説明

アーム回動機構およびこれを用いた工作機械

【課題】 回転動力と遊星歯車を組み合わせることにより、目的物を2点間で往復運動させるアームの作業占有範囲を小さくし、ひいては機械設備の小型化を達成する。
【解決手段】 アーム回動機構において、同軸上に太陽歯車が固着された固定シャフトと、該固定シャフトに回動自在に取り付けられたジョイント部材と、当該ジョイント部材に回転自在に保持される1以上の歯車であって少なくとも1つが前記太陽歯車と歯合する遊星歯車と、前記遊星歯車の1つと一体的に回転するアームとを具え、前記ジョイント部材を固定シャフトの周囲で回動させることにより、前記遊星歯車が前記太陽歯車の周囲で自転しながら前記固定シャフトを中心に公転し、前記アームの先端が2点間で移動するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーム回動機構およびこれを用いた工作機械に関し、特に、回転動力と遊星歯車機構とを組み合わせることにより、作業範囲を狭幅化させ省スペース化を達成する機械設備に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば従来の自動式ねじ締め装置は、先端に電動ドライバを取り付けた回動アームを備えるとともに、作業対象となるワークの供給位置とねじの供給設備が前記アームの回転軸を挟んで正反対の場所に配備されており、アームを180°往復回動させることにより電動ドライバをワークとねじ供給設備との間で往復運動させ、ねじを拾い上げワークに締め付ける連続作業を達成していた(図5参照)。
【0003】
一方、遊星歯車を用いる機械設備の例が過去にいくつか開示されている(例えば、特許文献1、特許文献2)。これらは内歯歯車に遊星歯車を歯合させて目的別に所望の動作を得んとするものである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−1923号公報
【特許文献2】特開平9−201792号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来のねじ締め装置の場合、少なくとも先端に電動ドライバを取り付けたアームの回転半径以上の作業範囲が必要となり、設備の小型化が達成できないものであった。特に、アームの先端が往復する2点間の距離が離れるほど装置の作業範囲を大きく取る必要があり、現在多くの生産現場で採用されている「省スペースで高生産効率」なる生産ラインの実現が困難となっていた。
【0006】
本発明のアーム回動機構は、このような機械設備において回転動力と遊星歯車を組み合わせることにより、目的物を2点間で往復運動させるアームの作業占有範囲を小さくし、ひいては機械設備の小型化を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく本発明は、回転運動を利用してアーム先端に取り付けた目的物を2点間で移動させるアーム回動機構であって、同軸上に太陽歯車が固着された固定シャフトと、該固定シャフトに回動自在に取り付けられたジョイント部材と、当該ジョイント部材に回転自在に保持される1以上の遊星歯車であって少なくとも1つが前記太陽歯車と歯合する遊星歯車と、前記遊星歯車の1つと一体的に回転するアームとを具え、前記ジョイント部材を固定シャフトの周囲で回動させることにより、前記遊星歯車が前記太陽歯車の周囲で自転しながら前記固定シャフトを中心に公転し、前記アームの先端が2点間で移動することを最も主要な特徴とする。
【0008】
好適な実施例では、前記遊星歯車が、隣接する歯車と互いに歯合する複数の遊星歯車で構成されていることを特徴とする。
【0009】
また、各遊星歯車および太陽歯車の中心が同一線上にあることが有効である。
【0010】
また、往復回転運動を行う回転動力を備え、該回転動力が前記ジョイント部材を固定シャフトを中心に回動させるよう構成されていることが有効である。
【0011】
本発明にかかる工作機械は、回転運動を利用してアーム先端に取り付けた目的物を2点間で移動させる工作機械であって、同軸上に太陽歯車が固着された固定シャフトと、該固定シャフトに回動自在に取り付けられたジョイント部材と、当該ジョイント部材を前記シャフトを中心軸として回動させる回転動力と、当該ジョイント部材に回転自在に保持される1以上の遊星歯車であって少なくとも1つが前記太陽歯車と歯合する遊星歯車と、前記遊星歯車の1つと一体的に回転するアームとを具え、前記ジョイント部材を固定シャフトの周囲で回動させることにより、前記遊星歯車が前記太陽歯車の周囲で自転しながら前記固定シャフトを中心に公転し、前記アームの先端部が移動することを特徴とする。
【0012】
好適な実施例では、前記機械がねじ締め装置、貼り付け装置、組み込み装置、搬送装置のいずれかであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
固定式の太陽歯車と、その周りを自転しながら公転する遊星歯車とを組み合わせ、遊星歯車にアームを取り付けるようにしたため、アーム先端の移動軌跡が楕円軌跡となり、アームを固定軸を中心に回動させる場合よりも作業範囲を狭幅化することができる(図5参照)。これにより、装置の小型化および生産ラインの省スペース化と高効率化を実現することができる。
【0014】
また、2以上の遊星歯車を同一線上に配置し、最も外側の遊星歯車にアームを取り付けることにより、最も効率よく作業範囲の狭幅化を達成することができる。
【0015】
また、アームを往復回動させる回転動力を設けることにより、生産ラインにおける装置の自動化を達成することができる。
【0016】
上記のアーム回動機構を適用した工作機械をねじ締め装置、貼り付け装置、組み込み装置、搬送装置に用いることにより、生産ラインにおける省スペース化と高効率化を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して詳細に説明する。以下の実施形態では、本願発明をねじ締め装置に適用した例を説明するが、本願発明は後述するようにねじ締め装置のみならず他の工作機械に用いることができる。
【0018】
図1は、本発明のアーム回動機構を適用したねじ締め装置の構成を示す図であり、(a)が正面図、(b)が本体部100の立面図、(c)が本体部100がねじ供給位置にある正面図である。図1(a)に示すように、本体ベース1の上に、ねじ締め装置本体部100と、ねじを締める対象となるワーク2を保持するための治具2aと、ねじを供給するための供給部3が取り付けられている。本実施例のねじ締め装置において、ワーク2とねじ供給部3とは本体部100を挟んでちょうど正反対の位置に配備されており、本体部100の電動ドライバ21が供給部3とワーク2との間を往復移動することにより、図1(c)に示す位置でねじを拾い上げ、図1(a)に示す位置でワーク2にねじ締めを行うという連続動作を達成するよう構成されている。ねじ供給部3は複数のねじを順番にその抽出位置に送り出す装置であり、これ自体は公知であるためこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0019】
本体部100において、本体ベース1から垂直方向に延在する固定シャフト7にジョイント部材9(回転アーム)が軸支されており、このジョイント部材9の外側端部から垂直方向に延在する回転軸14にアーム17が回動可能に取り付けられている。アーム17の外側端部にはZ軸ベース18を介してスライドガイド19およびホルダ20が設けられており、このホルダ20にねじを締めこむための電動ドライバ21が下向きに保持される。また、アーム17とホルダ20とはシリンダ22で連結されており、このシリンダ22を動作させることにより、ホルダ20とスライドガイド19を介して電動ドライバ21がZ軸ベース18に対して上下動するよう構成されている。電動ドライバ21の先端(図1における下端部)は磁化されており、ねじ供給部3にて送り出されたねじを磁着して拾い上げられるよう構成されている。
【0020】
図2は、本体部100の詳細を説明するための部分断面図である。図2に示すように、本体ベース1に回転動力4が取り付けられており、その上端部にモータ歯車5が固定されている。本体ベース1から延在するシャフト7は本体ベース1に固定されており、その上端部には太陽歯車10が固定されている。この固定シャフト7および太陽歯車10はそれ自体回転しない。シャフト7には、軸受け8を介してジョイント部材9が回転自在に取り付けられている。このジョイント部材9の下端部にはジョイント歯車6がシャフト7と同軸上に固定されており、このジョイント歯車6は前記モータ歯車5と歯合している。
【0021】
さらにジョイント部材9には、軸受け12を介して第1の回転軸11が、軸受け15を介して第2の回転軸14が、それぞれジョイント部材9に対して回転自在に保持されている。この第1および第2の回転軸11、14にはそれぞれ第1の遊星歯車13と第2の遊星歯車16とが同じ高さで固定されており、第1の遊星歯車13は前記太陽歯車10と歯合し、第2の遊星歯車16は第1の遊星歯車13と歯合している。図1(b)に示すように、固定シャフト7、第1の回転軸11、第2の回転軸14は一直線上に配置されており、それぞれに設けられた太陽歯車10、第1の遊星歯車13、第2の遊星歯車16が各々隣接する歯車とかみ合っている状態である。ここで太陽歯車10は上述したように回転せず、ラックとしての役割を果たす。本実施例では、太陽歯車10と第1および第2の遊星歯車13、16の歯数の比は2:1:1となっている。電動ドライバを保持するアーム17は、第2の回転軸14に固定されている。
【0022】
このように構成したねじ締め装置の動作を以下に説明する。図2において、回転動力4がモータ歯車5を回転させると、モータ歯車5と歯合しているジョイント歯車6が回転する。この歯車6はジョイント部材9に固定されており、ジョイント部材9はシャフト7に対し回転自在であるため、歯車6と一体的にジョイント部材9がシャフト7を中心に回転運動を行う。図3は、回転運動するジョイント部材9を上から見た状態を示す図であり、太陽歯車10を中心に第1および第2の遊星歯車13、16の動作の様子を表した図である。本図において、ジョイント部材9は左端Aの位置から右端Bの位置までシャフト7を中心に回動するものとする。
【0023】
装置を上から見た場合に、回転動力4のモータ歯車5が反時計回りに回転した場合を考えると、これに歯合するジョイント歯車6は反対方向の時計回りに回転する。これに伴ってジョイント部材9もシャフト7を中心に左端Aの位置から右端Bの位置まで時計回りに公転運動を行う。このとき、第1の遊星歯車13は、固定シャフト7に固定されて回転しない太陽歯車10とかみ合っているため、太陽歯車10がラックの働きをすることで、遊星歯車13は太陽歯車10の周囲で時計回りに時点しながら、シャフト7の周囲を公転して、180°反対の位置へ移動していく。
【0024】
さらに、第2の遊星歯車16は、第1の遊星歯車13とかみ合っているため、第1の遊星歯車13の自転により反時計回りに自転しながら、シャフト7の周囲を公転して、180°反対側の位置へ移動していく。アーム17は第2の回転軸14に固定されており、第2の遊星歯車16に伴って回転移動する。したがって、回転動力4の作用により、アーム17は図4に示すA−B−C−D−Eの軌跡を辿って、180°回転した位置へ移動することとなる。なお、本図では理解の容易のためアーム17および電動ドライバ21の形を省略して、その延在範囲が分かるように直線を以て示している。図4に示すように、アーム17ないし電動ドライバ21の先端部は楕円軌道を描いて180°反対側の位置へ移動していく動作となる。
【0025】
図5は、ねじ締め装置を上から見たときの、シャフト7の中心P、電動ドライバ21の作用点(中心点)の移動軌跡A’〜G’、第2の回転軸14の移動軌跡a〜g、および、仮にA’Pの長さを持つアームが点Pを中心に円運動した場合の移動軌跡A’’〜G’’を表した図である。ねじ締め作業を行う点A’とねじが供給される点G’との2点間で、回転運動を利用して目的物(本実施形態では電動ドライバ)を往復移動させる場合に、本発明のアーム回動機構を利用することにより、同じ回動中心点Pを軸に円運動するだけの装置よりも作業に要する範囲を狭くすることができることが分かる。したがって、本発明によれば作業占有範囲が狭幅化され、装置の小型化ひいては設備の小型化を達成することができ、省スペース化および高効率化を実現することができる。
【0026】
以上に本発明のアーム回動機構およびこれを用いた工作機械の一実施形態について説明したが、本願発明のアーム回動機構はねじ締め装置に限らず、2点間の往復動作を必要とする他の様々な工作機械に適用することができる。例えば、連続的に供給される部品を吸い上げてワークに貼り付ける貼り付け装置、供給される部品を掴んでワークへ組み込む組み込み装置、2点間でワークを移動・移載させる搬送装置、流れてくる製品のうち不良品を所定の場所へはじき出す検査装置などである。これらに本発明のアーム回動機構を適用することにより作業範囲の狭幅化および小型化を達成することができる。
【0027】
また、上記実施形態にかかるアーム回動機構も、上記の構成に限らず他の様々な実施例として実現することができる。例えば、太陽歯車10の周囲に配置する遊星歯車の数は2個に限るものではなく、1個であってもよいし3個以上であってもよい。例えば、図6(a)に示すように、太陽歯車10の周囲に4個の遊星歯車32a〜32dを配置するようにしても、同様の動作を実現することができる。また、図6(b)に示すように、太陽歯車と遊星歯車の中心点は同一直線上に整列して配置されていなくてもよい。この場合、アーム17の回動軸(すなわち、中心軸14)と固定シャフト7との距離をとる方が装置の作用点(すなわち、電動ドライバ21の中心)の楕円軌跡の幅を狭幅化できるため、遊星歯車を複数設けるとともにその中心軸を同一直線上とするのが最も効率的に省スペース化を図ることができる。
【0028】
さらに、上記実施例では太陽歯車と遊星歯車の歯数比率を2:1としているが、これもこの例に限らず、他の比率を適用してもよい。歯数の比を2:1以外にすることで、アームの回動範囲が180°以外の装置とすることができる。また、回転動力4は電動モータやシリンダなど、回転動作が得られるものであれば特に制限はなく、その他、アーム17の先端で工作機械を保持する機構など細かい構成は適用する機械の寸法や形状等の実施環境に応じて適宜変更されるものとする。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、回転運動を利用して2点間での往復運動を実現する際の作業範囲の狭幅化を実現するものであり、工作機械を用いる製造業に特に有効に適用することができる。。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のアーム回動機構を用いたねじ締め装置の構成を示す図であり、(a)が正面図、(b)が本体部100の立面図である。
【図2】図1に示す本体部100の部分断面図である。
【図3】ジョイント部材9を上から見たときの第1および第2の遊星歯車の動作および移動軌跡を示す図である。
【図4】ジョイント部材9を上から見たときの第2の遊星歯車16およびアーム17の動作および移動軌跡を示す図である。
【図5】本体部100を上から見たときの第2の回転軸14および電動ドライバ21の移動軌跡と、円運動を利用した場合の電動ドライバ21の移動軌跡を示す図である。
【図6】本発明に係るアーム回動機構の別の実施例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0031】
100 本体部
1 本体ベース
2 ワーク
2a 治具
3 ねじ供給部
4 回転動力
5 モータ歯車
6 アーム歯車
7 シャフト
8 軸受け
9 ジョイント部材
10 太陽歯車
11 第1の回転軸
12 軸受け
13 第1の遊星歯車
14 第2の回転軸
15 軸受け
16 第2の遊星歯車
17 アーム
18 Z軸ベース
19 スライドガイド
20 ホルダ
21 電動ドライバ
22 シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転運動を利用してアームに取り付けた目的物を2点間で移動させるアーム回動機構であって、同軸上に太陽歯車が固着された固定シャフトと、該固定シャフトに回動自在に取り付けられたジョイント部材と、当該ジョイント部材に回転自在に保持される1以上の遊星歯車であって少なくとも1つが前記太陽歯車と歯合する遊星歯車と、前記遊星歯車の1つと一体的に回転するアームとを具え、前記ジョイント部材を固定シャフトの周囲で回動させることにより、前記遊星歯車が前記太陽歯車の周囲で自転しながら前記固定シャフトを中心に公転し、前記アームの先端が2点間で移動することを特徴とするアーム回動機構。
【請求項2】
請求項1に記載のアーム回動機構において、前記遊星歯車が、隣接する歯車と互いに歯合する複数の遊星歯車で構成されていることを特徴とするアーム回動機構。
【請求項3】
請求項2に記載のアーム回動機構において、各遊星歯車および太陽歯車の中心が同一線上にあることを特徴とするアーム回動機構。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のアーム回動機構において、往復回転運動を行う回転動力を備え、該回転動力が前記ジョイント部材を固定シャフトを中心に回動させるよう構成されていることを特徴とするアーム回動機構。
【請求項5】
回転運動を利用してアーム先端に取り付けた目的物を2点間で移動させる工作機械であって、同軸上に太陽歯車が固着された固定シャフトと、該固定シャフトに回動自在に取り付けられたジョイント部材と、当該ジョイント部材を前記シャフトを中心軸として回動させる回転動力と、当該ジョイント部材に回転自在に保持された1以上の遊星歯車であって少なくとも1つが前記太陽歯車と歯合する遊星歯車と、前記遊星歯車の1つと一体的に回転するアームとを具え、前記ジョイント部材を固定シャフトの周囲で回動させることにより、前記遊星歯車が前記太陽歯車の周囲で自転しながら前記固定シャフトを中心に公転し、前記アームの先端部が移動することを特徴とする工作機械。
【請求項6】
請求項5に記載の工作機械において、前記遊星歯車が、隣接する歯車と互いに歯合する複数の遊星歯車で構成されていることを特徴とする工作機械。
【請求項7】
請求項5または6に記載の工作機械において、当該機械がねじ締め装置、貼り付け装置、組み込み装置、搬送装置のいずれかであることを特徴とする工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−234076(P2006−234076A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−50028(P2005−50028)
【出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(390010179)埼玉日本電気株式会社 (1,228)
【Fターム(参考)】