説明

アーク溶射装置

【課題】溶射量を増量しても、なお安定した低温度溶射被膜を形成可能とし、作業効率を格段に向上させるアーク溶射装置を提供する。
【解決手段】並行スリッター型のアーク溶射装置において、左右に設けた各ノズルユニットのスリッターノズル口19に通じる円筒状のエアータンク3aを設け、当該エアータンク3aの長手方向の一端から圧縮エアーを送り、その側面に設けたエアー出口通路先端の前記スリッターノズル口か19らエアーを噴出させる構成とし、当該エアータンク3aの側面の前記エアー出口通路3bの横断面を角部を形成しないようテーパー形状にし、かつ、アーク交点Oがその外周のジェットエアーカーテン21に触れないようにして、前記ジェットエアーカーテン21に溶融滴が引っ張られるように、前記一対のノズルユニットの幅を狭くし、溶射中心軸Pに向かう二つのジェットエアーのなす角度を鋭角とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はアーク溶射装置に関するもので、さらに詳しく述べると、アトマイジング(噴霧状にする)用エアーノズルのノズル内部形状を新たな形状にし、ジェットエアーの供給状態を変更し、アトマイジング領域を拡張することにより、アーク溶射量(kg/時間)を増量しても、なお、アーク溶射金属溶滴を低温で均一に微粒化し、安定した低温度溶射被膜を形成し、作業効率を格段に向上させるアーク溶射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、アーク溶射装置のアトマイジング用ジェットエアーの供給形態には、貫通型、貫通型に外包エアーを組み合わせた型、外包型、外包型に補助エアーを組み合わせた型、並行スリッター型の5方式がある。
【0003】
第1の貫通型は、特許文献1に示すように、アトマイジング用の主ジェットエアーをアーク熱で溶融した一対の金属製溶射材料の金属溶滴にアーク域の後方からアーク点に向かって直接吹付けることによって、金属溶滴を確実に押し出し、アトマイジングを行うので連続溶射が可能となる。
【0004】
第2の貫通型に外包エアーを組み合わせた型は、アーク域の中心後方から当該アーク域に向かって噴出される直線状の主ジェットエアーを金属溶滴に直接吹付けてアトマイジングを行い、かつ、外側にコーン状のエアーカーテンを約4kgf/cmの圧力で形成し微粒化した金属溶滴を溶射する。
【0005】
第3の外包型は、特許文献2に示すように、主ジェットエアーを環状のノズルから円錐形状に噴き出し、アーク域の外側にジェトカーテンを形成し、主ジェットエアーにより発生する吸い込み気流のみで金属溶滴を主ジェットエアーカーテンへ送り込み、アトマイジングを行うことにより溶射が可能となる。
【0006】
第4の外包型に補助エアーを組み合わせた型は、特許文献3に示すように、前記外包型における主ジェットエアーカーテンだけでは吸込力が弱いために、アーク域の中心後方の補助ノズルを設け、アーク域の中心に向かって補助エアーを噴出することにより金属溶滴を確実に主ジェットエアーまで押し出し、連続溶射を可能とする。
【0007】
第5の並行スリッター型は、特許文献4に示すように、一組の長方形エアーノズル口の各中心線を並行にして、主ジェットエアーカーテンが溶射中心軸に対して互いに向かい合ったクサビ型を形成する。主ジェットエアーの内側に生じる吸引力の発生圏と弱風の傍流圏で形成するエアーチャンバ内の収束エアー部分に向かって、一対の金属製溶射材料をその中心軸後方位置で連続的にアーク放電させる。アーク放電で生じた金属製溶射材料の金属溶滴を吸引力と弱風の傍流圏のエアーと共にジェットエアー中に送り込んで、金属溶滴のアトマイジングを行うものである。
【0008】
近年、塗装の世界では、鉛丹塗料の禁止や有機溶剤の規制強化、酸性雨や塩害で塗膜やメッキ被膜の早期劣化等の問題が発生していた。これに代替する方法として無機材料を使用し、酸性雨や塩害に強い溶射が注目されることとなった。しかしながら、溶射は塗装と比較して高コスト、低作業効率であり、防錆については限られた場所に、他の用途については肉盛やセラミック等の特殊用途に限られており、多量の溶射量を必要としなかった。溶射が塗装に代替するためには、コストダウン、作業効率の向上、溶射量を増量する必要があった。
【0009】
一般的にアーク溶射やフレーム溶射(可燃ガス溶射方式)等の装置は、溶射量を増やそうとすると、金属溶融温度を極めて高くし、溶融エネルギーも大きく設定する必要があるため溶射装置は大掛りなものとなる問題が発生する。その結果、金属溶滴の微粒化効率が落ち、溶射被膜は粗くなり、被膜性能が悪くなる。溶射被膜温度も高くなるため金属が焼けて変色する。また、ヒュームや粉塵の発生が多く、作業環境が著しく劣悪になる等の問題も発生する。
以上より、アーク溶射やフレーム溶射の溶射被膜として使用可能な被膜の状態を得られる溶射量(kg/時間)は限られており、溶射量を容易に増加させることができない問題があった。
【0010】
さらに、アーク溶射やフレーム溶射(可燃ガス溶射方式)等の装置においては溶射被膜温度が高い場合、溶射被膜の塗着後に冷却による金属収縮が大きく作用して、被溶射母材との密着面に温度のずれが生じ、剥離の原因となる。従って、溶射被膜温度を下げて低くするには、冷却時間を長くする必要があるために被溶射母材から離れて溶射し、その場合の溶射距離は200mm以上が必要である。それ故、大きな段差のついた凹凸部分やエッジ部・コーナー部・複雑な形状箇所等の被溶射母材に溶射を行う場合において、各々の目標の溶射位置に対して距離を正確に保つことができないため適正量の被膜を確保することができず、不必要な溶射被膜が厚く付いてしまうこともあり、膜厚にバラつきのある低効率の作業になってしまうことに加え、溶射被膜温度が高いことによる剥離等が発生することになる。これらを解消するには目標の溶射位置に対してピンポイントで安定した膜厚を確保する必要がある。それには、溶射距離を縮め、至近距離でも低温の安定した溶射被膜が得られなければならないが、従来装置では剥離等の原因になるため溶射距離を縮められない問題があった。
また、溶射被膜の塗着効率は溶射距離によって大きく左右され、溶射距離が50mm〜200mmで約70%、300mm〜400mmで約50%以下になる。
塗着効率が落ちると粉塵が多く発生するため環境が悪化する。また、溶射線材を多く必要とするためコスト高にもつながる。
【0011】
【特許文献1】特開昭61−181560号公報
【特許文献2】特開昭61−167472号公報
【特許文献3】特公昭56−10103号公報
【特許文献4】特許第2799718号公報
【特許文献5】特許第2742536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上の5方式について、溶射量を増量した場合、また、従来の溶射距離を確保することが困難である場所等や、目標の溶射位置に対してピンポイントで安定した膜厚を確保することに対応するために溶射距離を縮めて至近距離で溶射しようとした場合に以下の問題点がある。
【0013】
前記第1の貫通型では、アーク熱で溶融した金属溶滴に主ジェットエアーを直接吹付けるためにアーク域の金属溶滴の温度が下がる。このため、貫通型では溶融電圧を上げてアーク放電する必要があり、他の型に比べてエネルギーのロスと溶融温度の上昇が大きい。溶融温度を下げるには主ジェットエアー圧を約4kgf/cmと低く設定しなければならず、微粒化が不十分で被膜粒子が粗くなる。このため、貫通型では必然的に高温溶射にならざるを得ない。また、主ジェットエアーをアーク域の中心の後方から直接アーク点に吹付けるために目標を外れた広範囲に金属溶滴が飛散する欠点があった。
【0014】
さらに、溶射量(kg/時間)を増やそうとすると、金属製溶射材料を溶融するエネルギーがより多く必要となり溶融電圧を上げなければならない。そのために金属溶滴の温度も上がることとなりヒュームが多く発生する。金属溶滴に直接吹付ける主ジェットエアー圧を約4kgf/cm以上には上げられない貫通型では金属溶滴を完全に微粒化できずに、高温度の粗い被膜になる傾向は顕著になる。
また、微粒化が不十分で安定した金属溶滴を得られないため、従来の溶射距離を縮めて溶射を行うことは困難である。
【0015】
また、前記第2の貫通型に外包エアーを組み合わせた型は、コーン状又は円筒状のエアーカーテンでアーク域を包み、主ジェットエアーをアーク域の中心後方から直接アーク点に吹付けるために目標を外れた広範囲に金属溶滴は飛散する欠点は解消できるものの、他の型に比べてエネルギーロスと溶融温度の上昇が大きいという貫通型の欠点は残されたままである。また、溶射量(kg/時間)を増やそうとすると、貫通型と同様の問題が生じる。
この型は、ジェットエアーをコーンの先端に集中し金属溶滴を誘導するものと広範囲に飛散しようとする金属溶滴を円筒状のジェットエアーでそれ以上拡がらないように母材に向かわせるものがあるが、貫通型と同様に溶射距離を縮めると、溶射被膜温度が高い状態で被膜を形成しなければならず、剥離が生じる原因となる。
【0016】
前記第3の外包型は、金属溶滴が円錐状の頂部の一点に集中するため微粒金属溶滴の密度が高く、不均一となり、溶射被膜の温度も下がらない。従って、アーク放電による溶融温度と溶射被膜温度の差が非常に小さい。また、主ジェットエアーカーテン内の減圧だけでは吸込力が弱いため、短時間の溶射は可能であるが、連続溶射を行うと金属溶滴がエアーノズル付近に付着する問題があり、このまま溶射量を増加させることは不可能である。また、前記特許文献2における、「低温溶射」の意味は、アーク放電による溶融温度が低いことをいい、溶射被膜温度が低温となることではない。
また、微粒金属溶滴の密度が高く、不均一となるため、被膜の密着強度は弱い。さらに、被膜の温度が低温に下がらず、剥離の原因となるため、従来通りの溶射距離を確保しなければならない。これにより、溶射距離を縮めることも困難である。
【0017】
前記第4の外包型に補助エアーを組み合わせた型は、溶射量を増加させると、主ジェットエアーを円錐形状の頂点の一点に収束させたジェットエアーカーテンに、アーク熱で溶融した金属溶滴をアトマイジングする外包型の方法では、増量した金属溶滴がより一点に収束し、微粒金属溶滴の密度が高くなると冷却効率が落ち、金属溶滴温度は下がらず、微粒化効率が落ちるため微粒子が粗くなり、均一で微細な溶射被膜が得られない。また、金属溶滴温度は下がらないと溶射被膜温度が高くなり、その後の冷却による金属収縮が大きくなり、剥離の原因となる。また、均一な微粒金属溶滴が得られないと溶射被膜にむらが生じる。
【0018】
さらに、微粒化された金属溶滴が重なり合って温度が下がらないまま小さい円状の溶射パターンになると、金属溶滴が集中した高温の被膜が形成されるため作業効率も悪くなる。
以上のことは、増量せず溶射距離を縮めた場合にも同様の状態が発生するため、従来の溶射距離を縮めて至近距離での溶射を行うことができない。
【0019】
また、金属溶射材料をアーク熱で溶融する主エネルギーに加え、アーク域に補助エアーの圧力を約1kgf/cm吹付けるために、補助エアーによる冷却防止用の溶融エネルギーが余分に必要となる。さらに、金属溶滴を主ジェットエアーカーテンへ確実に送り込むためだけに消費するエネルギーの損失分が加算され、アーク放電は必然的に高電圧・高エネルギーを必要とすることから、消費電力量を抑えることができない欠点があった。
【0020】
前記第5の並行スリッター型は、エアーノズル口の長い方の縦幅全域において、均一で高圧の強力なジェットエアーカーテンが得られず、主ジェットエアーの内側に生じる吸引力も弱い。また、長方形エアーノズル口の幅で噴出した主ジェットエアーのぶつかり合う場所ではエアー分布が不均一となり、交差エアーが上下に大きく広がらないために溶射パターンは小さな楕円形状にしかならなかった。
【0021】
従って、このまま溶射量(kg/時間)を増加しても、エアー分布が不均一な低圧の主ジェットエアーカーテンであるために、増量した金属溶滴を均一に微粒化できない。また、小さな楕円形状の溶射パターンでは溶射被膜温度は上昇し、不均一な粗い被膜となる問題があった。
以上のことは、増量せず溶射距離を縮めた場合にも同様の状態が発生するため、従来の溶射距離を縮めて至近距離での溶射を行うことができない問題があった。
【0022】
また、前記第5の並行スリッター型を変形し、一対のジェットエアーの幅方向中心線が溶射中心軸に対して互いに逆向きに傾斜して、一対のジェットエアーがその一部を収束しつつ交差するよう並行ノズル口を指向させることとした特許文献5記載の並行スリッター型は、溶射被膜パターンを拡大させるためのものであるが、一対のジェットエアーの噴出方向がクサビ型の並行となっていないため、ジェットエアーカーテン内のアークチャンバの左右が均一にジェットエアーカーテンに覆われない。
これにより、金属溶滴はエアーカーテンに覆われていないところから横に漏れてしまう問題点があった。
【0023】
また、ジェットエアーの交差する部分が通常の並行スリッター型よりも小さくアトマイジング領域が狭いため、溶射量を増量した場合には増量した金属溶滴を均一に微粒化できず、不均一な粗い被膜となる問題があった。
これを解消するためには、一対のエアーカーテンの上下交差角度を出来る限り並行に近い状態で交差するように設定する必要があるが、並行に近くすると溶射被膜パターンが従来と変わらないという問題があった。
【0024】
この発明は、このような従来技術を考慮したものであって、従来型の溶射装置の欠点である少量の溶射量、従来の溶射距離を確保することができない場所での至近距離の作業の困難性、低作業効率、及び高コストの全てを克服するように、従来型の並行スリッター型についてアトマイジング用エアーノズルのエアー口とエアーノズル内部の形状を新たな形状にして主ジェットエアーの供給状態を変更し、これにより均一に微粒化された金属溶滴をより拡散し、微粒化時の金属溶滴温度及び溶射被膜温度を下げ、かつ、溶射パターンを大きくすることにより、溶射量を増量しても、なお、安定した低温度溶射被膜を形成可能とし、作業効率を格段に向上させる溶射装置を提供するとともに、従来の溶射距離を確保することが困難である場所においても効率の高い作業を可能とすることができ、目標の溶射位置に対してピンポイントで安定した膜厚を確保することができる溶射装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
請求項1の発明は、溶射機本体の前面に、溶材をアーク交点に向かって送り込み案内する一対の溶材ノズルと当該一対の溶材ノズルを挟んだ両側にアトマイジング用の圧縮空気を供給案内する一対の並行な縦長のノズルユニットを設け、前記一対のノズルユニットのノズル口からその間に介在する溶射中心軸に向かって一対の平面状ジェットエアーを噴出し、これらのジェットエアーで横断面が楔型のジェットエアーカーテンを形成し、一方、前記溶材にアーク電流を流して、前記ジェットエアーカーテン内で一対の溶材の先端でアーク放電を発生させて溶材を溶かし、当該溶融滴が前記ジェットエアー中に吸引されてアトマイジングする溶射装置において、前記各ノズルユニットのノズル口に通じる円筒状のエアータンクを設け、当該エアータンクの長手方向の一端から圧縮エアーを送り、その側面に設けたエアー出口通路先端の前記ノズル口からエアーを噴出させる構成とし、当該エアータンクの側面の前記エアー出口通路の横断面を角部を形成しないようテーパー形状にし、かつ、前記アーク交点が前記ジェットエアーカーテンに触れないように、前記一対のノズルユニットのノズル口の幅を狭くして溶射中心軸に向かう二つのジェットエアーのなす角度を鋭角とした溶射装置とした。
【0026】
また、請求項2の発明は、前記ノズルユニットが、スリッターノズル口であり、この各スリッターノズル口の横幅が0.5mm〜1.2mm、縦幅が13mm〜26mm、一対のスリッターノズル口の横幅が8mmである、請求項1に記載の溶射装置とした。
【0027】
また、請求項3の発明は、前記ノズルユニットが多数の小孔ノズル口から成り、この各小孔ノズル口の横幅が0.5mm〜1.2mm、多数の小孔ノズル口全体の縦幅が13mm〜26mm、一対のノズルユニットの横幅が8mmである、請求項1に記載の溶射装置とした。
【発明の効果】
【0028】
請求項1〜3の発明によれば、各ノズルユニットのノズル口に通じる円筒状のエアータンクの側面のエアー出口通路の角部を切り落とし、横断面をテーパー形状にし、かつアーク交点がジェットエアーカーテンに触れないように、一対のノズルユニットのノズル口の幅を狭くして溶射中心軸に向かう二つのジェットエアーのなす角度を鋭角としたことにより、エアータンク内に送られた圧縮エアーの圧力を落とすことなくエアーを外部に均一に噴出させることができるため、エアーカーテンの縦幅を拡げ、アークチャンバ内の吸引力が増し、かつアトマイジング領域を拡張することができる。
【0029】
またこれにより、従来と溶射量(kg/時間)が同量であれば、金属溶滴の密度は下がるため、溶射量の増量が可能となる。また、ジェットエアーのエアー圧の損失を最小にし、かつ、並行に噴出し拡幅した一対の上下を開放しているため、強力なエアーカーテンは上下に大きく扇状に拡がる。そして、交差するエアーパターン幅を従来の2倍以上の大きさに拡げたため、安定したアトマイジング領域を拡張させることができる。
【0030】
従って、一対の並行で大きなエアーカーテンによりアークチャンバを拡張させることで、特許文献5に記載の変形した並行スリッター型のエアーカーテンに覆われていない部分から金属溶滴が横漏れする問題点を解消することができる。
以上より、溶射量(kg/時間)を増量しても、均一に微粒化された金属溶滴をより拡散できるため、従来の溶射装置に比べ、微粒化時の金属溶滴温度及び溶射被膜温度を下げることができる。さらに、溶射量(kg/時間)を増量しても、大きな楕円形状の均一な安定した溶射被膜パターンを形成し、単位時間当たりの溶射面積が拡がり、作業効率を格段に向上させることができる。
【0031】
また、強力になったアークチャンバ内は従来よりもエアーの吸引率が高くなるため、溶射量を増量しても溶融温度の低い状態が維持でき、連続溶射を安定的に行うことができる。また、アーク点においてアーク放電による金属溶滴をジェットエアーカーテンに晒さないため、低温度のアーク放電で溶融温度の低い状態が維持できるため、溶射量を増量しても金属製溶射材料の特性を崩壊することなくヒューム、焼け焦げ、粉塵等を抑制することができる。また、溶射量を増量しても、安定したアトマイジング領域を拡張したことにより従来量の場合と比較しても金属溶滴の密度が下がり、微粒化時の金属溶滴温度及び溶射被膜温度を下げることができるために、金属溶滴の酸化を防ぎ、溶射被膜の密着度を強固にすることができる。
【0032】
また、安定したアトマイジング領域が拡大され、かつ、ジェットエアーのエアー圧を損失を最小にすることにより、ジェットエアーカーテンの内側に生じる吸引力が増大し、溶融金属溶滴は容易に大きく拡がるために、金属製溶射材料は均一に溶融して微細な金属溶滴となり、被溶射母材に吹付けられるので、溶射量(kg/時間)を増量しても形成被膜のむらを抑制することができる。
【0033】
また、上述のように、常温に近い溶射被膜は、冷却による金属収縮も少なく、被溶射母材の粗面化率が低くても強度な密着が得られる。従って、紙、板、コンクリート等、従来付着しなかった被溶射母材にも溶射が可能となり、さらに溶射量(kg/時間)の増量も可能になった。
【0034】
また、低抵抗であるために従来のアーク溶射装置では容易に溶射を行うことのできなかった金属溶射材料のアルミニウムや銅が、この発明の溶射装置では、安定したアトマイジング領域が拡大され、かつ、ジェットエアーのエアー圧の損失を最小にすることにより、ジェットエアーカーテンの内側に生じる吸引力が増大し、溶融金属溶滴は容易に大きく拡がるために、格段に溶融効率を上げることができ、低温度被膜と微細被膜溶射が可能となった。また、溶射量を増量しても、溶射パターンを拡げることにより、不安定になりがちであったアルミニウムや銅の溶射被膜が均一化し、安定するようになった。
【0035】
また、金属溶滴の密度を下げることにより、微粒化時の金属溶滴温度及び溶射被膜温度が下がるために、従来の溶射量において、溶射装置と被溶射母材の距離を例えば、50〜100mmに縮めても、被膜形成時には冷却による金属溶滴の収縮が発生せず、溶射被膜の密着を強固にすることができる。また、溶射パターンを拡げたため、溶射装置と被溶射母材の距離を50〜100mmに縮めても、従来の溶射距離(200〜300mm)の場合と同程度の溶射面積を確保できる。従って、従来の溶射距離を確保することが困難である場所においても効率の高い作業を可能とすることができるため、溶射の作業性が飛躍的に向上した。加えて、目標の溶射位置に対してピンポイントで安定した膜厚を確保できるため品質が飛躍的に向上した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
アーク溶射装置において、アーク交点がジェットエアーカーテンに触れないようにして、前記ジェットエアーカーテンに溶融滴が引っ張られるように、前記一対のノズルユニットの幅を狭くし、溶射中心軸に向かう二つのジェットエアーのなす角度を鋭角とし、かつ、前記各ノズルユニットのノズル口に通じる円筒状のエアータンクの側面のエアー出口通路の角部を切り落とし、横断面をテーパー形状にした。
【実施例1】
【0037】
この発明のアーク溶射装置の実施例1を図1から図7に基づいて説明する。
図3において、アーク溶射装置は線状の金属製溶射材料Wを用いてアーク溶射を行うものであって、箱状の溶射機本体1内を金属製溶射材料Wが上下平行姿勢で通過するよう溶射材料経路が設定され、溶射機本体1の内部中央に溶射材料送り機構2が設けられ、溶射機本体1の前面にアトマイジング用の圧縮エアーを噴き出すノズル3が配置されている。
【0038】
溶射機本体1内の前後に、相互に間隔をあけて絶縁ブロック4、5が固定され、各絶縁ブロック4、5を前後に貫通する状態で、金属製溶射材料Wの通過経路を規定する上下一対のガイド管6、7が平行に配設されている。後側のガイド管7は、絶縁ブロック5に直接固定されている。また、前側のガイド管6は、絶縁ブロック4に装着された上下一組の電極棒8に夫々ねじ込んで固定されている。
【0039】
また、図4に示すように、各電極棒8の一端は溶射機本体1の外面に突出しており、この突出端に給電線9を接続して、一方の電極棒8にプラスの電流を流し、他方の電極棒8にマイナスの電流を印加し、前記一対の各ガイド管6及び後述するアークガイド管10を介してアーク電流が金属製溶射材料Wに印加されるようになっている。なお、図4では一方の電極棒8及び給電線9を示し、他方の電極棒8及び給電線9は図示を省略している。
【0040】
また、図2に示すように、金属製溶射材料Wをノズル3の前方外面のアーク交点Oに向かって接近移動させるために、前側のガイド管6の先端夫々に「くの字」に湾曲するアークガイド管10が接続固定されて、各アークガイド管10は溶射機本体1の前面から前方に突出している。このアークガイド管10によって、上下の金属製溶射材料Wは溶射中心軸Pに向かって収束するよう変向案内され、変向時にアークガイド管10の内壁に密接して、アーク電流の印加を確実なものにしている。
【0041】
また、前記溶射材料送り機構2は、図3に示すように、上下の金属製溶射材料Wを同時に溶射機本体1の前方に向かって送り出すよう構成され、大径の駆動ローラ12と、前記金属製溶射材料Wを駆動ローラ12に押し付ける上下一組の押さえローラ13(図4参照、但し押さえローラ13の一つのみ図示、他は図示省略)と、駆動ローラ12を回転駆動するモータ14とから成る。前記駆動ローラ12は絶縁体で形成され、金属製溶射材料Wに外接する箇所に限って金属製の断面略V字形状のリング12aが被冠されている。また、リング12aの周面には、増摩擦用のローレットが施されている。
【0042】
前記押さえローラ13は、図4に示すように、絶縁体製の上下に分割された一組の揺動アーム15に回転自在に支持されており、各揺動アーム15は各板バネ16により前記駆動ローラ12に押し付けるよう付勢されている。これにより、各押さえローラ13が金属製溶射材料Wをリング12aの周面に圧接させるようにしている。また、前記モータ14は、図3に示すように、溶射機本体1の下部に設けたグリップ17内に収納されており、グリップ17の後面に設けたスイッチ25を操作すると起動できる。
【0043】
前記ノズル3は、図1及び図2において、箱状に形成され、その上半部の左右中央に、前記アークガイド管10を避ける凹部18が設けられている。そして、図5に示すように、この凹部18を挟んだノズル3の両側前面に夫々、溶射中心軸P(図1参照)を間に挟んで対称となるよう一対の長方形状のスリッターノズル口19を開口している。また、ノズル3の下端にはエアーホースを接続する継ぎ手20が突設され、この継ぎ手20から二股に分かれて左右の円筒状のエアータンク3aに圧縮エアーを送り込む構成となっている(図3及び図5参照)。そして、各エアータンク3aの側面に前記スリッターノズル口19に通じるエアー出口通路3b(図1及び図7参照)を有している。なお、図6に示すように、前記凹部18を下半部の左右中央に設け、継ぎ手20をノズル3の上端に配置し、上部から圧縮エアーを左右の円筒状のエアータンク3aに送り込む構成(図5の逆さまの状態)としても良い。
【0044】
前記各長方形状のスリッターノズル口19は、図1、図5又は図6及び図7に示すように、上下方向に並列を構成するよう配置して形成されている。また、各スリッターノズル口19はその噴出中心線Qが溶射中心軸Pに向かって収束するよう傾斜させてある。さらに前記各エアータンク3aにおいて、前記スリッターノズル口19に向かうエアー出口通路3bの角部を、図7に示すように、切り取り(破線部分が切り落とされた部分)、当該横断面をテーパー形状にしてある。これにより円筒状のエアータンク3aの長手方向の一端から送り込まれた圧縮エアーは、エアータンク3aの他端に当たり、垂直に曲がってエアー出口通路3bを通り、スリッターノズル口19から噴出するが、スリッターノズル口19の全幅にわたって初期の圧力を保持しつつ均一に外部に噴出することができる。この点、エアータンク3aのエアー出口通路3bの横断面が、図7における点線部分の角部を有する従来のものは、圧縮エアーが当該角部に当たって圧力が弱まってしまう。
【0045】
また、図5に示す左右一対のスリッターノズル口19の横幅Lを従来のものから狭めて、スリッターノズル口19から圧縮エアー気流を噴出すると、図1に示すように、噴出先端側で合流するV字型の角度を鋭角にしたジェットエアーカーテン21を形成することができ、その内部領域に形成されるくさび形状のアークチャンバ22も鋭角になる。また、図5に示すように、各スリッターノズル口19の横幅Tを従来のものから狭め、かつ、縦幅Hを長くしたため、上下方向に伸びた長方形のスリッターノズル口19から噴出される気流により発生するジェットエアーカーテン21は、図2に示すようにより幅広く、かつ、より強い指向性を発揮する。
【0046】
このため、図2において、アークチャンバ外側のジェットエアーカーテン21の上下の断面幅が従来に比べて大きく拡がり、アーク点の上下をアークチャンバが広く被うように作用する。従って、一対のスリッターノズル口19からの噴出気流により、各ジェットエアーカーテン21の両端に鋭角なくさび形のより強い気流壁が形成され、アークチャンバでは、より強力な吸引力が発生する。
【0047】
次に、ジェットエアーカーテン21内でアーク放電が行われるよう、ノズル3と金属製溶射材料Wのアーク交点Oとの位置関係を定める。
【0048】
具体的には、図1及び図2に示すように、ジェットエアーカーテン21とノズル3の前端との間で溶射中心軸P上にアーク交点Oが位置するように設定する。すなわち、金属製溶射材料Wのアーク領域がジェットエアーカーテン21に直接触れない位置にアーク交点Oを設定する。
【0049】
以上のようなエアー供給形態により、アーク溶射を行うと、金属製溶射材料Wのアーク部をジェットエアーカーテン21のエアーに直接晒すことなく、しかもアークチャンバ22をジェットエアーカーテン21で広く被う状態でアーク放電させることが出来る。このとき、一対のジェットエアーカーテン21が作り出すアークチャンバ22は非常に鋭角な領域を構成するが、アーク放電時にジェットエアーカーテン21に触れて発生するピンチ現象が生じることはない。また、アーク放電により生じた金属溶滴は、主として吸引だけでジェットエアーカーテン21の気流圏へ送り込まれアトマイジングされる。
【0050】
前記一対のスリッターノズル口19の横幅L、各スリッターノズル口19の横幅T及び縦幅Hは以下の実験に基づいて決定した。
【0051】
まず、従来の並行スリッター型の溶射装置では、溶射中心軸Pを挟んで対称に配置された一対のスリッターノズル口から溶射中心軸Pに向かってジェットエアーを噴出し、その気流によって、溶射中心軸Pの先端で収束するアトマイジング用のジェットエアーカーテンを形成し、当該ジェットエアーカーテン内のアークチャンバ内で、前記ジェットエアーカーテンより派生する弱風からなる傍流圏において一対の金属製溶射材料W間で連続的にアーク放電させ、これにより発生した金属溶滴を前記傍流圏の弱風でジェットエアーカーテン内に送り込み、アトマイジングを行うものである。そして、前記一対のスリッターノズル口の横幅Lは16mm、各スリッターノズル口の横幅Tは1.5mm、縦幅Hは10mmである。
【0052】
そこで、この発明では、各スリッターノズル口19の縦幅H10mmを13mm〜26mmに大きくすることで、主ジェットエアーが交差する部分が大きくなり、微細化された金属溶滴はエアー幅に均一に拡がって、溶射被膜パターンが拡大し、低温溶射被膜が得られると考えたが、縦幅H10mmを13mm〜26mmに大きくすることで、主ジェットエアーが交差する部分は大きくなるが、各スリッターノズル口19の横幅が1.5mmのままでは、ジェットエアー圧は均一にならないことが分かった。これは、以下の実験により実証することができた。
【0053】
スリッターノズル口19の横幅Tと縦幅Hの長さを変えたものを数種類用意し、スリッターノズル口19から噴出される気流や発生するジェットエアーカーテン21の特性を得るための実験を行った。しかし、エアーによる観察は、視覚を通じて行うことが出来ないため、エアーノズル口に水を流すことにより、視覚で水流の状態を確認することとした。
【0054】
溶射エアーノズル3の構造は下部にある継ぎ手20からジェットエアーが左右の円筒状のエアータンク3a内に入り、エアータンク3a内の上部の壁に当たって垂直に曲がり、その側面にあるエアー出口通路3bを通ってスリッターノズル口19からエアーが噴出する構造になっている。
【0055】
従来の横幅Tが1.5mm、縦幅Hが10mmのスリッターノズル口19では、縦幅H10mmの上部に水が集中して強く吐出し、下部からは水が少量しか噴出せず、スリッターノズル口19から水は均一に噴出しなかった。このエアーノズルの水流テストで得られた結果が溶射でも同様に再現された。当該スリッターノズル口19で溶射を行うと溶射被膜パターンが円形に近い楕円形状で上部は微粒化しているが、下部は微粒化が弱く粗い状態となった。
【0056】
スリッターノズル口19の横幅Tを1.5mm、縦幅Hを18mmにした場合では、縦幅H18mmの上部に水が集中して強く吐出し、下部からは水が少量しか噴出せず、スリッターノズル口19から水は均一に噴出しない傾向がより強くなった。このエアーノズルの水流テストで得られた結果が溶射でも同様に再現された。当該スリッターノズル口19で溶射を行うと溶射被膜パターンは楕円形状となり、上部の微粒化が若干弱く、下部の微粒化は非常に弱く粗い状態となった。
【0057】
そこで、一対の各スリッターノズル口19の横幅Tを狭めたが、エアーの流れが悪くなり、エアー圧が下がる。これは、以下の実験により実証することができた。
【0058】
横幅Tを1.0mmに狭め、縦幅Hが10mmのスリッターノズル口19を用意した。このスリッターノズル口19での水流テストでは、水が10mm幅で均等に吐出した。ただし、水は10mm幅で均一に吐出したが、横幅T1.5mmのスリッターノズル口19に比べて水圧が弱かった。このエアーノズルの水流テストで得られた結果が溶射でも同様に再現された。当該スリッターノズル口溶射テストを行った場合、溶射被膜は円形に近い楕円形状パターンとなり、上下部ともに均一に微粒化された溶射被膜が形成された。しかし、長方形のエアーノズル口の幅で噴出した主ジェットエアーのぶつかり合う場所では、エアーの縦幅Hが10mmであり、交差エアー幅が大きくないため、溶射パターンは小さな楕円形状にしかならなかった。
【0059】
そこで、横幅Tを0.8mmに、縦幅Hを18mmにしたスリッターノズル口19を用意した。このスリッターノズル口19での水流テストでは、水は18mm幅で均等に吐出した。ただし、水は18mm幅で均一に吐出したが、縦幅10mmのスリッターノズル口19に比べて水圧が弱かった。このエアーノズルの水流テストで得られた結果が溶射でも同様に再現された。当該スリッターノズル口19で溶射テストを行った場合、金属溶滴は均一に微粒化さて溶射被膜は楕円形状パターンとなった。しかし、長方形のエアーノズル口の幅で噴出した主ジェットエアーのぶつかり合う場所ではエアー圧が弱いため、金属溶滴の微粒化が悪く、溶射被膜温度が下がらなかった。この結果を受けて、以下の変更を行った。
【0060】
横幅Tを0.8mmに、縦幅Hを18mmにしたスリッターノズル口19の円筒状のエアータンク3aにおいて、エアータンク3aの側面に設けた前記スリッターノズル口19に通じるエアー出口通路3bの角部を横断面テーパー状に切り取ったノズルを用意した。このスリッターノズル口19の水流テストでは、スリッターノズル口19から噴出する水の圧力は、前記横幅Tを0.8mmに、縦幅Hを18mmにしただけのスリッターノズル口19より強く、水はスリッターノズル口19の縦幅18mmで均一に吐出した。
【0061】
当該スリッターノズル口19で溶射テストを行った場合、主ジェットエアーが交差する点においてエアー圧が強くなったことにより、図2に示すように、エアーが交差した際に微粒化された金属溶滴は、従来に比べ、エアー幅の全範囲に均一に拡がり、主ジェットエアーは上下方向にも扇形に大きく拡がるため、溶射被膜は縦長の楕円形状パターンとなり、上下部ともに均一に微粒化された大型の楕円形状溶射被膜が形成された。このエアーノズルの水流テストで得られた結果が溶射でも同様に再現された。これにより、エアーの流れが良くなり、エアー圧低下の問題が解消でき、従来型以上にエアー圧を高めることができることが分かった。
【0062】
さらに、スリッターノズル口19の一対の横幅Lを16mmから8mmに縮めて、かつ従来通りの位置にエアー交差点をとることによりエアー交差角度を従来型より鋭角にしたエアーノズルを用意した。このスリッターノズル口19での水流テストでは、スリッターノズル口19から噴出した水流のカーテンが交差する点において、水流カーテンの水圧は損失することなく、従来型のスリッターノズル口19に比べて強く前方に水が噴出した。
【0063】
当該スリッターノズル口19で溶射テストを行った場合、金属溶滴の微粒化はさらに良くなり、溶射消費エネルギー・溶射電圧も共に下げることができ、かつ、溶射被膜温度も下がった。その上、溶射パターンにおいて、大型の楕円形状の溶射被膜を形成することができた。そこで、溶射量を増量して溶射テストを行ったところ、従来のエアーノズルで溶射を行った場合と同等以上の良好な溶射被膜を形成することができた。
【0064】
上記実験の結果に基づいて、この発明の装置では、溶射中心軸Pを挟んで対称に配置された一対の各スリッターノズル口19の横幅Tを0.5mm〜1.2mmに狭め、縦幅Hを13mm〜26mmに拡げ、一対のスリッターノズル口19の横幅Lを8mmに狭め、かつ、従来通りの位置にエアー交差点をとることとした。
【0065】
この様な新たな形状にするとアークチャンバ22のジェットエアーカーテン21の断面幅が従来に比べて上下方向に大きく拡がり、アーク点の上下方向にアークチャンバ22が広く被うように作用し、かつ、交差したジェットエアーカーテン先端21aが前方向に伸びるため、アトマイジング領域が格段に拡がることが分かった。また、一対のスリッターノズル口19からの噴出気流は従来型のものより強力となり、各ジェットエアーカーテン21の両端に鋭角な楔型のより強い気流壁が形成されることとなる。その気流により、アークチャンバでは、強力に金属溶滴を吸引する力が生じる。
【0066】
これにより、一対のスリッターノズル口19によって形成された大きなジェットエアーカーテン21で囲まれたアークチャンバ22内において金属溶射材料Wをアーク放電させて生じた金属溶滴をアークチャンバ22内の従来よりも強い吸引力で確実にジェットエアーカーテン21内に送り込むことができ、安定したアトマイジングを行うことが確認できた。
また、一対のエアーカーテンが鋭角を成しているので、交差した後のエアー圧の損失を従来より少なくすることができた。
【0067】
さらに、アトマイジング領域を拡大し、溶融金属溶滴を容易に大きく拡散させるために、主ジェットエアー圧を高くすることとする。
【0068】
そこで、主ジェットエアー圧を4、5、6、8、9、10kgf/cmでテストを行った。
(1) 4kgf/cmの溶射は良好であるが、溶射被膜粒子が少し粗く溶射温度も少し高い。従来型溶射エアーノズルのエアー圧6kgf/cm〜7kgf/cmの溶射と同様の状態であった。
(2) 5kgf/cm〜6kgf/cmの溶射は良好で、溶射被膜粒子は細かく、溶射被膜温度は低い。
(3) 7kgf/cm〜8kgf/cmの溶射は非常に良好で、溶射量を増量しても上記(2)と同様の状態であった。
(4) 9kgf/cm〜10kgf/cmの溶射では溶射被膜が超微粒化し、溶射被膜温度も低く、溶射密着強度も高くなった。溶射被膜の気孔が小さくて測定できなかった。
以上全ての場合において、溶射被膜としては良好であった。
【実施例2】
【0069】
この発明の実施例2は、図8に示すように、前記の実施例1の一対の各スリッターノズル口19に代えて、多数の小孔ノズル口19a及び19bにしたものであり、各小孔ノズル口19aの径は、前記スリッターノズル口19の横幅と同じであり、多数の小孔ノズル口19a及び19b全体の縦幅は前記スリッターノズル口19の縦幅と同じである。また、一対の小孔ノズル口19a、19bの横幅は前記一対のスリッターノズル口19の幅Lと同じである。また、小孔ノズル口19aは左右各列の上下にあり、この各列の上下の小孔ノズル口19aの間に小孔ノズル口19bが数個あり、各小孔ノズル口19bの径は各小孔ノズル口19aの径より小さい。他の構成は、前記実施例1と同じである。
【0070】
この実施例2の場合も、実施例1と同様の作用をする。また、この発明のノズルユニットは、実施例1のスリッターノズル口や実施例2の多数の小孔ノズル口を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】この発明の実施例1のアーク溶射装置におけるアーク溶射の一部断面平面図である。
【図2】この発明の実施例1アーク溶射装置におけるアーク溶射の側面図である。
【図3】この発明の実施例1のアーク溶射装置の縦断面側面図である。
【図4】この発明の実施例1のアーク溶射装置の横断面平面図である。
【図5】この発明の実施例1のアーク溶射装置のノズル部の正面図である。
【図6】この発明の実施例1のアーク溶射装置のノズル部の他の形態の正面図である。
【図7】この発明の実施例1のアーク溶射装置のノズル部の拡大横断面図である。
【図8】この発明の実施例2のアーク溶射装置のノズル部の正面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 溶射機本体 2 溶射材料送り機構
3 ノズル 3a エアータンク
3b エアー出口通路 4 絶縁ブロック
5 絶縁ブロック 6 ガイド管
7 ガイド管 8 電極棒
9 給電線 10 アークガイド管
12 駆動ローラ 12a リング
13 押さえローラ 14 モータ
15 揺動アーム 16 バネ
17 グリップ 18 凹部
19 スリッターノズル口 19a 小孔ノズル口
19b 小孔ノズル口 20 継ぎ手
21 ジェットエアーカーテン 21a ジェットエアーカーテン先端
22 アークチャンバ
31a 拡大された溶射パターン 31b 従来の溶射パターン
O アーク交点 P 溶射中心軸
W 金属製溶射材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶射機本体の前面に、溶材をアーク交点に向かって送り込み案内する一対の溶材ノズルと当該一対の溶材ノズルを挟んだ両側にアトマイジング用の圧縮空気を供給案内する一対の並行な縦長のノズルユニットを設け、前記一対のノズルユニットからその間に介在する溶射中心軸に向かって一対の平面状ジェットエアーを噴出し、これらのジェットエアーで横断面が楔型のジェットエアーカーテンを形成し、一方、前記溶材にアーク電流を流して、前記ジェットエアーカーテン内で一対の溶材の先端でアーク放電を発生させて溶材を溶かし、当該溶融滴が前記ジェットエアー中に吸引されてアトマイジングするアーク溶射装置において、
前記各ノズルユニットのノズル口に通じる円筒状のエアータンクを設け、当該エアータンクの長手方向の一端から圧縮エアーを送り、その側面に設けたエアー出口通路先端の前記ノズル口からエアーを噴出させる構成とし、当該エアータンクの側面の前記エアー出口通路の横断面を角部を形成しないようテーパー形状にし、かつ、前記アーク交点が前記ジェットエアーカーテンに触れないように、前記一対のノズルユニットのノズル口の幅を狭くして溶射中心軸に向かう二つのジェットエアーのなす角度を鋭角としたことを特徴とする、アーク溶射装置。
【請求項2】
前記ノズルユニットが、スリッターノズル口であり、この各スリッターノズル口の横幅が0.5mm〜1.2mm、縦幅が13mm〜26mm、一対のスリッターノズル口の横幅が8mmであることを特徴とする、請求項1に記載のアーク溶射装置。
【請求項3】
前記ノズルユニットが多数の小孔ノズル口から成り、この各小孔ノズル口の横幅が0.5mm〜1.2mm、多数の小孔ノズル口全体の縦幅が13mm〜26mm、一対のノズルユニットの横幅が8mmであることを特徴とする、請求項1に記載のアーク溶射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−241447(P2011−241447A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114614(P2010−114614)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(505272618)株式会社TLC (18)
【出願人】(503195458)株式会社サンメタ (4)
【Fターム(参考)】