説明

アンテナ整合回路

【課題】広い周波数範囲に亘って無線機とアンテナとの間のインピーダンス整合を、高速に制御することが可能なアンテナ整合回路を提供する。
【解決手段】無線送信部に接続したインピーダンス検出部と、その検出結果に基づいて制御する可変インピーダンス変換手段と、可変インピーダンス素子を含む整合回路と、送信信号周波数に対応して可変インピーダンス変換手段、整合回路を制御する制御部とを備える。可変インピーダンス変換手段は、例えば、一次、二次巻き線比率を変更可能な高周波トランスとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナ整合回路に関し、詳しくは、広範囲の周波数帯域に亘って高速に整合を図ることが可能なアンテナ整合回路に関する。
【背景技術】
【0002】
無線送受信機とアンテナとの間には、通常、アンテナ整合回路が備えられ、無線送受信機の電力増幅装置の出力端、及び/又は、受信機の高周波信号入力端とアンテナのインピーダンス整合を図るように構成されている。特に、終段電力増幅部とアンテナとの整合が損なわれると送信出力電力の一部が、その不整合度合いに応じて反射し、終段電力増幅部が過熱状態になる。例えばアマチュア無線通信用オールバンド無線送受信機のように、広い周波数範囲に亘って周波数帯域を切替えて使用するものではアンテナ整合回路の役割が重要である。
アマチュア無線用に割り当てられた周波数帯域は多数存在するが、例えば、短波帯(HF帯)では2乃至30MHzの広い範囲に亘って、3.5MHz/3.8MHz帯(80mバンド)、7MHz帯(40mバンド)、10MHz帯(30mバンド)、14MHz帯(20mバンド)、18MHZ帯(17mバンド)、21MHz(15mバンド)、24MHz帯(12mバンド)、28MHz帯(10mバンド)が割り当てられている。
更に、移動無線用送信機では、通常、棒状の単一アンテナ(ホイップアンテナ)が使用されるが、ホイップアンテナの共振周波数範囲は狭いので、一つのホイップアンテナを上述した広範囲の周波数帯域において使用する場合にも、アンテナ整合回路は不可欠である。また、受信動作においても受信高周波増幅器の入力インピーダンスが、アンテナインピーダンスと不整合状態になると、その度合いに応じて受信信号が減衰し等価的に受信感度が低下するので、感度低下を防止する場合もアンテナ整合回路を使用することが多い。
【0003】
図4は、従来のアンテナ整合回路の一例を示す概要ブロック図である。この図に示すアンテナ整合回路は、送信機101の出力を、インピーダンス検出部102と整合回路部103を介してアンテナ端子104に供給し、アンテナ105に送信電力信号を導くように構成したものである。更に、上記整合回路部103は、インダクタL101とキャパシタC101、C102の値を電子的に変更可変な回路素子を含み、各回路素子の値を制御するためのCPU106を備えている。
この回路は、インピーダンス検出部102に送信機101、又は、図示を省略した送信機操作部から、チャネル切り替え信号、又は、周波数帯域切替信号を供給し、その信号に含まれる周波数情報に応じて、予め記憶している周波数に対するインピーダンス情報、即ち、使用するアンテナに対応して予め記憶している、周波数に対するインピーダンス値を読み出し、その値になるように、CPU106により、整合回路部103の各素子を制御するものである。この例では整合回路部103としてインダクタL101と、その両端に接続した二つのキャパシタC101、C102とからなるπ型回路を示したが、この例に限らず、種々の回路が使用される。
このようにCPU106により電子的に制御すれば、操作者が手動で可変コンデンサ(バリアブル・コンデンサ:通称バリコン)を回転させ、あるいは、コイル・タップの切替操作を行うよりも遙かに高速に整合を図ることができる。
【0004】
図5は、従来のアンテナ整合回路の他の例を示すもので、上記図4に示した回路の整合回路部103の各回路素子L101、C101、C102を、複数の素子を連結したものに置換するとともに、インダクタLに関しては素子を短絡するように、またキャパシタCに関しては各キャパシタ素子値が加算されるように、各素子に並列又は直列に開閉スイッチ素子を接続している。この構成によれば、スイッチの開閉の組合せによって、一つの回路素子による素子値の可変範囲を越えて、広い範囲に亘って変更できるので、上述したようなアマチュア無線用オールバンド無線送受信機に使用するものとして適している。なお、図5に示す整合回路部103の各素子のスイッチを、デジタル信号の各ビット信号の“0”、“1”に対応させて開閉すれば設計や制御が簡便なものとなる。図5の回路構成はデジタル的に制御し、上記図4の回路はアナログ的に制御するものと云うこともできる。
なお、アンテナ整合に関するものとしては特許文献1や特許文献2があり、アンテナ整合の必要性や、従来の整合回路の制御アルゴリズムを知る上で参照になる。またこれらの文献には、周囲環境の変動に応じてアンテナインピーダンスが大きく変動することや、整合速度を速める手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−129985公報
【特許文献2】特開2009−171523公報
【特許文献3】特開平9−260989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のアンテナ整合回路では、夫々以下のような不具合があった。先ず、特許文献1、2に開示された方法は、整合回路部の可変素子値を一時的に所定量変化させ、その変化方向が整合状態を改善するか否かを検出することによって、正確な素子の可変方向を把握するものである。この方法は、素子値の正しい増減(変化)方向を知る予測処理を行うので、余分な制御処理を排除する上では有用であるが、広い帯域周波数に対応し得る効果は少ない。特に、広い周波数帯域に亘り複数の周波数帯域に跨って調整を行う場合は、複数の回路素子の組合せは相当数に上るので、数十秒から数分を要することもあった。
このような問題を解決する方法として、従来、回路素子の端子切替スイッチ、バリコンの回転駆動用モータ、インダクタのステッピングモータとして高速のものを使用する方法が知られているが、高価となる他、大型化する欠点がある。
【0007】
また、電子的にキャパシタ値を制御する方法では、一つの素子でカバーできる可変範囲が狭く、広範囲のインピーダンス整合は困難である。即ち、周波数が低い範囲ではインダクタもキャパシタも値が大きくなり、周波数が高くなるにつれて、それぞれの値が小さくなる。特に、単一アンテナ(ホイップアンテナ)に同調させるには、より一層、変化すべき素子値の範囲の大きなものが必要となる。また、可変容量ダイオードのような電子素子では、耐電圧が低く、大電力送信機には不向きであった。
更に、インダクタを可変する手段が、ステップ端子を切替える方法では、細かいステップ値を得ることが困難であるのでステップアップ、ステップダウン値が大まかになり、整合精度に難点がある。
【0008】
また従来、インピーダンス整合回路の各素子をソフトウエア的に制御する方法において、制御する素子ブロック毎に複数のCPU(マイクロプロセッサ)を備える方法も提案されているが、昨今のCPUの高速性からみればあまり意味がない。
あるいは、各周波数帯に対応して、予め、整合回路の各素子の適合値をメモリしておき、周波数が設定された際にメモリから、対応する素子値を読み出した上で整合処理を行う方法が提案されている。この方法では比較的高速に、求める整合状態に収束できるが、上述したように周囲環境によってアンテナインピーダンスが大きく変動する可能性のあるホイップアンテナ等においては、メモリしたデータと一致せず、高速な制御ができない場合が考えられる。
本発明は、このような従来のアンテナ整合回路に関する諸事情に鑑みてなされたものであって、広い周波数範囲に亘って無線機とアンテナとの間のインピーダンス整合処理を、高速に実行することが可能なアンテナ整合回路を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解決するために、本発明のアンテナ整合回路は、無線送信部とアンテナとの間に挿入するアンテナ整合回路において、上記無線送信部に接続したインピーダンス検出部と、このインピーダンス検出部による検出結果に基づいて制御する可変インピーダンス変換手段と、可変インダクタ又は/及び可変キャパシタを含む整合回路と、上記可変インピーダンス変換手段及び整合回路を制御する制御部とを備え、上記インピーダンス検出部は、送信信号周波数に対応して前記可変インピーダンス変換手段の変換比を切替える手段を有し、整合回路により可変インピーダンス変換手段の出力端とアンテナとの間のインピーダンス整合を行うように構成したことを特徴とする。なお、可変インダクタ又は/及び可変キャパシタとは、可変インダクタ又は可変キャパシタ、可変インダクタ及び可変キャパシタの両者を含むことを云う。
この構成によれば、送信周波数を切替える際に、その周波数に対するアンテナインピーダンスを知り、それに適するように可変インピーダンス変換手段を制御した上で、整合回路の可変素子値を従来から知られている整合アルゴリズムにより決定することが可能である。従って、無線送信部の出力インピーダンスとアンテナを含む整合回路の入力インピーダンスとの差が小さくなるように、可変インピーダンス変換手段の変換比を選択すれば、大幅に整合時間を短縮することができる。
【0010】
また本発明のアンテナ整合回路において、上記発明における可変インピーダンス変換手段は、送信出力信号の周波数を検出する手段、又は、送信出力信号の周波数情報を取得する手段と、送信周波数とアンテナインピーダンスとの関係を示すデータが記憶されたメモリを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、インピーダンス検出手段としては、単に、送信周波数情報を可変インピーダンス変換手段に供給するものであればよい。なお、この場合、インピーダンス検出部と可変インピーダンス変換手段とを一体の機能ブロックとして構成することもできる。
【0011】
また、本発明のアンテナ整合回路では、上記各発明における可変インピーダンス変換手段が、一次コイルと二次コイルを有する高周波トランスであって、一次コイルと二次コイルの少なくとも一方が、複数のタップと、このタップを切替えるための駆動モータ又は切替スイッチ手段を備えたことを特徴とする。
この構成によれば、可変インピーダンス変換手段を安価に実現することができるので装置のコスト低減に効果がある。なお、この例に限らず、インピーダンス検出部として、方向性結合等を含む回路によって、送信信号の進行波、反射波、位相情報等を得、それらの値に基づいて必要なインピーダンス値を検出するものであってもよい。このような手段に関しては特許文献1に開示があるので参照することができる。
【0012】
また本発明のアンテナ整合回路は、上記各発明において、整合回路は、複数のインダクタと複数のキャパシタが直列又は並列に接続され、且つ、夫々のインダクタとキャパシタ夫々に直列又は並列に開閉スイッチ手段を接続し、このスイッチの開閉によって、インピーダンス整合を行うように構成したことを特徴とする。
この構成によれば、インダクタ(コイル)やキャパシタ(コンデンサ)の変化量を大きくすることができるとともに、開閉スイッチの開閉を組み合わせることにより、高精度のインピーダンス変更ができる。また、スイッチの開閉処理を同時に行えば、更に、処理速度が速くできる。
【0013】
また本発明のアンテナ整合回路は、上記各発明において、整合回路には可変容量ダイオード又はダイオードスイッチを含むことを特徴とする。
この構成によれば、整合回路を電子的に制御できるので、リレーやモータ等の機械的制御に比べて、高速な処理が可能なアンテナ整合回路を実現できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は以上説明したように、無線送信部とアンテナとの間に挿入するアンテナ整合回路において、インピーダンス検出部と、可変インピーダンス変換手段と、可変整合回路と、制御部とを備え、上記インピーダンス検出部は、送信信号周波数に対応して可変インピーダンス変換手段の変換比を切替えるように構成したものである。
この構成によれば、送信する信号周波数に対するアンテナインピーダンスを検出し、それに適するように可変インピーダンス変換手段を制御することによって、無線送信部の出力インピーダンスとアンテナを含む整合回路の入力インピーダンスとの差が小さくなるように大まかに調整した上で、整合回路により正確な整合を行うように制御することになる。従って、可変インピーダンス変換手段の変換比を適切に選択すれば、大幅に整合時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るアンテナ整合回路の一実施例を示すブロック図。
【図2】本発明に係るアンテナ整合回路の他の実施例を示すブロック図。
【図3】本発明に係るアンテナ整合回路の制御例を説明するためのイメージ図。
【図4】従来のアンテナ整合回路の例を示すブロック図。
【図5】従来のアンテナ整合回路の他の例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明に係るアンテナ整合回路の一実施例を示すブロック図である。この例に示す回路は、送信機1の出力を、インピーダンス検出部2と、本発明において使用する可変インピーダンス変換回路3と、インダクタL1とキャパシタC1、C2の値を電子的に変更可変なインピーダンス回路素子を含む整合回路部4を介してアンテナ端子5に供給し、端子5に接続したアンテナ6に送信電力信号を導くように構成し、更に、上記整合回路部4の各回路素子の値を制御するためのCPU7を備えたものである。
この回路の特徴的な点は、整合回路4と送信機1との間に可変インピーダンス変換回路3を挿入したことであり、この可変インピーダンス変換回路3も、CPU7によって制御する。
この回路におけるインピーダンス検出部2は、図4において説明したように、送信機1、又は、図示を省略した送信機操作部から、チャネル切り替え信号、又は、周波数帯域切替信号を供給し、その信号に含まれる周波数情報によって、予め記憶しているインピーダンス情報、即ち、使用するアンテナに対応して予め記憶しているインピーダンス値を読み出し、CPU7に供給する。
【0017】
更に、本発明において用いる可変インピーダンス変換回路3は、CPU7により制御され、送信機1の出力インピーダンスを整合回路4側の入力インピーダンスに近づけるように、若しくは逆に、整合回路4側の入力インピーダンスを送信機の出力インピーダンスに近づけるように、インピーダンス変換機能を備えたものである。具体的な回路構成例は後述するが、可変インピーダンス変換回路3によって、送信機1と整合回路4の入出力インピーダンス値を互い近似した状態にした上で、CPU7によって、整合回路4の各可変素子を制御し、高速にインピーダンス整合を図るものである。
なお、整合回路4としてインダクタL1と、その両端に接続した二つのキャパシタC1、C2とからなるπ型回路を示したが、この例に限らず、種々の回路が使用されることは、既に説明した通りである。
【0018】
このように可変インピーダンス変換回路3を介在させることにより、送信機1と整合回路4の入出力インピーダンス値を互い近似した状態にした上で、従来から知られた整合アルゴリズムにより整合回路4の各可変素子をCPU7により制御すれば、インピーダンスが大きく相違した状態から制御する場合に比べて、高速にインピーダンス整合を図ることが可能となる。
なお、各周波数帯において整合状態となる素子値をメモリから読み出してプリセットした上で整合処理を行う方法は従来から知られているが、ホイップアンテナを移動しながら使用する場合のように、周囲環境の変化に伴ってそのインピーダンスが大幅に変化するものに対しては高速整合できない場合があるのに対し、本発明では、可変インピーダンス変換回路3により、大まかにインピーダンス変換した上で、整合回路4により詳細な整合を行うので、アンテナのインピーダンス変動は可変インピーダンス変換回路3により吸収される。また、本発明では周波数帯域に応じて、可変インピーダンス変換回路を制御するのみであるから、各素子値を変更する場合より処理量が少なく、高速処理の可能性が高い。更に、可変インピーダンス変換回路3を挟んで、互いの入力端、出力端を見たインピーダンスを近似した状態にできるので、整合回路4のインピーダンス可変範囲を比較的狭くしても整合可能であることから、整合回路自体の整合処理時間を短縮する効果も期待できる。
【0019】
図2は、本発明の他の実施例を示すアンテナ整合回路であり、可変インピーダンス変換回路3の具体的一例として、インピーダンス変換トランス30を使用したものであり、更に、上記図1に示した回路のインピーダンス整合回路部4の各回路素子L1、C1、C2を、複数の素子を連結したものに置換するとともに、インダクタLに関しては素子を短絡するように、またキャパシタCに関しては各キャパシタ素子値が加算されるように、各素子に並列又は直列に開閉スイッチ素子を接続したものである。
この構成によれば、可変インピーダンス変換回路として、簡単な構成の高周波トランスを用いて、本発明を安価に実現できる。また、図5に示した場合と同様に、本発明においても、一つの回路素子による素子値の可変範囲を越えて大きく変更できるので、上述したようなアマチュア無線用オールバンド無線送受信機に使用するものとして適している。また、整合回路4の各素子のスイッチを、デジタル信号の各ビット信号の“0”、“1”に対応させて開閉すれば設計や制御がデジタル回路として簡便に構成することができる。
なお、インピーダンス変換トランスに関して説明すると、一次側巻き線回数を1、二次側巻き線回数をn(比が1:n)で、整合回路4の入力インピーダンス(アンテナを接続した状態)がZである場合、インピーダンス変換トランス30の一次側からみたインピーダンスZinはZ・(1/n)となる。即ち、一次巻き線回数:二次巻き線回数の比に応じて、一次側からみたインピーダンスを大きく、又は、小さくすることができる。例えば、一次側が10回巻き、二次側が1回巻きの場合は、一次側から見たインピーダンスは、(10/1)=100倍に、またその逆に、一次側が1回巻き、二次側が10回巻きの場合は、(1/10)=1/100と、小さくなる。なお、巻き数比は整数倍である必要はなく、小数点以下の比率も含まれる。
【0020】
そこで、一次側巻き数と二次側巻き数比を変更できるように構成すれば、任意の変換率で、インピーダンスを変換できる。図2に示した例では、二次側コイルにタップを設け、スイッチ素子8によって切替えるように構成している。このスイッチは、半導体スイッチ回路であっても良いが、高周波用の機械的スイッチであってもよい。なお、変換トランスの表記方法は、この例に限らず種々の表記方法があるが、要するにインピーダンス変換機能を持ったものであれば、例示したものに限らない。
このように大まかにインピーダンス変換を行った上で整合処理を行えば、整合回路4が比較的狭い範囲のものでも可変インピーダンス変換回路との組合せで、広い周波数範囲に亘って整合を行い、しかも高速に整合を得ることができる。
【0021】
図3は必ずしも正確なものではないが、本発明に係るアンテナ整合回路の処理を概念的に説明するイメージ図である。
図3において、縦軸は送信機出力端におけるインピーダンス整合状態を表わすパラメータ(測定値)である定在波比(VSWR)、横軸は周波数を示している。図中の実線10は、整合回路4単体のVSWR特性曲線、破線11、12、13は可変インピーダンス変換回路3の周波数に対するVSWR特性例を図示したものであり、変換率を変更すると、空中線インピーダンスの周波数特性に応じて図面の横軸(周波数)の左右方向に移動(破線11、12、13)すると考えて良い。図示した例では、可変インピーダンス変換回路3の変換率は、破線11のように、送信信号周波数f0において最もVSWRが小さくなる変換率にした状態で、整合回路4を制御して整合を図れば、実線10の整合状態が得られることを示している。
【0022】
この図に示すように、可変インピーダンス変換回路は大きな範囲でインピーダンス変換を行い、より詳細には整合回路4によってマッチングを図れば、高速に広い周波数範囲に亘って整合を行い得る。即ち、可変インピーダンス変換回路3の変換率が破線12や13の状態において整合回路4を制御するより、遙かに高速に整合が図られることが理解できる。
なお、インピーダンス変換トランスを使用したアンテナ整合回路が特許文献3に開示されているが、この文献記載の発明は、整合回路の整合素子と負荷インピーダンスとの関係を直感的に把握し易くし、その等価回路が複雑になるのを解決するためになされたもので、本発明のように広い周波数範囲に亘るインピーダンス整合速度の迅速化を目的とするものではない。
【0023】
本発明は以上説明した得に限らず、種々変形が可能である。
例えば、インピーダンス検出部としては、例示した構成の他、送信信号に対するインピーダンス、あるいは周波数帯域が検出できるものであれば他の方法でも構わない。考えられる手段としては、方向性結合器のように進行波電力と反射波電力量を検出できるデバイスを、アンテナへの送信電力供給ルート中に備え、そのレベルをCPUで監視しながら、反射波電力が最低で進行波電力が最大となるように、又は、反射波電力が許容値以下になるように可変インピーダンス変換部と整合回路とを制御することも可能である。
あるいは、特許文献2には、信号線カップル(方向性結合器と考えられる)を含む検出回路によって、高周波電力信号の状態を表わす成分である進行波、反射波、位相及び負荷インピーダンスを各検出電圧として検出することが記載されているので、本発明におけるインピーダンス検出手段として利用できる。この方法によれば、送信信号に対するインピーダンス値を検出し、周波数情報を用いることなく可変インピーダンス変換回路の変換比を決定できる。
【0024】
また、上述した実施例では、ホイップアンテナを使用する例を示したが、この例に限ることなく種々のアンテナについて本発明を適用可能であることは云うまでもない。更に、複数のアンテナと、夫々のアンテナに対する周波数とインピーダンスとの関係を記憶したメモリを備え、適宜アンテナを切替えて使用することも可能である。なお、複数のアンテナを切替えて使用する場合、特許文献2記載のインピーダンス検出手段を利用することにより、周波数とアンテナインピーダンスとの関係を記憶したメモリを省略できれば、アンテナ数を多くしてもメモリの切替やデータ読み出し処理が不要になり、構成や制御が簡単になる。
また、変換トランスとして、高周波特性に優れたトロイダルコアを使用することもトランスの形状を小型化する上で有効である。あるいは、トロイダルコアに一次コイルと二次コイルを巻き、露出した一次側巻き線、又は、二次側巻き線の側部を接触しながら移動する(摺動する)接続片を備えたトランスにより、巻き線比を変更すれば、微小値の調整が可能となり、整合の精度を向上する上で効果的である。コイルの巻く数比を変更する手段として、一次側と二次側の両方にタップを設け、あるいは上述したような摺動接点構造によれば、両方の巻き線数の組合せで、より広い範囲に、又は、細かいステップでの変換比調整が可能となる。
更に、特許文献1乃至3には、アンテナ整合回路について種々の手段が記載されているので、必要に応じて併用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 送信機、2 インピーダンス検出部、3 可変インピーダンス変換回路、4整合回路、5 アンテナ端子、6 アンテナ、7 CPU、8 変換トランス、L1 インダクタ(コイル)、C1、C2 キャパシタ(コンデンサ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送信部とアンテナとの間に挿入するアンテナ整合回路において、前記無線送信部に接続したインピーダンス検出部と、該インピーダンス検出部による検出結果に基づいて制御する可変インピーダンス変換手段と、可変インダクタ又は/及び可変キャパシタを含む整合回路と、前記可変インピーダンス変換手段及び前記整合回路を制御する制御部とを備え、前記インピーダンス検出部は、送信信号周波数に対応して前記可変インピーダンス変換手段の変換比を切替る手段を有し、前記整合回路により前記可変インピーダンス変換手段の出力端とアンテナとの間のインピーダンス整合を行うように構成したことを特徴とするアンテナ整合回路。
【請求項2】
前記可変インピーダンス変換手段は、送信出力信号の周波数を検出する手段、又は、送信出力信号の周波数情報を取得する手段と、送信周波数とアンテナインピーダンスとの関係を示すデータが記憶されたメモリとを備えたことを特徴とする請求項1記載のアンテナ整合回路。
【請求項3】
前記可変インピーダンス変換手段は、一次コイルと二次コイルを有する高周波トランスであって、一次コイルと二次コイルの少なくとも一方が、複数のタップと、該タップを切替えるための駆動モータ又は切替スイッチ手段を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載のアンテナ整合回路。
【請求項4】
前記整合回路は、複数のインダクタと複数のキャパシタが直列又は並列に接続され、且つ、夫々のインダクタとキャパシタ夫々に直列又は並列に開閉スイッチ手段を接続し、該スイッチの開閉によって、インピーダンス整合を行うように構成したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項記載のアンテナ整合回路。
【請求項5】
前記整合回路には可変容量ダイオード又はダイオードスイッチを含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項記載のアンテナ整合回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−10083(P2012−10083A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143844(P2010−143844)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(396007982)株式会社ネットコムセック (13)
【Fターム(参考)】