担体の外表面に限られず、担体の内部に存在する部位であってアレルゲンと接触し得る部位をも含む。
【0049】
タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを担体に保持させる方法としては、例えば、(1)タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンの水溶液等を担体に含浸させた後、担体を乾燥させる方法、(2)担体の表面にタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンが表れるように、担体の製造過程で担体の材料にタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを配合する方法、(3)担体の表面にタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンの水溶液等を噴霧する方法、(4)担体の表面にバインダー等を介してタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンをコーティングする方法等が挙げられる。
【0050】
タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンの水溶液等を担体に含浸させる場合、その含浸時間は、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを担体に保持させることができる限り特に限定されるものではなく、通常0.1〜3時間、好ましくは0.5〜2時間である。
【0051】
担体に保持されるタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンの量は、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンとアレルゲンとが接触し、アレルゲンを不活性化させることができる量であれば特に限定されるものではないが、通常0.01〜10g/m、好ましくは0.1〜5g/mである。
【0052】
以上説明したアレルゲン不活性化材は、例えば、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、換気装置用フィルター等のフィルター類、マスク、被服等として用いることができる。アレルゲン不活性化材をフィルター類として用いれば、アレルゲンがアレルギー活性を持ったまま再飛散するのを防止することができる。また、アレルゲン不活性化材をマスクとして用いれば、マスクを通過する微細なアレルゲンを不活性化することができる。さらに、アレルゲン不活性化材を被服として用いれば、被服に付着したアレルゲンがアレルギー活性を持ったまま室内等に侵入するのを防止することができる。
【0053】
本発明のアレルゲン不活性化材は、空気中に保持されると、空気中に飛散する花粉アレルゲンと担体に保持されたタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンとが接触し、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンが有する花粉アレルゲン不活性化作用により、花粉アレルゲンを不活性化することができるとともに、タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンが有するダニアレルゲン不活性化作用により、ダニアレルゲンを不活性化することができる。
【0054】
したがって、本発明のアレルゲン不活性化材によれば、花粉アレルゲンにより引き起こされるI型アレルギー性疾患である花粉症を予防、治療又は改善することができるとともに、コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)等のチリダニ科ヒョウヒダニ属に属するダニ、これらのダニの糞及び死骸等のダニアレルゲンにより引き起こされるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患を予防、治療又は改善することができる。
【実施例】
【0055】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の製造例及び試験例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、試料として、タマリンド50容量%エタノール抽出物(丸善製薬社製,商品名:タマリンドハスク,実施例1)、下記製造例1にて製造された柿タンニン(実施例2)、緑茶抽出物(丸善製薬社製,商品名:緑茶抽出物MF,比較例1)、ケイヒ抽出物(丸善製薬社製,商品名:ケイヒ抽出液W−LA,比較例2)、タンニン酸(和光純薬工業社製,商品名:タンニン酸,比較例3)、没食子酸水和物(東京化成工業社製,商品名:没食子酸一水和物,比較例4)及びミモサタンニン(ミモサセントラル社製,商品名:ミモサMEパウダー,比較例5)を使用した。
【0056】
〔製造例1〕柿タンニンの製造
渋柿の果実の圧搾液1L(固形分:10%)を、ダイヤイオンHP−20(三菱化成社製)400gを充填したカラムに空間速度SV=0.5/hrで通液した。その後、カラムに水2Lを通水してから、70容量%エタノール2Lを空間速度SV=2/hrで通液し、柿タンニン溶出させた。得られた溶出液を活性炭に25℃で5時間接触させた後、濃縮・乾燥することで、柿タンニン粉末25.6gを得た(実施例2)。
【0057】
〔試験例1〕スギ花粉アレルゲン不活性化試験
上記各試料(実施例1〜2,比較例1〜5)について、下記のようにしてスギ花粉アレルゲン不活性化作用を試験した。
【0058】
(1)スギ花粉アレルゲン不活性化反応
10%DMSOを含むPBS溶液に、各試料(実施例1〜2,比較例1〜5)を表1に示す濃度でそれぞれ溶解し、各試料溶液を調製した。各試料溶液をそれぞれ100μLずつ96穴マイクロプレートに添加し、0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液にスギ花粉アレルゲン(製品名:精製スギ花粉抗原Cry j 1,生化学工業社製)を溶解した2ng/mLのスギ花粉アレルゲン溶液を1穴あたり100μLずつ添加し、室温で2時間振とうした。また、対照として、試料を添加していない10%DMSOを含むPBS溶液にスギ花粉アレルゲン溶液を添加した溶液についても同様に振とうした。
【0059】
振とう後、マイクロプレートの各穴からスギ花粉アレルゲン溶液を100μLずつ採取し、当該溶液中に存在するスギ花粉アレルゲン濃度(ng/mL)を下記に示すサンドイッチELISA法により測定した。
【0060】
(2)スギ花粉アレルゲン濃度の定量(サンドイッチELISA法)
10μg/mLのコーティング溶液(製品名:抗Cry j 1モノクローナル抗体013,生化学工業社製)100μLをELISAプレートの各穴に添加し、室温で2時間静置した。その後、コーティング溶液を除去し、0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液を250μL添加し、4℃で一晩静置した。その後、0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液を除去し、2時間振とうさせた上記スギ花粉アレルゲン溶液100μLを添加して、室温で2時間振とうした。
【0061】
また、スタンダードとして、スギ花粉アレルゲン(製品名:精製スギ花粉抗原Cry j 1,生化学工業社製)を0.1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液に溶解し、4ng/mL、2ng/mL、1ng/mL、0.5ng/mL、0.25ng/mLの検量線用標準溶液を調製した。各濃度の検量線用標準溶液100μLをELISAプレートに添加して、室温で2時間振とうした。振とう後、ELISAプレートを、0.05%Tween20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄後、1000倍に希釈したスギ花粉アレルゲンモノクローナル抗体(製品名:西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗Cry j 1モノクローナル抗体053,生化学工業社製)を100μL添加して、室温で2時間振とうした。そして、ELISAプレートを、0.05%Tween20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄後、0.3mg/mLのABTS溶液120μLを添加して室温で発色させ、10〜20分間反応させた後にミキシングし、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。
【0062】
検量線用標準溶液の吸光度から得られる検量線を用いて、試料添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度及び試料無添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度を定量した。当該定量結果を用いて、下記式に基づき、スギ花粉アレルゲン不活性化率(%)を算出した。
【0063】
スギ花粉アレルゲン不活性化率(%)=(B−A)/B×100
式中、Aは「試料添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度(ng/mL)」を表し、Bは「試料無添加スギ花粉アレルゲン溶液中のスギ花粉アレルゲン濃度(ng/mL)」を表す。
上記試験の結果を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
表1に示すように、実施例1のタマリンド抽出物及び実施例2の柿タンニンは、優れたスギ花粉アレルゲン不活性化作用を有することが確認され、特に高濃度(0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上)において優れたスギ花粉アレルゲン不活性化作用を有することが確認された。一方、比較例1〜4の加水分解型タンニン類は、ほとんどスギ花粉アレルゲン不活性化作用を示さなかった。このことから、タマリンド抽出物(実施例1)及び柿タンニン(実施例2)は、アレルゲン不活性化作用を有することで知られている加水分解型タンニン類(比較例1〜4)に比して有意なスギ花粉アレルゲン不活性化作用を示すものと考えられる。
【0066】
また、実施例1のタマリンド抽出物及び実施例2の柿タンニンは、比較例5の縮合型タンニン(ミモサタンニン)に比して優れたスギ花粉アレルゲン不活性化作用を有することが確認された。このことから、タマリンド抽出物(実施例1)及び柿タンニン(実施例2)は、一般にアレルゲン不活性化作用が弱いと知られている縮合型タンニンであるにもかかわらず、優れたスギ花粉アレルゲン不活性化作用を有すると考えられる。
【0067】
〔試験例2〕ダニアレルゲン不活性化試験
上記各試料(実施例1〜2,比較例1〜5)について、下記のようにしてダニアレルゲン不活性化作用を試験した。
【0068】
2000ng/mLのコーティング溶液(製品名:抗Der fIIモノクローナル抗体15E11,生化学工業社製)50μLをELISAプレートの各穴に添加し、4℃で一晩静置した。ELISAプレートを、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄した後、1%ウシ血清アルブミン含有PBS溶液200μLを添加して室温で1時間静置し、ブロッキングした。ブロッキング終了後、0.05%ツイーン20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄し、下記に示すようにダニアレルゲン不活性化反応を行った。
【0069】
(1)ダニアレルゲン不活性化反応
10%DMSOを含むPBS溶液に、各試料(実施例1〜2,比較例1〜5)をそれぞれ表2に示す濃度になるように溶解し、各試料溶液を調製した。ブロッキングが終了し、洗浄した後のELISAプレートに各試料溶液を1穴あたり25μLずつ添加し、PBS溶液にダニアレルゲン(製品名:精製ダニ抗原Der fII,生化学工業社製)を溶解した200ng/mLのダニアレルゲン溶液を1穴あたり25μLずつ添加し、室温で2時間振とうした。また、対照として、ELISAプレートに10%DMSOを含むPBS溶液を添加後、ダニアレルゲン溶液を添加して、同様に振とうした。
【0070】
また、スタンダードとしてダニアレルゲンをPBS溶液に溶解し、300ng/mL、150ng/mL、75ng/mL、37.5ng/mL、18.8ng/mL、9.4ng/mLの検量線用標準溶液を調製した。各濃度の検量線用標準溶液50μLをELISAプレートに添加して、同様に室温で2時間振とうした。
【0071】
(2)ダニアレルゲン濃度の定量(サンドイッチELISA法)
振とう後、0.05%Tween20を含むPBS溶液300μLでELISAプレートを3度洗浄した後、2000倍に希釈したダニアレルゲンモノクローナル抗体(製品名:西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗Der fIIモノクローナル抗体13A4PO,生化学工業社製)を50μL添加して、室温で2時間振とうした。そして、ELISAプレートを、0.05%Tween20を含むPBS溶液300μLで3度洗浄した後、0.3mg/mLのABTS溶液100μLを添加して室温で発色させ、10〜20分反応後にミキシングさせ、マイクロプレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。
【0072】
検量線用標準溶液の吸光度から得られる検量線を用いて、試料添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度及び試料無添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度を定量した。当該定量結果を用いて、下記式に基づき、ダニアレルゲン不活性化率(%)を算出した。
【0073】
ダニアレルゲン不活性化率(%)=(B−A)/B×100
式中、Aは「試料添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度(ng/mL)」を表し、Bは「試料無添加ダニアレルゲン溶液中のダニアレルゲン濃度(ng/mL)」を表す。
上記試験の結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、実施例1のタマリンド抽出物及び実施例2の柿タンニンは、比較例1〜4の加水分解型タンニン類に比して優れたダニアレルゲン不活性化作用を有し、特に低濃度(0.001質量%)であっても優れたダニアレルゲン不活性化作用を有することが確認された。
【0076】
また、比較例5の縮合型タンニン(ミモサタンニン)に比して、実施例1のタマリンド抽出物及び実施例2の柿タンニンは優れたダニアレルゲン不活性化作用を有することが確認された。このことから、タマリンド抽出物(実施例1)及び柿タンニン(実施例2)は、縮合型タンニンの中でも特に優れたダニアレルゲン不活性化作用を有するものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明のアレルゲン不活性化剤及びアレルゲン不活性化材は、花粉アレルゲンによる花粉症、ダニ、ダニの死骸及び糞等のダニアレルゲンによるアレルギー性喘息、鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎等のI型アレルギー性疾患の予防、治療又は改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンを有効成分として含有することを特徴とするアレルゲン不活性化剤。
【請求項2】
前記アレルゲンが、花粉アレルゲン及び/又はダニアレルゲンであることを特徴とする請求項1に記載のアレルゲン不活性化剤。
【請求項3】
担体と、
前記担体に保持されたタマリンドからの抽出物及び/又は柿タンニンと
を含むことを特徴とするアレルゲン不活性化材。
【請求項4】
前記アレルゲンが、花粉アレルゲン及び/又はダニアレルゲンであることを特徴とする請求項3に記載のアレルゲン不活性化材。

【公開番号】特開2009−274972(P2009−274972A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126004(P2008−126004)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】