説明

イオンビーム分析方法

【課題】試料表面に一次イオンビームを照射して試料表面を除去しつつ、試料の深さ方向の分析を行うイオンビーム分析方法において、試料表面の汚染が少ない帯電防止方法を提供する。
【手段】試料10表面に収束イオンビーム24aを照射して、試料10表面に形成された絶縁層12を貫通し、底面に試料10の導電性基板11を表出する凹部10aを形成する工程と、凹部10aの内部に金属イオンビーム23aを照射しつつ、同時に試料10表面に一次イオンビーム22aを照射することを特徴とするイオンビーム分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオンビーム分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料表面に一次イオンビームを照射して試料表面を除去しつつ、試料表面から放出される荷電粒子、たとえはオージェ電子または二次イオンを分析することで、試料の深さ方向の分析を行うイオンビーム分析は、多くの分野、とくに半導体分野で広く利用されている。
【0003】
半導体分野ではしばしば、表面に絶縁層が形成された半導体基板を試料としてイオンビーム分析がなされる。かかる試料では、一次イオンビームの照射により絶縁層が帯電し、オージェスペクトルあるいは二次イオン質量分析スペクトルが本来と異なるものとなる。これでは、精密な分析がなされない。
【0004】
そのため、イオンビーム分析では、試料表面の帯電、とくに表面が絶縁性の試料の帯電を防止する方法が考案されている。例えば、一次イオンビームが照射されている試料表面に、電子ビームを照射して静電気を補償し、帯電を防止したイオンビーム分析方法が用いられている。
【0005】
あるいは、被分析領域の近傍に絶縁層を貫通し試料の導電性基板を表出する凹部を形成し、この凹部および被分析領域の表面に金属膜を形成して帯電を防止するイオンビーム分析方法がある。
【0006】
さらに、表面に絶縁層が設けられた試料の表面に、絶縁層を貫通し底面に試料の導電性基板を表出する凹部を形成した後、凹部内部を金属で埋め込み、この凹部を埋め込む金属を介して絶縁層に帯電する静電気を導電性基板へ放電するイオンビーム分析方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−054456号公報
【特許文献2】特開2005−121413号公報
【特許文献3】特開平09−274878号公報
【特許文献4】特開2002−071592号公報
【特許文献5】特開平11−101759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
導電性基板の表面に絶縁層が形成された試料のイオンビーム分析では、一次イオンビームの照射により絶縁層が帯電して、精密な分析が困難になる。また、導電性の試料、例えばシリコン基板からなる試料でも、一次イオンビームの照射により試料表面に絶縁層が形成されることがある。例えば、シリコン基板を、酸素イオンビームを一次イオンビームとして分析する場合である。この場合、同様に絶縁層が帯電し、分析精度が劣化する。
【0009】
一次イオンビームと同時に電子ビームを照射して絶縁層の静電気を補償して帯電を防止する従来のイオンビーム分析方法では、一次イオンビームの照射の間、電子ビームを一定強度に、例えば、当初の厚さの絶縁層の放電量を補償する強度に保持する。しかし、分析の進行とともに絶縁層は減膜し、絶縁層の電気抵抗が変わるため、減膜とともに適切な補償量が変化する。このため、分析の全期間を通して適切に補償することは難しい。その結果、補償量の過不足を生じ、精密な帯電補償が困難になる。
【0010】
被分析領域の近傍に絶縁層を貫通する凹部を形成し、この凹部および被分析領域の表面に金属膜を形成して帯電を防止する従来のイオンビーム分析方法では、被分析領域上の金属膜の形成に起因して被分析領域表面が汚染される。かかる汚染元素は、オージェ分析または質量分析のノイズとなり分析精度を劣化させる。
【0011】
収束イオンビームアシストによる気相堆積法を用いて、凹部内または凹部内とその近傍にのみ金属層を堆積する従来のイオンビーム分析方法では、被分析領域上への金属層の堆積を回避することができる。しかし、凹部を金属で埋め込むためには長時間を要する。このため、凹部に近接する被分析領域の表面が長時間にわたる埋込み工程の間、反応ガスに晒されるので、被分析領域の汚染を避けることは難しい。
【0012】
本発明は、導電性基板の表面に絶縁層が形成された、または一次イオンビームの照射により導電性基板の表面に絶縁層が形成される試料のイオンビーム分析において、絶縁層の帯電が防止され、かつ、被分析領域の汚染が少ないイオンビーム分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための本発明は、その一観点によると、試料表面に一次イオンビームを照射して前記試料表面を除去しつつ、前記試料の深さ方向の分析を行うイオンビーム分析方法において、前記試料表面に収束イオンビームを照射して、前記試料表面に形成された絶縁層を貫通し、底面に前記試料の導電性基板を表出する凹部を形成する工程と、前記凹部の内部に金属イオンビームを照射しつつ、同時に前記試料表面に前記一次イオンビームを照射することを特徴とするイオンビーム分析方法として提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、一次イオンビームを照射している間、絶縁層を貫通し導電性基板を表出する凹部内に金属イオンビームを照射する。凹部内には金属イオンビームにより常に金属原子が供給されるので、凹部内面には常に金属原子が表面拡散している。このため、凹部内面は常に導電性が保持されるので、絶縁層の電荷が凹部内壁面を介して放電され絶縁層の帯電が防止される。他方、金属イオンビームは凹部内に照射されるので、被分析領域の汚染は少ない。従って、絶縁層の帯電が防止され、かつ、被分析領域の汚染が少ないイオンビーム分析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態で使用されたイオンビーム分析装置
【図2】本発明の第1実施形態のイオン分析工程を表す断面図
【図3】本発明の第1実施形態の分析結果表す図
【図4】比較例のイオン分析工程を表す断面図
【図5】従来の他のイオン分析方法を説明するための断面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の第1実施形態は、表面に絶縁層を有する半導体基板を試料とする二次イオン質量分析法(SIMS:Secondary Ion Mass Spectrometry)に関する。
【0017】
図1は本発明の第1実施形態で使用されたイオンビーム分析装置20の断面図であり、二次イオン質量分析装置の主要な構成を表している。
【0018】
図1を参照して、本第1実施形態で使用したイオンビーム分析装置20は、真空排気管21bを介して真空排気される真空チャンバ21を備える。真空チャンバ21内には、上面に試料10を保持する、例えば水平に保持する試料保持台27が設けられている。
【0019】
真空チャンバ21の上部には、一次イオンビーム22aを生成する一次イオンビームガン22、金属イオンビーム23aを生成する金属イオンビームガン23、および、試料の加工に用いられる収束イオンビーム24aを生成する収束イオンビームガン24が設けられている。また、試料10の表面から放出される二次イオン25を捕捉して、その質量スペクトルを観測するための質量分析器26が設けられる。
【0020】
試料保持台27は、上面に載置された試料10を固定して保持する。試料保持台27は、傾斜可能に設けられ、保持された試料10表面を、一次イオンビーム22a、金属イオンビーム23aおよび収束イオンビームに対してそれぞれ所与の角度に保持することができる。
【0021】
一次イオンビーム22aは、試料10表面に照射され、試料10表面をイオンミリングにより除去すると同時に、照射面から二次イオン25を放出するために用いられる。この一次イオンビーム22aとして、分析対象とされる元素に応じた適切なイオン種のビームが用いられる。例えば、BおよびInの分析にはO2 +イオンが、またAs、SbおよびPの分析にはCs+イオンのビームが用いられる。このため、図1には一次イオンビーム22aを発生する1個の一次イオンビームガン22が描かれているが、Cs+イオンビームおよびO2 +イオンビームをそれぞれ生成する2個の一次イオンビームガン22を設け、分析対象に応じて2個の何れかの一次イオンビームガンを選択して用いることが好ましい。
【0022】
収束イオンビーム24aは、例えば収束されたGaイオンビームであり、試料10表面の特定領域に照射されて、試料10表面に後述する凹部10a(図2(b)を参照)を形成するために用いられる。
【0023】
金属イオンビーム23aは、良導電性金属の金属イオンからなるビームであり、収束イオンビーム24aを用いて形成された凹部10a(図2(b)を参照)内に照射される。この金属イオンビーム23aのイオン種は、二次イオン質量分析の障害とならないように貴金属元素、例えばAu、PtまたはPdであることが好ましい。本第1実施形態では、細いビームを容易に生成することができるAuのイオンビームを金属イオンビーム23aとして用いた。これにより、金属イオンビーム23aを、確実に凹部10a内のみに照射することができる。このように、金属イオンビーム23aを凹部10a内に照射することで、金属イオンビーム23aの照射に起因する被分析領域の汚染を抑制することができる。なお、金属イオンビーム23aが被分析領域を照射しても、後述するように汚染は、金属薄膜を測定領域上に形成する従来の方法と比べて少なく、多くは分析精度の劣化が許容できる範囲に留まる。
【0024】
質量分析器26は、試料10表面から放出された二次イオン25を捕捉し,その質量スペクトルを観測する。
【0025】
以下、本第1実施形態のイオンビーム分析方法を、その工程を参照して説明する。
【0026】
図2は本発明の第1実施形態のイオンビーム分析工程を表す断面図であり、試料10の断面を表している。
【0027】
図2(a)を参照して、まず、導電性基板11の上面に絶縁層12が形成された試料10を準備した。この試料10を、図1を参照して、真空チャンバ21内の試料保持台27上に固定する。本第1実施形態では、シリコン基板からなる導電性基板11の上面に、厚さ5.7nmの絶縁層12を熱酸化により形成した後、さらにBをイオン注入した試料10を調製し、イオンビーム分析の試料とした。
【0028】
次いで、図1を参照して、試料10上面が収束イオンビーム24aに垂直になるように試料保持台27を傾斜する。そして、図2(b)を参照して、収束イオンビーム24aを試料10上面に垂直に入射して、例えば辺長10μmの正方形の平面形状を有する凹部10aを形成した。この凹部19aは、絶縁層12を貫通して底面に導電性基板11を表出する深さ、例えば深さ200nmに形成される。また、被分析領域(試料10表面のうち、イオンビーム分析の対象とされる領域)に近接して形成することが、被分析領域と凹部10a間の電気抵抗を小さくする観点から好ましい。なお、凹部10aの平面形状には、とくに制約はないが、金属イオンビーム23aを凹部10a内部のみに照射することができるように、金属イオンビーム23aのビーム径より広いことが望ましい。
【0029】
次いで、図1を参照して、試料10上面が水平になる位置に試料保持台27を保持する。この位置では、金属イオンビーム24aはほぼ試料10上面に垂直に入射し、一次イオンビーム22aは試料10上面に所定の入射角で入射する。
【0030】
次いで、図2(c)を参照して、金属イオンビーム23aを凹部10aの底面に入射する。金属イオンビーム23aの照射(凹部10aへの入射)に続いて、一次イオンビーム22aを試料10上面に照射して、試料10表面から放出された二次イオン25の質量スペクトルを質量分析器26を用いて観測した。なお、一次イオンビーム22aの照射中は、金属イオンビーム23aも同時に照射されている。
【0031】
このとき、一次イオンビーム22aが照射する絶縁層12の上面は、イオンミリングにより表面から徐々に除去され、ついには絶縁層12が消失する。この絶縁層12が消失するまでの間、導電性基板11の上面には絶縁層12が残留している。この残留する絶縁層12は、一次イオンビーム22aに照射されて帯電する。
【0032】
しかし,凹部10aには、一次イオンビーム22aが照射する全期間にわたり、金属イオンビーム23aが入射されている。このため、凹部10aの底面には金属イオンビーム23aの照射により導入された金属原子、例えばAu原子が供給される。かかる金属原子は、運動エネルギーが大きいため容易に表面拡散して、凹部10aの底面から凹部10aの壁面に移動し、凹部10aの底面および壁面を被覆する金属薄膜33を形成する。この金属薄膜33は、凹部10aの壁面に表出する絶縁層12端面に接すると同時に、凹部10aの底面に表出する導電性基板11に接続する。従って、絶縁層12に発生した静電気は、この金属薄膜33を介して導電性基板11へ放電されるので、絶縁層12の帯電が防止される。このため、試料10の帯電に起因して生ずる質量スペクトルの変化が少なく、精密な質量分析がなされる。
【0033】
なお、一次イオンビーム22aが照射する領域、即ち被分析領域および凹部の一部領域では、金属薄膜33はスパッタされて消失する。しかし、凹部10aの底面に入射された金属原子は、金属イオンビーム23aまたは一次イオンビーム22aの照射によりエネルギーを付与され、これらのイオンビーム23a、22aが照射される領域を容易に表面拡散して移動する。従って、金属原子は、一次イオンビーム22aが照射している間、凹部10a底面から凹部10a壁面を通り被分析領域へ移動する。その結果、金属原子は、一次イオンビーム22aが照射される被分析領域上に供給され続ける。この表面拡散した金属原子が形成する金属薄膜33は、極薄い,例えば1原子層以下であっても絶縁層12の表面抵抗を低下させる。その結果、絶縁層12の帯電が防止される。
【0034】
一次イオンビーム22aは、被分析領域の他、凹部10a内の一部を含む被分析領域に連続した領域を照射することが好ましい。これにより、一次イオンビーム22aと金属イオンビーム23aの照射領域が凹部10a底面で重畳し、凹部10a底面に照射された金属原子の被分析領域(即ち、絶縁層12の上面)への拡散が促進され、絶縁層12の帯電防止が効果的になされる。なお、一次イオンビーム22aは、太いビームで広い領域を照射するものでも、細いビームを走査する、例えは凹部10aから被分析領域に向かう走査方向32に沿って走査するものでもよい。
【0035】
図3は本発明の第1実施形態の分析結果を表す図であり,上述した本第1実施形態で測定された質量分析の結果を表している。
【0036】
図3を参照して、本第1実施形態では、Si、BおよびNaの深さ方向の濃度分布を測定した。図3中のSiを付した白抜きの三角形(△)を参照して、表面近傍の2〜3nmを除き、ほぼ一定強度のSi濃度分布が観測された。また、図3中のBを付した白抜きの四角形(□)を参照して、表面から深さ3nmの位置にピークを有するB濃度分布が観測された。このB濃度分布は、イオン注入により導入される濃度分布のシミュレーション結果とよく一致している。
【0037】
一方、比較例1として、金属イオンビーム23aを照射しなかった場合に観測されたSiおよびBの濃度分布をそれぞれ、図3中にSi”を付した塗りつぶした三角形およびB”を付した塗りつぶした四角形(■)により示した。なお、金属イオンビーム23aを照射しなかった以外は、第1実施形態と同様である。また、この分析結果は、深さ5.7nmまでの絶縁層12内の分布のみを示したが、これより深い導電性基板11内の分布は本第1実施形態の観測結果とほぼ同じであった。
【0038】
金属イオンビーム23aを照射しなかった場合、図3中にSi”を付した黒塗りの三角形およびB”を付した塗りつぶした四角形(■)を参照して、表面から深さ約3.7nmまで、SiおよびBの濃度分布がとくに表面近くで、本第1実施形態の観測結果に比べて減少している。この減少は、帯電補償をしない場合と同様であり、絶縁層12の帯電に起因して生したと推測される。この比較例1と較べて、本第1実施形態では、かかる表面近傍における濃度の減少は極めて小さい。このことは、本第1実施形態において、絶縁層12の帯電防止が有効になされたことが明らかである。
【0039】
次に、汚染物質としてしばしば質量分析の障害になるNaについて説明する。Naは、容易に他の元素と結合してクラスターイオンを形成し、原子番号が数十の元素の質量スペクトルに重畳して質量分析の分析精度を劣化させる。
【0040】
図3中のNaを付した白抜きの円形(○)を参照して、本第1実施形態で観測されたNa濃度分布は、表面で二次イオン強度がほぼ2×103 c/sと高く,2〜3nmの深さで極小となった後、絶縁層12と導電性基板11との界面近傍(深さ5.7nm) に二次イオン強度がほぼ3×103 c/sのピークを有し、導電性基板11中は深さとともに漸減する。
【0041】
比較例2として、従来の帯電防止方法を用いて観測されたNaの濃度分布を、図3中のNa’を付した白抜きの円形(○)により示した。
【0042】
図4は比較例のイオンビーム分析工程を表す断面図であり、比較例2の分析工程における試料の断面を表している。図4(a)を参照して、比較例2では、試料110として、絶縁層12が形成された導電性基板11にBをイオン注入して用いた。この試料110は、図2(a)に示した第1実施形態の試料10と同様である。比較例2では、収束イオンビーム24aを用いて、試料110上面に、辺長10μmの正方形の平面形状を有する深さ200nmの凹部134を形成した。その後、凹部134の内面および絶縁層12上面を被覆する厚さ20nmのAu膜133をスパッタにより形成して、イオンビーム分析に供した。なお、一次イオンビーム22aは、図4(b)を参照して、第1実施形態と同様に、走査方向32に走査して、凹部から絶縁層12上面の被分析領域に及ぶ領域を照射した。この被分析領域上のAu膜133は、一次イオンビーム22aの照射に伴い除去される。
【0043】
図3中のNa’を付した白抜きの円形(○)を参照して、比較例2のNa分布は、第1実施形態と同様のプロフィルが観測された。しかし、測定されたNaの濃度は、二次イオン強度が表面で105 c/s、絶縁層12と導電性基板11との界面近傍で2×104 c/sであり、第1実施形態より一桁以上大きい。これは、Na汚染がほぼ10倍大きいことを示している。このように、本第1実施形態では、比較例と比べて、汚染量が一桁少ない。このため、汚染元素に起因する質量スペクトルの変形が少なく、分析精度が向上する。
【0044】
本発明の発明者は、かかる汚染は、絶縁層12上面に金属薄膜33またはAu膜133を堆積した際に導入されたと考察している。
【0045】
即ち、本第1実施形態では金属薄膜33は、真空中で金属イオンビーム23aの照射により形成される。従って、汚染元素が、金属イオンビーム23a以外から、例えば雰囲気中から導入されることは殆どない。また、金属イオンビーム23aは凹部10aの底面に照射され、汚染元素が被分析領域に直接注入されることはない。このため、被分析領域の汚染は少ない。
【0046】
他方、比較例2では、スパッタによりAu膜133を被分析領域を含む試料110全面に形成する。スパッタによるAu膜133の形成では、ターゲットに含有される不純物が、汚染元素としてAuとともに被分析領域の表面に導入される。このため、比較例2では被分析領域の汚染が大きくなると考察している。
【0047】
さらに、本第1実施形態では、金属イオンビーム23aを、一次イオンビーム22aの照射中は常に照射している。従って、金属原子は常に凹部10a内面に補充され、これにより凹部10内面の導電性が維持される。この導電性の維持に必要な金属薄膜33は極めて薄くてもよく、例えば1原子層以下の薄膜でも十分な導電性を有する。このため、分析期間中に凹部10aに入射する金属原子の累積量を、少なくすることができる。これにより、汚染量が少なくなる。
【0048】
他方、比較例2では、凹部134の内面を被覆するAu膜133は、一次イオンビーム22aの照射により除去されることがないように、十分な厚さに堆積する必要がある。なぜなら、比較例では、Au原子が補充されないため、Au膜133が一旦除去されると凹部10a内面の電気抵抗が高くなり、絶縁層12の帯電を阻止することができないからである。このように、比較例2のAu膜133は、第1実施形態の金属薄膜33より厚く形成されるため、比較例2の汚染は第1実施形態より大きくなったと推定している。
【0049】
図5は従来の他のイオン分析方法を説明するための断面図であり、分析途中の試料210の断面を表している。なお、一次イオンビーム22aは走査方向32に走査した。
【0050】
この分析方法に供される試料210は、第1実施形態と同様、導電性基板11の上面に絶縁層12を形成したものであり、試料210上面に第1実施形態と同様の凹部234を有する。そして、この試料210の凹部234は導電性金属233、例えばPtにより埋め込まれている。
【0051】
この導電性金属233は、凹部234にPtを含む反応ガスを吹きつけながら、凹部234内にイオンビームを照射することで、凹部234内にのみ形成される。従って、導電性金属233からの直接の汚染は測定領域には生じない。しかし、反応ガスは試料210表面近くの雰囲気中に拡散するから、被分析領域の表面は導電性金属233を形成する間反応ガスに晒される。このため、被分析領域は反応ガスに含まれる不純物により汚染される。凹部234を埋め込む導電性金属233は、比較例2と同様に厚く形成する必要があり、堆積に長時間を要する。このため、本第1実施形態より大きく汚染されると考えられる。
【0052】
上述したように、本発明の第1実施形態によれば、測定領域の汚染が少なくかつ絶縁層12の帯電が抑制されたイオンビーム分析を実現することができる。
【0053】
上述の本第1実施形態において、一次イオンビーム22aによる金属薄膜33のスパッタ速度よりも、金属イオンビーム23aによる金属薄膜33の堆積速度が速くなるように、金属イオンビーム23aの強度を選定することが好ましい。これにより、凹部10a内の金属薄膜33の消失が回避される。このため、導電性基板11と絶縁層12との間の導電性が確実に保持され、絶縁層12の帯電が確実に防止される。
【0054】
なお、金属イオンビーム23aによる金属薄膜33の堆積速度を、一次イオンビーム22aによるスパッタ速度より遅くすることもできる。このとき、凹部10a内面は表面拡散した金属原子により導電性が保持される。この条件では、分析の全期間を通して照射された金属イオンビームの量(積分強度)が、スパッタ速度より堆積速度を早くした場合に比べて少ない。このため、汚染量も少なくすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明を半導体基板のイオンビーム分析に適用することで、汚染が少なくかつ試料の帯電が防止された状態で精度の高い分析を実現することができる。
【符号の説明】
【0056】
10、110、210 試料
10a、134、234 凹部
11 導電性基板
12 絶縁層
20 イオンビーム分析装置
21 真空チャンバ
21b 真空排気管
22 一次イオンビームガン
22a 一次イオンビーム
23 金属イオンビームガン
23a 金属イオンビーム
24 収束イオンビームガン
24a 収束イオンビーム
25 二次イオン
26 質量分析器
27 試料保持台
32 走査方向
33 金属薄膜
133 Au膜
233 導電性金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面に一次イオンビームを照射して前記試料表面を除去しつつ、前記試料の深さ方向の分析を行うイオンビーム分析方法において、
前記試料表面に収束イオンビームを照射して、前記試料表面に形成された絶縁層を貫通し、底面に前記試料の導電性基板を表出する凹部を形成する工程と、
前記凹部の内部に金属イオンビームを照射しつつ、同時に前記試料表面に前記一次イオンビームを照射することを特徴とするイオンビーム分析方法。
【請求項2】
前記一次イオンビームは、前記試料の被分析領域から前記凹部の一部領域に延在して照射されることを特徴とする請求項1記載のイオンビーム分析方法。
【請求項3】
前記金属イオンビームは、金イオンビームであることを特徴とする請求項1又は2記載のイオンビーム分析方法。
【請求項4】
前記金属イオンビームの照射により前記凹部に堆積する金属薄膜の堆積速度が、前記一次イオンビームの照射により除去される前記金属薄膜のエッチング速度より速くなるように前記金属イオンビーム強度を設定したことを特徴とする請求項1、2又は3記載のイオンビーム分析方法。
【請求項5】
前記一次イオンビームの照射により放出される2次イオンを質量分析することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のイオンビーム分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−163519(P2012−163519A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25866(P2011−25866)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】