説明

アーク放電抑止装置および方法

【課題】アーク放電を検出して電源を遮断した後の任意の時刻において、アーク放電が連続的に発生するか否かを検出することができ、かつハードアークを抑制することができるアーク放電抑止装置およびその方法を提供する。
【解決手段】第2のアーク制御器122は、保持器123、モノステーブル回路124,R−Sフリップフロップ回路125およびオンディレイタイマー126を備える。保持器123は、アーク放電を検出してから所定の時定数だけアーク検出信号を保持する。R−Sフリップフロップ回路125は、モノステーブル回路124によりアーク放電を検出してから所定時間が経過した際に、アーク検出信号を保持しているときには、そのアーク放電をハードアークと判定し、さらにオンディレイタイマー126により所定時間だけ経過したとき、電源を再起動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グロー放電処理装置に用いるアーク放電抑止装置および方法に関し、特に、スパッタリング装置における連続的なアーク放電を検出し、電源を遮断かつ再起動するためのアーク放電抑止装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、グロー放電を利用した処理装置に用いるアーク放電抑制装置として、例えば特許文献1に記載のものが知られている。このアーク放電抑制装置は、図9に示すように、放電電流検出器(図示せず)からの検出電流値aと、常時、検出レベル設定器11の検出レベルbとが、比較器14において比較される。この場合の検出レベルbは異常放電電流検出値に相当する。アーク放電が発生すると、検出電流値aが検出レベルbを越えるため、比較器14において出力信号cが出力され、メモリ回路15に送られてアーク放電発生状態が書き込まれる。これに対応してメモリ回路15から積分器16に信号dが送られて所要の積分動作が加えられ、該積分信号eが休止時間幅パルス発生器20に入力される。この休止時間幅パルス発生器20には休止時間設定器12から一定値の電流信号fが入力されており、上記積分信号eの立上り幅に応じたパルス幅の休止時間幅パルスgが出力される。このアーク放電抑制装置は、比較器14による異常放電電流検出時に放電休止回路によって所要時間通電を停止させると共に、放電休止時間経過時に放電電流を積分波形的に漸増させる電流制御回路によって再通電させることを特徴とする。
【0003】
また、グロー放電を利用した処理方法の一例であるスパッタリングの成膜プロセスを用いて、成膜用基板(以下、基板という。)に種々な被膜材料を成膜させて半導体や液晶基板などを製造するスパッタリング装置は、真空装置の中に、アルゴンなどの不活性ガスを導入しながら、被膜材料(ターゲットに相当する。)を取り付けた電極を陰極(またはカソードという。)としてグロー放電を発生させ、放電中に生成したイオンを放電電圧に相当する数百eVのエネルギーで陰極に衝突させ、その際に反動で放出する粒子を、基板上に堆積させて成膜を行う。
【0004】
このスパッタリング装置に電力を供給する電源装置は、直流電源や高周波の交流電源であって、かつ、電圧、電流および電力を一定に制御して電極に印加する。しかし、この成膜プロセスでは電力を供給するための電極に熱的変化が起こり、プロセス状態が一定せず、アーク放電やフラッシュバックなどの現象が発生する。従来、アーク放電を検出し、スパッタリング装置への供給電力を瞬時に停止し、アーク放電が消去した後再スタートする方法が用いられていた。このとき、アーク放電を検出すると、スパッタリング装置への電力を遮断するので、アークの検出信号も消滅する。
【0005】
図7は、従来のアーク放電抑止装置をスパッタリング装置に適用した場合の制御ブロック図である。スパッタリング装置101は、電源装置130、真空装置107、カレントトランス106およびアーク放電抑止装置133を備える。電源装置130は、AC−DC電力変換器102、平滑コンデンサ103、DC−AC電力変換器104および絶縁トランス105を備える。
【0006】
AC−DC電力変換器102は、整流素子例えば、ダイオードを用いた3相全波整流回路であり、3相交流電力を入力し、3相交流電力を整流し、直流電力を平滑用コンデンサ103に出力する。AC−DC電力変換器102の出力正極端子は、平滑用コンデンサ103の一端に、出力負極端子は、平滑用コンデンサ103の他端にそれぞれ接続される。
【0007】
平滑用コンデンサ103は、AC−DC電力変換器102による直流電力を入力し、直流電力を平滑にし、その結果得られる平滑された直流電力をDC―AC電力変換器104に出力する。平滑用コンデンサ103は、その一端がDC―AC電力変換器104の入力正極端子に接続され、他端がDC―AC電力変換器104の入力負極端子に接続される。
【0008】
DC−AC電力変換器104は、インバータであり、相対向する2対の半導体スイッチング素子、例えばIGBT(Q1およびQ4スイッチ)およびIGBT(Q2およびQ3スイッチ)の対が、IGBTのゲートに入力される制御信号により、コレクターエミッタ間の導通/遮断制御を行う。すなわち、DC−AC電力変換器104は、IGBTの対が交互にオン/オフ動作を繰り返して、例えば、半導体スイッチング素子のスイッチング周波数を数KHzから数10KHzまでとして、平滑用コンデンサ103による平滑された直流波形を略矩形波交流波形である高周波の交流電力に変換する回路である。すなわち、DC−AC電力変換器104は、平滑された直流電力を入力し、内在する半導体スイッチング素子のゲートをオン/オフ動作させて、平滑された直流電力を高周波の交流電力に変換する。
【0009】
絶縁トランス105は、相互に電磁結合された1次巻線および2次巻線からなる変圧器であり、1次巻線に交流電圧を入力し、相互電磁誘導作用により、1次巻線と2次巻線の巻数比に比例した交流電圧が2次巻線に発生する。絶縁トランス105の2次巻線は、真空装置107に接続される。すなわち、絶縁トランス105は、交流電力を入力し、交流電力を電気的に絶縁させた交流電力に変換する。
【0010】
カレントトランス106は、例えば、磁電変換素子であるホール素子を利用して、被測定電流を非接触で検出するセンサであり、カソード108,109に供給される交流の放電電流信号Aの電流値を検出することができる。
【0011】
従来のアーク放電抑止装置133は、アーク検出器134および第1のアーク制御器131を備える。アーク検出器134は、抵抗体110、AC/DC変換器111および比較器112を備える。抵抗体110は、交流の放電電流信号Aを入力し、交流の放電電流信号Aを交流の放電電圧信号AAに変換し、交流の放電電圧信号AAをAC/DC変換器111に出力する。ここで、放電電流信号Aを放電電圧信号AAに変換するのは、比較器112が、機能上、入力信号として電圧信号を使用しなければならないからである。尚、実質上、放電電圧信号AAのレベルと放電電流信号Aのレベルとが一致するように、抵抗体110の抵抗値が選択されている。
【0012】
AC/DC変換器111は、交流の放電電圧信号AAを入力し、交流の放電電圧信号AAの絶対値を演算し、演算の結果により、得られる直流電圧信号B(この信号のレベルと直流の電流信号のレベルとが一致するので、以下、直流電流信号Bと表示する。)を比較器112に出力する。
【0013】
比較器112は、AC/DC変換器111による直流電流値〔B〕(以下、〔 〕は、〔 〕内の信号の信号レベルを示す。例えば、〔B〕は、直流電流信号Bの信号レベルを示す。)と、アーク放電を判定する基準電流値であるアーク電流検出レベルLとを入力し、直流電流値〔B〕とアーク電流検出レベルLとを比較演算し、演算の結果により、直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLに等しいとき、または直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLより大きいとき、オン信号であるアーク検出信号をフリップフロップ回路114およびオンディレイタイマー113に出力する。また、直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLより小さいとき、アーク検出信号Cを出力しない。
【0014】
また、第1のアーク制御器131は、オンディレイタイマー113およびR−Sフリップフロップ回路114を備える。オンディレイタイマー113は、例えばソフトタイマーであり、オンディレイタイマー113の入力信号がオンした後、オンディレイタイマー113に設定した第1の所定時間t1が経過したとき、出力信号がオンとなる。つまり、オンディレイタイマー113は、比較器112によるアーク検出信号Cを入力し、アーク検出信号Cがオンになってから第1の所定時間t1が経過したとき、出力信号がオンとなる第1のオンディレイ信号DをR−Sフリップフロップ回路114に出力する。ここで、第1の所定時間t1は、アーク放電(後述するマイクロアーク)が発生した後、電源を一定時間だけ停止する時間を示す。
【0015】
図8は、従来のアーク放電抑止装置をスパッタリング装置に適用した場合における各信号のタイミングを示す図である。図8(A)は、図7に示した交流放電電流信号Aまたは交流放電電圧信号AAの波形に相当し、アーク放電が発生しないときの交流放電電流信号Aまたは交流放電電圧信号AAのレベルと経過時間との関係を示す。横軸tは経過時間、縦軸は交流放電電流レベル(交流放電電流レベルと交流放電電圧レベルとは同等とみなす。)をそれぞれ示す。
【0016】
図8(A1)は、アーク放電が発生するときの交流放電電流レベルと経過時間との関係を示す。横軸tは経過時間、縦軸は交流放電電流レベルをそれぞれ示す。図8(B)は、図7に示したAC/DC変換器111による直流電流信号Bに相当し、横軸tは経過時間、縦軸は直流電流レベルをそれぞれ示す。記号Lは、アーク放電を判定するための基準電流値であり、アーク電流検出レベルを示す。
【0017】
図8(C)は、図7に示した比較器112によるアーク検出信号Cの波形を示し、横軸tは経過時間、縦軸はアーク検出信号Cのレベルをそれぞれ示す。例えば、アーク検出信号CがLOWである場合は、アーク放電を検出している状態、つまりオン状態であるものする。またアーク検出信号CがHIGHである場合は、アーク放電を検出していない状態、つまりオフ状態であるものとする。記号aは、アーク放電を検出する時刻を示す。
【0018】
図8(D)は、第1のオンディレイ信号Dの波形を示し、横軸tは経過時間、縦軸は第1のオンディレイ信号Dのレベルをそれぞれ示す。第1のオンディレイ信号Dは、図7に示したオンディレイタイマー113により、アーク検出信号Cを入力した後、オンのタイミングを第1の所定時間t1だけ遅延させた信号である。
【0019】
図8(E)は、第1の電源遮断/再起動信号Eの波形を示し、横軸tは経過時間、縦軸は第1の電源遮断/再起動信号Eのレベルをそれぞれ示す。図8(B’)は、図7に示したAC/DC変換器111による直流電流信号Bに相当し、アーク検出信号Cを検出した後電源を遮断し、さらに第1の所定時間t1が経過した後、電源を再起動させる場合の経過時間と直流電流レベルとの関係を示し、横軸tは経過時間、縦軸はアーク放電が存在する場合の直流電流レベルをそれぞれ示す。ここで、δ1は、アーク放電を検出してから電源を遮断するまでの信号処理の遅れ時間を示す。この遅れは、アーク検出回路134およびAC−DC電力変換器104のスイッチング素子による信号処理に時間がかかるからである。
【0020】
次に、R−Sフリップフロップ回路114は、図7に示したように、セット側に比較器112によるアーク検出信号Cを入力し、かつリセット側にオンディレイタイマー113による第1のオンディレイ信号Dを入力し、第1の電源遮断/再起動信号EをDC−AC電力変換器104におけるスイッチング素子のゲートをオンオフするためのゲート回路(図示せず)に出力する。R−Sフリップフロップ回路114は、図8(E)に示すように、セット側の入力がオンになると、出力がオンになり、リセット側がオンになるまでオンを保持する。つまり、R−Sフリップフロップ回路114は、アーク検出信号Cが、時刻aにおいてオフからオンに変化してから、第1の所定時間t1が経過するまで、オンを出力し、保持する。次に、第1の所定時間t1が経過したとき、すなわち時刻gであるとき、リセット側にオンが入力すると、オンからオフに変化する第1の電源遮断/再起動信号EをDC−AC電力変換器104におけるスイッチング素子のゲートをオンオフするためのゲート回路(図示せず)に出力する。ここで、ゲート回路(図示せず)は、フリップフロップ回路114による第1の電源遮断/再起動信号Eがオンであるとき、スイッチング素子のゲートをオフにし、すなわち前記電源を遮断する。また、第1の電源遮断/再起動信号Eがオフであるとき、スイッチング素子のゲートをオンにし、すなわち電源を起動する。
【0021】
これにより、第1のアーク制御器131は、アーク放電が発生すると、直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLに等しい、または直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLより大きくなり、アーク検出信号Cを出力し、直ちに電源装置130から真空装置107へ供給している電源を遮断し、第1の所定時間t1が経過した後、電源を再起動して電源の供給を再開することができる。つまり、図8(C)および(D)に示した時刻aから時刻gまでの区間において、真空装置107に供給する電源を遮断するので、単発のアーク放電であるマイクロアークを消滅させることができる。
【0022】
【特許文献1】特開昭53−60337号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、従来のアーク放電抑止装置では、電源を再起動したとき、すぐにマイクロアークが発生することがある。この場合、この状態が長時間続くと、スパッタリング装置のカソードなどを損傷させてしまうという問題が生じる虞がある。また、カソードが新しい場合には、異物がカソードの表面に付着して、マイクロアークが発生し易くなり、マイクロアークが連続して発生する可能性がある。つまり、ハードアークの発生の可能性が高くなるため、カソードを一層損傷させてしまうという問題が生じる虞がある。このような場合、アーク放電が発生した直後に電源を遮断するとアーク放電が止まるため、その後は当然のことながら、アーク放電を検出することができない。電源を遮断してアーク放電が止まったとしても、その後電源を再起動するとアーク放電が発生する状態、すなわち、アーク放電が連続して発生する状態になる可能性がある。この場合、アーク放電が連続して発生するか否かを検出し、その発生を防ぐことが望ましい。
【0024】
そこで、本発明は、アーク放電を検出して電源を遮断した後の任意の時刻において、アーク放電が連続的に発生するか否かを検出することができるように、かつハードアークを抑制することができるように、アーク放電を検出してから所定の時定数だけアーク検出信号を保持し、さらにアーク放電を検出してから所定時間が経過した際に、アーク検出信号を保持しているときには、そのアーク放電をハードアークと判定し、さらに所定時間だけ経過したとき、電源を再起動することができるアーク放電抑止装置およびその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、本発明は、真空装置と前記真空装置内の電極へ電力を供給する電源装置とを備えるグロー放電処理装置において、前記真空装置内のアーク放電を検出した後、前記電源装置のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御してアーク放電を抑止するアーク放電抑止装置であって、前記電極に供給する放電電流に基づく直流電流値と、前記アーク放電を判定するための基準電流値であるアーク電流検出レベルとを入力し、前記直流電流値がアーク電流検出レベルに等しいとき、または前記直流電流値がアーク電流検出レベルより大きいときに、アーク検出信号を出力する比較器と、前記アーク検出信号を入力し、前記アーク検出信号に基づいて電源を遮断し、かつ電源を停止する時間を示す第1の所定時間が経過した後に、電源を再起動するための第1の電源遮断/再起動信号を出力する第1のアーク制御器と、前記アーク検出信号を入力し、前記アーク検出信号を所定の時定数で保持してアーク検出保持信号を生成し、ハードアークを判定する時間を示す第2の所定時間が経過した際に、前記アーク検出保持信号がオンであるとき、アーク放電をハードアークと判定して電源を遮断し、さらに、前記ハードアークを停止する時間を示す第3の所定時間が経過した後に、電源を再起動するための第2の電源遮断/再起動信号を出力する第2のアーク制御器と、前記第1の電源遮断/再起動信号と、前記第2の電源遮断/再起動信号とを入力し、前記第1の電源遮断/再起動信号と、前記第2の電源遮断/再起動信号との論理和の演算結果により、前記スイッチング素子のゲートをオフまたはオンするための電源遮断/再起動信号を出力するOR回路と、を備えることを特徴とする。
【0026】
さらに、好適には、前記第2のアーク制御器は、前記アーク検出信号を入力し、前記アーク検出信号を所定の時定数だけ保持して、得られるアーク検出保持信号を出力する保持器と、前記アーク検出保持信号を入力し、前記アーク検出保持信号をトリガパルス信号としてオンし、前記第2の所定時間が経過した後にオフに戻るモノステーブル信号を出力するモノステーブル回路と、前記アーク検出保持信号をセット側に入力し、かつ前記モノステーブル信号をリセット側に入力し、前記第2の所定時間が経過した後の前記モノステーブル信号がオンからオフに変化した際に、前記アーク検出保持信号がオンであるとき、前記アーク放電をハードアークと判定し、電源を遮断するための第2の電源遮断/再起動信号を出力するR−Sフリップフロップ回路と、前記ハードアークと判定した後、前記ハードアークを停止する時間を示す第3の所定時間を設定するオンディレイタイマーと、を備えることを特徴とする。
【0027】
さらに、好適には、グロー放電処理装置が、スパッタリング装置であることを特徴とする。
【0028】
また、本発明は、真空装置と前記真空装置内の電極へ電力を供給する電源装置とを備えるグロー放電処理装置において、前記真空装置内のアーク放電を検出した後、電源装置のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御してアーク放電を抑止するアーク放電抑止方法であって、前記電極に供給する放電電流に基づく直流電流値と、前記アーク放電を判定するための基準電流値であるアーク電流検出レベルとを比較し、前記直流電流値が前記アーク電流検出レベルに等しいとき、または前記直流電流値が前記アーク電流検出レベルより大きいときに、アーク検出信号を出力するステップと、前記アーク検出信号を所定の時定数で保持し、得られるアーク検出保持信号を出力するステップと、前記アーク検出保持信号をトリガパルス信号としてオンし、ハードアークを判定する時間を示す第2の所定時間が経過した後にオフに戻るモノステーブル信号を出力するステップと、前記アーク検出保持信号をR−Sフリップフロップ回路のセット側に入力し、かつ前記モノステーブル信号を前記R−Sフリップフロップ回路のリセット側に入力し、前記第2の所定時間が経過した際に、前記アーク検出保持信号がオンである否かを判断するステップと、前記ステップにより、前記アーク検出保持信号がオンであるとき、前記アーク放電をハードアークと判定するステップと、前記ハードアークと判定した後、電源を遮断し、さらに、前記ハードアークを停止する時間を示す第3の所定時間だけ保持するタイマーを起動するステップと、前記第3の所定時間が経過した後、前記第3の所定時間の保持を解除し、電源を再起動するステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、アーク放電を検出して電源を遮断した後に、アーク放電が連続的に発生するときにはアーク検出保持信号がオン状態になる。これにより、アーク検出保持信号の状態によりアークが連続的に発生するか否かを検出することができ、かつ、その発生を検出することにより、ハードアークを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
〔構成〕
図1は、本発明に係るアーク放電抑止装置をスパッタリング装置に適用した一例を示す制御ブロック図である。スパッタリング装置121は、電源装置130、真空装置107およびアーク放電抑止装置132を備える。電源装置130および真空装置107は、図7に示した従来の装置と同様であるので、説明を省略する。アーク放電抑止装置132は、アーク放電抑止装置133、第2のアーク制御器122およびOR回路127を備える。アーク放電抑止装置133は、図7に示した従来の装置と同様であるので、説明を省略する。
【0031】
第2のアーク制御器122は、図1に示すように、保持器123、モノステーブル回路124、R−Sフリップフロップ回路125およびオンディレイタイマー126を備える。
【0032】
保持器123は、例えば時定数Tcとする微分回路から成るフィルタ回路であり、比較器112によるアーク検出信号Cを入力し、アーク検出信号Cを時定数Tcの微分回路によって演算処理して、アーク検出信号Cを時定数Tcだけ保持して、得られるアーク検出保持信号Fをモノステーブル回路124およびR−Sフリップフロップ回路125に出力する。ここで、保持器123は、フィルタ回路の代わりに、モノステーブル回路を使用しても同様な機能を持たせることができる。
【0033】
モノステーブル回路124は、保持器123によるアーク検出保持信号Fを入力し、モノステーブル信号G’またはGをR−Sフリップフロップ回路125に出力する。モノステーブル信号G’またはGは、アーク検出保持信号Fをトリガパルスとしてオンし、第2の所定時間t2’またはt2に見合うモノステーブル回路124の時定数で決まる時間が経つと、安定点であるオフに戻る。ここで、第2の所定時間t2’,t2は、アーク放電の継続時間を判定するための設定時間、すなわちハードアークであることを判定するための設定時間であり、第1の所定時間t1を超える時間とし、スパッタリング装置121の仕様、真空装置107に投入する被加工物上に成膜する膜質およびカソード108,109の表面上の清浄度等によって、予め設定される。つまり、モノステーブル回路124は、後述する図3(G’)または(G)に示すように、アーク検出保持信号Fの時刻aと同一のタイミングでオフからオンに変化し、さらに第2の所定時間t2’,t2が経過した後、オフに戻るモノステーブル信号G’またはGをR−Sフリップフロップ回路125に出力する。
【0034】
R−Sフリップフロップ回路125は、保持器123によるアーク検出保持信号Fをセット側に入力し、かつモノステーブル回路124によるモノステーブル信号G’またはGをリセット側に入力し、ハードアークを判定した場合に、電源を遮断または再起動するための中間段に位置するアーク検出信号である第2の電源遮断/再起動信号H’またはHをオンディレイタイマー126およびOR回路127に出力する。
【0035】
オンディレイタイマー126は、R−Sフリップフロップ回路125による第2の電源遮断/再起動信号H’またはHを入力し、第2の電源遮断/再起動信号H’またはHがオンした後、第3の所定時間t3が経過したとき、オフからオンとなる第2のオンディレイ信号IをR−Sフリップフロップ回路125のリセット側に出力する。ここで、第3の所定時間t3は、ハードアークを停止する時間を決めるための設定時間であり、マイクロアークが発生したときの第1の所定時間t1よりも長い時間、例えば数ミリ秒とする。
【0036】
OR回路127は、論理和であり、アーク放電抑止装置133のR−Sフリップフロップ回路114による第1の電源遮断/再起動信号EとR−Sフリップフロップ回路125による第2の電源遮断/再起動信号H’またはHとを入力し、第1の電源遮断/再起動信号Eと第2の電源遮断/再起動信号H’またはHとの論理和を演算し、演算の結果により、得られる電源を遮断または再起動するための最終段に位置するアーク検出信号である電源遮断/再起動信号J’またはJをDC−AC電力変換器104のスイッチング素子のゲートをオンオフするためのゲート回路(図示せず)に出力する。つまり、ゲート回路(図示せず)は、OR回路127による論理和の演算結果により、電源遮断/再起動信号J’またはJがオンであるとき、電源を遮断する。また、電源遮断/再起動信号J’またはJがオフであるとき、電源を再起動するための制御信号をスイッチング素子のゲートに出力することにより、電源を再起動する。
【0037】
〔動作〕
次に、本発明に係るアーク放電抑止装置132の動作について説明する。アーク放電抑止装置132は、図1および図7に示すように、アーク放電装置133、第2のアーク制御器122およびOR回路127を備える。アーク放電装置133は、アーク検出器134および第1のアーク制御器131を備える。アーク放電抑止装置132を概略的に説明すると、アーク検出器134は、カレントトランス106による交流放電電流Aを入力してアーク放電を検出すると、アーク検出信号Cを前述した第1のアーク制御器131および第2のアーク制御器122に出力する。
【0038】
第1のアーク制御器131は、アーク検出信号Cを入力すると、先ず電源を遮断し、電源を遮断してから第1の所定時間t1が経過した後、電源を再起動するための第1の電源遮断/再起動信号EをOR回路127に出力する。また、第2のアーク制御器122は、アーク検出信号Cを入力すると、比較器112によるアーク検出信号Cを所定の時定数で決まる時間だけ保持し、アーク検出信号Cを検出し始めてから第2の所定時間t2’またはt2が経過したときに、アーク検出信号Cを保持している場合に、そのアーク放電をハードアークであると判定し、かつ電源を遮断し、さらに、電源を遮断してから後述する第3の所定時間t3が経過した後、電源を再起動する第2の電源遮断/再起動信号H’またはHをOR回路127に出力する。
【0039】
また、OR回路127は、第1の電源遮断/再起動信号Eおよび第2の電源遮断/再起動信号H’またはHを入力すると、論理和による演算処理によって、得られる電源遮断/再起動信号J’またはJをDC−AC電力変換器104のスイッチング素子のゲートをオンオフするためのゲート回路(図示せず)に出力する。これにより、アーク放電が発生して電源を遮断した後であっても、アーク放電が連続的に発生するか否かを検出することができ、かつハードアークを抑制することができる。
【0040】
次に、第2のアーク制御器122の動作について説明する。
その前に、アーク放電が連続的に発生する場合の第1の電源遮断/再起動信号Eについて説明する。図2は、本発明に係るアーク放電抑止装置におけるアーク放電が連続的に発生する場合の各信号のタイミングを示す図である。この例は、アーク放電が3回だけ発生する場合を示す。図2(A)は、前述した図8(A)に示すアーク放電が発生しない場合の交流放電電流信号に対し、アーク放電が連続的に発生する場合の交流放電電流信号Aを示す。つまり、図2(A)は、アーク放電が発生すると、アーク検出信号Cを出力し、直ちに電源を遮断し、それから第1の所定時間t1が経過した後、電源を再起動するステップが繰り返し発生する場合の交流放電電流信号Aを示し、横軸は経過時間t、縦軸は交流放電電流信号Aのレベルをそれぞれ示す。記号Lは、図8(B)と同様に、時刻aにおいてアーク放電を判定する基準電流値であるアーク電流検出レベルを示す。
【0041】
図2(B)は、AC/DC変換器112による交流放電電流信号A(交流放電電流信号は、交流放電電圧信号と同等とする。)の絶対値信号である直流電流信号Bを示し、横軸は経過時間t、縦軸は直流電流信号Bをそれぞれ示す。
【0042】
図2(C)は、比較器112によるアーク検出信号Cを示し、横軸は経過時間t、縦軸はアーク検出信号Cのオンおよびオフをそれぞれ示す。時刻a,c,eは、アーク検出信号Cの前縁のタイミングを示し、時刻b,d,fは、アーク検出信号Cの後縁のタイミングを示す。図2(C)によれば、アーク検出信号Cは、アーク放電が発生すると、直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLに等しい、または直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLより大きくなり、パルス状波形の信号となる。
【0043】
図2(D)は、オンディレイタイマー113による第1のオンディレイ信号Dを示し、横軸は経過時間t、縦軸は第1のオンディレイ信号Dのオンおよびオフをそれぞれ示す。時刻gは、アーク検出信号Cが出力されてから第1の所定時間t1だけ経過した時点を示す。
【0044】
図2(E)は、フリップフロップ回路114による第1の電源遮断/再起動信号Eを示し、横軸は経過時間t、縦軸は第1の電源遮断/再起動信号Eのオンおよびオフをそれぞれ示す。
【0045】
このように、アーク放電が連続的に発生する場合、アーク放電が発生すると、アーク検出信号Cを出力して、直ちに電源を遮断し、第1の所定時間t1が経過した後、電源を再起動するステップを繰り返し動作させることができる。
【0046】
以上のようなアーク放電が連続的に発生する場合における第2のアーク制御器122の動作について説明する。図3および図4は、図2における各信号のタイミングを示す図の続きを示す図である。図3(F)は、保持器123によるアーク検出信号Cを保持したアーク検出保持信号Fを示し、横軸は経過時間t、縦軸はアーク検出保持信号Fのレベルをそれぞれ示す。記号p,q,rはそれぞれ時刻を示す。ここで、時刻p,q,rは、第2の所定時間t2’に対応する時刻、後述する閾値に対応する時刻、第2の所定時間t2に対応する時刻をそれぞれ示す。記号Mは、時刻qにおいてアーク検出保持信号Fのオンオフ状態を判断するための閾値とする。つまり、アーク検出保持信号Fのレベルが閾値Mに等しいとき、またはアーク検出保持信号Fのレベルが閾値Mより大きいときに、アーク検出保持信号Fはオフ状態であるとし、また、アーク検出保持信号Fのレベルが閾値Mより小さいときに、アーク検出保持信号Fはオン状態であるとする。
【0047】
図3(F)によれば、アーク検出保持信号Fは、時刻aにおいて保持器123がアーク検出信号Cを入力すると、アーク検出信号Cが時刻aからbまでの間でオンであるからその信号を受けてオンとなり、その後、時刻bから保持器123の時定数にしたがって漸増する。同様に、時刻cにおいてアーク検出信号Cを再度入力すると、アーク検出信号Cが時刻cからdまでの間でオンであるからその信号を受けてオンとなり、その後、時刻dから漸増し、さらに時刻eおいて、アーク検出信号Cを再々度入力すると、アーク検出信号Cが時刻eからfまでの間でオンであるからその信号を受けてオンとなり、その後、時刻fから漸増していることがわかる。
【0048】
図3(K)は、アーク検出保持信号Fに基づく遅延信号を示す。横軸tは経過時間、縦軸は遅延信号のオンおよびオフをそれぞれ示す。記号δ2(2箇所)は、遅延信号における遅延時間を示す。
【0049】
図3(G)は、モノステーブル回路124によるモノステーブル信号Gを示し、横軸が経過時間t、縦軸がモノステーブル信号Gのオンおよびオフをそれぞれ示す。つまり、モノステーブル信号Gは、アーク検出保持信号Fをトリガー信号としてオンし、そこから第2の所定時間t2が経過した後、オフに戻る信号を示す。図3(F)および図3(G)によれば、最初、アーク検出信号Cを入力してから(アーク検出保持信号Fがオンしてから)第2の所定時間t2が経過したとき、アーク検出保持信号Fがオフ状態であること、すなわちアーク放電を検出していない状態であることを示す。
【0050】
図3(G’)は、モノステーブル信号G’を示す。つまり、モノステーブル信号G’は、アーク検出保持信号Fをトリガー信号としてオンし、そこから第2の所定時間t2’が経過した後、オフに戻る信号を示す。図3(F)および図3(G’)によれば、最初、アーク検出信号Cを入力してから(アーク検出保持信号Fがオンしてから)第2の所定時間t2’が経過したとき、アーク検出保持信号Fがオン状態であること、すなわちアーク放電を検出している状態であることを示す。
【0051】
図3(H)は、フリップフロップ回路125による第2の電源遮断/再起動信号Hを示し、横軸は経過時間t、縦軸は第2の電源遮断/再起動信号Hをそれぞれ示す。図3(F)および図3(G)によれば、第2の電源遮断/再起動信号Hは、経過時間に拘わらずオフ状態となる。
【0052】
一方、図3(H’)は、フリップフロップ回路125による第2の電源遮断/再起動信号H’を示し、横軸は経過時間t、縦軸は第2の電源遮断/再起動信号H’をそれぞれ示す。図3(F)および図3(G’)によれば、第2の電源遮断/再起動信号H’は、時刻aにおいて最初にアーク放電を検出してから第2の所定時間t2’だけ経過した後、オフからオンとなり、さらに第3の所定時間t3だけ経過した後、リセットされてオフ状態となる。
【0053】
図3(I)は、第2のオンディレイ信号I、すなわちハードアークを停止する期間を表す信号を示し、横軸が経過時間t、縦軸がハードアークを停止する期間のタイミングをそれぞれ示す。記号t3は、第2の電源遮断/再起動信号H’のオフからオンへの切替え時点からハードアークを停止する時間である第3の所定時間を示す。
【0054】
図4(J)は、第2の所定時間t2の場合、OR回路127による電源の遮断または再起動を行うための最終段に位置するアーク検出信号である電源遮断/再起動信号Jを示し、横軸が経過時間t、縦軸が電源遮断/再起動信号Jをそれぞれ示す。
【0055】
図4(J’)は、図4(J)と同様に、第2の所定時間t2’の場合、OR回路127による電源の遮断または再起動を行うための最終段に位置するアーク検出信号である電源遮断/再起動信号J’を示し、横軸が経過時間t、縦軸が電源遮断/再起動信号J’をそれぞれ示す。
【0056】
保持器123は、アーク検出信号Cを入力すると、アーク検出信号Cを当該保持器123の時定数によって、時間が経過すると共に漸増するように保持するアーク検出保持信号Fを生成し、そのアーク検出保持信号Fをフリップフロップ回路125およびモノステーブル回路124に出力する。つまり、保持器123によるアーク検出保持信号Fは、保持器123がない場合、図2(C)に示すように、時刻aのアーク検出信号Cによりオンとなる。そして、図2(E)に示すように、電源が遮断され、時刻bにおいて瞬時にオフとなる。一方、保持器123が有る場合、アーク検出保持信号Fは、図3(F)に示すように、時刻aにおいて比較器112によるアーク検出信号Cが保持器123に入力されてオンとなる。そして、電源が遮断された後、時刻bから実線および2点鎖線で示す応答曲線に沿ってレベルが変化し、時刻q以後オフ状態に至る。応答曲線は、保持器123によるフィルタ回路の時定数に基づくものである。これにより、アーク検出器134によるアーク検出信号Cを出力した後、電源を遮断してもアーク検出保持信号Fを保持することができる。したがって、アーク放電を検出して電源を遮断した場合であっても、アーク放電を検出している状態であるか否かを判定することができる。つまり、アーク放電が連続的に発生するか否かを検出することができる。
【0057】
モノステーブル回路124は、アーク検出保持信号Fを入力すると、図3(G)または(G’)に示すように、アーク検出保持信号Fをトリガパルス信号としてオンし、第2の所定時間t2,t2’が経過した後オフに戻るモノステーブル信号GまたはG'をそれぞれフリップフロップ回路125に出力する。
【0058】
フリップフロップ回路125は、アーク検出保持信号Fをセット側に入力し、かつモノステーブル回路124によるモノステーブル信号GまたはG’をリセット側に入力すると、図3(H)または(H’)に示すように、アーク検出信号Cが出力してから第2の所定時間t2またはt2’だけ経過した際に、アーク検出保持信号Fがオンしているか否かを判断し、その結果により、第2の所定時間t2’が経過した際に、アーク検出保持信号Fがオンしているとき、つまりアーク検出保持信号Fがアーク検出信号Cの影響を受けているとき、そのアーク放電をハードアークと判定し、電源を遮断する。そして、さらに第3の所定時間t3が経過した後、電源を再起動するための中間段に位置するアーク検出信号である第2の電源遮断/再起動信号H’をOR回路127に出力する。また第2の所定時間t2が経過した際に、アーク検出保持信号Fがオフしているとき、つまりアーク検出保持信号がアーク検出信号Cの影響を受けていないとき、電源を再起動するための中間段に位置するアーク検出信号である第2の電源遮断/再起動信号HをOR回路127に出力する。
【0059】
フリッププロップ回路125は、アーク検出保持信号Fをセット側に入力して信号処理する場合、実際上、図3(K)に示すように、アーク検出保持信号Fを入力する代わりに、保持器123によるアーク検出保持信号Fのオフからオンへのタイミングを遅延時間δ2だけ遅延させた遅延信号Kを入力するようにしてもよい。遅延信号Kは、論理回路、例えばNOT回路2個を保持器123とフリップフロップ回路125との間に直列に接続することにより、論理回路の出力信号として得ることができる。この遅延信号Kは、元の信号をそのままにし、時間のみを遅延させた信号である。これにより、フリップフロップ回路125による出力信号を安定な信号とすることができる。何故ならば、フリップフロップ回路125の入力信号が、セット側がオフであり、リセット側がオンであるとき、フリップフロップ回路125の出力信号がオフとなる。次に、フリップフロップ回路125の入力信号が、セット側がオンであり、リセット側がオンであるとき、フリップフロップ回路125の出力信号が直前のオフを保持するからである。
【0060】
次に、OR回路127は、第1の電源遮断/再起動信号Eおよび第2の電源遮断/再起動信号HまたはH’を入力すると、出力信号である電源遮断/再起動信号Jは、最初のアーク放電が発生してから第2の所定時間t2が経過した際に、アーク検出保持信号Fがオフ状態であるからアーク放電を検出していない状態であると判断したとき、図4(J)に示すように、オフとなり、電源は切断されず接続され続ける。また、電源遮断/再起動信号Jは、最初のアーク放電が発生してから第2の所定時間t2’が経過した際に、アーク検出保持信号Fがオン状態であるからアーク放電を検出している状態であると判断したとき、図4(J’)に示すように、オンとなり、そのアーク放電はハードアークであると判定し、直ちに電源は遮断され、さらに第3の所定時間t3が経過した後、電源は再起動する。ここで、OR回路127は論理和の演算を行う。これにより、アーク検出信号Cを出力した後、電源を遮断してもその後に発生するアーク放電を検出することができ、かつアーク放電が最初に発生した時刻から第2の所定時間t2’が経過した際に、アーク放電を検出している状態であると判断したとき、そのアーク放電はハードアークであると判定し、電源が遮断され、さらに電源遮断から第3の所定時間t3が経過した後、電源を再起動することができる。
【0061】
したがって、アーク放電を検出して電源を遮断した場合であっても、アーク放電が連続的に発生するときにはアーク検出保持信号Fがオン状態になっているから、アーク検出保持信号Fの状態によりアークが連続的に発生するか否かを検出することができ、かつ、その発生を検出することにより、ハードアークを抑制することができる。
【0062】
図5は、本発明に係るアーク放電抑止装置におけるハードアークを検出する手順を示す図である。以下、アーク放電抑止装置におけるハードアークを検出する手順を説明する。
【0063】
まず、電源装置130は、真空装置107の電極に供給する電源の交流放電電流に基づく直流電流値〔B〕と、アーク放電を判定するための基準電流であるアーク電流検出レベルLとを比較し、直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLに等しいとき、または直流電流値〔B〕がアーク電流検出レベルLより大きいとき、アーク放電が発生しているものと判定し、アーク検出信号Cを出力する(ステップS1)。
【0064】
そして、第2のアーク制御器122の保持器123は、アーク検出信号Cを入力し、アーク検出信号Cを所定の時定数で保持し、得られるアーク検出保持信号Fを出力する。つまり、アーク放電が発生した後、アーク検出信号Cを一定時間だけ保持する(ステップS2)。
【0065】
そして、モノステーブル回路124は、アーク検出保持信号Fを入力し、アーク検出保持信号Fをトリガパルス信号としてオンし、第2の所定時間t2’またはt2経過後にオフに戻るモノステーブル信号G’またはGを出力する。つまり、保持したアーク検出信号Cの保持時間t2’またはt2の間モノステーブル回路124を起動させる(ステップS3)。
【0066】
そして、R−Sフリップフロップ回路125は、アーク検出保持信号Fをセット側に入力し、かつモノステーブル信号G’またはG’をリセット側に入力し、第2の所定時間t2’またはt2が経過した後、アーク検出保持信号Fがオン状態であるかオフ状態であるか、すなわちアーク検出信号Cが保持されているか(アーク検出信号Cの影響を受けているか)否かを判断する。つまり、第2の所定時間(保持時間)t2’またはt2が経過した後、アーク放電を検出している状態であるか否かを判断する(ステップS4)。前記ステップ4により、アーク放電を検出している状態であると判断した場合、そのアーク放電をハードアークであると判定する(ステップS5)。
【0067】
ハードアークであると判定した後電源は遮断され、さらに、オンディレイタイマー126は、ハードアークを停止する時間である第3の所定時間(保持時間)t3だけ保持するタイマーを起動させる。つまり、ハードアーク検出信号の第3の所定時間t3のタイマーを起動させる(ステップS6)。第3の所定時間t3が経過した後、ハードアーク検出信号の保持を解除し、電源を再起動する(ステップS7)。また、前記ステップ4の結果として、アーク放電を検出している状態でないと判断した場合、運転を継続し終了する。
【0068】
次に、アーク放電抑止装置132におけるマイクロアークを検出する手順について説明する。ハードアークと同様に、アーク検出信号Cを出力する(ステップS1)。そして、電源を遮断し、かつアーク検出信号Cの第1の所定時間t1のオンディレイタイマー113を起動させる(ステップS8)。第1の所定時間t1が経過した後、保持された第1の所定時間t1を解除し、電源を再起動する(ステップS9)。
【0069】
以上により、アーク放電が発生して直ちに電源を遮断し、電源を遮断してから第1の所定時間t1だけ経過したとき、電源を再起動する。この場合、そのアーク放電をマイクロアークであると判定する。また、アーク放電が発生した後、第2の所定時間t2’が経過した際に、アーク放電を検出している状態であるとき、つまり連続的にアーク放電が発生するものと判断したとき、そのアーク放電をハードアークである判定し、電源を遮断し、さらに、電源を遮断してから第3の所定時間t3が経過したとき、電源を再起動することができる。したがって、アーク放電を検出して電源を遮断した場合であっても、アーク放電が連続的に発生するか否かを検出することができ、かつハードアークを抑制することができる。
【0070】
以上の説明では、電源装置130が、交流型スパッタリング装置に適用する交流電源の場合を示したが、図6に示すように、直流型スパッタリング装置を制御するために、絶縁トランス105と直流型のカソード108を使用する真空装置107との間にAC−DC電力変換器135を配設し、AC−DC電力変換器135による直流放電電流信号A3をカソード108に供給する直流電源の場合にも適用することができる。この場合、例えば図1における直流電流信号Bの代わりに直流放電電流信号A3の絶対値を用いる。具体的には、絶対値変換器(図示せず)は、直流放電電流信号A3を入力し、直流放電電流信号A3の絶対値を演算し、演算の結果により、得られる直流放電電流信号A3の絶対値を比較器112に出力する。以下の信号処理は、図1と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係るアーク放電抑止装置をスパッタリング装置に適用した一例を示す制御ブロック図である。
【図2】本発明に係るアーク放電抑止装置におけるアーク放電が連続的に発生する場合の各信号のタイミングを示す図である。
【図3】図2の続きを示す図である。
【図4】図3の続きを示す図である。
【図5】本発明に係るアーク放電抑止装置におけるハードアークを検出する手順を示す図である。
【図6】本発明に係るアーク放電抑止装置の周辺装置の他の例を示す図である。
【図7】従来のアーク放電抑止装置をスパッタリング装置に適用した場合の制御ブロック図である。
【図8】従来のアーク放電抑止装置をスパタリング装置に適用した場合における各信号のタイミングを示す図である。
【図9】従来のグロー放電処理装置における制御信号発生器の回路図である。
【符号の説明】
【0072】
8 制御信号発生器
11 検出レベル設定器
12 休止時間設定器
13 立上り時間時間設定器
14 比較器
15 メモリ回路
16,17 積分器
18,19 演算器
20 休止時間幅パルス発生器
101 従来のスパッタリング装置
102 AC―DC電力変換器
103 平滑用コンデンサ
104 DC−AC電力変換器
105 高周波トランス
106 カレントトランス
107 真空装置
108,109 カソード
110 抵抗体
111 AC−DC変換器
112 比較器
113 オンディレイタイマー
114 フリップフロップ回路
121 スパッタリング装置
122 第2のアーク制御器
123 保持器
124 モノステーブル回路
125 フリップフロップ回路
126 オンディレイタイマー
127 OR回路
130 電源装置
131 第1のアーク制御器
132,133 アーク放電抑止装置
134 アーク検出器
135 AC−DC電力変換器
a 検出電流値
b 検出レベル
c 比較器出力信号
d メモリ出力信号
e 積分信号
f 電流信号
g 休止時間幅パルス信号
k 制御信号
A 交流放電電流信号
AA 交流放電電圧信号
A1 アーク放電がある交流放電電流信号
A3 直流放電電流信号
B 直流電圧信号または直流電流信号
C アーク検出信号
D 第1のオンディレイ信号
E 第1の電源遮断/再起動信号
F アーク検出保持信号
G,G’ モノステーブル信号
H,H’ 第2の電源遮断/再起動信号
I 第2のオンディレイ信号
J,J’ 電源遮断/再起動信号
L アーク電流検出レベル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空装置と前記真空装置内の電極へ電力を供給する電源装置とを備えるグロー放電処理装置において、前記真空装置内のアーク放電を検出した後、前記電源装置のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御してアーク放電を抑止するアーク放電抑止装置であって、
前記電極に供給する放電電流に基づく直流電流値と、前記アーク放電を判定するための基準電流値であるアーク電流検出レベルとを入力し、前記直流電流値がアーク電流検出レベルに等しいとき、または前記直流電流値がアーク電流検出レベルより大きいときに、アーク検出信号を出力する比較器と、
前記アーク検出信号を入力し、前記アーク検出信号に基づいて電源を遮断し、かつ電源を停止する時間を示す第1の所定時間が経過した後に、電源を再起動するための第1の電源遮断/再起動信号を出力する第1のアーク制御器と、
前記アーク検出信号を入力し、前記アーク検出信号を所定の時定数で保持してアーク検出保持信号を生成し、ハードアークを判定する時間を示す第2の所定時間が経過した際に、前記アーク検出保持信号がオンであるとき、アーク放電をハードアークと判定して電源を遮断し、さらに、前記ハードアークを停止する時間を示す第3の所定時間が経過した後に、電源を再起動するための第2の電源遮断/再起動信号を出力する第2のアーク制御器と、
前記第1の電源遮断/再起動信号と、前記第2の電源遮断/再起動信号とを入力し、前記第1の電源遮断/再起動信号と、前記第2の電源遮断/再起動信号との論理和の演算結果により、前記スイッチング素子のゲートをオフまたはオンするための電源遮断/再起動信号を出力するOR回路と、
を備えることを特徴とするアーク放電抑止装置。
【請求項2】
前記第2のアーク制御器は、
前記アーク検出信号を入力し、前記アーク検出信号を所定の時定数だけ保持して、得られるアーク検出保持信号を出力する保持器と、
前記アーク検出保持信号を入力し、前記アーク検出保持信号をトリガパルス信号としてオンし、前記第2の所定時間が経過した後にオフに戻るモノステーブル信号を出力するモノステーブル回路と、
前記アーク検出保持信号をセット側に入力し、かつ前記モノステーブル信号をリセット側に入力し、前記第2の所定時間が経過した後の前記モノステーブル信号がオンからオフに変化した際に、前記アーク検出保持信号がオンであるとき、前記アーク放電をハードアークと判定し、電源を遮断するための第2の電源遮断/再起動信号を出力するR−Sフリップフロップ回路と、
前記ハードアークと判定した後、前記ハードアークを停止する時間を示す第3の所定時間を設定するオンディレイタイマーと、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のアーク放電抑止装置。
【請求項3】
前記グロー放電処理装置が、
スパッタリング装置であることを特徴とする請求項1または2のいずれかの請求項に記載のアーク放電抑止装置。
【請求項4】
真空装置と前記真空装置内の電極へ電力を供給する電源装置とを備えるグロー放電処理装置において、前記真空装置内のアーク放電を検出した後、電源装置のスイッチング素子のゲートをオン/オフ制御してアーク放電を抑止するアーク放電抑止方法であって、
前記電極に供給する放電電流に基づく直流電流値と、前記アーク放電を判定するための基準電流値であるアーク電流検出レベルとを比較し、前記直流電流値が前記アーク電流検出レベルに等しいとき、または前記直流電流値が前記アーク電流検出レベルより大きいときに、アーク検出信号を出力するステップと、
前記アーク検出信号を所定の時定数で保持し、得られるアーク検出保持信号を出力するステップと、
前記アーク検出保持信号をトリガパルス信号としてオンし、ハードアークを判定する時間を示す第2の所定時間が経過した後にオフに戻るモノステーブル信号を出力するステップと、
前記アーク検出保持信号をR−Sフリップフロップ回路のセット側に入力し、かつ前記モノステーブル信号を前記R−Sフリップフロップ回路のリセット側に入力し、前記第2の所定時間が経過した際に、前記アーク検出保持信号がオンである否かを判断するステップと、
前記ステップにより、前記アーク検出保持信号がオンであるとき、前記アーク放電をハードアークと判定するステップと、
前記ハードアークと判定した後、電源を遮断し、さらに、前記ハードアークを停止する時間を示す第3の所定時間だけ保持するタイマーを起動するステップと、
前記第3の所定時間が経過した後、前記第3の所定時間の保持を解除し、電源を再起動するステップと、
を備えることを特徴とするアーク放電抑止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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