説明

イオンチャネル

機能的に破壊された内因性TrpM8遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を開示する。該TrpM8遺伝子は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに同定された核酸、それらにコードされるポリペプチド、並びにそれらの製造及び使用に関する。さらに詳細には、本発明の核酸及びポリペプチドは、以下に「TrpM8」又は「TrpM8イオンチャネル」と称するイオンチャネルに関する。本発明は、そのような核酸及びポリペプチドの作用を阻害又は活性化することにも関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物神経系は、内部温度及び環境温度を絶えず評価して、ホメオスタシスを維持し、極端な熱を避けている。一過性受容体電位(TRP)チャネルは、機械的刺激、浸透圧の変化、pH及び温度、並びに外因性刺激物であるカプサイシンを含めた多様な因子により活性化される陽イオンチャネルを形成する。これらの専門化した感覚受容体は後根神経節(DRG)にみられる。
【0003】
一過性受容体電位(TRP)ファミリーのイオンチャネルの数個のメンバーは、熱刺激の変換器に関係があるとされている。それらのメンバーには、熱によって活性化されるTRPV1及びTRPV2と、寒冷により活性化されるTRPM8とがある。
【0004】
ラット由来の冷・メントール感受性受容体(CMRI)が最近クローニングされた[McKemy D.D.、Neuhausser W.M.、及びJulius, D. :Identification of a cold receptor reveals a general role for TRP channels in thermosensation. Nature 416:5258、2002]。この受容体は、三叉神経及び後根神経節の小径ニューロンにより発現される興奮性イオンチャネルである。このチャネル型受容体は、低温(8〜28℃)と、熱応答性受容体の化学アゴニストとしてのメントールとにより活性化され、メントールは涼感と同じ感覚を誘発する。CNIR1は一過性受容体電位(TRP)チャネルサブファミリーのメンバーに属する。CMRIは、侵害性の熱に応答する他の熱受容体であるVR1及びVRL1に類似し、脊髄及び脳に感覚情報を輸送する[Nagy L、Rang H. :Noxious heat activates all capsaicin-sensitive and a sub-population of capsaicin insensitive dorsal root ganglion neurons. Neuroscience 88:995〜997、1999][Cesare P.、McNaughton P. :A novel heat-activated current in nociceptive neurons and its sensitization by bradykinin. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 93:15435〜1543% 1996]。
【0005】
培養した後根及び三叉神経節ニューロンの最近の電気生理学的研究により、末梢での低温の検出の基礎となる多数のイオンメカニズムが示唆された。全てがイオンチャネルタンパク質である数個の候補「冷受容体」が、この過程に関係付けられることが示唆された。一候補は、感覚ニューロンの亜集団で発現される非選択的陽イオンチャネルのTRPM8である。TRPM8は、温度の低下及び冷涼化合物メントールの両方により活性化される。シングルセルRT−PCRを用いた培養ラット三叉ニューロンの併用蛍光カルシウムイメージングにより、冷応答ニューロンの別個の亜集団があり、TRPM8はそれらのうちの1つでの冷伝達に貢献している可能性が高いことが実証された。TRPM8は迅速応答性かつ低閾値(30℃未満)の冷感受性ニューロンのサブセット内で選択的に発現される。
【0006】
マウスTRPM8の機能は、冷刺激及びメントールにより開口するイオンチャネルとして特徴付けられた。また、その発現は、疼痛及び温度感知DRGニューロンの亜集団に限られた[Peiet A.M.、Moqrich A.、Hergarden A.C.、Reeve A.J.、Andersson D.A.、Story G.M.、Earley T.J.、Dragoni I.、McIntyre P.、Bevan S.、Patapoutian A.: A TRP Channel that Senses Cold Stimuli and Menthol. Cell 108:705〜715、2002]。
【発明の開示】
【0007】
本発明者は、マウスTrpM8イオンチャネルが侵害性熱刺激によっても誘発され、したがって疼痛に影響を及ぼしうることを今回見出した。また、ストレス及び不安にTrpM8イオンチャネルが関与していることも実証する。
【0008】
本発明の第1の態様によると、機能的に破壊された内因性TrpM8遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物を提供する。該TrpM8遺伝子は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む。
【0009】
好ましくは、該トランスジェニック非ヒト動物は、TrpM8遺伝子又はその一部に欠失を有する。
【0010】
好ましくは、該動物は野生型動物と比較した場合、(a)好ましくはテール・フリック試験で測定される、疼痛に対して感受性の低下、(b)好ましくはオープンフィールド試験で測定される、ストレスの低下、及び(c)血漿コルチコステロンレベルの低下の表現型のうちの任意の1つ又は組合せを示す。
【0011】
さらに、トランスジェニック非ヒト動物を提供し、該動物のTrpM8遺伝子の少なくとも一部又は全体は、別の動物、好ましくは別の種、さらに好ましくはヒトのTrpM8遺伝子のある配列で置換されている。
【0012】
好ましくは、該トランスジェニック非ヒト動物はマウスである。
【0013】
好ましくは、該トランスジェニック非ヒト動物は、機能的に破壊されたTrpM8遺伝子、好ましくはTrpM8遺伝子の欠失を含み、該TrpM8遺伝子は、配列番号4に示される核酸配列又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むものである。
【0014】
本発明の第2の態様によると、本発明の第1の態様に記載の非ヒトトランスジェニック動物から単離された細胞又は組織が提供される。
【0015】
本発明の第3の態様によると、機能的に破壊された内因性TrpM8遺伝子を有する細胞を提供し、該TrpM8遺伝子は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む。
【0016】
本発明の第4の態様として、疼痛又はストレスのモデルとしての、それぞれ上記のようなトランスジェニック非ヒト動物、細胞若しくは組織、又は細胞の使用を提供する。
【0017】
本発明の第5の態様によると、TrpM8関連疾患のモデルとしての、それぞれ上に提示したようなトランスジェニック非ヒト動物、細胞若しくは組織、又は細胞の使用を提供する。
【0018】
本発明の第7の態様では、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むTrpM8ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法における、それぞれ記載したような非ヒトトランスジェニック動物、該動物の単離された細胞若しくは組織、又は細胞の使用を提供する。
【0019】
本発明の第8の態様によると、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法であって、動物、好ましくは野生型動物又は上に提示したようなトランスジェニック非ヒト動物に候補化合物を投与するステップ、並びに以下の表現型:(a)好ましくはテール・フリック試験で測定される、疼痛に対する感受性、(b)好ましくはオープンフィールド試験で測定される、ストレス、及び(c)血漿コルチコステロンレベル、のいずれかの変化を測定するステップを含む方法を提供する。
【0020】
好ましくは、該方法は、該動物に表現型(a)〜(c)のいずれかの増大を示すことが可能な候補化合物を同定することにより、TrpM8ポリペプチドのアゴニストを同定する。
【0021】
或いは又は追加的に、該方法は、該動物に表現型(a)〜(c)のいずれか又はそのような表現型の低下を示すことが可能な候補化合物を同定することにより、TrpM8ポリペプチドのアンタゴニストを同定する。
【0022】
本発明の第9の態様によると、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法であって、細胞若しくは組織、好ましくは野生型細胞若しくは組織、或いは上記のような細胞若しくは組織又は細胞に候補化合物を曝露するステップ、及び該細胞の又は該組織の細胞の伝導性又は細胞内カルシウム濃度の変化を測定するステップを含む方法を提供数r。
【0023】
好ましくは、該方法は、該細胞の伝導性又は細胞内カルシウム濃度を増大させることが可能な候補化合物を同定することにより、TrpM8ポリペプチドのアゴニストを同定する。
【0024】
或いは又は追加的に、該方法は、該細胞の伝導性又は細胞内カルシウム濃度を低下させることが可能な候補化合物を同定することにより、TrpM8ポリペプチドのアンタゴニストを同定する。
【0025】
本発明の第10の態様によると、疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患を治療又は軽減するのに適した化合物を同定する方法であって、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列含むTrpM8ポリペプチドを候補化合物に曝露するステップ、及びその候補化合物が該TrpM8ポリペプチドのアンタゴニスト又はアンタゴニストであるかどうかを判定するステップを含む方法を提供する。
【0026】
本発明の第11の態様として、疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療のためのアゴニスト又はアンタゴニストを同定するための、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むTrpM8ポリヌクレオチドの使用を提供する。
【0027】
本発明の第12の態様によると、疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療のためのアゴニスト又はアンタゴニストを同定するための、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むTrpM8ポリペプチドの使用を提供する。
【0028】
本発明の第13の態様によると、個体における疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療の方法に使用するための、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアンタゴニストを提供する。
【0029】
本発明の第14の態様によると、個体における疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療のための医薬組成物を製造するための、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアンタゴニストの使用を提供する。
【0030】
本発明の第15の態様によると、疼痛又はストレスを患う、好ましくはTrpM8関連疾患を患う個体の治療方法であって、TrpM8のアンタゴニストを該個体に投与するステップを含む方法を提供する。
【0031】
本発明の第16の態様によると、個体における疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患を診断する方法であって、個体、又はその細胞若しくは組織におけるTrpM8の発現、レベル又は活性の変化を検出するステップを含む方法を提供する。
【0032】
好ましくは、該TrpM8関連疾患は、疼痛、癌、炎症、炎症性腸疾患、熱痛覚過敏、内臓痛、片頭痛、ヘルペス後神経痛、糖尿病性神経痛、三叉神経痛、術後痛、骨関節炎、関節リウマチ、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛、神経障害性疼痛(神経痛)、損傷及び疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎及び末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛及びカウザルギーのような神経痛;狼瘡による疼痛、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格及び皮膚疾患、糖尿病、頭部外傷、及び線維筋痛;乳癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、及び骨癌;社会不安、心的外傷後ストレス障害、恐怖症、対人恐怖症、特定恐怖症、パニック障害、強迫障害、急性ストレス障害、分離不安障害、全般性不安障害、大鬱病、気分変調、双極性障害、季節性感情障害、出生後鬱病、躁鬱病、双極性鬱病からなる群より選択される。
【0033】
本発明の第17の態様によると、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有するそれらの相同体、変異体若しくは誘導体を含むTrpM8ポリペプチドを提供する。
【0034】
本発明の第18の態様によると、そのようなポリペプチドをコードする核酸を提供する。
【0035】
好ましくは、そのような核酸は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有するその相同体、変異体若しくは誘導体を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
TRPM8イオンチャネル
イオンチャネル、特にTrpM8イオンチャネルと、その相同体、変異体又は誘導体と、TrpM8関連疾患を含めた疾患の治療及び診断におけるそれらの使用とを記載する。
【0037】
TrpM8は、イオンチャネルファミリーの他のタンパク質と構造的に関係している。これは、ヒトTrpM8をコードする増幅されたcDNA産物の配列決定の結果により示される。配列番号1のcDNA配列は、配列番号3に示されるアミノ酸1104個のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(配列番号2、ヌクレオチド番号41から3352)を含む。ヒトTrpM8は、ヒト(Homo sapiens)染色体2q37に位置することが分かっている。
【0038】
本発明の実施では、別に表示がない限り、当業者の能力の範囲内である化学、分子生物学、微生物学、組換えDNA及び免疫学の通常の技法が採用される。このような技法は文献に解説されている。例えば、J. Sambrook、E. F. Fritsch、及びT. Maniatis、1989、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、分冊1〜3、Cold Spring Harbor Laboratory Press;Ausubel, F. M.ら(1995及び定期追補;Current Protocols in Molecular Biology、第9、13、及び16章、John Wiley & Sons、ニューヨーク、N.Y.);B. Roe、J. Crabtree、及びA. Kahn、1996、DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons;J. M. Polak及びJames O'D. McGee、1990、In Situ Hybridization: Principles and Practice; Oxford University Press;M. J. Gait(編)、1984、Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach、Irl Press;D. M. J. Lilley及びJ. E. Dahlberg、1992、Methods of Enzymology: DNA Structure Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA、Methods in Enzymology、Academic Press;Using Antibodies: A Laboratory Manual: Portable Protocol NO. I by Edward Harlow、David Lane、Harlow編(1999、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN 0-87969-544-7);Antibodies: A Laboratory Manual、Harlow(編)、David Lane(編)(1988、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ISBN 0-87969-314-2)、1855、Lars-Inge Larsson「Immunocytochemistry: Theory and Practice」、CRC Press inc.、Baca Raton、フロリダ州、1988、ISBN 0-8493-6078-1、John D. Pound(編);「Immunochemical Protocols、第80巻」「Methods in Molecular Biology」シリーズ、Humana Press、Totowa、ニュージャージー州、1998、ISBN 0-89603-493-3、Handbook of Drug Screening、Ramakrishna Seethala、Prabhavathi B. Fernandes編(2001、ニューヨーク、NY、Marcel Dekker、ISBN 0-8247-0562-9);Lab Ref: A Handbook of Recipes, Reagents, and Other Reference Tools for Use at the Bench、Jane Roskams及びLinda Rodgers編、2002、Cold Spring Harbor Laboratory、ISBN 0-87969-630-3;並びにThe Merck Manual of Diagnosis and Therapy(第17版、Beers、M. H.、及びBerkow、R、編、ISBN: 0911910107、John Wiley & Sons)を参照のこと。これらの一般的な教科書のそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。これらの一般的な教科書のそれぞれは、参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
TRPM8との同一性及び類似性
HMM構造予測ソフトウェアpfam(http://www.sanger.ac.uk/Software/Pfam/search.shtml)を使用したTrpM8ポリペプチド(配列番号3)の解析から、TrpM8ペプチドがイオンチャネルであることを確認する。
【0040】
ヒトTrpM8イオンチャネルのマウスホモログをクローニングし、その核酸配列及びアミノ酸配列を配列番号4及び配列番号5としてそれぞれ示す。配列番号4のマウスTrpM8イオンチャネルのcDNAは、ヒトTrpM8イオンチャネル(配列番号2)の配列と高度の同一性を示し、一方でマウスTrpM8イオンチャネルのアミノ酸配列(配列番号5)はヒトTrpM8イオンチャネル(配列番号3)と高度の同一性及び類似性を示す。ヒト及びマウスTrpM8イオンチャネルは、したがって大きなイオンチャネルファミリーのメンバーである。
【0041】
TRPM8の発現プロファイル
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によるTrpM8 cDNAの増幅により、前立腺(+++)、肝臓(+++)、筋肉(+)、精巣(++)、及び卵巣(+)において様々な量でTrpM8の発現が検出される。
【0042】
配列番号1のTrpM8 cDNAを使用して、BLASTNによりヒトESTデータ供与源を検索することにより、cDNAライブラリーにおいて同一性が見出される。これは、TrpM8がこれらの正常又は異常組織で発現していることを示す。
【0043】
BE274448.1 ヒト皮膚
BE390627 ヒト子宮
AW295430 ヒト前立腺
BG567490 ヒト肝臓
BE791173 ヒト肺小細胞癌、MGC3
BE408880 ヒト胎盤性絨毛癌
BF244389 ヒト脳神経膠芽腫
BG565397 ヒト肝臓
BE207083 ヒト肺小細胞癌、MGC3
BE274448 ヒト皮膚メラニン欠乏性黒色腫
BE390627 ヒト子宮内膜腺癌細胞系
【0044】
したがって、TrpM8のポリペプチド、核酸、プローブ、抗体、発現ベクター及びリガンドは、これらの組織及び他の組織でのTrpM8イオンチャネルの過剰、過少及び異常発現を伴う疾患についての検出、診断、治療及び他のアッセイに有用である。このような疾患には下に提示するTrpM8関連疾患が含まれうる。
【0045】
TRPM8イオンチャネル関連疾患
本明細書に記載した方法及び組成物によると、TrpM8イオンチャネルは下記に詳細に記載する一連の疾患の治療及び診断に有用である。これらの疾患を、便宜上TrpM8関連疾患と称する。
【0046】
ヒトTrpM8がヒト染色体2q37にマッピングされることを本明細書において実証する。したがって、特定の実施形態では、この遺伝子座、染色体バンド、領域、腕、又は同じ染色体にマッピングされるTrpM8イオンチャネルを使用して、疾患を治療又は診断することができる。TrpM8イオンチャネルの染色体での位置(すなわちヒト染色体2q37)と同じ遺伝子座、染色体バンド、領域、腕、又は染色体に連鎖していると判定された公知の疾患には、そのイオンチャネルがアップレギュレートされることが分かっていた前立腺癌がある。
【0047】
TrpM8を欠損したノックアウトマウスは、実施例で実証されるように一連の表現型を示す。
【0048】
特に、下記の実施例4で、TrpM8欠損マウスが、痛覚鈍麻、すなわち疼痛に対する感受性が低いことを開示する。TrpM8と、特にTrpM8のアンタゴニストを含めたTrpM8活性のモジュレータとを使用して、疼痛が特徴である疾患又は症候群を治療又は軽減することができる。具体的には、例えば痛覚消失/疼痛減少のためにTrpM8のアンタゴニスト又はブロッカーを投与することにより、個体におけるTrpM8の活性又は発現をダウンレギュレートすることができる。したがって、鎮痛薬として使用するためのTrpM8のアンタゴニストの同定を開示する。
【0049】
したがって、好ましい実施形態によると、TrpM8イオンチャネル並びにそのモジュレータ及びアンタゴニストを含めて、本明細書に記載したような任意の手段により、本明細書に記載した方法及び組成物を使用して疼痛及び癌を診断又は治療又は軽減することができる。特に、疼痛には、神経障害性疼痛、炎症性疼痛、炎症性腸疾患、熱痛覚過敏、内臓痛、片頭痛、ヘルペス後神経痛、糖尿病性神経痛、三叉神経痛、術後痛、骨関節炎、関節リウマチがある。急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛、及び神経障害性疼痛(神経痛)も含まれる。疼痛の定義には、損傷及び疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎及び末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛及びカウザルギーのような神経痛;狼瘡による疼痛、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背痛、下背部、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格及び皮膚疾患、糖尿病、頭部外傷、並びに線維筋痛があるが、それらに限定されるわけではない。特に、癌には、乳癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、及び骨癌がある。
【0050】
実施例5に、オープンフィールド試験を記載するが、その試験でTrpM8ノックアウトマウスが野生型同等動物よりも不安を生じにくいことを示す。さらに、TrpM8ノックアウトマウスでは、対応する野生型マウスよりもストレス及び不安の指示物質である血漿コルチコステロンレベルが低いことが観察される(実施例6)。よって、TrpM8活性の不足はストレスの低下と相関する。
【0051】
したがって、個体におけるストレス若しくは不安、又はその両方を低下させる方法であって、該個体におけるTrpM8のレベル又は活性を低下させるステップを含む方法を開示する。別記の通り、これは、TrpM8の発現をダウンレギュレートすることにより、又はTrpM8に対するアンタゴニストを使用することにより実現することができる。
【0052】
TrpM8と、特にTrpM8のアンタゴニストを含めたTrpM8活性のモジュレータとを使用して、ストレス及び不安が特性である疾患又は症候群を治療又は軽減することができる。そのような疾患には、社会不安、心的外傷後ストレス障害、恐怖症、対人恐怖症、特定恐怖症、パニック障害、強迫障害、急性ストレス障害、分離不安障害、全般性不安障害、大鬱病、気分変調、双極性障害、季節性感情障害、出生後鬱病、躁鬱病、双極性鬱病がある。
【0053】
好ましい実施形態では、TrpM8関連疾患は、ストレス又は不安が症状である疾患を含む。高度に好ましい実施形態では、TrpM8疾患は、上記リストの不安及びストレス関係疾患を含む。
【0054】
上記のように、TrpM8イオンチャネルを使用して、本明細書に記載した任意の方法及び組成物を用いて任意のこれらの特定の疾患を診断及び/又は治療することができる。
【0055】
特に、上に挙げた特定の疾患の治療又は診断のための、核酸、TrpM8イオンチャネルの核酸を含むベクター、ポリペプチド(それらの相同体、変異体、又は誘導体を含む)、TrpM8イオンチャネルの核酸及び/又はポリペプチドを含む医薬組成物、宿主細胞、及びトランスジェニック動物の使用を具体的に想定する。さらに、上に言及した特定の疾患の診断又は治療における、TrpM8イオンチャネルと相互作用又は結合可能な化合物、好ましくはTrpM8のアンタゴニスト、好ましくは該チャネルの伝導性を低下させることが可能な化合物、TrpM8イオンチャネルに対する抗体の使用、並びにこれらを作製又は同定する方法を想定する。特に、特定の疾患の治療又は予防用ワクチンの製造における、任意のこれらの化合物、組成物、分子などの使用を包含する。個体における特定の疾患を検出するための診断キットも開示する。
【0056】
TrpM8イオンチャネルの使用により治療又は診断可能な、そのような又はさらなる特定の疾患を同定するための連鎖地図作成の方法は、当技術分野で公知であり、これも本明細書に別記する。
【0057】
不安及びストレス
不安及びストレス、並びにこれらが出現する、TrpM8関連疾患を含めた障害は、当技術分野で周知である。以下に概要を記載する。
【0058】
不安及びストレスは、イライラした気分、緊張、ひどい神経質、及び懸念とも称される。ストレスは、個体に欲求不満、怒り、又は不安を感じさせる任意の状況又は考えから生じうる。一人の人間にストレスが多いことから、別の人間に必ずしもストレスが多いとは言えない。
【0059】
不安は、懸念又は恐怖の感情である。この心配の源は、必ずしも分かっても認識されてもおらず、その源は個体が感じる苦悩に加わりうる。
【0060】
ストレスは、生活の正常な部分である。少量では、ストレスは有益でありうる。ストレスは個体に動機を与えてその個体がより生産性であるようにすることができる。しかし、多すぎるストレス又はストレスに対する強い応答は有害である。ストレスは、その個体に全身の健康の悪化と同様に、感染症、心疾患、又は鬱病のような特定の体又は心の病気を引き起こしうる。持続性で弱まることのないストレスから、不安と、過食及びアルコール又は薬物の乱用のような不健康な行動とに至ることが多い。
【0061】
悲嘆又は鬱病のような感情状態、及び甲状腺の活動亢進、低血糖、又は心臓発作のような健康状態も、ストレスを引き起こしうる。
【0062】
不安は、けい縮又は振戦、筋肉緊張、頭痛、発汗、口内乾燥、嚥下困難、腹痛(特に小児ではこれがストレスの唯一の症状でありうる)を含めた身体症状を伴うことが多い。
【0063】
ときに、めまい、速く不規則な心拍、呼吸促迫、下痢又は頻尿、疲労;かんしゃく、睡眠困難、及び悪夢を含めた易刺激性;集中力低下並びに性の問題のような他の症状が不安に付随する。
【0064】
TrpM8及びそのモジュレータを使用して任意のこれらの症状を治療又は軽減することができる。
【0065】
不安障害は、過剰な不安を伴う一群の精神状態である。不安障害には、全般性不安障害、特定恐怖症、強迫障害、及び対人恐怖症がある。上記のTrpM8関連疾患も参照されたい。
【0066】
娯楽薬及び医薬の両方の、ある種の薬物は、その薬物からの副作用又は離脱のいずれかが原因で不安の症状に至ることがある。そのような薬物には、カフェイン、アルコール、ニコチン、風邪薬、充血除去薬、喘息用気管支拡張薬、三環系抗うつ薬、コカイン、アンフェタミン、ダイエット薬、ADHD薬、及び甲状腺薬がある。そのような薬物のストレス及び/又は不安誘導効果を軽減するための、それらの薬物と組み合わせたTrpM8及びそのモジュレータの使用を開示する。
【0067】
貧しい食生活、例えば低レベルのビタミンB12もストレス又は不安に貢献しうる。遂行不安は、試験を受けること、又は人前で発表することのような特定の状況に関係する。心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、戦争、身体的若しくは性的暴行、又は自然災害のような心的外傷性事象後に発生するストレス障害である。
【0068】
非常にまれな場合では、副腎の腫瘍(クロム親和性細胞腫)が不安の原因でありうる。これは、不安の感情及び症状を担うホルモンの過剰産生が原因で起こる。
【0069】
(Medline Plus、http://www.nlm.nih.gov/medlineplus/ency/article/003211.htmを改作)
疼痛
急性疼痛
急性疼痛は、短期の疼痛又は容易に同定可能な原因を有する疼痛として定義される。急性疼痛は、組織への創傷又は疾患の存在を身体が警告することである。急性疼痛は、迅速で鋭く、それにうずく痛みが続くことが多い。急性疼痛は、1つの領域に集中してから、幾分広がる。
【0070】
慢性疼痛
慢性疼痛は、医学的に、6か月以上持続した疼痛と定義される。この休みなく続く疼痛又は間欠性の疼痛は、時を経てしばしばその目的を失っている。それは、慢性疼痛が、身体が損傷を防止するのを助けないからである。慢性疼痛は、急性疼痛よりも治療が困難であることが多い。慢性になったどのような疼痛の治療にも、専門家のケアが一般に必要である。オピオイドが長期間使用される場合は、薬物耐性、化学物質依存性、及び心理学的嗜癖さえも起こりうる。オピオイドの使用者に薬物耐性及び化学物質依存性はよくみられるが、心理学的嗜癖はまれである。
【0071】
発生源及び関係する侵害受容体(疼痛を検出する神経)により、心理学的疼痛の経験を4つの種類に群分けできる。
【0072】
皮膚疼痛
皮膚疼痛は、皮膚又は表在組織に対する損傷によって起こる。皮膚侵害受容体の終末は皮膚のすぐ下にあり、神経終末が高度に集中していることが原因で、持続時間の短い、明確な局所疼痛を生じる。皮膚疼痛を生じる例示的な損傷には、紙による切り傷、軽度(I度)の熱傷及び裂傷がある。
【0073】
体性痛
体性痛は、靭帯、腱、骨、血管、及び神経自体までをも起源とし、体性侵害受容体で検出される。これらの領域に疼痛受容体が不足していると、皮膚疼痛よりも持続時間の長い、局在のはっきりしない鈍痛が生じる。その例には足首関節捻挫及び骨折がある。
【0074】
内臓痛
内臓痛は、身体器官を起源とし、内臓侵害受容体は身体器官及び内腔の中に局在する。これらの領域に侵害受容体がなお一層不足していることから、体性痛よりも通常うずき、持続時間の長い疼痛が生じる。内臓痛は局在をはっきりさせることが極めて困難であり、内臓組織への色々な損傷は「関連」痛を示す。関連痛では、感覚は損傷部位と全く関係しない領域に局在する。心筋虚血(心筋組織の部分への血流の欠如)は、関連痛の最も公知の例かもしれない。その感覚は、束縛感として上胸部で、又は左肩、腕の、若しくはさらには手で、あるうずく痛みとして起こりうる。
【0075】
他の種類の疼痛
幻痛は、もはや有さない足又はもはや物理的シグナルを与えない肢からの疼痛感覚であり、これは肢切断者及び四肢麻痺患者ほぼ全員で報告される経験である。神経障害性疼痛(神経痛)は、神経組織自体への損傷又は疾患の結果として生じうる。これによって、知覚神経が視床に正しい情報を伝達する能力が破壊される場合があり、したがって、たとえ疼痛に関して明白な生理学的原因も、立証された生理学的原因も存在しなくとも、脳は疼痛性刺激を解釈する。
【0076】
三叉神経痛(「疼痛性チック」)は、三叉神経に対する損傷又は創傷によって引き起こされる疼痛を指す。三叉神経は3分枝を有する。V1は額及び眼の領域に感覚を与え、V2は鼻及び顔に感覚を与え、V3は顎及びおとがい領域に感覚を与える。顔のそれぞれの側は、感覚を与える三叉神経を有する。三叉神経痛の片側疼痛は、頬、口、鼻、及び/又は顎の筋肉を経由して広がる場合がある。三叉神経痛は、一般に高齢者を冒すが、青少年又は多発性硬化症を有する者も三叉神経痛を経験する場合がある。
【0077】
三叉神経痛の一次症状は、額、頬、おとがい、又は下顎の輪郭のいずれかの疼痛である。重症な症例では、3つ全ての領域又は左右両側が影響を受けうる。疼痛の発症は重症、けいれん性及び短時間であり、電気ショックとして感じるであろう疼痛に類似していると記載されている。その疼痛は、歯磨き、会話、咀しゃく、飲水、ひげそり又はさらにはキスなどの、よくある日常活動により誘発されうる。疼痛事象の頻度は時間と共に増加し、どんどん破壊的になり、能力を奪うようになる。
【0078】
舌咽神経痛は、第9脳神経の知覚分布における疼痛の爆発を特徴とする臨床病型である。発作は、疼痛の局在及び疼痛についての刺激を除いて、三叉神経痛と同一である。典型的な疼痛は、片側の扁桃領域又は舌の裏側に猛烈に突き刺すように繰り返す電撃様穿刺である。さらに、その疼痛は耳から放散するか、又は生じる場合がある。
【0079】
その疼痛を誘導する知覚刺激は嚥下であり、激しい発作の間に患者はじっと座り、頭を前方に曲げ、唾液が口から垂れるに任せる。心停止、失神(卒倒)、及びてんかん発作が舌咽神経痛の発作に関連してきた。舌咽神経痛の原因は、大部分の場合分からない。しかし、一部の症例は、腫瘍、椎骨動脈による第9神経の圧迫、及び血管奇形に帰される。
【0080】
ヘルペス後神経痛は、帯状疱疹ウイルス感染の後に持続する慢性疼痛を指す。帯状ヘルペスとも知られている帯状疱疹は、水痘帯状疱疹(水痘)ウイルス感染の再発感染である。このウイルスは、患者の免疫が弱まるまで神経内に潜伏する。帯状ヘルペスの急性病変は疼痛を引き起こすが、その疼痛は通常癒える。しかし、若干の患者では疼痛は慢性的に続く。これがヘルペス後神経痛である。
【0081】
帯状疱疹の症状には、突き刺すような深い連続的な疼痛があり、その疼痛は胸部が65%で、顔が20%である。顔が影響を受ける場合、そのウイルスは三叉神経眼神経分枝(眉の上の顔の上端)に対する好発を示す。この疼痛は、通常は2から4週間で自然に消散する。しかし、少数の患者は持続性の疼痛を有することがある。その疼痛は以前の皮疹の領域に存在し、冒された皮膚をやさしくなでることで悪化し、その部分に圧を加えることで軽減する。衣服の摩擦は非常に痛いことが多い。この持続する疼痛は、ヘルペス後神経痛と呼ばれる。顔に影響を与える帯状疱疹の症例ではヘルペス後神経痛の発生率が高い。
【0082】
カウザルギーは、部分末梢神経損傷に続くまれな症候群である。カウザルギーは灼熱痛、自律神経機能異常、及び栄養変化の3つ組を特徴とする。重症例は重症型カウザルギーと呼ばれる。軽症型カウザルギーは、反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)に類似したあまり重症でない形態を示す。RSDは筋肉及び関節の主症状を有し、骨粗鬆症がX線でよくみられる。
【0083】
カウザルギーは、末梢神経損傷、通例は腕神経叢損傷により起こる。神経切除は過敏を引き起こす結果として、疼痛の増加をもたらし、ノルエピネフリンの放出増加は交感神経の所見をもたらす。症状には疼痛、通常は灼熱痛があり、疼痛は手又は足に顕著である。大多数での発症は損傷から24時間以内である。正中神経、尺骨神経、及び坐骨神経が通常影響を受ける。ほとんどあらゆる知覚刺激がこの疼痛を悪化させる。すなわち、血管の変化、すなわち血管拡張(温、ピンク色)による血液増加又は血管収縮(冷、まだらの青)による血液減少のいずれか、栄養変化、すなわち乾燥/鱗屑性皮膚、関節硬直、先細の指、溝のある切られていない爪、長い/固い髪又は脱毛のいずれか、発汗の変化がある。
【0084】
TrpM8イオンチャネルポリペプチド
本明細書で用いる「TrpM8イオンチャネルポリペプチド」という用語は、配列番号3もしくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、またはその相同体、変異体もしくは誘導体を意味する。好ましくは、該ポリペプチドは、配列番号3に示される配列の相同体、変異体または誘導体を含むまたはそれである。
【0085】
「ポリペプチド」という用語は、ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含むペプチドもしくはタンパク質、あるいは修飾ペプチド結合によって互いに連結された2つ以上のアミノ酸を含むもの、すなわちペプチドイソスターのいかなるものも指す。「ポリペプチド」は、短鎖のもの、および長鎖のもの両方を指し、前者は通常、ペプチド、オリゴペプチド、またはオリゴマーと呼ばれ、後者は通常、タンパク質と呼ばれる。ポリペプチドは、遺伝子によってコードされている20種のアミノ酸以外のアミノ酸も含有してもよい。
【0086】
「ポリペプチド」には、翻訳後プロセシングなどの天然プロセスによって修飾されたアミノ酸配列も、当技術分野で周知の化学修飾技法によって修飾されたアミノ酸配列も含まれる。そのような修飾については、基礎的な教科書、およびより詳細な研究書、さらには多数の研究論文に詳細に記載されている。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖、およびアミノ末端またはカルボキシル末端を含めた、ポリペプチドのいかなる箇所でも起こりうる。同じタイプの修飾が、所与のポリペプチドのいくつかの部位に、同じ程度か、または異なった程度で存在しうることが理解されよう。また、所与のポリペプチドが、多くのタイプの修飾を含有することもある。
【0087】
ポリペプチドは、ユビキチン化の結果として分枝している場合があり、そして、ポリペプチドは、環状である場合があり、この場合、それらは分枝していることも、分枝していないこともある。環状ポリペプチド、分枝ポリペプチド、および環状分枝ポリペプチドは、天然の翻訳後プロセスで生じることも、合成による方法で生成されることもある。修飾には、アセチル化、アシル化、ADPリボシル化、アミド化、フラビンの共有結合、ヘム部分の共有結合、ヌクレオチドまたはヌクレオチド誘導体の共有結合、脂質または脂質誘導体の共有結合、ホスファチジルイノシトールの共有結合、架橋、環化、ジスルフィド結合形成、脱メチル化、共有結合架橋の形成、シスチンの形成、ピログルタミン酸の形成、ホルミル化、ガンマカルボキシル化、グリコシル化、GPIアンカー形成、ヒドロキシル化、ヨウ化、メチル化、ミリストイル化、酸化、タンパク分解性プロセシング、リン酸化、プレニル化、ラセミ化、セレノイル化(selenoylation)、硫酸化、アルギニン化などの、タンパク質へのトランスファーRNA媒介型のアミノ酸付加、並びにユビキチン化が含まれる。例えば、「Proteins - Structure and Molecular Properties」、第2版、T. E. Creighton、W. H. Freeman and Company社、New York、1993年、および、Wold, F.、「Posttranslational Protein Modifications: Perspectives and Prospects」、「Posttranslational Covalent Modification of Proteins」における1〜12頁、B. C. Johnson編集、Academic Press社、New York、1983年; Seifterら、「Analysis for protein modifications and nonprotein cofactors」、Meth Enzymol (1990年)、182: 626〜646、および、Rattanら、「Protein Synthesis: Posttranslational Modifications and Aging」、Ann NY Acad Sci (1992年)、663:48〜62を参照のこと。
【0088】
本明細書において用いる場合、「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語には、ある配列からのまたはある配列への、1(または複数)のアミノ酸のいかなる置換(substitution)、変異、修飾、置換除去(replacement)、欠失、または付加も含まれる。文脈によって別段のことが認められない限り、「TrpM8」および「TrpM8イオンチャネル」に関する言及には、そのようなTrpM8の変異体、相同体、誘導体、および断片への言及が含まれる。
【0089】
好ましくは、TrpM8に関する場合、得られるアミノ酸配列はイオンチャネル活性を有し、より好ましくは配列番号3もしくは配列番号5に示されるTrpM8イオンチャネルと少なくとも同じ活性を有する。特に、「相同体」という用語は、得られるアミノ酸配列がイオンチャネル活性を有する限り構造および/または機能に関する同一性を包含する。配列同一性(すなわち類似性)に関して、これは好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、よりさらに好ましくは少なくとも90%の配列同一性である。これは、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性である。これらの用語はまた、TrpM8イオンチャネル核酸配列の対立遺伝子変化であるアミノ酸から誘導されたポリペプチドを包含する。
【0090】
TrpM8イオンチャネルなどのイオンチャネルの「チャネル活性」または「生物学的活性」について言及する場合、これらの用語は、TrpM8イオンチャネルの代謝機能または生理学的機能を指すものとし、これらには、同様の活性もしくは改善された活性、または、付随の望ましくない副作用が軽減されているこれらの活性が含まれる。TrpM8イオンチャネルの抗原性活性および免疫原性活性も含まれる。イオンチャネル活性、およびこれらの活性をアッセイおよび定量化する方法の例は、当技術分野で公知であり、本明細書の他の箇所に詳細に記述する。
【0091】
本明細書で使用する場合、「欠失」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列のいずれかの変化であって、その際、それぞれ、1または複数のヌクレオチドまたはアミノ酸残基が不在となる変化と定義する。本明細書で使用する場合、「挿入」または「付加」は、ヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の変化であって、天然に存在する物質と比較して、それぞれ、1または複数のヌクレオチドまたはアミノ酸残基の追加をもたらす変化である。本明細書で使用する場合、「置換」は、1または複数のヌクレオチドまたはアミノ酸を、それぞれ、異なるヌクレオチドまたはアミノ酸で置換除去することによって起こる。
【0092】
本明細書に記載されるTrpM8ポリペプチドは、サイレント変化を引き起こし、機能的に同等なアミノ酸配列をもたらす、アミノ酸残基の欠失、挿入または置換を有するものでもよい。慎重なアミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、および/または両親媒性の類似性に基づいて導入することができる。例えば、負に荷電したアミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれ、正に荷電したアミノ酸には、リジンおよびアルギニンが含まれ、そして、同様の親水性度を有する非荷電の極性頭部基を有するアミノ酸には、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、フェニルアラニン、およびチロシンが含まれる。
【0093】
保存的置換は、例えば以下の表に従って行うことができる。2列目の同じブロックにおけるアミノ酸、好ましくは3列目の同じ行におけるアミノ酸を互いに置換しうる:

【0094】
TrpM8ポリペプチドは、典型的にはそのN末端またはC末端に、好ましくはそのN末端に、異種のアミノ酸配列を含んでもよい。異種配列としては、細胞内または細胞外タンパク質ターゲティングに影響を及ぼす配列(リーダー配列など)が挙げられる。異種配列としてはまた、該ポリペプチドの免疫原性を高める、ならびに/または該ポリペプチドの同定、抽出および/もしくは精製を容易にする配列が挙げられる。特に好ましい別の異種配列は、好ましくはN末端に存在するポリアミノ酸配列(ポリヒスチジンなど)である。少なくとも10アミノ酸、好ましくは少なくとも17アミノ酸、但し50アミノ酸未満のポリヒスチジン配列が特に好ましい。
【0095】
TrpM8イオンチャネルポリペプチドは、「成熟」タンパク質の形態であってもよいし、又は融合タンパク質などの大きなタンパク質の一部であってもよい。分泌若しくはリーダー配列を含む付加的なアミノ酸配列、プロ配列、精製を補助する配列(複数のヒスチジン残基など)、又は組換え産生時の安定性のための付加的配列を含むことが有利なこともある。
【0096】
TrpM8ポリペプチドは、組換え手法により、既知の方法を用いて作製することが有利である。しかしながら、これらはまた、当業者に周知の技法、例えば固相合成などを用いて合成手法により作製することも可能である。本明細書に記載のポリペプチドはまた、例えば抽出及び精製の補助のために、融合タンパク質として作製することも可能である。融合タンパク質のパートナーの例としては、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、6xHis、GAL4(DNA結合および/または転写活性化ドメイン)およびβガラクトシダーゼが挙げられる。また、融合タンパク質のパートナーと目的のタンパク質配列との間にタンパク質分解性切断部位を含むことによって、融合タンパク質配列の除去が可能となることが都合がよい(例えばトロンビン切断部位)。好ましくは、融合タンパク質は目的のタンパク質配列の機能を妨害しない。
【0097】
TrpM8ポリペプチドは、実質的に単離された形態で存在しうる。この用語は、天然状態から人工的に変化していることを意味する。「単離された」組成物または物質が天然に存在する場合には、その元々の環境から変化を受けている若しくは取り出されている、又はその両方である。例えば、生存生物に天然に存在するポリヌクレオチド、核酸又はポリペプチドは「単離された」ものではないが、天然状態で共存する物質から分離された同じポリヌクレオチド、核酸又はポリペプチドは、この用語が本明細書で使用されるように「単離された」ものである。
【0098】
しかしながら、TrpM8イオンチャネルタンパク質は、タンパク質の意図する目的を妨害しない担体又は希釈剤と混合してもよく、それでもなお実質的に単離されているとみなされると理解される。TrpM8ポリペプチドはまた、実質的に精製された形態であってもよく、この場合、調製物中の90%以上、例えば95%、98%又は99%のタンパク質がTrpM8ポリペプチドである調製物中のタンパク質を一般的に含みうる。
【0099】
本発明者はさらに、TrpM8ポリペプチドの一部を含むペプチドを記載する。従って、TrpM8イオンチャネルの断片、及びその相同体、変異体又は誘導体を包含する。ペプチドは、2〜200アミノ酸長、好ましくは4〜40アミノ酸長でありうる。ペプチドは、本明細書に記載するように、例えば適当な酵素(トリプシンなど)による消化によって、TrpM8ポリペプチドから誘導することができる。あるいは、ペプチド、断片などは、組換え手法により又は合成手法により作製することも可能である。
【0100】
「ペプチド」という用語は、当技術分野で公知の種々の合成ペプチド変化、例えばレトロインベルソDペプチドを含む。ペプチドは、抗原決定基及び/又はT細胞エピトープであってもよい。ペプチドはin vivoで免疫原性であってもよい。好ましくは、ペプチドはin vivoにおいて中和抗体を誘導可能である。
【0101】
様々な種に由来するTrpM8イオンチャネル配列のアライメントを行うことによって、異なる種間で保存されているアミノ酸配列の領域(相同領域(homologous region))、及び異なる種間で異なる領域(非相同領域(heterologous region))を決定することが可能である。
【0102】
従ってTrpM8ポリペプチドは、相同領域の少なくとも一部に相当する配列を含むものであってもよい。相同領域は、少なくとも2つの種間で高い相同性を示す。例えば、相同領域は、上述した試験を用いてアミノ酸レベルで少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、よりさらに好ましくは少なくとも95%の同一性を示しうる。相同領域に相当する配列を含むペプチドは、以下にさらに詳細に説明するように治療方法において用いることができる。あるいは、TrpM8イオンチャネルペプチドは、非相同領域の少なくとも一部に相当する配列を含んでもよい。非相同領域は、少なくとも2つの種間で低い相同性を示す。
【0103】
TrpM8イオンチャネルポリヌクレオチドおよび核酸
さらに、本明細書にさらに詳細に記載するように、TrpM8ポリヌクレオチド、TrpM8ヌクレオチド及びTrpM8核酸、それらの製造方法、使用などを開示する。
【0104】
「TrpM8ポリヌクレオチド」、「TrpM8ヌクレオチド」及び「TrpM8核酸」という用語は相互互換的に用いられ、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列を含むポリヌクレオチド/核酸、又はその相同体、変異体若しくは誘導体を意味することを意図する。好ましくは、ポリヌクレオチド/核酸は、配列番号1又は配列番号2、最も好ましくは配列番号2の核酸配列の相同体、変異体又は誘導体を含む又はそれである。
【0105】
これらの用語はまた、ポリペプチド及び/又はペプチド、すなわちTrpM8ポリペプチドをコードすることができる核酸配列を包含することを意図する。従って、TrpM8イオンチャネルポリヌクレオチド及び核酸は、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はその相同体、変異体若しくは誘導体をコードすることができるヌクレオチド配列を含む。好ましくは、TrpM8イオンチャネルポリヌクレオチド及び核酸は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を含むポリペプチド、又はその相同体、変異体若しくは誘導体をコードすることができるヌクレオチド配列を含む。
【0106】
通常、「ポリヌクレオチド」は、いかなるポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオシドも指し、これは、非修飾RNAもしくはDNA、または修飾RNAもしくはDNAでありうる。「ポリヌクレオチド」には、非限定的に、一本鎖DNAおよび二本鎖DNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖RNAおよび二本鎖RNA、一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であるRNA、ならびに、DNAおよびRNAを含むハイブリッド分子が含まれ、これらのハイブリッド分子は、一本鎖であることもあるが、より典型的な場合、二本鎖であるか、もしくは一本鎖領域および二本鎖領域の混合物であることもある。加えて、「ポリヌクレオチド」は、RNAもしくはDNA、またはRNAおよびDNAの両方を含む三本鎖領域も指す。ポリヌクレオチドという用語には、1または複数の修飾塩基を含有するDNAまたはRNA、および、安定性または他の理由のために修飾された骨格を有するDNAまたはRNAも含まれる。「修飾」塩基には、例えば、トリチル化塩基、および、イノシンなどの、通常とは異なる塩基が含まれる。DNAおよびRNAには、様々な修飾がなされており、したがって、「ポリヌクレオチド」は、ウイルスおよび細胞で特徴的な化学形態のDNAおよびRNAだけでなく、通常天然に見出される、化学修飾型、酵素修飾型、または代謝修飾型のポリヌクレオチドも包含する。「ポリヌクレオチド」は、しばしばオリゴヌクレオチドと呼ばれる、比較的短いポリヌクレオチドも包含する。
【0107】
遺伝暗号の縮重の結果として、多数のヌクレオチド配列が同一のポリペプチドをコードしうることが、当業者には理解されよう。
【0108】
本明細書で使用する場合、「ヌクレオチド配列」という用語は、ヌクレオチド配列、オリゴヌクレオチド配列、ポリヌクレオチド配列、ならびに、それらの変異体、相同体、断片、および誘導体(その一部など)を指す。ヌクレオチド配列は、DNAでも、RNAでも、ゲノム由来でも、化学合成由来でも、組換え体由来でもよく、それは、二本鎖でも、一本鎖でも、センス鎖もしくはアンチセンス鎖のいずれかを表すものでも、それらの組合せを表すものでもよい。ヌクレオチド配列という用語は、組換えDNA技法の使用によって調製されるもの(例えば組換え体DNA)を意味することもある。
【0109】
「ヌクレオチド配列」という用語は、DNAを意味するのが好ましい。
【0110】
本明細書において用いる場合、「変異体」、「相同体」、「誘導体」、または「断片」という用語には、TrpM8ヌクレオチド配列の配列からの、またはTrpM8ヌクレオチド配列の配列への、1(または複数)の核酸のいかなる置換、変異、修飾、置換除去、欠失、または付加も含まれる。文脈によって別段のことが認められない限り、「TrpM8」及び「TrpM8イオンチャネル」に関する言及には、そのようなTrpM8の変異体、相同体、誘導体、および断片への言及が含まれる。
【0111】
好ましくは、得られるヌクレオチド配列が、イオンチャネル活性を有するポリペプチド、好ましくは配列番号3又は配列番号5に示されるイオンチャネルと少なくとも同じ活性を有するポリペプチドをコードする。好ましくは、「相同体」という用語は、得られるヌクレオチド配列がイオンチャネル活性を有するポリペプチドをコードする限り構造および/または機能に関する同一性を包含することを意図する。配列同一性(すなわち類似性)に関して、これは好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、よりさらに好ましくは少なくとも90%の配列同一性である。これは、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の配列同一性である。これらの用語はまた、上記配列の対立遺伝子変異を包含する。
【0112】
配列相同性の計算
本明細書に提示する配列のいずれかに関する配列同一性は、任意の1以上の配列と別の配列との単純な「眼球」比較(すなわち厳密な比較)によって求め、他の配列が、例えば当該配列(1若しくは複数)に対して少なくとも70%の配列同一性を有するかどうかを確認することができる。
【0113】
相対配列同一性はまた、例えばデフォルトパラメータを用いて同一性を求めるための任意の好適なアルゴリズムを用いて、2以上の配列間の同一性%を計算することができる市販のコンピュータプログラムによって求めることができる。そのようなコンピュータプログラムの典型的な例はCLUSTALである。2つの配列間の同一性及び類似性を求める他のコンピュータプログラムの方法としては、限定されるものではないが、GCGプログラムパッケージ(Devereux et al 1984 Nucleic Acids Research 12: 387)及びFASTA(Atschul et al 1990 J Molec Biol 403-410)が挙げられる。
【0114】
相同性%は、連続する配列にわたって計算しうる、すなわち1つの配列を他の配列と並べて、1つの配列における各アミノ酸を、1残基ずつ他の配列における対応するアミノ酸と直接比較する。これは「ギャップなし」アライメントと称する。典型的には、このようなギャップなしアライメントは、比較的小さな数の残基に対してのみ行われる。
【0115】
これは非常に単純で一貫した方法であるが、例えば配列の他の同一な対において、アライメントに供したアミノ酸残基の後に1個の挿入又は欠失が生じ、したがって全体的なアライメントを行った場合には相同性%が著しく低下する結果となる可能性があることを考慮していない。結果として、大部分の配列比較方法は、全体の相同性スコアに過度にペナルティを与えないように可能な挿入及び欠失を考慮する最適アライメントを得るように設計されている。これは、配列アライメントに「ギャップ」を挿入して局地的相同性が最大となるようにすることで行われる。
【0116】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、アライメントに生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を与え、同じ数の同一アミノ酸について、可能な限り少ないギャップを有する配列アライメント(2つの比較配列間のより高い関連性を反映する)が多くのギャップを有する配列よりも高いスコアとなるようになっている。「アフィンギャップコスト」が典型的に用いられ、これはギャップの存在について比較的高いコストを負荷し、ギャップにおける次の各残基にはより小さなペナルティを負荷するものである。これは最も一般的に使用されているギャップスコアシステムである。高いギャップペナルティはもちろんより少ないギャップで最適なアライメントを作成する。大部分のアライメントプログラムではギャップペナルティを変更することができる。しかしながら、そのような配列比較ソフトウエアを用いる場合には、デフォルト値を用いることが好ましい。例えば、GCG Wisconsin Bestfitパッケージを用いる場合には、アミノ酸配列についてのデフォルトギャップペナルティは、ギャップについて−12、各伸長について−4である。
【0117】
従って、最大相同性%の計算は、最初にギャップペナルティを考慮して最適アライメントを行うことが必要である。そのようなアライメントを行うための好適なコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を行うことができる他のソフトウエアの例としては、限定されるものではないが、BLASTパッケージ(Ausubel et al., 1999、前掲、第18章)、FASTA(Atschul et al., 1990, J. Mol. Biol., 403-410)及び比較ツールのGENEWORKSパッケージソフトが挙げられる。BLAST及びFASTAはいずれもオフライン及びオンラインサーチによって入手可能である(Ausubel et al., 1999、前掲、p.7-58〜7-60)。
【0118】
最終相同性%は同一性の点で求めることができるが、アライメント工程そのものは典型的には「オールオアナッシング」の対比較に基づくものではない。代わりに、測定される(scaled)類似性スコアマトリックスが一般的に使用され、これは化学的類似性又は進化距離に基づく各ペアワイズ比較に対してスコアを割り当てる。一般的に用いられるそのようなマトリックスの例はBLOSUM62マトリックスであり、これはプログラムのBLASTパッケージソフトのためのデフォルトマトリックスである。GCG Wisconsinプログラムは、公共のデフォルト値又は供給される場合にはカスタムシンボル比較表のいずれかを一般的に使用する。GCGパッケージには公共のデフォルト値を使用し、又は他のソフトウエアの場合にはBLOSUM62などのデフォルトマトリックスを用いることが好ましい。
【0119】
BLASTアルゴリズムを、デフォルト値に設定したパラメータと共に用いることが有利である。BLASTアルゴリズムは、http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.htmlに詳細に記載されており、これは参照により本明細書に組み入れられる。サーチパラメータは定義することができ、定義されたデフォルトパラメータに対して設定することが有利でありうる。
【0120】
BLASTにより評価する場合、「実質的な同一性」は、EXPECT値が少なくとも約7、好ましくは少なくとも約9、最も好ましくは10以上で一致する配列に相当することが有利である。BLASTサーチにおけるEXPECTの閾値は通常10である。
【0121】
BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)は、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastn、及びtblastxによって利用されるヒューリスティックサーチアルゴリズムであり、これらのプログラムは、Karlin及びAltschul(Karlin and Altschul 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68;Karlin and Altschul, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-7;http://www.ncbi.nih.gov/BLAST/blast_help.html参照)の統計学的方法にわずかな改良点を加えて用いて有意性をこれらの知見によるものとする。BLASTプログラムは、例えばクエリー配列に対する相同性を同定するために、配列類似性サーチのために調整されたものである。配列データベースの類似性サーチにおける基本的問題の議論については、Altschul et al (1994) Nature Genetics 6:119-129を参照のこと。
【0122】
以下のタスクを実行する5つのBLASTプログラムがhttp://www.ncbi.nlm.nih.govから入手可能である:blastp−タンパク質配列データベースに対してアミノ酸クエリー配列を比較する;blastn−ヌクレオチド配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列を比較する;blastx−タンパク質配列データベースに対してヌクレオチドクエリー配列(両鎖)の6フレームの概念的翻訳産物を比較する;tblastn−ヌクレオチド配列データベースに対してタンパク質クエリー配列を、6つのリーディングフレーム全て(両鎖)に動的に翻訳して比較する;tblastx−ヌクレオチド配列データベースの6フレームの翻訳に対してヌクレオチドクエリー配列の6フレームの翻訳を比較する。
【0123】
BLASTは、以下のサーチパラメータを用いる:
HISTOGRAM−各サーチについてスコアのヒストグラムを表示する。デフォルトはyesである(BLASTマニュアルのパラメータHを参照のこと)。
【0124】
DESCRIPTIONS−報告される一致配列の短い記述の数を特定された数値に限定する。デフォルト限界は100の記述である(マニュアルページのパラメータVを参照のこと)。
【0125】
EXPECT−データベース配列に対して報告する一致についての統計学的有意性の閾値。デフォルト値は10であり、これはKarlin及びAltschul (1990)の確率論的モデルに従って10の一致が単に偶然起こると予想される。一致に与えられる統計学的有意性がEXPECT閾値よりも大きい場合には、その一致は報告されないことになる。EXPECT閾値が低いほど厳密性が増し、報告される一致の機会が少なくなる。小数値も許容される(BLASTマニュアルのパラメータEを参照のこと)。
【0126】
CUTOFF−高いスコアのセグメント対を報告するカットオフスコア。デフォルト値はEXPECT値から計算される(上記参照)。HSPは、それらに与えられる統計学的有意性がCUTOFF値と等しいスコアを有する単一のHSPに与えられるのと少なくとも同じ程度に高い場合にのみ、データベース配列について報告される。CUTOFF値が高いほど厳密性が高くなり、報告される一致の機会が少なくなる(BLASTマニュアルにおけるパラメータSを参照のこと)。典型的には、有意性の閾値はEXPECTを用いてより直感的に管理されうる。
【0127】
ALIGNMENTS−データベース配列を高スコアのセグメント対(HSP)が報告される特定の数に限定する。デフォルト限界は50である。報告について統計学的有意性の閾値を満たすためにこれが生じるよりもデータベース配列が多い場合には、最大の統計学的有意性を与えられた一致のみが報告される(BLASTマニュアルのパラメータBを参照のこと)。
【0128】
MATRIX−BLASTP、BLASTX、TBLASTN及びTBLASTXについて代替のスコアマトリックスを特定する。デフォルトマトリックスはBLOSUM62(Henikoff & Henikoff, 1992)である。有効な代替選択肢としては、PAM40、PAM120、PAM250及びIDENTITYが含まれる。BLASTNについては代替のスコアマトリックスは利用できず、BLASTNにおけるMATRIXの指令の特定によってエラー応答に戻る。
【0129】
STRAND−TBLASTNサーチをデータベース配列の上部又は下部鎖のみに限定する;あるいはBLASTN、BLASTX又はTBLASTXサーチをクエリー配列の上部又は下部鎖におけるリーディングフレームのみに限定する。
【0130】
FILTER−Wootton & Federhen (1993) Computers and Chemistry 17:149-163のSEGプログラムにより評価した場合の組成の複雑性が低いクエリー配列のセグメント、又はClaverie & States (1993) Computers and Chemistry 17:191-201のXNUプログラムにより若しくはBLASTNの場合にはTatusov and Lipman(http://www.ncbi.nlm.nih.gov参照)のDUSTプログラムにより評価した場合の短い周期の内部反復配列からなるセグメントのマスクを除去する。フィルタリングは、blast出力から、統計学的に有意であるが生物学的に重要ではない報告(例えば共通の酸性、塩基性若しくはプロリンリッチ領域に対するヒット)を排除することができ、データベース配列に対する特異的一致について入手可能なクエリー配列のより生物学的に重要な領域をそのままにする。
【0131】
フィルタープログラムにより発見された複雑度の低い配列は、ヌクレオチド配列においては文字「N」を用いて(例えば、「NNNNNNNNNNNNN」)、タンパク質配列においては文字「X」を用いて(例えば、「XXXXXXXXX」)置き換えられる。
【0132】
フィルタリングは、クエリー配列(又はその翻訳産物)のみに適用され、データベース配列には適用されない。デフォルトフィルタリングはBLASTNについてはDUSTであり、他のプログラムについてはSEGである。
【0133】
SWISS−PROTにおける配列に適用する場合、SEG、XNU又はその両方によって何もマスクされないことは通常ではなく、そのためフィルタリングは常に効果を生じるものと予測されるべきではない。さらに、事例によっては、配列の全体がマスクされることもあり、このことは、フィルタリングされていないクエリー配列に対して報告された一致のいずれかの統計学的有意性が疑わしい可能性がある。
【0134】
NCBI−gi−アクセッション及び/又は遺伝子座名に加えて、出力中にNCBI gi識別子が示される。
【0135】
最も好ましくは、配列比較は、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTに提供されている単純なBLASTサーチアルゴリズムを用いて実施する。いくつかの実施形態において、配列同一性を決定する場合にはギャップペナルティは使用しない。
【0136】
ハイブリダイゼーション
さらに、本明細書に提示する配列、又はその任意の断片若しくは誘導体、又は上記のいずれかの相補配列に対してハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。
【0137】
ハイブリダイゼーションとは、「核酸の1本の鎖が塩基対合によって相補鎖と結合するプロセス」(Coombs J (1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York NY)、並びにDieffenbach CW及びGS Dveksler(1995, PCR Primer, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY)により記載されているポリメラーゼ連鎖反応技術において行われる増幅プロセスを意味する。
【0138】
ハイブリダイゼーション条件は、Berger及びKimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press, San Diego CA)に教示されているように、核酸結合複合体の融解温度(Tm)に基づき、以下に説明する所定の「ストリンジェンシー」をもたらす。
【0139】
本明細書に提示するヌクレオチド配列又はその相補配列に選択的にハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列は、一般的に、本明細書に提示する対応のヌクレオチド配列に対して、少なくとも20、好ましくは少なくとも25又は30、例えば少なくとも40、60若しくは100又はそれ以上の連続するヌクレオチドの領域にわたって、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%又は90%、よりさらに好ましくは少なくとも95%又は98%の相同性を有する。好ましいヌクレオチド配列は、配列番号1、2又は4に対して相同的な領域を含み、これらの配列の1つに対して少なくとも70%、80%又は90%、より好ましくは少なくとも95%の相同性を有する。
【0140】
「選択的にハイブリダイズ可能な」という用語は、プローブとして用いられるヌクレオチド配列が、標的ヌクレオチド配列がバックグラウンドを有意に超えるレベルで該プローブとハイブリダイズすることが見とめられる条件下で用いられることを意味する。バックグラウンドハイブリダイゼーションは、他のヌクレオチド配列、例えばスクリーニング対象のcDNA又はゲノムDNAライブラリに存在する他のヌクレオチド配列のために生じうる。この事象において、バックグラウンドは、標的DNAを用いて観察される特異的相互作用と比較して10倍未満、好ましくは100倍未満の強度における、プローブとライブラリの非特異的DNAメンバーとの間の相互作用によって生じるシグナルのレベルを示している。相互作用の強度は、例えばプローブを放射性標識する(例えば32Pを用いて)ことにより測定しうる。
【0141】
また、中程度から最大のストリンジェンシー条件下にて本明細書に提示するヌクレオチド配列に対しハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列も包含する。ハイブリダイゼーション条件は、Berger及びKimmel(1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press, San Diego CA)に教示されているように、核酸結合複合体の融解温度(Tm)に基づき、以下に説明する所定の「ストリンジェンシー」をもたらす。
【0142】
典型的には、最大ストリンジェンシーはおよそTm−5℃(プローブのTmより5℃低い温度)にて、高ストリンジェンシーはTmの約5℃〜10℃低い温度にて、中程度のストリンジェンシーはTmの約10℃〜20℃低い温度にて、低ストリンジェンシーはTmの約20℃〜25℃低い温度にて起こる。当業者であれば理解しうるように、最大ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、同一のヌクレオチド配列を同定又は検出するために用いることができ、中程度の(又は低)ストリンジェンシーハイブリダイゼーションは、類似の又は関連するヌクレオチド配列を同定又は検出するために用いることができる。
【0143】
好ましい実施形態において、ストリンジェントな条件(例えば、65℃及び0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Mクエン酸Na pH7.0})においてTrpM8イオンチャネルヌクレオチド配列の1以上とハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。ヌクレオチド配列が二本鎖である場合、二本鎖の両方の鎖を個々に又は組み合わせて包含する。ヌクレオチド配列が一本鎖である場合、これは、ヌクレオチド配列の相補配列も使用可能であることを理解されたい。
【0144】
本明細書に提示する配列に対して相補的な配列、又はその任意の断片若しくは誘導体に対してハイブリダイズ可能なヌクレオチド配列を開示する。同様に、本開示は、上記配列に対しハイブリダイズ可能な配列に対して相補的なヌクレオチド配列を包含する。これらの種のヌクレオチド配列は、変異体ヌクレオチド配列の例である。この点に関し、「変異体」という用語は、本明細書に提示するヌクレオチド配列に対しハイブリダイズ可能な配列に対して相補的な配列を包含する。しかしながら好ましくは、「変異体」という用語は、ストリンジェントな条件(例えば、65℃及び0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Mクエン酸Na pH7.0})において本明細書に提示するヌクレオチド配列とハイブリダイズ可能な配列に対して相補的な配列を包含する。
【0145】
TrpM8イオンチャネル及び相同体のクローニング
本開示は、本明細書に提示する配列、又はその任意の断片若しくは誘導体に対して相補的なヌクレオチド配列を包含する。配列がその断片に対して相補的である場合には、その配列はプローブとして用いて、他の生物における類似のイオンチャネル配列を同定及びクローニングすることなどが可能である。
【0146】
これによりTrpM8イオンチャネル、ヒト及び他の種(マウス、ブタ、ヒツジなど)に由来するその相同体及び他の構造的若しくは機能的に関連した遺伝子のクローニングを行うことが可能となる。配列番号1、配列番号2、配列番号4、又はそれらの断片に含まれるヌクレオチド配列と同一又は十分に同一性を有するポリヌクレオチドは、適当なライブラリからTrpM8イオンチャネルをコードする全長又は部分的cDNA及びゲノムクローンを単離するための、cDNA及びゲノムDNAのためのハイブリダイゼーションプローブとして用いることができる。そのようなプローブはまた、TrpM8イオンチャネル遺伝子に対して配列類似性、好ましくは高い配列類似性を有する他の遺伝子(ヒト以外の種に由来するホモログ及びオルソログをコードする遺伝子を含む)のcDNA及びゲノムクローンを単離するために用いることができる。ハイブリダイゼーションスクリーニング、クローニング及び配列決定技術は、当業者に公知であり、例えばSambrook et al(前掲)に記載されている。
【0147】
典型的には、プローブとして使用するために好適なヌクレオチド配列は、対象の配列に対して70%の同一性、好ましくは80%の同一性、より好ましくは90%の同一性、よりさらに好ましくは95%の同一性を有する。プローブは、一般的に少なくとも15ヌクレオチドを含みうる。かかるプローブは、好ましくは少なくとも30ヌクレオチドを有し、少なくとも50ヌクレオチドを有してもよい。特に好ましいプローブは、150〜500ヌクレオチドの範囲であり、より特には約300ヌクレオチドである。
【0148】
一実施形態において、TrpM8ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(ヒト以外の種に由来するホモログ及びオルソログを含む)を得るためには、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で配列番号1、配列番号2、配列番号4又はそれらの断片を有する標識プローブを用いて適当なライブラリをスクリーニングするステップ、かかるポリヌクレオチド配列を含む全長又は部分的なcDNA及びゲノムクローンを単離するステップを含む。そのようなハイブリダイゼーション技術は当業者に周知である。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は上述の通りであり、又はあるいは50%ホルムアミド、5×SSC(150mM NaCl、15mMクエン酸三ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液、10%硫酸デキストラン、及び20μg/ml変性せん断サケ精子DNAを含む溶液中で42℃での一晩のインキュベーションと、その後の65℃での0.1XSSCにおけるフィルターの洗浄での条件である。
【0149】
TrpM8イオンチャネルの機能アッセイ
クローニングされた推定TrpM8イオンチャネルポリヌクレオチドは、配列解析又は機能アッセイによって検証することができる。特に、上述したようにトランスフェクトしたアフリカツメガエル(Xenopus)卵母細胞の伝導性は、以下に記載するスクリーニングアッセイにおいて有用な、TrpM8活性を検出(guaging)し定量する手段として検出することができる。そのような伝導性アッセイは、簡便性のため「TrpM8の機能アッセイ(伝導性)」と称する。
【0150】
推定TrpM8イオンチャネル又は相同体は、以下のように「TrpM8の機能アッセイ(伝導性)」において活性についてアッセイすることができる。TrpM8イオンチャネルcDNAをコードする線状化プラスミド鋳型からのキャップ付加RNA転写産物を標準的手法に従ってRNAポリメラーゼを用いてin vitroで合成する。in vitro転写産物を最終濃度0.2mg/mlとなるように水に懸濁する。葉卵巣を成体雌ヒキガエルから取り出し、ステージVの脱卵胞した卵母細胞を得、RNA転写産物(10ng/卵母細胞)をマイクロインジェクション装置を用いて50nlボーラス注射する。2つの電極電圧クランプを用いて、アゴニスト暴露に応答した個々のアフリカツメガエル卵母細胞からの電流を測定する。96mM NaCl、2mM KCl、1mM MgCl、0.1mM CaCl、5mM Hepes、pH7.4に200mMマンニトールを添加した溶液中で室温にて記録を行う。OSMは210mOsmである。アフリカツメガエルの系はまた、以下にさらに詳述するようなリガンドの活性化について既知のリガンド及び組織/細胞抽出物をスクリーニングするために用いることができる。
【0151】
別の機能アッセイとしては、全細胞電気生理学、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)分析及びFLIPR分析が挙げられる。
【0152】
TrpM8イオンチャネルの発現アッセイ
TrpM8イオンチャネル関連疾患を治療するのに有用な治療薬を設計するためには、TrpM8(野生型または特定の突然変異体)の発現プロフィールの決定が有用である。したがって、TrpM8が発現されている器官、組織、および細胞型(同様に発生ステージ)を決定するために、当技術分野で公知の方法が用いられるであろう。例えば、伝統的ノーザンまたは「電子」ノーザンを行うことができる。逆転写酵素PCR(RT−PCR)も、TrpM8遺伝子または突然変異体の発現をアッセイするのに利用できる。TrpM8の発現プロフィールを決定するための、さらに感度が高い方法には、当技術分野で公知のRNAseプロテクションアッセイが含まれる。
【0153】
ノーザン分析は、遺伝子の転写産物の存在を検出するのに用いられる実験室技法であり、特定の細胞型または組織からのRNAが結合した膜への、標識されたヌクレオチド配列のハイブリダイゼーションを含む(Sambrook、前掲、第7章、ならびにAusubel, F.M.ら、前掲、第4および16章)。BLASTを利用した類似のコンピュータ技法(「電子ノーザン」)は、GenBankデータベース、またはLIFESEQデータベース(Incyte Pharmaceuticals社)などのヌクレオチドデータベース中にある同一もしくは関連の分子をサーチするのに用いることができる。このタイプの分析の利点は、それらが、複数の膜をベースにしたハイブリダイゼーションより速いことにある。加えて、コンピュータサーチでは、その感度を変更することによって、特定の一致が、正確であると分類されるものか、または相同であると分類されるものか判定することができる。
【0154】
上述のプローブを含めた本明細書に記載するポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、本明細書の他の箇所でより詳細に説明するように、動物およびヒトの疾患に対する治療および診断を発見するための研究用の試薬および物質として利用することができる。
【0155】
TrpM8イオンチャネルポリペプチドの発現
さらに、TrpM8ポリペプチドの製造方法を開示する。該方法は、一般的に、TrpM8イオンチャネルポリペプチド、又はその相同体、変異体若しくは誘導体をコードする核酸を含む宿主細胞を好適な条件(すなわちTrpM8イオンチャネルポリペプチドが発現する条件)で培養することを含む。
【0156】
生物学的に活性なTrpM8イオンチャネルを発現するためには、TrpM8イオンチャネル、またはその相同体、変異体、もしくは誘導体をコードするヌクレオチド配列を、適当な発現ベクター、すなわち、挿入されたコード配列の転写および翻訳に必要なエレメントを含有するベクターに挿入する。
【0157】
TrpM8イオンチャネルをコードする配列と、適当な転写制御エレメントおよび翻訳制御エレメントとを含有する発現ベクターの構築は、当業者に周知の方法を用いて行う。これらの方法には、in vitroの組換えDNA技法、合成技法、およびin vivoの遺伝子組換えが含まれる。そのような技法は、Sambrook、J.ら(1989年;「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」、第4、8、および16〜17章、Cold Spring Harbor Press社、Plainview, N.Y.)、および、Ausubel、F. M.ら(1995年および定期補足;「Current Protocols in Molecular Biology」、第9、13、および16章、John Wiley & Sons社、New York、N.Y.)に記載されている。
【0158】
TrpM8イオンチャネルをコードする配列を含有および発現する様々な発現ベクター/宿主系を利用することができる。これらには、組換えバクテリオファージ、プラスミド、またはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌などの微生物;酵母発現ベクターで形質転換された酵母;ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;ウイルス発現ベクター(例えばカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)若しくはタバコモザイクウイルス(TMV))、または細菌発現ベクター(例えばTi若しくはpBR322プラスミド)で形質転換された植物細胞系;または、動物細胞系が含まれるが、これらに限定されない。使用する宿主細胞の性質は問題ではない。
【0159】
「制御エレメント」または「調節配列」は、ベクターの非翻訳領域(すなわち、エンハンサー、プロモーター、ならびに5’および3’の非翻訳領域)であって、それらの領域が宿主細胞タンパク質と相互作用することによって、転写および翻訳が実施される。そのようなエレメントの強度および特異性は様々でありうる。利用するベクター系および宿主に応じて、構成的プロモーターおよび誘導性プロモーターを含めた、様々な適当な転写エレメントおよび翻訳エレメントを用いることができる。例えば、細菌系にクローニングする場合には、BLUESCRIPTファージミド(Stratagene社、La Jolla, Calif.)またはPSPORT1プラスミド(GIBCO/BRL社)のハイブリッドlacZプロモーター、および同様のものなどの誘導性プロモーターを用いることができる。昆虫細胞では、バキュロウイルスのポリヘドリンプロモーターを用いることができる。植物細胞のゲノムに由来するプロモーターもしくはエンハンサー(例えば、熱ショック、RUBISCO、および貯蔵タンパク質遺伝子)、または植物ウイルスに由来するもの(例えば、ウイルスのプロモーターまたはリーダー配列)を、ベクターにクローニングすることができる。哺乳動物細胞系では、哺乳動物遺伝子または哺乳動物ウイルスからのプロモーターが好ましい。TrpM8イオンチャネルをコードする配列を複数コピー含有する細胞系の作製が必要である場合には、適当な選択マーカーを有する、SV40ベースまたはEBVベースのベクターを用いることができる。
【0160】
細菌系では、意図されているTrpM8イオンチャネルの用途に応じて、多数の発現ベクターを選択することができる。例えば、抗体を誘導するのに大量のTrpM8イオンチャネルが必要である場合、容易に精製される融合タンパク質の高レベル発現を指示するベクターを用いることができる。限定されるものではないが、そのようなベクターには、BLUESCRIPT(Stratagene社)、pINベクター(Van Heeke, G.およびS. M. Schuster (1989年)、J. Biol. Chem. 264: 5503〜5509)、および同様のものなどの、多機能性大腸菌クローニングベクターおよび発現ベクターが含まれ、BLUESCRIPTでは、TrpM8イオンチャネルをコードする配列を、β−ガラクトシダーゼのアミノ末端のMet、およびそれに続く7残基の配列とインフレームになるようにベクター中に連結させて、それによってハイブリッドタンパク質を生成させることができる。pGEXベクター(Promega社、Madison, Wis.)も、外来のポリペプチドをグルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現するのに使用できる。一般的には、そのような融合タンパク質は可溶性であり、グルタチオン−アガロースビーズに吸着させて、それに続いて、遊離グルタチオンの存在下で溶出させることによって、溶解した細胞から容易に精製することができる。そのような系で生成されたタンパク質は、クローニングした目的のポリペプチドをGST部分から自在に放出できるように、へパリン、トロンビン、または第XA因子のプロテアーゼ切断部位を含むように設計することができる。
【0161】
酵母サッカロミセス・セレビシエでは、アルファ因子、アルコール酸化酵素、およびPGHなど、構成的プロモーターまたは誘導性プロモーターを含有する多数のベクターを用いることができる。概説には、Ausubel(前掲)、およびGrantら(1987年; Methods Enzymol. 153: 516〜544)を参照のこと。
【0162】
植物発現ベクターを使用する場合、TrpM8イオンチャネルをコードする配列の発現は、多数のプロモーターのうちの任意のものによって駆動させることができる。例えば、CaMVの35Sプロモーターおよび19Sプロモーターなどのウイルスプロモーターを、単独で、あるいはTMVのオメガリーダー配列と組み合わせて用いることができる(Takamatsu, N. (1987年)、EMBO J. 6: 307〜311)。別法として、RUBISCOの小サブユニットプロモーターまたは熱ショックプロモーターのなどの植物プロモーターを用いることもできる(Coruzzi, G.ら(1984年)、EMBO J. 3: 1671〜1680; Broglie, R.ら(1984年)、Science 224: 838〜843; および、Winter, J.ら(1991年)、Results Probl. Cell Differ. 17: 85〜105)。これらの構築物は、直接的なDNA形質転換または病原体の媒介によるトランスフェクションによって、これらの植物細胞の中に導入することができる。そのような技法は、一般的に利用可能な多数の総説に記載されている(例えば、McGraw Hill Yearbook of Science and Technology (1992)におけるHobbs, S.またはMurry, L. E.、McGraw Hill社、New York, N.Y.; 191〜196頁を参照)。
【0163】
TrpM8イオンチャネルを発現するのに、昆虫系を用いることもできる。例えば、そのような系の1つでは、外来遺伝子をスポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞またはトリコプルシア(Trichoplusia)幼虫で発現するのに、オートグラファ・カリフォルニカ核多角体ウイルス(AcNPV)をベクターとして用いる。TrpM8イオンチャネルをコードする配列は、このウイルスにおけるポリヘドリン遺伝子など、必須ではない領域にクローニングして、ポリヘドリンプロモーターの制御下に置くことができる。TrpM8イオンチャネルの挿入に成功すれば、ポリヘドリン遺伝子を不活性にして、コートタンパク質を欠失した組換えウイルスを生成するであろう。この組換えウイルスは、その後、例えばS.フルギペルダ細胞またはトリコプルシア幼虫に感染させるのに用いることができ、それらの中でTrpM8イオンチャネルを発現させることができる(Engelhard, E. K.ら(1994年)、Proc. Nat. Acad. Sci. 91: 3224〜3227)。
【0164】
哺乳動物宿主細胞では、多数のウイルスベースの発現系を利用することができる。発現ベクターとしてアデノウィルスを用いる場合、TrpM8イオンチャネルをコードする配列を、後期プロモーターおよびトリパータイトリーダー配列からなるアデノウィルス転写/翻訳複合体に連結することができる。このウイルスゲノムの非必須領域であるE1またはE3領域への挿入を利用して、感染した宿主細胞でTrpM8イオンチャネルを発現ができる生存ウイルスを得ることができる(Logan, J.およびT. Shenk (1984年)、Proc. Natl. Acad. Sci. 81: 3655〜3659)。加えて、哺乳動物宿主細胞での発現を増強するのに、ラウス肉腫ウイルス(RSV)エンハンサーなどの転写エンハンサーを用いることもできる。
【0165】
従って、例えば、TrpM8イオンチャネルは、ヒト胚腎臓293(HEK293)細胞又は付着性CHO細胞のいずれかで発現させることができる。最大の発現を達成するため、典型的には、pCDN又はpCDNA3ベクターへの挿入前に全ての5’及び3’非翻訳領域(UTR)をTrpM8 cDNAから除去する。細胞をリポフェクションにより個々のcDNAでトランスフェクトし、400mg/ml G418の存在下で選択する。3週間の選択後、個々のクローンを取り上げ、さらなる分析のために増殖させる。ベクター単独をトランスフェクトしたHEK293細胞又はCHO細胞を陰性対照として用いる。個々のイオンチャネルを安定に発現する細胞系を単離するため、約24のクローンを典型的に選択し、ノーザンブロット分析で分析する。TrpM8イオンチャネルmRNAは一般的に分析したG418耐性クローンの約50%において検出可能である。
【0166】
プラスミド中に含有させて、発現させることのできるものより大きいDNA断片を送達させるために、ヒト人工染色体(HAC)を利用することもできる。治療目的には、約6kbから10MbのHACsを構築して、慣用の送達方法(リポソーム、ポリカチオンアミノポリマー、または小胞)で送達する。
【0167】
TrpM8イオンチャネルをコードする配列のより効率的な翻訳を実現するために、特定の開始シグナルを用いることもできる。そのようなシグナルとしては、ATG開始コドンおよび隣接配列が含まれる。TrpM8イオンチャネルをコードする配列と、その開始コドンおよび上流配列とを適切な発現ベクターに挿入する場合には、それらに追加して、いかなる転写制御シグナルも、あるいは翻訳制御シグナルも必要ないであろう。しかし、コード配列またはその断片のみを挿入する場合には、ATG開始コドンを含む外因性の翻訳制御シグナルを提供するべきである。さらに、開始コドンは、挿入配列全体の翻訳を確実にするために、正しいリーディングフレームにあるべきである。外因性の翻訳エレメントおよび開始コドンは、天然のものおよび合成のもの両方の様々な由来のものでよい。発現の効率は、文献に記載されているものなど、使用される特定の細胞系に適したエンハンサーを含有させることによって増強することができる(Scharf, D.ら(1994年)、Results Probl. Cell Differ. 20: 125〜162)。
【0168】
加えて、宿主細胞株を、それが挿入配列の発現をモジュレートする能力、または、発現されたタンパク質を望ましい様式でプロセシングする能力によって選択することができる。そのようなポリペプチドの修飾には、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化、およびアシル化が含まれるが、これらに限定されない。「プレプロ」型のタンパク質を切断する翻訳後プロセシングも、正しい挿入、折りたたみ、および/または機能を促進するのに利用することができる。翻訳後活性のための特定の細胞機構および独特のメカニズムを有する様々な宿主細胞(例えば、CHO、HeLa、MDCK、HEK293、およびWI38)は、ATCC(American Type Culture Collection、Bethesda, Md.)から入手することができ、外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングが確実となるように選択することができる。
【0169】
組換えタンパク質の長期的かつ高収率の生産には、安定した発現が好ましい。例えば、TrpM8イオンチャネルを安定的に発現できる細胞系は、ウイルスの複製起点および/または内因性発現エレメントと、選択マーカー遺伝子とを、同一または別個のベクター上に含有するであろう発現ベクターを用いて形質転換することができる。細胞は、ベクターを導入した後、選択培地に切り換える前に、濃縮培地中で約1日から2日間増殖させることができる。選択マーカーの目的は、選択に対する耐性を付与することであり、それが存在することによって、導入された配列を良好に発現する細胞の増殖と、回収とを可能にする。安定に形質転換された細胞の耐性クローンは、その細胞型に適した組織培養技法を用いて増殖させることができる。
【0170】
多数の選択系のうち任意のものを、形質転換細胞系を回収するに用いることができる。限定されるものではないが、これらには単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ遺伝子(Wigler, M.ら(1977年)、Cell 11: 223〜32)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(Lowy, I.ら(1980年)、Cell 22: 817〜23)が含まれ、これらはそれぞれ、tk細胞またはapr細胞で用いることができる。また、代謝拮抗物質、抗生物質、もしくは除草剤耐性も、選択の基礎として用いることができる。例えば、dhfrはメトトレキセートに対する耐性を付与し(Wigler, M.ら(1980年)、Proc. Natl. Acad. Sci. 77: 3567〜70);nptはアミノグルコシドネオマイシンおよびG−418に対する耐性を付与し(Colbere-Garapin, F.ら(1981年)、J. Mol. Biol. 150: 1〜14);そして、alsまたはpatはそれぞれ、クロルスルフロンおよびホスフィノトリシンアセチルトランスフェラーゼに対する耐性を付与する(Murry、前掲)。他の選択可能な遺伝子、例えば、trpBまたはhisDが既に記載されており、trpBは、トリプトファンの代わりに、細胞によるインドールの利用を可能にし、hisDは、ヒスチジンの代わりに、細胞によるヒスチノールの利用を可能にする(Hartman, S. C.およびR. C. Mulligan (1988年)、Proc. Natl. Acad. Sci. 85: 8047〜51)。最近では、可視マーカーの使用が好まれるようになっており、そのようなマーカーには、アントシアニン、β−グルクロニダーゼおよびその基質GUS、ならびにルシフェラーゼおよびその基質ルシフェリンがある。これらのマーカーは、形質変換体を同定するのみでなく、特定のベクター系に起因する一過性または安定的なタンパク質発現の量を定量化するのにも使用できる(Rhodes, C. A.ら(1995年)、Methods Mol. Biol. 55: 121〜131)。
【0171】
マーカー遺伝子発現の存在/不在は、目的の遺伝子も存在することを示唆するが、その遺伝子の存在および発現を確認する必要がある場合もある。例えば、TrpM8イオンチャネルをコードする配列を、マーカー遺伝子配列中に挿入する場合、マーカー遺伝子機能の不在によって、TrpM8イオンチャネルをコードする配列を含有する形質転換細胞を同定することができる。
【0172】
別法として、マーカー遺伝子を、TrpM8イオンチャネルをコードする配列と直列にして、単一のプロモーターの制御下に配置することもできる。誘導または選択に応答したマーカー遺伝子の発現は、通常、直列の遺伝子の発現も示す。
【0173】
別法として、TrpM8イオンチャネルをコードする核酸配列を含有し、かつTrpM8イオンチャネルを発現する宿主細胞を、当業者に公知の様々な手法によって同定することもできる。これらの手法には、核酸配列またはタンパク質配列を検出および/または定量するための、膜、溶液、またはチップベースの技法を含めた、DNA−DNA若しくはDNA−RNAハイブリダイゼーション、およびタンパク質のバイオアッセイ技法またはイムノアッセイ技法が含まれるが、これらに限定されない。
【0174】
TrpM8イオンチャネルをコードするポリヌクレオチド配列の存在は、TrpM8イオンチャネルをコードするポリヌクレオチドのプローブまたは断片を用いた、DNA−DNAもしくはDNA−RNAハイブリダイゼーション、または増幅によって検出することができる。核酸増幅に基づくアッセイは、TrpM8イオンチャネルをコードする配列に基づいたオリゴヌクレオチドまたはオリゴマーを使用して、TrpM8イオンチャネルをコードするDNAまたはRNAを含有する形質転換体を検出することを含む。
【0175】
タンパク質に特異的なポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体を用いて、TrpM8イオンチャネルの発現を検出および測定するための様々なプロトコールが当技術分野で知られている。そのような技法の例には、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、および蛍光活性化セルソーティング(FACS)が含まれる。TrpM8イオンチャネル上の2箇所の非干渉性エピトープに反応するモノクローナル抗体を利用した2部位(two-site)のモノクローナルに基づくイムノアッセイが好ましいが、競合結合アッセイを利用することもできる。これらのアッセイおよび他のアッセイは、当技術分野で詳細に記載されており、例えば、Hampton, R.ら(1990年;「Serological Methods, a Laboratory Manual」、 Section IV、APS Press社、St Paul, Minn.)、および、Maddox, D. E.ら(1983年; J. Exp. Med. 158: 1211〜1216)に記載されている。
【0176】
様々な標識および結合技法が、当業者に知られており、様々な核酸アッセイおよびアミノ酸アッセイで用いることができる。TrpM8イオンチャネルをコードするポリヌクレオチドに関連した配列の検出用に標識されたハイブリダイゼーションプローブまたはPCRプローブを生成する手段には、オリゴ標識、ニックトランスレーション法、末端標識法、または標識されたヌクレオチドを用いたPCR増幅が含まれる。別法として、mRNAプローブを生成するために、TrpM8イオンチャネルまたは任意のその断片をコードする配列を、ベクターにクローニングすることもできる。そのようなベクターは、当技術分野で公知であり、市販されており、T7、T3、またはSP6などの適切なRNAポリメラーゼと、標識されたヌクレオチドとを添加することによって、RNAプローブをin vitroで合成するのに用いることができる。これらの手法は、Pharmacia & Upjohn社(Kalamazoo, Mich.)、GE Healthcare社(UK)、およびU.S. Biochemical Corp.社(Cleveland, Ohio)によって販売されているものなど、市販されている様々なキットを用いて実施することができる。適当なレポーター分子、又は検出を容易にするのに用いることのできる標識には、放射性核種、酵素、蛍光、化学発光、または色素生成物質が含まれ、さらに基質、補因子、阻害因子、磁性粒子、および同様のものも含まれる。
【0177】
TrpM8サブユニットをコードするヌクレオチド配列で形質転換された宿主細胞は、タンパク質の発現、および細胞培養物からのタンパク質の回収に適した条件下で培養することができる。形質転換細胞によって生成されたタンパク質は、用いられた配列および/またはベクターに応じて、細胞膜中に局在する場合も、分泌される場合も、細胞内に含有される場合もある。当業者ならば理解するであろうが、TrpM8サブユニットをコードするポリヌクレオチドを含有する発現ベクターは、原核細胞または真核細胞の細胞膜を通したTrpM8サブユニットの分泌を指示するシグナル配列を含有するように設計することができる。可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に、TrpM8サブユニットをコードする配列を連結する、他の構築を用いることもできる。精製を容易にするそのようなドメインには、固定化された金属上での精製を可能にするヒスチジン−トリプトファンモジュールなどの金属キレート化ペプチド、固定化された免疫グロブリン上での精製を可能にするプロテインAドメイン、および、FLAGS伸長/アフィニティ精製系(Immunex Corp.社、Seattle, Wash.)で用いられるドメインが含まれるが、これらに限定されない。精製を容易にするために、精製用ドメインと、TrpM8サブユニットをコードする配列との間に、第XA因子またはエンテロキナーゼ(Invitrogen社、San Diego, Calif.)に特異的なものなど、切断可能なリンカー配列を包含させることもできる。そのような発現ベクターの1つは、TrpM8サブユニットと、チオレドキシンまたはエンテロキナーゼ切断部位に先行する6ヒスチジン残基をコードする核酸とを含有する融合タンパク質の発現を提供する。ヒスチジン残基は、固定化された金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMIAC;Porath、J.、ら(1992年)、Prot. Exp. Purif. 3: 263〜281に記載)での精製を容易にし、エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパク質からTrpM8サブユニットを精製する手段を提供する。融合タンパク質を含有するベクターに関する考察は、Kroll, D. J.ら(1993年; DNA Cell Biol. 12: 441〜453)に提供されている。
【0178】
TrpM8サブユニットの断片は、組換え生成によって生成されるのみでなく、固相法を用いた直接的ペプチド合成によっても生成することができる(Merrifield J. (1963年)、J. Am. Chem. Soc. 85: 2149〜2154)。タンパク質合成は、手動の技法によっても、自動化によっても実施できる。自動化による合成は、例えばApplied Biosystems 431Aペプチドシンセサイザー(Perkin Elmer社)を用いて実現できる。TrpM8サブユニットの様々な断片を別々に合成して、その後、結合させて完全長分子を生成させることができる。
【0179】
バイオセンサー
TrpM8ポリペプチド、核酸、プローブ、抗体、発現ベクター及びリガンドはバイオセンサーとして(及びその作製のために)有用である。
【0180】
Aizawa (1988), Anal. Chem. Symp. 17: 683によると、バイオセンサーとは、分子認識のためのレセプター、例えば選択層と、固定化された抗体又はイオンチャネル(TrpM8など)との特有の組み合わせと、測定された値を伝達するトランスデューサであると定義される。そのようなバイオセンサーの1つのグループは、受容体とその周囲の媒体との相互作用によって表面層の光学特性に生じる変化を検出するものである。そのような技術の中で、特に偏光解析法及び表面プラズモン共鳴が言及されている。TrpM8を組み込むバイオセンサーは、TrpM8リガンドの存在又はレベルの検出に用いることができる。かかるバイオセンサーの構築は当技術分野で周知である。
【0181】
従って、TrpM8サブユニットを発現する細胞系は、受容体により促進されるリン酸[3H]イノシトール又は他の第2メッセンジャーの形成を介したリガンド(ATPなど)の検出のためのレポーター系として用いることができる(Watt et al., 1998, J Biol Chem May 29;273(22):14053-8)。受容体−リガンドバイオセンサーはまた、Hoffman et al., 2000, Proc Natl Acad Sci U S A Oct 10;97(21):11215-20に記載されている。TrpM8を含む光学及び他のバイオセンサーはまた、例えばFigler et al, 1997, Biochemistry Dec 23;36(51):16288-99及びSarrio et al., 2000, Mol Cell Biol 2000 Jul;20(14):5164-74により記載されているように、Gタンパク質及び他のタンパク質との相互作用のレベル又は存在を検出するために用いることができる。バイオセンサーのセンサーユニットは、例えば米国特許第5,492,840号に記載されている。
【0182】
スクリーニングアッセイ
TrpM8ポリペプチド(相同体、変異体及び誘導体を含む)は、それが天然又は組換えであっても、TrpM8イオンチャネルに結合し、TrpM8を活性化する(アゴニスト)又は活性化を阻害する(アンタゴニスト若しくはブロッカー)化合物についてのスクリーニング方法において用いることができる。従って、そのようなポリペプチドはまた、例えば細胞、無細胞調製物、化学ライブラリ及び天然産物の混合物における、小分子基質及びリガンドの結合を評価するために用いることも可能である。これらの基質及びリガンドは、天然基質及びリガンドであってもよいし、又は構造的若しくは機能的模倣物であってもよい。Coligan et al., Current Protocols in Immunology 1(2):Chapter 5 (1991)を参照のこと。
【0183】
TrpM8イオンチャネルポリペプチドは、多くの生物学的機能(多くの病理学を含む)に寄与する。従って、一方ではTrpM8イオンチャネルを刺激するが、他方ではTrpM8イオンチャネルの機能を阻害しうる化合物及び薬剤を見出すことが望ましい。一般的に、不安、ストレス、鬱病、癌又は疼痛などの症状のための治療及び予防目的でアゴニスト及びアンタゴニストが用いられる。
【0184】
TrpM8イオンチャネルタンパク質と相互作用する可能性が高い候補化合物の合理的設計は、ポリペプチドの分子形状の構造的研究に基づいて行いうる。特異的な他のタンパク質と相互作用する部位を特定するための1つの手段は、物理的構造決定、例えばX線結晶学又は二次元NMR技術である。これらによって、どのアミノ酸残基が分子接触領域を形成するかの示唆を得ることができる。タンパク質構造決定の詳細な説明については、例えばBlundell及びJohnson (1976) Protein Crystallography, Academic Press, New Yorkを参照のこと。
【0185】
合理的設計に代わる方法は、TrpM8イオンチャネルポリペプチドをその表面上に発現する適当な細胞を作製することを一般的に含むスクリーニング手法を利用する。かかる細胞としては、動物、酵母、ショウジョウバエ(Drosophila)又は大腸菌由来の細胞が挙げられる。TrpM8を発現する細胞(又は発現されたタンパク質を含む細胞膜)を次に被験化合物と接触させて、結合、又は機能的応答の刺激若しくは阻害を観察する。例えば、アフリカツメガエル卵母細胞にTrpM8 mRNAまたはポリペプチドを注入し、本明細書中に詳述するように電圧固定法を使用して被験化合物への暴露により誘導される電流を測定する。
【0186】
各候補化合物を個々にTrpM8イオンチャネルと試験する代わりに、候補リガンドのライブラリ又はバンクを作製し、スクリーニングすることが有利でありうる。従って、例えば200を超える推定リガンドのバンクがスクリーニング用に構築されている。バンクには、イオンチャネルを介して作用することが知られる伝達物質、ホルモン及びケモカイン;イオンチャネルの推定アゴニストと考えられる天然化合物、哺乳動物由来の対応物がまだ同定されていない非哺乳動物由来の生物学的に活性なペプチド;並びに天然には見出されないが未知の天然リガンドと共にイオンチャネルを活性化する化合物が含まれる。
【0187】
このバンクを用いて、本明細書に詳述するような、機能アッセイ(すなわち、カルシウム、マイクロフィジオメーター(microphysiometer)、FLIPRアッセイ、全細胞電気生理学、卵母細胞電気生理学など、他の箇所を参照)並びに結合アッセイを用いて、既知のリガンドについてTrpM8イオンチャネルをスクリーニングすることができる。しかしながら、多数の哺乳動物受容体は、未だ同族の活性化リガンド(アゴニスト)又は脱活性化リガンド(アンタゴニスト)がないままである。従って、これらの受容体に対する活性リガンドは、現在まで同定されないでリガンドバンクに含まれている可能性がある。従って、TrpM8はまた、天然リガンドを同定するために組織抽出物に対して機能的にスクリーニングしてもよい(カルシウム、マイクロフィジオメーター、卵母細胞電気生理学など、機能的スクリーニングを用いる)。陽性の機能的応答をもたらす抽出物は、本明細書に記載のようにアッセイした分画と共に、活性化リガンドが単離及び同定されるまで連続的に小画分化しうる。
【0188】
HEK293細胞において発現されたイオンチャネルは、PLCの活性化、並びにカルシウム動因及び/又はcAMP刺激若しくは阻害に機能的に関連していることが示されている。従って、1つのスクリーニング技法は、チャネル活性によって生じる細胞外pH又は細胞内カルシウム変化を測定する系においてTrpM8を発現する細胞(例えばトランスフェクトしたアフリカツメガエル卵母細胞、CHO又はHEK293細胞)の使用を含む。この技法においては、化合物をTrpM8ポリペプチドを発現する細胞と接触させうる。第2メッセンジャー応答、例えばシグナル伝達、pH変化又は好ましくはカルシウムレベルの変化を次に測定して、可能性ある化合物がチャネルを活性化又は阻害するかを判定する。
【0189】
好ましくは、応答はカルシウムレベルの変化であり、かかるアッセイは簡便性のため「TrpM8の機能アッセイ(カルシウム濃度)」と称する。
【0190】
かかる実験では、トランスフェクトされたHEK293細胞又はベクター対照細胞における基底カルシウムレベルを正常であるかどうか、すなわち100nM〜200nMの範囲であるかを観察する。ホモマー若しくはヘテロマーのTrpM8イオンチャネルを発現するHEK293細胞、又はホモマー若しくはヘテロマーの組換えTrpM8イオンチャネルをfura2と共に1日でローディングし、150を超える選択したリガンド又は組織/細胞抽出物を、アゴニストにより誘導されるカルシウム動員について評価する。同様に、TrpM8イオンチャネルを発現するHEK293細胞又は組換えTrpM8イオンチャネルをCa2+流量の増大又は低減について評価する。カルシウム過渡信号(transient)を示すアゴニストをベクター対照細胞において試験し、その応答がイオンチャネルを発現するトランスフェクト細胞に特有のものであるかどうかを調べる。
【0191】
別の方法では、TrpM8イオンチャネルの阻害又は刺激を測定することによりイオンチャネル阻害剤をスクリーニングする。かかる方法では、TrpM8サブユニットを、単独でホモマーチャネルを形成するように又は他のTrpチャネルサブユニットと共にヘテロマーチャネルを形成するように、真核細胞にトランスフェクトして、その細胞表面上にイオンチャネルを発現させる。次に細胞をTrpM8イオンチャネルの存在下にてアンタゴニスト候補に暴露する。細胞は、全細胞電気生理学を用いて試験し、電流の伝導性又は動力学の変化を測定する。
【0192】
TrpM8のアゴニスト又はアンタゴニストを検出するための別の方法は、米国特許第5,482,835号に記載のような酵母に基づく技術であり、これは参照により本明細書に組み入れられる。
【0193】
好ましい実施形態において、スクリーニングは、TrpM8のアゴニスト及びアンタゴニストをスクリーニングするために伝導性の変化の検出を利用する。具体的には、TrpM8のアンタゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞の伝導性を低下させるという方法を開示する。好ましくは、伝導性は、TrpM8のアンタゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%又はそれ以上低下する。好ましくは、伝導性は、TrpM8のアンタゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pS又はそれ以上低下する。
【0194】
さらに、TrpM8のアゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞の伝導性を増大させるという方法を開示する。好ましくは、伝導性は、TrpM8のアゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%又はそれ以上増大する。好ましくは、伝導性は、TrpM8のアゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pS又はそれ以上増大する。
【0195】
さらに好ましい実施形態において、スクリーニングは、TrpM8のアゴニスト及びアンタゴニストをスクリーニングするために細胞内カルシウム濃度の変化の検出を利用する。好ましくは、スクリーニングは、「TrpM8の機能アッセイ(カルシウム濃度)」において上述した機能アッセイを利用する。
【0196】
具体的には、TrpM8のアンタゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞のカルシウム濃度を低下させるという方法を開示する。好ましくは、カルシウム濃度は、TrpM8のアンタゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%又はそれ以上低下する。好ましくは、カルシウム濃度は、TrpM8のアンタゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pS又はそれ以上低下する。
【0197】
さらに、TrpM8のアゴニストは好適にトランスフェクトされた細胞のカルシウム濃度を増大させるという方法を開示する。好ましくは、伝導性は、TrpM8のアゴニストの存在下において、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%又はそれ以上増大する。好ましくは、カルシウム濃度は、TrpM8のアゴニストの存在下において、1pS、2pS、3pS、4pS、5pS、10pS、15pS、25pS、35pS、45pS、60pS、70pS又はそれ以上増大する。
【0198】
候補化合物がタンパク質、特に抗体またはペプチドである場合、候補化合物のライブラリを、ファージディスプレイ法を用いてスクリーニングすることが可能である。ファージディスプレイは、組換えバクテリオファージを用いる分子スクリーニングプロトコールの1つである。この技術では、バクテリオファージを候補化合物のライブラリに由来する1つの化合物をコードする遺伝子で形質転換し、各ファージ又はファージミドが特定の候補化合物を発現するようにする。形質転換したバクテリオファージ(好ましくは固相支持体に連結する)は、適当な候補化合物を発現し、そのファージコート上にそれを提示する。TrpM8ポリペプチド又はペプチドに結合することができる特異的候補化合物を、アフィニティ相互作用に基づく選抜手法で濃縮する。続いて良好に反応した候補薬剤の特性決定を行う。ファージディスプレイは、標準的なアフィニティリガンドスクリーニング技術よりも利点がある。ファージ表面は、より天然の構造に類似した三次元構造で候補薬剤を提示する。これにより、スクリーニング目的のためのアフィニティ結合がより特異的にかつ高くなる。
【0199】
化合物ライブラリをスクリーニングする別の方法は、化合物ライブラリを発現する組換えDNA分子で安定に形質転換した真核又は原核宿主細胞を利用する。そのような細胞は、生存していても又は固定されていても、標準的な結合パートナーアッセイに用いることができる。また、細胞応答を検出する高感度の方法を記載する、Parce et al. (1989) Science 246:243-247;及びOwicki et al. (1990) Proc. Nat’l Acad. Sci. USA 87;4007-4011を参照のこと。競合アッセイが特に有用であり、これは、化合物ライブラリを発現する細胞を、TrpM8ポリペプチドと結合することが知られる標識抗体(125I−抗体など)と接触させるか又はそれと共にインキュベートし、結合組成物に対する結合アフィニティを有する試験サンプル(候補化合物など)を測定するものである。続いて、ポリペプチドに対する結合した及び遊離の標識結合パートナーを分離して、結合の程度を評価する。結合した試験サンプルの量はポリペプチドに結合した標識抗体の量と反比例する。
【0200】
多数の技術のいずれか1つを用いて、遊離結合パートナーから結合した結合パートナーを分離し、結合の程度を評価する。この分離ステップは、典型的にはフィルターへの付着とその後の洗浄、プラスチックへの付着とその後の洗浄、又は細胞膜の遠心分離などの手順を含む。
【0201】
また別の手法は、可溶化、未精製又は可溶化精製ポリペプチド又はペプチド、例えば形質転換した真核又は原核宿主細胞から抽出されたものを用いる。これにより、特異性の増大、自動化可能性、及び薬物試験ハイスループット(高速処理能力)の利点を有する「分子」結合アッセイが可能になる。
【0202】
候補化合物スクリーニングの別の手法は、例えばTrpM8ポリペプチドに対する好適な結合アフィニティを有する新規化合物をハイスループットでスクリーニングする方法を含み、詳細には、国際特許出願第WO84/03564号(Commonwealth Serum Labs.、1984年9月13日公開)に記載されている。最初に、多数の異なる小ペプチド試験化合物を固相基板、例えばプラスチックピン又はいくつかの他の適当な表面上で合成する。Fodor et al. (1991)を参照のこと。続いて、全てのピンを可溶化TrpM8ポリペプチドと反応させ、洗浄する。次のステップは、結合したポリペプチドの検出を含む。そして、ポリペプチドと特異的に相互作用する化合物を同定する。
【0203】
リガンド結合アッセイによって、薬効薬理を解明するための直接的方法が提供され、またこれはハイスループット形式に適合可能なものである。精製されたリガンドは、結合試験のために高い比活性(50〜2000Ci/mmol)となるよう放射性標識しうる。続いて、放射性標識プロセスがその標的に対するリガンドの活性を弱めないという判定を行う。バッファー、イオン、pH及び他の変動因子(ヌクレオチドなど)についてのアッセイ条件を最適化して、膜及び全細胞受容体又はイオンチャネル供与源についての機能可能な信号対雑音比を確立する。これらのアッセイについて、特異的結合は、総会合放射活性から過剰な未標識競合リガンドの存在下で測定された放射活性を差し引いたものとして定義される。可能であれば、1を超える競合リガンドを用いて、残りの非特異的結合を定義する。
【0204】
このアッセイは、受容体又はイオンチャネルを有する細胞に対する付着性を、候補化合物と直接若しくは間接的に会合した標識によって、又は標識競合物質との競合を行うアッセイにおいて検出するように、候補化合物の結合を簡便に試験するものである。さらに、これらのアッセイは、候補化合物が、標的をその表面上に有する細胞に適当な検出系を用いて、標的の活性化により生じるシグナルをもたらすか否かを試験しうる。活性化の阻害剤は、一般的には既知のアゴニストの存在下でアッセイし、候補化合物の存在下でのアゴニストによる活性化に対する影響を観察する。
【0205】
さらに、アッセイは、候補化合物とTrpM8ポリペプチドを含有する溶液とを混合して混合物を生成するステップ、該混合物におけるTrpM8イオンチャネル活性を測定するステップ、及び該混合物のTrpM8イオンチャネル活性を標準と比較するステップを単に含むものであってもよい。
【0206】
また、TrpM8サブユニットcDNA、タンパク質及び該タンパク質に対する抗体を用いて、細胞におけるTrpM8サブユニットmRNA及びタンパク質の産生に対する添加した化合物の影響を検出するためのアッセイを設定しうる。例えば、ELISAは、当技術分野で公知の標準的な方法によってモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を用いてTrpM8サブユニットタンパク質の分泌レベル又は細胞結合レベルを測定するために構築することができ、これを、好適に操作された細胞又は組織からのTrpM8サブユニットの産生を阻害又は増強しうる薬剤(それぞれアンタゴニスト又はアゴニストとも称する)を発見するために用いることができる。スクリーニングアッセイを実施するための標準的方法は当技術分野で周知である。
【0207】
可能性あるTrpM8イオンチャネルアンタゴニスト及びブロッカーの例としては、抗体、又は場合によっては、ヌクレオチド及びそれらの類似体(プリン及びプリン類似体を含む)、オリゴヌクレオチド又はTrpM8イオンチャネルのリガンドに非常に類縁のタンパク質(例えばリガンドの断片)、又はイオンチャネルに結合するが応答を引き起こさず、チャネルの活性を妨害する小分子が挙げられる。
【0208】
従って、TrpM8ポリペプチド及び/又はペプチドに特異的に結合可能な化合物もまた提供する。
【0209】
「化合物」という用語は、化学化合物(天然若しくは合成)、例えば生体高分子(例えば核酸、タンパク質、非ペプチド若しくは有機分子)、又は細菌、植物、真菌若しくは動物(特に哺乳動物)細胞若しくは組織などの生体材料から作製された抽出物、又は無機元素若しくは分子などさえも意味する。好ましくは化合物は抗体である。
【0210】
かかるスクリーニングの実施に必要な物質は、スクリーニングキットにパッケージングされてもよい。そのようなスクリーニングキットは、TrpM8ポリペプチドに対するアゴニスト、アンタゴニスト、リガンド、受容体、基質、酵素など、又はTrpM8イオンチャネルポリペプチドの産生を低減若しくは増大する化合物を同定するために有用である。スクリーニングキットは、(a)TrpM8ポリペプチド、(b)TrpM8ポリペプチドを発現する組換え細胞、(c)TrpM8ポリペプチド発現する細胞膜、又は(d)TrpM8ポリペプチドに対する抗体を含む。スクリーニングキットは、任意により使用説明書を含んでもよい。
【0211】
トランスジェニック動物
さらに、天然又は組換えのTrpM8イオンチャネル、又はその相同体、変異体若しくは誘導体を、正常なレベル、正常な発現レベルと比較して高レベル又は低レベルで発現することができるトランスジェニック動物を開示する。好ましくは、かかるトランスジェニック動物は、非ヒト哺乳動物、例えばブタ、ヒツジ又はげっ歯動物である。最も好ましくは、トランスジェニック動物はマウス又はラットである。
【0212】
また、天然TrpM8遺伝子の全部又は一部が別の生物由来のTrpM8配列で置き換わったトランスジェニック動物を開示する。好ましくは、この生物は別の種であり、最も好ましくはヒトである。非常に好ましい実施形態において、その実質的に全長のTrpM8遺伝子がヒトTrpM8遺伝子で置き換わったマウスを開示する。かかるトランスジェニック動物、並びにTrpM8が野生型の動物は、TrpM8のアゴニスト及び/又はアンタゴニストをスクリーニングするために用いることができる。
【0213】
例えば、かかるアッセイは、野生型若しくはトランスジェニック動物、又はその一部(好ましくはトランスジェニック動物の細胞、組織若しくは器官)を候補物質に暴露するステップ、TrpM8関連表現型、例えば疼痛又はストレスについてアッセイするステップを含む。関連する動物に由来する細胞を用いて、伝導性又は細胞内カルシウム濃度に対する影響をアッセイする、細胞に基づくスクリーニングを実施することも可能である。
【0214】
さらに、機能的に破壊されたTrpM8遺伝子を含むトランスジェニック動物であって、本明細書に開示されるTrpM8の1以上の機能が部分的に又は完全に無効化されたトランスジェニック動物を開示する。例えば、TrpM8遺伝子の1以上の機能喪失突然変異、例えば欠失の結果として機能的TrpM8イオンチャネルを発現しないトランスジェニック動物(TrpM8ノックアウト)が含まれる。
【0215】
また、例えばTrpM8遺伝子の選択された一部に欠失を有するような、部分的な機能喪失突然変異体、例えば不完全なノックアウトも含まれる。そのような動物は、TrpM8配列の関連する部分、例えば機能的に重要なタンパク質ドメインを選択的に置換又は欠失することにより作出しうる。
【0216】
かかる完全又は部分的機能喪失突然変異体は、TrpM8関連疾患、特に疼痛又はストレス関連疾患のモデルとして有用である。部分的に機能喪失を示す動物を候補物質に暴露し、表現型を増強する、すなわち観察される痛覚鈍麻又はストレスレベル表現型の低下を増大させる(TrpM8の場合)物質を同定することができる。他のパラメータ、例えば伝導性の低減又は細胞内カルシウムレベルの低減はまた、本明細書で記載する方法を用いて検出することができる。
【0217】
部分的及び完全ノックアウトはまた、TrpM8の選択的アゴニスト及び/又はアンタゴニストを同定するために用いることができる。例えば、アゴニスト及び/又はアンタゴニストは、野生型及びTrpM8欠損動物(ノックアウト)に投与しうる。TrpM8の選択的アゴニスト又はアンタゴニストは、野生型動物に対して影響を及ぼすが、TrpM8欠損動物には及ぼさないことが示されるだろう。詳細には、可能性ある薬剤(候補リガンド又は化合物)を評価して、それがTrpM8イオンチャネルの不在下で生理学的応答を生じるか否かを決定するような特異的アッセイを設計する。これは、上述したように薬剤をトランスジェニック動物に投与し、続いて特定の応答について動物をアッセイすることによって達成しうる。関連する動物に由来する細胞を用いて、伝導性又は細胞内カルシウム濃度に対する影響をアッセイする、類似の細胞に基づく方法を実施してもよい。かかる動物はまた、本明細書に記載のスクリーニングによって同定された薬剤の効力について試験するために用いることもできる。
【0218】
別の実施形態において、部分的な機能喪失表現型を有するトランスジェニック動物をスクリーニングに用いる。かかる実施形態において、スクリーニングは、野生型表現型への部分的又は完全な回復又は復帰についてアッセイすることを含む。関連する動物に由来する細胞を用いて、伝導性又は細胞内カルシウム濃度に対する影響をアッセイする、細胞に基づくスクリーニングもまた実施しうる。そのようなことが可能であることがわかった候補化合物は、TrpM8アゴニスト又は類似体とみなされうる。かかるアゴニストは、例えば刺激に対する感受性、例えば疼痛を、例えば回復又は増大する、あるいは個体におけるストレスレベルを増大するために用いることができる。
【0219】
好ましい実施形態において、トランスジェニックTrpM8動物、特にTrpM8ノックアウト(完全な機能喪失)は、好ましくは本明細書に記載の試験によって測定した場合に、実施例に示す表現型を示す。従って、TrpM8動物、特にTrpM8ノックアウトは、好ましくは以下のうちのいずれか1以上を示す:握力の低下、野生型マウスよりも多く飲料を摂る傾向、疼痛に対する低感受性(痛覚鈍麻)、ストレス低下、血漿コルチコステロンレベルの低下。
【0220】
非常に好ましい実施形態において、トランスジェニックTrpM8動物、特にTrpM8ノックアウトは、対応の野生型マウスと比較して、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%又は100%高い又は低い(場合による)測定パラメータを示す。従って、例えば、TrpM8ノックアウトは、実施例に示すテールフリック試験に対する応答の疼痛閾値が、野生型マウスと比較して、1秒、2秒、5秒、10秒、30秒若しくはそれ以上、又は5%、10%、20%、50%若しくはそれ以上増大している。実施例に記載のオープンフィールド分析において測定した場合、TrpM8欠損マウスは、野生型マウスと比較して、中心領域の行動時間(permance time)が3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20秒若しくはそれ以上高い、又は中心領域において移動した距離が15、20、25、30、50cm若しくはそれ以上長い。
【0221】
TrpM8欠損トランスジェニック動物について本明細書で開示する表現型は、TrpM8の機能喪失と類似の影響を引き起こす化合物を検出するために野生型動物を用いるスクリーニングにおいて有用に用いることができることが明らかである。言い換えると、野生型動物を候補化合物に暴露し、関連のTrpM8表現型、例えば痛覚鈍麻、疼痛の低感受性、ストレスレベルの低下、コルチコステロンレベルの低下などの変化を観察し、TrpM8機能のモジュレーター、特にアンタゴニストを同定することができる。細胞表現型、例えば伝導性の低下又は細胞内カルシウムレベルの低下はまた、本明細書に記載の方法を用いて検出することができる。
【0222】
かかるスクリーニングにより同定された化合物は、TrpM8のアンタゴニストとして、例えば鎮痛薬又はストレス緩和薬として、特にTrpM8関連疾患の治療又は緩和のために用いることができる。
【0223】
上述したスクリーニングは、好適なパラメータ、例えば行動応答、生理的応答又は生化学的応答のいずれかの観察を含みうる。好ましい応答は生理的応答を含み、以下の1以上を含みうる:疾患抵抗性の変化、炎症応答の変化、腫瘍罹患性の変化、血圧の変化、新生血管形成、飲食行動の変化、体重変化、骨密度の変化、体温の変化、インスリン分泌、ゴナドトロピン分泌、鼻及び気管支分泌、血管収縮、記憶喪失、不安、不安状態の変化、反射低下若しくは反射亢進、疼痛又はストレス応答。
【0224】
生化学パラメータもまた用いることができ、例えば伝導性又は細胞内カルシウム濃度の変化がある。好ましくは、「TrpM8の機能アッセイ(伝導性)」を用いて伝導性を測定し、「TrpM8の機能アッセイ(カルシウム濃度)」を用いて細胞内カルシウム濃度を測定する。これは、細胞に基づくスクリーニングにおいて特に有用である。
【0225】
好ましい実施形態において、TrpM8アゴニストに暴露した細胞(例えば野生型細胞又は部分的機能喪失細胞)の伝導性は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも+30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%増大する。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「TrpM8の機能アッセイ(伝導性)」を用いて測定する。
【0226】
好ましい実施形態において、TrpM8アゴニストに暴露した細胞(例えば野生型細胞又は部分的機能喪失細胞)の細胞内カルシウム濃度は、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも+30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%増大する。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「TrpM8の機能アッセイ(細胞内カルシウム濃度)」を用いて測定する。
【0227】
好ましい実施形態において、TrpM8アゴニストに暴露した野生型又はTrpM8部分的ノックアウト動物のコルチコステロンレベルは、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも+30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%増大する。
【0228】
好ましい実施形態において、TrpM8のアンタゴニストは、かかるアンタゴニストに暴露した野生型又は部分的機能喪失動物がTrpM8部分的又は完全機能喪失突然変異体と少なくとも部分的に同一の表現型を少なくとも部分的な程度にまで示すようなものである。すなわち、好ましいアンタゴニストは、痛覚鈍麻、又はストレスの低下、又は血清コルチコステロンレベルの低下、又は伝導性の低下、又は細胞内カルシウムレベルの低下、あるいはこれらの任意の組み合わせを引き起こすものである。好ましくは、関連する表現型は、TrpM8ノックアウト動物と同程度にまで発現されている。
【0229】
好ましい実施形態において、TrpM8アンタゴニストに暴露した野生型細胞又は部分的機能喪失細胞の伝導性は、TrpM8欠損細胞の伝導性の+80%、好ましくは+70%、より好ましくは+60%、より好ましくは+50%、より好ましくは+40%、より好ましくは+30%、より好ましくは+20%、より好ましくは+10%、より好ましくは+5%の範囲内である。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「TrpM8の機能アッセイ(伝導性)」を用いて測定する。
【0230】
好ましい実施形態において、TrpM8アンタゴニストに暴露した野生型細胞又は部分的機能喪失細胞の細胞内カルシウム濃度は、TrpM8欠損細胞の細胞内カルシウム濃度の+80%、好ましくは+70%、より好ましくは+60%、より好ましくは+50%、より好ましくは+40%、より好ましくは+30%、より好ましくは+20%、より好ましくは+10%、より好ましくは+5%の範囲内である。好ましい実施形態において、これは、本明細書に記載する「TrpM8の機能アッセイ(細胞内カルシウム濃度)」を用いて測定する。
【0231】
好ましい実施形態において、TrpM8アンタゴニストに暴露した野生型又は部分的TrpM8ノックアウト動物のコルチコステロンレベルは、TrpM8欠損トランスジェニック動物のコルチコステロンレベルの+80%、好ましくは+70%、より好ましくは+60%、より好ましくは+50%、より好ましくは+40%、より好ましくは+30%、より好ましくは+20%、より好ましくは+10%、より好ましくは+5%の範囲内である。
【0232】
TrpM8ノックアウト動物から得られた組織は、可能性ある薬剤(候補リガンドまたは化合物)が、TrpM8に結合するかどうかを判定する結合アッセイで用いることができる。そのようなアッセイは、TrpM8イオンチャネル産生が欠損しているように操作されたトランスジェニック動物からの第1イオンチャネル調製物と、同定されている任意のTrpM8リガンドまたは化合物に結合することが知られている供給源からの第2イオンチャネル調製物とを取得することによって実施することができる。一般に、第1イオンチャネル調製物および第2イオンチャネル調製物は、それらが取得された供給源を除けば、あらゆる点で同様のものであろう。例えば、トランスジェニック動物(上記のもの、および下記のものなど)から得られた脳組織をアッセイに用いる場合、正常(野生型)動物から得られた、それに相当する脳組織を、第2イオンチャネル調製物の供給源として用いる。各イオンチャネル調製物を、TrpM8イオンチャネルに結合することが知られているリガンドとインキュベートし、その際、単独でのインキュベーション、および候補リガンドまたは化合物の存在下でのインキュベーションの両方を行う。候補リガンドまたは化合物は、好ましくは、いくつかの異なった濃度で試験しうる。
【0233】
既知リガンドによる結合が、試験化合物によって置き換わる程度を、第1イオンチャネル調製物および第2イオンチャネル調製物の両方で測定する。トランスジェニック動物から得られた組織は、アッセイに直接用いても、あるいはこの組織の加工を行って、膜または膜タンパク質を単離してもよく、これらはそれら自体がアッセイに使用される。好ましいトランスジェニック動物はマウスである。リガンドは、結合アッセイと適合性のあるいかなる手段を用いて標識してよい。これらには、非限定的に、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、又は化学発光標識が含まれるであろう(上記にさらに詳細に記述した他の標識技術も同様に含まれる)。
【0234】
さらに、TrpM8イオンチャネルのアンタゴニストは、候補化合物などを、機能的なTrpM8を発現する野生型動物と、TrpM8機能の発現の減少または消失に伴う、任意の表現型の特徴を示すものと同定された動物とに投与することによって同定することができる。
【0235】
トランスジェニック非ヒト動物を作製する詳細な方法を、以下に詳細に記述する。トランスジェニック哺乳動物を作製するために、動物の生殖細胞系にトランスジェニック遺伝子構築物を導入することができる。例えば、構築物の1または数コピーを、標準的なトランスジェニック技法によって、哺乳動物胚のゲノムに組み込むことができる。
【0236】
例示的な実施形態では、非ヒト動物の生殖細胞系にトランスジーンを導入することによって、トランスジェニック非ヒト動物を作製する。様々な発生ステージの標的胚細胞を、トランスジーンを導入するのに用いることができる。標的胚細胞の発生のステージに応じて、様々な方法が用いられる。いかなる動物についても、その動物の特定の系列を、全般的健康、胚収率の良好性、胚における前核可視度の良好性、および自己増殖性適応度の良好性によって選択する。加えて、ハプロタイプも重要な因子である。
【0237】
胚へのトランスジーンの導入は、例えば、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、またはリポフェクションなど、当技術分野で知られている任意の手段によって、実行することができる。例えば、TrpM8トランスジーンは、哺乳動物受精卵の前核の中への構築物のマイクロインジェクションによって、哺乳動物に導入することができ、それによって、発生中の哺乳動物の細胞中における、1または複数コピーの構築物の維持が引き起こされる。受精卵にトランスジーン構築物を導入した後、卵を、様々な長さの時間にわたりin vitoでインキュベートするか、又は代理宿主に再移植するか、あるいはそれら両方を行うことができる。成熟するまでのin vitroインキュベーションも実施しうる。一般的な方法の1つは、種に応じて約1〜7日間、胚をin vitroでインキュベートして、その後、代理宿主にそれらを再移植するものである。
【0238】
トランスジェニック手法によって操作された胚の子孫は、組織断片のサザンブロット解析によって、構築物が存在しているかどうか試験することができる。1または複数コピーのクローニングされた外因性構築物が、そのようなトランスジェニック胚のゲノム中に安定的に組み込まれている場合、追加された構築物をトランスジーンとして保持する恒久的なトランスジェニック哺乳動物系を確立することが可能である。
【0239】
構築物が子孫ゲノム中に取り込まれているかどうか、トランスジェニック技術によって改変された哺乳動物の同腹仔を、出産後にアッセイすることができる。このアッセイは、所望の組換えタンパク質産物をコードするDNA配列、またはそのセグメントに相当するプローブを、子孫からの染色体物質にハイブリダイズさせることによって実施できる。ゲノム中に少なくとも1コピーの構築物を含有することが判明した子孫哺乳動物を、成熟するまで育てる。
【0240】
本明細書の目的においては、接合子は、本質的には、完全な生物に発生することができる二倍体細胞の形成である。通常、接合子は、1つまたは複数の配偶子に由来する2つの半数体核の自然融合または人工的融合によって形成された1つの核を含有する卵から成るであろう。したがって、それらの配偶子核は、自然状態で適合性のあるもの、すなわち、分化、および機能性の生物への発生を行うことができる生きた接合子を生ずるものでなければならない。通常は、正倍数体接合子が好ましい。異数体接合子が得られた場合には、その染色体数は、いずれかの配偶子が由来した生物の正倍数体数に比べて、2以上の大きな相違を有するべきではない。
【0241】
同様の生物学的要件に加えて、物理的要件も、接合体の核に添加できる外因性遺伝物質、または接合体核の一部を形成する遺伝物質の量(例えば容積)を決定する。遺伝物質が除去されない場合には、添加することができる外因性遺伝物質の量は、物理的な破壊を起こさずに吸収されるであろう量に制限される。通常、挿入される外因性遺伝物質の容積は、約10ピコリットルを超えないであろう。添加の物理的影響は、接合子の生存を物理的に破壊するほどに大きいものであってはならない。DNA配列の数および多様性の生物学的制限は、外因性遺伝物質を含めた、その結果得られる接合体の遺伝物質が、機能性の生物への接合体の分化および発生の開始および維持を生物学的に行えるものでなくてはならないので、特定の接合体、および外因性遺伝物質の機能によって異なるであろうし、それらは、当業者には容易に明らかであるだろう。
【0242】
接合子に添加されるトランスジーン構築物のコピー数は、添加される外因性遺伝物質の総量に依存するものであり、遺伝的形質転換の実現を可能にする量であろう。理論的には、必要なのは1コピーのみであるが、機能的なものが1コピーあることを保障するために、通常、多くのコピー、例えば、1000〜20000コピーのトランスジーン構築物が用いられる。外因性DNA配列の表現型発現を増強するために、挿入される各外因性DNA配列の複数の機能性コピーを有するものが有利であることが多いであろう。
【0243】
核遺伝物質への外因性遺伝物質の添加を可能にするいかなる技法も、それが細胞、核膜、または他の既存の細胞構造または遺伝子構造に対して破壊的でない限り、用いることができる。外因性遺伝物質は、マイクロインジェクションによって核遺伝物質に選択的に挿入する。細胞及び細胞構造のマイクロインジェクションは、当技術分野で公知であり、かつ使用されている。
【0244】
再移植は、標準的な方法を用いて実施する。通常は、代理宿主を麻酔にかけ、胚を卵管に挿入する。特定の宿主に移植される胚の数は、種によって異なるが、通常は、その種が自然に生む子孫の数に匹敵するものであろう。
【0245】
代理宿主のトランスジェニック子孫のスクリーニングは、任意の適当な方法によって、トランスジーンの存在および/または発現に関して行うことができる。スクリーニングは、トランスジーンの少なくとも一部に相補的なプローブを用いたサザンブロット解析またはノーザンブロット解析によって行われることが多い。トランスジーンによってコードされているタンパク質に対する抗体を用いたウエスタンブロット解析は、トランスジーン産物の存在に関するスクリーニングの代替または追加の方法として利用することができる。通常は、尾組織からDNAを調製して、トランスジーンに関するサザン解析またはPCRによって分析する。別法では、トランスジーンが最も高いレベルで発現されていると考えられる組織または細胞を、サザン解析またはPCRを用いて、トランスジーンの存在および発現に関して検査するが、いかなる組織または細胞型をこの分析に用いてもよい。
【0246】
トランスジーンの存在を評価する代替または追加の方法には、酵素アッセイおよび/または免疫学的アッセイなどの適当な生化学アッセイ、特定のマーカーおよび酵素活性の組織学的染色、フローサイトメトリー分析、ならびに同様のものが、制限なしに含まれる。血液の分析も、血液中のトランスジーン産物の存在を検出するのに、そして、様々なタイプの血球および他の血液成分のレベルに対するトランスジーンの影響を評価するのに有用でありうる。
【0247】
トランスジェニック動物の子孫は、該トランスジェニック動物を好適なパートナーと交配することにより、あるいは該トランスジェニック動物から得られる卵子及び/又は精子のin vitro受精により得ることができる。パートナーと交配させる場合には、パートナーは、トランスジェニック及び/又はノックアウトであってもよいしあるいはそうでなくてもよく、トランスジェニックである場合には、同じ若しくは異なるトランスジーン又はそれら両方を含んでいてよい。あるいは、パートナーは、親系統であってもよい。in vitro受精を用いる場合には、受精した胚を仮親宿主に移植するか若しくはin vitroでインキュベートするか、又はその両方を行う。いずれの方法を用いても、子孫は、上述した方法又は他の適当な方法を用いてトランスジーンの存在について評価しうる。
【0248】
本明細書に記載の方法に従って作出されるトランスジェニック動物は、外因性の遺伝物質を含むことになる。上述したように、特定の実施形態において、外因性の遺伝物質は、TrpM8イオンチャネルの産生をもたらすDNA配列である。さらに、そのような実施形態において、配列は、転写制御エレメント、例えばプロモーター、好ましくは特定の細胞型においてトランスジーン産物の発現を可能とするプロモーターを付加する。
【0249】
非ヒト動物にトランスジーンを導入するには、レトロウイルス感染を用いることができる。発生中の非ヒト胚は、胚盤胞期までin vitoで培養できる。この間に、卵割球をレトロウイルス感染の標的とすることができる(Jaenich、R.(1976年)、PNAS 73: 1260〜1264)。透明帯を除去する酵素処理によって、卵割球の効率的な感染が達成される(「Manipulating the Mouse Embryo」、Hogan編集(Cold Spring Harbor Laboratory Press社、Cold Spring Harbor、1986年)。通常、トランスジーンを導入するのに使用されるウイルスベクター系は、トランスジーンを有する複製欠損レトロウイルスである(Jahnerら(1985年)、PNAS 82: 6927〜6931; Van der Puttenら(1985年)、PNAS 82: 6148〜6152)。ウイルス産生細胞の単層上で卵割球を培養することによって、簡単かつ効率的にトランスフェクションを行うことができる(Van der Putten、前掲; Stewartら(1987年)、EMBO J. 6: 383〜388)。別法では、さらに後のステージで感染を行うことができる。ウイルスまたはウイルス産生細胞は、卵割腔に注入することができる(Jahnerら(1982年)、Nature 298: 623〜628)。トランスジーンの取込みはトランスジェニック非ヒト動物を形成する細胞の部分集団のみで起こるため、初代の大部分はトランスジーンのモザイクになるであろう。さらに、初代は、ゲノムにおける別々の位置で、トランスジーンの様々なレトロウイルスの挿入を含有しうるが、これらは通常、子孫では分離しているであろう。加えて、妊娠中の胚の子宮内レトロウイルス感染によって、トランスジーンを生殖細胞系に導入することも可能である(Jahnerら、(1982年)、前掲)。
【0250】
トランスジーンを導入するための、第3のタイプの標的細胞は胚性幹細胞(ES)である。ES細胞は、in vitroで培養された未着床胚から得られ、胚と融合させる(Evansら(1981年)、Nature 292: 154〜156; Bradley.ら(1984年)、Nature 309: 255-258; Gossler.ら(1986年)、PNAS 83: 9065〜9069; およびRobertsonら(1986年)、Nature 322: 445〜448)。トランスジーンは、DNAトランスフェクションまたはレトロウイルス媒介性の形質導入によって、効率的にES細胞に導入することができる。その後は、そのような形質転換されたES細胞は、非ヒト動物から得られた胚盤胞と組み合わせることができる。ES細胞は、その後胚でコロニーを形成し、その結果得られたキメラ動物の生殖細胞系に加わる。概説には、Jaenisch, R. (1988年)、Science 240: 1468〜1474を参照のこと。
【0251】
また、TrpM8イオンチャネル機能のモデルとしての、改変型TrpM8遺伝子、好ましくは上述したような遺伝子を有することを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物を提供する。遺伝子の改変には、欠失若しくは他の機能欠損突然変異、ターゲティング若しくはランダム突然変異によるヌクレオチド配列を有する外因性遺伝子の導入、別の種に由来する外来性遺伝子の導入、又はそれらの組み合わせが含まれる。トランスジェニック動物は、その改変についてホモ接合性であってもよいし又はヘテロ接合性であってもよい。動物及びそれに由来する細胞は、TrpM8イオンチャネル機能をモジュレートする可能性のある生物学的に活性な因子のスクリーニングに有用である。スクリーニング方法は、特に、疼痛及び癌、具体的には前立腺癌の可能性ある治療の特異性及び作用を判定するために用いられる。動物は、正常組織及び器官(脳、心臓、脾臓及び肝臓など)におけるTrpM8イオンチャネルの役割、並びにそれらの機能に対する影響を研究するためのモデルとして有用である。
【0252】
別の態様は、機能的に破壊された内因性TrpM8遺伝子を有するが、同時に異種TrpM8タンパク質(すなわち別の種に由来するTrpM8)をコードするトランスジーンをそのゲノムに保持しかつ発現するトランスジェニック動物に関する。好ましくは、動物はマウスであり、異種TrpM8はヒトTrpM8である。ヒトTrpM8で再構成された動物、又はかかる動物から誘導される細胞系は、in vivo及びin vitroにおいてヒトTrpM8を阻害する薬剤を同定するために用いることができる。例えば、試験対象の薬剤の存在下及び不在下にてヒトTrpM8を介してシグナル伝達を誘導する刺激を動物又は細胞系に適用し、該動物又は細胞系における応答を測定しうる。in vivo又はin vitroでヒトTrpM8を阻害する薬剤は、該薬剤の不在下における応答と比較した場合の該薬剤の存在下における応答の低下に基づいて同定することができる。
【0253】
また、TrpM8欠損トランスジェニック非ヒト動物(「TrpM8サブユニットノックアウト」)を提供する。かかる動物は、好ましくは内因性TrpM8イオンチャネルゲノム配列が破壊又は欠失している結果として、TrpM8イオンチャネル活性を発現しない又は低く発現するものである。好ましくは、かかる動物はイオンチャネル活性を発現しない。より好ましくは、動物は、配列番号3又は配列番号5に示されるTrpM8イオンチャネルの活性を発現しない。TrpM8イオンチャネルノックアウトは、以下にさらに詳述するように、当技術分野で公知の種々の手段により作製することができる。
【0254】
本開示は、宿主細胞においてTrpM8遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物にも関する。この核酸構築物は、a)非相同置換部分とb)非相同置換部分の上流に位置する第1相同領域であって、第1TrpM8遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第1相同領域;c)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、第2TrpM8遺伝子配列に対して実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第2相同領域(第2TrpM8遺伝子配列は、天然の内因性TrpM8遺伝子における第1TrpM8遺伝子配列の下流に位置する)を含む。加えて、第1および第2相同領域は、これらの核酸分子が宿主細胞に導入されたとき、核酸構築物と、宿主細胞の内因性TrpM8遺伝子との間で相同組換えが起こるのに十分な長さのものである。好ましい実施形態では、非相同置換部分は発現レポーターを含み、これには、好ましくはlacZおよびポジティブ選択発現カセットが含まれ、この選択発現カセットには、好ましくは調節エレメントに機能的に連結したネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子が含まれる。
【0255】
好ましくは、第1及び第2TrpM8遺伝子配列は、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4、又はその相同体、変異体若しくは誘導体から誘導される。
【0256】
別の態様は、上述の核酸構築物が組み込まれた組換えベクターに関する。また別の態様は、核酸構築物が導入され、それにより該核酸構築物と宿主細胞の内因性TrpM8遺伝子との間で相同組換えが起こり、内因性TrpM8遺伝子が機能的に破壊されている宿主細胞に関する。宿主細胞は、肝臓、脳、脾臓若しくは心臓、又は分化多能性細胞(マウス胚性幹細胞など)に由来する、正常にTrpM8を発現する哺乳動物細胞でありうる。核酸構築物が導入され、内因性TrpM8遺伝子と相同組換えした胚性幹細胞のさらなる発生によって、該胚性幹細胞に由来し、そのためそれらのゲノムにTrpM8遺伝子破壊を有する細胞を有するトランスジェニック非ヒト動物を作出する。続いて、その生殖系列にTrpM8遺伝子破壊を有する動物を選択し、全ての体細胞及び生殖細胞にTrpM8遺伝子破壊を有する動物を作出するために交配する。続いてそのようなマウスをTrpM8遺伝子破壊についてのホモ接合性のために交配しうる。
【0257】
抗体
本明細書の目的では、「抗体」という用語には、反対に指定されない限り、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、一本鎖、Fabフラグメント、およびFab発現ライブラリによって生成されるフラグメントが含まれるが、これらに限定されない。そのようなフラグメントには、標的物質に対する結合活性を保持している、抗体全体のフラグメント、Fv、F(ab’)、およびF(ab’)フラグメントが含まれ、同様に、抗体の抗原結合部位を含む一本鎖抗体(scFv)、融合タンパク質、および他の合成タンパク質が含まれる。抗体およびそれらのフラグメントはヒト化抗体、例えばEP−A−239400に記載のものでよい。さらに、完全にヒトの可変領域を有する抗体(またはそれらのフラグメント)、例えば米国特許第5,545,807号、および第6,075,181号に記載のものを用いてもよい。中和抗体、すなわち、対象のアミノ酸配列の生物学的活性を阻害するものが、診断用および治療用に特に好ましい。
【0258】
抗体は、免疫化、またはファージディスプレーライブラリの使用など、標準的な技法によって産生できる。
【0259】
ポリペプチドまたはペプチドは、既知の技法によって抗体を開発するのに用いることができる。そのような抗体は、TrpM8イオンチャネルタンパク質、または相同体、断片などに特異的に結合できるものでありうる。
【0260】
ポリクローナル抗体が望ましい場合、関連するポリペプチドまたはペプチドを含む免疫原性組成物で、選択された哺乳動物(例えば、マウス、ウサギ、ヤギ、ウマなど)を免疫しうる。免疫学的応答を増強するのに、宿主種に応じて様々なアジュバントを用いることができる。そのようなアジュバントには、フロイント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、リゾレシチンなどの界面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、スカシガイヘモシアニン、ジニトロフェノールが含まれるが、これらに限定されない。BCG(カルメット・ゲラン菌(Bacilli Calmette-Guerin))およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)は、対象のアミノ酸配列を精製して、全身性防御反応を刺激するために免疫不全の個体に投与する場合に利用できる潜在的に有用なヒトアジュバントである。
【0261】
免疫した動物から得られた血清は、公知の操作法に従って採取して、処理を行う。TrpM8ポリペプチドから取得可能なエピトープに対するポリクローナル抗体を含有する血清が、他の抗原に対する抗体を含有する場合、免疫アフィニティクロマトグラフィーによってポリクローナル抗体を精製することができる。ポリクローナル抗血清を産生して、処理する技法は、当技術分野で公知である。そのような抗体を作製できるように、本発明者はまた動物またはヒトにおいて免疫原として用いるための別のアミノ酸配列をハプテンとして結合した、TrpM8のアミノ酸配列またはその断片も提供する。
【0262】
当業者ならば、TrpM8ポリペプチドまたはペプチドから取得可能なエピトープに対して産生されるモノクローナル抗体を、容易に産生させることができる。ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を作製する一般的方法は周知である。不死性の抗体産生細胞系は、細胞融合によって、また、発癌性DNAを用いたBリンパ球の直接的な形質転換、またはエプスタイン−バーウイルスを用いたトランスフェクションなどの他の技法によっても生成することができる。周辺エピトープ(orbit epitope)に対して生成された一連のモノクローナル抗体を、様々な特性に関して、すなわちイソタイプおよびエピトープアフィニティに関してスクリーニングすることができる。
【0263】
モノクローナル抗体は、連続的な細胞培養系による抗体分子の産生を提供する任意の技法を用いて調製できる。これらには、元々KoehlerおよびMilstein(1975年、Nature 256: 495〜497)によって記載されたハイブリドーマ技法、トリオーマ技法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ技法(Kosborら(1983年)、Immunol Today 4: 72; Coteら(1983年)、Proc Natl Acad Sci 80: 2026〜2030)、およびEBVハイブリドーマ技法(Coleら、「Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy」、77〜96頁、Alan R. Liss, Inc.社、1985年)が含まれるが、これらに限定されない。
【0264】
加えて、「キメラ抗体」の作製、すなわち、適切な抗原特異性および生物学的活性を備えた分子を得るために、マウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライシングするために、開発された技法を用いることもできる(Morrisonら、(1984年) Proc Natl Acad Sci81: 6851〜6855; Neubergerら、(1984年) Nature312: 604〜608; Takedaら(1985年)、Nature 314: 452〜454)。別法として、一本鎖抗体の作製に関して記載された技法(米国特許第4,946,779号)を、対象の特異的一本鎖抗体を作製するために適合させることもできる。
【0265】
TrpM8ポリペプチドまたはペプチドから取得可能なエピトープに対して作製された抗体は、モノクローナル抗体も、ポリクローナル抗体も両方とも、診断にとりわけ有用であり、中和抗体は受動的免疫療法に有用である。モノクローナル抗体は、詳細には、抗イディオタイプ抗体を作製するために用いることができる。抗イディオタイプ抗体は、防御が望まれている物質および/または薬剤の「内部イメージ」を保持する免疫グロブリンである。抗イディオタイプ抗体を作製する技法は、当技術分野で公知である。これらの抗イディオタイプ抗体も、治療に有用でありうる。
【0266】
抗体は、Orlandiら(1989年、Proc Natl Acad Sci 86: 3833〜3837)、並びにWinter GおよびMilstein C(1991年; Nature 349: 293〜299)に記載の通りリンパ球集合におけるin vivo産生を誘導することによって、あるいは、特異性の高い結合をする物質を得るための、組換え免疫グロブリンライブラリまたはパネルのスクリーニングによって産生させることもできる。
【0267】
ポリペプチドまたはペプチドに対する特異的な結合部位を含有する抗体フラグメントを作製することもできる。例えば、そのようなフラグメントには、抗体分子のペプシン消化によって生成することができるF(ab’)フラグメントと、F(ab’)フラグメントのジスルフィド架橋を還元させることによって生成することができるFabフラグメントとが含まれるが、これらに限定されない。別法として、望ましい特異性を有するモノクローナルFabフラグメントの迅速かつ簡単な同定を可能にするために、Fab発現ライブラリを構築することもできる(Huse WDら、(1989年)、Science256: 1275〜1281)。
【0268】
一本鎖抗体を作製するための技法(米国特許第4,946,778号)を、TrpM8ポリペプチドに対する一本鎖抗体を作製するために適合させることもできる。また、ヒト化抗体を発現させるのに、トランスジェニックマウス、または他の哺乳動物を含めた他の生物を用いることもできる。
【0269】
上述した抗体を用いて、ポリペプチドを発現するクローンを単離若しくは同定し、又はアフィニティクロマトグラフィによってポリペプチドを精製することができる。
【0270】
また、TrpM8イオンチャネルポリペプチドに対する抗体を用いて、疼痛及び癌、特に神経障害性疼痛及び前立腺癌を治療することができる。
【0271】
診断アッセイ
本明細書は、診断における診断試薬としての使用、または遺伝子解析における使用に供する、TrpM8イオンチャネルポリヌクレオチドおよびポリペプチド(その相同体、変異体、および誘導体も同様)の使用に関する。そのようなアッセイには、TrpM8イオンチャネル核酸(相同体、変異体、および誘導体を含める)に相補的な核酸、またはそれに対しハイブリダイズ可能な核酸が有用であり、TrpM8ポリペプチドに対する抗体も有用である。
【0272】
機能不全に関連したTrpM8イオンチャネル遺伝子の突然変異型の検出は、TrpM8イオンチャネルの過小発現、過剰発現、または発現変化から生じる疾患または疾患に対する感受性の診断に追加するか、あるいはそれを規定することのできる診断ツールを提供するであろう。TrpM8イオンチャネル遺伝子(制御配列を含める)の突然変異を有する個体は、様々な技法によってDNAレベルで検出することができる。
【0273】
例えば、患者からDNAを単離して、TrpM8のDNA多型パターンを決定することができる。同定されたパターンは、TrpM8の過剰発現、過小発現、または発現異常に関連した疾患を患っていることが既知の対照患者と比較する。その後、TrpM8関連疾患に付随した遺伝的多型パターンを示す患者を同定することができる。TrpM8イオンチャネル遺伝子の遺伝子解析は、当技術分野で公知の任意の技法で行うことができる。例えば、TrpM8対立遺伝子のDNA配列決定によって、RFLPまたはSNP分析などによって個体をスクリーニングすることができる。TrpM8の過剰発現、過小発現、または発現異常に関連した疾患に対する遺伝的素因を有する患者を、TrpM8遺伝子配列またはその発現を制御する任意の配列のDNA多型の存在を検出することによって同定することができる。
【0274】
そのように同定された患者は、TrpM8関連疾患の発症を予防するように処置するか、あるいは、疾患のそれ以降の発症または進展を予防するためにTrpM8関連疾患の初期により積極的に処置することができる。TrpM8関連疾患には、ストレス、不安、鬱病、疼痛及び癌、特に神経障害性疼痛及び前立腺癌が含まれる。
【0275】
さらに、TrpM8関連疾患に付随する、患者の遺伝的多型パターンを同定するためのキットを開示する。このキットは、DNAサンプルを採集する手段および遺伝的多型パターンを判定する手段を含み、これらは、次に対照サンプルと比較して、TrpM8関連疾患に対する、患者の感受性を判定する。また、TrpM8ポリペプチドおよび/または、そのようなポリペプチドに対する抗体(またはそのフラグメント)を含む、TrpM8関連疾患の診断キットも提供する。
【0276】
診断用の核酸は、血液、尿、唾液、組織生検サンプル、または剖検物質など、被験体の細胞から得ることができる。好ましい実施形態では、患者の指の穿刺から得られた血球からDNAを採取し、この血液は、吸い取り紙に収集される。さらに好ましい実施形態では、血液をAmpliCardTM(University of Sheffield, Department of Medicine and Pharmacology, Royal Hallamshire Hospital, Sheffield, England S10 2JF)に収集する。
【0277】
DNAは、直接検出に用いても、あるいは分析の前にPCRまたは他の増幅技法を用いて、酵素によって増幅してもよい。目的の遺伝子の特定の多型DNA領域を標的としたオリゴヌクレオチドDNAプライマーは、標的配列のPCR反応増幅が実現されるように調製することができる。RNAまたはcDNAも、同様に鋳型として用いることができる。鋳型DNAから増幅されたDNA配列は、次に、制限酵素を用いて分析して、増幅された配列中にその遺伝的多型が存在するかどうか判定することができ、それによって、患者の遺伝的多型プロフィールを提供する。制限断片の長さは、ゲル分析によって同定することができる。別法として、あるいはこれと組み合わせて、SNP(一塩基多型)分析などの技法を利用することもできる。
【0278】
欠失および挿入は、正常な遺伝子型と比較した、増幅された産物の大きさの変化によって検出することができる。点突然変異は、増幅されたDNAを、標識されたTrpM8イオンチャネルヌクレオチド配列にハイブリダイズさせることによって同定することができる。完全一致した配列は、RNAse消化または融解温度の相違によって、ミスマッチしている二本鎖分子と区別することができる。DNA配列の相違は、変性剤の存在下または非存在下における、ゲル中でのDNA断片の電気泳動における移動度の変化によって、あるいは直接DNA配列決定によって検出することもできる。例えば、Myersら、Science(1985年)、230: 1242を参照のこと。特定の位置における配列の変化は、RNAseプロテクションおよびS1プロテクションなどのヌクレアーゼ保護アッセイによって、あるいは化学開裂法によって明らかにすることもできる。Cottonら、Proc Natl Acad Sci USA(1985年)、85: 4397〜4401を参照のこと。別の実施形態では、例えば遺伝子変異の効率的なスクリーニングを行うために、TrpM8イオンチャネルヌクレオチド配列またはその断片を含むオリゴヌクレオチドプローブのアレイを構築することができる。アレイ技術法は周知であり、一般的な適用可能性を有し、遺伝子発現、遺伝子連鎖、および遺伝的変異性を含めた、分子遺伝学における様々な疑問に取り組むのに用いることができる(例えばM.Cheeら(Science、第274巻、610〜613頁(1996年)を参照)。
【0279】
一本鎖立体構造多型(SSCP法)は、突然変異体の核酸と野生型の核酸との間の電気泳動移動度の相違を検出するのに用いることができる(Oritaら(1989年)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA : 86: 2766; Cotton (1993年)、Mutat. Res 285: 125〜144; およびHayashi (1992年)、Genet. Anal. Tech. Appl. 9: 73〜79も参照)。サンプルおよび対照のTrpM8核酸の一本鎖DNA断片は、変性させ、そして復元させることができる。一本鎖の核酸の2次構造は、配列に応じて異なり、その結果生じる電気泳動移動度の変化によって、単一塩基の変化でさえ検出が可能となる。DNA断片は、標識しても、又は標識されたプローブで検出してもよい。アッセイの感度は、(DNAよりむしろ)RNAを用いることによって増強することができ、RNAの2次構造は、配列の変化に、より敏感である。好ましい実施形態では、かかる方法はヘテロ二本鎖分析を用いて、電気泳動移動度の変化に基づいて二本鎖のヘテロ二重鎖分子を分離する(Keenら(1991年)、Trends Genet 7: 5)。
【0280】
診断アッセイは、記載の方法によるTrpM8遺伝子の突然変異の検出を通して、乾癬症、疼痛および癌、特に神経障害性疼痛及び前立腺癌に対する感受性(罹りやすさ)を診断または判定する方法を提供する。
【0281】
TrpM8ポリペプチドおよび核酸の存在は、サンプル中で検出することができる。したがって、上記の感染症および疾患は、被験体に由来するサンプルから、TrpM8ポリペプチドまたはTrpM8イオンチャネルmRNAのレベルの異常な低下または増大を判定することを含む方法によって診断することができる。サンプルは、TrpM8発現の増大、低下、または発現のレベルもしくはパターンの空間的もしくは時間的変化を含めた他の異常に関連した疾患を患っているか、患っている疑いのある生物からの細胞または組織サンプルを含むものでよい。疾患の診断の方法として、通常、そのような疾患を患っているか、又は患っている疑いのある生物におけるTrpM8発現のレベルまたはパターンを、正常な生物における発現のレベルまたはパターンと比較することができる。
【0282】
したがって全般的に、サンプルにおけるTrpM8核酸を含む核酸の存在を検出する方法であって、前記核酸に特異的な少なくとも1つの核酸プローブとサンプルとを接触させるステップ、及び該核酸の存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法を開示する。例えば、この核酸プローブは、TrpM8サブユニット核酸またはその一部に特異的に結合するものでよく、これら2つの間の結合が検出され、複合体自体の存在も検出されうる。さらに、本発明は、TrpM8ポリペプチドの存在を検出する方法であって、このポリペプチドに結合可能な抗体と細胞サンプルとを接触させるステップ、及び該ポリペプチドの存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法を包含する。これは、抗体とポリペプチドとの間で形成された複合体の存在をモニターするか、あるいはポリペプチドと抗体との間の結合をモニターすることによって実現するのが好都合であろう。2つの物質の間の結合を検出する方法は、当技術分野で公知であり、これには、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)、および表面プラズモン共鳴法などが含まれる。
【0283】
発現の減少または増大は、例えば、PCR、RT−PCR、RNAseプロテクション、ノーザンブロット、および他のハイブリダイゼーション法など、ポリヌクレオチドを定量化するための、当技術分野で周知の任意の方法を用いてRNAレベルで測定することができる。宿主から得られたサンプルにおけるTrpM8などのタンパク質レベルを測定するのに用いることができるアッセイ技法は、当業者には周知である。そのようなアッセイ法には、ラジオイムノアッセイ、競合結合アッセイ、ウエスタンブロット分析、およびELISAアッセイが含まれる。
【0284】
さらに、疾患(感染症を含む)、例えば疼痛及び癌、特に神経障害性疼痛及び前立腺癌、または疾患に対する感受性(罹りやすさ)を診断するキットを開示する。診断キットは、TrpM8ポリヌクレオチドもしくはその断片;相補的なヌクレオチド配列;TrpM8ポリペプチドもしくはその断片、またはTrpM8ポリペプチドに対する抗体を含む。
【0285】
染色体アッセイ
本明細書に記載するヌクレオチド配列はまた、染色体同定のために価値がある。配列は、個々のヒト染色体上の特定の位置に特異的にターゲティングし、ハイブリダイズしうる。上述したように、ヒトTrpM8イオンチャネルは、ヒト(Homo sapiens)染色体2q37にマッピングするために見出されている。
【0286】
染色体への関連配列のマッピングは、これらの配列を疾患関連遺伝子と相関させる際の最初の重要なステップである。配列が正確な染色体位置にマッピングされた後は、染色体上の配列の物理的位置を遺伝子マップデータと相関させうる。そのようなデータは、例えばV. McKusick, Mendelian heritance in Man(Johns Hopkins University Welch Medical Libraryによりオンラインで入手可能)に見出される。続いて、同じ染色体領域にマッピングされた遺伝子と疾患との関係は、連鎖解析(物理学的に隣接する遺伝子の同時遺伝)によって同定される。
【0287】
罹患個体と非罹患個体の間のcDNA又はゲノム配列の相違もまた決定しうる。罹患個体の一部又は全体に突然変異が観察され、正常個体には観察されない場合には、その突然変異はその疾患の原因因子である可能性がある。
【0288】
予防および治療方法
さらに、TrpM8イオンチャネル活性の過剰に関連した異常な状態、およびその量が不十分であることに関連した異常な状態の両方を治療する方法を提供する。
【0289】
TrpM8イオンチャネル活性が過剰である場合には、いくつかの手法が利用可能である。1つの手法は、本明細書で上述した阻害剤化合物(アンタゴニスト)を薬学的に許容される担体と共に、TrpM8イオンチャネルに対するリガンドの結合を遮断することによって、あるいは第2のシグナルを阻害して、それによって異常な状態を軽減することによって活性化を抑制するのに有効な量で被験体に投与することを含む。
【0290】
別の手法では、内因性TrpM8イオンチャネルと競合してリガンドに結合することがまだできる、TrpM8ポリペプチドの可溶型を投与することができる。そのような競合物質の典型的な実施形態は、TrpM8ポリペプチドの断片を含む。
【0291】
なお別の手法では、発現遮断技法を用いて、内因性TrpM8イオンチャネルをコードする遺伝子の発現を阻害することができる。公知のそのような技法は、内部に生成されるか、あるいは別に投与されるアンチセンス配列を使用することを含む。例えば、「Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression」における、O'Connor, J Neurochem (1991年)、56: 560、CRC Press社、Boca Raton, Fla. (1988年)を参照されたい。別法として、遺伝子と三重ヘリックスを形成するオリゴヌクレオチドを供給することもできる。例えば、Leeら、Nucleic Acids Res (1979年)、6: 3073; Conney., et al、Science (1988年)、241: 456; Dervanら、Science (1991年)、251: 1360を参照されたい。これらのオリゴマーは、それ自体で投与することもでき、あるいは適切なオリゴマーをin vivoで発現することもできる。
【0292】
TrpM8イオンチャネルおよびその活性の過小発現に関した異常な状態の治療にも、いくつかの手法が利用可能である。1つの手法は、TrpM8イオンチャネルを活性化する化合物、すなわち上述のアゴニストを薬学的に許容される担体と共に、治療上有効な量で被験体に投与して、それによって異常な状態を軽減することを含む。別法では、被験体の適切な細胞によるTrpM8イオンチャネルの内因性産生に作用するように、遺伝子療法を利用することができる。例えば、TrpM8ポリヌクレオチドは、上記で論じた通り、複製欠損レトロウイルスベクターで発現するように構築することができる。レトロウイルス発現構築物は、次に単離して、TrpM8ポリペプチドをコードするRNAを含有するレトロウイルスプラスミドベクターで形質導入されたパッケージング細胞に導入することができ、それによって、目的の遺伝子を含有する感染性ウイルス粒子を、パッケージング細胞が産生する。in vivoで細胞を操作して、in vivoでポリペプチドの発現を行うために、これらの産生細胞を被験体に投与することができる。遺伝子療法の概要に関しては、「Human Molecular Genetics」、T StrachanおよびA P Read、BIOS Scientific Publishers Ltd社 (1996年)における、第20章、「Gene Therapy and other Molecular Genetic-based Therapeutic Approaches」(およびその中で引用されている参考文献)を参照のこと。
【0293】
製剤および投与
可溶型のTrpM8イオンチャネルポリペプチド、アゴニストペプチドおよびアンタゴニストペプチドなどのペプチド、または小分子は、適当な薬学的担体と組み合わせて処方することができる。そのような製剤は、治療上有効な量のポリペプチドまたは化合物と、薬学的に許容される担体または賦形剤とを含む。そのような担体には、生理食塩水、緩衝生理食塩水、ブドウ糖、水、グリセロール、エタノール、およびそれらの組合せが含まれるが、これらに限定されない。製剤は、投与方法に適合しているべきであり、十分に当技術分野の技術の範囲内にある。本開示はさらに、前述した組成物の1つまたは複数の成分で充填した1つまたは複数の容器を含む、医薬品パックおよびキットに関する。
【0294】
TrpM8ポリペプチドおよび他の化合物は、単独で用いることも、又は治療用化合物などの他の化合物と併用することもできる。
【0295】
これらの医薬組成物を全身投与するのに好ましい形態には、注射が含まれ、通常は、静脈内注射による。皮下、筋肉内、または腹腔内など、他の注射経路も用いることができる。全身投与の代替の方法には、胆汁酸塩もしくはフシジン酸、または他の界面活性剤などの浸透剤(penetrant)を用いた経粘膜投与および経皮投与が含まれる。加えて、腸溶製剤またはカプセル剤に適切に製剤した場合には、経口投与も可能であろう。これらの化合物の投与は、軟膏、ペースト、ゲル、および同様のものの形態で局所的および/または局在的に行うこともできる。
【0296】
必要な用量範囲は、ペプチドの選択、投与経路、製剤の性質、被験体の状態の性質、および担当医の判断による。但し、適当な用量は被験体の体重あたり0.1〜100μg/kgの範囲にある。しかし、利用可能な化合物が多様であること、および様々な投与経路の効率が相違していることを考えると、必要な用量は広い範囲にあることが予測される。例えば、経口投与は、静脈内注射による投与より高用量を必要とすることが予測されよう。これらの用量レベルの変動は、当技術分野で十分に理解されているように、最適化のための実証的な標準的ルーチンを用いて調整することができる。
【0297】
上述のように「遺伝子療法」としばしば呼ばれる様式の治療では、治療に使用されるポリペプチドを、被験体の体内で内在的に生成することもできる。したがって、例えば、被験体から得られた細胞を、例えばレトロウイルスプラスミドベクターの使用によって、ポリペプチドをex vivoでコードするように、DNAまたはRNAなどのポリヌクレオチドを用いて操作しうる。それらの細胞を次に被験体の体内に導入する。
【0298】
医薬組成物
さらに、TrpM8ポリペプチド、そのポリヌクレオチド、ペプチド、ベクターまたは抗体と、任意選択で、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤(これらの組合せを含める)とを、本発明に従って、治療上有効な量で投与することを含む医薬組成物も開示する。
【0299】
この医薬組成物は、ヒト医学および獣医学でヒトに使用するものでも、動物に使用するものでもよく、通常、薬学的に許容される希釈剤、担体、または賦形剤のうちの任意の1つまたは複数を含むであろう。治療での使用に許容される担体または希釈剤は、製薬技術分野で周知であり、例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.社(A. R. Gennaro編集、1985年)に記載されている。薬学的担体、賦形剤または希釈剤の選択は、意図されている投与経路と標準的な薬学の慣行とを考慮して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤、もしくは希釈剤として、あるいはそれに加えて、任意の適当な結合剤、滑沢剤、懸濁剤、コーティング剤、可溶化剤を含むことができる。
【0300】
保存剤、安定化剤、色素、および香料さえ、この医薬組成物中に提供することができる。保存剤の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、およびp−ヒドロキシ安息香酸のエステルが含まれる。酸化防止剤および懸濁剤も使用できる。
【0301】
様々な送達系に応じて、様々な組成物/製剤の要件があるであろう。例として、本明細書に記載の医薬組成物は、ミニポンプを用いて送達するように処方することも、あるいは粘膜経路によって、例えば、吸入用の鼻噴霧もしくはエアゾールとして、または摂取可能な溶液として、あるいは組成物が注射可能な形態に処方されて非経口的に、例えば、静脈内、筋肉内、または皮下経路によって送達されるように処方することもできる。別法として、製剤は、両方の経路で送達されるように設計することもできる。
【0302】
胃腸粘膜を通して薬剤を粘膜送達する場合、その薬剤は、一時的に胃腸管を通る間、安定した状態を維持できる必要があり、例えば、それは、タンパク分解性の分解に耐性を有し、酸性pHで安定であり、かつ胆汁の界面活性剤効果に耐性を有するべきである。
【0303】
必要に応じて、医薬組成物は、吸入によって、坐剤もしくは腟坐剤の形態で、ローション、溶液、クリーム、軟膏剤、もしくは丸衣の形態で局所的に、皮膚用パッチ剤の使用によって、デンプンもしくはラクトースなどの賦形剤を含有する錠剤の形態で経口的に、または単独で、もしくは賦形剤との混合物でカプセル剤または腟坐薬の中に入って、または、香料または着色剤を含有するエリキシール、溶液、もしくは懸濁液の形態で投与することができ、あるいは、非経口的に、例えば、静脈内に、筋肉内に、もしくは皮下にそれらを注入することもできる。非経口投与用には、組成物を無菌水溶液の形態で用いるのが最もよいであろう。この場合、無菌水溶液は、他の物質、例えば血液と等張な溶液を作製するのに十分な塩および単糖を含有することができる。口腔投与用または舌下投与用には、従来の方法で処方できる錠剤またはトローチの形態で、組成物を投与することができる。
【0304】
ワクチン
別の実施形態は、哺乳動物において免疫学的応答を誘導する方法であって、該哺乳動物に、該動物を不安、ストレス、鬱病、疼痛及び癌、中でも具体的には前立腺癌から防御する抗体及び/又はT細胞免疫応答を生じるのに十分なTrpM8イオンチャネルポリペプチド又はその断片を接種することを含む方法に関する。
【0305】
また別の実施形態は、哺乳動物において免疫学的応答を誘導する方法であって、in vivoにおいてTrpM8ポリヌクレオチドの発現を指令するベクターを介してTrpM8ポリペプチドを送達し、該動物を疾病から防御する抗体を産生するための免疫学的応答を誘導することを含む方法に関する。
【0306】
さらなる実施形態は、免疫学的/ワクチン製剤(組成物)であって、哺乳動物宿主に導入した場合に、該哺乳動物においてTrpM8ポリペプチドに対する免疫学的応答を誘導するものであり、TrpM8ポリペプチド又はTrpM8遺伝子を含む免疫学的/ワクチン製剤(組成物)に関する。ワクチン製剤はさらに好適な担体を含んでもよい。
【0307】
TrpM8ポリペプチドは胃において分解されうるため、非経口投与(例えば皮下、筋肉内、静脈内、皮内などの注射)することが好ましい。非経口投与に好適な製剤としては、抗酸化剤、バッファー、静菌剤及び製剤をレシピエントの血液と等張性にする溶質を含みうる水性及び非水性滅菌注射溶剤、並びに懸濁化剤又は増粘剤を含みうる水性及び非水性滅菌懸濁剤が挙げられる。製剤は、単位用量容器又は複数用量容器、例えば密封アンプル及びバイアルに入れ、また使用直前に滅菌液体担体の添加のみが必要な凍結乾燥状態で保存することができる。ワクチン製剤はまた、製剤の免疫原性を高めるアジュバント系、例えば水中油系及び当技術分野で公知の他の系を含んでもよい。投与量は、ワクチンの比活性に応じて異なり、これは通常の実験により容易に決定することができる。
【0308】
ワクチンは、1以上のTrpM8ポリペプチド又はペプチドから調製することができる。
【0309】
免疫原性ポリペプチド又はペプチド(1若しくは複数)を有効成分(1若しくは複数)として含むワクチンの調製は当業者に公知である。典型的には、そのようなワクチンは、液体溶剤又は懸濁剤として注射可能なように調製することができ、また注射前に液体で溶液又は懸濁液とするのに好適な固形形態を調製することも可能である。調製物はまた、乳化してもよいし、又はリポソームに封入したタンパク質であってもよい。免疫原性の有効成分は、薬学的に許容されかつ有効成分と混和可能な賦形剤と混合してもよい。好適な賦形剤は、例えば水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びそれらの組み合わせがある。
【0310】
さらに、所望であれば、ワクチンは、湿潤剤若しくは乳化剤、pH緩衝化剤、及び/又はワクチンの有効性を高めるアジュバントなどの少量の補助物質を含んでもよい。有効なアジュバントの例としては、限定されるものではないが、水酸化アルミニウム、N−アセチル−ムラミル−L−スレオニル−D−イソグルタミン(thr−MDP)、N−アセチル−ノル−ムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミン(CGP11637,、nor−MDPと称する)、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミニル−L−アラニン−2−(1’−2’−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ヒドロキシホスホリルオキシ)−エチルアミン(CGP19835A、MTP−PEと称する)、及び2%スクアレン/Tween80エマルジョン中に細菌から抽出された3つの成分、モノホルホリルリピドA、ジミコール酸トレハロース(trehalose dimycolate)及び細胞壁骨格(MPL+TDM+CWS)を含むRIBIが挙げられる。
【0311】
アジュバントのさらなる例及び他の薬剤としては、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン)、硫酸ベリリウム、シリカ、カオリン、炭素、油中水乳液、水中油乳液、ムラミルジペプチド、細菌エンドトキシン、リピドX、コリネバクテリウム・パルバム(プロピオノバクテリウム・アクネス)、百日咳菌(Bordetella pertussis)、ポリリボヌクレオチド、アルギン酸ナトリウム、ラノリン、リゾレシチン、ビタミンA、サポニン、リポソーム、レバミゾール、DEAE−デキストラン、ブロックコポリマー又は他の合成アジュバントが挙げられる。そのようなアジュバントは、種々の供与源から市販されており、例えばMerck Adjuvant 65(Merck and Company, Inc., Rahway, N.J.)又はフロイント不完全アジュバント及び完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, Michigan)がある。
【0312】
典型的には、Amphigen(水中油型)、Alhydrogel(水酸化アルミニウム)、AmphigenとAlhydrogelの混合物などのアジュバントを用いる。水酸化アルミニウムのみがヒトへの適用に承認されている。
【0313】
免疫原とアジュバントとの比率は、両方が有効な量で存在する限り広範に変動しうる。例えば、水酸化アルミニウムは、ワクチン混合物の約0.5%(Al基準)の量で存在しうる。簡便には、ワクチンは最終濃度が0.2〜200μg/ml、好ましくは5〜50μg/ml、最も好ましくは15μg/mlの範囲で免疫原を含有するように製剤化する。
【0314】
製剤化後、ワクチンを滅菌容器に入れ、それを続いて密封し、低温、例えば4℃で保存するか、又は凍結乾燥しうる。凍結乾燥によって、安定化形態で長期保存が可能になる。
【0315】
ワクチンは、慣用的には、注射による非経口投与、例えば皮下又は筋肉内投与する。他の投与経路に好適な別の製剤としては、座剤、及び場合によっては経口製剤が挙げられる。座剤については、慣用の結合剤及び担体としては、例えばポリアルキレングリコール又はトリグリセリドが挙げられ、そのような座剤は、0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲の有効成分を含む混合物から形成することができる。経口製剤は、通常用いられる賦形剤、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、スターチ、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む。これらの組成物は、溶剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、又は散剤の剤形をとり、10%〜95%、好ましくは25%〜70%の有効成分を含む。ワクチン組成物を凍結乾燥する場合には、凍結乾燥材料を投与前に例えば懸濁液に再構成しうる。再構成は、好ましくはバッファー中で行う。
【0316】
患者に経口投与するためのカプセル剤、錠剤及び丸剤は、例えばEudragit “S”、Eudragit “L”、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む腸溶性コーティングと共に提供しうる。
【0317】
TrpM8ポリペプチドは、中性又は塩形態でワクチンに製剤化しうる。薬学的に許容される塩としては、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と共に形成される)、例えば塩酸若しくはリン酸などの無機塩と共に形成されるもの、酢酸、シュウ酸、酒石酸及びマレイン酸などの有機塩と共に形成されるものが挙げられる。遊離カルボキシル基と共に形成される塩はまた、無機塩基、例えばナトリウム、カリウム、アンモニア、カルシウム又は水酸化第二鉄など、並びに有機塩基、例えばイソプロピルアミン、トリメチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン及びプロカインから誘導されるものであってもよい。
【0318】
投与
個々の被験体に最も適した実際の用量は、通常、医師が決定するであろう。そして、それは特定の患者の年齢、体重、および反応によって異なるであろう。以下の用量は、平均的な場合の例である。当然ながら、個々の場合には、さらに高い用量範囲、またはさらに低い用量範囲が有益となる場合もありうる。
【0319】
本明細書に記載の医薬およびワクチン組成物は、注射によって直接投与することができる。この組成物は、非経口投与用、粘膜投与用、筋肉内投与用、静脈内投与用、皮下投与用、眼内投与用、あるいは経皮投与用に処方することができる。通常、各タンパク質を、体重1kgあたり0.01から30mgの用量で投与することができ、好ましくは0.1から10mg/kg、より好ましくは体重1kgあたり0.1から1mgで投与する。
【0320】
「投与される」という用語は、ウイルス性または非ウイルス性の技法による送達を含む。ウイルス性の送達機構には、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびバキュロウイルスベクターが含まれるが、これらに限定されない。非ウイルス性の送達機構には、脂質媒介性のトランスフェクション、リポソーム、免疫リポソーム、リポフェクチン、陽イオン性表面両親媒性試薬(CFA)、およびそれらの組合せが含まれる。そのような送達機構のための経路には、粘膜、経鼻、経口、非経口、胃腸、局所、または舌下経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0321】
「投与される」という用語には、粘膜経路による送達、例えば吸入用の鼻噴霧もしくはエアゾールとして、または摂取可能溶液としての送達、例えば静脈内、筋肉内若しくは皮下経路の注射可能な形態による送達を行う非経口経路が含まれるが、これらに限定されない。
【0322】
「同時投与される」という用語は、例えばTrpM8ポリペプチド、およびアジュバントなどの追加の物質それぞれを投与する部位および時間が、必要な免疫系のモジュレーションを実現するようなものであることを意味する。したがって、ポリペプチドおよびアジュバントは、同じ時間に、そして同じ部位に投与することもできるが、ポリペプチドを、アジュバントとは異なった時間に、そして、異なった部位に投与する方が有利であることもある。ポリペプチドおよびアジュバントは、同じ送達媒体で送達することさえでき、また、ポリペプチドおよび抗原を、結合させて、かつ/または分離させて、かつ/または遺伝学的に結合させて、かつ/または遺伝的に分離させることができる。
【0323】
TrpM8ポリペプチド、ポリヌクレオチド、ペプチド、ヌクレオチド、その抗体、および任意選択でアジュバントを、宿主被験体に別々に投与することも、あるいは単一用量として、もしくは複数用量で同時投与することもできる。
【0324】
ワクチン組成物および医薬組成物は、注射(非経口、皮下、および筋肉内注射を含む)、鼻腔内、粘膜、経口、腟内、尿道、または眼投与など、多くの異なる経路によって投与することができる。
【0325】
本明細書に記載のワクチンおよび医薬組成物は、従来の方法によって非経口的に、例えば、皮下注射または筋肉内注射によって投与することができる。他の方法の投与に適した別の製剤には、坐剤、および、場合によって、経口製剤が含まれる。坐剤は、伝統的な結合剤および担体、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含むものでよく、そのような坐剤は、0.5%から10%の範囲、場合によっては1%から2%の範囲にある有効成分を含有する混合物から形成することができる。経口製剤は、通常、例えば、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム、および同様のものなどの通常使用される賦形剤を含む。これらの組成物は、溶剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、徐放性製剤、または散剤の形態を取り、10%から95%、好ましくは25%から70%の有効成分を含有する。ワクチン組成物が凍結乾燥である場合には、凍結乾燥物質は、投与前に、例えば、懸濁液として再構成することができる。再構成は、バッファー中で行うのが好ましい。
【0326】
さらなる態様
本発明のさらなる態様及び実施形態を、以下の番号の項目に記載した。本発明はこれらの態様を包含すると理解されるべきである。
【0327】
第1項目:配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含むTrpM8ポリペプチド、又はその相同体、変異体若しくは誘導体。
【0328】
第2項目:第1項目に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0329】
第3項目:配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はその相同体、変異体若しくは誘導体を含む、第2項目に記載の核酸。
【0330】
第4項目:第1項目に記載のポリペプチドの断片を含むポリペプチド。
【0331】
第5項目:配列番号3と配列番号5との間の相同性を有する1若しくはそれ以上の領域を含む、又は配列番号3と配列番号5との間で異なる1若しくはそれ以上の領域を含む、第3項目に記載のポリペプチド。
【0332】
第6項目:第4又は5項目に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【0333】
第7項目:第2、3又は6項目に記載の核酸を含むベクター。
【0334】
第8項目:第2、3若しくは6項目に記載の核酸、又は第7項目に記載のベクターを含む宿主細胞。
【0335】
第9項目:第2、3若しくは6項目に記載の核酸、又は第7項目に記載のベクターを含むトランスジェニック非ヒト動物。
【0336】
第10項目:マウスである、第9項目に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【0337】
第11項目:イオンチャネルと特異的に相互作用可能な化合物を同定する方法における第1、4又は5項目に記載のポリペプチドの使用。
【0338】
第12項目:イオンチャネルと特異的に相互作用可能な化合物を同定する方法における第9又は10項目に記載のトランスジェニック非ヒト動物の使用。
【0339】
第13項目:TrpM8のアンタゴニストを同定する方法であって、TrpM8受容体を発現する細胞と候補化合物とを接触させるステップ、及び該細胞におけるサイクリックAMP(cAMP)のレベルが上記接触の結果低下したか否かを判定するステップを含む方法。
【0340】
第14項目:細胞におけるサイクリックAMPの内因性レベルを低下可能な化合物の同定方法であって、TrpM8を発現する細胞と候補化合物とを接触させるステップ、及び該細胞におけるサイクリックAMP(cAMP)のレベルが上記接触の結果低下したか否かを判定するステップを含む方法。
【0341】
第15項目:TrpM8ポリペプチドと結合可能な化合物を同定する方法であって、TrpM8ポリペプチドと候補化合物とを接触させるステップ、及び該候補化合物がTrpM8イオンチャネルポリペプチドと結合するか否かを判定するステップを含む方法。
【0342】
第16項目:第11〜15項目のいずれかに記載の方法によって同定された化合物。
【0343】
第17項目:第1、4又は5項目に記載のポリペプチドに特異的に結合可能な化合物。
【0344】
第18項目:抗体の作製方法における第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、又は第2、3若しくは6項目に記載の核酸の使用。
【0345】
第19項目:第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、又は第2、3若しくは6項目に記載のヌクレオチド若しくはその一部によりコードされるポリペプチドに特異的に結合可能な抗体。
【0346】
第20項目:以下のいずれか1以上と薬学的に許容される担体若しくは希釈剤を含む医薬組成物:第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、第2、3若しくは6項目に記載の核酸若しくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16若しくは17項目に記載の化合物、及び第19項目に記載の抗体。
【0347】
第21項目:以下のいずれか1以上を含むワクチン組成物:第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、第2、3若しくは6項目に記載の核酸若しくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16若しくは17項目に記載の化合物、及び第19項目に記載の抗体。
【0348】
第22項目:以下のいずれか1以上を含む、疾患又は疾患の罹りやすさのための診断キット:第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、第2、3若しくは6項目に記載の核酸若しくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16若しくは17項目に記載の化合物、及び第19項目に記載の抗体。
【0349】
第23項目:TrpM8の活性増大に関連する疾患に罹患した患者の治療方法であって、該患者にTrpM8イオンチャネルのアンタゴニストを投与するステップを含む方法。
【0350】
第24項目:TrpM8の活性低減に関連する疾患に罹患した患者の治療方法であって、該患者にTrpM8イオンチャネルのアゴニストを投与するステップを含む方法。
【0351】
第25項目:TrpM8イオンチャネルが配列番号3若しくは配列番号5に示される配列を有するポリペプチドを含む、第23又は24項目に記載の方法。
【0352】
第26項目:患者における疾患の治療及び/又は予防方法であって、該患者に以下のいずれか1以上を投与するステップを含む方法:第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、第2、3若しくは6項目に記載の核酸若しくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16若しくは17項目に記載の化合物、第19項目に記載の抗体、第20項目に記載の医薬組成物、及び第20項目に記載のワクチン。
【0353】
第27項目:疾患の治療又は予防方法に使用するための、第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、第2、3若しくは6項目に記載の核酸若しくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16若しくは17項目に記載の化合物、及び/又は第19項目に記載の抗体を含む薬剤。
【0354】
第28項目:疾患の治療又は予防のための医薬組成物の製造のための、第1、4若しくは5項目に記載のポリペプチド若しくはその一部、第2、3若しくは6項目に記載の核酸若しくはその一部、第7項目に記載のベクター、第8項目に記載の細胞、第16若しくは17項目に記載の化合物、及び第19項目に記載の抗体の使用。
【0355】
第29項目:改変型TrpM8遺伝子を含むことを特徴とする非ヒトトランスジェニック動物。
【0356】
第30項目:改変が、TrpM8の欠失、機能欠損を生じるTrpM8の突然変異、TrpM8へのターゲティング若しくはランダム突然変異を含むヌクレオチド配列を有する外因性遺伝子の導入、TrpM8への別の種由来の外因性遺伝子の導入、及び上記のいずれかの組み合わせからなる群より選択される、第29項目に記載の非ヒトトランスジェニック動物。
【0357】
第31項目:機能的に破壊された内因性TrpM8遺伝子を有する非ヒトトランスジェニック動物であって、そのゲノムに異種TrpM8タンパク質をコードするトランスジーンを含みかつそれを発現する非ヒトトランスジェニック動物。
【0358】
第32項目:宿主細胞においてTrpM8遺伝子を機能的に破壊するための核酸構築物であって、(a)非相同置換部分、(b)非相同置換部分の上流に位置する第1相同領域であって、第1TrpM8遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第1相同領域、並びに(c)非相同置換部分の下流に位置する第2相同領域であって、第2TrpM8遺伝子配列と実質的な同一性を有するヌクレオチド配列を有する第2相同領域を含み、第2TrpM8遺伝子配列は、天然の内因性TrpM8遺伝子における第1TrpM8遺伝子配列の下流に位置する、核酸構築物。
【0359】
第33項目:TrpM8ポリペプチドの製造方法であって、第8項目に記載の宿主細胞を、TrpM8ポリペプチドをコードする核酸が発現される条件下にて培養するステップを含む方法。
【0360】
第34項目:サンプルにおける第2、3又は6項目に記載の核酸の存在を検出する方法であって、該サンプルと該核酸に特異的な少なくとも1つの核酸プローブとを接触させるステップ、及び該核酸の存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法。
【0361】
第35項目:サンプルにおける第1、4又は5項目に記載のポリペプチドの存在を検出する方法であって、該サンプルと第19項目に記載の抗体とを接触させるステップ、及び該ポリペプチドの存在についてサンプルをモニターするステップを含む方法。
【0362】
第36項目:TrpM8発現の増大、低減又は異常により引き起こされる又はそれに関連する疾患又は症候群を診断する方法であって、(a)かかる疾患に罹患した又は罹患した疑いのある動物におけるTrpM8の発現レベル又は発現パターンを検出するステップ、及び(b)発現レベル又は発現パターンを正常動物のものと比較するステップを含む方法。
【0363】
第37項目:疾患が、社会不安、心的外傷後ストレス障害、恐怖症、対人恐怖症、特定恐怖症、パニック障害、強迫障害、急性ストレス障害、分離不安障害、全般性不安障害、大鬱病、気分変調、双極性障害、季節性感情障害、又は出生後鬱病である、第22〜28項目のいずれかに記載のキット、方法、薬剤若しくは使用、又は第36項目に記載の方法。
【実施例1】
【0364】
トランスジェニックTrpM8ノックアウトマウス:TrpM8遺伝子ターゲッティングベクターの構築
TrpM8遺伝子は、ゲノムデータベースのホモロジーサーチを用いてバイオインフォマティクスによって同定された。87kbのギャップを有するゲノムコンティグを種々のデータベースから構築した。このコンティグは十分なフランキング配列の情報を有しているため、ターゲティングベクターにクローニングするための相同性アームを設計することが可能であった。
【0365】
マウスTrpM8遺伝子は、23のコーディングエキソンを有する。ターゲッティング方法は、15番目のコーディングエキソンの一部を除去するように設計するものである。除去される領域に隣接する4.0kbの5’相同性アームと、1.6kbの3’相同性アームとをPCRによって増幅して、断片をターゲッティングベクターにクローニングする。アームを増幅するのに使用された各オリゴヌクレオチドプライマーの5’末端は、ベクターポリリンカーのクローニング部位と適合性を有し、かつ、アーム自体には存在しない切断頻度の低い制限酵素のうち異なる認識部位を含有するように合成する。TrpM8の場合には、下記のプライマー表に記載する通りプライマーを設計し、これらは、5’アームクローニング部位としてAgeI/NotIを、3’アームクローニング部位としてAscI/FseIを有する(用いたターゲティングベクターの構造は、関連する制限部位も含めて図Xに示す)。
【0366】
アームプライマー対(5’armF/5’armR)および(3’armF/3’armR)に加えて、TrpM8遺伝子座に特異的なプライマーをさらに、以下の目的で設計する。5’および3’のプローブプライマー対(5’prF/5’prR、および3’prF/3’prR)は、各アームの外側にあり、これらを超えた先にある非反復性のゲノムDNAの150〜300bpの2つの短い断片を増幅するためであり、また、単離された推定上の標的クローンにおける、標的遺伝子座のサザン解析を可能にするためでもある。マウス遺伝子型決定プライマー対(hetFおよびhetR)は、ベクター特異的プライマー、この場合Asc403を使用したマルチプレックスPCRで用いた場合、野生型、ヘテロ接合体、およびホモ接合体マウス相互の識別を可能にする。そして、最後に、標的スクリーニングプライマー(3’scr)は、3’アーム領域の末端の下流にアニールし、ベクター(TK5IBLMNL)の3’末端に特異的なプライマー(この場合Asc403)と対にして用いた場合、標的事象に特有の1.7kbアンプリマーを生成する。このアンプリマーは、所望のゲノム変化が起こった細胞に由来する鋳型DNAからのみ得ることができ、無作為に組み込まれたベクターコピーを含有するバックグランドクローンからの、正しくターゲッティングされた細胞の同定を可能にする。ターゲッティングストラテジーで使用されたこれらのプライマーの位置および、TrpM8遺伝子座のゲノム構造を示す。
【表1】

【0367】
相同性アームの位置は、TrpM8遺伝子を機能的に破壊するように選択される。調製されるターゲッティングベクターでは、発現促進されるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(neo)遺伝子がTrpM8遺伝子と同じ方向に配置されており、このneo遺伝子によって構成された選択カセットの上流にある内因性遺伝子発現レポーター(フレーム非依存性のlacZ遺伝子)によって構成された非相同性配列で、欠失されるべきTrpM8領域が置換除去される。
【0368】
5’および3’の相同性アームがターゲッティングベクターTK5IBLMNL(図5を参照)にクローニングされると、標準的な分子生物学技法を用いて、大規模の高純度DNA調製物が調製される。20μgの新たに調製されたエンドトキシン非含有DNAを、別の低頻度切断制限酵素であるSwaIで消化する。これは、アンピシリン耐性遺伝子と、細菌の複製起点との間のベクター骨格特有の部位に存在する。次に、線状化されたDNAを沈殿させて、100μlのリン酸緩衝生理食塩水中に再懸濁し、エレクトロポレーションの準備ができる。
【0369】
エレクトロポレーションの後、24時間置き、トランスフェクトした細胞を、200μg/mlのネオマイシンを含有する培地中で9日間培養する。クローンを96ウェルプレート中に採取して、複製および増殖させ、その後、内因性TrpM8遺伝子とターゲッティング構築物との間での相同組換えが起こっているクローンを同定するために、PCR(上述したプライマー3’scrおよびAsc146を用いる)によってスクリーニングする。陽性クローンは、1%から5%の割合で同定できる。すべて標準的操作法を用いて、レプリカの冷凍と、ターゲッティング事象を確認するための、上述の通りに調製された5’および3’の外部プローブを用いたサザンブロット用に十分に高品質なDNAの調製とを可能にするために、これらのクローンを増殖させる(Russら、2000年、Nature 2000 Mar 2; 404(6773): 95〜99)。診断制限酵素によって消化されたDNAのサザンブロットを、外部プローブでハイブリダイズさせたときに、突然変異体バンドおよび変化していない野生型バンドの存在によって、相同的にターゲッティングされたES細胞クローンが確認される。例えば、BstEIIで消化した野生型ゲノムDNAによって、いずれかの外部プローブとハイブリダイズさせた場合に8.0kbのバンドが生じ、標的対立遺伝子を含むゲノムDNAを同様に消化することによって、さらに約13kbのノックアウト特異的バンドが生じうる。
【実施例2】
【0370】
トランスジェニックTrpM8ノックアウトマウス:TrpM8イオンチャネル欠損マウスの作製
メスおよびオスのC57BL/6マウスを交配させ、妊娠3.5日に、胚盤胞を単離する。選択されたクローンから得た細胞を、胚盤胞1つにつき10〜12細胞注入し、7〜8個の胚盤胞を偽妊娠のF1のメスの子宮に移植する。何匹かの高レベル(最大100%)アグーチオスを含むキメラ子マウスの同腹仔が生まれる(アグーチ皮膚色は、ターゲッティングされたクローンの子孫である細胞の分布を示す)。これらのオスキメラをメスのMF1および129マウスと交配させ、アグーチ皮膚色によって、そしてPCRによるそれぞれのゲノム型決定によって生殖系列への伝達を判定する。
【0371】
溶解させたテールクリップのPCR遺伝子型決定を、プライマーhetFおよびhetR、ならびに第3の、ベクター特異的プライマー(Asc306)を用いて行う。このマルチプレックスPCRは、プライマーhetFおよびhetRから、野生型遺伝子座(存在していれば)からの増幅を可能にし、230bpのバンドを与える。ノックアウトマウスではhetFの部位が欠失されているため、この増幅はターゲッティングされた対立遺伝子からはないであろう。しかし、Asc306プライマーは、3’アームのすぐ中の領域にアニールするhetRプライマーと併せて、ターゲッティングされた遺伝子座から338bpのバンドを増幅するであろう。したがって、このマルチプレックスPCRは、同腹仔の遺伝子型を以下の通りに明らかにする。野生型のサンプルは230bpの単一のバンドを示す;ヘテロ接合DNAサンプルは230bpおよび338bpの2つのバンドを生じ、ホモ接合サンプルは、標的に特異的な338bpバンドのみを示すであろう。
【実施例3】
【0372】
生物学的データ:遺伝子発現パターン
1)RT−PCR
前立腺、肝臓及び精巣における遺伝子の発現を、RT−PCRを用いて示す(図2)。
【0373】
2)LacZ染色された構造のリスト
LacZ染色
切除した組織のXgal染色を以下のように行う。
【0374】
代表的な組織切片を大きな器官から作製する。全ての小器官及び管を切開し、固定剤及び染色剤を浸透させる。組織をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で十分に洗浄して血液又は消化管内容物を除去する。組織を固定剤(2%ホルムアルデヒド、0.2%グルタルアルデヒド、0.02% NP40、1mM MgCl、デオキシコール酸ナトリウム0.23mMを含むPBS)中に30〜45分おく。PBSでの5分間の洗浄を3回行った後、30℃にて18時間にわたりXgal染色溶液(PBS中4mMフェロシアン化K、4mMフェリシアン化K、2mM MgCl、1mg/ml X−gal)中に組織をおく。組織をPBSで3回洗浄し、4%ホルムアルデヒド中で24時間かけて後固定処理を行い、PBSで再度洗浄した後、70%エタノール中で保存する。
【0375】
LacZ染色を用いることにより、TrpM8がDRG及び特にニューロンにおいて発現されることがわかる。
【実施例4】
【0376】
生物学的データ:テールフリック試験
テールフリック鎮痛試験を、テールフリック鎮痛測定器を用いて実施する。この装置によって、げっ歯動物における疼痛感受性を正確にかつ再現性をもって測定するための方法を利用することが簡便となる(D’Amour, F.E. and D.L. Smith, 1941, Expt. Clin. Pharmacol., 16: 179-184)。この装置は、熱源としてシャッターにより制御されるランプを備える。ランプは、動物の下に配置され、より閉じ込めのない環境となっている。テールフリックは、ユーザーが動物を操作する必要のない自動検出回路によって検出される。動物は、通風した管内に拘束され、その尾が装置の上部にあるセンサー溝に配置される。
【0377】
シャッターの開口による尾への強力な光線の起動によって、いくつかのポイントにおいて不快となり、そこで動物がその尾を光線のない場所へ動かす。自動化モードでは、光検出器が尾の動きを検出し、時計を停止し、シャッターを閉鎖する。シャッターの開口と動物の反応との間で経過した合計時間を記録する。
【0378】
変異型トランスジェニック動物の応答は、年齢及び性別が一致した野生型マウスと比較する。単一の動物を異なる熱設定の試験に供し、55℃を超えない尾温度にまで増大させる。
【0379】
この試験は、組織損傷性の疼痛に対するノックアウトマウスの応答の指標として用いられる。
【0380】
突然変異体は、熱によって誘導される疼痛に対する感受性が低く、痛覚鈍麻を示すことが観察される。突然変異体は、年齢及び性別が一致した野生型マウスと比較して、熱源からその尾を動かす持続時間が長いことが観察される(図3)。従って、これは、TrpM8が疼痛の感知に関与していることを示す。
【実施例5】
【0381】
生物学的データ:オープンフィールド試験
ノックアウトマウス及び野生型対照マウスをオープンフィールド試験において試験する。当業者は、このような試験に精通しており、どのように実施するかも理解している。簡単に説明すると、透明な側面を有する防風ガラス箱の中央にマウスを配置し、一定時間におけるマウスの移動をビデオで記録する。ある時間におけるマウスの移動した距離及びマウスの位置を分析する。対照動物は、一般的にその箱領域の周辺部のあたりを移動する時間を最も多く費やす。この正常パターンからの変更は、特にその箱領域の中心領域において費やす時間が記録され、この増大は動物がより不安がないことを意味しうる。
【0382】
結果は、ノックアウトマウスは野生型対照と同程度の移動を示した(図4A)。しかしながら、このデータの分析結果から、ノックアウトマウスは、周辺領域と比較して、オープンフィールドの箱領域の中心領域において移動する時間が全体的に多かったことが示された(図4B)。これは、野生型と比較した場合のノックアウト動物が非常に大きく中心領域において移動した距離に反映された(図4C)。
【実施例6】
【0383】
生物学的データ:生理学:血漿コルチコステロン
コルチコステロンは、ストレス及び不安に応答して放出されるホルモンである。コルチコステロンレベルが低いほど、動物が受けている可能性のある不安及びストレスのレベルが低い。
【0384】
血漿コルチコステロンをTrpM8−/−マウス及び年齢が一致した+/+マウスにおいてELISAアッセイを用いて分析した。コルチコステロンレベルは、野生型よりも変異型動物において低いことがわかった(図5)。このことは、TrpM8マウスがその野生型対照よりも不安が少なくストレスを受けていないことを示している。
【0385】
各特許出願および特許の手続き中のものを含めた、本明細書で言及した各特許出願および特許、ならびに上記の特許出願および特許のそれぞれで引用または参照された各文献(「特許出願引用文献」)、ならびに、各特許出願および特許、ならびに特許出願引用文献のいずれかで引用または言及したいかなる製品の、製造会社によるいかなる説明書およびカタログも、これにより参照により本明細書に援用する。さらに、本文中で引用されたすべての文献、および本文中で引用された文献中で引用または参照されたすべての文献、および本文中で引用または言及されたいかなる製品の、製造会社によるいかなる説明書およびカタログも、これにより参照により本明細書に援用する。
【0386】
本発明の記載した方法および系の種々の変更形態および変形形態は、本発明の範囲および精神から逸脱しないことは当業者には明らかであろう。特定の好ましい実施形態に関連して本発明を記述したが、本発明の特許請求の範囲は、そのような特定の実施形態に不当に制限されるべきではないこと、そして、本発明の範囲内において多くの変更および追加を加えることができることを理解されたい。実際に、本発明を実施するために記載した方法の種々の変更形態は、分子生物学あるいは関連分野の当業者には明らかであり、特許請求の範囲内に含まれるものである。さらに、独立形式請求項の特徴を用いて、本発明の範囲から逸脱せずに、従属請求項の特徴の様々な組合せを作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0387】
【図1】ノックアウトベクターを示す図である。
【図2】RT−PCR試験による遺伝子発現の結果を示す図である。
【図3】野生型マウス(wt)と比べたノックアウトマウス(突然変異体)に関するテール・フリック試験の結果を示すグラフである。
【図4A】野生型マウス(wt、+/+)と比べたノックアウトマウス(突然変異体、−/−)に関するオープンフィールド試験の結果を示すグラフである。図4Aは、中央領域での行動時間を示す。
【図4B】図4Bは中央領域で移動した距離を示す。
【図4C】図4Cは移動した合計距離を示す。
【図5】3月齢での雌性野生型マウス(黒棒線)と比べた雌性ノックアウトマウス(突然変異体、白棒線)に関する血漿コルチコステロンレベルのアッセイの結果を示すグラフである。
【配列表フリーテキスト】
【0388】
配列番号1は、ヒトTrpM8のcDNA配列を示す。配列番号2は、配列番号1から得られたオープンリーディングフレームを示す。配列番号3は、ヒトTrpM8のアミノ酸配列を示す。配列番号4は、マウスTrpM8のcDNAのオープンリーディングフレームを示す。配列番号5は、マウスTrpM8のアミノ酸配列を示す。配列番号6〜18は、ノックアウトプラスミドを構築するために使用された遺伝子型決定用プライマーを示す。配列番号19は、ノックアウトプラスミドの配列を示す。








【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能的に破壊された内因性TrpM8遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト動物であって、該TrpM8遺伝子が配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
TrpM8遺伝子又はその一部に欠失を有する、請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
野生型動物と比較した場合、
(a)好ましくはテール・フリック試験で測定される、疼痛に対する感受性の低下、
(b)好ましくはオープンフィールド試験で測定される、ストレスの低下、及び
(c)血漿コルチコステロンレベルの低下
の表現型のうちの任意の1つ又は組合せを示す、請求項1又は2に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
トランスジェニック非ヒト動物であって、該動物のTrpM8遺伝子の少なくとも一部又は全体が別の動物、好ましくは別の種、さらに好ましくはヒトのTrpM8遺伝子の配列で置換されているトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
マウスである、請求項1〜4のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
機能的に破壊されたTrpM8遺伝子を、好ましくはTrpM8遺伝子に欠失を含み、該TrpM8遺伝子が配列番号4に示される核酸配列又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むものである、請求項5に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物から単離された細胞又は組織。
【請求項8】
機能的に破壊された内因性TrpM8遺伝子を有する細胞であって、該TrpM8遺伝子が配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む細胞。
【請求項9】
疼痛又はストレスのモデルとしての、請求項1〜6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物、請求項7に記載の細胞若しくは組織、又は請求項8に記載の細胞の使用。
【請求項10】
TrpM8関連疾患のモデルとしての、請求項1〜6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物、請求項7に記載の細胞若しくは組織、又は請求項8に記載の細胞の使用。
【請求項11】
配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法における、請求項1〜6のいずれかに記載の非ヒトトランスジェニック動物、請求項7に記載のそれらの単離された細胞若しくは組織、又は請求項8に記載の細胞の使用。
【請求項12】
配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法であって、動物、好ましくは野生型動物又は請求項1〜6のいずれかに記載のトランスジェニック非ヒト動物に候補化合物を投与するステップ、並びに以下の表現型:(a)好ましくはテール・フリック試験で測定される、疼痛に対する感受性、(b)好ましくはオープンフィールド試験で測定される、ストレス、及び(c)血漿コルチコステロンレベル、のいずれかの変化を測定するステップを含む方法。
【請求項13】
前記動物に前記表現型(a)〜(c)のいずれかの増大を示すことが可能な候補化合物を同定するステップを含む、請求項12に記載のTrpM8ポリペプチドのアゴニストを同定する方法。
【請求項14】
前記動物に前記表現型(a)〜(c)のいずれか又はそのような表現型の低下を示すことが可能な候補化合物を同定するステップを含む、請求項12に記載のTrpM8ポリペプチドのアンタゴニストを同定する方法。
【請求項15】
配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定する方法であって、細胞又は組織、好ましくは野生型細胞若しくは組織、又は請求項7に記載の細胞若しくは組織、又は請求項8に記載の細胞に候補化合物を曝露するステップ、及び該細胞の又は該組織の細胞の伝導性又は細胞内カルシウム濃度の変化を測定するステップを含む方法。
【請求項16】
前記細胞の伝導性又は細胞内カルシウム濃度を増大させることが可能な候補化合物を同定するステップを含む、請求項15に記載のTrpM8ポリペプチドのアゴニストを同定する方法。
【請求項17】
前記細胞の伝導性又は細胞内カルシウム濃度を低下させることが可能な候補化合物を同定するステップを含む、請求項15に記載のTrpM8ポリペプチドのアンタゴニストを同定する方法。
【請求項18】
疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患を治療又は軽減するのに適した化合物を同定する方法であって、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むTrpM8ポリペプチドを候補化合物に曝露するステップ、及び該候補化合物が該TrpM8ポリペプチドのアンタゴニスト又はアンタゴニストであるかどうかを判定するステップを含む方法。
【請求項19】
疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療のためのTrpM8ポリヌクレオチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定するための、配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むTrpM8ポリヌクレオチドの使用。
【請求項20】
疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療のためのTrpM8ポリペプチドのアゴニスト又はアンタゴニストを同定するための、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含むTrpM8ポリペプチドの使用。
【請求項21】
個体における疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療方法に使用するための、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアンタゴニスト。
【請求項22】
個体における疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の治療のための医薬組成物を製造するための、配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有する配列を有するTrpM8ポリペプチドのアンタゴニストの使用。
【請求項23】
疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患を患う個体の治療方法であって、該個体にTrpM8のアンタゴニストを投与するステップを含む方法。
【請求項24】
個体における疼痛又はストレス、好ましくはTrpM8関連疾患の診断方法であって、該個体又はその細胞若しくは組織におけるTrpM8の発現、レベル、又は活性の変化を検出するステップを含む方法。
【請求項25】
TrpM8関連疾患が、疼痛、癌、炎症、炎症性腸疾患、熱痛覚過敏、内臓痛、片頭痛、ヘルペス後神経痛、糖尿病性神経痛、三叉神経痛、術後痛、骨関節炎、関節リウマチ、急性疼痛、慢性疼痛、皮膚疼痛、体性痛、内臓痛、心筋虚血を含む関連痛、幻痛、神経障害性疼痛(神経痛)、損傷及び疾患による疼痛、頭痛、片頭痛、癌性疼痛、パーキンソン病のような神経障害による疼痛、脊椎及び末梢神経手術による疼痛、脳腫瘍、外傷性脳損傷(TBI)、脊髄外傷、慢性疼痛症候群、慢性疲労症候群;三叉神経痛、舌咽神経痛、ヘルペス後神経痛及びカウザルギーのような神経痛;狼瘡による疼痛、サルコイドーシス、くも膜炎、関節炎、リウマチ性疾患、生理痛、背部痛、下背部痛、関節痛、腹痛、胸痛、陣痛、筋骨格及び皮膚疾患、糖尿病、頭部外傷、及び線維筋痛;乳癌、前立腺癌、結腸癌、肺癌、卵巣癌、及び骨癌;社会不安、心的外傷後ストレス障害、恐怖症、対人恐怖症、特定恐怖症、パニック障害、強迫障害、急性ストレス障害、分離不安障害、全般性不安障害、大鬱病、気分変調、双極性障害、季節性感情障害、出生後鬱病、躁鬱病、双極性鬱病からなる群より選択される、請求項10、19、20若しくは22に記載の使用、請求項18、23若しくは24に記載の方法、又は請求項21に記載のアンタゴニスト。
【請求項26】
配列番号3若しくは配列番号5に示されるアミノ酸配列を含む、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有するそれらの相同体、変異体、若しくは誘導体を含むTrpM8ポリペプチド。
【請求項27】
請求項26に記載のポリペプチドをコードする核酸。
【請求項28】
配列番号1、配列番号2若しくは配列番号4に示される核酸配列を含む、又はそれらに対して少なくとも70%の配列同一性を有するそれらの相同体、変異体、若しくは誘導体を含む、請求項27に記載の核酸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−530069(P2007−530069A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−505622(P2007−505622)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001151
【国際公開番号】WO2005/094569
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(503166469)パラダイム・セラピューティクス・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】