説明

イオントラップアレイ

本発明(イオントラップアレイ)は、イオンの蓄積・分析技術に関し、具体的にはイオン蓄積装置と、質量電荷比等の特性に基づきイオンを分離する質量分析装置とに関する。本発明の目的は、少なくとも2列以上の平行に配置された電極アレイを有し、その電極アレイは少なくとも2本以上の帯状電極を有し、異なる帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加して電極アレイの異なる列の2つの電極アレイ間の空間に交流電場を発生させて、この空間に互いに相通し実際のバリアが存在しない並列した複数の線形イオントラップ領域を構成する、イオン蓄積・分析装置を提供することにある。本発明はまた、電極アレイの異なる列の間の空間に軸方向に複数の相通する線形イオントラップ領域を形成し、イオンの蓄積、冷却、及びその質量分析を行うイオン蓄積・分析方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概してイオンの蓄積および分析技術に関し、特に、質量電荷(m/z)比などの特性に基づいてイオンを分離するイオン蓄積および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン蓄積およびイオン質量分析に用いる交流電場のイオントラップには、一般に三次元回転対称イオントラップや線形イオントラップがある。三次元回転対称イオントラップでは、イオンはトラップの中心点に集められるが、イオンの空間電荷効果によりトラップできるイオンの数には限度がある。多数のイオンを三次元回転対称イオントラップ内にトラップすることができるが、質量分析する際には多数のイオンの電荷間相互作用によってその質量分解能が損なわれる。線形イオントラップでは、イオンは中心軸付近に蓄積されるため、同様の空間電荷体積密度下においてトラップされるイオンの最大数は大きく増加する。線形イオントラップに関するこれまでの研究から、線形イオントラップは同じ大きさの三次元回転対称イオントラップよりも少なくとも一桁多い数のイオンを空間電荷効果の影響を顕著に受けることなく蓄積でき、質量分析のため百万個以上のイオンを一度に蓄積できることが知られている。しかし一部の状況においては、線形イオントラップは尚ニーズを満たすことができていない。例えば、イオン流信号は依然として高利得電子増倍器で増幅しなければ検出できない。また、検体の含有量が低い場合、有効信号は数百万倍のバックグラウンドノイズに埋没してしまい、検体を分離して検出することができない。したがって、蓄積量のより大きいイオントラップの開発が必要である。
【0003】
複数の線形イオントラップを単に並列させれば当然イオンの蓄積量を増加することができる(例えば特許文献1参照)。しかし、複数の線形イオントラップを並列させる方法はコストが比較的高い。また、複数の線形イオントラップ中のイオンはそれぞれの排出口から排出しなければならず、多数のイオン検出器若しくは大受容面積検知器を使用しなければイオン信号を同時に取得することができない。
【0004】
【特許文献1】米国特許第2004/0135080号公開公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、平行多軸式のイオン蓄積を実現できる簡単な構造の新規なイオントラップアレイを提供することにある。イオントラップアレイに蓄積されたイオンはイオントラップアレイに印加される電場の作用により、一度にまたは選択的にトラップ外部へ真直に排出された後、分析・検出される。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の態様の目的は、2列以上の平行に配置された電極アレイを含むイオン蓄積・分析装置を提供することにある。該電極アレイは平行な帯状電極から成る。異なる位相の高周波電圧が隣接する帯状電極に印加されることにより、電極アレイの異なる列の二つの平行な電極間の空間内に高周波電場を生成する。さらに、複数の線形イオントラップ領域が電極アレイの異なる列の間の空間に形成され、隣接する線形イオントラップ領域は互いに実質的なバリアなしに相通している。
また、異なる帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加することで、電極アレイの異なる列の2列の平行な電極間の空間内に交流電場を生成させる。
【0007】
イオンはこれらのイオントラップ領域にトラップされた後、集合して狭い一連の帯状イオン雲の条体となる。本発明の第二の態様の目的は、これらの帯状イオン雲中のイオンを選択的に励起し、排出し、検出する方法、および残ったイオンを電極アレイ板のエッジまたは出口スリットから速やかに排出する方法を提供することにある。
【0008】
上記構成に基づき、前記イオン蓄積・分析装置は、低圧衝突ガスを導入することによって、トラップされたイオンの運動エネルギー低下を促進させ、前記帯状電極と平行な一連の軸線の周りにイオンを集めている。
【0009】
上列の電極アレイ面と下列の電極アレイ面は互いに平行であり、上下の端は揃えられている。2列の隣接する平行電極アレイに囲まれた空間の周囲に境界電極が設けられている。
一つの電極アレイの帯状電極の大きさは同一である。前記帯状電極に平行な電極アレイ側に配置された前記境界電極の電位は、前記電極アレイにおける隣接する帯状電極の電位の中間値である。
【0010】
前記平行電極アレイにおける帯状電極の電位は、順に+V、−V、+V、−V、…であり、交流電圧Vには少なくとも一つの高周波電圧が含まれる。前記帯状電極に平行な境界電極の電位はゼロに設定されるる。
例えば、上記電圧Vは純高周波電圧成分であるか、または高周波電圧成分および1000Hz以下の低周波電圧成分を含む。
【0011】
さらに、本発明は電子スイッチ群を含み、高速でスイッチをオンオフすることにより前記高周波電圧または低周波電圧を発生させる。
【0012】
イオントラップアレイからイオンを引き出すために、境界電極の一部には開口、出口スリット、または出口ネットが設けられている。
イオントラップアレイからイオンを引き出すために、平行電極アレイの少なくとも一部の帯状電極上に開口、出口スリット、または出口ネットのいずれかが設けられている。
【0013】
本発明はさらに、イオントラップアレイからイオンを引き出すために、隣接する二列の平行電極アレイ間に双極子電場を発生させる電源およびカップリング装置を含んでいる。
前記帯状電極の形状は平面状であり、全ての帯状電極の主表面は互いに平行である。
【0014】
前記の構成において、1列以上の電極アレイはプリント基板を用いて形成することができる。
その平面電極アレイを形成するプリント基板には、少なくとも一面に平面電極アレイ形状パターンを有する多層プリント基板が含まれる。
先に述べたように、電極アレイ板の構成が、少なくとも一部の導電層電子部品取り付けおよびリード引込線のためのパッドを有する多層プリント基板を含む。
【0015】
本発明において、2列の電極アレイは、別個の2枚のプリント基板を用いて形成し、数個の境界電極で互いに固定することができる。
【0016】
本発明はまた、排出されたイオンを検知するためのイオン検知器を含む。該検知器は前記イオントラップ軸の一つの終端かつ該イオントラップアレイの外側に設置される。
本発明はまた排出されたイオンを検知するためのイオン検知器を含む。該検知器はイオントラップ軸に平行な境界電極の一つの外側に設置される。
本発明はまた、1列の電極アレイの外側に設置されるイオン検知器を含み、該イオン検知器はこの電極アレイからスリットまたはネットを介して排出されるイオンを検出する。
【0017】
本発明は、互いに平行な帯状電極から構成される平行電極アレイを用いてイオンのトラップや分析を行う方法を提供する。各帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加することによって対となる帯状電極間の空間に交流電場を発生させ、さらに異なる電極アレイの列の間の空間にイオンをトラップする複数の相通する領域を形成させる。イオンはこれらの領域でトラップ、冷却され、その質量電荷比の相違により分離され同定されることが可能である。
【0018】
上記方法に基づいてイオンを分析するには、所定の質量電荷比以外の全てのイオンを排除するような信号を前記アレイに印加し、次いで残ったイオンを一度に検出してもよい。
【0019】
他のイオンを排除する前記方法にはまた、電極アレイに高周波交流電圧成分の他に1000Hz以下の低周波信号を重畳して、トラップされるイオンが最大及び最小の質量電荷比を有するようにする方法が含まれる。
他のイオンを排除する前記方法には、平行電極間に双極子励起場を印加することで、所定の質量電荷比のイオンを、該イオンの永年運動と双極子場との共振励起によって排出する方法が含まれる。
【0020】
残ったイオンを一度に検出する前記方法には、前記帯の末端の電極の直流電圧を低下させて当該電極のスリットまたはネットから正イオンを引き出すか、または前記帯の末端の境界電極の直流電圧を上昇させて当該電極のスリットまたはネットから負イオンを引き出し、次いでイオン検知器でイオン流を検知する方法が含まれる。
残ったイオンを一度に検出する前記方法には、電極アレイに平行な方向(X方向)に電場を印加してイオンを加速し、イオンを前記アレイの一方から排出させ、次いでイオン検知器でイオン流を検知する方法が含まれる。
残ったイオンを一度に検出する前記方法には、電極アレイに垂直な方向、(Y方向)に電場を印加してイオンを加速し、イオンを前記アレイの一方のスリットから排出させ、次いでイオン検知器でイオン流を検知する方法が含まれる。
【0021】
イオンを分離する前記方法には、イオンをトラップしている高周波の電圧または周波数を走査し、イオンをその質量電荷比の順に排出し、該アレイ外部の検出器が信号を受信し、その質量電荷比に従ってスペクトルを形成する方法が含まれる。前記検知器は平行電極アレイの外側の、イオントラップ軸の一つの端に設けられており、イオンは境界電極上のスリットまたはネットを介して排出されることが可能である。
本発明では、さらに前記平行電極間に交流電圧をさらに印加して、電極アレイに垂直な共振励起場を形成させ、イオンの永年運動と双極子場との共振励起によってその質量電荷比の順にイオンを排出させ、同時にイオンは電極帯のスリットを通過可能であって、検知器に到達して検知されるようにしてもよい。
本発明の方法において、さらに帯の一つのの隣接する帯状電極間に交流電圧を追加し、電極アレイに平行(X方向)に平行な共振励起場を形成し、イオンの永年運動と双極子場との間の共振励起によって質量電荷比の順にイオンを排出させ、同時にイオンは電極アレイ間の空間を通過可能であって、検知器に到達して検知されるようにしてもよい。
【0022】
電子スイッチ群により交流電圧が生成されるとき、その波形は方形波である。
前記方形波を生成する電子スイッチ群の数が2であるとき、隣接する2組の群が生成する方形波の位相差は180°である。
さらに、前記電子スイッチ群の数が2より大きいときは、隣接する2組のスイッチが生成する方形波電圧の位相差は180°及び所定増量との和に等しく、結果として周期的なイオントラップ領域および進行波場の両方が電極アレイの異なる列の間に生成される。
また、前記電子スイッチ群の数が2より大きく、隣り合う2組のスイッチが生成する方形波電圧の位相差が180°に等しく、しかし波長または位相の変調がN周期毎に出現するときは、この変調によりX方向に進行波が発生する。
前記発生する進行波場はイオンの排出を促す。
【0023】
異なる位相の交流電圧が印加されるN個の帯状電極(Nは1以上)毎に各帯に印加される電圧の比を調節することにより最適化できる。
異なる位相の交流電圧が印加されるN個の帯状電極(Nは1以上)毎に各帯に印加される電圧を変化させることによりNの数が変化するので、異なる軸にトラップされたイオンを一つにまとめることができる。
【0024】
本発明は、互いに平行な帯状電極から成る3列以上の平行電極アレイを使用する、イオンのトラップ及び分析方法を含む。各帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加することで、隣り合う2つの電極アレイ間毎の空間に交流電場を発生させ、さらに、電極アレイの異なる列の間の空間に複数の相通する直線的イオントラップ領域を形成する。イオンは複数の領域内でトラップ、冷却され、その後その質量電荷比の相違により分離され分析されることが可能である。
【0025】
図1は本発明の原理である。上下2列の電極アレイ(1, 2)を有し、各電極アレイはいずれもX−Z面に配置され、互いに平行である。本図では、上下電極アレイは等幅に配置された4つの矩形電極(11, 12, 13, 14)から成り、上下電極アレイにおいて対応する電極の幅は等しく、端部が揃えられている。各電極アレイの各電極に+、−、+、−相の高周波電圧を順に印加する。電極アレイの左右両端には垂直の境界電極(3)が設けられ、、該境界電極(3)には電極アレイの「+」相(奇数)電極と、「−」相(偶数)電極の電位の中間値の電位が印加される。図1に示される条件下では、電位はゼロである。
【0026】
研究の結果、上述の条件下における2つの平面電極アレイ間の電場は、四重極場を主とする多重重畳高周波電場であることがわかった。電場分布は図1において等位線(P)で示される。平行電極アレイがZ方向に十分に長いと、当該電場はZ方向には依存しない二次元場となる。各一対の奇数電極片及び偶数電極片の中間垂直平面上の電位は常時ゼロになり、そこにゼロ電位の電極を配置したのと同じ効果を生じる。したがって、イオントラップ領域を囲む縦電極を使用しなくても、同様に二次元四重極イオントラップに類似する電場を形成でき、同時にX方向に複数重複させることができる。図1の(Q)のように、各一対の上下電極の中心はいずれもイオントラップの中心を形成し、所定の質量電荷比のイオンは、外から導入された場合も、または内部で発生した場合であっても、中性ガスと衝突して冷却された後はこの中心軸(Z方向)付近に集合する。
【0027】
さらに、複数列の互いに平行に配置された電極アレイを用いて、より複雑な線形イオントラップアレイシステムを構成することもできる。図2は三列の平行電極アレイ(3, 4, 5)からなる線形イオントラップシステムを示している。同様に、各アレイの列はいずれも一平面(本例ではX−Z面)上に配列し、上、中、下の3平面は互いに平行である。図2において、上中下の電極アレイはいずれも4本の等間隔に配置された電極(11.2, 12.2, 13.2, 14.2)から成り、上下電極アレイ内の対応する電極の幅は等しく、端部は揃えられている。各電極には+、−、+、−相の高周波電圧を印加する。電極アレイの左右両端には垂直な境界電極(3.1)が備わり、印加される電位は電極アレイの+位相(奇数)電極と−位相(偶数)電極の電位の中間値であり、図2の条件下ではゼロ電位である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
【実施例1】
【0029】
図3は本発明の実施案の一つを示している。上電極アレイ1および下電極アレイ2はそれぞれの7つの矩形帯状電極(11, 12, 13, 14, 15, 16, 17)を有する。それらは金属板材から作製され、Z方向の長さがいずれも同じであり、少なくともX方向の幅の3倍以上(約数十ミリ)である。上下電極間の距離は2つの隣接する電極帯の幅と間隙との和にほぼ等しく、その差は25%未満であり、通常は数mmである。平面電極アレイの周囲に、イオントラップ電場の境界として、境界電極(3および3a)が設置され、電極(3a)は電極帯のZ方向に平行する境界上にあり、電極(3)は電極帯末端の隣にある。境界電極上にはスリット(25)またはネット(26)が設けられ、イオンが容易に導入または排出されるようになっている。高周波電源+Vおよび−Vはコンデンサカップリング(20)によって電極アレイに印加され、上下電極帯は一つに接続されており、奇数電極帯(11, 13, 15, 17)が電源+Vに接続され、偶数電極帯(12, 14, 16, 18)が電源−Vに接続される。上下2つの平面電極アレイ間の各イオントラップ領域に形成される高周波電場は、X、Y方向にイオンをトラップすることができる。イオンはトラップされた後、各一対の上下矩形電極帯の中間に軸状イオン雲を形成する。境界電極(3)の電位が、接地されている(3)より大きいか同一であれば、いずれもイオンは軸方向に遮られる(イオンは境界電極に接近するときZ方向に遮られる)。境界電極に所定の負電圧が印加されて、境界電極の遮断力が吸引力以下であるとき、イオンはZ方向に排出孔(25)から引き出される。検知器(8)は境界電極(3)の外側にあって、イオン流を検出し、その出力信号が増幅器(9)により増幅された後、制御コンピュータに記録される。
この場合、イオンはZ方向(軸方向)に引き出されて検出される。
【実施例2】
【0030】
図4はイオンがX方向に引き出され検出される他の方法を示している。図中、検知器(8)は網状の境界電極(3a)の外側にある。全イオン(36)はトラップされて質量選択された後、抵抗回路(31, 32)により生成される引き出しパルス電場により加速され、右側の境界電極(3a)を通過して検知器(8)に到達する。図において抵抗回路(31, 32)は上部の電極アレイの電極にのみ接続されているが、実際には上下平面電極アレイにおける対応する帯状電極は等電位である。この対応する上下帯状電極の電位が等しい場合には、境界電極は図5に示した形とすることができる。即ち、ゼロ電位の境界電極を用いることなく、各電極(11, 12等)の末端が反対側の電極(11.1, 12.1等)に末端面によって連結される。この場合、上下二つの電極を一つに合体させて、長方枠状又は細長楕円枠状(図5(B))としてもよい。
当然ながら、上下平面電極アレイにおける対応する帯状電極は等電位でなくてもよく、例えばその間に双極子励起電圧電場を印加し、イオンを排出または励起させることもできる。
【0031】
図6はイオンをY方向に引き出し、検出する他の方法を示している。図中、電極アレイの各帯状電極にはいずれも電極と平行なスリット(41)が設けられている。スリットの外側には全てのスリットを覆う程度に十分に大きい検知器(8)が備えられている。検知器(8)とスリットとの間は網状の電極(40)を配置することにより、高周波信号の干渉を減少させることができる。双極子励起信号を各電極に加えイオンをトラップ、選択した後、イオンはY方向に加速され、スリット(41)および網状シールド電極(40)を通過して検知器(8)に到達する。
【0032】
他の線形四重極イオントラップと同じように、トラップできるイオンは安定領域内にある。電極に印加される電位が純高周波交流信号+V,−Vであれば、イオンは質量選択的にトラップされ、トラップしうる質量電荷比の下限が存在する。即ち、質量電荷比が特定の値(質量下限)より小さいイオンは電極に衝突して消失する。例えば汚染ガスを検知する場合、当該汚染ガスの分子量Mは通常の空気分子の分子量よりも大きいので、質量下限をMよりもやや低くなるように調節すれば通常の空気分子のイオンが排除され、次いで電極(3)の電位を低下させれば、イオントラップに残留している汚染ガスイオンを主とするイオンを検知器により検出できる。
【0033】
上記方法は質量分解能が悪く、感度が低い。トラップ電圧に直流電圧、または低周波電圧を印加すれば、a-q空間の安定領域には質量電荷比の上限が存在するようになる。よって、質量電荷比上限よりも大きいイオンは電極アレイに衝突して消失することになる。従って、この両方法を組み合わせることができる。まずイオンがトラップされた後、安定領域の質量電荷比の下限および上限を用いて分離を行えば、イオントラップ中には特定の質量電荷比を有するイオンのみが残るので、イオン排除法を用いてイオンを検出できる。低周波信号はコンデンサを用いてトラップ電圧に結合可能であるため、低周波の交流電圧を印加することは、直流電圧を印加するよりも場合によってはより優れている。
【0034】
イオンを帯域通過分離する他の方法は、上下電極間に双極子励起電場を印加することである。双極子励起電場によって不所望のイオンが共振励起し、電極に衝突して消失する。図7は、Y方向に双極子励起電場を印加する回路を示している。図中、対応する上部電極(11u)と下部電極(11d)との間は直接接続されているのではなく、変圧器コイル(51)を介して接続されている。一次コイル(52)及び二次コイル(51)は全て、同一の磁芯に巻回され、マルチコイル変圧器を構成する。異なる周波数の各種の信号が信号発生器(54)によって生成され、このマルチコイル変圧器をによって各電極と結合される。該信号中の周波数成分を調整することで、不所望のイオンを排除し、検知しようとするイオンを残留させることができる。
【0035】
上記実施例は、不要なイオンを排除し、所望のイオンをイオントラップに残す方法である。これらの方法は特定のイオンの検出には有効であるが、効果的に質量スペクトルを作成することができない。以下に示す質量選択的検知方法によれば質量スペクトルを容易に得ることができる。これらの方法はイオンを質量選択的にトラップすることにも適用できる。
【応用例】
【0036】
(方法A)
装置構造は図1に示すものとする。質量の異なる複数のイオンを四重極場によって捕捉、冷却した。検知器に近い側の境界電極(3)の電圧を低下させても、イオンはまだトラップされたままである。次いで四重極場を生成する高周波電圧の振幅(または周波数)を走査し、イオンをその質量電荷比の順に、安定領域の境界へ向かわせる。イオンが安定領域の境界へ向かうとその運動エネルギーが増加し、そのエネルギーが臨界値を超えると、イオンは境界電極(3)を超えて検知器へ到達する。その信号は質量電荷比に従ったスペクトルとなる。
【0037】
この方法では、図7に示す電気信号結合方法を用いてコイル(51, 52)を用いて一定周波数のY方向双極子励起電場を重畳し、イオンをその質量電荷比の順に励起させる。励起されたイオンの運動エネルギーが増大し、そのエネルギーが臨界値を越えると、イオンは境界電極(3)を超えて検知器へ排出され、質量スペクトルが形成される。
【0038】
(方法B)
図6の装置構造および図7の電気信号結合方法を用いる。上下電極間の距離を電極の幅と間隙との和よりも大きくし、各二次元イオントラップの横断面が正方形よりもY方向に伸びた形とすると、Y方向の正の多重極場(主に八重極)が発生する。質量の異なる複数のイオンが四重極場により捕捉され冷却された後、コイル(51, 52)を用いて固定周波数のY方向双極子励起電場を重畳するとともに、四重極場を発生する高周波電圧の振幅または周波数を走査すると、捕捉されたイオンはその質量電荷比の順に共振励起され、そのY方向運動エネルギーと振幅が増加する。するとイオンは、スリット(41)から選択的に射出され、検知器で検出され、質量スペクトルが形成される。
【0039】
(方法C)
図4と類似した装置構造を用いる。これによりスイッチ(33)のオン時にX方向に階段状場が発生し、これを双極子励起電場とすることができる。スイッチ(33)のオンオフ動作の周波数とイオンのX方向の運動とが共振したとき、当該イオンが選択的に共振励起される。励起されたイオンの一部は、他の捕捉領域および境界電極(3a)を超えて、検知器(8)に達する。
図8に示した回路を用いることもでき、この場合、上下アレイの対応する電極を接続する。双極子励起信号源(54)が生成する信号はカップリングコイル(61, 62)によって電極(11, 13, 15)の間の領域に印加され、同様に信号はカップリングコイル(61, 63)によって電極(12, 14, 16)に印加される。こうして、各イオン捕捉領域の左右の領域に周期的な電位差が発生し、各イオン捕捉領域中にX方向の双極子励起電場が形成される。イオンはその質量電荷比の順に選択的に共振励起され、射出され、検出される。
【0040】
(方法D)
方法Dにおいても同様に、捕捉電場を発生させ、およびX方向に双極子励起電場を重畳する。図9に示すように、スイッチアレイ(71〜74)を用いて方形波状の四重極トラップ電場を発生させる。スイッチアレイ中の各ユニット、例えば71は、一対のスイッチ(71, 71)を有し、交互に開閉させて一定周波数の矩形波電圧を発生させる。これを電極(11)に印加する。各スイッチ対の上下の交互開閉を、スイッチ対71とスイッチ対72とで逆相(180°差)にし、スイッチ対71とスイッチ対73とで同相(360°差)にすると、電極アレイに上述のようなトラップ高周波電場+Vと−Vを発生させることができる。隣り合うスイッチ対の位相差が180°ではなく、ある増量Δθを含むとすると、X方向にはトラップ高周波電場(四重極、八重極、十二重極等)のほか、二重極、六重極等の奇関数多重極場が形成される。これらの場の周波数とトラップ電場の選択的周波数とは同一であり、同時にX軸方向に沿って運行する。、これは進行波と呼ばれる。これによれば片側へ向かってイオンを搬送できるので、一度にイオンを排出するのに有用である。前記選択的位相差の増量Δθが各波上に出現せず、波N個毎に1回出現する場合、生成される双極子場の周波数はトラップ電場周波数のN分の一である。このN分の一周波数の双極子場はX方向の双極子励起電場として、イオン振動を励起する永年周波数に用いられ、イオンを選択的に排出する。
【0041】
多種多様の電極アレイの製造方法がある。図1に示すように、帯状電極は断面が矩形の平板または方柱形の電極であってもよく、図11に示すように、帯状電極の断面は多角形または階段状であってもよい。図11は2列の平行電極アレイ(6, 7)からなる線形イオントラップシステムを示している。同様に、各アレイはいずれも一平面上(X−Z面と称する)に配列される。上、下2つの平面は互いに平行である。この例では上中下の3つの電極アレイはいずれも4つの幅の等しい平面電極(11.11, 12.11, 13.11, 14.11)を含み、上下電極アレイの対応する電極の幅は等しい。各電極アレイの各電極に+、−、+、−相の高周波電圧を順に印加する。電極アレイの左右両端にはアレイ平面に垂直な境界電極(3.11a, 3.11b)があり、印加される電位は奇数電極の電位および偶数電極の電位の中間値であり、この例の条件下ではゼロ電位である。
【0042】
図12に示すように、円柱形または一部が円柱形の電極を使用することもできる。双曲線形または一部が双曲線形の断面の電極も使用可能である。電極帯は溶接または接着により固定してアレイを形成できる。また図10、12に示すように、電極をボルト(113)で支持フレーム(112)に固定させることによってアレイを構成してもよい。さらにはプリント基板を直接用いてアレイを製造することもできる。
【0043】
図10は2枚のプリント基板(90)を用いて平面電極イオントラップアレイを製造する方法を示している。各プリント基板はいずれも二層から成り、一方の層には電極アレイ(91)および境界電極に接続される導電帯(97, 98)がプリントされ、他方の層には電気パッドおよび回路配線(100)がプリントされる。両層の導電帯や配線は必要に応じて通孔(92)を介して接続される。境界電極(94, 96)は金属板または金属片を使用して製造され、その上のグリッドは化学的方法で作製できる。境界電極は爪(94)を有し、これはプリント基板上の孔(93)に差し込まれ、密に溶接され、2枚のプリント基板が一つに固定される。プリント基板はさらに検知器等の部品を設置するための孔(99)を備えるべきである。図2に示した複数列の線形イオントラップを製造する場合、中間のプリント基板の両面にはいずれも電極アレイの導電性パターン(91)を設け、回路接続(100)はプリント基板の中間の内部導電層上に配置する。
【0044】
これまで述べた方法は、トラップ領域を上下2枚の電極で構成し、電極に単一の電圧を印加する簡単なものであった。実際には、各電極は図13に示すように、幾つかの導電帯に分割することもできる。各電極アレイはいずれも一平面上に配列されており、二平面は平行である。本例の上下の電極アレイはいずれも4つの幅の等しい平面導電帯(11.13, 12.13, 13.13, 14.13)を含み、上下で対応する導電帯の幅は同一であって互いに対称となっている。隣接する電極に印加される高周波電圧の極性は逆である。各平面電極は特別に設計された導電帯(11.131, 11.132, 11.133, 11.134, および11.135)から成る。各導電帯に印加される電圧は電場を調整するために異なっていてもよい。例えば、導電帯11.133に−V1を、11.132および11.134に電圧−V2を、11.131および11.135に同一の電圧−V3を印加する。現実の応用では、イオントラップの性能を向上させるため、V1、V2およびV3の比を変化させて電場を調節する。同様に、電極アレイの左右両端には垂直な境界電極(3.13a, 3.13b)を備え、これらの電極の電位は奇数電極と偶数電極の電位の中間値に設定する。この場合は接地電位である。
【0045】
各電極ユニットが数個の細小帯状電極からなる場合、各細小電極に印加される電圧の+Vまたは−Vの比を調節することにより、発生する電場を最適化できる。例えば所定の多重極場を適切に重畳または消失させうる。
さらに、前述のイオン捕捉ユニットの一つに一の電圧(+Vまたは−V)を印加するイオン捕捉方法では、各電極帯に比例する電圧を印加することにより、複数のイオントラップ領域を一つにすることができる。
【0046】
平行電極アレイイオントラップアレイを形成する方法は数多く存在しており、ここで全ての例を挙げることはできない。しかし、上述したような望ましい電場が実現できれば、平行電極イオントラップアレイには多くの作動形態がある。本明細書にはいくつかの実例を挙げたにすぎない。本分野の専門家であればより多くの運用形態を簡単に提示できる。例えば、選択後に残されたイオンは、さらに光スペクトル分析や光散乱法で検出することができる。また、これらのイオンは他のスペクトル分析装置、例えば、飛行時間分析計、イオン移動度分析計、オービトラップ(ORBITRAP)等へ移送されてもよい。こうした応用はいずれも本特許に含まれると見なされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の基本原理図。
【図2】3列の平行電極アレイ(3, 4, 5)からなる線形イオントラップシステムを示す図。
【図3】本発明の一方法の図。
【図4】イオンがX方向(横方向)に引き出され検出される他の案の図。
【図5】上下電極を一つに合体する他の方法を示す図。Aは長方枠状、Bは楕円形状の場合。これらの方法では、上下電極帯(11, 12などで示されている)は上記の中央値電位である境界電極に替えて、端部における小板(11.2, 11.1で示されている)によって接続される。
【図6】イオンがY方向に引き出され、検出される別の技術の略図。
【図7】Y方向に双極子励起場を重畳する回路図。
【図8】他の回路図。
【図9】スイッチアレイによって、方形波四重極トラップ電場を発生させる方法を示す図。
【図10】電極として2枚のプリント基板を用いてイオントラップアレイを製造する方法を示す図。
【図11】はっきりした階段形状を有する電極帯の断面。
【図12】はっきりした双曲面状または円筒柱状を有する電極帯の断面図。
【図13】2列の平行に配置された電極アレイからなる線形イオントラップシステムの図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行な2本以上の帯状電極から構成された少なくとも2列の互いに平行に配置された電極アレイと、
前記各帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加し、2列の平行な電極アレイ間の空間に交流電場を発生させる電源と、を有し、
前記空間内に、並列した複数の線形イオントラップ領域が形成され、
これら各イオントラップ領域とそれに隣接するイオントラップ領域が物理的バリアなしに相通していることを特徴とする、
イオン蓄積・分析装置。
【請求項2】
更に、低圧の衝突ガスを導入し、捕捉されたイオンの運動エネルギーを低下させ、前記帯状電極に平行な複数の軸線の周りの複数の平行な狭いイオン雲の条体にイオンが集まるようにしたことを特徴とする、請求項1に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項3】
上列の電極アレイ面と下列の電極アレイ面は互いに平行であり、上下の端が揃えられており、2列の隣接する平行電極アレイ間の空間の周囲に境界電極が配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項4】
一つの電極アレイにおける前記各帯状電極の大きさが同一であり、前記帯状電極に平行な電極アレイ側に配置された前記境界電極の電位が、隣り合う帯状電極の電位の中間値であることを特徴とする、請求項3に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項5】
前記平行電極アレイにおける帯状電極の電位は、順に+V、−V、+V、−V、…であり、前記交流電圧Vには少なくとも一つの高周波電圧成分が含まれ、前記帯状電極に平行な境界電極の電位がゼロに設定されることを特徴とする、請求項4に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項6】
前記電圧Vが純高周波電圧成分からなることを特徴とする、請求項5に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項7】
前記電圧Vが高周波電圧成分および1000Hz以下の低周波電圧成分を含むことを特徴とする、請求項5に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項8】
さらに、高速で開閉することにより前記高周波電圧または低周波電圧を生成する電気スイッチ群を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項9】
少なくとも一部の境界電極に、イオントラップアレイからイオンを引き出すための開口、出口スリットまたは出口ネットが設けられたことを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項10】
前記平行電極アレイにおける少なくとも一部の帯状電極に、該イオントラップアレイからイオンを引き出すための出口スリットまたは出口ネットが設けられていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項11】
該イオントラップアレイからイオンを引き出すための、隣接する二列の平行電極アレイ間に双極子場を発生させる電圧源およびカップリング装置を有する請求項1〜10のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項12】
前記帯状電極の形状が平面状であり、全ての帯状電極の主表面が互いに平行であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項13】
1列以上の電極アレイが、プリント基板を用いて形成可能であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項14】
前記平面電極アレイを形成するプリント基板には、少なくとも一面に平面電極アレイ形状パターンを有する多層プリント基板が含まれることを特徴とする、請求項13に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項15】
電極アレイ板の構成が、少なくとも一部の導電層に電子部品取り付けおよび引込線のためのパッドを有する多層プリント基板を含むことを特徴とする、請求項13または14に記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項16】
前記2列の電極アレイが別個の2枚のプリント基板により形成可能であり数個の境界電極で互いが固定されていることを特徴とする、請求項13〜15のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項17】
更に、排出されたイオンを検知するイオン検知器を含み、該検知器は、前記イオントラップ軸の一つの終端かつ該イオントラップアレイの外側に設置されることを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項18】
更に、排出されたイオンを検知するイオン検知器を含み、該検知器はイオントラップ軸に平行な境界電極の一つの外側に設置されることを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項19】
更に、1列の電極アレイの外側に設置されたイオン検知器を含み、該イオン検知器はこの電極アレイからスリットまたはネットを介して排出されたイオンを検出することを特徴とする、請求項1〜16のいずれかに記載のイオン蓄積・分析装置。
【請求項20】
互いに平行な帯状電極から成る平行電極アレイを用い、前記各帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加し、対となる電極アレイ間の空間に交流電場を発生させ、その上で異なる電極アレイの列の間の空間にイオンをトラップする複数の相通する領域を形成させ、イオンはこれらの領域でトラップ、冷却され、その質量電荷(m/z)比の相違により分離され分析されることが可能である、イオンの蓄積・分析方法。
【請求項21】
前記イオン分析方法には、所定の質量電荷比以外の全てのイオンを排除する信号を前記アレイに印加し、次に、残ったイオンを一度に検出する過程が含まれることを特徴とする、請求項20に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項22】
イオンを排除する前記方法には、電極アレイに印加される高周波交流電圧の他に1000Hz以下の低周波信号を重畳して、トラップされたイオンが最大及び最小の質量電荷比を有するようにする方法が含まれることを特徴とする、請求項21に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項23】
イオンを排除する前記方法には、前記平行電極アレイ間に双極子励起場を印加し、イオンの永年運動振動数と該双極子励起場の振動数とを共振させ、該イオンを排出する方法が含まれることを特徴とする、請求項21または22に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項24】
残ったイオンを一度に検出する前記方法には、前記帯の末端の電極の直流電圧を低下させて当該電極のスリットまたはネットから正イオンを引き出すか、または前記帯の末端の境界電極の直流電圧を上昇させて当該電極のスリットまたはネットから負イオンを引き出し、次いでイオン検知器でイオン流を検知する方法が含まれることを特徴とする、請求項20〜23のいずれかに記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項25】
残ったイオンを一度に検出する前記方法には、前記電極アレイに平行な方向(X方向)に電場を印加してイオンを加速し、イオンを前記アレイの一方から排出させ、次いでイオン検知器でイオン流を検知する方法が含まれることを特徴とする、請求項20〜23のいずれかに記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項26】
残ったイオンを一度に検出する前記方法には、前記電極アレイに垂直な方向(Y方向)に電場を印加してイオンを加速し、イオンを前記アレイの一方のスリットから排出させ、次いでイオン検知器でイオン流を検知する方法が含まれることを特徴とする、請求項20〜23のいずれかに記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項27】
前記イオン分離方法には、イオンをトラップしている高周波の電圧または周波数を走査し、イオンをその質量電荷比の順に排出し、該アレイ外部の検知器が信号を受信し、その質量電荷比に従ってスペクトルを形成する方法が含まれることを特徴とする、請求項20に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項28】
前記検知器は平行電極アレイ外側の、イオントラップ軸の一つの端に設けられており、イオンは境界電極上のスリットまたはネットを介して排出されることが可能であり、前記検知器内に入射することを特徴とする、請求項27に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項29】
前記平行電極間に交流電圧をさらに印加して、電極アレイに垂直な共振励起場を形成させ、イオンの永年運動と双極子場との間の共振励起によって質量電荷比の順にイオンを排出させ、同時にイオンは電極帯のスリットを通過可能であって、検知器に到達して検知されることを特徴とする、請求項27に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項30】
前記帯状電極アレイの各々に隣り合う帯状電極間に交流電圧を重畳して、電極アレイに平行(X方向)な共振励起場を形成し、イオンの永年運動と双極子場との間の共振励起によって質量電荷比の順にイオンを排出させ同時にイオンは電極アレイ間の空間を通過可能であって、検知器に到達して検知されることを特徴とする、請求項27に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項31】
各隣り合う帯状電極間に印加される交流電圧は電子スイッチ群により生成され、その波形が方形波であることを特徴とする、請求項20に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項32】
前記方形波を生成する前記電子スイッチ群の数が2であり、隣り合う2組のスイッチが発生する方形波電圧の位相差は180°であることを特徴とする、請求項31に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項33】
前記電子スイッチ群の数が2より大きく、隣り合う2組のスイッチが生成する方形波電圧の位相差は180°及び所定増量の和に等しく、これにより周期的なイオントラップ領域および進行波場の両方が電極アレイの異なる列の間に生成されることを特徴とする、請求項31に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項34】
前記電子スイッチ群の数が2より大きく、隣り合う2組のスイッチが生成する方形波電圧の位相差は180°に等しく、しかし波長または位相の変調がN周期毎に出現し、当該変調によりX方向に進行波が発生することを特徴とする、請求項31に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項35】
前記進行波場がイオンの排出を促すことを特徴とする、請求項33または34に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項36】
帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加してN個の帯状電極(Nは1以上)から成るイオントラップユニットとし、各帯に印加される電圧の比を調節することによりイオントラップユニットの電場を最適化することを特徴とする、請求項20に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項37】
帯状電極に異なる位相の交流電圧を印加してN個の帯状電極(Nは1以上)から成るイオントラップユニットとし、さらに各電極帯における電圧を変化させることにより、一つのトラップユニットにおける帯状電極の数が変化可能であり、異なるイオントラップ軸にトラップされたイオンを一つにすることが可能であることを特徴とする、請求項20に記載のイオンの蓄積・分析方法。
【請求項38】
2列以上の平行に配置された電極アレイを使用するイオンの蓄積・分析方法であって、各列のアレイは互いに平行な帯状電極を有しており、各電極に異なる位相の交流電圧を印加して、隣り合う2つの電極アレイ間毎の空間に交流電場を発生させて、さらにこの空間に複数の相通する直線的イオン束縛領域を形成するもので、イオンは複数の領域内のいずれかで捕獲、冷却され、同時にその質量電荷比の相違により一空間から他の空間へ選択的に搬送される、イオンの蓄積・分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2009−535759(P2009−535759A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−506894(P2009−506894)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【国際出願番号】PCT/CN2007/001214
【国際公開番号】WO2007/124667
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(505294816)▲復▼旦大学 (4)
【氏名又は名称原語表記】Fundan University
【住所又は居所原語表記】220 Handan Road,Shanghai P.R.China
【Fターム(参考)】