説明

イオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム、その回生方法及びイオンクロマトグラフィー装置

【課題】 イオンクロマトグラフィー装置に一体的に組込みができ、圧力損失が少なく連続処理が可能なイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム及びイオンクロマトグラフィー装置を提供すること。
【解決手段】 互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.1〜100μmのメソポアを有する連続気泡構造の有機多孔質体を充填したイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所用水、半導体製造などの精密加工洗浄用水、食品加工用水、環境水質分析などの分野において、液中のイオン性物質の定量分析に使用されるイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム、その回生方法及びイオンクロマトグラフィー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオンクロマトグラフィー装置では、試料溶液中に測定を妨害する成分やカラムを劣化させる成分が存在する場合、これらを除去する操作、いわゆる前処理を行う必要がある。前処理は、希釈、濾過、遠心分離、中和、イオン交換などであり、前処理が不十分であると、1検体の導入でカラムが使用できなくなるほど劣化したり、それほど急激ではなくとも除去に劣化し、カラム寿命を縮める。
【0003】
従来、測定を妨害する成分やカラムを劣化させる成分は、前処理カートリッジで選択的に除去する方法が知られている。例えば強アルカリ性試料を粒状の陽イオン交換樹脂が充填されたカートリッジで濾過すると、陽イオン成分が除去できるため妨害なく陰イオンを測定することができる。しかし、このような前処理カートリッジは、圧力損失が大きい等の理由で、イオンクロマトグラフィー装置とは一体型ではなく、別途の装置である。このため、連続的な処理ができず、また操作中の汚染の可能性も高いという問題がある。更に使い捨てであるため、廃棄処分に係る問題もある(米国特許第5571725号)。
【0004】
一方、特開2004−264045号公報には、イオン交換基が導入された連続気泡構造を有する有機多孔質イオン交換体を充填したイオンクロマトグラフィー装置用分離カラム、濃縮カラム、サプレッサー、及び当該分離カラムと濃縮カラムを組み込んだイオンクロマトグラフィー装置が開示されている。しかしながら、特開2004−264045号公報には、測定を妨害する成分やカラムを劣化させる成分を予め除去する前処理に関する記載は一切ない。
【特許文献1】特開2004−264045号公報(請求項1〜4)
【特許文献2】米国特許第5571725号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、イオンクロマトグラフィー装置に一体的に組込みができ、圧力損失が少なく連続処理が可能なイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム及びイオンクロマトグラフィー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.1〜100μmのメソポアを有する連続気泡構造の有機多孔質体を充填した前処理カラムであれば、圧力損失が少ないためイオンクロマトグラフィー装置に一体的に組込みができ、測定を妨害する成分やカラムを劣化させる成分を連続的に除去することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.1〜100μmのメソポアを有する連続気泡構造の有機多孔質体を充填したイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムを提供するものである。
【0008】
また、本発明は、前記イオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムに、試料の通液方向とは逆方向から溶離液を流して逆洗又は再生を行うイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムの回生方法及び電気再生によるイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムの回生方法を提供するものである。また、本発明は、前記前処理カラムを組み込んでなるイオンクロマトグラフィー装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムによれば、圧力損失が少ないためイオンクロマトグラフィー装置に一体的に組込みができ、測定を妨害する成分やカラムを劣化させる成分を連続的に除去することが可能である。また、既存のイオンクロマトグラフィー装置に追設することができる。また、本発明のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムの回生方法によれば、イオンクロマトグラフィー装置に組み込まれたまま、前処理カラムを回生でき、繰り返し使用ができる。また、本発明のイオンクロマトグラフィー装置によれば、妨害物質の除去によって、分析精度が向上し、分離カラムの劣化を遅らせることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム(以下、単に「前処理カラム」とも言う。)は、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内にメソポアを有し、好ましくは官能基が導入された連続気泡構造の有機多孔質体を充填したものである。なお、本発明において、前処理カラムとは、イオンクロマトグラフィー装置用分離カラム(以下、単に「分離カラム」とも言う。)の前段に設置され、測定対象イオンを測定せず、測定を妨害する成分や分離カラムを劣化させる成分を予め除去するものであって、分離カラムの前段に設置されるイオンクロマトグラフィー装置用濃縮カラムとは異なるものである。
【0011】
当該有機多孔質体の基本構造は、特開2002−306976号公報に記載される、互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内にメソポアを有する連続気泡構造である。即ち、連続気泡は、マクロポアとマクロポアが重なり合い、この重なる部分が共通の開口となるメソポアを有するもので、その部分がオープンポア構造のものである。オープンポア構造は、液体を流せば該マクロポアと該メソポアで形成される気泡構造内が流路となる。マクロポアとマクロポアの重なりは、1個のマクロポアで1〜12個、多くのものは3〜10個である。連続気泡構造を形成する骨格部分の材料は、架橋構造を有する有機ポリマー材料である。該ポリマー材料はポリマー材料を構成する全構成単位に対して、5モル%以上の架橋構造単位を含むことが好ましい。架橋構造単位が5モル%未満であると、機械的強度が不足してしまう。
【0012】
当該有機多孔質体のメソポア半径は0.1〜100μm、好ましくは0.1〜50μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。メソポア半径を小さくすることにより、妨害成分除去能が格段に向上する。メソポア半径が0.1μm未満では圧力上昇により通液が困難となり、100μmを越えると妨害成分の除去能が低下する。また、全細孔容積は1〜50ml/g、好ましくは2〜30ml/g、更に好ましくは5〜20ml/gである。全細孔容積を大きくすることにより、通液時の圧力を低くすることができる。全細孔容積が1ml/g未満では通液時の圧力が高くなり、50ml/gを超えると有機多孔質体の強度が著しく低下する。このような基本構造の有機多孔質体をイオンクロマトグラフィー装置の前処理カラムに用いると、通液による圧力損失は小さく、イオンクロマトグラフィー装置に一体的に組み込むことが可能となる。
【0013】
当該有機多孔質体に導入される官能基としては、測定を妨害する成分や分離カラムを劣化させる成分と吸着またはイオン交換するものであれば特に制限されず、イオン交換基が好ましい。またイオン交換基のイオン交換容量は、1.0μg当量/g乾燥有機多孔質体以上、特に1.0〜5000μg当量/g乾燥有機多孔質体、特に好ましくは1〜1000μg当量/g乾燥有機多孔質交換体、更に好ましくは10〜500μg当量/g乾燥有機多孔質交換体である。イオン交換容量は、除去能と処理時間に影響を与え、これらは相反する関係にある。イオン交換容量が小さいと処理時間は短いが除去能が低下し、反対にイオン交換容量が大きいと除去能は高いが処理時間が長くなる。従って、両者のバランスを考慮したイオン交換容量とする。なお、本明細書中、当該有機多孔質体において、陽イオン交換基が導入された有機多孔質体をカチオンモノリス、陰イオン交換基が導入された有機多孔質体をアニオンモノリスとも言う。
【0014】
本発明において、イオン交換基が導入された有機多孔質体としては、Na形カチオンモノリス、K形カチオンモノリス、SO2−形アニオンモノリス、HCOアニオンモノリス、CO2−アニオンモノリス、HCOアニオンモノリスとCO2−アニオンモノリスの混合アニオンモノリス、H形カチオンモノリス、Ag形カチオンモノリス、Ba2+形カチオンモノリスなどが挙げられる。
【0015】
Na形カチオンモノリス又はK形カチオンモノリスを充填した前処理カラムは、測定対象イオンがCl、NO2−、SO2−等の陰イオンであり、妨害物質が非イオン性懸濁物質の場合に好適である。SO2−形アニオンモノリスを充填した前処理カラムは、測定対象イオンがNa、K、NH等の陽イオンであり、妨害物質が非イオン性懸濁物質の場合に好適である。
【0016】
HCOアニオンモノリス、CO2−アニオンモノリス、又はHCOアニオンモノリスとCO2−アニオンモノリスの混合アニオンモノリスを充填した前処理カラムは、測定対象イオンがNa、K、NH等の陽イオンであり、塩酸や硫酸などの強酸性の溶存性物質を除去するのに好適である。
【0017】
形カチオンモノリスを充填した前処理カラムは、カルシウムや遷移金属のような多価陽イオンに対して高い選択性を持ち、試料マトリックスから高レベルのアルカリ土類金属や遷移金属を除去することができ、測定対象イオンがCl、NO2−、SO2−等の陰イオンの場合に好適である。また、H形カチオンモノリスを充填した前処理カラムは、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムといった高アルカリ試料の中和に使用することもできる。
【0018】
Ag形カチオンモノリスを充填した前処理カラムは、塩水のような高濃度の試料マトリックスから塩化物、臭化物及びヨウ化物を容易に除去することができ、測定対象イオンがNO2−、SO2−等の陰イオンの場合に好適である。また、Ba2+形カチオンモノリスを充填した前処理カラムは、試料から高濃度の硫酸塩を除去することができ、測定対象イオンがCl、NO2−等の陰イオンの場合に好適である。
【0019】
本発明において、有機多孔質体の製造方法としては、特に制限されず、特開2002−306976号公報に記載の方法が適用できる。すなわち、例えばイオン交換基を含まない油溶性モノマー、界面活性剤、水および必要に応じて重合開始剤とを混合し、油中水滴型エマルジョンを調製し、これを重合させて有機多孔質体を得、これにイオン交換基などの官能基を導入して製造する。この際、油溶性モノマー、界面活性剤、重合開始剤の種類や添加量、水の添加量、油中水滴型エマルジョン調製における攪拌温度や攪拌速度等の攪拌条件、重合温度や重合時間等の重合条件、導入するイオン交換基等の官能基の種類や導入量等の製造条件を種々選択することにより、本発明の前処理カラムの用途に適した有機多孔質体とすることができる。
【0020】
また、上記有機多孔質体の製造方法において、所望する油中水滴型エマルジョンを形成させるための混合装置としては、被処理物を混合容器に入れ、該混合容器を傾斜させた状態で公転軸の周りに公転させながら自転させることで、被処理物を攪拌混合する、所謂遊星式攪拌装置と称されるものが使用できる。この遊星式攪拌装置は、例えば、特開平6-71110号公報や特開平11-104404号公報等に開示されているような装置である。本装置の原理は、混合容器を公転させながら自転させることにより、その遠心力作用を利用して該被処理物中の比重の重い成分を外側に移動させ攪拌すると共に、混入する気体をその反対方向に押し出して脱泡するものである。更に、該容器は公転しながら自転しているため、該容器内の該被処理物にらせん状に流れ(渦流)が発生し、攪拌作用を高める。該装置は大気圧下で運転しても良いが、脱泡を短時間で完全に行うためには、減圧下で運転することが好ましい。
【0021】
また、混合条件は、目的のエマルジョン粒径や分布を得ることができる公転及び自転回転数や攪拌時間を、任意に設定することができる。好ましい公転回転数は、回転させる容器の大きさや形状にもよるが、約500〜2000回転/分である。また、好ましい自転回転数は、公転回転数の1/3前後の回転数である。攪拌時間も内容物の性状や容器の形状、大きさによって大きく変動するが、一般に0.5〜30分、好ましくは1〜20分の間で設定する。更に、用いられる容器の形状は、底面直径に対し充填物の高さが0.5〜5となるよう、充填物を収容可能な形状が好ましい。なお、上記油溶性成分と水溶性成分の混合比は、重量比で(油溶性成分)/(水溶性成分)=2/98〜50/50、好ましくは5/95〜30/70の範囲で任意に設定することができる。
【0022】
本発明において、カラムに有機多孔質体を充填する形態としては、特に制限されず、中空カラム内に有機多孔質体をカラムの全径に亘り適宜長に充填する形態が挙げられる。前処理カラムは、通常内径2〜9mm、長さ5〜50mm程度である。また、これらの前処理カラムは、取り除く必要のある妨害成分に応じて2つ以上の種類の異なるカラムを直列に接続して使用することもできる。例えば、微量の臭素酸塩を測定する場合、上流側から順にBa2+形カチオンモノリスを充填した前処理カラム、Ag形カチオンモノリスを充填した前処理カラム及びH形カチオンモノリスを充填した前処理カラムを接続し、それぞれ硫酸塩、塩化物および炭酸塩を順次取り除くことができる。
【0023】
本発明において、イオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムに、試料の通液方向とは逆方向から逆洗液を流して逆洗又は再生を行うことにより、前処理カラムを回生することができる。逆洗液は、従来のイオンクロマトグラフィー装置に付設されている濃縮カラムに通液される溶離液を使用することもでき、また前処理カラムの逆洗又は再生のための逆洗液を別途に準備して使用してもよい。
【0024】
前処理カラムの回生において、逆洗液としては、従来の溶離液と同様の酸又はアルカリの使用が可能であり、また非イオン性懸濁物質の除去のみでイオン系を変えない場合は、水も使用できる。具体的には、測定対象イオンが陰イオンで、逆洗液が炭酸水素ナトリウム又は炭酸ナトリウムであれば、非イオン性懸濁物質を吸着したカチオンモノリスは、逆洗によって、非イオン性懸濁物質が除去されると共に、Na形カチオンモノリスに再生される。また、逆洗液が水酸化カリウムであれば、非イオン性懸濁物質を吸着したカチオンモノリスは、逆洗によって非イオン性懸濁物質が除去されると共に、K形カチオンモノリスに再生される。また、測定対象イオンが陽イオンで、逆洗液がメタンスルホン酸であれば、非イオン性懸濁物質を吸着したアニオンモノリスは、逆洗によって、非イオン性懸濁物質が除去されると共に、SO2−形アニオンモノリスに再生される。なお、前処理カラムに吸着された妨害成分が溶存性物質である場合、逆洗液は酸又はアルカリであり、溶離液を使用することができる。この場合、カチオンモノリス又はアニオンモノリスは逆洗により再生されることになる。逆洗は試料の測定毎に行ってもよく、また何回かの測定後に行ってもよい。
【0025】
また、本発明において、イオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムを電気再生により回生することができる。この電気再生方法は、前処理カラムに充填されたモノリスに酸又はアルカリ、好適には溶離液を流しつつ、該モノリスに電界を印加して、モノリスに捕捉された不純物イオン等をモノリスから分離するものである。このような電気再生方法は、例えば特開2004−340843号公報に記載された方法に準拠すればよい。
【0026】
電気再生方法において、電界印加手段はモノリスを挟む一対の電極で構成するものであればよく、具体的には一対の電極は、網目状の電極とし、それぞれ前処理カラムの試料液流入口及び試料液流出口の近傍であって、モノリスをその間に挟んで配置する。電極とモノリスは近接していればよいが、両者が接触していると、印加電圧を下げることができる点で好ましい。電極は公知の材料を使用することができる。前処理カラム容器は1014Ω・cm以上の体積固有抵抗を有する材料とすることが、モノリス内に有効な電界を発生することが容易となる点で好ましい。また、電気再生は連続して行っても、何回かの測定後に行ってもよい。
【0027】
電気再生は、例えば測定対象イオンが陰イオンで、アルカリを中和する目的でH形カチオンモノリスで陽イオンを吸着したカチオンモノリスは、電気再生によって陽イオンが除去され、H形に再生される。
【0028】
本発明のイオンクロマトグラフィー装置は、少なくとも前記前処理カラムを組み込んでなるものである。前処理カラムの後段には、下流側に向けて順に、濃縮カラム、ガードカラム、分離カラム、サプレッサー及び検出器が設置される。濃縮カラム及びガードカラムは必要に応じて設置される任意の構成要素である。
【0029】
分離カラムは、測定対象イオンを各イオン毎に分離するものであり、通常内径2〜5mm、長さ200〜300mm程度であって、直径3〜20μm程度の粒状イオン交換体あるいはモノリス形有機多孔質イオン交換体が充填される。また、必要に応じて、高価な分離カラムを異物の混入などによる損傷から保護するために、ガードカラムが分離カラムの前段に設置される。
【0030】
濃縮カラムは、数μg/lから数ng/l程度の微量イオンの分析の際に、試料中の測定対象イオン濃度を数百倍から数千倍に濃縮して分離カラムに導入するため、分離カラムの前段に必要に応じて設置される。該カラムのサイズは、通常内径2〜5mm、長さ10〜50mm程度であって、直径30μm程度の粒状のイオン交換体あるいはモノリス形有機多孔質イオン交換体が充填されている。
【0031】
サプレッサーは、分離カラムの後段に設置され、検出器での測定のS/N比を向上させるために用いられる。イオンクロマトグラフィー装置の検出器としては、通常導電率計が用いられているので、検出時にS/N比を向上させるためには、測定対象イオン以外の成分である溶離液中の溶離成分の導電率を低減すると共に、測定対象イオンをより導電率の高いものへと変換させている。サプレッサーには、測定対象イオンに応じたイオン交換体が用いられる。すなわち、測定対象イオンが陰イオンである場合には陽イオン交換体を、測定対象イオンが陽イオンである場合には陰イオン交換体を用いる。例えば、測定対象イオンが陰イオン(ここでは例として塩化物イオンを挙げる)であって、溶離液として水酸化ナトリウム水溶液を用いる場合、サプレッサーにはH形の陽イオン交換体が用いられる
。当該陽イオン交換体は、溶離液中のナトリウムイオンを水素イオンに交換して低導電率の水を生成させ、かつ溶離してくる測定対象イオンについては、その対イオンをナトリウムイオンから水素イオンに交換させることで、溶存形態を塩化ナトリウムから、より高導電率の塩酸に変換させ、測定のS/N比を向上させるように作用する。
【0032】
溶離液としては、従来と同様の酸又はアルカリの使用が可能であり、例えば、分離カラムの充填剤が有機多孔質陰イオン交換体の場合は、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム及び四ほう酸ナトリウムなどのアルカリを単独または混合して用いることができ、また、分離カラムの充填剤が有機多孔質陽イオン交換体の場合には、硝酸、硫酸、塩酸及び酒石酸などの酸を単独または混合して用いることができる。
【0033】
次に、本発明のイオンクロマトグラフィー装置を用いた分析方法を図1を参照して説明する。図1は本例のイオンクロマトグラフィー装置の一例を模式的に示す図である。イオンクロマトグラフィー装置10は、試料液タンク1、試料ポンプ3、溶離液タンク2、溶離液ポンプ4、前処理カラム5、濃縮カラム6、分離カラム7、サプレッサー8、検出器9、バルブe、f、g、h、i、j、k、l、m及びこれら各構成要素を繋ぐ配管、その他に図示されていないがガードカラム、バルブ、脱気器、恒温槽、データ処理装置等により構成される。試料中のイオンを定量分析するには、まず、バルブe、k、iを開とし、バルブf、j、h、lを閉として、試料液タンク1より試料液ポンプ3にて試料液を前処理カラム5に送液し、該カラムに充填されたイオンモノリスに測定妨害成分などを吸着させる。次いで測定妨害成分等が除去された試料液を濃縮カラム6の下流側から通液し、該カラム6に充填されたイオン交換体に測定対象イオンを吸着させ、イオン吸着後の試料液は、濃縮カラム6の上流側から排出させる。該操作は、濃縮カラム6に吸着された測定対象イオンの濃度が、所定のイオン濃度倍率とするのに必要な量の試料液の通液が完了するまで継続する。当該操作と同時に並行して、バルブgを開とし、溶離液タンク2より溶離液ポンプ4にて溶離液を送液し、分離カラム7、サプレッサー8、検出器9を通液し、測定準備として溶離液による安定化を行う。試料液の濃縮カラム6への通液が完了すると、試料ポンプ3を停止し、バルブe、g、m、k、iを閉とし、バルブf、hを開とし、溶離液を濃縮カラム6の上流側から通液することにより、濃縮カラム6に吸着された測定対象イオンを溶離液により溶離させる。そして、測定対象イオンを含む溶離液を分離カラム7に導入することにより、分離カラム7中で該測定対象イオンが展開され、各種イオンに分離される。当該測定対象イオンを含んだ溶離液を、さらにサプレッサー8に通液することにより、S/N比を向上させた後、検出器9に導入し、各種イオンを定量的に検出する。
【0034】
測定が終了した後、あるいは数回の測定が終了した後、前処理カラム5の回生を行う。前処理カラム5の回生で用いる逆洗液は溶離液を用いる。すなわち、バルブm、f、kを閉とし、バルブg、l、jを開とし、溶離液タンク2より溶離液ポンプ4にて溶離液を送液し、溶離液を前処理カラム5の下流側から通液(逆洗)することにより、前処理カラム5に吸着された測定妨害成分等を溶離液により逆洗すると共に、前処理カラム5のイオンモノリスを再生する。なお、図1中、溶離液供給手段は1つであるが、これに限定されず、別途の操作で起動する前処理カラム逆洗用の逆洗液供給手段を更に設けてもよい。
【0035】
本例のイオンクロマトグラフィー装置10において、前処理カラム5は、圧力損失が少ないためイオンクロマトグラフィー装置に一体的に組込みができ、測定を妨害する成分やカラムを劣化させる成分を連続的に除去することが可能である。また、前処理カラム10の回生は、イオンクロマトグラフィー装置に組み込まれたまま実施でき、回生後は繰り返し使用ができる。このため、前処理カラムの廃棄回数を大幅に低減することができる。また、イオンクロマトグラフィー装置10によれば、妨害物質の除去によって、分析精度が向上し、分離カラム7の劣化を遅らせることができる。
【0036】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。
【実施例1】
【0037】
図1に示す構成に準じ、下記仕様のイオンクロマトグラフィー装置を使用し、下記測定条件下、模擬試料液の分析を行った。模擬試料液の分析は5回行った。すなわち、実施例1は測定対象イオンが塩化物イオンであり、測定妨害成分はETA等のカチオンであり、前処理カラムはH形カチオンモノリスとしたものである。その結果を表1及び図2に示す。なお、表1中、数値はピーク面積(μS×分)を示す。
【0038】
(前処理カラム)
(有機多孔質体Aの製造)
スチレン7.26g、ジビニルベンゼン1.81g、ソルビタンモノオレート3.89gを混合し、均一に溶解させた。次に当該スチレン、ジビニルベンゼン及びソルビタンモノオレート混合物を、180gの純水に過硫酸カリウム0.24gを溶解させた水溶液に添加し、遊星式攪拌装置である真空攪拌脱泡ミキサー(イーエムイー社製)を用いて13.3kPaの減圧下、底面直径と充填物の高さの比が1:1、公転回転数1800回転/分、自転回転数600回転/分で5分間攪拌し、油中水滴型エマルジョンを得た。乳化終了後、装置内を窒素で十分置換した後密封し、静置下60℃で24時間重合させた。重合終了後、内容物を取り出し、イソプロパノールで18時間ソックスレー抽出し、未反応モノマー、水およびソルビタンモノオレエートを除去した後、85℃で一昼夜減圧乾燥した。
【0039】
このようにして得られたスチレン/ジビニルベンゼン共重合体よりなる架橋成分を14モル%含有した有機多孔質体の内部構造を、SEMにより観察した結果、当該有機多孔質体は連続気泡構造を有しており、マクロポアおよびメソポアの大きさが均一であることがわかった。また、水銀圧入法により測定した当該有機多孔質体Aの細孔分布曲線はシャープであり、細孔分布曲線の主ピークのピークトップの半径(R)は1.5μm、主ピークの半値幅(W)は0.6μm、W/R値は0.40であった。なお、当該有機多孔質体Aの全細孔容積は、16ml/gであった。また、マクロボイドの有無を確認するため、当該有機多孔質体を切断し、目視にて内部の状態を観察したが、マクロボイドは全くなかった。
【0040】
(H形カチオンモノリスの製造)
前記有機多孔質体Aを切断して、5.9gを分取し、ジクロロエタン800mlを加え60℃で30分加熱した後、室温まで冷却し、クロロ硫酸30.1gを徐々に加え、室温で24時間反応させた。その後、酢酸を加え、多量の水中に反応物を投入し、水洗して有機多孔質陽イオン交換体Aを得た。この有機多孔質陽イオン交換体Aのイオン交換容量は、4.8mg当量/g乾燥有機多孔質陽イオン交換体であった。この有機多孔質陽イオン交換体Aの内部構造は、連続気泡構造を有しており、乾燥状態のサンプルを用いて、水銀圧入法により求めた細孔分布曲線の主ピークのピークトップの半径(R)は1.5μm、主ピークの半値幅(W)は0.6μm、W/R値は0.40であった。また、全細孔容積は、16ml/gであった。
【0041】
(前処理カラムの作製)
前記方法で得られたH形カチオンモノリスを円柱状に切り出して、内径4.6mmの円柱状のカラムに充填層の長さが10mmとなるように充填し、前処理カラムを作製した。
【0042】
(装置の仕様及び測定条件)
・模擬試料液;PWR発電所において海水がリークした復水を模擬したものであり、純水に塩化物イオン10μg/リットル、硫酸イオン10μg/リットル、アンモニア0.4mg/リットル(0.0222meq/リットル)、ヒドラジン0.1mg/リットル(0.003meq/リットル)、ETA0.5mg/リットル(0.0082meq/リットル)を配合した試料液である。
・ 分離カラム;AS12A(ダイオネクス社製)
・ 濃縮カラム;TAC2(ダイオネクス社製)
・ ガードカラム;AG12A(ダイオネクス社製)
・ 溶離液;2.7mMNaCOと0.3mMNaHCOの混合液
・ サプレッサー;リサイクルモード100mA
・ 濃縮条件;2ml/分×10分、20ml濃縮
【0043】
比較例1
前処理カラムを省略した以外は、実施例1と同様の方法で行った。すなわち、比較例1は試料液を前処理カラムに通さずに分析したものである。その結果を図3に示す。
【0044】
参考例1
模擬試料液に代えて、純水に塩化物イオン10μg/リットルを配合した参考試料液を用いた以外は、比較例1と同様の方法で行った。この参考例1は前処理カラムの除去効果を確認するためのものである。その結果を表1に示す。
【0045】
表1、図2及び図3から明らかなように、試料液を前処理カラムに通さずに分析した比較例1は塩化物イオンの溶離時間付近にブロードなピークを示し、塩化物の定量ができなかったが、試料液を前処理カラムに通して分析した実施例1は妨害物質が除去され、純水中に塩化物イオンのみを含む参考試料液と同じ結果が得られた。また、前処理カラムを5回繰り返し使用した測定においては、ピーク高さ、ピーク面積の変動はなかった。
【実施例2】
【0046】
実施例1の模擬試料液の5回の分析測定後、前処理カラムをH形に回生処理した。次いで、実施例1と同様の方法で分析を行った。その結果を表1に示す。なお、前処理カラムの回生条件を以下に示す。
【0047】
(前処理カラム回生条件)
・ 逆洗液;塩酸1mol/リットル
・ 逆洗液の流速等;流速1ml/分、通液時間;10分
【0048】
【表1】

【0049】
実施例1(再生前)と実施例2(再生後)のピーク高さ及びピーク面積はほぼ同じであり、100%回生していることが判る。なお、実施例で使用した模擬試料液のカチオン負荷は0.0334meq/リットルであり、60ml濃縮で測定した場合でも、前処理カラムへのカチオン負荷は、0.0334meq/リットル×60ml=0.002meqであり、前処理カラムはこの数倍から50倍の交換容量を持つため、十分である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本例のイオンクロマトグラフィー装置の一例を模式的に示す図である。
【図2】実施例1のクロマトグラムである。
【図3】比較例1のクロマトグラムである。
【符号の説明】
【0051】
1 試料タンク
2 溶離液タンク
3 試料ポンプ
4 溶離液ポンプ
5 前処理カラム
6 濃縮カラム
7 分離カラム
8 サプレッサー
9 検出器
e、f、g、h、i、jk、l、m バルブ
10 イオンクロマトグラフィー装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いにつながっているマクロポアとマクロポアの壁内に半径が0.1〜100μmのメソポアを有する連続気泡構造の有機多孔質体を充填したことを特徴とするイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム。
【請求項2】
前記有機多孔質体は、官能基が導入されたものであることを特徴とする請求項1記載のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム。
【請求項3】
前記官能基は、イオン交換容量が1.0μg当量/g乾燥有機多孔質体以上となるようなイオン交換基であることを特徴とする請求項2記載のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムに、試料の通液方向とは逆方向から逆洗液を流して逆洗又は再生を行うことを特徴とするイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムの回生方法。
【請求項5】
前記逆洗液が、溶離液であることを特徴とする請求項4記載のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムの回生方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムを電気再生することを特徴とするイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムの回生方法。
【請求項7】
少なくとも請求項1〜3のいずれか1項記載のイオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムを組み込んでなることを特徴とするイオンクロマトグラフィー装置。
【請求項8】
前記イオンクロマトグラフィー装置用前処理カラムは、濃縮カラムの前段に設置することを特徴とする請求項7記載のイオンクロマトグラフィー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−297244(P2006−297244A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120640(P2005−120640)
【出願日】平成17年4月19日(2005.4.19)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】