説明

アンカー装置およびアンカー

【目的】特に斜面に適したアンカー装置を提供する。
【構成】アンカー装置1のアンカー10は,長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,ロープの一端を連結するためのロープ連結部17,18を有する。斜面下の地中にほぼ鉛直方向に削孔されたガイド孔21に沿ってアンカー10が定着され,ガイド孔21よりも斜面の下方に離れた場所から斜面下の地中にほぼ水平方向に削孔された引出孔22から,一端が上記アンカー10のロープ連結部17,18に連結されたワイヤロープ20の他端を地表に出し,ワイヤロープ20に直交する方向に配置された荷重方向変換部材30にワイヤロープ20を沿わせて張設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,アンカー装置およびアンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の地盤用アンカー装置の例として,幅方向中央部にV形断面の屈曲部を有するアンカー板と,このアンカー板の屈曲部に設けられた連結体とにより構成されたアンカー装置がある(例えば特許文献1)。このアンカー装置は,アンカー板と連結体が地盤に埋設されるものであり,連結体があるので地盤に打ち込むのは実際には困難で,地盤に穴を掘って埋設される。しかしながら,斜面に穴を掘るのはきわめて困難であるから,このアンカー装置は,斜面に設置するには必ずしも適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−115252
【発明の開示】
【0004】
この発明は,特に,斜面に適した作業性のよいアンカー装置の設置工法を提供するものである。
【0005】
この発明は,斜面に限らず,ほぼ水平な地表面を有する地盤にも適用可能な作業性のよいアンカー装置の設置工法も提供する。
【0006】
この発明は,さらに,特に上記の設置工法に適したアンカーを提供することを目的とする。
【0007】
さらにこの発明は,上記設置工法により設置されたアンカー装置を提供する。
【0008】
この発明によるアンカー装置の設置工法は,長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,ロープの一端を連結するためのロープ連結部を有するアンカーを用意し,斜面のアンカーを定着すべき場所において,少なくともアンカーの後端から上記ロープ連結部までの長さに相当する深さまで,斜面下の地中にほぼ鉛直方向にガイド孔を削孔し,上記ガイド孔に沿って上記アンカーが定着されたときに上記ロープ連結部が位置する位置に向けて,上記ガイド孔よりも斜面の下方に離れた場所から斜面下の地中にほぼ水平方向に上記ガイド孔に連通する引出孔を削孔し,ロープの一端を上記アンカーの上記ロープ連結部に連結し,上記ガイド孔および上記引出孔に通した上記ロープの他端を上記引出孔から地表に出した状態で上記アンカーを上記ガイド孔に沿って打設するものである。
【0009】
アンカーは,アンカーロッド,パイプアンカー,ロックボルト,掘削(削孔)ロッド等,様々な名称で呼ばれるもの,すなわち,中実,中空を問わず,断面については円形,多角形(異形)を問わず,アンカーとして用いられる棒状のものすべてを含む。
【0010】
ロープは,ワイヤ,ワイヤロープ等を含む概念であり,最も一般的には鋼製の撚り線が用いられる。
【0011】
アンカーが地中に打設されるときに下方に位置する部分をアンカーの先端,これと反対側を後端という。アンカーの長手方向の中央部とは,アンカーの長手方向の中央を中心として,アンカーの長さの1/3または1/3程度の範囲をいう。ロープ連結部をアンカーの長手方向のどの部分(位置)に設けるかは,アンカーの形状(羽根の有無,羽根の数およびその取付位置等)に依存するが,ロープおよびロープ連結部を通してアンカーに加わる力により,地中に定着されたアンカーの位置,姿勢ができるだけ変化しない部分(位置)にすることが好ましい。
【0012】
ロープ連結部とは,フック,リング,その他のロープを掛ける(連結する)またはロープの一端に設けられた連結具を結合する(連結する)部材(締結具,固定具,掛け具)が設けられた,または孔,切欠きが形成された部分のみならず,ロープをアンカー本体に掛けたときに(連結したときに)(ロープをアンカー本体に巻回すること,ロープの一端に輪を形成しておき,この輪にアンカー本体を挿入すること等を含む),ロープの位置がずれないようにロープを位置決めしておく部分を含む。
【0013】
ガイド孔は,少なくともアンカーの後端からロープ連結部までの長さに相当する深さまで削孔しておけば,引出孔を削孔したときにガイド孔が引出孔に連通する。好ましくは,アンカーの全長を地中に打設するときには,ガイド孔をアンカーの全長に相当する深さまで削孔しておくと作業性がよい。
【0014】
ガイド孔の径の大きさは,アンカーの打込みをガイドするのに適した大きさ,かつロープを通すのに適した大きさに定められる。また,引出孔の径の大きさは,ロープを通すのに適した大きさに定める。
【0015】
アンカーを地中に打ち込むときに,または打ち込んだ後,凝固材等によりアンカーを地中に固着してもよい。このとき,ロープの他端を引張っておくことが好ましい。
【0016】
この発明によると,ガイド孔と引出孔を削孔すればよいので,斜面にアンカーとロープを埋設する穴を掘るのに比べれば,作業性が良い。また,アンカーの長手方向とロープを通して加えられる引張力の方向とがほぼ垂直になるので,アンカーによる耐力が大きい。
【0017】
この発明は斜面に限らず,ほぼ水平な地表面を有する地盤にも適用可能である。ほぼ水平な地表面をもつ地盤面に適用できるこの発明によるアンカー装置の設置工法は,長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,ロープの一端を連結するためのロープ連結部を有するアンカーを用意し,アンカーを定着すべき場所において,少なくともアンカーの後端から上記ロープ連結部までの長さに相当する長さのガイド孔を,地表から地中に削孔し,上記ガイド孔に沿って上記アンカーが定着されたときに上記ロープ連結部が位置する位置に向けて,上記ガイド孔から離れた場所の地表から地中に上記ガイド孔にほぼ垂直に上記ガイド孔に連通する引出孔を削孔し,上記ロープの上記一端を上記アンカーの上記ロープ連結部に連結し,上記ガイド孔および上記引出孔に通した上記ロープの他端を上記引出孔から地表に出した状態で,上記アンカーを上記ガイド孔に沿って打設するものである。
【0018】
地表とは,山林,山岳等における斜面,岩盤,大地,その他の地球表面の露出している全ての面をいい,地中とは地表の内部(表土層,礫土,岩盤等を含む)をいう。
【0019】
ほぼ水平な面を有する地盤の場合には,ガイド孔は地表面に垂直な方向からやや斜めに削孔され,アンカーは斜め方向に打設されることになるが,アンカーの長手方向とロープに加わる張力の方向とはほぼ垂直な関係に保たれるので,アンカーによる耐力が大きい。また,ガイド孔と引出孔とを削孔すればよいので,地面に大きな穴を掘ってアンカーとロープを埋設することに比べれば作業性がよい。
【0020】
斜面におけるアンカー装置の設置工法およびほぼ水平な地表面をもつ地盤面にも適用可能なアンカー装置の設置工法のいずれにおいても,好ましくは,上記ロープを上記引出孔から上記ガイド孔に,またはこの逆に通して,上記ロープの上記一端を上記ガイド孔から地表に出し,上記ロープの上記他端を上記引出孔から地表に出した状態で,上記ロープの上記一端を上記アンカーの上記ロープ連結部に連結する。ロープは引出孔からガイド孔に通しても,この逆でもよいが,引出孔からロープの一端を入れ,ガイド孔からロープの一端を引上げることの方が,一般的には作業が簡単である。可能ならば,ガイド孔と引出孔を削孔したのち,アンカーにロープの一端を連結し,その後,ロープの他端をガイド孔から引出孔に通して,引出孔から引出してもよい。
【0021】
上記引出孔から地表に出されている上記ロープの上記他端には引張力が与えられる。すなわち,上記ロープの他端を利用してロープの張設が行われる。アンカーに連結された上記ロープそのものを張設してもよいし,アンカーに連結された上記ロープの上記他端に他のロープを連結して他のロープを張設してもよい。
【0022】
引出孔から地表に引き出された上記ロープは,目的に応じて,例えば,落石防止用のためのロープネットを構成するロープ,防護柵などの補強のためのロープとして,またはこれらのロープに連結されて張設される。アンカー装置の目的,ロープの張設の目的に応じてロープの張設方向が定まるので,上記引出孔の方向はロープの張設方向に応じて定めるとよい。
【0023】
好ましい実施態様では,上記引出孔の地表における開口付近に,長手方向が上記ロープの引張方向にほぼ直交するように荷重方向変換部材を配置し,上記ロープが上記荷重方向変換部材に接した状態でロープに引張力を与える。
【0024】
荷重方向変換部材は,中実であっても中空であってもよい。また中空のものについてはその両端が開放されていても閉鎖されていてもどちらであってもよい。荷重方向変換部材は好ましくは断面が円弧状の土圧面をもつ。ここで断面が円弧状とは,円の一部のみならず,楕円,その他の曲線を含む。荷重方向変換部材の大きさ(長さ,幅等)は設置する場所の地面(表土層)(地中)の性質(硬さ,深さ)等に応じて適宜決定,または変更することができる。荷重方向変換部材は上記土圧面を地表側にして配置される。すなわち,荷重方向変換部材は,円弧状土圧面が地表に接した状態で置かれるか,その一部またはほぼ全部が地中に埋められる。
【0025】
荷重方向変換部材により,地表に引き出されたロープの引張方向が,アンカーの長手方向とほぼ垂直な関係に保たれるので,アンカーによる耐力を維持することができる。
【0026】
この発明によるアンカーは,アンカー本体の長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,アンカー本体に掛けられたロープの位置ずれを防止する位置決め部が形成されているものである。アンカー本体とは,アンカーの棒状の部分である。アンカー本体の先端,後端,中央部はアンカーに関して上述したものと同じである。位置決め部は上述したロープを位置決めしておく部分に相当する。
【0027】
この発明によるアンカーは上述したアンカー装置の設置工法,特にアンカーにロープを掛ける態様に好適に用いることができる。
【0028】
アンカーが棒状であって,羽根等が設けられていない場合には,位置決め部はアンカー本体の長手方向の中央部に設けることが好ましい。羽根が設けられる場合には,羽根がロープに加わる引張力を受けるので,定着されたアンカーの位置,姿勢の変化が生じにくく,位置決め部を設けるのに適した位置の範囲が広がり,中央部から先端部までのアンカーの長さの約2/3の範囲に設けることが可能となる。羽根がアンカーの先端部付近にない場合には,位置決め部はアンカーの先端(アンカーの径にほぼ等しい長さの範囲)を除いて設けることが好ましいが,羽根が先端部付近に設けられている場合には,位置決め部は先端に設けることも可能である。
【0029】
この発明は,アンカー装置も提供している。この発明によるアンカー装置は,地中にアンカーが定着され,この定着されたアンカーの長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,ロープの一端が連結され,上記アンカーに連結された上記ロープが,アンカーの長手方向にほぼ垂直に引張られて,地表に引き出されているものである。
【0030】
好ましい実施態様として,上記ロープが地表に引出された箇所に,長手方向が上記ロープの引張方向にほぼ直交するように荷重方向変換部材が配置され,ロープが荷重方向変換部材に接している。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】落石防止用柵を支持または補強するための第1実施例アンカー装置を示す図である。
【図2】第1実施例のアンカーの斜視図である。
【図3】荷重方向変換部材の斜視図である。
【図4】ガイド孔を鉛直方向に削孔する様子を示す。
【図5】水平方向に引出孔を削孔する様子を示す。
【図6】ワイヤロープを引出孔からガイド孔に通す様子を示す。
【図7】ワイヤロープがアンカーに連結された様子を示す斜視図である。
【図8】アンカーを斜面に打ち込む様子を示す。
【図9】荷重方向変換部材を設置し,ワイヤロープを張設した状態を示す。
【図10】落石防止用柵を支持または補強するための第2実施例アンカー装置を示す図である。
【図11】第2実施例のアンカーの斜視図である。
【図12】ワイヤロープがアンカーに連結された様子を示す斜視図である。
【図13】荷重方向変換部材を設置し,ワイヤロープを張設した状態を示す。
【実施例】
【0032】
第1実施例のアンカー装置は,落石防止用柵を支持または補強するためのものである。図1に示すアンカー装置1において,アンカー10は,その下部(先端部)が斜面表土層G1の下の安定地盤(岩盤)G2に達するように,かつアンカー10の上端(後端)が斜面地表(斜面)Sとほぼ同じ高さ位置となるように,アンカー10の全体が斜面下の地中に鉛直方向に定着されている。アンカー10の長手方向の下部(先端部)にはワイヤロープ20が掛けられている(連結されている)。アンカー10の定着位置よりも斜面下方に離れた場所において,斜面の表面から斜面下の地中に水平方向に引出孔22が削孔され,この引出孔22からワイヤロープ20が地表に引き出されている。ワイヤロープ20が斜面地表に引出された箇所付近に,荷重方向変換部材30が,その長手方向がワイヤロープ20の張設方向とほぼ直交するように設置されている。引き出されたワイヤロープ20は,荷重方向変換部材30にその長手方向にほぼ直交するように接して斜面Sの下方に設置された落石防止用柵4の支持ロープ41にターンバックル42を介して連結されている。このように,アンカー装置1は落石防止用柵4を支持または補強する。この実施例では,アンカー10は,その下部が安定地盤G2に達するように地中内に定着されているが,アンカー10の下部が必ずしも安定地盤G2に達していなくてもよい。
【0033】
図2に,アンカーの斜視図を示す。アンカー10は,長さが径よりも十分長く,内部が中空の円筒状体(アンカー本体)11を有する。円筒状体11の上部(後端部)および下部(先端部)にはそれぞれ一直線上に2枚ずつの上部羽根12および下部羽根13がアンカー本体11に溶着されている,または一体的に形成されている。上部羽根12は台形状,下部羽根13は直角三角形状であり,上部羽根12は下部羽根13よりも大きく,いずれも打ち込みやすいようにこれらの羽根12,13の下縁(側縁)は円筒状体11から遠ざかるにしたがって上方に傾斜している。また,アンカー本体11の先端(下端)は先にいくにしたがって(下方に下がるにしたがって)表土層G1および安定地盤G2に打ち込みやすいように径が小さく(テーパー状に)成形されている。アンカー本体11の後端(上端)には,アンカー本体11の長手方向と垂直に土圧板14が溶着されている。土圧板14は上部羽根12の上端と固着(溶着)されている。円筒状体11の上端面には雨水等がアンカー本体11内へ侵入するのを防ぐキャップ15が装着されている。アンカー本体11,上部羽根12,下部羽根13,土圧板14は鋼または鉄(亜鉛メッキ等で防食されている)により形成される。
【0034】
下部羽根13の下部には,挿入用切欠き16が下部羽根13の斜めの側縁からアンカー本体11の長手方向と垂直な方向に形成されている。また,アンカー本体11の周面に到達した挿入用切欠き16に連続してアンカー本体11の周面に沿って上方に向う位置決め用切欠き(位置決め部)17が下部羽根13に形成されている。アンカー本体11の周面において,位置決め用切欠き17とほぼ同じ高さ位置(上下方向の位置)に,かつ2枚の下部羽根13のほぼ中間の角度位置にワイヤロープ20が移動するのを防ぐ位置決め鉤(位置決め部)18が,アンカー本体11と一体的に形成またはアンカー本体11に溶着されている。
【0035】
アンカー10には,位置決め用切欠き17,位置決め鉤18の位置に後述するようにワイヤロープ20が掛けられる(連結される)。ワイヤロープ20は,図6,図8,図9に示すように二重になっている。二重になった一端(輪をつくっている)がアンカー10のアンカー本体11に掛けられ,他端にはワイヤロープ20と連結しやすいように締結具56によって輪が形成されている。
【0036】
図3は荷重方向変換部材を示すものである。円筒状の荷重方向変換部材30は,その外径がアンカー10に連結されるワイヤロープ20の径より十分に大きく,その周面の約半分が土圧面30aである。荷重方向変換部材30は,鉄,鋼鉄,その他の強固な材料によりつくられている。荷重方向変換部材30の周面の一部(土圧面30aの反対側部分)に,その長手方向のほぼ中央の位置において,長手方向に垂直な方向にワイヤロープ20をガイドするとともに保持する凹溝31が形成されている。さらに,荷重方向変換部材30は,凹溝31からワイヤロープ20が外れることを防止するための抑え板32を備えている。抑え板32は,荷重方向変換部材30の一端から凹溝31までの距離(長さ)よりも長い。抑え板32は,凹溝31に保持されたワイヤロープ20と荷重方向変換部材30の円筒状の内壁面との間に挿通される大きさ(幅,厚さ)であればよい。抑え板32の一端部は直角に折れ曲がって係止部32aとなっており,荷重方向変換部材30の一端面の一部に係止される。ワイヤロープ20は,凹溝31内において,凹溝31と抑え板32との間に挟まる。
【0037】
図4から図9は,アンカー装置の設置工法の手順を示すものである。
【0038】
斜面下方の落石防止用柵4との位置関係を考慮して,アンカー10の定着位置を特定する。アンカー10は,落石防止用柵4の斜面上方に設置される。
【0039】
図4において,特定したアンカー10の定着位置に,エアー・パンチャ5を用いて斜面地中(表土層G1,岩盤G2)に鉛直方向に削孔して,ガイド孔21をあける。エアー・パンチャ5は,例えば,コンプレッサから供給用パイプ51を介して供給された圧縮空気によってロッド53aを打込むものである。ロッド53aの径は,ワイヤロープ20の径の2倍よりも大きく,かつアンカー10のアンカー本体11の径とほぼ同じ程度であればよい。もちろん,ガイド孔21はアンカーを打設して引き抜くことによって形成してもよい。
【0040】
作業員は,エアー・パンチャ5を用いて,アンカー10のほぼ全長分の深さまでガイド孔21を斜面Sの地中にほぼ鉛直方向に削孔する。ガイド孔21は,少なくともアンカーの上端から位置決め部(位置決め用切欠き17,位置決め鉤18)までの長さに相当する深さ位置まで削孔すればよい。
【0041】
ガイド孔21を削孔した後,引出孔22をあける位置を特定する。引出孔22は,ガイド孔21よりも斜面下方であって,ガイド孔21に沿ってアンカー10が定着されたときに位置決め部(位置決め用切欠き17,位置決め鉤18)が位置する位置に向けて,ほぼ水平方向にガイド孔21に連通するように,落石防止用柵4の支持ロープ41の取付箇所とガイド孔21とをむすぶ直線上の位置にあけることが好ましい。引出孔22をあける位置を計測等を行って特定した後,作業員は,図5に示すように,やや小径のロッド53bが装着されたエアー・パンチャ5を用いて特定した斜面地表S上の位置から,ガイド孔21に沿ってアンカーが定着されたときに位置決め用切欠き17,位置決め鉤18が位置する位置に向けて,ほぼ水平方向に引出孔22を削孔する。ガイド孔21と連通するまで引出孔22を削孔する。このときのエアー・パンチャ5のロッド53bの径は,ワイヤロープ20の径の2倍よりも大きいものであればよい。
【0042】
図6を参照して,ガイド孔21と引出孔22とが連通した後,リードワイヤ50の一端にワイヤロープ20の一端(ワイヤロープ20の折り返された部分)を掛けてリードワイヤ50の一端を締結具55により締結する(むすび付ける),またはリードワイヤ50の一端とワイヤロープ20の一端をクリップ等により連結しておき,このリードワイヤ50の他端を引出孔22からガイド孔21まで挿入して,リードワイヤ50の他端をガイド孔21を通して斜面地表Sに引き出す。例えば,上記他端にループが形成されたリードワイヤ50を用い,リードワイヤ50の上記他端を引出孔22からガイド孔21まで挿入し,ガイド孔21の上端開口から先端にフックが設けられた引掛け棒を挿入し,このフックにリードワイヤ50のループを引掛けてガイド孔21から斜面Sにリードワイヤ50を引き上げる。リードワイヤ50の他端を引張ることにより,その一端に連結されたワイヤロープ20の一端は引出孔22からガイド孔21に引入れられ,ガイド孔21から斜面Sに引き出される。ワイヤロープ20の他端は,引出孔22から斜面Sに出しておく。もちろん,ワイヤロープ20を上記他端からガイド孔21から挿入し,引出孔22に引掛け棒を挿入してその先端のフックにワイヤロープ20の上記他端の輪を引掛けて,引出孔22から斜面Sに引出してもよい。
【0043】
図7に示すように,ガイド孔21の上端開口から斜面Sに引出されたワイヤロープ20の上記一端部の輪を,アンカー本体11に掛ける。すなわち,ワイヤロープ20を下部羽根13の挿入用切欠き16に入れ,位置決め用切欠き17に嵌め入れる。さらにワイヤロープ20を位置決め鉤18に引掛けた状態でアンカー本体11の周面に当てて位置決めする。アンカー本体11の周面上において,位置決め鉤18の反対側の位置で,位置決めされた二重のワイヤロープ20を束ね合わせて締結具57によって締結する(図8参照)。ワイヤロープ20の上記一端部をアンカー10に掛けた後,ワイヤロープ20の他端をガイド孔21から引出孔22に挿入し,引出孔22から斜面Sに引出してもよい。
【0044】
図8において,アンカー10をガイド孔21に沿って地中に打ち込む。このとき上部羽根12および下部羽根13の面がワイヤロープ20が張設される方向とほぼ垂直になるように,かつワイヤロープ20の締結された部分(締結具57の部分)が,アンカー10を打ち込んだ後に,引出孔22をのぞむようにアンカー10を配置して打ち込む。アンカー10を打ち込むときには,引出孔22から引き出したワイヤロープ20を引張っておく。
【0045】
図9において,アンカーを定着した後,引出孔22の斜面地表における開口付近に,荷重方向変換部材30をその長手方向とワイヤロープ20の張設方向とがほぼ直交する方向に配置し,荷重方向変換部材30の土圧面30aの一部または全部を斜面地表に埋め込み,荷重方向変換部材30を設置する。荷重方向変換部材30の長手方向にほぼ直交するようにワイヤロープ20の一部を凹溝31に嵌め入れる。さらに,抑え板32を荷重方向変換部材30の一端から荷重方向変換部材30内に挿入し,凹溝31に嵌め入れたワイヤロープ20と荷重方向変換部材30の内壁面との間に位置させる。抑え板32は,その係止部32aが荷重方向変換部材30の一端面に係止されるまで挿通する。
【0046】
ワイヤロープ20を荷重方向変換部材30に沿わせた後,図1に示すように,ワイヤロープ20の他端をターンバックル42を介して落石防止用柵4の支持ロープ41に連結し,緊張させる。引出孔22の少なくとも開口を埋めてもよい。
【0047】
図10から図13を参照して,第2実施例のアンカー装置およびその設置工法を説明する。図10に示す第2実施例のアンカー装置1Aにおいて,アンカー10Aは,その長手方向のほぼ中央にワイヤロープ20が連結されている点が上述した第1実施例のアンカー装置1と異なる。
【0048】
図11に,アンカーの斜視図を示す。アンカー10Aは,長さが径よりも十分大きく,内部が中空のアンカー本体11Aから形成されている。アンカー本体11Aの上部(後端部)および中央部のやや下方(先端方向)にはそれぞれ,一直線上に2枚の上部羽根12Aおよび下部羽根13Aがアンカー本体11Aに溶着されている,または一体的に形成されている。上部羽根12Aは,下部羽根13Aよりも大きく,いずれも表土層G1に打ち込みやすいようにそれらの下縁がアンカー本体11Aから遠ざかるにしたがって上方に傾斜している。
【0049】
アンカー本体11Aの長手方向のほぼ中央の位置(下部羽根13の若干上方の位置)に,それぞれロープ掛け26がアンカー本体11Aの周面に 180°の角度間隔をおいて2箇所に(下部羽根13Aの少し上の位置に)溶着されている(図11には,1つのロープ掛け26のみが現れている)。ロープ掛け26(位置決め部)は,鋼線を螺旋状に一巻きしたものである。また,アンカー本体11Aの周面において,2枚の下部羽根13の上端とほぼ同じ高さ位置でかつ2枚の下部羽根13Aの中間の角度位置に,ロープガイド27が設けられている。ロープガイド27からアンカー本体11Aの長手方向に平行に沿った下方の位置(先端部)に,さらにロープガイド28が設けられている。ロープガイド27および28は,ワイヤロープ20を両側から狭むように2つのガイド片がアンカー本体11Aの周面に一体的に形成された,または溶着されたものである。
【0050】
第2実施例のアンカー装置1Aの設置工法を以下に説明する。ここで,上述したアンカー装置1と同一の作業についてはその説明を簡単にし,または省略し,主に異なる点について説明する。
【0051】
ガイド孔21Aを削孔し,引出孔22Aを削孔する。ガイド孔21Aと引出孔22Aとを連通させた後,リードワイヤを用いてワイヤロープ20の一端をガイド孔21Aの上端開口から斜面Sに引き出す。
【0052】
図12に示すように,ガイド孔21Aから斜面Sに引き出された二重のワイヤロープ20の一端の輪にアンカー本体11Aを入れる。ワイヤロープ20をロープ掛け26に掛けてワイヤロープ20を位置決めし,ワイヤロープ20をアンカー10Aのアンカー本体11Aの周面に当てた状態で,ロープガイド27の上方の位置で束ね合わせて締結具57を用いて締結する。ワイヤロープ20を締結具57で締結した後,ワイヤロープ20をロープガイド27,28に嵌め込む。ワイヤロープ20が嵌め込まれたロープガイド27,28の上からテープ29を貼ることによりワイヤロープ20をロープガイド27,28に固定する。
【0053】
アンカー10Aをガイド孔21Aに沿って地中に打ち込む。このとき上部羽根12Aおよび下部羽根13Aの面がワイヤロープ20が張設される方向とほぼ垂直になるように,かつワイヤロープ20の締結された部分(締結具57の部分)が,アンカー10Aを打ち込んだ後に,引出孔22Aをのぞむようにアンカー10Aを配置する。アンカー10Aを打ち込むときには,引出孔22Aから引き出したワイヤロープ20を引張っておく。これにより,ロープガイド27,28が引出孔22Aをのぞむ位置にそれぞれ到達したときに,ガイド27,28に貼られたテープ29が剥がれ,または破れてワイヤロープ20はロープガイド27,28から外れる。したがって,アンカー10Aが斜面地中内に定着されると,ワイヤロープ20はアンカー10Aのほぼ中央の位置(位置決め部の位置)から長手方向に垂直な方向に引出孔22Aを通って引き出された状態となる。
【0054】
図13において,アンカー10Aを定着した後,引出孔22Aの斜面地表における開口付近に,荷重方向変換部材30を設置し,ワイヤロープ20を荷重方向変換部材30の凹溝31に沿わせる。ワイヤロープ20の他端をターンバックル42を介して落石防止用柵4の支持ロープ41に連結して,緊張する。
【0055】
上記の第1実施例および第2実施例では,落石防止柵4を支持または補強するためのアンカー装置の設置およびその設置工法を記載したが,アンカー装置は,雪崩防止用柵の支持のためのものでもよく,また巨石,巨岩の落下を未然に防止するために直接に,または敷設した金網の上から縦横に張設するロープを固定するために,またはその他の用途に用いることができる。
【0056】
上記実施例では,アンカー1,1Aに上,下2つずつの羽根12,12A,13,13Aが設けられている。このような,上,下に羽根を持つアンカーでは,ロープの位置決め部は,アンカーの長さ方向の中央部から先端までの間(アンカーの長さの約2/3の範囲)に設けることができる。羽根の存在によって,ロープに加わる張力に抗してアンカーの地中での位置ずれや姿勢の変化を小さく抑えることができるからである。上部(後端部)にのみ羽根がある場合には,位置決め部はアンカーの先端(先端からアンカーの径に相当する長さの部分)を除いて設けることが好ましい。羽根のないアンカーの場合には,位置決め部はアンカーの長さの中央部分(中央を中心としてアンカー本体の長さの約1/3の範囲)に設けることが好ましい。上記実施例では羽根は一直線状に2枚ずつ設けられているがアンカーを中心として放射状に3枚以上の羽根を設けてもよいのはいうまでもない。さらに,上記実施例では,アンカーには,アンカーに掛けられたロープの位置がずれないように位置決め部が設けられているが,アンカーに孔,リング等の連結具,締結具(連結部)を設けてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1,1A アンカー装置
10,10A アンカー
11,11A アンカーボルト
12,12A 上部羽根
13,13A 下部羽根
17 位置決め用切欠き(位置決め部)
18 位置決め鉤(位置決め部)
20 ワイヤロープ
26 ロープ掛け(位置決め部)
30 荷重方向変換部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中にアンカーが定着され,この定着されたアンカーの長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,ロープの一端が連結され,
上記アンカーに連結された上記ロープが,アンカーの長手方向にほぼ垂直に引張られて,地表に引き出されており,
上記ロープが地表に引出された箇所に,長手方向が上記ロープの引張方向にほぼ直交するように荷重方向変換部材が配置され,ロープが荷重方向変換部材に接している,
アンカー装置。
【請求項2】
アンカー本体の長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,アンカー本体に掛けられたロープの位置ずれを防止する位置決め部が形成されており,かつアンカー本体の長手方向の全部または一部に沿って,アンカー本体から外方に延びる複数枚の羽根が設けられている,アンカー。
【請求項3】
アンカー本体の長手方向の中央部に,または中央部から先端部までの間に,アンカー本体に掛けられたロープの位置ずれを防止する位置決め部が形成されており,かつアンカー本体の先端部および後端部にそれぞれ別個に外方にのびる複数枚の羽根が設けられている,アンカー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−102982(P2009−102982A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4257(P2009−4257)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【分割の表示】特願2004−176235(P2004−176235)の分割
【原出願日】平成16年6月14日(2004.6.14)
【出願人】(000003528)東京製綱株式会社 (139)
【Fターム(参考)】