説明

アンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤及びその製造法

【課題】生体内での酵素分解作用を最小限に抑えた生体内非分解性ペプチド等のペプチド及び遊離アミノ酸を含むACE阻害活性又は血圧降下作用を示す剤及びその製造法を提供すること。
【解決手段】本発明の剤は、特定方法により、獣乳カゼインを平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に加水分解して得た、遊離アミノ酸及びXaa Pro及びXaa Pro Pro等の生体内非分解性ペプチドを特定割合で含有するカゼイン加水分解物を有効成分とし、ACE阻害活性又は血圧降下作用を示す剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣乳カゼインを加水分解して得た、アンジオテンシン変換酵素阻害活性、血圧降下作用をはじめとする様々な機能が期待でき、各種食品、医薬等に利用可能なアンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血圧降下作用、抗菌活性、カルシウム可溶化作用、免疫調節作用等の様々な機能を有するペプチドが多数報告され、食品及び医薬等に利用されている。
例えば、血圧降下作用を有するペプチドとしては、アンジオテンシン変換酵素(以下、ACEと略す)阻害活性を有するペプチドの提案が多い。ACEは、生体内において前駆体であるアンジオテンシンIから血管収縮活性を有するアンジオテンシンIIに変換して血圧を上昇させる。このため、ACE阻害活性を有するペプチドは、ACEを阻害することで生体内においてアンジオテンシンIIの生産を抑えることから血圧降下作用を発揮することが期待されている。通常、血圧降下作用を有するペプチドの開発にあたっては、まず、ACE阻害活性を示すペプチドの探索が行なわれることが多いことからACE阻害活性を指標とした血圧降下作用を有するペプチドの提案が多くなっている。そして、このようなACE阻害活性を指標とした血圧降下剤が、今まで多く提案され、高血圧症の予防や治療に利用されている。
前記ACE阻害活性を指標とした血圧降下作用を示すペプチド等の機能性ペプチドの製造においては、例えば、食品用タンパク質を酵素分解して機能性ペプチドを製造する場合、機能発現効果を高めるため等に、該酵素分解後にその分解物を濃縮、精製又は単離する等の煩雑な工程を行なう必要が多い。
また、一般に消化管から血中に吸収され、生体内組織において機能発現するタイプのペプチドは、生体内への吸収効率が高く、生体内での各種分解酵素群による分解抵抗性が高い生体内非分解性ペプチドが有効であると推定される。しかし、どのようなペプチド等を含む場合に生体内での分解抵抗性が高くなるかについての詳細は判っていない。そこで、生体内での分解抵抗性が高く、酵素分解後にその分解物を濃縮、精製又は単離する等の煩雑な工程を必ずしも行なわなくても所望の機能を有効に発現しうる食品用又は医薬用等の酵素分解物、及びその製造法の開発が望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、大豆タンパク質を原料として、エキソプロテアーゼ活性を実質的に持たずエンドプロテアーゼ活性のみを持つ酵素の2種以上を同時又は逐次的に作用させ、生成する遊離アミノ酸が5%以下であり、ジペプチド及びトリペプチドを主成分とする平均鎖長3以下の腸管吸収性に優れた低分子ペプチド混合物の製造法が提案されている。また、特許文献2には、加熱変成させた大豆タンパク質を、アスペルギルス・オリゼー由来のプロテアーゼ等の酵素により分解してなる、Ala Tyr、Gly Tyr Tyr、Ala Asp Phe、Ser Asp Pheからなるジペプチド及びトリペプチドを有効成分として含む、好ましくは平均ペプチド鎖長2〜4であり、遊離アミノ酸を20〜30重量%含有する大豆タンパク質分解物を利用した機能性食品及びその製造法が提案されている。
しかし、これら大豆タンパク質を原料とする酵素分解物は、獣乳カゼインを原料とする酵素分解物とはその内容物が大きく異なる。従って、上記特許文献には、獣乳カゼインを原料とした場合における、有効成分の濃度が高く、生体吸収性に優れ、更には濃縮、精製、単離等の煩雑な工程を必ずしも行なうことなく利用できるカゼイン分解物の製造法、並びにカゼイン加水分解物については示唆されていない。
【0004】
一方、特許文献3及び4には、獣乳カゼインをプロテアーゼ及びペプチダーゼ等により酵素分解する各種機能性を有するペプチドの製造法、並びに該製造法で得られた機能性を有する特定のペプチドが提案されている。
しかし、これら特許文献に記載されている酵素分解物は、特定の有効成分であるペプチドを得るためのものであり、獣乳カゼインを平均鎖長2.1以下に加水分解すること、その具体的方法、更にはこのような特定の平均鎖長等を有するカゼイン加水分解物の有効性については教示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−252979号公報
【特許文献2】特開2003−210138号公報
【特許文献3】特開平6−128287号公報
【特許文献4】特開2001−136995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、生体内非分解性ペプチド及び遊離アミノ酸を含み、生体における優れた血圧降下作用が期待でき、各種機能性食品又は医薬に利用可能なACE阻害活性又は血圧降下活性を有する剤及びその製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、獣乳カゼインを平均鎖長がアミノ酸残基数で2.1以下までに加水分解することにより、トリペプチド及びジペプチド等の低分子ペプチド及び遊離アミノ酸を含むカゼイン加水分解物を得ることができ、該加水分解物中には、カルボキシ末端にPro残基を有する生体内非分解性ペプチド分子及び遊離アミノ酸を効率的に含有させることができることを見出した。
そして、該カルボキシ末端にPro残基を有する生体内非分解性ペプチドは、生体内ペプチダーゼ群に対して分解抵抗性が高いことが期待できるため、その物の機能を生体内において十分発揮できる可能性が高く、更に、ジペプチド及びトリペプチド等の生体吸収性が良好なペプチドの割合が高いので、前記カゼイン加水分解物が、生体における血圧降下作用等の各種機能を十分に発現しうることを見出し本発明を完成した。
更に、本発明者らは、公知の各種酵素群から本発明のカゼイン加水分解物を効率的に得ることができる酵素を探索した結果、特に、特定の酵素群が、本発明のカゼイン加水分解物をより効率的に産生しうることも見出した。
【0008】
本発明によれば、獣乳カゼインを、アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素であり、Pro Xaaを切断可能なペプチダーゼと、ロイシンアミノペプチダーゼと、中性プロテアーゼI及び/又は中性プロテアーゼIIとを含む酵素群を用いて、平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に加水分解する工程(A)を含む方法により得た、遊離アミノ酸及びペプチドを含むカゼイン加水分解物を含む、アンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤であって、前記ペプチドとして、Xaa Pro配列を有するジペプチド及びXaa Pro Pro配列を有するトリペプチドからなる生体内非分解性ペプチドを含み、且つXaa Pro配列を有するジペプチドの含有割合が分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計に対して5重量%以上であり、Ser Pro Proを含むXaa Pro Pro配列を有するトリペプチドの含有割合が分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計に対して1重量%以上であるカゼイン加水分解物を有効成分として含む、アンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤が提供される。
また本発明によれば、上記アンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤の製造法であって、獣乳カゼインを、アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素であり、Pro Xaaを切断可能なペプチダーゼと、ロイシンアミノペプチダーゼと、中性プロテアーゼI及び/又は中性プロテアーゼIIとを含む酵素群を用いて、平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に加水分解する工程(A)を含むアンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤の製造法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に用いるカゼイン加水分解物は、獣乳カゼインを平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に加水分解して得た、遊離アミノ酸及び生体内非分解性ペプチド等の低分子ペプチドを含有するので、例えば、経口により優れた生体内吸収性及び生体における各種機能発現が期待できる。従って、種々の機能性食品、医薬品、食品添加物への利用が期待できる。例えば、当該加水分解物を有効成分とする、ACE阻害活性又は血圧降下作用を有する剤への使用が期待できる。
本発明の製造法は、カゼイン加水分解物の平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に分解しうる酵素群を用いて、獣乳カゼインを、該平均鎖長2.1以下に加水分解する工程(A)を含むので、本発明の有効成分として用いるカゼイン加水分解物を容易に、しかも効率的に得ることができる。従って、本発明の有効成分としてのカゼイン加水分解物の工業的生産に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1で行なったXaa Pro、Xaa Pro Proの生体内消化吸収性及び分解抵抗性評価結果を示すグラフである。
【図2】実施例1で調製したカゼイン加水分解物粉末の用量依存的な血圧降下作用の実験結果を示すグラフである。
【図3】分析例1において行なった0〜0.6Mの直線濃度勾配による結合タンパク質の溶出パターンとタンパク質分解活性との関係を示すグラフである。
【図4】実施例3で行なったカゼインの酵素群による分解時間と得られるカゼイン加水分解物のACE阻害活性との関係を示すグラフである。
【図5】実施例3で行なったカゼインの酵素群によるカゼイン加水分解物の平均鎖長とACE阻害活性との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明に用いるカゼイン加水分解物は、獣乳カゼインをアミノ酸残基数として平均鎖長が特定範囲になるように加水分解して得た、遊離アミノ酸及びペプチドを、好ましくはカゼイン加水分解物全量に対して80重量%以上、好ましくは80〜90重量%含む。特に、該加水分解物が、ペプチドとして、Xaa Pro配列を有するジペプチド及びXaa Pro Pro配列を有するトリペプチドからなる生体内非分解性ペプチドを特定割合で含む。但し、ペプチドはペプチド塩であっても良い。
【0012】
ここで、平均鎖長とは、カゼイン酸加水分解物の総アミノ酸のモル数に対する、同重量の獣乳カゼインを加水分解した際に生産されるペプチド及び遊離アミノ酸の合計モル数の比で示すことができる。カゼイン酸加水分解物とは、カゼインタンパク質をアミノ酸にまで分解したものである。
該平均鎖長は、例えば、アミノ基に反応して発色するOPA(o−フタルアルデヒド)試薬を用いたOPA法により、加水分解物中のモル濃度を評価し、平均鎖長=(カゼイン酸加水分解物中のモル数)/(カゼイン酵素加水分解物中のモル数)として求めることができる。
また、生体内非分解性ペプチドとは、生体の腸管から吸収された際に、生体内ペプチダーゼ群に対して分解抵抗性が高い、カルボキシ末端にProを有するジペプチドXaa Pro及びトリペプチドXaa Pro Proを意味する。
【0013】
本発明において、獣乳カゼインを加水分解して得られる分解物の平均鎖長は、アミノ酸残基数として2.1以下、好ましくは1.1〜2.1、特に好ましくは1.3〜2.1である。該平均鎖長が2.1を超える場合には、所望のジペプチド及びトリペプチド、更には遊離アミノ酸の割合が低下し、所望の生体吸収性、更には生体内非分解性ペプチドの含有割合が低下する。
前記カゼイン加水分解物中に含まれるXaa Pro配列を有するジペプチドの含有割合は、分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計に対して通常5重量%以上、好ましくは5〜25重量%である。該含有割合が5重量%未満の場合には、所望の生体内吸収性及び機能発現が低下する恐れがあるので好ましくない。
前記カゼイン加水分解物中に含まれるXaa Pro Pro配列を有するトリペプチドの含有割合は、分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計に対して通常1重量%以上、好ましくは1〜5重量%である。該含有割合が1重量%未満の場合には、所望の生体内吸収性及び機能発現が低下する恐れがあるので好ましくない。
【0014】
前記カゼイン加水分解物において、前記Xaa Pro配列を有するジペプチド及びXaa Pro Pro配列を有するトリペプチドのXaaは、任意のアミノ酸であって良い。
前記カゼイン加水分解物は、例えば、Xaa Pro配列を有するジペプチドとして、Ile Pro、Glu Pro、Arg Pro、Gln Pro、Met Pro及びTyr Proを含み、Xaa Pro Pro配列を有するトリペプチドとして、Ser Pro Pro、Ile Pro Pro及びVal Pro Proを含むカゼイン加水分解物が好ましく挙げられる。
前記カゼイン加水分解物においては、このようなジペプチド及びトリペプチドを含むことにより、特に、ACE阻害活性又は血圧降下作用が有効に発現される。
【0015】
前記カゼイン加水分解物は、ペプチド以外に遊離アミノ酸を含むが、遊離アミノ酸の含有割合は、分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計に対して通常35〜50重量%、好ましくは40〜45重量%である。
前記カゼイン加水分解物には、前記ペプチド及び遊離アミノ酸の他に、例えば市販の獣乳カゼイン等に通常含まれる、脂質、灰分、炭水化物、食物繊維、水分等が10〜20重量%程度含まれていても良く、また、必要に応じてこれらのうちの適当な成分の一部若しくは全部を除去しても良い。
【0016】
本発明の有効成分である前記カゼイン加水分解物を製造するには、例えば、獣乳カゼインを、アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素であり、Pro Xaaを切断可能なペプチダーゼと、ロイシンアミノペプチダーゼと、更に、中性プロテアーゼI及び/又は中性プロテアーゼIIとを含む酵素群を用いて、平均鎖長がアミノ酸残基数として加水分解物の平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に分解する工程(A)を含む本発明の製造法により得ることができる。
獣乳カゼインは、Proを多く含む食品等に用いられる安全性が確認されたタンパク質であり、例えば、牛乳、馬乳、山羊乳、羊乳等のカゼインが挙げられ、特に牛乳カゼインが好ましく使用できる。
獣乳カゼインを加水分解する際のカゼイン濃度は、特に限定されないが前記加水分解物を効率良く生産するために、3〜19重量%が好ましい。
【0017】
本発明の製造法に用いる前記酵素群としては、カゼイン分解物の平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に分解しうる酵素を適宜選択して組合せた酵素群であれば良く、例えば、Xaa Pro Xaa又はXaa Pro Pro Xaaのカルボキシ末端のPro Xaa配列が切断可能なペプチダーゼを含む。
前記酵素群は、活性中心にセリンを持つ、セリンタイプのプロティナーゼもしくは、活性中心に金属を持つ金属プロティナーゼを含む。金属プロティナーゼとしては、中性プロテアーゼI、中性プロテアーゼII及びロイシンアミノペプチダーゼ等が挙げられ、これらの少なくとも1種を更に含むことが、所望の加水分解物を効率良く、且つ短時間で、更には1段階反応で得ることができる点で好ましい。また前記Pro Xaa配列が切断可能なペプチダーゼとしては、等電点が酸性域を示す酵素であることが好ましい。
【0018】
前記酵素群としては、例えば、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)等の麹菌由来の菌体外酵素群が挙げられる。このような菌体外酵素群は、適当な培地で菌体を培養し、菌体外に生産される酵素を水抽出した酵素群等が挙げられ、特に、アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素群のうちの等電点が酸性域を示す酵素群が好ましく挙げられる。
前記アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素群としては、市販品を利用することができ、例えば、スミチームFP、LP又はMP(以上、登録商標、新日本化学(株)製)、ウマミザイム(登録商標、天野エンザイム(株)製)、Sternzyme B11024、PROHIDROXYAMPL(以上、商品名、株式会社樋口商会製)、オリエンターゼONS(登録商標、阪急バイオインダストリー(株)製)、デナチームAP(登録商標、ナガセ生化学社製)等が挙げられ、特に、スミチームFP(登録商標、新日本化学(株)製)の使用が好ましい。
これら市販の酵素群を用いる場合には、通常、至適条件が設定されているが、前記本発明のカゼイン加水分解物が得られるように条件、例えば、使用酵素量や反応時間等を用いる酵素群に応じて適宜変更して行なうことができる。
【0019】
前記酵素群により加水分解する際の酵素群は、例えば、獣乳カゼインを溶解した水溶液に、酵素群/獣乳カゼインが重量比で1/1000以上、好ましくは1/10〜1/1000、特に好ましくは1/10〜1/100、更に好ましくは1/10〜1/40の割合で添加することができる。
反応条件は、酵素群に応じて目的のカゼイン加水分解物が得られるように適宜選択できるが、通常25〜60℃、好ましくは45〜55℃において、pHを3〜10、好ましくは5〜9、特に好ましくは5〜8に調整して行なうことができる。また、酵素反応時間は、通常2〜48時間、好ましくは7〜15時間にて行うことができる。
【0020】
前記酵素反応の終了は、酵素を失活させることにより行なうことができ、通常、60〜110℃で酵素を失活させ、反応を停止させることができる。
前記酵素反応停止後、必要に応じて沈澱物を、遠心分離除去や各種フィルター処理により除去することが好ましい。
また、必要に応じて、得られる加水分解物から苦味や臭味を有するベプチドを除去することもできる。このような苦味成分や臭味成分の除去は、活性炭又は疎水性樹脂等を用いて行なうことができる。例えば、活性炭を、使用したカゼイン量に対して1〜20重量%得られた加水分解物中に添加し、1〜10時間反応させることにより行なうことができる。使用した活性炭の除去は、遠心分離や膜処理操作等の公知の方法により行なうことができる。
【0021】
前記工程(A)により得られるカゼイン加水分解物を含む反応液は、そのまま飲料等の液体製品に添加利用することができる。また、前記カゼイン加水分解物の汎用性を高めるために、前記反応液を濃縮後、乾燥し粉末の形態とすることが好ましい。
このような粉末は、各種機能性食品、その添加物、医薬又はその有効成分として利用することができる。また、前記粉末には、栄養的バランスや風味等を改善するために、各種補助添加剤を含有させることもできる。例えば、各種炭水化物、脂質、ビタミン類、ミネラル類、甘味料、香料、色素、テクスチュア改善剤等が挙げられる。
このようなカゼイン加水分解物を含む粉末は、例えば、飲料、ヨーグルト、流動食、ゼリー、キャンディ、レトルト食品、錠菓、クッキー、カステラ、パン、ビスケット、チョコレート等に添加して使用できる他、カプセル、錠剤等の形態に成型等して利用することもできる。
【0022】
前記カゼイン加水分解物は、上記の使用法が可能であるので、各種スポーツ飲料、一般飲料、一般食品、栄養補助食品、栄養機能食品等に保健効果を付与した機能性食品の製造に、更には医薬の製造に有効に利用できる。
例えば、前記カゼイン加水分解物は、後述する実施例において、ACE阻害活性及び血圧降下作用を有することを確認しているので、これらを有する機能性食品の製造用又は医薬の製造用等の剤として使用することができる。
前記カゼイン加水分解物をACE阻害活性及び血圧降下作用を有する剤として用いる場合の投与量は、通常、経口投与によるヒトの場合、前記カゼイン加水分解物中のペプチド及ぶ遊離アミノ酸量で、1回あたり0.1〜100mg/kg、好ましくは1〜20mg/kg摂取し得る量が望ましい。従って、前記カゼイン加水分解物やACE阻害活性及び血圧降下作用を有する剤を各種飲料、食品、医薬に添加して使用する場合には、上記投与量を目安に適宜選択することができる。
【0023】
本発明の前記製造法において、前記酵素群を用いて獣乳カゼインを1段階反応により加水分解する方法は、獣乳カゼインに含まれるXaa Pro Pro、特に、血圧降下作用、抗ストレス作用等の各種機能が既に確認されているIle Pro Pro及び/又はVal Pro Proが従来の製造法に比して1段階反応により理論回収率に近い、例えば、60%以上、好ましくは70%以上の高効率で得ることができる。従って、このような製造法は、本発明のカゼイン加水分解物の製造法の他に、獣乳カゼイン、若しくはXaa Pro Pro配列を多く含む食品タンパク質から、目的とするXaa Pro Proを多く含む分解物又はその精製物の製造法としても有効な方法である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例、分析例及び比較例により更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されない。
実施例1、比較例1〜8
牛乳由来カゼイン(日本NZMP社製)1gを約80℃に調整した蒸留水99gに加えて充分に撹拌した後、1N水酸化ナトリウム(和光純薬社製)溶液を添加してpH7.0とし、また温度を20℃に調整して基質溶液を調製した。
得られた基質溶液に表1に示す市販の各種酵素を、酵素/カゼインの重量比が1/25となるように添加して、50℃で14時間反応させ、次いで110℃で10分間のオートクレーブを行い酵素を失活させ、カゼイン酵素分解物溶液を得た。次に、得られた酵素分解物溶液をスプレードライヤーにより乾燥し、粉末を調製した。
上記のように得られた粉末中の含有成分の分析を行なった。タンパク質はケルダール法で測定し、アミノ酸についてはアミノ酸分析装置にて測定した。また、該タンパク質量からアミノ酸を引いた量をペプチド量とした。更に、脂質は酸分解法で、灰分は直接灰化法で、水分は常圧加熱乾燥法でそれぞれ測定した。尚、100%から各成分を引いた残りを炭水化物量とした。その結果、アミノ酸は35.8重量%、ペプチドは45.7重量%、水分は6.6重量%、脂質は0.2重量%、灰分は4.1重量%及び炭水化物は7.6重量%であった。
【0025】
<平均鎖長の測定>
得られた各粉末に含まれるアミノ酸及びペプチドの平均鎖長は、それに含まれる遊離アミノ酸及びペプチドのアミノ基に反応するOPA試薬でモル数を測定し、同様に測定したカゼイン酸加水分解物のモル数との比で評価した。結果を表1に示す。
メタノール1mlにo−フタルアルデヒド(蛍光分析用特級試薬、ナカライテスク社製)40mgを溶解させ、β−メルカプトエタノール100μlを加えた。予め調製しておいた100mMの四ホウ酸ナトリウム溶液25mlに、20%ドデシル硫酸ナトリウム2.5mlを加えたものを用いて、上記溶解したo−フタルアルデヒドを25mlに希釈し、更に蒸留水で50mlとすることでOPA試薬を調製した。
前記各酵素を反応させた1%カゼイン酵素加水分解物粉末試料(表1)を、適当な溶媒に適当な濃度で溶解し、15000rpmで10分間遠心分離を行い、上清50μlを分取した。続いて、上記OPA試薬を1ml加え、よく撹拌し、室温で5分間放置した後、吸光光度計(商品名Ubest−35、日本分光(株)製)で340nmの吸収を測定した。
検量線は1%のカゼイン酸加水分解物を調製し、適切に希釈したものを用いて同様に測定した結果から、吸光度とモル濃度の関係を求めた。そして、平均鎖長は以下の式に従って計算した。
平均鎖長=(1%カゼイン酸加水分解物のモル濃度)/(各試料1%カゼイン酵素加水分解物のモル濃度)
【0026】
【表1】

【0027】
<ペプチド構成アミノ酸の測定>
実施例1で調製した粉末を適量の蒸留水に溶解し、自動ペプチド分析機(商品名PPSQ−10(株)島津製作所製)を用いて解析し、粉末中においてN末端側から順に如何なるアミノ酸が位置するかを調べた。結果を表2に示す。尚、自動ペプチド分析機は遊離アミノ酸を検出しない。
また、5残基目のアミノ酸の合計は120pmol、6残基目のアミノ酸の合計は100pmolであった。これらの結果より、前記粉末中に含まれるペプチドのほとんどがジペプチド及びトリペプチドであることが判った。また、2残基目のアミノ酸がProであるペプチドの割合が49.5%と顕著に上昇していた。更に3残基目のアミノ酸がProであるペプチドの割合も29.8%と多かった。
従って、前記粉末には、Xaa Pro又はXaa Pro Proが多く含まれ、これらペプチドは生体内プロテアーゼによる酵素分解作用に対する抵抗性が高く、機能性ペプチドとしての利用に最適であるものと推定できる。
【0028】
【表2】

【0029】
<Xaa Pro、Xaa Pro Proの生体内消化吸収性及び分解抵抗性評価>
表1に示す実施例1で調製したカゼイン酵素分解物の粉末中に含まれるXaa Pro及びXaa Pro Pro配列を有するペプチドの生体内での消化吸収性及び分解抵抗性を確認するためにラットにおける経口投与後の血中移行性を以下のとおり試験した。
まず、6週齢のSDラット2匹に、Xaa Pro Proの例としてVal Pro Proを、またProを有さないジペプチドとしてGly Glyをそれぞれ500mg/匹で経口投与し、門脈からの経時的採血における各種ペプチドの血中移行性を測定した。結果を図1に示す。
図1より、Gly Glyは容易に生体内で分解を受けGlyが検出されたが、Val Pro Proは比較的安定に血液中に吸収されることが確認された。この結果より、Xaa Pro及びXaa Pro Pro配列のジペプチド及びトリペプチドは、生体内での消化吸収性及び分解抵抗性が高いものと推定できる。
【0030】
<血圧降下作用の評価>
表1に示す実施例及び比較例で調製したカゼイン加水分解物粉末を、27週齢の自然発症高血圧ラットSHR(雄)各5匹に体重1kgあたり32mg経口投与した。投与前と投与5時間後の血圧を、Tail−cuff PB−98(Softron社製)を用いて尾部脈圧を測定することにより行ない、血圧の変動を評価した。また、コントロールとして前記各粉末の代わりにカゼインを投与して同様な評価を行なった。尚、血圧測定前にはプレヒートボックス(CSI JAPAN社製)にてラットを45℃で8分間加温した。結果を表3に示す。
表3の結果から、コントロールとして使用したカゼインでは全く血圧の変動が観測されなかったのに対し、実施例1の粉末投与により血圧降下作用が確認された。一方、比較例の粉末では、いずれも血圧値の変動は観測されなかった。従って、Xaa Pro及びXaa Pro Proを特定量含む平均鎖長が2.1以下である実施例1のカゼイン加水分解物は、血圧降下作用に優れることが判った。
また、実施例1で調製したカゼイン加水分解物粉末を用いて上記方法に準じて、該粉末の用量依存的な血圧降下作用の実験を行った。結果を表4及び図2に示す。
【0031】
<ACE阻害活性の評価>
ウシ肺由来のACE(和光純薬株式会社製)を0.1UとなるようにpH8.3、0.1Mホウ酸緩衝液に溶解し、ACE溶液を調製した。表1に示す各酵素分解物の粉末を蒸留水で50倍に希釈した希釈酵素分解溶液80μlと、5mMヒプリルヒスチジルロイシン(シグマ社製)200μlの溶液と、上記で調製したACE溶液20μlとを試験管に添加し、37℃で30分間反応させた。その後、1N塩酸250μlを添加して反応を停止させた後、酢酸エチル1.7mlを加え、撹拌後、酢酸エチル層1.4mlを試験管に採取し、120℃で約60分間蒸発乾燥させた。乾燥物に1mlの蒸留水を加えて、酢酸エチル中に抽出されたヒプリル酸の228nmでの吸光度を測定した。また、対照として、希釈酵素分解溶液を添加しなかったもの、及び希釈酵素分解溶液及びACE溶液を添加しなかったものについても吸光度を測定した。これらの吸光度からACE阻害活性を以下の式にて算出した。結果を表3に示す。
ACE阻害活性(%)=[(A−B)/A]×100
A:(希釈酵素分解溶液を添加せずにACE溶液を添加したものにおける吸光度)−(希釈酵素分解溶液及びACE溶液を添加しなかったものにおける吸光度)
B:(希釈酵素分解溶液及びACE溶液を添加したものにおける吸光度)−(希釈酵素分解溶液を添加し、ACE溶液を添加しなかったものにおける吸光度)
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
<酵素分解物中に含まれるペプチドの測定>
表1に示す実施例1の酵素分解物の粉末を、10mg/mlとなるように蒸留水に希釈溶解した。一方、表5に示す配列を有する各種の化学合成標準ペプチドの25μg/ml、50μg/ml及び100μg/ml溶液を作成し、これらを下記測定条件によるLC/MSにより分析した。前記粉末溶液の分析におけるピークのうち、標準ペプチドと分子量及びリテンションタイムが一致するものを、標準ペプチドと同一の配列として同定した。標準ペプチドのピークと対比することにより、前記粉末溶液中に表4に示す各種ペプチドが含まれる割合を求めた。結果を表5に示す。
また、前記粉末を蒸留水で希釈溶解した溶液中のペプチド及び遊離アミノ酸量が8.15mg/mlであり、ペプチド量が4.57mg/mlであり、該ペプチド中のXaa Pro量が514.5μgであったので、粉末中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対するXaa Proの割合は6.3重量%であり、該ペプチド中のXaa Pro Pro量が116.5μgであったので、粉末中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計量に対するXaa Pro Proの割合は1.4重量%であった。
【0035】
<使用機器>
高速液体クロマトグラフ質量分析計:LCMS−2010、システムコントローラー:SCL−10Advp、オートインジェクター:SIL−10Advp、送液ポンプ:LC−10Advp×2、カラムオーブン:CT0−10Avp、フォトダイオードアレイ検出器:SPD−M10AVP、オンラインデガッサ:DGU−14A(以上、商品名、(株)島津製作所製)、カラム:Develosil C30−UG−3(2.0mmI.D.×150mmL)(野村化学(株)製)。
<測定条件>
移動相A:0.1重量%蟻酸水溶液、移動相B:100%アセトニトリル溶液、タイムプログラム:0%B(0分)−7.5%B(30分)−80%B(30.01分)−100%B(35分)−0%B(35.1分)−STOP(45分)、試料注入量:5μl、カラム温度:50℃、検出波長:200〜300nm、イオン化モード:ESI(+)、霧化ガス流量:4.5L/分、印加電圧:+4.5kV、CDL温度:250℃、ブロックヒーター温度:200℃、CDL電圧:0.0V、Q−array電圧:SCAN、分析モード:SIM測定、分析範囲:EP(m/z=245.2)、IP(m/z=229.3)、MP(m/z=247.3)、QP(m/z=244.2)、RP(m/z=272.3)、SPP(m/z=300.3)、VPP(m/z=312.1)、IPP(m/z=326.1)、取り込み時間:0.5秒/Ch。
【0036】
【表5】

【0037】
分析例1
<酵素の特定>
実施例1で使用したアスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素において、本発明のカゼイン加水分解物を得るために必要な酵素を以下の方法により分析した。尚、以下の操作は特に断りのない限り全て4℃で行った。また特に指定のない試薬は全て和光純薬(株)製の特級試薬を用いた。
(各種阻害剤による酵素群への影響)
スミチームFP(登録商標、新日本化学工業社製)2000mgを、pH7.2の50mMリン酸緩衝液10mlに溶解し、セルロースアセテート膜(DISMIC−25cs、ポア径0.45μm、Advantec(株)製)により不溶物を除去したものを粗酵素溶液とした。
この粗酵素溶液を実施例1と同様に1%カゼインと反応させた。この際、金属プロテアーゼの阻害剤である、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)もしくは、セリンプロテアーゼの阻害剤である、PMSP(フェニルメタンスルホン酸フルオクド)を加えて反応させると、平均鎖長が大きくなり、目的の加水分解物は得られなかった。このため、本発明のカゼイン加水分解物の生成には、金属プロテアーゼもしくはセリンプロテアーゼが重要な働きをしているものと考えられる。
(イオン交換樹脂による分離)
陰イオン交換樹脂であるDEAE sephacel(アマシャムバイオサイエンス(株)製)20mlを活性化し、pH7.2の50mMリン酸緩衝液によって平衡化を行い、直径1.5cm×12cmのガラスカラムに充填した。溶出する試料は全て未吸着試料として回収しつつ、1.0ml/分の流速で前述の粗酵素溶液を吸着させ、pH7.2の50mMリン酸緩衝液をゲル体積の10倍量用いて充分洗浄した後、0〜600mM NaClを含むpH7.2の50mMリン酸緩衝液200mlで直線濃度勾配溶出した。溶出液は5mlずつ100本に分けて分画し、各画分の280nmの吸収とプロティナーゼ活性測定、ACE阻害活性をそれぞれ評価した。
【0038】
(プロティナーゼ活性の測定方法)
蛍光物質であるカゼインフロレッセインイソチオシアネート(FITC−カゼイン、シグマ社製)25mgをpH7.2の50mMリン酸緩衝液5mlに溶解させたものを基質溶液として用いた。各画分10μl及び基質溶液20μlを加え、55℃で10分間反応させた後、5%トリクロロ酢酸溶液120μlを加えて反応を停止させた。1500rpmで遠心分離により上清60μlを回収し、pH8.5の0.5Mトリス塩酸塩3mlに加えて、蛍光測定器(F−1300、日立製作所(株)製)を用いて励起波長485nm及び蛍光波長525nmを測定した。
【0039】
DEAE sephacelの各画分の280nmの吸光度測定の結果から、約73%程度のタンパク質が陰イオン交換樹脂に吸着していることが確認された。図3に、0から0.6Mの直線濃度勾配による結合タンパク質の溶出パターンとタンパク質分解活性を示す。
特に画分21〜60に、多くのタンパク質が溶出された。また各画分に溶出された酵素液を用いてカゼインを分解させた場合のACE阻害成分の生成活性を評価した。その結果、主なACE阻害成分の生成活性は画分20〜60に確認された。
一方、FITC−カゼインを基質としたプロティナーゼ活性は主に画分19〜27(NaClで0.1M〜0.2M)に溶出されており、ACE阻害成分の生成にプロティナーゼ活性が重要な働きを持っていることが示された。以上の結果から、カゼインからACE阻害成分を精製する酵素活性にプロティナーゼ活性が重要な役割を果たしていることが判った。
【0040】
(含有プロティナーゼの特定)
前記DEAE sephacel溶出画分のうち、プロティナーゼ活性のあった画分21〜35を集め、pH7.2の5mMリン酸緩衝液5リットルに対して透析を行った。Sephacryl S−300 HR(アマシャムバイオサイエンス(株)製)を、200mMのNaClを含むpH7.2の50mMリン酸緩衝液に懸濁し、充分に脱気した後、直径18cm×100cmのガラスカラムに充填した。このカラムは2ml/分の流速を保ち、200mMのNaClを含むpH7.2の50mMリン酸緩衝液で十分に平衡化した。このカラムに透析後の試料を供し、10mlずつ100本の画分を回収した。これらの画分は280nmの吸収とFITC−カゼインを基質としたプロティナーゼ活性測定を行なった。
【0041】
(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)
各画分を10μl分取し、pH6.8の0.125Mトリスバッファ、3%SDS、5%β−メルカプトエタノール、10%グリセロール、0.01%ブロモフェノールブルーからなる試料バッファー10μlを加えて、95℃で5分間加温し、室温で冷却した。この試料をLaemmliの方法(Nature,227,680(1970))に従い、ミニスラブ(アトー社製)で指定濃度のポリアクリルアミドゲルに供して30mA/枚の条件で電気泳動を行った。泳動終了後のゲルは、0.25%クマッシーブリリアントブルーR−250、50%メタノール及び7.5%酢酸からなるクマッシーブリリアントブルー染色液に10分間浸し、5%メタノール及び7.5%酢酸からなる脱色液で背景が完全に脱色するまで浸透した。分子量の推定には分子量マーカー(アマシャムバイオサイエンス(株)製)を使用し、各タンパク質バンドの移動度から算出した。
【0042】
陰イオン交換樹脂に吸着したACE阻害成分の生成活性を示す画分をSephacryl S−300樹脂でゲルろ過分離を行い分子量約45kDaに相当する画分に活性が確認され、この画分を12.5%ゲルによるSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法で分析したところ、44kDaと40kDaにほぼ単一のバンドが得られ、このバンドを切り出してN末端配列解析を行なったところ、44kDaのバンドからは既知の麹菌の中性プロテアーゼIに相同性が高い配列であった。また、40kDaのバンドからは麹菌の中性プロテアーゼIIに相同性が高い配列であった。
以上の結果から、陰イオン交換樹脂に吸着したカゼインからACE阻害成分を生成するプロティナーゼ活性には、少なくとも中性プロテアーゼIと中性プロテアーゼIIの2種類のプロティナーゼが含まれていることが判った。
プロティナーゼによりカゼインから分解生産された成分をさらに分解するため、ペプチドに作用するペプチダーゼについて以下のように分析した。
本発明の特徴であるXaa Pro及びXaa Pro Proを多く含むペプチドを生産するための酵素を特定するために、ここではVal Pro Proの各種前駆ペプチドを合成し、Val Pro Proへの加工活性を評価した。
【0043】
(アミノ末端加工酵素の精製)
DEAE sephacel溶出画分のうち、ACE阻害成分の生成活性のあった画分21〜37を集め、pH7.2の5mMリン酸緩衝液5リットルに対して透析を行った。ヒドロキシアパタイト(和光純薬(株)製)をpH7.2の5mMリン酸緩衝液に懸濁し、よく脱気した後、直径1.5cm×12cmのプラスチックカラムに充填し、pH7.2の5mMリン酸緩衝液を10倍量以上流して洗浄した。このヒドロキシアパタイトカラムに、透析したACE阻害成分の生成活性画分を供し、素通りした画分を全て回収した。
【0044】
(アミノペプチダーゼ活性の測定)
アミノペプチダーゼ活性の測定は次のように行なった。合成したペプチドVal Val Val Pro Proを50μg/mlなるように、pH7.2の50mMリン酸緩衝液に溶解し、基質溶液とした。この基質溶液45μlと酵素画分5μlとを混ぜて、55℃のインキュベータで30分間反応させ、98℃で5分間熱して反応を停止させた。この反応液から適量を分取し、質量分析装置付高速液体クロマトグラフ装置((株))島津製作所製)に供して生成するVal Pro Pro量を評価した。
【0045】
陰イオン交換樹脂に吸着したACE阻害成分の生成活性画分に含まれる32kDaの主要タンパク質を、10%ゲルを用いたSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法を行い、該当するバンドを切り出してタンパク質を抽出し、32kDaのほぼ単一タンパク質を精製し、N末端配列解析を行なったところ、既知の麹菌のロイシンアミノペプチダーゼと10残基にわたって相同性を保持していたことから、ACE阻害成分の生成活性の確認された画分には、ロイシンアミノペプチダーゼが含まれると結論付けることができた。
以上の結果から、陰イオン交換樹脂に吸着するACE阻害成分の生成活性を示す画分には、ACE阻害成分の生成活性に重要な役割を果たしているアミノペプチダーゼ活性を示す、ロイシンアミノペプチダーゼが少なくとも含まれていることが判った。
【0046】
(カルボキシ末端加工酵素活性の測定)
合成ペプチドVal Pro Pro Phe Leuを45μg/mlなるように、pH7.2の50mMリン酸緩衝液に溶解したものを基質溶液とした。この基質溶液50μlと酵素を含む溶液5μlとを混ぜて、55℃のインキュベータで30分間反応させ、98℃で5分間熱して反応を停止させた。この反応液から適量を分取し、質量分析装置付高速液体クロマトグラフ装置((株)島津製作所製)に供して生成するVal Pro Pro濃度を定量した。
各DEAE sephacel溶液画分のカルボキシ末端加工活性の評価を行なったところ、画分30〜50にVal Pro Pro Phe LeuをVal Pro Proに変換する酵素活性が含まれることが明らかとなった。
【0047】
実施例2
(精製酵素の組合わせによるカゼイン加水分解物のACE阻害活性の確認)
分析例1からアスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素(スミチームFP(登録商標、新日本化学工業社製))の陰イオン交換樹脂に吸着したACE阻害成分の生成活性には、少なくとも中性プロテアーゼI及びIIを含むプロティナーゼ活性と、ロイシンアミノペプチダーゼを含むアミノペプチダーゼ活性と、カルボキシ末端をプロリン直後まで分解する活性の4つの酵素活性が含まれていることが判った。
前記吸着した画分(図3参照)のうち、プロティナーゼ活性を多く含む画分I(図3の画分1〜35)と、カルボキシ末端をプロリン直後まで分解する活性を多く含む画分II(図3の画分番号36〜55)と、それ以降の画分III(図3の画分番号56〜100)と、プロティナーゼ活性を示した未吸着画分をそれぞれ用意した。
用意したそれぞれの画分を、表6に示すように、単独又は組合せて、1%牛乳由来カゼイン溶液1mlに加えて55℃で13時間反応させてカゼイン加水分解物を調製した。反応終了後、得られた各カゼイン加水分解物について、実施例1と同様の測定方法に準じてACE阻害活性及び平均鎖長を測定した。また、対象として粗酵素溶液を精製に用いた量の1/10000量を分取して同様な測定を行なった。これらの結果を表6に示す。
【0048】
【表6】

【0049】
表6より、未吸着画分、プロティナーゼ活性を多く含む画分、カルボキシ末端をプロリン直後まで分解する活性を多く含む画分までにACE阻害活性が強い成分が得られることが判る。また、約300mM NaClにて溶出される酵素群によりACE阻害成分が生成されることが明らかとなり、画分IIIは不用であることが分かった。
更に、強いACE阻害成分の生成活性を示した各画分で分解したカゼイン加水分解物の平均鎖長を比較すると、未吸着画分、画分I、画分IIでは平均鎖長が2.1を超えていたが、それぞれを組合せることにより平均鎖長2.1以下のカゼイン加水分解物が得られることが判った。
【0050】
実施例3
牛乳由来カゼイン(日本NZMP社製)15gを約80℃に調整した蒸留水85gに加えて充分に撹拌した後、1N水酸化ナトリウム溶液を添加してpH7.0とし、また温度を20℃に調整して基質溶液を調製した。
得られた基質溶液に酵素群としてアスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素であるスミチームFP(登録商標、新日本化学工業社製)を、酵素/カゼインの重量比が1/25となるように添加して、50℃で20時間反応させ、経時的に反応液をサンプリングし、経時的なACE阻害活性及び平均鎖長を実施例1と同様な方法で評価した。結果を図4及び図5に示す。また、ACE活性が最大値を示した反応時間12時間の酵素分解液をスプレードライヤーにて乾燥し、ペプチド渡合物の粉末を得た。
図4及び図5より、反応時間の増加に伴いACE阻害活性は増加し、反応12時間以降に減少した。また、ペプチド量の評価から平均鎖長が約1.3〜2.1においてACE阻害活性が増加することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣乳カゼインを、アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素であり、Pro Xaaを切断可能なペプチダーゼと、ロイシンアミノペプチダーゼと、中性プロテアーゼI及び/又は中性プロテアーゼIIとを含む酵素群を用いて、平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に加水分解する工程(A)を含む方法により得た、遊離アミノ酸及びペプチドを含むカゼイン加水分解物を含む、アンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤であって、
前記ペプチドとして、Xaa Pro配列を有するジペプチド及びXaa Pro Pro配列を有するトリペプチドからなる生体内非分解性ペプチドを含み、且つXaa Pro配列を有するジペプチドの含有割合が分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計に対して5重量%以上であり、Ser Pro Proを含むXaa Pro Pro配列を有するトリペプチドの含有割合が分解物中のペプチド及び遊離アミノ酸の合計に対して1重量%以上であるカゼイン加水分解物を有効成分として含む、を含む、アンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤。
【請求項2】
食品添加用又は医薬用である請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤
【請求項3】
Xaa Pro配列を有するジペプチドとして、Ile Pro、Glu Pro、Arg Pro、Gln Pro、Met Pro及びTyr Proを含み、Xaa Pro Pro配列を有するトリペプチドとして、更にIle Pro Pro及びVal Pro Proを含む請求項1又は2記載のアンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤
【請求項4】
請求項1記載のアンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤の製造法であって、獣乳カゼインを、アスペルギルス・オリゼー由来の菌体外酵素であり、Pro Xaaを切断可能なペプチダーゼと、ロイシンアミノペプチダーゼと、中性プロテアーゼI及び/又は中性プロテアーゼIIとを含む酵素群を用いて、平均鎖長がアミノ酸残基数として2.1以下に加水分解する工程(A)を含むアンジオテンシン変換酵素阻害活性又は血圧降下作用を有する剤の製造法。
【請求項5】
前記加水分解を、前記酵素群により1段階反応により行なう請求項4記載の製造法。
【請求項6】
前記酵素群が、金属プロテアーゼ及びセリンプロテアーゼの少なくとも1種を更に含む請求項4又は5記載の製造法。
【請求項7】
前記Pro Xaaを切断可能なペプチダーゼが、等電点が酸性域を示す酵素群である請求項4〜6のいずれかに記載の製造法。
【請求項8】
工程(A)において、獣乳カゼインの加水分解時のカゼイン濃度が3〜19重量%であり、且つ酵素群/獣乳カゼインの割合が質量比で1/100以上である請求項4〜7のいずれかに記載の製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−102327(P2011−102327A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31140(P2011−31140)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【分割の表示】特願2005−512524(P2005−512524)の分割
【原出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】