アンテナ装置及び無線装置
【課題】磁性体を用いてアンテナと周辺導体部分の間の遮へいを図る場合に、渦電流の抑制と電磁遮へい効果の改善を両立させる。
【解決手段】無線装置1は、基板11と、基板11に設けられた給電点12に接続されたアンテナ素子13と、遮へい部材14を備えている。遮へい部材14は、基板11とアンテナ素子13の間に設けられている。遮へい部材14は、絶縁性の基材及びこれに配設された複数の磁性切片からなる。磁性切片は、隣どうし互いに間隔を空けて配設されている。
【解決手段】無線装置1は、基板11と、基板11に設けられた給電点12に接続されたアンテナ素子13と、遮へい部材14を備えている。遮へい部材14は、基板11とアンテナ素子13の間に設けられている。遮へい部材14は、絶縁性の基材及びこれに配設された複数の磁性切片からなる。磁性切片は、隣どうし互いに間隔を空けて配設されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナ装置及び無線装置に係り、特にアンテナ素子の周辺に設けられた導体部分とアンテナ素子間に遮へい部材を設けるように構成されたアンテナ装置及び該アンテナ装置を用いた無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯電話機のような小型の無線装置においては、実装スペースが限られることから、アンテナ又は回路の各部分の間の電磁的結合又は容量結合による干渉が問題になる場合がある。特にアンテナについては、回路基板や筐体の導体部分(以下、周辺導体部分という。)との結合に起因する放射効率の低下が問題になる場合がある。これらの問題に対して、磁性体を利用してアンテナと周辺導体部分の間を遮へいする解決策が検討されている。
【0003】
そのようなアンテナの一種として、例えばアンテナコイルが設けられたアンテナ基板と、磁心部材と、シールド板を重ねて形成した無線個体識別(RFID)のカード用のアンテナモジュールが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1のアンテナモジュールは、磁心部材のアンテナコイル側の面とシールド板側の面の磁気的特性を異ならせて、アンテナコイルの通信特性とシールド効果の両立を図るものである。
【0004】
また、アンテナ素子と導電性部材の間に磁性材を含むシート体を挿入して、放射効率を改善する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2のシート体は磁性材からなるシールド層と導体層と貼着用剤層からなり、シールド層の透磁率等を選ぶことによってアンテナインピーダンスの低下を抑えるものである。
【特許文献1】特開2005−80023号公報(第8、9ページ、図2)
【特許文献2】特開2007−124638号公報(第12ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1によれば、磁心部材のアンテナコイル側の面は軟磁性粉末の充填率を相対的に低くして絶縁性を高めることにより、渦電流の発生を抑制してアンテナコイルの損失を低減する。また、磁心部材のシールド板側の面は軟磁性粉末の充填率を相対的に高くすることにより、アンテナ基板とシールド板間の電磁遮へい機能を高めることが記載されている。
【0006】
磁性体を利用してアンテナと周辺導体部分の間を遮へいする場合、渦電流の抑制と電磁遮へい機能の向上の両立が重要である。特許文献1は、磁心部材を軟磁性粉末の充填率が異なる複数層から構成してその両立を図るものであるが、諸元の異なる複数の材料を選んで層状に構成するための製造工程を要するという問題がある。
【0007】
特許文献2は、シールド層の透磁率等を設定するのに、例えば複数の軟磁性粉末の混合比を選ぶ等の方法を用いる。特許文献1の場合と同様、このような材料選択や層構成のための製造工程を要するという問題がある。
【0008】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、磁性体によりアンテナと周辺導体部分の間の遮へいを図る場合に、シンプルな構成の遮へい部材を用いて渦電流の抑制と電磁遮へい効果の改善を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のアンテナ装置は、回路基板の近傍に配設されたアンテナ装置において、前記回路基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の無線装置は、回路基板と、前記基板の近傍に配設され、前記回路基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁性体によりアンテナと周辺導体部分の間の遮へいを図る場合に、基材に複数の磁性材料の切片が配設されて構成された遮へい部材を用いることにより、渦電流の抑制と電磁遮へい効果の改善を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお以下の各図を参照しながら上下左右又は水平、垂直(鉛直)をいうときは、特に断らない限り、図が表された紙面における上下左右又は水平、垂直(鉛直)を意味するものとする。また、各図の間で同一の符号は、同一の構成を表すものとする。
【実施例1】
【0013】
以下、図1ないし図9を参照して、本発明の実施例1を説明する。図1は、実施例1に係る無線装置1の主要な部分及び無線装置1に含まれるアンテナ装置10の構成を表す斜視図である。無線装置1は、回路基板(以下、単に基板という。)11と、基板11に設けられた給電点12に接続されたアンテナ素子13と、遮へい部材14を備えている。これらのうち、アンテナ素子13と遮へい部材14が、アンテナ装置10を構成する。遮へい部材14は、基板11とアンテナ素子13の間に設けられている。
【0014】
図2は、遮へい部材14の構成を図1のブロック矢印で表す向きに見て表す平面図である。遮へい部材14は、絶縁性の基材15及びこれに配設された複数の磁性材料の切片(磁性切片)16からなる。磁性切片16は、隣どうし互いに間隔を空けて配設されている。図2においては、上下方向が図1における基板11の長手方向に相当する。
【0015】
複数の磁性切片16が配設された遮へい部材14は、アンテナ素子13が励振されることによってアンテナ素子13の周囲に生じる磁界を基板11に対して遮へいする効果を有する。そのため、アンテナ素子13が励振されたときアンテナ素子13と基板11の接地回路における互いに逆向きの電流分布によって励振される電磁界の相殺が抑えられて、アンテナ装置10の放射効率改善に寄与する。
【0016】
しかし、現実の磁性材料は非ゼロの導電率を有するため、変動磁界内に置かれた金属に生じるのと同様の渦電流損を生じる。渦電流損の値は磁性材料に形成される磁路長に依存するから、磁性材料を複数の切片に分けて隣どうしの間隔を空けるようにすれば、磁路を分断して渦電流損を抑えることができる。渦電流損の抑制のためには、磁性切片16の個々の長さが小さい方が望ましい。
【0017】
また、磁性切片16は、その比誘電率の値に基づく誘電体としての特性も併せ持っている。磁性切片16の個々の切片の長さが短いほど個々の切片に生じる誘電分極の値は小さいから、磁性切片16全体としての等価的な比誘電率が低下して誘電体損も低下する。また、磁性切片16の隣どうしの切片の間隔が空くほど互いの分極電荷の結合が弱まるから、誘電体損が低下する。
【0018】
以上のように、磁性切片16の個々の切片をできるだけ小さく、かつ、互いの間隔を空けるようにする方が、渦電流損及び誘電体損の低下の意味では望ましい。しかし、そのようにすればするほど遮へい部材14の磁性体全体の表面積又は体積が縮小するため磁性体としての特性は失われていき、アンテナ素子13と基板11の間の遮へい効果が損なわれる。結局、磁性切片16の個々の切片のサイズと隣どうしの間隔はこれらの条件のトレードオフとして、適宜設定されるべきものということができる。
【0019】
なお、絶縁性の基材15は誘電体材料からなるが、例えばフェライトのような絶縁性磁性体を用いてもよい。その場合には、遮へい部材14全体としての透磁率を高めて遮へい効果を改善する効果が得られる。
【0020】
図3は、遮へい部材14の第1の変形例(磁性切片16の平面的な形状又は配置に関する変形例をいう。以下の実施例1の説明において同じ。)の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図3の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が左右方向に長く(横長に)形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0021】
図4は、遮へい部材14の第2の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図4の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が上下方向に長く(縦長に)形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0022】
図5は、遮へい部材14の第3の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図5の変形例においては、磁性切片16の個々の切片がひし形に形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0023】
図6は、遮へい部材14の第4の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図6の変形例においては、磁性切片16の個々の切片は図2と同様に形成されており、上下に隣り合う切片の並びの位置関係が左右にずれている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0024】
図7は、遮へい部材14の第5の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図7の変形例においては、磁性切片16の個々の切片のサイズ及び上下左右の配列が不揃いにされている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0025】
図8は、遮へい部材14の第6の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図5の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が楕円形に形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0026】
図9は、遮へい部材14の第7の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図9の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が三角形に形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0027】
磁性切片16の個々の切片の形状、隣り合う切片どうしの位置関係は、以上に述べた他にもさまざまに変形することができる。また、複数の変形例を組み合わせて新たな変形例を作ることも可能である。磁性切片16をそのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0028】
磁性切片16は、異方性磁性体からなるものとしてもよい。異方性磁性体は、二次元又は三次元座標において透磁率が特定の向きに相対的に高い値を示し、他の向きに対しては真空中の透磁率に近い値をとる。上記の特定の向き(磁化困難軸という。)における透磁率の値は、絶対値としても、一般的な等方性磁性体の透磁率より高い値をとることが可能である。
【0029】
上記の磁化困難軸が、図1においてアンテナ素子13の主たる向き(アンテナ素子13が給電されたとき分布する電流の主たる向きに相当し、図1においては基板11の長手方向に一致する。)に直交するように、磁性切片16の個々の切片を配設することができる。そうすると、アンテナ素子13の周囲に生じる磁界の向きに高い透磁率が得られるので、遮へい部材14の遮へい効果を高めることができる。
【0030】
本発明の実施例1によれば、複数の磁性切片が互いの間隔を空けて配設されてなる遮へい部材をアンテナ素子と基板の間に設けることにより、遮へい効果と損失のバランスをとって放射効率を改善することができる。
【実施例2】
【0031】
以下、図10を参照して、本発明の実施例2を説明する。実施例2に係るアンテナ装置及び無線装置は、実施例1に係るアンテナ装置10及び無線装置1において遮へい部材14の磁性切片16の平面的な分布の変形例を採用したものである。図10は、その変形例である遮へい部材24の構成を、実施例1の図2と同じ向きに見て表す平面図である。図10には、図2に表したのと同じ給電点12とアンテナ素子13を併せて示す。
【0032】
遮へい部材24は、絶縁性の基材25及びこれに配設された複数の磁性切片26からなる。磁性切片26は、基材25上の給電点12の近傍において相対的に密に配設され、アンテナ素子13の開放端の近傍において相対的に疎に配設されている。
【0033】
アンテナ素子13は、給電されたとき給電点12の近傍に相対的に大きい電流値が分布し、開放端の近傍に相対的に小さい電流値が分布する。したがって、アンテナ素子13の周囲に発生する磁界も、給電点12の近傍における値が相対的に大きく、開放端の近傍における値が相対的に小さい。そうすると、遮へい部材24の下側(紙面に向かって奥に相当する側)に位置する図示しない基板とアンテナ素子13の間の遮へい効果を確保するためには、給電点12の近傍において磁性切片26をより密に配設する方が効果的である。
【0034】
なお、図10に示した磁性切片26の個々の切片の形状、配置等は一例であって、例えば実施例1の図2ないし図9に表した形状、配置の疎密を変形するようにしてもよい。
【0035】
本発明の実施例2によれば、アンテナ素子の電流分布の大小に磁性切片の配置の疎密を対応させることにより、磁性切片の数を減らしても遮へい効果を保つことが可能になる。
【実施例3】
【0036】
以下、図11ないし図16を参照して、本発明の実施例3を説明する。実施例3に係るアンテナ装置及び無線装置は、実施例1に係るアンテナ装置10及び無線装置1において遮へい部材14を厚み方向に変形し又は複数層を重複させたものである。図11は、そのような厚み方向の第1の変形例である遮へい部材34の構成を表す図である。
【0037】
図11の上部は遮へい部材34を図2と同じ向きで表す平面図であり、下部は該平面図に記入したA−Aの面における断面図である。遮へい部材34は、絶縁性の基材35及びこれに配設された複数の磁性切片36からなる。基材35は、表面が凹凸(又は鋸歯状)をなして形成されている。
【0038】
複数の磁性切片36の個々の切片は、基材35の凹凸(又は鋸歯状)をなす表面にそれぞれ分離して配設されている。磁性切片36の個々の切片は、例えばスパッタリング法によって基材35の表面にそれぞれ分離して形成されたものである。
【0039】
薄い(例えば10ミクロン厚の)磁性体のシートを細分して個々の切片を形成するのは、加工上の困難を伴う場合がある。上述したように基材表面の凹凸を利用すれば、磁性膜の形成に伴い自然に個々の切片を分離することができるので、加工上の困難を低減することができる。また、遮へい部材34の磁性体全体の表面積又は体積を縮小させずに済むので磁性体としての特性を保つことができる。
【0040】
図12は、厚み方向の第2の変形例である遮へい部材37の構成を表す図である。図12の上部は遮へい部材37を図2と同じ向きで表す平面図であり、下部は該平面図に記入したA−Aの面における断面図である。遮へい部材37は、絶縁性の基材38及びこれに配設された複数の磁性切片39からなる。基材38は、表面が凹凸をなして形成されている。
【0041】
複数の磁性切片39の個々の切片は、基材38の表面の凹部と凸部にそれぞれ配設されている。磁性切片39の個々の切片は、例えばスパッタリング法によって基材38の表面の凹部と凸部にそれぞれ形成されたものである。なお、図11又は図12に示した基材35又は38の表面の凹凸形状は例示であって、多様な変形を考えることができる。
【0042】
図13は、実施例1に係る遮へい部材14を厚み方向に複数層を重複させた例である複数層遮へい部材44の構成を表す斜視図である。図14は、図12に矢印で記入したB−B断面における複数層遮へい部材44の断面図である。
【0043】
図13又は14において、遮へい部材14は一例として図2に示した構成を図示しているが、例えば図3ないし図12のいずれかに示した構成又は他の構成をとるものであってもよい。複数層の数は、3に限るものではない。このような複数層の重複によって、複数層遮へい部材44の全体に含まれる磁性材の体積を増大させ、透磁率を高めて遮へい効果を改善する効果がある。
【0044】
図14に記入した縦の点線は、磁性切片16の個々の切片の位置が厚み方向に揃っていることを示している。このように揃っていることは、個々の切片に生じる誘電分極の厚み方向の結合を緩和して複数層遮へい部材44全体としての誘電率及び誘電体損を抑えるのに効果がある。
【0045】
図15及び図16を参照して、複数層遮へい部材の1例に係る放射効率のシミュレーション評価について説明する。図15は、当該複数層遮へい部材を構成する1層分の遮へい部材54の一部の構成及び各部の寸法を、実施例1の図2と同じ向きに見て表す平面図である。なお、当該複数層遮へい部材によって図示しない基板との間を遮へいされる図示しないアンテナ素子は、主たる部分が図15の上下の向きに(図1又は図12に表したのと同様に)配設されるものとする。
【0046】
遮へい部材54は、絶縁性の基材55及びこれに配設された複数の磁性切片56からなる。基材55は比誘電率(実数部)2、厚さ約(4/100000)λの誘電体材料からなる。磁性切片56は異方性磁性体からなり、磁化困難軸の向きは図15の左右の向きに一致させてある。磁性切片56の比透磁率(実数部)は磁化困難軸の向きに100、これに直交する向きに1とする。磁性切片56の導電率は1×(10の4乗)ジーメンス/メートル(S/m)とする。
【0047】
磁性切片56の個々の切片のサイズは、図15に表すように左右方向の幅約(2/1000)λ、高さ約(7/100000)λとする。個々の切片の隣どうしの間隔は、左右方向に約(3/10000)λ、高さ方向に約(7/100000)λとする。上記の複数層遮へい部材は、このように構成された遮へい部材54を約(3/1000)λ厚にわたって複数層重ねることにより構成されたものである。
【0048】
上記の複数層遮へい部材を、主たる部分が基板と略平行に配設された逆L字型の先端開放モノポール型アンテナ素子(共振周波数はf0ヘルツ(Hz)とする。)と該基板との間に設けるものとする。図16の円形のプロットは、その場合の放射効率をシミュレーションにより評価した結果の一例を表している。図16の横軸は周波数(f0にて規格化)、縦軸は放射効率を表す。
【0049】
図16の正方形のプロットは、比較のため上記のアンテナ素子と基板の間に複数層遮へい部材を設けない場合について、同じシミュレーションにより求めた放射効率を表す。図16に示すように、アンテナ素子の共振周波数であるf0Hzにおける円形プロットと正方形プロットの放射効率の差から、複数層遮へい部材を設けることによる放射効率の改善は約4デシベル(dB)に達することがわかる。このような放射効率の改善は、本発明の効果を明示する結果の一例である。
【0050】
本発明の実施例2によれば、遮へい部材の厚み方向の変形又は複数層の重複により、遮へい部材の加工上の困難を低減したり、遮へい効果を改善したりすることができる。
【0051】
以上の実施例の説明において、各アンテナ素子の方式、形状、構成、接続、遮へい部材又は磁性切片の形状、配置、組み合わせ等は例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまな変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例1に係る無線装置の主要な部分及びアンテナ装置の構成を表す斜視図。
【図2】実施例1に係る遮へい部材の構成を表す平面図。
【図3】実施例1に係る遮へい部材の第1の変形例の構成を表す平面図。
【図4】実施例1に係る遮へい部材の第2の変形例の構成を表す平面図。
【図5】実施例1に係る遮へい部材の第3の変形例の構成を表す平面図。
【図6】実施例1に係る遮へい部材の第4の変形例の構成を表す平面図。
【図7】実施例1に係る遮へい部材の第5の変形例の構成を表す平面図。
【図8】実施例1に係る遮へい部材の第6の変形例の構成を表す平面図。
【図9】実施例1に係る遮へい部材の第7の変形例の構成を表す平面図。
【図10】本発明の実施例2に係るアンテナ装置の遮へい部材の構成を表す平面図。
【図11】本発明の実施例3に係るアンテナ装置の遮へい部材(実施例1の遮へい部材を厚み方向に変形した第1の変形例)の構成を表す平面図及び断面図。
【図12】本発明の実施例3に係るアンテナ装置の遮へい部材(実施例1の遮へい部材を厚み方向に変形した第2の変形例)の構成を表す平面図及び断面図。
【図13】本発明の実施例3に係るアンテナ装置の複数層遮へい部材の構成を表す斜視図。
【図14】実施例3に係る複数層遮へい部材の断面図。
【図15】実施例3のシミュレーション評価のための遮へい部材の構成と各部の寸法を表す平面図。
【図16】実施例3の評価として、図15に表した遮へい部材をアンテナ素子と基板間に複数層配設した構成における放射効率をシミュレーションにより求めて表す図。
【符号の説明】
【0053】
1 無線装置
10 アンテナ装置
11 基板
12 給電点
13 アンテナ素子
14、24、34、37、54 遮へい部材
15、25、35、38、55 基材
16、26、36、39、56 磁性切片
44 複数層遮へい部材
【技術分野】
【0001】
本発明はアンテナ装置及び無線装置に係り、特にアンテナ素子の周辺に設けられた導体部分とアンテナ素子間に遮へい部材を設けるように構成されたアンテナ装置及び該アンテナ装置を用いた無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば携帯電話機のような小型の無線装置においては、実装スペースが限られることから、アンテナ又は回路の各部分の間の電磁的結合又は容量結合による干渉が問題になる場合がある。特にアンテナについては、回路基板や筐体の導体部分(以下、周辺導体部分という。)との結合に起因する放射効率の低下が問題になる場合がある。これらの問題に対して、磁性体を利用してアンテナと周辺導体部分の間を遮へいする解決策が検討されている。
【0003】
そのようなアンテナの一種として、例えばアンテナコイルが設けられたアンテナ基板と、磁心部材と、シールド板を重ねて形成した無線個体識別(RFID)のカード用のアンテナモジュールが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1のアンテナモジュールは、磁心部材のアンテナコイル側の面とシールド板側の面の磁気的特性を異ならせて、アンテナコイルの通信特性とシールド効果の両立を図るものである。
【0004】
また、アンテナ素子と導電性部材の間に磁性材を含むシート体を挿入して、放射効率を改善する技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。特許文献2のシート体は磁性材からなるシールド層と導体層と貼着用剤層からなり、シールド層の透磁率等を選ぶことによってアンテナインピーダンスの低下を抑えるものである。
【特許文献1】特開2005−80023号公報(第8、9ページ、図2)
【特許文献2】特開2007−124638号公報(第12ページ、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1によれば、磁心部材のアンテナコイル側の面は軟磁性粉末の充填率を相対的に低くして絶縁性を高めることにより、渦電流の発生を抑制してアンテナコイルの損失を低減する。また、磁心部材のシールド板側の面は軟磁性粉末の充填率を相対的に高くすることにより、アンテナ基板とシールド板間の電磁遮へい機能を高めることが記載されている。
【0006】
磁性体を利用してアンテナと周辺導体部分の間を遮へいする場合、渦電流の抑制と電磁遮へい機能の向上の両立が重要である。特許文献1は、磁心部材を軟磁性粉末の充填率が異なる複数層から構成してその両立を図るものであるが、諸元の異なる複数の材料を選んで層状に構成するための製造工程を要するという問題がある。
【0007】
特許文献2は、シールド層の透磁率等を設定するのに、例えば複数の軟磁性粉末の混合比を選ぶ等の方法を用いる。特許文献1の場合と同様、このような材料選択や層構成のための製造工程を要するという問題がある。
【0008】
本発明は上記問題を解決するためになされたもので、磁性体によりアンテナと周辺導体部分の間の遮へいを図る場合に、シンプルな構成の遮へい部材を用いて渦電流の抑制と電磁遮へい効果の改善を両立させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のアンテナ装置は、回路基板の近傍に配設されたアンテナ装置において、前記回路基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを備えたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の無線装置は、回路基板と、前記基板の近傍に配設され、前記回路基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、磁性体によりアンテナと周辺導体部分の間の遮へいを図る場合に、基材に複数の磁性材料の切片が配設されて構成された遮へい部材を用いることにより、渦電流の抑制と電磁遮へい効果の改善を両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。なお以下の各図を参照しながら上下左右又は水平、垂直(鉛直)をいうときは、特に断らない限り、図が表された紙面における上下左右又は水平、垂直(鉛直)を意味するものとする。また、各図の間で同一の符号は、同一の構成を表すものとする。
【実施例1】
【0013】
以下、図1ないし図9を参照して、本発明の実施例1を説明する。図1は、実施例1に係る無線装置1の主要な部分及び無線装置1に含まれるアンテナ装置10の構成を表す斜視図である。無線装置1は、回路基板(以下、単に基板という。)11と、基板11に設けられた給電点12に接続されたアンテナ素子13と、遮へい部材14を備えている。これらのうち、アンテナ素子13と遮へい部材14が、アンテナ装置10を構成する。遮へい部材14は、基板11とアンテナ素子13の間に設けられている。
【0014】
図2は、遮へい部材14の構成を図1のブロック矢印で表す向きに見て表す平面図である。遮へい部材14は、絶縁性の基材15及びこれに配設された複数の磁性材料の切片(磁性切片)16からなる。磁性切片16は、隣どうし互いに間隔を空けて配設されている。図2においては、上下方向が図1における基板11の長手方向に相当する。
【0015】
複数の磁性切片16が配設された遮へい部材14は、アンテナ素子13が励振されることによってアンテナ素子13の周囲に生じる磁界を基板11に対して遮へいする効果を有する。そのため、アンテナ素子13が励振されたときアンテナ素子13と基板11の接地回路における互いに逆向きの電流分布によって励振される電磁界の相殺が抑えられて、アンテナ装置10の放射効率改善に寄与する。
【0016】
しかし、現実の磁性材料は非ゼロの導電率を有するため、変動磁界内に置かれた金属に生じるのと同様の渦電流損を生じる。渦電流損の値は磁性材料に形成される磁路長に依存するから、磁性材料を複数の切片に分けて隣どうしの間隔を空けるようにすれば、磁路を分断して渦電流損を抑えることができる。渦電流損の抑制のためには、磁性切片16の個々の長さが小さい方が望ましい。
【0017】
また、磁性切片16は、その比誘電率の値に基づく誘電体としての特性も併せ持っている。磁性切片16の個々の切片の長さが短いほど個々の切片に生じる誘電分極の値は小さいから、磁性切片16全体としての等価的な比誘電率が低下して誘電体損も低下する。また、磁性切片16の隣どうしの切片の間隔が空くほど互いの分極電荷の結合が弱まるから、誘電体損が低下する。
【0018】
以上のように、磁性切片16の個々の切片をできるだけ小さく、かつ、互いの間隔を空けるようにする方が、渦電流損及び誘電体損の低下の意味では望ましい。しかし、そのようにすればするほど遮へい部材14の磁性体全体の表面積又は体積が縮小するため磁性体としての特性は失われていき、アンテナ素子13と基板11の間の遮へい効果が損なわれる。結局、磁性切片16の個々の切片のサイズと隣どうしの間隔はこれらの条件のトレードオフとして、適宜設定されるべきものということができる。
【0019】
なお、絶縁性の基材15は誘電体材料からなるが、例えばフェライトのような絶縁性磁性体を用いてもよい。その場合には、遮へい部材14全体としての透磁率を高めて遮へい効果を改善する効果が得られる。
【0020】
図3は、遮へい部材14の第1の変形例(磁性切片16の平面的な形状又は配置に関する変形例をいう。以下の実施例1の説明において同じ。)の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図3の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が左右方向に長く(横長に)形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0021】
図4は、遮へい部材14の第2の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図4の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が上下方向に長く(縦長に)形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0022】
図5は、遮へい部材14の第3の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図5の変形例においては、磁性切片16の個々の切片がひし形に形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0023】
図6は、遮へい部材14の第4の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図6の変形例においては、磁性切片16の個々の切片は図2と同様に形成されており、上下に隣り合う切片の並びの位置関係が左右にずれている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0024】
図7は、遮へい部材14の第5の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図7の変形例においては、磁性切片16の個々の切片のサイズ及び上下左右の配列が不揃いにされている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0025】
図8は、遮へい部材14の第6の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図5の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が楕円形に形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0026】
図9は、遮へい部材14の第7の変形例の構成を図2と同じ向きに見て表す平面図である。図中の符号は、便宜上図1及び図2に共通とする。図9の変形例においては、磁性切片16の個々の切片が三角形に形成されている。磁性切片16をこのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0027】
磁性切片16の個々の切片の形状、隣り合う切片どうしの位置関係は、以上に述べた他にもさまざまに変形することができる。また、複数の変形例を組み合わせて新たな変形例を作ることも可能である。磁性切片16をそのように形成することによっても、遮へい部材14の遮へい効果と損失抑制のバランスをとることができる場合がある。
【0028】
磁性切片16は、異方性磁性体からなるものとしてもよい。異方性磁性体は、二次元又は三次元座標において透磁率が特定の向きに相対的に高い値を示し、他の向きに対しては真空中の透磁率に近い値をとる。上記の特定の向き(磁化困難軸という。)における透磁率の値は、絶対値としても、一般的な等方性磁性体の透磁率より高い値をとることが可能である。
【0029】
上記の磁化困難軸が、図1においてアンテナ素子13の主たる向き(アンテナ素子13が給電されたとき分布する電流の主たる向きに相当し、図1においては基板11の長手方向に一致する。)に直交するように、磁性切片16の個々の切片を配設することができる。そうすると、アンテナ素子13の周囲に生じる磁界の向きに高い透磁率が得られるので、遮へい部材14の遮へい効果を高めることができる。
【0030】
本発明の実施例1によれば、複数の磁性切片が互いの間隔を空けて配設されてなる遮へい部材をアンテナ素子と基板の間に設けることにより、遮へい効果と損失のバランスをとって放射効率を改善することができる。
【実施例2】
【0031】
以下、図10を参照して、本発明の実施例2を説明する。実施例2に係るアンテナ装置及び無線装置は、実施例1に係るアンテナ装置10及び無線装置1において遮へい部材14の磁性切片16の平面的な分布の変形例を採用したものである。図10は、その変形例である遮へい部材24の構成を、実施例1の図2と同じ向きに見て表す平面図である。図10には、図2に表したのと同じ給電点12とアンテナ素子13を併せて示す。
【0032】
遮へい部材24は、絶縁性の基材25及びこれに配設された複数の磁性切片26からなる。磁性切片26は、基材25上の給電点12の近傍において相対的に密に配設され、アンテナ素子13の開放端の近傍において相対的に疎に配設されている。
【0033】
アンテナ素子13は、給電されたとき給電点12の近傍に相対的に大きい電流値が分布し、開放端の近傍に相対的に小さい電流値が分布する。したがって、アンテナ素子13の周囲に発生する磁界も、給電点12の近傍における値が相対的に大きく、開放端の近傍における値が相対的に小さい。そうすると、遮へい部材24の下側(紙面に向かって奥に相当する側)に位置する図示しない基板とアンテナ素子13の間の遮へい効果を確保するためには、給電点12の近傍において磁性切片26をより密に配設する方が効果的である。
【0034】
なお、図10に示した磁性切片26の個々の切片の形状、配置等は一例であって、例えば実施例1の図2ないし図9に表した形状、配置の疎密を変形するようにしてもよい。
【0035】
本発明の実施例2によれば、アンテナ素子の電流分布の大小に磁性切片の配置の疎密を対応させることにより、磁性切片の数を減らしても遮へい効果を保つことが可能になる。
【実施例3】
【0036】
以下、図11ないし図16を参照して、本発明の実施例3を説明する。実施例3に係るアンテナ装置及び無線装置は、実施例1に係るアンテナ装置10及び無線装置1において遮へい部材14を厚み方向に変形し又は複数層を重複させたものである。図11は、そのような厚み方向の第1の変形例である遮へい部材34の構成を表す図である。
【0037】
図11の上部は遮へい部材34を図2と同じ向きで表す平面図であり、下部は該平面図に記入したA−Aの面における断面図である。遮へい部材34は、絶縁性の基材35及びこれに配設された複数の磁性切片36からなる。基材35は、表面が凹凸(又は鋸歯状)をなして形成されている。
【0038】
複数の磁性切片36の個々の切片は、基材35の凹凸(又は鋸歯状)をなす表面にそれぞれ分離して配設されている。磁性切片36の個々の切片は、例えばスパッタリング法によって基材35の表面にそれぞれ分離して形成されたものである。
【0039】
薄い(例えば10ミクロン厚の)磁性体のシートを細分して個々の切片を形成するのは、加工上の困難を伴う場合がある。上述したように基材表面の凹凸を利用すれば、磁性膜の形成に伴い自然に個々の切片を分離することができるので、加工上の困難を低減することができる。また、遮へい部材34の磁性体全体の表面積又は体積を縮小させずに済むので磁性体としての特性を保つことができる。
【0040】
図12は、厚み方向の第2の変形例である遮へい部材37の構成を表す図である。図12の上部は遮へい部材37を図2と同じ向きで表す平面図であり、下部は該平面図に記入したA−Aの面における断面図である。遮へい部材37は、絶縁性の基材38及びこれに配設された複数の磁性切片39からなる。基材38は、表面が凹凸をなして形成されている。
【0041】
複数の磁性切片39の個々の切片は、基材38の表面の凹部と凸部にそれぞれ配設されている。磁性切片39の個々の切片は、例えばスパッタリング法によって基材38の表面の凹部と凸部にそれぞれ形成されたものである。なお、図11又は図12に示した基材35又は38の表面の凹凸形状は例示であって、多様な変形を考えることができる。
【0042】
図13は、実施例1に係る遮へい部材14を厚み方向に複数層を重複させた例である複数層遮へい部材44の構成を表す斜視図である。図14は、図12に矢印で記入したB−B断面における複数層遮へい部材44の断面図である。
【0043】
図13又は14において、遮へい部材14は一例として図2に示した構成を図示しているが、例えば図3ないし図12のいずれかに示した構成又は他の構成をとるものであってもよい。複数層の数は、3に限るものではない。このような複数層の重複によって、複数層遮へい部材44の全体に含まれる磁性材の体積を増大させ、透磁率を高めて遮へい効果を改善する効果がある。
【0044】
図14に記入した縦の点線は、磁性切片16の個々の切片の位置が厚み方向に揃っていることを示している。このように揃っていることは、個々の切片に生じる誘電分極の厚み方向の結合を緩和して複数層遮へい部材44全体としての誘電率及び誘電体損を抑えるのに効果がある。
【0045】
図15及び図16を参照して、複数層遮へい部材の1例に係る放射効率のシミュレーション評価について説明する。図15は、当該複数層遮へい部材を構成する1層分の遮へい部材54の一部の構成及び各部の寸法を、実施例1の図2と同じ向きに見て表す平面図である。なお、当該複数層遮へい部材によって図示しない基板との間を遮へいされる図示しないアンテナ素子は、主たる部分が図15の上下の向きに(図1又は図12に表したのと同様に)配設されるものとする。
【0046】
遮へい部材54は、絶縁性の基材55及びこれに配設された複数の磁性切片56からなる。基材55は比誘電率(実数部)2、厚さ約(4/100000)λの誘電体材料からなる。磁性切片56は異方性磁性体からなり、磁化困難軸の向きは図15の左右の向きに一致させてある。磁性切片56の比透磁率(実数部)は磁化困難軸の向きに100、これに直交する向きに1とする。磁性切片56の導電率は1×(10の4乗)ジーメンス/メートル(S/m)とする。
【0047】
磁性切片56の個々の切片のサイズは、図15に表すように左右方向の幅約(2/1000)λ、高さ約(7/100000)λとする。個々の切片の隣どうしの間隔は、左右方向に約(3/10000)λ、高さ方向に約(7/100000)λとする。上記の複数層遮へい部材は、このように構成された遮へい部材54を約(3/1000)λ厚にわたって複数層重ねることにより構成されたものである。
【0048】
上記の複数層遮へい部材を、主たる部分が基板と略平行に配設された逆L字型の先端開放モノポール型アンテナ素子(共振周波数はf0ヘルツ(Hz)とする。)と該基板との間に設けるものとする。図16の円形のプロットは、その場合の放射効率をシミュレーションにより評価した結果の一例を表している。図16の横軸は周波数(f0にて規格化)、縦軸は放射効率を表す。
【0049】
図16の正方形のプロットは、比較のため上記のアンテナ素子と基板の間に複数層遮へい部材を設けない場合について、同じシミュレーションにより求めた放射効率を表す。図16に示すように、アンテナ素子の共振周波数であるf0Hzにおける円形プロットと正方形プロットの放射効率の差から、複数層遮へい部材を設けることによる放射効率の改善は約4デシベル(dB)に達することがわかる。このような放射効率の改善は、本発明の効果を明示する結果の一例である。
【0050】
本発明の実施例2によれば、遮へい部材の厚み方向の変形又は複数層の重複により、遮へい部材の加工上の困難を低減したり、遮へい効果を改善したりすることができる。
【0051】
以上の実施例の説明において、各アンテナ素子の方式、形状、構成、接続、遮へい部材又は磁性切片の形状、配置、組み合わせ等は例示であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲でさまざまな変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施例1に係る無線装置の主要な部分及びアンテナ装置の構成を表す斜視図。
【図2】実施例1に係る遮へい部材の構成を表す平面図。
【図3】実施例1に係る遮へい部材の第1の変形例の構成を表す平面図。
【図4】実施例1に係る遮へい部材の第2の変形例の構成を表す平面図。
【図5】実施例1に係る遮へい部材の第3の変形例の構成を表す平面図。
【図6】実施例1に係る遮へい部材の第4の変形例の構成を表す平面図。
【図7】実施例1に係る遮へい部材の第5の変形例の構成を表す平面図。
【図8】実施例1に係る遮へい部材の第6の変形例の構成を表す平面図。
【図9】実施例1に係る遮へい部材の第7の変形例の構成を表す平面図。
【図10】本発明の実施例2に係るアンテナ装置の遮へい部材の構成を表す平面図。
【図11】本発明の実施例3に係るアンテナ装置の遮へい部材(実施例1の遮へい部材を厚み方向に変形した第1の変形例)の構成を表す平面図及び断面図。
【図12】本発明の実施例3に係るアンテナ装置の遮へい部材(実施例1の遮へい部材を厚み方向に変形した第2の変形例)の構成を表す平面図及び断面図。
【図13】本発明の実施例3に係るアンテナ装置の複数層遮へい部材の構成を表す斜視図。
【図14】実施例3に係る複数層遮へい部材の断面図。
【図15】実施例3のシミュレーション評価のための遮へい部材の構成と各部の寸法を表す平面図。
【図16】実施例3の評価として、図15に表した遮へい部材をアンテナ素子と基板間に複数層配設した構成における放射効率をシミュレーションにより求めて表す図。
【符号の説明】
【0053】
1 無線装置
10 アンテナ装置
11 基板
12 給電点
13 アンテナ素子
14、24、34、37、54 遮へい部材
15、25、35、38、55 基材
16、26、36、39、56 磁性切片
44 複数層遮へい部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板の近傍に配設されたアンテナ装置において、
前記回路基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、
複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを
備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記遮へい部材の基材は誘電体又は絶縁性磁性体からなることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記複数の磁性材料の切片は異方性磁性体からなり、磁化困難軸の向きを前記アンテナ素子の主たる向きに略直交させて配設されたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記複数の磁性材料の切片は、前記アンテナ素子が給電されたとき前記アンテナ素子のうち相対的に大きい電流値が分布する部分の近傍において相対的に密に配設され、前記アンテナ素子のうち相対的に小さい電流値が分布する部分の近傍において相対的に疎に配設されたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記遮へい部材の基材は表面が凹凸をなして形成され、前記複数の磁性材料の切片は前記表面にそれぞれ分離して配設されたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数の磁性材料の切片は前記表面の凹部と凸部にそれぞれ配設されたことを特徴とする請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記遮へい部材は、前記アンテナ素子及び前記基板の間に複数層が設けられたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
回路基板と、
前記回路基板の近傍に配設され、前記基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、
複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを
備えたことを特徴とする無線装置。
【請求項9】
前記遮へい部材の基材は誘電体又は絶縁性磁性体からなることを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項10】
前記複数の磁性材料の切片は異方性磁性体からなり、磁化困難軸の向きを前記アンテナ素子の主たる向きに略直交させて配設されたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項11】
前記複数の磁性材料の切片は、前記アンテナ素子が給電されたとき前記アンテナ素子のうち相対的に大きい電流値が分布する部分の近傍において相対的に密に配設され、前記アンテナ素子のうち相対的に小さい電流値が分布する部分の近傍において相対的に疎に配設されたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項12】
前記遮へい部材の基材は表面が凹凸をなして形成され、前記複数の磁性材料の切片は前記表面にそれぞれ分離して配設されたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項13】
前記複数の磁性材料の切片は前記表面の凹部と凸部にそれぞれ配設されたことを特徴とする請求項12に記載の無線装置。
【請求項14】
前記遮へい部材は、前記アンテナ素子及び前記基板の間に複数層が設けられたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項1】
回路基板の近傍に配設されたアンテナ装置において、
前記回路基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、
複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを
備えたことを特徴とするアンテナ装置。
【請求項2】
前記遮へい部材の基材は誘電体又は絶縁性磁性体からなることを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記複数の磁性材料の切片は異方性磁性体からなり、磁化困難軸の向きを前記アンテナ素子の主たる向きに略直交させて配設されたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記複数の磁性材料の切片は、前記アンテナ素子が給電されたとき前記アンテナ素子のうち相対的に大きい電流値が分布する部分の近傍において相対的に密に配設され、前記アンテナ素子のうち相対的に小さい電流値が分布する部分の近傍において相対的に疎に配設されたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記遮へい部材の基材は表面が凹凸をなして形成され、前記複数の磁性材料の切片は前記表面にそれぞれ分離して配設されたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記複数の磁性材料の切片は前記表面の凹部と凸部にそれぞれ配設されたことを特徴とする請求項5に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記遮へい部材は、前記アンテナ素子及び前記基板の間に複数層が設けられたことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
回路基板と、
前記回路基板の近傍に配設され、前記基板に搭載された給電回路に接続されたアンテナ素子と、
複数の磁性材料の切片が隣どうし互いに間隔を空けて絶縁性の基材に配設されてなると共に前記アンテナ素子及び前記基板の間に設けられた遮へい部材とを
備えたことを特徴とする無線装置。
【請求項9】
前記遮へい部材の基材は誘電体又は絶縁性磁性体からなることを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項10】
前記複数の磁性材料の切片は異方性磁性体からなり、磁化困難軸の向きを前記アンテナ素子の主たる向きに略直交させて配設されたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項11】
前記複数の磁性材料の切片は、前記アンテナ素子が給電されたとき前記アンテナ素子のうち相対的に大きい電流値が分布する部分の近傍において相対的に密に配設され、前記アンテナ素子のうち相対的に小さい電流値が分布する部分の近傍において相対的に疎に配設されたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項12】
前記遮へい部材の基材は表面が凹凸をなして形成され、前記複数の磁性材料の切片は前記表面にそれぞれ分離して配設されたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【請求項13】
前記複数の磁性材料の切片は前記表面の凹部と凸部にそれぞれ配設されたことを特徴とする請求項12に記載の無線装置。
【請求項14】
前記遮へい部材は、前記アンテナ素子及び前記基板の間に複数層が設けられたことを特徴とする請求項8に記載の無線装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2010−148009(P2010−148009A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325865(P2008−325865)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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