説明

アンテナ装置およびこれを用いた無線通信装置

【課題】 指向性の制御が可能でかつ小型化が可能なアンテナ装置の提供。
【解決手段】 アンテナ本体1は、上層のアンテナ素子11と、下層の接地部(グランド)12と、アンテナ素子11および接地部12により挟持される誘電体13と、アンテナ素子11の中心部と接地部12の中心部とを接続する円柱状導体(センタポスト)14と、同一円周上の給電点15−1〜15−3に設けられアンテナ素子11と接続される3個の給電導体16(16−1〜16−3)とを含んで構成され、全体として円盤状をなし、各給電点15−1〜15−3に少なくとも振幅または位相の異なる信号を給電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナ装置およびこれを用いた無線通信装置に関し、特に指向性の制御が可能なアンテナ装置およびこれを用いた無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置のうち特に無線通信端末でかつ移動通信に用いられるアンテナは無指向性のものが多く使用されている。これは通信相手である基地局の方向が端末の設置方法や移動により変化するため不定なことによる。従来のアンテナで無指向性のものとして、例えば携帯電話では、モノポールアンテナや、ヘリカルアンテナ、逆F型内蔵アンテナ等が使用されている。
【0003】
しかしながら無線通信端末のうち特に携帯電話においては、多機能化が進み従来の通話状態以外のWEBブラウジングなどのデータ通信やTV電話または、静止画像あるいは動画撮影、さらにはGPS(Global Positioning System )を用いたナビゲーション等の位置情報検出サービス、RFID(Radio Frequency Identification)を使用した認証・料金精算などのサービスも検討されている。
【0004】
上記の使用場面により、端末の設置状態(傾き等)や、手で保持している状態か、頭部に近接しているか、あるいは離れているか等の使用条件も異なっている。このため、どの状態においても性能が低下しないようなアンテナが求められている。
【0005】
従来は上記問題及びフェージング等による受信感度低下を解決する手段として、端末に複数のアンテナをもち受信感度が大きくなるようにアンテナを切り替えて使用するダイバーシティアンテナが用いられている。この場合、複数のアンテナが必要であり、端末の小型化、多機能化による部品実装の増加に対して、より小型のアンテナが要求されることになる。
【0006】
他のアンテナの性能向上方法としては、アンテナに指向性を持たせることで利得を向上させることが考えられる。この場合不要な信号方向に利得を低下させるという効果も得られるため、受信感度のみならずSIR(信号対妨害波比:Signal to Interference Ratio)の向上も期待できる。また設置状態や通話条件による頭部や手などの影響により通信性能が低下するという問題も回避することが可能となる。
【0007】
従来の指向性アンテナは、複数のアンテナを用いて各素子に位相と振幅を変えた信号を給電することで各素子から放射される電波の合成により指向性を形成するよう構成されている。この場合、各素子に給電される位相と振幅を変化させることで任意の指向性を形成すると同時に、指向性の方向を変化させることが可能となる。
【0008】
これらの方式は一般的にはアレイアンテナとして知られており、給電信号の振幅と位相をアナログ的に変化させる手法の他、ADC(Analog to Digital Converter )によりデジタル化した信号をデジタル処理により合成する方法がある。
【0009】
また他の指向性アンテナとしては給電素子に最適な距離を置いて無給電素子を配置したアンテナがありこれは八木宇田アンテナとして知られている。このアンテナは一方向のみに指向性をもち、指向性を変えるには物理的にアンテナの向きを変える必要がある。このため無給電素子の素子長を電気的に変化させることにより、指向性を変化させることも考えられている。いずれにせよアレイアンテナによる指向性の形成には複数のアンテナ素子が必要となる。
【0010】
一方、1個のアンテナで所望の放射エリアを得るパッチアンテナ装置が開示されている(特許文献1参照)。これは導体パッチにおいてX 軸上に第1給電点を有し、Y 軸上に第2給電点を有し、各給電点に対して供給される2つの無線信号の振幅と位相のうちの少なくとも一方が互いに異なるように制御するというものであり、パッチアンテナ装置はX 軸と平行に共振しかつY 軸と平行に共振する。これにより、無線信号は第1給電点を含むX 軸と平行な励振方向を有する直線偏波と、第2給電点を含むY 軸と平行な励振方向を有する直線偏波とを含む、互いに直交する2つの直線偏波を有する同一の共振周波数の無線信号の電波として、X ―Y 面とは直交しかつ接地導体とは反対側のZ 軸方向に放射される。
【0011】
一方、小型の他のパッチアンテナが開示されている(非特許文献1参照)。
【0012】
【特許文献1】特開2000−312112号公報(段落0025,0030、図1および図4)
【非特許文献1】IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION, VOL. 50, NO. 12, DECEMBER 2002 “Compact WLAN Disc Antennas”(Neil J. McEwan, Raed A. Abd-Alhameed, Embarak M. Ibrahim, Peter S. Excell, and Nazar T. Ali )
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、無線通信装置で特に端末で指向性を制御する場合、従来方法としてはアレイアンテナ等複数のアンテナ素子を用いる方法が考えられる。この場合複数のアンテナ素子が必要なことと、アンテナ素子同士の間にある程度の素子間隔が必要となるためアンテナ形状が大きくなるという問題があり、無線装置のうち特に移動端末等に実装する上で問題となっている。
【0014】
また、特許文献1開示の技術は直交する2箇所の位置に給電点を設けて振幅および位相を制御する点で本発明と相違する。この技術は垂直面内の偏波の向きが垂直軸を中心とした回転方向へ変化するもので、垂直偏波と水平偏波は常に直交している。そして、指向性の向きは常に垂直方向となる。偏波面のみが変わり、指向性の向きそのものは変化しない。この技術では指向性の向きを垂直方向から水平方向へ傾けるためにアンテナを複数用いてアレイ化している。
【0015】
これに対し、本発明は給電点の数が3個以上であり、しかも給電点は同一円周上に設けられるという点で特許文献1開示の技術と全く相違する。本発明では指向性の向きは水平方向が主であり、垂直方向への指向性は小さい。また、指向性の向きそのものが変化する。偏波は垂直偏波が支配的であり、水平偏波の放射は小さい。給電点の位相差が0度の場合はオム二バスパターンとなり、全水平面へ放射する。一方、非特許文献1にも課題を解決する手段は開示されていない。
【0016】
そこで本発明の目的は、指向性の制御が可能でかつ小型化が可能なアンテナ装置およびこれを用いた無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記課題を解決するために本発明によるアンテナ装置は、複数の層からなるアンテナ本体と、前記アンテナ本体に信号を供給する給電手段とを含むアンテナ装置であって、前記アンテナ本体は3個以上の給電点を有し、前記給電手段は前記給電点の各々に少なくとも振幅または位相の異なる信号を給電することを特徴とする。
【0018】
また、本発明による無線通信装置は上記アンテナ装置を用いたことを特徴とする。
【0019】
本発明によれば、アンテナ本体に3個以上の給電点を設け、各給電点に給電する信号の振幅または位相を変化させることにより、指向性の切り替えが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、上記構成を有することにより、1個のアンテナで指向性の制御が可能となる。また、アンテナが1個で済むため、アンテナ装置の小型化が可能となり、したがって携帯電話機等への内蔵が可能となる。さらに、指向性の制御が容易となるため、通信状況に応じて指向性を最適に設定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施例について添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係るアンテナ装置のアンテナ本体の一例の構成図である。同図(a)はアンテナ本体の平面図、同図(b)はA−A断面図を示している。
【0022】
同図(a)、(b)を参照すると、本発明に係るアンテナ装置は、複数の層からなるアンテナ本体1と、アンテナ本体1に信号を供給する給電部2(後述の図2参照)とを含んでおり、アンテナ本体1はその表面の同一円周上に複数の給電点15(15−1〜15−3)を有し、給電部2は給電点15−1〜15−3の各々に少なくとも振幅または位相の異なる信号を給電する。
【0023】
アンテナ本体1は、上層のアンテナ素子11と、下層の接地部(グランド)12と、アンテナ素子11および接地部12により挟持される誘電体13と、アンテナ素子11の中心部と接地部12の中心部とを接続する円柱状導体(センタポスト)14と、各給電点15−1〜15−3に設けられアンテナ素子11と接続される3個以上(本実施例では一例として3個)の給電導体16(16−1〜16−3;16−1は図示を省略)とを含んで構成され、全体として円盤状をなしている。なお、給電導体16と接地部12とは非接続である。
【0024】
このアンテナ素子11と、接地部12と、誘電体13と、円柱状導体14とで構成されるアンテナはPIFA(Planar Inverted-F Antennas)構造をなす円形のパッチアンテナとして知られている(非特許文献1参照)。
【0025】
本発明はこのパッチアンテナに3個以上の給電点を設けたところに特徴がある。さらに、それら給電点をパッチアンテナの表面の同一円周上に設けることも可能である。本実施例では一例として給電点を3個設ける場合について説明するが、4個以上設ける場合についても同様に説明することが可能である。
【0026】
3個の給電点15−1〜15−3はアンテナ本体11の中心から同一円周上に配置されている。さらに、本実施例では、各給電点15は一例として同一円周上に等間隔(120度毎)に配置されている。なお、本実施例では各給電点15が一例として同一円周上に等間隔(120度毎)に配置される場合について説明するが、これに限定されるものではなく、各給電点15の間隔は任意に設定が可能である。なお、図1(b)ではアンテナ素子11の半径がr1、円柱状導体14の半径がr2の場合を示している。
【0027】
図2は本発明に係るアンテナ装置の給電部の一例の構成図である。同図を参照すると、給電部2は、入力信号を給電点の数(本実施例では一例として3 個)に分配する分配導体21と、分配導体21によって分配された信号を給電点(15−1〜15−3)の各々に伝送させる伝送導体(ストリップライン)22(22−1〜22−3)と、伝送導体22を通過する信号の位相を切り替える位相切替スイッチ23(23−1〜23−3)とを含んで構成される。
【0028】
なお、本実施例では給電部2として、ストリップライン22を切り替える移相器の一例を示すが、これに限定されるものではなく、他の公知の移相器または増幅器、減衰器を使用することも可能である。
【0029】
また、スイッチ23の一例としてSPDT(single pole dual throw)スイッチの使用が可能であるが、これに限定されるものではなく、この種の他のスイッチの使用も可能である。また、このスイッチ23は図示しない制御部により制御される。
【0030】
次に伝送導体22の構成について説明する。一例として伝送導体22−1について説明するが、伝送導体22−2および22−3も同様の構成となっている。
【0031】
伝送導体22−1は第1の経路31と、第1の経路31を通過する信号と180度の位相遅延を生じさせる第2の経路32とを含み、スイッチ23−1は第1の経路31および第2の経路32を切り替える。なお、本実施例では位相遅延が180度となるよう第2の経路32の長さを調整したが、これに限定されるものではなく、位相遅延として任意の度数の適用が可能である。
【0032】
次に、本アンテナ装置の動作について説明する。図3は本発明に係るアンテナ装置の動作の一例を示す図、図4は同アンテナ装置の水平面での放射特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【0033】
本アンテナ装置の各給電点15−1〜15−3には少なくとも振幅または位相の異なる信号が給電される。なお、以下に示す実施例では振幅を一定とし位相を180度ずらした場合について説明するが、これに限定されるものではなく、位相を一定として振幅のみを変更する場合、および位相および振幅の両者を変更する場合にも本発明の適用が可能である。
【0034】
図3を参照すると、ケース1の場合、給電点15−1には給電点15−2および15−3に入力される信号よりも位相が180度遅延した信号が入力される。すなわち、スイッチ23−1は第2の経路32側、スイッチ23−2および23−3は第1の経路31側に設定される。
【0035】
また、ケース2の場合、給電点15−2には給電点15−1および15−3に入力される信号よりも位相が180度遅延した信号が入力される。すなわち、スイッチ23−2は第2の経路32側、スイッチ23−1および23−3は第1の経路31側に設定される。
【0036】
ケース3の場合、給電点15−3には給電点15−1および15−2に入力される信号よりも位相が180度遅延した信号が入力される。すなわち、スイッチ23−3は第2の経路32側、スイッチ23−1および23−2は第1の経路31側に設定される。
【0037】
ケース1の場合はビーム方向が180度、ケース2の場合はビーム方向が300度、ケース1の場合はビーム方向が180度となる(図3および図4参照)。
【0038】
このように、本実施例では本アンテナ装置が3セクタのセクタアンテナとして動作可能であることを示している。
【0039】
なお、本実施例では、中心周波数が2.3GHz、アンテナ素子11の半径r1=18mm、円柱状導体14の半径r2=4mm、基板の厚さ(アンテナ素子11、接地部12および誘電体13の断面の厚さの合計値)h=4mmおよび誘電体13の誘電率=2.2の場合の放射特性を示している。
【0040】
また、給電部2により少なくとも受信感度、信号品質またはエラーレートのいずれかに応じて伝送導体22を通過する信号の位相を切り替えることが可能である。具体的に説明すると、図示しない制御部は受信感度、信号品質およびエラーレートを監視しており、これらの受信性能が向上するようにスイッチ23に伝送導体22を通過する信号の位相を切り替えさせ、最適な指向性を得る。これにより、受信感度の向上および他の端末による干渉の除去が可能となり、受信特性の向上を図ることが可能となる。また、端末が送受信機の場合は、その受信特性に対応する送信特性(たとえば、送信電力)が得られ、送受信特性の向上を図ることが可能となる。
【0041】
なお、本実施例では位相遅延が180度の場合について説明したが、これに限定されるものではなく、任意の度数が可能である。入力信号の位相遅延をさらに小さく設定することにより、指向性をより細かく変化させることが可能となる。同様に、入力信号の振幅を細かく変化させることによっても同様の効果が得られる。
【0042】
また、本実施例では特性上円形パッチアンテナの場合を示したが、これに限定されるものではなく、アンテナの表面の同一円周上に複数個の給電点を設けることが可能であれば他の形状でもよい。
【0043】
本アンテナ装置を公知の携帯電話機、無線LAN(Wireless Local Area Network) 用の端末装置等の無線通信装置、あるいはRFID(Radio Frequency Identification ;無線タグ) 用装置のアンテナとして適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に係るアンテナ装置のアンテナ本体の一例の構成図である。
【図2】本発明に係るアンテナ装置の給電部の一例の構成図である。
【図3】本発明に係るアンテナ装置の動作の一例を示す図である。
【図4】同アンテナ装置の水平面での放射特性のシミュレーション結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1 アンテナ本体
2 給電部
11 アンテナ素子
12 接地部(グランド)
13 誘電体
14 円柱状導体(センタポスト)
15 給電点
16 給電導体
21 分配導体
22 伝送導体(ストリップライン)
23 位相切替スイッチ
31 第1の経路
32 第2の経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の層からなるアンテナ本体と、前記アンテナ本体に信号を供給する給電手段とを含むアンテナ装置であって、
前記アンテナ本体は3個以上の給電点を有し、
前記給電手段は前記給電点の各々に少なくとも振幅または位相の異なる信号を給電することを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記給電点は前記アンテナ本体の表面の同一円周上に設けられることを特徴とする請求項1記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記アンテナ本体は、上層のアンテナ素子と、下層の接地部と、前記アンテナ素子および前記接地部により挟持される誘電体と、前記アンテナ素子の中心部と前記接地部の中心部とを接続する円柱状導体と、前記給電点に設けられ前記アンテナ素子と前記接地部とを接続する複数の給電導体とを含むことを特徴とする請求項1または2記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記アンテナ本体は円盤状に形成されることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記複数の給電点は等間隔に配置されることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記給電手段として前記給電点の各々に少なくとも振幅または位相の異なる信号を給電するための増幅器、減衰器または移相器を含むことを特徴とする請求項1から5いずれかに記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記位相切替手段は少なくとも受信感度、信号品質またはエラーレートのいずれかに応じて各々の給電信号の振幅または位相を切り替えることを特徴とする請求項6記載のアンテナ装置。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載のアンテナ装置を用いたことを特徴とする無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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