説明

アーク溶接装置

【課題】内部インピーダンスの低いアーク溶接装置において短絡事故が発生した場合、絶対電流閾値だけで出力を停止させても間に合わず、過大な電流が流れて装置を破損する場合がある。
【解決手段】溶接出力を行う溶接電源部と、溶接電流を検出する電流検出部と、溶接電圧を検出する電圧検出部と、電流検出部の検出結果に基づいて単位時間当りの溶接電流の増加量を算出する算出部と、単位時間当りの溶接電流の増加量の閾値を設定する電流閾値設定部と、溶接電圧の閾値設定する電圧閾値設定部と、電圧検出部の検出結果と算出部の算出結果と電流閾値設定部の設定値と電圧閾値設定部の設定値に基づいて溶接電源部を制御して溶接出力の制御を行う出力制御部を備え、出力制御部は、算出部の算出結果が電流閾値設定部の設定値を超えかつ電圧検出部の検出結果が電圧閾値設定部の設定値以下である場合には溶接出力を停止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば異常発生時におけるアーク溶接装置の出力制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インバータ式のアーク溶接装置おいて、アーク溶接装置の出力端が短絡したこと等により過大な短絡電流が流れる場合があり、この過大な短絡電流による機器の破損を防止するため、短絡電流を制限する機能を有するものが知られている。この短絡電流を制限する方式として、溶接電流を監視し、溶接電流が閾値を超えると溶接出力を停止するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、内部インピーダンスが低いアーク溶接装置において、アーク溶接装置の出力端の短絡が発生した場合、溶接電流が閾値を超えたことを検知してから電流を停止させる制御を行っても、停止制御が間に合わず、短絡電流が大幅に大きくなる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−220172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、インバータ式のアーク溶接装置においては、溶接出力制御の応答性を高めるため、インダクタンスの小さいインダクタを用いるなど、可能な限り内部インピーダンスを低く設計する傾向にある。このようなことから、アーク溶接装置の出力端で短絡が発生した場合、検出した溶接短絡電流が閾値を超えてから溶接出力を停止するように制御しても、停止が間に合わず、アーク溶接装置内に過大電流が流れる。故に、アーク溶接装置等の機器の破損を防止するためには、過大な電流に耐えうる半導体素子を使用する必要があった。しかしこの場合、アーク溶接装置のコストアップにつながってしまうという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のアーク溶接装置は、溶接出力を行う溶接電源部と、溶接電流を検出する電流検出部と、溶接電圧を検出する電圧検出部と、前記電流検出部の検出結果に基づいて単位時間当りの溶接電流の増加量を算出する算出部と、単位時間当りの溶接電流の増加量の閾値である電流閾値を設定するための電流閾値設定部と、溶接電圧の閾値である電圧閾値を設定するための電圧閾値設定部と、前記電圧検出部の検出結果と前記算出部の算出結果と前記電流閾値設定部の設定値と前記電圧閾値設定部の設定値に基づいて前記溶接電源部を制御して溶接出力の制御を行う出力制御部を備え、前記出力制御部は、前記算出部の算出結果が前記電流閾値設定部の設定値を超え、かつ、前記電圧検出部の検出結果が前記電圧閾値設定部の設定値以下である場合には、溶接出力を停止するものである。
【0007】
また、本発明のアーク溶接装置は、上記に加えて、溶接開始を指示する溶接開始指示部を備え、溶接の開始が指示された時点から算出部による算出を行い、出力制御部は、前記算出部の算出結果が電流閾値設定部の設定値を超え、かつ、電圧検出部の検出結果が電圧閾値設定部の設定値以下である場合には、溶接出力を停止するものである。
【0008】
また、本発明のアーク溶接装置は、上記に加えて、溶接開始を指示する溶接開始指示部と、設定電流を設定するための電流設定部を備え、溶接を開始して電流検出部による電流の検出値が前記電流設定部で設定した設定電流に達してから算出部による算出を行い、出力制御部は、前記算出部の算出結果が電流閾値設定部の設定値を超え、かつ、電圧検出部の検出結果が電圧閾値設定部の設定値以下である場合には、溶接出力を停止するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアーク溶接装置によれば、溶接電流の単位時間当たりの変化量や溶接電圧に基づいて溶接出力の制御を行うことで、アーク溶接装置の出力端が短絡した場合等に大電流が流れてしまうことを早期に抑制でき、また、外部機器等のノイズ等の影響で大電流が流れていないにも係わらず大電流が流れているとしてアーク溶接装置の出力を停止してしまう誤動作を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態1におけるアーク溶接装置の概略構成を示す図
【図2】(a)本発明の実施の形態1におけるアーク溶接装置の出力端が短絡した状態を示す図(b)本発明の実施の形態1におけるアーク溶接装置の出力端が短絡した状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図1と図2を用いて説明する。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態のアーク溶接装置1の概略構成を示す図である。図1において、アーク溶接装置1は、溶接出力を行う溶接電源部2と、溶接電流を検出する電流検出部3と、溶接電圧を検出する電圧検出部4と、電流検出部3の検出結果に基づいて単位時間当りの溶接電流の増加量を算出する算出部5と、単位時間当りの溶接電流の増加量の閾値である電流閾値を設定するための電流閾値設定部6と、溶接電圧の閾値である電圧閾値を設定するための電圧閾値設定部7と、電圧検出部4の検出結果と算出部5の算出結果と電流閾値設定部6の設定値と電圧閾値設定部7の設定値に基づいて溶接電源部2を制御して溶接出力の制御を行う出力制御部8と、溶接開始を指示するための溶接開始指示部9と、設定電流を設定するための電流設定部10を備えている。
【0013】
また、アーク溶接装置1は、出力端子11と出力端子12を備えており、出力端子11にはアークを発生させるための電力が供給される電極13が接続され、出力端子12には溶接対象物としての母材14が接続されている。そして、電極13と母材14との間に電力が供給されることで電極13と母材14との間にアークが発生し、アーク溶接が行われる。
【0014】
なお、電極13は、アーク溶接装置1が非消耗電極式であればTIG電極であり、アーク溶接装置1が消耗電極式であれば溶接ワイヤである。
【0015】
ここで、溶接開始時あるいは溶接中に、何らかの原因により、図2(a)に示すように出力端である出力端子11と出力端子12とが直接短絡した状態、あるいは、図2(b)に示すようにアーク溶接装置1の近傍で出力端が短絡した状態が生じ、この状態で溶接が開始され、電極13と母材14との間に電力を供給しようとすると、アーク溶接装置1内に大電流が流れることとなり、この大電流が継続して流れると、アーク溶接装置1の破損につながる場合もある。
【0016】
そこで、本実施の形態のアーク溶接装置1は、このような大電流による破損を抑制する制御を行うものであり、その具体例について以下説明する。
【0017】
電流検出部3で検出した溶接電流値に基づいて、算出部5が単位時間当りの溶接電流の増加量(di/dt)を算出する。電圧検出部4は、溶接電圧値を検出する。出力制御部8は、算出部5の算出結果と、電圧検出部4の検出結果と、予め電流閾値設定部6に設定された電流閾値と、予め電圧閾値設定部7に設定された電圧閾値を入力する。そして、出力制御部8は、算出部5の算出結果が電流閾値設定部6による電流閾値を超え、かつ、電圧検出部4の検出結果が電圧閾値設定部7による電圧閾値以下である場合には、溶接出力を停止するように溶接電源部2を制御する。
【0018】
これにより、アーク溶接装置1内に大電流が流れ続けることを防ぎ、アーク溶接装置1の破損等と防ぐことができる。
【0019】
このように、溶接電流の絶対値ではなく、溶接電流の単位時間当りの変化量である電流傾度に基づいて異常を検出ことで、単に溶接電流の絶対値により異常を検出する場合と比べて早期に異常を検出して対処することができる。
【0020】
また、本実施の形態では、電流傾度とあわせて、溶接電圧の情報も用いて溶接出力を停止する制御を行うようにしている。その理由について以下に説明する。
【0021】
アーク溶接装置1の近傍に、例えば、高周波高電圧を発生してアークスタートを行う非消耗電極式の溶接装置のようなノイズを発する機器がある場合、アーク溶接装置1の動作中にノイズを発する機器が動作すると、アーク溶接装置1がノイズの影響を受ける場合がある。そして、この影響により、アーク溶接装置1に、電流閾値設定部6で設定された設定値よりも大きな電流傾度の電流が流れる場合がある。ここで、電流閾値設定部6の設定値だけで異常を判定する場合、出力制御部8により溶接出力が停止されることとなり不都合を生じる。そこで、本実施の形態のアーク溶接装置1では、溶接電圧の情報も用いることでこの不都合を防ぐことができる。その例を以下に説明する。
【0022】
アーク溶接装置1において、ノイズを発する機器の影響を受けて電流傾度が大きなものとなるかもしれないが、アーク溶接装置1自体は通常の溶接を行っているので電圧検出部4で検出する溶接電圧は電圧閾値設定部7に設定された電圧閾値以下となることはない。従って、電流傾度が電流閾値を超える大きな場合であっても、出力制御部8が出力を停止するように溶接電源部2を制御することはなく、継続して溶接を行うことが可能となり、上記のような不都合を生じることはない。
【0023】
以上のように、本実施の形態のアーク溶接装置1によれば、アーク溶接装置1の出力端で短絡事故が発生して大電流が流れる状況において、電流傾度も判断して早期に電流を停止することができるので、アーク溶接装置1内に過大な短絡電流が流れてアーク溶接装置1を構成する部材等が破損等することを防ぐことができる。
【0024】
そして、過大な電流に耐えうる半導体素子を使用する必要もなくなり、過大な電流に耐えうる半導体素子を使用することによるアーク溶接装置1のコストアップを防ぐことができる。
【0025】
また、電流傾度と共に溶接電圧も監視して出力の制御を行っているので、例えば外部機器による高周波電圧等の影響を受けて電流傾度が大きくなる場合が生じても、定常の溶接を行っている場合、電圧が電圧閾値よりも高いため、誤って溶接出力を停止するといった誤動作は発生しない。
【0026】
なお、電流閾値設定部6に設定する単位時間当りの溶接電流の増加量の閾値である電流閾値である電流傾度に関し、アーク溶接装置1の出力端子11に図示しないケーブルを有する溶接トーチ接続し、出力端子12に母材側ケーブルを接続した状態で溶接を行う場合の電流傾度は約50A/10μs以下である。従って、電流閾値設定部6に設定する単位時間当りの溶接電流の増加量の閾値である電流閾値である電流傾度としては、約50A/10μsよりも大きい約60A/10μs以上に設定しておけばよい。このように設定すると通常溶接が可能な状態で溶接出力を停止してしまう誤動作を防ぐことができる。
【0027】
なお、本実施の形態では、溶接開始時から電流傾度と溶接電圧に基づいて出力制御部8が出力を停止する例を示した。
【0028】
しかしながら、溶接を開始して電流検出部3による電流の検出値が電流設定部10で設定した設定電流に達してから以降に、電流傾度と溶接電圧に基づいて出力制御部8が出力を停止するように制御を行うようにしても良い。
【0029】
このような制御は、溶接開始時に溶接電流が不安定となる場合に有効であり、溶接電流が設定電流に達した以降は一般的に溶接電流が安定となるので、このように、溶接電流が安定となってから電流傾度と溶接電圧に基づいて出力制御部8が出力を停止するように制御を行うようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のアーク溶接装置は、低内部インピーダンスであって出力の短絡事故が発生した場合でも、簡単な構成で機器の破損を防止することができ、信頼性の高いアーク溶接装置として産業上有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 アーク溶接装置
2 溶接電源部
3 電流検出部
4 電圧検出部
5 算出部
6 電流閾値設定部
7 電圧閾値設定部
8 出力制御部
9 溶接開始指示部
10 電流設定部
11 出力端子
12 出力端子
13 電極
14 母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接出力を行う溶接電源部と、
溶接電流を検出する電流検出部と、
溶接電圧を検出する電圧検出部と、
前記電流検出部の検出結果に基づいて単位時間当りの溶接電流の増加量を算出する算出部と、
単位時間当りの溶接電流の増加量の閾値である電流閾値を設定するための電流閾値設定部と、
溶接電圧の閾値である電圧閾値を設定するための電圧閾値設定部と、
前記電圧検出部の検出結果と前記算出部の算出結果と前記電流閾値設定部の設定値と前記電圧閾値設定部の設定値に基づいて前記溶接電源部を制御して溶接出力の制御を行う出力制御部を備え、
前記出力制御部は、前記算出部の算出結果が前記電流閾値設定部の設定値を超え、かつ、前記電圧検出部の検出結果が前記電圧閾値設定部の設定値以下である場合には、溶接出力を停止するアーク溶接装置。
【請求項2】
溶接開始を指示する溶接開始指示部を備え、溶接の開始が指示された時点から算出部による算出を行い、出力制御部は、前記算出部の算出結果が電流閾値設定部の設定値を超え、かつ、電圧検出部の検出結果が電圧閾値設定部の設定値以下である場合には、溶接出力を停止する請求項1記載のアーク溶接装置。
【請求項3】
溶接開始を指示する溶接開始指示部と、設定電流を設定するための電流設定部を備え、
溶接を開始して電流検出部による電流の検出値が前記電流設定部で設定した設定電流に達してから算出部による算出を行い、
出力制御部は、前記算出部の算出結果が電流閾値設定部の設定値を超え、かつ、電圧検出部の検出結果が電圧閾値設定部の設定値以下である場合には、溶接出力を停止する請求項1記載のアーク溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−61476(P2012−61476A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205126(P2010−205126)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】